(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161246
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】耐水性吸放湿シート、耐水性吸放湿シートの製造方法および該耐水性吸放湿シートを構成材料とする吸放湿用または潜熱交換用の素子
(51)【国際特許分類】
B01D 53/28 20060101AFI20221014BHJP
F24F 7/08 20060101ALI20221014BHJP
B01D 53/26 20060101ALI20221014BHJP
B01J 20/24 20060101ALI20221014BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
B01D53/28
F24F7/08 101
B01D53/26 230
B01J20/24 A
B01J20/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065907
(22)【出願日】2021-04-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】丹後 佑斗
【テーマコード(参考)】
4D052
4G066
【Fターム(参考)】
4D052AA08
4D052CE00
4D052HA27
4D052HB05
4G066AC17B
4G066AC27B
4G066AC35B
4G066BA03
4G066BA38
4G066CA43
4G066DA03
4G066EA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】結露等に接しても低い透気度を維持できる耐水性吸放湿シートを提供する。
【解決手段】カルボキシル基を有する吸湿性樹脂粒子およびバインダー成分を含有するシート状成型物に、カチオン性ポリマーと架橋剤を含むネットワークポリマーが複合している耐水性吸放湿シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する吸湿性樹脂粒子およびバインダー成分を含有するシート状成型物に、カチオン性ポリマーと架橋剤を含むネットワークポリマーが複合している耐水性吸放湿シート。
【請求項2】
シート状成型物が、基材を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の耐水性吸放湿シート。
【請求項3】
透湿度が3000g/m2・day以上であり、なおかつ20℃の水に5分間浸漬させ、その後120℃30分乾燥させた後の透気度が5ml/(m2・Pa・s)以下であることを特徴とする請求項2に記載の耐水性吸放湿シート。
【請求項4】
カルボキシル基を有する吸湿性樹脂粒子が、カルボキシル基を3~10mmol/g有するものであることを特徴とした請求項1~3のいずれかに記載の耐水性吸放湿シート。
【請求項5】
カルボキシル基を有する吸湿性樹脂粒子、カチオン性ポリマーおよび架橋剤の含有量が、それぞれ40~70g/m2、4~40g/m2および0.3~3g/m2であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の耐水性吸放湿シート。
【請求項6】
カチオン性ポリマーが1級または2級アミンを有した多官能ポリアミンであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の耐水性吸放湿シート。
【請求項7】
架橋剤が2個以上のエポキシ基を有したものであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の耐水性吸放湿シート。
【請求項8】
カルボキシル基を有する吸湿性樹脂粒子およびバインダー成分を含有するシート状成型物に、カチオン性ポリマーと架橋剤を含有する塗工液を含浸させ、乾燥、反応させる工程を含むことを特徴とする耐水性吸放湿シートの製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の耐水性吸放湿シートを構成材料とする吸放湿用または潜熱交換用の素子。
【請求項10】
