(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161114
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
F02F 5/00 20060101AFI20221014BHJP
F16J 9/06 20060101ALI20221014BHJP
F02F 1/00 20060101ALI20221014BHJP
F02F 1/18 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
F02F5/00 Z
F16J9/06 A
F02F5/00 F
F02F5/00 301Z
F02F1/00 G
F02F1/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065683
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100192511
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】近末 吉人
【テーマコード(参考)】
3G024
3J044
【Fターム(参考)】
3G024AA22
3G024CA05
3G024GA18
3G024GA19
3G024HA01
3G024HA02
3G024HA05
3G024HA06
3G024HA07
3J044AA02
3J044CB24
3J044CB30
3J044CB36
3J044CB40
3J044DA09
3J044DA16
3J044DA17
(57)【要約】
【課題】ピストンリングの摺接部の摩耗が進んだとしても、シリンダボアの壁面に対する摺接部における面圧低下を抑制できる内燃機関を提供する。
【解決手段】内燃機関100は、ピストンを収容するシリンダボアが設けられるシリンダブロックと、ピストンに嵌装され、シリンダボアの壁面に摺接するピストンリング10と、シリンダブロックにおけるシリンダボアの周囲又はピストンリング10の内部の少なくとも一方に固定状態で埋設された磁石50と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンを収容するシリンダボアが設けられるシリンダブロックと、
前記ピストンに嵌装され、前記シリンダボアの壁面に摺接するピストンリングと、
前記シリンダブロックにおける前記シリンダボアの周囲又は前記ピストンリングの内部の少なくとも一方に固定状態で埋設された磁石と、を備える、内燃機関。
【請求項2】
前記シリンダボアの前記壁面における摺接領域又は前記ピストンリングの外周面の少なくとも一方には、前記磁石の磁束を遮蔽する非磁性体膜が設けられている、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記ピストンリングは、内周側にエキスパンダが配置されるウェブ部と、前記ウェブ部を挟んで設けられる一対のレール部とを含む2ピースオイルリングを有し、
前記磁石は、一対の前記レール部のそれぞれの内部に固定状態で埋設されている、請求項1又は2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記磁石の磁極は、前記シリンダボアの前記壁面における摺接領域に対向するように配置されている、請求項2に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オイルリング本体の軸方向断面におけるレール外周面の断面形状が曲線部と直線部とからなり、当該直線部がオイルリングの上面側又は下面側のいずれか一方に向かうに従って当該オイルリング本体の軸側に向かって傾斜し、当該直線部の傾斜先端が曲線部となっているオイルリングを備える内燃機関が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、内燃機関の高出力化のための高筒内圧化及び高回転化に伴い、ピストンリングの摩耗が進んだとしても摩擦損失の低減効果及びオイル消費の低減効果が損なわれにくくすることが、ピストンリングに要求されている。上記従来技術では、オイルリングの上面側又は下面側のいずれか一方においてレール外周面がシリンダボアの壁面から離間する形状(いわゆるバレル形状)とされているが、その離間距離(いわゆるバレル量)が比較的小さい断面形状とされている。これにより、ピストンリングの摩耗自体が進むことの抑制が図られている。
【0005】
