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特開2022-161040原子層堆積法のための薄膜形成原料及びそれを用いた亜鉛含有薄膜の製造方法
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  • 特開-原子層堆積法のための薄膜形成原料及びそれを用いた亜鉛含有薄膜の製造方法 図1
  • 特開-原子層堆積法のための薄膜形成原料及びそれを用いた亜鉛含有薄膜の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161040
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】原子層堆積法のための薄膜形成原料及びそれを用いた亜鉛含有薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/18 20060101AFI20221014BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20221014BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20221014BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
C23C16/18
C23C16/455
C23C16/40
H01L21/316 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019167952
(22)【出願日】2019-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】畑▲瀬▼ 雅子
(72)【発明者】
【氏名】遠津 正揮
(72)【発明者】
【氏名】武田 圭介
【テーマコード(参考)】
4K030
5F058
【Fターム(参考)】
4K030AA11
4K030AA13
4K030AA14
4K030AA18
4K030BA47
4K030CA02
4K030CA04
4K030CA05
4K030CA06
4K030CA12
4K030DA09
4K030EA03
4K030FA01
4K030FA06
4K030FA10
4K030HA01
4K030JA09
4K030JA10
4K030LA15
5F058BA20
5F058BB05
5F058BB06
5F058BB07
5F058BC03
5F058BC09
5F058BF04
5F058BF05
5F058BF07
5F058BF22
5F058BF29
5F058BF30
5F058BF37
5F058BG02
5F058BH02
5F058BH03
(57)【要約】
【課題】低融点で揮発性が高く、反応性ガスと低い温度で反応することができる、原子層堆積法に用いられる材料として好適な亜鉛化合物を含有する薄膜形成原料と、それを用いて生産性よく品質の良い平滑な薄膜を製造することができる原子層堆積法による亜鉛含有薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、下記一般式(1)で表される亜鉛化合物を含有する原子層堆積法のための薄膜形成原料
【化1】
(式中、R及びRは、各々独立に、炭素原子数1~5のアルキル基、トリメチルシリル基又はトリフルオロメチル基を表す。但し、RとRは異なる基である。)と、
薄膜形成原料を気化させた原料ガスを処理雰囲気に導入し、基体の表面に該原料ガス中の亜鉛化合物を堆積させて前駆体層を形成する工程と、反応性ガスを処理雰囲気に導入し、前記前駆体層と前記反応性ガスを反応させる工程とを含む、原子層堆積法による亜鉛含有薄膜の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される亜鉛化合物を含有する原子層堆積法のための薄膜形成原料。
【化1】
(式中、R及びRは、各々独立に、炭素原子数1~5のアルキル基、トリメチルシリル基又はトリフルオロメチル基を表す。但し、RとRは異なる基である。)
【請求項2】
上記一般式(1)において、Rは第三級アルキル基であり、Rは第二級アルキル基である請求項1に記載の薄膜形成原料。
【請求項3】
上記一般式(1)において、Rはtert-ブチル基であり、Rはイソプロピル基である請求項1又は2に記載の薄膜形成原料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の薄膜形成原料を気化させた原料ガスを処理雰囲気に導入し、基体の表面に該原料ガス中の亜鉛化合物を堆積させて前駆体層を形成する第1工程と、
反応性ガスを処理雰囲気に導入し、前記前駆体層と前記反応性ガスを反応させる第2工程とを含む、
原子層堆積法による亜鉛含有薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記反応性ガスが酸化性ガスであり、前記亜鉛含有薄膜が酸化亜鉛薄膜である請求項4に記載の亜鉛含有薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記反応性ガスが、オゾン又は水蒸気を含有するガスである請求項4又は5に記載の亜鉛含有薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記前駆体層と前記反応性ガスを反応させる温度が50℃~200℃の範囲である請求項4~6のいずれか一項に記載の亜鉛含有薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記第1工程と前記第2工程の間及び前記第2工程の後の少なくとも一方に、前記処理雰囲気のガスを排気する工程を有する請求項4~7のいずれか一項に記載の亜鉛含有薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有する亜鉛化合物を含有する原子層堆積法のための薄膜形成原料及びそれを用いた亜鉛含有薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛は、化合物半導体を構成するための成分として用いられており、亜鉛を含有する薄膜を製造するための薄膜形成原料として、様々な化合物が報告されている。