請求項9に記載の素子を用いた換気空調用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐水性吸放湿シート、耐水性吸放湿シートの製造方法および該耐水性吸放湿シートを構成材料とする吸放湿用または潜熱交換用の素子に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、デシカント空調システムの利用法の一つとして、車内等での換気を伴わない除湿システムとしての利用法がある。これは気温の低い冬季等に車内の換気を実施すると、湿度低下とともに車内気温が低下するため再度車内の気温を上昇させるためのエネルギーを使用しなければならない一方、該除湿システムでは温度一定のまま除湿を実施できることからエネルギー的に有利である。この種のデシカント空調システムには、透湿性がある一方、密閉性に優れた透湿紙が必要不可欠であり、これに好適である従来技術は、特許文献1及び2に記載されている。
【0003】
また、これらのデシカント空調システムでは、特許文献1では塩化リチウム、特許文献2では高分子収着剤がそれぞれ収着剤として利用されている。特に有機高分子系収着剤は塩化リチウムに比べ吸放湿速度、量ともに優れているため、塩化リチウムよりも好適に利用される。
【0004】
しかし、有機高分子系収着剤は吸水することによって膨潤する特性を有しており、例えば該収着剤を基材紙に塗工した透湿紙に結露等の水分が付着した際、徐々に収着剤成分が剥離し、該除湿システムに必要な密閉性を欠いた透湿紙となってしまう。かかる問題に対し、特許文献3では収着剤を含有する塗工液にウレタン等のカチオン性ポリマーを添加することにより、吸湿時のひび割れや剥離を防ぐことに成功しているものの、結露水等の付着を想定した対策は実施されておらず、耐水性の点において不十分である。また、ここでいう耐水性とは、結露や雨の侵入等によって吸放湿シートに水が付着した際に本来有している低通気度、高透湿性を著しく損なうことのない性能のことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/180834号公報
【特許文献2】国際公開第2015/111610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みて創案されたものであり、その目的は結露、雨の侵入等によって、本来有している低通気度、高透湿性を著しく損なうことのない耐水性吸放湿シートおよびその製造方法並びに該耐水性吸放湿シートを構成材料とする吸放湿用または潜熱交換用の素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、吸湿性樹脂粒子を含む塗工液によって作製された吸放湿シートにさらにカチオン性ポリマー、架橋剤で構成される塗工液を塗布することにより、ポリマー同士の強固なイオン結合、さらには架橋剤による共有結合を形成することにより耐水性を獲得し、同時に本来の高透湿性を失わない耐水性吸放湿シートが作製できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明は以下の手段により達成される。
(1)カルボキシル基を有する吸湿性樹脂粒子およびバインダー成分を含有するシート状成型物に、カチオン性ポリマーと架橋剤を含むネットワークポリマーが複合している耐水性吸放湿シート。
(2)シート状成型物が、基材を含むものであることを特徴とする(1)に記載の耐水性吸放湿シート。
(3)透湿度が3000g/m2・day以上であり、なおかつ20℃の水に5分間浸漬させ、その後120℃30分乾燥させた後の透気度が5ml/(m2・Pa・s)以下であることを特徴とする(2)に記載の耐水性吸放湿シート。
(4)カルボキシル基を有する吸湿性樹脂粒子が、カルボキシル基を3~10mmol/g有するものであることを特徴とした(1)~(3)のいずれかに記載の耐水性吸放湿シート。
(5)カルボキシル基を有する吸湿性樹脂粒子、カチオン性ポリマーおよび架橋剤の含有量が、それぞれ40~70g/m2、4~40g/m2および0.3~3g/m2であることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の耐水性吸放湿シート。
