(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161277
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】砥面判定装置、学習器、判定プログラム、および砥面判定方法
(51)【国際特許分類】
B24B 53/00 20060101AFI20221014BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20221014BHJP
B24B 49/18 20060101ALI20221014BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
B24B53/00 A
B24B49/12
B24B49/18
B23Q17/09 C
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065955
(22)【出願日】2021-04-08
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000150604
【氏名又は名称】株式会社ナガセインテグレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 幸泰
(72)【発明者】
【氏名】板津 武志
(72)【発明者】
【氏名】井村 諒介
(72)【発明者】
【氏名】川下 智幸
(72)【発明者】
【氏名】坂口 彰浩
【テーマコード(参考)】
3C029
3C034
3C047
【Fターム(参考)】
3C029DD20
3C034AA07
3C034BB93
3C034CA09
3C034CB12
3C034CB14
3C034DD05
3C047AA02
3C047AA08
(57)【要約】
【課題】砥面の状態を短い時間、且つ高い精度で判定する。
【解決手段】砥面判定装置は、複数の砥粒が結合剤によって固着された構造の砥石における砥面の状態を判定する。電子制御装置40の記憶部44には、判定対象の砥石の砥面を撮像した画像が判定画像50として記憶される。電子制御装置40の記憶部44には、特定の使用状態の砥面を撮像した画像からなる教師データ53A,53Bによって学習された学習器51A,51Bが記憶されている。電子制御装置40は、判定画像50を入力データとして、記憶部44に記憶された学習済みの学習器51A,51Bから、判定画像50に対応する砥面の使用状態と特定の使用状態との差分の指標値を出力する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の砥粒が結合剤によって固着された構造の砥石における砥面の状態を判定する砥面判定装置において、
判定対象の砥石の砥面を撮像した画像であって、且つ、前記判定対象の砥石の砥面における前記砥石の研削方向に延びる部分に関する情報を含む画像を、判定画像として記憶する入力部と、
特定の使用状態の砥面を撮像した画像であって、且つ、前記特定の使用状態の砥面における前記研削方向に延びる部分に関する情報を含む画像からなる教師データによって学習された学習器を記憶する記憶部と、
前記判定画像を入力データとして、前記記憶部に記憶された学習済みの学習器から、前記判定画像に対応する前記砥面の使用状態と前記特定の使用状態との差分の指標値を出力する差分出力部と、
を備える砥面判定装置。
【請求項2】
前記特定の使用状態は、前記砥面のドレッシングが適正に実行された直後における当該砥面の状態である
請求項1に記載の砥面判定装置。
【請求項3】
前記特定の使用状態は、前記砥面のドレッシングの実行開始に適したタイミングにおける当該砥面の状態である
請求項1に記載の砥面判定装置。
【請求項4】
前記判定画像および前記教師データを構成する画像は、前記砥面の全体を示す一枚の画像である
請求項1~3のいずれか一項に記載の砥面判定装置。
【請求項5】
前記学習器は、同学習器に入力される画像と当該画像をもとに前記学習器によって生成される画像とが同一になる態様で学習されたものであり、
前記差分出力部は、前記差分の指標値として、前記入力される画像と前記生成される画像との差分の指標値を出力するものである
請求項1~4のいずれか一項に記載の砥面判定装置。
【請求項6】
前記判定画像は、前記判定対象の砥石の砥面を撮像した画像をフーリエ変換した画像であり、
前記教師データは、前記特定の使用状態の砥面を撮像した画像をフーリエ変換した画像によって構成されている
請求項1~5のいずれか一項に記載の砥面判定装置。
【請求項7】
前記学習器は、同学習器に入力される画像をもとに前記特定の使用状態に対応する特徴ベクトルを生成する態様で学習されたものであり、
前記差分出力部は、前記差分の指標値として、前記判定画像を入力データとして前記学習済みの学習器により生成される特徴ベクトルと前記特定の使用状態に対応する特徴ベクトルとの差分を出力する
請求項1~4のいずれか一項に記載の砥面判定装置。
【請求項8】
前記砥面判定装置は、
前記砥石を研削工具として用いる研削装置に設けられ、当該研削装置の砥石の砥面を撮像する撮像部と、
前記撮像部によって撮像された前記砥面の画像を、前記判定画像として、前記入力部に出力する画像出力部と、を備える
請求項1~7のいずれか一項に記載の砥面判定装置。
【請求項9】
前記研削装置は、
前記砥石の砥面を覆う態様で同砥面に沿って延びるシャッター部と、
前記シャッター部を開閉操作するものであって、前記砥面の撮像時には同砥面と前記撮像部との間が前記シャッター部によって仕切られない開状態にする一方、前記砥面の非撮像時には前記砥面と前記撮像部との間が前記シャッター部によって仕切られた閉状態にするシャッター操作部と、を備える
請求項8に記載の砥面判定装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の砥面判定装置が備える前記学習済みの学習器。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の砥面判定装置が具備する前記各部の処理を、前記砥面判定装置が備える電子制御装置に実行させる判定プログラム。
【請求項12】
複数の砥粒が結合剤によって固着された構造の砥石における砥面の状態を判定する砥面判定方法であって、
判定対象の砥石の砥面を撮像した画像であって、且つ、前記判定対象の砥石の砥面における前記砥石の研削方向に延びる部分に関する情報を含む画像を取得するとともに、同画像を判定画像として砥面判定装置の入力部に記憶させる入力工程と、
特定の使用状態の砥面を撮像した画像であって、且つ、前記特定の使用状態の砥面における前記研削方向に延びる部分に関する情報を含む画像を取得し、該取得した画像からなる教師データによって学習器を学習させた後に、同学習器を前記砥面判定装置の記憶部に記憶させる記憶工程と、
前記判定画像を入力データとして、前記記憶部に記憶された学習済みの学習器から、前記判定画像に対応する前記砥面の使用状態と前記特定の使用状態との差分の指標値を出力する差分出力工程と
を備える砥面判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥石の砥面を判定する砥面判定装置、同装置で使用される学習器、同装置で使用される判定プログラム、および砥石の砥面を判定する砥面判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
