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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161024
(43)【公開日】2022-10-20
(54)【発明の名称】手袋マスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20221013BHJP
   A41D 19/01 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A41D13/11 M
A41D19/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062230
(22)【出願日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2021065378
(32)【優先日】2021-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸子
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 陽子
【テーマコード(参考)】
3B033
【Fターム(参考)】
3B033AA04
3B033AA09
3B033AB04
3B033AB12
3B033AB17
3B033AC04
3B033AC05
3B033AC06
(57)【要約】
【課題】特に食事の際に用いることで、顔に固定する従来のマスクを着用していない場合でも飛沫の吸入や飛散を抑制し、かつ他者に上品な印象を与えられる従来にないマスクを提供する。
【解決手段】マスク本体内に手を入れて装着する布製の手袋マスクであって、前記マスク本体の外形が四角形であり、手を入れる部分以外の外周が閉じられており、かつ前記マスク本体の表地と裏地とが部分的に接合されることにより、親指を入れる袋部と、親指以外の四指を入れる袋部とが前記マスク本体内で分割されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスク本体内に手を入れて装着する布製の手袋マスクであって、前記マスク本体の外形が四角形であり、手を入れる部分以外の外周が閉じられており、かつ前記マスク本体の表地と裏地とが部分的に接合されることにより、親指を入れる袋部と、親指以外の四指を入れる袋部とが前記マスク本体内で分割されている、手袋マスク。
【請求項2】
前記マスク本体内に手を入れた際、小指が位置する部分よりも外周側にて、前記マスク本体の表地と裏地とが部分的に接合されることにより、マチ部が設けられている、請求項1に記載の手袋マスク。
【請求項3】
JIS L1096(2010)に規定されるA法(フラジール形法)にて測定した前記手袋マスク全体の通気性が、1~60cm/cm・sである、請求項1または請求項2に記載の手袋マスク。
【請求項4】
JIS L1919(2012)に規定されるC法(滴下拭き取り法)に準じた、親油性汚染物質-2に対するついた汚れの落ちやすさ試験による評価が、3級以上である、請求項1または2に記載の手袋マスク。
【請求項5】
前記マスク本体を構成する繊維表面に、銀が付着している、請求項1または2に記載の手袋マスク。
【請求項6】
JIS L1902(2015)に規定される菌液吸収法にて測定した、黄色ブドウ球菌の抗菌活性値が、増殖値以上である制菌性を有する、請求項5に記載の手袋マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク本体内に手を入れて装着する手袋マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
肺炎球菌、百日咳菌、風疹ウイルス、インフルエンザウイルス、コロナウイルスなどの微生物が原因となる感染症は、その多くが咳、くしゃみ、会話などで発生する呼吸飛沫によるものであり、このような飛沫による感染は、ウイルスなどの微生物の感染経路として一般的である。
【0003】
外界からの飛沫の吸入量を低減したり、自身が飛沫を飛散させることを抑制したりするために、マスクの着用が奨励されている。
【0004】
しかし、特に食事の際には、マスクを外した状態で飲食物を断続的に口元に運ばなければならないため、飛沫感染からは無防備となってしまう。そのため、飛沫の吸引や飛散をさせないために食事中は会話を控え、食事中に発話する場合には、外していたマスクを再装着する「黙食」が励行されている。
【0005】
