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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161166
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】はんだコート方法及び回路基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/34 20060101AFI20221014BHJP
   B23K 35/363 20060101ALI20221014BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20221014BHJP
   C22C 13/02 20060101ALI20221014BHJP
   B23K 35/26 20060101ALN20221014BHJP
   C22C 12/00 20060101ALN20221014BHJP
【FI】
H05K3/34 505C
B23K35/363 E
B23K35/363 D
C22C13/00
C22C13/02
H05K3/34 503A
B23K35/26 310A
B23K35/26 310C
C22C12/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065767
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】593174641
【氏名又は名称】メルテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】倉本 武夫
(72)【発明者】
【氏名】塚原 義人
【テーマコード(参考)】
5E319
【Fターム(参考)】
5E319BB05
5E319CC33
5E319CD22
5E319CD25
5E319GG05
(57)【要約】
【課題】小寸法及び挟ピッチの回路を含む金属回路の金属材の表面に、均一かつ平坦にはんだを被覆し、かつ、金属回路間のはんだブリッジが発生しないはんだコート方法を提供することを目的とする。
【解決手段】上述の目的を達成するため、回路基板の金属材にはんだを被覆するはんだコート方法であって、はんだ粉末と、水溶性樹脂とを含むペーストを前記回路基板に塗布する工程Aと、加熱して前記はんだ粉末を溶融する工程Bと、前記回路基板から前記ペーストを除去する工程Cとを有することを特徴とするはんだコート方法を採用した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板の金属材にはんだを被覆するはんだコート方法であって、
はんだ粉末と水溶性樹脂とを含むペーストを前記回路基板に塗布する工程Aと、加熱して前記はんだ粉末を溶融する工程Bと、前記回路基板から前記ペーストを除去する工程Cとを有することを特徴とするはんだコート方法。
【請求項2】
前記工程Aと前記工程Bとの間に、前記ペーストの上にフラックスを塗布する工程Fを有する請求項1に記載のはんだコート方法。
【請求項3】
前記工程Bを、還元雰囲気中で行う請求項1に記載のはんだコート方法。
【請求項4】
前記工程Cを、水を用いた洗浄によって行う請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のはんだコート方法。
【請求項5】
前記はんだ粉末は、平均粒径が1μm以上20μm以下であり、且つ、融点が110℃以上300℃以下である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のはんだコート方法。
【請求項6】
前記水溶性樹脂は、50℃以下で液状の液状樹脂材料と、融点が50℃を超え100℃以下の固体状樹脂材料との、少なくともいずれか一方を含有するものである請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のはんだコート方法。
【請求項7】
前記液状樹脂材料は、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体、グリセリン、グリセリン誘導体、ポリグリセリン、ポリグリセリン誘導体の群より選択される1種以上である請求項6に記載のはんだコート方法。
【請求項8】
前記固体状樹脂材料は、数平均分子量2000以上のポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールウレタン変性樹脂、ロジンエチレンオキサイド付加物、アミンエチレンオキサイド付加物の群より選択される1種以上である請求項6又は請求項7に記載のはんだコート方法。
【請求項9】
前記還元雰囲気は、蟻酸、水素のいずれか一方を含有するものである請求項3から請求項8のいずれか一項に記載のはんだコート方法。
【請求項10】
前記はんだ粉末と前記水溶性樹脂との混合割合は、前記はんだ粉末と前記水溶性樹脂とを混合した材料の合計を100重量部としたとき、前記水溶性樹脂が1.0重量部以上90.0重量部以下である請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のはんだコート方法。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のはんだコート方法で金属回路にはんだを被覆した回路基板であって、被覆された前記はんだの厚さが0.1μm以上であることを特徴とする回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、回路基板の金属材にはんだを被覆するはんだコート方法、及び当該はんだコート方法ではんだを被覆した回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、回路基板の金属回路にはんだを被覆するために、ホットエアーレベラー法や、メタルマスクを用いた印刷法が用いられてきた。ホットエアーレベラー法は、フラックスを塗布した回路基板を、溶融はんだ槽に浸漬した後、回路基板を引き揚げながらホットエアーで回路基板の金属回路表面に付着したはんだの過剰なはんだ分を吹き払うことで、回路基板の金属回路にはんだを被覆する方法である。
