(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161043
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】ポリスルホン中空糸膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/68 20060101AFI20221014BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20221014BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20221014BHJP
B01D 71/44 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
B01D71/68
B01D69/00
B01D69/08
B01D71/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064676
(22)【出願日】2021-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大貴
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA03
4D006JA13C
4D006JB06
4D006MA01
4D006MB01
4D006MB02
4D006MB09
4D006MC40X
4D006MC62X
4D006MC86
4D006MC88
4D006NA04
4D006NA10
4D006NA16
4D006NA62
4D006NA75
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB08
4D006PC01
4D006PC11
4D006PC41
4D006PC51
(57)【要約】
【課題】中空糸膜の浸漬処理を施しても、分離性能と透水性能の両立が可能なポリスルホン中空糸膜の製造方法を提供する。
【解決手段】10質量%以上40質量%以下のポリスルホン、1質量%以上30質量%以下のポリビニルピロリドン、および1質量%以上80質量%以下の水溶性有機溶媒を含有する紡糸原液を、芯液と共に二重環ノズルより吐出し、乾湿式紡糸により中空糸膜を作製した後、前記中空糸膜を120℃以上130℃以下の加圧水中に少なくとも2時間浸漬するポリスルホン中空糸膜の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
10質量%以上40質量%以下のポリスルホン、1質量%以上30質量%以下のポリビニルピロリドン、および1質量%以上80質量%以下の水溶性有機溶媒を含有する紡糸原液を、芯液と共に二重環ノズルより吐出し、乾湿式紡糸により中空糸膜を作製した後、前記中空糸膜を120℃以上130℃以下の加圧水中に少なくとも2時間浸漬することを特徴とするポリスルホン中空糸膜の製造方法。
【請求項2】
前記芯液が、30質量%以上100質量%以下のN,N-ジメチルホルムアミドを含有する、請求項1に記載のポリスルホン中空糸膜の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性有機溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミドを含む請求項1または2に記載のポリスルホン中空糸膜の製造方法。
【請求項4】
浸漬後のポリスルホン中空糸膜の平均孔径が、24nm以上40nm以下である請求項1から3までのいずれか一項に記載のポリスルホン中空糸膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスルホン中空糸膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密ろ過膜、限外ろ過膜など多孔質膜を用いたろ過技術は、医薬分野、浄水分野あるいは食品産業における除菌や半導体産業における超純水製造など多くの分野で実用化されている。例えば、浄水分野で用いられる多孔質膜は、上水の除菌に加え、下水分野における除菌、除濁にも応用されている。特に、浄水分野における除菌においては、ポリスルホン類を材料とした多孔質膜が広く使用されている。
【0003】
浄水分野の多孔質膜に求められる除菌性能と透過性能は、多孔質膜の表面の孔径の影響を大きく受ける。例えば、多孔質膜において、孔径が小さいと除菌性能、すなわち分離性能が上がるものの、透過性能(透水性能)が下がるといったトレードオフの関係がある。
【0004】
