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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022016130
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/015 20060101AFI20220114BHJP
   B60N 2/90 20180101ALI20220114BHJP
【FI】
B60N2/015
B60N2/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020119433
(22)【出願日】2020-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】遠地 淳司
(72)【発明者】
【氏名】有田 優紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優樹
(72)【発明者】
【氏名】奈良木 将人
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087DA07
3B087DE10
(57)【要約】
【課題】車幅方向の端部側に配置される可倒式のシートバックを前倒姿勢から起立させて車体に係合させる際に、当該係合のために大きな力を必要としない乗物用シートを提供する。
【解決手段】乗物用シートは、左側シートバックフレームを回動可能に軸支する左外側ヒンジ13と、中央シートバックフレームを回動可能に軸支する左内側ヒンジ14とを備える。ヒンジ13,14は、ベースブラケット130,140と、ベースブラケット130,140に連続するヒンジブラケット132,142と、シートバックフレームが取り付けられるフレームブラケット131,141と、回動の中心である回動軸133,143とを有する。回動軸133の周りには、反転用スプリング135が設けられている。ヒンジ13のヒンジブラケット132とヒンジ14のヒンジブラケット142とは、互いの先端部同士が溶接部17により接合されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のフロアパネルに固定される乗物用シートであって、
車幅方向の一方端側に配置され、前倒姿勢と起立姿勢との間で姿勢変化可能な第1シートバックフレームと、
前記第1シートバックフレームに対して、車幅方向の内側に隣接して配置された第2シートバックフレームと、
前記第1シートバックフレームにおける車幅方向の前記一方端側の部分に設けられ、前記車体に設けられた係合部と係合可能な被係合部と、
車幅方向における前記第1シートバックフレームと前記第2シートバックフレームの境界部分またはその近傍に配設され、前記フロアパネルに固定される第1固定部位と、前記第1シートバックフレームの下部が接合され、前記第1固定部位に対して回動可能な第1可動部位とを有する第1ヒンジと、
前記第1ヒンジに対して車幅方向の内側に隣接する箇所に配設され、前記フロアパネルに固定される第2固定部位と、前記第2シートバックフレームの下部が接合され、前記第2固定部位に対して回動可能な第2可動部位とを有する第2ヒンジと、
前記第1ヒンジに取り付けられ、前記第1シートバックフレームの姿勢が前記起立姿勢から前記前倒姿勢となる向きの付勢力を前記第1シートバックフレームに加える付勢部材と、
前記第1ヒンジおよび前記第2ヒンジのそれぞれにおける前記フロアパネルとの固定箇所よりも上方の箇所で、前記第1ヒンジの前記第1固定部位と前記第2ヒンジの前記第2固定部位とを接合する接合部と、
を備える、
乗物用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の乗物用シートにおいて、
前記第1ヒンジは、前記フロアパネルに当接し、当該フロアパネルに固定される第1ベースブラケットと、前記第1ベースブラケットに連続するとともに、当該第1ベースブラケットの端辺から起立するように設けられた第1ヒンジブラケットと、を有し、
前記第2ヒンジは、前記フロアパネルに当接し、当該フロアパネルに固定される第2ベースブラケットと、前記第2ベースブラケットに連続するとともに、当該第2ベースブラケットの端辺から起立するように設けられた第2ヒンジブラケットと、を有し、
前記第1固定部位は前記第1ヒンジブラケットであり、前記第2固定部位は前記第2ヒンジブラケットである、
乗物用シート。
【請求項3】
請求項2に記載の乗物用シートにおいて、
前記第1ヒンジは、前記第1ヒンジブラケットに基端が接合された、前記第1シートバックフレームの回動に係る中心軸である回動軸を更に有し、
