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特開2022-161106水素処理システムおよび水素処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161106
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】水素処理システムおよび水素処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 9/06 20060101AFI20221014BHJP
   G21F 9/02 20060101ALI20221014BHJP
   G21C 19/317 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
G21C9/06
G21F9/02 541G
G21F9/02 541H
G21C19/317
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065657
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹山 大基
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正幸
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 峻史
(72)【発明者】
【氏名】桝田 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】鴻上 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰
(72)【発明者】
【氏名】武田 知弥
(57)【要約】
【課題】原子炉格納容器における被処理ガスの状態に応じて水素を効率的に処理することができる水素処理技術を提供する。
【解決手段】水素処理システム1は、水素と接触することで反応を示す反応材34が収容され、処理の対象となる被処理ガスに含まれる水素を除去する反応容器32と、原子炉格納容器5から被処理ガスを抽出し、反応容器32に供給する供給ライン20と、反応容器32を通過した被処理ガスを原子炉格納容器5に排出する排出ライン21と、排出ライン21と供給ライン20とを接続し、反応容器32を通過したガスを再び反応容器32に戻して循環させる循環ライン22と、反応容器32に供給されるガスの供給量または供給温度の少なくとも一方の制御を行う制御部33を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と接触することで反応を示す反応材が収容され、処理の対象となる被処理ガスに含まれる前記水素を除去する反応容器と、
原子炉格納容器から前記被処理ガスを抽出し、前記反応容器に供給する供給ラインと、
前記反応容器を通過した前記被処理ガスを前記原子炉格納容器に排出する排出ラインと、
前記排出ラインと前記供給ラインとを接続し、前記反応容器を通過したガスを再び前記反応容器に戻して循環させる循環ラインと、
前記反応容器に供給される前記ガスの供給量または供給温度の少なくとも一方の制御を行う制御部と、
を備える、
水素処理システム。
【請求項2】
前記循環ラインにより循環される前記ガスは、前記被処理ガスまたは保管時に前記反応容器に充填されている不活性ガスの少なくとも一方である、
請求項1に記載の水素処理システム。
【請求項3】
前記ガスを前記反応容器に向けて流すブロアと、
前記反応容器の上流側に設けられた流量調整バルブと、
を備え、
前記制御部は、前記ブロアの吐出量と前記流量調整バルブの開度の制御により、前記反応容器に供給される前記ガスの供給量の制御を行う、
請求項1または請求項2に記載の水素処理システム。
【請求項4】
前記ブロアを通過する前記ガスの温度を検出するガス温度センサを備え、
前記制御部は、前記ガス温度センサで検出した温度に基づいて、前記ブロアを通過する前記ガスの温度を前記ブロアの耐熱温度以下に制御する、
請求項3に記載の水素処理システム。
【請求項5】
前記反応容器の上流側に設けられた加熱ヒータと、
前記反応容器の下流側に設けられた冷却器と、
を備え、
前記制御部は、前記加熱ヒータの加熱量と前記冷却器の冷却量の制御により、前記反応容器に供給される前記ガスの供給温度の制御を行う、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の水素処理システム。
【請求項6】
前記循環ラインに設けられた循環バルブを備え、
前記制御部は、起動時に、前記循環バルブを開放し、保管時に前記反応容器に充填されている不活性ガスを前記循環ラインにより循環させる制御を行う、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の水素処理システム。
【請求項7】
前記供給ラインの前記原子炉格納容器側に設けられた供給バルブと、
前記排出ラインの前記原子炉格納容器側に設けられた排出バルブと、
を備え、
前記制御部は、前記起動時に、前記供給バルブと前記排出バルブとを閉鎖した状態で、保管時に前記反応容器に充填されている不活性ガスを循環させる制御を行う、
請求項6に記載の水素処理システム。
【請求項8】
前記制御部は、前記反応材が予め設定された処理温度に達した後に、前記供給バルブと前記排出バルブとを開放する制御を行い、前記反応容器に供給される前記被処理ガスの供給量または供給温度の少なくとも一方の制御を行う、
請求項7に記載の水素処理システム。
【請求項9】
前記反応容器を通過する前記ガスの温度を検出する処理温度センサを備え、
前記制御部は、前記処理温度センサで検出した温度に基づいて、前記反応容器に供給される前記ガスの供給温度を予め設定された処理温度の範囲に制御する、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の水素処理システム。
【請求項10】