(6)カチオン性ポリマーが1級または2級アミンを有した多官能ポリアミンであることを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の耐水性吸放湿シート。
(7)架橋剤が2個以上のエポキシ基を有したものであることを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の耐水性吸放湿シート。
(8)カルボキシル基を有する吸湿性樹脂粒子およびバインダー成分を含有するシート状成型物に、カチオン性ポリマーと架橋剤を含有する塗工液を含浸させ、乾燥、反応させる工程を含むことを特徴とする耐水性吸放湿シートの製造方法。
(9)(1)~(7)のいずれかに記載の耐水性吸放湿シートを構成材料とする吸放湿用または潜熱交換用の素子。
(10)(9)に記載の素子を用いた換気空調用システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の耐水性吸放湿シートは、耐水性が高く水に浸漬させた後にも低い通気度を有しており、なおかつ十分な透湿性を有する。かかる性能を有する本発明の耐水性吸放湿シートは、例えば結露が発生しやすく、空調システムサイズが厳しく限定されるために高透湿性が要求される車載用換気空調システムの潜熱交換用素子に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の潜熱交換素子の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明に採用する吸湿性樹脂粒子は、分子内にカルボキシル基を含むものである。かかるカルボキシル基は、空気中の水分を吸着する特性を有している。また、カルボキシル基は塩型であることが好ましく、対をなすカチオンとしては、例えばLi、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属、Be、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属、NH4、アミン等の有機カチオン類を挙げることができる。なかでも吸放湿速度の観点からアルカリ金属やアルカリ土類金属のカチオンであることが好ましい。
【0012】
カルボキシル基量としては、好ましくは3~10mmol/g、より好ましくは5~8mmol/gである。カルボキシル基が3mmol/g未満の場合には十分な吸放湿性能が得られないことがあり、10mmol/gを超える場合には吸湿性樹脂粒子が吸水し大きく膨潤したゲル状態になり、耐水性が不十分となる。ここでのカルボキシル基量は、該樹脂粒子のカルボキシル基を全て酸型としたときの粒子重量に対するカルボキシル基のモル量を表すものである。
【0013】
また、本発明に採用する吸湿性樹脂粒子は、架橋構造を有するものであることが好ましい。かかる架橋構造は、吸湿、あるいは吸水した際に起こる粒子の膨潤を低減するものである。かかる架橋構造としては、吸湿、放湿によって物理的、化学的に変性をうけない限りは特に限定はなく、共有結合による架橋、イオン架橋、ポリマー分子間相互作用または結晶構造による架橋等いずれの構造のものでもよい。中でも、強固で安定という観点から共有結合による架橋構造が最も好ましい。
【0014】
さらに、吸湿性樹脂粒子は良好な造膜性を有していることが好ましく、そのためには吸湿性樹脂粒子の中心部付近に多くの架橋構造を有し、表層部において上述の架橋構造をほとんど持たない構造であることが好ましい。かかる構造については、粒子表層部にあるポリマー鎖は、水中等においてカルボキシル基が解離した際に、カルボン酸イオンの電気的な反発により大きく広がり粒子径も大きくなる。すなわち、三次元にポリマー鎖を広げることが可能となることで、吸湿性樹脂粒子間でのポリマー鎖の絡み合いが強固となり、このため良好な造膜性を発現しやすくなると考えられる。
【0015】
このような良好な造膜性を有する吸湿性樹脂粒子としては、例えば、国際公開第2015/111610号公報に開示されているような吸湿性ポリマー粒子、すなわち、カルボキシル基と架橋構造を持ち、該カルボキシル基を全て酸型にした際のカルボキシル基量が3~10mmol/gであり、かつ、造膜性を有するポリマー粒子であって、該粒子を10重量%の含有率となるように水分散させた時の粘度が500mPa・s以下であることを特徴とする吸湿性ポリマー粒子があげられる。
