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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161291
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】塗工装置
(51)【国際特許分類】
   B05C 1/02 20060101AFI20221014BHJP
【FI】
B05C1/02 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021065992
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】305032254
【氏名又は名称】サンスター技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】岡本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】為野 乗寛
(72)【発明者】
【氏名】田中 愛益
【テーマコード(参考)】
4F040
【Fターム(参考)】
4F040AA19
4F040AB04
4F040AC09
4F040BA04
4F040CA03
4F040CA05
4F040CA09
4F040CA12
(57)【要約】
【課題】床面に散点状に一定の塗料を塗布できる塗工装置を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る塗工装置1は、床面に散点状に塗料を塗工する塗工装置1であって、前記床面に載置されるベース部材10と、下方に突出する複数の塗工ピン22を有する塗工ヘッド20と、前記塗工ヘッド20を離間可能に下方から保持する保持部31を有し、前記ベース部材10に昇降可能且つ無荷重時に前記塗工ピン22が前記床面から離間するよう付勢して配設される操作部材30と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面に散点状に塗料を塗工する塗工装置であって、
前記床面に載置されるベース部材と、
下方に突出する複数の塗工ピンを有する塗工ヘッドと、
前記塗工ヘッドを離間可能に下方から保持する保持部を有し、前記ベース部材に昇降可能に配設される操作部材と、
を備える、塗工装置。
【請求項2】
前記操作部材は、無荷重時に前記塗工ピンが前記床面から離間するよう付勢して配設される、請求項1に記載の塗工装置。
【請求項3】
前記操作部材は、前記保持部から前記塗工ヘッドが一定距離だけ離間した状態で前記塗工ヘッドの上面に当接するヘッド押下部を有する、請求項1又は2に記載の塗工装置。
【請求項4】
前記塗工ピンは、個別に一定距離だけ上方に後退可能に設けられる、請求項1から3のいずれかに記載の塗工装置。
【請求項5】
前記塗料を保留する塗料トレイと、
前記ベース部材に取り付けられ、前記塗料トレイを前記塗工ヘッドの直下の第1位置と鉛直方向に前記塗工ヘッドと重複しない第2位置との間で水平移動可能に保持するスライド機構を有するトレイ保持機構と、
をさらに備える、請求項1から4のいずれかに記載の塗工装置。
【請求項6】
前記トレイ保持機構は、前記スライド機構と前記塗料トレイとの間に介設され、無荷重時に前記塗料トレイを前記床面から離間させ、荷重により変形することで前記塗料トレイを前記床面に当接させる弾性支持材をさらに有する、請求項5に記載の塗工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
床材として、セラミックタイル、大理石、御影石等の光沢を有する石材が利用されている。このような床材を用いると、雨天時や清掃時に床面及び靴底に付着した水により滑りやすくなるという不都合がある。そこで、床面に、透明な塗料を散点状に塗工することで、意匠性を低下させることなく、滑りにくくすることが提案されている。
【0003】
