(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161074
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】回転機械のラビング位置同定装置、及び、ラビング位置同定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20221014BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
G01M99/00 A
F01D25/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065608
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】武田 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 理
(72)【発明者】
【氏名】川畠 竜
(72)【発明者】
【氏名】石沢 修一
(72)【発明者】
【氏名】山下 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 良典
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD05
2G024AD23
2G024BA23
2G024CA13
2G024DA09
2G024FA02
2G024FA06
(57)【要約】
【課題】ラビングの周方向位置を簡易な構成で同定する。
【解決手段】本開示は、固定部及び回転部を備える回転機械のラビング位置同定装置に関する。この装置は、AEセンサと、軸振動センサと、ラビング位置同定部とを備える。ラビング位置同定部では、回転機械にラビングが発生した場合に、AEセンサで検出されたAE信号の時間的変化に基づいて特定される包絡線のピークに対応するAE位相と、軸振動センサで検出された軸振動信号の時間的変化に基づいて特定される前記回転部のハイスポット位置に対応する軸振動位相を求め、これらの位相差に基づいて、回転機械におけるラビング発生箇所の周方向位置を同定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部及び回転部を備える回転機械のラビング位置同定装置であって、
前記回転機械のAE信号を検出するための少なくとも1つのAEセンサと、
前記回転部の軸振動信号を検出するための少なくとも1つの軸振動センサと、
前記回転機械にラビングが発生した場合に、前記AE信号の時間的変化に基づいて特定される包絡線のピークに対応するAE位相と、前記軸振動信号の時間的変化に基づいて特定される前記回転部のハイスポット位置に対応する軸振動位相との差に基づいて、前記回転機械におけるラビング発生箇所の周方向位置を同定するためのラビング位置同定部と、
を備える、回転機械のラビング位置同定装置。
【請求項2】
前記周方向位置φrubは、基準位置に対する前記軸振動センサの取付位置φvib、前記AE位相θrub及び前記軸振動位相θvibを用いて次式
φrub=φvib+(θrub-θvib)
で表される、請求項1に記載の回転機械のラビング位置同定装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの軸振動センサは、前記固定部に設置された前記軸振動センサと前記回転部との間にあるクリアランスの大きさに対応する振幅を有する前記軸振動信号を検出するように構成され、
前記ラビング位置同定部は、前記振幅の時間的変化に含まれる最大ピークに基づいて前記ハイスポット位置を特定する、請求項1又は2に記載の回転機械のラビング位置同定装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの軸振動センサは、互いに異なる取付角度を有する第1軸振動センサ及び第2軸振動センサを含み、
前記ラビング位置同定部は、前記第1軸振動センサ及び第2軸振動センサでそれぞれ検出された前記軸振動信号に基づいて前記ハイスポット位置の軌道を求め、前記軌道及び前記AE位相に基づいて前記周方向位置を同定する、請求項1に記載の回転機械のラビング位置同定装置。
【請求項5】
前記周方向位置同定部は、前記軌道上にプロットされた前記AE位相に対応する点を通る接線の法線方向により前記周方向位置を同定する、請求項4に記載の回転機械のラビング位置同定装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つの軸振動センサは、互いに異なる軸方向位置にそれぞれ設置された第3軸振動センサ及び第4軸振動センサを含み、
前記周方向位置同定部は、前記第3軸振動センサ及び前記第4軸振動センサでそれぞれ検出された前記軸振動信号に基づく軸振動ベクトルの線形補間により、前記軸方向位相を算出する、請求項1から5のいずれか一項に記載の回転機械のラビング位置同定装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つの軸振動センサは、互いに異なる軸方向位置にそれぞれ設置された第5軸振動センサ(例えば上記実施形態の第5軸振動センサ20e)及び第6軸振動センサ(例えば上記実施形態の第6軸振動センサ20f)を含み、
