(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161346
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】モータおよび車両用ドアシステム
(51)【国際特許分類】
H02K 3/18 20060101AFI20221014BHJP
B60J 5/04 20060101ALI20221014BHJP
B60J 5/06 20060101ALI20221014BHJP
H02K 3/28 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
H02K3/18 P
B60J5/04 C
B60J5/06 A
H02K3/28 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066077
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】貴傳名 康生
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓太
【テーマコード(参考)】
5H603
【Fターム(参考)】
5H603AA01
5H603BB01
5H603BB07
5H603BB09
5H603BB10
5H603BB12
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB01
5H603CC05
5H603CC11
5H603CC17
5H603CD02
5H603CD21
(57)【要約】
【課題】コストを抑制しつつユーザの利便性を向上させる、車両用ドアのモータおよび当該モータを備える車両用ドアシステムを提供する。
【解決手段】モータ20は、車両用ドアとしてのドア4に用いられる。モータ20は、第1の巻線部25と、第2の巻線部27と、リレーR1~R3とを備える。第1の巻線部25は、モータ20の第1のトルク-回転速度特性を実現するように構成される。第2の巻線部27は、第1の巻線部25と電気的に並列に設けられ、第1のトルク-回転速度特性よりも低トルクかつ高回転速度の第2のトルク-回転速度特性を実現するように構成される。リレーR1~R3は、第1の巻線部25における通電の有無を切り替えるように構成される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用ドアに用いられるモータであって、
前記モータの第1のトルク-回転速度特性を実現するように構成される第1の巻線部と、
前記第1の巻線部と電気的に並列に設けられ、前記第1のトルク-回転速度特性よりも低トルクかつ高回転速度の第2のトルク-回転速度特性を実現するように構成される第2の巻線部と、
前記第1の巻線部における通電の有無を切り替えるように構成されたリレー部とを備える、モータ。
【請求項2】
前記モータのトルクが第1のしきい値よりも小さいとき、前記第2のトルク-回転速度特性に従う前記モータの回転速度は、前記第1のトルク-回転速度特性におけるトルクと同一のトルクに対して、前記第1のトルク-回転速度特性に従う前記モータの回転速度よりも高く、
前記第1のしきい値は、前記第1のトルク-回転速度特性と、前記第2のトルク-回転速度特性との交点におけるトルクである、請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記第1の巻線部における巻線の線径は、前記第2の巻線部における巻線の線径よりも大きい、請求項1または請求項2に記載のモータ。
【請求項4】
前記第1の巻線部における巻線の巻数は、前記第2の巻線部における巻線の巻数よりも多い、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項5】
前記第1の巻線部は、第1の3相巻線により構成され、
前記第2の巻線部は、第2の3相巻線により構成され、
前記リレー部は、
前記第1の3相巻線の第1の相と、前記第2の3相巻線の前記第1の相との間に設けられる第1のリレーと、
前記第1の3相巻線の第2の相と、前記第2の3相巻線の前記第2の相との間に設けられる第2のリレーとを含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項6】
前記車両用ドアと、
前記車両用ドアに用いられる、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のモータと、
前記リレー部を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記モータの駆動状態に従って、前記第1の巻線部を通電状態から非通電状態に切り替えるように前記リレー部を制御する、車両用ドアシステム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記モータの回転速度が第2のしきい値に上昇した場合に、前記第1の巻線部を通電状態から非通電状態に切り替えるように前記リレー部を制御する、請求項6に記載の車両用ドアシステム。
【請求項8】
前記モータは、外力により回転されることによって逆起電力を発生するように構成され、
前記制御装置は、前記逆起電力が第3のしきい値以上である場合に、前記第1の巻線部を通電状態から非通電状態に切り替えるように前記リレー部を制御する、請求項6または請求項7に記載の車両用ドアシステム。
【請求項9】
前記車両用ドアの動作モードは、手動操作モードを含み、
前記制御装置は、前記手動操作モードが選択された場合、前記第1の巻線部が非通電状態になるように前記リレー部を制御する、請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の車両用ドアシステム。
【請求項10】
前記車両用ドアの動作モードは、ユーザによる前記車両用ドアの手動開閉操作をアシストするためのトルクを前記モータが出力するアシスト動作モードを含み、
前記モータは、外力により回転されることによって逆起電力を発生するように構成され、
前記制御装置は、
前記アシスト動作モードが選択された場合に、
前記リレー部の切り替えのための所定条件が満たされていないとき、前記第1の巻線部が通電状態になるように前記リレー部を制御し、
前記所定条件が満たされているとき、前記第1の巻線部が非通電状態になるように前記リレー部を制御し、
前記所定条件は、前記モータの回転速度が第2のしきい値以上であることと、前記逆起電力が第3のしきい値以上であることとの少なくとも一方が成立することである、請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の車両用ドアシステム。
【請求項11】
前記制御装置は、前記モータの回転が停止している場合、前記第1の巻線部が非通電状態になるように前記リレー部を制御する、請求項9または請求項10に記載の車両用ドアシステム。
【請求項12】
前記車両用ドアの動作モードは、前記車両用ドアを自動的に開閉させるためのトルクを前記モータが出力する自動動作モードを含み、
前記制御装置は、前記自動動作モードが選択された場合、前記第1の巻線部が通電状態になるように前記リレー部を制御する、請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の車両用ドアシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用ドアに用いられるモータおよび車両用ドアシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2015-84620号公報(特許文献1)は、互いに線径の異なる第1巻線と第2巻線とが巻装されるアーマチュアを備えた電動モータを開示する。このアーマチュアにおいて、巻線は、複数のスロットのうち所定のスロット間に巻装され、所定のスロット間には、第1巻線が巻装された後、第2巻線が巻装される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両において、ドアを開閉するためのトルクを発生するモータが設けられることがある。ドアが自動で開閉される場合、負荷トルクが大きい状況に対処できるように高トルク特性を有するモータが設けられることが好ましい。他方、ドアがユーザによる手動操作力を受けて開閉される場合、手動操作に応じてドアが開閉され得るように高回転速度特性を有するモータが設けられることが好ましい。
【0005】
そこで、ドアが手動または自動のいずれでも開閉される場合であってもユーザの利便性を向上させるために、高トルク出力可能かつ高速回転可能の特性を有する高出力モータが用いられることが好ましいようにも思われる。しかしながら、仮に、そのような高出力モータが用いられる場合、コスト増大を招く可能性がある。
【0006】
本開示は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、コストを抑制しつつユーザの利便性を向上させる、車両用ドアのモータおよび当該モータを備える車両用ドアシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のモータは、車両用ドアに用いられる。モータは、第1の巻線部と、第2の巻線部と、リレー部とを備える。第1の巻線部は、モータの第1のトルク-回転速度特性を実現するように構成される。第2の巻線部は、第1の巻線部と電気的に並列に設けられ、第1のトルク-回転速度特性よりも低トルクかつ高回転速度の第2のトルク-回転速度特性を実現するように構成される。リレー部は、第1の巻線部における通電の有無を切り替えるように構成される。
