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特開2022-161019ネガ型感放射線性樹脂組成物、有機EL素子用絶縁膜とその形成方法及び有機EL装置
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  • 特開-ネガ型感放射線性樹脂組成物、有機EL素子用絶縁膜とその形成方法及び有機EL装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161019
(43)【公開日】2022-10-20
(54)【発明の名称】ネガ型感放射線性樹脂組成物、有機EL素子用絶縁膜とその形成方法及び有機EL装置
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/075 20060101AFI20221013BHJP
   G03F 7/027 20060101ALI20221013BHJP
   G03F 7/031 20060101ALI20221013BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20221013BHJP
   G03F 7/40 20060101ALI20221013BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20221013BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
G03F7/075 521
G03F7/027 502
G03F7/031
G03F7/004 501
G03F7/004 503Z
G03F7/40 501
H05B33/14 A
H05B33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058134
(22)【出願日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2021065477
(32)【優先日】2021-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川(鬼丸) 奈美
(72)【発明者】
【氏名】秋池 利之
(72)【発明者】
【氏名】田崎 太一
(72)【発明者】
【氏名】山口 佳久
(72)【発明者】
【氏名】大友 諒平
【テーマコード(参考)】
2H196
2H225
3K107
【Fターム(参考)】
2H196AA30
2H196BA05
2H196HA01
2H225AC31
2H225AC33
2H225AC35
2H225AC36
2H225AD02
2H225AD06
2H225AG00P
2H225AM85P
2H225AN39P
2H225AN72P
2H225BA10P
2H225CA24
2H225CB05
2H225CC01
2H225CC13
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC41
3K107CC43
3K107CC45
3K107EE66
3K107FF03
3K107FF14
3K107FF17
3K107GG06
3K107GG28
(57)【要約】
【課題】十分なリソグラフィ性能を有し、比較的低温の加熱によっても十分な薬液耐性及び酸素アッシング耐性を有する硬化膜を得ることができるネガ型感放射線性樹脂組成物、有機EL素子用絶縁膜とその形成方法及び有機EL装置を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、(A)少なくとも1つのチオール基を有するポリシロキサン、(B)多官能メタクリレート、及び(C)光重合開始剤を含有し、E型粘度計を用いて、25℃、50rpmの条件で測定した粘度が0.5mPa・s以上20mPa・s以下であるネガ型感放射線性樹脂組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)少なくとも1つのチオール基を有するポリシロキサン、
(B)多官能メタクリレート、及び
(C)光重合開始剤
を含有し、
E型粘度計を用いて、25℃、50rpmの条件で測定した粘度が0.5mPa・s以上20mPa・s以下であるネガ型感放射線性樹脂組成物。
【請求項2】
上記(B)多官能メタクリレートが、4官能以上のメタクリレートであり、
上記(A)少なくとも1つのチオール基を有するポリシロキサンに対する上記(B)多官能メタクリレートの質量比が、1/2以上2/1以下である請求項1に記載のネガ型感放射線性樹脂組成物。
【請求項3】
上記(C)光重合開始剤が下記式(1)で示される構造を含む化合物である請求項1又は請求項2に記載のネガ型感放射線性樹脂組成物。
【化1】
〔上記式(1)中、*は上記化合物における他の部分との結合部位を示す。〕
【請求項4】
(D)紫外線吸収剤をさらに含有し、
上記(D)紫外線吸収剤の含有割合が、上記(A)少なくとも1つのチオール基を有するポリシロキサン100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のネガ型感放射線性樹脂組成物。
【請求項5】
(E)塩基発生剤をさらに含有し、
上記(E)塩基発生剤の含有割合が、上記(A)少なくとも1つのチオール基を有するポリシロキサン100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のネガ型感放射線性樹脂組成物。
【請求項6】
有機EL素子用絶縁膜の形成用である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のネガ型感放射線性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のネガ型感放射線性樹脂組成物によって形成される有機EL素子用絶縁膜。
【請求項8】
基板上に直接又は間接に請求項6に記載のネガ型感放射線性樹脂組成物を塗布することによって塗膜を形成する工程、
上記塗膜を形成する工程の後、上記塗膜の少なくとも一部に放射線を照射する工程、
上記放射線を照射する工程の後、上記塗膜を現像する工程、及び
上記現像する工程の後、上記塗膜を60℃以上120℃以下の温度で加熱する工程
を備える有機EL素子用絶縁膜の形成方法。
【請求項9】
請求項7に記載の有機EL素子用絶縁膜を備える有機EL装置。
【請求項10】
(A)少なくとも1つのチオール基を有するポリシロキサン、
(B)多官能メタクリレート、及び
(C)光重合開始剤
を含有する、ネガ型感放射線性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10に記載のネガ型感放射線性樹脂組成物によって形成される有機EL素子用絶縁膜。
【請求項12】
基板上に直接又は間接に請求項10に記載のネガ型感放射線性樹脂組成物を塗布することによって塗膜を形成する工程、
上記塗膜を形成する工程の後、上記塗膜の少なくとも一部に放射線を照射する工程、
上記放射線を照射する工程の後、上記塗膜を現像する工程、及び
上記現像する工程の後、上記塗膜を60℃以上120℃以下の温度で加熱する工程
を備える有機EL素子用絶縁膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネガ型感放射線性樹脂組成物、有機EL素子用絶縁膜とその形成方法及び有機EL装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年開発が進められている発光素子の一つとして、陽極層、有機発光層及び陰極層を含む積層構造を有する有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子が知られている。有機EL素子を有する表示装置として、装置前面にタッチパネルが設けられたタッチパネル付き有機EL装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
タッチパネル付き有機EL装置は、例えば、タッチパネルを、接着剤層を介して、有機EL素子が形成された基板に貼り合わせて製造されている。タッチパネルは、通常、タッチパネル用支持基板上に、センサ電極等のタッチパネル部材を設けることにより製造される。
【0004】
一方、特許文献2には、チオール基を有するシルセスキオキサンと、複数個のアリル基を有する化合物とを含む硬化性樹脂組成物が開示され、当該組成物を液晶パネル、ELパネル等のコーティング層や接着層の形成に使用できることが記載されている。また、特許文献3には、チオール基を有するポリシロキサンと、多官能アクリレート化合物とを含む感光性組成物が開示され、当該組成物を用いて基板上にパターン膜を形成することで、パターン膜の耐久性が高められることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-161806号公報
【特許文献2】特開2012-180464号公報
【特許文献3】特開2010-039056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、タッチパネルを、接着剤層を介して、有機EL素子が形成された基板に貼り合わせる場合、タッチパネル付き有機EL装置全体の厚さが大きくなる。厚さの大きい装置の場合、屈曲させたときに破損又は機能低下が生じやすくなる。また、各種表示装置においては、薄型化自体が望まれている。そこで、有機EL素子が形成された基板上に、直接、リソグラフィ、エッチング等の手法によりタッチパネルを設けることで、タッチパネル付き有機EL装置等の表示装置全体の厚さを小さくすることができると考えられる。
【0007】
しかし、多官能(メタ)アクリレート等を硬化性成分として含む材料を用いた従来の手法では、タッチパネルを形成するための絶縁膜の硬化には100℃超、好ましくは120℃超の温度での加熱が必要である。有機EL素子が形成された基板上に絶縁膜を形成する場合、100℃超、特に120℃超の温度での加熱に伴って有機発光層の劣化を招くという不都合がある。
【0008】
