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特開2022-161355工作機械における運動誤差の導出方法および導出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161355
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】工作機械における運動誤差の導出方法および導出装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20221014BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
G05B19/18 W
G05B19/18 X
B23Q17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066093
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康功
【テーマコード(参考)】
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C029EE02
3C269AB01
3C269BB03
3C269CC02
3C269GG01
3C269JJ10
3C269JJ18
3C269MN07
3C269MN14
3C269MN16
3C269MN28
3C269MN50
3C269PP03
3C269QC01
3C269QD02
(57)【要約】
【課題】加工精度の向上に有用な工作機械の運動誤差(位置決め誤差等)を、無駄なく短時間で容易に正確かつ適切に測定することが可能な運動誤差の導出方法および導出装置を提供する。
【解決手段】工作機械において位置決め誤差を導出する際には、数値制御装置21による制御により、S1で、工作機械の衝突の履歴に関する「機械状態チェック1」を行った後に、S2で、工作機械の温度に関する「機械状態チェック2」を行うことによって、現時点における工作機械の状態を判定する。しかる後、S3で、「機械状態チェック1」および「機械状態チェック2」のチェック結果に基づいて、工作機械の状態が正常であるか否かを判断し、正常であると判断した場合には、S4にて、「位置決め誤差の測定」を行い、その後に、S5で、測定された位置決め誤差が有効なものであるか否かを判定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値制御装置による制御により、工作物を保持するテーブルと工具を保持する主軸とを相対移動させることによって、テーブル上の工作物への加工を行う工作機械において、前記主軸に装着した位置計測センサにより前記テーブルに設置した被計測物の位置を計測することによって運動誤差を導出する導出方法であって、
前記数値制御装置の記録手段に記録された前記工作機械の衝突の履歴および/または前記工作機械の各構成要素に設けられた温度センサにより検知された温度から前記工作機械の状態を判定する機械状態判定ステップと、
前記機械状態判定ステップの判定結果に基づいて、前記位置計測センサにより前記被計測物の位置を計測するか否かを判定する計測実施判定ステップと
を実施することを特徴とする工作機械における運動誤差の導出方法。
【請求項2】
前記機械状態判定ステップが、
前記記録手段に記録された衝突履歴における未修理の衝突履歴に基づいて前記工作機械の状態を判定するものであることを特徴とする請求項1に記載の工作機械における運動誤差の導出方法。
【請求項3】
前記機械状態判定ステップが、
前記温度センサにより前記各構成要素の温度を取得する温度取得ステップと、
前記温度取得ステップで取得した前記各構成要素の温度から、前記各構成要素間の温度の差分を求め、その温度の差分と予め設定された温度差閾値とを比較する温度比較ステップと
を実施するものであることを特徴とする請求項1に記載の工作機械における運動誤差の導出方法。
【請求項4】
前記機械状態判定ステップが、
前記温度センサにより各構成要素の温度を取得する温度取得ステップと、
前記温度取得ステップで取得した各構成要素の温度から、各構成要素における温度の変化速度を算出し、その温度の変化速度と予め設定された変化速度閾値とを比較する変化速度比較ステップと
を実施するものであることを特徴とする請求項1に記載の工作機械における運動誤差の導出方法。
【請求項5】
数値制御装置による制御により、工作物を保持するテーブルと工具を保持する主軸とを相対移動させることによって、テーブル上の工作物への加工を行う工作機械において、前記主軸に装着した位置計測センサにより前記テーブルに設置した被計測物の位置を計測することによって運動誤差を導出する導出方法であって、
前記主軸に装着した位置計測センサによって前記テーブルに設置された精度マスタを測定することによって前記工作機械の運動誤差を測定・算出する誤差測定ステップと、
前記誤差測定ステップで測定・算出された運動誤差と、前記誤差測定ステップを実施した日時と、前記工作機械の各構成要素に設けられた温度センサによって検知された各構成要素の温度とを前記数値制御装置の記録手段に記録する記録ステップと、
前記記録手段に記録された前記工作機械の衝突履歴および/または前記記録ステップにおいて記録された前記各構成要素の温度と、前記記録ステップにおいて記録された前記運動誤差と、前記記録ステップにおいて記録された前記誤差測定ステップの実施日時とから、前記運動誤差の測定結果の有効性を判定する誤差判定ステップと
を実施することを特徴とする工作機械における運動誤差の導出方法。
【請求項6】
前記誤差判定ステップが、