【0003】
また、メタルマスクを用いた印刷法は、回路基板の金属回路の金属材表面に、フラックス成分を含んだソルダペースト(本明細書ではソルダペーストはフラックス成分を含有するものを意味する)を印刷(転写)する方法である。一般には転写されたソルダペースト上に電子部品のはんだ接続部が合うよう電子部品を配置し、この状態の回路基板をリフロー炉に通して加熱し、ソルダペーストを溶融させて回路基板の金属回路と電子部品のはんだ接続部とをはんだを介して接続する。
【0004】
ここで、近年は電子機器のより一層の小型軽量化及び高機能化要求から、搭載する電子部品の小型化と端子数の増加が進み、これに対応して回路基板における金属回路は、金属回路の小寸法化及び狭ピッチ化が必要となった。さらに、大型の液晶テレビ等に搭載される電子部品も小型化と端子数の増加が進んでおり、大面積回路基板においても金属回路の小寸法化及び狭ピッチ化が必要となっている。また、スマートフォンに代表される電子機器は、より高速な動作要求から、電子回路の動作周波数が高くなってきている。周波数の高い伝送信号は、金属導体の表面を伝送する表皮効果という現象が顕著に現れることから、周波数の高い伝送信号の伝送損失を抑制するために、金属導体の表面の平坦性が求められている。
【0005】
このような市場要求に対して、ホットエアーレベラー法は、回路基板を引き揚げながらホットエアーで回路基板の金属回路表面に付着したはんだの過剰なはんだ分を吹き払う工法であることから、被覆したはんだの厚さを均一にすることが困難であり、平坦性が悪いという本質的な問題がある。さらに、狭ピッチの金属回路間におけるはんだブリッジ不良が発生しやすい、という問題もあった。
【0006】
また、メタルマスクを用いた印刷法によるソルダペーストの転写方法は、回路基板の金属回路とメタルマスクの開口部とを正確に位置合わせすることによって、回路基板の金属回路上に正確にソルダペーストを転写するものである。しかしながら、回路基板の金属回路の小寸法化及び挟ピッチ化が進み製作する基板が大面積化する回路基板において、回路基板の金属回路と、メタルマスクの開口部との位置合わせを正確に行うことがより難しくなる。このため、メタルマスクを用いた印刷法によるソルダペーストの転写方法は、回路基板の金属回路上に正確にソルダペーストを転写することが困難となる問題があった。さらに、ソルダペーストに含まれるフラックスはソルダペーストの保存性を考慮して一般に弱い活性力のものが採用されることから、平坦性を確保するにはフラックスの活性力が不十分であるという問題があった。
【0007】
この問題に対して、メタルマスクを用いず、ソルダペーストを金属回路部と非金属回路部を有する回路基板全体にベタ塗りし、これを加熱してソルダペーストを溶融して金属回路の表面にはんだを被覆させる。その後、この上にフラックスを塗布して電子部品のはんだ接続部が位置するよう電子部品を配置し、リフロー炉に通して加熱してはんだを溶融させて回路基板の金属回路と電子部品のはんだ接続部とをはんだを介して接続する方法が提案された。
【0008】
しかしながら上述のベタ塗りの方法は、溶融したはんだ粒子が合体して大きくなることがある。これが原因で、小寸法の金属回路に対しては、必要以上のはんだが付着することになり、金属回路全体にわたって、均一かつ平坦にはんだを被覆させることができなかった。さらに、ピッチ間隔の狭い金属回路部分においては、金属回路間のはんだブリッジが発生することがあった。
【0009】
そこで特許文献1は、平均粒径が4~20μmのはんだ粉末とフラックスとの混合物よりなるソルダペーストを用いて、金属回路部と非金属回路部を有する回路基板全体にベタ塗りし、これを加熱することによって、金属回路上に選択的にはんだを付着させるはんだコート方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000-094179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示のはんだコート方法は、平均粒径が4~20μmのはんだ粉末とフラックスとの混合物よりなるソルダペーストを用いている。金属回路間のはんだブリッジを回避するための平均粒径が4~20μmという微細粒径のはんだ粉末は、粒径の大きなはんだ粉末と比べて、はんだ粉末表面の酸化膜面積が増す。このため、フラックス作用が十分でないと、加熱してはんだ粉末を溶融させた時のはんだ濡れ性が低下し、平坦なはんだ面を得ることが難しいという問題がある。
【0012】
加熱してはんだ粉末を溶融させた時のはんだ濡れ性を確保するためには、強活性のフラックスを使用する必要がある。しかしながら、強活性フラックスを混合させたソルダペーストは、保存安定性が損なわれるという問題がある。そのため、フラックス成分を含有するソルダペーストは、性能維持のために低温で保管する必要があるという保管管理上の問題もある。
【0013】
本件発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、小寸法及び挟ピッチの回路を含む金属回路の金属材の表面に、均一かつ平坦にはんだを被覆し、かつ、金属回路間のはんだブリッジが発生しないはんだコート方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題を解決するために、鋭意研究の結果、以下の発明に想到した。
【0015】
本件発明に係るはんだコート方法は、回路基板の金属材にはんだを被覆するはんだコート方法であって、はんだ粉末と、水溶性樹脂とを含むペーストを前記回路基板に塗布する工程Aと、加熱して前記はんだ粉末を溶融する工程Bと、前記回路基板から前記ペーストを除去する工程Cとを有することを特徴とするはんだコート方法を採用した。