【0003】
薄膜の製造方法としては、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法、CVD法等が挙げられる。これらの中でも、組成制御性及び段差被覆性に優れること、量産化に適すること、ハイブリッド集積が可能である等多くの長所を有しているので、原子層堆積法(以下、「ALD法」という場合もある)が最適な製造プロセスである。
【0004】
CVD法及びALD法のような気相薄膜形成法に用いることができる原料は種々報告されているが、ALD法に適用可能な薄膜形成原料は、ALDウィンドウと呼ばれる温度領域が充分な広さを有することが必要である。CVD法に使用可能な薄膜形成原料であっても、ALD法に適さない場合が多くあることは当該技術分野における技術常識である。
【0005】
金属含有薄膜の製造方法として、例えば、特許文献1では、基板を被覆する金属酸化物の薄膜形成原料として、ビス(ジ-tert-ブチルアミノ)亜鉛等の多数の金属化合物が提案されている。特許文献2には、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛のトリエチルアミン付加体等の亜鉛原料と、アンモニア、一級又は二級アミンを反応させて生成したものを含有するMOCVD用原料を用いて、ZnSe膜を形成することが開示されている。非特許文献1には、亜鉛プレカーサとしてアルキル(ジアルキルアミド)亜鉛化合物を用い、MOCVD法を用いて薄膜を製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5290488号公報
【特許文献2】特開平10-51031号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Polyhedron,Vol.16,No.20,pp.3593-3599,(1997);“The Properties of some volatile alkyl(di-alkylamido)zinc(II)and bis(di-alkylamido)zinc compounds:potential zinc precursors in MOCVD”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ALD法で用いられる薄膜形成原料には、広いALDウィンドウを有すること以外に、低融点で揮発性が高く、反応性ガスと低い温度で反応し、薄膜を生産性よく製造できることが求められている。しかしながら、特許文献1にはALD法に関する記載はあるが、亜鉛化合物をALD法に適用することについて具体的に記載されていない。特許文献2及び非特許文献1には、ZnSe薄膜の亜鉛原料として、様々な亜鉛アミド化合物が開示されている。しかし、これらの文献には、MOCVD用原料として亜鉛アミド化合物を用いて薄膜を製造する方法は開示されているが、ALD法を用いて薄膜を製造することは開示されていない。
【0009】
従って、本発明は、低融点で揮発性が高く、反応性ガスと低い温度で反応することができるALD法に用いられる原料として好適な、亜鉛化合物を含有する薄膜形成原料と、それを用いて、生産性よく品質の良い平滑な薄膜を製造することができる亜鉛含有薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、特定構造を有する亜鉛化合物を含有するALD法のための薄膜形成原料が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記一般式(1)で表される亜鉛化合物を含有するALD法のための薄膜形成原料を提供するものである。
【0011】
【化1】
【0012】
式中、R及びRは、各々独立に、炭素原子数1~5のアルキル基、トリメチルシリル基又はトリフルオロメチル基を表す。但し、RとRは異なる基を表す。
【0013】
また、本発明の薄膜形成原料においては、上記一般式(1)において、Rは第三級アルキル基であり、Rは第二級アルキル基であることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の薄膜形成原料においては、上記一般式(1)において、Rはtert-ブチル基であり、Rはイソプロピル基であることがより好ましい。
【0015】
本発明は、本発明のALD法のための薄膜形成原料を気化させた原料ガスを処理雰囲気に導入し、基体の表面に該原料ガス中の亜鉛化合物を堆積させて前駆体層を形成する第1工程と、反応性ガスを処理雰囲気に導入し、前駆体層と反応性ガスを反応させる第2工程とを含む、ALD法による亜鉛含有薄膜の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明の製造方法において、反応性ガスが酸化性ガスであり、亜鉛含有薄膜が酸化亜鉛薄膜であることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明の製造方法において、反応性ガスが、オゾン又は水蒸気を含有するガスであることが好ましい。
【0018】