このような分離性能と透水性能を両立するため、多孔質中空糸膜の内表面の構造を制御する技術が知られている。特許文献1には、中空糸膜の表面において、孔の短径と長径を所望の範囲に制御することで、ウイルス除去性能と透水性能の両立化を図ることが開示されている。
【0005】
一方、疎水性のポリスルホンから親水性の中空糸膜を製造する場合、親水性の高分子物質であるポリビニルピロリドンなどを混和して親水性を付与することが知られている。親水性が付与されたポリスルホン中空糸膜は、できる限り長期に亘って親水性を維持できることが望ましい。
【0006】
特許文献2には、所定量のポリビニルピロリドンを添加したポリスルホン紡糸原液から中空糸膜を乾湿式紡糸した後、得られた中空糸膜を約110℃以上の加圧水中で15分~60分間加熱し、洗浄することで、ポリスルホン中空糸膜に恒久親水性を付与することが開示されている。
【0007】
特許文献1には、中空糸膜のウイルス除去性能と透水性能について開示されているものの、中空糸膜を一定の洗浄条件下で浸漬処理をした後におけるこれらの性能については言及されてない。すなわち、中空糸膜に恒久親水性を付与するため、特許文献2に記載されるような中空糸膜の浸漬処理を実施する場合、中空糸膜の洗浄条件によっては、ポリスルホン中空糸膜の特性に大きく影響を与えることが懸念される。そのため、ポリスルホン中空糸膜の洗浄条件が及ぼす分離性能と透水性能への影響を精査する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014-073487号公報
【特許文献2】特開平7-155573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、中空糸膜の浸漬処理を施しても、優れた分離性能と透水性能の両立が可能なポリスルホン中空糸膜の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施態様に係るポリスルホン中空糸膜の製造方法は、10質量%以上40質量%以下のポリスルホン、1質量%以上30質量%以下のポリビニルピロリドン、および1質量%以上80質量%以下の水溶性有機溶媒を含有する紡糸原液を、芯液と共に二重環ノズルより吐出し、乾湿式紡糸により中空糸膜を作製した後、前記中空糸膜を120℃以上130℃以下の加圧水中に少なくとも2時間浸漬する。
【0011】
本発明の一実施態様において、前記芯液は、30質量%以上100質量%以下のN,N-ジメチルホルムアミドを含有する。
【0012】
本発明の一実施態様において、前記水溶性有機溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミドを含む。
【0013】
本発明の一実施態様において、浸漬後のポリスルホン中空糸膜の平均孔径は、24nm以上40nm以下である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、中空糸膜の浸漬処理を施しても、優れた分離性能と透水性能の両立が可能なポリスルホン中空糸膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1A、1Bは、中空糸膜の水透過量(透水性能)の測定方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態について詳細に説明する。本実施形態に係るポリスルホン中空糸膜の製造方法では、ポリスルホン、ポリビニルピロリドンおよび水溶性有機溶媒をそれぞれ所定量含有する紡糸原液を、芯液と共に二重環ノズルより吐出し、乾湿式紡糸により中空糸膜を作製した後、得られた中空糸膜を120℃以上130℃以下の加圧水中に少なくとも2時間浸漬する。すなわち、乾湿式紡糸で得られた中空糸膜を所定の温度範囲の温水に所定の時間浸漬させることで、中空糸膜において数ナノオーダーの孔径サイズを調整し、分離性能と透水性能を両立させる。従来の紡糸直後の中空糸膜においては、ポリスルホン骨格周辺に親水化剤ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン)がワックスのようにコーティングされた状態であるため、中空糸膜の孔にも親水化剤ポリマーがコーティングされると、中空糸膜の分離性能を阻害しているものと推測される。本実施形態では、温水による浸漬条件を制御することにより、親水化剤ポリマーによるコ-ティング層が水へ溶出し、中空糸膜の孔径が僅かに大きくなる。その結果、中空糸膜の浸漬処理を施しても、優れた分離性能と透水性能の両方を示すポリスルホン中空糸膜を作製することができる。
【0017】
ポリスルホンは、例えばソルベイスペシャルティポリマーズ社製のUdel(登録商標)シリーズ、BASF社製のUltrason(登録商標)Sシリーズ等の市販品を使用することができる。
【0018】