前記制御部は、前記処理温度センサによる温度の検出に基づいて、前記反応材の温度が予め設定された処理温度を超える場合に、前記反応容器に対する前記被処理ガスの供給量を低減させる制御を行う、
請求項9に記載の水素処理システム。
【請求項11】
前記制御部は、前記処理温度センサによる温度の検出に基づいて、前記反応材の温度が予め設定された処理温度を超える場合に、前記反応容器に対する前記被処理ガスの供給温度を低減させる制御を行う、
請求項9または請求項10に記載の水素処理システム。
【請求項12】
前記制御部は、前記処理温度センサによる温度の検出に基づいて、前記反応材の温度が予め設定された処理温度を超える場合に、前記反応容器を通過した前記被処理ガスの少なくとも一部を前記循環ラインにより再び前記反応容器に戻す制御を行う、
請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の水素処理システム。
【請求項13】
前記供給ラインと前記排出ラインとの間で熱交換を行う熱交換器を備える、
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の水素処理システム。
【請求項14】
前記供給ラインで前記熱交換器と並列を成すように設けられた熱交換器用バルブを備え、
前記制御部は、前記熱交換器用バルブの開度の制御により、前記反応容器に供給される前記ガスの供給量を維持した状態で、前記熱交換器に流れ込む前記ガスの流量を制御する、
請求項13に記載の水素処理システム。
【請求項15】
供給ラインを用いて、原子炉格納容器から処理の対象となる被処理ガスを抽出し、水素と接触することで反応を示す反応材が収容された反応容器に供給するステップと、
前記反応容器を用いて、前記被処理ガスに含まれる前記水素を除去するステップと、
排出ラインを用いて、前記反応容器を通過した前記被処理ガスを前記原子炉格納容器に排出するステップと、
前記排出ラインと前記供給ラインとを接続する循環ラインを用いて、前記反応容器を通過したガスを再び前記反応容器に戻して循環させるステップと、
制御部を用いて、前記反応容器に供給される前記ガスの供給量または供給温度の少なくとも一方の制御を行うステップと、
を含む、
水素処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水素処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントで過酷事故が生じると大量の水素が発生する。例えば、冷却材である水が放射線で分解され、水素ガスと酸素ガスが発生する。また、燃料被覆管の温度が上昇すると、燃料被覆管の材料であるジルコニウムと水蒸気との間で反応が生じ、水素ガスが発生する。そこで、水素ガスが可燃状態となる事態を防止するために、金属酸化物を反応材として用いて水素を除去する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-203789号公報
【特許文献2】特開2018-112480号公報
【特許文献3】特開2016-8839号公報
【特許文献4】特開2018-146460号公報
【特許文献5】特表2016-540236号公報
【特許文献6】特開2014-109522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
反応材が効率的に反応を示すためには、反応材が適切な温度範囲に維持される必要がある。例えば、反応材の温度が低いと、水素との反応が抑制されてしまう。一方、反応材の温度が高いと、水素との反応が促進されるが、反応材に供給されるガスの水素濃度が高いと、反応が過剰に促進され、反応材が高温になり過ぎるおそれがある。特に、過酷事故時には、原子炉格納容器で生じる水素を含むガスの温度と濃度が刻々と変化するため、状況に応じた適切な処理が必要である。
【0005】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、原子炉格納容器における被処理ガスの状態に応じて水素を効率的に処理することができる水素処理技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る水素処理システムは、水素と接触することで反応を示す反応材が収容され、処理の対象となる被処理ガスに含まれる前記水素を除去する反応容器と、原子炉格納容器から前記被処理ガスを抽出し、前記反応容器に供給する供給ラインと、前記反応容器を通過した前記被処理ガスを前記原子炉格納容器に排出する排出ラインと、前記排出ラインと前記供給ラインとを接続し、前記反応容器を通過したガスを再び前記反応容器に戻して循環させる循環ラインと、前記反応容器に供給される前記ガスの供給量または供給温度の少なくとも一方の制御を行う制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態により、原子炉格納容器における被処理ガスの状態に応じて水素を効率的に処理することができる水素処理技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】水素処理システムが設置された原子炉建屋を示す断面図。
図2】第1実施形態の水素処理システムを示す構成図。
図3】反応容器の内部構造を示す斜視図。
図4】反応管の内部構造を示す断面図。
図5】水素処理方法を示すフローチャート。
図6】第2実施形態の水素処理システムを示す構成図。
図7】第3実施形態の反応容器の内部構造を示す斜視図。
図8】第4実施形態の反応管の内部構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、水素処理システムおよび水素処理方法の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態の水素処理システムおよび水素処理方法について図1から図5を用いて説明する。
【0010】
