IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 有限会社環境テクシスの特許一覧

<図1>
  • 特開-飼料の製造方法 図1
  • 特開-飼料の製造方法 図2
  • 特開-飼料の製造方法 図3
  • 特開-飼料の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161045
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】飼料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/38 20160101AFI20221014BHJP
【FI】
A23K10/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065551
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】510006967
【氏名又は名称】有限会社環境テクシス
(74)【代理人】
【識別番号】100180057
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慶
【テーマコード(参考)】
2B150
【Fターム(参考)】
2B150AA02
2B150AB01
2B150AD02
2B150AE26
2B150BB01
2B150CC03
(57)【要約】
【課題】 麦芽粕を用い、低コストで簡便に保存性の高い粕飼料を製造する方法を提供する。
【解決手段】 脱水後または脱水中の内部温度が40℃~65℃である間に麦芽粕を繊維分解酵素で処理する工程を含む、飼料の製造方法である。麦芽の粉砕工程で生成したモルトディスティラー、ウィスキー蒸留工程で残ったポットエールシロップ、または別の大麦製品の製造工程で生成した大麦搗精粕を別途混合して乳酸発酵を促してもよい。麦芽粕がウィスキー粕である場合に特に適した製法である。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽粕を脱水する工程と、麦芽粕を繊維分解酵素で処理する工程とを含む、飼料の製造方法。
【請求項2】
麦芽粕がウィスキー粕である、請求項1に記載の飼料の製造方法。
【請求項3】
繊維分解酵素で処理する工程における繊維分解酵素を添加する段階で、麦芽粕の内部温度が40℃~65℃である請求項1または請求項2に記載の飼料の製造方法。
【請求項4】
粉砕工程で生成したモルトディスティラー、ウィスキー蒸留工程で残ったポットエールシロップ、および/または、別の大麦製品の製造工程で生成した大麦搗精粕を別途混合する工程を含む、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の飼料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
畜産業における飼料費は、経営コストの4~7割を占めているといわれる。
その飼料は、乾草、稲わら、これらの発酵物を主体とした粗飼料と、とうもろこしや大豆油粕などの濃厚飼料とに大別されるが、前者の2割、後者の約9割を海外からの輸入に依存している。濃厚飼料の使用割合は、最も少ない酪農や肉用牛でも4~6割を占めるため、日本の畜産業は、穀物相場に影響されやすい構造となっている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
近年、穀物相場の影響を抑えるため、濃厚飼料の代替としての食品製造副産物を利用して製造された飼料(エコフィード)を活用することが注目を集めている。
【0004】
食品製造副産物のなかでもウィスキー粕やビール粕などの麦芽粕は、食品製造業者から最も多く産出される粕である(非特許文献3)。とりわけウィスキー粕は、近年の世界的なジャパニーズウィスキーブームともあいまって産出量が増加傾向にあり、処理のニーズが高まっている。ウィスキー粕は、良質の食物繊維とタンパク質をバランス良く含んでいることから、乳酸発酵によって嗜好性を高めて牛の飼料用途等で販売できれば処理費用の軽減につながる。したがって、規模の大小問わずウィスキー工場等で注目を集めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-51762号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】エコフィードをめぐる情勢、平成28年4月農林水産省生産局畜産部飼料課(URL:https://bit.ly/3qEn9Zm)
