(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161030
(43)【公開日】2022-10-20
(54)【発明の名称】姿勢の調整手段を備えた座部、及び該座部を備えた椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 7/02 20060101AFI20221013BHJP
A61F 5/01 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
A47C7/02 Z
A61F5/01 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063682
(22)【出願日】2022-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2021065525
(32)【優先日】2021-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521147639
【氏名又は名称】ビヨンドエス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521147640
【氏名又は名称】株式会社n-position
(74)【代理人】
【識別番号】100103160
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 光春
(72)【発明者】
【氏名】大谷 友希
【テーマコード(参考)】
4C098
【Fターム(参考)】
4C098AA02
4C098BB01
4C098BC28
(57)【要約】
【課題】 腰掛けることで、着座者の姿勢を正しく保ち、着座者の姿勢の見た目が美しくなり、全身的な健康に貢献できる座部ないし椅子、の提供。
【解決手段】
下記の特徴を有する溝構造が設けられた座部、ないし、該座部を有する椅子、を提供することで、上記の課題を解決し得ることを見出した。
(1) 上記溝構造における座部の上面から下面に向けて幅狭となっている領域の深さは6-30mmであって、該領域の最深部の幅は5-25mmである。
(2) 上記溝構造における領域の前側の仰角は20-90度であり、凸構造における切り込み面が形成する仰角は10-60度である。
(3) 上記溝構造における領域の上記凸構造における上縁から最深部までの厚さは10-80mmであり、かつ、該上縁から当該最深部までの直線長は45-150mmである。
(4) 上記溝構造の長さは15mm以上である。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部の前側の上面から下面に向けて設けられた切り込みと、該切り込みに対向して、臀部受けとしての機能を有する凸構造の上縁から座部の下面に向けて設けられた切り込み、に挟まれて、座部の上面から下面に向けて幅狭となっている領域を伴い、着座時に左右両坐骨が嵌まり込む位置に、長さ方向において左右に一対設けられており、又は、長さ方向において座部上面よりも下に落ち込んだ領域が左右間で連続して設けられている、座部下面側が開口していることのある溝構造を伴う座部であって;
(1) 上記溝構造における座部の上面から下面に向けて幅狭となっている領域の深さは6-30mmであって、該領域の最深部の幅は5-25mmであり、
(2) 上記溝構造における座部の上面から下面に向けて幅狭となっている領域の前側の切り込み面が形成する最深部から見た地上水平面(0度)を基準とした仰角は20-90度であり、上記幅狭となっている領域の上記凸構造における切り込み面が形成する最深部から見た地上水平面(0度)を基準とした仰角は35-60度であり、
(3) 上記溝構造における座部の上面から下面に向けて幅狭となっている領域の上記凸構造における上縁から最深部までの斜面の直線長は45-150mmであり、
(4) 上記溝構造の長さは15mm以上である;
座部。
【請求項2】
前記座部の(2)における、地上水平面(0度)を基準とした、上記前側の切り込み面が形成する上記最深部から見た仰角は30-45度である、請求項1に記載の座部。
【請求項3】
前記座部の溝構造における座部の上面から下面に向けて幅狭となっている領域のさらに下に、前面側と後面側が上記幅狭となっている領域よりも下向き急勾配で対向している領域が設けられている、請求項1に記載の座部。
【請求項4】
前記溝構造は、長さ方向において連続し、かつ、該座部の左右側面において端部が開口している、請求項1に記載の座部。
【請求項5】
前記座部を長さ方向において左右に分かつ、底が開口していることのある他の溝部が、座部後縁から前縁を結んで連続して設けられている、請求項1に記載の座部。
【請求項6】
前記座部の凸構造における着座時の臀部を受ける面の形状は、臀部が嵌まり込む曲面形状を含んでいる、請求項1に記載の座部。
【請求項7】
前記曲面形状は、R曲面形状である、請求項6に記載の座部。
【請求項8】
請求項1-7のいずれか1項に記載の座部を備えた椅子。
【請求項9】
さらに背もたれ部を備えた椅子である、請求項8に記載の椅子。
【請求項10】
背もたれ部における着座者の上後腸骨棘に対応する位置に、着座者の体重の分散手段が設けられている、請求項9に記載の椅子。
【請求項11】
座部において着座者の背面が向かう方向が、地上水平面(0度)を基準として見て、仰角35-60度となったときに、背もたれ部における着座者の僧帽筋が当たる位置に1個以上の突起物が設けられた、請求項9に記載の椅子。
【請求項12】
腰掛ける際の座部の高さの維持又は調整機構が設けられている椅子である、請求項8に記載の椅子。
【請求項13】
腰掛ける際の座部の高さの維持又は調整機構は、脚部として設けられている、請求項12に記載の椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子に関連する発明であり、具体的には、姿勢の調整手段を設けた座部と、これを備える椅子に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
椅子に腰掛ける際に姿勢を正しく保つことは、見た目が美しいだけではなく、疲れにくく、腰痛や肩こりの発生を抑制することができる。本発明は、腰掛ける際の着座姿勢を正しく保つ、姿勢の調整手段を設けた座部と椅子に関わるものであるが、その背景技術としては下記のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、着座時に坐骨の先端に体重がかかって、血行障害による疲れが生じることを防ぐことを課題とし、特許文献1の
図1、2のような、「4個のクッションが左右の太ももと左右の腰の4箇所を支えることで、体重を分散させ(特許文献1の
図1)、坐骨を前後のクッションの間に挟むことで、坐骨先端に体重が集中することによる血行障害を緩和し、約30度の傾斜の角度板により、坐骨が前後のクッションの間に入り込み易くなった(特許文献1の
図2)、椅子。」が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示されている椅子の4つのクッションにより設けられている空隙は、左右端から、腰掛けた際の正中線方向に向かって急激に広くなっている。このような構造では、特許文献1の課題である血行障害を防ぎ、着座者が一時的にリラックスすることはできても、着座時の腰が後ろ方向に大きくブレて「逃げ腰」となってしまい、この構造によって正しい着座姿勢を形成し、保つことは困難である。
【0004】
特許文献2には、骨盤の前傾を防止するための椅子について開示されている。この目的のために、坐骨部分を下ろす溝が設けられているが、それと共に着座者の大腿骨の真下の位置に「大腿骨サポート」が一段高く載置され、着座者の大腿骨をこの凸状のサポート機構により支える構造になっている。この大腿骨サポートに体幹体重がかかることにより、大腿の後方筋の調整機能が緩み、股関節および骨盤近位部、大腰筋、腸骨筋の緊張が解かれることにより、骨盤の前傾を防止することができる。しかしながら、このような大腿骨サポートによる着座者の体重分散に依存した構造では、骨盤の前傾を防止することができても、かかる骨盤前傾者以外の着座姿勢をニュートラルに正しく保つことは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-000401号公報
