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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161145
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】ポリオキシメチレン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20221014BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20221014BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
C08L59/00
C08K3/38
C08L77/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065733
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】澤村 享広
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CB001
4J002CL002
4J002CL052
4J002CL092
4J002DK006
4J002FD016
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】本発明は、高い高応力耐クリープ特性、耐衝撃性、耐酸性、及び熱安定性を有するポリオキシメチレン組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】(A)ポリオキシメチレン100質量部と、(B)窒化ホウ素0.001~0.5質量部とを含み、(B)窒化ホウ素は、走査型電子顕微鏡によって拡大倍率50000倍で得られた3.0×3.0μmの範囲の視野画像に対し、画像処理解析ソフト(旭化成エンジニアリング(株)製「A像くん」)を使用して求めた、視野画像中の少なくとも100粒子以上の平均粒子径が、10~800nmであることを特徴とする、請求項1に記載のポリオキシメチレン組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオキシメチレン100質量部と、(B)窒化ホウ素0.001~0.5質量部とを含み、
前記(B)窒化ホウ素は、走査型電子顕微鏡によって拡大倍率50000倍で得られた3.0×3.0μmの範囲の視野画像に対し、画像処理解析ソフト(旭化成エンジニアリング(株)製「A像くん」)を使用して求めた、前記視野画像中の少なくとも100粒子以上の平均粒子径が、10~800nmであることを特徴とする、ポリオキシメチレン組成物。
【請求項2】
前記(B)窒化ホウ素の平均粒子径が80~500nmである、請求項1に記載のポリオキシメチレン組成物。
【請求項3】
前記(B)窒化ホウ素の含有量が0.02~0.5質量部である、請求項1又は2に記載のポリオキシメチレン組成物。
【請求項4】
さらに、(C)第一級アミド基を30~70mоl%含有するポリ-β-アラニン重合体を0.01~3.0質量部含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン組成物。
【請求項5】
さらに、(D)融点が140~230℃であるポリアミド重合体を0.001~0.1質量部含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン組成物。
【請求項6】
前記(D)ポリアミド重合体の前記(B)窒化ホウ素に対する質量比率(D)/(B)が0.04~1.0である、請求項5に記載のポリオキシメチレン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオキシメチレン組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリオキシメチレンは機械強度が強く、かつ剛性、耐クリープ特性、耐溶剤性、摺動性などに優れていることから、例えば自動車、電気製品、機械などの機構部品をはじめ、多くの成形品の材料として幅広く用いられている。しかしながら、近年の金属材料の代替としての利用に代表されるようなポリオキシメチレンの利用範囲の拡大に伴い、次第に高度な特性が要求される傾向にある。また、高温下や酸性条件などの過酷な状況下における使用についても耐性が求められている。
【0003】
例えば、自動車の機構部品であるパワーウインドギア樹脂材料は小型化が進められ、より高トルクで耐クリープ特性が求められる一方、作動時に瞬間的に定格トルクより大きな始動トルクがかかる場合でも良好な作動耐久性を確保できるように耐衝撃性の高い材料が要望されている。さらに、ギア作動時のグリースに含まれる酸性成分による劣化や摩擦熱による熱劣化に対する耐性も求められている。
【0004】
これまで、ポリオキシメチレンの耐クリープ特性改善の処方として、結晶核剤として窒化ホウ素を用いた検討がなされており、例えば特許文献1では、窒化ホウ素を特定の濃度で添加することにより、高温低応力クリープ特性の改善とシャルピー衝撃強度のバラつき抑制の効果が得られることを挙げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-183080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術は、低応力下でのクリープ特性は改善されているものの、高応力下でのクリープ特性としては未だに改善の余地がある。また、シャルピー衝撃強度のバラつき自体は抑制されているものの、十分な衝撃強度を確保する点で更なる改良が望まれる。一般的に結晶核剤を添加したポリオキシメチレンは、結晶核剤によるポリオキシメチレンの高結晶化度化に伴い、剛性も向上する一方、脆くなってしまうため、衝撃強度は低下する傾向がある。そのため、結晶核剤を添加した系での耐クリープ特性と耐衝撃性は二律背反の関係にある。さらに、特許文献1に開示されている技術では、ポリオキシメチレン組成物の熱安定性や耐酸性の向上に対する寄与はあまり期待されない。
【0007】
そこで、本発明は、高い高応力耐クリープ特性とシャルピー衝撃強度を有し、耐酸性と熱安定性に優れるポリオキシメチレン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、特定の範囲の平均粒子径をもつ窒化ホウ素を特定の範囲で含有するポリオキシメチレン組成物とすることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0010】
[1]
(A)ポリオキシメチレン100質量部と、(B)窒化ホウ素0.001~0.5質量部とを含み、
前記(B)窒化ホウ素は、走査型電子顕微鏡によって拡大倍率50000倍で得られた3.0×3.0μmの範囲の視野画像に対し、画像処理解析ソフト(旭化成エンジニアリング(株)製「A像くん」)を使用して求めた、前記視野画像中の少なくとも100粒子以上の平均粒子径が、10~800nmであることを特徴とする、ポリオキシメチレン組成物。
[2]
前記(B)窒化ホウ素の平均粒子径が80~500nmである、[1]に記載のポリオキシメチレン組成物。
[3]
前記(B)窒化ホウ素の含有量が0.02~0.5質量部である、[1]又は[2]に記載のポリオキシメチレン組成物。
[4]
さらに、(C)第一級アミド基を30~70mоl%含有するポリ-β-アラニン重合体を0.01~3.0質量部含む、[1]~[3]のいずれかに記載のポリオキシメチレン組成物。
[5]
