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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161357
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】半導体装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20221014BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20221014BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20221014BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20221014BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20221014BHJP
   H01L 21/8234 20060101ALI20221014BHJP
   H01L 21/8249 20060101ALI20221014BHJP
   H01L 21/322 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
H01L29/78 652G
H01L29/06 301D
H01L29/06 301V
H01L29/78 658H
H01L29/78 658A
H01L29/78 657D
H01L29/78 652Q
H01L29/78 652P
H01L29/06 301G
H01L29/06 301F
H01L29/78 655G
H01L29/78 655F
H01L29/91 C
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 655B
H01L29/91 J
H01L27/06 102A
H01L27/06 321H
H01L27/088 E
H01L21/322 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066101
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桜井 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】野口 晴司
(72)【発明者】
【氏名】吉村 尚
(72)【発明者】
【氏名】瀧下 博
(72)【発明者】
【氏名】内田 美佐稀
【テーマコード(参考)】
5F048
【Fターム(参考)】
5F048AC01
5F048AC06
5F048AC10
5F048BB05
5F048BB19
5F048BC12
5F048BD07
5F048BF02
5F048BF07
5F048CB07
(57)【要約】
【課題】高濃度領域を、深さ方向に長く形成する。
【解決手段】IGBTが設けられた半導体装置であって、上面および下面を有し、全体にバルク・ドナーが分布した半導体基板と、水素化学濃度が極大値を示し、半導体基板の下面から深さ方向に25μm以上離れて配置された頂点、頂点から上面に向かって水素化学濃度が減少する上側裾、および、頂点から下面に向かって上側裾よりも緩やかに水素化学濃度が減少する下側裾を含む水素ピークと、バルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高く、水素ピークの頂点から上面に向かって4μm以上延伸した領域を含む第1高濃度領域とを備える半導体装置を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IGBTが設けられた半導体装置であって、
上面および下面を有し、全体にバルク・ドナーが分布した半導体基板と、
水素化学濃度が極大値を示し、前記半導体基板の前記下面から深さ方向に25μm以上離れて配置された頂点、前記頂点から前記上面に向かって前記水素化学濃度が減少する上側裾、および、前記頂点から前記下面に向かって前記上側裾よりも緩やかに前記水素化学濃度が減少する下側裾を含む水素ピークと、
バルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高く、前記水素ピークの前記頂点から前記上面に向かって4μm以上延伸した領域を含む第1高濃度領域と
を備える半導体装置。
【請求項2】
前記半導体基板の中央部における空孔濃度またはキャリアライフタイムと、前記第1高濃度領域における空孔濃度またはキャリアライフタイムは、実質的に等しい
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記半導体基板の前記上面に設けられたトレンチ部を更に備え、
前記トレンチ部の下端から前記水素ピークまでの領域において、キャリアライフタイムが平坦、単調に増加、または、単調に減少している
請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記トレンチ部の下端は、前記下面から第1距離だけ離れて配置され、
前記水素ピークと前記下面との第2距離が、前記第1距離の0.3倍以上、0.8倍以下である