しかしながら、バレル量を小さくするほど、オイル膜に対するくさび効果で摩擦損失を低減する効果が得られにくくなる。一方、くさび効果を期待してバレル量を大きくするほど、ピストンリングの摺接部が断面凸状となり、摩耗が進むにつれて摺接部の面圧の変化が大きくなる傾向がある。
【0006】
本発明は、ピストンリングの摺接部の摩耗が進んだとしても、シリンダボアの壁面に対する摺接部における面圧低下を抑制できる内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る内燃機関は、ピストンを収容するシリンダボアが設けられるシリンダブロックと、ピストンに嵌装され、シリンダボアの壁面に摺接するピストンリングと、シリンダブロックにおけるシリンダボアの周囲又はピストンリングの内部の少なくとも一方に固定状態で埋設された磁石と、を備える。
【0008】
本発明の一態様に係る内燃機関では、シリンダブロックにおけるシリンダボアの周囲又はピストンリングの内部の少なくとも一方に、磁石が固定状態で埋設されている。磁石の磁力により、シリンダボアの壁面においてピストンリングが摺接する箇所を介して、ピストンリングとシリンダボアの壁面とが互いに引き付けられる。その結果、ピストンリングの摺接部の摩耗が進んだとしても、シリンダボアの壁面に対する摺接部における面圧低下を抑制することが可能となる。
【0009】
一実施形態において、シリンダボアの壁面における摺接領域又はピストンリングの外周面の少なくとも一方には、磁石の磁束を遮蔽する非磁性体膜が設けられていてもよい。この場合、非磁性体膜が介在する状態では、磁石の磁束が遮蔽されるため、ピストンリングとシリンダボアの壁面とが互いに引き付けられる力が弱くなる。ピストンリングの摺接部の摩耗が進むにつれて、非磁性体膜が次第に薄くなり、やがては非磁性体膜が介在しなくなる。非磁性体膜が介在しない状態では、非磁性体膜が介在する状態と比べて、ピストンリングとシリンダボアの壁面とが互いに引き付けられる力が強くなる。したがって、一般的には摺接部における面圧低下が生じやすいピストンリングの摺接部の摩耗が進んだ状況において、磁石の磁力により面圧低下を好適に抑制することができる。
【0010】
一実施形態において、ピストンリングは、内周側にエキスパンダが配置されるウェブ部と、ウェブ部を挟んで設けられる一対のレール部とを含む2ピースオイルリングを有し、磁石は、一対のレール部のそれぞれの内部に固定状態で埋設されていてもよい。この場合、一対のレール部にそれぞれ埋設された一対の磁石の磁力によって、一対のレール部の両方とシリンダボアの壁面とが互いに引き付けられる。そのため、一対のレール部のいずれにおいても面圧低下を抑制することが可能となる。
【0011】
一実施形態において、磁石の磁極は、シリンダボアの壁面における摺接領域に対向するように配置されていてもよい。この場合、ピストンリングとシリンダボアの壁面とが互いに引き付けられる力を強めやすくなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ピストンリングの摺接部の摩耗が進んだとしても、シリンダボアの壁面に対する摺接部における面圧低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る内燃機関を示す断面図である。
【
図2】(a)は、
図1の内燃機関に適用されるピストンリングの平面図である。(b)は、
図2の(a)のIIb-IIb線に沿っての断面図である。
【
図3】(a)は、
図1の内燃機関に適用されるオイルリングの平面図である。(b)は、
図3の(a)のIIIb-IIIb線に沿っての断面図である。
【
図4】第1変形例のピストンリングの断面図である。
【
図5】(a)は、
図4のピストンリングの摺接部の摩耗が進む前の状態の磁力線を模式的に示す断面図である。(b)は、
図4のピストンリングの摺接部の摩耗が進んだ状態の磁力線を模式的に示す断面図である。
【
図6】(a)は、第2変形例のピストンリングの摺接部の摩耗が進む前の状態の磁力線を模式的に示す断面図である。(b)は、第2変形例のピストンリングの摺接部の摩耗が進んだ状態の磁力線を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図1の内燃機関に適用されるシリンダブロックの断面図である。
【
図8】