一方、会食や給食として、複数人が存在する場で食事をとりながら会話を楽しむ行為は、人間関係の醸成や情操教育の一環として重要性が指摘されており、食事などの発話の機会が多くなることは好ましい。しかしながら、発話、喫食の度ごとに、耳ひもを両耳に掛ける方式などの顔に固定する従来のマスクを着脱することは、非常に煩わしい行動として忌避される傾向がある。
【0006】
そこで、特許文献1では、口周辺被覆部材を可動式とし、マスクとしての機能を維持しつつ、食事中には口周辺被覆部材を持ち上げ、邪魔となることがないようにした食事用可動式マスクが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第3231445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示されている食事用可動式マスクはその構造上、外観が大仰であったり奇異であったりなどの印象を他人に与えてしまう課題があり、実使用上の見た目の違和感を考慮したものではない。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、特に食事の際に用いることで、顔に固定する従来のマスクを着用していない場合でも飛沫の吸入や飛散を抑制し、かつ他者に上品な印象を与えられる従来にないマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の本発明の一態様を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明にかかる手袋マスクは、マスク本体内に手を入れて装着する布製の手袋マスクであって、前記マスク本体の外形が四角形であり、手を入れる部分以外の外周が閉じられており、かつ前記マスク本体の表地と裏地とが部分的に接合されることにより、親指を入れる袋部と、親指以外の四指を入れる袋部とが前記マスク本体内で分割されている、手袋マスクである。
【0012】
(2)また、本発明にかかる手袋マスクでは、前記マスク本体内に手を入れた際、小指が位置する部分よりも外周側にて、前記マスク本体の表地と裏地とが部分的に接合されることにより、マチ部が設けられているとよい。
【0013】
(3)また、本発明にかかる手袋マスクでは、JIS L1096(2010)に規定されるA法(フラジール形法)にて測定した前記手袋マスク全体の通気性が、1~60cm/cm・sであるとよい。
【0014】
(4)また、本発明にかかる手袋マスクでは、JIS L1919(2012)に規定されるC法(滴下拭き取り法)に準じた、親油性汚染物質-2に対するついた汚れの落ちやすさ試験による評価が、3級以上であるとよい。
【0015】
(5)また、本発明にかかる手袋マスクでは、前記マスク本体を構成する繊維表面に、銀が付着しているとよい。
【0016】
(6)また、本発明にかかる手袋マスクでは、JIS L1902(2015)に規定される菌液吸収法にて測定した黄色ブドウ球菌の抗菌活性値が増殖値以上である制菌性を有するとよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特に食事の際に用いることで、顔に固定する従来のマスクを着用していない場合でも飛沫の吸入や飛散を抑制し、かつ他者に上品な印象を与えられる従来にないマスクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態における構成要素のうち独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、本発明は、以下の態様のみに限定されるものではなく、本発明の精神と実施の範囲において多くの変形が可能である。
【0019】
本実施の形態にかかる手袋マスクは、マスク本体内に手を入れて装着する布製の手袋マスクであって、前記マスク本体の外形が四角形であり、手を入れる部分以外の外周が閉じられており、かつ前記マスク本体の表地と裏地とが部分的に接合されることにより、親指を入れる袋部と、親指以外の四指を入れる袋部とが前記マスク本体内で分割されている、手袋マスクである。
【0020】
<布>
本実施の形態にかかる手袋マスクのマスク本体は、布製である。
【0021】
マスク本体を構成する繊維の素材としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリ乳酸、芳香族ポリアミド、ポリイミドまたはポリフェニレンサルファイドといった合成繊維、または、アセテートやプロミックスといった半合成繊維、キュプラ、レーヨンといった再生繊維、綿、麻、絹、羊毛といった天然繊維、あるいは、これらの素材の混繊、混紡、交織または交編品などを用いることができる。特に、加工の容易性や、洗濯など取り扱い容易性といった観点から、合成繊維を素材として用いることが好ましい。後述する超音波ミシンを用いる場合には、素材として合成繊維を用いればよい。