請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記水素ピークと同一の深さ位置に設けられ、深さ方向のドナー濃度分布がピークを示すドナー濃度ピークと、
前記ドナー濃度ピークよりも前記半導体基板の上面側に配置され、深さ方向のドナー濃度分布が平坦な上側平坦部と、
前記ドナー濃度ピークよりも前記半導体基板の下面側に配置され、深さ方向のドナー濃度分布が平坦な下側平坦部と
を更に備え、
前記上側平坦部のドナー濃度が、前記下側平坦部のドナー濃度の0.5倍以上、2倍以下である
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記水素ピークが、前記半導体基板の上面側に配置されている
請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記半導体基板は、前記IGBTが設けられたトランジスタ部と、ダイオードが設けられたダイオード部とを有し、
前記ダイオード部は、前記水素ピークよりも前記上面側に配置され、深さ方向のキャリアライフタイム分布が極小値を示すライフタイム調整部を有し、
前記トランジスタ部は、前記ダイオード部の前記ライフタイム調整部と同一の深さ位置において、前記キャリアライフタイム分布が極小値を示さないライフタイム非調整部を有し、
前記ライフタイム非調整部と深さ方向で重なる領域に、前記水素ピークおよび前記第1高濃度領域が設けられている
請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記ライフタイム調整部は、深さ方向のヘリウム化学濃度分布がピークを示すヘリウムピークを有し、
前記ライフタイム非調整部は、前記ヘリウムピークと同一の深さ位置において、前記ヘリウム化学濃度分布が平坦である
請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記ダイオード部は、
前記水素ピークと、
前記バルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高く、前記水素ピークから前記上面に向かって延伸した領域を含む第2高濃度領域と
を有し、
前記第2高濃度領域が前記上面に向かって延伸する長さは、前記第1高濃度領域が前記上面に向かって延伸する長さよりも長い
請求項7または8に記載の半導体装置。
【請求項10】
上面および下面を有し、全体にバルク・ドナーが分布した半導体基板を備え、IGBTが設けられる半導体装置の製造方法であって、
1.4MeVより大きい加速エネルギーで前記下面から前記半導体基板に水素イオンを注入して、水素化学濃度が極大値を示す水素ピークを形成する水素注入段階と、
前記半導体基板をアニールして、バルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高く、前記水素ピークの頂点から前記上面に向かって4μm以上延伸した領域を含む第1高濃度領域を形成するアニール段階と
を備える製造方法。
【請求項11】
前記水素注入段階における前記水素イオンのドーズ量が、1×1012/cm以上である
請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロトンを半導体基板に注入してバッファ領域を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1 特開2014-138173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
バッファ領域のような高濃度領域を、深さ方向に長く形成したい場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、IGBTが設けられた半導体装置を提供する。半導体装置は、上面および下面を有し、全体にバルク・ドナーが分布した半導体基板を備えてよい。半導体装置は、水素ピークを備えてよい。水素ピークは、水素化学濃度が極大値を示し、半導体基板の下面から深さ方向に25μm以上離れて配置された頂点を有してよい。水素ピークは、頂点から上面に向かって水素化学濃度が減少する上側裾を有してよい。水素ピークは、頂点から下面に向かって上側裾よりも緩やかに水素化学濃度が減少する下側裾を有してよい。半導体装置は、バルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高く、水素ピークの頂点から上面に向かって4μm以上延伸した領域を含む第1高濃度領域を備えてよい。
【0005】
半導体装置は、半導体基板の上面に設けられたトレンチ部を備えてよい。トレンチ部の下端から水素ピークまでの領域において、キャリアライフタイムが平坦、単調に増加、または、単調に減少していてよい。
【0006】
トレンチ部の下端は、下面から第1距離だけ離れて配置されてよい。水素ピークと下面との第2距離が、第1距離の0.3倍以上、0.8倍以下であってよい。
【0007】
半導体装置は、水素ピークと同一の深さ位置に設けられ、深さ方向のドナー濃度分布がピークを示すドナー濃度ピークを備えてよい。半導体装置は、ドナー濃度ピークよりも半導体基板の上面側に配置され、深さ方向のドナー濃度分布が平坦な上側平坦部を備えてよい。半導体装置は、ドナー濃度ピークよりも半導体基板の下面側に配置され、深さ方向のドナー濃度分布が平坦な下側平坦部を備えてよい。上側平坦部のドナー濃度が、下側平坦部のドナー濃度の0.5倍以上、2倍以下であってよい。