一方、絶縁膜を従来の材料を用いて120℃以下、特に100℃以下の加熱で形成する場合には、得られた絶縁膜が、配線形成のためのエッチング薬液や酸素アッシングに耐えられず、タッチパネル構造を作製することが困難となる傾向がある。タッチパネル付き有機EL装置用の絶縁膜に限らず、その他の表示装置用絶縁膜等各種用途において、比較的低温の加熱によっても十分なエッチング薬液耐性及び酸素アッシング耐性を有する絶縁膜を得ることができる感放射線性樹脂組成物の開発が望まれている。
【0009】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、十分なリソグラフィ性能を有し、比較的低温(例えば120℃以下)の加熱によっても十分な薬液耐性及び酸素アッシング耐性を有する硬化膜を得ることができるネガ型感放射線性樹脂組成物、上記ネガ型感放射線性樹脂組成物を用いて得られる有機EL素子用絶縁膜及び有機EL装置、並びに上記ネガ型感放射線性樹脂組成物を用いた有機EL素子用絶縁膜の形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた発明は、下記の〔1〕又は〔2〕に記載のネガ型感放射線性樹脂組成物である。
〔1〕(A)少なくとも1つのチオール基を有するポリシロキサン、(B)多官能メタクリレート、及び(C)光重合開始剤を含有するネガ型感放射線性樹脂組成物。
〔2〕(A)少なくとも1つのチオール基を有するポリシロキサン、(B)多官能メタクリレート、及び(C)光重合開始剤を含有し、E型粘度計を用いて、25℃、50rpmの条件で測定した粘度が0.5mPa・s以上20mPa・s以下であるネガ型感放射線性樹脂組成物。
【0011】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、上述した〔1〕又は〔2〕記載の当該ネガ型感放射線性樹脂組成物によって形成される有機EL素子用絶縁膜である。
【0012】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、基板上に直接又は間接に上述した〔1〕又は〔2〕に記載のネガ型感放射線性樹脂組成物を塗布することによって塗膜を形成する工程、上記塗膜を形成する工程の後、上記塗膜の少なくとも一部に放射線を照射する工程、上記放射線を照射する工程の後、上記塗膜を現像する工程、及び上記現像する工程の後、上記塗膜を60℃以上120℃以下の温度で加熱する工程を備える有機EL素子用絶縁膜の形成方法である。
【0013】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、上述した当該有機EL素子用絶縁膜を備える有機EL装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、十分なリソグラフィ性能を有し、比較的低温の加熱によっても十分な薬液耐性及び酸素アッシング耐性を有する硬化膜を得ることができるネガ型感放射線性樹脂組成物、上記ネガ型感放射線性樹脂組成物を用いて得られる有機EL素子用絶縁膜及び有機EL装置、並びに上記ネガ型感放射線性樹脂組成物を用いた有機EL素子用絶縁膜の形成方法が提供される。
なお、特許文献2に記載の硬化性樹脂組成物は、複数個のアリル基を有する化合物を含有するところ、アリル基は反応性が低く、エン-チオール反応のみが進む。これに対し、本発明のネガ型感放射線性樹脂組成物は、多官能メタクリレートを含有するため、メタクリレート基によるエン-チオールと通常のラジカル重合反応が同時に進む。したがって、本発明によれば、より低温硬化性に優れ、かつ、耐溶剤性に優れた硬化膜が得られる。
また、特許文献3に記載の感光性組成物は、多官能アクリレートを含有するところ、アクリレート基は反応性に優れる一方、組成物の保存中にもエン-チオール反応が進むため、組成物の粘度が上昇し保存安定性に劣る。これに対し、本発明のネガ型感放射線性樹脂組成物は、多官能メタクリレートを含有するため、保存安定性に優れた組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る有機EL装置を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<ネガ型感放射線性樹脂組成物>
本発明の一実施形態に係るネガ型感放射線性樹脂組成物は、(A)少なくとも1つのチオール基を有するポリシロキサン(以下、「(A)成分」ともいう)、(B)多官能メタクリレート(以下、「(B)成分」ともいう)、及び(C)光重合開始剤(以下、「(C)成分」ともいう)を含有し、好ましくはE型粘度計を用いて、25℃、50rpmの条件で測定した粘度が0.5mPa・s以上20mPa・s以下であるネガ型感放射線性樹脂組成物である。
【0017】
当該ネガ型感放射線性樹脂組成物によれば、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有し、好ましくは上記粘度が上記範囲内であることで、十分なリソグラフィ性能を有し、比較的低温の加熱によっても十分な薬液耐性及び酸素アッシング耐性を有する硬化膜を得ることができる。この理由としては、明確ではないが、以下のように推察される。すなわち、当該ネガ型感放射線性樹脂組成物においてポリシロキサンのチオール基がアルカリ可溶性基かつ架橋基として機能するため、得られる硬化膜の溶解コントラストが高くなり、これにより、優れたリソグラフィ性能が発現されると推察される。また、シロキサン構造を有するポリシロキサンとメタクリル構造を有する多官能メタクリレートとがエン-チオール反応により架橋構造を形成することで、シロキサン構造とメタクリル構造とが共存する構造を有する硬化膜が得られる。このため、得られる硬化膜が応力緩和に優れ、これにより、薬液耐性及び酸素アッシング耐性が発現されると推察される。以下に、当該ネガ型感放射線性樹脂組成物の各成分について説明する。
【0018】
(A)少なくとも1つのチオール基を有するポリシロキサン
当該ネガ型感放射線性樹脂組成物は、(A)少なくとも1つのチオール基を有するポリシロキサンを含有する。当該ネガ型感放射線性樹脂組成物は、(A)成分の他に、チオール基と反応し得る官能基を1分子中に2個以上有する化合物((B)多官能メタクリレート)を含有し、(A)成分と(B)成分とが互いに反応することで硬化性に優れた絶縁膜が形成される。また、(A)成分はシロキサン結合を有するポリシロキサンである。
【0019】
当該ネガ型感放射線性樹脂組成物がシロキサン結合を有するポリシロキサンを含有することにより、絶縁膜の製造時のアウトガスの発生を抑制することができ、塗工性や絶縁膜の透明性に優れる有機EL素子用絶縁膜を得ることができる。
【0020】
また、チオール基をもつ化合物は、炭素-炭素二重結合を有する化合物とのエン-チオール反応によって光硬化され得る。エン-チオール反応は、光硬化系で一般的に用いられるラジカル重合系と比較して、重合開始剤の有無にかかわらず紫外線照射により進行すること、酸素による反応阻害を受けないこと、硬化収縮が小さいことなどの利点がある。
【0021】
(A)成分は、下記式(2)で示されるチオール基含有アルコキシシラン類(a1)(以下、「成分(a1)」ともいう)を加水分解及び縮合して得られる化合物である。
【0022】
1Si(OR23 (2)
【0023】
上記式(2)中、R1は少なくとも1つのチオール基を有する炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、または少なくとも1つのチオール基を有する炭素数6~8の芳香族炭化水素基を表し、R2は水素原子、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、または炭素数6~8の芳香族炭化水素基を表す。
【0024】
炭素数1~8の脂肪族炭化水素基は、直鎖状でも、分岐鎖状でもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基を挙げることができる。
炭素数6~8の芳香族炭化水素基における「芳香族炭化水素基」とは、環構造のみからなる基だけでなく、当該環構造に更に2価の脂肪族炭化水素基が置換した基をも包含する概念であり、その構造中に少なくとも脂環式炭化水素又は芳香族炭化水素を含んでいればよい。例えば、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、トリル基、キシリル基を挙げることができる。
中でも、R1としては、低温硬化性の観点から、少なくとも1つのチオール基を有する炭素数1~6の脂肪族炭化水素基が好ましく、またR2としては、加水分解性の観点から、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基が好ましい。
【0025】
上記式(2)で示される成分(a1)の具体例としては、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリプロポキシシラン、3-メルカプトプロピルトリブトキシシラン、1,4-ジメルカプト-2-(トリメトキシシリル)ブタン、1,4-ジメルカプト-2-(トリエトキシシリル)ブタン、1,4-ジメルカプト-2-(トリプロポキシシリル)ブタン、1,4-ジメルカプト-2-(トリブトキシシリル)ブタン、2-メルカプトメチル-3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトメチル-3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトメチル-3-メルカプトプロピルトリプロポキシシラン、2-メルカプトメチル-3-メルカプトプロピルトリブトキシシラン、1,2-ジメルカプトエチルトリメトキシシラン、1,2-ジメルカプトエチルトリエトキシシラン、1,2-ジメルカプトエチルトリプロポキシシラン、1,2-ジメルカプトエチルトリブトキシシランなどが挙げられ、上記例示化合物はいずれか単独で、または適宜に組み合わせて使用し得る。上記例示化合物のうち、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランは、加水分解反応の反応性が高く、かつ入手が容易であるため特に好ましい。
【0026】
