(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161282
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20221014BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
H01F17/04 Z
H01F17/04 F
H01F27/29 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065965
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087985
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 宏司
(72)【発明者】
【氏名】相良 卓馬
(72)【発明者】
【氏名】孝山 康太
(72)【発明者】
【氏名】宮本 昌史
(72)【発明者】
【氏名】中本 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 香織
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070AB10
5E070BA03
5E070EA01
5E070EB04
(57)【要約】
【課題】天板に対して荷重が加わる場合に、当該荷重に対して耐えやすくなり、天板が破損することを抑制する。
【解決手段】コイル部品10において、第1鍔部12は、巻芯部11の第1正方向X1の第1端に接続している。第2鍔部13は、巻芯部11の第1負方向X2の第2端に接続している。天板40は、巻芯部11よりも中心軸線CAに沿う方向に長く延びるとともに、第1鍔部12及び第2鍔部13に接着剤50を介して接続している。接着剤50は、巻芯部11に接触していない。天板40の表面上において接着剤50が存在する範囲を第1存在範囲A1とする。第1鍔部12の表面上において接着剤50が存在する第2範囲A21と第2鍔部13の表面上において接着剤50が存在する第4範囲A22とを合わせた範囲を第2存在範囲A2とする。このとき、第1存在範囲A1は、第2存在範囲A2よりも大きい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線を有する巻芯部と、前記巻芯部における前記中心軸線に沿う方向の第1端に接続しており、前記巻芯部の周面よりも前記中心軸線を中心とする径方向の外側に張り出している第1鍔部と、前記巻芯部における前記第1端とは反対側の第2端に接続しており、前記巻芯部の周面よりも前記中心軸線を中心とする径方向の外側に張り出している第2鍔部と、を有するコアと、
前記中心軸線を回転軸として、前記巻芯部の周面上を螺旋状に延びる部分を有するワイヤと、
前記巻芯部よりも前記中心軸線に沿う方向に長く延びるとともに、前記第1鍔部及び前記第2鍔部に接着剤を介して接続している天板と、を備え、
前記接着剤は、前記巻芯部に接触しておらず、
前記天板の表面上において前記接着剤が存在する範囲を第1存在範囲とし、前記第1鍔部の表面上において前記接着剤が存在する範囲と前記第2鍔部の表面上において前記接着剤が存在する範囲とを合わせた範囲を第2存在範囲としたとき、
前記第1存在範囲は、前記第2存在範囲よりも大きい
コイル部品。
【請求項2】
前記第1存在範囲の一部は、前記巻芯部と向かい合っている
請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記第1存在範囲において、前記接着剤は、膜厚部と、膜薄部と、を有しており、
前記膜厚部は、前記天板の表面において、山頂点よりも当該天板の表面から離れた位置までの厚みを有する部分であり、
前記膜薄部は、前記天板の表面において、前記山頂点までの厚みを有しない部分であり、
前記膜薄部は、前記巻芯部と向かい合っている