図1の符号1は、第1実施形態の水素処理システムである。この水素処理システム1は、原子力プラントで過酷事故時に発生する大量の水素ガスを除去するために設けられる。
【0011】
原子力プラントに設けられている原子炉建屋2の内部には、原子炉3と、この原子炉3を収容する圧力容器4と、この圧力容器4を格納する原子炉格納容器5とが設けられている。原子炉格納容器5の内部には、圧力容器4を包囲する上部ドライウェル6と下部ドライウェル7が設けられている。
【0012】
さらに、原子炉格納容器5の下部には、ウェットウェル8が設けられている。このウェットウェル8には、内部に水を貯蔵したサプレッションプール9が設けられている。このサプレッションプール9は、上部ドライウェル6とベント管10を介して接続されている。
【0013】
水素処理システム1は、原子炉建屋2の近傍に設置され、原子炉建屋2の内部まで延びる複数の配管11を介して原子炉格納容器5に接続される。この水素処理システム1は、トラックなどの車両で移動させることができる可搬型の装置となっている。なお、水素処理システム1は、原子炉建屋2の内部に恒常的に設置される装置でも良い。
【0014】
図1では、改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の原子炉建屋2を例示している。なお、本実施形態は、その他の態様の原子炉建屋2でも適用できる。例えば、原子炉格納容器とサプレッションプール(トーラス室)とが別体として設けられた沸騰水型原子炉(BWR)に本実施形態を適用しても良いし、加圧水型原子炉(PWR)に本実施形態を適用しても良い。
【0015】
原子炉建屋2は、鉄筋コンクリート製の建築物である。その内部には、原子炉建屋2の躯体12の一部を利用して原子炉格納容器5が形成されている。なお、原子炉格納容器5の内面には、鋼製のライナー13(内張り)が設けられている。
【0016】
圧力容器4は、原子炉3(炉心)を収容しており、内部の高温高圧に耐えながら外部との間に冷却水などを流通させる構造物である。また、圧力容器4は、原子炉3で発生した放射性物質および放射線が漏れないように外部と遮断する機能も有している。
【0017】
また、原子炉建屋2のオペレーションフロア14には、使用済の核燃料が保管される使用済燃料プール15が設けられている。原子炉格納容器5の開放などのメンテナンスに用いるクレーン16などの装置が設けられている。
【0018】
原子力プラントで過酷事故が発生すると、原子炉格納容器5の内部で大量の水素が発生する。そして、圧力容器4に接続された主蒸気管(図示略)などが破断した場合、圧力容器4の内部の上部ドライウェル6に、高温で高圧の一次冷却材(水)が放出され、上部ドライウェル6の圧力と温度が急激に上昇する。原子炉格納容器5から流出した水素は、上部ドライウェル6の気体と混合して、ベント管10を通してサプレッションプール9で吸収される。
【0019】
また、圧力容器4には、非常用炉心冷却系によりサプレッションプール9の水が注入されて原子炉3が冷却される。しかし、この冷却水は、原子炉3から崩壊熱を吸収し、破断した配管の破断口から上部ドライウェル6へ流出する。そして、上部ドライウェル6の圧力と温度が上昇し、ウェットウェル8よりも高い圧力と温度となる。
【0020】
このような長期的な事象下で、原子炉3では、冷却材である水が放射線分解され、水素ガスと酸素ガスが発生する。さらに、燃料被覆管(図示略)の温度が上昇する場合には、水蒸気と燃料被覆管の材料であるジルコニウムとの間で、Metal-Water反応が生じ、短時間で水素ガスが発生する。
【0021】
こうして発生する水素ガスが、圧力容器4の破断した配管の破断口から原子炉格納容器5に放出され、原子炉格納容器5の内部の水素ガス濃度が次第に上昇する。また、水素ガスは不凝縮性であるから、原子炉格納容器5の圧力も上昇する。
【0022】
水素ガス濃度が4vol%、かつ酸素濃度が5vol%以上に上昇した場合、即ち、可燃性ガスとしての水素ガスの濃度が可燃限界を超えた場合、気体は可燃状態となる。さらに、水素ガス濃度が上昇すると水素爆発が発生する可能性が生じる。
【0023】
従来、可燃性ガスである水素ガスが可燃状態となる事態を防止する有効な対策としては、例えば、原子炉格納容器5の内部を窒素ガスで置換し、酸素濃度を低く維持するものがある。このような対策を講じることにより、Metal-Water反応で大量に発生する水素ガスに対しても、原子炉格納容器5の内部が可燃性雰囲気とならずに済み、安全性が達成される。
【0024】
また、他の対策例としては、再結合器およびブロアを有する可燃性ガス濃度抑制装置を原子炉格納容器5の外部に設置することである。この可燃性ガス濃度抑制装置は、原子炉格納容器5の内部の気体を外部に吸引し、昇温させて水素ガスと酸素ガスを再結合させて水に戻し、残りの気体を冷却してから原子炉格納容器5に戻すものである。この可燃性ガス濃度抑制装置を設置することで、原子炉格納容器5の内部の可燃性ガスの濃度上昇が抑制される。
【0025】
さらに、別の対策例としては、水素の酸化触媒を用いて再結合反応を促進させる触媒式再結合装置を原子炉格納容器5の内部に設置するもの、活性金属を用いて水素を処理するものなどがある。
【0026】
水素と酸素の再結合による従来の水素処理技術では、低酸素状態で水素の除去を行うことが困難である。Metal-Water反応で大量の水素が発生する事象下では、特に困難である。水素除去ができない場合、原子炉格納容器5の内部の圧力を下げることができず、過酷事故を収束に導くことが困難となる。この場合、原子炉格納容器5の内部の雰囲気を環境に放出し、原子炉格納容器5の圧力を低減し、事故を収束させることが図られる。しかし、放射性廃棄物を環境に放出するリスクを負うことになる。
【0027】
そこで、酸素濃度が低く、再結合を行うのが難しい低酸素状態下においても、水素を含むガス(以下「被処理ガス」と称する。)から水素を除去する技術として、水素吸蔵合金を利用するものがある。
【0028】
