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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161321
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/00 20060101AFI20221014BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
H01F17/00 D
H01F1/34 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066042
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】酒井 崇史
【テーマコード(参考)】
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AB01
5E041BD01
5E070AA01
5E070AB08
5E070CB13
5E070CB17
(57)【要約】
【課題】耐電圧性が高いコイル部品の提供。
【解決手段】絶縁体部と、前記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、前記絶縁体部の表面に設けられ、前記コイルと電気的に接続された外部電極とを含むコイル部品であって、前記絶縁体部は、少なくともFe、Ni、Zn、及びCuを含む磁性体相と、少なくともSi及びZnを含む非磁性体相を含み、隣接する前記コイル導体層間に位置する前記絶縁体部のポア面積率は、0.3%以上3.0%以下であり、隣接する前記コイル導体層間に位置する前記絶縁体部の結晶粒子の平均結晶粒径は、0.2μm以上0.8μm以下である、コイル部品。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体部と、
前記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含むコイル部品であって、
前記絶縁体部は、少なくともFe、Ni、Zn、及びCuを含む磁性体相と、少なくともSi及びZnを含む非磁性体相を含み、
隣接する前記コイル導体層間に位置する前記絶縁体部のポア面積率は、0.3%以上3.0%以下であり、
隣接する前記コイル導体層間に位置する前記絶縁体部の結晶粒子の平均結晶粒径は、0.2μm以上0.8μm以下である、
コイル部品。
【請求項2】
前記絶縁体部の略中央部におけるポア面積率は、隣接する前記コイル導体層間に位置する前記絶縁体部のポア面積率よりも大きい、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記絶縁体部の略中央部におけるポア面積率は、2.0%以上6.0%以下である、請求項2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記絶縁体部は、
Feを、Fe23に換算して、28モル%以上41モル%以下、
Niを、NiOに換算して、16モル%以上24モル%以下、
Znを、ZnOに換算して、23モル%以上37モル%以下、
Cuを、CuOに換算して、5モル%以上9モル%以下、
Siを、SiO2に換算して、4モル%以上14モル%以下
含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記コイル導体層の積層方向は、コイル実装面に対して平行である、請求項1~4のいずれか1項に記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル部品において、フェライト組成物と珪酸亜鉛とを含む複合磁性材料を用いることにより、素体の比抵抗が高い電子部品を提供することができると報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-210204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、素体の比抵抗が高い電子部品が開示されているが、特許文献1に記載の複合磁性材料を用いた場合であっても、コイル部品のコイル導体間の絶縁性が十分でない場合がある。
【0005】
本開示の目的は、高い耐電圧性を有するコイル部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の態様を含む。
[1] 絶縁体部と、
前記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含むコイル部品であって、
前記絶縁体部は、少なくともFe、Ni、Zn、及びCuを含む磁性体相と、少なくともSi及びZnを含む非磁性体相を含み、