また、本発明の製造方法において、前駆体層と反応性ガスを反応させる温度が50℃~200℃の範囲であることがより好ましい。
【0019】
さらに、第1工程と第2工程の間及び第2工程の後の少なくとも一方に、処理雰囲気のガスを排気する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、特定の亜鉛化合物を含有することで、低融点で揮発性が高く、反応性ガスと低い温度で反応することができるALD法のための薄膜形成原料を提供することができる。また、本発明の薄膜形成原料を用いることで、ALD法により、生産性よく品質の良い平滑な亜鉛含有薄膜を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る亜鉛含有薄膜の製造方法に用いられるALD装置の一例を示す概略図である。
図2】本発明に係る亜鉛含有薄膜の製造方法に用いられるALD装置の別の例を示す概略図である。
図3】本発明に係る亜鉛含有薄膜の製造方法に用いられるALD装置の更に別の例を示す概略図である。
図4】本発明に係る亜鉛含有薄膜の製造方法に用いられるALD装置の更に別の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<薄膜形成原料>
まず、本発明のALD法のための薄膜形成原料について説明する。
本発明の薄膜形成原料は、上記一般式(1)で表される亜鉛化合物を含有することを特徴とするものであり、ALD法による薄膜形成の際のプレカーサ(前駆体)として用いられるものである。
【0023】
上記一般式(1)において、R及びRは、各々独立に、炭素原子数1~5のアルキル基、トリメチルシリル基又はトリフルオロメチル基を表す。但し、RとRは異なる基である。
【0024】
上記亜鉛化合物は、ALD法による薄膜形成の際のプレカーサとして用いられるため、常圧25℃で液体であり、減圧熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)による50質量%減少時の温度は100℃以下であることが好ましい。
【0025】
ここで、上記一般式(1)において、R及びRで表される炭素原子数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基等が挙げられる。
【0026】
本発明において、Rが第三級アルキル基、Rが第二級アルキル基である亜鉛化合物は、低融点で揮発性が高く、反応性ガスと低温で反応し、生産性よく亜鉛含有薄膜を形成することができるので好ましく、Rが、tert-ブチル基、Rがイソプロピル基である亜鉛化合物は、さらにその効果が顕著であるので、より好ましい。
【0027】
上記一般式(1)で表される亜鉛化合物の具体例としては、下記No.1~No.20が挙げられるが、本発明はこれらの化合物によって限定されるものではない。なお、下記化合物No.1~No.20において、「Me」は、「メチル基」を表し、「Et」は、「エチル基」を表し、「iPr」は、「イソプロピル基」を表し、「tBu」は、「tert-ブチル基」を表し、「sBu」は、「sec-ブチル基」を表し、「iBu」は、「イソブチル基」を表し、「tAm」は、「tert-ペンチル基」を表し、「SiMe」は、「トリメチルシリル基」を表し、「CF」は、「トリフルオロメチル基」を表す。
【0028】
【化2】
【0029】
上記一般式(1)で表される化合物の製造方法は特に制限されることはなく、当該化合物は周知の反応を応用して製造される。製造方法としては、例えば、Rが第三級アルキル基、Rが第二級アルキル基である場合、これらのアルキル基を有するジアルキルアミンをテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、n-ブチルリチウム(nBuLi)と反応させて、リチウムジアルキルアミド化合物のTHF溶液を調製した後、この溶液を塩化亜鉛のエチルエーテル溶液に滴下することにより、リチウムジアルキルアミド化合物と塩化亜鉛を反応させて、溶媒を除去し、得られた残渣にヘキサンを加えて濾過し、濾液から溶媒を留去した後、蒸留精製することで得ることができる。
【0030】
本発明のALD法のための薄膜形成原料は、上記一般式(1)で表される亜鉛化合物を含有して、薄膜のプレカーサとするものであればよく、その組成は目的とする薄膜の種類によって異なる。例えば、金属として亜鉛のみを含む薄膜を製造する場合、本発明の薄膜形成原料は、亜鉛以外の金属化合物、半金属化合物は非含有である。一方、亜鉛金属と、亜鉛以外の金属及び/又は半金属とを含む薄膜を製造する場合、本発明の薄膜形成原料は、一般式(1)で表される亜鉛化合物に加えて、所望の金属を含む化合物及び/又は半金属を含む化合物(以下、「他のプレカーサ」と称する)を含有することができる。
【0031】
また、複数のプレカーサを用いる多成分系のALD法において、上記一般式(1)で表される亜鉛化合物と用いることができる他のプレカーサとしては、特に制限を受けず、ALD法のための薄膜形成原料に用いられている周知一般のプレカーサを用いることができる。
【0032】
上記の他のプレカーサとしては、例えば、アルコール化合物、グリコール化合物、β-ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物、有機アミン化合物等の有機配位子として用いられる化合物からなる群から選択される一種類又は二種類以上と、珪素や金属との化合物が挙げられる。また、プレカーサの金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、オスミウム、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、ラジウム、スカンジウム、ルテニウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム又はルテチウムが挙げられる。