前記ラビング位置同定部は、モード解析で求められた振動モードごとに、前記第5軸振動センサ、前記第6軸振動センサ及び前記ラビングの発生箇所における振動振幅比を規定する係数を用いて、前記第5軸振動センサ及び前記第6軸振動センサにそれぞれ対応する軸振動ベクトルの線形和として前記ラビングの発生箇所に対応する軸振動ベクトルを求めることにより前記周方向位置を同定する、請求項1から6のいずれか一項に記載の回転機械のラビング位置同定装置。
【請求項8】
前記軸振動センサ及び前記AEセンサは、前記回転部を前記静止部に対して回転可能に支持する軸受が収容される軸受箱に設けられる、請求項1から7のいずれか一項に記載の回転機械のラビング位置同定装置。
【請求項9】
前記回転機械は蒸気タービンである、請求項1から8のいずれか一項に記載の回転機械のラビング位置同定装置。
【請求項10】
固定部及び回転部を備える回転機械のラビング位置同定方法であって、
前記回転機械のAE信号を検出する工程と、
前記回転部の軸振動信号を検出する工程と、
前記回転機械にラビングが発生した場合に、前記AE信号の時間的変化に基づいて特定される包絡線のピークに対応するAE位相と、前記軸振動信号の時間的変化に基づいて特定される前記回転部のハイスポット位置に対応する軸振動位相との差に基づいて、前記回転機械におけるラビング発生箇所の周方向位置を同定する工程と、
を備える、回転機械のラビング位置同定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転機械のラビング位置同定装置、及び、ラビング位置同定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転機械におけるラビング検出は、回転軸の軸振動を検出することにより行われていた。回転軸における軸振動は、車室の熱変形によってシール等と回転軸とがラビングし(擦れ)、ラビングにより生じた熱によって回転軸に熱曲がりが生じることによって発生することがある。このようなラビングの発生は、回転機械の軸振動や、シール劣化による性能低下をもたらす。また回転軸の軸振動は、ロータに熱曲がりが生じる程度にラビングが進行した段階で検出可能な現象であるため、軸振動によってラビングを検出した場合には、回転機械を緊急停止させるなど、回転機械の運転に大きな影響を及ぼす対応が必要となるおそれがあった。そのため、ラビングの早期検出が望まれている。
【0003】
このような課題を解決するための一手法として、AE(Acoustic Emission)信号を検出可能なAEセンサを用いたラビング検出技術が知られている。AEセンサは取付が容易であり、回転体の接触音に基づくAE信号を検出することで、従来の軸振動に基づく場合に比べて早い段階でラビングを検知することができ、有望視されている。例えば特許文献1には、回転軸に対して周方向に沿って複数のAEセンサを設け、これらのAEセンサで検出されたAE信号を処理することで、周方向におけるラビングの発生位置を同定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、回転機械に対して複数のAEセンサを設置する必要があるため、AEセンサの数が多くなり、コストが増大してしまう。また複数のAEセンサが配置された断面におけるラビングを検出対象としているため、当該断面とは異なる軸方向位置でラビングが発生した場合には、ラビング検出が難しい。またラビングによる複数のAEセンサ間における微小な位相差に基づいてラビング検知を行っているため、AE信号に含まれるノイズの影響によりラビングを検知することが難しい可能性がある。
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、ラビングの周方向位置を簡易な構成で同定可能な回転機械のラビング位置同定装置、及び、ラビング位置同定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械のラビング位置同定装置は、上記課題を解決するために、
固定部及び回転部を備える回転機械のラビング位置同定装置であって、
前記回転機械のAE信号を検出するための少なくとも1つのAEセンサと、
前記回転部の軸振動信号を検出するための少なくとも1つの軸振動センサと、
前記回転機械にラビングが発生した場合に、前記AE信号の時間的変化に基づいて特定される包絡線のピークに対応するAE位相と、前記軸振動信号の時間的変化に基づいて特定される前記回転部のハイスポット位置に対応する軸振動位相との差に基づいて、前記回転機械におけるラビング発生箇所の周方向位置を同定するためのラビング位置同定部と、
を備える。
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械のラビング位置同定方法は、上記課題を解決するために、
固定部及び回転部を備える回転機械のラビング位置同定方法であって、
前記回転機械のAE信号を検出する工程と、
前記回転部の軸振動信号を検出する工程と、
前記回転機械にラビングが発生した場合に、前記AE信号の時間的変化に基づいて特定される包絡線のピークに対応するAE位相と、前記軸振動信号の時間的変化に基づいて特定される前記回転部のハイスポット位置に対応する軸振動位相との差に基づいて、前記回転機械におけるラビング発生箇所の周方向位置を同定する工程と、
