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  • 特開-刻印装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161151
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】刻印装置
(51)【国際特許分類】
   B41K 3/36 20060101AFI20221014BHJP
【FI】
B41K3/36 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065743
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】千田 敏之
(72)【発明者】
【氏名】川口 裕義
(57)【要約】
【課題】工場に求められる小型化並びにクリーン化の要求を満たしつつも、効果的に刻印を行うことが可能な刻印装置を提供する。
【解決手段】刻印装置10は、ストローク部11aを鉛直下方に向けた状態で配設されるエアシリンダ11と、ストローク部11aに取付けられる錘12と、刻印部13bを有しエアシリンダ11の下方へのストロークで錘12が衝突することにより刻印対象Wに刻印部13bを押込み可能な刻印部材13とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストローク部を鉛直下方に向けた状態で配設されるエアシリンダと、
前記ストローク部に取付けられる錘と、
刻印部を有し、前記エアシリンダの下方へのストロークで前記錘が衝突することにより刻印対象に前記刻印部を押込み可能な刻印部材とを備えた刻印装置。
【請求項2】
前記エアシリンダは複動型で、前記エアシリンダの下方へのストローク時に排出側となるポートに急速排気弁が接続されている請求項1に記載の刻印装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刻印装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工場では、製造した物品に対して管理目的等で所定の文字、数字、記号等を刻印することが行われている。ここで、刻印装置としては、錘の自重落下により打刻部を刻印対象に衝突させるもの(例えば、特許文献1を参照)や、振動ペン(例えば、特許文献2を参照)、サーボモータにより打刻部を位置制御しながら刻印対象に向けて押し込むもの(例えば、特許文献3を参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-143000号公報
【特許文献2】特開2017-170459号公報
【特許文献3】特開2002-160437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、最近の工場に対しては、設備の小型化、最適な配置による工場全体の小型化が求められる傾向にある。また、洗浄工程などを極力排除して、工程全体のスリム化を図るために、又は近年の環境問題への取り組みの一環として、工場内のクリーン化が求められる傾向にある。これらの観点から各種刻印装置の適正を検討した場合、特許文献3に記載のようにサーボモータにより打刻部を直接駆動させて刻印動作を行う場合には、駆動装置だけでなく刻印時の押込み力や押込み位置など制御が煩雑となり、また関連設備の増加により設備の大型化を招くおそれがある。また、特許文献2に記載のように、振動ペンで刻印を行う場合には、刻印時に切粉が発生する可能性が高い。そのため、刻印対象だけでなく周辺設備の清浄度が低下するおそれがあり、クリーン化の観点から適切でない。
【0005】
特許文献1に記載の設備であれば、切粉の発生などの心配はないが、錘の自重落下だけでは刻印部材への衝撃力が足りないおそれがあるため、十分な深さの刻印を得るために、錘の自重落下開始位置から刻印対象までの距離(鉛直方向距離)を大きくとる必要が生じる。このように錘から刻印部材までの距離を大きくとることで、装置の大型化を招くおそれが高まる。また、特許文献1に記載の装置だと、錘の自重落下をガイドするための部材や、落下後の錘を自重落下開始位置まで上昇させるための駆動装置、及び自重落下開始までの間、錘の自重落下を規制するための部材などが別途必要となり、この場合も装置の大型化を招くおそれが高まる。
【0006】
以上の事情に鑑み、本明細書では、工場に求められる小型化並びにクリーン化の要求を満たしつつも、効果的に刻印を行うことが可能な刻印装置を提供することを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題の解決は、本発明に係る刻印装置によって達成される。すなわち、この刻印装置は、ストローク部を鉛直下方に向けた状態で配設されるエアシリンダと、ストローク部に取付けられる錘と、刻印部を有し、エアシリンダの下方へのストロークで錘が衝突することにより刻印対象に刻印部を押込み可能な刻印部材とを備えた点をもって特徴付けられる。