【0033】
上記の他のプレカーサの有機配位子として用いられるアルコール化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、sec-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール等のアルキルアルコール類;2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-メトキシ-1-メチルエタノール、2-メトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-エトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-イソプロポキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-ブトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)-1,1-ジメチルエタノール、2-プロポキシ-1,1-ジエチルエタノール、2-sec-ブトキシ-1,1-ジエチルエタノール、3-メトキシ-1,1-ジメチルプロパノール等のエーテルアルコール類;ジメチルアミノエタノール、エチルメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジメチルアミノ-2-ペンタノール、エチルメチルアミノ-2-ペンタノール、ジメチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール、エチルメチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール、ジエチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール等のジアルキルアミノアルコール類等が挙げられる。
【0034】
上記の他のプレカーサの有機配位子として用いられるグリコール化合物としては、例えば、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2,4-ブタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール等が挙げられる。
【0035】
上記の他のプレカーサの有機配位子として用いられるβ-ジケトン化合物としては、例えば、アセチルアセトン、ヘキサン-2,4-ジオン、5-メチルヘキサン-2,4-ジオン、ヘプタン-2,4-ジオン、2-メチルヘプタン-3,5-ジオン、5-メチルヘプタン-2,4-ジオン、6-メチルヘプタン-2,4-ジオン、2,2-ジメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,6-ジメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6-トリメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6,6-テトラメチルヘプタン-3,5-ジオン、オクタン-2,4-ジオン、2,2,6-トリメチルオクタン-3,5-ジオン、2,6-ジメチルオクタン-3,5-ジオン、2,9-ジメチルノナン-4,6-ジオン、2-メチル-6-エチルデカン-3,5-ジオン、2,2-ジメチル-6-エチルデカン-3,5-ジオン等のアルキル置換β-ジケトン類;1,1,1-トリフルオロペンタン-2,4-ジオン、1,1,1-トリフルオロ-5,5-ジメチルヘキサン-2,4-ジオン、1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロペンタン-2,4-ジオン、1,3-ジパーフルオロヘキシルプロパン-1,3-ジオン等のフッ素置換アルキルβ-ジケトン類;1,1,5,5-テトラメチル-1-メトキシヘキサン-2,4-ジオン、2,2,6,6-テトラメチル-1-メトキシヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6,6-テトラメチル-1-(2-メトキシエトキシ)ヘプタン-3,5-ジオン等のエーテル置換β-ジケトン類等が挙げられる。
【0036】
上記の他のプレカーサの有機配位子として用いられるシクロペンタジエン化合物としては、例えば、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、プロピルシクロペンタジエン、イソプロピルシクロペンタジエン、ブチルシクロペンタジエン、第2ブチルシクロペンタジエン、イソブチルシクロペンタジエン、tert-ブチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、テトラメチルシクロペンタジエン、ペンタメチルシクロペンタジエン等が挙げられ、上記の有機配位子として用いられる有機アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、イソプロピルメチルアミン等が挙げられる。
【0037】
上記の他のプレカーサは、当該技術分野において公知のものであり、その製造方法も公知である。製造方法の一例を挙げれば、例えば、有機配位子としてアルコール化合物を用いた場合には、先に述べた金属の無機塩又はその水和物と、該アルコール化合物のアルカリ金属アルコキシドとを反応させることによって、プレカーサを製造することができる。ここで、金属の無機塩又はその水和物としては、例えば、金属のハロゲン化物、硝酸塩等を挙げることができ、アルカリ金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムアルコキシド、リチウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等を挙げることができる。