このような防滑のための塗工を簡単に行うために、複数のピンの先端に塗料を付着させ、この複数のピンの先端を床面に当接させることで、ピンの先端に付着している塗料を床面に転写する塗布具を用いることが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/032126号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される塗布具を用いて塗工を行う場合、床面に塗布具を接触させる瞬間に塗布具が横ずれすることにより、塗布する塗料の量及び形状が一定でなくなるおそれがある。各点への塗料の塗布量は微量であるため、極めて僅かな塗布具のずれによっても、塗料の塗布量が大きくばらついて防滑性が不十分となる可能性がる。このため、床面に散点状に一定の塗料を塗布できる塗工装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る塗工装置は、床面に散点状に塗料を塗工する塗工装置であって、前記床面に載置されるベース部材と、下方に突出する複数の塗工ピンを有する塗工ヘッドと、前記塗工ヘッドを離間可能に下方から保持する保持部を有し、前記ベース部材に昇降可能に配設される操作部材と、を備える。
【0007】
上述の塗工装置において、前記操作部材は、前記ベース部材に昇降可能且つ無荷重時に前記塗工ピンが前記床面から離間するよう付勢して配設されてもよい。
【0008】
上述の塗工装置において、前記操作部材は、前記保持部から前記塗工ヘッドが一定距離だけ離間した状態で前記塗工ヘッドの上面に当接するヘッド押下部をさらに有してもよい。
【0009】
上述の塗工装置において、前記塗工ピンは、個別に一定距離だけ上方に後退可能に設けられてもよい。
【0010】
上述の塗工装置は、前記塗料を保留する塗料トレイと、前記ベース部材に取り付けられ、前記塗料トレイを前記塗工ヘッドの直下の第1位置と鉛直方向に前記塗工ヘッドと重複しない第2位置との間で水平移動可能に保持するスライド機構を有するトレイ保持機構と、をさらに備えてもよい。
【0011】
上述の塗工装置において、前記トレイ保持機構は、前記スライド機構と前記塗料トレイとの間に介設され、無荷重時に前記塗料トレイを前記床面から離間させ、荷重により変形することで前記塗料トレイを前記床面に当接させる弾性支持材をさらに有してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る塗工装置によれば、床面に散点状に一定の塗料を塗布できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る塗工装置の斜視図である。
図2図1の塗工装置の塗工時の状態を示す斜視図である。
図3図1の塗工装置の構造を簡略化して示す模式断面図である。
図4図1の塗工装置による塗工の手順を示すフローチャートである。
図5図1の塗工装置による塗工の工程を示す模式断面図である。
図6図1の塗工装置による塗工の図5の次の状態を示す模式断面図である。
図7図1の塗工装置による塗工の図6の次の状態を示す模式断面図である。
図8図1の塗工装置による塗工の図7の次の状態を示す模式断面図である。
図9図1の塗工装置による塗工の図8の次の状態を示す模式断面図である。
図10図1の塗工装置による塗工の図9の次の状態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明をする。図1は、本発明の一実施形態に係る塗工装置1の斜視図である。図2は、塗工装置1の塗工時の状態を示す斜視図である。図3は、塗工装置1の構造を簡略化して示す模式断面図である。
【0015】
塗工装置1は、光沢を有する床面に防滑性を付与するために、床面に散点状に透明な塗料を塗工する装置である。塗工装置1により塗工される散点としては、例えば、直径3mm程度、高さ200μm程度、ピッチ6mm程度の正方格子状に配置されるものとされ得る。本実施形態に係る塗工装置1は、ベース部材10、塗工ヘッド20、操作部材30、塗料トレイ40、トレイ保持機構50及びトレイ押下機構60を有する。
【0016】
