(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161209
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】イムノクロマトキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20221014BHJP
【FI】
G01N33/543 525C
G01N33/543 521
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065834
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 暁生
(72)【発明者】
【氏名】中村 愛美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 重明
(72)【発明者】
【氏名】宗 芳和
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 雄太
(57)【要約】
【課題】本発明は、酸化耐性の高い金被覆銀ナノプレートを使用したイムノクロマトキットを提供することを目的としている。
【解決手段】本発明は、試料中の被験物質を検出するためのイムノクロマトキットに関しており、当該イムノクロマトキットは、
メンブレンを含むテストストリップと、
コアとしての銀ナノプレートと、前記銀ナノプレートを被覆する金層とを有する金被覆銀ナノプレートと、
を含み、
前記メンブレン上に、前記被験物質の捕捉用特異的結合物質が固定されており、
前記金層の平均厚みが、1.0nm超であり、前記金被覆銀ナノプレートが、前記被験物質の検出用特異的結合物質を担持している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メンブレンを含むテストストリップと、
コアとしての銀ナノプレートと、前記銀ナノプレートを被覆する金層とを有する金被覆銀ナノプレートと、
を含む、試料中の被験物質を検出するためのイムノクロマトキットであって、
前記メンブレン上に、前記被験物質の捕捉用特異的結合物質が固定されており、
前記金層の平均厚みが、1.0nm超であり、前記金被覆銀ナノプレートが、前記被験物質の検出用特異的結合物質を担持している、イムノクロマトキット。
【請求項2】
前記金層の平均厚みが、1.5nm~10.0nmである、請求項1に記載のイムノクロマトキット。
【請求項3】
前記金被覆銀ナノプレートが、乾燥状態で含まれている、請求項1又は2に記載のイムノクロマトキット。
【請求項4】
前記テストストリップが、前記金被覆銀ナノプレートを含むコンジュゲートパットを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のイムノクロマトキット。
【請求項5】
前記金層が、前記銀ナノプレートの主平面及び端面に形成されており、
前記銀ナノプレートの平均粒子径(D)に対する前記端面での前記金層の平均厚み(T)の比率(T/D)が0.05以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のイムノクロマトキット。
【請求項6】
前記コアとしての銀ナノプレートの平均粒子径が、55nm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のイムノクロマトキット。
【請求項7】
前記金被覆銀ナノプレートが、可視光領域に極大吸収波長を有し、前記金被覆銀ナノプレートの波長900nmにおける消光度(E900)に対する前記極大吸収波長における消光度(Emax)の比率(Emax/E900)が5以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載のイムノクロマトキット。
【請求項8】
前記捕捉用特異的結合物質及び/又は前記検出用特異的結合物質が、抗体を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のイムノクロマトキット。
【請求項9】
前記試料が、複数種類の被験物質を含んでおり、
前記メンブレン上に、前記複数種類の被験物質それぞれに対する捕捉用特異的結合物質が固定されており、
前記金被覆銀ナノプレートが、前記複数種類の被験物質それぞれに対する検出用特異的結合物質を担持している、請求項1~8のいずれか1項に記載のイムノクロマトキット。
【請求項10】
前記捕捉用特異的結合物質が、結合する被験物質の種類ごとに異なる部位に固定されている、請求項9に記載のイムノクロマトキット。
【請求項11】
前記検出用特異的結合物質が、結合する被験物質の種類ごとに異なる極大吸収波長の金被覆銀ナノプレートに担持されている、請求項9又は10に記載のイムノクロマトキット。
【請求項12】
前記メンブレンが、イムノクロマトグラフィー試験の成否を判定するコントロール部位をさらに備えている、請求項1~11の何れか1項に記載のイムノクロマトキット。
【請求項13】
前記コントロール部位に特異的に結合するコントロール特異的結合物質をさらに含み、
前記コントロール特異的結合物質が抗体を含み、かつ前記捕捉用特異的結合物質が抗体を含む場合に、前記コントロール特異的結合物質の抗体は、前記捕捉用特異的結合物質の抗体とは異なる宿主動物に由来している、請求項12に記載のイムノクロマトキット。
【請求項14】
前記金被覆銀ナノプレート以外のナノ粒子をさらに含む、請求項1~13のいずれか1項に記載のイムノクロマトキット。
【請求項15】
前記被験物質が、インフルエンザウイルス抗原及びコロナウイルス抗原からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載のイムノクロマトキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマトキットに関しており、特に金被覆銀ナノプレートを使用したイムノクロマトキットに関している。
【背景技術】
【0002】
銀ナノプレートは、光との相互作用(局在表面プラズモン共鳴:LSPR)により光を吸収するため、その懸濁液はナノプレートの形状に応じて色を示すことが知られている。そして、銀ナノプレートの大きさや形状を制御することにより、吸収する光を変化させること、すなわち色を変化させることができることも知られている。一方、銀ナノプレートは酸化により溶解してその形状が変化する。この酸化による銀ナノプレートの形状変化は、意図していた色の変化を引き起こし得る。
【0003】