隣接する前記コイル導体層間に位置する前記絶縁体部のポア面積率は、0.3%以上3.0%以下であり、
隣接する前記コイル導体層間に位置する前記絶縁体部の結晶粒子の平均結晶粒径は、0.2μm以上0.8μm以下である、
コイル部品。
[2] 前記絶縁体部の略中央部におけるポア面積率は、隣接する前記コイル導体層間に位置する前記絶縁体部のポア面積率よりも大きい、上記[1]に記載のコイル部品。
[3] 前記絶縁体部の略中央部におけるポア面積率は、2.0%以上6.0%以下である、上記[2]に記載のコイル部品。
[4] 前記絶縁体部は、
Feを、Fe23に換算して、28モル%以上41モル%以下、
Niを、NiOに換算して、16モル%以上24モル%以下、
Znを、ZnOに換算して、23モル%以上37モル%以下、
Cuを、CuOに換算して、5モル%以上9モル%以下、
Siを、SiO2に換算して、4モル%以上14モル%以下
含む、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のコイル部品。
[5] 前記コイル導体層の積層方向は、コイル実装面に対して平行である、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のコイル部品。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、耐電圧性が高いコイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示のコイル部品1を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、図1に示すコイル部品1のx-xに沿った切断面を示す断面図である。
図3図3は、ビア導体10が交互に配置された引出部7を示す断面図である。
図4図4は、ビア導体10がその中心が一致するように配置された引出部7を示す断面図である。
図5図5は、実施例のコイル部品のコイルパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本実施形態のコイル部品及び各構成要素の形状及び配置等は、図示する例に限定されない。
【0010】
本実施形態のコイル部品1の斜視図を図1に、x-x断面図を図2に示す。但し、下記実施形態のコイル部品及び各構成要素の形状及び配置等は、図示する例に限定されない。
【0011】
図1及び図2に示されるように、本実施形態のコイル部品1は、略直方体形状を有するコイル部品である。コイル部品1において、図1のL軸に垂直な面を「端面」と称し、W軸に垂直な面を「側面」と称し、T軸に垂直な面を「上面」及び「下面」と称する。コイル部品1は、概略的には、絶縁体部2と、該絶縁体部2の両端面に設けられた外部電極4,5とを含む。絶縁体部2には、コイル3が埋設されている。コイル3は、コイル部品の実装面(本実施形態では、下面)に平行に積層されたコイル導体層6が、絶縁体部2を貫通する接続導体によりコイル状に接続されることにより構成される。コイル導体層6のうち両端に位置するコイル導体層は、それぞれ、引出部7,8により、外部電極4,5に接続される。
【0012】
本実施形態のコイル部品1において、絶縁体部2は、複数の絶縁体層が積層されて構成される。
【0013】
上記絶縁体層は、好ましくはコイル部品1の実装面に平行に積層される。即ち、図2において、絶縁体層は、水平方向に積層される。
【0014】
上記コイル導体層6間の絶縁体層の厚さは、好ましくは3μm以上50μm以下、より好ましくは3μm以上40μm以下、さらに好ましくは3μm以上20μm以下であり得る。かかる厚さを3μm以上とすることにより、コイル導体層間の絶縁性をより確実に確保できる。また、かかる厚さを50μm以下とすることにより、より優れた電気特性を得ることができる。
【0015】
上記絶縁体部2は、磁性体相及び非磁性体相を含む。絶縁体部が磁性体相及び非磁性体相を含むことにより、優れた電気特性を得ることができる。
【0016】
上記磁性体相は、少なくともFe、Zn、Cu、及びNiを含む。
【0017】
上記磁性体相は、好ましくは、主成分として、少なくともFe、Zn、Cu、及びNiを含む焼結磁性材料から構成される。
【0018】
上記焼結磁性材料において、Fe含有量は、Fe23に換算して、好ましくは40.0モル%以上49.5モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは45.0モル%以上49.5モル%以下であり得る。
【0019】
上記焼結磁性材料において、Zn含有量は、ZnOに換算して、好ましくは2.0モル%以上35.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは5.0モル%以上30.0モル%以下であり得る。