【0008】
上記の構成では、例えば、ユーザにより大きい手動操作力がドアに加えられた場合に、第1の巻線部が通電状態から非通電状態に切り替えられることができるようになる。第1の巻線部が通電状態から非通電状態に切り替えられると、モータのトルク-回転速度特性が、高トルクかつ低回転速度のトルク-回転速度特性から、低トルクかつ高回転速度の第2のトルク-回転速度特性に切り替わる。これにより、手動操作に応じてモータが高速回転可能となり、手動操作に応じた速度で車両用ドアが開閉されるようになる。以上のように、このモータによれば、高トルク出力可能かつ高速回転可能の特性を有する高出力モータと比べて、コストを抑制しつつユーザの利便性を向上させることができる。
【0009】
好ましくは、モータのトルクが第1のしきい値よりも小さいとき、第2のトルク-回転速度特性に従うモータの回転速度は、第1のトルク-回転速度特性におけるトルクと同一のトルクに対して、第1のトルク-回転速度特性に従うモータの回転速度よりも高い。そして、第1のしきい値は、第1のトルク-回転速度特性と、第2のトルク-回転速度特性との交点におけるトルクである。
【0010】
上記の構成では、モータのトルクが第1のしきい値よりも小さくなる条件下で、第1の巻線部が通電状態から非通電状態に切り替えられると、モータのトルク-回転速度特性が、高トルクかつ低回転速度のトルク-回転速度特性から、低トルクかつ高回転速度の第2のトルク-回転速度特性に切り替えられるため、手動操作に応じてモータが高速回転可能となる。これにより、手動操作に応じた速度で車両用ドアが開閉されるようになる。
【0011】
好ましくは、第1の巻線部における巻線の線径は、第2の巻線部における巻線の線径よりも大きい。
【0012】
好ましくは、第1の巻線部における巻線の巻数は、第2の巻線部における巻線の巻数よりも多い。
【0013】
上記の構成により、モータの高トルクかつ低回転速度の第1のトルク-回転速度特性と、低トルクかつ高回転速度の第2のトルク-回転速度特性とを実現することが可能となる。
【0014】
好ましくは、第1の巻線部は、第1の3相巻線により構成される。第2の巻線部は、第2の3相巻線により構成される。リレー部は、第1の3相巻線の第1の相と、第2の3相巻線の第1の相との間に設けられる第1のリレーと、第1の3相巻線の第2の相と、第2の3相巻線の第2の相との間に設けられる第2のリレーとを含んでいればよい。
【0015】
上記の構成では、リレー部を構成するリレーの数を3つから2つに抑制することができる。
【0016】
本開示の車両用ドアシステムは、車両用ドアと、モータと、制御装置とを備える。モータは、車両用ドアに用いられる。制御装置は、リレー部を制御する。そして、制御装置は、モータの駆動状態に従って、第1の巻線部を通電状態から非通電状態に切り替えるようにリレー部を制御する。
【0017】
上記の構成では、モータの駆動状態は、ユーザにより大きい手動操作力がドアに加えられたか否かを反映する。よって、モータの駆動状態に従って、当該手動操作力がドアに加えられたものとして、モータのトルク-回転速度特性を、高トルクかつ低回転速度のトルク-回転速度特性から、低トルクかつ高回転速度の第2のトルク-回転速度特性に切り替えることができる。これにより、手動操作に応じてモータが高速回転可能となり、手動操作に応じた速度で車両用ドアが開閉されるようになる。以上のように、このモータによれば、上記手動操作力がドアに加えられたか否かに応じてモータのトルク-回転速度特性を適切に切り替えることができる。
【0018】
好ましくは、制御装置は、モータの回転速度が第2のしきい値に上昇した場合に、第1の巻線部を通電状態から非通電状態に切り替えるようにリレー部を制御するように構成されていてもよい。
【0019】
上記の構成では、モータの回転速度が第2のしきい値に上昇した場合に、ユーザにより大きい手動操作力がドアに加えられたものとして、モータのトルク-回転速度特性が、高トルクかつ低回転速度のトルク-回転速度特性から、低トルクかつ高回転速度の第2のトルク-回転速度特性に切り替えられる。これにより、手動操作力に応じてモータが高回転速度で回転することが可能となり、その結果、手動操作に応じた速度で車両用ドアを開閉することができる。
【0020】
好ましくは、モータは、外力により回転されることによって逆起電力を発生するように構成される。制御装置は、逆起電力が第3のしきい値以上である場合に、第1の巻線部を通電状態から非通電状態に切り替えるようにリレー部を制御するように構成されていてもよい。
【0021】
上記の構成では、当該逆起電力が第3のしきい値以上である場合に、ユーザにより大きい手動操作力がドアに加えられたものとして、モータのトルク-回転速度特性が低トルクかつ高回転速度の第2のトルク-回転速度特性に切り替えられる。これにより、手動操作に応じてモータが高回転速度で回転することが可能となり、その結果、手動操作に応じた速度で車両用ドアを開閉することができる。
【0022】
好ましくは、車両用ドアの動作モードは、手動操作モードを含んでいてもよい。制御装置は、手動操作モードが選択された場合、第1の巻線部が非通電状態になるようにリレー部を制御するように構成されていてもよい。
【0023】
上記の構成では、手動操作モードが選択された場合、モータのトルク-回転速度特性が低トルクかつ高回転速度の第2のトルク-回転速度特性になる。これにより、ユーザによる手動操作力がドアに加えられた場合に、当該手動操作力に応じてモータが高速回転可能となる。その結果、手動操作に応じた速度で車両用ドアを開閉することができる。
【0024】
好ましくは、車両用ドアの動作モードは、アシスト動作モードを含んでいてもよい。アシスト動作モードは、ユーザによる車両用ドアの手動開閉操作をアシストするためのトルクをモータが出力するモードである。モータは、外力により回転されることによって逆起電力を発生するように構成される。制御装置は、アシスト動作モードが選択された場合に、リレー部の切り替えのための所定条件が満たされていないとき、第1の巻線部が通電状態になるようにリレー部を制御し、所定条件が満たされているとき、第1の巻線部が非通電状態になるようにリレー部を制御してもよい。上記所定条件は、モータの回転速度が第2のしきい値以上であることと、逆起電力が第3のしきい値以上であることとの少なくとも一方が成立することである。
【0025】
上記の構成では、上記所定条件が満たされている場合に、モータのトルク-回転速度特性を第2のトルク-回転速度特性に切り替える必要があるほど大きい手動操作力が車両用ドアに加えられたものとして、モータのトルク-回転速度特性が、高トルクかつ低回転速度のトルク-回転速度特性から、低トルクかつ高回転速度の第2のトルク-回転速度特性に切り替えられる。これにより、手動操作に応じてモータが高速回転可能となる。その結果、手動操作に応じた速度で車両用ドアを開閉することができる。
【0026】
好ましくは、制御装置は、モータの回転が停止している場合、第1の巻線部が非通電状態になるようにリレー部を制御するように構成されていてもよい。
【0027】
上記の構成では、手動操作モードまたはアシスト動作モードが選択された場合にモータの回転が停止しているとき、モータのトルク-回転速度特性が低トルクかつ高回転速度の第2のトルク-回転速度特性になる。これにより、ユーザが手動操作力をドアに加え始めることによってモータが回転し始めたときに、当該手動操作力に応じてモータの回転速度が高回転速度まで上昇しやすくなる。その結果、ユーザが手動操作力をドアに加え始めたときに、手動操作に応じた速度で車両用ドアが開閉されやすくなる。
【0028】
好ましくは、車両用ドアの動作モードは、自動動作モードを含んでいてもよい。自動動作モードは、車両用ドアを自動的に開閉させるためのトルクをモータが出力するモードである。制御装置は、自動動作モードが選択された場合、第1の巻線部が通電状態になるようにリレー部を制御するように構成されていてもよい。
【0029】
上記の構成では、自動動作モードが選択された場合、第1の巻線部からトルクが発生する。これにより、モータのトルク-回転速度特性は、高トルクかつ低回転速度のトルク-回転速度特性になる。その結果、車両用ドアの自動開閉に必要なトルクの発生が可能となる。
【発明の効果】
【0030】
本開示の車両用ドアのモータおよび当該モータを備える車両用ドアシステムによれば、コストを抑制しつつユーザの利便性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本実施の形態に係る車両用ドアが組み付けられた車両の外観を示す図である。
【
図2】本実施の形態に従う車両用ドアシステムの詳細な構成を示す図である。
【
図3】ユーザの利便性を損なわないようにするためにモータが満たすことが好ましい3つの動作点を説明するための図である。
【
図4】ユーザの利便性を損なわないようにするためにモータが満たすことが好ましい3つの動作点を説明するための図である。
【
図5】インバータおよびモータの回路構成を示す図である。
【
図6】モータを回転軸方向から見たときのモータのステータの構造を示す平面図である。
【
図7】モータのT-N特性を説明するための図である。
【
図8】ドアECUによるモータのT-N特性の切り替えの手法を説明するための図である。
【