【特許文献2】特開2008-29788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、「正しい座位姿勢」とは、「骨盤の角度や脊髄の湾曲を、直立姿勢と同様に保つこと」(伊藤孝紀等、日本建築学会計画系論文集 第81巻 第730号 2573-2583.2016年12月「多姿勢対応における椅座位姿勢と座り直し動作の検証」)であり、このように、「骨盤の角度や脊髄の湾曲を、直立姿勢と同様に保つこと」が合理的であること、さらに、「脊柱の可動性と骨盤の可動範囲が影響し合うこと」(塩本祥子等、理学療法科学、26(3):337-340、2011)を前提としつつ、腰掛けることで、着座者の姿勢を正しく保ち、着座者の姿勢の見た目が美しくなり、さらに、着座姿勢が改善され、全身的な健康に貢献できる椅子、についての検討を重ねた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、着座者の骨盤が所定の状態となるような機構を座面において設けることにより(座面機構)、上記の課題を解決することを本発明の創作における出発点とした。すなわち、座面上の坐骨の位置を安定させつつ、骨盤を所定の角度方向に向けて、正しい座位姿勢を形成させるための座面機構の創作を目標として鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、この正しい座位姿勢を形成させることができる条件を見出すための主要な指標として、着座者の僧帽筋とインナーマッスルの状態を用いることに想到した。そして、正しい座位姿勢をリラックスした状態で形成・維持しつつ、さらには継続的な使用により着座者自身に正しい座位姿勢が身に付くようにできる条件を見出し、これらの条件を着座者に反映させることができる座面機構を有する座部を、該座部が備わった椅子と共に見出した。
【0008】
すなわち本発明は、以下の座部ないし椅子に関するものである。
【0009】
図1は、本発明の座部の構成要件の一つである溝構造の幅方向を含んで座部の前後を切断した縦断面をモデル化した略図であり、本発明の範囲を限定するものではない。ここで「幅方向」とは、座部の前縁部と後縁部を最短で結ぶ方向(例えば、
図4(1)のI-I’,
図13-1のIII-III’)であり、「長さ方向」とは、座部の左右の側部を最短で結ぶ方向(長さ方向と水平面で直交)であり、「深さ方向」又は「厚さ方向」とは、座部の上面と下面を最短で結ぶ方向(幅方向及び長さ方向と、上下に直交)である。これらの各種の方向は、本明細書において共通する。
【0010】
本発明の座部は、座部の前側(
図1のA)の上面から下面に向けて設けられた切り込みと、該切り込みに対向して、臀部受けとしての機能を有する凸構造(
図1のB)の上縁から座部の下面に向けて設けられた切り込み、に挟まれて、座部の上面から下面に向けて幅狭となっている領域(
図1のD)を伴い、着座時に左右両坐骨が嵌まり込む位置に、長さ方向において左右に一対設けられており、又は、長さ方向において座部上面よりも下に落ち込んだ領域が左右間で連続して設けられている、座部下面側が開口していることのある溝構造(
図1のC)を伴う座部であって、以下の条件(1)-(4)を備えている。
【0011】
(1) 上記溝構造(
図1のC)における座部の上面から下面に向けて幅狭となっている領域(
図1のD)の深さ(
図1のa)は6-30mm、好ましくは10-20mmであり;該領域の最深部の幅(
図1のb)は5-25mm、好ましくは10-20mmの範囲である。
【0012】
(2) 上記溝構造(
図1のC)における座部の上面から下面に向けて幅狭となっている領域(
図1のD)の前側の切り込み面が形成する最深部から見た地上水平面(0度)を基準とした仰角(
図1のθ)は20-90度、好ましくは30-45度であり、上記幅狭となっている領域(
図1のD)の上記凸構造(
図1のB)における切り込み面(
図1のL)が形成する最深部から見た地上水平面(0度)を基準とした仰角(
図1のφ)は35-60度であり、この角度範囲であれば着座者の僧帽筋のみならずインナーマッスルが働いている状態を保つことができる。さらに好適な角度範囲(φ)としては、40-55度が挙げられる。これらの角度θとφの範囲と上記(1)に記載されたサイズの範囲を併せると、溝構造の上面側の開口部の幅(
図1のd)が算出される。
【0013】
(3) 上記溝構造(
図1のC)における座部の上面から下面に向けて幅狭となっている領域(
図1のD)の上記凸構造(
図1のB)における上縁から最深部までの厚さ(
図1のc)に対応する該上縁から該最深部までの切り込み面(
図1のL)における直線長は45-150mmであり、該直線長は100mm以下であることが、座り心地等の観点から好適である。該直線長は、言い換えれば直線距離のことで、例えば、該上縁から該最深部までの切り込み面(
図1のL)が全面平面の斜面である場合には、該直線長は、該斜面の上縁から最深部までの長さであり、曲面である場合には曲部を捨象した該斜面の上縁から最深部までの直線長である。上記の「僧帽筋のみならずインナーマッスルの働きを保つことができる角度範囲(φ)」における好適な直線長(L)の範囲は、着座者の身長により影響を受ける。まず、着座者の身長に係わらず直線長(L)の最低値は45mmである。また身長が175cm以下の場合の最低値は55mm程度である。60mm以上であれば実質的に着座者の身長に考慮することなく「僧帽筋とインナーマッスルの働きの維持」を実現することができる。従って、着座者の身長を考慮する必要が無いという点に着目すると、直線長(L)は45mmよりも55mmが好ましく、さらに60mm以上が好ましい。ただし、着座者の身長毎に凸構造の影響による座り心地(凸構造による違和感の有無)を個別に考慮すると、直線長(L)を45mm-55mm-60mm以上の範囲において、想定される着座者の身長に応じて設定することも本発明の範囲に入る。上記厚さ(c)は、上記角度(φ)と直線長(L)によって規定される。
【0014】
(4) 上記溝構造(
図1のC)の長さ(長さ自体は図示せず)は15mm以上である。
【0015】
上記した本発明の座部の要件の一つである、「溝構造における座部の上面から下面に向けて幅狭となっている領域を伴い」とは、溝構造は上記領域を備えていることを意味するものである。「領域」は、上記のように定義付けられる溝構造内における領域であって、その定義から外れる部分は、「他の領域」である。溝構造においては、上記領域のさらに下において他の領域を伴うことができる。例えば、上記領域のさらに下に設けられた、前面側と後面側が上記幅狭となっている領域よりも下向き急勾配で対向している領域を挙げることができるが、この態様に限定される訳ではない。
図1に示したモデルをそのまま用いることも可能であるが、ここで他の典型的な例を、
図2に2例示す。
図2に示した例の一つ(
図2(1))は、「溝構造Cにおける座部の上面から下面に向けて幅狭となっている領域D」の直下を含め、底板Fが全面に接着されていることにより、領域Dの底部が平らに閉じている態様であり、結果として領域Dと溝構造Cが重なり合っている。
図2に示した例の他の一つ(
図2(2))は、領域Dの直下に、前後の壁が鉛直対向している他の領域Eが設けられており、その直下に底板Fが全面に接着されていることにより、他の領域Eの底部が平らに閉じている態様であり、言い換えれば、溝構造Cが、領域Dと他の領域Eによって形成されている。この他の領域Eにおける前後の壁同士の対向角度は任意に選択して設けることが可能であるが、この鉛直対向の例は好適な態様の一つである。この他の領域Eの深さ(
図2(2)のa’)は、特に限定されないが、30mm以下が好適である。
【0016】
図1,
図2と同様の縦断面図である
図2-2と
図2-3において、上記の溝構造Cの「他の領域E」の形状の他の例を、非貫通形状(各左図)と、貫通形状又は準貫通形状(各右図)に大別しつつ列挙した。
図2-2((1)-(5))と