前記接合部は、前記第1ヒンジブラケットにおける前記回動軸の前記基端よりも上方の箇所に設けられている、
乗物用シート。
【請求項4】
請求項3に記載の乗物用シートにおいて、
前記第1ヒンジは、前記回動軸を中心に回動可能に設けられ、前記第1シートバックフレームが接合されるフレームブラケットを更に有し、
前記付勢部材は、前記回動軸周りに設けられ、前記フレームブラケットに作用点を有するコイルスプリングである、
乗物用シート。
【請求項5】
請求項2から請求項4の何れかに記載の乗物用シートにおいて、
前記接合部は、前記第1ヒンジブラケットと前記第2ヒンジブラケットの上端部同士を接合するように設けられている、
乗物用シート。
【請求項6】
請求項5に記載の乗物用シートにおいて、
前記第1ヒンジブラケットと前記第2ヒンジブラケットとは、当該第1ヒンジブラケットと前記第2ヒンジブラケットの前記上端部同士の間隙が、当該上端部よりも下方の部分同士の間隙よりも広くなるように設けられており、
前記接合部は、前記第1ヒンジブラケットと前記第2ヒンジブラケットの上端部同士を溶接してなる溶接部である、
乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに関し、特に可倒式の乗物シートのヒンジ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の乗物用シートとして、ユーザーの操作によりシートバックを倒すことができる可倒式のシートが採用される場合がある。例えば、特許文献1,2には、自動車の後席として採用された可倒式のシートの構造が開示されている。
【0003】
特許文献1には、自動車の車幅方向に隣接して設けられた2つのシートバックを有する乗物用シートが開示されている。特許文献1には、自動車の急減速などにより後席よりも後の荷室に積まれた荷物がシートバックに衝突したとしても、当該荷物が衝突したシートバックが前側に開いてしまうのを抑制するための技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、自動車の車幅方向に並んで設けられた3つのシートバックを有する乗物用シートが開示されている。特許文献2に開示の乗物用シートでは、車幅方向中央に配されたシートバックが前倒姿勢と起立姿勢との間で姿勢変化可能とされ、起立姿勢を保持するために姿勢変化を規制するためのロック機構が設けられている。そして、特許文献2では、自動車の急減速などにより後席よりも後の荷室に積まれた荷物が中央のシートバックに衝突したとしても、ロック機構の変形などにより不所望に当該中央のシートバックが前倒するのを抑制するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6191373号公報
【特許文献2】特開2016-150733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、車幅方向に並んだ複数のシートバックを有する可倒式の乗物用シートでは、車幅方向の両側のシートバックを前倒姿勢から起立させて車体に係合させようとする際に、当該係合に大きな力が必要となる。具体的には、シートバックは、シートバックフレームの側方上部に設けられたキャッチ部に対して、車体における対応する位置に設けられたストライカを係合させることにより、起立姿勢に保持するのであるが、前倒姿勢のシートバックを起立させる際にストライカに対するフォーク部の位置がずれる場合がある。このようにストライカに対するフォーク部の位置ずれが生じた場合には、ストライカとの係合に大きな力を要することになる。
【0007】
上記のように、車幅方向の端部側に配置される可倒式のシートバックを前倒姿勢から起立させて車体に係合させる際に、当該係合のために大きな力を必要とする原因は、ヒンジに設けられている反転用スプリングの付勢力によるシートバックの捻じれである。反転用スプリングは、シートバックが前倒姿勢である場合に、当該前倒姿勢を保持するために設けられているスプリングである。
【0008】
具体的に、反転用スプリングは、常時、シートバックを前倒姿勢側へと付勢力を加えた状態にある。そして、シートバックを前倒姿勢から起立させる際に、当該端部側のシートバックにおける車幅方向の中央側の側部が上方に向け、反対側の端部側の側部が車幅方向外側に向く方向に当該シートバックが捻じれる。このように反転用スプリングの付勢力を受けてシートバックが捻じれることにより、ストライカに対するフォーク部の位置が適正位置からずれてしまうことで、シートバックを車体に係合させるために大きな力を要することになる。