そこで、銀ナノプレートを酸化に対して安定化するため、銀ナノプレートの表面を金で被覆することが行われている。特許文献1には、金被覆銀ナノプレートは安定であり、イムノクロマトグラフィー試験に好適に利用できる旨が記載されている。また、特許文献2には、水溶性高分子の濃度とpHを調整することで、金被覆銀ナノプレートを安定な懸濁液の形態で調製し、被験物質の検出試薬の標識(例えば、目的タンパク質の検出に用いられる抗体の標識)として利用して、種々の被験物質を高い感度で検出するために応用することが記載されている。
【0004】
イムノクロマトグラフィー試験に用いるテストストリップとしては、メンブレンと吸収パッドで構成される「ハーフストリップ」や、それに加えてサンプルパッド及びコンジュゲートパッドを備える「フルストリップ」が知られており、市販品としては「フルストリップ」が広く販売されている。ハーフストリップでは、被験物質の検出試薬を展開液として使用するが、フルストリップでは、被験物質の検出試薬をコンジュゲートパッドに含浸させ、乾燥させているため、被験物質を含む試料をサンプルパッドに適用するだけで使用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-194495号公報
【特許文献2】国際公開第2015/182770号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の金被覆銀ナノプレートにおいては、ハーフストリップでは好適に使用できるが、フルストリップでは、発色性が低下する場合があった。原因としては、金被覆銀ナノプレートを含む被験物質の検出試薬をコンジュゲートパッドに含浸させ、乾燥させることにより、当該金被覆銀ナノプレートが酸化により劣化していることが考えられた。従来の金被覆銀ナノプレートにおいては、コアの銀ナノプレートの大きさに対して薄い被膜しか形成することができず、酸化耐性が不十分であったため、イムノクロマトグラフィー試験の検出感度も十分ではなかった。そこで、本発明は、酸化耐性の高い金被覆銀ナノプレートを使用したイムノクロマトキットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、厚い金層を有する金被覆銀ナノプレートを使用することで、フルストリップにおいても高い検出感度が得られることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示すイムノクロマトキットを提供するものである。
〔1〕メンブレンを含むテストストリップと、
コアとしての銀ナノプレートと、前記銀ナノプレートを被覆する金層とを有する金被覆銀ナノプレートと、
を含む、試料中の被験物質を検出するためのイムノクロマトキットであって、
前記メンブレン上に、前記被験物質の捕捉用特異的結合物質が固定されており、
前記金層の平均厚みが、1.0nm超であり、前記金被覆銀ナノプレートが、前記被験物質の検出用特異的結合物質を担持している、イムノクロマトキット。
〔2〕前記金層の平均厚みが、1.5nm~10.0nmである、前記〔1〕に記載のイムノクロマトキット。
〔3〕前記金被覆銀ナノプレートが、乾燥状態で含まれている、前記〔1〕又は〔2〕に記載のイムノクロマトキット。
〔4〕前記テストストリップが、前記金被覆銀ナノプレートを含むコンジュゲートパットを含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のイムノクロマトキット。
〔5〕前記金層が、前記銀ナノプレートの主平面及び端面に形成されており、
前記銀ナノプレートの平均粒子径(D)に対する前記端面での前記金層の平均厚み(T)の比率(T/D)が0.05以上である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のイムノクロマトキット。
〔6〕前記コアとしての銀ナノプレートの平均粒子径が、55nm以下である、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載のイムノクロマトキット。
〔7〕前記金被覆銀ナノプレートが、可視光領域に極大吸収波長を有し、前記金被覆銀ナノプレートの波長900nmにおける消光度(E900)に対する前記極大吸収波長における消光度(Emax)の比率(Emax/E900)が5以上である、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載のイムノクロマトキット。
〔8〕前記捕捉用特異的結合物質及び/又は前記検出用特異的結合物質が、抗体を含む、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載のイムノクロマトキット。
〔9〕前記試料が、複数種類の被験物質を含んでおり、
前記メンブレン上に、前記複数種類の被験物質それぞれに対する捕捉用特異的結合物質が固定されており、
前記金被覆銀ナノプレートが、前記複数種類の被験物質それぞれに対する検出用特異的結合物質を担持している、前記〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載のイムノクロマトキット。
〔10〕前記捕捉用特異的結合物質が、結合する被験物質の種類ごとに異なる部位に固定されている、前記〔9〕に記載のイムノクロマトキット。
〔11〕前記検出用特異的結合物質が、結合する被験物質の種類ごとに異なる極大吸収波長の金被覆銀ナノプレートに担持されている、前記〔9〕又は〔10〕に記載のイムノクロマトキット。
〔12〕前記メンブレンが、イムノクロマトグラフィー試験の成否を判定するコントロール部位をさらに備えている、前記〔1〕~〔11〕の何れか1項に記載のイムノクロマトキット。
〔13〕前記コントロール部位に特異的に結合するコントロール特異的結合物質をさらに含み、
前記コントロール特異的結合物質が抗体を含み、かつ前記捕捉用特異的結合物質が抗体を含む場合に、前記コントロール特異的結合物質の抗体は、前記捕捉用特異的結合物質の抗体とは異なる宿主動物に由来している、前記〔12〕に記載のイムノクロマトキット。
〔14〕前記金被覆銀ナノプレート以外のナノ粒子をさらに含む、前記〔1〕~〔13〕のいずれか1項に記載のイムノクロマトキット。
〔15〕前記被験物質が、インフルエンザウイルス抗原及びコロナウイルス抗原からなる群から選択される少なくとも1種を含む、前記〔1〕~〔14〕のいずれか1項に記載のイムノクロマトキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従えば、厚い金層を有する金被覆銀ナノプレートを使用することにより、たとえ酸化による劣化のリスクの高いフルストリップを用いてイムノクロマトグラフィー試験を行っても、高い検出感度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】金被覆銀ナノプレートの懸濁液(Ag@Au懸濁液1~3)の分光スペクトルを示す。