ベース部材10は、床面に載置され、塗工装置1の他の構成要素を保持する。ベース部材10は、床面の塗料を塗工する領域の外側の複数の箇所に当接して、塗工装置1の他の部分を床面から浮かした状態で保持できるよう構成される。ベース部材10の床面に当接する部分には、床面の損傷防止及びベース部材10のずれ防止のために、例えばゴム等から形成される脚部材11を有してもよい。
【0017】
塗工ヘッド20は、水平に保持される支持板21と、支持板21に保持され、支持板21から下方に突出する複数の塗工ピン22と、塗工ピン22の上方を覆う抜け止め板23と、を有する構成とされ得る。
【0018】
支持板21は、操作部材30に保持される被保持部211を有する。被保持部211は、軸が水平な円柱状の係合突起212を有する。このような被保持部211を有することで、後述するように、自重によって操作部材30に対して位置決めする構成を容易に実現できる。また、支持板21には、それぞれ塗工ピン22を受け入れる複数のピン孔213が形成される。ピン孔213は、支持板21を上下に貫通するよう形成され、上側に径が大きい座ぐり部214を有する。
【0019】
塗工ピン22は、上端に径が大きい頭部221を有し、頭部221が座ぐり部214の中に保持されるよう、上側からピン孔213に挿入される。つまり、複数の塗工ピン22は、自重によって支持板21から等しい長さだけ突出し、個別に一定距離だけ上方に後退可能に設けられる。このように、塗工ピン22が昇降可能に保持されることによって、床面の凹凸を吸収して均等に塗料を塗工できる。塗工ピン22の最大後退可能量としては、例えば0.5mm以上3mm以下とすることができる。
【0020】
塗工ピン22は、先端部に塗料を付着させ、付着した塗料を床面に転写する。塗工ピン22は、表面張力によって十分な量の塗料を保持できるよう、先端部に例えば外ねじ状の凹凸等の塗料保持構造を有してもよい。例として、直径3mm程度の散点を塗工する場合に用いられる塗工ピン22としては、JIS-B1111(2017)に規定されるM2.3程度のナベ小ねじを使用することができる。
【0021】
抜け止め板23は、ピン孔213の上端を封止することにより、塗工ピン22の頭部221を座ぐり部214の中に封止する。したがって、塗工ピン22は、支持板21から一定の長さ以上突出する状態に保持される。これにより、後で詳しく説明するように、塗工ピン22の先端部に塗料を付着させる際に、全ての塗工ピン22を等しく塗料に浸漬することができる。
【0022】
操作部材30は、塗工ヘッド20を離間可能に下方から保持する保持部31と、塗工ヘッド20の上面に配置されるヘッド押下部32と、を有する。操作部材30は、ベース部材10にリニアガイド33によって昇降可能、且つ主付勢弾性体34によって無荷重時に塗工ピン22が床面から離間し、塗料トレイ40の上方に間隔を空けて位置するよう上向きに付勢して配設される。また、塗工装置1は、操作部材30を最も上昇した位置に固定するロック部材35を有してもよい。本実施形態において、ロック部材35は、リニアガイド33の案内軸の上端に設けられ、水平方向に回動することにより操作部材30と係合し得るよう構成されている。
【0023】
保持部31は、係合突起212を受け入れて支持する係合突起212の軸方向視でV字状の保持溝311を有する。このような保持溝311を設けることによって、塗工ヘッド20は、自重により、係合突起212が保持溝311の奥部に配置されるよう位置決めされる。
【0024】
操作部材30は、保持部31により塗工ヘッド20を離間可能に下方から保持することで、塗工ヘッド20を特に支持板21に大きな応力が作用しない状態で保持できる。このため、支持板21に歪が生じにくく、塗工ピン22を鉛直に保持し、塗工ピン22の先端を設計通りの配置に保持するとともに、塗工ピン22がピン孔213の中でスムーズに上下移動可能となる。このように支持板21に歪がない状態で塗工ヘッド20床面に載置することで、床面上で塗工ピン22の先端が位置ずれしにくい。また、塗工ピン22が抜け止め板23に当接すると、塗工ヘッド20が保持部31から離間するため、操作部材30をさらに押し下げる際に操作部材30が機構の遊びの範囲内で傾いたとしても、塗工ヘッド20が横滑りさせられることがなく、床面上で塗工ピン22の先端が位置ずれしにくい。このため、塗工装置1は、床面に均一な散点状に塗料を塗工することができる。