さらに、(D)融点が140~230℃であるポリアミド重合体を0.001~0.1質量部含む、[1]~[4]のいずれかに記載のポリオキシメチレン組成物。
[6]
前記(D)ポリアミド重合体の前記(B)窒化ホウ素に対する質量比率(D)/(B)が0.04~1.0である、[5]に記載のポリオキシメチレン組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い高応力耐クリープ特性、耐衝撃性、耐酸性、及び熱安定性を有するポリオキシメチレン組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」)という。)について、以下詳細に説明する。本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0013】
[ポリオキシメチレン組成物]
本実施形態のポリオキシメチレン組成物は、(A)ポリオキシメチレンと(B)窒化ホウ素とを含む。本実施形態のポリオキシメチレン組成物は、さらに、(C)第一級アミド基を30~70mоl%含有するポリ-β-アラニン重合体(以下、単に「(C)ポリ-β-アラニン重合体」ともいう。)、(D)融点が140~230℃であるポリアミド重合体(以下、単に「(D)ポリアミド重合体」ともいう。)、その他の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0014】
<(A)ポリオキシメチレン>
【0015】
本実施形態のポリオキシメチレン組成物に含まれる(A)ポリオキシメチレンは、特に限定されず、ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー、及びその混合物のいずれであってもよい。この中でも、好ましいのはポリオキシメチレンホモポリマーである。
(A)ポリオキシメチレンは、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
-ポリオキシメチレンホモポリマー-
ポリオキシメチレンホモポリマーは、主鎖が実質上オキシメチレン単位のみからなるポリマーであり、両末端を除く主鎖の99.8mol%以上がオキシメチレン単位で構成されることが好ましく、両末端を除く主鎖がオキシメチレン単位のみで構成されることがより好ましい。また、特に、両末端がエステル化により封鎖された、ポリオキシメチレンホモポリマーであることが好ましい。
【0017】
ポリオキシメチレンホモポリマーは、ホルムアルデヒド単量体、又はその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーを単独重合して得ることができ、例えば、モノマーであるホルムアルデヒド、連鎖移動剤(分子量調節剤)及び重合触媒を、炭化水素系重合溶媒を導入した重合反応機にフィードし、スラリー重合法により重合すること等により製造することができる。
この際、原料モノマー、連鎖移動剤、重合触媒には、連鎖移動可能な成分(不安定末端基を生成する成分)、例えば、水、メタノール及び蟻酸等が含まれ得るため、まずこれら連鎖移動可能な成分の含有量を調整することが好ましい。
これら連鎖移動可能な成分の含有量は、ホルムアルデヒドの合計質量に対して、好ましくは1~1000質量ppmの範囲であり、より好ましくは1~500質量ppm、さらに好ましくは1~300質量ppmである。
連鎖移動可能な成分の含有量を上記範囲に調整することにより、熱安定性に優れるポリオキシメチレンホモポリマーを得ることができる。
【0018】
ポリオキシメチレンホモポリマーの分子量は、無水カルボン酸又はカルボン酸等の分子量調節剤を用いて連鎖移動させることにより、調整することができる。分子量調節剤としては、特に無水プロピオン酸、無水酢酸が好ましく、より好ましくは無水酢酸である。
分子量調節剤は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
分子量調節剤の導入量は、目的とするポリオキシメチレンホモポリマーの特性(特にメルトフローレート)に応じて調節し決定する。例えば、ポリオキシメチレンホモポリマーは、メルトフローレート(MFR値(ISO1133に準拠、190℃、2.16kg荷重))が、0.1~100g/10分の範囲になるようにすることが好ましく、1.0g/10分~70g/10分の範囲になるようにすることがより好ましい。ポリオキシメチレンホモポリマーのMFR値を上記範囲とすることにより、機械強度に優れるポリオキシメチレンホモポリマーを得ることができる。
【0020】
重合触媒としては、アニオン系重合触媒が好ましく、下記一般式(1)で表されるオニウム塩系重合触媒がより好ましい。
[R1234M]+- ・・・(1)
(式(1)中、R1、R2、R3及びR4は、各々、独立してアルキル基を示し、Mは孤立電子対を持つ元素を示し、Xは求核性基を示す。R1、R2、R3及びR4は、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
重合触媒は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
オニウム塩系重合触媒のなかでも、テトラエチルホスホニウムイオダイド、トリブチルエチルホスホニウムイオダイドのような第4級ホスホニウム塩系化合物や、テトラメチルアンモニウムブロマイド、ジメチルジステアリルアンモニウムアセテートのような第4級アンモニウム塩系化合物が好ましい。
これら第4級ホスホニウム塩系化合物及び第4級アンモニウム塩系化合物等のオニウム塩系重合触媒の添加量は、ホルムアルデヒド1モルに対して、0.0003~0.01molであることが好ましく、より好ましくは0.0008~0.005mol、さらに好ましくは0.001~0.003molである。
【0022】
炭化水素系重合溶媒としては、ホルムアルデヒドと反応しない溶媒であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼン等の溶媒が挙げられ、ヘキサンが特に好ましい。
これらの炭化水素系重合溶媒は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
ポリオキシメチレンホモポリマーの製造においては、先ず、重合により粗ポリオキシメチレンホモポリマーを得、続いて、後述するように、不安定末端基に対して安定化処理を施すことが好ましい。
【0024】
粗ポリオキシメチレンホモポリマーを製造するための重合反応機は、モノマーであるホルムアルデヒド、連鎖移動剤(分子量調節剤)及び重合触媒と、炭化水素系重合溶媒とを同時に供給できる反応機であれば、特に限定されるものではないが、生産性の観点から、連続式重合反応機であることが好ましい。
【0025】
重合により得られた粗ポリオキシメチレンホモポリマーは、末端基が熱的に不安定である。そのため、この不安定末端基を、エステル化剤又はエーテル化剤等で封鎖し、安定化処理することが好ましい。
【0026】
エステル化による粗ポリオキシメチレンホモポリマーの末端基の安定化処理は、例えば、粗ポリオキシメチレンホモポリマーと、エステル化剤及び/又はエステル化触媒とを、炭化水素系重合溶媒を導入した末端安定化反応機にそれぞれ投入し、反応させることによって行うことができる。
この時の反応温度及び反応時間としては、反応温度が130~155℃であり、反応時間が1~100分間であることが好ましく、反応温度が135~155℃であり、反応時間が5~100分間であることがより好ましく、反応温度が140~155℃であり、反応時間が10~100分間であることがさらに好ましい。
【0027】
上記粗ポリオキシメチレンホモポリマーの末端基を封鎖し、安定化するエステル化剤としては、下記一般式(2)で表される酸無水物を用いることができる。
