(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161215
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】凝集剤注入方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/52 20060101AFI20221014BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20221014BHJP
B01D 21/30 20060101ALI20221014BHJP
B01D 21/32 20060101ALI20221014BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
C02F1/52 Z
B01D21/01 B
B01D21/30 A
B01D21/32
G01N21/17 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065846
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【弁理士】
【氏名又は名称】河崎 眞一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 公一
【テーマコード(参考)】
2G059
4D015
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB06
2G059DD03
2G059DD05
2G059DD12
2G059EE01
2G059EE02
2G059FF01
2G059GG01
2G059HH02
2G059MM01
4D015BA21
4D015BB08
4D015CA14
4D015CA20
4D015EA03
(57)【要約】
【課題】浄水場等で行われる凝集沈殿処理に使用される凝集剤の適正濃度を、原水の水質変動に応じて適切に調整できる凝集剤注入方法を提供する。
【解決手段】採取した濁質を含む原水に対して複数の注入率水準で凝集剤を注入し、前記凝集剤を注入した原水を攪拌することでフロックが形成される所定期間に、時間を異ならせてフロックを撮像し、フロックの体積、面積または粒径の何れかで表わされるフロックサイズの和を画像毎に算出するとともに、算出した画像毎のフロックサイズの和から全画像におけるフロックサイズの総和または平均値を算出し、前記フロックサイズの総和または平均値と、対応する凝集剤の注入率水準とに基づいて、原水への凝集剤注入率を調整する凝集剤注入方法。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取した濁質を含む原水に対して複数の注入率水準で凝集剤を注入し、
前記凝集剤を注入した原水を攪拌することでフロックが形成される所定期間に、時間を異ならせてフロックを撮像し、フロックの体積、面積または粒径の何れかで表わされるフロックサイズの和を画像毎に算出するとともに、算出した画像毎のフロックサイズの和から全画像におけるフロックサイズの総和または平均値を算出し、
前記フロックサイズの総和または平均値と、対応する凝集剤の注入率水準とに基づいて、原水への凝集剤注入率を調整することを特徴とする凝集剤注入方法。
【請求項2】
採取した濁質を含む原水に対して複数の注入率水準で凝集剤を注入し、
前記凝集剤を注入した原水を攪拌することでフロックが形成される所定期間に、時間を異ならせてフロックを撮像し、所定範囲の粒径のフロックについてフロックの体積、面積または粒径の何れかで表わされるフロックサイズの和を画像毎に算出するとともに、算出した画像毎のフロックサイズの和から全画像におけるフロックサイズの総和または平均値を算出し、
前記フロックサイズの総和または平均値と、対応する凝集剤の注入率水準とに基づいて原水への凝集剤注入率を調整することを特徴とする凝集剤注入方法。
【請求項3】
採取した濁質を含む原水に対して複数の注入率水準で凝集剤を注入し、
前記凝集剤を注入した原水を攪拌することでフロックが形成される所定期間に、時間を異ならせてフロックを撮像し、フロックの粒度分布を画像毎に算出するとともに、算出した粒度分布に基づいて全てのフロックの体積、面積または粒径の何れかで表わされるフロックサイズの和に対する所定範囲の粒度のフロックの前記フロックサイズの和の比率を画像毎に算出するとともに、算出した画像毎のフロックサイズの比率から全画像における比率または平均値を算出し、
前記全画像における比率または平均値と、対応する凝集剤の注入率水準とに基づいて原水への凝集剤注入率を調整することを特徴とする凝集剤注入方法。
【請求項4】