【0025】
ヘッド押下部32は、保持部31から塗工ヘッド20が一定距離だけ離間した状態で塗工ヘッド20の上面に当接する。ヘッド押下部32によって塗工ヘッド20を押下可能当することによって、後述する塗料トレイ40に留保される塗料に全ての塗工ピン22の先端部に均等に浸漬し、それぞれの塗工ピン22の先端部に均等に塗料を付着させられる。係合突起212が保持溝311の奥部に配置される状態における保持部31と塗工ヘッド20との距離としては、例えば3mm以上10mm以下とすることができる。また、ヘッド押下部32は、この塗工ヘッド20との距離を微調整可能に構成されてもよい。
【0026】
主付勢弾性体34は、ユーザが操作部材30を押し下げ可能な力で、操作部材30をその可動範囲の上端位置に向かって付勢する。このような主付勢弾性体34としては、つる巻ばねが好適に用いられる。
【0027】
塗料トレイ40は、塗料を保留する。塗料トレイ40は、側方に水平に突出するフラップ部41と、下面に突設されるリブ状の補強部42と、を有する。塗料トレイ40は、一定の厚みを有するスポンジ状の塗料保留体43を保持する。
【0028】
フラップ部41は、トレイ押下機構60が塗料トレイ40を水平に保持しながら鉛直方向に押下するために設けられる。補強部42は、塗料トレイ40の底面の平面度を維持すると共に、床面に当接し得る。補強部42は、例えばL型材又はチャンネル材によって構成され得る。塗料保留体43は、塗料が含侵し、塗工ピン22に押圧されることで局所的に凹むことができる。このような塗料保留体43を有することによって、塗工装置1の移動時に誤って塗料がこぼれることを防止できる。また、塗料保留体43は、床面が正確な水平でない場合であっても、塗料の液面を塗工ヘッド20と平行に保持し、複数の塗工ピン22に均等に塗料を付着させることを可能にする。
【0029】
トレイ保持機構50は、ベース部材10に取り付けられ、塗料トレイ40を塗工ヘッド20の直下の第1位置(図1での位置)と鉛直方向に塗工ヘッド20と重複しない第2位置(図2での位置)との間で水平移動可能に保持するスライド機構51と、スライド機構51と塗料トレイ40との間に介設され、無荷重時に塗料トレイ40を床面から離間させ、荷重により変形することで塗料トレイ40を床面に当接させる弾性支持材52と、を有する。スライド機構51は、例えば一対のスライドレールによって構成され得る。無荷重時の塗料トレイ40の床面からの離間距離としては、例えば3mm以上4mm以下程度とされる。これにより、塗料トレイ40が誤って床面に塗工した塗料に接触することを確実に防止できる。
【0030】
トレイ保持機構50は、塗料トレイ40の移動を容易にするために、スライド機構51を構成する一対のスライドレールの先端を接続し、ハンドルを有する接続バー53と、スライド機構51の上部を覆い、万一、塗料トレイ40から塗料がこぼれたときにスライド機構51の内部に浸入することを防止するレールカバー54と、を有してもよい。また、移動時に塗料トレイ40が塗工ピン22と干渉しないよう、トレイ保持機構50は、操作部材30が最も上昇した位置にあるときに、塗工ピン22と塗料トレイ40の移動方向前後の側壁上端との間に、高さ方向に例えば3mm以上5mm以下程度のクリアランスを形成するように配設されることが好ましい。
【0031】
塗工装置1は、先ず、塗料トレイ40を第1位置に配置した状態で塗工ヘッド20を下降させることにより塗工ピン22に塗料を付着させ、塗料トレイ40を第2位置に配置した状態で塗工ヘッド20を下降させることにより塗工ピン22に付着している塗料を床面に転写する。塗工装置1では、スライド機構51によって塗料トレイ40を移動することにより、塗工ピン22に塗料を付着させとき、及び塗工ピン22に付着している塗料を床面に転写するときに、それぞれ塗料トレイ40の適切な配置を担保できるので塗料トレイ40が他の構成要素と干渉することを防止できる。
