(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161270
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 8/12 20060101AFI20221014BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20221014BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20221014BHJP
C22C 38/60 20060101ALN20221014BHJP
【FI】
C21D8/12 D
H01F1/147 175
C22C38/00 303U
C22C38/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065945
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】渥美 春彦
(72)【発明者】
【氏名】平山 貴啓
【テーマコード(参考)】
4K033
5E041
【Fターム(参考)】
4K033AA02
4K033BA01
4K033BA02
4K033CA01
4K033CA02
4K033CA03
4K033CA04
4K033CA07
4K033CA08
4K033CA09
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4K033DA02
4K033FA00
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4K033FA14
4K033GA00
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4K033MA00
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4K033PA05
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4K033RA10
4K033SA01
4K033SA02
4K033SA03
4K033TA05
4K033TA06
5E041AA02
5E041AA19
5E041BC01
5E041BD10
5E041CA01
5E041HB11
5E041NN01
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】Biを含有するスラブを用いた高温スラブ加熱プロセスを前提とし、曲率の異なるコイル内外周でのGoss方位への方位集積度の差が小さく、高い磁束密度を有する方向性電磁鋼板の製造方法を提供すること。
【解決手段】所定の化学組成を有する冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を行って脱炭焼鈍鋼板とする脱炭焼鈍工程を含み、前記脱炭焼鈍工程は、加熱部が、圧延方向に対し30~150°をなす方向に延在し、前記圧延方向に5~30mmの間隔で位置する複数の線状になるように、前記冷延鋼板の表面を非酸化雰囲気にて所定の条件を満足するレーザビームの照射によって加熱する局所加熱過程と、前記局所加熱過程後の前記冷延鋼板を、非酸化雰囲気にて450℃以下の温度域から脱炭焼鈍温度である750~950℃の温度域まで、80℃/秒以上の平均加熱速度で昇温する昇温過程と、を含む方向性電磁鋼板の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.01~0.20%、Si:2.0~4.5%、Mn:0.01~0.30%、S:0.01~0.05%、sol.Al:0.01~0.05%、N:0.001~0.020%、Bi:0.001~0.020%、Cr:0~0.50%、Cu:0~0.50%、Ni:0~0.50%、Se:0~0.030%、Sn:0~0.50%、Sb:0~0.15%、Mo:0~0.20%、P:0~0.15%、およびV:0~0.15%、を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有するスラブを、1280℃以上に加熱し、加熱された前記スラブを熱間圧延して熱延鋼板とする熱間圧延工程と、
前記熱延鋼板を焼鈍する熱延板焼鈍工程と、
前記熱延板焼鈍工程後の前記熱延鋼板に対して、冷間圧延を実施して冷延鋼板とする冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を行って脱炭焼鈍鋼板とする脱炭焼鈍工程と、
前記脱炭焼鈍鋼板に対して仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程と、
を含み、
前記脱炭焼鈍工程は、
加熱部が、圧延方向に対し30~150°をなす方向に延在し、前記圧延方向に5~30mmの間隔で位置する複数の線状になるように、前記冷延鋼板の表面を非酸化雰囲気にてレーザビームの照射によって加熱する局所加熱過程と、
前記局所加熱過程後の前記冷延鋼板を、非酸化雰囲気にて450℃以下の温度域から脱炭焼鈍温度である750~950℃の温度域まで、80℃/秒以上の平均加熱速度で昇温する昇温過程と、
を含み、