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、ラビングの周方向位置を簡易な構成で同定可能な回転機械のラビング位置同定装置、及び、ラビング位置同定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る回転機械の断面構造図である。
【
図2】一実施形態に係るラビング位置同定方法を示すフローチャートである。
【
図3A】回転機械の内部の様子を示す模式図である。
【
図3B】回転機械の内部の様子を示す模式図である。
【
図4】
図2のステップS101で取得されるAE信号及び軸振動信号の一例である。
【
図5】他の実施形態に係るラビング位置同定装置における軸振動センサの取付位置を軸方向から示す模式図である。
【
図6】他の実施形態に係るラビング位置同定方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図6のステップS201で取得されたAEセンサで検出されたAE信号、第1軸振動センサ及び第2軸振動センサで検出された軸振動信号の一例である。
【
図8A】
図6のステップS202で作成されるオービット線図の一例である。
【
図8B】
図8Aのオービット線図から特定される法線方向に基づくラビング周方向位置の同定例である。
【
図9】他の実施形態に係るラビング位置同定装置の構成を示す図である。
【
図10】
図9のラビング位置同定装置によって実施可能なラビング位置同定方法を示すフローチャートである。
【
図11】第3軸振動センサで検出される軸振動信号に対応する軸振動ベクトルと、第4軸振動センサで検出される軸振動信号に対応する軸振動ベクトルとの線形補完の説明図である。
【
図12】
図9のラビング位置同定装置によって実施可能な他のラビング位置同定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0012】
図1は一実施形態に係る回転機械1の断面構造図である。回転機械1は、静止部2と、静止部2に対して回転可能な回転部4を備える。静止部2は回転機械1のケーシングであり、外部に対して静止している。回転部4は、静止部2に対して一対の軸受6a、6bを介して回転可能に支持される。
【0013】
静止部2及び回転部4の間には、クリアランスDが設けられる。クリアランスDには、静止部2に設けられた供給部3から作動流体Wが供給されることにより、回転部4が駆動される。回転部4を駆動した作動流体Wは、静止部2に設けられた排出部5から外部に排出される。回転機械1の運転時には、静止部2又は回転部4の少なくとも一方が熱等の影響によって変形することで、クリアランスDが縮小し、ラビングが発生することがある。このようなラビングは、後述するAEセンサ10で検出されるAE信号に基づいて検知可能である。
【0014】
回転部4は、例えば、作動流体Wによる動力によって回転可能なロータ(回転軸)である。回転部4は、作動流体Wを受けるための動翼4aを有し、動翼4aで作動流体Wを受けることにより回転部4が回転駆動される。回転機械1は、例えば作動流体Wとして蒸気を用いる蒸気タービンである。
【0015】
回転部4は、一対の軸受6a、6b(ラジアル軸受)によって回転可能に支持される。軸受6aは回転部4の一端側に設けられ、軸受6bは回転部4の他端側に設けられている。軸受6a、6bは、それぞれ軸受箱7a、7bに収容されている。
【0016】
一実施形態に係るラビング位置同定装置100は、上記構成を有する回転機械1において、ラビングが発生した場合に、ラビングの発生位置を同定するための装置である。回転機械1は、例えば、熱変形を生じた静止部2に取り付けられているシール等が回転部4に対してラビング(擦れ)を発生することがある。ラビング位置同定装置100は、少なくとも1つのAEセンサ10と、少なくとも1つの軸振動センサ20と、少なくとも1つのAEセンサ10及び少なくとも1つの軸振動センサ20に基づいてラビング位置を同定するための演算を行う演算部30と、を備える。
【0017】
AEセンサ10は、回転機械1のAE信号を検出するためのセンサである。ラビングの発生個所で生じたAE波は、弾性波として静止部2及び回転部4を伝播し、回転機械1に設置された各AEセンサ10でAE信号として検出される。AE波は、一般的に数10kHz~数MHzの音波領域の周波数を有し、AEセンサ10によってAE信号として検出される。本実施形態では、単一のAEセンサ10が軸受6a(軸受箱7a)に設けられることで、ラビングの発生箇所からのAE波を検出可能に構成されている。
尚、
図1では、単一のAEセンサ10が軸受6a(軸受箱7a)に設けられた場合を例示しているが、軸受6b(軸受箱7b)に設けられていてもよい。
【0018】
軸振動センサ20は、回転機械1の軸振動信号を検出するためのセンサである。軸振動センサ20は、検出部が軸振動の検出対象である回転部4に対向するように配置され、当該検出部と回転部4との距離に基づいて軸振動を検出可能に構成される。本実施形態では、単一の軸振動センサ20が軸受6a(軸受箱7a)に設けられることで、ラビングの発生箇所からの軸振動を検出可能に構成されている。
尚、
図1では、単一の軸振動センサ20が軸受6a(軸受箱7a)に設けられた場合を例示しているが、軸受6b(軸受箱7b)に設けられていてもよい。
【0019】
尚、