【0020】
上記焼結磁性材料において、Cu含有量は、CuOに換算して、好ましくは6.0モル%以上13.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは7.0モル%以上10.0モル%以下である。
【0021】
上記焼結磁性材料において、Ni含有量は、特に限定されず、上記した他の主成分であるFe、Zn及びCuの残部とし得、NiOに換算して、好ましくは10.0モル%以上45.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは15.0モル%以上40.0モル%以下である。
【0022】
Fe、Zn、Cu、及びNiの含有量を、上記の範囲とすることにより、優れた電気特性を得ることができる。
【0023】
本開示において、上記焼結磁性材料は、さらに添加成分を含んでいてもよい。焼結磁性材料における添加成分としては、例えばMn、Co、Sn、Bi、Si等が挙げられるが、これに限定されるものではない。Mn、Co、Sn、Bi及びSiの含有量(添加量)は、主成分(Fe(Fe23換算)、Zn(ZnO換算)、Cu(CuO換算)及びNi(NiO換算))の合計100質量部に対して、それぞれ、Mn34、Co34、SnO2、Bi23、及びSiO2に換算して、0.1質量部以上1質量部以下であることが好ましい。また、上記焼結磁性材料は、さらに製造上不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0024】
上記非磁性体相は、少なくともSi、及びZnを含む。
【0025】
上記非磁性体相は、好ましくは、主成分として、少なくともSi、及びZnを含む焼結非磁性材料から構成される。
【0026】
上記焼結非磁性材料において、Siの含有量に対するZnの含有量のモル比(Zn/Si)は、Si含有量はSiO2に換算して、Zn含有量はZnOに換算して、好ましくは1.8以上2.2以下、より好ましくは1.9以上2.1以下である。Siの含有量に対するZnの含有量の比を上記の範囲とすることにより、優れた電気特性を得ることができる。
【0027】
上記焼結非磁性材料は、さらに製造上不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0028】
上記絶縁体部において、Fe含有量は、Fe23に換算して、好ましくは28.0モル%以上41.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは30.0モル%以上38.0モル%以下であり得る。
【0029】
上記絶縁体部において、Ni含有量は、NiOに換算して、好ましくは16.0モル%以上24.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは17.0モル%以上20.0モル%以下である。
【0030】
上記絶縁体部において、Zn含有量は、ZnOに換算して、好ましくは23.0モル%以上37.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは25.0モル%以上35.0モル%以下であり得る。
【0031】
上記絶縁体部において、Cu含有量は、CuOに換算して、好ましくは5.0モル%以上9.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは6.0モル%以上8.0モル%以下である。
【0032】
上記絶縁体部において、Si含有量は、SiO2に換算して、好ましくは4.0モル%以上14.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは6.0モル%以上12.0モル%以下である。
【0033】
上記絶縁体部において、隣接するコイル導体層間に位置する絶縁体部(図2におけるA)の結晶粒子の平均結晶粒径は、0.2μm以上0.8μm以下、好ましくは0.2μm以上0.5μm以下である。当該平均結晶粒径を上記の範囲とすることにより、コイル部品の耐電圧性が向上する。
【0034】
上記絶縁体部において、絶縁体部の略中央部(図2におけるB)における結晶粒子の平均結晶粒径は、好ましくは0.2μm以上0.8μm以下、より好ましくは0.2μm以上0.5μm以下である。当該平均結晶粒径を上記の範囲とすることにより、コイル部品の耐電圧性が向上する。
【0035】
上記絶縁体部において、絶縁体部の略中央部におけるポア面積率は、隣接する前記コイル導体層間に位置する絶縁体部のポア面積率よりも大きい。絶縁体部の略中央部におけるポア面積率を、隣接する前記コイル導体層間に位置する絶縁体部のポア面積率よりも大きくすることにより、コイル部品の耐電圧性が向上する。