【0022】
マスク本体を構成する繊維は、スパン糸、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸のいずれであってもよい。また、この繊維を用いた糸は、無撚糸、撚糸、および加工糸のいずれであってもよい。加工糸としては、特に限定されるものではないが、例えば仮撚加工糸、押込加工糸、賦型加工糸、擦過加工糸、タスラン加工糸、インターレース加工糸、捲縮糸、サイドバイサイド複合加工糸などを用いることができる。
【0023】
マスク本体を構成する繊維の断面形状は、特に限定されるものではないが、例えば、丸型、三角、星形、扁平、C型、中空、井形、ドックボーンなどが挙げられる。
【0024】
マスク本体を構成する布は、平織、綾織、朱子織などの組織の織物、経編、緯編(横編または丸編)などの組織の編物、または不織布など、いかなる形態であってもよい。
【0025】
また、マスク本体を構成する布は、着色されていてもよいし、着色されていなくてもよい。布を着色する場合には、分散染料、カチオン染料、酸性染料、直接染料、反応染料、建染染料、硫化染料等の染料、蛍光増白剤、または顔料などを用いることで布を着色することができる。布を着色するために用いられる材料としては、上述したものに限定されず、用いる布の素材に合わせて適切なものを選択すればよい。また、布全体を均一に着色してもよいし、捺染や印刷などで部分的に着色し、柄などを付与してもよい。なお、実施の形態において、マスク本体は、無着色の白地の布である。
【0026】
さらに、マスク本体を構成する布には、撥水加工、紫外線遮蔽加工、赤外線吸収加工、防炎加工、防汚加工、抗微生物加工などを行ってもよい。特に、マスク本体は、食品由来の油汚れが付きやすい品物であることから、防汚加工が行われているとよく、また、感染症予防の観点から、抗微生物加工が行われているとよい。
【0027】
布に防汚加工を行う方法は、例えば、フッ素系化合物などの撥油性物質を布の繊維表面に付着させる方法、繊維表面に微小な凹凸を付与できる微粒子などを布の繊維表面に付着させる方法、カルボキシル基やアミノ基、ポリオキシアルキレン鎖やアミド結合などの親水性ユニットを含む物質を布の繊維表面に付着させる方法などが挙げられる。また、コロナ放電やプラズマ処理などで布の繊維表面を親水性に改質してもよい。
【0028】
前記物質を布の繊維表面に付着させる場合は、例えば、前記の物質および必要に応じて添加されたバインダーや架橋剤などを含む処理液を作製し、浸漬、噴霧、または塗布などで用意した布に対し前記処理液を付与し、次いで、脱水、乾燥、加熱、加湿、活性エネルギー線の照射などの適宜の方法で付着した物質を繊維表面に固定すればよい。
【0029】
布に抗微生物加工を行う場合は、例えば、防カビ剤、抗菌剤、抗ウイルス剤などの抗微生物剤を布の繊維表面に付着させればよい。具体的な抗微生物剤は、例えば、硫酸アルミニウムや酸化亜鉛などの両性物質、銀や銅などの貴金属およびそれらを多孔質体などに担持した粒子、第4級アンモニウム塩などの陽イオン性界面活性剤、ベタインなどの両性界面活性剤、ジンクピリチオン、タンニン酸、酸化チタンや酸化タングステンなどの光触媒などである。
【0030】
特に、抗微生物剤は、少なくとも銀を含むとよい。銀は、ごく微量で真菌からウイルスまで幅広い抗微生物スペクトルを有し、安全性が高く環境汚染をしない抗微生物剤であるため、様々な感染症に対して抑制効果を発揮し、かつ日常生活で使用できるとの観点から好ましい。なお、銀は、安定的に布の繊維表面に付着させるとの観点から、メソポーラスシリカやゼオライトなどの多孔質体に担持した形態で用いてもよい。この場合、多孔質体は、臭気成分を物理吸着し、消臭剤としての効果も発揮する。
【0031】
なかでも、抗微生物剤は、銀と、光触媒とを少なくとも含むとよい。銀と光触媒とを併用すると、それぞれ単独で用いた場合または他の抗ウイルス剤を用いた場合と比較して、ヒトコロナウイルス229EやSARSコロナウイルス2などのプラス鎖RNAウイルスに対して特異的に高い抗ウイルス性が発現される。
【0032】
<マスク本体>
本実施の形態にかかる手袋マスクのマスク本体は、前記の布を用いた布製であって、外形が四角形であり、手を入れる部分以外の外周が閉じられている。また、マスク本体の表地と裏地とが部分的に接合されることにより、親指を入れる袋部(第1袋部)と、親指以外の四指を入れる袋部(第2袋部)とがマスク本体内で分割されている。