図1の例では、AEセンサ10と軸振動センサ20は共通の軸受6a(軸受箱7a)のうち互いに異なる軸方向位置に設置されているが、異なる軸受(例えば一方が軸受6a(軸受箱7a)、他方が軸受6b(軸受箱7b))にそれぞれ設置されていてもよいし、互いに同じ軸方向位置に設置されていてもよい。
【0020】
演算部30は、AEセンサ10及び軸振動センサ20の検出結果に基づいてラビング位置を同定するために演算を行う構成であり、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。尚、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0021】
演算部30は、ラビングの有無を判定するためのラビング判定部32と、ラビングが有ると判定された場合にラビングの発生位置を同定するためのラビング位置同定部34とを備える。尚、ラビング判定部32におけるラビングの有無に関する判定方法については公知の例に従うとし、詳細は省略するが、AEセンサ10によって検出されたAE信号に基づいて判定を行うことで早期のラビング判定が可能である。
【0022】
続いて上記構成を有するラビング位置同定装置100によって実施されるラビング位置同定方法について説明する。
図2は一実施形態に係るラビング位置同定方法を示すフローチャートである。
【0023】
まずラビング判定部32は、ラビングの有無を判定する(ステップS100)。ステップS100におけるラビング判定は、例えば、AEセンサ10において検出されるAE信号に基づいて行われる。ラビング判定部32においてラビングが有ると判定された場合(ステップS100:YES)、ラビング位置同定部34は、AEセンサ10で検出されたAE信号、及び、軸振動センサ20で検出された軸振動信号を取得する(ステップS101)。
【0024】
ここで
図3A及び
図3Bは回転機械1の内部の様子を示す模式図であり、
図4は
図2のステップS101で取得されるAE信号及び軸振動信号の一例である。
図3A及び
図3Bに示されるように、回転部4は、静止部2の内側において回転駆動される。このとき回転部4のうち最も径方向外側に位置するハイスポット位置Phは、静止部2の中心Oに対して偏心した軌道K(例えば振れ回り中心O´を有する略円形状の軌道)で移動する。
図3Aでは、静止部2のうち所定の基準位置Prから取付角度φvibの位置に取り付けられた軸振動センサ20にハイスポット位置Phが最接近している様子が示されており、
図3Bではハイスポット位置Phが静止部2に接触することによりラビングが発生している様子が示されている。
【0025】
図4では、AEセンサ10及び軸振動センサ20で同時に検出されたAE信号と軸振動信号の時間的変化が示されている。このようなAEセンサ10によるAE信号の検出、及び、軸振動センサ20による軸振動信号の検出は継続的に行われており、ステップS101では、ラビング有り判定をトリガ―として、AE信号及び軸振動信号が所定時間にわたって行われる。当該所定時間は、後述するAE位相θrub及び軸振動位相θvibを特定するために十分なAE信号及び軸振動信号が取得されるように適宜設定される。
【0026】
AE信号は、一般的に、所定の周波数で振幅が変動する波形を有しており、回転機械1にラビングが発生した場合、
図4に示すように、AE信号に含まれる波形のピークに基づいて特定される包絡線Lhに、回転機械1の回転数に同期する成分(回転数同期成分)が現れる。このような回転数同期成分は、周期的に最大ピークを示すように変動する振る舞いを有する。
【0027】
また軸振動信号は、静止部2に取り付けられた軸振動センサ20と回転部4との間の距離に対応して、
図4に示すように、周期的に振幅が変化する波形を有する。このような軸振動信号は、軸振動センサ20の近傍をハイスポット位置Phが通過するタイミングで最大ピークを有する正弦波として得られる。
【0028】
続いてラビング位置同定部34は、ステップS101で取得したAE信号に基づいて、AE位相θrubを求める(ステップS102)。AE位相θrubは、
図4に示すように、AE信号の時間的変化に基づいて特定される包絡線Lhのピークに対応する位相(AE信号の包絡線Lhの回転数同期成分が最大となったときの回転角θ)として特定される。
【0029】
またラビング位置同定部34は、ステップS101で取得した軸振動信号に基づいて、軸振動位相θvibを求める(ステップS103)。軸振動位相θvibは、
図4に示すように、軸振動信号の時間的変化に基づいて特定される回転部4のハイスポット位置Phに対応する位相(軸振動信号の振幅が最大となる回転角θ)として特定される。
【0030】
続いてラビング位置同定部34は、ステップS102で求められたAE位相θrubとステップS103で求められた軸振動位相θvibとの差Δθに基づいて、回転機械1におけるラビング発生箇所の周方向位置を同定する(ステップS104)。具体的には、静止部2における軸振動センサ20の取付角度をφvibを用いて、ラビングが発生している周方向位置φrubは、次式
φrub=φvib+Δθ=φvib+(θrub-θvib) (1)
により同定される。
【0031】
尚、φvib及びφrubは静止部2に規定された基準位置Prに対する角度である。基準位置Prは、例えば回転部4の回転数をカウントするためのワンパルス計(不図示)が設置された位置等を用いることができる。またθvib及びθrubは、回転部4の基準角に対する回転角θであり、例えば、回転部4に設けられたワンパルスマーカが、静止部2に設けられたワンパルス計の位置を通過する角度を基準角として用いることができる。