図7のシリンダブロックのVIII-VIII線に沿っての断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。なお、「上」及び「下」の方向は、内燃機関におけるピストンの往復方向に対応する。「上」の語はピストンの下死点から上死点に向かう方向に対応し、「下」の語はピストンの上死点から下死点に向かう方向に対応する。
【0015】
図1に示されるように、本実施形態に係る内燃機関100は、ピストン1を収容するシリンダボア2が設けられるシリンダブロック3を備えている。内燃機関100は、例えば、車両に搭載されたディーゼルエンジンなどである。
【0016】
図1に示されるように、シリンダブロック3は、シリンダブロック本体3aを備える。シリンダブロック本体3aは、内燃機関100の本体を構成するブロック体である。シリンダブロック本体3aの材質としては、例えば、鋳鉄(ねずみ鋳鉄、CV鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄等)、アルミニウム合金、マグネシウム合金などが用いられる。シリンダブロック本体3aは、冷却水が流通する冷却水流路4(
図7参照)をシリンダボア2の周囲に有している。シリンダブロック本体3aには、ピストン1の数と同じだけ貫通孔5が形成されている。貫通孔5では、中心軸Cに沿って延在する円筒空間が画成されている。
【0017】
シリンダブロック3は、複数の貫通孔5のそれぞれに挿入されるシリンダライナ3bを備えてもよい。本実施形態では、シリンダブロック本体3aとシリンダライナ3bとが別体として構成されている場合を例に説明する。この場合、シリンダライナ3bの内周面3cがシリンダボア2の壁面に対応する。
【0018】
シリンダライナ3bは、ピストン1との気密性を保ちつつピストン1を案内する円筒状の部品である。シリンダライナ3bは、例えば鉄系材料(合金鋳鉄、鋼など)から構成される。つまり、シリンダライナ3bは、磁性材料からなる。
【0019】
シリンダライナ3bの外周面3dは、貫通孔5の内周面5aと対向している。シリンダライナ3bの外周面3dの一部又は全部は、貫通孔5の内周面5aに接している。シリンダライナ3bの内周面3cは、中心軸Cに沿って延在してシリンダボア2となる円筒空間を画成する。
【0020】
内燃機関100は、ピストン1に嵌装され、シリンダライナ3bの内周面3c(シリンダボア2の壁面)に摺接するピストンリング10を備えている。ピストン1の外周面1aには、ピストンリング10が嵌装されるリング溝が形成されている。ピストン1は、ピストンリング10がリング溝に嵌装された状態でシリンダボア2に収容されている。ピストン1は、シリンダボア2で摺動方向Aに沿って往復運動する。ピストン1は、コンロッド6を介してクランクシャフト(不図示)と接続されている。シリンダライナ3bの内周面3cには、ピストン1が摺動する際の潤滑のために、潤滑油(エンジンオイル)が供給される。
【0021】
シリンダブロック3の上面には、ヘッドガスケット7を介してシリンダヘッド(不図示)が取り付けられる。シリンダライナ3bの内周面3c(シリンダボア2の壁面)、ピストン1の上面、及びシリンダヘッドの下面は、燃焼室Eを画成する。燃焼室Eでは、インジェクタ(不図示)から噴射された燃料が燃焼される。
【0022】
[第1の構成]
図2(a)は、
図1の内燃機関に適用されるピストンリングの平面図である。
図2(b)は、
図2の(a)のIIb-IIb線に沿っての断面図である。
図2のピストンリング10は、コンプレッションリングであり、ファーストリング(燃焼室側から数えて1番目のリング)及びセカンドリング(燃焼室側から数えて2番目のリング)として用いられる。
【0023】
図2に示されるように、ピストンリング10は、環状の本体部11と、本体部11の一部に形成された合口部12と、を備えている。本体部11は、本体部11の半径方向において互いに対向する内周面11a及び外周面11bと、内周面11aと外周面11bとの間を接続する一対の側面11c,側面11dと、を有している。
【0024】
本体部11の断面は、厚さ方向が短辺且つ幅方向が長辺となる略矩形状をなしている。一対の側面11c,側面11dは、本体部11の厚さ方向の端面である。内周面11a及び外周面11bは、本体部11の幅方向の端面である。ピストンリング10は、側面11cが燃焼室側となり、側面11dがクランク室側となるように、ピストン1に対して取り付けられる。
【0025】
合口部12は、環状の本体部11の両端部のそれぞれに設けられた合口端部12a,合口端部12bを含む。合口端部12a,合口端部12bは、ピストンリング10をリング溝に装着する前の状態において、所定の間隔をもって対向した状態となっている。