紡糸原液中に含まれるポリスルホンの含有量は、10質量%以上40質量%以下であり、12質量%以上25質量%以下であることが好ましい。ポリスルホンの配合割合が10質量%以上であることにより、紡糸時における中空糸膜の強度の低下を抑制し、さらには、中空糸膜の形成がし易くなり、紡糸をより確実に行うことができる。また、ポリスルホンの配合割合が40質量%以下であることにより、中空糸膜に孔が形成し易くなるため、透水性能の低下を抑制できる。
【0019】
ポリスルホンを紡糸(製膜)成分とする紡糸原液には、さらにポリビニルピロリドンおよび水溶性有機溶媒が配合される。
【0020】
ポリビニルピロリドンは親水性高分子物質として添加される。ポリビニルピロリドンの平均分子量は1000以上1200000以下であることが好ましく、10000以上120000以下であることがより好ましい。このようなポリビニルピロリドンとして、例えば、BASF社製の「PVP K-30」等の市販品が挙げられる。紡糸原液中に含まれるポリビニルピロリドンの含有量は、1質量%以上30質量%以下であり、5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。ポリビニルピロリドンの配合割合が1質量%以上であることにより、中空糸膜に十分な親水性を付与することができ、さらには、中空糸膜の孔径が小さくなることを防止し、透水性能の低下を抑制できる。また、ポリビニルピロリドンの配合割合が30質量%以下であることにより、紡糸原液が安定であるため白濁化を抑制し、紡糸をより確実に行うことができる。
【0021】
水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒またはこれらのうちの2種以上の混合溶媒が挙げられる。これらの中でも、紡糸安定性の観点から、後述する芯液の主成分と同じであるN,N-ジメチルホルムアミドが好ましい。紡糸原液中に含まれる水溶性有機溶媒の含有量は、特に限定されるものではないが、1質量%以上80質量%以下であることが好ましく、50質量%以上75質量%であることがより好ましい。
【0022】
紡糸原液は、必要に応じて水をさらに含んでいてもよく、1質量%以下、好ましくは0.3質量%以上1質量%以下の水を配合することができる。
【0023】
ポリスルホン中空糸膜の製膜は、上述の各成分を含有する紡糸原液を、芯液と共に二重環ノズルより吐出し、乾湿式紡糸により行われる。その際、芯液は、30質量%以上100質量%以下のN,N-ジメチルホルムアミドを含有することが好ましい。芯液が溶液として用いられる場合、さらに水を含む水溶液として用いられる。芯液として濃度が30質量%以上100質量%以下であるN,N-ジメチルホルムアミドを使用することにより、ポリスルホン中空糸膜の透水性能を向上させることが可能となる。吐出された紡糸原液は水等の凝固浴中で凝固された後、水等の洗浄浴中で洗浄される。
【0024】
得られた中空糸膜は、120℃以上130℃以下、好ましくは120℃以上125℃以下の加圧水中に少なくとも2時間浸漬し、中空糸膜を洗浄する浸漬処理に付される。この浸漬処理では、オートクレーブ等を用いて加圧条件下で2時間以上、中空糸膜を温水に浸漬し、その際、中空糸膜の洗浄も同時に行われる。浸漬処理における加熱温度が120℃以上130℃以下の範囲内であり、かつ浸漬時間が少なくとも2時間であることにより、ポリスルホン中空糸膜に優れた分離性能と透水性能を付与することができる。加圧条件は、例えば0.2MPa以上0.4MPa以下であることが好ましい。
【0025】
浸漬処理を施した後のポリスルホン中空糸膜の平均孔径は、24nm以上40nm以下であることが好ましく、24.5nm以上30nm以下であることがより好ましい。平均孔径が24nm以上であることにより、十分な透水性能を得ることができ、また、平均孔径が40nm以下であることにより、分離性能の低下を抑制し、ポリスルホン中空糸膜に所望とする除菌性能を付与することができる。このような分離性能および透水性能に優れたポリスルホン中空糸膜は、例えば、浄水器用中空糸膜モジュールに適用することができ、特に、ウイルス除去膜としての適用に好適である。
【実施例0026】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。また、特に言及がない限り、室温とは20℃±5℃の範囲内であるとする。
【0027】
(実施例1)
ポリスルホン(「Ultrason(登録商標)S3010」、BASF社製)19質量%、ポリビニルピロリドン(「PVP K-30」、BASF社製)9質量%およびN,N-ジメチルホルムアミド72質量%を含む紡糸原液を室温にて調製した。
【0028】