前記レーザビームの平均強度を、単位Wで、P、集光スポットの前記圧延方向の集光径を、単位mmで、Dl、前記レーザビームの走査速度を、単位mm/秒で、Vc、4/π×P/(Dl×Vc)で表される瞬時投入エネルギを、単位J/mm2で、Upとしたとき、下記式(1)及び(2)を満足する、
ことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
0.2 ≦ Dl ≦ 1.0 (1)
5.0 ≦ Up ≦ 50.0 (2)
【請求項2】
前記スラブの前記化学組成が、
Cr:0.01~0.50%、
Cu:0.01~0.50%、
Ni:0.01~0.50%、
Se:0.005~0.030%、
Sn:0.01~0.50%、
Sb:0.01~0.15%、
Mo:0.01~0.20%、
P:0.01~0.15%、および
V:0.01~0.15%、
からなる群から選択される1種または2種以上を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、軟磁性材料であり、主に、変圧器の鉄心材料として用いられる。そのため、方向性電磁鋼板には、高磁化特性および低鉄損という磁気特性が要求される。
鉄損とは、鉄心を交流磁場で励磁した場合に、熱エネルギとして消費される電力損失であり、省エネルギの観点から、鉄損はできるだけ低いことが求められる。
【0003】
鉄損特性の最大の支配因子は磁束密度(例えばB8:800A/mの磁場における磁束密度)であり、磁束密度の値が高いほど鉄損が低くなる。方向性電磁鋼板では、磁束密度を高めるため、その製造過程において、一般に、結晶方位を磁気特性に良好なGOSS方位へ集積させる(方位集積度を高める)。高い磁束密度を有する方向性電磁鋼板の磁区構造を微細化することで、低鉄損が実現される。
GOSS方位への方位集積度を高めるためには、通常、高温かつ長時間の仕上げ焼鈍が行われる。仕上げ焼鈍によれば、磁気特性に良好な鋼板の長手方向が<100>方向で鋼板の面方向は<110>方向である「Goss方位粒」が、その周囲の結晶粒を蚕食しながらcmオーダーの大きさまで成長することで、結晶方位が揃ってくる(方位集積度が高まる)。特に、特許文献1に記載のように、溶鋼に100~5000g/tonのBiを添加することで、仕上げ焼鈍中のGoss方位粒の選択成長性が劇的に高まることが知られている。
このようなGOSS方位への方位集積度を向上させる従来技術は、仕上げ焼鈍中のGOSS方位粒の選択成長性を高めると同時に、二次再結晶が発現する頻度を減少させるので、一つ一つの結晶粒が大径化する。特に上述したようにBiを添加した場合には、結晶粒が顕著に大径化する。
【0004】
しかしながら、方向性電磁鋼板の製造に際して、仕上げ焼鈍は、コイルの状態で実施される。すなわち、鋼板が一定の曲率を有した状態で、二次再結晶粒が成長する。そのため、コイル状から巻き解いて平坦な状態とした際、結晶粒の内部には、コイルの曲率に応じた結晶方位の連続的なズレが発生する。このズレによって、磁化容易軸である<100>が圧延方向からズレ、磁化されにくくなるので、磁束密度が低下し、鉄損が増加する。
このようなズレは、二次再結晶粒のコイル長手方向の粒径が大きいほど、またコイルの曲率が大きい(曲率半径が小さい)ほど、大きくなる。
上述の通り、従来の技術では、GOSS方位への方位集積度を高めようとすると、二次再結晶粒の粒径が大きくなるので、コイル全長に渡って鉄損を低下させるためには、Goss方位への方位集積度向上と二次再結晶粒の小径化という、トレードオフの関係を解消する製造方法が求められている。
【0005】
このような課題に対し、特許文献2~5には、鋼板に溝を付与することで、結晶粒を分断し、二次再結晶粒の圧延方向長さを短くすることが開示されている。
また、特許文献6~7には、脱炭焼鈍工程の前後でレーザビーム照射による熱処理を行うことで、製品の結晶粒を分断することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-88171号公報
【特許文献2】特開2011-208196号公報
【特許文献3】特開2002-294416号公報
【特許文献4】国際公開第2012/033197号
【特許文献5】特開平7-268474号公報
【特許文献6】国際公開第2012/014290号
【特許文献7】特開平2-258928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2~5のような溝を付与する技術では、確かに、結晶粒径は制御可能であるが、溝形成の生産性が低い。また、溝があるため、トランスに形成した際の占積率が低下するという課題がある。
また、特許文献6、7のようなレーザビーム照射によって結晶粒を分断する技術は、二次再結晶を制御するインヒビターを脱炭焼鈍工程の前の熱間圧延工程や熱延板焼鈍工程にて造り込む高温スラブ加熱プロセスでは、レーザビームの照射部において、磁気特性が劣位な結晶方位粒(異常粒)が発生するという課題がある。Biを含有する鋼板では、この課題が顕著である。すなわち、レーザビームの照射部近傍で二次再結晶粒の粒界が形成出来たとしても、この異常粒の存在によって、磁束密度が劣化し、低鉄損を実現することが難しい。