シートレーザー光源を原水中に照射するとともに、シートレーザーの光路となる面を撮像装置により撮像することにより、フロックを含む原水を撮像することを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の凝集剤注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集剤注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浄水場や排水処理場では、濁質を含む原水の水質を改善するために凝集剤が用いられ、対象となる原水の水質によって使用される凝集剤の種類や注入率等が調整される。
【0003】
特許文献1には、時間や場所に関わらず普遍的な制御を可能にし、かつリアルタイムで凝集剤の注入率を制御する方法が提案されている。
【0004】
当該方法は、原水の水質を測定する水質測定工程と、得られた水質測定値から基礎凝集剤注入率を算出する注入率算出工程と、前記水質測定工程とは独立して、原水に対し凝集剤を注入することにより原水中の粒子の集塊が始まるまでの時間を測定する集塊化開始時間測定工程と、前記集塊化開始時間の測定値と凝集剤注入率との相関をフィッティングラインとして算出する工程と、実施設の集塊化開始時間適正値をフィッティングラインに代入し、推奨凝集剤注入率を決定する推奨凝集剤注入率決定工程であって、前記推奨凝集剤注入率は、最新値に更新されるまで前回値が保持されるようにしてなる推奨凝集剤注入率決定工程と、前記基礎凝集剤注入率と、前記推奨凝集剤注入率との差分から補正値を算出する補正値算出工程と、前記補正値に基づいて、前記基礎凝集剤注入率を補正する注入率補正工程とを含む。
【0005】
特許文献2には、一本の凝集反応装置の延長上に設置した複数の透過光強度測定装置により連続的に測定された透過光強度変化から、凝集反応の良否の判定と最適凝集剤注入量決定を連続的、自動的に行うことを目的とした最適凝集剤注入量決定方法が提案されている。
【0006】
当該最適凝集剤注入量決定方法は、濃度の異なる凝集剤と懸濁液との混和液を段階的且つ連続的に作成する第1の段階と、光源部と受光部とから成る複数の透過光強度測定装置とを具備する一本の凝集反応装置中に、凝集剤濃度の異なる所定量の混和液を所定の速度で連続的にポンプ送水し、混合・撹拌し、凝集反応を進行させる第2の段階と、第2の段階の過程で、連続的に透過光強度を測定する第3の段階と、第3の段階で連続的に測定された透過光強度変化から、平均透過光強度およびその振幅を求め、これより凝集・フロック形成速度(以下凝集速度と記す)、フロック径、フロック数を算出する第4の段階と、第4の段階で連続的に算出された凝集速度、フロック径、フロック数、及び、それらの最大値又は最小値に基づき、凝集反応の良否の判定と最適凝集剤注入量を決定する第5の段階とを具備することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-200841号公報
【特許文献2】特開平7-171307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された方法を採用する場合には、集塊化開始時間の測定値と凝集剤注入率との相関をフィッティングラインとして算出する工程で、前記フィッティングラインが、原水を試料水として複数個の試験用水槽にそれぞれ所定量採取し、前記試料水に対して、予め設定したそれぞれ異なる凝集剤注入率で凝集剤を注入する凝集剤注入工程と、凝集剤注入後、各試料水内の粒子の集塊が始まるまでの集塊開始時間を試料水ごとに測定する集塊化開始時間測定工程と、試料水ごとに測定された集塊化開始時間と、前記各凝集剤注入率とに基づいて、集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関をフィッティングラインとして算出するフィッティングライン算出工程とを実行する必要がある。
【0009】
しかし、フィッティングライン算出工程における原水の水質変動に適切に対応するためには、予め予測される水質の変動幅を十分にカバーする範囲で集塊化開始時間と凝集剤注入率を測定する必要があり、水質の変動幅のカバー範囲を逸脱した水質の変動に対応できないという不都合があった。
【0010】
また、本願発明者らの確認実験によれば、凝集剤注入率が大きくなるに連れて集塊化開始時間が短くなるという傾向が示されており、特許文献1に記載された方法では、最適の凝集剤注入率を見出すのは困難であるということが確認されている。
【0011】
特許文献2に記載された最適凝集剤注入量決定方法は、凝集剤注入量が最適値に接近するに連れ、凝集反応速度が増大しフロック径(振幅)も増大するが、過剰注入になると凝集反応速度およびフロック径は減少するという経過を辿る、という現象に基づく発明であり、連続的に測定された透過光強度変化から、平均透過光強度およびその振幅を求め、これより凝集速度、フロック径、フロック数を算出し、算出した凝集速度、フロック径、フロック数、及び、それらの最大値又は最小値に基づき、最適凝集剤注入量を決定するものである。