しかし、水素吸蔵合金が吸蔵する水素の吸蔵量は、その合金重量の数%程度に過ぎない。例えば、Ti-Feの場合、吸蔵する水素の重量は、合金重量の約1.8%と低い。そのため、水素吸蔵合金を用いて、過酷事故のような大量に水素が発生する事態に対処するためには、膨大な量の水素吸蔵合金が必要となり、現実的に適用が困難であるという課題がある。
【0029】
また、被処理ガスから水素を除去する別な方法として、水素/酸素反応を促進する触媒を下段に設置するとともに、水素/窒素反応を促進する触媒を上段に設置して、水素を除去する技術も提案されている。しかし、過酷事故の発生から数時間の間は、原子炉格納容器5の内部の酸素が少ない状態である。そのため、触媒を処理材とする水素除去技術は、必ずしも充分な効果を発揮し得ない可能性があるという課題がある。
【0030】
一方、水素を除去処理する処理材、つまり水素との反応材として、複数の酸化数を取り得る金属酸化物中の高次の酸化数を持つ材料を用いて、水素を酸化させることによって水素を除去する技術が提案されている。例えば、酸化銅(CuO)、過酸化マンガン(Mn)、酸化コバルト(Co)、酸化ニッケル(NiO)などの金属酸化物、過酸化物イオン(O 2-)と金属とで構成される塩である金属過酸化物などの材料を用いる。
【0031】
この技術では、反応材として、金属過酸化物を用いる場合には勿論のこと、金属酸化物を用いる場合においても、金属酸化物に含まれる酸素と水素ガスとが結合して水(HO)を生成することできる。そのため、外部からの酸素を必要とすることなく、水素を除去することができる利点がある。
【0032】
一般的には、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブテン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、カドミウム(Cd)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ニオブ(Nb)などから選択される金属過酸化物が反応材として有効である。
【0033】
ただし、反応材は、金属過酸化物の種類によってその性質が異なる。例えば、水素との反応熱が大きいため、水素と反応する温度が高くなる性質、水素との反応速度が低いため、水素処理に時間を要する性質、低温では水素と良好に反応しない性質など様々である。
【0034】
また、水素と金属過酸化物の化学反応は、金属過酸化物の種類または被処理ガスの組成によって、良好に化学反応が発生する温度が異なる。例えば、被処理ガスの水素濃度または水蒸気濃度によって、良好に化学反応が発生する温度が異なる。
【0035】
過酷事故の状況または時間経過に応じて、原子炉格納容器5の温度、圧力、水素濃度などが刻々と変化する。特に、被処理ガスの温度と組成は刻々と変化する。そのため、金属過酸化物を反応材として用いる場合には、良好に化学反応を起こす適切な温度する必要がある。
【0036】
例えば、反応材の温度が充分に温まっていない場合は、水素との化学反応が起こらないか、反応が小さく充分な量の水素を処理できない可能性がある。一方、反応材が充分に温められれば、水素との化学反応が発生し、効率よく水素除去が行える。そこで、被処理ガスの供給により反応材を温めたり、被処理ガスの供給前に反応材を温めたりしておく必要がある。
【0037】
しかし、良好に化学反応が発生したとしても、この反応は発熱反応であるため、処理材自身または処理材を封入した容器の温度が上昇してしまうおそれがある。処理材を封入した容器の過剰な温度上昇は、この容器の強度を低下させるおそれがあるため、好ましくない。そこで、供給する被処理ガスの流量を抑制したり、被処理ガスの水素濃度を減らしたりする反応抑制策が求められる。
【0038】
本実施形態では、過酷事故時の原子炉格納容器5における被処理ガスの状態に応じて水素を効率的に処理することができる水素処理システム1を提供する。特に、過酷事故時に原子炉格納容器5の内部における被処理ガスの温度、圧力、水素濃度、水蒸気濃度が変化し、被処理ガスの温度と組成が変化しても、良好に化学反応を起こし、継続して運転することができる水素処理システム1を提供する。
【0039】
図2に示すように、水素処理システム1は、供給ライン20と排出ライン21と循環ライン22と供給バルブ23と排出バルブ24と循環バルブ25と流量調整バルブ26と加熱ヒータ27と冷却器28とブロア29とガス温度センサ30と処理温度センサ31と反応容器32と制御部33とを備える。なお、図2中の一点鎖線の矢印は、それぞれのライン20~22において、ガスが流れる向きを示している。
【0040】
水素処理システム1の内部は、過酷事故が発生していない平常時、つまり、保管時に不活性ガスが充填されている。例えば、それぞれのライン20~22と、それぞれのバルブ23~26と、加熱ヒータ27と、冷却器28と、ブロア29と、反応容器32のそれぞれの内部には不活性ガスが充填されている。
【0041】
この不活性ガスが充填されることにより、長期間に亘り水素処理システム1が使用されていなくても、内部が腐食したり劣化したりしないで済む。なお、不活性ガスは、窒素ガスを例示する。また、不活性ガスは、酸素濃度と湿度を低下させた空気(所定の雰囲気)でも良い。
【0042】
以下の説明において、単にガスと称した場合には、被処理ガスまたは不活性ガスの少なくとも一方を含むものとする。
【0043】
供給ライン20は、原子炉格納容器5から反応容器32まで延びている。この供給ライン20は、原子炉格納容器5から被処理ガスを抽出し、反応容器32に供給する配管である。
【0044】
排出ライン21は、反応容器32から原子炉格納容器5まで延びている。この排出ライン21は、反応容器32を通過した被処理ガスを原子炉格納容器5の内部に排出する配管である。
【0045】
循環ライン22は、排出ライン21と供給ライン20とを接続し、反応容器32を通過したガスを再び反応容器32に戻して循環させる配管である。循環ライン22の上流側の端部は、排出ライン21の冷却器28と排出バルブ24との間に接続されている。循環ライン22の下流側の端部は、供給ライン20のブロア29と供給バルブ23との間に接続されている。