前記誤差測定ステップにおける前記運動誤差の測定結果と、前記記録ステップにおいて記録された前回の運動誤差との差分を算出し、その運動誤差の差分と予め設定された誤差差分閾値とを比較する誤差比較ステップと、
前記衝突履歴における未修理の衝突履歴に基づいて前記工作機械の状態を判定する修理状態判定ステップと、
前記記録ステップにおいて記録された前記誤差測定ステップの実施日時と現時点の日時との時間間隔と、予め設定された時間差閾値とを比較する間隔比較ステップと
を実施して、今回測定された運動誤差の有効性を判定するものであることを特徴とする請求項5に記載の工作機械における運動誤差の導出方法。
【請求項7】
前記誤差判定ステップが、
前記誤差測定ステップにおける運動誤差の測定結果と、前記記録ステップにおいて記録された前回の運動誤差との差分を算出し、その運動誤差の差分と予め設定された誤差差分閾値とを比較する誤差比較ステップと、
前記記録ステップにおいて記録された前回の各構成要素の温度と現時点の各構成要素の温度との差分を算出し、その温度の差分と予め設定された経時温度差閾値とを比較する経時温度差比較ステップと、
前回の前記記録ステップの実施日時と現時点の日時との時間間隔と、予め設定された時間差閾値とを比較する間隔比較ステップと
を実施するものであることを特徴とする請求項5に記載の工作機械における運動誤差の導出方法。
【請求項8】
数値制御装置による制御により、工作物を保持するテーブルと工具を保持する主軸とを相対移動させることによって、テーブル上の工作物への加工を行う工作機械において、前記主軸に装着した位置計測センサにより前記テーブルに設置した被計測物の位置を計測することによって運動誤差を導出する導出装置であって、
前記数値制御装置の記録手段に記録された前記工作機械の衝突の履歴および/または前記工作機械の各構成要素に設けられた温度センサによって検知された温度から前記工作機械の状態を判定する機械状態判定手段と、
前記機械状態判定手段の判定結果に基づいて、前記位置計測センサにより前記被計測物の位置を計測するか否かを判定する計測実施判定手段と
を有することを特徴とする工作機械における運動誤差の導出装置。
【請求項9】
前記機械状態判定手段が、
前記記録手段に記録された衝突履歴における未修理の衝突履歴に基づいて前記工作機械の状態を判定するものであることを特徴とする請求項8に記載の工作機械における運動誤差の導出装置。
【請求項10】
前記機械状態判定手段が、
前記温度センサにより前記各構成要素の温度を取得する温度取得手段と、
前記温度取得手段により取得された前記各構成要素の温度から、前記各構成要素間の温度の差分を求め、その温度の差分と予め設定された温度差閾値とを比較する温度比較手段と
を有するものであることを特徴とする請求項8に記載の工作機械における運動誤差の導出装置。
【請求項11】
前記機械状態判定手段が、
前記温度センサにより各構成要素の温度を取得する温度取得手段と、
前記温度取得手段により取得した各構成要素の温度から、各構成要素における温度の変化速度を算出し、その温度の変化速度と予め設定された変化速度閾値とを比較する変化速度比較手段と
を有するものであることを特徴とする請求項8に記載の工作機械における運動誤差の導出装置。
【請求項12】
数値制御装置による制御により、工作物を保持するテーブルと工具を保持する主軸とを相対移動させることによって、テーブル上の工作物への加工を行う工作機械において、前記運動誤差を同定するための運動誤差の導出装置であって、
前記主軸に装着した位置計測センサによって前記テーブルに設置された精度マスタを測定することによって前記運動誤差を測定・算出する誤差測定手段と、
前記誤差測定手段により測定・算出された運動誤差と、その運動誤差を測定・算出した日時と、前記工作機械の各構成要素に設けられた温度センサにより取得された各構成要素の温度とを記録する記録手段と、
前記記録手段に記録された前記工作機械の衝突履歴および/または前記記録手段に記録された前記各構成要素の温度と、前記記録手段に記録された前記運動誤差と、その運動誤差を測定・算出した日時とから、前記運動誤差の測定結果の精度を判定する誤差判定手段と
を有することを特徴とする工作機械における運動誤差の導出装置。
【請求項13】
前記誤差判定手段が、
前記誤差測定手段による前記運動誤差の測定結果と、前記記録手段に記録された前回の運動誤差との差分を算出し、その運動誤差の差分と予め設定された誤差差分閾値とを比較する誤差比較手段と、
前記衝突履歴における未修理の衝突履歴に基づいて前記工作機械の状態を判定する未修理衝突履歴判定手段と、
前記記録手段に記録された前記誤差測定手段による運動誤差の測定・算出日時と現時点の日時との時間間隔と、予め設定された時間差閾値とを比較する間隔比較手段と
を備えたものであることを特徴とする請求項12に記載の工作機械における運動誤差の導出装置。
【請求項14】
前記誤差判定手段が、
前記誤差測定手段による前記運動誤差の測定結果と、前記記録手段に記録された前回の運動誤差との差分を算出し、その運動誤差の差分と予め設定された誤差差分閾値とを比較する誤差比較手段と、
前記記録手段に記録された前回の各構成要素の温度と現時点の各構成要素の温度との差分を算出し、その温度の差分と予め設定された温度差閾値とを比較する温度比較手段と、
前記記録手段に記録された前記誤差測定手段による運動誤差の測定・算出日時と現時点の日時との時間間隔と、予め設定された時間差閾値とを比較する間隔比較手段と
を備えたものであることを特徴とする請求項12に記載の工作機械における運動誤差の導出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械において加工精度の低下を防止するために利用される位置決め誤差、真直度や直角度等の運動誤差(幾何誤差)を導出する(すなわち、測定・算出し、適正か否か判断する)ための導出方法および導出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