【0012】
しかし、平均透過光強度およびその振幅に基づいて凝集速度、フロック径、フロック数等を算出するため、算出結果には一定の誤差が含まれ、正確な値を算出することは非常に困難である。そのため、特許文献2に記載された最適凝集剤注入量決定方法を用いて凝集剤注入量の最適値を決定するのは、実際上困難であった。
【0013】
本発明の目的は、上述した従来技術の問題点に鑑み、浄水場等で行われる凝集沈殿処理に使用される凝集剤の適正濃度を、原水の水質変動に応じて短時間で適切に調整できる凝集剤注入方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明による凝集剤注入方法の第一の特徴構成は、採取した濁質を含む原水に対して複数の注入率水準で凝集剤を注入し、前記凝集剤を注入した原水を攪拌することでフロックが形成される所定期間に、時間を異ならせてフロックを撮像し、フロックの体積、面積または粒径の何れかで表わされるフロックサイズの和を画像毎に算出するとともに、算出した画像毎のフロックサイズの和から全画像におけるフロックサイズの総和または平均値を算出し、前記フロックサイズの総和または平均値と、対応する凝集剤の注入率水準とに基づいて、原水への凝集剤注入率を調整する点にある。
【0015】
所定時間毎に撮像した各画像から、画像に存在するフロックに対応する領域を抽出することができ、抽出した領域に基づいてフロックサイズを算出することができる。フロックサイズとしてフロックの体積、面積または粒径の何れかを採用することができる。例えば、各画像に存在する各フロックの面積から各フロックが真円であると仮定した場合の径を求めることで、各フロックが真球であると仮定した場合の真球の体積、真球の断面積または表面積、真球の粒径が求まり、それらの何れかによりフロックサイズが定義できる。各フロックのフロックサイズを加算することにより画像毎にフロックサイズの和が求まり、注入率水準毎に全ての画像に存在するフロックサイズの総和または平均値を求めることにより、各注入率水準に対するフロックの形成状態を評価することができ、評価結果に基づいて原水への凝集剤注入率を調整することができる。
【0016】
同第二の特徴構成は、採取した濁質を含む原水に対して複数の注入率水準で凝集剤を注入し、前記凝集剤を注入した原水を攪拌することでフロックが形成される所定期間に、時間を異ならせてフロックを撮像し、所定範囲の粒径のフロックについてフロックの体積、面積または粒径の何れかで表わされるフロックサイズの和を画像毎に算出するとともに、算出した画像毎のフロックサイズの和から全画像におけるフロックサイズの総和または平均値を算出し、前記フロックサイズの総和または平均値と、対応する凝集剤の注入率水準とに基づいて原水への凝集剤注入率を調整する点にある。
【0017】
所定時間毎に撮像した各画像から、画像に存在するフロックに対応する領域を抽出することができ、抽出した領域に基づいてフロックサイズを算出することができる。フロックサイズとしてフロックの体積、面積、粒径の何れかを採用することができる。例えば、各画像に存在する各フロックの面積から各フロックが真円であると仮定した場合の径を求めることで、各フロックが真球であると仮定した場合の真球の体積、真球の断面積または表面積、真球の粒径が求まり、それらの何れかによりフロックサイズが定義できる。所定範囲の粒径のフロックについてフロックサイズを加算することにより画像毎にフロックサイズの和が求まる。そして、注入率水準毎に全ての画像に存在する所定範囲の粒径のフロックサイズの総和または平均値を求めることにより、各注入率水準に対するフロックの形成状態を評価することができ、評価結果に基づいて原水への凝集剤注入率を調整することができる。
【0018】
同第三の特徴構成は、採取した濁質を含む原水に対して複数の注入率水準で凝集剤を注入し、前記凝集剤を注入した原水を攪拌することでフロックが形成される所定期間に、時間を異ならせてフロックを撮像し、フロックの粒度分布を画像毎に算出するとともに、算出した粒度分布に基づいて全てのフロックの体積、面積または粒径の何れかで表わされるフロックサイズの和に対する所定範囲の粒度のフロックの前記フロックサイズの和の比率を画像毎に算出するとともに、算出した画像毎の比率から全画像における比率または平均値を算出し、前記全画像における比率または平均値と、対応する凝集剤の注入率水準とに基づいて原水への凝集剤注入率を調整する点にある。
【0019】