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決しようとなされたものであって、車幅方向の端部側に配置される可倒式のシートバックを前倒姿勢から起立させて車体に係合させる際に、当該係合のために大きな力を必要としない乗物用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る乗物用シートは、車体のフロアパネルに固定される乗物用シートであって、車幅方向の一方端側に配置され、前倒姿勢と起立姿勢との間で姿勢変化可能な第1シートバックフレームと、前記第1シートバックフレームに対して、車幅方向の内側に隣接して配置された第2シートバックフレームと、前記第1シートバックフレームにおける車幅方向の前記一方端側の部分に設けられ、前記車体に設けられた係合部と係合可能な被係合部と、車幅方向における前記第1シートバックフレームと前記第2シートバックフレームの境界部分またはその近傍に配設され、前記フロアパネルに固定される第1固定部位と、前記第1シートバックフレームの下部が接合され、前記第1固定部位に対して回動可能な第1可動部位とを有する第1ヒンジと、前記第1ヒンジに対して車幅方向の内側に隣接する箇所に配設され、前記フロアパネルに固定される第2固定部位と、前記第2シートバックフレームの下部が接合され、前記第2固定部位に対して回動可能な第2可動部位とを有する第2ヒンジと、前記第1ヒンジに取り付けられ、前記第1シートバックフレームの姿勢が前記起立姿勢から前記前倒姿勢となる向きの付勢力を前記第1シートバックフレームに加える付勢部材と、前記第1ヒンジおよび前記第2ヒンジのそれぞれにおける前記フロアパネルとの固定箇所よりも上方の箇所で、前記第1ヒンジの前記第1固定部位と前記第2ヒンジの前記第2固定部位とを接合する接合部と、を備える。
【0011】
上記態様に係る乗物用シートでは、第1ヒンジおよび第2ヒンジのそれぞれにおけるフロアパネルとの固定箇所よりも上方の箇所(フロアパネルの固定箇所とは異なる箇所)で、第1ヒンジの第1固定部位と第2ヒンジの第2固定部位とを接合する接合部を備えるので、第1シートバックフレームを含むシートバックを前倒姿勢から起立させて車体に係合させようとする場合に、付勢部材による付勢力を第2ヒンジに分散させることができる。よって、上記態様に係る乗物用シートでは、第1シートバックフレームを含むシートバックを起立させようとした場合の、当該第1シートバックフレームの捻じれを抑制することができ、被係合部を係合部に係合させるのに大きな力を必要としない。
【0012】
また、上記態様に係る乗物用シートでは、第1ヒンジの第1固定部位と第2ヒンジの第2固定部位とを接合して、付勢部材による付勢力を第1ヒンジから第2ヒンジへと分散させることができるので、第1ヒンジにおけるフロアパネルとの固定部分の撓みも小さく抑えることができる。
【0013】
上記態様に係る乗物用シートにおいて、前記第1ヒンジは、前記フロアパネルに当接し、当該フロアパネルに固定される第1ベースブラケットと、前記第1ベースブラケットに連続するとともに、当該第1ベースブラケットの端辺から起立するように設けられた第1ヒンジブラケットと、を有し、前記第2ヒンジは、前記フロアパネルに当接し、当該フロアパネルに固定される第2ベースブラケットと、前記第2ベースブラケットに連続するとともに、当該第2ベースブラケットの端辺から起立するように設けられた第2ヒンジブラケットと、を有し、前記第1固定部位は前記第1ヒンジブラケットであり、前記第2固定部位は前記第2ヒンジブラケットである、ことにしてもよい。
【0014】
上記のように、第1固定部位である第1ヒンジブラケットと第2固定部位である第2ヒンジブラケットとを接合部で接合する具体的な構成とすれば、第1シートバックフレームを含むシートバックを前倒姿勢から起立させようとする場合に付勢部材により加えられる付勢力を第2ヒンジブラケットに分散させることができる。よって、第1シートバックフレームを含むシートバックを前倒姿勢から起立させようとする場合の当該第1シートバックフレームの捻じれを抑制することができる。
【0015】
上記態様に係る乗物用シートにおいて、前記第1ヒンジは、前記第1ヒンジブラケットに基端が接合された、前記第1シートバックフレームの回動に係る中心軸である回動軸を更に有し、前記接合部は、前記第1ヒンジブラケットにおける前記回動軸の前記基端よりも上方の箇所に設けられている、ことにしてもよい。
【0016】