図9】ドアの開閉に伴って実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図10】ドアの開閉に伴って実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図11】実施の形態の変形例における、モータの回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一の符号を付しており、その説明を繰り返さない。以下の実施形態では、車両用ドアがスライドドアである場合の車両の構成を説明するが、本開示の車両用ドアは、スライドドアのみならず、バックドア、スイングドアまたはその他の種類の車両用ドアであってもよい。
【0033】
図1は、本実施の形態に係る車両用ドアが組み付けられた車両の外観を示す図である。
図1を参照して、車両1は、車体2と、ドア4とを備える。
【0034】
車体2は、ガイドレール5a~5cを含む。ガイドレール5a~5cは、車両1の前後方向に沿って直線状に延設されている。
【0035】
ドア4は、ドアハンドル10を含む。ドアハンドル10は、ユーザがドア4を手動で開閉する際にユーザにより把持される。
【0036】
ドア4は、車体2に組み付けられている。ドア4は、ガイドレール5a~5cに沿って車両1の前後方向に移動する。ドア4は、車両1の前方に移動した場合、ドア開口部3を閉塞する。また、ドア4が車両1の後方に移動した場合、ユーザは、ドア開口部3を経由して乗車または降車できる。
【0037】
図2は、本実施の形態に従う車両用ドアシステムの詳細な構成を示す図である。
図2を参照して、車両用ドアシステム15は、ドア4と、ドアアクチュエータ21と、バッテリB1と、インバータ43と、操作部37と、ドアECU22とを含む。
【0038】
ドア4は、ドアハンドル10(
図1)に加えて、タッチセンサ39を含む。タッチセンサ39は、ユーザによりドアハンドル10が把持されたことを検出し、その検出結果を示す信号S1をドアECU22へ出力する。
【0039】
ドアアクチュエータ21は、ドア4に取り付けられている。ドアアクチュエータ21は、モータ20と、動力伝達機構31と、移動速度検出センサ32と、回転速度センサ33と、電圧センサ34と、ホールセンサ35とを含む。
【0040】
モータ20は、インバータ43(後述)から出力された交流電力を受けて回転することにより、ドア4を開閉させるためのトルクを出力する。また、ユーザによる手動操作力(外力)によってドア4が開閉されるとき、動力伝達機構31を介して当該操作力がモータ20へ伝達される。モータ20は、当該操作力から回転力を受けると、逆起電力(後述)を発生することによって回生発電する。本実施の形態では、モータ20は、3相のブラシレスDCモータである。モータ20の詳細な構成については、後述する。
【0041】
動力伝達機構31は、モータ20により出力されるトルクをドア4の駆動力に変換し、当該駆動力をドア4へ伝達する。これにより、ドア4が開閉(移動)する。また、ユーザによりドア4に手動操作力が加えられた場合、動力伝達機構31は、当該手動操作力をモータ20へ伝達する。
【0042】
移動速度検出センサ32は、ドア4の移動速度(開閉速度)Vdrを検出し、その検出値を示す信号S2をドアECU22へ出力する。
【0043】
回転速度センサ33は、モータ20の回転速度を検出し、その検出値を示す信号S3を出力する。
【0044】
電圧センサ34は、モータ20の各相の電圧を検出し、その検出値を示す信号S4をドアECU22へ出力する。なお、
図2において、図解を容易にするために、電圧センサ34がモータ20の各相の電圧を検出するものと記載しているが、実際にはモータ20のU相、V相およびW相の電圧をそれぞれ検出する3つのセンサが別個に設けられている。
【0045】
ホールセンサ35は、3つのホールIC(Integrated Circuit)により構成される。ホールセンサ35は、モータ20のロータ(永久磁石)の回転位置に応じた信号S5をドアECU22へ出力する。信号S5は、ロータの回転位置の推定のためにドアECU22により利用される。
【0046】
バッテリB1は、充放電可能に構成される蓄電装置である。バッテリB1は、例えば、ニッケル水素電池または鉛蓄電池などの二次電池である。バッテリB1は、補機バッテリであり、ドア4の開閉に利用される電力を蓄える。
【0047】
インバータ43は、バッテリB1から出力される直流電力を交流電力に変換する。また、インバータ43は、モータ20により発電された交流電力を直流電力に変換する。インバータ43の詳細な構成については、後述する。
【0048】
操作部37は、ドア4の動作モードを選択するためにユーザにより利用される。操作部37は、例えば、HMI(Human Machine Interface)装置である。ドア4の動作モードは、手動操作モードと、電動動作モードとを含む。手動操作モードは、ドア4が完全に手動で開閉される動作モードである。電動動作モードは、ドア4がモータ20から出力されるトルクによって開閉される動作モードである。
【0049】
電動動作モードは、自動動作モードと、アシスト動作モードとを含む。自動動作モードは、ドア4を自動的に開閉させるためのトルクをモータ20が出力する動作モードである。自動動作モードにおいて、ドア4は、完全に自動的に開閉される。アシスト動作モードは、ユーザによるドア4の手動開閉操作をアシストするためのトルクをモータ20が出力する動作モードである。アシスト動作モードにおいて、ユーザによる手動操作力と、モータ20の出力トルクから動力伝達機構31により変換されたドア4の駆動力とによってドア4が開閉される。
【0050】
ユーザは、操作部37を用いて、手動操作モード、自動動作モードまたはアシスト動作モードのいずれかをドア4の動作モードとして選択できる。操作部37は、ユーザにより選択された動作モードを示す信号S6をドアECU22へ出力する。
【0051】
なお、後述するように、自動動作モード中に手動操作力がドア4に加えられた場合に、ドア4の動作モードは、操作部37が利用されていない状況下で、自動動作モードからアシスト動作モードへ自動的に切り替えられてもよい。このように、ユーザによる手動操作に応答してドア4の動作モードが自動動作モードからアシスト動作モードに自動的に切り替えられる場合、ユーザの手動開閉操作が、操作部37の利用を要さずにアシストされるため、ユーザの利便性を向上できるという利点がある。
【0052】
ドアECU22は、ドア4の開閉動作を制御する制御装置である。具体的には、ドアECU22は、信号S1~S6に従って、インバータ43を通じてモータ20を制御する。
【0053】
図3は、ユーザの利便性を損なわないようにするためにモータが満たすことが好ましい3つの動作点を説明するための図である。
図3において、縦軸はモータの回転速度Nを示し、横軸は、モータのトルクTを示す。
【0054】
ドア4などの車両用ドアに用いられるモータの好ましいトルク-回転速度特性(以下、トルク-回転速度特性を「T-N特性」とも表す)は、ドア4が手動または自動のいずれで開閉されるかに応じて異なる。
【0055】
例えば、ドア4が自動で開閉される場合、負荷トルク(ドア4の開閉に必要なトルク)が大きい状況に対処できるように、モータのT-N特性が高トルク特性であることが好ましい。例えば、車両1が坂道に停車している場合にドア4が重力の影響を受けるとき、または、ガイドレール5a~5c(
図1)が凍結しているためガイドレール5a~5cとドア4との摩擦力が増大しているとき等であっても、ドア4を自動的に開閉させるために必要なトルクがモータから出力されることが好ましい。
【0056】
そのため、
図3の例では、ドア4の自動動作モード中にモータから出力されるトルクの範囲を表すトルク領域ZA内の最大トルクであるT1が出力される動作点P1をモータのT-N特性が満たすことが好ましい。具体的には、モータは、動作点P1におけるT1のトルクTを出力可能な性能を有していることが好ましい。
【0057】
また、ドア4の自動動作モード中のモータの回転速度Nは、自動動作モード中のドア4の最高開閉速度を実現する程度に上昇できることが好ましい。そのため、
図3の例では、自動動作モード中のドア4の最高開閉速度に対応するN2の回転速度Nを実現する動作点P2をモータのT-N特性が満たすことが好ましい。具体的には、モータは、ドア4を自動開閉可能な程度のトルクT(T2)を出力しつつ、N2の回転速度Nで回転できる性能を有していることが好ましい。
【0058】
なお、モータは、回転速度Nが大きくなるにつれてトルクTが小さくなるという性質を有する。そして、ドア4が自動動作モード中の最高開閉速度で移動しているとき、モータの回転速度Nは、自動動作モード中の最高回転速度である。そのため、ドア4が当該最高開閉速度で開閉しているときにモータから出力されるトルクTであるT2は、ドア4の自動動作モード中のトルク領域ZA内で最小トルクである。
【0059】
他方、ドア4が手動で開閉される場合(例えば、手動操作モードまたはアシスト動作モードの場合)、手動操作に応じてドア4が高速で開閉され得るようにモータが高回転速度特性を有していることが好ましい。
【0060】
ここで、大きい手動操作力がドアに加えられた場合にモータが高回転速度で回転できない場合、当該手動操作に応じた速い速度でドアが開閉されない。具体的には、当該手動操作力をドアに加えているユーザにより意図された速度よりも遅い速度でドアが開閉される。その結果、ユーザの利便性が損なわれる可能性がある。
【0061】