研削装置による研削加工では、研削工具としての砥石の加工面(いわゆる砥面)の状態によってワークの加工面の仕上げ品質が左右される。砥面の状態は、主として切れ刃として機能する砥粒の表面部分の形状や大きさ、砥粒の突出量によって決まる。そのため、砥石の砥面で露出している個々の砥粒の座標や、形状、表面積等を計測して評価する技術が種々研究されている。
【0003】
ここで、砥石の砥面に分散した状態で配置されている砥粒によってワークを微少量ずつ削り取る研削加工では、砥粒の分布状態がワークの加工面に転写されるかたちで同ワークが所望の形状に仕上げられる。そのため、研削加工を高精度で行うためには、個々の砥粒の状態や、砥面における砥粒の分布状態(以下、表面性状という)を適切に管理することが重要である。
【0004】
従来、電子顕微鏡やレーザを用いて砥石の砥面の表面性状を評価する手法が提案されている(例えば非特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】坂本、佐々木、小林、清水、「機上計測した砥石作業面プロファイルに基づく比研削抵抗の同定」、2013年度精密工学学会春季大会学術講演会講演論文集、pp.539-540
【非特許文献2】垣野、松原、山路、松田、中川、廣垣、喜田、「砥石作業面トポグラフィのオン・ザ・マシン計測に関する研究(第1報)」、精密工学会誌、vol.63,NO.2,pp.228-232(1997)
【非特許文献3】庄司、周、「ダイヤモンド砥石のツルーイング及びドレッシングに関する研究(第2報)」、精密工学会誌、vol.55,NO.12,pp.2267-2272(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子顕微鏡を使用する装置では、同電子顕微鏡によって砥面の表面性状を緻密に観察することができる。とはいえ、電子顕微鏡は観察範囲がごく狭いため、電子顕微鏡によって砥面の全面にわたって表面性状を観察するのには長い時間を要してしまう。
【0007】
一方、レーザを用いて砥面の表面性状を評価する装置では、砥面の形状を高精度で比較的容易に計測することができる。しかしながら、レーザを用いた計測によって取得できる情報は砥面の凹凸プロファイルであるため、取得情報が砥粒にあたる部位の情報であるのか、あるいは当該砥粒を固着する結合剤にあたる部位の情報であるのかを区別することが難しい。これは砥面の表面性状を評価するうえでは、その評価精度の向上を阻む一因になる。また、レーザーによる計測の精度を高めるためには同レーザのスポット径を小さくする必要がある。スポット径を小さくすると、その分だけ計測範囲が狭くなってしまう。そのため、この場合には砥面の表面性状の計測、ひいては同表面正常の評価に長い時間がかかってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための砥面判定装置は、複数の砥粒が結合剤によって固着された構造の砥石における砥面の状態を判定する砥面判定装置において、判定対象の砥石の砥面を撮像した画像であって、且つ、前記判定対象の砥石の砥面における前記砥石の研削方向に延びる部分に関する情報を含む画像を、判定画像として記憶する入力部と、特定の使用状態の砥面を撮像した画像であって、且つ、前記特定の使用状態の砥面における前記研削方向に延びる部分に関する情報を含む画像からなる教師データによって学習された学習器を記憶する記憶部と、前記判定画像を入力データとして、前記記憶部に記憶された学習済みの学習器から、前記判定画像に対応する前記砥面の使用状態と前記特定の使用状態との差分の指標値を出力する差分出力部と、を備える。
【0009】
上記課題を解決するための学習器は、上記砥面判定装置が備える前記学習済みの学習器である。
上記課題を解決するための判定プログラムは、上記砥面判定装置が具備する前記各部の処理を、前記砥面判定装置が備える電子制御装置に実行させる判定プログラムである。
【0010】
上記課題を解決するための砥面判定方法は、複数の砥粒が結合剤によって固着された構造の砥石における砥面の状態を判定する砥面判定方法であって、判定対象の砥石の砥面を撮像した画像であって、且つ、前記判定対象の砥石の砥面における前記砥石の研削方向に延びる部分に関する情報を含む画像を取得するとともに、同画像を判定画像として砥面判定装置の入力部に記憶させる入力工程と、特定の使用状態の砥面を撮像した画像であって、且つ、前記特定の使用状態の砥面における前記研削方向に延びる部分に関する情報を含む画像を取得し、該取得した画像からなる教師データによって学習器を学習させた後に、同学習器を前記砥面判定装置の記憶部に記憶させる記憶工程と、前記判定画像を入力データとして、前記記憶部に記憶された学習済みの学習器から、前記判定画像に対応する前記砥面の使用状態と前記特定の使用状態との差分の指標値を出力する差分出力工程とを備える。
【0011】
上記砥面判定装置、学習器、判定プログラム、および砥面判定方法では、特定の使用状態になった砥面を撮像した画像が用意されるとともに、同画像を教師データとして予め学習させた学習済みの学習器が用意される。そのため、学習済みの学習器を利用して、判定対象の砥石の砥面が特定の使用状態になっていることを短い時間、且つ高い精度で判定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、砥面の状態を短い時間、且つ高い精度で判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態の砥面判定装置が適用される自動研削装置の概略構成を示す略図。
【
図2】開状態の砥石カバーおよびその周辺の構造を示す断面図。
【
図5】判定画像および教師データを構成する画像を示す略図。
【
図7】学習器から出力される生成誤差を説明するための説明図。
【
図10】(a)~(c)砥面の使用状態の変化の様子を示す説明図。
【
図11】学習器51Aから出力される生成誤差ΔP1を説明するための説明図。
【
図12】生成誤差ΔP1の推移を示すタイムチャート。
【
図13】学習器51Bから出力される生成誤差ΔP2を説明するための説明図。
【
図14】生成誤差ΔP2の推移を示すタイムチャート。
【
図15】他の実施形態の砥面判定装置にかかる学習器の学習態様を説明するための説明図。
【
図16】同学習器の入力データを説明するための説明図。
【
図17】その他の実施形態の砥面判定装置にかかる学習器の学習態様を説明するための説明図。
【
図18】他の実施形態の砥面判定装置に用いられる撮像ユニットを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、砥面判定装置、学習器、判定プログラム、砥面判定方法の一実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態の砥面判定装置30は、数値制御(NC)式の自動研削装置20に適用される。
【0015】