図2-3((6)-(9))は、続き例示図である。非貫通形状とは、溝構造Cの底部が分厚い厚さ方向の部分を伴って閉じている形状である。貫通形状とは、溝構造Cの底部が開口している形状であり、準貫通形状とは該底部がごく僅かに開口しているか、閉じていても閉じ口がごく薄い形状である。各々の列挙図において、斜線領域の左側は座部の前側Aに相当し(A1)、同右側は凸構造Bに相当する(B1)。黒塗りの部分は、他の領域Eが形成される底板Fに相当する。該底板Fに相当する板状体は、一枚板の場合もあり、一枚板が複数枚積層されている積層板の場合もある。また、斜線領域と黒塗りの部分は、一枚板として一体として存在していてもよい。各図において、斜線領域は同一(全てA1とB1で構成されている)であるが、他の領域Eに相当する部分(E1-E9:非貫通形状、E1’-E9’:貫通又は準貫通形状)に応じて、底板相当部分(F1-F9:非貫通形状、F1’-F9’:貫通又は準貫通形状)はそれぞれ異なっている。なお、これらの縦断面図は、溝構造のある部分を切った断面であるため、溝構造が貫通形状であっても底板は非貫通構造を介して繋がっている。
【0017】
図2-2(1)の非貫通形状(E1)は、溝の底部が平らに閉じた角溝であり、貫通形状(E1’)は、溝の底部がそのまま抜けて開口している形態である。同(2)の非貫通形状(E2)は、V型溝形態であり、準貫通形状(E2’)は、V型溝の谷線が線状に開口している形態である。同(3)の非貫通形状(E3)は、U型溝形態であり、準貫通形状(E3’)は、U型溝の最底部が線状に開口している形態である。同(4)の非貫通形状(E4)は、アリ溝形状であり、貫通形状(E4’)は、アリ溝の底部がそのまま開口している形状である。同5の非貫通形状(E5)は、溝構造の底部の長さ方向に沿って中央部が半円状に盛り上がっている形状であり、準貫通形状(E5’)は、上記半円の両端が線状に開口している形状である。
【0018】
図2-3(6)の非貫通形状(E6)は、対向壁が互いに外側に円弧壁を形成しつつ底部は平らに閉じた溝の形態であり、貫通形状(E6’)は、対向壁が互いに外側に円弧壁を形成しつつ底部は開口している溝の形態である。同(7)の非貫通形状(E7)は、底部が平らに閉じた六角形断面の溝形態であり、貫通形状(E7’)は、底部が開口した六角形断面の溝形態である。同(8)の非貫通形状(E8)は、底部が平らに閉じた八角形断面の溝形態であり、貫通形状(E8’)は、底部が開口した八角形断面の溝形態である。同(9)の貫通形状(E9)は、溝構造の底部の長さ方向に沿って中央部が三角型に盛り上がっている形状であり、準貫通形状(E9’)は、上記三角型の両下端が線状に開口している形状である。
【0019】
上記溝構造Cは、長さ方向において、座部上面よりも下に落ち込んだ、座部下面側が開口していることもある領域が連続し、かつ、該座部の左右側面において端部が開口している形態が好適な形態の一つとして例示される。さらに、座部を長さ方向において左右に分かつ、底が開口していることのある他の溝部が、座部後縁から前縁を結んで連続して設けられている形態が好適な形態の一つとして例示される。これらの開口部付きの溝構造とする態様を用いることによって、着座者の臀部や太腿に対して、周囲環境における空気が接触し、長時間の着座に伴う蒸れの抑制を行うことにより、着座の快適性を向上させることができる。また、これらの開口部付きの溝構造とする態様は、例えば
図2(2)に示した「他の領域E」を伴う態様とすることで、この「他の領域」を、着座後における通気手段として確保することが可能になる。
【0020】
上記凸構造における着座時の臀部を受ける面の形状は、臀部が嵌まり込む曲面形状を含んでいる形態が、好適な形態の一つとして例示され、典型的な前記曲面形状として、R曲面形状を含んでいる形態が例示される。この上記臀部を受ける面に、R曲面形状等の曲面形状を含ませることにより、着座者の臀部にかかる圧を分散させて、着座の快適性を向上させることができる。
【0021】
また、上記の「本発明の座部の前側(
図1のA)の上面から下面に向けて設けられた切り込み」における「上面から下面への切り込み口」の角を丸めて、例えばR型角とすることで着座時の坐骨部分の快適性を向上させることが可能であり、座部前縁部の上面側の角を丸めて、例えばR型角とすることで、着座時の太腿の快適性を向上させることが可能となる。
【0022】
上記のように本発明の座部に設けられた溝構造に坐骨を入れて着座することによって、着座者は正しい座位姿勢を取ることができる。
【0023】
本発明の座部は、これを構成要件として用いた椅子の一部として用いることも可能であるが、座部自体を独立した製品として用いることも可能である。本発明の座部を独立した製品として用いる場合、「腰掛ける対象の上に載置又は固定される」ことにより、本発明の効果を発揮させることができる。腰掛ける対象(以下、「腰掛け対象」ともいう)とは、例えば、他の高さ付き椅子、台、箱等が挙げられる。該腰掛け対象の上に、本発明の座部を載置又は固定して、これに腰掛け使用する態様である。
【0024】
本発明の座部を構成する素材は、着座者の自重で座部の形状が大きく歪むことのない素材であることが好適である。この条件を満たすのであれば一種又は二種以上の素材を自由に組み合わせることができる。例えば、木材、金属、石材、硬質プラスチック、炭素繊維、ウレタン、天然皮革、合成皮革等、これらを単独で又は組み合わせて用いることができる。例えば、ウレタンは、チップウレタン、中密度ウレタン、高密度ウレタンを適宜組み合わせて用いることができるが、好適な態様としては、「JIS K6401規格」の「種類」から選ばれる「1種LB,MB,HB;2種LM,MM,HM;3種RE」のうち「1種HB:高弾性タイプのブロック,スラブストック,またはこれらの加工品」あるいは「2種HM:高弾性タイプのモールド品」であり、かつ「クラス」から選ばれる「X,V,S,A,L」のうち「S(過酷),V(非常に過酷)又はX(超過酷)」であり、かつ「等級」から選ばれる「30,50,70,100,130,170,210,270,330,400,470,600」のうち「400(365-425N),470(430-520N)又は600(525-520N)」が挙げられる。なお、上記「種類」は、製造方法の違いと反発弾性による分類であり、「クラス」は、定荷重繰り返し圧縮試験後に測定した40%圧縮硬さの初期硬さに対する低下率による分類であり、「等級」は、40%圧縮時の硬さによる分類である。
【0025】
本発明の椅子は、上記の本発明の座部を備えた椅子である。
【0026】
さらに本発明の椅子は、本発明の座部と共に、背もたれ部を備えた椅子であっても良い。かかる背もたれ部の位置や形状や素材は、着座者が背もたれ部に背部を預けることにより、本発明の座部によって形成される着座者の姿勢が崩されない位置や形状や素材である限りは限定されない。背もたれ部全面が硬く湾曲性に乏しい構成、例えば、木材、金属等の剛材が不動固定されていても良いし、着座者が寄りかかった際の傾斜圧によって湾曲する可撓性が付加された構成、例えば、背もたれ部における着座者の背中側の圧がかかる部分が、ゴム、スプリング、編物等によって伸縮可能となっている態様であってもよい。
【0027】
例えば、背もたれ部が、椅子の座面から垂直方向に平板面として設けられている場合、本発明の座部における凸構造の上縁から座部の下面に向けて設けられた切り込みの下端と背もたれ部との幅方向の距離は、70-150mm程度であることが好適である。
【0028】
背もたれ部付きの本発明の椅子は、背もたれ部における着座者の上後腸骨棘に対応する位置に、着座者の体重の分散手段、例えば、着座者の腰受け構造を設けることは、好ましい態様の一つである。例えば、背もたれ部面において、着座者の腰部(上後腸骨棘)が当接する領域が着座者側から見て凸となるように湾曲させて、該部分を着座者の腰受け構造とすることができる。また、上記の着座者の腰部(上後腸骨棘)が当接する背もたれ部面の領域に、腰受け用の部材を別途配置・固定することも可能である。このような腰受け用の部材を着脱可能にして、背もたれ部において上下の位置調整機構を設けることも好ましい。また、背もたれ部面に腰受け用の部材を設ける場合、着座者の腰回りの立体形状に合わせた形状の部材である好適である。例えば、腰受け用部材における着座者の腰の外径曲部(腹斜筋下部が接する部分)を覆うことができるR曲面を設けられた腰受け部材が挙げられる。また、腰受け用部材の素材は特に限定されず、木材、金属、石材、硬質プラスチック、炭素繊維、ウレタン、天然皮革、合成皮革等、これらを単独で又は組み合わせて用いることができる。例えば、ウレタンは、チップウレタン、中密度ウレタン、高密度ウレタンを適宜組み合わせて用いることができるが、好適な態様としては、上記と同様に「JIS K6401規格」の「種類」から選ばれる「1種HB:高弾性タイプのブロック,スラブストック,またはこれらの加工品」あるいは「2種HM:高弾性タイプのモールド品」であり、かつ「クラス」から選ばれる「S(過酷),V(非常に過酷)又はX(超過酷)」であり、かつ「等級」から選ばれる「400(365-425N),470(430-520N)又は600(525-520N)」が挙げられる。