【
図2】Ag@Au懸濁液2中の金被覆銀ナノプレートの高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM)観察写真を示す。
【
図3】金被覆銀ナノプレートの懸濁液(Ag@Au懸濁液4~6)の分光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、試料中の被験物質を検出するためのイムノクロマトキットに関しており、当該イムノクロマトキットは、
前記被験物質の捕捉用特異的結合物質が固定されているメンブレンを含むテストストリップと、
コアとしての銀ナノプレートと、前記銀ナノプレートを被覆する金層とを有し、かつ前記被験物質の検出用特異的結合物質を担持する金被覆銀ナノプレートと、
を含んでいる。
【0011】
本明細書に記載の「銀ナノプレート」とは、銀から製造されたナノメートル(nm)オーダーの大きさを持つプレート(板)状粒子のことをいい、主平面となる上面及び下面、並びに、当該上面及び下面の間の端面(側面)を備えており、この端面は平面であっても曲面であってもよく、角が丸まっていてもよい。前記銀ナノプレートの上面と下面の形状は、特に制限されないが、例えば、三角形、四角形、五角形、六角形などの多角形(角が丸みを帯びた形状を含む)又は円形などであってもよい。前記金被覆銀ナノプレートにおいては、前記銀ナノプレートの主平面及び端面に前記金層が形成されており、いわゆる銀ナノプレートと金層のコアシェル構造が形成されている。
【0012】
前記銀ナノプレートの主平面の最大長径を粒子径といい、これは、例えば円形の場合は直径に相当し、三角形の場合は最大辺の長さに相当する。前記銀ナノプレートの上面と下面で最大長径が異なる場合には、長い方をその銀ナノプレートの最大長径とする。本発明の懸濁液に使用される銀ナノプレートの平均粒子径の上限値は、特に制限されないが、例えば、約55nm以下であってもよく、好ましくは約50nm以下、約40nm以下、又は約30nm以下である。前記銀ナノプレートの平均粒子径の下限値も、特に制限されないが、例えば、約1nm以上であってもよく、好ましくは約10nm以上である。また、前記銀ナノプレートの平均厚さは、特に制限されないが、例えば、約20nm以下であってもよく、好ましくは約3~約15nmである。なお、前記銀ナノプレートの粒子径及び厚さは、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)観察、走査透過電子顕微鏡(STEM)観察、又は透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行って計測してもよく、粒子径に関しては動的光散乱式粒度分布測定装置(DLS)で測定してもよい。SEM観察写真、STEM観察写真、又はTEM観察写真を用いて前記銀ナノプレートの粒子径を計測する場合には、任意の銀ナノプレート100個の粒子径を計測した合計100点のデータから、上下10%を除いた80点のデータを用意し、それらの平均値を求めることによって平均粒子径を算出してもよい。
【0013】
最大長径対それを含む面に直交する軸の幅の比、すなわち「最大長径/厚さ」で定義される指数を「アスペクト比」といい、これはナノプレートの形状を表すための指標の1つとして用いることができる。銀ナノプレートの形状が変わると、その極大吸収波長の位置も変化するので、銀ナノプレートのアスペクトは、極大吸収波長の指標ともいえる。本発明の懸濁液においては、前記銀ナノプレートのアスペクト比は、特に制限されないが、例えば、約1より大きくてもよく、好ましくは約1.5~約10である。アスペクト比がこのような範囲にあると、水懸濁液中における表面プラズモン共鳴による極大吸収波長を可視光領域に調節しやすい。
【0014】
本発明のイムノクロマトキットにおいて、前記金被覆銀ナノプレートの金層の平均厚みは、従来のイムノクロマトキットに使用されていたものよりも厚く、特に端面において約1.0nm超である。金層の厚い金被覆銀ナノプレートは、酸化耐性が高いため保存安定性が高く、調製後にすぐに使用しないイムノクロマトキットの形態としても、被験物質を良好な感度で検出することができる。ある態様では、前記金被覆銀ナノプレートの金層の平均厚みは、約1.5nm~約10.0nmである。前記金層の厚さがこのような範囲であると、前記銀ナノプレートの光学特性を維持しつつ、当該銀ナノプレートの酸化をより効果的に抑制することができる。
【0015】
前記端面での前記金層の厚みは、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM)を用いて測定することができる。具体的には、HAADF-STEM観察写真から選択した任意の粒子10個について、各粒子の任意の端部10点で金の厚さを測定した合計100点のデータから、上下10%を除いた80点のデータを用意し、それらの平均値を求めることによって平均厚み(T)を算出してもよい。
【0016】
また、前記端面での前記金層の厚みは、透過走査顕微鏡を用いて測定した金被覆前後の銀ナノプレートの大きさから算出することもできる。例えば、銀ナノプレートの主平面の形状が円形状の場合には、金被覆前の平均粒子径(a)及び金被覆後の平均粒子径(b)を測定し、以下の式:
T=(b-a)/2
によって平均厚み(T)を算出することができる。銀ナノプレートの主平面の形状が正三角形状の場合には、金被覆前の正三角形の平均高さ(c)及び金被覆後の正三角形の平均高さ(d)を測定し、以下の式:
T=(d-c)/3
によって平均厚み(T)を算出することができる。
【0017】
本発明の懸濁液が呈する色調は、コアとなる銀ナノプレートの大きさ及び/又は形状と金層の厚さを調整し、前記金被覆銀ナノプレートの極大吸収波長を変化させることによって調整することが可能である。すなわち、前記銀ナノプレートの大きさ及び形状は、その後の金被覆による極大吸収波長の変化を考慮し、本発明の懸濁液が可視光領域に極大吸収波長を有するように調整されている。ある態様では、前記極大吸収波長は、約400nm~約680nmに存在している。
【0018】
ある態様では、本発明のイムノクロマトキットにおいて、前記金被覆銀ナノプレートは、乾燥状態で含まれている。前記金被覆銀ナノプレートを乾燥する方法は、特に制限されないが、例えば、前記金被覆銀ナノプレートを常温減圧下で乾燥させてもいいし、凍結乾燥によって乾燥させてもよい。本発明で用いられる金被覆銀ナノプレートは、金層が厚く酸化耐性が高いため、このような形態とすることが可能となる。
【0019】