自動研削装置20は、研削工具として、略円板状の砥石21を有している。砥石21は、基材の外周面に多数の砥粒が分散した状態で結合剤によって固着された構造をなすものである。砥石21は、回転可能な状態で支持されている。砥石21には、例えばサーボモータを有する回転駆動部22が接続されている。自動研削装置20は、砥石21とワークとを相対移動させることが可能になっている。自動研削装置20では、砥石21を回転駆動しつつ同砥石21とワークとを相対移動させて、砥石21をワークに接触させることにより、砥石21の砥面23によって同ワークの上面が研削加工される。
【0016】
自動研削装置20は、砥石21のドレッシングを行うためのドレッサ24を有している。自動研削装置20では、任意のタイミングでドレッサ24による砥石21のドレッシングが実行される。このドレッシングにより、砥石21の砥面23が良好な状態に保たれている。
【0017】
図1および
図2に示すように、自動研削装置20は砥石カバー25を有している。砥石カバー25は、下方が開口する四角箱状をなしている。砥石21は、同砥石21の下部のみが外部に露出する状態で砥石カバー25の内部に収容されている。
【0018】
砥石カバー25における上方の壁部をなす上壁部26には、同砥石カバー25の内外を連通する開口部27が設けられている。砥石カバー25には、開口部27を開閉する板状のシャッター部28と、同シャッター部28を往復移動させるためのアクチュエータ(以下、シャッター操作部29)とが設けられている。シャッター操作部29の作動制御を通じて、シャッター部28を一方向に移動させることにより、砥石カバー25の開口部27がシャッター部28によって塞がれた閉状態(
図1に示す状態)になる。一方、シャッター操作部29の作動制御を通じて、シャッター部28を他方向に移動させることにより、シャッター部28が砥石カバー25の開口部27から退避した開状態(
図2に示す状態)になる。本実施形態では、シャッター操作部29の作動制御を通じて、砥石カバー25の開口部27が閉じられた閉状態と開かれた開状態とを切り替え可能になっている。
【0019】
砥石カバー25には、撮像部としてのカメラ31が取り付けられている。カメラ31は、砥石カバー25の開口部27を介して、同砥石カバー25の内部に収容された砥石21の砥面23を撮像可能な態様で取り付けられている。カメラ31としては、エリアスキャンカメラが採用されている。本実施形態では、カメラ31によって砥石21の砥面23が所定の倍率で撮像されるとともに、撮像された画像(詳しくは、画像データ)が後述する電子制御装置40に出力されるようになっている。なお本実施形態では、カメラ31による撮像に際して砥石21の砥面23を照らすための照明器(図示略)が同カメラ31に一体に設けられている。
【0020】
カメラ31は、X軸駆動部32、Y軸駆動部33、Z軸駆動部34を介して砥石カバー25に取り付けられている。これらX軸駆動部32、Y軸駆動部33およびZ軸駆動部34は、スライド機構と同スライド機構を作動させるアクチュエータ(本実施形態ではサーボモータ)とを有している。本実施形態では、X軸駆動部32の作動制御を通じて、カメラ31を砥石カバー25に対してX方向(
図1の左右方向)に相対移動させることが可能になっている。またY軸駆動部33の作動制御を通じて、カメラ31を砥石カバー25に対してY方向(
図1の上下方向)に相対移動させることが可能になっている。さらにはZ軸駆動部34の作動制御を通じて、カメラ31を砥石カバー25に対してZ方向(
図1における紙面の奥行き方向)に相対移動させることが可能になっている。
【0021】
自動研削装置20は電子制御装置40を有している。
図3に示すように、電子制御装置40はCPU41と、ROM42と、RAM43と、各種のプログラムやデータを記憶する記憶部44とを有している。記憶部44は、ハードディスクドライブやソリッドステートドライブ等の随時書き込み読み出しが可能な不揮発性メモリによって構成されている。電子制御装置40は、各種のプログラムやデータに基づいて各種の演算処理を実行するように構成されている。電子制御装置40は、その演算結果をもとに、研削加工についての数値制御や、砥石21のドレッシングにかかる各種制御、砥石21の砥面23の使用状態の判定にかかる各駆動部22,32,33,34の作動制御およびカメラ31の作動制御を実行する。本実施形態では、CPU41とROM42とRAM43とを有する制御部が差分出力部および画像出力部に相当する。
【0022】
自動研削装置20は表示装置35を有している。この表示装置35は電子制御装置40に接続されている。表示装置35には、砥石21の砥面23の使用状態を判定した判定結果が表示されるようになっている。
【0023】
ここで、本実施形態の砥面判定装置30は、砥石21の砥面23を撮像した画像(判定画像50)を入力データとして、学習済みの2つの学習器51A,51Bから、砥面23の使用状態を判定する装置である。具体的には、一方の学習器51Aを利用して以下の[判定条件A]を満たすか否かが判定されるとともに、他方の学習器51Bを利用して以下の[判定条件B]を満たすか否かが判定される。
【0024】
[判定条件A]判定対象の砥面23の使用状態が、ドレッシングが適正に実行された直後における砥面23の使用状態(特定の使用状態A)と同等になっていること。
[判定条件B]判定対象の砥面23の使用状態が、ドレッシングの実行開始に適したタイミングにおける砥面23の使用状態(特定の使用状態B)と同等になっていること。
【0025】
電子制御装置40の記憶部44は、各種の実行プログラム52を記憶する記憶領域や、学習器51A,51Bの機械学習に利用される教師データ53A,53Bを記憶する記憶領域を有している。記憶部44は、学習済みの学習器51A,51B(詳しくは、機械学習の実行を通じて作成された学習データ)を記憶する記憶領域を有している。また記憶部44は、判定対象の砥面23を撮像した画像(判定画像50)を記憶する入力部としての記憶領域や、砥面23の状態を判定した結果を示す判定結果データ54を記憶する記憶領域を有している。
【0026】
実行プログラム52は、学習器51A,51Bの機械学習を実行させるとともに同機械学習の実行結果を示すデータである学習データを生成させるためのプログラムを含んでいる。また実行プログラム52は、砥石21の砥面23の使用状態の判定にかかる処理(判定処理)を実行させるとともに同判定処理の実行結果を示す判定結果データ54を生成させるための判定プログラムを含んでいる。
【0027】
教師データ53A,53Bは、砥面23の使用状態を判定する能力を獲得するように、学習器51A,51Bの機械学習を行うためのデータである。
本実施形態では、教師データ53A,53Bや判定画像50の取得のために、カメラ31によって砥石21の砥面23を撮像する撮像処理が実行される。
【0028】
以下、撮像処理の実行手順について
図4を参照しつつ説明する。なお
図4は、撮像処理の実行手順を概念的に示している。同
図4のフローチャートに示される一連の処理は電子制御装置40により実行される。
【0029】
図4に示すように、この処理では先ず、シャッター操作部29の作動制御を通じてシャッター部28が開状態にされる(ステップS11)。