【0016】
さらに、かかる吸湿性ポリマー粒子は、水分散させた時の粒子径が、粒子中のカルボキシル基を全て酸型としてから水分散させた時の粒子径の4倍以上であることが望ましい。また、かかる吸湿性ポリマー粒子は、架橋モノマーを含む第1のモノマー群の重合を行い、次いで、架橋モノマーを含まず、かつ加水分解によってカルボキシル基に変換可能な官能基を有するモノマーを含む第2のモノマー群を添加して重合を行うことによって得られた粒子を、加水分解することにより得ることができる。
【0017】
本発明においてバインダー成分は、後述する複数のエポキシ基を有した架橋剤や、吸湿性樹脂粒子どうしの密着性を向上させるためのポリマー樹脂などの総称であり、1種類のみ利用してもよいし、複数種を利用することもできる。ここで、このポリマー樹脂としては、吸湿性樹脂粒子の乾燥時の収縮と湿潤時の膨潤に対する体積変化に追随できるものが好ましく、かかる観点からガラス転移点が50℃以下であるものが好ましい。このようなポリマー樹脂としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられ、中でも密着性、透湿性に優れ、後述する塗工液中での分散性の良好な水系ウレタン樹脂が好ましい。
【0018】
バインダー成分の割合は吸湿性樹脂粒子100重量部に対し、架橋剤であれば1~10重量部、ポリマー樹脂であれば10~50重量部であることが好ましい。架橋剤の割合が多すぎると後述する塗工液を調合した際、短時間で固化するために塗工液寿命が短くなり、ハンドリング性の悪化を招くため望ましくない。また割合が少なすぎると吸湿性樹脂粒子に十分な架橋を付与できず耐水性が悪化する。またポリマー樹脂の割合が多すぎると吸湿性樹脂粒子を覆うポリマー樹脂割合が多くなってしまい、吸放湿シートの透湿性低下を引き起こす場合があり、少なすぎると耐水性の悪化が懸念されるため好ましくない。
【0019】
本発明におけるシート状成型物は、上述の吸湿性樹脂粒子およびバインダー成分を含有した薄膜状の成形物である。このシート状成型物は後述のような基材と吸湿性樹脂粒子、バインダー成分等によって構成されていてもよいし、基材を含まないものでもよい。また、本発明の効果を発現できる限り、吸湿性樹脂粒子、バインダー成分および基材以外の成分を含んでいてもよい。
【0020】
本発明に採用するカチオン性ポリマーは分子中に少なくとも1つ以上の1級アミノ基または2級アミノ基を有し、水溶液中においてポリマー鎖がイオン化することでプラスに帯電することのできるポリマーである。このカチオン性ポリマーは単位重量あたりに含まれるカチオン性基が多いほど吸湿性樹脂粒子との架橋点を形成することができ、工業的に好ましく、さらに分子量が大きいほど耐水性が向上するため好ましい。
【0021】
本発明に採用するカチオン性ポリマーは特に1級または2級アミノ基を有した多官能ポリアミンであることが好ましい。該ポリマーは本発明においては吸湿性樹脂粒子とのイオン結合の形成、さらには架橋剤との共有結合形成による耐水性向上の役割を担っているが、カチオン性基が3級アミノ基または4級アンモニウム基である場合、架橋剤との共有結合が著しく形成しづらくなり、好ましくない。また単官能ポリアミンである場合、吸湿性樹脂粒子とのイオン結合が該ポリマーの一か所でしか形成されず、耐水性向上が見込めないため好ましくない。
【0022】
かかるカチオン性ポリマーとしては、例えばポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ポリジメチルジアリルアンモニウムクロリド等を挙げることができる。なかでもポリエチレンイミンは単位重量当たりのアミノ基量が多く、好適に吸湿性樹脂粒子との後述するネットワークポリマーを形成でき、さらに比較的高分子量品が市販されているため好ましい。
【0023】
上述したバインダー成分として使用することのできる架橋剤、あるいは上述したカチオン性ポリマーと併用して使用することのできる架橋剤としては、特に限定されるものではないが、2個以上のエポキシ基を有したものであることが好ましい。これは吸湿性樹脂粒子の有するカルボキシル基、さらにカチオン性ポリマーの有するカチオン性基のどちらとも反応性が富んでいるためである。具体的な化合物としてはグリセロールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0024】