所定時間毎に撮像した各画像から、画像に存在するフロックに対応する領域を抽出することができ、抽出した領域に基づいてフロックの粒度分布が得られる。例えば、各画像に存在する各フロックの面積から各フロックが真円であると仮定した場合の径を求めることで粒度が得られる。また各画像に存在する各フロックの面積を粒度と捉えることもできる。さらにフロックサイズとしてフロックの体積、面積、粒径の何れかを採用することができる。例えば、各画像に存在する各フロックの面積から求まる各フロックが真円であると仮定した場合の径から各フロックが真球であると仮定した場合の真球の体積、真球の断面積または表面積、真球の粒径が求まり、それらの何れかによりフロックサイズが定義できる。算出した粒度分布に基づいて画像毎に所定範囲の粒度のフロックサイズの和の比率が得られ、画像毎の比率から得られる全画像における比率または平均値により、各注入率水準に対するフロックの形成状態を評価することができ、評価結果に基づいて原水への凝集剤注入率を調整することができる。
【0020】
同第四の特徴構成は、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、シートレーザー光源を原水中に照射するとともに、シートレーザーの光路となる面を撮像装置により撮像することにより、フロックを含む原水を撮像する点にある。
【0021】
シートレーザー光源から原水中に照射され、原水中でシート状に広がる照射面を撮像手段により撮像することにより、原水中のフロックの分布が定適切に撮像できる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明した通り、本発明によれば、浄水場等で行われる凝集沈殿処理に使用される凝集剤の適正濃度を、原水の水質変動に応じて短時間で適切に調整できる凝集剤注入方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】(a),(b)は本発明の適用対象となる浄水場及び濁度管理システムの説明図
【
図2】(a)は凝集剤注入後に変化する原水中の粒子数の特性を示す説明図、(b)は濁度と粒子数との間にみられる相関関係の説明図、(c)は凝集剤注入後に変化する原水中の粒子数(フロック数)と粒子体積(フロック体積)の特性を示す説明図
【
図3】(a)は急速攪拌時の検出粒子数特性の説明図、(b)は急速攪拌時の検出粒子体積特性の説明図、(c)は急速攪拌時の平均検出粒子体積特性の説明図、(d)は急速攪拌時の平均検出粒子径特性の説明図、
【
図4】(a)は急速攪拌時の凝集剤濃度に対する検出粒子の体積の総和特性及び粒子数の総和特性の説明図、(b)は急速攪拌時の凝集剤濃度に対する粒径毎の検出粒子数特性及び粒子数総和特性の説明図、(c)は急速攪拌時の凝集剤濃度に対する検出粒子の粒径毎の体積の総和特性の説明図
【
図5】(a)は急速攪拌時の凝集剤濃度に対する検出粒子の体積比率特性の説明図、(b)は急速攪拌時の凝集剤濃度に対する検出粒子の粒子数比率特性の説明図、(c)は静置時の原水上澄みの濁度と凝集剤注入率との関係を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明による凝集剤注入方法の実施形態を説明する。
図1(a),(b)には、浄水場1における原水の濁度管理システム10が示されている。
【0025】
浄水場1は、水源から取水し、沈砂池を経た水を原水として貯留する着水井2と、原水へ凝集剤等を注入する薬剤注入装置3と、薬剤が注入された原水を急速攪拌して混和させる混和池4と、緩速撹拌により原水中にフロックを形成させるフロック形成池5(5A,5B)と、排泥設備6を備え懸濁物質やフロックを沈殿させる沈殿池7と、沈殿後の処理水を殺菌処理等の後処理のために取り出す取出設備8等を備えている。
【0026】
取出設備8から取り出された処理水は、必要に応じてろ過地でろ過処理され、さらに塩素注入設備で殺菌処理された後に配水池に貯留され、配水池から送水ポンプで需要先に送水される。
【0027】
薬剤注入装置3は、凝集剤タンク(図示せず)と、凝集剤の注入量を調節する第1バルブ機構と、pH調整剤タンク(図示せず)と、pH調整剤の注入量を調整する第2バルブ機構と、各バルブ機構の開度を調節する制御装置9を備えている。凝集剤として、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、PAC(ポリ塩化アルミニウム)、第二塩化鉄等の無機系凝集剤が好適に用いられる。
【0028】
濁度管理システム10は、着水井2に貯留された濁質を含む原水に注入する凝集剤の注入量を管理するシステムであり、着水井2に貯留された濁質を含む原水の一部をサンプルとして採取して、サンプルに対する適切な凝集剤注入率及びpH調整剤の注入率を求める注入率算出装置11と、注入率算出装置11で算出した注入率に基づいて薬剤注入設備3を制御して薬剤を注入する制御装置9とで構成されている。pH調整剤の注入率は、原水のpH値が予め設定された中性範囲に入るようにpHセンサにより検出されたpH値に基づいて注入率算出装置11により決定されるものである。なお、pH調整については周知の技術であるため、以下では説明は省略する。