【非特許文献2】本格的議論のための飼料の課題、平成26年7月農林水産省(URL:https://bit.ly/2OHjLzf)
【非特許文献3】今井、「粕類を上手に利用するためのサイレージ化技術」、No.139、中央畜産会(URL: https://bit.ly/2OJnpsM)
【非特許文献4】小嶋、「寄稿 糖化粕について」、Farmer's Eye SUMMER 2011(URL:https://bit.ly/3ceEYsM)
【非特許文献5】兵庫県立農林水産技術総合センター淡路農業技術センター、「[成果情報名]泌乳牛への酒粕給与は乳生産性を向上させる」(URL:https://bit.ly/2N20B6P)、2010
【非特許文献6】日本標準飼料成分表(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、麦芽粕は、酒粕、トウフ粕、ぶどう酒粕などに比べて糖質(ここではデンプン・糖+ペクチンの合計量)が極めて少なく(ビール粕:乾物中割合で1~4%程度、非特許文献4;酒粕:乾物中割合で3~5%、非特許文献5;トウフ粕:21.7%;ぶどう酒粕:25.5%、非特許文献6、(デンプン・糖+ペクチン)=NFE-NDF+粗繊維で計算)、乳酸発酵等が進みにくい難点がある。この難点を克服するため、例えば大規模なウィスキー工場では、ウィスキー粕に高価な糖を添加して発酵を促進しており(非特許文献3)、エコフィード化のためのコストが自ずと高くなってしまう問題がある。
【0008】
以上のような問題点に鑑み、本発明は、麦芽粕を用い、低コストで簡便に保存性の高い飼料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた本発明の1つの側面は、麦芽粕を脱水する工程と、麦芽粕を繊維分解酵素で処理する工程とを含む、飼料の製造方法である。かかる製造方法によれば、低コストで簡便に粕飼料を製造することができる。
【0010】
上記麦芽粕は、ウィスキー粕であることが好ましい。ウィスキー粕は、糖化工程の最後に熱湯をかけるので温度が高く、その放熱過程でキシラナーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ等の繊維分解酵素の至適温度範囲を通過するという特徴がある(図2図3図4。本明細書において至適温度範囲は、温度活性と温度安定性の積として定義することとする)。そのため、ウィスキー粕に含まれる繊維に対して繊維分解酵素が効きやすく、繊維分解酵素処理に伴い、乳酸菌が餌とするブドウ糖やオリゴ糖が増え、比較的乳酸菌が増殖しやすいので、本発明の製造方法が特に優位性を高める飼料の原材料となりうる。
【0011】
上記繊維分解酵素で処理する工程における麦芽粕の内部温度は、40℃~65℃であることが好ましい。上記範囲内の内部温度で直ちに添加すれば、セルラーゼ、キシラナーゼ、ペクチナーゼ等のいずれの繊維分解酵素を使用する場合も放熱過程で至適温度範囲を通過することになり、麦芽粕に含まれているセルロース等の難溶性繊維の分解が早く進み、乳酸菌が餌とするブドウ糖やオリゴ糖が増える。これに伴い、乳酸菌の増殖も活発化して乳酸発酵も早く進み、pHが下がることによって酪酸菌、大腸菌、サルモネラ菌等の増殖が抑制され、麦芽粕の腐敗のおそれが少なくなる。ここで内部温度は、集積した麦芽粕における中心部の温度を意味し、挿入して温度計測可能なセンサーが付いた温度計で計測した値である。
【0012】
麦芽の粉砕工程で生成したモルトディスティラー、ウィスキー蒸留工程で残ったポットエールシロップ、および/または、別の大麦製品の製造工程で生成した大麦搗精粕を別途混合する工程を含んでいてもよい。かかる工程を含むと、モルトディスティラーや大麦搗精粕に棲み着いている乳酸菌を麦芽粕や酵素処理物に付着・作用させ、必要に応じてポットエールシロップの糖分も活用して、乳酸発酵をより促進し保存性を高めることができる。
【0013】