【0008】
本発明に係る刻印装置では、エアシリンダのストローク部に錘を設けて、エアシリンダの下方へのストロークで錘が刻印部材に衝突することにより、刻印部材に設けた刻印部を刻印対象に押込み可能とした。この構成によれば、錘の自重落下による衝撃力に加えて、エアシリンダの下方へのストローク力(推力)を、刻印部材への衝撃力ひいては刻印部による刻印対象への押込み力として利用することができる。そのため、例えば自重落下式の刻印装置と比べて、短い距離でも所要深さの刻印を得ることが可能となる。言い換えると、錘をそれほど大きくせずとも必要な深さの刻印が可能になるので、錘を大きくすることによる設備の大型化を回避することができる。また、エアシリンダのストローク部に錘を取付けることで、錘の自由落下を規制する部材や錘を持ち上げるための駆動装置も不要となるため、設備全体の小型化を図ることができる。もちろん、本発明のように、錘の衝突により刻印部を押し込むことで刻印を行うのであれば、振動ペンのように切削粉が発生するおそれもない。以上より、本発明によれば、設備の大型化を回避して設備周辺をクリーンな状態に保ちつつも、効果的な刻印を行うことが可能となる。
【0009】
また、本発明に係る刻印装置においては、刻印対象がアルミ製で、エアシリンダのシリンダ内径をD[mm]、錘の重量をF[kg重]としたとき、14.2<D×F<50 を満たすように、シリンダ内径と錘の重量がそれぞれ設定されてもよい。
【0010】
本発明に係る刻印の良否は、刻印されている文字等が容易に視認し得るか否か、言い換えると、容易に視認可能な程度の深さの刻印が形成されているか否かにより判定される。ここで、本発明者がエアシリンダの性能が刻印の深さに及ぼす影響を検証した結果、エアシリンダの下方へのストローク力よりもストローク速度のほうが刻印の深さに大きく影響することが判明した。ここで、エアシリンダのシリンダ内径は、シリンダ容積ひいてはシリンダの受圧面積に直結するパラメータであるから、シリンダ内径を小さくするほどシリンダのストローク速度が増加し、深い刻印が得られる。また、刻印の深さに大きな影響を与える因子として、錘の重量が考えられる。すなわち、錘の重量が大きいほど深い刻印が得られる。一方で、本発明に係る刻印装置においては、刻印動作後にエアシリンダで錘を引き上げる必要があるが、シリンダ内径を小さくするほど、また錘の重量を大きくするほど、錘の引き上げに必要なシリンダの上向きのストローク力が小さくなるといった問題がある。
【0011】
以上の知見に基づき、本発明者が更なる具体的な検証を行った結果、刻印対象をアルミ製とした場合に、シリンダ内径と錘の重量との積が上述した数値範囲に含まれるように、シリンダ内径と錘の重量をそれぞれ設定することによって、十分な深さの刻印を得つつも、刻印動作後の錘を確実に下降開始位置まで引き上げ得ることが判明した。以上より、本構成によれば、非常に効果的な刻印動作を安定的に継続実施することが可能となる。
【0012】
また、この場合、本発明に係る刻印装置において、エアシリンダは複動型で、エアシリンダの下方へのストローク時に排出側となるポートに急速排気弁が接続されてもよい。
【0013】
エアシリンダを複動型とした場合、たとえ上述の如くシリンダ内径を小さくしてエアシリンダのストローク速度を高めたとしても、エアシリンダの排気側容積室の排気が迅速に行われなければ、当該容積室内のエアが抵抗となり、計算通りの下降速度(すなわちエアシリンダのストローク速度と錘の自重落下速度とを合算した値)を得ることができないおそれがある。ここで、エアシリンダの下方へのストローク時に排出側となるポートに急速排気弁を接続することによって、錘の下降時、特に下降開始直後におけるエアシリンダの排気側容積室の排気を促進することができる。よって、エアシリンダの下方へのストローク速度と錘の自重落下速度とを、錘の下降速度に確実に反映させることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、工場に求められる小型化並びにクリーン化の要求を満たしつつも、効果的に刻印を行うことが可能な刻印装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る刻印装置の全体構成を示す正面図である。
図2図1に示すエアシリンダ周辺を拡大した図である。
図3図1に示す刻印装置を用いた刻印方法の一例を説明するための要部正面図で、刻印対象に刻印部が当接した状態を示す図である。
図4図1に示す刻印装置を用いた刻印方法の一例を説明するための要部正面図で、錘の自重落下を開始した直後の状態を示す図である。