数値制御による工作機械においては、運動誤差(すなわち、位置決め誤差、真直度や直角度等)が加工時に工作物の形状に転写されてしまい、加工される工作物(被加工物)の形状や寸法に誤差を生じる要因となる。そのため、工作機械の製造・組立て段階で、それらの誤差を小さくするための高精度化が図られている。しかしながら、加工時の工具・工作物の発熱による熱変形に起因して運動誤差が大きくなる事態を回避できないため、その熱変形を補正するための様々な補正技術が開発されている。
【0003】
そのような補正方法として、特許文献1には、タッチプローブによってインバーに設けられた2個の円形ポケット(中心間の距離が既知のもの)を測定することにより、温度によって変化した位置決め誤差を測定し、その測定結果に基づいて位置決め誤差を補正する方法が提案されている。また、特許文献2には、並進3軸と回転2軸を有する5軸制御工作機械において、位置計測センサとターゲット球を用いて、5軸制御工作機械の幾何学的な誤差を自動計測・算出する方法が提案されている。
【0004】
上記特許文献1,2の如く、タッチプローブおよびインバーやターゲット球のような精度マスタを用いて運動誤差を自動測定する場合には、測定された運動誤差が工作機械のトラブルや計測ミス等に起因した不適切なものでないことを確認することが必要である。そのように測定された運動誤差の有効性(適切なものであるか否か)を確認する方法として、特許文献3の如く、5軸制御工作機械において計測された幾何学的な誤差を、予め設定された閾値と比較し、当該幾何学的な誤差が閾値を上回っている場合には、測定された運動誤差が有効でないと判断し、その事態を作業者に報知する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-212765号公報
【特許文献2】特開2011-038902号公報
【特許文献3】特開2012-107900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献3の如き方法では、測定された運動誤差の有効性(適切なものであるか否か)を常に正確に判定することは困難である。たとえば、前回の運動誤差の測定から今回の測定までの経過時間が大きい場合には、その間の故障や修理に起因して工作機械の状態が大きく変わっていることもあり得るため、測定された真直度や位置決め誤差等の運動誤差が閾値を上回る場合でも、それらの運動誤差が不適切とは言えない場合がある。また、各部分の温度が不均一になることに起因して工作機械に部分的な変形が生じている場合も同様に、真直度や位置決め誤差等の運動誤差が大きくなる傾向にあるため、測定された運動誤差が閾値を上回る場合でも、それらの閾値を上回る運動誤差が不適切とは言えない場合がある。
【0007】
本発明の目的は、上記特許文献3の如き従来の運動誤差の測定方法(有効性の確認方法)の問題点を解消し、加工精度の向上に有用な工作機械の運動誤差を、無駄なく短時間で容易に正確かつ適切に測定することが可能な運動誤差の導出方法および導出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、数値制御装置による制御により、工作物を保持するテーブルと工具を保持する主軸とを相対移動させることによって、テーブル上の工作物への加工を行う工作機械において、前記主軸に装着した位置計測センサにより前記テーブルに設置した被計測物の位置を計測することによって運動誤差を導出する導出方法であって、前記数値制御装置の記録手段に記録された前記工作機械の衝突の履歴および/または前記工作機械の各構成要素に設けられた温度センサにより検知された温度から前記工作機械の状態を判定する機械状態判定ステップと、前記機械状態判定ステップの判定結果に基づいて、前記位置計測センサにより前記被計測物の位置を計測するか否かを判定する計測実施判定ステップとを実施することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記機械状態判定ステップが、前記記録手段に記録された衝突履歴における未修理の衝突履歴に基づいて前記工作機械の状態を判定するものであることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記機械状態判定ステップが、前記温度センサにより前記各構成要素の温度を取得する温度取得ステップと、前記温度取得ステップで取得した前記各構成要素の温度から、前記各構成要素間の温度の差分を求め、その温度の差分と予め設定された温度差閾値とを比較する温度比較ステップとを実施するものであることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記機械状態判定ステップが、前記温度センサにより各構成要素の温度を取得する温度取得ステップと、前記温度取得ステップで取得した各構成要素の温度から、各構成要素における温度の変化速度を算出し、その温度の変化速度と予め設定された変化速度閾値とを比較する変化速度比較ステップとを実施するものであることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、数値制御装置による制御により、工作物を保持するテーブルと工具を保持する主軸とを相対移動させることによって、テーブル上の工作物への加工を行う工作機械において、前記主軸に装着した位置計測センサにより前記テーブルに設置した被計測物の位置を計測することによって運動誤差を導出する導出方法であって、前記主軸に装着した位置計測センサによって前記テーブルに設置された精度マスタを測定することによって前記工作機械の運動誤差を測定・算出する誤差測定ステップと、前記誤差測定ステップで測定・算出された運動誤差と、前記誤差測定ステップを実施した日時と、前記工作機械の各構成要素に設けられた温度センサによって検知された各構成要素の温度とを前記数値制御装置の記録手段に記録する記録ステップと、前記記録手段に記録された前記工作機械の衝突履歴および/または前記記録ステップにおいて記録された前記各構成要素の温度と、前記記録ステップにおいて記録された前記運動誤差と、前記記録ステップにおいて記録された前記誤差測定ステップの実施日時とから、前記運動誤差の測定結果の有効性を判定する誤差判定ステップとを実施することを特徴とするものである。