ある態様では、前記銀ナノプレートの平均粒子径(D)に対する前記端面での前記金層の平均厚み(T)の比率(T/D)が、約0.05以上、好ましくは約0.1以上であり、さらに好ましくは約0.16以上となるように形成されている。すなわち、前記金被覆銀ナノプレートは、粒子径が小さい割に厚い金層を有するものであってもよい。粒子径が小さい金被覆銀ナノプレートは可視光領域に極大吸収波長を有するため、イムノクロマトグラフィーなどの目視判定を必要とする被験物質の検出方法のマルチカラー化を図ることができる。ある態様では、T/Dは、約0.5以下、約0.4以下、又は約0.3以下であってもよい。
【0020】
ある態様では、前記金被覆銀ナノプレートは、可視光領域に極大吸収波長を有し、前記金被覆銀ナノプレートの波長900nmにおける消光度(E900)に対する前記極大吸収波長における消光度(Emax)の比率(Emax/E900)は、約5以上であってもよく、好ましくは約10以上である。すなわち、前記金被覆銀ナノプレートは、シャープな分光スペクトルを示すが、これは粒子径の均一性が高いためである。そのため、前記金被覆銀ナノプレートの色彩は鮮やかであり、彩度が高い。
【0021】
本発明のイムノクロマトキット中の金被覆銀ナノプレートを調製するための銀ナノプレートとしては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができ、例えば、市販品を用いてもよく、公知の製造方法や後述の実施例に記載の方法に従って製造したものを用いてもよい。なお、上記特定の態様で言及した粒子径が小さい割に厚い金層を有する金被覆銀ナノプレートを製造する場合には、コアの銀ナノプレートからの銀の溶出や当該銀ナノプレートの酸化、及び成長した金層による凝集塊の形成などに注意する。例えば、前記金層を形成する際に使用する被覆混合液(前記銀ナノプレート、金含有水溶性化合物、及び金イオンの錯化剤を含む)において、銀濃度(CAg)が約0.25mM以下であり、金濃度(CAu)が約0.1mM以上であり、かつCAgに対するCAuの比率(CAu/CAg)が約0.50以上となるように銀濃度及び金濃度を調整して、当該被覆混合液を所定の時間静置すれば、粒子径が小さい割に厚い金層を有する金被覆銀ナノプレートを効率よく安定に作製することができる。より詳細には特願2020-149087号の明細書を参照されたい。
【0022】
本発明のイムノクロマトキット中の金被覆銀ナノプレートは、前記被験物質の検出用特異的結合物質を担持している。本明細書に記載の「担持」とは、共有結合若しくは非共有結合又は直接的若しくは間接的な結合などの様式にかかわらず、前記金被覆銀ナノプレートと前記検出用特異的結合物質とが結合して複合体を形成していることを意味している。担持の方法としては、通常の担持方法を特に制限なく用いることができ、物理吸着、化学吸着(表面への共有結合)、化学結合(共有結合、配位結合、イオン結合又は金属結合)等を利用して、前記金被覆銀ナノプレートと前記検出用特異的結合物質とを直接的に結合させる方法や、前記金被覆銀ナノプレートの表面に水溶性高分子の一部を結合させて、その水溶性高分子の末端又は主鎖若しくは側鎖に、直接的又は間接的に前記検出用特異的結合物質を結合させる方法を採用することができる。例えば、前記検出用特異的結合物質が抗体である場合には、前記金被覆銀ナノプレートと抗体の溶液とを混合し、振盪し、遠心分離することで、抗体を担持した金被覆銀ナノプレート(標識された検出試薬)を沈殿物として得ることができる。また、前記金被覆銀ナノプレートと抗体とを静電吸着により担持させる場合、マイナス電荷を有するポリスチレンスルホン酸で前記金被覆銀ナノプレート表面を被覆すると、前記抗体の担持効率が向上し得る。
【0023】
前記捕捉用特異的結合物質又は前記検出用特異的結合物質(総称して「被験物質に対する特異的結合物質」などということもある。)としては、検出の対象である被験物質と複合体を形成できるものであって、前記金被覆銀ナノプレートを標識として利用することができるものであれば、特に制限なく用いることができる。被験物質と被験物質に対する特異的結合物質との組み合わせの具体例としては、抗原とそれに結合する抗体、抗体とそれに結合する抗原、糖鎖又は複合糖質とそれに結合するレクチン、レクチンとそれに結合する糖鎖又は複合糖質、ホルモン又はサイトカインとそれに結合する受容体、受容体とそれに結合するホルモン又はサイトカイン、タンパク質とそれに結合する核酸アプタマー若しくはペプチドアプタマー、酵素とそれに結合する基質、基質とそれに結合する酵素、ビオチンとアビジン又はストレプトアビジン、アビジン又はストレプトアビジンとビオチン、IgGとプロテインA又はプロテインG、プロテインA又はプロテインGとIgG、T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子4(Tim4)とホスファチジルセリン(PS)、PSとTim4、あるいは、第1の核酸とそれに結合する(ハイブリダイズする)第2の核酸等があげられる。前記第2の核酸は、前記第1の核酸と相補的な配列を含む核酸であってもよい。
【0024】
被験物質が抗原である場合には、該抗原に対する特異的結合物質は抗体であってもよい。前記抗体は、前記抗原に対して特異的に結合するポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体又はそれらの断片であってもよく、該断片は、F(ab)フラグメント、F(ab’)フラグメント、F(ab’)2フラグメント又はF(v)フラグメントであってもよい。被験物質としての抗原は、コンカナバリンA(ConA)、麦芽アグルチニン及びリシンなどのレクチンであってもよく、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルス、ヒト免疫不全ウイルス及びB型肝炎ウイルス、ジカウイルス、デングウイルスなどのウイルス又はそれらが有する物質(例えば、B型肝炎ウイルス抗原(HBs抗原)又はインフルエンザウイルスのヘマグルチニン)であってもよく、アスペルギルス・フラバス、クラミジア、梅毒トレポネーマ、溶連菌、炭疽菌、黄色ブドウ球菌、赤痢菌、大腸菌、サルモネラ菌、ネズミチフス菌、パラチフス菌、緑膿菌及び腸炎ビブリオ菌などの病原性微生物又はそれらが有する物質(例えば、アスペルギルス・フラバスのアフラトキシン(B1、B2、G1、G2又はM1など)、腸管出血性大腸菌のベロ毒素又は溶連菌のストレプトリジンO)であってもよく、免疫グロブリンG(IgG)、リウマチ因子及びC反応性タンパク質(CRP)などの血中タンパク質であってもよく、ムチンなどの糖タンパク質であってもよく、インスリン、下垂体ホルモン(例えば、成長ホルモン(GH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、プロラクチン、又はメラニン細胞刺激ホルモン(MSH))、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、甲状腺ホルモン(例えば、ジヨードサイロニン又はトリヨードサイロニン)、絨毛性ゴナドトロピン、カルシウム代謝調節ホルモン(例えば、カルシトニン又はパラトルモン)、膵ホルモン、消化管ホルモン、血管作動性腸管ペプチド、卵胞ホルモン(例えば、エストロン)、天然又は合成黄体ホルモン(例えば、プロゲステロン)、男性ホルモン(例えば、テストステロン)、及び副腎皮質ホルモン(例えば、コルチゾール)などのホルモンであってもよく、セロトニン、ウロキナーゼ、フェリチン、サブスタンP、プロスタグランジン及びコレステロールなどのその他生体内物質であってもよく、前立腺性酸性フォスファターゼ(PAP)、前立腺特異抗原(PSA)、アルカリ性フォスファターゼ、トランスアミナーゼ、トリプシン、ペプシノーゲン、α-フェトプロテイン(AFP)及び癌胎児性抗原(CEA)などの腫瘍マーカーであってもよく、血液型抗原などの糖鎖抗原であってもよく、ヘモグロビン及びトランスフェリンなどの便潜血の検出に用いられるマーカーであってもよく、血液凝固・線溶系において活性型第XIII因子作用によりクロスリンクを受けた安定化フィブリンがプラスミンによって分解されたフィブリン分解産物の一種であるDダイマーであってもよく、細胞外小胞が有するタンパク質や核酸であってもよい。そして、被験物質である抗原がホルモン又はサイトカインなどの生体内物質である場合には、該生体内物質に対する特異的結合物質は、抗体だけでなく受容体であってもよく、被験物質である抗原が糖鎖又は糖鎖を有する複合糖質である場合には、該糖鎖又は糖鎖を有する複合糖質に対する特異的結合物質は、抗体だけでなくレクチンであってもよい。また、被験物質としての抗原は、ペニシリン及びカドミウムなどのハプテンであってもよい。
【0025】
被験物質が抗体である場合には、該抗体に対する特異的結合物質は抗原であってもよい。前記抗原は、前記抗体に対して特異的に結合する抗原全体又はその断片であってもよく、それらを他の担体と結合した融合物質であってもよい。被験物質としての抗体は、抗環状シトルリン化ペプチド(CCP)抗体又は抗リン脂質抗体などの自己抗体であってもよく、抗クラミジア抗体、抗HIV抗体又は抗HCV抗体などの外来抗原に対する抗体であってもよい。
【0026】
被験物質が糖鎖である場合には、該糖鎖に対する特異的結合物質はレクチンであってもよい。前記レクチンは、前記糖鎖に特異的に結合するガレクチン、C型レクチン、マメ科レクチン又はそれらの断片であってもよい。被験物質としての糖鎖は、単糖又は多糖であってもよく、それらがタンパク質又は脂質に結合した複合糖質であってもよい。例えば、被験物質がマンノースを含む糖鎖である場合には、該糖鎖に対する特異的結合物質としてマメ科レクチンのコンカナバリンA(ConA)を使用することができる。
【0027】
被験物質がレクチンである場合には、該レクチンに対する特異的結合物質は糖鎖であってもよい。前記糖鎖は、前記レクチンに特異的に結合する単糖、多糖、複合糖質又はそれらが他の担体と結合した融合物質であってもよい。被験物質としてのレクチンは、ガレクチン、C型レクチン又はマメ科レクチンであってもよい。例えば、被験物質がマメ科レクチンのコンカナバリンA(ConA)である場合には、該レクチンに対する特異的結合物質としてマンノースを含む糖鎖を使用することができる。
【0028】
被験物質と被験物質に対する特異的結合物質との組み合わせが、タンパク質とそれに結合する核酸アプタマー若しくはペプチドアプタマーである場合には、核酸アプタマーは、例えば、炭疽菌(Bacillus anthracis)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、D群赤痢菌・ソンネ赤痢菌(Shigella sonnei)、大腸菌(Escherichia coli)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、溶連菌(Streptococcus hemolyticus)、パラチフス(Salmonella paratyphi A)、ブドウ球菌エンテロトキシンB(Staphylococcal enterotoxin B)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)等の細菌、ムチン1等の上皮の細胞表面に表れる腫瘍マーカー、若しくはβ-ガラクトシダーゼやトロンビン等の酵素等と結合するDNAアプタマー、又は、ヒト免疫不全ウイルスのTatタンパク質やRevタンパク質と結合するRNAアプタマーであってもよく、ペプチドアプタマーは、例えば、ヒトパピローマウイルス(HPV)の腫瘍性タンパク質HPV16 E6と結合するペプチドアプタマーであってもよい。
【0029】
被験物質がビタミン類である場合には、該ビタミン類に対する特異的結合物質は、ビタミンDと結合するトランスカルシフェリン及びビタミンB12と結合するトランスコバラミンなどのビタミン結合タンパク質であってもよい。被験物質が抗生物質である場合には、該抗生物質に対する特異的結合物質は、ペニシリンに結合するPBP1及びPBP2などのペニシリン結合タンパクであってもよい。
【0030】
被験物質又は被験物質に結合する物質としての核酸は、例えば、DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、又は、それらの増幅物であってもよい。
【0031】
ある態様では、前記試料が、複数種類の被験物質を含んでおり、
前記メンブレン上に、前記複数種類の被験物質それぞれに対する捕捉用特異的結合物質が固定されており、
前記金被覆銀ナノプレートが、前記複数種類の被験物質それぞれに対する検出用特異的結合物質を担持している。すなわち、本発明のイムノクロマトキットによって、複数種類の被験物質を同時に検出することが可能である。この場合、前記捕捉用特異的結合物質は、結合する被験物質の種類ごとに異なる部位に固定されていてよい。また、前記検出用特異的結合物質は、結合する被験物質の種類ごとに異なる極大吸収波長の金被覆銀ナノプレートに担持されていてもよい。このようにすると、検出する被験物質ごとに異なる場所で又は異なる色で着色が観察されるため、前記被験物質の検出が容易になる。
【0032】