【0016】
本件発明に係る回路基板は、上述のはんだコート方法ではんだを被覆した回路基板であって、被覆された前記はんだの厚さが0.1μm以上であることを特徴とする回路基板を採用した。
【発明の効果】
【0017】
本件発明に係るはんだコート方法は、はんだ粉末と、水溶性樹脂とを含むペーストを回路基板の全面に塗布する工程Aを有している。このため、メタルマスクを必要としない。さらに当該ペーストには、フラックス成分が含まれていないことから、ペーストの保存安定性及び品質維持性が高い。工程Aの後に塗布するフラックスは、活性力の強いものを用いることができるため、工程Bにおいて、はんだ粉末と金属回路表面の酸化膜を溶解除去してはんだ濡れ性を確保できる。以上のことから、小寸法及び挟ピッチの回路を含む金属回路を均一かつ平坦にはんだを被覆することができ、かつ、金属回路間のはんだブリッジが発生しない。さらに、金属回路の金属材の表面を被覆するのに使われなかったはんだ粉末は、工程Cによってペーストと共に簡単かつきれいに除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本件発明に係るはんだコート方法の各工程における回路基板の断面模式図である。
図2】実施例1の回路基板の表面写真である。
図3】実施例2の回路基板の表面写真である。
図4】実施例4の回路基板の表面写真である。
図5】実施例5の回路基板の表面写真である。
図6】比較例1のソルダペースト塗布後の回路基板の表面写真である。
図7】比較例1の加熱後の回路基板の表面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本件発明に係るはんだコート方法の実施の形態について説明する。
【0020】
1.はんだコート方法の実施形態
本件発明に係るはんだコート方法は、以下に示す工程を有している。
工程A:はんだ粉末と水溶性樹脂とを含むペーストを回路基板の全面に塗布する工程。
工程B:工程Aで塗布したペーストに含まれるはんだ粉末を溶融する工程。
工程C:はんだ粉末を溶融後、回路基板からペーストを除去する工程。
【0021】
工程Aは、ペーストを回路基板の全面に塗布することから、メタルマスクを必要としない。すなわち、メタルマスクの位置合わせ精度に起因した、「回路基板の金属回路上に正確にソルダペーストを転写することが困難となり、金属回路上に正しくはんだを被覆させることができない」という問題が発生しない。さらに当該ペーストには、フラックス成分が含まれていないことから、ペーストの保存安定性及び品質維持性が高い。本明細書では、「ペースト」はフラックス成分を含まない組成物である。
【0022】
工程Bは、工程Aでペーストを塗布した回路基板を加熱し、ペーストに含まれるはんだ粉末を溶融する。そして、回路基板の金属回路の表面近傍に存在するはんだ粉末は、溶融時に金属表面を被覆する。このとき、ペーストに含まれるはんだ粉末は、微細粒径のものを使用していることから、小寸法及び挟ピッチの回路を含む金属回路を均一かつ平坦にはんだを被覆することができ、かつ、金属回路間のはんだブリッジが発生しない。
【0023】
工程Cは、工程Bを経て回路基板上に残存し、金属回路の表面の被覆に用いられなかったはんだ粉末を含むペーストを除去する。ペーストは、水溶性樹脂を含むものであることから、水によって容易に除去することが可能である。さらに、はんだ粉末は水溶性樹脂を含むペースト内に存在することから、水溶性樹脂と共に、回路基板の表面に付着残存することなく、簡単かつきれいに除去される。
【0024】
図1に、本件発明に係るはんだコート方法の各工程における回路基板の断面模式図を示す。図1(a)は工程Aを施す前の回路基板の断面模式図である。回路基板10上に、銅材などを用いた金属回路11が設けられている。以下、各工程について詳細に説明する。
【0025】
〔工程A〕
工程Aは、はんだ粉末と水溶性樹脂とを含み、かつ、フラックス成分を含まないペーストを、回路基板の全面に一定の膜厚で均一に塗布する工程である。図1(b)に工程Aによってはんだ粉末21と水溶性樹脂22とを含むペースト20を回路基板10上の全面に塗布した状態の回路基板の断面模式図を示す。ペースト20の塗布には、スクリーンメッシュを用いたスクリーン印刷や、各種アプリケーター、バーコーターなどを用いると良い。塗布するペースト20の膜厚の調整が容易であり、回路基板の全面に塗布することができるからである。なお、ペースト20を回路基板の全面に一定の膜厚で均一に塗布することができれば、塗布に用いる方法や器具は上述のものに限定されない。ペースト20を回路基板の全面に一定の膜厚で均一に塗布することによって、工程Bでペースト20に含まれるはんだ粉末21を溶融したときに、小寸法及び挟ピッチの回路を含む金属回路を均一かつ平坦にはんだを被覆することができ、かつ、金属回路間のはんだブリッジが発生しない。
【0026】
塗布するペースト20の膜厚は、小寸法及び挟ピッチの回路を含む金属回路を均一かつ平坦にはんだを被覆することができ、かつ、金属回路間のはんだブリッジが発生しない範囲で定めれば良い。
【0027】
このように、工程Aは、ペースト20を回路基板の全面に塗布することから、回路基板の金属回路の金属材表面にのみペースト20を印刷(転写)するためのメタルマスクを必要としない。すなわち、工程Aは、回路基板の小寸法及び挟ピッチの回路を含む金属回路へのメタルマスクの位置合わせ精度に起因した、回路基板の金属回路への正確なソルダペースト転写が困難になることによる金属回路上へのはんだ被覆不良問題が発生しない。
【0028】
工程Aにて回路基板の全面にペースト20を塗布した後、当該ペースト20が含有する溶剤が揮発することができる温度環境下に当該回路基板を一定時間放置することによって、ペースト20に含まれる溶剤を除去することが好ましい。ペースト20に含まれる溶剤を除去することによって、ペースト20の流動性を抑えることができるからである。なお、当該溶剤については後述する。