請求項2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記第1存在範囲の大きさは、前記第2存在範囲の大きさの1.1倍以上である
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記天板の表面の展開面積比は、0.15以上、0.50以下である
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記天板の表面の展開面積比は、前記第1鍔部及び第2鍔部の表面の展開面積比よりも大きい
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のコイル部品は、中心軸線を有する巻芯部と、第1鍔部と、第2鍔部と、天板と、を有するコアを備えている。巻芯部は四角柱状になっている。第1鍔部は、巻芯部の第1端に接続している。第1鍔部は、巻芯部の周面よりも中心軸を中心とする径方向の外側に張り出している。第2鍔部は、巻芯部の第2端に接続している。第2鍔部は、巻芯部の周面よりも中心軸を中心とする径方向の外側に張り出している。そして、天板は、巻芯部よりも、中心軸線に沿う方向に長く延びている。天板は、第1鍔部及び第2鍔部に接着剤を介して接続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のコイル部品では、天板に荷重が加わることがある。具体的には、例えば、コイル部品を基板上に実装する際に天板を基板側に向かって押さえつけることがある。このように、天板に対して荷重が加わる場合に、天板が当該荷重に耐えられず、破損する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本開示の一態様は、中心軸線を有する巻芯部と、前記巻芯部における前記中心軸線に沿う方向の第1端に接続しており、前記巻芯部の周面よりも前記中心軸線を中心とする径方向の外側に張り出している第1鍔部と、前記巻芯部における前記第1端とは反対側の第2端に接続しており、前記巻芯部の周面よりも前記中心軸線を中心とする径方向の外側に張り出している第2鍔部と、を有するコアと、前記中心軸線を回転軸として、前記巻芯部の周面上を螺旋状に延びる部分を有するワイヤと、前記巻芯部よりも前記中心軸線に沿う方向に長く延びるとともに、前記第1鍔部及び前記第2鍔部に接着剤を介して接続している天板と、を備え、前記接着剤は、前記巻芯部に接触しておらず、前記天板の表面上において前記接着剤が存在する範囲を第1存在範囲とし、前記第1鍔部の表面上において前記接着剤が存在する範囲と前記第2鍔部の表面上において前記接着剤が存在する範囲とを合わせた範囲を第2存在範囲としたとき、前記第1存在範囲は、前記第2存在範囲よりも大きいコイル部品である。
【0006】
上記構成によれば、接着剤のうち天板の表面上に広がっている部分は、天板に対する保護層として機能する。そして、接着剤は、天板の表面上において、天板と各鍔部との固定に必要な範囲を超えて広がっている。このように天板の表面上の広い範囲に接着剤が存在することで、天板及び接着剤を合わせた全体としての機械的な強度が向上する。その結果、天板に荷重がかかっても、天板が破損することは抑制できる。
【発明の効果】
【0007】
天板に対して荷重が加わる場合に、当該荷重に対して耐えやすくなり、天板が破損することを抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
<コイル部品の一実施形態>
以下、コイル部品の一実施形態について説明する。なお、図面は理解を容易にするため構成要素を拡大して示している場合がある。構成要素の寸法比率は実際のものと、又は別の図中のものと異なる場合がある。また、断面図ではハッチングを付しているが、理解を容易にするために一部の構成要素のハッチングを省略している場合がある。
【0010】
(全体構成)
図1に示すように、コイル部品10は、コア10Cを備えている。コア10Cは、巻芯部11を備えている。巻芯部11は、四角柱状である。したがって、巻芯部11は、中心軸線CAを有し、且つ中心軸線CAに沿う方向に延びている。また、巻芯部11は、中心軸線CAを囲む周面11Fを有している。