その後、砥面23の撮像に適した態様で砥石21を回転駆動しつつ、カメラ31による砥面23の撮像が実行される(ステップS12)。なお本実施形態では、砥石21の回転駆動パターン、カメラ31の位置制御パターン、同カメラ31の撮像パターンとして、カメラ31によって砥面23の全面を効率良く撮像することが可能になる各パターンが予め求められて電子制御装置40に記憶されている。上記各パターンを記憶部44に記憶させる手法としては、以下の(手法A)や(手法B)などが想定される。(手法A)自動研削装置20のユーザーが実際に利用する砥石21を取り付けた後に、自動研削装置20を作動させることで同砥石21に適した上記各パターンを求めて電子制御装置40に記憶させる。(手法B)自動研削装置20のメーカーは、各種の実験やシミュレーションの結果をもとに、砥石21の砥面23の全面を効率良く撮像することが可能になる上記各パターンを予め求めている。そして、それらパターンにかかるデータを、出荷前の自動研削装置20、あるいはユーザーの工場に設置された自動研削装置20に記憶させる。
【0030】
ステップS12の処理では、そうした砥石21の回転駆動パターンに基づいて回転駆動部22の作動制御が実行されるとともに、カメラ31の位置制御パターンに基づいてX軸駆動部32、Y軸駆動部33、Z軸駆動部34の作動制御が実行される。また、カメラ31の撮像パターンに基づいて同カメラ31による砥面23の撮像が実行される。そして、電子制御装置40は、カメラ31によって撮像された砥面23の画像データを取り込んで記憶部44に記憶する。詳しくは、カメラ31によって砥面23が複数回に分けて撮像される。そして、撮像した複数枚の画像を予め定めた順に縦横に並べた状態で結合することで、
図5に示すように砥面23の全体を示す一枚の画像(判定画像50または教師データ53A,53B)が生成される。電子制御装置40は、このようにして生成した画像を記憶部44に記憶する。なお、この画像には、図視しないが、砥粒および結合剤による特有の模様が現れる。
【0031】
カメラ31による砥面23の撮像が完了すると、シャッター操作部29の作動制御を通じて、シャッター部28が閉状態にされる(ステップS13)。
図4に示す撮像処理は、砥石21によるワークの研削加工や砥石21のドレッシングが実行されていないことを条件に実行される。なお撮像処理を実行する際には、その実行に先立ち、撮像対象の砥面23にエアーを吹き付けることで同砥面23表面の切削オイルを除去する作業が必要に応じて実行される。撮像処理は、具体的には、以下のように実行される。
【0032】
学習器51Aの機械学習に利用される教師データ53Aを取得する場合には、最適なドレッシングが実行された状態(特定の使用状態A)の砥石21[A]が用意されるとともに、同砥石21[A]が自動研削装置20に取り付けられる。そして、その状態で電子制御装置40による撮像処理が実行される。この撮像処理によって取得された画像データは、学習器51Aの機械学習に用いる教師データ53Aとして記憶部44に記憶される。本実施形態では、複数の砥石21[A]についての画像データが取得されて、それら画像データによって教師データ53Aが構成される。本実施形態では、砥石21[A]としては、最適なドレッシングが実行された状態になっていることが熟練工などの作業者によって判断されたものが採用される。なお砥石21[A]としては、解析装置によって砥面23を解析した結果、最適なドレッシングが実行された状態になっていると判断されたものを採用すること等も可能である。
【0033】
学習器51Bの機械学習に利用される教師データ53Bを取得する場合には、ドレッシングの実行開始に最も適した状態(特定の使用状態B)の砥石21[B]が用意されるとともに、同砥石21[B]が自動研削装置20に取り付けられる。そして、その状態で電子制御装置40による撮像処理が実行される。この撮像処理によって取得された画像データは、学習器51Bの機械学習に用いる教師データ53Bとして記憶部44に記憶される。本実施形態では、複数の砥石21[B]についての画像データが取得されて、それら画像データによって教師データ53Bが構成される。本実施形態では、砥石21[B]としては、ドレッシングの実行開始に最も適した状態になっていると熟練工などの作業者が判断したものが採用される。なお砥石21[B]としては、解析装置によって砥面23を解析した結果、ドレッシングの実行開始に最も適した状態になっていると判断されたものを採用すること等も可能である。
【0034】
自動研削装置20によってドレッシングが実行される期間においては、ドレッシングの延べ実行期間が所定期間(所定時間や、所定数だけ砥石21が回転する期間など)に達する度に、ドレッシングの実行が停止されていることを条件に、撮像処理が実行される。この撮像処理によって取得された画像データは、判定画像50として記憶部44に記憶される。
【0035】
自動研削装置20によってワークの研削加工が実行される期間においては、研削加工の延べ実行期間が所定期間(所定時間や、所定数のワークの加工が完了する期間など)に達する度に、研削加工の実行が停止されていることを条件に、撮像処理が実行される。この撮像処理によって取得された画像データは、判定画像50として記憶部44に記憶される。
【0036】
本実施形態では、2つの学習器51A,51Bとして、畳込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)が採用されている。本実施形態では、記憶部44に記憶された教師データ53A,53Bをもとに学習器51A,51Bの機械学習が実行される。詳しくは、教師データ53Aを構成する複数の画像データの一つを抽出するとともに同画像データを入力データとして学習器51Aを機械学習させるといった学習処理が、教師データ53Aを構成する画像データ毎に繰り返し実行される。また、教師データ53Bを構成する複数の画像データの一つを抽出するとともに同画像データを入力データとして学習器51Bを機械学習させるといった学習処理が、教師データ53Bを構成する画像データ毎に繰り返し実行される。そして、機械学習の実行を通じて作成された学習データが記憶部44に記憶される。本実施形態では、こうした学習器51A,51Bの機械学習にかかる一連の処理が自動的に実行されるように、実行プログラム52が構築されて記憶部44に記憶されている。本実施形態では、このようにして学習器51A,51Bの機械学習を実行する工程が記憶工程に相当する。
【0037】
図6に概念的に示すように、各学習器51A,51Bの機械学習は、詳しくは、入力データと、同入力データをもとに学習器51A,51Bによって生成される生成画像データとを同一の画像を示すデータ(画像データA)にする態様で実行される。そして、学習済みの学習器51A,51Bからは、入力データと生成画像データとの差分に相当する値が生成誤差ΔP1,ΔP2として出力される。
【0038】
これにより、学習器51A,51Bが適正に学習されている場合には、判定対象の砥石21(詳しくは、その砥面23)の使用状態を判定する判定処理が実行されると、学習器51A,51Bから以下の値(生成誤差ΔP1,ΔP2)が出力される。
【0039】
学習器51Aを利用した判定処理では、判定対象の砥石21が最適なドレッシングが実行された直後の状態(特定の使用状態A)になっている場合には、入力データ(判定画像50)と学習器51Aによって生成される生成画像データとが略同一になる。そのため、この場合には学習器51Aから出力される生成誤差ΔP1はごく小さい値(例えば「0」)になる。
【0040】