【0036】
上記絶縁体部において、絶縁体部の略中央部における結晶粒子の平均結晶粒径は、隣接する前記コイル導体層間に位置する絶縁体部の結晶粒子の平均結晶粒径の、好ましくは1.01倍以上2.0倍以下、より好ましくは1.01倍以上1.5倍以下、さらに好ましくは1.01倍以上1.2倍以下、さらにより好ましくは1.02倍以上1.2倍以下である。
【0037】
上記平均結晶粒径は、以下のようにして測定することができる。
コイル部品を、LT面が露出するように試料の周囲を樹脂で固めて、研磨機でW方向に絶縁体部2の略中央部が露出するまで研磨する。研磨後に、断面を集束イオンビーム(FIB)で加工し、観察用断面を得る。FIB加工した断面について、観察領域(8μm×8μm)において結晶粒径を測定し、平均結晶粒径を求める。ここに、平均結晶粒径とは、結晶粒子の面積円相当径が個数基準で50%となる粒径である。
【0038】
上記絶縁体部において、隣接するコイル導体層間に位置する絶縁体部のポア面積率は、0.3%以上3.0%以下、好ましくは0.5%以上2.5%以下、より好ましくは1.0%以上2.5%以下である。当該ポア面積率を上記の範囲とすることにより、コイル部品の耐電圧性が向上する。
【0039】
上記絶縁体部において、絶縁体部の略中央部におけるポア面積率は、好ましくは2.0%以上6.0%以下、より好ましくは2.5%以上5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以上4.5%以下である。当該ポア面積率を上記の範囲とすることにより、コイル部品の耐電圧性が向上する。
【0040】
上記絶縁体部において、絶縁体部の略中央部におけるポア面積率は、隣接するコイル導体層間に位置する絶縁体部のポア面積率よりも大きい。絶縁体部の略中央部におけるポア面積率を、隣接するコイル導体層間に位置する絶縁体部のポア面積率よりも大きくすることにより、コイル部品の耐電圧性が向上する。
【0041】
上記絶縁体部において、絶縁体部の略中央部におけるポア面積率は、隣接するコイル導体層間に位置する絶縁体部のポア面積率の、好ましくは1.1倍以上7.0倍以下、より好ましくは1.1倍以上5.0倍以下、さらに好ましくは1.5倍以上4.0倍以下、さらにより好ましくは2.0倍以上3.0倍以下である。
【0042】
上記ポア面積率は、以下のようにして測定することができる。
コイル部品を、LT面が露出するように試料の周囲を樹脂で固めて、研磨機でW方向に絶縁体部2の略中央部が露出するまで研磨する。研磨後に、断面を集束イオンビーム(FIB)で加工し、観察用断面を得る。FIB加工した断面について、観察領域(8μm×8μm)を、SEM(走査型電子顕微鏡)で撮影する。得られたSEM画像を、画像解析ソフトを用いて、全体の面積に対するポアが占める面積の割合を求め、これをポア面積率とする。
【0043】
上記コイル3は、コイル導体層6がコイル状に相互に電気的に接続されることにより構成されている。積層方向に互いに隣接するコイル導体層6は、絶縁体部2を貫通する接続導体により接続されている。
【0044】
上記コイル導体層を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Ni等が挙げられる。上記コイル導体層を構成する材料は、好ましくはAg又はCu、より好ましくはAgである。導電性材料は、1種のみであっても、2種以上であってもよい。
【0045】
上記コイル導体層の厚さは、好ましくは5μm以上25μm以下、より好ましくは5μm以上15μm以下であり得る。コイル導体層の厚さを大きくすることにより、コイル部品の抵抗値がより小さくなる。ここにコイル導体層の厚さとは、積層方向に沿ったコイル導体層の厚さをいう。
【0046】
上記コイル導体層の厚さは、以下のようにして測定することができる。
コイル部品を、LT面が露出するように試料の周囲を樹脂で固めて、研磨機でW方向に絶縁体部2の略中央部が露出するまで研磨する。研磨後に、断面を集束イオンビーム(FIB)で加工し、観察用断面を得る。FIB加工した断面について、走査型電子顕微鏡(SEM)で断面を観察し、コイル導体層のL寸中央部の厚さを、SEMに付属している測定機能にて測定する。
【0047】
上記接続導体は、コイル導体層間の絶縁体部を貫通するように設けられる。接続導体を構成する材料は、上記コイル導体層に関して記載した材料であり得る。接続導体を構成する材料は、コイル導体層を構成する材料と同じであっても異なっていてもよい。好ましい態様において、接続導体を構成する材料は、コイル導体層を構成する材料と同じである。好ましい態様において、接続導体を構成する材料は、Agである。
【0048】