また、本発明におけるネットワークポリマーとは、前述したカチオン性ポリマーが架橋剤によって結合されているポリマーを指しており、非常に強固に架橋を形成し、耐水性の向上に寄与しているものである。またネットワークポリマーと吸湿性樹脂粒子は架橋剤によって共有結合を形成し、なおかつ相互にイオン結合を形成していることが耐水性向上の点から好ましい。またこの際、吸湿性樹脂粒子、カチオン性ポリマー、架橋剤の使用割合を調整することにより、本発明の耐水性吸放湿シートになくてはならない透湿性を保有させることが可能である。
【0025】
また、本発明の耐水性吸放湿シートが後述する性能を達成するためには、吸放湿シート中の吸湿性樹脂粒子、カチオン性ポリマー、架橋剤(上述のバインダー成分としての架橋剤を除く)の含有量はそれぞれ40~70g/m2、4~40g/m2、および0.3~3g/m2であることが好ましい。吸湿性樹脂粒子の含有量40g/m2未満である場合、十分な吸湿性を保有できず、好ましくない。また70g/m2より多い場合、基材シートに対する樹脂粒子の量が多すぎ、耐水性が低下する恐れがある。また、カチオン性ポリマーの含有量が4g/m2未満である場合、前述したネットワークポリマーが形成できず、耐水性が低下するため好ましくない。また、カチオン性ポリマーが40g/m2より多い場合、ネットワークポリマーを形成出来ないカチオン性ポリマーが少なからず存在し、これも耐水性低下の原因となるため好ましくない。さらに架橋剤の含有量が0.3g/m2未満である場合、前述したネットワークポリマーが十分に形成できず好ましくない。また3g/m2より多い場合、前述のバインダー成分として使用する場合と同様に吸放湿シートを作製する際の塗工液寿命が短くなってしまうため、好ましくない。
【0026】
本発明に採用する基材としては、特に限定されるものではないが一般的に使用されるセルロースや、特殊紙用途で使用されるガラス繊維等を原材料として用いた紙や、PET、ウレタン等の合成樹脂によって作製されたフィルム等を使用することができる。また、上述の基材は透湿性を保有させる観点から、連通孔を有していることが好適であり、さらに、かかる連通孔は、吸湿性樹脂粒子を基材内部にまで多く浸透できるような大きさや数であることが好ましい。
【0027】
なお、本発明の耐水性吸放湿シートにおいては、本発明の効果を発現できる限り、上述した各成分以外の成分を含んでいてもよい。
【0028】
また、本発明の耐水性吸放湿シートは後述する方法によって測定した水浸漬後の透気度が5ml/(m2・Pa・s)以下であり、なおかつ後述する方法によって測定した透湿度が3000g/m2・day以上であれば好ましく、さらには4000g/m2・day以上であればより好ましい。透気度が5ml/(m2・Pa・s)より高い場合、水への浸漬によって吸放湿シートに欠陥が生じ、一定量の気体が吸放湿シートを透過していることを示しており、これに伴い熱エネルギーのロスが多く発生してしまうため好ましくない。さらに透湿度が3000g/m2・day未満である場合、大型の換気空調用システムの構成材料としては使用可能な見込みがあるものの、車載用のような小型のものに対してはシステムサイズの制限から使用できる吸放湿シートの面積も制限され、求められる性能を満たせなくなる恐れがあるため好ましくない。
【0029】
次に上述してきた本発明の耐水性吸放湿シートの作製方法の一例を示す。この例は、基材を用いる事例であり、上述した基材に吸湿性樹脂粒子およびバインダー成分を含む塗工液を塗工してシート状成型物を作製した後、カチオン性ポリマーと架橋剤を含む塗工液を塗工する作製方法である。以下にかかる作製方法について詳述する。
【0030】
まず、吸湿性樹脂粒子含有塗工液(塗工液1)を作製する。塗工液1には吸湿性樹脂粒子のほかにバインダー成分としてエポキシ系架橋剤、ウレタン系バインダーなどを使用できる。さらにこの際、エポキシ系架橋剤の反応性をさらに向上させるために酸性化合物を添加してもよい。その際に加える酸性化合物は塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸でもよいし、ポリアクリル酸系の酸性ポリマーでもよい。