一方、例えばドレッシングの実行時間が不足したり、ドレッシング完了後において砥石21による研削加工が実行されたりすると、判定対象の砥石21の実際の使用状態は特定の使用状態Aにならない。この場合には、
図7に示すように、入力データ(判定画像50)と生成画像データとが一致しなくなるため、学習器51Aから出力される生成誤差ΔP1は、入力データと生成画像データとの差分に応じた「正の値」になる。しかも、この場合には、砥石21の実際の使用状態と特定の使用状態Aとの差が大きいときほど、入力データと生成画像データとの差分が大きくなるため、学習器51Aから出力される生成誤差ΔP1も大きい値になる。
【0041】
したがって、学習器51Aを利用した判定処理では、生成誤差ΔP1が所定レベル(判定値J1)よりも小さい値であることをもって、判定対象の砥石21の砥面23の実際の使用状態が「特定の使用状態A」になっていると判定することができる。
【0042】
学習器51Bを利用した判定処理では、判定対象の砥石21がドレッシングの実行開始に最も適した状態(特定の使用状態B)になっている場合には、入力データと学習器51Bによって生成される生成画像データとが略同一になる(
図6参照)。そのため、この場合には学習器51Bから出力される生成誤差ΔP2はごく小さい値(例えば「0」)になる。
【0043】
一方、例えばドレッシング後における砥石21の使用時間が短かったり、同使用時間が長すぎたりすると、判定対象の砥石21の実際の使用状態は特定の使用状態Bにはならない。この場合には、
図7に示すように、入力データ(判定画像50)と生成画像データとが一致しなくなるため、学習器51Bから出力される生成誤差ΔP2は、入力データと生成画像データとの差分に応じた「正の値」になる。しかも、この場合には、砥石21の実際の使用状態と特定の使用状態Bとの差が大きいときほど、入力データと生成画像データとの差分が大きくなるため、学習器51Bから出力される生成誤差ΔP2も大きい値になる。
【0044】
したがって、学習器51Bを利用した判定処理では、生成誤差ΔP2が所定レベル(判定値J2)よりも小さい値であることをもって、判定対象の砥石21の砥面23の実際の使用状態が「特定の使用状態B」になっていると判定することができる。
【0045】
以下、判定対象の砥石21の砥面23の使用状態を判定する判定処理について具体的に説明する。
図8は判定処理の実行手順を示している。同
図8のフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎の処理として、電子制御装置40により実行される。
【0046】
図8に示すように、この処理では先ず、自動研削装置20に取り付けられている砥石21の砥面23を撮像した画像(判定画像50)が取得される(ステップS21)。具体的には、前記撮像処理(
図4)が実行され、同撮像処理によって取得された画像データが判定画像50として記憶部44に記憶される。本実施形態では、ステップS21の処理が入力工程に相当する。
【0047】
その後、記憶部44に記憶された判定画像50を入力データとして、同記憶部44に記憶されている学習済みの学習器51Aから、生成誤差ΔP1が出力される(ステップS22)。この生成誤差ΔP1は判定結果データ54として記憶部44に記憶される。また、記憶部44に記憶された判定画像50を入力データとして、同記憶部44に記憶されている学習済みの学習器51Bから、生成誤差ΔP2が出力される(ステップS23)。この生成誤差ΔP2は判定結果データ54として記憶部44に記憶される。本実施形態では、ステップS22の処理およびステップS23の処理が差分出力工程に相当する。
【0048】
その後、生成誤差ΔP1,ΔP2に基づいて、判定対象の砥石21の砥面23の使用状態が特定の使用状態A,Bになっているか否かが判定される(ステップS24)。
具体的には、生成誤差ΔP1と予め定められた判定値J1とが比較される。生成誤差ΔP1が判定値J1以下である場合には砥面23が特定の使用状態Aになっていると判定される。一方、生成誤差ΔP1が判定値J1未満である場合には砥面23が特定の使用状態Aになっていないと判定される。また、生成誤差ΔP2と予め定められた判定値J2とが比較される。生成誤差ΔP2が判定値J2以下である場合には砥面23が特定の使用状態Bになっていると判定される。一方、生成誤差ΔP2が判定値J2未満である場合には砥面23が特定の使用状態Bになっていないと判定される。これら判定の結果は判定結果データ54として記憶部44に記憶される。
【0049】
その後、判定結果データ54が表示装置35に出力されて、上記判定の結果が表示装置35に表示される(ステップS25)。
図9に示すように、表示装置35には以下の内容が表示される。表示装置35には、生成誤差ΔP1の推移、および生成誤差ΔP2の推移が表示される。また表示装置35の領域AR1には、生成誤差ΔP1が判定値J1以下になっていると判定された場合に、最適なドレッシングが実行された状態(特定の使用状態A)であることを示す文字情報(詳しくは、ドレッシングOK)が表示される。さらに表示装置35の領域AR2には、生成誤差ΔP2が判定値J2以下になっていると判定された場合に、ドレッシングの実行開始に最も適した状態(特定の使用状態B)であることを示す文字情報(詳しくは、ドレスタイミング)が表示される。
【0050】
以下、本実施形態の砥面判定装置30による作用効果について説明する。
図10は、砥石21による研削加工を実行した場合における砥面23の使用状態の変化の様子の一例を示している。なお
図10には、砥面23の表面の一部を拡大して示している。
【0051】
図10(a)に示すように、適正にドレッシングがなされた直後においては、砥面23の最外周面は砥粒70の突端面のみによって構成されている。
図10(b)に示すように、砥石21による研削加工がある程度実行されると、砥面23の使用状態が変化して、砥石21の最外周面に、砥粒70以外の部分71(主に、結合剤によって構成されるいわゆるボンドテール)が現れるようになる。こうした砥粒70以外の部分71は、砥粒70の研削方向後ろ側の部分から研削方向に延びる傾向がある。
図10(c)に示すように、砥石21による研削加工の総実行時間が長くなると、砥面23の使用状態の変化が進むことにより、砥石21の最外周面における砥粒70以外の部分71が、研削方向において並ぶ砥粒70を繋ぐ態様で延びた状態になってしまう。このように、砥面23の使用状態の変化の度合いは、砥面23の最外周面において研削方向において延びる部分に現れる。
【0052】
本実施形態では、判定画像50や教師データ53A,53Bを構成する画像データとして、砥面23の全体を撮像した画像が用いられる。そのため、判定画像50や、教師データ53A,53Bを構成する画像データには、砥面23の最外周面において研削方向に延びる部分に関する情報が、同砥面23の使用状態を表す情報として含まれていると云える。したがって本実施形態では、学習器51A,51Bの機械学習に際して「砥面23の最外周面において研削方向に延びる部分」を特徴量として抽出させることができ、この特徴量に基づいて学習器51A,51Bの機械学習を進めることができる。
【0053】
そして、学習済みの学習器51Aから出力される生成誤差ΔP1は、以下のような値になる。