【0011】
なお、以下の説明では、中心軸線CAに沿う方向に延びる軸を第1軸Xとする。また、
図2に示すように、中心軸線CAに直交する巻芯部11の断面において、四角形を構成する4つの辺のうちいずれか特定の辺と平行に延びる軸を第2軸Yとする。そして、
図1に示すように、第1軸X及び第2軸Yに直交する軸を第3軸Zとする。すなわち、第3軸Zは、中心軸線CAに直交する直交軸である。また、第1軸Xに沿う方向の一方を第1正方向X1とし、第1軸Xに沿う方向の他方を第1負方向X2とする。そして、
図2に示すように、第2軸Yに沿う方向の一方を第2正方向Y1とし、第2軸Yに沿う方向の他方を第2負方向Y2とする。さらに、
図1に示すように、第3軸Zに沿う方向の一方を第3正方向Z1とし、第3軸Zに沿う方向の他方を第3負方向Z2とする。すなわち、第3正方向Z1の反対方向が第3負方向Z2である。
【0012】
図1に示すように、コア10Cは、さらに第1鍔部12と、第2鍔部13と、を備えている。第1鍔部12は、巻芯部11の第1正方向X1の端である第1端に接続している。第1鍔部12は、巻芯部11の周面11Fよりも、中心軸線CAを中心とする径方向の外側に張り出している。
図2に示すように、巻芯部11の周面11Fからの突出量は、第2正方向Y1及び第2負方向Y2においては同一である。一方で、
図1に示すように、第3負方向Z2における巻芯部11の周面11Fからの突出量は、第3正方向Z1における巻芯部11の周面11Fからの突出量よりも大きい。換言すれば、第1鍔部12の第3軸Zに沿う方向の中心は、巻芯部11の中心軸線CAよりも第3負方向Z2にずれている。
【0013】
第2鍔部13は、巻芯部11の第1負方向X2の端である第2端に接続している。第2鍔部13は、巻芯部11を挟んで、第1鍔部12と第1軸Xに沿う方向に対称形状になっている。第1鍔部12及び第2鍔部13における、巻芯部11の中心軸線CAに直交する断面は、四角形である。
【0014】
コア10Cの材質は、非導電性材料である。コア10Cの材質は、例えば、アルミナ、ニッケル亜鉛系フェライト、樹脂、又はこれらの混合物等である。
コイル部品10は、第1端子電極21と、第2端子電極22と、を備えている。
【0015】
図3に示すように、第1端子電極21は、第1鍔部12の表面に位置している。具体的には、第1鍔部12の第3負方向Z2の端における表面に位置している。
第2端子電極22は、第2鍔部13の表面に位置している。具体的には、第2鍔部13の第3負方向Z2の端における表面に位置している。
【0016】
第1端子電極21及び第2端子電極22は、銀の金属層及び金属層の表面に施された銅、ニッケル、錫のめっき層からなる。本実施形態では、コイル部品10において、第1端子電極21及び第2端子電極22が存在する面、すなわち第3負方向Z2を向く面は、コイル部品10を基板に実装する際に基板と対向する面である。
【0017】
図1に示すように、コイル部品10は、ワイヤ30を備えている。ワイヤ30の第1端は、第1端子電極21に接続している。ワイヤ30の第2端は、第2端子電極22に接続している。ワイヤ30は、中心軸線CAを回転軸として、巻芯部11の周面11F上を螺旋状に延びる部分を有している。具体的には、ワイヤ30の第1端と第2端との中央部分は、螺旋状に周面11F上を延びている。一方で、ワイヤ30における第1端から一部分は、周面11Fとは離れて、中心軸線CAを回転軸として、螺旋状に延びている。同様に、ワイヤ30における第2端から一部分は、周面11Fとは離れて、中心軸線CAを回転軸として、螺旋状に延びている。
【0018】