【0029】
上述した注入率算出装置11において本発明による凝集剤注入方法が実行される。
当該注入率算出装置11は、着水井2に貯留された濁質を含む原水の一部を採取する複数の容器12と、各容器12に凝集剤を注入する薬剤注入装置30と、各容器12に収容された原水と凝集剤とを攪拌するスターラ13を備えている。薬剤注入装置30は、上述した薬剤注入装置3と同様の構成である。各容器12には、薬剤注入装置30を介して複数の注入率水準で其々凝集剤が注入される。
【0030】
注入率算出装置11は、原水に凝集剤が注入された各容器12を攪拌するスターラ13と、光源・撮像装置14と、光源・撮像装置14で得られた画像を処理する画像処理装置15と、画像処理の結果に基づいて凝集剤注入率を算出する演算装置16を備えている。
【0031】
容器12にはスターラ13により回転駆動される攪拌羽根13Aが配置され、スターラ13により所定の時間だけ急速攪拌される。またさらに所定の緩速攪拌時間だけ緩速攪拌された後に静置することもできる。急速攪拌時に原水と凝集剤が混合攪拌されてフロックの形成が開始し、緩速攪拌時にフロックが次第に集まって成長し、静置時にフロックが沈降する。
【0032】
光源・撮像装置14は、シートレーザー光源14Aと、撮像装置14Bとで構成されている。シートレーザー光源14Aは容器12に収容された原水を所定高さでシート状かつ水平方向に照射するように設置され、照射方向に沿う水平面と直交する上方から原水を撮像するように撮像装置14Bが設置されている。なお、シートレーザー光源14Aは水平方向に照射する必要はなく、また撮像装置14Bもシートレーザーで照射された面を当該面と交差する方向から撮像すればよい。
【0033】
つまり、光源・撮像装置14は、シートレーザー光源14Aを原水中に照射するとともに、シートレーザーの光路となるシート状の面を撮像装置14Bにより撮像することにより、フロックを撮像するように構成されている。シートレーザー光源14Aの発光波長は635~690nmの赤色、515~532nmの緑色、360~470nmの青色の何れでも使用でき、白色光レーザーも使用可能である。
【0034】
光源・撮像装置14により、急速攪拌から緩速攪拌にかけてフロックの体積の増大が飽和するまでの間、フロックの挙動が所定時間間隔で時系列的に撮像される。
【0035】
画像処理装置15は、各撮像画像の濃淡を示す画素値を所定の閾値で二値化処理することで、原水と原水に浮遊するフロック像を区分けする。例えば原水を黒に対応する最小値に、フロックを白に対応する最大値に二値化することにより複数のフロックの各大きさを白の画素数で取得する。その際に、二値化処理した画像を例えば膨張・収縮処理することで境界部分の孤立点のノイズを除去することができる。
【0036】
画像処理装置15は、フロックの体積で表わされるフロックサイズの和を画像毎に算出するとともに、算出した画像毎のフロックサイズの和から全画像におけるフロックサイズの総和または平均値を算出する。
【0037】
画像処理装置15は、各撮像画像に含まれる各フロックの画素数から求まる面積に対して、各フロックが真円であると仮定した場合の当該真円の半径rを算出する。そして、当該半径rの真球の体積を各フロックの体積として算出し、撮像画像毎に各フロックのフロックサイズの和を算出する。さらに、画像処理装置15は、各画像のフロックサイズの和を加算することにより全画像におけるフロックサイズの総和を算出する。なお、全画像におけるフロックサイズの総和に代えて、全画像におけるフロックサイズの総和を画像数で除することにより得られるフロックサイズの画像1枚当たりの平均値を算出してもよい。
【0038】
演算装置16は、画像処理装置15によって算出されたフロックサイズの総和または平均値と、対応する凝集剤の注入率水準とに基づいて、原水への凝集剤注入率を設定し、制御装置9は、演算装置16によって設定された凝集剤注入率となるように原水への凝集剤注入率を調整するべく薬剤注入装置3を制御する。各注入率水準に対して形成されるフロックのフロックサイズの総和または平均値を評価し、評価結果に基づいて原水への凝集剤注入率を調整するのである。具体的に、フロックサイズの総和または平均値が最大となる注入率水準を、凝集剤注入率として採用する。
【0039】
そのため、各注入率水準で凝集剤が注入された各容器12に対して、所定時間間隔で撮像した所定枚数の連続画像からフロックサイズの総和または平均値を算出する処理を、任意の時間だけずらせた所定枚数の連続画像に対して繰返すことで、得られた其々のフロックサイズの総和または平均値のうちで最大となるフロックサイズの総和または平均値を各注入率水準に対するフロックサイズの総和または平均値とする。換言すると、各注入率水準で所定期間のフロックサイズの総和または平均値を算出し、最大値となるフロックサイズの総和または平均値を、その注入率水準のフロックサイズの総和または平均値とする。