【0029】
上記のように、着座者の腰受け構造等の着座者の体重の分散手段は、背もたれ付きの本発明の椅子に着座した際に、着座者の腰部(上後腸骨棘)が自然に接する位置に設けることが好適であり、具体的には、着座者の腰部(上後腸骨棘)が当接する、腰受け構造等の着座者の体重の分散手段における領域の面が、座部における凸構造の上縁から座部の下面に向けて設けられた切り込みの下端から幅方向20-150mmの距離を隔てて、地上水平面(0度)に投影されるような位置に設けられていることが好適である。上記20-150mmの下限値である20mm近傍は、子供を含め、着座者が小柄であることを予定する場合であり、上限値である150mm近傍は、着座者が極めて大柄であることを予定する場合である。標準的な日本人の成人の場合には40-130mm程度が好適である。
【0030】
また、座部において着座者の背面が向かう方向が、地上水平面(0度)を基準として見て、仰角35-60度となったときに、背もたれ部における着座者の僧帽筋が当たる位置に1個以上の突起物を設けられていることが好適である。この好適条件は、座部における凸構造の上縁から座部の下面に向けて設けられた切り込みの下端からの「仰角を35-60度」とみなした場合における、上記上縁方向への延長線と背もたれ部面の交点領域内に上記突起物を設けることで行うことができる。着座者の僧帽筋がこのような突起物の先端で刺激されることにより、僧帽筋の緊張がほぐれ、着座者の余分な力が抜けて、長時間の着座に伴う肩凝りを防止することが可能となり、さらに僧帽筋以外のインナーマッスルの働きを促すことができる。なお、ここに記載した突起物の大きさ、素材、形状は、僧帽筋におけるマッサージ効果を発揮することができる限りにおいて特に限定されない。典型的には、丸みを帯びた先端を有する底面積が50-400平方ミリ、高さ10-30mm程度のドーム型の、金属、木材、ゴム、硬質プラスチック、石材等の、押圧により背中にめり込む程度の硬度を有する素材の突起を1単位とする態様が挙げられる。
【0031】
本発明の椅子の典型的な態様として、「腰掛ける際の座部の高さの維持又は調整機構が設けられている椅子」(以下、「高さ付き椅子」ともいう)である。該高さの維持又は調整機構としては、脚部が典型的であるが、それ以外にも台型機構、箱型機構等、それによって座部の腰掛ける際の高さが維持又は調整可能なものであれば、特に限定されない。調整は、例えば、脚部の脚の長さの調整機構(ねじによる調整、スライド機構による調整等)が挙げられるが、これに限定されるものではない。着座者の膝の曲げ角度が90度程度になる位置に座部の高さが調整されていることが好適であり(以下、「90度ルール」ともいう)、かかる90度ルールが満たされるように、椅子の高さ、座面傾斜角、座面奥行、背面傾斜角等の条件が、選択又は調整されていることが好適である。本発明の椅子において、90度ルールを満たすための調整手段が備わっていることが好適である。ここで上記座面傾斜角は、地上水平面を座面傾斜角0度として、座面の後縁の中点から前縁の中点を真っ直ぐに見ての仰角である。座面奥行は、座面の後縁の中点から前縁への垂線の寸法である。背面傾斜角は、椅子の背もたれ部が地上水平面との間でなす角度を、座面の前縁の中点から後縁の中点を真っ直ぐに見ての背もたれ部が形成する仰角である。従って、地上水平面沿って背もたれ部が倒れた場合は背面傾斜角180度であり、地上水平面から背もたれ部が直立した場合は背面傾斜角90度である。
【0032】
上記の前提において、本発明の椅子の座面傾斜角は、上方に向けて0-5度程度が好適であり、座面奥行は、220-430mm程度が好適であり、背面傾斜角は、90-105度程度が好適である。
【0033】
脚部のような高さの維持又は調整機構が備わっていない、実質的には「座部と背もたれ部」からなる、いわば座椅子のような態様も、本発明の椅子に含まれる。この座椅子のような態様は、本発明の座部が「独立した製品」として用いられる上記の態様に準じて、腰掛け対象の上に載置又は固定して、これに対して腰掛け使用する形で用いられることが好適である。
【0034】
本発明の座部と本発明の椅子は、着座者の姿勢を正しく保ち、着座者の姿勢の見た目を美しくし、着座者を疲れにくくし、さらに、着座者の着座姿勢を改善することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明により、腰掛けることで、着座者を疲れにくくし、さらに、着座者の着座姿勢を改善する座部と、これを用いる椅子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の座部の構成要件の一つである溝構造の幅方向を含んで、座部の前後を切断した縦断面をモデル化した図面である。
【
図2】本発明の座部の構成要件の一つである溝構造の幅方向を含んで、座部の前後を切断した縦断面における代表的な態様2例((1),(2))をモデル化した図面である。
【
図2-2】本発明の座部の構成要件の一つである溝構造の「他の領域E」の部分の形状を、非貫通形状と、貫通形状又は準貫通形状((1)-(5))に分けて例示した溝の断面図である。
【
図2-3】上記
図2-2の続き例示図((6)-(9))である。
【
図3】座部後部の凸構造の厚さと角度に対する僧帽筋等の筋肉の働きを示した図面である。
【
図3-2】座部後部の凸構造の斜面の上下の長さ(凸構造の厚さ)における、使用者の身長を加味した許容限界等について検討結果を示す図面である。
【
図4】本発明の座部の一態様例である座部10の斜視図と、その溝構造近傍の断面I-I’の拡大断面図である。
【
図5】座部10のいくつかの変更態様例を示す図面である。
【
図6】本発明の座部の態様例である座部20の斜視図である。
【
図7】座部20のいくつかの変更態様例を示す図面である。
【
図8】本発明の椅子(高さ付き椅子)の態様例における分解組立図である。
【
図9】本発明の椅子(高さ付き椅子)の態様例における完成図である。
【
図10】本発明の椅子(高さ付き椅子)の他の態様例における完成図である。
【
図11】本発明の椅子に座った際の、着座者の状態を示す図面である。
【
図12】2種類の計測用椅子の外観を示した略図である。
【
図13-1】継続的な使用による着座者に対する身体的な効果を検討するために用いた、本発明の座部80の全体斜視図である。
【
図13-2】
図13-1の座部80の全体斜視図における溝構造近傍のIII-III’縦断面図である。
【
図14】本発明の座部80の継続使用前後の着座パネルの背面姿勢を示す写真図面である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
1.試験例
(1)計測用椅子
僧帽筋やインナーマッスルの働きと、姿勢の関係に着目して、主に着座者の坐骨の位置・角度を調整することができる計測用の椅子(以下、計測用椅子という)を準備して試験を行った。
【0038】
この計測用椅子は、一本脚の高さ調整機能付きの背もたれ付きの事務用椅子の座部のクッションを取り外して座部の支持機構のみ残し、新たに該支持機構上に、支持板Gを据え付けて、その上に、本発明の座部の基本的な要件を調整することが可能な座部を設置した。座部の素材は、木(合板 集成材)、熱可塑性エラストマー(TPE)、高反発ウレタンフォーム(黄色ウレタン)の3種類を用いた。高反発ウレタンフォームの密度(D)は80kg/m3、硬度(N)は450Nであった。該高反発ウレタンフォームは、上記した「JIS K6401規格」上の「座部素材として好適なウレタン」に含まれる。
【0039】
これらの素材それぞれで2種類の形状の座部を準備した。その略図を
図12(1)(2)として示しつつ説明する。
【0040】
第1の形状の座部は、長さ方向において連続し、かつ、該座部の左右側面において端部が開口している、横貫通溝タイプの溝構造60Cを備えている座部60である(
図12(1))。この溝構造は、
図1に示した溝構造Cに該当し、「領域Dの底面が底板Fで閉じているタイプ(他の領域Eは設けられていない)」である。