コイル部品10は、天板40を備えている。天板40は、第2軸Yに沿う方向よりも第1軸Xに沿う方向に長い長方形の板状である。天板40は、コア10Cの第3正方向Z1の端に接続している。すなわち、天板40は、コア10Cのうち、第1端子電極21及び第2端子電極22が配置されている端と反対側の端に接続している。天板40は、第1鍔部12の第3正方向Z1の端面と第2鍔部13の第3正方向Z1の端面とを架け渡すように、コア10Cに接続している。そのため、天板40の第1軸Xに沿う方向の寸法は、巻芯部11の第1軸Xに沿う方向の寸法よりも大きい。換言すると、天板40は、巻芯部11よりも中心軸線CAに沿う方向に長く延びている。また、
図2に示すように、天板40の第2軸Yに沿う方向の寸法は、第1鍔部12の第2軸Yに沿う方向の寸法及び第2鍔部13の第2軸Yに沿う方向の寸法と略同一である。
【0019】
ここで、コア10Cの表面粗さ及び天板40の表面粗さを説明する。以下の各数値は、天板40の第3負方向Z2を向く面、第1鍔部12の第3正方向Z1を向く表面を、それぞれ測定したものである。
【0020】
コア10Cの表面粗さについて、コア10Cの表面の展開面積比Sdrは、0.08である。コア10Cの表面の山頂点TPの算術平均値Spcは、2160である。コア10Cの表面の算術平均高さSaは、0.40である。これらの値は、ISO25178にて定められた規格で、非接触式にて測定した。
【0021】
一方で、天板40の表面粗さについて、天板40の表面の展開面積比Sdrは、0.19である。天板40の表面の山頂点TPの算術平均値Spcは、2860である。天板40の表面の算術平均高さSaは、0.28である。そのため、天板40の表面の展開面積比Sdrは、0.15以上であり、且つ0.50以下である。また、天板40の表面の展開面積比Sdrは、コア10Cの表面の展開面積比Sdrよりも大きい。
【0022】
このように、コア10C及び天板40の表面はいずれも一定の粗さを有している。そして、天板40の表面は、コア10Cの表面と比べて、粗さが大きくなっている。
図1に示すように、天板40は、第1鍔部12及び第2鍔部13に接着剤50を介して接続している。一方で、接着剤50は、巻芯部11には接触してない。接着剤50は、天板40と第1鍔部12とを接続する第1接着部51と、天板40と第2鍔部13とを接続する第2接着部52とに分かれている。接着剤50は、熱硬化性の接着剤であり、例えばエポキシ樹脂からなる。
【0023】
図4に示すように、第1接着部51は、第1鍔部12と天板40とを接続している。また、
図5に示すように、第1接着部51は、天板40の第3負方向Z2を向く面のうち、第1軸Xに沿う方向の中央よりも第1正方向X1側に位置している。
【0024】
そして、
図3及び
図4に示すように、第1接着部51は、天板40の第3負方向Z2を向く面のうち、第1範囲A11に濡れ広がっている。
図5に示すように、第1範囲A11において、第1接着部51は、第1膜厚部51Aと、第1膜薄部51Bと、を有している。
【0025】
図6に示すように、第1膜厚部51Aは、粗さのある天板40の表面において、山頂点TPよりも表面から離れた位置までの厚みを有する部分である。第1膜厚部51Aは、天板40の第3負方向Z2を向く面のうち、天板40の第1軸Xに沿う方向の中央よりも第1正方向X1側に位置している。
【0026】
一方で、第1膜薄部51Bは、粗さのある天板40の表面において、山頂点TPまでの厚みを有しない部分である。すなわち、
図7に示すように、第1膜薄部51Bは、粗さのある天板40の表面において山頂点TPと山頂点TPとの間の谷間の部分に濡れ広がっているものの、天板40の山頂点TPは覆われていない。また、
図5に示すように、第1膜薄部51Bは、第3軸Zに沿う方向から視たときに、第1膜厚部51Aの周りを囲んでいる。そして、第1膜薄部51Bの第1負方向X2の端は、天板40の第1軸Xに沿う方向の中央まで至っていない。
【0027】
図4に示すように、第1鍔部12の第3正方向Z1を向く面は、第1接着部51の第1膜薄部51Bの一部分に向かい合っている。そして、
図3及び
図4に示すように、第1鍔部12は、第1接着部51のうち、第1膜厚部51Aの一部分を介して天板40に接続している。そのため、