【0008】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされた。本開示の目的は、Biを含有するスラブを用いた高温スラブ加熱プロセスを前提とし、曲率の異なるコイル内外周でのGoss方位への方位集積度の差が小さく、高い磁束密度を有する方向性電磁鋼板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の通り、従来、化学組成や加工熱処理条件の調整によって、コイルの全体(全長全幅)に渡って均一に組織や析出物等を制御して、GOSS方位への方位集積度向上を図ってきたが、同時に二次再結晶粒が大径化していたため、コイル内外周で方位集積度に差が発生し、コイル内周部では、高い磁束密度が得られなかった。
特に、高温スラブ加熱プロセスで製造する方向性電磁鋼板においては、熱間圧延工程や熱延板焼鈍工程にて、二次再結晶を制御するAlN、MnSなどの析出物(インヒビター)を造り込むので、それ以降の工程において(例えば冷間圧延工程後に)、レーザビームの照射などによる過剰な熱処理を施すと、前工程で造り込んだ析出物が粗大化し、二次再結晶制御に不具合が発生し、異常粒が発生するという課題があった。
そこで、本発明者らは、Goss方位への方位集積度向上と二次再結晶粒の小径化とを同時に達成し、コイル内外周での方位集積度の差を低減するため、レーザビームによる局所的な熱処理に着目して、前述した従来の組織、析出物等の材質バランスから外れた材質設計が可能か鋭意調査した。
本発明者らの調査の結果、所定の条件で鋼板に対して局所的な熱処理(線状加熱)を行う事で、高温スラブ加熱プロセスにおいても、GOSS方位への方位集積度の向上と二次再結晶の小径化とが両立でき、コイル内外周での方位集積度の差が小さく、内外周のいずれにおいても高い磁束密度を有する方向性電磁鋼板が製造できる事を見出した。
【0010】
本開示は、上記の知見に基づいてなされた。本開示の要旨は以下の通りである。
[1]質量%で、C:0.01~0.20%、Si:2.0~4.5%、Mn:0.01~0.30%、S:0.01~0.05%、sol.Al:0.01~0.05%、N:0.001~0.020%、Bi:0.001~0.020%、Cr:0~0.50%、Cu:0~0.50%、Ni:0~0.50%、Se:0~0.030%、Sn:0~0.50%、Sb:0~0.15%、Mo:0~0.20%、P:0~0.15%、およびV:0~0.15%、を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有するスラブを、1280℃以上に加熱し、加熱された前記スラブを熱間圧延して熱延鋼板とする熱間圧延工程と、前記熱延鋼板を焼鈍する熱延板焼鈍工程と、前記熱延板焼鈍工程後の前記熱延鋼板に対して、冷間圧延を実施して冷延鋼板とする冷間圧延工程と、前記冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を行って脱炭焼鈍鋼板とする脱炭焼鈍工程と、前記脱炭焼鈍鋼板に対して仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程と、を含み、前記脱炭焼鈍工程は、加熱部が、圧延方向に対し30~150°をなす方向に延在し、前記圧延方向に5~30mmの間隔で位置する複数の線状になるように、前記冷延鋼板の表面を非酸化雰囲気にてレーザビームの照射によって加熱する局所加熱過程と、前記局所加熱過程後の前記冷延鋼板を、非酸化雰囲気にて450℃以下の温度域から脱炭焼鈍温度である750~950℃の温度域まで、80℃/秒以上の平均加熱速度で昇温する昇温過程と、を含み、前記レーザビームの平均強度を、単位Wで、P、集光スポットの前記圧延方向の集光径を、単位mmで、Dl、前記レーザビームの走査速度を、単位mm/秒で、Vc、4/π×P/(Dl×Vc)で表される瞬時投入エネルギを、単位J/mm2で、Upとしたとき、下記式(1)及び(2)を満足する、方向性電磁鋼板の製造方法。
0.2 ≦ Dl ≦ 1.0 (1)
5.0 ≦ Up ≦ 50.0 (2)
[2]前記スラブの前記化学組成が、Cr:0.01~0.50%、Cu:0.01~0.50%、Ni:0.01~0.50%、Se:0.005~0.030%、Sn:0.01~0.50%、Sb:0.01~0.15%、Mo:0.01~0.20%、P:0.01~0.15%、およびV:0.01~0.15%、からなる群から選択される1種または2種以上を含有する、[1]に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、曲率の異なるコイル内外周でのGoss方位への方位集積度の差が小さく(その結果、磁束密度の差が小さく)、高い磁束密度を有する方向性電磁鋼板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】線状の加熱部が形成された冷延鋼板の一例を示す図である。
【
図2】レーザビームの集光径、走査速度を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法(本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法)について説明する。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、以下の工程を含む。
(I)所定の化学組成を有するスラブを、1280℃以上に加熱し、加熱された前記スラブを熱間圧延して熱延鋼板とする熱間圧延工程、
(II)前記熱延鋼板を焼鈍する熱延板焼鈍工程、
(III)前記熱延板焼鈍工程後の前記熱延鋼板に対して、冷間圧延を実施して冷延鋼板とする冷間圧延工程、