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記誤差判定ステップが、前記誤差測定ステップにおける前記運動誤差の測定結果と、前記記録ステップにおいて記録された前回の運動誤差との差分を算出し、その運動誤差の差分と予め設定された誤差差分閾値とを比較する誤差比較ステップと、前記衝突履歴における未修理の衝突履歴に基づいて前記工作機械の状態を判定する修理状態判定ステップと、前記記録ステップにおいて記録された前記誤差測定ステップの実施日時と現時点の日時との時間間隔と、予め設定された時間差閾値とを比較する間隔比較ステップとを実施して、今回測定された運動誤差の有効性を判定するものであることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記誤差判定ステップが、前記誤差測定ステップにおける運動誤差の測定結果と、前記記録ステップにおいて記録された前回の運動誤差との差分を算出し、その運動誤差の差分と予め設定された誤差差分閾値とを比較する誤差比較ステップと、前記記録ステップにおいて記録された前回の各構成要素の温度と現時点の各構成要素の温度との差分を算出し、その温度の差分と予め設定された経時温度差閾値とを比較する経時温度差比較ステップと、前回の前記記録ステップの実施日時と現時点の日時との時間間隔と、予め設定された時間差閾値とを比較する間隔比較ステップとを実施するものであることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の発明は、数値制御装置による制御により、工作物を保持するテーブルと工具を保持する主軸とを相対移動させることによって、テーブル上の工作物への加工を行う工作機械において、前記主軸に装着した位置計測センサにより前記テーブルに設置した被計測物の位置を計測することによって運動誤差を導出する導出装置であって、前記数値制御装置の記録手段に記録された前記工作機械の衝突の履歴および/または前記工作機械の各構成要素に設けられた温度センサによって検知された温度から前記工作機械の状態を判定する機械状態判定手段と、前記機械状態判定手段の判定結果に基づいて、前記位置計測センサにより前記被計測物の位置を計測するか否かを判定する計測実施判定手段とを有することを特徴とするものである。
【0016】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の発明において、前記機械状態判定手段が、前記記録手段に記録された衝突履歴における未修理の衝突履歴に基づいて前記工作機械の状態を判定するものであることを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載の発明は、請求項8に記載の発明において、前記機械状態判定手段が、前記温度センサにより前記各構成要素の温度を取得する温度取得手段と、前記温度取得手段により取得された前記各構成要素の温度から、前記各構成要素間の温度の差分を求め、その温度の差分と予め設定された温度差閾値とを比較する温度比較手段とを有するものであることを特徴とする。
【0018】
請求項11に記載の発明は、請求項8に記載の発明において、前記機械状態判定手段が、前記温度センサにより各構成要素の温度を取得する温度取得手段と、前記温度取得手段により取得した各構成要素の温度から、各構成要素における温度の変化速度を算出し、その温度の変化速度と予め設定された変化速度閾値とを比較する変化速度比較手段とを有するものであることを特徴とする。
【0019】
請求項12に記載の発明は、数値制御装置による制御により、工作物を保持するテーブルと工具を保持する主軸とを相対移動させることによって、テーブル上の工作物への加工を行う工作機械において、前記運動誤差を同定するための運動誤差の導出装置であって、前記主軸に装着した位置計測センサによって前記テーブルに設置された精度マスタを測定することによって前記運動誤差を測定・算出する誤差測定手段と、前記誤差測定手段により測定・算出された運動誤差と、その運動誤差を測定・算出した日時と、前記工作機械の各構成要素に設けられた温度センサにより取得された各構成要素の温度とを記録する記録手段と、前記記録手段に記録された前記工作機械の衝突履歴および/または前記記録手段に記録された前記各構成要素の温度と、前記記録手段に記録された前記運動誤差と、その運動誤差を測定・算出した日時とから、前記運動誤差の測定結果の精度を判定する誤差判定手段とを有することを特徴とするものである。
【0020】
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の発明において、前記誤差判定手段が、前記誤差測定手段による前記運動誤差の測定結果と、前記記録手段に記録された前回の運動誤差との差分を算出し、その運動誤差の差分と予め設定された誤差差分閾値とを比較する誤差比較手段と、前記衝突履歴における未修理の衝突履歴に基づいて前記工作機械の状態を判定する未修理衝突履歴判定手段と、前記記録手段に記録された前記誤差測定手段による運動誤差の測定・算出日時と現時点の日時との時間間隔と、予め設定された時間差閾値とを比較する間隔比較手段とを備えたものであることを特徴とする。