上記のように、接合部を第1ヒンジブラケットにおける回動軸の基端よりも上方の箇所に設けることにより、第1シートバックフレームを含むシートバックを前倒姿勢から起立させようとする場合に上記付勢力を第1シートバックフレームの回動の中心よりも上方の箇所で第2ヒンジへと分散させることができる。よって、上記構成を採用する場合には、第1シートバックフレームを含むシートバックを前倒姿勢から起立させようとする場合の当該第1シートバックフレームの捻じれを抑制することができ、係合のために大きな力を要することがない。
【0017】
上記態様に係る乗物用シートにおいて、前記第1ヒンジは、前記回動軸を中心に回動可能に設けられ、前記第1シートバックフレームが接合されるフレームブラケットを更に有し、前記付勢部材は、前記回動軸周りに設けられ、前記フレームブラケットに作用点を有するコイルスプリングである、ことにしてもよい。
【0018】
上記のように、付勢部材の具体例として、回動軸周りに設けられたコイルスプリングを採用する場合には、上述のように、接合部をコイルスプリングの巻回中心である回動軸よりも上方の箇所に設けることで、コイルスプリングの付勢力を効果的に第2ヒンジへと分散させることができる。よって、上記構成を採用する場合には、第1シートバックフレームを含むシートバックを前倒姿勢から起立させようとする場合の当該第1シートバックフレームの捻じれを抑制することができ、係合のために大きな力を要することがない。
【0019】
上記態様に係る乗物用シートにおいて、前記接合部は、前記第1ヒンジブラケットと前記第2ヒンジブラケットの上端部同士を接合するように設けられている、ことにしてもよい。
【0020】
上記のように、接合部を第1ヒンジブラケットと第2ヒンジブラケットの上端部同士を接合するように設けることで、第1シートバックフレームの回動に係る径方向において、回動軸から接合部までの距離を最大限大きくとることができる。このため、接合部による第1ヒンジブラケットと第2ヒンジブラケットとの接合強度をあまり大きくしなくても、コイルスプリングの付勢力を効果的に第2ヒンジへと分散させることができる。よって、上記構成を採用する場合には、第1シートバックフレームを含むシートバックを前倒姿勢から起立させようとする場合の当該第1シートバックフレームの捻じれを抑制することができ、係合のために大きな力を要することがない。
【0021】
上記態様に係る乗物用シートにおいて、前記第1ヒンジブラケットと前記第2ヒンジブラケットとは、当該第1ヒンジブラケットと前記第2ヒンジブラケットの前記上端部同士の間隙が、当該上端部よりも下方の部分同士の間隙よりも広くなるように設けられており、前記接合部は、前記第1ヒンジブラケットと前記第2ヒンジブラケットの上端部同士を溶接してなる溶接部である、ことにしてもよい。
【0022】
上記のように、接合部が溶接部であって、第1ヒンジブラケットと第2ヒンジブラケットとの間隙が、下方部分よりも上端部で広がった形状とすることにより、溶接時における作業性を良好なものとすることができる。即ち、第1ヒンジブラケットと第2ヒンジブラケットとを溶接する際には、上方から作業を行う際の作業性が良好となる。よって、溶接時にスラグ(ノロ)やスパッタが第1シートバックフレームの回動中心へと飛散するのを抑制できるとともに、高い作業性をもって広範囲な溶接を施すことも可能となる。
【発明の効果】
【0023】
上記の各態様に係る乗物用シートでは、車幅方向の端部側に配置される可倒式のシートバックを前倒姿勢から起立させて車体に係合させる際に、当該係合のために大きな力を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態に係る乗物用シートの構成の内、シートバックフレームおよびヒンジを抜き出して示す斜視図である。
図2図1のA部を拡大して示す斜視図である。
図3図1のB部を拡大して示す正面図である。
図4図1のC部を拡大して示す斜視図である。
図5図4のE部を拡大して示す斜視図である。
図6図5のF部を拡大して示す斜視図である。
図7図5のF部を拡大して示す正面図である。
図8】乗物用シートの構成の内、4つのヒンジを抜き出して示す斜視図である。
図9】比較例に係る乗物用シートの構成の内、シートバックフレームおよびヒンジを抜き出して示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一例であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0026】
また、以下の説明で用いる図面において、「FR」は当該乗物シートを搭載する車体の前方、「RE」は後方、「UP」は上方、「LO」は下方、「LE」は左方、「RI」は右方をそれぞれ示す。
【0027】
[実施形態]
1.乗物用シート1の構成