(IV)前記冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を行って脱炭焼鈍鋼板とする脱炭焼鈍工程、及び
(V)前記脱炭焼鈍鋼板に対して仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程。
以下、それぞれの工程について説明する。説明しない工程または条件については、公知の工程、条件を適用することができる。
【0014】
<熱間圧延工程>
熱間圧延工程では、後述する化学組成を有するスラブを、1280℃以上に加熱し、加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板とする。
加熱温度が1280℃未満であると、スラブ中に形成された介在物を溶解させることができず、後述する熱間圧延工程や熱延板焼鈍工程にてインヒビターが十分に形成されない。そのため、スラブの加熱温度を1280℃以上とする。スラブ加熱温度の上限は限定されないが、1450℃超で加熱すると、スラブ等が溶融してしまい、熱間圧延が困難になる。そのため、スラブ加熱温度は1450℃以下が好ましい。
熱間圧延条件については、特に限定されず、求められる特性に基づいて適宜設定すればよい。熱間圧延によって得られる熱延鋼板の板厚は、例えば、1.0mm以上4.0mm以下の範囲内であることが好ましい。
【0015】
[スラブの化学組成]
方向性電磁鋼板として好ましい磁気特性を得るため、熱間圧延に供されるスラブの化学組成は以下の範囲とする。以下の説明において、特に断りのない限り、「%」の表記は「質量%」を表わすものとする。
【0016】
C:0.01~0.20%
C(炭素)は、磁束密度の改善効果を示す元素であるが、スラブのC含有量が0.20%を超える場合には、脱炭焼鈍工程での生産性が低下する。また、スラブのC含有量が多く、脱炭が不十分である場合、二次再結晶焼鈍(すなわち、仕上げ焼鈍)において鋼が相変態し、二次再結晶が十分に進行せず、良好な磁束密度と低い鉄損が得られなかったり、磁気時効によって、磁気特性が劣化したりする。そのため、スラブのC含有量を0.20%以下とする。C含有量が少ないほど生産性および鉄損低減にとって好ましい。生産性および鉄損低減の観点から、C含有量は、好ましくは0.15%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
一方、スラブのC含有量が0.01%未満である場合には、磁束密度の改善効果を得ることができない。従って、スラブのC含有量は、0.01%以上とする。C含有量は、好ましくは0.04%以上であり、より好ましくは0.06%以上である。
【0017】
Si:2.0~4.5%
Si(ケイ素)は、鋼の電気抵抗(比抵抗)を高めて鉄損の一部を構成する渦電流損を低減するのに、極めて有効な元素である。スラブのSi含有量が2.0%未満である場合には、固有抵抗が小さく、十分に渦電流損を低減出来ない。また、二次再結晶焼鈍において鋼が相変態して、二次再結晶が十分に進行せず、良好な磁束密度と低い鉄損とが得られない。そのため、スラブのSi含有量は2.0%以上とする。スラブのSi含有量は、好ましくは2.1%以上であり、より好ましくは2.2%以上である。
一方、Si含有量が4.5%を超える場合には、鋼板が脆化し、製造工程での通板性が顕著に劣化する。そのため、スラブのSi含有量は4.5%以下とする。スラブのSi含有量は、好ましくは4.4%以下であり、より好ましくは4.2%以下である。
【0018】
Mn:0.01~0.30%
Mn(マンガン)は、主要なインヒビターの一つであるMnSを形成する、重要な元素である。スラブのMn含有量が0.01%未満である場合には、二次再結晶を生じさせるのに必要なMnSの絶対量が不足する。そのため、スラブのMn含有量は、0.01%以上とする。Mn含有量は、好ましくは0.03%以上であり、より好ましくは0.06%以上である。
一方、スラブのMn含有量が0.30%を超える場合には、二次再結晶焼鈍において鋼が相変態し、二次再結晶が十分に進行せず、良好な磁束密度と低い鉄損とが得られない。そのため、スラブのMn含有量は、0.30%以下とする。Mn含有量は、好ましくは0.28%以下であり、より好ましくは0.26%以下である。
【0019】
S:0.01~0.05%
S(硫黄)は、上記Mnと反応することで、インヒビターであるMnSを形成する重要な元素である。スラブのS含有量が0.01%未満である場合には、十分なインヒビターが形成されない。そのため、スラブのS含有量を0.01%以上とする。S含有量は、好ましくは0.02%以上である。
一方、スラブのS含有量が0.05%を超える場合には、熱間脆性の原因となり、熱間圧延が著しく困難となる。そのため、スラブのS含有量は0.05%以下とする。S含有量は、好ましくは0.04%以下であり、より好ましくは0.03%以下である。
【0020】
sol.Al:0.01~0.05%
sol.Al(酸可溶性アルミニウム)は、方向性電磁鋼板において二次再結晶を左右するインヒビターと呼ばれる化合物のうち、主要なインヒビターの構成元素であり、本実施形態に係る母材鋼板において、二次再結晶発現の観点から必須の元素である。スラブのsol.Al含有量が0.01%未満である場合には、インヒビターとして機能するAlNが十分に生成せず、二次再結晶が不十分となる。そのため、sol.Al含有量は、0.01%以上とする。sol.Al含有量は、好ましくは、0.02%以上である。