【0026】
ピストンリング10の内部には、複数の磁石50が固定状態で埋設されている。ここでの固定状態とは、ピストンリング10の内部において磁石50の位置が変化しないことを意味する。磁石50は、略直方体状に形成された(永久磁石)であり、一対の磁極51,磁極52を有している。磁石50の材料としては、例えば、ネオジム磁石(Nd-Fe-B)、及びサマリウムコバルト磁石などが採用されうる。
【0027】
磁石50は、平面視で環状の本体部11の周方向において離散的に配置されている。
図2の例では、磁石50の個数は、9個である。本体部11における合口端部12a,合口端部12bには、それぞれ磁石50が設けられている。本体部11における合口端部12aから合口端部12bまでの間には、複数の磁石50(ここでは7個)が周方向に沿って略等間隔に設けられている。
【0028】
磁石50は、磁極51からの磁束が本体部11の半径方向外側に向かって延びるような向きで配置されている。一例として、磁石50は、一対の磁極51,磁極52を結ぶ方向が本体部11の半径方向に沿うような向きで配置されている。磁石50は、面圧低下を抑制できるだけの磁力がシリンダライナ3bの内周面3cに作用する範囲であれば、一対の磁極51,磁極52を結ぶ方向が本体部11の半径方向から傾斜するような向きで配置されてもよい。なお、磁石50の配置方向の説明においては、後述の非磁性体膜による磁束の遮蔽は考慮しないものとする。
【0029】
磁石50の磁極51は、外周面11b側に配置されており、シリンダボア2の壁面における摺接領域2aに対向するように配置されている。磁石50の磁極52は、内周面11a側に配置されている。例えば、磁石50は、外周面11b側にN極を有し、内周面11a側にS極を有している。磁石50の磁極の配置は、この例と反対であってもよい。したがって、磁石50は、シリンダライナ3bの内周面3c(シリンダボア2の壁面)に作用する磁界(磁力)を発生させる。磁力の作用について、詳しくは後述する。
【0030】
ピストンリング10の外周面11bには、磁石50の磁束を遮蔽する非磁性体膜13が設けられている。非磁性体膜13は、ピストンリング10の内部の磁石50からの磁束を遮蔽し、シリンダライナ3bの内周面3cに作用する磁力を抑制する。非磁性体膜13の材料は、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼のような非磁性鋼、又は、銅を用いることができる。なお、アルミも非磁性体の金属であるが、鉄系材料のシリンダライナ3bと凝着摩耗を起こす可能性を考慮して、非磁性体膜13の材料として用いなくてもよい。非磁性体膜13の厚さは、内燃機関100の運転状況に応じたピストンリング10の摩耗量と、内燃機関100の設計上の耐用年数などを考慮して予め設定される。非磁性体膜13は、例えば、めっき、溶射、及びスパッタリング等の金属皮膜処理工程によって形成することができる。非磁性体膜13の作用について、詳しくは後述する。
【0031】
[第2の構成]
ピストンリング10は、2ピースオイルリング20を有している。
図3(a)は、
図1の内燃機関に適用されるオイルリングの平面図である。
図3(b)は、
図3の(a)のIIIb-IIIb線に沿っての断面図である。
図3の2ピースオイルリング20は、サードリング(燃焼室側から数えて3番目のリング)として用いられる。
【0032】
図3に示されるように、2ピースオイルリング20の内部にも、複数の磁石50Aが固定状態で埋設されている。なお、磁石は、
図2のピストンリング10及び2ピースオイルリング20の少なくともいずれか一方の内部に固定状態で埋設されていればよい。
【0033】
2ピースオイルリング20は、ウェブ部21とウェブ部21を挟んで設けられる一対のレール部22,レール部23とを含む環状の本体部24、及び、本体部24の一部に形成された合口部25と、を備えている。2ピースオイルリング20では、ウェブ部21の内周側にエキスパンダ26が配置される。
【0034】
図3(b)に示されるように、2ピースオイルリング20の断面は、一対のレール部22,レール部23が本体部24の半径方向外側に突出する形状をなしている。2ピースオイルリング20は、レール部22が燃焼室側となり、レール部23がクランク室側となるように、ピストン1に対して取り付けられる。
【0035】