本実施形態に係る乗物用シート1の構成について、図1から図3を用いて説明する。なお、図1では、乗物用シート1の構成の内、乗員が着座するシートクッションや、シートバックにおけるクッションパッド、さらにはヘッドレストなどの図示を省略している。
【0028】
先ず、本実施形態に係る乗物用シート1は、一例として乗用自動車の後部座席として設けられるシートである。
【0029】
図1に示すように、本実施形態に係る乗物用シート1は、左側シートバックフレーム10、中央シートバックフレーム11、および右側シートバックフレーム12を備える。左側シートバックフレーム10は、車幅方向の左端に配置されている。右側シートバックフレーム12は、車幅方向の右端に配置されている。中央シートバックフレーム11は、左側シートバックフレーム10と右側シートバックフレーム12との間に配置され、左側シートバックフレーム10および右側シートバックフレーム12の双方に隣接している。
【0030】
なお、本実施形態において、左側シートバックフレーム10が「第1シートバックフレーム」に該当し、中央シートバックフレーム11が「第2シートバックフレーム」に該当する。
【0031】
左側シートバックフレーム10は、正面視において略矩形状の外観形状を有する枠体であって、アッパフレーム100と、サイドフレーム101,102と、ロアフレーム103とを有している。サイドフレーム102の下部からロアフレーム103にかけての角部分には、ブラケット107が設けられている。
【0032】
図1および図2に示すように、左側のサイドフレーム101の上部には、キャッチ部104が設けられている。フォーク部105は、車体に固定されたストライカ501との係合のために設けられている。具体的には、図2に示すように、ストライカ501は、車体に固定されるベース5010と、当該ベース5010から車幅方向中央側に向けて突出したバー5011とを有する。そして、キャッチ部104は、矢印Dで示すように左側シートバックフレーム10を起立姿勢とした際に、ストライカ501のバー5011と係合するフォーク部105を有する。ストライカ501とキャッチ部104との係合により、左側シートバックフレーム10の起立姿勢で姿勢保持されることになる。ストライカ501が「係合部」に該当し、キャッチ部104が「被係合部」に該当する。
【0033】
図1および図3に示すように、右側のサイドフレーム102の上部には、中央側に向けて延びるバー106が設けられている。左側シートバックフレーム10のバー106は、中央シートバックフレーム11との係合のための部位である。
【0034】
図1に戻って、中央シートバックフレーム11も、正面視において略矩形状の外観形状を有する枠体であって、アッパフレーム110と、サイドフレーム111,112と、ロアフレーム113とを有している。サイドフレーム111,112の下部からロアフレーム113にかけての角部分には、ブラケット117,118が設けられている。
【0035】
図1および図3に示すように、左側のサイドフレーム111の上部には、キャッチ部114が設けられている。キャッチ部114は、左側シートバックフレーム10に設けられたバー106との係合のために設けられている。
【0036】
図1に戻って、右側シートバックフレーム12は、正面視において略矩形状の外観形状を有する枠体であって、アッパフレーム120と、サイドフレーム121,122と、ロアフレーム123とを有している。サイドフレーム121の下部からロアフレーム123にかけての角部分には、ブラケット127が設けられている。右側のサイドフレーム122の上部には、左側シートバックフレーム10のキャッチ部104と同一構造のキャッチ部124が設けられている。キャッチ部124のフォーク部(図示を省略)は、車体に固定されたストライカ502のバー5021と係合可能となっている。ストライカ502とキャッチ部124との係合により、右側シートバックフレーム12も、起立姿勢で姿勢保持されることになる。
【0037】
車体のフロアパネル500には、4つのヒンジ13~16が固定されている。車幅方向における左側シートバックフレーム10と中央シートバックフレーム11との間の箇所に設けられたヒンジ(左外側ヒンジ)13は、左側シートバックフレーム10のブラケット107に接続されている。左側シートバックフレーム10は、左外側ヒンジ13により回動可能に軸支され、左側シートバックフレーム10が前方側に倒れた前倒姿勢と、図1に示す起立姿勢との間で姿勢変化可能となっている。なお、左外側ヒンジ13は、「第1ヒンジ」に該当する。
【0038】