【0046】
供給バルブ23は、供給ライン20の入口部分であって、原子炉格納容器5との接続部分に設けられている。過酷事故時に、この供給バルブ23が開放されることで、原子炉格納容器5から被処理ガスが反応容器32に供給される。供給バルブ23の開度を調整することで、原子炉格納容器5から反応容器32に供給される被処理ガスの供給量を調整することができる。
【0047】
排出バルブ24は、排出ライン21の出口部分であって、原子炉格納容器5との接続部分に設けられている。過酷事故時に、この排出バルブ24が開放されることで、反応容器32から処理済の被処理ガスが原子炉格納容器5の内部に排出される。排出バルブ24の開度を調整することで、原子炉格納容器5に排出される被処理ガスの排出量を調整することができる。
【0048】
循環バルブ25は、循環ライン22に設けられている。この循環ライン22が開放されることで、排出ライン21を流れているガスが供給ライン20に向けて流れるようになる。供給バルブ23の開度を調整することで、反応容器32を循環するガスの循環量(供給量)を調整することができる。
【0049】
流量調整バルブ26は、反応容器32の上流側に設けられている。この流量調整バルブ26は、供給ライン20におけるブロア29と加熱ヒータ27との間に設けられている。この流量調整バルブ26の開度を調整することで、反応容器32に供給されるガスの供給量を調整することができる。
【0050】
加熱ヒータ27は、反応容器32に供給されるガスを加熱する装置である。この加熱ヒータ27は、反応容器32の上流側の供給ライン20に設けられている。例えば、加熱ヒータ27は、供給ライン20と循環ライン22との接続箇所よりも下流側であり、かつブロア29の吐出側と反応容器32の入口側の間に設けられている。
【0051】
冷却器28は、反応容器32から排出されたガスを冷却する装置である。この冷却器28は、反応容器32の下流側の排出ライン21に設けられている。この冷却器28は、循環ライン22を介して反応容器32に供給されるガスの供給温度を適切に調整するために設けられている。さらに、冷却器28は、ブロア29に供給されるガスの温度が高温になり過ぎないようにする調整するために設けられている。
【0052】
本実施形態では、冷却器28が排出ライン21に設けられているが、この冷却器28は、反応容器32の出口側とブロア29の吸込側の間であれば、いずれの部分に設けられても良い。例えば、冷却器28が、循環ライン22または供給ライン20に設けられても良い。
【0053】
ブロア29は、ガスを反応容器32に向けて流す装置である。このブロア29は、供給ライン20に設けられている。なお、ブロア29は、加熱ヒータ27および流量調整バルブ26よりも上流側に設けられている。
【0054】
ガス温度センサ30は、ブロア29を通過するガスの温度を検出する。このガス温度センサ30は、供給ライン20におけるブロア29の入口側に設けられている。
【0055】
処理温度センサ31は、反応容器32を通過するガスの温度を検出する。この処理温度センサ31は、反応容器32の内部に設けられている。なお、処理温度センサ31は、反応容器32の入口側に設けられても良いし、反応容器32の出口側に設けられても良い。いずれの箇所に設けられても、反応容器32を通過するガスの温度の検出または予測を行うことができる。
【0056】
反応容器32は、水素と接触することで反応を示す反応材34(図4)が収容され、処理の対象となる被処理ガスに含まれる水素を除去する装置である。本実施形態では、金属酸化物を反応材34として用い、水素を酸化させることによって水素を除去(消費)する。金属酸化物自体に含まれる酸素を利用するため、外部の酸素を必要とすることなく被処理ガスから水素を除去することができる。金属酸化物に含まれる酸素(O)と水素(H)とが結合して水(HO)が生成される。
【0057】
図3に示すように、反応容器32は、供給ライン20と排出ライン21とに連結されている。反応容器32の内部には、複数本の管状の反応管35が収容されている。それぞれの反応管35には、複数個の反応材34が収容されている。反応管35は、反応容器32の内部に設けられた支持板36により支持されている。反応管35は、反応容器32に導入されるガスが通気可能な状態で支持されている。
【0058】
それぞれの反応管35が個々に独立した1つの流路を形成している。図3の例では、反応容器32の下部に接続された供給ライン20からガスが導入される。そして、ガスがそれぞれの反応管35を通過し、反応容器32の上部に接続された排出ライン21から排出される。
【0059】
図4に示すように、反応管35の上下の開口には、金網などの通気可能な蓋部材37が取り付けられている。これらの蓋部材37により反応材34が保持されている。1つの反応管35は、下方の開口を流入口とし、上方の開口を流出口とする1つの流路を形成している。
【0060】
反応管35の内部で生じる水素と反応材34との反応は、いくつかの制御因子により活性化されたり抑制化されたりする。特に、化学反応を発生させるためには、反応材34が一定以上の温度に温められている必要がある。また、反応材34と被処理ガスの反応は、発熱反応であるため、少なくとも一部の反応材34が化学反応を開始すれば、その発熱によるエネルギーが周辺の反応材34に伝わり、この周辺の反応材34が温められる。これが連鎖的に広がり、全ての反応材34に反応が広がることが期待できる。
【0061】
図2に示すように、制御部33は、反応容器32に供給されるガスの供給量または供給温度の少なくとも一方の制御を行う機器である。この制御部33は、供給バルブ23と排出バルブ24と循環バルブ25と流量調整バルブ26と加熱ヒータ27と冷却器28とブロア29と反応容器32とを制御する。また、制御部33は、ガス温度センサ30と処理温度センサ31とから検出信号を受信する。制御部33は、これらの検出信号と過酷事故の経過時間に基づいて、各種の装置を制御する。
【0062】