図5に示すように、第1鍔部12の表面上において接着剤50が存在している範囲である第2範囲A21は、第1接着部51における第1膜厚部51Aが存在している範囲よりも小さい。そのため、第1範囲A11は、第2範囲A21より大きい。
【0028】
また、
図3に示すように、第2接着部52は、天板40の第3負方向Z2を向く面のうち、第3範囲A12に濡れ広がっている。
図5に示すように、第3範囲A12において、第2接着部52は、第2膜厚部52Aと、第2膜薄部52Bと、を有している。
【0029】
第2接着部52は、第3軸Zに沿う方向から視たときに、天板40の第1軸Xに沿う方向の中央を通る第2軸Yに平行な軸を対称軸として、第1接着部51と線対称である。そのため、第2膜厚部52Aは、第1膜厚部51Aと同様に、粗さのある天板40の表面において山頂点TPよりも表面から離れた位置までの厚みを有する部分である。第2膜厚部52Aは、天板40の第3負方向Z2を向く面のうち、天板40の第1軸Xに沿う方向の中央よりも第1負方向X2の端に位置している。
【0030】
一方で、第2膜薄部52Bは、第1膜薄部51Bと同様に、粗さのある天板40の表面において、山頂点TPまでの厚みを有しない部分である。すなわち、第2膜薄部52Bは、粗さのある天板40の表面において山頂点TPと山頂点TPとの間の谷間の部分に濡れ広がっているものの、天板40の山頂点TPは覆われていない。また、第2膜薄部52Bは、第3軸Zに沿う方向から視たときに、第2膜厚部52Aの周りを囲んでいる。そして、第2膜薄部52Bの第1正方向X1の端は、天板40の第1軸Xに沿う方向の中央まで至っていない。そのため、第2膜薄部52Bと第1膜薄部51Bとは、接触していない。すなわち、第1範囲A11と、第3範囲A12とは、離れている。なお、天板40の表面において接着剤50が存在している範囲を第1存在範囲A1とするとき、第1存在範囲A1は、第1範囲A11と第3範囲A12とを合わせた範囲である。
【0031】
図4に示すように、第2鍔部13の第3正方向Z1を向く面は、第2接着部52の第2膜薄部52Bの一部分に向かい合っている。そして、
図3に示すように、第2鍔部13は、第2接着部52のうち、第2膜厚部52Aの一部分を介して天板40に接続している。そのため、
図5に示すように、第2鍔部13の表面上において接着剤50が存在している範囲である第4範囲A22は、第2接着部52における第2膜厚部52Aが存在している範囲よりも小さい。そのため、第3範囲A12は、第4範囲A22より大きい。
【0032】
第2範囲A21と、第4範囲A22と、を合わせた範囲を第2存在範囲A2とする。第1存在範囲A1は、第2存在範囲A2よりも大きい。具体的には、第1存在範囲A1は、第2存在範囲A2の大きさの1.1倍以上となっている。
【0033】
また、第3軸Zに沿う方向から視たときに、巻芯部11の天板40に向かい合っている面は、第1範囲A11の一部及び第3範囲A12の一部と重なっている。すなわち、第1存在範囲A1の一部は、巻芯部11と向かい合っている。巻芯部11と向かい合っている第1存在範囲A1の一部には、第1膜薄部51Bと第2膜薄部52Bとが含まれている。
【0034】
(製造方法)
次に、コイル部品10の製造方法を説明する。
図8に示すように、コイル部品10の製造方法は、コア準備工程S10と、ワイヤ巻き回し工程S11と、天板準備工程S12と、塗布工程S13と、配置工程S14と、硬化工程S15と、を備えている。
【0035】
コア準備工程S10では、まず、コア10Cを準備する。例えば、フェライトの粉末を金型でプレス成型することで得られた成形体を焼成する。焼成後にバリ取り処理を行うことによってバリをとる。これにより、巻芯部11と、第1鍔部12と、第2鍔部13と、を有するコア10Cを形成する。
【0036】
次に、コア10Cのうち、第1鍔部12の表面に第1端子電極21を形成するとともに、第2鍔部13の表面に第2端子電極22を形成する。例えば、めっき等によって、各端子電極を形成する。
【0037】