上記引出部7,8は、それぞれ、複数のランド導体層9が電気的にビア導体10により接続されることにより構成されている。
【0049】
上記ランド導体層を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Ni等が挙げられる。上記ランド導体層を構成する材料は、好ましくはAg又はCu、より好ましくはAgである。ランド導体層を構成する材料は、1種のみであっても、2種以上であってもよい。上記ランド導体層を構成する材料は、上記コイル導体層を構成する材料と同じであっても、異なっていてもよいが、好ましくは同じである。
【0050】
上記ランド導体層の厚さは、好ましくは5μm以上25μm以下、より好ましくは5μm以上15μm以下であり得る。ランド導体層の厚さを大きくすることにより、コイル部品の抵抗値がより小さくなる。ここにランド導体層の厚さとは、積層方向に沿ったランド導体層の厚さをいう。
【0051】
上記ランド導体層の厚さは、上記コイル導体層の厚さと同様にして測定することができる。
【0052】
上記ビア導体は、ランド導体層間の絶縁体部を貫通するように設けられる。ビア導体を構成する材料は、上記ランド導体層に関して記載した材料であり得る。ビア導体を構成する材料は、ランド導体層を構成する材料と同じであっても異なっていてもよい。好ましい態様において、ビア導体を構成する材料は、ランド導体層を構成する材料と同じである。好ましい態様において、ビア導体を構成する材料は、Agである。
【0053】
本実施形態において、各引出部におけるビア導体について、積層方向から平面視した場合に、積層方向に隣接するビア導体の中心は一致しない(図3)。即ち、積層方向に隣接するビア導体の中心は、互いにずれている。積層方向に隣接するビア導体の中心を互いにずらすことにより、コイル部品のクラックの発生を抑制することができる。
【0054】
本実施形態において、積層方向に隣接するビア導体は、交互にずれている。即ち、積層方向から平面視した場合に、ビア導体が存在する位置は2箇所であり、隣接するビア導体は、それぞれ別の箇所に位置するように設けられる。
【0055】
別の態様において、積層方向から平面視した場合に、積層方向に隣接するビア導体が存在する位置は、3箇所以上であってもよい。例えば、積層方向から平面視した場合に、積層方向に隣接するビア導体が存在する位置が3箇所である場合、該3箇所に位置するビア導体の中心が三角形、好ましくは正三角形を描くように、ビア導体を設けてもよい。
【0056】
積層方向に隣接するビア導体の中心のずれ幅(図3におけるd)は、好ましくは5μm以上50μm以下、より好ましくは10μm以上20μm以下である。
【0057】
積層方向に隣接するビア導体の中心のずれ幅は、ビア導体の直径の、好ましくは0.05倍以上0.5倍以下、より好ましくは0.1倍以上0.4倍以下、さらに好ましくは0.1倍以上0.3倍以下である。ここに、ビア導体の直径とは、ビア導体の断面(積層面に平行な断面)のうち、最も大きい箇所の直径をいう。
【0058】
好ましい態様において、積層方向に隣接するビア導体は、積層方向から平面視した場合に重ならない。即ち、積層方向に隣接するビア導体は、積層方向から平面視した場合に、それぞれ完全に独立している。即ち、積層方向に隣接するビア導体の中心のずれ幅(図3におけるd)は、隣接するビア導体の半径の合計よりも大きい。
【0059】
別の態様において、積層方向から平面視した場合に、積層方向に隣接するビア導体の中心は一致する(図4)。
【0060】
外部電極4,5は、絶縁体部2の両端面を覆うように設けられる。上記外部電極は、導電性材料、好ましくはAu、Ag、Pd、Ni、Sn及びCuから選択される1種又はそれ以上の金属材料から構成される。
【0061】
上記外部電極は、単層であっても、多層であってもよい。一の態様において、上記外部電極は、多層、好ましくは2層以上4層以下、例えば3層であり得る。
【0062】
一の態様において、外部電極は多層であり、Ag又はPdを含む層、Niを含む層、又はSnを含む層を含み得る。好ましい態様において、上記外部電極は、Ag又はPdを含む層、Niを含む層、及びSnを含む層からなる。好ましくは、上記の各層は、コイル導体層側から、Ag又はPd、好ましくはAgを含む層、Niを含む層、Snを含む層の順で設けられる。好ましくは、上記Ag又はPdを含む層はAgペースト又はPdペーストを焼き付けた層であり、上記Niを含む層及びSnを含む層は、めっき層であり得る。
【0063】
本開示のコイル部品は、好ましくは、長さ(L)が0.4mm以上3.2mm以下であり、幅(W)が0.2mm以上1.6mm以下であり、高さ(T)が0.2mm以上1.6mm以下であり、より好ましくは長さが0.6mm以上1.0mm以下であり、幅が0.3mm以上0.5mm以下であり、高さが0.3mm以上0.5mm以下である。