5COOCOR6 ・・・(2)
(式(2)中、R5及びR6は、各々、独立してアルキル基を示す。R5及びR6は、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【0028】
当該エステル化剤としては、例えば、無水安息香酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸、無水プロピオン酸、無水酢酸が挙げられ、好ましくは無水酢酸である。
これらエステル化剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
上記エステル化触媒としては、炭素数1~18のカルボン酸のアルカリ金属塩が好ましく、その添加量は、ポリオキシメチレンホモポリマーの質量に対して、1~1000質量ppmの範囲で適宜選択することができる。
炭素数1~18のカルボン酸のアルカリ金属塩としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプリル酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸等のカルボン酸のアルカリ金属塩が挙げられ、当該アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。これらカルボン酸のアルカリ金属塩の中でも、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、及び酢酸カリウムのアルカリ金属塩が好ましい。
【0030】
上記粗ポリオキシメチレンホモポリマーの末端基を、エーテル化により封鎖し、安定化することも可能である。
エーテル化剤としては、脂肪族又は芳香族の酸と、脂肪族、脂環式族又は芳香族のアルコールとのオルトエステル、例えば、メチルオルトホルメート又はエチルオルトホルメート、メチルオルトアセテート又はエチルオルトアセテート、メチルオルトベンゾエート又はエチルオルトベンゾエート、及びオルトカーボネート、具体的にはエチルオルトカーボネートから選択することができ、p-トルエンスルホン酸、酢酸及びシュウ酸のような中強度有機酸、ジメチルスルフェート及びジエチルスルフェートのような中強度鉱酸等のルイス酸型の触媒を用いて安定化することができる。
【0031】
粗ポリオキシメチレンホモポリマーの末端基を、エーテル化により封鎖し安定化するときの、当該エーテル化反応に用いる溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン及びベンゼン等の低沸点脂肪族有機溶媒;脂環式及び芳香族炭化水素系有機溶媒;塩化メチレン、クロロホルム及び四塩化炭素等のハロゲン化低級脂肪族;等の有機溶媒が挙げられる。
【0032】
上記の方法により末端基が安定化されたポリオキシメチレンホモポリマーを、熱風式乾燥機や真空乾燥機等の乾燥機を用いて、100~150℃に調整した空気又は窒素ガスを封入し、水分を除去して乾燥することにより、目的とするポリオキシメチレンホモポリマーが得られる。
【0033】
-ポリオキシメチレンコポリマー-
ポリオキシメチレンコポリマーは、例えば、コモノマーとして、1,3-ジオキソラン、1,4-ブタンジオールホルマール等のグリコール、ジグリコールの環状ホルマール等の環状エーテル、又は環状ホルマールを用い、これらとトリオキサン等のモノマーとを共重合させること等により製造することができる。
【0034】
共重合させるコモノマーの割合は、上記トリオキサン1molに対して0.03~20mol%であることが好ましく、0.03~15mol%であることがより好ましく、0.04~5mol%であることがさらに好ましい。コモノマーの割合が上記範囲であれば、より機械的強度に優れたポリオキシメチレンペレットが得られる。
【0035】
ポリオキシメチレンコポリマーの重合における重合触媒としては、例えば、ルイス酸、プロトン酸及びそのエステル又は無水物等のカチオン活性触媒等が挙げられる。
ルイス酸としては、例えば、ホウ酸、スズ、チタン、リン、ヒ素及びアンチモンのハロゲン化物等が挙げられ、具体的には三フッ化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン、五フッ化アンチモン及びその錯化合物又は塩等が挙げられる。
また、プロトン酸及びそのエステル又は無水物としては、例えば、パークロル酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パークロル酸-3級ブチルエステル、アセチルパークロラート、トリメチルオキソニウムヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。
これらの中でも、三フッ化ホウ素;三フッ化ホウ素水和物;及び酸素原子又は硫黄原子を含む有機化合物と三フッ化ホウ素との配位錯化合物;が好ましく、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル、三フッ化ホウ素ジ-n-ブチルエーテルが好ましいものとして挙げられる。
【0036】
三フッ化ホウ素の添加量としては、上記トリオキサン1molに対して、0.10×10-4mol以下が好ましく、より好ましくは0.07×10-4mol以下であり、さらに好ましくは0.03~0.05×10-4molである。三フッ化ホウ素の添加量が上記範囲であれば、熱安定性に優れたポリオキシメチレン組成物を提供することができる。
【0037】
上記例示されたポリオキシメチレンコポリマーの重合方法としては、上記スラリー重合法の他に、例えば、塊状重合法で行ってもよく、バッチ式、連続式のいずれも適用可能である。
重合装置としては、例えば、コニーダー、2軸スクリュー式連続押出混錬機、2軸パドル型連続混合機等のセルフクリーニング型押出混錬機等が挙げられる。
溶融状態のモノマーが上記重合装置に供給され、重合の進行とともに固体塊状のポリオキシメチレンコポリマーが得られる。
【0038】
以上の重合で得られたポリオキシメチレンコポリマーには、熱的に不安定な末端部〔-(OCH2n-OH基〕が存在する場合があるため、この不安定な末端部の分解除去処理を実施することが好ましい。不安定な末端部の分解除去方法としては、公知の方法で行うことができる。
【0039】
<(B)窒化ホウ素>
本実施形態のポリオキシメチレン組成物は、結晶核剤として(B)窒化ホウ素を含有する。
(B)窒化ホウ素は、結晶核剤として働くことで形成される(A)ポリオキシメチレンの球晶サイズの観点から、平均粒子径が10~800nmであり、好ましくは80~500nm、より好ましくは100~500nmである。
なお、(B)窒化ホウ素の平均粒子径は、ポリオキシメチレン組成物から(B)窒化ホウ素の粒子を取り出し、走査型電子顕微鏡によって拡大倍率50000倍で得られた3.0×3.0μmの範囲の視野画像に対し、画像処理解析ソフト(旭化成エンジニアリング(株)製「A像くん」)を使用して求めた、上記視野画像中の少なくとも100粒子以上の最長粒子径の平均値として求められ、具体的には、後述の実施例に記載の方法により求められる。
ポリオキシメチレン組成物から(B)窒化ホウ素の粒子を取り出す方法としては、焼却や窒素ガス雰囲気下での加熱処理等により、ポリオキシメチレン組成物中の有機物成分を分解除去する方法等が挙げられる。
【0040】
(B)窒化ホウ素は、平均粒子径が上記範囲である(B)窒化ホウ素をそのまま用いてもよく、また、粒子径が大きいものに粉砕処理を施し、上記の平均粒子径の範囲に加工して用いてもよい。すなわち、(B)窒化ホウ素の粒子径は、粉砕処理により制御することが可能である。