次に、ワイヤ巻き回し工程S11を行う。ワイヤ巻き回し工程S11では、巻芯部11に、ワイヤ30を巻き回す。ワイヤ30のうち、第1軸Xに沿う方向において、両端の約1回転分は、巻芯部11の周面11Fから離れて巻き回される。その後、ワイヤ30の第1端を第1端子電極21に圧着する。そして、ワイヤ30の第2端を第2端子電極22に圧着する。これにより、ワイヤ30が巻き回されたコア10Cを準備する。
【0038】
次に、天板準備工程S12を行う。天板準備工程S12では、所定の表面粗さを持つ天板40を準備する。具体的には、上述したように、展開面積比Sdrが、0.15以上0.50以下の天板40を準備する。天板準備工程S12では、コア準備工程S10と同様に、フェライトの粉末を金型でプレス成型することで得られた成形体を焼成し、バリ取り処理を行うことで天板40を形成する。
【0039】
次に、塗布工程S13を行う。塗布工程S13では、先ず、天板40のコア10Cと向かい合う面のうち、第1軸Xに沿う方向における両端部の2箇所に、接着剤50を塗布する。具体的には、接着剤50を、ディスペンサによって、所定量だけ吐出する。このとき、天板40上に載せられた接着剤50は、表面張力により、相応の厚みを持つ。その後、所定時間経過させる。所定時間の例は数秒~数十秒であり、接着剤50の流動性が失われない時間である。これにより、接着剤50は、粗さを持つ天板40の表面のうち、第3軸Zに沿う方向から視たときに、周囲に徐々に濡れ広がっていく。したがって、接着剤50は、厚みが徐々に小さくなるとともに第3軸Zに沿う方向から視たときの塗布範囲が広がっていく。より具体的には濡れ広がる接着剤50の中央部分は、粗さのある天板40の表面において、山頂点TPよりも表面から離れた位置までの厚みを有する。一方で、濡れ広がる接着剤50の縁部分は、粗さのある天板40の表面において、山頂点TPまでの厚みを有しない。なお、2箇所の接着剤50のうちの一方は第1接着部51となり、他方は第2接着部52となる。
【0040】
次に、配置工程S14を行う。配置工程S14では、天板40のうち接着剤50を塗布した面に対して、コア10Cの第1鍔部12及び第2鍔部13の表面が向かい合うように配置する。これにより、天板40に塗布された2箇所の接着剤50のうち、粗さのある天板40の表面において山頂点TPよりも表面から離れた位置までの厚みを有する部分の一部が、第1鍔部12及び第2鍔部13に接触する。すなわち、塗布工程S13で天板40の表面に接着剤50を塗布する範囲は、配置工程S14において接着剤50が第1鍔部12に接触する範囲と接着剤50が第2鍔部13に接触する範囲とを合わせた範囲より大きい。
【0041】
また、天板40の接着剤50を塗布した範囲には、ワイヤ30のうち、周面11Fから離れて延びる箇所も接触する。一方で、接着剤50が巻芯部11に触れないように、第1鍔部12及び第2鍔部13を接着剤50に接触させる。より具体的には、濡れ広がる接着剤50の厚みは、第3正方向Z1における巻芯部11の周面11Fからの突出量よりも小さい。また、濡れ広がる接着剤50のうち、粗さのある天板40の表面において山頂点TPまでの厚みを有しない縁部分は、コア10Cとは接触しない。
【0042】
次に、硬化工程S15を行う。硬化工程S15では、接着剤50を介して配置されたコア10C及び天板40を、加熱処理する。これにより、接着剤50は、硬化される。その結果、天板40は、接着剤50を介してコア10Cに接続する。具体的には、天板40の第1軸Xに沿う方向の中央よりも第1正方向X1に位置する第1接着部51と、天板40の第1軸Xに沿う方向の中央よりも第1負方向X2に位置する第2接着部52と、が硬化する。第1接着部51では、天板40の表面上に接着剤50が存在する第1範囲A11は、第1鍔部12の表面上に接着剤50が存在する第2範囲A21より大きくなる。第2接着部52では、天板40の表面上に接着剤50が存在する第3範囲A12は、第2鍔部13の表面上に接着剤50が存在する第4範囲A22より大きくなる。すなわち、第1存在範囲A1は、第2存在範囲A2より大きくなる。これにより、コイル部品10が完成する。
【0043】
(実施形態の作用)