【0064】
上記した本実施形態のコイル部品1の製造方法を以下に説明する。
【0065】
(1)磁性材料(仮焼磁性粉末)の調製
【0066】
まず、磁性材料の原料を準備する。磁性材料の原料は、主成分としてFe、Zn、Cu、及びNiを含む。通常、上記原料の主成分は、実質的にFe、Zn、Cu、及びNiの酸化物(理想的には、Fe23、ZnO、CuO及びNiO)から成る。
【0067】
上記原料として、Fe23、ZnO、CuO、NiO、及び必要に応じて添加成分を所定の組成になるように秤量し、混合及び粉砕する。得られた粉末を乾燥し、仮焼し、仮焼磁性粉末を得る。好ましくは、得られた仮焼磁性粉末を粉砕し、微粉化する。
【0068】
上記仮焼磁性粉末の粒径は、D50で、好ましくは0.1μm以上0.2μm以下である。ここに、D50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法を用いて得られる体積累積50%相当径である。
【0069】
上記仮焼磁性粉末において、Fe含有量は、Fe23に換算して、好ましくは40.0モル%以上49.5モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは45.0モル%以上49.5モル%以下であり得る。
【0070】
上記仮焼磁性粉末において、Zn含有量は、ZnOに換算して、好ましくは2.0モル%以上35.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは5.0モル%以上30.0モル%以下であり得る。
【0071】
上記仮焼磁性粉末において、Cu含有量は、CuOに換算して、好ましくは6.0モル%以上13.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは7.0モル%以上10.0モル%以下である。
【0072】
上記仮焼磁性粉末において、Ni含有量は、特に限定されず、上記した他の主成分であるFe、Zn及びCuの残部とし得、NiOに換算して、好ましくは10.0モル%以上45.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは15.0モル%以上40.0モル%以下である。
【0073】
本開示において、上記仮焼磁性粉末は、さらに添加成分を含んでいてもよい。仮焼磁性粉末における添加成分としては、例えばMn、Co、Sn、Bi、Si等が挙げられるが、これに限定されるものではない。Mn、Co、Sn、Bi及びSiの含有量(添加量)は、主成分(Fe(Fe23換算)、Zn(ZnO換算)、Cu(CuO換算)及びNi(NiO換算))の合計100質量部に対して、それぞれ、Mn34、Co34、SnO2、Bi23、及びSiO2に換算して、0.1質量部以上1質量部以下であることが好ましい。また、上記仮焼磁性粉末は、さらに製造上不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0074】
なお、上記仮焼磁性粉末におけるFe含有量(Fe23換算)、Zn含有量(ZnO換算)、Cu含有量(CuO換算)、及びNi含有量(NiO換算)は、焼成後の上記焼結磁性材料におけるFe含有量(Fe23換算)、Zn含有量(ZnO換算)、Cu含有量(CuO換算)、及びNi含有量(NiO換算)と実質的に相違ないと考えて差し支えない。
【0075】
(2)非磁性材料(仮焼非磁性粉末)の調製
まず、非磁性材料の原料を準備する。非磁性材料の原料は、主成分としてSi及びZnを含む。通常、上記原料の主成分は、実質的にSi及びZnの酸化物(理想的には、SiO2及びZnO)から成る。
【0076】
上記原料として、SiO2、ZnO、及び必要に応じて添加成分を所定の組成になるように秤量し、混合及び粉砕する。得られた粉末を乾燥し、仮焼し、仮焼非磁性粉末を得る。好ましくは、得られた仮焼非磁性粉末を粉砕し、微粉化する。
【0077】
上記仮焼非磁性粉末の粒径は、D50で、好ましくは0.1μm以上0.2μm以下である。ここに、D50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法を用いて得られる体積累積50%相当径である。
【0078】
上記仮焼非磁性粉末において、Si含有量は、SiO2に換算して、好ましくは31モル%以上36モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは32モル%以上35モル%以下である。
【0079】
上記仮焼非磁性粉末において、Zn含有量は、ZnOに換算して、好ましくは64モル%以上69モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは65モル%以上68モル%以下である。