図12(1)を
図1に当て嵌めた項目(厚手の底板60Fの上に、(a)溝構造60Cの座部前側の厚さ(60a)、(b)溝構造60Cの前側の仰角(
図1のθに相当:図示せず)、(c)溝構造60Cの後側の仰角(
図1のφに相当:図示せず)、(d)凸構造60Bの斜面の上下の長さ(凸構造60Bの厚さ(60c))、(e)前側と後側の切り込みの下端の間の距離(
図1のbに相当:図示せず))を、各々の構成部材を取り替えて設けて用いることにより調整して使用した。
【0041】
第2の形状の座部は、木製の底板の上に、左右凸構造、及び、左右腿当て板を備えた、下記
図6の座部20の構成の座部であり、上記と同様に「領域Dの底面が底板で閉じているタイプ(他の領域Eは設けられていない)」である。
図12(2)では、
図6の座部20を使用しているように例示的に表示しているが、下記項目((a)溝構造の座部前側の厚さ(20a)、(b)溝構造の前側の仰角(20θ)、(c)溝構造の後側の仰角(20φ)、(d)凸構造の斜面の上下の長さ(凸構造の厚さ(20c))、前側と後側の切り込みの下端の間の距離(20b))を、各々の構成部材を取り替えて用いることにより調整して使用した。
【0042】
これら2種類の形状の座部のサイズは、いずれも、縦(幅)方向、横(長さ)方向共に400mmである。
【0043】
計測用椅子600,700における上記座部60,20は、上記のように支持板Gの上に、座部60,20にそれぞれ備わっている底板60F,20Fを、これらの底板の後縁が、椅子の背もたれ部の支柱H1に当接する位置に設置した。座部60,20における凸構造の上縁から座部の下面に向けて設けられた切り込みの下端から、上記の背もたれ部の支柱に当接する位置までの距離、すなわち、上記切り込みの下端から座面の後縁までの距離60γ,20γを、「溝構造から背もたれ部までの距離」として、全例100mmに設定した。さらに、背もたれ部Hにおける着座者の僧帽筋が当たる位置(座部における凸構造の上縁から座部の下面に向けて設けられた切り込みの下端からの「仰角を35-60度」とみなした場合における、上記上縁方向への延長線と背もたれ部面の交点領域内)に、「約50mmを隔てた縦列2列で、各列に10mm程度の等間隔で、木製の突起J1(丸みを帯びた先端部を有する底面が25平方mm、高さが8mm程度の円錐)を5個ずつ設けたマッサージ板J」を、必要に応じて据え付けることが可能である。着座者の背中が、背もたれにかかったとき、上記マッサージ板Jの突起J1に左右の僧帽筋の背骨近傍領域が当接することで、僧帽筋を弛緩させることによるマッサージ効果を得ることができる。
【0044】
(2)試験の項目
本試験では、上記木製座部とウレタン製座部、それぞれを用いた、上記の計測用椅子において、下記の検討項目についての試験を行った。
(a)溝構造の座部前側の厚さの検討
(b)溝構造の前側の仰角(θ)の検討
(c)前側と後側の切り込みの下端の間の距離(
図1のb)の検討
(d)溝構造の後側の仰角(φ)の検討
(e)凸構造の斜面の上下の長さ(凸構造の厚さ)の検討
【0045】
上記の試験項目[(a)-(c)]と、[(d),(e)]は、別々に試験方法と結果を記載する。
【0046】
(3)試験項目[(a)-(c)]について
(3)-1:試験方法
上記試験項目(a)(b)に関しては、計測用椅子600において、60φを45度、凸構造の厚さ60cを45mmに、前側と後側の切り込みの下端の間の距離(b)を20mmに固定し;計測用椅子700においては、20φを45度、凸構造の厚さ20cを60mmに固定し、前側と後側の切り込みの下端の間の距離(20b)を15mmに固定して、計測用椅子として用い、溝構造の前部前側の厚さ、又は、溝構造の前側の仰角(θ)を変えて、47歳の健常男性1名と47歳の健常女性1名(共に、身長は150-175cmの範囲である)による検討を行った。具体的には、これらの2名の被験者について、膝と足首の曲がり角度が共に90度となるように高さを調整して、溝構造に坐骨を入れてもらいつつ、計測用椅子に着座させた。次いで、被験者の両肩の真上から重力方向への負荷を、略等しい人力で左肩・右肩別々にかけて、所定の計測用椅子の条件設定下で被験者が自身の上体を支えられるか否かを検討した。そして、上体を支えられた場合には、さらに背もたれに突起を配置して僧帽筋を刺激し、その状態でも上体が支えられるか否かを検討した。
【0047】
上記項目(c)については、計測用椅子600においては、60φを45度、60θを45度、座部前部の厚さ60aを15mm、凸構造の厚さ60cを45mmと固定し;計測用椅子700においては、20φを45度、20θを45度、座部前部の厚さ20aを20mm、凸構造の厚さ20cを60mmに固定して、計測用椅子として用い、前側と後側の切り込みの下端の間の距離を変えて、47歳の健常男性1名と47歳の健常女性1名(共に、身長は150-175cmの範囲である)による検討を行った。具体的には、これらの2名の被験者について、膝と足首の曲がり角度が共に90度となるように高さを調整して、溝構造に坐骨を入れてもらいつつ、計測用椅子に着座させた。次いで、被験者の両肩の真上から重力方向への負荷を、略等しい人力で左肩・右肩別々にかけて、所定の計測用椅子の条件設定下で被験者が自身の上体を支えられるか否かを検討した。そして、上体を支えられた場合には、さらに背もたれに突起を配置して僧帽筋を刺激し、その状態でも上体が支えられるか否かを検討した。
【0048】
(3)-2:試験結果
上記項目(a)、(b)に関しては、木製、TPE製、黄色ウレタン製、いずれの座部を設置した計測用椅子においても、「溝構造の前部前側の厚さ」は、6-30mmであれば実用的であり、10-20mmであれば座り心地が良いということが分かった。また、「溝構造の前側の仰角(θ)」は、20-90度であれば、肩に人力の負荷をかけつつ背もたれ突起で刺激を行っても被験者の姿勢は維持された。そして、30-45度であれば、さらに座り心地が良いということが分かった。
【0049】
上記項目(c)に関しては、木製、TPE製、黄色ウレタン製、いずれの座部を設置した計測用椅子においても、5-25mmであることが明らかになった。上記項目(c)が5mm未満の場合、又は、25mmを超える場合は、肩に人力の負荷をかけつつ背もたれ突起で刺激を行った場合に姿勢が維持されなかった。そして、10-20mmであることが、負荷をかけた場合の姿勢を保つために好適であることが明らかになった。
【0050】
(4)試験項目[(d),(e)]について
上記試験項目(d)、(e)については、2種類の検討(第1の(d)(e)試験,第2の(d)(e)試験)を行った。ここではそれぞれ、「第1の試験」、「第2の試験」と略記する。
【0051】
<第1の(d)(e)試験>
(4)-1-1:第1の試験の方法
計測用椅子600においては、60θを45度、座部前部の厚さ60aを15mm、前側と後側の切り込みの下端の間の距離(b)を20mmに固定し;計測用椅子700においては、20θを45度、座部前部の厚さ20aを20mm、前側と後側の切り込みの下端の間の距離(20b)を15mmに固定して、計測用椅子として用い、被験者(健常人)5名(47歳女性,47歳男性,64歳女性,69歳女性,74歳男性)の膝と足首の曲がり角度が共に90度となるように高さを調整して、被験者を溝構造に坐骨を入れつつ着座させた。これら5名の被験者の身長は150-175cmの範囲内であった。次いで、被験者の両肩の真上から重力方向への負荷を、略等しい人力で左肩・右肩別々にかけて、所定の計測用椅子の条件設定下で被験者が自身の上体を支えられるか否かを検討した。そして、上体を支えられた場合には、さらに背もたれに突起を配置して僧帽筋を刺激し、その状態でも上体が支えられるか否かを検討した。仮に、上体を支えられずに力をかけた方向に被験者が傾いてしまう場合は、被験者は、上体を支えるための筋肉が実質的に働いていないことを示している。逆に、上体を支えることができる場合は、僧帽筋ないしインナーマッスルが働いて上体が支えられていることを示している。僧帽筋に突起で刺激を行った場合に、姿勢を保つことができない場合は、上体を保つために働いている筋肉が僧帽筋に偏っており、その姿勢を長時間保つと肩凝りの原因になり、理想的な座位姿勢とはいえない。突起で刺激を行っても姿勢を保つことが出来る場合は、僧帽筋と共にインナーマッスルも十分に働いていることを示している。インナーマッスルが働いていれば、長時間座っていても肩凝りの原因にはなり難く、これが理想的である。本試験では、個々の条件下で被験者を30-120分間座らせて、その場合の被験者における背中の痛みや違和感(僧帽筋等の過緊張、こり)の有無や強さを記録し、上記の僧帽筋とインナーマッスルに関する仮定についての確認を行った。なお、インナーマッスルは、多裂筋、腸腰筋等であると考えられる。