【0040】
例えば、急速攪拌からフロックの体積の増大が飽和するまでの間を5秒間隔で撮像し、撮像開始から1分間12枚の連続画像に対してフロックサイズの総和または平均値を算出する処理を、時間軸に沿って5秒ずつずらせた1分間12枚の連続画像に対して順に繰り返すことで、繰返し数だけ得られるフロックサイズの総和または平均値のうち最大の値を求めるのである。なお、5秒という撮像時間間隔は例示であり、この値に限るものではない。また、1分間の連続画像というのも例示であり、任意の時間の連続画像であればよく、時間軸に沿って連続する画像から適宜間引きした画像を対象とするものであってもよい。
【0041】
上述の例では、画像処理装置15は、各撮像画像に含まれる各フロックの画素数から求まる面積に対して、各フロックが真円であると仮定した場合の当該真円の半径rを算出し、当該半径rの真球の体積を各フロックの体積として算出しているが、各撮像画像に含まれる各フロックの画素数から求まる面積に対して、各フロックが立方体であると仮定した場合の当該立方体の一辺の長さlを算出し、当該立方体の体積を各フロックの体積として算出してもよい。なお、体積を算出する際に近似する形状は真球や立方体に限るものではなく、例えば楕円であってもよい。
【0042】
また、各注入率水準と、各注入率水準で算出した所定期間のフロックサイズの総和または平均値との関係から、最大値となる時間的変化率を算出し、算出した最大値となる時間的変化率に対応する凝集剤注入率を、原水への凝集剤注入率として採用してもよい。
【0043】
以上の説明では、各注入率水準で生成されたフロックを所定時間毎に撮像した複数枚の画像に基づいて、フロックのフロックサイズの総和または平均値を算出し、算出した各注入率水準におけるフロックサイズの総和または平均値に基づいて、原水への凝集剤注入率を設定する例を示したが、フロックサイズとして、各フロックの体積を採用する例に代えて、各フロックの面積や各フロックの粒径を採用してもよい。面積を採用する場合には、フロックの断面積または表面積の何れを採用してもよい。
【0044】
例えば、各フロックが真円であると仮定した場合、求めた真円の半径rとする真球の表面積を求めることができる。なお、フロックの断面積は、各画像に含まれる各フロックの画素数から求まる面積と同じ値となる。
【0045】
さらに、フロックサイズとして各フロックの粒径を採用することも可能である。各フロックが真円であると仮定した場合の当該真円の半径または直径を粒径とすればよい。
【0046】
つまり、本発明による凝集剤注入方法は、採取した濁質を含む原水に対して複数の注入率水準で凝集剤を注入し、凝集剤を注入した原水を攪拌することでフロックが形成される所定期間に、時間を異ならせてフロックを撮像し、フロックの体積、面積または粒径の何れかで表わされるフロックサイズの和を画像毎に算出するとともに、算出した画像毎のフロックサイズの和から全画像におけるフロックサイズの総和または平均値を算出し、フロックサイズの総和または平均値と、対応する凝集剤の注入率水準とに基づいて、原水への凝集剤注入率を調整するものである。
【0047】
上述した例では各画像に含まれるフロックの全てを対象としてフロックサイズの総和または平均値を算出する例を説明したが、所定範囲の粒径のフロックについてフロックの体積、面積または粒径の何れかで表わされるフロックサイズの和を画像毎に算出するとともに、算出した画像毎のフロックサイズの和から全画像におけるフロックサイズの総和または平均値を算出し、フロックサイズの総和または平均値と、対応する凝集剤の注入率水準とに基づいて原水への凝集剤注入率を調整するように構成してもよい。
【0048】
フロックサイズとしてフロックの体積、面積、粒径の何れかを採用することができる。例えば、各画像に存在する各フロックの面積から各フロックが真円であると仮定した場合の径を求めることで、各フロックが真球であると仮定した場合の真球の体積、真球の断面積または表面積が求まり、それらの何れかによりフロックサイズが定義できる。所定範囲の粒径のフロックについてフロックサイズを加算することによりフロックサイズの和が求まる。そして、注入率水準毎の全ての画像に存在する所定範囲の粒径のフロックサイズの総和または平均値により、各注入率水準に対するフロックの形成状態を評価することができ、評価結果に基づいて原水への凝集剤注入率を調整することができる。
【0049】
所定範囲の粒径は、凝集剤を注入することにより生じる複数のフロックをその粒径を基準に複数のグループに分割し、平均粒径以上のグループの粒径範囲を所定範囲の粒径として採用することが好ましく、粒径が最大のグループの粒径範囲を所定範囲の粒径として採用することがより好ましい。