このように、大きい手動操作力がドア4に加えられた場合に当該手動操作力に応じた速度でドア4が開閉されるために、
図3の例では、モータのT-N特性は、回転速度Nが十分に上昇できるように動作点P3を満たすことが好ましい。具体的には、モータは、回転速度NがN1まで上昇できる程度の性能を有していることが好ましい。
【0062】
以上から、ドア4が手動または自動のいずれでも開閉される場合であってもユーザの利便性が損なわれないようにするために、モータは、3つの動作点P1~P3の全てを満たすことが好ましい。そこで、例えば、
図4に示されるような、高トルク出力可能かつ高速回転可能のT-N特性45を有する高出力モータがドア4に搭載されることが好ましいようにも思われる。しかしながら、このような高出力モータは、モータ自体の大型化、および、当該モータを駆動するための駆動回路の大型化を招く結果、コストが大幅に増大する可能性がある。
【0063】
また、このような高出力モータの出力(トルク×回転速度)が最大値を取る場合、当該モータに流れる電流が過度に増大することによってヒューズにより当該電流が遮断されたり、当該モータからの発熱量が過度に大きくなったり、当該モータにおける消費電力が過大になったりする事態が想定される。そのため、このような高出力モータは、車両1(
図1)のボディ系に搭載され難い。
【0064】
そのため、従来、動作点P1~P3の全てを満たすT-N特性を有するモータが車両用ドアに搭載されることが困難であった。そして、ドアの自動動作モード時に必要な大きさのトルクがモータにより出力されること(モータのT-N特性が動作点P1,P2を満たすこと)が、手動操作に応じてモータが高回転速度で回転できること(モータのT-N特性が動作点P3を満たすこと)よりも優先された場合、動作点P1,P2のみを満たすT-N特性44(
図4)のような高トルクかつ低回転速度の特性を有するモータが車両用ドアに搭載されていた。
【0065】
この場合、モータのT-N特性44が動作点P3を満たさないため、ユーザによる大きい手動操作力がドアに加えられたときに、当該手動操作力に応じて当該モータの回転速度がN1まで上昇できない。その結果、車両用ドアに手動操作力が加えられた場合に、ユーザにより意図される程度にドアが高速に開閉されないため、ユーザの利便性が損なわれるという問題があった。
【0066】
また、動力伝達機構31(
図2)とモータとが接続されている場合、モータは、ドア4に加えられた手動操作力を、動力伝達機構31を通じて回転力として受ける。その結果、モータは、逆起電力を発生することにより回生発電する。また、モータが磁石モータであるとき、当該手動操作力に起因するモータの回転に伴う鉄損などの損失も発生する。このように、動力伝達機構31とモータとが接続されている場合、手動操作力は、その全てが当該車両用ドアの開閉のためにのみ利用されるのではなく、モータ20における回生発電などにも利用される。そのため、このような回生発電などに起因して手動操作によるドアの開閉が妨げられる。その結果、ユーザがドアに手動操作力を加えている間に重たさを感じるため、手動操作におけるユーザの操作感が損なわれるという問題もあった。
【0067】
これらの問題は、動力伝達機構31とモータとの間に、これらの接続および遮断を切り替えるためのクラッチ機構が設けられると解消される。具体的には、そのようなクラッチ機構が設けられる場合、動力伝達機構31とモータとの接続が遮断されると、車両用ドアの開閉速度がモータのT-N特性に制約されない。そして、車両用ドアは、手動操作力によって、ユーザにより意図される速度で開閉されるため、前述のように利便性が損なわれない。また、動力伝達機構31とモータとの接続が遮断されると、手動操作に起因してモータ20が回生発電しないため、ユーザは、前述のような重たさを感じない。しかしながら、このようなクラッチ機構が設けられる場合、車両用ドアにおける部品点数の増大およびスペースの占有を招く。
【0068】
よって、そのようなクラッチ機構が車両用ドアに設けられていない場合であっても、車両用ドアの自動開閉時および手動開閉時のいずれにおいてもユーザの利便性(および操作感)が損なわれないことが好ましい。以上から、コストを抑制しつつユーザの利便性および操作感を向上させるためのT-N特性を実現するモータが要望される。本実施の形態では、このようなT-N特性を実現するためのモータ20について詳しく説明する。
【0069】
図5は、インバータ43およびモータ20の回路構成を示す図である。
図5を参照して、インバータ43は、バッテリB1の電圧Vbの直流電力を変換して、変換後の交流電力をモータ20へ出力するように構成されている。インバータ43は、U相アーム46と、V相アーム47と、W相アーム48とを含む。
【0070】
U相アーム46は、スイッチング素子Q1,Q2と、スイッチング素子Q1,Q2にそれぞれ逆並列に接続されるダイオードD1,D2とを含む。V相アーム47は、スイッチング素子Q3,Q4と、スイッチング素子Q3,Q4にそれぞれ逆並列に接続されるダイオードD3,D4とを含む。W相アーム48は、スイッチング素子Q5,Q6と、スイッチング素子Q5,Q6にそれぞれ逆並列に接続されるダイオードD5,D6とを含む。
【0071】
スイッチング素子Q1~Q6は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)またはMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等である。スイッチング素子Q1~Q6は、それぞれ、ドアECU22からの駆動信号に従って、オン状態とオフ状態との間で切り替わりながらスイッチング動作を行う。
【0072】
モータ20は、第1の巻線部25と、第2の巻線部27と、リレーR1~R3とを含む。第1の巻線部25は、モータ20の高トルクかつ低回転速度の第1のT-N特性を実現するように構成される。第1の巻線部25は、コイルTU1,TU2(U相)と、コイルTV1,TV2(V相)と、コイルTW1,TW2(W相)とを含む3相巻線により構成される。コイルTU1,TV1,TW1の各々は、中性点NP1に接続されている。
【0073】
第1の巻線部25のU相,V相,W相は、それぞれ、リレーR1,R2,R3を通じて、インバータ43のU相アーム46,V相アーム47,W相アーム48に接続するように構成される。リレーR1~R3の全てが閉じている場合、第1の巻線部25のU相,V相,W相には、それぞれ、U相電流IU,V相電流IV,W相電流IWが流れる(第1の巻線部25が通電状態である)。他方、リレーR1~R3の全てが開いている場合、第1の巻線部25のU相、V相,W相には、これらの電流が流れない(第1の巻線部25が非通電状態である)。
【0074】
第2の巻線部27は、モータ20の低トルクかつ高回転速度の第2のT-N特性を実現するように構成される。第1の巻線部25と、第2の巻線部27とは、電気的に並列に設けられている。第2の巻線部27は、コイルSU1,SU2(U相)と、コイルSV1,SV2(V相)と、コイルSW1,SW2(W相)とを含む3相巻線により構成される。コイルSU1,SV1,SW1の各々は、中性点NP2に接続されている。
【0075】
第2の巻線部27のU相,V相,W相は、それぞれ、インバータ43のU相アーム46,V相アーム47,W相アーム48に常に接続されている。そのため、第2の巻線部27のU相,V相,W相には、リレーR1~R3の開閉状態によらず、I相電流IU,V相電流IV,W相電流IWが流れる(第2の巻線部27が通電状態である)。
【0076】
リレーR1は、第1の巻線部25のU相と、第2の巻線部27のU相との間に設けられる。リレーR2は、第1の巻線部25のV相と、第2の巻線部27のV相との間に設けられる。リレーR3は、第1の巻線部25のW相と、第2の巻線部27のW相との間に設けられる。リレーR1~R3は、本開示における「リレー部」を構成する。
【0077】
リレーR1~R3の各々の開閉状態は、ドアECU22からの指令に従って切り替えられる。例えば、リレーR1~R3の全てが閉状態から開状態に切り替えられると、第1の巻線部25が通電状態から非通電状態に切り替えられる(第1の巻線部25が第2の巻線部27から電気的に切り離される)。他方、リレーR1~R3の全てが開状態から閉状態に切り替えられると、第1の巻線部25が非通電状態から通電状態に切り替えられる(第1の巻線部25が第2の巻線部27と電気的に接続される)。
【0078】
図6は、モータ20を回転軸方向から見たときのモータ20のステータの構造を示す平面図である。
図6を参照して、ステータ40は、第1のティース50~55と、第2のティース60~65とを含む。
【0079】
第1のティース50~55には、第1の巻線部25のコイルTU1~TW2(
図5)が巻回される。また、第2のティース60~65には、第2の巻線部27のコイルSU1~SW2(
図5)が巻回される。第1のティース50~55と第2のティース60~65とは、モータ20のステータ40の周方向に交互に配置される。第1のティース50~55の周方向の幅が、第2のティース60~69の周方向の幅よりも広いという点において、第1のティース50~55の形状は、第2のティース60~65の形状とは異なる。
【0080】
コイルTU1~TW2(第1の巻線部25)とコイルSU1~SW2(第2の巻線部27)との少なくとも一方が通電されることにより、これらの巻線部における通電の有無に応じた磁気回路がモータ20において形成される。これにより、当該磁気回路と巻線部に流れる電流との態様に応じて、モータ20のトルクTおよび回転速度Nが決定される。