【0021】
請求項14に記載の発明は、請求項12に記載の発明において、前記誤差判定手段が、前記誤差測定手段による前記運動誤差の測定結果と、前記記録手段に記録された前回の運動誤差との差分を算出し、その運動誤差の差分と予め設定された誤差差分閾値とを比較する誤差比較手段と、前記記録手段に記録された前回の各構成要素の温度と現時点の各構成要素の温度との差分を算出し、その温度の差分と予め設定された温度差閾値とを比較する温度比較手段と、前記記録手段に記録された前記誤差測定手段による運動誤差の測定・算出日時と現時点の日時との時間間隔と、予め設定された時間差閾値とを比較する間隔比較手段とを備えたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る工作機械における運動誤差の導出方法および導出装置によれば、被計測物の計測・測定により運動誤差を算出する前に工作機械の状態を判定することによって、現時点で適切な運動誤差の導出が可能か否か、導出される運動誤差の精度を推測することができるので、結果的に、無駄な運動誤差の算出を回避して、短時間で容易に正確かつ適切に運動誤差を算出することができる。加えて、本発明に係る工作機械における運動誤差の導出方法および導出装置によれば、前回測定した運動誤差と今回測定した運動誤差との差分、測定の時間間隔、工作機械の衝突の履歴、工作機械の各構成部分の温度のバラツキ等を考慮して、測定・算出された運動誤差が有効なものか否か(外乱を含むものか否か)判断されるため、きわめて正確に運動誤差を導出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】工作機械(数値制御工作機械)の模式図である。
図2】工作機械の制御構成を示すブロック図である。
図3】運動誤差を導出する際の処理内容を示すフローチャートである。
図4】工作機械の衝突に起因した機械状態を判定する際の処理内容を示すフローチャートである。
図5】工作機械の各部の温度に起因した機械状態を判定する際の処理内容を示すフローチャートである。
図6】主軸に装着したタッチプローブによって精度マスタの寸法を測定する様子を示す模式図である。
図7】測定された運動誤差の有効性を判定する際の処理内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る運動誤差の導出方法および導出装置の一実施形態を、3つの並進軸(X軸、Y軸、Z軸)を有する数値制御工作機械において位置決め誤差を計測する場合を例に、図面に基づいて説明する。なお、本実施形態においては、本発明が採用される工作機械が図1の如きマシニングセンタベースのものである場合について説明するが、本発明が採用される工作機械は、マシニングセンタベースの工作機械に限らず、旋盤ベースの工作機械等であってもよい。
【0025】
<工作機械の構成>
図1は、3つの並進軸(X軸、Y軸、Z軸)を有する数値制御工作機械(以下、単に工作機械という)を示したものであり、図2は、工作機械の制御機構を示したものである。工作機械Mは、基台であるベッド11、工具を保持し回転させることが可能な主軸12、工作物を保持するためのテーブル13、主軸12を移動可能に保持するためのコラム14等を備えている。すなわち、工作機械Mは、矩形の平板状のベッド11の後端際に、逆U字状のコラム14が、ベッド11の表面に対して直交するように設けられている。また、ベッド11の上には、矩形の板状のテーブル13が載置されており、Y軸並進用サーボモータ32によって、ベッド11の表面に設けられた一対のレールに沿ってY軸方向に並進可能になっている。一方、コラム14の前面には、矩形の板状の支持板15が設置されており、X軸並進用サーボモータ31によって、コラム14の前面に設けられた一対のレールに沿ってX軸方向に並進可能になっている。さらに、支持板15の前面には、縦長な直方体状の主軸12が、Z軸並進用サーボモータ33によって、Z軸方向に並進可能に設置されている。また、ベッド11、主軸12、テーブル13、コラム14の前面および側面には、それぞれ、温度センサ1~5が設けられている。
【0026】
そして、工作機械Mは、数値制御装置21からの指令により、X軸並進用サーボモータ31、Y軸並進用サーボモータ32、Z軸並進用サーボモータ33および主軸12の回転用のサーボモータ(図示せず)を駆動させて、テーブル3に固定した工作物(被加工物)を主軸12に装着した工具によって任意の形状に加工することができるようになっている。また、数値制御装置21からの指令によって、温度センサ1~5から各部の温度を取得することができるようになっている。さらに、工具の代わりに位置計測センサであるタッチプローブを主軸2に装着することで、テーブル3に設置した工作物等の被計測物の座標・位置を測定することもできるようになっている。
【0027】
<数値制御装置の構成>
一方、工作機械Mを制御する数値制御装置21は、RAM、ROM等からなる記録手段(記憶手段)22、検知手段23、モニタ等の表示手段24、タイマ27等を備えており、図示しないインターフェイスを介して、テンキー等の入力手段25、受信機26、温度センサ1~5と接続された状態になっている。また、数値制御装置21は、図示しないインターフェイスを介して、支持板15(および主軸2)をX軸方向に並進させるためX軸並進用サーボモータ31、テーブル13をY軸方向に並進させるためY軸並進用サーボモータ32、主軸12をZ軸方向に並進させるためZ軸並進用サーボモータ33等と接続された状態になっている。
【0028】