粉砕する機械としては、例えば、乾式ジェットミル、湿式ジェットミル、ハンマーミル、振動ミル、ローラーミル、転動ミル、ピンディスクミル、ビーズミル、衝撃せん断ミル、高圧流体衝突ミル、乾式ボールミル、湿式ボールミルなどが挙げられる。
なお、粉砕方法としては、乾式方法のみを採用してもよく、湿式方法と乾式方法を組み合わせた方法を採用してもよく、湿式方法のみを採用してもよい。
【0041】
(B)窒化ホウ素は、鱗片状、扁平状、円盤状、球状などのいずれの形状であってもよい。
(B)窒化ホウ素の結晶構造としては、六方晶系グラファイト構造、立方晶系閃亜鉛鉱型構造、六方晶系ウルツ鉱型構造がある。(B)窒化ホウ素は、ポリオキシメチレンの結晶核剤として、六方晶グラファイト構造の六方晶窒化ホウ素であることが好ましい。
(B)窒化ホウ素は、結晶核剤として機能する他、ポリオキシメチレン組成物の熱伝導性、耐熱性、耐食性、電気絶縁性、潤滑性、離型性の向上にも寄与する。
【0042】
(B)窒化ホウ素の種類としては、特に限定はされないが、例えば、XGP(デンカ社製)、SGP(デンカ社製)、MGP(デンカ社製)、GP(デンカ社製)、HGP(デンカ社製)、SP-2(デンカ社製)、SP-3(デンカ社製)、SGPS(デンカ社製)、AP-10S(MARUKA社製)、AP-20S(MARUKA社製)、AP-100S(MARUKA社製)、SL-170-20OG(MARUKA社製)、SL-170-20-WA(MARUKA社製)、UHP-S2(昭和電工社製)、UHP-1K(昭和電工社製)、UHP-2(昭和電工社製)、UHP-G1H(昭和電工社製)、PCT-UFB(サンゴバン社製)、PCTP2(サンゴバン社製)、PCTF5(サンゴバン社製)、PCTP8(サンゴバン社製)、PCTL30(サンゴバン社製)、PCTP12(サンゴバン社製)、PCTP16(サンゴバン社製)、PCTP30(サンゴバン社製)、PCTP30D(サンゴバン社製)、PCTL5MHF(サンゴバン社製)、PCTL7MHF(サンゴバン社製)、PCTL20MHF(サンゴバン社製)、PCTH7MHF(サンゴバン社製)、PCTH10MHF(サンゴバン社製)、CTS7M(サンゴバン社製)、CTS25M(サンゴバン社製)、IDL100(サンゴバン社製)、IDL200(サンゴバン社製)、IDL300(サンゴバン社製)、IDL400(サンゴバン社製)、IDL500(サンゴバン社製)、IDL600(サンゴバン社製)、IDL700(サンゴバン社製)、IDL800(サンゴバン社製)、IDL900(サンゴバン社製)、PHPP325(サンゴバン社製)、PHPP325B(サンゴバン社製)、MCFP(サンゴバン社製)、PSHP325(サンゴバン社製)、PSHP605(サンゴバン社製)、PCPS3005(サンゴバン社製)、PCPS302(サンゴバン社製)、PCPS308(サンゴバン社製)、PCPS3012(サンゴバン社製)、PCPS3016(サンゴバン社製)、PCPS330(サンゴバン社製)、PUHP3008J(サンゴバン社製)、PUHP1109J(サンゴバン社製)、PT110(MOMENTIVE社製)、PT120(MOMENTIVE社製)、PT350(MOMENTIVE社製)、PT670(MOMENTIVE社製)、PTX25(MOMENTIVE社製)、PTX60(MOMENTIVE社製)、ZSA-200(ジクス工業社製)、ZSA-20(ジクス工業社製)、ZSA-5(ジクス工業社製)、SCP1(ESK CERAMICS社製)、SX(ESK CERAMICS社製)、S1(ESK CERAMICS社製)、S3(ESK CERAMICS社製)、SRF(ESK CERAMICS社製)、SHP-2(水島合金鉄社製)、SHP-3(水島合金鉄社製)、SHP-4(水島合金鉄社製)、SHP-5(水島合金鉄社製)、SHP-5L(水島合金鉄社製)、SHP-6(水島合金鉄社製)、SHP-7(水島合金鉄社製)、SHP-9(水島合金鉄社製)、HP-1(水島合金鉄社製)、HP-P1(水島合金鉄社製)、HP-2(水島合金鉄社製)、HP-4W(水島合金鉄社製)、HP-6(水島合金鉄社製)、HP40J(水島合金鉄社製)、HP40MF(水島合金鉄社製)、FS-1(水島合金鉄社製)、FS-3(水島合金鉄社製)、Platelets 001(3M社製)、Platelets 003E(3M社製)、Platelets 003SF(3M社製)、Platelets 003(3M社製)、Platelets 006(3M社製)、Platelets 007HS(3M社製)、Platelets 0075(3M社製)、Platelets 009(3M社製)、Platelets 012(3M社製)、Platelets 012P(3M社製)、Flakes 500-3(3M社製)、L551(HONGWUNEWMA TERIAL社製)、L553(HONGWUNEWMA TERIAL社製)、L556(HONGWUNEWMA TERIAL社製)、Hex-Boron Nitride Powder(hBN、99% Pure、APS:70nm)(LOWER FRICTION社製)、Hex-Boron Nitride Powder(hBN、98% Pure、APS:0.5micron)(LOWER FRICTION社製)、Hex-Boron Nitride Powder(hBN、98% Pure、APS:1.5micron)(LOWER FRICTION社製)、Hex-Boron Nitride Powder(hBN、98% Pure、APS:5micron)(LOWER FRICTION社製)、Hex-Boron Nitride Powder(hBN、98% Pure、APS:30micron)(LOWER FRICTION社製)などが挙げられる。
(B)窒化ホウ素は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
(B)窒化ホウ素の代表的な製法としては、融解した無水ホウ酸(B23)と窒素あるいはアンモニアとをリン酸カルシウム(CaPO4)触媒にて反応させる方法がある。その他の製法としては、ホウ酸やホウ化アルカリと、尿素、グアニジン、メラミンなどの有機窒素化合物とを高温の窒素-アンモニア雰囲気中で反応させる方法、融解したホウ酸ナトリウム(Na3BO3)と塩化アンモニウムとをアンモニア雰囲気中で反応させる方法、三塩化ホウ素(BCl3)とアンモニアとを高温で反応させる方法、CVD(化学気相成長)法、熱CVD法、PVD(物理気相成長法)などが挙げられる。
【0044】
本実施形態で用いる(B)窒化ホウ素には、B23やホウ酸、炭素成分などの不純物が含まれていてもよいが、好ましくは(B)窒化ホウ素の純度が60%以上であり、80%以上がより好ましく、90%以上が最も好ましい。
【0045】
本実施形態のポリオキシメチレン組成物の製造における(B)窒化ホウ素の添加方法としては、固体として添加してもよく、分散媒に分散させて添加してもよい。また、適宜、表面酸化や表面修飾、焼成、ドーパントのインタカレート、劈開処理などの前処理を加えてもよい。
【0046】
本実施形態のポリオキシメチレン組成物中の(B)窒化ホウ素の含有量は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)によるホウ素元素の定量分析により測定することができ、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
ICP-MS測定の前処理としては、加圧可能な容器にポリオキシメチレン組成物のペレット、パウダー、成形切削片のいずれかとフッ酸と硝酸の混酸を加えて、マイクロウェーブ照射による密閉系の加圧酸分解することが挙げられ、これによりポリオキシメチレン組成物中の(B)窒化ホウ素が全て分解し、ホウ素元素がICP-MSで定量分析可能となる。