本発明の飼料の製造方法は、牛用飼料の製造に特に有用である。得られる飼料が、豊富な食物繊維と適度の可溶性糖類を含み、乳酸発酵が牛の嗜好性を高めるからである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低コストで簡便に保存性の高い粕飼料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ビールおよびウィスキーの典型的な製造工程。
図2】キシラナーゼ(スクラーゼ(登録商標)X、三菱ケミカル株式会社ライフソリューションセクターウェブサイトより引用)の温度特性。
図3】セルラーゼ(スクラーゼ(登録商標)C、三菱ケミカル株式会社ライフソリューションセクターウェブサイトより引用)の温度特性。
図4】ペクチナーゼ(スクラーゼ(登録商標)N、三菱ケミカル株式会社ライフソリューションセクターウェブサイトより引用)の温度特性。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態について以下に適宜図面を参照して説明する。
【0017】
本明細書における「麦芽粕」は、図1に示すようなビールやウィスキーといった発酵麦芽飲料の製造工程において産出する副産物のうち、麦芽に温水を添加して行う糖化工程において生成した糖液を排出した後の残留固形分(麦汁搾り粕、ドラフ)を含むものを意味する。したがって、麦芽粕は麦汁搾り粕を含むものである限り、さらに、ウィスキー蒸留工程における残液(ポットエールシロップ)および/または麦芽の粉砕前に除去された芽や外皮(モルトディスティラー)を加えたものであってもよいし、麦汁搾り粕に押麦、胚芽押麦等の大麦製品の精白工程で生成した大麦搗精粕を加えたものであってもよい。なお、「麦芽粕」には、ビール粕、ウィスキー粕、発泡酒粕、ホッピー粕等が含まれ、ビール粕とウィスキー粕とを区別しないときは、麦芽粕と称する。
本明細書における「ビール粕」は、酒税法上のビールを製造する工程で排出される副産物のみならず、発泡酒を製造する工程で排出される副産物(発泡酒粕)を含む概念である。
【0018】
本発明の飼料の製造方法は、麦芽粕を脱水する工程を含む。麦芽粕は、通常、保存性を高め、乳酸発酵を促進する目的で、予め脱水して使用することが好ましい。脱水には、市販のスクリュープレス脱水機を使用することができる。麦芽粕の脱水後の含水率は、通常65%~75%である。
【0019】
本発明の飼料の製造方法は、麦芽粕を繊維分解酵素で処理する工程(以下、繊維分解処理工程)を含む。繊維分解酵素で処理することにより、麦芽粕に含まれている繊維が分解されてブドウ糖やオリゴ糖が増え、これらの糖が乳酸菌の餌になって乳酸発酵が進みやすくなる。使用する繊維分解酵素としては、至適温度範囲が麦芽粕に添加する際の温度を含むか、麦芽粕の放熱による温度低下を見越して、至適温度範囲の上限値が麦芽粕に添加する際の温度より5℃程度低い温度であるものであることが好ましく、スクラーゼC(三菱ケミカルフーズ社製、至適温度範囲45℃~60℃)、セルラーゼT「アマノ」4(天野エンザイム社製)、セルラーゼオノズカR-10(ヤクルト薬品工業社製)、セルラーゼ XL-531(ナガセケムテックス社製)、セルクラスト 1.5 L(ノボザイムズ社製)、セルロシン TF(HBI社製)等のセルラーゼ;スクラーゼ N(三菱ケミカルフーズ社製、至適温度範囲30℃~50℃)、ペクチナーゼG「アマノ」(天野エンザイム社製)、ペクチナーゼ SS(ヤクルト薬品工業社製)、ペクチネックスウルトラ SP-L(ノボザイムズ社製)等のペクチナーゼ;およびスクラーゼ X(三菱ケミカルフーズ社製、至適温度範囲35℃~50℃)、セルロシン HC100(HBI社製)等のキシラナーゼからなる群より選択される1種または2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0020】
【表1】
【0021】
繊維分解酵素は、パウダーまたは水に溶かしたスプレーのいずれの形態であってもよい。
パウダー形態の場合の繊維分解酵素の添加量は、通常、脱水後の麦芽粕重量に対して0.05重量%~10重量%である。
スプレー形態の場合の繊維分解酵素の添加量は、パウダー換算で同等量となるように調整すればよい。
【0022】