【0032】
尚、ワンパルス計を備えない回転機械1では、例えば、軸振動変位が最大となったときの回転角θを基準角とすることでラビングの発生箇所の周方向位置を同様に同定することができる。この場合、θvib=0であり、θrubは軸振動変位が最大となった回転角からの相対回転角となる。
【0033】
以上説明したように本実施形態によれば、単一のAEセンサ10で検出したAE信号と、軸振動センサ20で検出した軸振動信号とに基づいて、ラビングの発生箇所の周方向位置を好適に同定できる。このような周方向位置の同定には、複雑な構成や演算が不要であり、且つ、ノイズによる影響を受けにくいため、様々な条件下においても、信頼性の高いラビング位置の同定が可能となる。
【0034】
そして、このようにラビングの発生箇所の周方向位置を同定することで、その同定結果に基づいて回転機械1対する有効な対策の判断が可能となる。例えば、静止部2が上下に分割された2つのケーシングから構成されている場合、ラビングの発生箇所の周方向位置が上方側である場合には上方側のケーシングのみを開放して対策を実施することで、対策範囲を効果的に絞り込むことができる。またラビングの発生箇所の周方向位置が下方側である場合には、下方側のケーシングの手直しのために回転部4の吊上げ作業が必要であるかを事前に把握でき、効率的に作業計画を立案できる。また静止部2を加熱又は冷却することでクリアランスDを調整可能な機構を備える場合には、ラビングの発生箇所の周方向位置に基づいて、どの方向にクリアランスDを調整すべきかを判断し、その判断結果に基づいて当該機構を操作又は制御することができる。
【0035】
前述の実施形態では、i)軸方向に垂直な断面上におけるハイスポット位置Phの軌道Kが略円形状であり、ii)ラビングの発生箇所の軸方向位置が軸振動センサ20の付近であること、又は、iii)軸振動位相θvibが軸方向において一様であることなどが満たされる条件下では好適に周方向位置を同定することができるが、これらの条件のいずれかが満たされない場合、同定精度が低下するおそれがある。このような課題は、以下の実施形態によって好適に解決可能である。
【0036】
図5は他の実施形態に係るラビング位置同定装置100における軸振動センサ20の取付位置を軸方向から示す模式図である。本実施形態では、軌道Kが振れ回り中心O´に対して略楕円形状を有しており、軸方向に垂直な同一断面上において、軸振動センサ20として、互いに異なる取付角度を有する第1軸振動センサ20a及び第2軸振動センサ20bが設けられる。すなわち、第1軸振動センサ20aの取付角度φvib1、及び、第2軸振動センサ20bの取付角度φvib2が異なる。本変形例では特に、第1軸振動センサ20aの取付角度φvib1、及び、第2軸振動センサ20bの取付角度φvib2が、互いに90度異なる場合が例示されている。
【0037】
続いて上記構成のラビング位置同定装置100によって実施可能なラビング位置同定方法について説明する。
図6は他の実施形態に係るラビング位置同定方法を示すフローチャートである。
【0038】
まずラビング判定部32は、前述のステップS100と同様に、ラビングの有無を判定する(ステップS200)。ラビング判定部32においてラビングが有ると判定された場合(ステップS200:YES)、ラビング位置同定部34は、AEセンサ10で検出されたAE信号、第1軸振動センサ20a及び第2軸振動センサ20bで検出された軸振動信号をそれぞれ取得する(ステップS201)。
【0039】
ここで
図7は
図6のステップS201で取得されたAEセンサ10で検出されたAE信号、第1軸振動センサ20a及び第2軸振動センサ20bで検出された軸振動信号の一例である。第1軸振動センサ20aで検出された軸振動信号は、第2軸振動センサ20bで検出された軸振動信号と所定の位相差を有する。当該位相差は、第1軸振動センサ20aの取付角度φvib1、及び、第2軸振動センサ20bの取付角度φvib2に対応する。
【0040】
続いてラビング位置同定部34は、ステップS201で取得した軸振動信号に基づいて、回転部4の軸振動軌道を求める(ステップS202)。軸振動軌道は、第1軸振動センサ20aで検出された軸振動信号と、第2軸振動センサ20bで検出された軸振動信号とに基づいて、オービット線
図Foを作成することにより求められる。ここで
図8Aは
図6のステップS202で作成されるオービット線
図Foの一例であり、
図8Bは
図8Aのオービット線
図Foから特定される法線方向Dhに基づくラビング周方向位置の同定例である。
図8Aのオービット線
図Foでは、第1軸振動センサ20aの取付方向に対応する第1方向、及び、第2軸振動センサ20bの取付方向に対応する第2方向で規定される平面上において、振れ回り中心O´に対するハイスポット位置Phの軌道Kが、略楕円形状を有することが示されている。
【0041】
続いてラビング位置同定部34は、ステップS201で取得したAE信号に基づいて、AE位相θrubを求める(ステップS203)。ステップS203では、前述のステップS102と同様に、
図7に示すように、AE信号の時間的変化に基づいて特定される包絡線のピークに対応する位相(AE信号の包絡線Lhの回転数同期成分が最大となったときの回転角θ)として特定される。