また、成分(a1)に加えて、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどのアルキルトリアルコキシシラン類(a2)(以下、「成分(a2)」ともいう)を使用し得る。成分(a2)は、いずれか単独で、または2種以上を組み合わせて使用し得る。これらを用いることでチオール基の含有量を調整することができるため、最終的に得られる絶縁膜の屈折率を調整したりすることができる。
【0027】
成分(a1)と成分(a2)を併用する場合は、[成分(a2)のモル数]/[成分(a1)と成分(a2)の合計モル数](モル比)が0.7以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。上記モル比が0.7を超える場合、得られる(A)成分中に含まれるチオール基の数が少なくなるため、絶縁膜の硬化性が低下するとともに、絶縁膜の硬度などの物性についての改善効果も不十分となるおそれがある。一方、上記モル比は、0であっても構わないが、0超で適宜設定してもよい。
【0028】
(A)成分は、成分(a1)単独やこれに成分(a2)を併用して、それらを加水分解後、縮合させて得ることができる。加水分解反応によって、成分(a1)や成分(a2)に含まれるアルコキシ基がシラノール基となり、アルコールが副生する。加水分解反応に必要な水の量は、例えば[加水分解反応に用いる水のモル数]/[成分(a1)と成分(a2)に含まれる各アルコキシ基の合計モル数](モル比)が0.4以上10以下であるような量であればよい。上記モル比が0.4以上0.5未満である場合、得られる(A)成分中にアルコキシ基が一部残存することになるが、無機材料に対する密着性が向上する。また、上記モル比が0.5以上10以下である場合には、得られる(A)成分中に実質的にアルコキシ基が残存しないため、厚膜の硬化物が作製しやすい。一方、上記モル比が0.4に満たない場合、(A)成分中に加水分解されずに残るアルコキシ基が多くなりすぎるため、硬化時に揮発成分が多く発生し、厚膜の硬化物が作製され難いため、好ましくない。また、上記モル比が10を超える場合、後に行われる縮合反応(脱水反応)の際に除くべき水の量が多くなるため、経済的に不利である。
【0029】
加水分解反応に用いる触媒としては、従来公知の加水分解触媒として機能し得る酸性触媒を任意に用いることができる。但し、加水分解反応後に酸性触媒を実質的に除去しておく必要があるため、除去が容易なものであることが好ましい。このようなものとして、触媒活性が高く、沸点が低いことから、減圧によって除去することが可能なギ酸が好ましい。上記触媒としては、ろ過などの方法によって容易に除去することが可能であり、成分(a1)、成分(a2)、これらの加水分解物、加水分解時に用いる溶剤、及び水に不溶である固体酸触媒等が挙げられる。固体酸性触媒としては、陽イオン交換樹脂、活性白土、カーボン系固体酸等が挙げられる。中でも、陽イオン交換樹脂は触媒活性が高く、かつ入手が容易であるため好ましい。陽イオン交換樹脂としては、強酸型陽イオン交換樹脂、弱酸型陽イオン交換樹脂を使用できる。強酸型イオン交換樹脂としては、ダイヤイオン SKシリーズ、同UBKシリーズ、同PKシリーズ、同HPK25・PCPシリーズ(いずれも三菱化学(株)製商品名)、アンバーライト IR120B、同IR124、同200CT、同252、アンバージェット 1020、同1024、同1060、同1220、アンバーリスト 15DRY、同15JWET、同16WET、同31WET、同35WET(いずれもオルガノ(株)製商品名)などが挙げられる。弱酸型イオン交換樹脂としては、ダイヤイオン WKシリーズ、同WK40(いずれも三菱化学(株)製商品名)、アンバーライト FPC3500、同IRC76(いずれもオルガノ(株)製商品名)などが挙げられる。反応速度や副反応の抑制などによって使用するイオン交換樹脂のタイプを任意に選択できるが、反応性から強酸性イオン交換樹脂が特に好ましい。
【0030】
酸性触媒の添加量は、成分(a1)及び成分(a2)の合計100質量部に対して、0.1質量部以上25質量部以下であることが好ましく、1質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。上記添加量が25質量部を超える場合、後の工程で除去することが困難であったり、経済的に不利になったりする傾向がある。一方、上記添加量が0.1質量部に満たない場合、実質的に反応が進行しない、または反応時間が長くなるなどの傾向がある。
【0031】
反応温度、反応時間は、成分(a1)や成分(a2)の反応性に応じて任意に設定できる。反応温度は、通常0℃以上100℃以下程度であり、好ましくは20℃以上60℃以下程度である。反応時間は、1分以上2時間以下程度である。上記加水分解反応は、溶剤の存在下または不存在下に行うことができるが、溶剤を用いないことが好ましい。溶剤を用いる場合、溶剤の種類は特に限定されず、任意の溶剤を1種類以上選択して用いることができるが、後述の縮合反応に用いる溶剤と同一のものを用いることが好ましい。
【0032】
加水分解反応終了後、酸性触媒もしくは塩基性触媒を用いて縮合を行う。縮合反応には、従来公知の脱水縮合触媒を任意に用いることが出来る。酸触媒を用いる場合においてギ酸は触媒活性が高く、加水分解反応の触媒と共用できるため、好ましい。反応温度、反応時間は成分(a1)や成分(a2)の反応性に応じてそれぞれ任意に設定できる。反応温度は、通常は40℃以上150℃以下程度であり、好ましくは60℃以上100℃以下程度である。反応時間は、30分以上12時間以下程度である。
【0033】
塩基性触媒を用いる場合、加水分解反応の終了後、系内から酸性触媒を除去する必要があるため、これを減圧やろ過などの方法によって除去する。なお、酸性触媒の除去と同時に、減圧などの方法によって副生したアルコールや、余分な水を除去してもよい。また、除去後に縮合反応に用いる溶剤によって希釈することで、後の縮合反応において加水分解反応物を添加しやすくすることもできる。
【0034】
縮合反応においては、上記のシラノール基間で水が副生し、またシラノール基とアルコキシ基との間ではアルコールが副生して、シロキサン結合を形成する。縮合反応には、従来公知の脱水縮合触媒として機能しうる塩基性触媒を任意に用いることができる。中でも塩基性の高いものが好ましく、具体例としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)などのアルカリ塩類、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エンなどの有機アミン類、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどのアンモニウムヒドロキシド類などが挙げられる。上記例示化合物はいずれか単独で、または適宜に組み合わせて使用し得る。上記例示化合物のうち、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドは、触媒活性が高く、かつ入手が容易であるため、特に好ましい。また、これら塩基性触媒を水溶液として用いる場合には、縮合反応の工程においても加水分解反応が進行するため、加水分解時に用いる水の量を塩基性触媒が含む水の量だけ予め減らしておくなど、適宜調整する必要がある。
【0035】
塩基性触媒の添加量は、成分(a1)及び成分(a2)の合計100質量部に対して、0.01質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上2質量部以下であることがより好ましい。上記添加量が5質量部を超える場合、得られた(A)成分を用いて作製した硬化物が着色しやすくなったり、触媒を除去する場合に除去しきれなかったり、触媒を除去する工程が長くなったりする傾向がある。一方、上記添加量が0.01質量部に満たない場合、実質的に反応が進行しない、または反応時間が長くなるなどの傾向がある。
【0036】
反応温度は成分(a1)や成分(a2)の反応性に応じてそれぞれ任意に設定できる。反応温度は、通常は40℃以上150℃以下程度であり、好ましくは60℃以上100℃以下程度である。縮合反応は、極性溶剤の存在下で行う。非極性溶剤中で反応を行う場合、シラノール基が完全に消費されなかったり、異常な高分子量化のため系がゲル化してしまったりするため、好ましくない。極性溶剤としては、水と相溶性を示す極性溶剤が好ましく、特にグリコールエーテル類が好ましい。また、グリコールエーテル類の中でも、ジアルキルグリコールエーテル系の溶剤が前述のような異常な高分子量化が特に起こりにくいため、特に好ましい。水と相溶性を示すジアルキルグリコールエーテル系溶剤としては、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどが挙げられる。
【0037】
上記縮合反応は、反応温度に設定し、脱水縮合触媒を添加した極性溶剤に対し、加水分解反応で得られた加水分解物を含む溶液を順次添加する方法によって行う。添加の方法は、公知各種の方法から適宜に選択できる。添加に要する時間は成分(a1)や成分(a2)の反応性に応じてそれぞれ任意に設定できるが、通常は30分以上12時間以下程度である。
【0038】
上記縮合反応は、反応溶液中の成分(a1)(成分(a2)を併用する場合は両者)の濃度が好ましくは2質量%以上80質量%以下程度になるように溶剤で希釈して行うことが好ましく、上記濃度が15質量%以上60質量%以下程度になるように溶剤で希釈して行うことがより好ましい。縮合反応によって生成する水およびアルコールの沸点より高い沸点を有する溶剤を用いると、反応系中からこれらを留去することができるため、好ましい。上記濃度が2質量%に満たない場合、得られる当該ネガ型感放射線性樹脂組成物に含まれる(A)成分の含有量が小さくなる傾向がある。上記濃度が80質量%を超える場合、反応中にゲル化が発生したり、生成する(A)成分の分子量が大きくなり過ぎたりする傾向がある。
【0039】
上記縮合反応の終了後、用いた触媒を除去すると、(A)成分、又は(A)成分を含有する当該ネガ型感放射線性樹脂組成物の安定性が向上するため、好ましい。触媒の除去方法は、用いた触媒に応じて公知各種の方法から適宜に選択できる。例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドを用いる場合は、縮合反応の終了後、陽イオン交換樹脂で吸着、除去するなどの方法により除去できる。