【0038】
上述したような多成分系のALD法においては、薄膜形成原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、「シングルソース法」と称する)と、多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、「カクテルソース法」と称する)がある。
シングルソース法の場合、上記の他のプレカーサとしては、上記一般式(1)で表される亜鉛化合物と、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似している化合物が好ましい。
カクテルソース法の場合、上記の他のプレカーサとしては、上記一般式(1)で表される亜鉛化合物と、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似していることに加え、混合時に化学反応等による変質を起こさないものが好ましい。
【0039】
また、多成分系のALD法におけるカクテルソース法の場合、上記一般式(1)で表される亜鉛化合物と他のプレカーサとの混合物又は該混合物を有機溶剤に溶解した混合溶液を薄膜形成原料とすることができる。
【0040】
上記の有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤を用いることができる。該有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1-シアノプロパン、1-シアノブタン、1-シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3-ジシアノプロパン、1,4-ジシアノブタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,4-ジシアノシクロヘキサン、1,4-ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジン等が挙げられる。これらの有機溶剤は、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独で用いてもよいし、又は二種類以上を混合して用いてもよい。
【0041】
本発明のALD法のための薄膜形成原料が上記の有機溶剤と混合溶液である場合、薄膜形成原料中におけるプレカーサ全体の量が0.01モル/リットル~2.0モル/リットル、特に0.05モル/リットル~1.0モル/リットルとなるように調製することが好ましい。
【0042】
また、本発明のALD法のための薄膜形成原料は、必要に応じて、上記一般式(1)で表される亜鉛化合物及び他のプレカーサの安定性を向上させるため、求核性試薬を含有してもよい。該求核性試薬としては、例えば、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18-クラウン-6、ジシクロヘキシル-18-クラウン-6、24-クラウン-8、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8、ジベンゾ-24-クラウン-8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’-テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7-ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸-2-メトキシエチル等のβ-ケトエステル類又はアセチルアセトン、2,4-ヘキサンジオン、2,4-ヘプタンジオン、3,5-ヘプタンジオン、ジピバロイルメタン等のβ-ジケトン類が挙げられる。これら求核性試薬の使用量は、プレカーサ全体の量1モルに対して0.1モル~10モルの範囲が好ましく、1モル~4モルの範囲がより好ましい。
【0043】
プレカーサ全体の量とは、本発明のALDのための薄膜形成原料が、亜鉛化合物以外の金属化合物及び半金属化合物を非含有である場合、上記一般式(1)で表される亜鉛化合物及び亜鉛を含む他のプレカーサの合計量であり、本発明の薄膜形成原料が、他のプレカーサを含有する場合、上記一般式(1)で表される亜鉛化合物及び他のプレカーサの合計量である。
【0044】
本発明のALDのための薄膜形成原料には、これを構成する成分以外の不純物金属元素分、不純物塩素などの不純物ハロゲン分、及び不純物有機分が極力含まれないようにすることが望ましい。不純物金属元素分は、元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましく、総量では、1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。特に、LSIのゲート絶縁膜、ゲート膜、バリア層として用いる場合は、得られる薄膜の電気的特性に影響のあるアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の含有量を少なくすることが必要である。不純物ハロゲン分は、100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下がさらに好ましい。不純物有機分は、総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下がさらに好ましい。また、水分は、薄膜形成原料中でのパーティクル発生や、薄膜形成中におけるパーティクル発生の原因となるので、プレカーサ、有機溶剤及び求核性試薬については、それぞれの水分の低減のために、使用の際にあらかじめできる限り水分を取り除いた方がよい。プレカーサ、有機溶剤及び求核性試薬それぞれの水分量は、10ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましい。