特定の態様では、前記被験物質が、インフルエンザウイルス抗原及びコロナウイルス抗原からなる群から選択される少なくとも1種を含む。前記インフルエンザウイルス抗原は、特に限定されないが、例えば、A型インフルエンザウイルス抗原及び/又はB型インフルエンザウイルス抗原を含んでもよい。前記コロナウイルス抗原は、特に限定されないが、例えば、SARS-CoV抗原及び/又はSARS-CoV-2抗原を含んでもよい。
【0033】
ある態様では、前記テストストリップが、前記金被覆銀ナノプレートを含むコンジュゲートパットを含んでいる。本明細書に記載の「コンジュゲートパッド」とは、前記金被覆銀ナノプレートが含侵している部位であり、ここへ前記試料を添加すると、前記金被覆銀ナノプレートが溶出し、前記メンブレン上での展開(流動)を開始するように構成されている。前記コンジュゲートパッドは、当技術分野で通常使用される任意の方法によって作製することができる。
【0034】
ある態様では、前記メンブレンが、イムノクロマトグラフィー試験の成否を判定するコントロール部位をさらに備えている。前記コントロール部位は、特に限定されないが、例えば、前記検出用特異的結合物質を捕捉することのできる抗体などの物質を固定したコントロールラインであってもよい。特定の態様では、本発明のイムノクロマトキットは、前記コントロール部位に特異的に結合するコントロール特異的結合物質をさらに含んでいる。前記コントロール特異的結合物質は、前記金被覆銀ナノプレートと一緒に、前記コンジュゲートパッドに含まれていてもよい。また、ブロッキング溶液又は洗浄溶液への浸漬中又はこれらの溶液の展開中や、前記試料の展開中に、前記捕捉用特異的結合物質が前記メンブレンから流出し、前記コントロール部位に到達することがあることを考慮すると、前記コントロール部位における判定を妨げないようにするためには、前記コントロール特異的結合物質は、前記検出用特異的結合物質だけでなく前記捕捉用特異的結合物質とも前記コントロール部位において競合しないものであることが好ましい。例えば、前記コントロール特異的結合物質が抗体を含み、かつ前記捕捉用特異的結合物質が抗体を含む場合には、前記コントロール特異的結合物質の抗体としては、前記捕捉用特異的結合物質の抗体とは異なる宿主動物に由来しているものを採用してもよい。
【0035】
ある態様では、本発明のイムノクロマトキットは、前記金被覆銀ナノプレート以外のナノ粒子をさらに含む。特に、前記ナノ粒子として前記金被覆銀ナノプレートとは異なる色を呈するものを採用することにより、検出部位及び/又はコントロール部位において着色できる色の選択肢を広げることができる。前記ナノ粒子としては、イムノクロマトグラフィー試験に使用することができる限り特に制限されないが、例えば、金ナノ粒子及びパラジウム被覆金ナノ粒子などであってもよい。
【0036】
本発明のイムノクロマトキットは、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の構成をさらに備えてもよい。例えば、前記イムノクロマトキットは、被験物質の標準品、緩衝液、又は、使用方法を記載した取扱説明書などをさらに含んでもよい。
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0038】
1.調製例1
(1)銀ナノプレートの種粒子の調製
2.5mMのクエン酸三ナトリウム水溶液200mLに、0.5g/Lのポリスチレンスルホン酸(分子量70,000)水溶液10mLと、10mMの水素化ほう素ナトリウム水溶液11.5mLとを撹拌しながら添加し、次いで、0.74mMの硝酸銀水溶液200mLを86mL/分で添加した。撹拌停止後、得られた溶液をインキュベーター(30℃)中に60分間静置し、銀ナノプレート種粒子の水分散液(シード懸濁液)を作製した。
【0039】
(2)銀ナノプレート水分散液の調製
蒸留水2000mLに、10mMのアスコルビン酸水溶液45mLと、上記シード懸濁液300mLを撹拌しながら添加した。次いで、7.4mMの硝酸銀水溶液120mLを26mL/分で添加した。得られた溶液に、250mMのクエン酸三ナトリウム水溶液20mLを添加し、撹拌を停止した。得られた溶液を大気雰囲気下のインキュベーター(23℃)中に20時間静置し、銀ナノプレート水分散液1(AgPL懸濁液1)を調製した。また、上記シード懸濁液の使用量を42mL又は100mLに代えた以外はAgPL懸濁液1と同様にして、AgPL懸濁液2及び3を調製した。
【0040】
各AgPL懸濁液中の銀ナノプレートを走査透過電子顕微鏡(STEM)で観察し、任意の銀ナノプレート100個の最大長径を計測した合計100点のデータから上下10%を除いた80点のデータの平均値を求めることによって、平均粒子径を算出した。AgPL懸濁液1、2、及び3中の銀ナノプレートの平均粒子径は、それぞれ13.2nm、32.8nm、及び20.2nmだった。
【0041】
(3)銀ナノプレートの金被覆処理
蒸留水150mLに、24mMの塩化金酸水溶液を14mL、200mMの水酸化ナトリウム水溶液を8mL、10mMの亜硫酸ナトリウム水溶液を103mL混合して、成長溶液1を調製した。そして、蒸留水312mLに、AgPL懸濁液1を312mL、5質量%のポリビニルピロリドン水溶液を69mL、500mMのアスコルビン酸水溶液を14mL、500mMの水酸化ナトリウム水溶液を14mL、100mMの亜硫酸ナトリウム水溶液を3mL、成長溶液1を2.9倍希釈したものを275mL混合して室温で24時間静置し、金被覆銀ナノプレートの水分散液1(Ag@Au懸濁液1)(黄色調)を調製した。そして、上記と同様の方法で、AgPL懸濁液2に成長溶液1を1.4倍に希釈したものを使用してAg@Au懸濁液2(青色調)を、また、AgPL懸濁液3に成長溶液1を1.7倍に希釈したものを使用してAg@Au懸濁液3(赤色調)をそれぞれ調製した。Ag@Au懸濁液1~3を適宜希釈し、分光光度計V-770(日本分光株式会社製)により測定した分光スペクトルを
図1に示す。また、Ag@Au懸濁液2中の金被覆銀ナノプレートの高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM)観察写真を
図2に示す。
【0042】
(4)金被覆銀ナノプレートの特性
Ag@Au懸濁液1~3をSTEMで観察し、各懸濁液中の金被覆銀ナノプレートの端面における金層の平均厚みを算出した。具体的には、計算の便宜のため形状が円形状の金被覆銀ナノプレートを選定して平均粒子径を測定し、金被覆前に測定していた平均粒子径との差を2で割って、端面における金層の平均厚みを算出した。以下の表1に、金被覆操作時の混合液の銀濃度及び金濃度、コアの銀ナノプレートの平均粒子径及び端面における金層の平均厚み、金被覆銀ナノプレートの極大吸収波長、並びに、当該極大吸収波長における消光度及び900nmにおける消光度をまとめて示す。
【0043】