【0081】
コイルTU1~TW2(第1の巻線部25)における巻線の線径(第1の線径)は、コイルSU1~SW2(第2の巻線部27)における巻線の線径(第2の線径)よりも大きい。また、コイルTU1~TW2(第1の巻線部25)における巻線の巻数n1は、コイルSU1~SW2(第2の巻線部27)における巻線の巻数n2よりも多い。
【0082】
そのため、第1の巻線部25により実現されるモータ20のT-N特性(第1のT-N特性)は、第2の巻線部27により実現されるモータ20のT-N特性(第2のT-N特性)よりも高トルクかつ低回転速度の特性である。言い換えると、第2のT-N特性は、第1のT-N特性よりも、低トルクかつ高回転速度の特性である。
【0083】
これらの特性の差は、第1の線径と第2の線径との差、および、巻数n1と巻数n2との差の各々が大きくなるにつれて、より顕著になる。具体的には、第1の線径が第2の線径よりも大きくなるにつれて、第1のT-N特性は、第2のT-N特性よりもさらに高トルクの特性となる。また、巻数n1が巻数n2よりも多くなるにつれて、第1のT-N特性は、第2のT-N特性よりもさらに低回転速度の特性となる。言い換えると、第2のT-N特性は、第1のT-N特性よりもさらに高回転速度の特性となる。
【0084】
図7は、モータ20のT-N特性を説明するための図である。
図7において、
図3と同様に、縦軸はモータ20の回転速度Nを示し、横軸は、モータ20のトルクTを示す。
図7において、モータ20の第1のT-N特性70と、第2のT-N特性75と、第3のT-N特性80とが示されている。
【0085】
第1のT-N特性70は、仮に、第1の巻線部25および第2の巻線部27(
図5)のうち第1の巻線部25のみが通電された場合に第1の巻線部25により実現されるモータ20のT-N特性である。
【0086】
第2のT-N特性75は、第1の巻線部25および第2の巻線部27のうち第2の巻線部27のみが通電された場合に第2の巻線部27により実現されるモータ20のT-N特性である。第2のT-N特性75は、第1のT-N特性70よりも低トルクかつ高回転速度の特性である。
【0087】
第3のT-N特性80は、第1の巻線部25および第2の巻線部27の両方が通電された場合のモータ20のT-N特性である。第3のT-N特性80は、第1のT-N特性70および第2のT-N特性75に基づいて定まる。
【0088】
図7の例では、第3のT-N特性80は、第1のT-N特性70に近似している。そのため、第3のT-N特性80は、第2のT-N特性75と比較された場合、第1のT-N特性70と同様に高トルクかつ低回転速度の特性である。
【0089】
モータ20のT-N特性は、リレーR1~R3の開閉状態に応じて決定される。リレーR1~R3の全てが開いている場合、第2の巻線部27のみが通電される。この場合、モータ20のT-N特性は、第2の巻線部27のみによって実現される第2のT-N特性75(低トルクかつ高回転速度の特性)である。
【0090】
また、リレーR1~R3の全てが閉じている場合、第1の巻線部25および第2の巻線部27の両方が通電される。この場合、モータ20のT-N特性は、これらの巻線部の両方によって実現される第3のT-N特性80(高トルクかつ低回転速度の特性)である。
【0091】
本実施の形態では、
図7の例のように、第2のT-N特性75が動作点P3を満たし、かつ、第3のT-N特性80が動作点P1,P2を満たすようにモータ20の第1~第3のT-N特性が定められる(第1の線径および第2の線径と、巻数n1および巻数n2とが設定される)。
【0092】
ここで、モータ20の駆動状態(例えば、回転速度N)は、ユーザにより大きい手動操作力がドアに加えられたか否かを反映する。そして、ドアECU22は、モータ20の駆動状態に従って、大きい手動操作力がユーザによりドア4に加えられたか否かを判断する。ドアECU22は、当該手動操作力がドア4に加えられたとの判断に従って、第1の巻線部25を通電状態から非通電状態に切り替えるようにリレーR1~R3を制御する(リレーR1~R3を閉状態から開状態へ切り替える)。
【0093】
これにより、大きい手動操作力をユーザがドア4に加えた場合、リレーR1~R3が開かれるため、第2の巻線部27のみが通電されるようになる。その結果、モータ20のT-N特性が、高トルクかつ低回転速度の第3のT-N特性80から低トルクかつ高回転速度の第2のT-N特性75に切り替えられる。そのため、上記の場合、モータ20の回転速度Nが手動操作に応じて十分に(N1まで)上昇し得る。その結果、ユーザは、手動操作に応じた速い速度でドア4を開閉できるようになる。以下、ドアECU22がモータ20を制御する手法について具体的に説明する。
【0094】
図8は、ドアECU22によるモータ20のT-N特性の切り替えの手法を説明するための図である。
図8において、
図3と同様に、縦軸はモータ20の回転速度Nを示し、横軸は、モータ20のトルクTを示す。
【0095】
第2のT-N特性75と、第3のT-N特性80とは、交点X1において交差している。交点X1におけるトルクTおよび回転速度Nは、それぞれ、しきい値TH1およびしきい値TH2として利用される。しきい値TH1は、第2のT-N特性75に従う回転速度Nが、第3のT-N特性80におけるトルクTと同一のトルクTに対して、第3のT-N特性80に従う回転速度Nよりも大きいか否かに関係している。しきい値TH2は、モータ20のT-N特性が切り替えられる必要があるほど大きい手動操作力がユーザによりドア4に加えられたか否かの判断のために用いられる。
【0096】
以下の説明において、トルクTがしきい値TH1以上であるトルク領域を高トルク領域Z1と便宜的に表し、トルクTがしきい値TH1未満であるトルク領域を低トルク領域Z2と便宜的に表す。P4,P5については、後述する。
【0097】
図8の例では、ドア4が開閉し始める前、ドア4の動作モードとして自動動作モードが選択されている。この場合、ドアECU22は、ドア4の自動開閉に必要なトルクをモータ20から発生させるために、第1の巻線部25(および第2の巻線部27)が通電状態になるようにリレーR1~R3を閉じている。そのため、第1の巻線部25(および第2の巻線部27)からトルクが発生する。よって、モータ20のT-N特性は、高トルク特性の第3のT-N特性80である。モータ20の回転開始時の動作点は、その回転速度が0である動作点P1である。
【0098】
ドア4がモータ20により自動的に開閉され始めると、モータ20の回転速度が徐々に上昇し始める。そのため、モータ20の動作点は、動作点P1から第3のT-N特性80上の点へ移動した後、第3のT-N特性80に沿って図中の左方向へ移動し始める。
【0099】
当該動作点の移動中にユーザによりドア4に手動操作力が加えられると、ドア4は、モータ20から出力されるトルクと、手動操作力との両方によって開閉される。よって、ドア4の速度が、自動動作モード時の最高開閉速度よりも速くなることがある。これに伴い、モータ20の回転速度Nは、当該最高開閉速度に対応するN2よりも高くなる場合がある。
【0100】
この場合、モータ20の動作点は、第3のT-N特性80に沿って、ドア4の自動動作モード中のモータ20のトルク領域ZAから、トルクTがT2よりも小さいトルク領域ZBに移動する。トルク領域ZBにおいて、第3のT-N特性80に従う回転速度Nは、第2のT-N特性75におけるトルクTと同一のトルクTに対して、第2のT-N特性75に従う回転速度Nよりも大きい。
【0101】
他方、トルクTがしきい値TH1よりも小さい低トルク領域Z2において(例えばトルクTがT4である場合)、第2のT-N特性75に従う回転速度N(例えばN4)は、第3のT-N特性80におけるトルクTと同一のトルクT(例えばT4)に対して、第3のT-N特性80に従う回転速度N(例えばN3)よりも大きい。
【0102】
本実施の形態では、モータ20の回転速度Nがしきい値TH2未満の場合(トルクTが高トルク領域Z1の範囲内である場合)、ドアECU22は、リレーR1~R3を閉じたままモータ20を駆動する。この場合、第1の巻線部25が通電状態のままであるため、モータ20は、高トルクかつ低回転速度の第3のT-N特性80に従ってドアECU22により駆動される。これにより、ドア4が自動動作モードである場合にドア4の自動開閉に必要なトルクの発生が可能となる。なお、ドアECU22は、
図1の回転速度センサ33の検出値に従って、回転速度Nがしきい値TH2まで上昇したか否かを判断する。
【0103】
他方、大きい手動操作力がユーザによりドア4に加えられたことによってモータ20の回転速度Nがしきい値TH2まで上昇した場合(モータ20の動作点が第3のT-N特性80に沿って交点X1に到達した場合)、ドアECU22は、リレーR1~R3を開く。これにより、第1の巻線部25が通電状態から非通電状態に切り替えられる。よって、第2の巻線部27のみが通電している状況が実現されるため、モータ20のT-N特性は、高トルクかつ低回転速度の第3のT-N特性80から、低トルクかつ高回転速度の第2のT-N特性75に切り替えられる。
【0104】
よって、ユーザが大きい手動操作力をドア4に加えたときに、手動操作に応じてモータ20の回転速度NがN1まで上昇できる。その結果、当該手動操作力を加えているユーザにより意図された速い速度でドア4が開閉されるようになる。その結果、ユーザの利便性を向上させることが可能となる。
【0105】