【0042】
続いてラビング位置同定部34は、
図8Aに示すように、ステップS202で求めた軌道KのうちステップS203で求めたAE位相θrubに対応する位置を通る接線Lsを特定し、更に当該接線Lsの法線方向Dhを求める(ステップS204)。そしてラビング位置同定部34は、
図8Bに示すように、静止部2の中心を通り、法線方向Dhと平行な直線と静止部2との交点Pcとして、ラビングの周方向位置を同定する(ステップS205)。
【0043】
このように本実施形態では、互いに異なる位置に取り付けられた第1軸振動センサ20a及び第2軸振動センサ20bで検出された軸振動信号から作成した軌道K (オービット線
図Fo)に基づいて、ラビングの発生箇所の周方向位置を同定できる。このような同定手法は、例えば、軸方向に垂直な断面上におけるハイスポット位置Phの軌道Kが楕円形状のように略円形状ではない場合においても、好適に周方向位置を同定することができる。
【0044】
続いて
図9は他の実施形態に係るラビング位置同定装置100の構成を示す図である。本実施形態では、ラビング位置同定装置100は軸振動センサ20として、互いに異なる軸方向位置にそれぞれ設置された第3軸振動センサ20c、及び、第4軸振動センサ20dを備える。第3軸振動センサ20c、及び、第4軸振動センサ20dは、それぞれ軸受6a及び6bの軸受箱7a及び7bに設けられる。
【0045】
尚、
図9の例においても
図1と同様に、AEセンサ10と第3軸振動センサ20cとは共通の軸受6a(軸受箱7a)のうち互いに異なる軸方向位置に設置されているが、異なる軸受(例えば一方が軸受6a(軸受箱7a)、他方が軸受6b(軸受箱7b))にそれぞれ設置されていてもよいし、互いに同じ軸方向位置に設置されていてもよい。
【0046】
図10は
図9のラビング位置同定装置100によって実施可能なラビング位置同定方法を示すフローチャートである。尚、本実施形態では、回転機械1の運転時に回転部4に生じる変形が十分に小さく剛体とみなせると仮定する。
【0047】
まずラビング判定部32は、前述のステップS100、S200と同様に、ラビングの有無を判定する(ステップS300)。ラビング判定部32においてラビングが有ると判定された場合(ステップS300:YES)、ラビング位置同定部34は、当該ラビングの回転部4における軸方向位置を推定する(ステップS301)。軸方向位置の推定は、例えば、回転機械1の静止部2及び回転部4の設計仕様に基づいて行ってもよいし(例えば軸方向に沿ったクリアランスDの分布に基づいてラビングが発生しやすい位置を推定)、数値解析により行ってもよいし、又は、クリアランスDを計測可能なセンサ(不図示)の計測結果に基づいて推定してもよい。
【0048】
続いてラビング位置同定部34は、ステップS301で取得したAE信号に基づいて、前述のステップS102と同様に、AE位相θrubを求める(ステップS302)。AE位相θrubは、AE信号の時間的変化に基づいて特定される包絡線Lhのピークに対応する位相(AE信号の包絡線Lhの回転数同期成分が最大となったときの回転角θ)として特定される。
【0049】
続いてラビング位置同定部34は、
図11に示すように、第3軸振動センサ20cで検出される軸振動信号に対応する軸振動ベクトルV1(振幅A、位相α)と、第4軸振動センサ20dで検出される軸振動信号に対応する軸振動ベクトルV2(振幅B、位相β)とを線形補完することにより、軸方向位置における軸振動位相θvibを求める(ステップS303)。具体的には、
図9に示すように、第3軸振動センサ20cからラビング発生位置までの軸方向距離をL1、第4軸振動センサ20dからラビング発生位置までの軸方向距離をL2とすると、ラビング発生位置における軸振動位相θvibは次式
で求められる。ここでαは第3軸振動センサ20cの位置における軸振動の位相遅れであり、βは第4軸振動センサ20dの位置における軸振動の位相遅れであり、k=L1/(L1+L2)である。
【0050】
続いてラビング位置同定部34は、ステップS302で求めたAE位相θrub、及び、ステップS303で求めた軸振動位相θvibの差に基づいて、前述のステップS104と同様に、ラビング発生箇所の周方向位置を同定する(ステップS304)。
【0051】
本実施形態によれば、ラビングが発生している軸方向位置が軸振動センサ20から離れている場合においても、軸方向に沿って異なる位置に設けられた第3軸振動センサ20c及び第4軸振動センサ20dで検出された軸振動信号に基づく軸振動ベクトルの線形補間によって、任意の軸方向位置において、ラビングの周方向位置を好適に同定できる。
【0052】
図12は
図9のラビング位置同定装置100によって実施可能な他のラビング位置同定方法を示すフローチャートである。本実施形態は、回転部4の変形が無視できず剛体モードとして近似できない場合にも適用可能である。
【0053】
まずラビング判定部32は、前述のステップS100、S200、S300と同様に、ラビングの有無を判定する(ステップS400)。ラビング判定部32においてラビングが有ると判定された場合(ステップS400:YES)、ラビング位置同定部34は、ラビング発生時の回転数において励起されうる振動モードを特定する(ステップS401)。例えば、本方法を実施する前に、予めモード解析を実施することにより、回転部4の回転数と、各回転数で励起される振動モードの種類との関係を取得しておき、ステップS401では、ラビング発生時の回転数を当該関係に適用することにより、どの振動モードが励起されうるかが特定される。