【0050】
上述した例では各画像に含まれるフロックの全てを対象としてフロックサイズの総和または平均値を算出する例を説明したが、各画像に含まれるフロックの粒度分布に基づいて全てのフロックの体積、面積または粒径の何れかで表わされるフロックサイズの和に対する所定範囲の粒度のフロックのフロックサイズの和の比率を画像毎に算出し、算出した画像毎の比率から全画像における比率または平均値を算出し、全画像における比率または平均値と、対応する凝集剤の注入率水準とに基づいて原水への凝集剤注入率を調整するように構成してもよい。
【0051】
所定時間毎に撮像した各画像から、画像に存在するフロックに対応する領域を抽出することができ、抽出した領域に基づいてフロックの粒度分布が得られる。例えば、各画像に存在する各フロックの面積から各フロックが真円であると仮定した場合の径を粒度として採用することができる。また各画像に存在する各フロックの面積を粒度と捉えることもできる。フロックサイズの定義は上述と同様に行なえばよい。
【0052】
例えば、各画像に存在する各フロックの面積から求まる各フロックが真円であると仮定した場合の径から各フロックが真球であると仮定した場合の真球の体積、真球の断面積または表面積、真球の粒径が求まり、それらの何れかによりフロックサイズが定義できる。算出した粒度分布に基づいて画像毎に所定範囲の粒度のフロックサイズの和の比率が得られ、画像毎の比率から得られる全画像における比率または平均値により、各注入率水準に対するフロックの形成状態を評価することができる。
【0053】
上述と同様に、所定範囲の粒径は、凝集剤を注入することにより生じる複数のフロックをその粒径を基準に複数のグループに分割し、平均粒径以上のグループの粒径範囲を所定範囲の粒径として採用することが好ましく、粒径が最大のグループの粒径範囲を所定範囲の粒径として採用することがより好ましい。
【0054】
図2(a)には、ある浄水場における原水を容器に取り出し、其々に異なる値の注入率(60mg/L,15mg/L)で凝集剤(硫酸バンド)を注入し、スターラで攪拌したときの特性が示されている。凝集剤(硫酸バンド)の注入後、約7分間、急速攪拌して原水と凝集剤を攪拌混合し、さらにその後約10分間、緩速攪拌した後に静置した場合に、上述した光源・撮像装置14で撮像された各画像から計数された粒子数の変遷が示されている。
【0055】
凝集剤の濃度が60mg/Lと十分に濃い場合には、急速攪拌によって原水と凝集剤は攪拌混合されることにより急速にフロックが形成される様子が示され、その後の緩速攪拌に伴ってフロック数は次第に低下し、静置状態ではフロックが沈殿する様子が確認された。凝集剤の濃度が15mg/Lと薄い場合には、急速攪拌によって原水と凝集剤は攪拌混合されることにより急速にフロックが形成されるものの、その後の緩速攪拌に伴ってフロック数はさほど大きく低下せず、また静置状態でもフロックが十分には沈殿しない現象が確認された。
【0056】
図2(b)には、凝集剤の注入率を異ならせて同様の処理を行なった場合に、静置によりフロックが沈殿した上澄みに対する粒子数と濁度の関係が示されている。凝集剤の種類にかかわらず、同様の傾向が表れることが確認され、粒子数を用いて上澄みの濁度を推定することができることが確認された。
【0057】
図2(c)には、ある浄水場から得られる原水に所定の注入率で凝集剤を注入し、急速攪拌(110rpm)、緩速攪拌(30rpm)、静置時のそれぞれに対して、上述した光源・撮像装置14で撮影された各画像から計数された粒子数、総体積の挙動が示されている。
【0058】
粒子数は急速攪拌過程で懸濁物と結合して上昇し、緩速攪拌過程で緩やかに減少し、静置過程で上澄みの粒子数が大きく低下する。総体積は急速攪拌過程から緩速攪拌過程で次第に増大し、静置過程で上澄みの粒子数が大きく低下することが確認された。
【0059】
図3(a)~(d)は、ある浄水場から得られる原水を複数の容器に取り出した各サンプルに其々凝集剤(硫酸バンド)を15mg/L、21mg/L、30mg/L、39mg/L、60mg/L注入し、急速攪拌したときの挙動が示されている。
図3(a)は検出粒子数の挙動、
図3(b)は検出粒子体積の挙動、
図3(c)は平均検出粒子体積の挙動、
図3(d)は平均検出粒子径の挙動が示されている。
【0060】
図4(a)には、急速攪拌時の凝集剤濃度に対する検出粒子の体積の総和特性及び粒子数の総和特性が示されている。検出粒子数の総和特性によれば、凝集剤注入率の上昇と共に検出粒子数の総和が単調増加するため、最適の凝集剤注入率を求めることは困難であるが、検出粒子の体積の総和特性によれば、凝集剤の注入率が39mg/Lで検出粒子の体積が最大を示していることが把握できる。
【0061】