上記の説明において、ドアECU22は、モータ20の回転速度Nがしきい値TH2まで上昇した場合にリレーR1~R3を開くものとした。これに対して、ドアECU22は、手動操作力がドア4に加えられた場合にモータ20において発生する逆起電力がしきい値電圧以上になったときに、リレーR1~R3を開いてもよい。
【0106】
手動操作力がドア4に加えられることにより、動力伝達機構31によって手動操作力がモータ20に伝達される。モータ20が、当該手動操作力から受ける回転力に起因して回転すると、モータ20において逆起電力が発生する。そして、当該手動操作力が大きくなるにつれて、当該回転力がより大きくなることに起因して当該逆起電力がより大きくなる。そのため、ドアECU22は、モータ20のT-N特性を切り替える必要があるほど大きい手動操作力がユーザによりドア4に加えられたか否かを、当該逆起電力がしきい値電圧以上になった否かに従って判断できる。
【0107】
なお、本実施の形態では、ドアECU22は、電圧センサ34の検出値(モータ20の各相の電圧)と、ホールセンサ35の検出値とに従って、公知の手法を用いて当該逆起電力を算出する。
【0108】
当該逆起電力のためのしきい値電圧は、電圧Vbに依存しており、例えば、Vb×Kv×Nx/N0stである。ここで、Kvは、バッテリB1の電圧Vbに対する補正定数である。Nxは、モータ20の定格条件下での交点X1における回転速度Nである。N0stは、モータ20の定格条件かつ無負荷条件の下での第3のT-N特性80に従う回転速度Nである。
【0109】
上記逆起電力のためのしきい値電圧がこのように定められることにより、モータ20からバッテリB1に回生電力が供給されるほど大きい逆起電力が発生しているか否かをドアECU22は判断できる。当該逆起電力が発生している場合、ドアECU22は、大きい手動操作力がユーザによりドア4に加えられていると判断し、リレーR1~R3を開く。これにより、第1の巻線部25を通電状態から非通電状態に切り替えられるため、モータ20のT-N特性が高トルクかつ低回転速度の第3のT-N特性80から低トルクかつ高回転速度の第2のT-N特性75へ切り替えられる。そのため、ユーザは、ドア4の手動開閉操作において、意図された十分に速い速度でドア4を開閉できる。
【0110】
ところで、逆起電力が上記しきい値電圧を超えると回生電力が発生するため、回生トルクが発生する。回生トルクが発生すると、モータ20の回転にブレーキがかかるため、ドアの開閉動作にもブレーキがかかる。その結果、ユーザがドア4に手動操作力を加えた場合に重たさを感じる。よって、上記のように、逆起電力が上記しきい値電圧を超えた場合にモータ20のT-N特性が切り替えられると、ユーザは、手動操作において感じる重たさが低減された状態でドア4を開閉できる。
【0111】
或いは、モータ20の回転速度Nがしきい値TH2まで上昇したという条件(第1の条件)と、上記逆起電力がしきい値電圧以上になったという条件(第2の条件)との少なくとも1つが成立した場合に、ドアECU22は、大きい手動操作力がドア4に加えられたと判断し、第1の巻線部25を通電状態から非通電状態に切り替えるようにリレーR1~R3を開いてもよい。
【0112】
特に、ドアECU22は、第1の条件および第2の条件の両方が満たされている場合に、大きい手動操作力がドア4に加えられたと判断することが好ましい。モータ20のT-N特性は、モータ20の温度、モータ20を流れる電流、または、モータ20の量産過程における個体ごとのばらつきなどの要因に応じて変動する可能性がある。そのため、ドアECU22は、これらの両方の条件が満たされている場合に当該判断を実施することにより、モータ20のT-N特性がこれらの要因に起因して変動する状況であっても、より確実に当該判断を実施できる。
【0113】
なお、モータ20のT-N特性が第2のT-N特性75であるときのモータ20の拘束トルクT3(回転速度Nが0であるときのトルク)は、動作点P2におけるトルクT(T2)未満であることが好ましい。
【0114】
T2は、ドア4の自動動作モード時にモータ20から出力される必要があるトルクTの範囲(トルク領域ZA)における最小値である。即ち、トルクTがT2以上である場合、ドア4が自動的に開閉される可能性がある。そのため、仮に、拘束トルクT3がT2以上である場合、ユーザによる手動操作に応答してドア4のT-N特性が第3のT-N特性80から第2のT-N特性75に切り替えられた後、手動操作力によらずドア4が自動的に開閉される状況が発生する可能性がある。
【0115】
車両用ドアは、手動または自動で開閉されるかに拘わらず、ユーザの意図通りに開閉されることが要望される。そして、ユーザは、ドア4に手動操作力を加えている場合、手動操作力によらずドアが自動的に開閉される状況を望んでいないと考えられる。
【0116】
そのため、本実施の形態では、拘束トルクT3がT2未満になるように第2のT-N特性75(具体的には、第2の巻線部27における巻線の線径(第2の線径)および巻数n2)が定められる。これにより、ユーザにより望まれていない上記状況を回避することができるようになる。
【0117】
また、ドアECU22は、ドア4の動作モードが、手動操作モード、アシスト動作モード、または、自動動作モードのいずれであるかに応じてリレーR1~R3を開閉することにより、モータ20のT-N特性を切り替えてもよい。
【0118】
例えば、手動操作モードが選択された場合、ドアECU22は、第1の巻線部25が非通電状態になるようにリレーR1~R3を開く。これにより、モータのT-N特性は、高トルクかつ低回転速度の第3のT-N特性80から、低トルクかつ高回転速度の第2のT-N特性75に切り替えられる。その結果、ドア4が手動操作力のみによって開閉される場合にモータの回転速度NをN1まで上昇させることが可能となる。そのため、ユーザは、手動操作力をドア4に加えた場合であっても、手動操作に応じた速い速度でドア4を開閉できる。
【0119】
アシスト動作モードが選択された場合、ドアECU22は、第1の条件および第2の条件の少なくとも一方が満たされた場合に、モータ20のT-N特性を切り替える。具体的には、ドアECU22は、アシスト動作モードにおいて、当該少なくとも一方の条件が満たされたか否かを判断する。そして、当該少なくとも一方の条件が満たされた場合に、第1の巻線部25が非通電状態になるようにリレーR1~R3を開く。
【0120】
これにより、手動操作力がユーザにより加えられた場合、モータのT-N特性が高トルクかつ低回転速度の第3のT-N特性80から低トルクかつ高回転速度の第2のT-N特性75に切り替えられるようになる。その結果、ユーザによる手動開閉操作がモータ20によりアシストされた状態でドア4が開閉される場合にモータの回転速度NをN1まで上昇させることが可能となる。そのため、アシスト動作モードにおいて、ユーザは、手動操作に応じた速い速度でドア4を開閉できる。
【0121】
ここで、手動操作モードまたはアシスト動作モードが選択されている場合にモータ20の回転が停止しているとき、ドアECU22は、第1の巻線部25が非通電状態になるようにリレーR1~R3を開いてもよい。
【0122】
これにより、これらのモードが選択されている場合、モータ20のT-N特性が低トルク特性の第2のT-N特性75になる。これにより、ユーザが手動操作力をドア4に加え始めることによってモータ20が回転し始めたときに、当該手動操作力に応じてモータ20の回転速度Nが高回転速度まで上昇しやすくなる。その結果、ユーザが手動操作力をドア4に加え始めたときに、手動操作に応じた高速度でドア4が開閉されやすくなる。それゆえ、ユーザの利便性を向上させることが可能となる。
【0123】
また、一般的に、低トルク特性を有するモータほど、手動操作力がドア4に加えられたときにモータにおいて発生する逆起電力が低くなる。そのため、モータ20のT-N特性が低トルク特性の第2のT-N特性75になることにより、当該逆起電力に起因して発生する回生電力が低減されるため、ユーザがドア4に手動操作力を加えた場合に感じる重たさが低減される。それゆえ、ユーザがドア4に手動操作力を加えるときに感じる操作感を向上させることが可能となる。
【0124】
なお、自動動作モードが選択された場合、ドアECU22は、第1の巻線部25が通電状態になるようにリレーR1~R3を制御する(リレーR1~R3を閉じる)。これにより、モータ20のT-N特性が高トルク特性の第3のT-N特性80になるため、上記の場合にドア4の自動開閉に必要なトルクの発生が可能となる。
【0125】
図9および
図10は、ドア4の開閉に伴って実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図9のフローチャートは、車両1のシステム起動中に所定の時間間隔ごとに実行される。
【0126】
図9を参照して、ステップS105において、ドアECU22は、車両1のシステム起動に応答して、ドア4の動作モードをデフォルトの自動動作モードに設定する(ステップS105)。
【0127】
次いで、ドアECU22は、ドア4の動作モードが自動動作モードに設定されているため、インバータ43(
図5)を起動した後にリレーR1~R3(リレー部)を閉じる(ステップS107)。リレーR1~R3が閉じられているとき、第2の巻線部27のみならず第1の巻線部25が通電状態であるため、モータ20のT-N特性は、高トルクかつ低回転速度の第3のT-N特性である。
【0128】
ステップS110において、ドアECU22は、ドア4の動作モードについて、自動動作モードから手動操作モードへの切り替え指示が有るか否かを判断する。具体的には、ドアECU22は、操作部37からの信号S5(