【0033】
手袋マスクは、手袋マスクの使用者がマスク本体内に手を入れることで手に装着され、装着した手で口周りを抑えてマスクとして使用するものである。マスク本体の外形が四角形であることにより、手袋マスクで口周りを抑えた際、マスクのシルエットがハンカチやナプキンに類似した形状であるため、他者に上品な印象を与えられる。
【0034】
ただし、四角形の袋の中に手を入れた場合、概ね楕円形である手と四角形の袋の四隅との隙間が比較的大きく開くため、手に対して手袋が大きく動き、場合によっては手の平の面に対応する法線軸対して手袋の面に対応する法線軸が回転してずれてしまい、着用感がすこぶる悪くなる。そこで、本実施の形態にかかる手袋マスクでは、マスク本体の表地と裏地とを部分的に接合することで、親指を入れる小さめの袋部と親指以外の四指を入れる大きめの袋部とにマスク本体内を分割している。つまり、マスク本体の内部の空間が大小2つの袋部に区画されている。そして、区画された2つの袋部のそれぞれに親指と親指以外の四指とを挿入する。これにより、手袋の中で、ある程度手と手袋が動かないように固定することができるので、着用感を大幅に向上させることができる。
【0035】
本実施の形態にかかる手袋マスクのマスク本体は、外形が四角形であり、手を入れる部分以外の外周が閉じられた袋状である。
【0036】
マスク本体の外形は、四角形であれば特に限定されないが、長方形または正方形であると、使用時、または卓上に置いた際により上品なシルエットとして感じられるため好ましい。また、マスク本体のサイズも特に限定されず、使用者の手の大きさに合わせ適宜の大きさにすればよい。
【0037】
マスク本体となる袋の作り方は、特に限定されず、例えば、大きな布を折り畳み、畳んだ際の折線をマスク本体の外周としたり、表地と裏地とをミシンによる縫合や接着剤による接着など適宜の方法で接合したりして、マスク本体の閉じた外周部を形成すればよい。また、マスク本体の素材として合成繊維を用いた場合には、超音波ミシンで表地と裏地とを溶着することで、縫い糸の飛び出しやほつれを防ぐこともできる。
【0038】
マスク本体に手を入れる部分(開口部)は、手袋マスクの使用者の手が入る大きさや位置であれば、特に限定されない。例えば、四角形のマスク本体について、3辺を接合することで残りの1辺を開口部としてもよいし、あるいは、1つの角を共有する隣り合った2辺を全て接合し、さらに残りの2辺を中ほどまで接合することで、その残りの2辺が共有する1つの角を開口部としてもよい。
【0039】
本実施の形態のマスク本体は、親指を入れる袋部と、親指以外の四指を入れる袋部とに内部が分割されているために、マスク本体の表地と裏地とが部分的に接合されている。親指を入れる袋部と親指以外の四指を入れる袋部との境界線である分割部(接合部)の存在形態は、親指を入れる袋部と親指以外の四指を入れる袋部とをマスク本体内で分割できるものであれば、特に限定されない。例えば、マスク本体の開口部(手を入れる部分)の辺に対向する対辺からマスク本体の中央付近に向かって直線状に適宜の長さで接合することで前記分割部をマスク本体に形成することができる。
【0040】
この場合、分割部の起点、つまり分割部の一方の端部の位置(マスク本体の辺上の点)は、親指を挿入できる袋部を確保できれば特に限定されるものではないが、例えば、開口部の辺に対向する対辺の一方の角から当該対辺の中点までの間に存在し、具体的には、角から対辺の1/4~1/5の長さまで間に存在するとよい。また、分割部は開口部まで存在せず、分割部の終点、つまり分割部の他方の端部は、例えば、マスク本体における開口部とは反対側の上半分領域までの間に存在する。
【0041】
さらに、本実施の形態のマスク本体には、マスク本体内に手を入れた際、小指が位置する部分よりも外周側にて、マスク本体の表地と裏地とが部分的に接合されることにより、マチ部が設けられていてもよい。マスク本体に手を入れる部分を広くとり、手袋マスクの着脱を容易にした場合、手のサイズに対して手袋のサイズが大きく、着用感が悪くなってしまうおそれがある。そのため、手袋の小指から手首のラインの外側にマチ部を設け、手袋の中での手の可動域をある程度制限することで、着用感を向上させることができる。
【0042】
前記マチ部の存在形態は、マスク本体の小指が位置する部分よりも外周側であれば特に限定されず、例えば、マスク本体の開口部の辺に隣接する辺の中央付近から開口部の近傍までを直線状に適宜の長さで接合することで前記マチ部を形成することができる。
【0043】
<手袋マスク>