本実施形態のポリオキシメチレン組成物中の(B)窒化ホウ素の含有量は、結晶核剤の実効量の観点から、(A)ポリオキシメチレン100質量部に対して0.001質量部以上であり、0.002質量部以上が好ましく、0.005質量部以上がより好ましく、0.007質量部以上がさらに好ましく、0.01質量部以上がよりさらに好ましく、0.02質量部以上が最も好ましい。一方、熱安定性や異物として破壊起点になる影響の観点から、(B)窒化ホウ素の含有量は、0.5質量部以下であり、好ましくは0.3質量部以下、より好ましくは0.2質量部以下である。
【0047】
上記特定の粒子径と含有量の範囲の(B)窒化ホウ素を用いることで、(A)ポリオキシメチレンの球晶サイズを限りなく小さくし、高応力下での耐クリープ特性を向上することができ、さらに驚くべきことに、耐衝撃性、耐酸性に優れたポリオキシメチレン組成物を提供することができる。詳しい原理は不明だが、おそらく耐衝撃性に関しては、結晶化速度の増大により成形品表層の結晶構造の異方性が解消されることによるものと考えられ、耐酸性に関しては、(B)窒化ホウ素中の窒素原子が塩基として寄与しているものと考えられる。
【0048】
<(C)ポリ-β-アラニン重合体>
本実施形態のポリオキシメチレン組成物は、(C)第一級アミド基を30~70mоl%含有するポリ-β-アラニン重合体を含んでいてもよい。
(C)ポリ-β-アラニン重合体は、主として下記式(3)で示される構造単位(3)及び式(4)で示される構造単位(4)からなるものである。
[-CH2-CH2-CONH-] ・・・(3)
[-CH2-CH-] ・・・(4)

CONH2
なお、「主として構造単位(3)及び構造単位(4)からなる」とは、(C)ポリ-β-アラニン重合体における構造単位(3)及び構造単位(4)の合計含有量が、95mol%以上であることを意味するのとする。
(C)ポリ-β-アラニン重合体は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
上記のとおり、構成単位(4)は第一級アミド基を含有しており、(C)ポリ-β-アラニン重合体における第一級アミド基の含有量は、30~70mol%であり、35~65mol%であることがより好ましく、40~60mol%であることがより好ましい。第一級アミド基の含有量がこの範囲であると、生産性に優れる。
第一級アミド基の含有量の測定方法としては、まず、かき混ぜ機付フラスコ内に試料ポリマーと40質量%水酸化カリウム水溶液を加え、かき混ぜながら105~110℃で20分間加熱し、第一級アミド基をアンモニアに加水分解する。次いで、フラスコ内容物を50℃以下に冷却した後、メタノールを加え、アンモニアをメタノールと共に抽出する。この抽出液を0.1規定硫酸水溶液に吸収させ、指示薬にメチルレッドを用いて0.1規定水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定を行うことにより、第一級アミド基の含有量を求める。
【0050】
(C)ポリ-β-アラニン重合体としては、ギ酸可溶性の低分子量のものから、ギ酸不溶性の高分子量のものまで使用可能であるが、還元粘度(ηsp/c)が0.5~15dL/gに相当する分子量を持つものが好ましく、より好ましくは1~10dL/g、更に好ましくは2~5dL/gに相当する分子量を持つものである。
還元粘度(ηsp/c)の測定方法としては、まず、ポリマー5gをギ酸100mLに入れ、常温で2時間かき混ぜ溶解する。次いで、減圧下でろ過してギ酸溶液を得る。このギ酸溶液に500mLのメタノールを加えてギ酸溶解物を析出させ、この析出物をろ別した後、真空乾燥機中にて80℃で10時間減圧乾燥する。得られた試料を純度99%以上のギ酸に溶解した後、200メッシュのろ過材を通して、試料濃度が1g/dLの試料溶液を調整する。オストワルド粘度計を用いて35℃の温度における試料溶液の落下時間を測定し、下記式により還元粘度ηsp/c(dL/g)を計算する。
ηsp/c=(t/t0-1)/c
(式中、tは試料溶液の落下時間(秒)、t0はギ酸溶液の落下時間(秒)、cは試料溶液の濃度(g/dL)である。)
【0051】
(C)ポリ-β-アラニン重合体は、例えば触媒としてアルカリ土類金属のアルコラートを用い、アクリルアミドを重合させることによって製造することができる。
(C)ポリ-β-アラニン重合体の重合反応は、溶媒の不存在下で行ってもよいし、存在下で行ってもよい。該溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素などが挙げられる。
上記の重合は、例えば脱水精製したアクリルアミドに所定量の触媒を加えて、不活性ガス雰囲気中で加熱することによって行われる。重合方法としては、バッチ式溶液重合法、バッチ式塊状重合法、連続式溶液重合法、連続式塊状重合法などを用いることができる。
この重合反応の反応温度は、通常70~150℃が好ましく、より好ましくは80~130℃の範囲である。
【0052】
また、(C)ポリ-β-アラニン重合体としては、架橋構造を持ったものも使用可能である。架橋構造をもったものとしては、メチレンビスアクリルアミドで架橋させたものを挙げることができる。架橋構造をもたせることで凝集性が改善され、連続生産性が更に良くなる。
【0053】
(C)ポリ-β-アラニン重合体の含有量は、(A)ポリオキシメチレン100質量部に対して、熱安定性の観点から、0.01質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましい。また、異物としての機械物性への影響の観点から、3.0質量部以下が好ましく、より好ましくは1.0質量部以下であり、更に好ましくは0.5質量部以下である。
【0054】
<(D)ポリアミド重合体>
本実施形態のポリオキシメチレン組成物は、(D)融点が140~230℃であるポリアミド重合体を含んでいてもよい。
(D)ポリアミド重合体は、生産性の観点から、融点が140~230℃であり、好ましくは150~200℃、より好ましくは150~180℃である。
融点が(A)ポリオキシメチレンの加工温度領域付近にあることにより、押出機での樹脂圧力を低減させ、生産性を向上させるものと考えられる。
なお、融点は、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により測定することができ、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0055】
(D)ポリアミド重合体として、ラクタム類、ジアミン、ジカルボン酸、ω-アミノカルボン酸を、単独あるいは二種以上の混合物にして重縮合を行って得られる共重合ポリアミド類のいずれもが使用でき、これらのうち少なくとも1種以上を用いることが好ましい。
【0056】
(D)ポリアミド重合体は、ラクタム類の開環重合、ジアミンとジカルボン酸の重縮合、又はアミノカルボン酸の自己縮合などによって得られるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
ラクタム類としては、具体的にはε-カプロラクタム、エナントラクタム、ω-ラウロラクタムなどが挙げられる。
【0058】
ジアミンとしては、大別して脂肪族、脂環式及び芳香族ジアミンが挙げられ、具体例としては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルナノメチレンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン等が挙げられる。
【0059】