【0080】
なお、上記仮焼非磁性粉末におけるSi含有量(SiO2換算)、及びZn含有量(ZnO換算)は、焼成後の上記焼結非磁性材料におけるSi含有量(SiO2換算)、及びZn含有量(ZnO換算)と実質的に相違ないと考えて差し支えない。
【0081】
(3)導電性ペーストの調製
まず、導電性材料を準備する。導電性材料としては、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Ni等が挙げられ、好ましくはAg又はCu、より好ましくはAgである。所定量の導電性材料の粉末を秤量し、所定量の溶剤(オイゲノールなど)、樹脂(エチルセルロースなど)、及び分散剤と、プラネタリーミキサー等で混錬した後、3本ロールミル等で分散することで、導電性ペーストを作製することができる。
【0082】
(4)シート作製
上記で調製した磁性材料及び非磁性材料を、所定の配合になるように混合する。これらの混合物を、例えばPSZメディアとともにボールミルに入れ、さらにポリビニルブチラール系等の有機バインダ、エタノール、トルエン等の有機溶剤、及び可塑剤を加え混合して、スラリーを得る。次に、このスラリーをドクターブレード法等でシート状に成形し、これを矩形状に打ち抜きグリーンシートを作製する。
【0083】
上記グリーンシートの厚さは、例えば5μm以上40μm以下、好ましくは10μm以上25μm以下であり得る。グリーンシートの厚さを、上記の範囲とすることにより、高い絶縁性と、優れた電気特性を得ることができる。
【0084】
上記混合物における、磁性材料及び非磁性材料の配合比(磁性材料:非磁性材料(質量比))は、好ましくは90:10~5:95、より好ましくは90:10~50:50であり得る。磁性材料及び非磁性材料の配合比を上記の範囲とすることにより、優れた電気特性を得ることができる。
【0085】
次いで、上記で作製したグリーンシートに、レーザー照射を行い所定箇所にビアホールを形成する。上記で調製した導電性ペーストをスクリーン印刷することで、ビアホールに導電性ペーストを充填して、接続導体パターン、及び接続ビアパターンを形成する。また、グリーンシートに、導電性ペーストをスクリーン印刷することにより、コイルパターン、及びランドパターンを形成した。
【0086】
(5)積層、圧着及び個片化
上記で得られたグリーンシートを、所定のコイルパターンが得られるように積層し、熱圧着した積層ブロックを作製する。得られた積層ブロックを、ダイサー等で切断し、個片化し、未焼成素体を得る。
【0087】
(6)焼成
上記で得られた未焼成素体を、焼成し、コイル部品の素体を得る。
【0088】
焼成温度は、好ましくは850℃以上950℃以下、より好ましくは900℃以上920℃以下であり得る。
【0089】
焼成時間は、好ましくは1時間以上6時間以下、より好ましくは2時間以上4時間以下であり得る。
【0090】
好ましい態様において、焼成のトップ温度では、低酸素雰囲気とする。低酸素雰囲気とは、酸素濃度が、0.01体積%以上1体積%以下である雰囲気をいう。焼成のトップ温度において低酸素雰囲気とすることにより、焼成後の結晶粒径を小さくすることができる。好ましくは、トップ温度からの降温過程においては、大気雰囲気とする。降温過程を大気雰囲気とすることにより、異相の生成を抑制することができる。
【0091】
焼成後には、得られた素体をメディアとともに回転バレル機に入れ、回転することにより、素体の稜線やコーナーにRを形成してもよい。
【0092】
(7)電極形成
まず、下地電極を形成する。下地電極は、コイルが引き出された端面に、例えばAgとガラスを含んだ導電性ペーストを塗布し、焼き付けることにより形成することができる。
【0093】
上記下地電極の厚さは、例えば0.1μm以上20μm以下、好ましくは3μm以上17μm以下、より好ましくは5μm以上15μm以下であり得る。
【0094】
上記焼き付け時の温度は、例えば800℃以上820℃以下であり得る。
【0095】
下地電極を形成した素体に、電解めっきにより、下地電極上に金属層の被膜を形成する。当該被膜は、単層であっても、多層であってもよく、例えば下地電極上にNi被膜を形成し、次いで、Sn被膜を形成してもよい。
【0096】
以上、本発明の1つの実施形態について説明したが、本実施形態は種々の改変が可能である。
【0097】
以下、本開示のコイル部品を実施例を挙げて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【実施例0098】
実施例
・磁性材料の調製