【0045】
また、本発明のALD法のための薄膜形成原料には、形成される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、パーティクルが極力含まれないようにするのが好ましい。具体的には、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることがより好ましい。
【0046】
<亜鉛含有薄膜の製造方法>
次に、上記ALD法のための薄膜形成原料を用いた本発明の亜鉛含有薄膜の製造方法について説明する。
【0047】
本発明のALD法により亜鉛含有薄膜を製造する方法に用いられる装置には、周知のALD装置を用いることができる。具体的な装置の例としては、図1及び図3のようなプレカーサをバブリング供給することのできる装置や、図2及び図4のように気化室を有する装置が挙げられる。また、図3及び図4のように反応性ガスに対してプラズマ処理を行うことのできる装置が挙げられる。なお、図1図4のような成膜チャンバー(以下、「堆積反応部」と称する)を備えた枚葉式装置に限らず、バッチ炉を用いた多数枚同時処理可能な装置を用いることもできる。
【0048】
本発明のALD法による亜鉛含有薄膜の製造方法は、上記薄膜形成原料を気化させた原料ガスを堆積反応部(処理雰囲気)に導入し、基体の表面に該原料ガス中の亜鉛化合物を堆積させて前駆体層を形成する工程(第1工程)と、反応性ガスを堆積反応部(処理雰囲気)に導入し、前記前駆体層と該反応性ガスを反応させる工程(第2工程)とを含むことを特徴とするものである。
また、第1工程と第2工程の間及び第2工程の後の少なくとも一方に、堆積反応部(処理雰囲気)のガスを排気する工程(排気工程)を有することが好ましい。
【0049】
本発明における亜鉛含有薄膜の製造方法の一実施形態として、第1工程、排気工程、第2工程及び排気工程を順に行う、一連の操作による堆積を1サイクルとし、このサイクルを複数回繰り返して、亜鉛含有薄膜を製造する方法について説明する。
以下、各工程について、詳細に説明する。
【0050】
(第1工程)
第1工程は、上述したALD法のための薄膜形成原料を気化させて蒸気(以下、「原料ガス」と称する)とし、該原料ガスを基体が設置された成膜チャンバーへ導入する原料ガス導入工程と、該原料ガス中の亜鉛化合物を堆積反応部に設置された基体の表面に堆積させて前駆体層を形成する前駆体層形成工程とを有する。
【0051】
・原料ガス導入工程
原料ガス導入工程におけるALD法のための薄膜形成原料の輸送供給方法としては、図1及び図3に示すように、薄膜形成原料が貯蔵される容器(以下、「原料容器」と称する)中で加熱及び/又は減圧することにより気化させて蒸気とし、必要に応じてアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に、該蒸気を基体が設置された堆積反応部と導入する気体輸送法、及び図2及び図4に示すように、薄膜形成原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて蒸気とし、該蒸気を原料ガスとして堆積反応部へと導入する液体輸送法がある。
気体輸送法の場合、上記一般式(1)で表される亜鉛化合物そのものを薄膜形成原料とすることができる。
液体輸送法の場合、上記一般式(1)で表される亜鉛化合物、又は該化合物を有機溶剤に溶解した溶液を薄膜形成原料とすることができる。この混合物や混合溶液は求核性試薬等を更に含んでいてもよい。
【0052】
また、上記気体輸送法及び液体輸送法以外にも、原料ガス導入工程に用いられる方法としては、複数のプレカーサを含む多成分系のALD法として、薄膜形成原料の欄に記載したようなシングルソース法とカクテルソース法があるが、いずれの導入方法を用いた場合においても、本発明のALD法のための薄膜形成原料は0℃~200℃で気化させることが好ましい。また、原料容器内または気化室内で薄膜形成原料を気化させて蒸気とする場合の原料容器内の圧力及び気化室内の圧力は、1Pa~10,000Paの範囲内であることが好ましい。
【0053】
ここで、堆積反応部に設置される上記基体の材質としては、例えば、シリコン;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化タンタル、酸化チタン、窒化チタン、酸化ルテニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン等のセラミックス;ガラス;金属コバルト、金属ルテニウム等の金属が挙げられる。基体の形状としては、板状、球状、繊維状、鱗片状が挙げられる。基体表面は、平面であってもよく、トレンチ構造等の三次元構造となっていてもよい。
【0054】
・前駆体層形成工程
前駆体層形成工程では、基体が設置された堆積反応部に導入した原料ガス中の上記一般式(1)で表される亜鉛化合物を基体表面に堆積させて、基体表面に前駆体層を形成する。このとき、基体を加熱するか、又は堆積反応部を加熱して熱を加えてもよい。前駆体層を形成する際の条件は、特に限定されず、例えば、反応温度(基体温度)、反応圧力、堆積速度等を所望の前駆体層の厚さや薄膜形成原料の種類に応じて適宜決めることができる。反応温度については、本発明のALD法のための薄膜形成原料が充分に基体表面と反応する温度である100℃以上が好ましく、100℃~200℃がより好ましい。反応圧力は1Pa~1,0000Paが好ましく、10Pa~1,000Paがより好ましい。