上記の如く構成された数値制御装置21は、検知手段23によって、主軸12とテーブル13とが衝突した場合等には、その事態を検知することができるようになっている。また、そのように主軸12とテーブル13とが衝突した場合等には、各軸での並進動作を停止し、衝突があった事実や衝突があった日時(「機械衝突履歴」)を記録手段22に記録(記憶)するようになっている。さらに、上記の如きアクシデントが発生した後に修理が行われた場合には、その修理の旨(「機械修理履歴」)を、入力手段25によって、記録手段22に記録させることができるようになっている。また、記録手段22は、温度センサ1~5によって検知されたベッド11、主軸12、テーブル13およびコラム14の温度、後述する方法により測定・算出された工作機械Mの運動誤差、および、その測定(算出)日時等を記録することができるようになっている。加えて、数値制御装置21は、入力手段25によって、後述する方法により運動誤差を測定(算出)する際に基準となる「温度差閾値」、「変化速度閾値」、「誤差差分閾値」、「時間差閾値」等の数値を、入力手段25によって予め入力(設定)して、その数値を記録手段22に記録させることができるようになっている。
【0029】
<運動誤差の導出方法・導出装置>
続いて、本発明に係る運動誤差の導出方法および導出装置について、工作機械Mにおける位置決め誤差の測定を例に、図3のフローチャートに基づいて説明する。
【0030】
図3の「位置決め誤差の導出処理」においては、まず、ステップ(以下、単にSで示す)1,2で、「機械状態判定ステップ」を実行し、工作機械Mの状態を判定する。すなわち、まず、S1で、工作機械Mの衝突の履歴に関する「機械状態チェック1」を行い、現時点で測定を行った場合に不適切な測定結果(外乱等に起因した大きな誤差を含んだ測定結果)にならないか否かをチェックする。しかる後、ステップ2で、工作機械Mの温度に関する「機械状態チェック2」を行い、「機械状態チェック1」と同様に、現時点で測定を行った場合に不適切な測定結果にならないか否かをチェックする。なお、「機械状態チェック1」、「機械状態チェック2」におけるチェックの詳細については後述する。
【0031】
そして、上記の如く、S1,2において「機械状態判定ステップ」を実行した後には、S3で、「計測実施判定ステップ」を実行し、位置計測センサにより被計測物の位置・座標等を計測するか否かを判定する。すなわち、S3においては、「機械状態チェック1」および「機械状態チェック2」のチェックの結果が、いずれも“現時点で測定を行った場合には適切な計測結果が得られる(すなわち、工作機械Mの状態が正常である)”との判定であったか否か判断される。そして、S3において“YES”と判断された場合には、S4で、「位置決め誤差の測定」を実行し、しかる後、S5で、測定した位置決め誤差が有効なものであるか否か(適切なものであるか否か)を判定する「位置決め誤差のチェック」(「誤差判定ステップ」)を実行する。なお、「位置決め誤差の測定」、「位置決め誤差のチェック」の詳細についても後述する。
【0032】
[機械状態チェック1の内容]
以下、S1で行う工作機械Mの衝突に関する「機械状態チェック1」について、図4に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0033】
「機械状態チェック1」においては、まず、S11で、数値制御装置21の記録手段22に記録されている工作機械Mの衝突・修理の履歴(「機械衝突履歴」および「機械修理履歴」、以下、単に「機械衝突・修理履歴」という)を取得する。なお、工作機械Mにおいては、数値制御装置21による制御により、図3の「位置決め誤差の導出処理」が実行される毎に、「機械衝突・修理履歴」を記録手段22に記録し、前回の測定時(実行時)における「機械衝突・修理履歴」が更新されるようになっている。
【0034】
上記の如く、S11において「機械衝突・修理履歴」を取得した後には、続くS12で、過去に工作機械Mで衝突(主軸12とテーブル13との接触等)がありかつ未修理のままか否かを判定する。そして、衝突がなかった場合や、衝突があった場合でもすでに修理が行われている場合には、工作機械Mの状態に問題がない(S12における“NO”)と判断し、チェック処理を完了する。一方、過去に衝突がありかつ未修理のままの場合には、工作機械Mの状態に問題がある(すなわち、現時点で測定しても有効な運動誤差が得られない)と判断し、S13で、表示手段24にメッセージA(衝突後未修理の旨等)を表示して、作業者に報知する。
【0035】
[機械状態チェック2の内容]
次に、S2で行う工作機械Mの温度に関する「機械状態チェック2」について、図5に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0036】
「機械状態チェック2」においては、まず、S21で、数値制御装置21による制御により、工作機械Mの各部に取り付けられた温度センサ1~5から、作動前の(初期の)温度データT1,T2,T3,T4,T5を取得する(「温度取得ステップ」)。なお、工作機械Mにおいては、数値制御装置21による制御により、各温度センサ1~5が各部の温度(経時変化)をサンプリングして記録手段22に記録し、所定時間毎にそれらのデータが更新されるようになっている。そして、上記の如く、温度センサ1~5が温度データT1,T2,T3,T4,T5を取得した後には、続くS22で、取得した温度データの最大値と最小値の差分dTを算出し、続くS23で、当該差分dTと記録手段22に予め記録(設定)しておいた閾値A(温度差閾値)との比較を行う(「温度比較ステップ」)。
【0037】
そして、差分dTが閾値Aより小さい場合には、続くS24で、温度変化速度の算出を行う。すなわち、数値制御装置21による制御により、記録手段22に記録された現時点から時間T秒前の各部の温度T1,T2,T3,T4,T5を取得し、下記の数式1~5を用いて、温度変化速度RT1,RT2,RT3,RT4,RT5を算出する(絶対値)。なお、時間Tは、予め記録手段22に記録された温度変化速度を計算するためのパラメータである。