【0031】
これら薬剤を混合して作製した塗工液1を上述の基材に塗工し、乾燥を実施することでシート状成型物を得る。塗工方法としては、塗布、浸漬、噴霧などの方法を採用できる。また、乾燥条件については特に限定されないが、水分を効率よく蒸発させ、さらに架橋反応を有効に進行させるため100℃以上であることが好ましい。
【0032】
次に、カチオン性ポリマーと架橋剤を含有した塗工液(塗工液2)を作製する。この際、カチオン性ポリマーに含まれるカチオン性基の中和度が重要であり、中和度が上昇すると架橋剤との反応が起こりづらくなるものの、吸湿性樹脂粒子とのイオン結合を形成しやすくなり、より耐水性の高い吸放湿シートを作製するのに有利となる。ここでいう中和度は、カチオン性基がどの程度中和されているかを示しており、例えば1級アミノ基を塩酸で中和する場合、すべての1級アミノ基がNH2型になっていれば中和度は0%、すべての1級アミノ基がNH3
+Cl-型になっていれば中和度100%と表現される。上記のような耐水性向上に有利な状況とするには、カチオン性基の中和度が0%~50%であることが好ましい。
【0033】
また、上記の中和度の調節は塗工液への酸性化合物の添加によって可能である。かかる酸性化合物としては特に限定されるものではないが、塩酸、硝酸、硫酸などの一般的な無機酸を使用することもでき、さらに酢酸、プロピオン酸、マロン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸などの有機酸を使用することもできる。
【0034】
また、塗工液2に添加する架橋剤はカチオン性ポリマーに対し、5~30重量%程度であることが好ましく、上述のような2個以上のエポキシ基を有したものであることが好ましい。
【0035】
また、塗工液2は水溶液、または親水性有機溶媒を少量含んだ水溶液であることが好ましい。塗工液2が上述したシート状成型物に浸透していく過程において塗工液2に含まれているカチオン性ポリマーと吸湿性樹脂粒子の間でイオン性架橋が導入され、塗膜の強度が向上する。この過程において、塗工液2に多量の親水性有機溶媒が含まれていると、塗膜への塗工液2の浸透が十分になされず、塗膜表面のみでイオン性の架橋を導入するにとどまるため、十分な塗膜の耐水性が得られなくなることがある。一方で、親水性有機溶媒を塗工液2に含ませることによって吸湿性樹脂粒子の膨潤低減による脱落防止が期待される。これらのことを踏まえると、塗工液2において親水性有機溶媒を使用する場合、その量は塗工液2の重量の0.1~50重量%の範囲であることが好ましい。
【0036】
上述した塗工液2をシート状成型物に塗工、乾燥し本発明の耐水性吸放湿シートを得る。塗工液の塗工量の調節に関しては、特に限定されるものではないが、塗工液2の粘度をあらかじめPVA等の増粘剤を用いて調整することもできるし、ローラー等の機械を用いて塗工液を絞り、塗工量を調節することもできる。また、この際の乾燥温度に関しては上述の塗工液1の乾燥と同様の理由から100℃以上であることが好ましい。
【0037】
なお、上述のように、塗工液1と塗工液2を別々に塗工している理由は、それぞれの塗工液に含まれる吸湿性樹脂粒子およびカチオン性ポリマーが塗工液中で接触すると即座にイオン性の架橋構造を形成し、凝集する点にある。また、pHを調節することで吸湿性樹脂粒子とカチオン性ポリマーを同一の塗工液中で凝集させずに存在させることが可能であるものの、この場合ネットワークポリマーを十分に形成せず、耐水性が著しく低下するため好ましくない。また、塗工液1および塗工液2においては、本発明の効果を得られる限り、上述した成分以外の成分を含有していてもよい。
【0038】
上述してきた本発明の耐水性吸放湿シートは、高い透湿性と低い通気度を両立するものであり、さらに、水濡れ後においても、これらの性能を維持できるものである。このため、本発明の耐水性吸放湿シートは、吸放湿用または潜熱交換用の素子の構成材料として好適に使用できるものである。かかる吸放湿用または潜熱交換用の素子としては、特に限定されるものではないが、上述の耐水性吸放湿シートを積層させることによって作製されるものが好ましい。積層形態を採用することにより、吸放湿や潜熱交換の対象となる空気との接触面積を広くとることができ、また圧力損失も低く抑えることができるような成形も可能であり実用的に有利である。かかる積層形態としては、例えば