合口部25は、環状の本体部24の両端部のそれぞれに設けられた合口端部25a,合口端部25bを含む。合口端部25a,合口端部25bは、2ピースオイルリング20をリング溝に装着する前の状態において、所定の間隔をもって対向した状態となっている。
【0036】
2ピースオイルリング20では、一対のレール部22,レール部23のそれぞれの内部に、複数の磁石50Aが固定状態で埋設されている。ここでの固定状態とは、2ピースオイルリング20の内部において磁石50Aの位置が変化しないことを意味する。磁石50Aは、一対のレール部22,レール部23のそれぞれの内部に埋設できるような寸法で略直方体状に形成された(永久磁石)であり、基本的には磁石50と同様に構成されている。
【0037】
磁石50Aは、
図2の磁石50と同様に、平面視で環状の本体部24の周方向において離散的に配置されている。本体部24における合口端部25a,合口端部25bには、それぞれ磁石50Aが設けられている。本体部24における合口端部25aから合口端部25bまでの間には、複数の磁石50A(ここでは一対のレール部22,レール部23のそれぞれ7個ずつ)が周方向に沿って略等間隔に設けられている。
【0038】
磁石50Aは、
図2の磁石50と同様に、磁極52からの磁束が本体部24の半径方向外側に向かって延びるような向きで配置されている。一例として、磁石50Aは、一対の磁極51A,磁極52Aを結ぶ方向が本体部24の半径方向に沿うような向きで配置されている。磁石50Aは、面圧低下を抑制できるだけの磁力がシリンダライナ3bの内周面3cに作用する範囲であれば、一対の磁極51A,磁極52Aを結ぶ方向が本体部24の半径方向から傾斜するような向きで配置されてもよい。
【0039】
磁石50Aの磁極51Aは、レール部22の外周面22a側、及び、レール部23の外周面23a側に配置されており、シリンダボア2の壁面における摺接領域2aに対向するように配置されている。
【0040】
磁石50Aは、シリンダライナ3bの内周面3c(シリンダボア2の壁面)に作用する磁界(磁力)を発生させる。2ピースオイルリング20では、一対のレール部22,レール部23が上下2カ所でシリンダライナ3bの内周面3cと摺接するため、レール部22に埋設された磁石50Aの磁力と、レール部23に埋設された磁石50Aの磁力とは、互いに同じ程度となることが好ましい。なお、レール部22に埋設された磁石50Aの磁力と、レール部23に埋設された磁石50Aの磁力とは、互いに異なる大きさであってもよい。磁力の作用について、詳しくは後述する。
【0041】
2ピースオイルリング20では、一対のレール部22,レール部23の外周面22a,外周面23aには、磁石50Aの磁束を遮蔽する非磁性体膜27が設けられている。非磁性体膜27は、非磁性体膜13と同様に構成することができ、2ピースオイルリング20の内部の磁石50Aからの磁束を遮蔽し、シリンダライナ3bの内周面3cに作用する磁力を抑制する。非磁性体膜27の作用について、詳しくは後述する。
【0042】
[第3の構成]
ピストンリングの本体部の断面は、
図2のピストンリング10の例とは異なっていてもよい。例えば、
図4は、第1変形例のピストンリングの断面図である。
図4のピストンリング30は、本体部31の外周面31bが傾斜しており、本体部31の側面31c及び側面31dの長さが互いに異なる。ピストンリング30は、外周面31bにおける上側が本体部31の半径方向外側に膨らんだ、いわゆるバレル型に形成されている。
【0043】
ピストンリング30の外周全域には、磁石50Bの磁束を遮蔽する非磁性体膜32が設けられている。より詳しくは、ピストンリング30では、内周面(不図示)と、外周面31bと、一方の側面31c、他方の側面31d、及び合口部の合わせ面(不図示)の全てに、非磁性体膜32が設けられている。
【0044】
磁力の作用、及び、非磁性体膜の作用について、
図5を参照しつつ詳述する。
図5(a)は、
図4のピストンリングの摺接部の摩耗が進む前の状態の磁力線を模式的に示す断面図である。
図5(b)は、
図4のピストンリングの摺接部の摩耗が進んだ状態の磁力線を模式的に示す断面図である。
図5では、磁石50Bにより形成される磁界Bの代表的な向き(磁界Bの平均的な向き)が数本の磁力線で示されている。
【0045】
ピストンリングの摺接部とは、ピストンリングがシリンダライナ3bの内周面3cと摺接する部分を意味する。
図4,
図5のピストンリング30では、摺接部33は、外周面31bにおける最外周部に相当する。ピストンリング30の摩耗が進むにつれて、ピストンリング30の最外周部も内側に移動し、ピストンリング30の最外周部である摺接部33も内側に移動する。