本実施の形態にかかる手袋マスクは、マスク本体内に手を入れて手に装着され、装着した手で口周りを抑えてマスクとして使用するものである。特にマスクを外す必要がある食事の際に、口周りを抑えながら会話することによって、飛沫の吸入や飛散を抑制し、飛沫による感染症の拡大を抑制することができる。また、装着した手でドアノブや電車のつり革、スーパーのカートや電話の受話器など不特定多数の人が触る部分に対し、手袋マスクを介して触れるようにすることで、接触感染を予防することもできる。
【0044】
本実施の形態にかかる手袋マスクは、JIS L1096(2010)に規定されるA法(フラジール形法)にて測定した前記手袋マスク全体の通気性が、1~60cm/cm・sであるとよい。手袋マスク全体の通気性が1cm/cm・s以上であれば、口周りを抑えて息を吸った際、口や鼻に手袋マスクが張り付きにくくなる。また、手袋マスク全体の通気性が60cm/cm・s以下であれば、飛沫の吸入や飛散の抑制効果が発揮されやすい。
【0045】
手袋マスク全体の通気性は、マスク本体を構成する布の通気性や、積層する布の枚数で調整すればよい。また、フィルターとなる別途の織物、編物、不織布などのシート状物を手袋マスク外面へ取り付けたり、マスク本体内に前記シート状物を挿入したりするなどで調整してもよい。
【0046】
本実施の形態にかかる手袋マスクは、JIS L1919(2012)に規定されるC法(滴下拭き取り法)に準じた、親油性汚染物質-2に対するついた汚れの落ちやすさ試験による評価が、3級以上であるとよい。汚れの落ちやすさ試験による評価が3級以上であれば、食品由来の油汚れを洗濯により簡単に落とすことができる。汚れの落ちやすさ試験による評価は、より好ましくは3.5級以上である。なお、評価のための洗濯の方法は、JIS L1930 C4M法に準じた方法で行う。
【0047】
本実施の形態にかかる手袋マスクは、JIS L1902(2015)に規定される菌液吸収法にて測定した、黄色ブドウ球菌の抗菌活性値が、増殖値以上である制菌性を有するとよい。前記抗菌活性値が増殖値以上であることは、細菌の増殖速度以上に繊維表面での細菌不活性化速度が速いことを意味するので、手袋マスクに付着した細菌の病原性を時間とともに減らすことができる。また、前記抗菌活性値が2.2以上であれば、菌を原因とする悪臭を抑制する効果も発揮されるので、より好ましい。特に、前記抗菌活性値は3.0以上であることが好ましい。加えて、10回洗濯後にも上記機能を保持していることが好ましい。
【0048】
さらに、本実施の形態にかかる手袋マスクは、JIS L1922(2016)に規定されるプラーク測定法にて測定した、A型インフルエンザウイルスの抗ウイルス活性値が、2.0以上であるとよい。前記A型インフルエンザウイルスの抗ウイルス活性値が2.0以上であれば、比較的短時間で繊維表面に付着したA型インフルエンザウイルスの感染能力を抑制することができる。前記A型インフルエンザウイルスの抗ウイルス活性値は、2.5以上であることがより好ましい。
【0049】
さらに、本実施の形態にかかる手袋マスクは、JIS L1922(2016)に規定されるプラーク測定法に準じて測定した、ヒトコロナウイルス229E、およびSARSコロナウイルス2の抗ウイルス活性値が、2.0以上であると好ましい。前記の抗ウイルス活性値が2.0以上であれば、インフルエンザウイルスなどのマイナス鎖RNAウイルスの感染能力を短時間で抑制できるだけでなく、コロナウイルスなどのプラス鎖RNAウイルスの感染能力も短時間で抑制することができ、幅広い抗微生物スペクトルを有する手袋マスクが得られる。前記の抗ウイルス活性値は、2.5以上であることがより好ましい。
【0050】
本実施の形態にかかる手袋マスクには、適宜の場所に手提げ紐を設けてもよい。例えば、マスク本体の1つの角に、外に飛び出す形態で輪状の紐を接合してストラップとしたり、開口部の直近に紐の両端を固定して手提げ紐としたりしてもよい。
【0051】
(実施例)
以下、本実施の形態にかかる手袋マスクについて、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明の目的を逸脱しない範囲で変更を施すことは、全て本発明の技術的範囲に含まれる。また、以下の例における各種性能の測定、試験および評価は次の方法で行った。
【0052】
<通気性>
JIS L1096(2010)に規定されるA法(フラジール形法)に準じて測定した。
【0053】
<防汚性>
JIS L1919(2012)に規定されるC法(滴下拭き取り法)に準じて評価した。試験に用いる親油性汚染物質は親油性汚染物質-2を用い、JIS L1930 C4M法に準じた方法で洗濯した後に平干しし、滴下する前の試験片と、滴下および洗濯後の試験片とを比較し級判定した。