【0040】
(A)成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0041】
(B)多官能メタクリレート
(B)成分が有する炭素-炭素二重結合は、(A)成分のチオール基と反応(エン-チオール反応)するが、この反応機構は、炭素-炭素二重結合の種類や、ラジカル重合開始剤の有無によって異なる。
【0042】
本実施形態においては、当該ネガ型感放射線性樹脂組成物の保存安定性の向上や、得られる絶縁膜の硬化性の制御の観点から、1分子中に2個以上のメタクリレート基を有する化合物が好適に用いられる。
【0043】
このような多官能メタクリレートの具体例としては、2官能メタクリル酸エステルや、3官能以上のメタクリル酸エステル等の多官能メタクリル酸エステルが挙げられる。
【0044】
2官能メタクリル酸エステルとしては、例えばエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート等が挙げられる。
【0045】
3官能以上のメタクリル酸エステルとしては、例えばトリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレートとジペンタエリスリトールヘキサメタクリレートとの混合物、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、トリ(2-メタクリロイルオキシエチル)フォスフェート、コハク酸変性ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート等が挙げられる。この他、直鎖アルキレン基及び脂環式構造を有し、かつ2個以上のイソシアネート基を有する化合物と、分子内に1個以上のヒドロキシ基を有し、かつ3個、4個又は5個のメタクリロイルオキシ基を有する化合物とを反応させて得られる多官能ウレタンメタクリレート系化合物等が挙げられる。この中でも保存安定性の向上や得られる絶縁膜の硬化性の観点から、4官能以上のメタクリル酸エステルとしては、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、又はジトリメチロールプロパンテトラメタクリレートが好ましく、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート又はジトリメチロールプロパンテトラメタクリレートがより好ましい。
【0046】
(B)成分の含有割合に関し、(A)成分に対する(B)成分の質量比が、1/2以上2/1以下であることが好ましい。特に、(B)成分が4官能以上のメタクリレートであり、(A)成分に対する(B)成分の質量比が、1/2以上2/1以下であることが好ましい。これらの場合、具体的には、(B)成分の含有割合の下限としては、(A)成分100質量部に対して、20質量部が好ましく、50質量部がより好ましい。一方、(B)成分の含有割合の上限としては、(A)成分100質量部に対して、200質量部が好ましく、150質量部がより好ましい。(A)成分に対する(B)成分の含有割合が上記範囲内であることにより、得られる絶縁膜の諸特性をより効果的に高めることなどができる。
【0047】
(B)成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0048】
(C)光重合開始剤
(C)成分は、放射線に感応してラジカルを発生し、重合を開始させることができる化合物、すなわち光ラジカル重合開始剤である。
(C)光重合開始剤の具体例としては、例えばO-アシルオキシム化合物、α-アミノケトン化合物、α-ヒドロキシケトン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物等が挙げられる。
【0049】
O-アシルオキシム化合物としては、例えば1-〔9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル〕-エタン-1-オンオキシム-O-アセタート、1-[9-エチル-6-ベンゾイル-9.H.-カルバゾール-3-イル]-オクタン-1-オンオキシム-O-アセテート、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-エタン-1-オンオキシム-O-ベンゾエート、1-[9-n-ブチル-6-(2-エチルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-エタン-1-オンオキシム-O-ベンゾエート、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチル-4-テトラヒドロフラニルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチル-4-テトラヒドロピラニルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチル-5-テトラヒドロフラニルベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、エタノン,1-[9-エチル-6-{2-メチル-4-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラニル)メトキシベンゾイル}-9.H.-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチル-4-テトラヒドロフラニルメトキシベンゾイル)-9.H.-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]等が挙げられる。
【0050】
α-アミノケトン化合物としては、例えば2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)-2-ベンジル-1-ブタノン、1-[4-(2-ヒドロキシエチルスルファニル)フェニル]-2-メチル-2-(4-モルフォリノ)プロパン-1-オン等が挙げられる。
【0051】
α-ヒドロキシケトン化合物としては、例えば1-フェニル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-i-プロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。
【0052】
アシルホスフィンオキサイド化合物としては、例えば2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0053】
(C)光重合開始剤としては、放射線による硬化反応をより促進させる観点から、O-アシルオキシム化合物、α-アミノケトン化合物及びアシルホスフィンオキサイド化合物が好ましく、O-アシルオキシム化合物及びα-アミノケトン化合物がより好ましく、O-アシルオキシム化合物がさらに好ましい。
【0054】
O-アシルオキシム化合物といったオキシム系光重合開始剤は、光が照射されることによってフェニルラジカルやメチルラジカル等のラジカルを生成させ、このラジカルによって重合が好適に進行する。このようなオキシム系光重合開始剤の中でも、メチルラジカルを発生させるオキシム系光重合開始剤は、重合反応の開始効率が高い点で好ましい。また、重合反応をより効率的に進行させるという観点から、波長350nm以上の紫外線を効率的に利用可能な光重合開始剤を使用することが好ましい。このようなメチルラジカルを発生させるオキシムエステル系重合開始剤としては、下記式(1)で示される構造を有する化合物が挙げられる。
【0055】
【化1】
【0056】
上記式(1)中、*は上記化合物における他の部分との結合部位を示す。
【0057】
メチルラジカルを発生するオキシムエステル系光重合開始剤を適用することで、硬化性に優れ、現像耐性、パターンの欠け発生の抑制効果、及び低温硬化条件においても優れた硬化膜物性に優れる点から好ましい。
【0058】
メチルラジカルを含むアルキルラジカルを発生するオキシムエステル系光重合開始剤としては、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(o-アセチルオキシム)(商品名:イルガキュアOXE-02、BASF製)、メタノン,[8-[[(アセチルオキシ)イミノ][2-(2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ)フェニル]メチル]-11-(2-エチルヘキシル)-11H-ベンゾ[a]カルバゾール-5-イル]-,(2,4,6-トリメチルフェニル)(商品名:イルガキュアOXE-03、BASF製)、エタノン,1-[9-エチル-6-(1,3-ジオキソラン,4-(2-メトキシフェノキシ)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(o-アセチルオキシム)(商品名ADEKA OPT-N-1919、ADEKA社製)、メタノン,(9-エチル-6-ニトロ-9H-カルバゾール-3-イル)[4-(2-メトキシ-1-メチルエトキシ-2-メチルフェニル]-,o-アセチルオキシム(商品名アデカアークルズNCI-831、ADEKA社製)、1-プロパノン,3-シクロペンチル-1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(o-アセチルオキシム)(商品名TR-PBG-304、常州強力電子新材料社製)、1-プロパノン,3-シクロペンチル-1-[2-(2-ピリミジニルチオ)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(o-アセチルオキシム)(商品名TR-PBG-314、常州強力電子新材料社製)、エタノン,2-シクロヘキシル-1-[2-(2-ピリミジニルオキシ)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(o-アセチルオキシム)(商品名TR-PBG-326、常州強力電子新材料社製)、エタノン,2-シクロヘキシル-1-[2-(2-ピリミジニルチオ)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(o-アセチルオキシム)(商品名TR-PBG-331、常州強力電子新材料社製)、1-オクタノン,1-[4-[3-[1-[(アセチルオキシ)イミノ]エチル]-6-[4-[(4,6-ジメチル-2-ピリミジニル)チオ]-2-メチルベンゾイル]-9H-カルバゾール-9-イル]フェニル]-,1-(o-アセチルオキシム)(商品名:EXTA-9、ユニオンケミカル製)等が挙げられる。