一実施形態において、繊維分解処理工程は、麦芽粕の内部に繊維分解酵素を添加することから始まるが、このときの麦芽粕の内部温度は、40℃~65℃であることが好ましい。麦芽粕の内部温度のより好ましい下限は、45℃である。繊維分解酵素の添加は、麦芽粕の内部温度が、上記温度範囲内で、なおかつ使用する繊維分解酵素の至適温度に近く、温度安定性も十分保たれている温度(例えば、好ましくは、30分以上にわたり、相対活性が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上保たれている温度)になっているときに行うことがより好ましい。繊維分解処理工程中、麦芽粕の内部温度は、加熱によって上記温度範囲内に維持してもよいし、維持することなく外気温との相違によって放熱して上記温度範囲の下限未満になるまで成り行きで温度低下させてもよい。
【0023】
繊維分解処理工程は、撹拌する段階を含んでいてもよい。撹拌する場合、繊維分解酵素を添加後または添加しながら行うが、外気と触れることによる粕の温度低下を極力抑制するため、短時間、例えば5分以内で行うことが好ましい。
【0024】
繊維分解処理工程は、麦芽粕の内部温度が低下し常温に至るまで放置することで進行する。この過程で、麦芽粕に含まれる繊維成分の糖化を進めることができる。繊維分解処理の時間は、通常12時間から48時間は確保することが好ましい。
【0025】
繊維分解処理工程は、麦芽粕をフレコンバックに入れた状態で空気にさらされた状態で行ってもよいが、できれば、タンクに入れて蓋で密閉した環境下で進めることが好ましく、タンク内を脱気して密閉した環境下で進めることがさらに好ましい。繊維分解と並行して乳酸発酵が進み、早期にpHが下がることによって、酪酸菌、大腸菌、サルモネラ菌等の増殖が抑制され、麦芽粕の腐敗のおそれが少なくなるからである。
【0026】
脱水工程と繊維分解処理工程とを分けて行う場合、脱水工程と繊維分解処理工程との移行に要する時間は、脱水工程または繊維分解処理工程が終了した後の麦芽粕の温度低下を抑制する観点で、できる限り短時間であることが好ましい。移行所要時間は、例えば、10分以内、好ましくは5分以内、より好ましくは1分以内に行う。脱水工程が先行する場合、脱水機から順次排出される麦芽粕に対して繊維分解処理工程を行うことが好ましく、繊維分解処理工程が先行する場合、繊維分解工程をバッチ処理で十分な時間行ってから脱水工程に送ることが好ましい。
【0027】
繊維分解処理工程を経た酵素処理物は、通常、原料や蒸留所の環境由来の乳酸菌を含んでおり、この乳酸菌が酵素処理物に含まれる糖を消費して乳酸発酵する(乳酸発酵工程)。乳酸発酵工程の時間は、通常2日間から7日間は確保することが好ましい。なお、繊維分解処理工程と乳酸発酵工程とは、酵素を失活させない限り、同時並行で進むことになるが、一旦酵素を失活させてから乳酸発酵させてもよい。
【0028】
乳酸発酵工程は、酵素処理物をフレコンバックに詰めて空気にさらされた状態で行ってもよいが、できればタンクに入れて蓋をした環境下で進めることが好ましく、タンク内を脱気して密閉した環境下で進めることがさらに好ましい。乳酸発酵も早く進み、pHが下がることによって酪酸菌、大腸菌、サルモネラ菌等の増殖が抑制され、麦芽粕の腐敗のおそれが少なくなるからである。
【0029】
脱水工程が開始してから繊維分解処理工程が終了するまでの間、繊維分解処理工程が開始してから脱水工程が終了するまでの間、または、繊維分解処理工程と並行する乳酸発酵工程で、麦芽の粉砕工程で生成したモルトディスティラーや、ウィスキー蒸留工程で残ったポットエールシロップ、別の大麦製品の製造工程で生成した大麦搗精粕を別途混合してもよい。モルトディスティラーや大麦搗精粕に棲み着いた乳酸菌を麦芽粕や酵素処理物にも付着・作用させ、必要に応じてポットエールシロップの糖分も活用して、乳酸発酵を促進するためである。添加量としては、麦芽粕の温度が大きく低下せず、栄養バランスがくずれない範囲であればよい。
【0030】
繊維分解処理工程中の麦芽粕、または、繊維分解処理工程を経た酵素処理物に対して、別途乳酸菌を含む市販の微生物製剤を添加してもよい。
【0031】
本発明の飼料の製造方法は、繊維分解処理工程に先立ち、繊維分解処理工程において、乳酸発酵工程に先立ち、および/または、乳酸発酵工程において、麦芽粕のpHを調整する工程もしくは段階を含んでいてもよい。pHを調整する場合、酪酸菌等の増殖を抑制しつつ乳酸発酵を促進する観点で、3.0~4.5の範囲にすることが好ましい。より好ましいpH下限は、3.6、より好ましいpH上限は、4.2である。ここでのpHは、市販のpHメーターによって測定した値である。pH調整剤としては、ギ酸、乳酸等の有機酸、塩酸等の鉱酸、水酸化ナトリウム等の無機塩基等が挙げられる。