【0032】
塗工装置1は、弾性支持材52により塗工ピン22に塗料を付着させるとき以外は塗料トレイ40を床面から離間させることによって、塗料トレイ40の移動をスムーズにできる。また、塗工ピン22に塗料を付着させるときには塗料トレイ40を床面に押圧することによって、塗工ピン22の押圧による塗料トレイ40の撓みを防止し、複数の塗工ピン22により均等に塗料を付着させられる。
【0033】
トレイ押下機構60は、操作部材30の下降に伴って塗料トレイ40を押下できる。トレイ押下機構60は、操作部材30と同期して昇降する昇降本体61と、昇降本体61を上向きに付勢する副付勢弾性体62と、操作部材30と昇降本体61とを分離可能に固定する固定部材63と、昇降本体61に配設され、塗料トレイ40を押下するトレイ押下部材64と、昇降本体61に配設され、昇降本体61と塗料トレイ40との最小距離を定める制限部材65と、を有する。
【0034】
昇降本体61は、操作部材30から独立して昇降可能且つ副付勢弾性体62によって上向きに付勢して配設される。昇降本体61は、固定部材63によって操作部材30に接続されることにより操作部材30と一体に昇降するが、固定部材63による操作部材30への接続を解除することで操作部材30の位置にかかわらず副付勢弾性体62により自身の最大上昇位置に保持される。
【0035】
トレイ押下部材64は、操作部材30ととも下降して塗料トレイ40に保留される塗料に塗工ピン22が浸漬する前に塗料トレイ40のフラップ部41に当接することにより塗料トレイ40を押下する。操作部材30をさらに下降させると、塗料トレイ40の補強部42が床面に当接する。また、トレイ押下部材64は、塗料トレイ40に当接した後の操作部材30及び昇降本体61のさらなる下降に伴って少なくとも部分的に弾性変形することにより、塗料トレイ40の床面への当接後に操作部材30によって保持される塗工ヘッド20の塗工ピン22のへの浸漬、つまり塗工ピン22が塗料保留体43を凹ませてその空間に溢れ出る塗料を先端部に付着させることを可能にする。
【0036】
トレイ押下部材64は、弾性体のみから形成されてもよいが、本実施形態において、トレイ押下部材64は、昇降本体61に上下方向に突出及び後退可能に配設され、下端に塗料トレイ40のフラップ部41に当接する作用部を有する当接部材641と、当接部材641の作用部と昇降本体61との間に配置され、当接部材641を突出方向に付勢するつる巻ばね642とを有する構成とされている。
【0037】
制限部材65は、トレイ押下部材64が一定量弾性変形すると塗料トレイのフラップ部41に当接するよう構成される。これによって、昇降本体61ひいては操作部材30の下降が制止され、塗工ピン22の塗料保留体43に対する最大押し込み量が一定となる。したがって、制限部材65を塗料トレイ40に当接させるまで操作部材30を押下することで、複数の塗工ピン22の先端部の常に一定の長さ範囲を塗料に浸漬できる。これにより、各塗工ピン22の先端部に一定量の塗料を付着させられるので、塗工装置1は、一定量の塗料を塗工ピン22から床面に転写することができる。
【0038】
続いて、以上の構成を有する塗工装置1による防滑塗工の手順を説明する。防滑塗工は、図4に示すように、塗工装置1を床面に配置する工程(ステップS1:塗工装置配置工程)と、塗工ピン22の先端に塗料を付着させる工程(ステップS2:塗料付着工程)と、塗料トレイ40を引き出す工程(ステップS3:塗料トレイ引出工程)と、塗工ピン22の先端の塗料を床面に転写する工程(ステップS4:塗料転写工程)と、を備える。
【0039】
ステップS1の塗工装置配置工程では、床面の塗工を行う領域の真上に塗工ヘッド20が位置するよう、塗工装置1を配置する。このとき、塗工装置1は、図1に示すように、固定部材63によって昇降本体61を操作部材30に接続し、塗料トレイ40を塗工ヘッド20の直下の第1位置に配置した状態とする。
【0040】