本実施形態の制御部33は、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の水素処理方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0063】
制御部33の各構成は、必ずしも1つのコンピュータに設ける必要はない。例えば、ネットワークで互いに接続された複数のコンピュータを用いて1つの制御部33を実現しても良い。
【0064】
なお、本実施形態では、制御部33が自動的に各種の装置を制御する態様を例示するが、その他の態様であっても良い。例えば、制御部33は、水素処理システム1の管理者(ユーザ)の入力操作を受け付けて各種の装置を制御するようにしても良い。つまり、制御部33は、管理者の手動操作により各種の装置を制御するための遠隔操作部でも良い。また、各種の判定を管理者が行っても良い。例えば、各種のバルブ23~26の開閉のタイミングを、制御部33が管理者から受け付けた入力操作に基づいて決定しても良い。
【0065】
次に、水素処理システム1が実行する水素処理方法について図5のフローチャートを用いて説明する。この水素処理システム1の動作によって受動的に生じる作用効果を含めて説明する。なお、図2に示す構成図を適宜参照する。
【0066】
まず、保管時には、それぞれのライン20~22と反応容器32の内部に不活性ガスが充填されるとともに、全てのバルブ23~26が閉鎖されている。なお、可搬型の水素処理システム1の場合は、供給ライン20および排出ライン21を原子炉格納容器5から切り離した状態としても良い。そして、原子炉建屋2から離れた場所に水素処理システム1を保管しても良い。過酷事故の発生時には、水素処理システム1を原子炉建屋2まで搬送し、供給ライン20および排出ライン21を所定の配管11(図1)を用いて原子炉格納容器5に接続する。
【0067】
図5に示すように、まず、ステップS11において、制御部33は、水素処理システム1の起動時に、不活性ガスを反応容器32に循環させる処理を行う。ここで、制御部33は、ブロア29と加熱ヒータ27と冷却器28を起動する。さらに、制御部33は、供給バルブ23および排出バルブ24を閉鎖した状態で、循環バルブ25および流量調整バルブ26を開放する。そして、不活性ガスを循環ライン22により循環させる制御を行う。
【0068】
不活性ガスは、ブロア29の駆動により流動される。例えば、不活性ガスが、反応容器32から排出ライン21に流出し、循環ライン22を介して供給ライン20に導かれる。そして、再び反応容器32に戻る流れが生じる。
【0069】
次のステップS12において、制御部33は、反応容器32に供給される不活性ガスの供給量および供給温度の制御を行う。ここで、制御部33は、加熱ヒータ27の加熱量を制御することで、反応容器32に供給される不活性ガスの供給温度の制御を行う。このようにすれば、過酷事故の発生初期に、不活性ガスを循環させることにより反応材34の温度の調整を行うことができる。例えば、加熱された不活性ガスを反応容器32に供給することで、反応材34を昇温させる。特に、水素濃度が高い被処理ガスを反応容器32に流し込む前に、反応材34を温めて適切な温度に調整することができる。
【0070】
なお、供給バルブ23および排出バルブ24を閉鎖した状態で、不活性ガスを循環ライン22により循環させる制御を行うことで、水素処理システム1の起動時、つまり過酷事故の発生初期に、原子炉格納容器5から水素濃度が高い被処理ガスが反応容器32に流れ込まないようになるため、反応材34の温度が急激に上昇してしまうことを抑制することができる。
【0071】
また、制御部33は、ブロア29の吐出量と流量調整バルブ26の開度の制御により、反応容器32に供給される不活性ガスの供給量の制御を行う。このようにすれば、ブロア29から反応容器32に供給される不活性ガスの供給量を適切に制御できる。
【0072】
また、制御部33は、処理温度センサ31で検出した温度に基づいて、加熱ヒータ27の加熱量を制御し、反応容器32に供給される不活性ガスの供給温度が、予め設定された処理温度の範囲になるように制御する。このようにすれば、反応容器32を通過する不活性ガスの熱により、反応材34の温度を、水素を効率的に処理することができる処理温度にすることができる。つまり、不活性ガスと反応材34との間で熱交換が行われ、反応材34を温めることができる。
【0073】
本実施形態の処理温度は、200~400℃の範囲が好ましい。例えば、制御部33は、反応容器32を通過する不活性ガスの温度が、200℃以上になるまで不活性ガスの循環を継続する。なお、反応容器32の内部の少なくとも一部の反応材34が200℃以上に昇温されれば良い。
【0074】
また、制御部33は、冷却器28の冷却量の制御により、反応容器32から排出された不活性ガスの温度の制御を行う。ここで、制御部33は、ガス温度センサ30で検出した温度に基づいて、ブロア29を通過する不活性ガスの温度が、ブロア29の耐熱温度以下になるように、冷却器28の制御を行う。なお、ブロア29の耐熱温度は、例えば、100℃である。このようにすれば、ブロア29が高温になり過ぎることを抑制し、ブロア29を保護することができる。
【0075】
次のステップS13において、制御部33は、処理温度センサ31で検出した温度に基づいて、反応材34が処理温度に達したか否かを判定する。ここで、反応材34が処理温度に達していない場合(ステップS13でNOの場合)は、前述のステップS11に戻る。一方、反応材34が処理温度に達した場合(ステップS13でYESの場合)は、次のステップS14に進む。
【0076】
なお、本実施形態では、ステップS13において、反応材34が処理温度に達したか否かを判定しているが、その他の態様でも良い。例えば、不活性ガスの循環を開始してからの経過時間を判定し、予め設定された経過時間を経過した場合に、次のステップS14に進むようにしても良い。また、制御部33が、管理者の入力操作を受け付けた場合に、次のステップS14に進むようにしても良い。
【0077】