コイル部品10は、基板に搭載される場合に、保持具によって天板40の第3正方向Z1の面が保持され、基板に搭載される。このとき、天板40に対して第3負方向Z2の荷重が加わる。このような荷重が加わった際に、仮に、天板40が薄い場合等には、天板40だけでは、荷重に耐えることができず、破損してしまう虞がある。
【0044】
上記実施形態によれば、第1範囲A11と第3範囲A12とを合わせた範囲である第1存在範囲A1は、第2範囲A21と第4範囲A22とを合わせた第2存在範囲A2よりも大きい。そのため、接着剤50の第1存在範囲A1のうち、第2存在範囲A2と向かい合っている部分は、第1鍔部12及び第2鍔部13と、天板40とを固定する働きをする。一方で、第1存在範囲A1のうち、第2存在範囲A2と向かい合っていない範囲では、接着剤50が、天板40の表面において、第2存在範囲A2よりも大きく濡れ広がっていることで、天板40の厚さに加えて接着剤50が存在している範囲が存在している。
【0045】
(実施形態の効果)
(1)上記実施形態によれば、接着剤50のうち天板40の表面上に濡れ広がっている部分は、天板40に対する保護層として機能する。そして、天板40の表面において接着剤50が存在している第1存在範囲A1は、第1鍔部12の表面上において接着剤50が存在する範囲と、第2鍔部13の表面上において接着剤50が存在する範囲と、を合わせた第2存在範囲A2よりも大きい。そのため、接着剤50は、天板40の表面上において、第1鍔部12及び第2鍔部13と、天板40との固定に必要な範囲を超えて広がっている。このように、天板40の表面上の広い範囲に接着剤50が存在することで、存在する接着剤50の分だけ、天板40に対する第3軸Zに沿う方向の荷重に耐えやすくなる。その結果、天板40に荷重が加わっても、破損の発生を抑制できる。
【0046】
なお、接着剤50は、巻芯部11とは接触していない。仮に、接着剤50が巻芯部11まで到達していると、ワイヤ30の多くが接着剤50と接することになり、ワイヤ30の被膜劣化の虞がある。そのため、この劣化による隣り合ったワイヤ間での短絡発生を回避することができる。また、第1鍔部12及び第2鍔部13と、天板40とを接着させるのに必要最低限な量と比べて、過度に接着剤50の量が多く必要となることはない。
【0047】
(2)上記実施形態によれば、第3軸Zに沿う方向から視たときに、巻芯部11の天板40に向かい合っている面は、第1範囲A11の一部及び第3範囲A12の一部と重なっている。すなわち、第1存在範囲A1の一部は、巻芯部11と向かい合っている。巻芯部11は、第2軸Yに沿う方向において、コイル部品10の中央に位置している。そのため、天板40が接着剤50で補強されるので、コイル部品10を基板上に実装する際に天板40に対して荷重が加わる場合でも、天板40が当該荷重に耐えることができる。
【0048】
(3)上記実施形態によれば、第1存在範囲A1の大きさは、第2存在範囲A2の大きさの1.1倍以上である。1.1倍以上あれば、第1存在範囲A1の面積として、天板40を補強できるに足る面積を確保できる。
【0049】
(4)上記実施形態によれば、天板40の表面の展開面積比Sdrは、0.15以上0.50以下である。そのため、天板40の表面に接着剤50を塗布する際に、接着剤50が天板40の微細な凸凹の間を濡れ広がりやすい。したがって、接着剤50の塗布方法として特殊な方法を採用せずとも、接着剤50を天板40の表面上の広い範囲に塗布できる。
【0050】
(5)上記実施形態によれば、天板40の表面の展開面積比Sdrは、第1鍔部12及び第2鍔部13の表面の展開面積比Sdrよりも大きい。そのため、接着剤50は、第1鍔部12及び第2鍔部13の表面よりも、天板40の表面を濡れ広がりやすい。その結果、天板40の表面上に接着剤50が濡れ広がる範囲を、第1鍔部12及び第2鍔部13の表面上に接着剤50が濡れ広がる範囲よりも大きくしやすい。
【0051】
<その他の実施形態>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で組み合わせて実施することができる。