図5図1に示す刻印装置を用いた刻印方法の一例を説明するための要部正面図で、錘が刻印部材に衝突した直後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る刻印装置、及びこの刻印装置を用いた刻印方法の内容を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る刻印装置10の全体構成を示している。この刻印装置10は、一又は複数のエアシリンダ11と、エアシリンダ11のストローク部となるピストン11aに取付けられた錘12と、錘12の衝突により刻印対象となるワークWに所定の刻印を施す刻印部材13と、刻印部材13を支持する支持部14とを主に具備する。本実施形態では、刻印部材13の下方に搬送装置15が配設されると共に、搬送装置15により所定の搬送路上を水平搬送されるワークWに刻印部材13がアプローチできるようになっている。以下、各構成要素の詳細を説明する。
【0018】
エアシリンダ11は、ピストン11aを下方に向けた状態で配設される。本実施形態では、三つのエアシリンダ11が互いに平行となる姿勢で配設されており、各エアシリンダ11の筒状をなすシリンダ本体11bが基部16に取付けられている。ここで、エアシリンダ11は、ピストン11aに取り付けた錘12を刻印部材13に衝突させる目的で配設されている。そのため、図1に示すように、ピストン11aの延長線上に、衝突対象となる刻印部材13の上端部13aが位置するように、エアシリンダ11及び刻印部材13が配置されている。
【0019】
エアシリンダ11は、単動型と複動型、何れの形態であってもよいが、後述する排気性能や応答性、ストローク速度等を考慮した場合、複動型であることが望ましい。ここで、エアシリンダ11を含むエア回路は、原則として任意であり、例えば上述した複動型のエアシリンダ11と、エアシリンダ11の吸気側と排気側とを切替える切替え弁17と、切替え弁17を介して圧縮エアをエアシリンダ11に供給するエア供給源18とで構成される。ここで、切替え弁17に任意の種類の製品を適用することができ、機械式と電磁式の別を問わない。本実施形態では、切替え弁17に、同期制御が容易な電磁式の切替え弁を適用している。エア供給源18は、例えばコンプレッサであり、エアシリンダ11毎に設けてもよく、あるいは図2に示すように複数のエアシリンダ11に共通のエア供給源18として設けてもよい。また、図2では、刻印装置10の基部16に取付け可能なタイプのコンプレッサをエア供給源18とした場合を例示したが、例えば工場の設備共通のエア供給源(据え置き型のコンプレッサ)をエア供給源18としてもよいことはもちろんである。
【0020】
図2に示す例では、エアシリンダ11と切替え弁17との間に急速排気弁19が配設されている。この場合、エアシリンダ11の下方へのストローク時に給気側となる第一ポート11cに、配管20aを介して切替え弁17が接続される。また、エアシリンダ11の下方へのストローク時に排出側となる第二ポート11dに、急速排気弁19が配管を介することなく直接に接続されると共に、この急速排気弁19に、配管20bを介して切替え弁17が接続されている。この場合、切替え弁17側から急速排気弁19内に流入した圧縮エアは、エアシリンダ11の第二ポート11dを通じてエアシリンダ11の第二容積室11fに供給される。また、ピストン11aの下方へのストローク(伸長)時、エアシリンダ11の第二容積室11fから流出した圧縮エアは、急速排気弁19に設けられた排気用ポート19aから排出されるようになっている。
【0021】
ここで、エアシリンダ11のストローク量S(図2を参照)は、錘12の下降開始位置、すなわち自重落下開始位置から刻印部材13の上端部13aまでの鉛直方向距離L(同じく図2を参照)の大きさに応じて設定される。すなわち、エアシリンダ11の下方へのストロークによりピストン11aに取付けられた錘12が確実に刻印部材13の上端部13aに衝突するように、下方へのストローク量Sが、錘12と刻印部材13との鉛直方向距離Lよりも大きなエアシリンダ11を適用することが望ましい。ここで、鉛直方向距離Lは、後述する錘12の自重落下及びエアシリンダ11の下方へのストロークによる刻印部材13への衝撃力の大きさを考慮した場合、例えば30mm以上に設定されるのがよく、好ましくは45mm以上に設定されるのがよい。よって、この場合、エアシリンダ11の下方へのストローク量Sは、30mmよりも大きい値に設定されるのがよく、好ましくは45mmよりも大きい値に設定されるのがよい。一方で、必要以上に鉛直方向距離Lを大きく設定すると、刻印装置10全体の大型化を招くことから、鉛直方向距離Lは120mm以下、好ましくは100mm以下に設定されるのがよい。この場合、適用するエアシリンダ11は、ストローク量Sの最大値が120mm以下、好ましくは100mm以下のものでよい。