ステップS2の塗料付着工程では、操作部材30を押し下げる。操作部材30の下降に伴って、先ず、図5に示すように、トレイ押下機構60のトレイ押下部材64が塗料トレイ40のフラップ部41の上面に当接する。トレイ押下機構60は、塗工ピン22が塗料保留体43に当接する以前に、トレイ押下部材64がフラップ部41に当接するよう調整される。
【0041】
続けて操作部材30を下降させると、弾性支持材52を弾性変形させることにより、操作部材30及び昇降本体61と連動して塗料トレイ40が下降し、図6に示すように、少なくとも塗工ピン22が塗料保留体43により下降が妨げられて抜け止め板23に当接する前に、塗料トレイ40の補強部42が床面に当接する。このように、塗料トレイ40を操作部材30と略等しく下降させるために、弾性支持材52のばね定数の合計は、トレイ押下部材64(つる巻ばね642)の弾性率の合計と比べて十分に小さく設定される。
【0042】
さらに操作部材30を下降させると、トレイ押下部材64(つる巻ばね642)が弾性変形して昇降本体61の下降を可能にする。これにより、塗料トレイ40に支持板21が近づくが、塗工ピン22が塗料保留体43に下降を阻まれるので、図7に示すように、塗工ピン22が支持板21に対して押し上げられ、塗工ピン22の上端が抜け止め板23に当接する。
【0043】
さらに操作部材30を下降させると、塗工ピン22が抜け止め板23及び支持板21を持ち上げ、係合突起212ひいては塗工ヘッド全体を操作部材30の保持部31から上方に離間させる。操作部材30の下降を継続すると、図8に示すように、塗工ヘッド20の上面に操作部材30のヘッド押下部32が当接する。
【0044】
さらに操作部材30を下降させると、ヘッド押下部32が塗工ヘッド20全体を押し下げることにより、塗工ピン22の先端部が塗料保留体43に押し込まれる。そして、図9に示すように、制限部材65が塗料トレイ40のフラップ部41に当接するので、昇降本体61及び操作部材30の下降が制止される。このため、塗工ピン22の先願部が一定の長さだけ塗料保留体43が保留する塗料に浸漬される。
【0045】
このように、最大限に操作部材30を押し下げてから操作部材30を上昇させることによって、塗工ピン22に一定量の塗料を付着させた状態で、塗工ヘッド20を塗料トレイ40の上方に持ち上げられる。
【0046】
ステップS3の塗料トレイ引出工程では、図2に示すように、スライド機構51を動作させて塗料トレイ40を塗工ヘッド20と重ならない第2位置に引き出す。
【0047】
ステップS4の塗料転写工程では、固定部材63による操作部材30への接続を解除した状態で、操作部材30を下降させる。すると、塗工ピン22の先端が床面に当接し、図10に示すように、塗工ヘッド20が操作部材30から離間して、自重により床面に載置される状態となる。さらに操作部材30を押し下げる途中で機構の遊び等により操作部材30が傾斜した場合であっても、塗工ヘッド20が操作部材30から離間しているため、塗工ヘッド20が床面で横滑りして塗料の転写形状をいびつにすることがない。
【0048】
さらに操作部材30を押し下げると、ヘッド押下部32が塗工ヘッド20に当接するが、これにより操作部材30の下降が制止され、ヘッド押下部32が塗工ヘッド20に当接する状態で操作部材30が移動することがないので、塗料の転写形状を乱すことはない。このため、塗工装置1を用いることで、床面に均一な散点状に塗料を塗工することができる。
【0049】
以上のように、本実施形態に係る塗工装置1は、床面に載置されるベース部材10と、下方に突出する複数の塗工ピン22を有する塗工ヘッド20と、塗工ヘッドを20離間可能に下方から保持する保持部31を有し、ベース部材10に昇降可能且つ無荷重時に塗工ピン22が床面から離間するよう付勢して配設される操作部材30と、を備える構成とされている。これにより、塗工ピン22が床面に当接する瞬間に操作部材30が塗工ヘッド20を歪ませたり、塗工ヘッド20を横方向に位置ずれさせることがないので、床面に均一な散点状に塗料を塗工することができる。
【0050】
塗工装置1において、操作部材30は、保持部から塗工ヘッド20が一定距離だけ離間した状態で塗工ヘッド20の上面に当接するヘッド押下部32を有するので、塗工ピン22を塗料保留体43に押圧することにより複数の塗工ピン22に均等に塗料を付着させられる。