【0059】
また、オキシムエステル系光重合開始剤に、3級アミン構造を有する光重合開始剤を組み合わせて用いてもよい。3級アミン構造を有する光重合開始剤は、分子内に酸素クエンチャーである3級アミン構造を有するため、開始剤から発生したラジカルが酸素により失活し難く、感度を向上させることができるからである。上記3級アミン構造を有する光重合開始剤の市販品としては、例えば、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(例えばイルガキュア907、BASF社製)、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン(例えばイルガキュア369、BASF社製)、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(例えば、ハイキュアABP、川口薬品製)などが挙げられる。
【0060】
(C)成分は、上述したように、単独でまたは2種以上を混合して使用できる。(C)成分の含有割合は、(A)成分100質量部に対して、1質量部以上40質量部以下が好ましく、5質量部以上30質量部以下がより好ましい。上記含有割合が1質量部以上40質量部以下であることで、当該ネガ型感放射線性樹脂組成物が、低露光量であっても、高い耐溶媒性、高い硬度及び高い密着性を有する硬化膜を形成することを可能とする。その結果、よりこれら特性に優れた絶縁膜が提供される。
【0061】
(F)有機溶媒
当該ネガ型感放射線性樹脂組成物は、(F)有機溶媒をさらに含有することができる。(F)有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えばアルコール系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒等が挙げられる。(F)有機溶媒は、単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0062】
アルコール系溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-ドデカノール、1-メトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルキルアルコール;ベンジルアルコール等の芳香族アルコールなどが挙げられる。
【0063】
エーテル系溶媒としては、例えばジエチレングリコールメチルエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル;ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0064】
エステル系溶媒としては、例えば酢酸エチル、酢酸i-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸アミル、乳酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル等のカルボン酸エステル;プロピレングリコールジアセテート等の多価アルコールカルボキシレート系溶媒;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の多価アルコール部分エーテルカルボキシレート系溶媒などが挙げられる。
【0065】
ケトン系溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン等が挙げられる。
【0066】
これらの中でも、エーテル系溶媒及びエステル系溶媒が好ましく、エステル系溶媒がより好ましく、多価アルコール部分エーテルカルボキシレート系溶媒がさらに好ましい。また、エーテル系溶媒及びエステル系溶媒の中では、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、及び3-メトキシプロピオン酸メチルが好ましい。
【0067】
当該ネガ型感放射線性樹脂組成物における(F)有機溶媒の含有量は特に限定されないが、固形分((F)有機溶媒以外の成分)濃度が以下の範囲内となるように調製されることが好ましい。当該ネガ型感放射線性樹脂組成物における固形分濃度の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましく、20質量%がさらに好ましい。一方、この固形分濃度の上限としては、60質量%が好ましく、50質量%がより好ましく、40質量%がさらに好ましい。
【0068】
(D)紫外線吸収剤
当該ネガ型感放射線性樹脂組成物は、さらに(D)紫外線吸収剤(以下、「(D)成分」ともいう)を含有することができる。(D)成分は、露光に用いられる光源の特定の波長を(D)成分によって吸収させることにより、光硬化分布を制御する目的で添加されるものである。当該ネガ型感放射線性樹脂組成物が(D)成分を含有することにより、現像後のテーパー角形状を改善したり、現像後に非露光部に残る残渣を低減したりするなどの効果が得られる傾向がある。(D)成分としては、(C)成分による光吸収を阻害するとの観点から、例えば、波長250nmから400nmの間に吸収極大を有する化合物を用いることができる。
【0069】
(D)成分としては、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン化合物、ベンゾエート化合物、桂皮酸誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン及びその誘導体、ジナフタレン化合物、フェナントロリン化合物、染料等が挙げられる。
【0070】
(D)成分は、単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0071】
これらの中でも、テーパー角を高める観点から、ベンゾトリアゾール化合物及び/又はヒドロキシフェニルトリアジン化合物が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物が特に好ましい。具体的には、ベンゾトリアゾール化合物としては、2-(5-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2-メチレンビス{6-(ベンゾトリアゾール-2-イル-4-tert―オクチルフェノール)}等が挙げられる。ベンゾフェノン系有機化合物としては、2,2-ジ-ヒドロキシ-4,4-ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられる。トリアジン系有機化合物としては2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。入手できる市販品としては、BASF社製「TINUVIN PS」、「TINUVIN P」、「TINUVIN 324」、「TINUVIN 326」、「TINUVIN 360」、シプロ化成社製「シーソーブ107」、ADEKA社製「アデカスタブ LA-F70」等が挙げられる。
【0072】
(D)成分の含有割合は、(A)成分100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、1質量部以上30質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上30質量部以下であることがさらに好ましく、20質量部以上30質量部以下であることが一層好ましい。上記含有割合が上記範囲を満たすことによって、得られるパターンの形状、解像度が向上する。
【0073】
(E)塩基発生剤
当該ネガ型感放射線性樹脂組成物は、さらに、(E)塩基発生剤(以下、「(E)成分」ともいう)を含有することができる。
【0074】
(E)塩基発生剤としては、放射線の照射により塩基(アミン等)を発生する化合物である限り、特に限定されない。(E)塩基発生剤の例としては、コバルト等の遷移金属錯体、オルトニトロベンジルカルバメート類、α,α-ジメチル-3,5-ジメトキシベンジルカルバメート類、アシルオキシイミノ類等が挙げられる。
【0075】
上述の遷移金属錯体としては、例えば、ブロモペンタアンモニアコバルト過塩素酸塩、ブロモペンタメチルアミンコバルト過塩素酸塩、ブロモペンタプロピルアミンコバルト過塩素酸塩、ヘキサアンモニアコバルト過塩素酸塩、ヘキサメチルアミンコバルト過塩素酸塩、ヘキサプロピルアミンコバルト過塩素酸塩等が挙げられる。
【0076】
オルトニトロベンジルカルバメート類としては、例えば、[[(2-ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]メチルアミン、[[(2-ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]プロピルアミン、[[(2-ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ヘキシルアミン、[[(2-ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0077】
α,α-ジメチル-3,5-ジメトキシベンジルカルバメート類としては、例えば、[[(α,α-ジメチル-3,5-ジメトキシベンジル)オキシ]カルボニル]メチルアミン、[[(α,α-ジメチル-3,5-ジメトキシベンジル)オキシ]カルボニル]プロピルアミン等が挙げられる。
【0078】
アシルオキシイミノ類としては、例えば、プロピオニルアセトフェノンオキシム、プロピオニルベンゾフェノンオキシム、プロピオニルアセトンオキシム、ブチリルアセトフェノンオキシム、ブチリルベンゾフェノンオキシム、ブチリルアセトンオキシム、アジポイルアセトフェノンオキシム、アジポイルベンゾフェノンオキシム等が挙げられる。