図2)に従って、ユーザにより手動操作モードが選択されているか否かを判断する。当該指示が有る場合(ステップS110においてYES)、ドアECU22は、ステップS115へ処理を進める。そうでない場合(ステップS110においてNO)、ドアECU22は、
図10のステップS200へ処理を進める。
【0129】
ステップS115において、ドアECU22は、手動操作モードへの切り替え指示に応答して、ドア4の動作モードを手動操作モードへ切り替える。これに伴い、ドアECU22は、リレーR1~R3(リレー部)を開く(ステップS120)。これにより、第1の巻線部25が通電状態から非通電状態に切り替えられる。そのため、ドア4のT-N特性が、高トルクかつ低回転速度の第3のT-N特性80から、低トルクかつ高回転速度の第2のT-N特性75に切り替えられる。
【0130】
ドア4の動作モードが手動操作モードに切り替えられたため、インバータ43からモータ20への励磁電流に起因してモータ20からトルクが発生しないように(ユーザによるドア4の手動開閉操作がモータ20によりアシストされないように)、ドアECU22は、インバータ43を停止する(ステップS122)。その結果、上記励磁電流が入力されなくなるため、第2の巻線部27も通電状態から非通電状態に切り替えられる。
【0131】
ステップS125において、ドアECU22は、自動動作モードへの切り替え指示が有るか否かを判断する。当該指示がある場合(ステップS125においてYES)、ドアECU22は、インバータ43を起動した後、ドア4の自動開閉に必要なトルクTをモータ20から発生させるためにリレーR1~R3を閉じる(ステップS130)。これにより、第1の巻線部25が非通電状態から通電状態に切り替えられる。そのため、ドア4のT-N特性は、低トルクかつ高回転速度の第2のT-N特性75から高トルクかつ低回転速度の第3のT-N特性80へ切り替えられる。その後、ドアECU22は、リターンへ処理を移行する。他方、自動動作モードへの切り替え指示が無い場合(ステップS125においてNO)、ドアECU22は、当該指示があるまで、手動操作モードを維持するためにインバータ43を停止する。
【0132】
図10を参照して、ステップS200において、ドアECU22は、ドア4の移動が検出されたか否かを判断する。具体的には、ドアECU22は、移動速度検出センサ32からの信号S2(
図2)に従って、当該判断処理を実施する。ドア4の移動が検出された場合(ステップS200においてYES)、ドアECU22は、ドア4の移動がユーザによる手動操作に起因しているか否かを判断するためにステップS205へ処理を進める。他方、ドア4の移動が検出されていない場合(ステップS200においてNO)、ドアECU22は、リターンへ処理を移行する。
【0133】
ステップS205において、ドアECU22は、ユーザによる手動操作が検出されたか否かを判断する。具体的には、ドアECU22は、タッチセンサ39により出力された信号S1(
図2)に従って、当該判断処理を実施する。手動操作が検知された場合(ステップS205においてYES)、ドアECU22は、ドア4の移動がユーザによる手動操作に起因していると判断する。そして、ドアECU22は、ユーザによる手動操作がモータ20によってアシストされるように、ドア4の動作モードを手動操作モードからアシスト動作モードに切り替え(ステップS210)、その後、ステップS215へ処理を進める。他方、手動操作が検出されていない場合(ステップS205においてNO)、ドアECU22は、ドア4の移動がユーザによる手動操作に起因していないと判断し、ステップS250へ処理を進める。
【0134】
ステップS215において、ドアECU22は、モータ20の回転速度Nがしきい値TH2に到達したか否かを判断する(第1の条件)。回転速度Nがしきい値TH2に到達した場合(ステップS215においてYES)、
図10の例では、ドアECU22は、大きい手動操作力がドア4に加えられたか否かを確実に判断するためにステップS217へ処理を進める。他方、回転速度Nがしきい値TH2未満である場合(ステップS215においてNO)、ドアECU22は、リターンへ処理を移行する。
【0135】
ステップS217において、ドアECU22は、モータ20において発生した逆起電力がしきい値TH3以上であるか否かを判断する(第2の条件)。しきい値TH3は、前述のしきい値電圧に相当する。逆起電力がしきい値TH3以上である場合(ステップS217においてYES)、ドアECU22は、第1の条件および第2の条件の両方が満たされているため、大きい手動操作力がドア4に確実に加えられたと判断し、ステップS220へ処理を進める。他方、逆起電力がしきい値TH3未満である場合(ステップS217においてNO)、ドアECU22は、リターンへ処理を移行する。
【0136】
ステップS220において、ドアECU22は、リレーR1~R3を開く。これにより、第1の巻線部25が非通電状態に切り替えられる。その結果、第2の巻線部27のみが通電状態になるため、モータ20のT-N特性は、高トルクかつ低回転速度の特性の第3のT-N特性80から、低トルクかつ高回転速度の第2のT-N特性75に切り替えられる。
【0137】
ステップS230において、ドアECU22は、ドア4の移動が停止したか否かを判断する。例えば、ドアECU22は、信号S2(
図2)により示されるドア4の移動速度Vdrが0であるか否かに従って当該判断処理を実施する。ドア4の移動が停止した場合(ステップS230においてYES)、ドアECU22は、リターンへ処理を移行する。そうでない場合(ステップS230においてNO)、ドア4の移動が停止するまで、当該判断処理を実施する。
【0138】
なお、アシスト動作モード中のステップS220以降、ドアECU22は、リレーR1~R3を開いているため、第1の巻線部25が非通電状態である。そのため、第1の巻線部25が非通電状態にあるという点において、ステップS220以降のアシスト動作モードは、ステップS120~S122(
図9)の手動操作モードと共通する。一方で、アシスト動作モード中、インバータ43がドアECU22により駆動されているため、微弱なU相電流IV~W相電流IW(
図5)がインバータ43からモータ20の第2の巻線部27へ入力されている。よって、アシスト動作モード中にリレーR1~R3が開かれている状態は、手動操作モード中の当該状態とは異なる。
【0139】
ステップS205において処理がNOに分岐された後のステップS250において、ドアECU22は、車両1が坂道に停車していること等に起因してドア4が重力により落下していると判断する。ドアECU22は、ドア4の移動が検出されているにも拘わらず(ステップS200においてYES)手動操作が検知されていない(ステップS205においてNO)ことに従って、当該判断処理を実施する。
【0140】
そのため、ドアECU22は、モータ20のショートブレーキ制御を実施する。ショートブレーキ制御は、ドアECU22が、スイッチング素子Q1,Q3,Q5(
図5)を同時にオフ状態にし、かつ、スイッチング素子Q2,Q4,Q6を同時オン状態にすることにより、モータ20のU相~W相の端子間をショート(短絡)させる制御である。ショートブレーキ制御が実行されると、モータ20の回転にブレーキがかかる結果、ドア4の移動にブレーキがかかる。
【0141】
ステップS255において、ドアECU22は、ショートブレーキ制御の結果、ドア4の移動が停止したか否かを判断する。具体的には、ドアECU22は、信号S2(
図2)により示されるドア4の移動速度Vdrが0であるか否かに従って当該判断処理を実施する。ドア4の移動が停止した場合(ステップS255においてYES)、ドアECU22は、リターンへ処理を移行する。そうでない場合(ステップS255においてNO)、ドア4の移動が停止するまで、ショートブレーキ制御を実行する。
【0142】
以上のように、本実施の形態に従うモータ20は、第1の巻線部25と、第2の巻線部27と、リレーR1~R3(リレー部)とを含む。第1の巻線部25と、第2の巻線部27とは、電気的に並列に設けられている。第1の巻線部25は、第1のT-N特性70を実現するように構成される。第2の巻線部27は、第2のT-N特性75を実現するように構成される。第2のT-N特性75は、第1のT-N特性70よりも低トルクかつ高回転速度の特性である。
【0143】
第1の巻線部25および第2の巻線部27の両方が通電される場合、モータ20のT-N特性は、第3のT-N特性80である。第3のT-N特性80は、第1のT-N特性70と同様に、第2のT-N特性75よりも高トルクかつ低回転速度の特性である。また、リレーR1~R3は、第1の巻線部25における通電の有無を切り替えるように構成される。
【0144】
ドアECU22は、モータ20の駆動状態に従って、第1の条件および第2の条件のうち少なくとも一方が満たされたか否かを判断する。これらの条件のうち少なくとも一方が満たされた場合、ドアECU22は、大きい手動操作力がドア4に加えられたと判断し、第1の巻線部25を通電状態から非通電状態に切り替えるようにリレーR1~R3を開く。
【0145】
これにより、大きい手動操作力がユーザによりドア4に加えられた場合に、モータ20のT-N特性は、高トルクかつ低回転速度の第3のT-N特性80から、低トルクかつ高回転速度の第2のT-N特性75に切り替えられる。その結果、ユーザは、意図された十分に速い速度(当該手動操作に応じた速度)でドア4を開閉できる。