図11に「状態A1」で示すように、砥面23が最適なドレッシングが実行された直後の状態(特定の使用状態A)になっている場合には、入力データと学習器51Aによって生成される生成画像データとがほぼ同一になる。そのため、この場合には生成誤差ΔP1がごく小さい値になる。この場合には、生成誤差ΔP1は最も小さい値になる。
【0054】
図11に「状態B1」で示すように、砥石21による切削加工が実行されて、砥面23の使用状態が変化している場合には、入力データと生成画像データとに差が生じた状態になっているため、生成誤差ΔP1は「正の値」になる。
【0055】
図11に「状態C1」で示すように、砥石21による研削加工の総実行時間が長くなって砥面23の使用状態の変化が進んでいる場合には、入力データと生成画像データとの差が大きくなっているため、生成誤差ΔP1は大きい「正の値」になる。
【0056】
このことから、学習済みの学習器51Aから出力される生成誤差ΔP1は、基本的には、ドレッシングの実行に応じて次のように推移するようになる。
図12に示すように、学習器51Aから出力される生成誤差ΔP1は、ドレッシングの実行が開始されると(時刻t11)、その後において徐々に小さくなる。そして、砥面23が最適なドレッシングが実行された状態(特定の使用状態A)になったタイミング(時刻t12)で、生成誤差ΔP1は最も小さくなる。このとき生成誤差ΔP1は前記判定値J1を下回るようになる。なお、ドレッシングの完了後において砥石21による切削加工が実行されると、その実行に伴って生成誤差ΔP1は徐々に大きい値になる。
【0057】
本実施形態では、
図9に示すように、そうした生成誤差ΔP1の推移が表示装置35に表示されるようになっている。そのため、表示装置35に表示される生成誤差ΔP1を目視することで、砥面23の実際の使用状態が特定の使用状態Aにどれだけ近づいているのかを把握することができる。しかも本実施形態では、生成誤差ΔP1が判定値J1以下になっていると判定された場合には、表示装置35の領域AR1に、最適なドレッシングが実行された状態であることを示す文字情報が表示される。この表示を目視することにより、最適なドレッシングが実行された状態になったことを容易に把握することができる。
【0058】
一方、学習済みの学習器51Bから出力される生成誤差ΔP2は、以下のような値になる。
図13に「状態A2」で示すように、砥石21による研削加工の総実行時間が比較的短く、砥面23の使用状態がさほど変化していない場合には、入力データと学習器51Bによって生成される生成画像データとに差が生じた状態になる。この場合には、生成誤差ΔP2は「正の値」になる。
【0059】
図13に「状態B2」で示すように、砥面23がドレッシングの実行開始に最も適した状態(特定の使用状態B)になっている場合には、入力データと生成画像データとが略同一になるため、生成誤差ΔP2はごく小さい値になる。この場合、生成誤差ΔP1は最も小さい値になる。
【0060】
図13に「状態C2」で示すように、砥石21による研削加工の総実行時間が比較的長く、砥面23の使用状態の変化が進んでいる場合には、入力データと生成画像データとの差が大きくなっているため、生成誤差ΔP2は大きい「正の値」になる。
【0061】
このことから、学習済みの学習器51Bから出力される生成誤差ΔP2は、基本的には、砥石21による研削加工の実行に応じて次のように推移するようになる。
図14に示すように、学習器51Bから出力される生成誤差ΔP2は、ドレッシングの完了後において砥石21による切削加工の実行が開始されると、その後において徐々に小さくなる(時刻t21以前)。そして、砥面23がドレッシングの実行開始に最も適した状態(特定の使用状態B)になったタイミングで最も小さくなる(時刻t21)。なお、ドレッシングの実行が開始されると、その実行に伴って生成誤差ΔP2は徐々に大きくなる(時刻t21以降)。
【0062】
本実施形態では、
図9に示すように、そうした生成誤差ΔP2の推移が表示装置35に表示されるようになっている。そのため、表示装置35に表示される生成誤差ΔP2を目視することで、砥面23の実際の使用状態が特定の使用状態Bにどれだけ近づいているのかを把握することができる。しかも本実施形態では、生成誤差ΔP2が判定値J2以下になっていると判定された場合には、表示装置35の領域AR2に、ドレッシングの実行開始に最も適した状態であることを示す文字情報が表示される。この表示を目視することにより、ドレッシングの実行開始に最も適した状態になったことを容易に把握することができる。
【0063】
本実施形態では、このようにして表示装置35に判定結果が表示されるため、表示装置35の表示内容を作業者が目視することで、そのときどきの砥面23の使用状態を容易に把握することができる。
【0064】
本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)特定の使用状態A,Bになった砥面23を撮像した画像を用意するとともに、同画像を教師データ53A,53Bとして学習させた学習済みの学習器51A,51Bを予め用意するようにした。そのため、学習済みの学習器51A,51Bを利用して、判定対象の砥石21の砥面23が特定の使用状態A,Bになっていることを高い精度で判定することができる。しかも、砥面23を緻密に観察したり計測したりすることによって同砥面23の使用状態を評価する装置と比較して、判定対象の砥石21の砥面23が特定の使用状態A,Bになっていることを短い時間で判定することができる。
【0065】
(2)最適なドレッシングが実行された状態(特定の使用状態A)の砥石21[A]の砥面23を撮像した画像を取得するとともに、同画像を教師データ53Aとして学習器51Aの機械学習に利用するようにした。そのため、学習済みの学習器51Aを利用して、判定対象の砥石21の砥面23についてのドレッシングが適正になされたことを、短い時間、且つ高い精度で判定することができる。
【0066】
(3)ドレッシングの実行開始に最も適した状態(特定の使用状態B)の砥石21[B]の砥面23を撮像した画像を取得するとともに、同画像を教師データ53Bとして学習器51Bの機械学習に利用するようにした。そのため、学習済みの学習器51Bを利用して、判定対象の砥石21の砥面23がドレッシングの実行開始に適した状態になっていることを、短い時間、且つ高い精度で判定することができる。
【0067】
(4)砥面23の全体を撮像した一枚の画像を用いるといった簡素な構成で、同砥面23が特定の使用状態になったことを判定することができる。
ここで、砥石21(詳しくは、砥面23)の劣化は、砥面23の全域に現れる訳ではなく、特徴的な構造をなす領域(特定領域)において生じる。この点をふまえて、そうした特定領域における砥面23の劣化態様を学習器に学習させたうえで、同学習器を利用して砥面23の使用状態の判定を行うことが考えられる。これにより、砥面23の各部の使用状態を細かく判定することができる。ただし、この場合には、砥石21の使用過程において、砥面23の同一領域(特定領域)を逐次観察してその状態変化の様子を把握する作業が必要になる。また、学習器を学習させるための教師データとして、砥面23を撮像した画像から特定の領域の画像を切り出すといった煩雑な作業も必要になる。
【0068】