【0054】
<制菌性>
JIS L1902(2015)に規定される菌液吸収法に準じて、黄色ブドウ球菌(ATCC6538P)に対する抗菌活性値を測定した。具体的には、黄色ブドウ球菌を菌濃度2.3×10CFU/mLで接種し、18時間培養後、混釈平板培養法にて定量測定を行って得られた値、および標準布で同様の試験を行って得られた値を基に抗菌活性値、および増殖値を計算した。得られた抗菌活性値が増殖値以上であるものを合格とした。また、(一社)繊維評価技術協議会が定めるSEKマーク繊維製品の洗濯方法 標準洗濯法に準じて10回洗濯した後、同様の操作によって10回洗濯後の制菌性も評価した。
【0055】
<抗インフルエンザウイルス活性値>
JIS L1922(2016)に規定されるプラーク測定法に準じ、A型インフルエンザウイルス(H3N2 ATCC VR-1679)をウイルス株として、MDCK細胞(ATCC CCL-34)を宿主細胞として用い、手袋マスクのA型インフルエンザウイルスの抗ウイルス活性値を測定した。この場合、白色蛍光灯(FHF32EX-N-H、パナソニック株式会社製)を用い、1000lxの環境下で6時間作用させ、測定を行った。
【0056】
<抗ヒトコロナウイルス活性値>
JIS L1922(2016)に規定されるプラーク測定法に準じ、ヒトコロナウイルス229E(ATCC VR-740)をウイルス株として、MRC-5細胞(ATCC CCL-171)を宿主細胞として用い、手袋マスクのヒトコロナウイルス229Eの抗ウイルス活性値を測定した。この場合、白色蛍光灯(FHF32EX-N-H、パナソニック株式会社製)を用い、200lxの環境下で2時間作用させ、測定を行った。
【0057】
<抗SARSコロナウイルス2活性値>
JIS L1922(2016)に規定されるプラーク測定法に準じ、SARSコロナウイルス2(NIID分離株;JPN/TY/WK-521)をウイルス株として、VeroE6/TMPRSS2細胞(JCRB1819)を宿主細胞として用い、手袋マスクのSARSコロナウイルス2の抗ウイルス活性値を測定した。この場合、白色蛍光灯(FHF32EX-N-H、パナソニック株式会社製)を用い、1000lxの光環境下で6時間作用させ、測定を行った。
【0058】
<手袋マスクの作製>
手袋マスクの生地として、ポリエステル繊維で構成された平織布(繊維太さ:経糸83dtex、緯糸83dtex)を準備した。
【0059】
前記の平織布に対し、ポリオキシアルキレン鎖を分子中に有するジビニル化合物の水分散液をパディング法で与えた。次いで湿潤したままの平織布を加熱蒸気にさらすことでビニル基を起点として平織布の繊維とジビニル化合物とを結合させ、親水性ユニットを含む物質を平織布の繊維表面に固定した。
【0060】
引き続き前記で得られた平織布に対し、可視光応答型酸化タングステン系光触媒、銀ゼオライト、およびシリコーン系バインダーの水分散液をパディング法で与え、次いで脱水および乾燥することで、平織布の繊維表面に光触媒と、銀が担持されたゼオライト粒子とを繊維表面に固定した。
【0061】
前記で得られた平織布を、縦20cm×横40cmの横長の長方形に切り出した。次いで、横方向の中央で二つ折りにして2枚重ねの正方形とし、その後ミシンで正方形の2辺を縫合することで、外形が20cm×20cmの正方形で、手を入れる部分(開口部)以外の外周(3辺)が閉じられた袋を得た。
【0062】
さらに、前記開口部の辺に対向する対辺から、前記袋の中央付近に向かって表地と裏地とを直線状に9cm縫合することで、親指を入れる袋部と、親指以外の四指を入れる袋部とをマスク本体内で分割する分割部を設けた。
【0063】
さらに、前記開口部に隣接する辺の中央付近から、前記開口部の近傍まで表地と裏地とを直線状に7cm縫合することで、マスク本体内に手を入れた際、小指が位置する部分よりも外周側にマチ部を設けた。以上のようにして、手袋マスクを作製した。得られた手袋マスクの各種性能を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
得られた手袋マスクに手を入れ、親指を入れる袋部に親指を、親指以外の四指を入れる袋部に親指以外の四指を入れて装着し、装着した手で口周りを抑えてマスクとして使用してみると、飛沫の吸入や飛散を手袋マスクによって抑制することができ、かつ上品な印象であった。また、口周りを抑えて息を吸った際にも、口や鼻に手袋マスクが張り付くことはなかった。さらに、表1に示す通り、洗濯により容易に油汚れを落とすことができ、かつ高い抗微生物性も有していた。