【0052】
(4)-1-2:第1の試験の結果
第1の試験の結果は、
図3に示した。
図3は、座部後部の凸構造の厚さと角度に対する僧帽筋等の筋肉の働きを示したグラフである。縦軸は、凸構造の厚さ(a:mm)であり、横軸は、溝構造の後側の仰角(φ)である。
図3のグラフ中のポイントである「○」は、木製の座部を用いた角度・厚さのポイントを示し、「△」は、TPE製の座部を用いた角度・厚さのポイントを示し、「□」は、黄色ウレタン製の座部を用いた角度・厚さのポイントを示している。個々のポイント「○,△,□」は、上記5名の被験者の試験結果が集約されており、各々のポイントには、上記5名の評価が統一されて、各エリア1-5に分類されている。これは、本発明の設定条件によって与えられる姿勢に対する効果は、個人的なバラツキは認められないものであることが裏付けられている。また、この試験において、座部の素材の違いによる、本発明の効果に関する差異は認められなかった。
【0053】
エリア1は、凸構造の斜面の長さ(直線長)が55mm以下である場合を示すエリアである。エリア1では、上記斜面が短く、いずれのφにおいても身長が150-175cmの範囲の上記被験者の腰も受け止めることができず、腰が溝構造から逃げてしまって実質的な測定を行うことができなかった。エリア2は、凸構造の斜面の長さが55mm以上で、かつ、φが10度未満のエリアである。エリア2では、肩への負荷に対して、被験者は上体を支えることができず、被験者の僧帽筋等の筋肉が働いていないことが分かった。エリア5は、凸構造の斜面の長さが55mm以上で、かつ、φが60度を超えるエリアである。エリア2と同様に、エリア5でも、肩への負荷に対して被験者は上体を支えることが困難になり、被験者の僧帽筋等の筋肉が働いていないことが分かった。無理して座っても反り腰になってしまい、不適切である。エリア3は、凸構造の斜面の長さが55mm以上で、かつ、φが10-35度のエリアである。エリア3では、肩への負荷に対して被験者が上体を支えることができたが、突起で僧帽筋を押して僧帽筋の緊張を解くと上体を支えることができなかった。従って、エリア3では、被験者の上体の筋肉のうち、僧帽筋のみが緊張して働いて上体を支えていることが分かった。その結果、エリア3では、座っても猫背になりやすい傾向がある。エリア4は、凸構造の斜面の長さが55mm以上で、かつ、φが35-60度のエリアである。エリア4では、肩への負荷に対して被験者が上体を支えることが可能で、かつ、突起で僧帽筋を押して僧帽筋の緊張を解いても上体を支えることができた。従って、エリア4では、被験者の上体の筋肉のうち、僧帽筋のみならず、インナーマッスルも働いて上体を支えており、適切な着座姿勢を維持することが可能な骨盤角度が保たれていることが分かった。
【0054】
なお、
図3のグラフでは、縦軸の厚さが60mmまでの表示であるが、80mmまで厚くしても、上記のエリア2-5の結果の通りであった。
【0055】
<第2の(d)(e)試験>
(4)-2-1:第2の試験の方法
第2の試験では、より低身長の被験者を加えた検討を行った。凸構造の斜面の上下の長さ(凸構造の厚さ)についての、使用者の身長を加味した許容限界を把握するためである。
【0056】
被験者の具体的な内訳(括弧内は身長)は、8歳女性(125cm)、81歳女性(140cm)、62歳女性(153cm)、70歳女性(157cm)、48歳女性(162cm)、75歳男性(163cm)、48歳男性(175cm)、55歳男性(184cm)、及び12歳男性(153cm)の計9名である。
【0057】
計測用椅子として、第1の試験において用いた「計測用椅子700」を用い、20θを45度、座部前部の厚さ20aを20mm、前側と後側の切り込みの下端の間の距離(20b)を15mmに固定し、さらに、20φを45度に固定した。具体的な試験方法は、第1の試験と同一である。各被験者に対して種々斜面の長さを変えて試験を行った。
【0058】
(4)-2-2:第2の試験の結果
第2の試験の結果は、
図3-2に示した。
図3-2においては、第1の試験に係る
図3における「エリア4:僧帽筋+インナーマッスルの筋活動エリア」(最適エリア)とエリア1「状態支持困難エリア」との境界について、各被験者について検討を行った。
図3-2の横軸は被験者の身長(cm)であり、縦軸は斜面の長さ(mm)である。それぞれの被験者における、エリア4内に入っているが、エリア1との境界の近傍の斜面長を、それぞれの被験者の身長と関連付けて図示を行った。
【0059】
その結果、斜面の長さが55mm(第1の試験において導かれた境界斜面長)においては、175cm以下の身長であれば「エリア4内」に入ることが明らかになった。しかしながら、もう少し身長が大きい場合には斜辺の長さが55mmであると上体支持が困難になってしまうこと(エリア1に入る)も明らかになった。そして、日本人の平均身長を考えると、斜面長が60mm以上であれば概ね「エリア4内」に入ることも明らかになった。さらに、いくら低身長であっても、斜面長が45mmよりも小さくなると上体支持が困難になってしまうことも明らかになった。言い換えれば、使用者が140cm以下位の非常に小柄な場合や、子供の場合を想定した設計を行う場合であっても、斜面長は45mmが下限であることが明らかになった。
【0060】
2.本発明の座部ないし椅子の形態の例示
図4は、本発明の座部の一形態である座部10の斜視図(
図4(1))と、その溝構造近傍のI-I’断面図である。その符号は、原則として
図2(1)の符号に準拠している。
【0061】
座部10を構成する平板部材10Aは、厚さ方向の面の一つである座面前縁部101Aが、曲げ角度略90度のR型の横断面の曲面となっている。座面前縁部101Aの形態が該曲面に限定される訳ではないが、着座者に滑らかな座り心地を与える好ましい形態の一つである。上記凸構造に相当する2箇所の滑り台型部材10B1,10B2は、本発明における役割を捨象すれば「上面と下面が合同の直角台形の角柱部材」であるが、使用態様を鑑みると、上記の通りに「滑り台型の部材」とする方が説明的である。上記直角台形の両斜線を含む側面が、「滑り台型の部材」としての斜面101B1,101B2であり、かかる滑り台型部材10B1,10B2は、平板部材10Aの2箇所のコの字型の切れ込み部の手前から奥に向けて、その斜面101B1,101B2側から嵌まり込む形状となっており、この嵌まり込みにより、座部10における溝構造10C1,10C2が設けられている。これらの座部10の上側の構成は、その下側全面が底板10Fと接着されていることにより、溝構造10C1,10C2の底部は平らに閉じている(「他の領域」は設けられていない)。
【0062】
上記の座部10は、本発明の座部の要件を備えるものでなければならない。
【0063】
上記のように、2箇所の溝構造10C1,10C2間の長さ方向の距離は、「着座時に坐骨が嵌まり込む位置」が確保されていれば特に限定されない。坐骨間の距離の個人差に応じて、いくつか典型的な坐骨間の距離をモデル化して、上記2箇所の溝構造を設けることも可能である。そして、かかる坐骨間の距離の個人差に柔軟に対応するために、溝構造10C1,10C2自体それぞれの長さ方向の幅を、丁度坐骨が嵌まり込む長さより長く設定することが可能であり、後述する別態様で示すように、上記溝構造10C1,10C2同士を長さ方向に連続させることも可能である。この「長さ方向に連続させる」という態様を含めれば、溝構造10C1,10C2間の長さ方向の距離10αは、0(連続態様)-150mm程度であることが好適である。言い換えれば、丁度坐骨が嵌まり込む長さに設定した場合の溝構造10C1,10C2間の長さ方向の距離は、概ね150mmが最大と見積もられるということである。そして、溝構造10C1,10C2それぞれの長さ方向の幅10βは、15mm以上である。
【0064】