本実施形態では、砥面23の使用状態を判定する際に砥面23の全体を示す一枚の画像を用意するだけでよいため、そうした煩雑な作業が不要になり、ごく簡素な作業で砥面23の使用状態の判定を行うことができる。
【0069】
(5)学習器51A,51Bの機械学習は、入力データと同入力データをもとに学習器51A,51Bによって生成される生成画像データとを同一の画像を示すデータにする態様で実行される。そして、入力データと生成画像データとの差分に相当する値が生成誤差ΔP1,ΔP2として学習器51A,51Bから出力される。そのため、学習器51A,51Bから出力される生成誤差ΔP1,ΔP2に基づいて、判定対象の砥石21の砥面23の実際の使用状態が特定の使用状態A,Bにどれだけ近づいているのかを把握することができる。
【0070】
(6)自動研削装置20には、砥石21の砥面23を撮像するカメラ31が取り付けられている。このカメラ31によって撮像された画像は、判定画像50として、電子制御装置40の記憶部44に記憶される。そのため、砥面23を撮像する作業や砥面23を撮像した画像を電子制御装置40に記憶させる作業を、それら作業に合わせて自動研削装置20にカメラ31を着脱することなく、自動研削装置20に砥石21を取り付けた状態のままで容易に行うことができる。また、砥面判定装置30による砥面23の使用状態の判定にかかる制御や、自動研削装置20によるワークの研削加工にかかる制御、同自動研削装置20による砥石21のドレッシングにかかる制御を、組み合わせられた一連の自動制御として実行することができる。これにより、砥面23の実際の使用状態を適宜のタイミングで確認しながら、自動研削装置20によるワークの研削加工や砥石21のドレッシングを実行することができるようになる。
【0071】
(7)シャッター操作部29の作動制御を通じて、砥石カバー25の開口部27が閉じられた閉状態と開かれた開状態とを切り替え可能になっている。そのため、カメラ31による砥面23の撮像が実行されないときには、シャッター部28を閉じて、カメラ31と砥石21との間が仕切られた閉状態にすることができる。これにより、カメラ31への異物(切り粉やオイル等)の付着を抑えることができる。そして、カメラ31による砥面23の撮像を実行するときには、シャッター部28を開いてカメラ31と砥石21との間が仕切られない開状態にすることで、カメラ31による砥面23の撮像が可能な状態にすることができる。
【0072】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0073】
・教師データ53A,53Bや判定画像50として、撮像処理(
図4)によって取得された画像データをそのまま用いることに代えて、同画像データをフーリエ変換(例えば、高速フーリエ変換[FFT])したうえで用いるようにしてもよい。
【0074】
この構成では、
図15に概念的に示すように、各学習器51A,51Bの機械学習における入力データとして、撮像処理によって取得された画像データC1をフーリエ変換した画像データC2が用いられる。そして、この入力データをもとに学習器51A,51Bによって生成される生成画像データと同入力データとを同一の画像を示すデータ(画像データC2)にする態様で、各学習器51A,51Bの機械学習は実行される。また、判定対象の砥石21の使用状態を判定する判定処理においては、
図16に示すように、各学習器51A,51Bの入力データとして、撮像処理によって取得された画像データD1をフーリエ変換した画像データD2が用いられる。そして、判定処理においては、学習器51A,51Bから、入力データ(画像データD2)と生成画像データD3との差分に相当する値が生成誤差として出力される。
【0075】
撮像処理を通じて取得された画像データをフーリエ変換することで、前記特徴量(砥面23の最外周面において研削方向に延びる部分)を含む砥面23表面の特徴が周波数の概念で表されるようになる。このことから、フーリエ変換後の画像データには、砥面23の特徴(特徴量を含む)が現れるようになると云える。
【0076】
上記構成によれば、そうしたフーリエ変換した画像データを用いることで、砥面23における特徴量の大きさや分布を考慮しつつ、砥面23の使用状態を判定することができるようになる。そのため、判定対象の砥石21の砥面23が特定の使用状態A,Bになっていることを高い精度で判定することができる。
【0077】
また上記構成によっても、砥石21の使用過程において砥面23の同一領域を逐次観察してその状態変化の様子を把握する作業や、学習器を学習させるための教師データとして砥面23を撮像した画像から特定の領域の画像を切り出す作業は不要になる。そのため、簡素な作業で砥面23の使用状態の判定を行うことができる。
【0078】
なお、フーリエ変換後の画像データには、砥石の種類、詳しくは砥粒の大きさの違いや砥面における砥粒の分布態様の違いについても周波数の概念で現れるようになる。上記構成によれば、この違いを捉えることで、判定対象の砥石の種類を推定すること等も可能になる。
【0079】
・入力データをもとに学習器51A,51Bによって生成される生成データとして、画像データを採用することに代えて、砥面の使用状態に対応する特徴ベクトルを採用することができる。
【0080】
この構成では、各学習器51A,51Bの機械学習は、次のように実行される。
図17に概念的に示すように、特定の使用状態の砥面23を撮像した画像データE(入力データ)をもとに学習器51A,51Bによって特定の使用状態に対応する特徴ベクトルFを生成する態様で、各学習器51A,51Bの機械学習は実行される。なお、特徴ベクトルFとしては、画像の輝度(または明度)分布を表す量などが生成される。そして上記構成では、判定処理においては、学習器51A,51Bから、入力データ(詳しくは、判定対象の砥石21の使用状態)に対応する特徴ベクトルと特定の使用状態に対応する特徴ベクトルとの差分に相当する値が生成誤差として出力される。
【0081】
ここで、砥石21によるワークの加工回数(例えば1回)が少ない場合には、見た目には、加工前の砥面23と加工後の砥面23との間での使用状態の変化はごく小さい。これに対して、上記構成のように学習器51A,51Bによって特徴ベクトルを生成することで、そのときどきの砥面23の使用状態を数値で表すことができる。そのため、見た目では違いが分かりづらい加工前の砥面23の使用状態と加工後の砥面23の使用状態との差を、数値で表すことができるようになる。
【0082】
上記構成によれば、判定対象の砥石21の使用状態を判定する判定処理において、そうした入力データをもとに特徴ベクトルを生成するタイプの学習器が用いられる。そのため、特定の使用状態の砥面23に対応する特徴ベクトルと判定対象の砥石21の使用状態に対応する特徴ベクトルとの差分を示す数値である生成誤差をもとに、判定対象の砥石21が特定の使用状態になったことを精度良く判定することができる。また、上記差分を示す数値である生成誤差をもとに、判定対象の砥石21の使用状態と特定の使用状態とがどの程度異なるのかを高い精度で把握することなども可能になる。
【0083】
・表示装置35に表示する内容は、任意に変更することができる。例えば特定の使用状態A,Bであることを示す文字情報を表示する構成を省略してもよい。その他、特定の使用状態A,Bであることを示す文字情報のみを表示することなども可能である。