【0046】
図5(a)では、ピストンリング30の摺接部33の摩耗が進む前であり、非磁性体膜32は、ピストンリング30の外周全域に存在している。そのため、磁石50Bの磁束は、ピストンリング30の外周全域において遮蔽され、磁力線がピストンリング30の内部にとどまるような磁界B1となる。そのため、ピストンリング30の摺接部33とシリンダライナ3bの内周面3cとの間に非磁性体膜32が介在する状態となり、磁石50Bの磁束が遮蔽されるため、ピストンリング30とシリンダライナ3bの内周面3cとが互いに引き付けられる力が弱くなり、実質的に互いに引き付けられない状態となる。
【0047】
一方、
図5(b)では、ピストンリング30の摺接部33の摩耗が進むにつれて、非磁性体膜32が次第に薄くなり、やがては、
図5(b)に示されるように、ピストンリング30の摺接部33とシリンダライナ3bの内周面3cとの間に非磁性体膜32が介在しなくなる。非磁性体膜32が介在しない状態では、磁石50Bの磁束が遮蔽されなくなるため、シリンダライナ3bの内周面3cに磁石50Bの磁界B2が作用し、磁力が発生する。非磁性体膜32が介在する状態と比べて、ピストンリング30とシリンダライナ3bの内周面3cとが互いに引き付けられる力が強くなる。より詳しくは、ピストンリング30の摺接部33とシリンダライナ3bの内周面3cとの間の面圧は、ピストンリング30の張力に磁石50Bの磁力を加算した力を、摺接部33の上下方向の当たり幅で除算した数値に比例すると考えられる。ピストンリング30の摺接部33の摩耗が進むにつれて、ピストンリング30の張力は低下して摺接部33の上下方向の当たり幅が増加するが、磁石50Bの磁力が増加するため、磁石50Bの磁力によって、ピストンリング30の摺接部33とシリンダライナ3bの内周面3cとの間の面圧が低下することを抑制することができる。
【0048】
図4及び
図5のようなバレル型の断面形状でバレル量(外周面31bにおける上側が下側に対して本体部31の半径方向外側に膨らむ寸法)を大きくすると、摺接部33の摩耗の進展によって当たり幅の増大が顕著となり、摺接部33の摩耗の進展前と比べて、面圧が下がりやすい。この点、磁石50Bを設けることで、磁力により摺接部33の摩耗の進展に伴う面圧低下が抑制されるので、面圧低下の回避のためにバレル型の断面形状を不採用としなくてもよくなる。バレル型の断面形状を採用することで、オイル膜に対するくさび効果を得やすくなり、摩擦損失を低減する効果、ひいては内燃機関100の燃費性能の向上効果を見込むことができる。
【0049】
[第4の構成]
図5のようにピストンリング30の摺接部33の摩耗の進展に応じて磁石50Bの磁力が大きくなる作用には、非磁性体膜32は必須ではない。
図6(a)は、第2変形例のピストンリングの摺接部の摩耗が進む前の状態の磁力線を模式的に示す断面図である。
図6(b)は、第2変形例のピストンリングの摺接部の摩耗が進んだ状態の磁力線を模式的に示す断面図である。
【0050】
図6では、
図4及び
図5のピストンリング30において、非磁性体膜32が省かれている。
図6(a)及び
図6(b)の例では、非磁性体膜32による磁束の遮蔽がないため、磁石50Bの磁束によって、
図6(a)及び
図6(b)で同様の磁界B3が生じている。摺接部33の摩耗が進展した
図6(b)では、摺接部33の摩耗が進展する前の
図6(a)と比べて、磁石50Bからシリンダライナ3bの内周面3cまでの距離が摺接部33の摩耗の分だけ短くなる。その結果、
図6(b)では、
図6(a)と比べて、シリンダライナ3bの内周面3cに鎖交する磁力線の数が増加しやすくなり、磁石50Bの磁界B3による磁力がより強く発生する。
図6の構成の場合、製造段階において非磁性体膜32をピストンリング30に設けるための加工にかかるコスト、及び、非磁性体膜32自体のコストを省くことができる。なお、磁力線の指向性の観点では、
図5(b)に示されるように、非磁性体膜32を設けることが有利となりやすいといえる。
【0051】
[第5の構成]
磁石は、シリンダブロック3におけるシリンダボア2の周囲に固定状態で埋設されていてもよい。
図7は、
図1の内燃機関に適用されるシリンダブロックの断面図である。
図8は、
図7のシリンダブロックのVIII-VIII線に沿っての断面図である。ここでの固定状態とは、シリンダブロック3におけるシリンダボア2の周囲において磁石50Cの位置が変化しないことを意味する。
【0052】
図7及び