ジカルボン酸としては、大別して脂肪族、脂環式及び芳香族ジカルボン酸が挙げられ、具体的には、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,1,3-トリデカン二酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸などが挙げられる。
【0060】
また、アミノカルボン酸としては、具体的にはε-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、13-アミノトリデカン酸などが挙げられる。
【0061】
(D)ポリアミド重合体の例としては、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6/612、ポリアミド6/66/610などが挙げられる。これらの中でも、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド6/66/610が好ましく、ポリアミド12、ポリアミド6/66/610が生産性の観点からより好ましい。
これらのポリアミド重合体は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
(D)ポリアミド重合体としては、更に相対粘度が3.0以下であることが好ましい。相対粘度は、より好ましくは2.5以下である。相対粘度が3.0以下であると生産性に優れる。
なお、相対粘度の測定は、JIS K6920-1:2000に準拠して行う。具体的には、98%濃硫酸に、1g/100cm3の濃度でポリアミド重合体を溶解し、オストワルド型粘度計により25℃で測定した流下時間をt1、98%濃硫酸単体の25℃での流下時間をt0として、「ηr=t1/t0」で示される値である。
【0063】
(D)ポリアミド重合体の含有量は、(A)ポリオキシメチレン100質量部に対して、0.001~0.1質量部が好ましく、より好ましくは0.005~0.08質量部、更に好ましくは0.005~0.05質量部である。添加量が、0.001質量部以上であると生産性が向上し、0.1質量部以下であると滞留着色が少ないレベルを保持できる。
【0064】
(D)ポリアミド重合体の(B)窒化ホウ素に対する質量比率(D)/(B)は、0.04~1.0の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.07~0.7、更に好ましくは0.1~0.5である。質量比率(D)/(B)が上述した範囲であることにより、強度と耐酸性のバランスがより優れる傾向にある。これは仮説であるが、(B)窒化ホウ素と(D)ポリアミド重合体は共に窒素原子を有し、塩基として耐酸性に寄与するところ、(A)ポリオキシメチレン中に固体塩基として存在する(B)窒化ホウ素と、(A)ポリオキシメチレンに相溶状態である(D)ポリアミド重合体という状態の異なる2種類の塩基が相互作用することにより、効果的に酸の中和ができることによるものと考えられる。
【0065】
本実施形態のポリオキシメチレン組成物中の(A)ポリオキシメチレン、(B)窒化ホウ素、(C)ポリ-β-アラニン重合体、(D)ポリアミド重合体の含有量が、それぞれ上記特定の範囲にあると、詳しい機構は不明だが、耐クリープ特性、耐衝撃性の他に、耐酸性及び熱安定性が格段に優れたポリオキシメチレン組成物を提供することができる。
【0066】
<その他の添加剤>
本実施形態のポリオキシメチレン組成物は、(A)ポリオキシメチレンの特性を損なわない範囲で、さらに顔料、染料、各種強化材、酸化防止剤、熱安定剤、ホルムアルデヒド及び/若しくはギ酸捕捉剤等の安定剤、耐候安定剤、離型剤、潤滑剤、導電剤、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、無機充填剤又は有機充填剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
これらの添加剤は、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリオキシメチレン組成物における添加剤の含有量は、(A)ポリオキシメチレン100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましい。
【0067】
<ポリオキシメチレン組成物の製造方法>
本実施形態のポリオキシメチレン組成物は、上記した必須成分である(A)及び(B)成分、任意成分である(C)、(D)成分、その他の添加剤成分を、例えば、ヘンシェルミキサー、タンブラー、V字型ブレンダ-等で混合した後、単軸押出機、或いは2軸押出機、加熱ロール、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて溶融混練することにより製造することができ、ストランド状、ペレット状等、種々の形態の製品として得ることができる。また、予め混合することなく、定量フィーダー等で各成分を単独あるいは数種類ずつまとめて押出機に連続フィードすることもできる。また、予め各成分からなる高濃度マスターバッチを作製しておき、押出溶融混練時に(A)ポリオキシメチレンで希釈することもできる。
混練温度は、使用する(A)ポリオキシメチレンの好ましい加工温度に従えばよく、一般的には、180℃以上240℃以下の範囲、好ましくは190℃以上230℃以下の範囲とする。
【0068】
上記のようにして得られたポリオキシメチレン組成物のペレット等は、予め乾燥させてから、成形体の製造に用いてもよい。乾燥方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、箱型乾燥機(常圧、真空)、回転及び通気回転乾燥機、溝型撹拌乾燥機、流動層乾燥機などを用いた乾燥方法が挙げられる。
乾燥温度としては、熱媒体の温度として80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。また、乾燥時間としては、ポリオキシメチレン樹脂組成物ペレットの品温が100℃に到達した時点を開始時間とした場合に、0~10時間が好ましく、0~6時間がより好ましく、1~6時間がさらに好ましい。
【0069】
<ポリオキシメチレン組成物の成形体>
本実施形態の成形体は、上記した本実施形態のポリオキシメチレン組成物を含む。上記のようにして得られたペレット状等のポリオキシメチレン組成物の製品を用いて、目的とする成形体を成形することができる。
成形体を製造する方法は、特に限定されるものではなく、通常用いられる公知の成形方法、例えば、射出成形法、押出し成形法、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発砲射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等の何れかを適用することができる。
【実施例0070】
以下、実施例及び比較例によって、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0071】
[各種評価方法]
実施例及び比較例において用いた各種評価方法の詳細について以下に述べる。
【0072】
(1)窒化ホウ素の平均粒子径
実施例及び比較例のポリオキシメチレン組成物中に含まれる窒化ホウ素について、窒化ホウ素の走査型顕微鏡での観察画像を取得し、画像解析することにより平均粒子径を求めた。測定装置、条件及び方法は以下のとおりである。
装置:走査型電子顕微鏡(SEM) (株)日立ハイテクノロジーズ製SU8220
加速電圧:1.0kV
検出器位置:上部
検出対象:二次電子像
画像処理解析ソフト:A像くん 旭化成エンジニアリング(株)製