【0044】
(5)従来の金被覆銀ナノプレートの調製
特許文献1(特許第6440166号)の実施例に記載の金属微粒子A、B及びCの調製方法に従って、金被覆銀ナノプレートの懸濁液、すなわちAg@Au懸濁液4(黄色調)、5(赤色調)、及び6(青色調)を調製した。Ag@Au懸濁液4~6を適宜希釈し、分光光度計V-770(日本分光株式会社製)により測定した分光スペクトルを
図3に示す。また、上記(4)に記載の方法に従って測定したAg@Au懸濁液4~6中の金被覆銀ナノプレートの端面における金層の平均厚みは、それぞれ0.14nm、0.21nm、及び0.31nmであり、いずれも1.0nmより薄かった。
【0045】
(6)金被覆銀ナノプレートへの抗体の担持
Ag@Au懸濁液1中の金被覆銀ナノプレートを遠心分離で沈殿させ、上清を除去後、0.5mMのクエン酸三ナトリウム水溶液を添加し、沈殿した金被覆銀ナノプレートを分散させた。同様の操作を二回繰り返し、最終的に極大吸収波長における消光度が2.0になるように、Ag@Au懸濁液の濃度を調整した。この懸濁液1mLを、5mMのホウ酸緩衝液(pH7.5)で50μg/mLの濃度に希釈した抗ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)抗体(宿主動物:マウス)の溶液0.1mLと混合して、得られた混合液を室温下で60分間静置した。次いで、0.5mMのウシ血清アルブミン溶液(5mMのホウ酸緩衝液中)を0.100mL添加し、得られた懸濁液を室温下で60分間静置した。これを遠心分離して前記抗体と金被覆銀ナノプレートとの複合体を沈殿させ、上澄み液を除去した。その後、前記複合体に50μLの20mMのトリス塩酸緩衝液(0.05%のポリエチレングリコール(PEG)(Mw:20,000)、0.25mMのBSA、及び150mMのNaClを含む)を添加して再分散し、抗hCG抗体を担持したAg@Auの懸濁液1(抗hCG抗体/Ag@Au懸濁液1)を作製した。また、同様にして、AgAu懸濁液2~6から、抗hCG抗体を担持したAg@Auの懸濁液2~6(抗hCG抗体/Ag@Au懸濁液2~6)をそれぞれ作製した。
【0046】
(7)コンジュゲートパッドの作製
20mMのトリス塩酸緩衝液(pH8.2;0.05%のポリエチレングリコール(Mw:20,000)及び4%のスクロースを含む)900μLを、300μLの抗hCG抗体/Ag@Au懸濁液1と混合した。この混合液を、縦8mm×横300mmのグラスファイバーパッド(GRADE 8964、AHLSTROM製)の全面に、40μL/cmの量で均一に塗布した後、真空デシケーター(アズワン製)に入れ、減圧ポンプ(ベルト駆動型油回転真空ポンプTSW-50N、佐藤真空株式会社製)で一晩乾燥して、抗hCG抗体を担持したAg@Auを含むコンジュゲートパッド1を作製した。また、同様にして、抗hCG抗体/Ag@Au懸濁液2~6から、抗hCG抗体を担持したAg@Auを含むコンジュゲートパッド2~6をそれぞれ作製した。
【0047】
(8)イムノクロマトグラフィー用テストストリップの作製
ニトロセルロース製のメンブレンの検出部位に、0.5mg/mLの抗hCG抗体(宿主動物:マウス)を含む50mMリン酸緩衝液を、1μL/cmの量で均一に直線状に塗布し、当該検出部位の上端側のコントロール部位に、0.5mg/mLの抗マウスIgG抗体(宿主動物:ラビット)を含む50mMリン酸緩衝液を、1μL/cmの量で均一に直線状に塗布して、これらの抗体をメンブレン上に固定した。このメンブレンを、50mMのホウ酸緩衝液(pH8.5)(0.5%のカゼイン含む)でブロッキングした。ブロッキングしたメンブレンを、50mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.6)(0.5%のスクロース、0.01%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを含む)に浸して洗浄し、乾燥させた。
【0048】
乾燥後のメンブレンを、縦40mm×横60mmのバッキングシート(GL-57888、Lohmann製)の粘着テープ部に貼り付けて、当該メンブレンの下端側に2mm重なるように、抗hCG抗体を担持したAg@Auを含むコンジュゲートパッド1~6のいずれかを貼り付けた。次いで、25mMのトリス塩酸緩衝液(pH8.2)を含浸させた縦17mm×横60mmのサンプルパッド(GRADE0319、Ahlstrom製)を、前記コンジュゲートパッドの前記メンブレンと反対側に、それと4mm重なるように貼り付けた。そして、前記メンブレンの上端側に5mm重なるように、縦20mm×横60mmの吸水パッド(GRADE0270、Ahlstrom製)を貼り付けた。最後に、メンブレン、コンジュゲートパッド、サンプルパッド、及び吸水パッドを備えたバッキングシートを、縦60mm、横5mmの短冊状にロールカッターでカットし、これをハウジングケース(Type―Tハウジングケース、トラストメディカル製)に設置することでテストストリップ[hCG+M]を作製した。
【0049】
2.イムノクロマトグラフィー試験1
上記項目1(8)で作製したテストストリップ[hCG+M]のサンプルパッドに、hCGを250mIU/mLの濃度で含む10mMリン酸緩衝生理食塩水(0.25mMのBSAを含む)又はhCGを含まない同リン酸緩衝生理食塩水(ブランク)を100μL滴下し、メンブレン上に展開させた。そして、検出部位及びコントロール部位の着色を、目視によって以下の基準で評価し、hCGを含む被験サンプルを展開したときには輝度解析も行った。
(目視判定の基準)
++:鮮明な着色あり
+ :着色あり
- :着色なし
【0050】
輝度解析では、被験サンプルを展開した後のテストストリップをスキャナー(装置名:CanoScan LiDE500F、製造元:キヤノン株式会社)によりスキャニングし、検出部位、コントロール部位、及びこれら以外の部位(対照領域)の最低輝度(着色すると低くなる)を、画像解析ソフトImage-J(アメリカ国立衛生研究所でWayne Rasbandが開発したオープン・ソースで公有の画像処理ソフトウェア;http://imagej.nih.gov/ij/)を用いて数値化した。より具体的には、各部分の最低輝度をそれぞれ5回ずつ測定し、得られた数値の中央値を検出部位、コントロール部位、又は対照領域の最低輝度として採用した。そして、対照領域の最低輝度から検出部位又はコントロール部位の最低輝度を引いて、輝度差を求めた。結果を表2及び表3に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