図8に示されるように、磁石50Cは、シリンダブロック3におけるシリンダボア2の周囲に固定状態で埋設されている。磁石50Cは、例えば、略直方体状に形成された(永久磁石)であり、一対の磁極51C,磁極52Cを有している。磁石50Cの材料としては、例えば、ネオジム磁石(Nd-Fe-B)、及びサマリウムコバルト磁石などが採用されうる。あるいは、磁石50Cは、一対の磁極51C,磁極52Cを有するように磁束を生じさせる電磁石であってもよい。
【0053】
磁石50Cは、平面視でシリンダボア2の周囲の周方向において離散的に配置されている。
図8の例では、磁石50Cの個数は、4個である。複数の磁石50Cは、周方向に沿って略等間隔に設けられている。複数の磁石50Cは、例えば、シリンダボア2の周囲の周方向において離散的に位置するように設けられた複数の貫通孔3eの中に設置されていてもよい。貫通孔3eは、例えば、シリンダブロック本体3aのクランク室3fに臨むように開口する開口部3gを含んでもよい。これにより、クランク室3f側から開口部3gを介して磁石50Cを貫通孔3eの内部に設置することができる。
【0054】
磁石50Cの磁極51Cは、シリンダライナ3bの内側を向いて配置されており、シリンダボア2の壁面における摺接領域2aに対向するように配置されている。磁石50Cの磁極52Cは、シリンダライナ3bとは反対側を向いて配置されている。例えば、磁石50Cは、シリンダライナ3bの内側を向いてS極を有し、シリンダライナ3bとは反対側を向いてN極を有している。磁石50Cの磁極の配置は、この例と反対であってもよい。
【0055】
磁石50Cの磁極51Cは、ピストンリングに磁石が埋設されていない場合は、N極又はS極のいずれであってもよい。磁石50Cの磁極51Cは、ピストンリングに磁石が埋設されている場合は、ピストンリングに埋設された磁石のピストンリング外周面側の磁極と反対の極性であればよい。ピストンリングは、鉄系材料などの磁性材料であればよい。したがって、磁石50Cは、シリンダライナ3bの内周面3c(シリンダボア2の壁面)に摺接するピストンリングに作用する磁界(磁力)を発生させる。
【0056】
磁石50Cは、隣り合う一対のシリンダボア2に挟まれるように配置されてもよい。この場合、隣り合う一対のシリンダボア2の壁面に摺接するピストンリングの双方に作用する磁界(磁力)を、1つの磁石50Cで発生させることができる。
【0057】
シリンダライナ3bの内周面3c(シリンダボア2の壁面)おける摺接領域2aには、磁石50Cの磁束を遮蔽する非磁性体膜3hが設けられていてもよい。ピストンリングに摺接されて非磁性体膜3hの摩耗が進むにつれて、非磁性体膜3hが次第に薄くなり、やがては、ピストンリングと磁石50Cとの間に非磁性体膜3hが介在しなくなる。非磁性体膜3hが介在しない状態では、磁石50Cの磁束が遮蔽されなくなるため、ピストンリングに磁石50Cの磁界が作用し、磁力が発生する。これにより、非磁性体膜3hの摩耗が進展する前の非磁性体膜3hが介在する状態と比べて、ピストンリングと磁石50Cとが互いに引き付けられる力が強くなるため、ピストンリングとシリンダライナ3bの内周面3cとの面圧の低下を抑制することができる。
【0058】
図7の例では、磁石50Cは、シリンダボア2の上下方向においてピストンの下死点寄りに設けられている。シリンダボア2の上下方向においてピストンの上死点寄りに設けられている場合と比べて、燃焼ガスの熱の影響及び冷却水流路4の配置の影響を受けにくくなり、磁石50Cの設置が容易となる。これにより、ピストンが下死点寄りに位置する場合に、ピストンリングとシリンダライナ3bの内周面3cとの面圧低下が抑制されるため、クランクシャフトが巻き上げたオイルによってオイル上がりが生じることが抑制される。
【0059】
[作用及び効果]
以上説明したように内燃機関100によれば、シリンダブロック3におけるシリンダボア2の周囲又はピストンリング10,20,30の内部の少なくとも一方に、磁石50,50A,50B,50Cが固定状態で埋設されている。磁石50,50A,50B,50Cの磁力により、シリンダボア2の壁面においてピストンリング10,20,30が摺接する箇所を介して、ピストンリング10,20,30とシリンダボア2の壁面とが互いに引き付けられる。その結果、ピストンリング10,20,30の摺接部の摩耗が進んだとしても、シリンダボア2の壁面に対する摺接部における面圧低下を抑制することが可能となる。
【0060】