一方、sol.Al含有量が0.05%を超える場合には、インヒビターとして機能するAlNが十分に生成せず、二次再結晶が不十分となる。そのため、sol.Al含有量は、0.05%以下とする。sol.Al含有量は、好ましくは0.04%以下であり、より好ましくは0.03%以下である。
【0021】
N:0.001~0.020%
N(窒素)は、上記の酸可溶性Alと反応して、インヒビターとして機能するAlNを形成する元素である。インヒビターとして機能するAlNを十分形成するため、N含有量を0.001%以上とする。N含有量は、好ましくは0.005%以上である。
一方、N含有量が0.020%を超える場合には、冷間圧延時、鋼板中にブリスター(空孔)が生じるうえに、鋼板の強度が上昇し、製造時の通板性が悪化する。そのため、スラブのN含有量を0.020%以下とする。N含有量は、好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。
【0022】
Bi:0.001~0.020%
Bi(ビスマス)は、硫化物等の析出物を安定化して、インヒビターとしての機能を強化するのに有効な元素である。従って、Biを含有させてもよい。上記効果を得る場合、Bi含有量は、0.001%以上であることが好ましく、0.002%以上であることがより好ましい。
一方、Bi含有量が0.020%を超えると、絶縁被膜の密着性が劣化したり、磁気特性が劣化したりすることがある。そのため、Bi含有量は0.020%以下とする。Bi含有量は、0.015%以下であることが好ましく、0.010%以下であることがより好ましい。
【0023】
Cr:0~0.50%
Cr(クロム)は、後述するSn及びCuと同様に、二次再結晶組織におけるGoss方位占有率の増加に寄与して磁気特性を向上させるとともに、グラス被膜の密着性の向上に寄与する元素である。そのため、含有させてもよい。上記効果を得るためには、Cr含有量を、0.01%以上とすることが好ましく、0.02%以上とすることがより好ましく、0.03%以上とすることがさらに好ましい。
一方、Cr含有量が0.50%を超える場合には、Cr酸化物が形成され、磁気特性が低下する。そのため、Cr含有量は、0.50%以下とする。Cr含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
【0024】
Cu:0~0.50%
Cu(銅)は、二次再結晶の組織におけるGoss方位占有率の増加に寄与するとともに、グラス被膜の密着性の向上に寄与する元素である。そのため、含有させてもよい。上記効果を得る場合、Cu含有量を0.01%以上とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上である。
一方、Cu含有量が0.50%を超える場合には、熱間圧延中に鋼板が脆化する。そのため、スラブのCu含有量を0.50%以下とする。Cu含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
【0025】
Ni:0~0.50%
Ni(ニッケル)は、電気抵抗を高めて鉄損を低減するのに有効な元素である。また、Niは、熱延鋼板の金属組織を制御して、磁気特性を高めるうえで有効な元素である。従って、Niを含有させてもよい。上記効果を得る場合、Ni含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Ni含有量は、より好ましくは0.02%以上である。
一方、Ni含有量が0.50%を超えると、二次再結晶が不安定になることがある。そのため、Ni含有量は0.50%以下とする。Ni含有量は、好ましくは0.30%以下である。
【0026】
Se:0~0.030%
Se(セレン)は、磁気特性改善効果を有する元素である。そのため、含有させてもよい。Seを含有させる場合は、磁気特性改善効果を良好に発揮するべく、Se含有量を0.005%以上とすることが好ましい。磁気特性と被膜密着性との両立を考慮すると、Se含有量は、より好ましくは0.010%以上である。
一方、Se含有量が0.030%を超えると、グラス被膜が著しく劣化する。従って、Se含有量を0.030%以下とする。Se含有量は、好ましくは0.025%以下であり、より好ましくは0.020%以下である。
【0027】
Sn:0~0.50%
Sn(スズ)は、磁気特性改善効果を有する元素である。そのため、含有させてもよい。Snを含有させる場合は、磁気特性改善効果を良好に発揮するべく、Sn含有量を0.01%以上とすることが好ましい。磁気特性と被膜密着性との両立を考慮すると、Sn含有量は、好ましくは0.02%以上であり、より好ましくは0.03%以上である。
一方、Sn含有量が0.50%を超えると、グラス被膜が顕著に劣化し、かつ磁区細分化に十分な張力が得られないので、鉄損特性が劣化する。従って、Sn含有量を0.50%以下とする。Sn含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
【0028】
Sb:0~0.15%
Sb(アンチモン)は、磁気特性改善効果を有する元素である。そのため、含有させてもよい。Sbを含有させる場合は、磁気特性改善効果を良好に発揮するため、含有量を0.01%以上とすることが好ましい。Sb含有量は、より好ましくは0.02%以上である。