【0029】
さらに、工程Aと工程Bとの間に、ペースト20の上にフラックスを塗布する工程Fを設けることも好ましい。工程Bにおいて、フラックスが、ペースト20が含有するはんだ粉末21や金属回路11の表面の酸化膜と反応して溶解除去し、はんだ粉末21を溶融させた時のはんだ濡れ性を確保することができるためである。なお、工程Fにおいて、フラックス塗布によってペースト20の層が乱れないようにするには、ペースト20の粘度(流動性)を適正にすることが好ましい。そのためには、ペースト20が含有する水溶性樹脂の粘度(流動性)を調整することができる。具体的には、水溶性樹脂が後述する液状樹脂を含有する場合は、液状樹脂の粘度の調整によって行う。水溶性樹脂が後述する固体状樹脂を含有する場合は、固体樹脂材料を溶解し液状化する目的で使用される溶剤を上述の通り除去することによって流動性を適正に抑えることができる。
【0030】
工程Fで塗布するフラックスは、ペースト20に含有させるものではなく単品で用いるものであることから、ペースト20の保存安定性及び品質維持性へ影響を与えることがない。すなわち、工程Fで塗布するフラックスは、活性力の強いものを用いることができる。そして、活性力の強いフラックスを用いることができることから、以降で述べる水溶性樹脂22とはんだ粉末21との混合割合の範囲において、はんだ粉末21や金属回路11の表面の酸化膜を溶解除去してはんだ濡れ性を確保し、金属回路部近傍のはんだ粉末を一体化して溶融することができる。このことによって、小寸法及び挟ピッチの回路を含む金属回路を均一かつ平坦にはんだを被覆することができ、かつ、金属回路間のはんだブリッジが発生しない。
【0031】
上述したことから、工程Fで使用する活性力の強いフラックスとしては、活性力の強いハロゲンを含有するものを用いることを制限しない。
【0032】
〔工程B〕
工程Bは、工程Aでペースト20を塗布した回路基板10を加熱し、ペースト20に含まれるはんだ粉末21を溶融する工程である。図1(c)に工程Bによってはんだ粉末21が溶融し金属回路11の表面上に被覆してはんだ被膜30を形成した状態の回路基板の断面模式図を示す。
【0033】
工程Bにおける加熱温度及び加熱時間(温度プロファイル)は、使用するはんだ粉末21や回路基板10の大きさに応じて設定することが好ましい。回路基板10の金属回路11とはんだ粉末21の温度が適切に上昇することによって、はんだ粉末21が濡れ性良く金属回路11に被覆するからである。
【0034】
回路基板10上の金属回路11の表面近傍に存在するはんだ粉末21は、工程Bにおける溶融時に金属表面11を被覆する。このとき、ペースト20に含まれるはんだ粉末は、微細粒径のものを使用している。さらに、活性力の強いフラックスを用いることができることから、はんだ粉末21や金属回路11の表面の酸化膜を溶解除去してはんだ濡れ性を確保できるため、金属回路部近傍のはんだ粉末を一体化して溶融することができる。このことによって、小寸法及び挟ピッチの回路を含む金属回路11を均一かつ平坦にはんだを被覆してはんだ被膜30を形成し、かつ、金属回路11間のはんだブリッジが発生しない。
【0035】
工程Aと工程Bとの間に工程Fを設ける場合、工程Bは、酸素を含み窒素を主要成分とする雰囲気や、大気雰囲気中で行うことができる。活性力の強いフラックスを用いることができるからである。
【0036】
一方、工程Aと工程Bの間に工程Fを設けない場合、工程Bは、還元性ガスを含有する還元雰囲気で行うことが好ましい。還元性ガスがはんだ粉末21や金属回路11の表面の酸化膜と反応して除去し、はんだ粉末21を溶融させた時のはんだ濡れ性を確保することができるためである。工程Fを設けない場合、フラックス塗布時にペースト20の表面に応力が加わることによって、ペースト20の層の厚さが均一で無くなる懸念が根本的に無い。さらに、フラックスを用いないことによって、フラックス残渣が存在せず、フラックス残渣による金属回路等の腐食問題も発生しないからである。
【0037】
〔工程C〕
工程Cは、工程Bを経て回路基板上に残存し、金属回路11の表面の被覆に用いられなかったはんだ粉末を含むペースト20を除去する工程である。図1(d)に工程Cによって残存したペースト20を除去した状態の回路基板の模式図を示す。
【0038】
ペースト20は、水溶性樹脂を含むものであることから、水を用いた洗浄によって容易に除去することが可能である。さらに、金属回路11の表面の被覆に用いられなかったはんだ粉末21は水溶性樹脂を含むペースト20内に存在することから、水溶性樹脂と共に、回路基板10や金属回路11の表面に付着残存することなく、簡単かつきれいに除去される。
【0039】
工程Cの後に、工程Cで回路基板10や金属回路11上に残存する水分を除去する乾燥工程を設けることが好ましい。水分が残存することによる金属回路11の変色及び腐食を防止するためである。
【0040】
〔ペースト〕
ペースト20は、はんだ粉末21と水溶性樹脂22とを含むものである。そして、水溶性樹脂22は、50℃以下で液状の(流動性を有する)液状樹脂材料と、融点が50℃を超え100℃以下の固体状樹脂材料との少なくともいずれか一方を含有するものである。さらに、ペースト20には、フラックス成分が含まれていない。
【0041】
水溶性樹脂22が水溶性であることは、水を用いた洗浄によって、工程Bを経たペースト20を簡易に除去することができるため好ましい。水溶性樹脂22が水溶性でないと、工程Bを経たペースト20を水で洗浄することが困難となる。そのため、洗浄用の溶剤が必要になりコストが増加することから好ましくない。
【0042】
ペースト20は、フラックス成分を含んでいない。このことによって、ペースト20は、長期間安定しており、品質を維持することができる。そのため、ペースト20は、フラックス成分を含有する従来のソルダペーストが性能維持のために行っている低温保管を必要としていない。