【0032】
得られた乳酸発酵物は、乾燥工程等を経ることなくそのまま使用することもできるが、栄養バランスを崩さない範囲で、ポットエールシロップ等を加えて、麦芽粕由来でないエコフィードと配合して、または、その他の濃厚飼料と組み合わせて、牛用飼料、豚用飼料、その他の家畜用飼料として使用することができる。
【実施例0033】
実施例1
ウィスキーの製造工程で麦芽の糖化槽から糖化液を排出した後、90℃の温水をかけ、残った糖分を排出した。副産物として槽内に残ったウィスキー粕(麦汁搾り粕)粕約113.6kg(含水率83%)について、直ちに槽内から掻き出し、順次市販のスクリュープレス脱水機(DM-25、川口精機社製)のホッパーに投入して脱水処理を行い、脱水粕にして約100kg(含水率73%)になるように調整して排出した。その際、脱水機出口からフレコンバックに順次排出されてくる内部温度65℃程度の脱水粕に対して、セルラーゼ(スクラーゼ(登録商標)C、三菱ケミカルフーズ社製)を少しずつ添加して、脱水粕100kgが排出されるまでにスクラーゼが100g添加されることとなるように繊維分解工程を進めた。得られた酵素添加物を内部温度が低下し常温に至るまで放置することで酵素分解処理を行い、同時に乳酸発酵を進めた。酵素添加から6日後、得られた酵素/発酵処理物について飼料分析した結果を表2に示す。なお、乾物は、100℃以下で熱風乾燥することによって得た。
【0034】
【表2】
【0035】
表1において、ウィスキーの製造工程における麦汁搾り粕と成分上同視できるビール粕にはNFCが実質的に含まれていないのに対して、本発明に係る飼料の製造方法によって得られた発酵処理物には、NFC(非繊維性炭水化物)が乾物中に13.7%含まれていることがわかった。この比較から、酵素処理物に含まれる非繊維性炭水化物は実質的にペクチンを含まず、オリゴ糖を含む糖類であるとみることができる。また同時に腐敗臭の原因の一つと考えられている酪酸を生成することなく、乳酸および酢酸が生成していた。このことから、酪酸菌の増殖は抑制されていた一方、麦芽粕に残存していたか、または蒸留所で酵素処理物に付着した乳酸菌が、酵素処理によって生成した糖の一部を消費してヘテロ乳酸発酵によって増殖した可能性が示唆された。得られた酵素処理物は、pHが低く、高栄養価で、牛の嗜好性や消化性が高く、牛用飼料、とりわけ濃厚飼料の一部を代替するエコフィードとして非常に品質が高いことがわかった。
【0036】
実施例2
糖化液を排出した後にかける温水の温度を70℃、脱水機から排出される脱水粕の内部温度を40℃程度となるようにし、添加する酵素剤をスクラーゼ X(三菱ケミカルフーズ社製)としたほかは実施例1と同様にして、酵素/発酵処理物を得た。得られた酵素/発酵処理物の品質は、実施例1と同様、牛の嗜好性や消化性が高く、牛用飼料、とりわけ濃厚飼料の一部を代替するエコフィードとして非常に品質が高いことがわかった。
【0037】
なお、本発明の実施の形態は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、また、上記実施形態に説明される構成のすべてが本発明の必須要件であるとは限らない。本発明は、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当該技術的範囲に属する限り種々の改変等の形態を採り得る。その時点での麦芽粕の内部温度に応じて、脱水工程を繊維分解処理工程と同時進行してもよいし、いずれか一方を先に行ってもよい。繊維分解処理工程が脱水工程より先行する場合、脱水工程で得られた水は糖分を含んでいることから、これを後続の乳酸発酵工程や飼料に添加して利用してもよい。繊維分解処理工程を乳酸発酵工程と同時進行することも許容される。また脱水工程で得られた温水は、酵素添加物を入れた容器を保温し酵素反応を促進する目的で利用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の飼料の製造方法によれば、比較的小規模の地ビール工場やウィスキー工場でも低コストで簡便に嗜好性が高い家畜用飼料を製造することができるので、処理コストの低減により産業上の利用可能性は大である。

図1
図2
図3
図4