【0054】
続いてラビング位置同定部34は、ステップS401で特定された振動モードの数が、互いに異なる軸方向位置に配置された軸振動センサ20の数以下であるか否かを判定する(ステップS402)。本実施形態では、ステップS401で2つの振動モードが特定されることで、ステップS402の条件が満足された場合(振動モードの数と軸振動センサ20の数とが等しい場合)について説明する。
尚、振動モードの数が、互いに異なる軸方向位置に配置された軸振動センサ20の数未満である場合(ステップS402:NO)、以下の同定方法は成立しないため、処理を終了する。
【0055】
振動モードの数が、互いに異なる軸方向位置に配置された軸振動センサ20の数以下である場合(ステップS402:YES)、ラビング位置同定部34は、ステップS401で特定された振動モードごとに、軸振動センサ20の軸方向位置とラビング発生箇所の軸方向位置の振幅比をモード解析より算出する(ステップS403)。ここでステップS403の具体例として、第1振動モードについて、第3軸振動センサ20cにおける振動振幅、第4軸振動センサ20dにおける振動振幅、ラビングの発生箇所における振動振幅の比が1:β1:γ1と算出されるとともに、第2振動モードについて、第3軸振動センサ20cにおける振動振幅、第4軸振動センサ20dにおける振動振幅、ラビング発生箇所における振動振幅の比が1:β2:γ2と算出された場合について説明する。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
以上説明したように本実施形態によれば、回転部4の変形が無視できず剛体モードとして近似できない場合においても、モード解析を用いて、任意の軸方向位置で周方向の接触位置が同定可能である。
【0060】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0061】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0062】
(1)一態様に係る回転機械のラビング位置同定装置は、
固定部(例えば上記実施形態の固定部2)及び回転部(例えば上記実施形態の回転部4)を備える回転機械(例えば上記実施形態の回転機械1)のラビング位置同定装置(例えば上記実施形態のラビング位置同定装置30)であって、
前記回転機械のAE信号を検出するための少なくとも1つのAEセンサ(例えば上記実施形態のAEセンサ10)と、
前記回転部の軸振動信号を検出するための少なくとも1つの軸振動センサ(例えば上記実施形態の軸振動センサ20)と、
前記回転機械にラビングが発生した場合に、前記AE信号の時間的変化に基づいて特定される包絡線のピークに対応するAE位相(例えば上記実施形態のAE位相Rrub)と、前記軸振動信号の時間的変化に基づいて特定される前記回転部のハイスポット位置(例えば上記実施形態のハイスポット位置Ph)に対応する軸振動位相(例えば上記実施形態の軸振動位相θvib)との差に基づいて、前記回転機械におけるラビング発生箇所の周方向位置を同定するためのラビング位置同定部(例えば上記実施形態のラビング位置同定部34)と、
を備える。
【0063】
上記(1)の態様によれば、少数のAEセンサで検出したAE信号と、軸振動センサで検出した軸振動信号とに基づいて、ラビングが発生した周方向位置を好適に同定できる。このような周方向位置の同定には、複雑な構成や演算が不要であり、且つ、ノイズによる影響を受けにくいため、様々な条件下においても、信頼性の高いラビング位置の同定が可能となる。
【0064】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記周方向位置φrubは、基準位置に対する前記軸振動センサの取付位置φvib、前記AE位相θrub及び前記軸振動位相θvibを用いて次式
φrub=φvib+(θrub-θvib)
で表される。
【0065】
上記(2)の態様によれば、AE位相及び軸振動位相との差に基づいて、ラビング発生箇所の周方向位置を好適に同定できる。
【0066】
(3)他の態様では、上記(1)又は(2)の態様において、
前記少なくとも1つの軸振動センサは、前記固定部に設置された前記軸振動センサと前記回転部との間にあるクリアランス(例えば上記実施形態のクリアランスD)の大きさに対応する振幅を有する前記軸振動信号を検出するように構成され、
前記ラビング位置同定部は、前記振幅の時間的変化に含まれる最大ピークに基づいて前記ハイスポット位置を特定する。
【0067】
上記(3)の態様によれば、軸振動センサによって検出される軸振動振動の振幅の時間的変化に基づいて、軸振動位相を求めるために必要なハイスポット位置を好適に特定できる。
【0068】
(4)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記少なくとも1つの軸振動センサは、互いに異なる取付角度を有する第1軸振動センサ(例えば上記実施形態の第1軸振動センサ20a)及び第2軸振動センサ(例えば上記実施形態の第2軸振動センサ20b)を含み、