【0022】
また、エアシリンダ11のシリンダ内径D[mm](図2を参照)は原則として任意であるが、後述する刻印深さに及ぼす影響を考慮した場合、例えば刻印対象の材質に応じて、錘12の重量F[kg重]との積D×Fとして適正な数値範囲が設定される。詳細は後述する。
【0023】
なお、図示は省略するが、錘12を取付けたピストン11aの安定的なストローク動作を得るために、ピストン11a又は錘12の下方への移動を案内するガイド部材を設けてもよい。このガイド部材はシリンダ本体11bに取付けてもよいし、エアシリンダ11以外の要素(基部16など)に取付けてもよい。
【0024】
錘12は、例えば鉄などの金属で形成され、エアシリンダ11のピストン11aに取り付けられる。この場合、錘12の重心がピストン11aのストローク軸線上に位置するよう、錘12の形状及びピストン11aに対する取り付け位置が適宜に設定される。なお、エアシリンダ11の下方へのストローク動作を行った際、錘12が刻印部材13の上端部13aに衝突するように、錘12の寸法並びに底面形状を設定することはもちろんである。
【0025】
ここで、錘12の重量は、ワークWに対する所要深さの刻印が可能な限りにおいて任意に設定することが可能であるが、既述の通り、本発明に係る刻印装置10においては、シリンダ内径Dを小さくするほど、また錘12の重量Fを大きくするほど、ワークWに形成される刻印の深さが大きくなる傾向にある。その一方で、刻印動作後にエアシリンダ11で錘12を引き上げる際、シリンダ内径Dを小さくするほど、また錘12の重量Fを大きくするほど、錘12の引き上げに必要な上向きのシリンダ推力が小さくなるといった問題がある。このような事情に鑑みた場合、14.2<D×F<50 を満たすように、シリンダ内径Dと錘12の重量Fをそれぞれ設定するのがよい。
【0026】
一例として、錘12の重量Fが2kg重のとき、十分な刻印深さを得るためには、エアシリンダ11のシリンダ内径Dは25mm未満であることが望ましい。一方で、錘12の円滑な引き上げのためには、シリンダ内径Dは7.1mmより大きいことが望ましい。
【0027】
刻印部材13は、下降する錘12が衝突する受け部としての上端部13aと、刻印対象としてのワークWと向き合う位置に配設される刻印部13bとを有する。刻印部材13は、例えば支持部14により上下動可能に支持されている。この際、支持部14は、図示しない弾性部材により刻印部材13を鉛直方向に付勢した状態で支持するものであってもよい。本実施形態では、錘12の底面と上端部13aともに平坦面形状をなしている。
【0028】
上述したエアシリンダ11、錘12、刻印部材13、及び支持部14は何れも基部16に取付けられる。本実施形態では、基部16自体が昇降することで、上述したエアシリンダ11等が一体的に昇降可能とされている。
【0029】
次に、上記構成の刻印装置10を用いた刻印方法の一例を説明する。なお、図1に示す刻印装置10では、三つのエアシリンダ11と錘12、及び刻印部材13が並列に配置されているが、以下の説明では、中央のエアシリンダ11等のみに着目して刻印動作の詳細を説明する。
【0030】
まず、図1に示すように、刻印対象となるワークW(図1中、二点鎖線で示す物体)を搬送装置15により刻印部材13の直下位置まで搬入する。そして、この状態から基部16を図示しない駆動装置により下降させ、基部16に取付けられた状態の刻印部材13を下降させると共に、刻印部材13の下端に設けられた刻印部13bをワークWの所定位置に当接させる(図3に示す状態)。この時点で、エアシリンダ11は停止した状態にあり、ピストン11aに取付けられた錘12は自重落下開始位置に保持されている。
【0031】
このようにしてワークWに刻印部13bを当接させた後、エアシリンダ11を駆動して、ピストン11aに取付けられた錘12を下降させる。詳述すると、エア供給源18で生成した圧縮エアを切替え弁17に供給する。ここで、切替え弁17をエアシリンダ11の第一ポート11c側に切替えて、圧縮エアをエアシリンダ11の第一容積室11eに供給する。この結果、ピストン11aは下方に伸長する向きにストロークを開始する。これにより、ピストン11aに取付けられた錘12は、下方への移動を開始する(図4を参照)。この際、錘12には、自重だけでなくエアシリンダ11の下向きのストローク力が作用する。これにより、自重落下のみの場合よりも大きな初速で下降動作が開始される。
【0032】
また、ピストン11aの下方へのストロークに伴い、第二容積室11fから圧縮エアが第二ポート11dから排出される。本実施形態では、第二ポート11dに急速排気弁19が接続されているので、第二容積室11fから排出された圧縮エアは急速排気弁19内に流入し、排気用ポート19aを通じて外気へと放出される。この一連の作用により、第二容積室11fの排気が迅速に実施される。