【0038】
RT1=(T1-T1)/T ・・式1
RT2=(T2-T2)/T ・・式2
RT3=(T3-T3)/T ・・式3
RT4=(T4-T4)/T ・・式4
RT5=(T5-T5)/T ・・式5
【0039】
上記の如く、温度変化速度RT1,RT2,RT3,RT4,RT5を算出した後には、続くS25で、それらの温度変化速度RT1,RT2,RT3,RT4,RT5と、記録手段22に予め記録(設定)しておいた閾値RT(変化速度閾値)との比較を行う(「変化速度比較ステップ」)。そして、温度変化速度RT1,RT2,RT3,RT4,RT5のいずれも閾値RTより小さい場合には、工作機械Mの状態に問題がないと判断し、チェック処理を完了する。一方、S23において差分dTが閾値A以上であると判断された場合、および、S25においてRT1,RT2,RT3,RT4,RT5のいずれかが閾値RT以上であると判断された場合には、工作機械Mの状態に問題があると判断し、S26で、表示手段24にメッセージA(温度変化が大きい旨等)を表示して作業者に報知する。
【0040】
[位置決め誤差の測定の内容]
次に、S4で行う「位置決め誤差の測定」について、工作機械MにおけるX軸方向の位置決め誤差を測定する場合を例に説明する。
【0041】
X軸方向の位置決め誤差を測定する場合には、図6に示すように、主軸12にタッチプローブ41を装着するとともに、精度マスタ42を、X方向に平行になるようにテーブル13上に設置する。当該タッチプローブ41は、下端のターゲット球(スタイラス)に、被計測物と接触したことを検知するセンサ(図示せず)が設けられており、当該センサによって接触を検知した場合に、数値制御装置21へ赤外線や電波等の信号を送信することができるようになっている。一方、数値制御装置21は、受信機26によって、タッチプローブ41のセンサからの検知信号を受信すると、その時点での各軸(X軸、Y軸、Z軸)の位置(座標)を接触位置とすることによって、被計測物(精度マスタ42)の所定の部分の位置(座標)の測定を行うことができるようになっている。また、精度マスタ42は、寸法の基準として用いるゲージであり、両端面の距離MLの校正値が既知のものである。
【0042】
S4の「位置決め誤差の測定」においては、数値制御装置21からの制御に基づいて、タッチプローブ41により、精度マスタ42のX-(マイナス)側の端面位置(X,Y,Z)およびX+(プラス)側の端面位置(X,Y,Z)を測定し、両端面の距離ML’=(X)-(X)を算出する。そして、算出されたML’と校正値MLとの差分として、X方向の位置決め誤差dXを算出する(「誤差測定ステップ」)。なお、工作機械Mにおいては、数値制御装置21による制御により、S4の「位置決め誤差の測定」が実行される度に、その位置決め誤差の数値、および、その測定(算出)日時を記録手段22に記録(累積的に記録)されるようになっている(「記録ステップ」)。
【0043】
[位置決め誤差のチェックの内容]
次に、S5で行う「位置決め誤差のチェック」について、図7に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0044】
「位置決め誤差のチェック」では、まずS31において、S3において測定した位置決め誤差dXnと、記録手段22に記録された前回測定した位置決め誤差dXcとの差分ddXを算出する。なお、工作機械Mにおいては、数値制御装置21による制御により、図3の「位置決め誤差の導出処理」が実行される度に、測定された位置決め誤差dXcを記録手段22に記録し、前回測定された位置決め誤差dXcが更新されるようになっている。
【0045】
上記の如く、S31で位置決め誤差dXnと前回測定した位置決め誤差dXcとの差分ddXを算出した後には、続くS32で、その差分ddXと、記録手段22に予め記録(設定)されている閾値B(誤差差分閾値)との比較を行う(「誤差比較ステップ」)。そして、S32において差分ddXが閾値B以上であると判定された場合は、続くS33で、記録手段22に記録されている「機械衝突・修理履歴」を取得し、前回の位置決め誤差の測定から現時点(現在)までに、工作機械Mにおいて衝突あるいはその修理があったか否かを判定する(「修理状態判定ステップ」)。
【0046】
そして、S33において前回の測定から今回の測定までの間に工作機械Mにおいて衝突があったが未だ修理されていないと判定した場合には、その衝突によって測定誤差が生じたことによってS31で算出された差分ddXが大きくなったと判断し、S38で、その旨(すなわち、差分ddXに測定誤差が含まれている可能性がある旨等)のメッセージBを表示手段24に表示して、作業者に報知する。
【0047】
一方、S33において衝突の履歴がない、あるいは、衝突があったものの修理が行われていると判断された場合には、続くS34で、現時点の日時と、前回位置決め誤差の測定をした際に記録手段22に記録された日時とから測定の「時間間隔」(すなわち、前回の測定から今回の測定までの時間間隔)が算出される。しかる後、続くS35で、算出された「時間間隔」と記録手段22に予め記録(設定)されている閾値C(時間差閾値)とが比較される(「間隔比較ステップ」)。そして、S35で「時間間隔」が閾値C未満であると判定された場合には、続くS36で、S21において取得された温度データT1,T2,T3,T4,T5と、前回の位置決め誤差の測定時に記録手段22に記録された温度データT1,T2,T3,T4,T5との「温度差分ΔT」が、温度センサ1~5の設置部分毎に算出される(「温度差分ΔT~ΔT」)。
【0048】