得られた紡糸原液を、N,N-ジメチルホルムアミド60質量%および水40質量%を含む芯液を用いて、乾湿式紡糸法により二重環状ノズルから水凝固浴中に吐出し、中空糸膜を得た。その後、得られた中空糸膜を、オートクレーブにより121℃の加圧水中(0.21MPa)で2時間浸漬することでポリスルホン中空糸膜を作製した。
【0029】
作製したポリスルホン中空糸膜について、下記の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0030】
<孔径の測定>
ポリスルホン中空糸膜の孔径を、ポロメータ(「パームポロメータ」、PMI社製)を用いて測定し、ハーフドライの原理により平均孔径を算出した。平均孔径が24nm以上40nm以下であれば所望の大きさの孔径が得られており、分離性能に優れていると評価した。
【0031】
<透過係数の測定>
ポリスルホン中空糸膜の透過係数を、水透過量に基づき測定した。具体的には、
図1A、1Bに示す方法により測定した。透過係数が7以上であれば透水性能に優れていると評価した。
【0032】
図1Aに示すように、直径が8mm、長さ7.5cmで両端が開口した円筒容器11を準備する。円筒容器11内に6cmのポリスルホン中空糸膜13を1本、U字状に変形した状態で収容した。次いで、ポッティング剤12(エポキシ樹脂;商品名「クィックセット」、コニシ社製)を用いて円筒容器11の一端側にポリスルホン中空糸膜13を封止固定した。その後、円筒容器11の他端側を樹脂ヘッド10で封止した。
【0033】
次に、
図1Bに示すように、樹脂ヘッド10を貫通して円筒容器11内まで届くように管15を設けた。管15は2つに分岐しており、一方は圧力計14、他方はイオン交換水の供給管16に連通している。その後、供給管16から円筒容器11内にイオン交換水を1分間、供給して円筒容器11内を圧力計の値が100kPaとなるように加圧した。その際、円筒容器11のポッティング剤12で封止した端部側から漏れ出る水17の体積を測定した。次いで、水17の漏出量を、ポリスルホン中空糸膜13の側面表面積(ポリスルホン中空糸膜13の直径×3.14×ポリスルホン中空糸膜13の長さ)および時間(1/60)で除することで透過係数(ml/(h・cm
2))を算出した。
【0034】
(実施例2)
浸漬処理において、加熱温度を125℃とした以外は、実施例1と同様にしてポリスルホン中空糸膜を作製して、上記の測定及び評価を行った。その結果を表1に示す。
【0035】
(比較例1)
浸漬処理において、加熱温度を80℃とした以外は、実施例1と同様にしてポリスルホン中空糸膜を作製して、上記の測定及び評価を行った。その結果を表1に示す。
【0036】
(比較例2)
浸漬処理において、加熱温度を100℃とした以外は、実施例1と同様にしてポリスルホン中空糸膜を作製して、上記の測定及び評価を行った。その結果を表1に示す。
【0037】
(比較例3)
浸漬処理において、浸漬時間を1時間とした以外は、実施例1と同様にしてポリスルホン中空糸膜を作製して、上記の測定及び評価を行った。その結果を表1に示す。
【0038】
(比較例4)
浸漬処理において、加熱温度を135℃とした以外は、実施例1と同様にしてポリスルホン中空糸膜を作製して、上記の測定及び評価を行った。その結果を表1に示す。
【0039】
【0040】
表1に示されるように、所定の成分を含む紡糸原液を用いて作製した中空糸膜を120℃以上130℃以下の加圧水中に少なくとも2時間浸漬することにより、平均孔径が24nm以上40nm以下であり、透過係数が7以上であるポリスルホン中空糸膜が得られた。そのため、実施例1~2における製造方法により、中空糸膜の浸漬処理を施しても、優れた分離性能と透水性能の両方を示すポリスルホン中空糸膜を作製することができた。
【0041】
比較例1~2では、浸漬処理における加熱温度が120℃未満であるため、所望とする孔径を有するポリスルホン中空糸膜が得られず、また、ポリスルホン中空糸膜に十分な透水性能が付与されてない。そのため、ポリスルホン中空糸膜において、分離性能および透水性能の両立を図ることができなかった。
【0042】
比較例3では、得られたポリスルホン中空糸膜の平均孔径は24nm以上であり分離性能には優れていたものの、浸漬処理における加熱温度が2時間未満であるため、ポリスルホン中空糸膜に十分な透水性能が付与されていない。そのため、ポリスルホン中空糸膜において、分離性能および透水性能の両立を図ることができなかった。
【0043】
比較例4では、得られたポリスルホン中空糸膜の透過係数が7以上であり透水性能には優れていたものの、浸漬処理における加熱温度が130℃を超えているため、平均孔径が40nmより大きく、所望とする分離性能が得られていない。そのため、ポリスルホン中空糸膜において、分離性能および透水性能の両立を図ることができなかった。