解析アプリケーション:粒子解析
解析パラメータ:(粒子の明度)明、(二値化の方法)手動、(範囲指定)無、(外縁補正)4辺、(穴埋め)有、(小図形除去面積)10画素、(補正方法)手動、(雑音除去フィルタ)有、(シェーディング)有、(シェーディングサイズ)180、(計測項目選択)面積
SEM試料台に貼ったカーボンテープ上に窒化ホウ素を振りかけて固定し、オスミウムプラズマコート処理を行い、SEM観察を行った。50000倍に拡大して得られた3.0μm×3.0μmの範囲の視野画像を、上記画像処理解析ソフトを用いて、二値化画像に編集(黒色が濃い部分が粒子、黒色が薄い部分が粒界となるように閾値を手動で調整)し、粒子と粒界部分とを分割したSEM画像中の少なくとも100粒子以上の窒化ホウ素について最長粒子径を測定し、その平均値を平均粒子径(nm)とした。
なお、ポリオキシメチレン組成物に含まれる窒化ホウ素の平均粒子径を測定する場合、焼却や窒素ガス雰囲気下での加熱処理等の手段により、ポリオキシメチレン組成物中の有機物成分を分解除去することで、窒化ホウ素を取り出し、上述の解析にかけることができる。
【0073】
(2)窒化ホウ素の含有量
実施例及び比較例のポリオキシメチレン組成物中に含まれる窒化ホウ素の含有量について、下記の方法により、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を用いて、ホウ素元素を定量分析し、そのホウ素量から、ポリオキシメチレンを100質量部としたときの窒化ホウ素の含有量(質量部)を求めた。測定装置及び方法は以下のとおりである。
装置:誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS) サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 型式Xシリーズ2
まず前処理として、テフロン(登録商標)製の耐圧密閉容器に、ポリオキシメチレン組成物のペレット0.2gと、硝酸とフッ酸の6mLの混合酸性溶液とを加え、マイクロ波試料分解装置(マイルストーン社製、型式:ETHOS UP)を用いてマイクロウェーブ照射による加熱加圧分解処理を行った。分解処理を行った溶液を超純水で定容して試料検液とし、ICP-MS測定することでホウ素元素の質量分析を実施した。得られたホウ素の質量から窒化ホウ素の含有量を算出した。ホウ素元素の検量線は、AccuStandard社製のほう素ICP-MS標準液(100μg/mL in Water tr.NH4OH)を超純水で希釈し、さらに試料検液と同濃度の酸性溶液を加えることで標準液とし、ICP-MS測定により作成した。
【0074】
(3)高温高応力クリープ特性(破壊時間)
実施例及び比較例のポリオキシメチレン組成物のペレットから、東芝(株)製IS(100GN)射出成形機を用い、シリンダー温度200℃、射出圧力50MPa、射出速度30%、射出時間15秒、冷却時間25秒、金型温度70℃で、寸法110mm×6.5mm×3mmの短冊状の試験片を成形し、環境温度23±2℃、湿度50±10%に24時間以上放置した。放置後の試験片とクリープ試験機(東洋精機(株)製クリープ試験機:C200-6)を用いて、設定温度80±2℃、引張応力22MPaの負荷を与え、試験片が破壊されるまでの時間(破壊時間(hr))を測定した。各ポリオキシメチレン組成物について試験片を3個作製した。表1及び2の破壊時間は、n=3の算術平均時間を示す。
破壊されるまでの時間が長いほど、高応力負荷に対する耐クリープ特性に優れる。
【0075】
(4)シャルピー衝撃強度
実施例及び比較例のポリオキシメチレン組成物のペレットから、シリンダー温度215℃に設定された5オンス成形機(東芝機械(株)製、商品名「IS-100GN」)を用いて、金型温度90℃、射出時間35秒、冷却時間15秒の条件でシャルピー衝撃試験用ISOダンベル試験片(ノッチ付き)を成形した。各ポリオキシメチレン組成物について、6個の試験片を作製した。この6個の試験片に対して、ISO179/1eAに基づいてシャルピー衝撃試験を行い、シャルピー衝撃強度(kJ/m2)を測定した。表1及び2で示す数値は、n=6の算術平均値である。
シャルピー衝撃強度の値が大きいほど、耐衝撃性に優れる。
【0076】
(5)熱安定性
実施例及び比較例のポリオキシメチレン組成物のペレットについて、熱安定性の評価を行った。示差熱天秤TG-DTA(Rigaku社製、「Thermo plus EVO2」)を用いて、窒素ガス流量500mL/min下、昇温速度30℃/minで40℃から225℃に昇温し、225℃で60分間保持した後の、ポリオキシメチレン組成物の仕込み量に対する質量減少率(百分率)を求め、熱安定性の指標とした。
【0077】
(6)耐酸性
実施例及び比較例のポリオキシメチレン組成物のペレットから、シリンダー温度215℃に設定された5オンス成形機(東芝機械(株)製、商品名「IS-100GN」)を用いて、金型温度90℃、射出時間35秒、冷却時間15秒の条件でシャルピー衝撃試験用ISOダンベル試験片を成形した。各ポリオキシメチレン組成物について、4個の試験片を作製した。半径15mm、長さ200mmの円柱状ガラス容器に硫酸10mLを加え、上述の試験片を浸漬し、23℃の恒温槽で1時間静置保管した後、試験片を水洗し、寸法を測定した。硫酸浸漬前後の寸法変化率が5%以下であれば「◎(優れる)」、5%超8%以下であれば「○(良好)」、8%超10%以下であれば「△(可)」、10%を超える場合を「×(不可)」とした。なお、硫酸浸漬前後の寸法変化率は、n=4の算術平均値である。
【0078】
[実施例、比較例で使用した成分]
(A)ポリオキシメチレン
MFR値(ISO1133に準拠、190℃、2.16kg荷重)が2g/10分の、末端アセチル化(酢酸エステル化)により安定化したホルムアルデヒド単独重合体を使用した。
【0079】
(B)窒化ホウ素
(B-1)
EM Japan社販売、商品名:窒化ホウ素ナノ粒子NP-BN-2
平均粒子径80nm。
(B-2)
ALLIANCE Biosystems社販売、商品名:窒化ホウ素超微細粉末BN-NANO5
平均粒子径70nm。
(B-3)
水島合金鉄(株)製、商品名:BN工業用特殊用途向け窒化ホウ素FS-1
平均粒子径250nm。
(B-4)
デンカ(株)製、商品名:デンカボロンナイトライドSP-2
平均粒子径500nm。
(B-5)
昭和電工(株)製、商品名:窒化ホウ素粉末UHP-S2
平均粒子径700nm。
(B-6)
水島合金鉄(株)製、商品名:BN工業用特殊用途向け窒化ホウ素HP-P1
平均粒子径1000nm。
【0080】
(C)ポリ-β-アラニン重合体
(C-1)
攪拌機を備えたバッチ式の5Lの反応機に、アクリルアミド2400gと、触媒としてカルシウムn-プロピラート1.08g(アクリルアミドに対し1/5000mol)を加え、N2気流中で攪拌しながら125℃で4時間反応させた。反応終了後に固形物を粉砕した後、アセトンで洗浄し乾燥した。得られた重合体の、第一級アミド基の含有量、還元粘度は以下のとおりであった。
・第一級アミド基の含有量は、45.0mol%
・還元粘度は、2.3dL/g
(C-2)
攪拌機を備えたバッチ式の5Lの反応機に、アクリルアミド2400gと、触媒としてカルシウムn-プロピラート0.81g(アクリルアミドに対し1/7500mol)を加え、N2気流中で攪拌しながら125℃で4時間反応させた。反応終了後に固形物を粉砕した後、アセトンで洗浄し乾燥した。得られた重合体の、第一級アミド基の含有量、還元粘度は以下のとおりであった。
・第一級アミド基の含有量は、63.0mol%
・還元粘度は、2.31dL/g
(C-3)