【0051】
塗工装置1において、塗工ピン22は、個別に一定距離だけ上方に後退可能に設けられるので、床面の凹凸を吸収して均等に塗料を塗工できる。
【0052】
塗工装置1は、塗料を保留する塗料トレイ40と、ベース部材10に取り付けられ、塗料トレイ40を塗工ヘッド20の直下の第1位置と鉛直方向に塗工ヘッド20と重複しない第2位置との間で水平移動可能に保持するスライド機構51を有するトレイ保持機構50と、をさらに備える。このため、塗工場所に配置した状態で、塗工ピン22に塗料を付着させ、塗工ピン22から床面に塗料を転写する一連の作業を行うことができるため、意図しない床面への塗料の付着を防止できる。
【0053】
塗工装置1において、トレイ保持機構50は、スライド機構51と塗料トレイ40との間に介設され、無荷重時に塗料トレイ40を床面から離間させ、荷重により変形することで塗料トレイ40を床面に当接させる弾性支持材52をさらに有する。このため、塗工ピン22に塗料を付着させる際に塗料トレイ40を床面に支持させられるので、塗工ピン22の押圧力により塗料トレイ40が歪むことによって生じ得る塗工ピン22への塗料の付着量のばらつきを防止できる。
【0054】
塗工装置1は、操作部材30の下降に伴って塗料トレイ40を押下するトレイ押下機構60をさらに備え、トレイ押下機構60は、操作部材30と同期して昇降する昇降本体61と、昇降本体61に配設され、操作部材30の下降時に、塗料トレイ40に保留される塗料に塗工ピン22が浸漬される前に塗料トレイ40に当接することにより塗料トレイ40を押下でき、少なくとも部分的な弾性変形により塗料トレイ40の床面への当接後に塗工ピン22の塗料への浸漬を可能にするトレイ押下部材64と、を有する。これにより、塗工ピン22に塗料を付着させるときに、確実に塗料トレイ40を床面に支持させた状態とすることができる。
【0055】
塗工装置1において、トレイ押下機構60は、昇降本体61と塗料トレイとの最小距離を定める制限部材65をさらに有するので、塗工ピン22の塗料への浸漬長さを毎回同じにできる。
【0056】
塗工装置1において、昇降本体61は、操作部材30から独立して昇降可能且つ上向きに付勢して配設され、トレイ押下機構60は、操作部材30と昇降本体61とを分離可能に固定する固定部材63を有する。このため、塗工装置1は、操作部材30のストロークを過度に大きくすることなく、且つ平面視での装置全体の大きさを塗工ヘッド20の大きさいに対して過度に大きくすることなく、塗工ピン22から床面に塗料を転写するときにトレイ押下機構60が他の構成要素と干渉しないようにできる。
【0057】
以上、本発明の一実施形態に係る塗工装置について説明したが、本発明に係る塗工装置の構成及びその効果は、上述したものに限定されない。
【0058】
例として、昇降本体は操作部材と一体不可分に設けられてもよい。この場合、塗工ピンから床面に塗料と転写する際に、トレイ押下機構が他の構成要素又は床面と干渉しないように設計する必要がある。また、操作部材と昇降本体とを接続する固定部材を操作部材側に設けてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 塗工装置
10 ベース部材
20 塗工ヘッド
21 支持板
211 被保持部
212 係合突起
213 ピン孔
214 座ぐり部
22 塗工ピン
221 頭部
23 抜け止め板
30 操作部材
31 保持部
311 保持溝
32 ヘッド押下部
33 リニアガイド
34 主付勢弾性体
40 塗料トレイ
41 フラップ部
42 補強部
43 塗料保留体
50 トレイ保持機構
51 スライド機構
52 弾性支持材
53 接続バー
54 レールカバー
60 トレイ押下機構
61 昇降本体
62 副付勢弾性体
63 固定部材
64 トレイ押下部材
641 当接部材
642 つる巻ばね
65 制限部材
図1
図2
図3
図4
図5
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図10