図1に示すような波型シートと平板上の本発明の耐水性吸放湿シートからなるコルゲート紙を直交するように交互に積層させて空気流路を設けた構造としても良いし、
図1における波型シートの代わりに、プラスチックなどの棒状部材を、間隔を空けて複数本配置して空気流路を設ける形とした構造としてもよい。
【0039】
本発明における耐水性吸放湿シートまたは潜熱交換用素子の使用例としては、特に限定されるものではないが、換気用空調システムに利用できる。
【実施例0040】
以下に本発明の理解を容易にするために実施例を示すが、これらはあくまで例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。
【0041】
<カルボキシル基量の評価方法>
十分乾燥した試料1gを精秤し(X[g])、これに200mlの水を加えた後、50℃に加温しながら1N塩酸水溶液を添加してpH2とすることで、試料に含まれるカルボキシル基を全て酸型カルボキシル基とし、次いで0.1NNaOH水溶液で常法に従って滴定曲線を求めた。該滴定曲線から酸型カルボキシル基に消費されたNaOH水溶液消費量(Y[ml])を求め、次式によって試料中に含まれるカルボキシル基量を算出した。
カルボキシル基量[mmol/g]=0.1Y/X
【0042】
<透気度の評価方法>
試料シートをPorous Materials,Inc製「Envelope Surface Area Analyzer」の気体透過性試験モードを使用し、試料シートに窒素ガスを流し、試料シートを通過するガスの流速を測定した。かかる測定は上記試験モードに従い圧力を変化させて複数回行われ、得られた結果の中央値から試料シートの透気度[ml/(m2・Pa・s)]を求めた。この値が低いほどシートの通気性は低いと判断できる。
【0043】
<水浸漬後の透気度の評価方法>
5cm×7.5cmのサイズにした試料シートを用意し、これを縦9.5cm、横6.5cm、深さ1.3cmのプラスチック製バットに入れ、試料シートが十分に浸漬する程度に20℃の蒸留水をゆっくりと加えた。5分経過後試料シートを慎重に取り出し、120℃乾燥機にて30分乾燥させた。その後、上記透気度の評価方法と同様の方法にて水浸漬後の透気度を測定した。
【0044】
<透湿度の評価方法>
試料シートに関して、透湿度測定機(システックイリノイ社製:Lessy L80-5000)にて40℃90%RH条件下で測定した。
【0045】
<塗工液2におけるカチオン性ポリマーの中和度の計算方法>
中和度は、塗工液2の作成に用いたカチオン性ポリマーに含まれるカチオン性基のmol数Aと該カチオン性基の価数B、および酸性化合物から発生するアニオンのmol数Cと該アニオンの価数Dを用いて次式により算出する。
中和度[%]={(C×D)/(A×B)}×100
【0046】
<カルボキシル基を有する吸湿性樹脂粒子、カチオン性ポリマーおよび架橋剤の含有量>
1.吸湿性樹脂粒子の含有量
塗工液1の固形分中の吸湿性樹脂粒子の重量割合をa[%]、基材となるシートに塗工液1を含浸、乾燥した前後での単位面積当たりの重量増加量をW1[g/m2]として、下式によって計算した。
吸湿性樹脂粒子の含有量[g/m2]=W1×a/100
2.カチオン性ポリマー、架橋剤の含有量
塗工液2の固形分中のカチオン性ポリマーの重量割合をb[%]、架橋剤の重量割合をc[%]とし、塗工液2を含浸、乾燥した前後での単位面積当たりの重量増加量をW2[g/m2]として、下式によって計算した。
カチオン性ポリマーの含有量[g/m2]=W2×b/100
架橋剤の含有量[g/m2]=W2×c/100
【0047】
[実施例1]