図4(b)には、急速攪拌時の凝集剤濃度に対する粒径毎の検出粒子数特性及び粒子数総和特性が示されている。
図4(a)の検出粒子数の総和特性と同様に、凝集剤注入率の上昇と共に微小粒子(0.1mm以下)では検出粒子数の総和が単調増加するため、最適の凝集剤注入率を求めることは困難であり、その他の粒径の粒子では殆ど差が見出せない。
【0062】
図4(c)には、急速攪拌時の凝集剤濃度に対する検出粒子の粒径毎の体積の総和特性が示されている。粒径が最大のグループ(0.4-1.0mm)の特性や、粒径が第2の大きさのグループ(0.3-0.4mm)の特性に基づけば、凝集剤の注入率が39mg/Lでフロックサイズの総和がピークを示していることが把握できる。
【0063】
図5(a)には、急速攪拌時の凝集剤濃度に対する検出粒子の体積比率特性が示されている。値が高いほどフロックサイズの和の比率が高い粒径であることが示されている。この図では、凝集剤濃度が低い領域を除いて、粒径が最大のグループ(0.4-1.0mm)の体積比率が他の粒径のグループの体積比率より高くなる。凝集剤濃度が低い領域や高すぎる領域ではフロックの成長が期待できないが、適切な凝集剤濃度を中心に上に凸となる特性が得られる。このような特性に基づいて体積比率が高くなる凝集剤濃度を最適の凝集剤注入率として設定することができる。
【0064】
図5(b)には、急速攪拌時の凝集剤濃度に対する検出粒子の粒子数比率特性が示されている。粒子数比率に着目すると、フロックの成長により粒子数が減少するため、最適な凝集剤濃度を特定するのは困難であることが判る。
【0065】
図5(c)には、急速攪拌の後に、緩速攪拌を経て静置状態となった各サンプルの上澄みに対する濁度と、対応するサンプルの凝集剤の注入率の関係が示されている。凝集剤の注入率が39mg/Lのときに濁度が最小値となり、
図4(a)の検出粒子の体積の総和、
図4(c)の検出粒子の粒径毎の体積の総和が最大値となる凝集剤の注入率と一致する。
【0066】
以上より、フロックの体積、面積または粒径の何れかで表わされるフロックサイズの和を画像毎に算出するとともに、算出した画像毎のフロックサイズの和から求まる全画像におけるフロックサイズの総和または平均値に基づいて、原水への適切な凝集剤注入率を求めることができることが理解できる。
【0067】
また、所定範囲の粒径のフロックについてフロックの体積または面積の何れかで表わされるフロックサイズの和を画像毎に算出するとともに、算出した画像毎のフロックサイズの和から全画像におけるフロックサイズの総和または平均値に基づいて、原水への適切な凝集剤注入率を求めることも可能になる。
【0068】
さらに、所定範囲の粒径のフロックについてフロックサイズの総和または平均値に基づいて、原水への凝集剤注入率を調整することが適切に行えることが判る。さらに、フロックの粒度分布に基づいて全てのフロックの体積、面積または粒径の何れかで表わされるフロックサイズの和に対する所定範囲の粒度のフロックのフロックサイズの和の比率から、原水への適切な凝集剤注入率を求めることも可能になる。
【0069】
上述した実施形態では、凝集剤の注入率水準毎に容器12を準備する例を説明したが、原水の供給と排水を切替可能な単一の容器を用いて連続的に光源・撮像装置によりフロックを撮影可能に構成してもよい。例えば、容器に所定量の原水を注入するとともに所定の注入率で凝集剤を注入して、容器を急速攪拌して光源・撮像装置によりフロックを所定時間毎に撮像した後に、原水を容器から排水するという一連の処理を繰り返すように設備を構築してもよい。
【0070】
上述した実施形態では、実際に稼働している装置から原水を取り出して槽外で凝集剤の最適な注入率を算出する例を説明したが、実際に稼働しているフロック形成池の内部であってフロックの形成過程が観察される複数の位置に光源・撮像装置を設置して、その其々の撮影画像に基づいて凝集剤の最適な注入率を算出するとともに、制御装置9により薬剤注入装置3を制御するように構成してもよい。この場合、光源・撮像装置をフロック形成池の上流から下流に沿って複数設置することで、見かけ上の時間差を設定できるので、複数台の光源・撮像装置により同時に撮像した画像を時間差のある画像として処理できる。
【0071】
以上の説明は、本発明による凝集剤注入方法の一例であり、各工程の具体的な態様は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計することが可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0072】
1:浄水場
2:着水井
3:薬剤注入装置
4:混和池
5:フロック形成池
6:排泥設備
7:沈殿池
8:取出設備
9:制御装置
10:濁度管理システム
11:注入率算出装置
12:容器
13:スターラ
14:光源・撮像装置
15:画像処理装置