【0043】
さらに、ペースト20がフラックス成分を含んでおらずペースト20の保存安定性及び品質維持性の懸念が無いことから、水溶性樹脂22と混合するはんだ粉末21の量を、金属回路11の寸法やピッチなどに応じた適切な量に、容易に調整することができる。このことによって、小寸法及び挟ピッチの回路を含む金属回路11を均一かつ平坦にはんだを被覆することができ、かつ、金属回路間のはんだブリッジが発生しない。
【0044】
はんだ粉末21と水溶性樹脂22との混合割合は、はんだ粉末21と水溶性樹脂22とを混合した材料の合計を100重量部としたとき、水溶性樹脂22が1.0重量部以上90.0重量部以下であることが好ましい。水溶性樹脂22と混合するはんだ粉末21の量を、金属回路の寸法やピッチなどに応じた適切な量に、容易に調整することができるからである。そして、水溶性樹脂22内にはんだ粉末21が適度に分散して混合され、工程Bにおいてはんだ粉末21が溶融しても隣接はんだ粉末21が必要以上に合体しないことから、被覆したはんだの平坦性が優れ、かつ、挟ピッチの金属回路間のはんだブリッジを回避できるからである。水溶性樹脂22が1.0重量部未満であると、ペースト20におけるはんだ粉末21の割合が過剰となることによって、ペースト20に以降で述べる溶剤や粘性調整剤を多く加えなければならないため好ましくない。また、水溶性樹脂22が1.0重量部未満であると、工程Aにおいて、ペースト20を、回路基板の全面に一定の膜厚で均一に塗布することが困難になるため好ましくない。水溶性樹脂22が90.0重量部を超える場合、はんだ粉末21の割合が足りず、金属回路11にはんだで被覆されない「銅見え」箇所が発現し、均一にはんだを被覆させることができないことから好ましくない。
【0045】
〔液状樹脂材料〕
本件発明に係る液状樹脂材料は、50℃以下で液状の(流動性を有する)樹脂材料である。液状樹脂材料が材料を混合する環境の温度範囲において液状であって流動性を有することによって、液状樹脂材料を含有する水溶性樹脂22とはんだ粉末21とを容易にかつ均一に混合することができるため好ましい。
【0046】
当該液状樹脂材料は、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体、グリセリン、グリセリン誘導体、ポリグリセリン、ポリグリセリン誘導体の群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0047】
〔固体状樹脂材料〕
本件発明に係る固体状樹脂材料は、融点が50℃を超え100℃以下の樹脂材料である。固体状樹脂材料は、後述する溶剤を加えることによって固体状樹脂材料が流動性を有する液状になり、固体状樹脂材料を含有する水溶性樹脂22とはんだ粉末21とを容易にかつ均一に混合することができる。固体状樹脂材料の融点が100℃を超える場合、工程Bにおける加熱時にペースト20の流動性が不十分ではんだ粉末の溶融一体化に影響を及ぼすため好ましくない。なお、融点が100℃を超える樹脂材料であっても、工程Bにおける加熱時にペースト20の流動性を確保でき、はんだ粉末の溶融一体化に影響を及ぼさないものであれば、その使用は制限しない。
【0048】
当該固体状樹脂材料は、ポリエチレングリコール(数平均分子量が2000以上)、ポリエチレングリコールウレタン変性樹脂、ロジンエチレンオキサイド付加物、アミンエチレンオキサイド付加物の群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0049】
〔溶剤〕
本件発明に係る溶剤は、水溶性樹脂22を生成する際に、必要に応じて使用される。高粘度の液状樹脂材料を用いる場合、粘度を下げる目的で使用される。固体樹脂材料を用いる場合、固体樹脂材料を溶解し液状化する目的で使用される。すなわち、水溶性樹脂22に溶剤を含有させることによって、水溶性樹脂22にはんだ粉末21を容易に均一に混合するのに適した流動性を与えるものである。この溶剤は、γ(ガンマ)-ブチロラクトン、セロソルブ系、アルコール系などの水への可溶性を有する化合物であることが好ましい。水溶性樹脂22が水溶性を有し、工程Cにおける水を用いた洗浄によって容易に除去することが可能となるからである。
【0050】
水溶性樹脂22への当該溶剤の添加量は、水溶性樹脂22とはんだ粉末21とを容易に均一に混合するのに適した流動性を与える量であれば良い。
【0051】
〔添加剤〕
液状樹脂材料と固体状樹脂材料との少なくともいずれか一方を含有する水溶性樹脂22は、塗布方法に適したペースト20の粘度に調整するための添加剤(粘性調整剤)を含有することが好ましい。粘性調整剤としては、セルロース系樹脂類、アミド系樹脂類、ウレタン系樹脂類、無機系材料などがあげられる。但し、ペースト20の粘度を調整することができるものであれば、上述の材料に限定されない。
【0052】
さらに、ペースト20が回路基板10及び金属回路11に対して良好に濡れて塗布される目的で、濡れ性を調整するための添加剤を含有することも好ましい。当該添加剤としては、非シリコーン系消泡剤、界面活性剤などがあげられる。但し、濡れ性を調整することができるものであれば、上述の材料に限定されない。
【0053】
〔はんだ粉末〕
上述したように、ペースト20は、フラックス成分を含んでいない。ペースト20の保存安定性への影響が無いことから、工程Fで塗布するフラックスは、活性力の強いものを用いることができる。したがって、はんだ粉末21として、はんだ粉末表面の酸化膜面積が増す微細粒径のものを使用することができる。
【0054】
はんだ粉末21は、平均粒径が1μm以上20μm以下であることが好ましい。平均粒径が1μm以上20μm以下であることによって、小寸法及び挟ピッチの回路を含む金属回路を均一かつ平坦にはんだを被覆することができ、かつ、金属回路間のはんだブリッジが発生しない。平均粒径が1μm未満であると、高コストなものとなるため好ましくない。平均粒径が20μmを超える場合、挟ピッチの回路にはんだブリッジが発生し易くなるため好ましくない。