金層の平均厚みが1.0nmよりも大きい金被覆銀ナノプレート(Ag@Au懸濁液1~3)を使用したイムノクロマトグラフィー試験においては、hCGを含まない被験サンプルを展開したときにコントロール部位の着色だけが観察され、試験系として成立していることが確認されたが、金層の平均厚みが1.0nmよりも小さい金被覆銀ナノプレート(Ag@Au懸濁液4~6)を使用したイムノクロマトグラフィー試験においては、コントロール部位の着色が観察できず、試験系として機能していなかった(表2)。これは、金被覆銀ナノプレートが酸化によって劣化したからであると考えられる。また、Ag@Au懸濁液1~3を使用したイムノクロマトグラフィー試験において、hCGを含む被験サンプルを展開すると、検出部位においてhCGを良好に検出することができた(表3)。
【0054】
3.調製例2
(1)金被覆銀ナノプレートへの抗体の担持
抗体の溶液として、Ag@Au懸濁液1に対しては5mMのホウ酸緩衝液(pH8.3)で50μg/mLの濃度に希釈した抗B型インフルエンザウイルス(Flu-B)抗体(宿主動物:マウス)、Ag@Au懸濁液2に対しては同様に希釈した抗A型インフルエンザウイルス(Flu-A)抗体(宿主動物:マウス)、Ag@Au懸濁液3に対しては同様に希釈した抗SARS-CoV-2(CoV2)抗体(宿主動物:マウス)を使用したことと、20mMのトリス塩酸緩衝液に0.05wt%のLipidure BL802(日油株式会社)を含むことと、PEGを含まないこと以外は上記項目1(6)と同様にして、抗Flu-B抗体を担持したAg@Auの懸濁液(懸濁液A)、抗Flu-A抗体を担持したAg@Auの懸濁液(懸濁液B)、及び抗CoV2抗体を担持したAg@Auの懸濁液(懸濁液C)をそれぞれ作製した。
【0055】
(2)コントロール用抗体の調製
特許第6717732号の実施例に記載の「懸濁液E」の調製方法に従って、表面処理パラジウム被覆金ナノロッドを含む黒色の水分散液(Au@Pd懸濁液)を調製した。そして、懸濁液としてAu@Pd懸濁液を使用し、抗体の溶液として5mMのホウ酸緩衝液(pH8.0)で50μg/mLの濃度に希釈したラビットIgGを使用したことと、20mMのトリス塩酸緩衝液に0.05wt%のLipidure BL802(日油株式会社)を含むこと以外は上記項目1(6)と同様にして、ラビットIgGを担持したAu@Pdの懸濁液(懸濁液R)を作製した。
【0056】
(3)コンジュゲートパッドの作製
抗hCG抗体を担持したAg@Auの懸濁液1に代えて懸濁液A~Cの混合液又は懸濁液A~C及びRの混合液を使用したことと、20mMのトリス塩酸緩衝液に0.05wt%のLipidure BL802(日油株式会社)を含むことと、PEGを含まないこと以外は上記項目1(7)と同様にして、コンジュゲートパッド[ABC]及びコンジュゲートパッド[ABC+R]を作製した。
【0057】
(4)イムノクロマトグラフィー用テストストリップの作製
ニトロセルロース製のメンブレンの検出部位に、当該メンブレンの下端から上端に向かって順に0.25mg/mLの抗CoV2抗体を含む50mMホウ酸緩衝液(10%のスクロースを含む)、0.25mg/mLの抗Flu-A抗体を含む50mMホウ酸緩衝液(10%のスクロースを含む)、及び0.25mg/mLの抗Flu-B抗体を含む50mMホウ酸緩衝液(10%のスクロースを含む)を、それぞれ直線状に塗布し、かつ当該検出部位の上端側のコントロール部位に、2.1mg/mLの抗マウスIgG抗体(宿主動物:ラビット)を塗布し、かつコンジュゲートパッドとしてコンジュゲートパッド[ABC]を使用した以外は上記項目1(8)と同様にして、テストストリップ[ABC+M]を作製した。また、検出部位に塗布する抗体溶液の濃度を1.0mg/mLに変更し、かつコントロール部位に塗布する抗体溶液を0.3mg/mLの抗ラビットIgG抗体(宿主動物:ゴート)に変更して、さらにコンジュゲートパッドとしてコンジュゲートパッド[ABC+R]を使用した以外はテストストリップ[ABC+M]と同様にして、テストストリップ[ABC+R]を作製した。
【0058】
4.イムノクロマトグラフィー試験例2
上記項目3(4)で作製したテストストリップ[ABC+M]又はテストストリップ[ABC+R]のサンプルパッドに、以下の被験サンプル(a)~(e)を含む10mMリン酸緩衝生理食塩水(0.25mMのBSAを含む)を100μL滴下し、メンブレン上に展開させた。そして、上記項目2に記載の方法に従って、検出部位及びコントロール部位の着色を評価した。結果を表4及び5に示す。
(a)ブランク(抗原なし)
(b)Flu-A抗原(1.5μg/mL)
(c)Flu-B抗原(5.0μg/mL)
(d)CoV2抗原(3.0μg/mL)
(e)Flu-A抗原(1.5μg/mL)+Flu-B抗原(5.0μg/mL)+
CoV2抗原(3.0μg/mL)
【0059】
【0060】
【0061】
テストストリップ[ABC+M]及びテストストリップ[ABC+R]のいずれを使用した場合でも、Flu-Aは青色、Flu-Bは黄色、CoV2は赤色で検出されたが、テストストリップ[ABC+R]を使用したときの方が大きい輝度差で検出された。また、コントロール部位の色について、テストストリップ[ABC+M]においては、青色、黄色、及び赤色の金被覆銀ナノプレートが混ざった混色として黒色を呈しており、テストストリップ[ABC+R]においては、パラジウム被覆金ナノロッドの色調として黒色を呈していた。
【0062】
なお、テストストリップ[ABC+M]において、検出部位に固定する抗体の濃度を1.0mg/mLとすると、コントロール部位の黒色が消失してしまった。これは、固定していた抗体が、ブロッキング溶液又は洗浄溶液への浸漬中又はこれらの溶液の展開中や、被験サンプルの展開中にメンブレンの上端側に流出し、コントロール部位の抗マウスIgG抗体に対して、金被覆銀ナノプレートに担持された抗体と競合的に結合したためであると考えられる。すなわち、被験物質の捕捉用特異的結合物質が、コントロール部位に結合する物質と競合する場合には、前記捕捉用特異的物質の固定量を増やして検出感度を高めようとすると、コントロールの判定ができなくなるというリスクがある。他方、テストストリップ[ABC+R]のように、被験物質の捕捉用特異的結合物質が、コントロール部位に結合する物質と競合しない場合には、前記捕捉用特異的物質の固定量を増やすことにより、コントロールの判定に悪影響を与えることなく検出感度を高めることが可能となる。
【0063】
以上より、厚い金層を有する金被覆銀ナノプレートを使用することにより、イムノクロマトグラフィー試験の検出感度を高めることができ、マルチカラー解析も可能になることが分かった。したがって、微量の被験物質もイムノクロマトグラフィー試験により簡便に検出することが可能となる。