一方、Sb含有量が0.15%を超えると、グラス被膜の密着性が劣化する。従って、Sb含有量を0.15%以下とする。Sb含有量は、好ましくは0.10%以下である。
【0029】
Mo:0~0.20%
Mo(モリブデン)は、磁気特性改善効果を有する元素である。そのため、含有させてもよい。Moを含有させる場合は、磁気特性改善効果を良好に発揮するため、Mo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。Mo含有量は、より好ましくは0.02%以上であり、さらに好ましくは0.03%以上である。
一方、Mo含有量が0.20%を超えると、冷間圧延性が劣化し、破断に至る可能性がある。従って、Mo含有量を0.20%以下とする。Mo含有量は、好ましくは0.10%以下であり、より好ましくは0.08%以下である。
【0030】
P:0~0.15%
P(リン)は、圧延における加工性を低下させる元素である。P含有量を0.15%以下とすることにより、圧延加工性が過度に低下することを抑制でき、製造時における破断を抑制することができる。このような観点から、P含有量は0.15%以下とする。P含有量は、0.10%以下であることが好ましく、0.05%以下であることがより好ましい。
P含有量は、その下限が限定されず、0%を含み得るが、Pは集合組織を改善し、磁気特性を改善する効果を有する元素でもある。この効果を得るため、P含有量を0.005%以上としてもよく、0.01%以上としてもよい。
【0031】
V:0~0.15%
V(バナジウム)は、NやCと結合してインヒビターとして機能する有効な元素である。従って、Vを含有させてもよい。上記効果を得る場合、V含有量は、0.01%以上であることが好ましく、0.02%で以上であることがより好ましい。
一方、V含有量が0.15%を超えると、磁気特性が劣化するおそれがある。そのため、V含有量は0.15%以下とする。V含有量は、0.10%以下であることが好ましく、0.05%以下であることがより好ましい。
【0032】
残部:Fe及び不純物
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法で用いるスラブの化学組成は、上述の元素を含有し、残部は、Fe及び不純物であってもよい。ここで、不純物とは、母材鋼板を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップから、又は、製造環境などから混入するものであり、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の作用に悪影響を及ぼさない含有量で含有することを許容される元素を意味する。
【0033】
<熱延板焼鈍工程>
熱延板焼鈍工程は、熱間圧延工程を経て製造された熱延鋼板を焼鈍する工程である。このような焼鈍処理を施すことで、鋼板組織に再結晶が生じ、良好な磁気特性を実現することが可能となる。
本実施形態の熱延板焼鈍工程では、公知の方法に従い、熱間圧延工程を経て製造された熱延鋼板を焼鈍すればよい。焼鈍に際して熱延鋼板を加熱する手段については、特に限定されるものではなく、公知の加熱方式を採用することが可能である。また、焼鈍条件についても、特に限定されるものではないが、例えば、熱延鋼板に対して、900~1200℃の温度域で10秒~5分間の焼鈍を行うことができる。
【0034】
<冷間圧延工程>
冷間圧延工程では、熱延板焼鈍工程後の熱延鋼板に対して、複数のパスを含む冷間圧延を実施し、冷延鋼板を得る。冷間圧延は、一回の冷間圧延でもよく、冷延工程の最終パスの前に、冷延を中断し、少なくとも1回または2回の中間焼鈍を実施して、中間焼鈍をはさむ、複数回の冷間圧延を施してもよい。
中間焼鈍を行う場合、1000~1200℃の温度に5~180秒間保持することが好ましい。焼鈍雰囲気は特には限定されない。中間焼鈍の回数は製造コストを考慮すると3回以内が好ましい。
また、冷間圧延工程の前に、熱延鋼板の表面に対して公知の条件で酸洗を施してもよい。
【0035】
<脱炭焼鈍工程>
脱炭焼鈍工程では、冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を行って脱炭焼鈍鋼板とする。脱炭焼鈍では、冷延鋼板を一次再結晶させるととともに、磁気特性に悪影響を及ぼすCを鋼板から除去するが、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法では、焼鈍温度に加熱する前に、鋼板に対し、局所加熱を行う。
すなわち、脱炭焼鈍工程は、加熱部が、圧延方向(通板方向)に対し30~150°をなす方向に延在し、圧延方向に5~30mmの間隔で位置する複数の線状になるように、冷延鋼板の表面を非酸化雰囲気にて加熱する局所加熱過程と、局所加熱過程後の冷延鋼板を、非酸化雰囲気にて450℃以下の温度域から脱炭焼鈍温度である750~950℃の温度域まで、80℃/秒以上の平均加熱速度で昇温する昇温過程と、を含む。
【0036】
[局所加熱過程]
局所加熱過程では、加熱部が、圧延方向に対し30~150°をなす方向(圧延方向に直角な方向に対して±60°の方向)に延在し、圧延方向に5~30mmの間隔で位置する複数の線状になるように、冷延鋼板の表面を非酸化雰囲気にて加熱する。局所加熱後の冷延鋼板は、