【0079】
上記以外の塩基発生剤のその他の例としては、2-ニトロベンジルシクロヘキシルカルバメート、O-カルバモイルヒドロキシアミド及びO-カルバモイルヒドロキシアミド1,2-ジイソプロピル-3-{ビス(ジメチルアミノ)メチレン}グアニジウム=2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピオナートが挙げられる。
【0080】
(E)塩基発生剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0081】
(E)塩基発生剤の含有割合の下限としては、(A)成分100質量部に対して、0.1質量部が好ましく、1質量部がより好ましい。(E)塩基発生剤の含有割合の上限としては、(A)成分100質量部に対して、20質量部が好ましく、10質量部がより好ましい。上記含有割合が上記範囲を満たすことによって、得られるパターン形状と耐熱性が高いレベルで良好となる。
【0082】
(その他の成分)
当該ネガ型感放射線性樹脂組成物は、上述した(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分、(F)有機溶媒以外の他の成分をさらに含有することができる。このような他の成分としては、硬化剤、硬化促進剤、密着助剤、酸化防止剤、界面活性剤等を挙げることができる。但し、当該ネガ型感放射線性樹脂組成物に占める(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分、(F)有機溶媒以外の他の成分の含有量としては、10質量%以下が好ましいことがあり、1質量%以下がより好ましいこともある。
【0083】
(ネガ型感放射線性樹脂組成物の粘度)
E型粘度計を用いて、25℃、50rpmの条件で測定した当該ネガ型感放射線性樹脂組成物の粘度は、好ましくは0.5mPa・s以上20mPa・s以下であり、0.5mPa・s以上7mPa・s以下であることがより好ましく、2.5mPa・s以上5mPa・s以下であることが更に好ましい。上記粘度が上記範囲を満たすことによって、後述する解像度、残膜率、耐薬品性、酸素アッシング耐性、及び保存安定性の全てに優れる。当該ネガ型感放射線性樹脂組成物の粘度は、添加する(F)有機溶媒の量を調整することによって上記範囲に設定することができる。
【0084】
<硬化膜の形成温度>
当該ネガ型感放射線性樹脂組成物は、上述のように、比較的低温の加熱によっても十分なエッチング薬液耐性及び酸素アッシング耐性を有する硬化膜を得ることができる。当該ネガ型感放射線性樹脂組成物は、例えば60℃以上120℃以下の温度範囲の加熱により硬化可能な組成物であることが好ましく、60℃以上100℃以下の温度範囲の加熱により硬化可能な組成物であることがより好ましい。
【0085】
<ネガ型感放射線性樹脂組成物の調製方法>
当該ネガ型感放射線性樹脂組成物は、各成分を所定の割合で混合し、(F)有機溶媒に溶解させることにより調製できる。調製した組成物は、例えば孔径0.2μm程度のフィルタ等でろ過することが好ましい。
【0086】
<有機EL素子用絶縁膜>
本発明の一実施形態に係る有機EL素子用絶縁膜は、当該ネガ型感放射線性樹脂組成物によって形成される硬化膜である。当該有機EL素子用絶縁膜は、パターニングされた膜であってよい。当該有機EL素子用絶縁膜は、比較的低温の加熱によっても十分なエッチング薬液耐性及び酸素アッシング耐性を有する硬化膜を得ることができるネガ型感放射線性樹脂組成物から形成されているため、歩留まりが高く、耐久性等にも優れる。
【0087】
当該有機EL素子用絶縁膜は、層間絶縁膜として好適であり、その他、平坦化膜、スペーサー、保護膜等に用いられてもよい。当該有機EL素子用絶縁膜は、有機EL素子を備える表示装置(有機EL装置)、電子ペーパー等の表示装置にも用いることができる。また、後述するように、当該有機EL素子用絶縁膜は、タッチパネルを備える有機EL装置等、タッチパネルを備える表示装置におけるタッチパネルと他の層との間の層間絶縁膜として好適である。
【0088】
当該有機EL素子用絶縁膜は、比較的厚い場合においても、クラックの発生が生じ難い。従って、当該表示装置用絶縁膜は、厚膜化が可能である。当該有機EL素子用絶縁膜の平均厚さの下限としては、例えば0.1μmであってよいが、0.5μmが好ましく、1μmがより好ましく、2μmがさらに好ましいこともある。一方、この平均厚さの上限としては、例えば10μmであり、6μmであってもよく、4μmであってもよい。
【0089】
上述した当該有機EL素子用絶縁膜は、各種の表示装置に備えられることができる。このような表示装置としては、有機EL装置、電子ペーパー等が挙げられ、これらの中でも、有機EL装置が好ましい。
【0090】
<有機EL装置>
本発明の一実施形態に係る有機EL装置は、上述した当該有機EL素子用絶縁膜を備える。当該有機EL装置は、有機EL素子を有する基板に積層されたタッチパネルを備えることが好ましい。有機EL素子は、通常、陽極層、有機発光層及び陰極層を含む積層構造を有する。上記タッチパネルにおける少なくとも一部の絶縁膜に、当該有機EL素子用絶縁膜が用いられることが好ましい。特に、有機EL素子を有する基板に、粘着層や接着層を介することなく積層されるタッチパネルの絶縁膜に、当該有機EL素子用絶縁膜が用いられることが好ましい。このようにすることで、有機EL素子が形成された基板に、タッチパネルを直接積層することができるため、タッチパネルを備える有機EL装置の薄型化が可能となる。
【0091】
当該ネガ型感放射線性樹脂組成物は、比較的低温の加熱によっても十分なエッチング薬液耐性及び酸素アッシング耐性を有する硬化膜を得ることができるため、当該有機EL装置の製造工程での有機EL素子の劣化を抑制することができ、歩留まりを高めることなどができる。また、このように、当該ネガ型感放射線性樹脂組成物を用いて比較的低温の加熱で絶縁膜を形成することで上記製造工程での有機EL素子の劣化を抑制することができるため、タッチパネルを備える有機EL装置以外の、有機EL素子を備える各種有機EL装置における絶縁膜の形成に、当該ネガ型感放射線性樹脂組成物は特に好適に用いることができる。
【0092】
図1にタッチパネルを備える有機EL装置の一形態を示す。図1のタッチパネル付き有機EL装置10は、有機EL表示基板20とタッチパネル30とを備える。有機EL表示基板20は、支持基板21、陽極層22、有機発光層23、陰極層24、接着層25及び封止基板26がこの順で積層された構造を有する。なお、少なくとも陽極層22、有機発光層23及び陰極層24が有機EL素子を構成する。有機発光層23としては、例えば、陽極層22側から、正孔注入層、正孔輸送層、有機EL発光層、電子輸送層及び電子注入層がこの順で積層した構造のものを採用することができる。
【0093】
タッチパネル30は、第1センサ電極31、絶縁膜33及び第2センサ電極32がこの順で積層された、静電容量方式のものである。タッチパネル30は、第1センサ電極31、第1センサ電極31に向かい合って配置される第2センサ電極32、絶縁膜33、及び最表面に配置される透明基板34を有する。本実施形態において、第1センサ電極31は、有機EL表示基板20の封止基板26上に直接形成されている。絶縁膜33は、第1センサ電極31と第2センサ電極32とを絶縁する透明な絶縁膜であり、当該ネガ型感放射線性樹脂組成物から形成されている。なお、タッチパネルは、このような静電容量方式のものに限定されるものではない。
【0094】
<有機EL素子用絶縁膜の形成方法>
本発明の一実施形態に係る有機EL素子用絶縁膜の形成方法は、基板上に直接又は間接に上述した当該ネガ型感放射線性樹脂組成物を塗布することによって塗膜を形成する工程(以下、「塗膜形成工程」ともいう。)、上記塗膜を形成する工程の後、上記塗膜の少なくとも一部に放射線を照射(露光)する工程(以下、「放射線照射工程」ともいう。)、上記放射線を照射する工程の後、上記塗膜を現像する工程(以下、「現像工程」ともいう。)、及び上記現像する工程の後、上記塗膜を60℃以上120℃以下の温度で加熱する工程(以下、「加熱工程」ともいう。)を備える。当該形成方法は、任意工程として、放射線照射工程と現像工程との間に、上記塗膜を加熱する工程(以下、「PEB工程」ともいう。)を備えていてもよい。
【0095】
当該形成方法によれば、上述した当該ネガ型感放射線性樹脂組成物を用いているため、良好な形状にパターニング可能であり、比較的低温の加熱によっても十分なエッチング薬液耐性及び酸素アッシング耐性を有する絶縁膜を得ることができる。また、塗膜を形成する基板が有機EL素子を含むものであっても、加熱工程を比較的低温で行うことで、有機EL素子の劣化を抑制することが可能となる。以下、各工程について説明する。
【0096】
(塗膜形成工程)
本工程では、基板上に直接又は他の層を介して当該ネガ型感放射線性樹脂組成物を塗布した後、好ましくは塗布面を加熱(プレベーク)することにより有機溶媒等を除去して、塗膜を形成する。上記基板の材質としては、例えばガラス、石英、シリコン、樹脂等が挙げられる。上記樹脂の具体例としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリイミド、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンの開環重合体及びその水素添加物等が挙げられる。
【0097】
上記基板は、有機EL素子等を含むものであってよい。また、上記基板は、塗布面に電極、配線等が設けられているものであってよい。このような基板としては、上述した図1において、第1センサ電極31が形成された有機EL表示基板20を例示することができる。
【0098】
当該ネガ型感放射線性樹脂組成物の塗布方法としては特に限定されず、例えばスプレー法、ロールコート法、回転塗布法(スピンコート法)、スリットダイ塗布法、バー塗布法等の適宜の方法を採用することができる。これらの塗布方法の中でも、特にスピンコート法及びスリットダイ塗布法が好ましい。プレベークの条件は、各成分の種類、配合割合等によっても異なるが、例えば60℃以上120℃以下、より好ましくは100℃以下の温度で1分以上10分以下の加熱時間とすればよい。
【0099】
(放射線照射工程)