左外側ヒンジ13の右側に隣接する箇所に設けられたヒンジ(左内側ヒンジ)14は、中央シートバックフレーム11のブラケット117に接続されている。左内側ヒンジ14から右側に間隔を空けた箇所に設けられたヒンジ(右内側ヒンジ)15は、中央シートバックフレーム11のブラケット118に接続されている。中央シートバックフレーム11は、左内側ヒンジ14と右内側ヒンジ15とにより回動可能に軸支され、中央シートバックフレーム11が前方側に倒れた前倒姿勢と、図1に示す起立姿勢との間で姿勢変化可能となっている。なお、左内側ヒンジ14は、「第2ヒンジ」に該当する。
【0039】
右内側ヒンジ15の右側に隣接する箇所に設けられたヒンジ(右外側ヒンジ)16は、右側シートバックフレーム12のブラケット127に接続されている。右側シートバックフレーム12は、右外側ヒンジ16により回動可能に軸支され、右側シートバックフレーム12が前方側に倒れた前倒姿勢と、図1に示す起立姿勢との間で姿勢変化可能となっている。
【0040】
2.ヒンジ13~16の構造
ヒンジ13~16の構造について、図4および図5を用いて説明する。なお、図4および図5では、左外側ヒンジ13および左内側ヒンジ14を図示しているが、右内側ヒンジ15および右外側ヒンジ16についても同様の構造を有する。
【0041】
図4に示すように、左外側ヒンジ13は、ベースブラケット130と、フレームブラケット131と、ヒンジブラケット132と、スプリング134,135とを有する。ベースブラケット130は、略平板状をしており、フロアパネル500に固定するための部位である。フレームブラケット131は、金属板を折り曲げ加工して形成され、左側シートバックフレーム10のブラケット107と接合するための部位である。
【0042】
ヒンジブラケット132は、ベースブラケット130の右端辺部に連続し、当該ベースブラケット130の右端辺部から上方に起立するように形成された部位である。ヒンジブラケット132の左側の主面には、左側に向けて回動軸133が突設されている。回動軸133は、フレームブラケット131に接合された左側シートバックフレーム10が回動する際の中心軸である。
【0043】
フレームブラケット131には、回動軸133と並行するピン136が突設されている。スプリング134,135は、回動軸133の周りに設けられており、巻回端がピン136に係止されている。ここで、スプリング134は、フレームブラケット131に接合された左側シートバックフレーム10を前倒姿勢から起立姿勢へと姿勢変化する向きに付勢する正転用スプリングである。これに対して、スプリング135は、フレームブラケット131に接合された左側シートバックフレーム10を起立姿勢から前倒姿勢へと姿勢変化する向きに付勢する反転用スプリングである。
【0044】
なお、ベースブラケット130とヒンジブラケット132が「第1固定部位」に該当し、「フレームブラケット131が「第1可動部位」に該当する。
【0045】
左内側ヒンジ14は、ベースブラケット140と、フレームブラケット141と、ヒンジブラケット142と、スプリング144とを有する。ベースブラケット140は、略平板状をしており、フロアパネル500に固定するための部位である。フレームブラケット141は、金属板を折り曲げ加工して形成され、中央シートバックフレーム11のブラケット117と接合するための部位である。
【0046】
ヒンジブラケット142は、ベースブラケット140の左端辺部に連続し、当該ベースブラケット140の左端辺部から上方に起立するように形成された部位である。ヒンジブラケット142の右側の主面には、右側に向けて回動軸143が突設されている。回動軸143は、回動軸133と軸芯が合致するように設けられており、フレームブラケット141に接合された中央シートバックフレーム11が回動する際の中心軸である。
【0047】
フレームブラケット141には、回動軸143と並行するピン146が突設されている。スプリング144は、回動軸143の周りに設けられており、巻回端がピン146に係止されている。ここで、スプリング144は、フレームブラケット141に接合された中央シートバックフレーム11を前倒姿勢から起立姿勢へと姿勢変化する向きに付勢する正転用スプリングである。
【0048】
なお、ベースブラケット140とヒンジブラケット142とが「第2固定部位」に該当し、フレームブラケット141が「第2可動部位」に該当する。
【0049】
図5に示すように、左外側ヒンジ13のヒンジブラケット132と左内側ヒンジ14のヒンジブラケット142とは、上端の近傍に形成された溶接部17によって接合されている。換言すると、左外側ヒンジ13と左内側ヒンジ14とは、フロアパネル500よりも上方の箇所で、ヒンジブラケット132とヒンジブラケット142とが接合されている。本実施形態における溶接部17は、「接合部」に該当する。
【0050】