前記ラビング位置同定部は、前記第1軸振動センサ及び第2軸振動センサでそれぞれ検出された前記軸振動信号に基づいて前記ハイスポット位置の軌道を求め、前記軌道及び前記AE位相に基づいて前記周方向位置を同定する。
【0069】
上記(4)の態様によれば、複数の軸振動センサで検出された軸振動信号に基づいて求められるハイスポット位置の起動と、AEセンサで検出されたAE信号に基づくAE位相とに基づいて、ハイスポット位置の軌道が例えば楕円のような非円形状を有する場合においても、ラビング発生箇所の周方向位置を好適に同定できる。
【0070】
(5)他の態様では、上記(4)の態様において、
前記周方向位置同定部は、前記軌道上にプロットされた前記AE位相に対応する点を通る接線の法線方向により前記周方向位置を同定する。
【0071】
上記(5)の態様によれば、軌道上にAE位相に対応する点をプロットし、当該点を通る接線の法線方向を求めることにより、周方向位置を同定できる。
【0072】
(6)他の態様では、上記(1)から(5)のいずれか一態様において、
前記少なくとも1つの軸振動センサは、互いに異なる軸方向位置にそれぞれ設置された第3軸振動センサ(例えば上記実施形態の第3軸振動センサ20c)及び第4軸振動センサ(例えば上記実施形態の第4軸振動センサ20d)を含み、
前記周方向位置同定部は、前記第3軸振動センサ及び前記第4軸振動センサでそれぞれ検出された前記軸振動信号に基づく軸振動ベクトルの線形補間により、前記軸方向位相を算出する。
【0073】
上記(6)の態様によれば、異なる軸方向位置にある2つの軸振動センサで検出された軸振動信号に基づく軸振動ベクトルを線形補間することにより、2つの軸振動センサの間にある軸方向位置にラビング発生箇所がある場合にも、周方向位置を適切に同定できる。
【0074】
(7)他の態様では、上記(1)から(6)のいずれか一態様において、
前記少なくとも1つの軸振動センサは、互いに異なる軸方向位置にそれぞれ設置された第5軸振動センサ(例えば上記実施形態の第5軸振動センサ20e)及び第6軸振動センサ(例えば上記実施形態の第6軸振動センサ20f)を含み、
前記ラビング位置同定部は、モード解析で求められた振動モードごとに、前記第5軸振動センサ、前記第6軸振動センサ及び前記ラビングの発生箇所における振動振幅比を規定する係数を用いて、前記第5軸振動センサ及び前記第6軸振動センサにそれぞれ対応する軸振動ベクトルの線形和として前記ラビングの発生箇所に対応する軸振動ベクトルを求めることにより前記周方向位置を同定する。
【0075】
上記(7)の態様によれば、振動モードごとに各軸振動センサとラビング発生箇所における振動振幅比に対応する係数を用いて、各軸振動センサに対応する軸振動ベクトルの線形和として、ラビング発生箇所における軸振動ベクトルを求めることで、ラビングの周方向位置を同定できる。このような周方向位置の同定は、回転機械の運転時に回転部が例えばねじり等の変形を伴うことで剛体とみなせない場合においても好適に行うことができる。
【0076】
(8)他の態様では、上記(1)から(7)のいずれか一態様において、
前記軸振動センサ及び前記AEセンサは、前記回転部を前記静止部に対して回転可能に支持する軸受(例えば上記実施形態の軸受6)が収容される軸受箱(例えば上記実施形態の軸受箱7)に設けられる。
【0077】
上記(8)の態様によれば、軸振動センサ及びAEセンサが回転軸を回転可能に支持する軸受が収容される軸受箱に設けられることで、ラビングから軸振動やAE波を適切に検出できる。
【0078】
(9)他の態様では、上記(1)から(8)のいずれか一態様において、
前記回転機械は蒸気タービンである。
【0079】
上記(9)の態様によれば、蒸気タービンで発生したラビングの周方向位置を好適に同定できる。
【0080】
(10)一態様に係る回転機械のラビング位置同定方法は、
固定部(例えば上記実施形態の固定部2)及び回転部(例えば上記実施形態の回転部4)を備える回転機械(例えば上記実施形態の回転機械1)のラビング位置同定方法であって、
前記回転機械のAE信号を検出する工程と、
前記回転部の軸振動信号を検出する工程と、
前記回転機械にラビングが発生した場合に、前記AE信号の時間的変化に基づいて特定される包絡線のピークに対応するAE位相(例えば上記実施形態のAE位相θrub)と、前記軸振動信号の時間的変化に基づいて特定される前記回転部のハイスポット位置(例えば上記実施形態のハイスポット位置Ph)に対応する軸振動位相との差に基づいて、前記回転機械におけるラビング発生箇所の周方向位置を同定する工程と、
を備える。
【0081】
上記(10)の態様によれば、少数のAEセンサで検出したAE信号と、軸振動センサで検出した軸振動信号とに基づいて、ラビングが発生した周方向位置を好適に同定できる。このような周方向位置の同定には、複雑な構成や演算が不要であり、且つ、ノイズによる影響を受けにくいため、様々な条件下においても、信頼性の高いラビング位置の同定が可能となる。
【符号の説明】
【0082】
1 回転機械
2 静止部
3 供給部
4 回転部
4a 動翼
5 排出部
6a,6b 軸受
7a,7b 軸受箱
10 AEセンサ
20 軸振動センサ
30 演算部
32 ラビング判定部
34 ラビング位置同定部
100 ラビング位置同定装置
D クリアランス
Dh 法線方向
Fo オービット線図
K 軌道
Lh 包絡線
Ls 接線
Ph ハイスポット位置