吸湿性樹脂粒子として、国際公開第2015/111610号公報の実施例1に開示されている吸湿性ポリマー粒子水分散体を固形分換算で100重量部を用い、これに対して、酸性化合物としてポリアクリル酸水溶液を固形分換算で1重量部、バインダー成分としてウレタン樹脂の水分散体であるスーパーフレックス500M(第一工業製薬社製)を固形分換算で30重量部、同じくバインダー成分としてエチレングリコールジグリシジルエーテル(以下、EGDGEともいう)を5重量部混合し、塗工液1を調合した。これを目付25[g/m2]、透気度5800[ml/(m2・Pa・s)]のガラス繊維を主成分とする多孔質シートに含浸塗工後乾燥させ、塗工液乾燥物の担持量が65g/m2であるシート状成型物を得た。次に、カチオン性ポリマーとしてポリエチレンイミン P-1000(日本触媒製、重量平均分子量70000)200重量部、中和度調整のための酸性化合物として1N HClを373重量部、架橋剤としてEGDGEを1重量部混合させ、塗工液2を調合した。これを上記シート状成型物に含浸塗工し、乾燥させることによって、耐水性吸放湿シートを作製した。各種評価結果を表1に示した。
【0048】
なお、上記の吸湿性ポリマー粒子水分散体は以下のようにして作製することができる。すなわち、反応槽に水440重量部とエレミノールMON-7(三洋化成工業社製)4重量部、更にメタクリル酸メチル3重量部、ジビニルベンゼン15重量部からなるモノマー群1を入れ、60℃に昇温する。次に、同反応槽にアクリル酸メチル196重量部、メタクリル酸2重量部からなるモノマー群2と1.3重量%ピロ亜硫酸ナトリウム水溶液70重量部及び、1.5重量%過硫酸アンモニウム水溶液70重量部を2時間かけて添加し、重合を行い、吸湿性ポリマー粒子の前駆体エマルジョンを得る。得られた前駆体エマルジョンの固形分100重量部に対し、水酸化カリウム38重量部、水782重量部を加え、90℃で16時間加熱し、加水分解反応を実施して吸湿性ポリマー粒子の水分散体を得る。かかる吸湿性ポリマー粒子の平均粒子径は930nmであり、カルボキシル基を全て酸型にしたものでは120nmとなり、粒子膨潤倍率は7.8である。また、10重量%水分散体での粘度は200mPa・sであり、造膜性も良好である。
【0049】
[実施例2、3]
実施例1において、塗工液2のEGDGEの量を、実施例2では0.5重量部、実施例3では2重量部とすること以外は同様の方法にて耐水性吸放湿シートを作製した。各種評価結果を表1に示した。なお、実施例3については、塗工液2の可使時間が短くなる傾向が見られた。
【0050】
[実施例4、5]
実施例1において、塗工液2のポリエチレンイミンP-1000の量を、実施例4では280重量部、実施例5では160重量部とすること以外は同様の方法にて耐水性吸放湿シートを作製した。各種評価結果を表1に示した。
【0051】
[実施例6、7]
実施例1において、塗工液の1N HCl 373重量部を、実施例6では水373重量部に、実施例7では2N HCl 373重量部に変更すること以外は同様の方法にて耐水性吸放湿シートを作製した。各種評価結果を表1に示した。
【0052】
[実施例8、9]
実施例1において、塗工液2のポリエチレンイミン P-1000 200重量部および1N HCl 373重量部を、実施例8では、ポリアリルアミン PAA-01(ニットーボーメディカル製、固形分15%、重量平均分子量1600)400重量部および2.16N HCl 173重量部に、実施例9では、ポリアリルアミン PAA-15C(ニットーボーメディカル製、固形分15%、重量平均分子量15000)400重量部および2.16N HCl 173重量部に変更すること以外は同様の方法にて耐水性吸放湿シートを作製した。各種評価結果を表1に示した。
【0053】
[比較例1]
実施例1において得られた、塗工液2を塗布乾燥していないシート状成型物について、各種評価を実施した結果を表1に示した。
【0054】
[比較例2]
実施例1において、塗工液2にEGDGEを添加しなかったこと以外は同様の方法にて吸放湿シートを作製した。各種評価結果を表1に示した。
【0055】
[比較例3]
実施例1において、塗工液2にポリエチレンイミン P-1000を添加しなかったこと以外は同様の方法にて吸放湿シートを作製した。各種評価結果を表1に示した。
【0056】
【0057】
表1に示したようにカチオン性ポリマーおよび架橋剤の両者あるいはいずれかを含まない塗工液2を用いた比較例1~3の各シートは、透湿度は高いものの、水浸漬前の透気度に対して水浸漬後の透気度が急激に上昇しており、耐水性が低いことがうかがえる。その一方、実施例2等に示すシートは透湿度が3000g/m2・day以上であり、かつ、水浸漬後の透気度も5ml/(m2・Pa・s)以下であるため、十分に高い耐水性を有した吸放湿シートであるといえる。