【0052】
・上記実施形態において、巻芯部11の形状は、上記実施形態の例に限られない。例えば、円柱状でもよいし、四角柱状以外の多角柱状でもよい。
・上記実施形態において、複数のワイヤ30が巻芯部11に巻き回されていてもよい。なお、ワイヤ30の本数にあわせて、端子電極の数は、適宜調整されればよい。
【0053】
・上記実施形態において、ワイヤ30の一部は、接着剤50と接触していなくてもよい。
・上記実施形態において、天板40の形状は、上記実施形態の例に限らない。少なくとも、第1鍔部12と第2鍔部13とを架け渡していればよく、例えば、天板40の第3負方向Z2の面に、突起部が設けられていてもよい。
【0054】
・上記実施形態において、第1存在範囲A1は、巻芯部11と向かい合う部分に存在していなくてもよい。例えば、第1範囲A11は、第1鍔部12と向かい合う部分にのみ存在しており、第2範囲A21が、第1鍔部12の第3正方向Z1を向く面のうちの一部にのみ存在していてもよい。
【0055】
・上記実施形態においては、第1範囲A11と第3範囲A12とは離れているが、両者が接触しており、1つの第1存在範囲A1となっていてもよい。また、3つ以上に分かれて存在する範囲によって、第1存在範囲A1が構成されていてもよい。
【0056】
・上記実施形態において、接着剤50は、すべて膜厚部で構成されていてもよい。例えば、天板40の第3負方向Z2を向く面のすべてに、相応の量の接着剤50を塗布することで、すべて膜厚部としてもよい。この場合であっても、接着剤50は、巻芯部11とは接触しなければよい。
【0057】
・上記実施形態において、天板40の展開面積比Sdrや、コア10Cの展開面積比Sdrは、上記実施形態の例に限られない。天板40の展開面積比Sdrが0.15未満であってもよいし0.50より大きくてもよい。また、天板40の展開面積比Sdrが、コア10Cの展開面積比Sdr以下であってもよい。この場合、天板40の第3負方向Z2を向く面において、接着剤50を広く濡れ広げるために、天板40に先に接着剤50を塗布すればよい。また、天板40に接着剤50を乗せた後に、治具を用いて接着剤50を塗り広げたり、スピンコート処理等で接着剤50を塗り広げたりしてもよい。
【0058】
・上記実施形態において、第1存在範囲A1の大きさは、第2存在範囲A2の大きさの1.1倍未満であってもよい。塗布工程S13において、接着剤50の塗布範囲にばらつきが生じにくいのであれば、第1存在範囲A1の大きさが第2存在範囲A2の大きさの1.1倍未満であっても、第1存在範囲A1の大きさが第2存在範囲A2の大きさよりも大きくなる可能性は高い。
【0059】
・上記実施形態において、接着剤50は、熱硬化性の接着剤50としたが、接着剤50の種類は、適宜変更されればよい。接着剤50は、樹脂だけで構成されていてもよいし、樹脂にシリカフェラーのような無機フィラーが添加されていてもよい。なお、接着剤50に無機フィラーを含む場合、無機フィラーは、膜厚部にのみ存在しやすい。
【0060】
・上記製造方法の実施形態の塗布工程S13において、第1鍔部12及び第2鍔部13には接着剤50を塗布していないが、第1鍔部12及び第2鍔部13の表面にも接着剤50を塗布してもよい。
【0061】
また、塗布工程S13では、接着剤50を、天板40の表面に濡れ広がらせるためには、所定時間経過するのを待つ方法以外にも、天板40の材質を、より濡れ性のよい材料を用いたり、粘性の高い接着剤50を使用したりしてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10…コイル部品
10C…コア
11…巻芯部
11F…周面
12…第1鍔部
13…第2鍔部
21…第1端子電極
22…第2端子電極
30…ワイヤ
40…天板
50…接着剤
A1…第1存在範囲
A2…第2存在範囲
CA…中心軸線
S10…コア準備工程
S11…ワイヤ巻き回し工程
S12…天板準備工程
S13…塗布工程
S14…配置工程
S15…硬化工程