本工程では、塗膜形成工程で形成された塗膜の少なくとも一部に放射線を照射する。通常、塗膜の一部に放射線を照射する際には、所定のパターンを有するフォトマスクを介して照射する。上記放射線としては、例えば可視光線、紫外線、遠紫外線、電子線、X線等を使用できる。これらの放射線の中でも、波長が190nm以上450nm以下の範囲にある放射線が好ましく、365nmの紫外線を含む放射線がより好ましい。
【0100】
本工程における露光量の下限としては、放射線の波長365nmにおける強度を照度計(OAI Optical Associates Inc.社の「OAI model356」)により測定した値として、10mJ/cm2が好ましく、50mJ/cm2がより好ましい。また、上記露光量の上限としては、上記照度計により測定した値として、2,000mJ/cm2が好ましく、1,000mJ/cm2がより好ましい。
【0101】
(PEB工程)
PEB工程を設ける場合、PEB条件としては、各成分の種類、配合割合等によっても異なるが、例えば60℃以上120℃以下、より好ましくは100℃以下の温度で1分以上10分以下の加熱時間とすればよい。
【0102】
(現像工程)
本工程では、放射線照射後の塗膜を現像液で現像することにより所定のパターンを形成する。上記現像液としてはアルカリ現像液が好ましい。アルカリ現像液としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等のアルカリ性化合物の少なくとも1種を溶解したアルカリ性水溶液などが挙げられる。また、アルカリ現像液には、メタノール、エタノール等の水溶性有機溶媒や界面活性剤を適当量添加してもよい。
【0103】
現像方法としては、例えば液盛り法、ディッピング法、揺動浸漬法、スプレー法等の適宜の方法を採用することができる。現像時間は、感放射線性用組成物の組成によって異なるが、例えば10秒以上180秒以下である。このような現像処理に続いて、例えば流水洗浄を30秒以上90秒以下の処理時間で行った後、例えば圧縮空気や圧縮窒素で風乾させることによって、所望のパターンを形成することができる。
【0104】
(加熱工程)
本工程では、現像してパターニングされた塗膜を、ホットプレート、オーブン等の加熱装置を用いて加熱(ポストベーク)することにより、所望のパターンを有する表示装置用絶縁膜を得る。なお、現像工程と加熱工程との間に、塗膜に対して紫外線等放射線の照射を施してもよい。このときの露光量としては、例えば100mJ/cm2以上2,000mJ/cm2以下とすることができる。加熱温度の下限としては、60℃であり、80℃が好ましい。加熱温度を上記下限以上とすることで、十分に硬化された絶縁膜を得ることができる。一方、上記加熱温度の上限としては、120℃であり、100℃が好ましい。上記加熱温度を上記下限以上とすることにより、例えば基板に備わる有機EL素子の劣化を抑制しつつ、十分に硬化された絶縁膜を得ることができる。また、加熱温度を上記上限以下とすることにより、急激な膜収縮等の過度の応力発生を抑制できるため、クラックの発生を抑制できる。このように、加熱工程においては、加熱を60℃以上120℃以下の温度範囲で行う。加熱時間は、加熱機器の種類により異なるが、例えばホットプレート上で加熱する場合には5分以上30分以下、オーブン中で加熱する場合には10分以上90分以下とすればよい。なお、加熱は、空気中で行っても、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。また、2回以上の加熱工程を行うステップベーク法を用いることも可能である。
【0105】
(その他の工程)
当該有機EL装置を製造する場合、有機EL表示基板上に当該有機EL素子用絶縁膜を形成した後、更なる電極、配線等(例えば、図1のタッチパネル30における第2センサ電極32)を形成するためなどの他の工程が行われる。このような工程としては、電極形成工程、配線形成工程、エッチング工程、アッシング工程等が挙げられる。電極や配線の形成には、印刷や蒸着等の公知の方法を採用することができる。エッチングは、例えばアミン系溶液等の公知のエッチング薬液を用いて行うことができる。アッシングは、酸素アッシング等の公知のアッシング方法により行うことができる。なお、タッチパネル等を製造する際、絶縁膜の形成や、電極、配線等の形成などは、それぞれ複数回行われてもよい。
【実施例0106】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0107】
<重量平均分子量(Mw)の測定>
以下に示す重合体の合成例において、得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は、下記条件によるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
装置:昭和電工社の「GPC-101」
カラム:昭和電工社の「GPC-KF-801」、「GPC-KF-802」、「GPC-KF-803」及び「GPC-KF-804」を連結したもの
移動相:テトラヒドロフラン
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/分
試料濃度:1.0質量%
試料注入量:100μL
検出器:示差屈折計
標準物質:単分散ポリスチレン
【0108】
<粘度測定>
粘度は、JIS K2283:2000に準拠して、E型粘度計(東機産業社製「TVE22L」)を用いて、25℃で測定した値である。
【0109】
以下に、(A)成分としてのチオール基含有ポリシロキサンの合成例を示す。なお、以下において特に断りがない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0110】
[合成例1](チオール基含有ポリシロキサン溶液(A-1)の製造)
攪拌機、冷却管、分水器、温度計、窒素吹き込み口を備えた反応装置に、成分(a1)としての3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製:商品名「KBM-803」)190g、イオン交換水52.3g([加水分解反応に用いる水のモル数]/[成分(a1)に含まれるアルコキシ基のモル数](モル比)=1.0)、95%ギ酸9.5gを仕込み、室温で30分間加水分解反応させた。反応中、発熱によって温度が最大で22℃上昇した。反応後、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート287.36gを仕込み、加熱した。82℃まで昇温したところで、加水分解によって発生したメタノールが留去され始めた。引き続き30分かけて105℃まで昇温し、縮合反応によって発生した水を留去した。さらに1時間30分、105℃で反応させた後、70℃-150mmHgで減圧して、残存するメタノール、水、ギ酸、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの一部を留去することで、385.2gの縮合物溶液(A-1)を得た。縮合物溶液(A-1)に含まれるチオール基含有ポリシロキサン((A-1)成分)における[未反応の水酸基及び未反応のアルコキシ基の合計モル数]/[成分(a1)に含まれるアルコキシ基のモル数](モル比)は0.15、濃度は32.0%であった。また縮合物溶液(A-1)のチオール当量は、398g/eq、Mwは2147であった。
【0111】
[合成例2](チオール基含有ポリシロキサン溶液(A-2)の製造)
攪拌機、冷却管、分水器、温度計、滴下ロート、窒素吹き込み口を備えた反応装置に、成分(a1)としての3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製:商品名「KBM-803」)300g、イオン交換水162.8g([加水分解反応に用いる水のモル数]/[成分(a1)に含まれるアルコキシ基のモル数](モル比)=2.0)、陽イオン交換樹脂6.0g(三菱化学(株)製:商品名「ダイヤイオンPK228LH」、H型強酸性陽イオン交換樹脂)を仕込み、室温で30分間加水分解反応させた。反応中、発熱によって温度が最大で28℃上昇した。反応後、陽イオン交換樹脂をろ別した後、70℃、20kPaで3時間減圧することで、228gの加水分解物を得た。これをエチレングリコールジメチルエーテル82gで希釈し、310gの加水分解物溶液を得た。
【0112】
続いて別の反応容器にエチレングリコールジメチルエーテルを325.9g、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの25%水溶液を1.25g仕込み、80℃に加熱した。テトラメチルアンモニウムヒドロキシドはエチレングリコールジメチルエーテルに溶解せず、やや濁ったようになっていた。ここに上記で得られた加水分解物溶液300gを、2時間30分かけて滴下した。滴下中にテトラメチルアンモニウムヒドロキシドが溶解し、反応液は澄明(クリア)になった。滴下後さらに15分間80℃で反応させた後、25℃に冷却した。25℃ではテトラメチルアンモニウムヒドロキシドが溶解せず、反応液はやや濁ったようになった。ここに上記と同様の陽イオン交換樹脂6.4gを仕込み、室温で4時間撹拌した。撹拌中にテトラメチルアンモニウムヒドロキシドが陽イオン交換樹脂に吸着され、反応液はクリアになった。陽イオン交換樹脂をろ別した後、70℃、20kPaで2時間、さらに70℃、0.7kPaで1時間減圧することで、196gのチオール基含有ポリシロキサン溶液(A-2)を得た。溶液(A-2)に含まれるチオール基含有ポリシロキサン((A-2)成分)について赤外分光法による分析を行ったところ、3500cm-1付近に見られるシラノール基の吸収は全く存在しなかった。また、核磁気共鳴法による分析でも、シラノール基は見られなかった。(A-2)成分における[未反応の水酸基及び未反応のアルコキシ基の合計モル数]/[成分(a1)に含まれるアルコキシ基のモル数](モル比)は0であった。また、溶液(A-2)における(A-2)成分の濃度は94.7%、チオール当量は、133g/eq、Mwは2700であった。
【0113】
[ネガ型感放射線性樹脂組成物の調製]
各ネガ型感放射線性樹脂組成物の調製に用いた原料を下記に示す。
【0114】
(A)成分
A-1:合成例1で得られたチオール基含有ポリシロキサン