ステップS14において、制御部33は、原子炉格納容器5から抽出した被処理ガスを反応容器32に供給する処理を行う。ここで、制御部33は、循環バルブ25を閉鎖し、供給バルブ23および排出バルブ24を開放する。すると、原子炉格納容器5の内部の被処理ガスが供給ライン20で抽出され、反応容器32に送られる。このようにすれば、反応材34の温度が充分に上昇した後に、水素濃度が高い被処理ガスが反応容器32に流れ込むようになるため、水素を効率的に処理することができる。なお、反応容器32に送られるガスは、被処理ガスと不活性ガスが混合されたものでも良い。
【0078】
次のステップS15において、反応容器32を被処理ガスが通過するときに、反応材34が、被処理ガスに含まれる水素ガスを除去する。なお、反応容器32では、被処理ガスに含まれる水素ガスの少なくとも一部が除去されれば良い。
【0079】
次のステップS16において、反応容器32を通過した被処理ガスが、排出ライン21を通って原子炉格納容器5の内部に排出される。なお、被処理ガスは、冷却器28で冷却され、降温された後に、原子炉格納容器5の内部に排出される。
【0080】
次のステップS17において、制御部33は、反応容器32に供給される被処理ガスの供給量および供給温度の制御を行う。ここで、制御部33は、加熱ヒータ27の加熱量と冷却器28の冷却量の制御により、反応容器32に供給される被処理ガスの供給温度の制御を行う。このようにすれば、反応容器32に供給される被処理ガスの供給温度を適切に制御できる。過酷事故時に、反応容器32に供給される被処理ガスの供給量または供給温度の調整を行うことで、反応材34が水素を効率的に処理できる状態にする。
【0081】
例えば、制御部33は、ブロア29の吐出量と流量調整バルブ26の開度の制御により、反応容器32に供給される被処理ガスの供給量の制御を行う。このようにすれば、ブロア29から反応容器32に供給される被処理ガスの供給量を適切に制御できる。
【0082】
また、制御部33は、処理温度センサ31で検出した温度に基づいて、反応容器32に供給される被処理ガスの供給温度を処理温度の範囲内に制御する。このようにすれば、反応容器32を通過する被処理ガスの温度を、水素を効率的に処理することができる処理温度の範囲内に制御することができる。
【0083】
また、制御部33は、処理温度センサ31による温度の検出に基づいて、反応材34の温度が処理温度を超える場合に、反応容器32に対する被処理ガスの供給量を低減させる制御を行う。例えば、供給バルブ23または流量調整バルブ26の開度を低減させる制御を行う。または、ブロア29の吐出量を低減させる制御を行う。このようにすれば、反応材34が過剰に発熱した場合に被処理ガスの供給量を低減させることで、反応材34の化学反応を鈍らせてその発熱を抑制することができる。
【0084】
また、制御部33は、処理温度センサ31による温度の検出に基づいて、反応材34の温度が処理温度を超える場合に、反応容器32に対する被処理ガスの供給温度を低減させる制御を行う。例えば、加熱ヒータ27の加熱量を低減させる制御を行う。または、冷却器28の冷却量を向上させる制御を行う。このようにすれば、反応材34が過剰に発熱した場合に被処理ガスの供給温度を低減させることで、反応材34の温度を低減させることができる。さらに、反応材34の化学反応を鈍らせ、その温度の上昇を抑制させることができる。
【0085】
また、制御部33は、処理温度センサ31による温度の検出に基づいて、反応材34の温度が処理温度を超える場合に、循環バルブ25を開放する。そして、反応容器32を通過した被処理ガスの少なくとも一部を循環ライン22により再び反応容器32に戻す制御を行う。このようにすれば、反応容器32を通過して水素濃度が低減された被処理ガスが、未だ反応容器32を通過していない水度濃度が高い被処理ガスと混合される。そのため、反応容器32に供給される被処理ガスの水度濃度が低減され、反応材34の化学反応を鈍らせてその発熱を抑制することができる。
【0086】
なお、本実施形態において、反応材34の温度が処理温度を超える場合とは、反応材34の温度が処理温度を超えると予測される場合を含んでいる。
【0087】
また、ブロア29の吸込側の被処理ガスの温度をガス温度センサ30が検出する。そして、制御部33は、ガス温度センサ30で検出した温度に基づいて、ブロア29を通過する被処理ガスの温度をブロア29の耐熱温度以下に制御する。例えば、冷却器28の冷却量を向上させる制御を行う。このようにすれば、ブロア29が高温になり過ぎることを抑制し、ブロア29を保護することができる。
【0088】
そして、前述のステップS14に戻る。なお、以上のステップは、水素処理方法に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが水素処理方法に含まれていても良い。
【0089】
第1実施形態の水素処理システム1では、起動時および起動後に、反応容器32および反応材34の温度およびガスの供給量を適切に制御することで、良好な運転状態を構築し、反応材34の過剰な温度上昇を抑えつつ、水素を効率的に除去することができる。
【0090】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の水素処理システム1Aおよび水素処理方法について図6を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0091】
第2実施形態の水素処理システム1Aは、第1実施形態の構成に加えて、熱交換器40と熱交換器用バルブ41とを備える。なお、第2実施形態では、第1実施形態の流量調整バルブ26の構成が省略されている。この第2実施形態でも、流量調整バルブ26を設けるようにしても良い。
【0092】
熱交換器40は、供給ライン20と排出ライン21との間で熱交換を行う装置である。この熱交換器40は、供給ライン20におけるブロア29と加熱ヒータ27との間であり、かつ排出ライン21における反応容器32の出口側と冷却器28との間に設けられている。この熱交換器40が設けられることで、温度が高められた反応容器32の出口側のガスで、反応容器32の入口側のガスを温めることができる。