なお、詳細な図示を省略しているが、右内側ヒンジ15は、左内側ヒンジ14に対して左右対称の構造を有し、右外側ヒンジ16は、左外側ヒンジ13に対して左右対称の構造を有する。そして、右内側ヒンジ15と右外側ヒンジ16とについても、ヒンジブラケット同士が溶接部17により接合されている。
【0051】
3.溶接部17の形成箇所
溶接部17の形成箇所について、図6および図7を用いて説明する。
【0052】
図6および図7に示すように、溶接部17は、左外側ヒンジ13のヒンジブラケット132の上端部と左内側ヒンジ14のヒンジブラケット142の上端部との間を接合するように形成されている。図7に示すように、左外側ヒンジ13のヒンジブラケット132と左内側ヒンジ14のヒンジブラケット142とを正面視する場合に、左外側ヒンジ13のヒンジブラケット132と左内側ヒンジ14のヒンジブラケット142とは、互いの間隙GAPが下方から上方へと行くのに従って漸次広がるように形成されている。
【0053】
左外側ヒンジ13のヒンジブラケット132と左内側ヒンジ14のヒンジブラケット142との間隙GAPを、上記のように上方に行くに従って漸次広がるようにすることで、溶接作業において、上方から作業性が良好となる。よって、溶接時にスラグ(ノロ)やスパッタがヒンジブラケット132,142とフレームブラケット131,141との各間や、回動軸133,143とフレームブラケット131,141との各間に飛散するのを抑制できるとともに、高い作業性をもって広範囲な溶接を施すことも可能となる。
【0054】
なお、図示を省略しているが、右内側ヒンジ15のヒンジブラケットと右外側ヒンジ16のヒンジブラケットとの間に形成される溶接部についても、同様の構成を有する。
【0055】
4.溶接部17を設けることで得られる効果
溶接部17を設けて左外側ヒンジ13のヒンジブラケット132と左内側ヒンジ14のヒンジブラケット142とを接合することにより得られる効果について、図8および図9を用いて説明する。なお、図8では、シートバックフレーム10~12の図示を省略している。また、図9は、比較例に係る乗物用シート9を示している。比較例に係る乗物用シート9と本実施形態に係る乗物用シート1との違いは、ヒンジ93,94のヒンジブラケット同士およびヒンジ95,96のヒンジブラケット同士をそれぞれ接合していない点である。
【0056】
先ず、図9に示すように、ヒンジ93,94のヒンジブラケット同士、およびヒンジ95,96のヒンジブラケット同士を接合していない比較例では、前倒姿勢の左側シートバックフレーム90を起立させようとする場合に、ヒンジ93に設けられた反転用スプリング(J1部分に設けられているスプリング)の強い付勢力の作用により左側シートバックフレーム90は、矢印K1,L1のように捻じれる。このため、ストライカ501のバー5011に対して左側シートバックフレーム90のキャッチ部904を係合させる際に大きな力を要する。
【0057】
なお、バー906と中央シートバックフレーム91のキャッチ部914とが係合した状態で、左側シートバックフレーム90および中央シートバックフレーム91を起立させようとする場合にも、同様の捻じれが生じる。
【0058】
また、右側シートバックフレーム92についても、前倒姿勢から起立させようとする場合に、ヒンジ96に設けられた反転用スプリング(J2部分に設けられているスプリング)の強い付勢力の作用により右側シートバックフレーム92は、矢印K2,L2のように捻じれる。このため、ストライカ502のバー5021に対して右側シートバックフレーム92のキャッチ部924を係合させる際に大きな力を要する。
【0059】
一方、本実施形態に係る乗物用シート1では、車幅方向において互いに隣接するヒンジ13,14のヒンジブラケット132,142同士が溶接部17で接合されている(G1部分)。このため、前倒姿勢の左側シートバックフレーム10を起立させようとする場合に、反転用スプリング135の付勢力がヒンジブラケット132から溶接部17を介してヒンジブラケット142に分散される。よって、ヒンジ13のベースブラケット130とヒンジ14のベースブラケット140とにより、前倒姿勢から起立させようとする際の左側シートバックフレーム10における矢印H1で示すような捻じれを抑制することができる。
【0060】
また、ヒンジ14のフレームブラケット141とヒンジ15のフレームブラケット151とは、中央シートバックフレーム11により接合されているので、反転用スプリング135の付勢力の一部は矢印Iで示すようにヒンジ15にも分散される。これによっても、前倒姿勢から起立させようとする際の左側シートバックフレーム10の捻じれが小さく抑えられる。
【0061】