A-2:合成例2で得られたチオール基含有ポリシロキサン
A-3:チオール基含有ポリシロキサン(荒川化学工業社製コンポセランSQ109)
【0115】
(a)比較成分
a-1:ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(PEMP)
【0116】
(B)成分
B-1:ペンタエリスリトールテトラメタクリレート
B-2:ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート
B-3:トリメチロールプロパントリメタクリレート
(b)比較成分
b-1:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)
【0117】
(C)成分
C-1:1,2-オクタンジオン,1-{4-(フェニルチオ)フェニル}-,2-(O-ベンゾイルオキシム)(BASF社製 IRGACURE OXE-01)
C-2:NCI-930(ADEKA社製)
C-3:2-メチル-1-{4-(メチルチオ)フェニル}-2-モルフォリノプロパン-1-オン(BASF社製 IRGACURE907)
【0118】
(D)成分
D-1:TinuvinPS(BASF社製)
D-2:Tinuvin324(BASF社製)
【0119】
(E)成分
E-1:1,2-ジイソプロピル-3-{ビス(ジメチルアミノ)メチレン}グアニジウム=2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピオナート
【0120】
(F)有機溶剤
F-1:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)
【0121】
以下に、ネガ型感放射線性樹脂組成物の調製例を示す。なお、以下において、特に断りがない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0122】
(実施例1)
合成例1で得られた溶液(A-1)中の(A)成分としての(A-1)100質量部、(B)成分としての(B-1)200質量部、(C)成分としての(C-1)15質量部、及び(D)成分としての(D-2)20質量部を、(F)有機溶媒としての(F-1)500質量部に溶解させることによって、実施例1のネガ型感放射線性樹脂組成物を調製した。得られたネガ型感放射線性樹脂組成物について、E型粘度計を用いて、25℃、50rpmの条件で測定した粘度が3.5mPa・sであった。結果を表1に示す。
【0123】
(実施例2から11、比較例1から2)
表1に示す種類及び含有量の各成分を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2から実施例11、及び比較例1から比較例2のネガ型感放射線性樹脂組成物を調製し、得られたネガ型感放射線性樹脂組成物について、実施例1と同様にして粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0124】
[評価]
上記で得られたネガ型感放射線性樹脂組成物について、解像度、残膜率、耐薬品性、酸素アッシング耐性、保存安定性を下記方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0125】
<解像度>
シリコン基板上に、ネガ型感放射線性樹脂組成物をスピンコートにて塗布した後、85℃にて2分間ホットプレート上でプレベークすることにより膜厚2.5μmの塗膜を形成した。得られた塗膜に対し高圧水銀ランプ(365nmにおける露光量が100mJ/cm2)を用い、1辺が10μmの正方形の抜きパターンが10μm間隔で配置されているマスクを介して露光を行った後、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液にて25℃、60秒間液盛り法にて現像を行った。次いで超純水で60秒間流水洗浄を行った後、乾燥することによって、シリコン基板上にパターンを形成した。こうして得られた1辺が10μmの正方形の抜きパターンを走査電子顕微鏡((株)日立製作所製S-4200)を用いて1500倍の倍率で断面形状の観察を行った。パターン開口部が残差なく形成されているものを良好であると評価して「A」と表し、パターン開口部に残差があるものを不良であると評価して「B」と表した。
【0126】
<残膜率>
シリコン基板上に、ネガ型感放射線性樹脂組成物をスピンコートにて塗布した後、85℃にて2分間ホットプレート上でプレベークすることにより膜厚2.5μmの塗膜を形成した。得られた塗膜に対し高圧水銀ランプ(365nmにおける露光量が100mJ/cm2)を用い、全面に露光を行った後、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液にて25℃、60秒間液盛り法にて現像を行った。次いで超純水で60秒間流水洗浄を行った後、乾燥することによって、シリコン基板上に膜を形成した。現像前後の平均膜厚を測定し、下記数式(1)に基づいて残膜率(現像前後の残膜率)を算出した。この残膜率を以下の基準で評価した。すなわち、残膜率が85%以上である場合、極めて良好であると評価して「A」と表し、残膜率が80%以上85%未満である場合、非常に良好であると評価して「B」と表し、残膜率が75%以上80%未満である場合、良好であると評価して「C」と表し、残膜率が75%未満である場合、不良と評価して「D」と表した。
【0127】
残膜率(%)={(現像後の平均膜厚)/(現像前の平均膜厚)}×100・・・(数式1)
【0128】
<耐薬品性>
シリコン基板上に、ネガ型感放射線性樹脂組成物をスピンコートにて塗布した後、85℃にて2分間ホットプレート上でプレベークすることにより膜厚2.5μmの塗膜を形成した。得られた塗膜に対し高圧水銀ランプ(365nmにおける露光量が100mJ/cm2)を用い、全面に露光を行った後、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液にて25℃、60秒間液盛り法にて現像を行った。次いで超純水で60秒間流水洗浄を行った後、乾燥することによって、シリコン基板上に膜を形成した。次いで、高圧水銀ランプ(365nmにおける露光量が200mJ/cm2)を用いて全面に露光を行った後、85℃のオーブンにて1時間ポストベークを行った。得られた基板を、70質量%の2-アミノエタノール水溶液に60℃で5分間浸漬した。浸漬前後の平均膜厚を測定し、浸漬前の平均膜厚に対する浸漬後の平均膜厚の比(浸漬前後の膜厚比)を算出した。この比を以下の基準で評価した。すなわち、浸漬前後の膜厚比が97%以上103%未満である場合、極めて良好であると評価して「A」と表し、浸漬前後の膜厚比が95%以上97%未満である場合、非常に良好であると評価して「B」と表し、浸漬前後の膜厚比が103%以上105%未満である場合、良好であると評価して「C」と表し、浸漬前後の膜厚比が95%未満又は105%以上である場合、硬化膜が剥がれる等によって不良であると評価して「D」と表した。
【0129】
<酸素アッシング耐性>
シリコン基板上に、ネガ型感放射線性樹脂組成物をスピンコートにて塗布した後、85℃にて2分間ホットプレート上でプレベークすることにより膜厚2.5μmの塗膜を形成した。得られた塗膜に対し高圧水銀ランプ(365nmにおける露光量が100mJ/cm2)を用い、全面に露光を行った後、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液にて25℃、60秒間液盛り法にて現像を行った。次いで超純水で60秒間流水洗浄を行った後、乾燥することによって、シリコン基板上に膜を形成した。次いで、高圧水銀ランプ(365nmにおける露光量が100mJ/cm2)を用いて全面に露光を行った後、85℃のオーブンにて1時間ポストベークを行った。このように基板上に形成した膜(硬化膜)に対して所定条件(300W、30sec、O2 30sccm)でアッシングした。アッシング前後の平均膜厚を測定し、下記数式(2)に基づいて残膜率(アッシング前後の残膜率)を算出した。算出された残膜率を用いて酸素アッシング耐性を、以下の基準で評価した。すなわち、残膜率が95%以上である場合、極めて良好であると評価して「A」と表し、残膜率が93%以上95%未満である場合、非常に良好であると評価して「B」と表し、残膜率が90%以上93%未満である場合、良好であると評価して「C」と表し、残膜率が90%未満である場合、不良であると評価して「D」と表した。
【0130】
残膜率(%)={(アッシング後の平均膜厚)/(アッシング前の平均膜厚)}×100・・・(数式2)
【0131】
<保存安定性>
ネガ型感放射線性樹脂組成物10mLをスクリュー管に入れ、40℃遮光下にて3日間保存した後、上述した粘度測定と同様にして保存前後の粘度を測定し、下記数式(3)に基づいて保存前後の粘度増加率を確認した。粘度増加率が110%未満である場合、良好であると評価して「A」と表し、粘度増加率が110%以上である場合、不良であると評価して「B」と表した。
【0132】
粘度増加率(%)={(保存後の粘度)/(保存前の粘度)}×100%・・・(数式3)
【0133】
【表1】
【0134】
実施例1から11のネガ型感放射線性樹脂組成物によれば、リソグラフィ性能を有し、比較的低温の加熱によっても、十分な硬度を有するとともに、ひび割れ等のクラックが容易に生じない絶縁膜を形成することができることが示された。また、実施例1から11のネガ型感放射線性樹脂組成物によって絶縁膜を形成する際に、アウトガスの発生が少ないことが認められ、アウトガス起因の不具合を低減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0135】
ネガ型感放射線性樹脂組成物は、有機EL装置に使用される絶縁膜の形成材料として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0136】
10 有機EL装置
20 有機EL表示基板
21 支持基板
22 陽極層
23 有機発光層
24 陰極層
25 接着層
26 封止基板
30 タッチパネル
31 第1センサ電極
32 第2センサ電極
33 絶縁膜
34 透明基板
図1