【0093】
熱交換器用バルブ41は、供給ライン20で熱交換器40と並列を成すように設けられている。この熱交換器用バルブ41は、供給ライン20におけるブロア29と加熱ヒータ27との間に設けられている。
【0094】
制御部33は、熱交換器用バルブ41の開度の制御により、反応容器32に供給されるガスの供給量を維持した状態で、熱交換器40に流れ込むガスの流量を制御する。このようにすれば、反応容器32に供給されるガスの供給量を維持した状態で、その供給温度の調整を行うことができる。
【0095】
例えば、熱交換器用バルブ41の開度を大きくすることで、供給ライン20を流れるガスが熱交換器40に流れ込むときの流量を低減させることができ、このガスの温度の上昇を抑えることができる。また、熱交換器用バルブ41の開度を小さくすることで、供給ライン20を流れるガスが熱交換器40に流れ込むときの流量を増大させることができ、このガスの温度を上昇させることができる。
【0096】
なお、第2実施形態では、熱交換器用バルブ41が、供給ライン20に設けられているが、その他の態様でも良い。例えば、熱交換器用バルブ41が、排出ライン21で熱交換器40と並列を成すように設けられても良い。
【0097】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の反応容器32について図7を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0098】
第3実施形態の反応容器32は、電気ヒータ42,43を備える。例えば、電気ヒータ42は、反応容器32の外周面に取り付けられている。また、他の電気ヒータ43は、反応容器32の入口側の供給ライン20の外周面に取り付けられている。これらの電気ヒータ42,43により、反応容器32に供給されるガスまたはその内部の反応材34を加熱することができる。なお、電気ヒータ42,43は、前述の第1~2実施形態に対して、追加的または代替的に設けられる。
【0099】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態の反応管35について図8を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0100】
第4実施形態の反応管35は、マイクロヒータ44,45を備える。例えば、マイクロヒータ44は、反応管35の外周面に取り付けられている。また、他のマイクロヒータ45は、反応管35の内部に設けられ、反応材34と直接的に接触している。これらのマイクロヒータ44,45により、反応材34を加熱することができる。なお、マイクロヒータ44,45は、前述の第1~2実施形態に対して、追加的または代替的に設けられる。
【0101】
水素処理システムおよび水素処理方法を第1実施形態から第4実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
【0102】
なお、前述の実施形態において、基準値(処理温度または耐熱温度)を用いた任意の値(ガスの温度)の判定は、「任意の値が基準値以上か否か」の判定でも良いし、「任意の値が基準値を超えているか否か」の判定でも良い。或いは、「任意の値が基準値以下か否か」の判定でも良いし、「任意の値が基準値未満か否か」の判定でも良い。また、基準値が固定されるものでなく、変化するものであっても良い。従って、基準値の代わりに所定範囲の値を用い、任意の値が所定範囲に収まるか否かの判定を行っても良い。また、予め装置に生じる誤差を解析し、基準値を中心として誤差範囲を含めた所定範囲を判定に用いても良い。
【0103】
なお、前述の実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0104】
前述の実施形態の制御部33は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。この制御部33は、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0105】
なお、前述の実施形態の制御部33で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
【0106】
また、この制御部33で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、この制御部33は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0107】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、排出ラインと供給ラインとを接続し、反応容器を通過したガスを再び反応容器に戻して循環させる循環ラインを備えることにより、原子炉格納容器における被処理ガスの状態に応じて水素を効率的に処理することができる。
【0108】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0109】
1(1A)…水素処理システム、2…原子炉建屋、3…原子炉、4…圧力容器、5…原子炉格納容器、6…上部ドライウェル、7…下部ドライウェル、8…ウェットウェル、9…サプレッションプール、10…ベント管、11…配管、12…躯体、13…ライナー、14…オペレーションフロア、15…使用済燃料プール、16…クレーン、20…供給ライン、21…排出ライン、22…循環ライン、23…供給バルブ、24…排出バルブ、25…循環バルブ、26…流量調整バルブ、27…加熱ヒータ、28…冷却器、29…ブロア、30…ガス温度センサ、31…処理温度センサ、32…反応容器、33…制御部、34…反応材、35…反応管、36…支持板、37…蓋部材、40…熱交換器、41…熱交換器用バルブ、42,43…電気ヒータ、44,45…マイクロヒータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8