図1のような線状の加熱部を有する。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法では、鋼板に対し、線状の加熱を行うことで、加熱された部分の粒径を大きくする。粒径が大きくなった部分では、後工程である仕上げ焼鈍時に、二次再結晶粒の成長の障壁となるので、二次再結晶粒の成長が抑制される。そのため、圧延方向に交差する方向に延在する線状の加熱を、圧延方向に所定の間隔で繰り返し行う(複数の加熱部を形成する)ことで、二次再結晶粒の圧延方向の長さを小さくすることができる。
【0037】
線状の加熱部の延在方向が、圧延方向に対して30°未満、または150°超である(圧延方向に対して平行に近い)場合には、二次再結晶粒の圧延方向の長さを小さくすることが出来ない。
また、線状の加熱部の間隔が、30mm超では、二次再結晶粒の圧延方向の長さを小さくする効果が小さい。一方、線状の加熱部の間隔を5mm未満とすると、組織粗大部が過多となり、二次再結晶不良が発生する(Goss方位への集積度が低下する)。
線状の加熱部の間隔は、略等間隔でもよいが、前述した線状の加熱部の間隔の範囲内であれば、それぞれの隣り合う線状の加熱部の間隔を異なるように制御してもよい。例えば、曲率の大きな外周では、二次再結晶粒の圧延方向の長さがGoss集積度に及ぼす影響が小さいことから、曲率の小さな内周と比べて、加熱部の間隔を拡げても良い。
また、線状の加熱部の幅は、0.2~1.0mmであることが好ましい。0.2mm未満であれば、加熱部が小さく、二次再結晶の成長の障害としての機能が低く、二次再結晶粒の圧延方向の長さを小さくする効果が得られないことが懸念される。一方、1.0mm超であれば、二次再結晶粒の圧延方向長さを小さくする効果はあるが、仕上げ焼鈍後にも加熱部の粗大粒が残存し、磁気特性を劣化させることが懸念される。線状の加熱部の長さは限定されないが、鋼板の幅方向全域に亘って、もしくはエッジ部を除いた幅方向全域に亘って形成されることが好ましい。
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法で用いるスラブはBiを含有しているため、上記加熱を酸化雰囲気で行うことと、局所的に変質した酸化皮膜によって、仕上げ焼鈍時の析出物の粗大・不均一化の挙動が変化し、二次再結晶粒の成長を阻害する効果が得られない。そのため、局所加熱は、非酸化雰囲気で行う。本実施形態において、非酸化雰囲気とは、窒素雰囲気、もしくは窒素・水素混合雰囲気であって、露点が、-50℃以上0℃以下の雰囲気である。露点は、局所加熱部の酸化を抑制して、以降の脱炭焼鈍における酸化挙動への影響を考慮し、好ましくは、-5℃以下、又は-10℃以下である。露点、プロセス制御容易性の内部酸化を良好に進行させる観点から、-40℃以上であってもよい。
【0038】
また、局所加熱(線状の加熱部の形成)は、局所的に加熱を行うことができ、周囲への影響が小さいという点で、レーザビームの照射によって加熱を行うことが好ましいが、真空・低真空中で行われる電子ビームの照射でも良い。
レーザビーム照射によって、加熱を行う場合、レーザビームの平均強度をP(W)、集光スポットの圧延方向の集光径をDl(mm)、レーザビームの走査速度をVc(mm/秒)、4/π×P/(Dl×Vc)で表される瞬時投入エネルギを、Up(J/mm
2)としたとき、下記式(1)及び(2)を満足する条件で、レーザビームを照射する。
集光径Dlは
図2に示す径であり、走査速度Vcは、
図2に示す方向(線状の加熱部の延在方向)の速度である。走査速度Vcは、通板速度と幅方向のレーザビームの走査速度とから求められる。
0.2 ≦ Dl ≦ 1.0 (1)
5.0 ≦ Up ≦ 50.0 (2)
式(1)及び(2)を満足する条件とすることで、二次再結晶粒の圧延方向の長さを小さくすることができ、曲率の異なるコイル内外周でのGoss方位への方位集積度の差が小さくなる。
式(1)及び(2)を満足しない場合、十分な効果が得られない。または、瞬時投入エネルギが大きすぎると、鋼板に孔が空く場合がある。
【0039】
[昇温過程]
昇温過程では、局所加熱過程後の冷延鋼板を、非酸化雰囲気にて450℃以下の温度域から脱炭焼鈍温度である750~950℃の温度域まで、80℃/秒以上の平均加熱速度で加熱する。
上記の昇温によって、GOSS方位粒の核の生成を促進する。上記温度範囲の平均加熱速度が80℃/秒未満では、核の生成が不十分となり、二次再結晶粒の粒径が大きくなる。また、局所加熱し、圧延方向の二次再結晶粒径を小さくした場合、鋼板全面を磁気特性に良好なGOSS方位で覆い尽くすためには、十分な二次再結晶の核が必要となることから、平均加熱速度は、好ましくは160℃/秒以上、さらに好ましくは、240℃/秒以上である。昇温速度の上限は限定されず、設備能力で決定すればよい。例えば、2000℃/秒以下である。
また、昇温時の雰囲気が非酸化雰囲気ではない場合は、鋼板表層にタイトなSiO2膜が形成され、脱炭不良や仕上げ焼鈍後の被膜不良が発生する。本実施形態において、非酸化雰囲気とは、窒素雰囲気、もしくは窒素・水素混合雰囲気であって、露点が-50℃以上0℃以下の雰囲気である。露点は、SiO2生成を抑制して脱炭を良好に進行させる観点から、好ましくは、-5℃以下、又は-10℃以下である。露点は、プロセス制御容易性の内部酸化を良好に進行させる観点から、例えば-40℃以上であってもよい。
【0040】