【0055】
また、はんだ粉末21は、融点が110℃以上300℃以下であることが好ましい。金属回路の表面を均一かつ平坦にはんだを被覆でき、金属回路に被覆したはんだを溶融させて金属回路と電子部品のはんだ接続部とをはんだを介して接続する際に電子部品へ熱ダメージを与えないからである。融点が110℃未満であると、はんだ粉末21を含有するペースト20の取り扱いが難しくなるため好ましくない。融点が300℃を超える場合は、工程Bにおける加熱温度を300℃以上とする必要があり、その加熱温度では水溶性樹脂22が熱によって変質してしまう。この変質した水溶性樹脂22は、工程Cにおける水を用いた洗浄によって除去することが困難になるため好ましくない。
【0056】
はんだ粉末21は、はんだ合金の組成が以下に示す各材料の重量比のものの群より選択される1種以上であることが好ましい。
錫96.5/銀3.0/銅0.5。
錫95.75/銀3.5/銅0.75。
錫99.0/銀0.3/銅0.7。
錫98.3/銀1.0/銅0.7。
錫94.8/銀1.2/銅4.0。
錫93.5/銀0.5/銅6.0。
錫92.0/銀2.0/銅6.0。
錫42.0/ビスマス58.0。
錫42.0/ビスマス57.0/銀1.0。
錫95.0/アンチモン5.0。
錫90.0/アンチモン10.0。
錫99.25/銅0.75。
錫96.5/銅3.5。
錫98.5/銀1.0/銅0.5。
錫95.1/銀4.0/銅0.9。
錫94.25/銀2.0/銅0.75/ビスマス3.0。
錫96.5/銀1.0/銅2.43/インジュム0.05/ニッケル0.02。
錫96.5/銀2.0/銅1.5。
錫95.5/銀3.8/銅0.7。
錫95.5/銀3.9/銅0.6。
錫88.0/銀3.5/ビスマス0.5/インジュム8.0。
錫92.5/銀3.9/銅0.6/アンチモン3.0。
錫99.2以上/銅0.7/ニッケル0.03/リン0.07。
錫92.5/銀3.9/銅0.6/ビスマス3.0。
【0057】
なお、はんだ粉末21は、小寸法及び挟ピッチの回路を含む金属回路を均一かつ平坦にはんだを被覆することができ、かつ、金属回路間のはんだブリッジが発生しないものであれば、上述の組成のものに限定されない。
【0058】
〔還元雰囲気〕
工程Bを還元性ガスを含有する還元雰囲気で行う場合、還元雰囲気は、蟻酸、水素のいずれか一方を含有するものであることが好ましい。蟻酸や水素は還元力があり、はんだ粉末21や金属回路11の表面の酸化膜と反応して除去し、はんだ粉末21を溶融させた時のはんだ濡れ性を確保することができるためである。また、蟻酸は、約150℃以上あれば還元作用を発揮することができることから、融点の低いはんだ粉末を用いることができ、工程Bにおける回路基板への熱ストレスを低減することができる。
【0059】
2.回路基板の実施形態
本件発明に係る回路基板は、上述した本件発明に係るはんだコート方法で金属回路にはんだを被覆した回路基板である。すなわち、当該回路基板の小寸法及び挟ピッチの回路を含む金属回路の表面は、均一かつ平坦にはんだが被覆されている。さらに、当該回路基板の挟ピッチ金属回路間には、はんだブリッジが発生しない。したがって、当該回路基板は、より小型で端子数の多い電子部品の搭載が可能である。さらに、当該回路基板は、金属回路の表面を被覆するはんだが均一かつ平坦であることから、周波数の高い伝送信号を扱う電子回路に適用することができる。
【0060】
また、当該回路基板の金属回路に被覆したはんだの厚さは、0.1μm以上であることが好ましい。金属回路の表面を確実に被覆でき、かつ、回路基板の金属回路と電子部品のはんだ接続部とを、被覆したはんだを介して接続することができるからである。はんだの厚さが0.1μm未満であると、金属回路の表面を確実に被覆することができないからである。
【0061】
なお、はんだの厚さの上限は特に限定していないが、回路基板の金属回路の寸法やピッチ、搭載する電子部品などによって適切な厚さとなるよう定めれば良い。
【0062】
以上説明した本件発明に係る実施の形態は、本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、以下実施例を挙げて本件発明をより具体的に説明するが、本件発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0063】
実施例1では、以下に示す回路基板を評価に用いた。
基板材料:ガラスエポキシ。
基板サイズ:20×20mm。
基板厚さ:0.8mm。
金属回路材料:銅(片面)。
金属回路厚さ:12μm。
金属回路:円形電極を100μmピッチで配置(電極総数1万個)。
【0064】
次に、以下に示す材料を用いて、それぞれ、液状樹脂材料を80重量部、溶剤を18重量部、粘性調整剤を2重量部の割合で混合し、実施例1の水溶性樹脂とした。
液状樹脂材料:ニューポール75H-90000(三洋化成工業株式会社製)。
溶剤:γ(ガンマ)-ブチロラクトン。
粘性調整剤:フローノンRCM-230AF(共栄社化学株式会社製)。
【0065】
実施例1のはんだ粉末は、組成の重量比が錫96.5/銀3.0/銅0.5、平均粒径が約3μm、融点が217℃のはんだ粉末ST-3(三井金属鉱業株式会社製)を用いた。
【0066】
そして、水溶性樹脂が60重量部、はんだ粉末が40重量部となる割合で、はんだ粉末と水溶性樹脂とを混合し、実施例1のペーストとした。
【0067】
先ず、工程Aとして、メッシュ数460のスクリーンメッシュを用いて、実施例1のペーストを、実施例1の回路基板の全面に塗布した。その後、回路基板を120℃の環境下で3分間放置して、ペースト中の溶剤を除去した。
【0068】
そして、工程Fとして、スパークルフラックスWF-2050(千住金属工業株式会社製)を、工程Aで塗布したペーストの表面にスプレー塗布した。
【0069】