上記の如く、S36において前回の位置決め誤差の測定から今回の測定までの温度差分ΔTが温度センサ1~5の設置部分毎に算出された後には、続くS37で、算出された各部の「温度差分ΔT~ΔT」と、記録手段22に予め記録(設定)されている閾値D(経時温度差閾値)とが比較される(「経時温度差比較ステップ」)。そして、S37で各部の「温度差分ΔT~ΔT」が閾値D未満であると判定された場合には、工作機械Mのトラブルや外乱等の要因(すなわち、工作機械Mの衝突、測定の時間間隔の長期化、各部の温度変化の増大以外の要因)によって測定誤差が生じてS31において算出された差分ddXが大きくなったと判断し、続くS38で、その旨(すなわち、差分ddXに測定誤差が含まれている可能性がある旨等)のメッセージBを表示手段24に表示して、作業者に報知する。
【0049】
一方、S32において差分ddXが閾値Bより小さいと判断された場合、S35において「時間間隔」が閾値C以上であると判断された場合、および、S37において各部位の「温度差分ΔT~ΔT」が閾値D以上であると判定された場合には、今回測定・算出された位置決め誤差に測定誤差が生じていないとし、続くS39で、位置決め誤差、現時点の日時、各部の温度を記録手段22に記録(更新)して処理を完了する。
【0050】
なお、工作機械Mにおいては、上記の如く、数値制御装置21が運動誤差の導出装置として機能し、数値制御装置21の記録手段22、検知手段23、表示手段24、タイマ27の機能により、受信機26、温度センサ1~5、入力手段25、および、X,Y,Z各軸の並進用サーボモータ31~33等と信号の送受信をすることによって、工作機械Mの衝突の履歴および温度センサ1~5から取得した温度から工作機械Mの状態を判定する「機械状態判定手段」、「機械状態判定手段」の判定結果に基づいて運動誤差を測定するか否かを判定する「計測実施判定手段」、温度センサ1~5から各構成要素の温度を取得する「温度取得手段」、「温度取得手段」により取得した各構成要素の温度から各構成要素間の温度の差分を求めて「温度差閾値」とを比較する「温度比較手段」、取得した各構成要素の温度から各構成要素における温度の変化速度を算出して予め設定された「変化速度閾値」と比較する「変化速度比較手段」、主軸12に装着したタッチプローブ41によってテーブル13に設置された精度マスタを測定することによって工作機械Mの運動誤差を測定・算出する「誤差測定手段」、工作機械Mの衝突履歴および各構成要素の温度と工作機械Mの運動誤差とその運動誤差の測定・算出日時とから当該運動誤差の測定結果の有効性を判定する「誤差判定手段」、工作機械Mの運動誤差の測定結果と前回の運動誤差との差分を算出してその差分と予め設定された「誤差差分閾値」とを比較する「誤差比較手段」、「誤差測定手段」による運動誤差の測定・算出日時と現時点の日時との時間間隔と、予め設定された「時間差閾値とを比較する「間隔比較手段」、前回の各構成要素の温度と現時点の各構成要素の温度との差分を算出してその差分と、予め設定された「温度差閾値」とを比較する「温度比較手段」等が構成される。
【0051】
<位置決め誤差の導出方法・導出装置による効果>
上記した位置決め誤差の導出処理・導出装置によれば、被計測物(精度マスタ)の計測・測定を実施する前に、工作機械Mの状態を判定することによって、現時点で有効な(適切な)運動誤差の導出が可能か否かが判断されるので、結果的に、無駄な運動誤差の測定を回避して、短時間で容易に正確かつ適切に運動誤差を測定・算出することができる。加えて、本発明に係る工作機械Mにおける運動誤差の導出方法・導出装置によれば、前回測定した運動誤差と今回測定した運動誤差との差分、測定の時間間隔、工作機械Mの衝突履歴、工作機械Mの各構成部分の温度のバラツキ等を考慮して、測定・算出された運動誤差が外乱による測定誤差を含むものか否か判断されるため、きわめて正確に運動誤差を導出することができる。
【0052】
<運動誤差の導出方法・導出装置の変更例>
本発明に係る運動誤差の導出方法は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、機械状態判定ステップ、計測実施判定ステップ、誤差判定ステップ等の内容や、運動誤差の測定方法等を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。また、本発明に係る運動誤差の導出装置は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、機械状態判定手段、計測実施判定手段、誤差判定手段等の内容や、運動誤差の測定方法等を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0053】
たとえば、本発明に係る運動誤差の導出方法・導出装置は、上記実施形態の如く、位置決め誤差を測定するものに限らず、真直度や5軸制御工作機械の幾何学的な誤差を測定する場合等にも適用することが可能である。また、本発明に係る運動誤差の導出方法・導出装置は、上記実施形態の如く、精度マスタをセンサ(タッチプローブや赤外線センサ等)で計測することによって運動誤差を導出するもの(すなわち、被計測物が精度マスタであるもの)に限定されず、加工した工作物の複数の位置(座標)をセンサ(タッチプローブや赤外線センサ等)で計測することによって運動誤差を導出するもの(すなわち、被計測物が被工作物であるもの)等に変更することも可能である。
【符号の説明】
【0054】
11・・ベッド
12・・主軸
13・・テーブル
14・・コラム
41・・タッチプローブ
42・・精度マスタ
1,2,3,4,5・・温度センサ
M・・工作機械
21・・数値制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7