【0055】
また、上記堆積速度は、薄膜形成原料の供給条件(気化温度、気化圧力)、反応温度、反応圧力によりコントロールすることができる。堆積速度が大きいと得られる薄膜の特性が悪化する場合があり、小さいと生産性に問題を生じる場合があるので、0.01nm/分~100nm/分が好ましく、1nm/分~50nm/分がより好ましい。
【0056】
なお、薄膜形成原料が、一般式(1)で表される亜鉛化合物以外の他のプレカーサを含む場合は、亜鉛化合物とともに他のプレカーサも基体の表面に堆積される。
【0057】
(排気工程)
上記第1工程の後に、基体の表面に堆積しなかった亜鉛化合物を含む原料ガスを堆積反応部から排気する。この際、原料ガスが堆積反応部から完全に排気されるのが理想的であるが、必ずしも完全に排気する必要はない。排気方法としては、例えば、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性ガスにより堆積反応部の系内をパージする方法、系内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。減圧する場合の減圧度は、0.01Pa~300Paの範囲が好ましく、0.01Pa~100Paの範囲がより好ましい。
【0058】
(第2工程)
第2工程では、排気工程後、堆積反応部に反応性ガスを導入して、反応性ガスの作用又は反応性ガスの作用と熱の作用により、反応性ガスを、前駆体層、すなわち基体の表面に堆積させた亜鉛化合物と反応させる。
上記反応性ガスとしては、例えば、酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等の酸化性ガス、水素等の還元性ガス、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア等の窒化性ガスなどが挙げられる。これらの反応性ガスは、単独で用いてもよいし、又は二種類以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、本発明のALD法のための薄膜形成原料は、酸化性ガスと特異的に低い温度で反応する性質を有しており、特にオゾン及び水蒸気と低い温度で反応する。1サイクル当たりに得られる膜厚が厚く、生産性よく薄膜を製造することができるという点で、反応性ガスとしてオゾン又は水蒸気を含有するガスを用いることが好ましく、水蒸気を含有するガスを用いることがより好ましい。反応性ガスが酸化性ガスである場合は、酸化亜鉛含有薄膜が形成される。
【0059】
熱を用いて作用させる場合の温度は、50℃~200℃が好ましく、100℃~200℃がより好ましい。本発明のALD法のための薄膜形成原料と反応性ガスとを組み合わせて使用した場合のALDウィンドウは概ね100℃~150℃の範囲であるため、100℃~150℃の範囲で前駆体層と反応性ガスを反応させることがさらに好ましい。また、本工程が行われる際の堆積反応部における圧力は1Pa~10,000Paが好ましく、10Pa~1,000Paがより好ましい。
【0060】
本発明のALD法のための薄膜形成原料は、上記反応性ガスとの反応性が良好であり、残留炭素含有量が少ない高品質な亜鉛含有薄膜を生産性よく製造することができる。
【0061】
(排気工程)
上記第2工程の後に、未反応の反応性ガス及び副生ガスを堆積反応部から排気する。この際、反応性ガス及び副生ガスが堆積反応部から完全に排気されるのが理想的であるが、必ずしも完全に排気する必要はない。排気方法及び減圧する場合の減圧度は、上述した第1工程と第2工程の間に行う排気工程と同様である。
【0062】
以上説明したように、第1工程、排気工程、第2工程及び排気工程を順に行い、一連の操作による堆積を1サイクルとし、このサイクルを必要な膜厚の薄膜が得られるまで複数回繰り返すことで、所望の膜厚を有する亜鉛含有薄膜を製造する。ALD法による薄膜の製造方法によれば、形成される亜鉛含有薄膜の膜厚を、上記サイクルの回数でコントロールすることができる。
【0063】
また、本発明の亜鉛含有薄膜の製造方法においては、図3及び図4に示すように、堆積反応部にプラズマ、光、電圧などのエネルギーを印加してもよく、触媒を用いてもよい。該エネルギーを印加する時期及び触媒を用いる時期は、特には限定されず、例えば、第1工程におけるALD法のための薄膜形成原料の原料ガスの導入時、前駆体層を形成する際の加熱時、又は第2工程における反応性ガスの導入時又は反応性ガスと前駆体層を反応させる際の加熱時、排気工程における系内の排気時でもよく、上記の各工程の間でもよい。
【0064】
また、本発明の薄膜の製造方法においては、亜鉛含有薄膜の形成後に、より良好な電気特性を得るために不活性雰囲気下、酸化性雰囲気下又は還元性雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、200℃~1,000℃が好ましく、250℃~500℃がより好ましい。
【0065】
本発明のALD法のための薄膜形成原料を用いて製造される亜鉛含有薄膜は、他のプレカーサ、反応性ガス及び製造条件を適宜選択することにより、メタル、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、ガラス等の所望の種類の薄膜とすることができる。該薄膜は電気特性及び光学特性等を示すことが知られており、種々の用途に応用されている。例えば、これらの薄膜は、例えばDRAM素子に代表されるメモリー素子の電極材料、抵抗膜、ハードディスクの記録層に用いられる反磁性膜及び固体高分子形燃料電池用の触媒材料等の製造に広く用いられている。