内燃機関100では、シリンダボア2の壁面における摺接領域2a又はピストンリング10,20,30の外周面の少なくとも一方には、磁石の磁束を遮蔽する非磁性体膜が設けられている。これにより、非磁性体膜が介在する状態では、磁石の磁束が遮蔽されるため、ピストンリング10,20,30とシリンダボア2の壁面とが互いに引き付けられる力が弱くなる。ピストンリング10,20,30の摺接部の摩耗が進むにつれて、非磁性体膜が次第に薄くなり、やがては非磁性体膜が介在しなくなる。非磁性体膜が介在しない状態では、非磁性体膜が介在する状態と比べて、ピストンリング10,20,30とシリンダボア2の壁面とが互いに引き付けられる力が強くなる。したがって、一般的には摺接部における面圧低下が生じやすいピストンリング10,20,30の摺接部の摩耗が進んだ状況において、磁石の磁力により面圧低下を好適に抑制することができる。
【0061】
内燃機関100では、ピストンリング10は、内周側にエキスパンダ26が配置されるウェブ部21と、ウェブ部21を挟んで設けられる一対のレール部22,23とを含む2ピースオイルリング20を有し、磁石50Aは、一対のレール部22,23のそれぞれの内部に固定状態で埋設されている。これにより、一対のレール部22,23にそれぞれ埋設された一対の磁石50Aの磁力によって、一対のレール部22,23の両方とシリンダボア2の壁面とが互いに引き付けられる。そのため、一対のレール部22,23のいずれにおいても面圧低下を抑制することが可能となる。
【0062】
内燃機関100では、磁石50,50A,50B,50Cの磁極は、シリンダボア2の壁面における摺接領域2aに対向するように配置されている。これにより、ピストンリング10,20,30とシリンダボア2の壁面とが互いに引き付けられる力を強めやすくなる。
【0063】
なお、内燃機関100では、ピストンリングが摩耗しても面圧が落ちにくいため、従来摩耗を考慮して予め高めに設定していた張力を、比較的低めに設定できる。その結果、摩擦損失を抑えることが期待でき、燃費向上が見込まれる。また、バレル型の断面のピストンリングを採用しやすくなるため、オイル膜に対するくさび効果を得やすくなり、摩擦損失を低減する効果、ひいては内燃機関100の燃費性能の向上効果を見込むことができる。
【0064】
[変形例]
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限られるものではない。
【0065】
上記実施形態では、シリンダブロック本体3aとシリンダライナ3bとが別体として構成されている場合を例に説明したが、シリンダライナがシリンダブロック本体の一部として構成される場合、及び、シリンダライナに相当する部分がなくシリンダブロック本体のみでシリンダブロックが構成される場合もありうる。これらの場合、シリンダブロック本体3aの貫通孔5の内周面が、シリンダボア2の壁面に対応する。
【0066】
上記実施形態の第3の構成(
図4)では、ピストンリング30の外周全域には、磁石50Bの磁束を遮蔽する非磁性体膜32が設けられていたが、予めピストンリング30の摺接部33で非磁性体膜32が設けられておらず、外周面31bが露出していてもよい。この場合、外周面31bが露出している範囲で磁束が出るため、外周面31b以外の非磁性体膜32が設けられている部分で磁力が働くことが抑制される。
【0067】
上記実施形態では、ピストンリングの合口端部には、それぞれ磁石が設けられていたが、合口端部には、いずれか一方に磁石が設けられていてもよいし、合口端部に磁石が設けられていなくてもよい。
【0068】
上記実施形態の第5の構成(
図7)では、磁石50Cは、シリンダボア2の上下方向においてピストンの下死点寄りに設けられていたが、上死点側に設けられていてもよい。この場合、ピストンが上死点側に位置する場合に、ピストンリングとシリンダライナ3bの内周面3cとの面圧低下が抑制されるため、燃焼ガスのシール性の低下が抑制される。
【0069】
上記実施形態では、内燃機関としてディーゼルエンジンを例示したが、例えばガソリンエンジン等、その他の内燃機関であってもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…ピストン、11b,22a,23a,31b…外周面、2…シリンダボア、2a…摺接領域、3…シリンダブロック、3h,13,27,32…非磁性体膜、10,20,30…ピストンリング、20…2ピースオイルリング、21…ウェブ部、22,23…レール部、26…エキスパンダ、50,50A,50B,50C…磁石、51,51A,51C,52,52A,52C…磁極、100…内燃機関。