昇温過程によって、750~950℃まで昇温した後の焼鈍は、限定されないが、例えば、焼鈍雰囲気(炉内雰囲気)における酸化度(PH2O/PH2)を0.15~1.0として、当該温度域で10~600秒間保持を行えばよい。
【0041】
<仕上げ焼鈍工程>
仕上げ焼鈍工程では、脱炭焼鈍工程で得られた脱炭焼鈍鋼板の片面または両面に対して所定の焼鈍分離剤を塗布した後に、仕上げ焼鈍を施す。仕上げ焼鈍は、一般に、鋼板をコイル状に巻いた状態において、長時間行われる。従って、仕上げ焼鈍に先立ち、コイルの巻きの内と外との焼付きの防止を目的として、焼鈍分離剤を脱炭焼鈍鋼板に塗布し、乾燥させる。
塗布する焼鈍分離剤として、MgOを主成分とする(例えば重量分率で80%以上含む)焼鈍分離剤を用いる。MgOを主成分とする焼鈍分離剤を用いることで、母材鋼板の表面にグラス被膜を形成することができる。MgOを主成分としない場合には、一次被膜(グラス被膜)は形成されない。なぜならば、一次被膜はMg2SiO4またはMgAl2O4化合物だからであり、MgOを主成分としない場合には、形成反応に必要なMgが欠乏するからである。
仕上げ焼鈍は例えば水素及び窒素を含有する雰囲気ガス中で、1150~1250℃まで昇温し、その温度域で10~60時間焼鈍する条件で行えばよい。
【実施例0042】
<実施例1>
質量%で、C:0.08%、Si:3.3%、Mn:0.08%、S:0.02%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.009%、Bi:0.002%を含有し、残部がFe及び不純物からなるスラブを1350℃に加熱し、熱間圧延し、2.0mmの熱延鋼板を得た。
得られた熱延鋼板を1000℃で60秒の焼鈍(熱延板焼鈍)を行って熱延焼鈍鋼板を得た。
得られた熱延焼鈍鋼板を、冷間圧延し、0.2mmの冷延鋼板を得た。
冷延鋼板に、加熱部が、圧延方向となす角が85°(圧延方向に直角な方向から5°傾いた方向)に延在し、圧延方向に10mmの間隔に並ぶ複数の直線となるように、表1-1、表1-2に示す雰囲気、照射条件でレーザビームを照射した後、露点が-30℃の窒素・水素混合雰囲気で、450℃以下の温度域から750~950℃の温度域までの平均加熱速度が表1-1、表1-2の通りになるように加熱した。加熱部の圧延方向の幅は、圧延方向の集光径Dlと一致し、0.2~0.6mmの範囲であった。
加熱後、焼鈍雰囲気(炉内雰囲気)における酸化度(PH2O/PH2)を0.6として、750~950℃で10~600秒の保持を行うことで脱炭焼鈍して、脱炭焼鈍鋼板を得た。
脱炭焼鈍鋼板を、コイル状に巻取り、コイルの状態で、仕上げ焼鈍した。仕上げ焼鈍では、1150℃まで昇温し、その温度域で20時間保持した。
これにより、方向性電磁鋼板を得た。
【0043】
仕上げ焼鈍後のコイルの、コイル内周に相当する曲率半径が300mmの位置とコイル外周に相当する曲率半径が800mmの位置とから、60mm×300mmの磁気特性測定用のサンプルを採取した。
このサンプルに対し、JIS C2556:2015に準拠し、磁束密度を測定した。
結果を表1-1、表1-2に示す。
【0044】
【0045】
【0046】
表1-1、表1-2から分かるように、レーザビーム照射条件及び、450℃以下~脱炭焼鈍温度までの平均加熱速度が本発明範囲内にある発明例では、コイル内周及びコイル外周の磁束密度がいずれも1.94T以上でかつ、内外周の磁束密度の差が0.00Tに低減された。
一方、レーザビーム照射条件及び、450℃以下~脱炭焼鈍温度までの平均加熱速度の少なくとも一方が本発明範囲外である比較例では、磁束密度が1.94T未満、及び/または磁束密度の差が0.01T以上であった。
【0047】
<実施例2>
表2に記載の化学組成(単位は質量%、残部はFe及び不純物)からなるスラブを1350℃に加熱し、熱間圧延し、2.0mmの熱延鋼板を得た。
得られた熱延鋼板を焼鈍した。得られた熱延焼鈍鋼板を冷間圧延し、0.2mmの冷延鋼板を得た。
冷延鋼板に、加熱部が、圧延方向となす角が85°(圧延方向に直角な方向から5°傾いた方向)に延在し、圧延方向に10mmの間隔に並ぶ複数の直線となるように、窒素雰囲気で、圧延方向の集光径(Dl)が0.6mm、出力/走査速度(P/Vc)が9.4J/mm、瞬時投入エネルギ(Up)が20.0J/mm2である条件でレーザビームを照射した。
その後、露点が-30℃の窒素・水素混合雰囲気で、450℃以下~脱炭焼鈍温度までの平均加熱速度が200℃/秒で、750~950℃の脱炭焼鈍温度まで加熱した。
加熱後、焼鈍雰囲気(炉内雰囲気)における酸化度(PH2O/PH2)を0.6として、750~950℃で10~600秒の保持を行うことで脱炭焼鈍して、脱炭焼鈍鋼板を得た。
脱炭焼鈍鋼板を、コイル状に巻取り、コイルの状態で、仕上げ焼鈍した。仕上げ焼鈍では、1150℃まで昇温し、その温度域で20時間保持した。
これにより、方向性電磁鋼板を得た。
【0048】
仕上げ焼鈍後のコイルの、コイル内周に相当する曲率半径が300mmの位置とコイル外周に相当する曲率半径が800mmの位置とから、60×300mmの磁気特性測定用のサンプルを採取した。
このサンプルに対し、JIS C2556:2015に準拠し、磁束密度を測定した。
結果を表2に示す。
【0049】
【0050】
表2から分かるように、いずれの例にもいても、コイル内周及びコイル外周の磁束密度がいずれも1.94T以上でかつ、それらの差が0.00Tであった。