同様に、車幅方向において互いに隣接するヒンジ15,16のヒンジブラケット152,162同士についても溶接部17で接合されている(G2部分)。このため、前倒姿勢の右側シートバックフレーム12を起立させようとする場合にも、反転用スプリング164の付勢力がヒンジブラケット162から溶接部17を介してヒンジブラケット152に分散される。よって、ヒンジ16のベースブラケット160とヒンジ15のベースブラケット150とにより、前倒姿勢から起立させようとする際の右側シートバックフレーム12における矢印H2で示すような捻じれも抑制することができる。
【0062】
また、ヒンジ15のフレームブラケット151とヒンジ14のフレームブラケット141とは、中央シートバックフレーム11により接合されているので、反転用スプリング164の付勢力の一部は矢印Iで示すようにヒンジ14にも分散される。これによっても、前倒姿勢から起立させようとする際の右側シートバックフレーム12の捻じれが小さく抑えられる。
【0063】
さらに、本実施形態に係る乗物用シート1では、ヒンジブラケット132とヒンジブラケット142との接合、およびヒンジブラケット152とヒンジブラケット162との接合を、回動軸133,143よりも上方の箇所を溶接することにより行うこととしているので、効果的にシートバックフレーム10,12の捻じれを抑制することができる。即ち、シートバックフレーム10,12を前倒姿勢から起立させてゆく場合には、回転中心である回動軸133,143を起点に捻じれが生じるため、当該回動軸133,143よりも上方の箇所でヒンジブラケット同士を接合することで、ヒンジの上部からの捻じれを確実に抑制することができる。
【0064】
以上のように、本実施形態に係る乗物用シート1では、前倒姿勢のシートバック(シートバックフレーム10やシートバックフレーム12を構成中に含むシートバック)を起立させてキャッチ部104,124をストライカ501,502に係合させる際に、当該係合のために大きな力を必要としない。
【0065】
[変形例]
上記実施形態では、ヒンジブラケット132とヒンジブラケット142と、およびヒンジブラケット152とヒンジブラケット162とを、溶接部17によって接合することとしたが、ヒンジブラケット同士の接合方法については、これに限定を受けるものではない。例えば、ボルト等を用いて螺合することにより接合することにしてもよい。
【0066】
上記実施形態では、ヒンジブラケット132とヒンジブラケット142の上端部同士を接合し、ヒンジブラケット152とヒンジブラケット162の上端部同士を接合することとしたが、本発明は、接合箇所に関してこれに限定を受けるものではない。ヒンジブラケットの高さ方向の中間部分同士を接合することもできるし、上端部同士と中間部同士の両箇所で接合することも可能である。
【0067】
また、隣接するヒンジ13とヒンジ14とで1つのヒンジブラケットを共有する構成を採用することも可能である。隣接するヒンジ15とヒンジ16についても同様である。
【0068】
上記実施形態では、乗物用シート1として、3つのシートバックフレーム10~12が車幅方向に並設されてなる構造を採用したが、本発明は、車幅方向に2つのシートバックフレームが並設されてなる構造の乗物用シートを採用することも可能である。
【0069】
上記実施形態では、自動車の後部座席としての乗物用シート1を一例としたが、本発明では、前部座席としての乗物用シートを採用することもできる。
【0070】
上記実施形態では、反転用スプリング135,154,164としてコイルバネを採用することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、板バネを用いたり、ゴムなどの弾性部材を付勢部材として採用したりすることも可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 乗物用シート
10 左側シートバックフレーム(第1シートバックフレーム)
11 中央シートバックフレーム(第2シートバックフレーム)
12 右側シートバックフレーム
13 左外側ヒンジ(第1ヒンジ)
14 左内側ヒンジ(第2ヒンジ)
15 右内側ヒンジ
16 右外側ヒンジ
17 溶接部(接合部)
104,124 キャッチ部(被係合部)
130 ベースブラケット(第1ベースブラケット)
140 ベースブラケット(第2ベースブラケット)
132 ヒンジブラケット(第1ヒンジブラケット)
142 ヒンジブラケット(第2ヒンジブラケット)
135,154,164 反転用スプリング(付勢部材)
500 リヤフロアパネル(フロアパネル)
501,502 ストライカ(係合部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9