【0084】
・砥面23の状態を判定した判定結果を表示装置35に表示することに限らず、判定結果に応じて警告ブザーを吹聴したりスピーカーから音声情報を発したりするようにしてもよい。
【0085】
・砥面23の状態を判定した判定結果を表示装置35に表示する構成を省略してもよい。
・判定対象の砥石21が設けられた自動研削装置20以外の装置(専用の撮像装置や他の自動研削装置など)に搭載されたカメラによって撮像した画像を、電子制御装置40に記憶させて、教師データ53A,53Bとして用いるようにしてもよい。
【0086】
・学習器51A,51Bとしては、畳み込みニューラルネットワークを採用することに限らず、多層構造を有する一般的な順伝播型ニューラルネットワークや、サポートベクターマシン、敵対的生成ネットワーク、オートエンコーダなどを採用することができる。
【0087】
・学習器51A,51Bを機械学習させる学習態様は、入力データと生成画像データとを同一の画像を示すデータにする学習態様に限らず、任意に変更することができる。要は、学習済みの学習器51A,51Bから、判定画像50に対応する砥面23の使用状態と特定の使用状態A,Bとの差分の指標値が出力される学習態様であれば、任意の学習態様を採用することができる。
【0088】
・2つの学習器51A,51Bの一方を省略することができる。学習器51Aを有する砥面判定装置によれば、判定対象の砥石21が最適なドレッシングが実行された状態(特定の使用状態A)になっていることを判定することができる。また、学習器51Bを有する砥面判定装置によれば、判定対象の砥石21がドレッシングの実行開始に最も適した状態(特定の使用状態B)になっていることを判定することができる。
【0089】
・特定の使用状態A,Bとは異なる特定の使用状態Cの砥面を撮像した画像からなる教師データによって学習された学習器を用いることも可能である。特定の使用状態Cとしては、例えば最適なドレッシングが実行された状態になる少し前の状態を採用することができる。こうした構成によれば、砥面判定装置により、判定対象の砥石が、もう少しでドレッシングが完了する状態になっていることを把握したりアナウンスしたりすることができる。その他、特定の使用状態Cとして、ドレッシングの実行開始に最も適した状態になる少し前の状態を採用すること等も可能である。同構成によれば、砥面判定装置により、判定対象の砥石についてのドレッシングの実行タイミングが近くなっていることを把握したりアナウンスしたりすることができる。
【0090】
・学習済みの学習器51A,51Bを電子制御装置40に記憶させるための作業は、以下の(作業A)~(作業C)のように、任意の態様で実行することができる。
(作業A)判定対象の砥石21が設けられる自動研削装置20を利用して、教師データ53A,53Bを取得するとともに、同教師データ53A,53Bによって学習器51A,51Bを機械学習させる。
【0091】
(作業B)実際に使用する砥石21に対応する教師データ53A,53Bを、自動研削装置20の製造メーカー、あるいは砥石21の製造メーカーに提供してもらう。そして、教師データ53A,53Bをユーザーが使用する砥面判定装置30の電子制御装置40に記憶させることで、学習器51A,51Bを機械学習させる。
【0092】
(作業C)自動研削装置20の製造時において、学習済みの学習器51A,51Bを電子制御装置40に記憶させる。
・カメラ31を、自動研削装置20における砥石カバー25以外の部分に取り付けるようにしてもよい。
【0093】
・
図18に一例を示すように、カメラ81を有する撮像ユニット80を、自動研削装置20と別体に構成してもよい。同構成では、砥面23の使用状態を判定する際に撮像ユニット80を自動研削装置20に一時的に取り付けるとともに同撮像ユニット80によって砥面23を撮像することで、判定対象の砥石21の砥面23を撮像した画像(判定画像50)を取得することができる。上記構成によれば、撮像ユニット80によって砥面23を撮像する際に、自動研削装置20を構成する各種の駆動部を利用して、砥石21(詳しくは、その砥面23)と撮像ユニット80との相対位置を制御することができる。なお各種の駆動部としては、砥石21を移動させる移動装置や、ワークが固定されるテーブルを移動させる移動装置などを挙げることができる。
【0094】
・判定画像50として、砥面23の全体を示す一枚の画像を用いることに限らず、砥面23の一部(例えば半分)を示す一枚の画像を用いたり、砥面23の全体を示す画像を複数に分割した複数枚の画像を用いたりすることができる。
【0095】
・上記実施形態にかかる砥面判定装置は、円柱状の基材の底面に多数の砥粒が結合剤によって固着された構造をなす砥石にも適用することができる。
・上記実施形態にかかる砥面判定装置は、自動研削装置と別体の装置として構成することができる。同構成では、砥面の使用状態を判定する際には、判定対象の砥石が自動研削装置から取り外されるとともに砥面判定装置に取り付けられる。その後、砥面判定装置によって砥面の使用状態が判定される。
【符号の説明】
【0096】
20…自動研削装置
21…砥石
23…砥面
28…シャッター部
29…シャッター操作部
30…砥面判定装置
31…カメラ
32…X軸駆動部
33…Y軸駆動部
34…Z軸駆動部
40…電子制御装置
44…記憶部
50…判定画像
51A,51B…学習器
52…実行プログラム
53A,53B…教師データ
54…判定結果データ
70…砥粒
71…部分
80…撮像ユニット
81…カメラ
【手続補正書】
【提出日】2022-07-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0036
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0036】
本実施形態では、2つの学習器51A,51Bとして、敵対的生成ネットワークが採用されている。本実施形態では、記憶部44に記憶された教師データ53A,53Bをもとに学習器51A,51Bの機械学習が実行される。詳しくは、教師データ53Aを構成する複数の画像データの一つを抽出するとともに同画像データを入力データとして学習器51Aを機械学習させるといった学習処理が、教師データ53Aを構成する画像データ毎に繰り返し実行される。また、教師データ53Bを構成する複数の画像データの一つを抽出するとともに同画像データを入力データとして学習器51Bを機械学習させるといった学習処理が、教師データ53Bを構成する画像データ毎に繰り返し実行される。そして、機械学習の実行を通じて作成された学習データが記憶部44に記憶される。本実施形態では、こうした学習器51A,51Bの機械学習にかかる一連の処理が自動的に実行されるように、実行プログラム52が構築されて記憶部44に記憶されている。本実施形態では、このようにして学習器51A,51Bの機械学習を実行する工程が記憶工程に相当する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0086
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0086】
・学習器51A,51Bとしては、敵対的生成ネットワークを採用することに限らず、オートエンコーダなどを採用することができる。