【実施例0066】
以下、製造例、実施例等を用いて本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって制限を受けるものではない。
【0067】
〔製造例1〕化合物No.6の合成
200mLの3つ口フラスコに、N-イソプロピル-2-メチルプロパン-2-アミン5g(43.43mmol)とTHF(150mL)を入れ、-78℃に冷却した後、nBuLi(1.57Mヘキサン溶液)27.7mL(43.47mmol)を30分かけて滴下した。室温までゆっくりと昇温後、18時間撹拌し、リチウム-tert-ブチル(イソプロピル)アミドのTHF溶液を調製した。500mLの4つ口フラスコに塩化亜鉛(6.5%エチルエーテル溶液)43.4g(20.7mmol)、THF30mLを入れ、その中へ上記の工程により調整したリチウム-tert-ブチル(イソプロピル)アミドのTHF溶液を氷冷下、1時間かけて滴下した。室温まで昇温し18時間撹拌後、バス温度64℃、減圧下で溶媒を除去した。得られた残渣にヘキサン100mLを加えて撹拌後、ろ過を行った。バス温度64℃、減圧下で溶媒を除去し、得られた黄色液体をバス温度79℃、51Paの条件下で蒸留して無色透明液体(収量3.8g、収率63%)を得た。得られた無色透明液体は、1H-NMRによる分析結果及びICP発光分光法による元素分析の結果、目的化合物の化合物No.6であることを確認した。得られた無色透明液体のH-NMRによる分析結果を以下に示す。
【0068】
(1)H-NMR(重ベンゼン)による分析結果)
1.15ppm(12H,doublet)、1.18ppm(18H,singlet)、3.09ppm(2H,septet)
【0069】
(2)元素分析(理論値)
Zn:22.3%(22.25%)
【0070】
上記製造例1で得られた化合物No.6及び、下記の比較化合物No.1~No.4を用いて下記の評価を行った。なお、下記比較化合物No.1~No.4において、「iPr」は、「イソプロピル基」を表し、「tBu」は、「tert-ブチル基」を表し、「sBu」は、「sec-ブチル基」を表し、「iBu」は、「イソブチル基」を表す。
【0071】
【化3】
【0072】
(1)状態及び融点の評価
目視によって、常圧25℃における化合物の状態を観察し、固体化合物については微小融点測定装置を用いて融点を測定した。これらの結果について、それぞれ表1に示す。
【0073】
(2)減圧TG-DTAによる50質量%減少時の温度(℃)
TG-DTAを用いて、10 Torr、アルゴン流量:50mL/分、昇温速度10℃/分、走査温度範囲を30℃~600℃として測定し、試験化合物の質量が50質量%減少した時の温度(℃)を「減圧TG-DTA50質量%減少時の温度(℃)」として評価した。減圧TG-DTA50質量%減少時の温度(℃)が低いほど、低温で蒸気が得られることを示す。これらの結果について、それぞれ表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
〔実施例2〕亜鉛含有薄膜の製造
化合物No.6を薄膜形成原料として、図1のALD装置を用いて下記の条件で、シリコンウェハ上に亜鉛含有薄膜を製造した。得られた薄膜をX線電子分光法による薄膜組成を確認したところ、得られた薄膜は酸化亜鉛薄膜であり、残留炭素は検出されなかった。また、走査型電子顕微鏡による膜厚測定を行ったところ、膜厚が約6nmの平滑な膜であり、1サイクル当たりに得られる膜厚は、約0.04nmであった。
【0076】
(ALD装置条件)
基体:シリコンウェハ
反応温度(基体温度):100℃
反応性ガス:水蒸気
(工程)
下記(1)~(4)からなる一連の工程を1サイクルとして、150サイクル繰り返した。
(1)原料容器温度:50℃、原料容器内圧力100Paの条件で気化された薄膜形成原料の蒸気(原料ガス)を堆積反応部に導入し、系圧100Paで10秒間、シリコンウェハの表面に亜鉛化合物を堆積させて、前駆体層を形成する。
(2)15秒間のアルゴンパージにより、堆積しなかった亜鉛化合物を含む原料ガスを系内から排気する。
(3)反応性ガスを堆積反応部に導入し、系圧力100Paで0.2秒間、前駆体層と反応性ガスを反応させる。
(4)60秒間のアルゴンパージにより、未反応の反応性ガス及び副生ガスを系内から排気する。
【0077】
〔比較例5〕
化合物No.6を比較化合物No.1に変更した以外は、実施例2と同様の方法で、シリコンウェハ上に亜鉛含有薄膜を製造したが、平滑な膜を得ることができなかった。また、得られた膜に残留炭素が検出された。
【0078】
〔比較例6〕
化合物No.6を比較化合物No.2に変更した以外は、実施例2と同様の方法で、シリコンウェハ上に亜鉛含有薄膜を製造したが、平滑な膜を得ることができなかった。また、得られた膜に残留炭素が検出された。
【0079】
〔比較例7〕
化合物No.6を比較化合物No.3に変更した以外は、実施例2と同様の方法で、シリコンウェハ上に亜鉛含有薄膜を製造したが、平滑な膜を得ることができなかった。また、得られた膜に残留炭素が検出された。
【0080】
〔比較例8〕
化合物No.6を比較化合物No.4に変更した以外は、実施例2と同様の方法で、シリコンウェハ上に亜鉛含有薄膜を製造したが、平滑な膜を得ることができなかった。また、得られた膜に残留炭素が検出された。
【0081】
以上より、特定の亜鉛化合物をALD法のための薄膜形成原料に用いることで、低融点で揮発性が高く、反応性ガスと低い温度で反応し、生産性よく酸化亜鉛薄膜である亜鉛含有薄膜を製造することができることを確認できた。
図1
図2
図3
図4