Fe23を47.0mol%、ZnOを16.0mol%、NiOを27.0mol%、CuOを10.0mol%の割合で配合し、さらに、Fe23、ZnO、NiO、及びCuOの合計100質量部に対し、Bi23を1.0質量部となるように配合し、混合物を得た。この混合物を湿式で混合、粉砕した後、乾燥することで水分を除去した。得られた乾燥物を800℃の温度で2時間仮焼した。得られた仮焼物を湿式でD50が0.2μmになるまで粉砕し、磁性材料を作製した。
【0099】
・非磁性材料の調製
ZnOとSiO2をモル比が2:1の割合で配合し、湿式で混合、粉砕した後、乾燥することで水分を除去した。得られた乾燥物を1100℃の温度で2時間仮焼した。得られた仮焼物を湿式でD50が0.2μmになるまで粉砕し、非磁性材料を作製した。
【0100】
・グリーンシートの作製
得られた磁性材料と非磁性材料を、主成分含有量が下記表に示す3種類(試料番号1~3)の割合となるように秤量し、所定量のポリビニルブチラール系等の有機バインダ、エタノール、トルエン等の有機溶剤、及び可塑剤をボールミルに入れ、混合した。次に、ドクターブレード法で、膜厚が約25μmのシート状に成形し、これを矩形状に打ち抜きグリーンシート12を作製した。次いで、グリーンシートに、レーザー照射を行い所定箇所にビアホールを形成し、上記で調製した導電性ペーストをスクリーン印刷することにより、ビアホールに導電性ペーストを充填し、接続導体パターン21、及び接続ビアパターン20を形成した。また、グリーンシートに、導電性ペーストをスクリーン印刷することにより、コイルパターン16、及びランドパターン19を形成した。
【0101】
・コイル部品の作製
上記で得られたグリーンシートを、所定のコイルパターンが得られるように積層し(図5参照)、熱圧着した積層ブロックを作製した。得られた積層ブロックを、ダイサーで切断し、個片化し、未焼成素体を得た。なお、引出部におけるビア導体は、隣接するビア導体の中心が焼成後に13μmずれるように形成した(図3におけるdを13μmとした)。
【0102】
上記で得られた未焼成素体を、トップ温度を920℃として4時間、酸素濃度0.1体積%下で、焼成して、コイル部品の素体を得た。得られた素体をメディアとともに回転バレル機に入れ、回転することにより、素体の稜線やコーナーにRを形成した。
【0103】
上記得られた素体の端面に、Agとガラスを含んだ導電性ペーストを塗布し、焼き付けることにより下地電極を形成し、電解めっきにより、下地電極上にNi被膜、及びSn被膜を形成して、外部電極とした。
【0104】
作製したコイル部品(試料番号1~3)の絶縁体部の組成を誘導結合プラズマ発光/質量分光法(ICP-AES/MS)用いて分析した。結果を下記表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
比較例
磁性材料及び非磁性材料の仮焼物の粉砕を行わなかったこと、及び焼成を全域大気雰囲気下で行ったこと以外は、上記実施例の試料番号1と同様にして、比較例のコイル部品(試料番号4)を作製した。
【0107】
<評価>
作製した試料番号1~4の試料について、試料を垂直になるように立てて、LT面が露出するように試料の周りを樹脂で固めた。研磨機で試料のW方向に積層体の略中央部が露出する深さで研磨を終了した。その断面を集束イオンビーム加工(FIB加工)し、SEM観察用の断面を得た。FIB加工はエスアイアイ・ナノテクノロジー(株)のFIB加工装置SMI3050Rを用いた。
【0108】
FIB加工した断面について、コイル導体間(図2のA)、及び積層体の略中央部(図2のB)をSEMで撮影し、それぞれポア面積率と平均結晶粒径を測定した。なお、観察領域は、8×8μmとした。結果を下記表2に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
<耐電圧試験>
作製した試料について、それぞれ50個について、200Vのパルス電圧を300回印加して耐電圧試験を行った。試料番号1~3において、耐電圧試験でショートは発生しなかったが、試料番号4においてはショートが発生した。
【0111】
上記の結果から、隣接する前記コイル導体層間に位置する絶縁体部のポア面積率、及び隣接する前記コイル導体層間に位置する絶縁体部の結晶粒子の平均結晶粒径が、本発明の範囲内にある場合、高い耐電圧を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本開示のコイル部品は、幅広く様々な用途に使用され得る。
【符号の説明】
【0113】
1…コイル部品
2…絶縁体部
3…コイル
4,5…外部電極
6…コイル導体層
7,8…引出部
9…ランド導体層
10…ビア導体
12…グリーンシート
16…コイルパターン
19…ランドパターン
20…接続ビアパターン
21…接続導体パターン
図1
図2
図3
図4
図5