次に、工程Bとして、コンベアー式リフロー炉を用いて、ゾーン最高温度260℃の設定で、窒素雰囲気(酸素濃度1000ppm)にて回路基板を加熱した。さらに、工程Cとして、回路基板を水を用いて洗浄することによって、回路基板上に残存し、金属回路の表面の被覆に用いられなかったはんだ粉末を含むペーストを除去した。その後、回路基板を乾燥させて、残存する水分を除去した。
【0070】
上述の工程を経て、金属回路上にはんだを被覆させた回路基板の表面写真を図2に示す。図2から、実施例1の回路基板は、ペーストが残存せずきれいに除去され、かつ、100μmピッチの円形電極間(円形電極間の最短距離は約60μm)には、はんだブリッジが発生していないことが明らかとなった。そして、当該回路基板の任意の100個の円形電極におけるはんだ高さを、レーザ顕微鏡を用いて測定した。その結果、はんだ高さの平均値が20μm、標準偏差は1.3であった。この結果から、実施例1の回路基板の金属回路の表面は、均一にはんだが被覆されていることが明らかとなった。
【実施例0071】
実施例2では、以下に示す回路基板を評価に用いた。
基板材料:ガラスエポキシ。
基板サイズ:40×50mm。
基板厚さ:1.6mm。
金属回路材料:銅(基板両面の全面貼り)。
金属回路厚さ:12μm。
【0072】
実施例2の水溶性樹脂には、実施例1の水溶性樹脂を用いた。そして、水溶性樹脂が20重量部、はんだ粉末が80重量部となる割合で、はんだ粉末と水溶性樹脂とを混合し、実施例2のペーストとした。
【0073】
先ず、工程Aとして、塗布用アプリケーターを用いて、実施例2のペーストを、実施例2の回路基板の全面に塗布した。その後、回路基板を120℃の環境下で3分間放置して、ペースト中の溶剤を除去した。
【0074】
そして、工程Fとして、スパークルフラックスWF-2050(千住金属工業株式会社製)を、工程Aで塗布したペーストの表面にスプレー塗布した。
【0075】
次に、工程Bとして、大気雰囲気にて、150℃の温度設定のホットプレート上に実施例2の回路基板を1分間放置し、次に、260℃の温度設定のホットプレート上に実施例2の回路基板を放置して加熱した。さらに、工程Cとして、水を用いて回路基板を洗浄することによって、回路基板上に残存し、金属回路の表面の被覆に用いられなかったはんだ粉末を含むペーストを除去した。その後、回路基板を乾燥させて、残存する水分を除去した。
【0076】
上述の工程を経て、金属回路上にはんだを被覆させた回路基板の表面写真を図3に示す。図3から、実施例2の回路基板の金属表面に被覆されたはんだは、表面に凹凸が見られず平坦であることが明らかとなった。そして、当該回路基板の任意の10箇所のはんだ高さを、マイクロメーターを用いて測定した。その結果、はんだ高さは5.0±0.1μmの範囲であった。そして、回路基板の金属表面全体におけるはんだの濡れ広がり性は良く、十分であった。この結果から、実施例2の回路基板の金属回路の表面は、はんだが十分に濡れ広がり、均一かつ平坦にはんだが被覆されていることが明らかとなった。
【実施例0077】
実施例3では、実施例1の回路基板が縦に20個、横に25個の合計500個配置された面付け回路基板を評価に用いた。
【0078】
実施例3のペーストには、実施例2のペーストを用いた。そして、実施例1で行った工程と同じ工程を実施して、実施例3の回路基板にはんだを被覆した。
【0079】
上述の工程を経て、金属回路上にはんだを被覆させた回路基板は、ペーストが残存せずきれいに除去され、かつ、100μmピッチの円形電極間(円形電極間の最短距離は約60μm)には、はんだブリッジが発生していなかった。そして、当該回路基板の4隅部分(領域1~領域4)の領域と中央部分(領域5)との各領域における任意の各50個の円形電極のはんだ高さを、レーザ顕微鏡を用いて測定した。その結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1から、実施例3の回路基板の金属回路の表面は、均一にはんだが被覆されていることが明らかとなった。すなわち、実施例1の回路基板が縦に20個、横に25個の合計500個配置された面付け回路基板であっても、均一にはんだが被覆されていることが明らかとなった。
【実施例0082】
実施例4では、以下に示す回路基板を評価に用いた。
基板材料:ガラスエポキシ。
基板サイズ:40×50mm。
基板厚さ:1.6mm。
金属回路材料:銅(基板片面の全面貼り)。
金属回路厚さ:12μm。
【0083】
次に、以下に示す材料を用いて、それぞれ、固体状樹脂材料を14重量部、溶剤を82重量部、粘性調整剤を4重量部の割合で混合し、実施例4の水溶性樹脂とした。
固体状樹脂材料:メルポールF-220(三洋化成工業株式会社製)。
溶剤:γ(ガンマ)-ブチロラクトン。
粘性調整剤:フローノンRCM-230AF(共栄社化学株式会社製)。
【0084】
実施例4のはんだ粉末は、実施例1のはんだ粉末を用いた。
【0085】
そして、水溶性樹脂が50重量部、はんだ粉末が50重量部となる割合で、はんだ粉末と水溶性樹脂とを混合し、実施例4のペーストとした。
【0086】
先ず、工程Aとして、メッシュ数420のスクリーンメッシュを用いて、実施例4のペーストを、実施例4の回路基板の全面に塗布した。その後、回路基板を120℃の環境下で3分間放置し、ペースト中の溶剤を除去した。
【0087】
そして、工程Fとして、スパークルフラックスWF-2050(千住金属工業株式会社製)を、工程Aで塗布したペーストの表面にスプレー塗布した。
【0088】
次に、工程Bとして、実施例2で行った工程と同じ工程を行って、実施例4の回路基板を加熱した。さらに、工程Cとして、水を用いて回路基板を洗浄し、ペーストを除去した。その後、回路基板を乾燥させて、残存する水分を除去した。
【0089】