【0146】
また、本実施の形態では、第1の巻線部25と、第2の巻線部27とは、リレーR1~R3を介して接続または遮断するように構成されている。そのため、例えば、これらの巻線部がスイッチング素子を介して接続または遮断するように構成されている場合とは異なり、本実施の形態では、第1の巻線部25と、第2の巻線部27とは、遮断状態にあるときに電気的に完全に絶縁される。よって、ドア4に対してユーザによる手動操作力が加えられた場合、これらの巻線部のうち一方の巻線部における回生発電に起因して発生した電流が他方の巻線部に流れ込むことがない。その結果、モータ20のT-N特性が意図せず変化してしまう事態が回避される。そのため、本実施の形態では、ユーザの利便性および操作感を安定的に向上させることが可能である。
【0147】
また、高トルク出力可能かつ高速回転可能のT-N特性を有する高出力モータが車両用ドアに搭載される場合とは異なり、モータ20に流れる電流は、車両1のボディ系であるドア4においてモータ20が搭載され得る程度の実用的なレベルの電流である。そのため、モータ20は、当該高出力モータに比べて、車両用ドアに搭載されるモータとして実用性が高い。
【0148】
[変形例1]
図11を参照して、実施の形態の変形例について説明する。
図11は、実施の形態の変形例における、モータ20の回路構成を示す図である。以下の説明において、
図5を適宜参照する。
【0149】
上述の実施の形態において、リレー部(リレーR1~R3)は、第1の巻線部25と、第2の巻線部27とを接続するように構成されるものとした。そして、リレーR1~R3が閉じている場合に第1の条件および第2の条件の少なくとも一方が満たされると、ドアECU22がリレーR1~R3を開く。そのため、モータ20のT-N特性は、第3のT-N特性80から第2のT-N特性75へ切り替えられる。
【0150】
これに対して、本変形例に従うモータ20は、C接点リレーとしてのリレーR11~R13を含むリレー部を備える点において、上述の実施の形態のモータとは異なる。リレーR11は、接点105,110および115を含む。リレーR12は、接点120,125および130を含む。リレーR13は、接点135,140および145を含む。リレーR11~R13は、第1の巻線部25および第2の巻線部27における通電の有無を切り替えるように構成されている。
【0151】
例えば、リレーR11~R13の接点105,120および135と、第1の巻線部25側の接点110,130および145とが接続されている場合を想定する。この場合、U相電流IU,V相電流IV,W相電流IWがインバータ43から第1の巻線部25を流れる一方で、これらの電流は、第2の巻線部27を流れない。そのため、第1の巻線部25は、通電状態にある一方で、第2の巻線部27は、非通電状態にある。よって、上記の場合、モータ20のT-N特性は、第3のT-N特性80と同様に高トルクかつ低回転速度の特性である第1のT-N特性70(
図7)である。
【0152】
ここで、本変形例において、第1の条件および第2の条件の少なくとも一方が満たされた場合、ドアECU22は、リレーR11~R13の接点105,120および135と、第1の巻線部25側の接点110,130および145とを切り離す。次いで、ドアECU22は、リレーR11~R13の接点105,120および135と、第2の巻線部27側の接点115,125および140とを接続する。
【0153】
これにより、第1の巻線部25が通電状態から非通電状態に切り替わり、第2の巻線部27が非通電状態から通電状態に切り替えられる。そのため、モータ20のT-N特性は、高トルクかつ低回転速度の第1のT-N特性70から、低トルクかつ高回転速度の第2のT-N特性75に切り替えられる。その結果、本変形例においても、上述の実施の形態と同様に、手動操作力をドア4に加えたユーザは、手動操作に応じた速度でドア4を開閉できる。
【0154】
なお、本変形例において、
図8の交点X1に相当する交点は、第1のトルク-回転速度特性70と、第2のトルク-回転速度特性80との交点に従って定められる。そのため、しきい値TH1,TH2に相当するしきい値も、当該交点に従って定められる。
【0155】
[変形例2]
図5および
図11を参照して、他の変形例について説明する。前述の実施の形態およびその変形例1において、第1の巻線部25は、コイルTU1~コイルTW2により構成される第1の3相巻線を含む。また、第2の巻線部27は、コイルSU1~コイルSW2により構成される第2の3相巻線を含む。
【0156】
ここで、
図5の例では、リレー部は、必ずしもリレーR1~R3の全てを含んでいなくてもよい。即ち、リレー部は、リレーR1~R3のうち少なくとも2つのリレー(例えば、リレーR1,R2)を含んでいればよい。リレー部が当該少なくとも2つのリレーを含んでいれば、ドアECU22は、それらのリレーを開閉することにより、第1の巻線部25における通電状態の有無を切り替えることができる。
【0157】
例えば、リレー部にリレーR3が設けられていない場合(即ち、コイルTW2,SW2が常時接続されている場合)であっても、第1の条件および第2の条件の少なくとも1つが満たされたときにドアECU22はリレーR1,R2を開く。その結果、U相電流IUは、第2の巻線部27のコイルSU1,SU2→中性点NP2→コイルSW1,SW2まで到達した後、第1の巻線部25のW相(コイルTW1,TW2)から中性点NP1を経由してU相アーム46,W相アーム47へ流れることがない。そのため、上記の場合にリレーR1,R2が開かれると、第1の巻線部25は、通電状態から非通電状態へ切り替えられる。
【0158】
その結果、第2の巻線部27のみが通電されるため、モータ20のT-N特性は、高トルクかつ低回転速度のT-N特性80から低トルクかつ高回転速度の第2のT-N特性75に切り替えられる。よって、前述の実施の形態と同様の作用効果を奏することが可能である。
【0159】
なお、実施の形態の変形例1(
図11)においても、リレー部(リレーR11~R13)は、同様に、リレーR11~R13のうち少なくとも2つのリレー(例えば、リレーR11,R12)を含んでいればよい。
【0160】
例えば、リレーR11~R13のうちリレーR13が設けられていない場合(即ち、第1の巻線部25のW相と、第2の巻線部27のW相と、インバータ43のW相アームとが常時接続されている場合)であっても、第1の条件および第2の条件の少なくとも1つが満たされたときに、ドアECU22は、第1の巻線部25を通電状態から非通電状態に切り替えるようにリレーR11,R12を制御する。具体的には、ドアECU22は、リレーR11の接点105の接続先を接点110から接点115に切り替え、かつ、リレーR12の接点120の接続先を接点130から接点125に切り替える。
【0161】
これにより、第1の巻線部25が通電状態から非通電状態に切り替えられ、かつ、第2の巻線部27が非通電状態から通電状態に切り替えられる。その結果、モータ20のT-N特性は、高トルクかつ低回転速度の第1のT-N特性70から、低トルクかつ高回転速度の第2のT-N特性75に切り替えられる。
【0162】
[変形例3]
再び
図8を参照して、さらに他の変形例について説明する。前述の実施の形態において、モータ20の回転速度Nに関する第1の条件におけるしきい値(しきい値TH2に相当)は、
図8の交点X1における回転速度Nであるものとした。これに対して、当該しきい値は、交点X1における回転速度Nよりも大きい値(低トルク領域Z2において第3のT-N特性80に従う他の回転速度N(例えばN3))であってもよい。
【0163】
そして、第1の条件が満たされた場合(あるいは、さらに第2の条件が満たされた場合)、ドアECU22は、リレーR1~R3を開く。これにより、モータ20のT-N特性は、高トルクかつ低回転速度の第3のT-N特性80から、低トルクかつ高回転速度の第2のT-N特性75に切り替えられる。
【0164】
ここで、例えば、上記しきい値がN3である場合、第3のT-N特性80に沿って動作点が移動している(ユーザが手動操作力をドア4に加えている)間に第1の条件が満たされた時点(モータ20の動作点がP4に到達した時点)で、モータ20のT-N特性が第2のT-N特性75に切り替えられる。このようにT-N特性が切り替えられると、ユーザによる大きい手動操作力に応じて、トルクTがT4のままで回転速度NがN3からN4まで余分に上昇(モータ20の動作点がP4からP5に移動)できるようになる。その結果、手動操作に応じた速度でドア4が開閉されるようになるため、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0165】
以上から、第1の条件におけるしきい値は、
図8のしきい値TH2(交点X1における回転速度N)よりも大きい値であってもよい。即ち、モータ20のT-N特性が第3のT-N特性80から第2のT-N特性75に切り替えられる際の動作点は、交点X1よりも図中の左側の、第3のT-N特性80上の点であってもよい。
【0166】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内で全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0167】
1 車両、4 ドア、22 ドアECU、15 車両用ドアシステム、20 モータ、21 ドアアクチュエータ、25 第1の巻線部、27 第2の巻線部、R1,R2,R3,R11,R12,R13 リレー。