攪拌機を備えたバッチ式の5Lの反応機に、アクリルアミド2400gと、触媒としてカルシウムn-プロピラート0.54g(アクリルアミドに対し1/10000mol)を加え、N2気流中で攪拌しながら125℃で4時間反応させた。反応終了後に固形物を粉砕した後、アセトンで洗浄し乾燥した。得られた重合体の、第一級アミド基の含有量、還元粘度は以下のとおりであった。
・第一級アミド基の含有量は、75.0mol%
・還元粘度は、2.4dL/g
(第一級アミド基の含有量の測定)
上記ポリ-β-アラニン重合体の第一級アミド基の含有量は、以下のようにして求めた。まず、かき混ぜ機付フラスコ内にポリ-β-アラニン重合体と40質量%水酸化カリウム水溶液を加え、かき混ぜながら105~110℃で20分間加熱し、第一級アミド基をアンモニアに加水分解した。次いで、フラスコ内容物を50℃以下に冷却した後、メタノールを加え、アンモニアをメタノールと共に抽出した。この抽出液を0.1規定硫酸水溶液に吸収させ、指示薬にメチルレッドを用いて0.1規定水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定を行うことにより、第一級アミド基の含有量を求めた。
(還元粘度の測定)
上記ポリ-β-アラニン重合体の還元粘度は、以下のようにして求めた。まず、ポリ-β-アラニン重合体5gをギ酸100mLに添加し、常温で2時間かき混ぜて溶解した。次いで、減圧下でろ過してギ酸溶液を得た。このギ酸溶液に500mLのメタノールを加えてギ酸溶解物を析出させ、この析出物をろ別した後、真空乾燥機中にて80℃で10時間減圧乾燥させた。得られた試料を純度99%以上のギ酸に溶解した後、200メッシュのろ過材を通し、試料濃度が1g/dLの試料溶液を調整した。オストワルド粘度計を用いて35℃の温度における試料溶液の落下時間を測定し、下記式により還元粘度ηsp/c(dL/g)を求めた。
ηsp/c=(t/t0-1)/c
(式中、tは試料溶液の落下時間(秒)、t0はギ酸溶液の落下時間(秒)、cは試料溶液の濃度(g/dL)である。)
【0081】
(D)ポリアミド重合体
(D-1)ポリアミド6/66/610共重合体
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩0.45kg、セバシン酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩0.32kg、ε-カプロラクタム1.67kg、及び純水2.5kgを5Lのオートクレーブの中に仕込み、よく攪拌した。充分N2置換した後、攪拌しながら温度を室温から220℃まで約1時間かけて昇温した。この際、オートクレーブ内の水蒸気による自然圧で内圧は18kg/cm2-Gになるが、18kg/cm2-G以上の圧にならないよう水を反応系外に除去しながらさらに加熱を続け、内温が230℃に到達したら過熱を止め、オートクレーブの排出バルブを閉止し、約8時間かけて室温まで冷却した。冷却後、オートクレーブを開け、約2kgのポリマーを取出して粉砕し、粉状とした。融点は150℃、相対粘度は2.0であった。
(D-2)ポリアミド12
ダイセル・デグサ(株)製、商品名:ダイアミドL1700
ペレット状では分散性に問題があるので、粉砕し粉状とした。融点は178℃、相対粘度は1.7であった。
(D-3)ポリアミド66
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩2.5kgと、純水2.5kgを5Lのオートクレーブの中に仕込み、よく攪拌した。充分N2置換した後、攪拌しながら温度を室温から220℃まで約1時間かけて昇温した。この際、オートクレーブ内の水蒸気による自然圧で内圧は18kg/cm2-Gになるが、18kg/cm2-G以上の圧にならないよう水を反応系外に除去しながらさらに加熱を続け、内温が260℃に到達したら過熱を止め、オートクレーブの排出バルブを閉止し、約8時間かけて室温まで冷却した。冷却後、オートクレーブを開け、約2kgのポリマーを取出して粉砕し、粉状とした。融点は260℃、相対粘度は2.0であった。
(融点の測定)
上記ポリアミド重合体の融点は、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量計(PerkinElmer社製、「DSC 8000」)を用いて行った。ポリアミド重合体8mgを精秤し、これを測定に用いた。測定条件は、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で50℃から300℃まで昇温、300℃で5分間保持、その後、降温速度20℃/分で50℃まで降温、次いで、昇温速度20℃/分で50℃から300℃まで昇温、とした。現れた吸熱を示すピークをポリアミド重合体の融解を示すピークとし、最も高温側に現れた吸熱を示すピークにおける温度(℃)をポリアミド重合体の融点とした。
(相対粘度の測定)
上記ポリアミド重合体の相対粘度は、JIS K6920-1:2000に準拠して、98%濃硫酸に1g/100cm3の濃度でポリアミド重合体を溶解し、オストワルド型粘度計により25℃で測定した流下時間をt1、98%濃硫酸単体の25℃での流下時間をt0として、「相対粘度ηr=t1/t0」の式により求めた。
【0082】
(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤
BASF(株)製、商品名:Irganox(登録商標)245
【0083】
[実施例1]
(A)ポリオキシメチレン100質量部、(B-1)窒化ホウ素0.02質量部、(C-1)ポリ-β-アラニン重合体0.1質量部、(D-1)ポリアミド重合体0.02質量部、(E)酸化防止剤0.2質量部((D)/(B)質量比率=1)を、ヘンシェルミキサーを用いて均一に混合して混合物を得た。前記混合物を30Φ単軸押出機にて溶融混錬し、ストランド状に押し出し、冷却し、ペレタイズすることにより、ポリオキシメチレン組成物からなるペレットを得た。押出条件は、シリンダー設定温度を200℃、吐出量を5kg/hr、スクリュー回転数を50rpm、ベント減圧度を-720mmHgとした。得られたペレットを80℃で4時間乾燥した。乾燥したペレットを用いて、(2)窒化ホウ素の含有量、(3)高温高応力クリープ特性(破壊時間)、(4)シャルピー衝撃強度、(5)熱安定性及び(6)耐酸性を上記の各種評価方法により評価した。評価結果を表1に示す。
【0084】
[実施例2~22]
ポリオキシメチレン組成物の成分組成を表1及び2に記載のように変更した。それ以外は実施例1と同様の操作を行って乾燥したポリオキシメチレン組成物ペレットを得て、同様に評価を行った。評価結果を表1及び2に示す。
【0085】
[比較例1~5]
ポリオキシメチレン組成物の成分組成を表2に記載のように変更した。それ以外は実施例1と同様の操作を行って乾燥したポリオキシメチレン組成物ペレットを得て、同様に評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
表1、2の結果から明らかなように、(A)ポリオキシメチレンと特定の粒子径を有する(B)窒化ホウ素を所定の含有量で含むものとすることで、高い高応力耐クリープ特性、耐衝撃性、耐酸性、及び熱安定性を兼ね備えたポリオキシメチレン組成物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のポリオキシメチレン組成物は、上述のように、結晶核剤添加によるクリープ耐性と衝撃強度の二律背反を解消し、高応力下での高い耐クリープ特性と高い衝撃強度を有し、さらに耐酸性と熱安定性にも優れるため、信頼性が求められる自動車などの機構部品や過酷な使用条件で用いられる機器の機構部品などに好適に利用できる。