【0033】
このようにして錘12の下降動作を開始した後、錘12が鉛直方向距離L(図2を参照)だけ下方に移動することで、錘12を刻印部材13の上端部13aに衝突させる(図5に示す状態)。これにより、錘12の重量及び衝突時の錘12の下降速度に応じた衝撃力が刻印部材13の刻印部13bに作用し、ワークWに対する刻印部13bの所定深さまでの押込みが生じる。これにより、所要深さの刻印がワークWの所定表面に施される。上述した動作が、残りのエアシリンダ11についても行われた結果、ロットナンバーなど複数の文字、数字、記号からなる特定の文字の集合体がワークWの表面に視認可能に形成される。
【0034】
以上のようにして刻印動作が完了した後、基部16を上昇させて刻印部13bをワークWから引き離す。然る後、搬送装置15により刻印済みのワークWを搬出すると共に、エア供給源18で生成した圧縮エアを、切替え弁17の切替え動作により、急速排気弁19を介してエアシリンダ11の第二容積室11fに供給する。これにより、エアシリンダ11のピストン11aを上方に向けて移動させて、錘12を刻印部材13から上方に離すことにより自重落下開始位置(図2を参照)に復帰させる。以上の工程を繰り返すことにより、量産品に対する刻印作業(刻印工程)が繰り返し実施される。
【0035】
以上述べたように、本実施形態に係る刻印装置10によれば、エアシリンダ11の下方へのストロークで、ピストン11aに取付けられた錘12が刻印部材13に衝突することにより、刻印部13bが刻印対象となるワークWに押込まれる。この際、錘12の自重落下による衝撃力に加えて、エアシリンダ11の下方へのストローク力が、刻印部材13への衝撃力として付与される。そのため、従来知られている自重落下式の刻印装置と比べて、短い距離でも所要深さの刻印をワークWに形成することが可能となる。言い換えると、錘12をそれほど大きくせずとも必要な深さの刻印が可能になるので、錘12を過剰に大きくせずに済み、設備全体の大型化を回避することができる。また、エアシリンダ11のストローク部となるピストン11aに錘12を取付けているので、錘12の自由落下を規制する部材や錘12を持ち上げるための駆動装置も不要となるため、設備全体の小型化を図ることができる。もちろん、錘12の衝突による刻印であれば、振動ペンのように切削粉が発生するおそれもない。以上より、本実施形態に係る刻印装置10によれば、設備の大型化を回避し得ると共に設備周辺をクリーンな状態に保ちつつも、必要な深さの刻印をワークWに形成することが可能となる。
【0036】
また、本実施形態に係る刻印装置10では、刻印対象となるワークWがアルミ製の場合、エアシリンダ11のシリンダ内径をD[mm]、錘12の重量をF[kg重]としたとき、 14.2<D×F<50 を満たすように、シリンダ内径Dと錘12の重量Fをそれぞれ設定した。これにより、容易に刻印された文字等が視認可能な程度に十分な深さの刻印をワークWの表面に形成しつつも、刻印動作後の錘12を確実に下降開始位置まで引き上げることができる。従って、非常に効果的な刻印動作を安定的に継続実施することが可能となる。
【0037】
また、本実施形態では、エアシリンダ11の下方へのストローク時に排出側となる第二ポート11dに急速排気弁19を接続した。このように構成することで、錘12の下降時、特に下降開始直後におけるエアシリンダ11の排気側容積室(第二容積室11f)の排気を迅速に行うことができる。よって、エアシリンダ11の下方へのストローク速度と錘12の自重落下速度とを、錘12の下降速度に確実に反映させて、期待通りの衝撃力を刻印部材13に付与することができる。なお、エアシリンダ11の下方へのストローク速度に影響を及ぼす他の因子として、例えば給気側の配管20aが挙げられる。この場合、流量確保及び抵抗抑制の観点からは、配管20aの内径寸法を所定範囲(例えば10mm以上で50mm以下)に設定すると共に、配管20aの長さを所定値以下(例えば10m以下)に設定することが肝要である。
【0038】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明に係る刻印装置は、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【符号の説明】
【0039】
10 刻印装置
11 エアシリンダ
11a ピストン
11b シリンダ本体
11c 第一ポート
11d 第二ポート
11e 第一容積室
11f 第二容積室
12 錘
13 刻印部材
13a 上端部
13b 刻印部
14 支持部
15 搬送装置
16 基部
17 切替え弁
18 エア供給源
19 急速排気弁
19a 排気用ポート
20a,20b 配管
L 鉛直方向距離
S ストローク量
W ワーク(刻印対象)
図1
図2
図3
図4
図5