溝構造10C1,10C2は、それぞれ座面前縁部側の上縁から下縁に向かう面、及び、座面後部側の上縁から下縁に向かう面、が対向することにより形成されており、上記上縁から下縁方向に向けて厚さ方向において幅狭となっており、座部10の厚さ方向の最下部における幅10bは、溝構造10C1,10C2の底部の幅に相当する、本態様では平板部材10Aの厚さ10aが、溝構造10C1,10C2の深さに相当し、6-30mm、好ましくは10-20mmである。また、溝構造10C1,10C2それぞれの最深部の幅は、上記の通りに5-25mm、好ましくは10-20mmの範囲である。そして、座面前縁部側の仰角10θは20-90度、好ましくは30-45度であり、上記座面後部側の仰角10φは35-60度であり、好ましくは40-55度である。また、斜面101B1・101B2の長さは、45-150mmである。
【0065】
図5は、上記の座部10における幾つかの変更形態を示している。
図5(1)は、座部10の斜視図であり、これに対して
図5(1)-2は、滑り台型部材10B1,10B2に代えて、その斜面101B1・101B2の長さを長く(101B1’・101B2’)した滑り台型部材10B1’・10B2’を用いた座部10’を表している。座部10’には、座部10と同様に底板10Fが接着している。斜面101B1・101B2の長さは、本発明における10φと10cにおける上記の条件を満たしている。
図5(2)は、座部10における滑り台形部材10B1,10B2に代えて、該滑り台型部材の上縁に連続した着座時の臀部を受ける曲面10B111・10B211が付加されている、一対の臀部受け部材10B11・10B21が用いられた座部10-2であり、これに対して
図5(2)-2は、その斜面ないし曲面(10B111’・10B211’)のサイズを大きくした一対の臀部受け部材10B11’・10B21’を用いた座部10-2’を表している。
図5(3)は、座部10-2の一対の臀部受け部材10B11・10B21に代えて、さらに座面前縁部に向いた側の斜面ないし曲面10B112・10B212の下りが緩やかで長く、座面前縁部近傍まで及んでいる臀部受け部材10B12・10B22が用いられた座部10-3である。これに対して
図5(3)-2は、その斜面ないし曲面のサイズを大きくした(10B112’・10B212’)、一対の臀部受け部材10B12’・10B22’を用いた座部10-3’を表している。
【0066】
図6は、本発明の座部の一態様である座部20の斜視図(
図6(1))である。その符号もまた、原則として
図2(1)の符号に準拠している。
【0067】
座部20は、底板20Fの上に、一対の太腿受け部材20A1・20A2、及び、一対の臀部受け部材20B1・20B2からなっている。太腿受け部材20A1・20A2、及び、一対の臀部受け部材20B1・20B2は、太腿受け部材20A1-臀部受け部材20B1の組と、太腿受け部材20A2-臀部受け部材20B2の組のそれぞれの組において、それぞれの「太腿受け部材の座面後縁部側の斜面と、臀部受け部材の座面前縁部側の斜面」が対向することにより、座部20の上面から下面に向けて幅狭となっており、底板20Fにより底面が形成されている領域、すなわち溝構造20C1・20C2が形成されている。溝構造20C1・20C2は、下記縦溝部20Gを挟んで連続しており、それぞれの座面側面側の端は開口している。太腿受け部材20A1・20A2は、平板型部材であり、座面前縁部と後縁部の中点を結ぶ中心線II-II’に対して鏡映対称となるように定着している。臀部受け部材20B1・20B2の座面前縁部側の面201B1・201B2は、座面の中心線II-II’側にそれぞれ仰角20φの斜面と、これと連続して側面側にそれぞれ横断面が曲げ角度略90度のR型となる曲面、を伴っている。この臀部受け部材の形状は、着座者に滑らかな座り心地を与える好ましい形態の一つである。また、太腿受け部材20A1・20A2の座面後縁部側の面201A1・201A2は、本発明の要件を満たす所定の角度20θを伴う斜面となっている。また、上記中心線II-II’に沿って、両端が開口し、かつ、底板20Fにより底面が形成されている縦溝部20Gが形成されている。
【0068】
溝構造20C1・20C2それぞれの底部の幅20bであり、上記の通りに5-25mm、好ましくは10-20mmである。太腿受け部材20A1・20A2の厚さ20aは、溝構造20C1・20C2の深さに相当し、6-30mm、好ましくは10-20mmである。臀部受け部材20B1・20B2の形成する斜辺(直線部分)の長さは、45-150mmである。太腿受け部材20A1・20A2の溝構造の底部における仰角20θは、20-90度、好ましくは30-45度であり、臀部受け部材20B1・20B2の溝構造の底部における仰角20φは、35-60度であり、好ましくは40-55度である。
【0069】
図7は、上記の座部20における幾つかの変更形態を示している。
図7(1)は、座部20の臀部受け部材20B1・20B2に代えて、それらよりも高さ(
図6:20c)が低い臀部受け部材20B11・20B12が設けられている座部20-1の斜視図である。これに対して
図7(1)-2は、臀部受け部材20B1,20B2に代えて、それらよりも高さ(
図6:20c)が高い臀部受け部材20B11’・20B12’が設けられている座部20-1’の斜視図である。
図7(2)は、上記
図7(1)に示した背が低い臀部受け部材20B11・20B12に代えて、これらと同じ背の高さではあるが、太腿受け部材20A1・20A2と互いに接着することで傾斜付きブリッジとすることができる延長先端部2021B1・2021B2、を伴う臀部受け部材20B21・20B22を用いた座部20-2を表している。
図7(2)-2は、上記
図7(2)に示した背が低い延長先端部付きの臀部受け部材20B21・20B22に代えて、延長先端部2021B1’・2021B2’を伴う、太腿受け部材20A1・20A2と互いに接着することで傾斜付きブリッジとすることができる、より背の高い臀部受け部材20B21’・20B22’を用いた座部20-2’を表している。
図7(3)は、上記
図7(1)に示した背が低い臀部受け部材20B11・20B12に代えて、これらと同じ背の高さではあるが、太腿受け部材20A1・20A2と互いに接着することで傾斜付きブリッジとすることができる、
図7(2)に示した延長先端部2021B1・2021B2よりも足の長い延長先端部2031B1・2031B2、を伴う臀部受け部材20B31・20B32を用いた座部20-3を表している。
図7(3)-2は、上記
図7(3)に示した背が低い脚の長い延長先端部付きの臀部受け部材20B31・20B32に代えて、脚の長い延長先端部2031B1’・2031B2’を伴う、太腿受け部材20A1・20A2と互いに接着することで傾斜付きブリッジとすることができる、より背の高い臀部受け部材20B31’・20B32’を用いた座部20-3’を表している。
【0070】
図8(1)は、本発明の椅子の態様例である椅子100についての分解組立図であり、
図9は椅子100の完成図である。
【0071】
椅子100は、例えば、椅子部分30に、本発明の座部10のうち、底板10Fを除いた上物部分(以下、「座部10の上側」ともいう)を、椅子部分30の座面固定部31に定着させることにより作製することができる。椅子部分30は、座部10の上側が未定着の他は「高さ付き椅子」の外形であり、該高さは4本の脚32e,f,g,hによって保たれている。椅子部分30における座面固定部31は、座面前縁部側の両端下面の直下に設けられた脚32eと32fによる支持力、並びに、座面固定部31の後縁部側の両隅に設けられた、抜き型が長方体の切り込みとして形成されている座面固定部31の側部外縁32g’と32h’に、それぞれ角材32gと32hを係合固定させたことによる係合固定力により、椅子部分30において、ヒトの着座に対して十分に耐えられる強度を伴って、地面に対して略水平に保たれている。角材32gと32hは、椅子部分30の脚部から連続して背もたれ部33の一部を構成している。すなわち、角材32gと32hは、座面固定部31よりも上方において、3本の丸材34eと34fと34gによって互いに連結されることにより、椅子部分30の背もたれ部33が構成されている。このようにして、椅子部分30において、「背もたれが設けられた高さ付き椅子」に準じた形状と共に、椅子に要求される強度が保たれている。そして、座部10の座面前縁部101A側の下部端は、椅子部分30の座面固定部31の座面前縁部311側の上部端と連続して一つの滑らかな面を形成するように、かつ、座面後縁部側は、角材32gと32hと略接するようにして、椅子部分30の座面固定部31の上に定着している。このようにして椅子100は構成されている。