上述の工程を経て、金属回路上にはんだを被覆させた回路基板の表面写真を図4に示す。図4から、実施例4の回路基板の金属表面に被覆されたはんだは、表面に凹凸が見られず平坦であり、かつ、光沢があることが明らかとなった。そして、当該回路基板の任意の10箇所のはんだ高さを、マイクロメーターを用いて測定した。その結果、はんだ高さは4.0±0.1μmの範囲であった。そして、回路基板の金属表面全体におけるはんだの濡れ広がり性は十分であり、はんだが被覆されていない金属表面の「銅見え」は無かった。この結果から、実施例4の回路基板の金属回路の表面は、均一かつ平坦にはんだが被覆されていることが明らかとなった。
【実施例0090】
実施例5では、実施例1の回路基板と、実施例1のペーストを用いた。
【0091】
先ず、工程Aとして、実施例1で行った工程と同じ工程を行って、回路基板にペーストを塗布した。その後、実施例1で行った工程と同じ工程を行って、ペースト中の溶剤を除去した。その後、実施例1とは異なり、工程Fは実施しなかった。
【0092】
次に、工程Bとして、蟻酸雰囲気リフロー装置RSS-210-S(ユニテンプジャパン株式会社製)を用いて、最高温度280℃の設定で、蟻酸雰囲気にて回路基板を加熱した。さらに、工程Cとして、水を用いて回路基板を洗浄し、ペーストを除去した。その後、回路基板を乾燥させて、残存する水分を除去した。
【0093】
上述の工程を経て、金属回路上にはんだを被覆させた回路基板の表面写真を図5に示す。図5から、実施例5の回路基板は、ペーストが残存せずきれいに除去され、かつ、100μmピッチの円形電極間(円形電極間の最短距離は約60μm)には、はんだブリッジが発生していないことが明らかとなった。そして、当該回路基板の任意の100個の円形電極におけるはんだ高さを、レーザ顕微鏡を用いて測定した。その結果、はんだ高さの平均値が17μm、標準偏差は1.2であった。この結果から、実施例5の回路基板の金属回路の表面は、均一にはんだが被覆されていることが明らかとなった。
【実施例0094】
実施例6では、実施例1の回路基板と、実施例1のペーストを用いた。そして、ペーストを室温下で6ヶ月放置した後、実施例1で行った工程と同じ工程を行って、回路基板の金属回路上にはんだを被覆させた。
【0095】
上述の工程を経て、金属回路上にはんだを被覆させた実施例6の回路基板は、100μmピッチの円形電極間(円形電極間の最短距離は約60μm)に、はんだブリッジが発生していなかった。そして、当該回路基板の任意の100個の円形電極におけるはんだ高さを、レーザ顕微鏡を用いて測定した。その結果、はんだ高さの平均値が19μm、標準偏差は1.2であった。すなわち、実施例6の回路基板の金属回路の表面は、均一にはんだが被覆されていた。この結果から、本件発明に係るはんだコート方法は、ペーストを室温下で長期間保存した後に使用しても、均一にはんだが被覆されることを確認した。
【比較例】
【0096】
〔比較例1〕
比較例1では、以下に示す回路基板を評価に用いた。
基板材料:ガラスエポキシ。
基板サイズ:40×50mm。
基板厚さ:0.3mm。
金属回路材料:銅(基板両面の全面貼り)。
金属回路厚さ:12μm。
【0097】
比較例1では、フラックス成分を含み、はんだ組成の重量比が錫96.5/銀3.0/銅0.5、平均粒径が約10μm、融点が217℃のはんだ粉末を含有する市販のソルダペーストを用いた。
【0098】
比較例1のソルダペーストは粘度が高いため、回路基板へのスクリーンメッシュを用いた塗布は不可能だった。そこで、塗布用アプリケーターを用いて、当該ソルダペーストを比較例1の回路基板の全面に塗布した。ソルダペーストを塗布後の回路基板の表面写真を図6に示す。図6に示すように、アプリケーターを用いて塗布しても、ソルダペーストを均一に塗布することが困難であった。
【0099】
次に、大気雰囲気にて、150℃の温度設定のホットプレート上に比較例1の回路基板を1分間放置し、次に、260℃の温度設定のホットプレート上に比較例1の回路基板を放置して加熱した。加熱後のソルダペーストの残渣は水を用いても洗浄することができなかったため、イソプロピルアルコールを用いて洗浄し、残渣を除去した。その後、回路基板を乾燥させた。
【0100】
上述の工程を経て、金属回路上にはんだを被覆させた回路基板の表面写真を図7に示す。図7から、比較例1の回路基板の金属表面においては、球状に散らばる状態で被覆し、金属回路の表面の露出も多く、はんだが濡れ広がらないことが明らかとなった。すなわち、比較例1では、平坦にはんだを被覆させることができなかった。この結果から、比較例1の金属回路が小寸法及び挟ピッチの回路を含む場合であっても、はんだを均一かつ平坦に被覆することが困難であることが理解できた。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本件発明に係るはんだコート方法は、はんだ粉末と、水溶性樹脂とを含み、フラックス成分を含まないペーストを回路基板の全面に塗布する工程Aを有している。このため、メタルマスクを必要としない。さらに当該ペーストには、フラックス成分が含まれていないことから、ペーストの保存安定性及び品質維持性が高い。工程Aの後に塗布するフラックスは、活性力の強いものを用いることができるため、工程Bにおいて、はんだ粉末と金属回路表面の酸化膜を溶解除去してはんだ濡れ性を確保できる。以上のことから、小寸法及び挟ピッチの回路を含む金属回路を均一かつ平坦にはんだを被覆することができ、かつ、金属回路間のはんだブリッジが発生しない。さらに、金属回路の金属材の表面を被覆するのに使われなかったはんだ粉末は、工程Cによってペーストと共に簡単かつきれいに除去できる。すなわち、本件発明に係るはんだコート方法は、小寸法及び挟ピッチの回路を含む金属回路の回路基板や、金属導体の表面の平坦性が求められる高周波回路の回路基板のはんだコートに好適である。
【符号の説明】
【0102】
10 回路基板
11 金属回路
20 ペースト
21 はんだ粉末
22 水溶性樹脂
30 はんだ被膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7