【0072】
図10(1)には、下記の椅子部分40に対して座部10の上側を設けた椅子100-2が記載されている。
【0073】
本例では、座部10の上側を座面固定部31に定着させているが、底板10Fを伴う座部10をそのまま座面固定部31に定着させて、椅子100に準じた態様とすることも可能である。
【0074】
また、
図10(1)には、下記の椅子部分40において、その座面固定部41に、座部10の上側を定着させた態様が記載されている。このように、本発明の要件を満たす限度において、椅子部分を選択して、その座面として、本発明の座部を設けることができる。
【0075】
図8(2)は、本発明の椅子の態様例である椅子200についての分解組立略図であり、
図10(2)は、完成図である。
【0076】
椅子200は、例えば、椅子部分40に、本発明の座部20のうち、底板20Fを除いた上物部分(以下、「座部20の上側」ともいう)の各パーツを、椅子部分40の座面固定部41に定着させることにより作製することができる。椅子部分40の背もたれ部43には、略全面に背もたれ板44が設けられている。この背もたれ板44を、着座者が寄りかかっても不動な構成にすることも可能であり、また、寄りかかった自重により撓む可撓性を有していてもよい。また、背もたれ板44の上下の位置を、背もたれ版44の両側面を案内支持する溝部433により調整する手段が設けられていてもよい(
図8(2)では、この背もたれの上下位置の調整手段は省略されている。)。背もたれ板44の着座側やや下部の、着座者の上後腸骨棘が当接する位置に、長さ方向に沿った緩い凹アーチが前面を構成する、腰受け板431が凸設されている。また、背もたれ版44の高さ方向中央近傍から幅方向中央から上に、丸みを帯びた小突起物4321を5個ずつ着座者の正中線に対して対称になるように2組縦列させた小突起群432が設けられている。この小突起群432が設けられている位置は、着座者の背面が向かう方向が、地上水平面(0度)を基準として見て、仰角35-60度となったときに、着座者の僧帽筋が当たる位置である。
【0077】
本例では、座部20の上側を座面固定部41に定着させているが、底板20Fを伴う座部20をそのまま座面固定部41に定着させて、椅子200に準じた態様とすることも可能である。
【0078】
上記したいずれの本発明の椅子の態様例において、椅子部分と、本発明の座部又はその上側のパーツの定着方式は限定されず、ネジ、接着剤等による固定方式でも、着脱可能な嵌合方式等であってもよい。
【0079】
図11は、本発明の椅子に、着座した際の着座者の様子を示す概略図である。
図11(1)は、椅子100-2に着座した際の略図である。着座者50を、その背骨と坐骨(51)を略して示しつつ記載している。着座者50の左右坐骨は、溝構造10C1・10C2に嵌まり込み、その内部の形状により左右坐骨の位置が正しくコントロールされ、その結果、正しい姿勢で、しかも疲れにくい状態になっている。習慣的・継続的にこれを行うことにより、着座者50の姿勢を矯正することも可能と考えられる。
図11(2)は、椅子200に着座した際の略図であり、その効果は、(1)の椅子100-2と同様である。
【0080】
<継続的な使用の効果>
本発明の座部の使用前と継続使用後の着座者における姿勢の矯正効果についての実使用テストを行った。
【0081】
本実使用テストに用いた本発明の座部80を、
図13-1と
図13-2に示した。
図13-1は、座部80の全体斜視図であり、
図13-2は溝構造近傍のIII-III’縦断面図である。
【0082】
木製の座部80は、2カ所の溝構造80C1と80C2が設けられており、これらの溝構造の底は開口している。2カ所に設けられた同一形状の凸構造80B1と80B2には、それぞれ斜面801B1と801B2と共に、これらと連続する臀部受け部材80B11と80B12が設けられている。座部80の具体的な寸法・形状は、以下の通りである。
【0083】
座部の溝構造内の下側幅狭領域の深さ80aは、15mm;座部の溝構造内の下側幅狭領域の最深部の幅80bは、20mm;座部の凸構造の上縁から下側幅狭領域の最深部までの深さ80cは、45mm;座部の幅方向の長さ80iは、300mm;座面前縁部の長さ80jは、360mm;凸構造80B1の上部奥行80kは、55mm;臀部受け部材80B11の袖長80nは、80mm;太股受け部分の幅方向の長さ80mは、155mm;溝構造の前側仰角80θは、30度;同後ろ側仰角80φは、45度である。
【0084】
背もたれの無い椅子の上に、座部80を、該椅子の前縁部と座部80の前縁部81が重なり合うように載置して、被験者(70歳代の女性)に、上記溝構造80C1と80C2に坐骨が嵌まり込むように座ってもらった。これを概ね毎日4時間で4週間続けた。上記被験者の許可を取って撮影した、その試験開始前後の座った後ろ姿の像を示したものが、
図14である。
図14(1)は、試験開始前の像であり、同(2)は試験開始後4週間後の像である。試験開始前は、上半身が左側に傾いており、猫背でもあったが、試験開始後4週間において、上記左傾と猫背が矯正されたことが分かる。本発明の座部の使用による着座姿勢の矯正効果が認められた。
【符号の説明】
【0085】
座部:10,10’,10-2,10-2’,10-3,10-3’,20,20-1,20-1’,20-2,20-2’,20-3,20-3’,60,80
座部の前側部分:A,A1
平板部材:10A,80A
太腿受け部材:20A1,20A2
座面後縁部側の面:201A1,201A2
座面前縁部101A,81
座部の凸構造:B,B1,60B,80B1,80B2
滑り台型部材:10B1,10B2,10B1’,10B2’
斜面:101B1,101B2,101B1’,101B2’,801B1,801B2
臀部受け部材:10B11,10B21,10B11’,10B21’,10B12,10B22,10B12’,10B22’,20B1,20B2,20B11,20B12,20B11’,20B12’,20B21,20B22,20B21’,20B22’,20B31,20B32,20B31’,20B32’,80B11,80B12
延長先端部:2021B1,2021B2,2021B1’,2021B2’,2031B1,2031B2,2031B1’,2031B2’
座面前縁部側の面:201B1,201B2
曲面:10B111,10B211,10B111’,10B211’,10B112,10B212,10B112’,10B212’
座部の溝構造:C,10C1,10C2,20C1,20C2,60C
座部の溝構造内の下側幅狭領域:D
座部の溝構造内の下側幅狭領域の深さ:a,10a,20a,60a,80a
座部の溝構造内の下側幅狭領域の最深部の幅:b,10b,20b,80b
座部の凸構造の上縁から下側幅狭領域の最深部までの深さ:c,10c,20c,60c,80c
座部の溝構造上面側の開口部の幅:d
座部の幅方向の長さ:80i
座面前縁部の長さ:80j
凸構造の上部奥行:80k
臀部受け部材の袖長:80n
太股受け部分の幅方向の長さ:80m
座部の溝構造の前側仰角:θ,10θ,20θ,80θ
座部の溝構造の後側仰角:φ,10φ,20φ,80φ
座部の溝構造内の他の領域:E,E1,E1’,E2,E2’,E3,E3’,E4,E4’,E5,E5’,E6,E6’,E7,E7’,E8,E8’,E9,E9’
他の領域の深さ:a’
溝構造間の長さ方向の距離:10α,80α
溝構造の長さ方向の幅:10β,80β
座部の底板:F,10F,20F,60F,F1,F1’,F2,F2’,F3,F3’,F4,F4’,F5,F5’,F6,F6’,F7,F7’,F8,F8’,F9,F9’
縦溝部:20G
マッサージ板:J
マッサージ板の突起:J1
座部の凸構造の切り込み面:L
椅子部分:30,40
座面固定部:31,41
座面前縁部:311
側部外縁32g’,32h’
背もたれ部:33,43,H
丸材:34e,34f,34g
背もたれ板:44
腰受け板:431
溝部:433
小突起群:432
小突起物:4321
着座者:50
背骨と骨盤:51
椅子:100,100-2,200
椅子の脚:32e,32f,32g,32h
計測用椅子:600,700
溝構造から背もたれまでの距離:60γ,20γ