【0008】
水素ピークが、半導体基板の上面側に配置されていてよい。
【0009】
半導体基板は、IGBTが設けられたトランジスタ部と、ダイオードが設けられたダイオード部とを有してよい。ダイオード部は、水素ピークよりも上面側に配置され、深さ方向のキャリアライフタイム分布が極小値を示すライフタイム調整部を有してよい。トランジスタ部は、ダイオード部のライフタイム調整部と同一の深さ位置において、キャリアライフタイム分布が極小値を示さないライフタイム非調整部を有してよい。ライフタイム非調整部と深さ方向で重なる領域に、水素ピークおよび第1高濃度領域が設けられていてよい。
【0010】
ライフタイム調整部は、深さ方向のヘリウム化学濃度分布がピークを示すヘリウムピークを有してよい。ライフタイム非調整部は、ヘリウムピークと同一の深さ位置において、ヘリウム化学濃度分布が平坦であってよい。
【0011】
ダイオード部は、水素ピークを有してよい。ダイオード部は、バルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高く、水素ピークから上面に向かって延伸した領域を含む第2高濃度領域を有してよい。第2高濃度領域が上面に向かって延伸する長さは、第1高濃度領域が上面に向かって延伸する長さよりも長くてよい。
【0012】
本発明の第2の態様においては、上面および下面を有し、全体にバルク・ドナーが分布した半導体基板を備え、IGBTが設けられる半導体装置の製造方法を提供する。製造方法は、1.4MeVより大きい加速エネルギーで下面から半導体基板に水素イオンを注入して、水素化学濃度が極大値を示す水素ピークを形成する水素注入段階を備えてよい。製造方法は、半導体基板をアニールして、バルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高く、水素ピークの頂点から上面に向かって4μm以上延伸した領域を含む第1高濃度領域を形成するアニール段階を備えてよい。
【0013】
水素注入段階における水素イオンのドーズ量が、1×1012/cm以上であってよい。
【0014】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】半導体装置100の一例を示す断面図である。
図2図1のa-a線に示した位置における、水素化学濃度、ドナー濃度、空孔密度、および、キャリアライフタイムの深さ方向の分布例を示している。
図3】ドナー濃度ピーク221の近傍のドナー濃度分布の拡大図である。
図4A】高濃度領域20の延伸幅W1と、水素イオンの加速エネルギーとの関係を測定した測定結果を示す図である。
図4B図4Aの水素イオンの加速エネルギーを、当該加速エネルギーで注入した水素イオンの飛程となるピーク位置に置き換えた図である。
図5】高濃度領域20の延伸幅W1と、水素イオンのドーズ量との関係を示す図である。
図6】半導体装置100の上面図の一例である。
図7図5における領域Eの拡大図である。
図8図6におけるb-b断面の一例を示す図である。
図9図8のc-c線に示した位置における、水素化学濃度、ドーピング濃度、キャリアライフタイム、および、ヘリウム化学濃度の深さ方向の分布例を示している。
図10図8のd-d線に示した位置における、水素化学濃度、ドーピング濃度、キャリアライフタイム、および、ヘリウム化学濃度の深さ方向の分布例を示している
図11図8のc-c線に示した位置における、水素化学濃度、ドーピング濃度、キャリアライフタイム、および、ヘリウム化学濃度の深さ方向の他の分布例を示している。
図12図8のc-c線に示した位置における、水素化学濃度、ドーピング濃度、キャリアライフタイム、および、ヘリウム化学濃度の深さ方向の他の分布例を示している。
図13図8のc-c線に示した位置における、水素化学濃度、ドーピング濃度、キャリアライフタイム、および、ヘリウム化学濃度の深さ方向の他の分布例を示している。
図14図8のc-c線に示した位置における、水素化学濃度、ドーピング濃度、キャリアライフタイム、および、ヘリウム化学濃度の深さ方向の他の分布例を示している。
図15図8のc-c線に示した位置における、水素化学濃度、ドーピング濃度、キャリアライフタイム、および、ヘリウム化学濃度の深さ方向の他の分布例を示している。
図16】半導体装置100の製造方法の一例を示す図である。
図17】半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0017】
本明細書においては半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は、重力方向または半導体装置の実装時における方向に限定されない。
【0018】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。直交座標軸は、構成要素の相対位置を特定するに過ぎず、特定の方向を限定するものではない。例えば、Z軸は地面に対する高さ方向を限定して示すものではない。なお、+Z軸方向と-Z軸方向とは互いに逆向きの方向である。正負を記載せず、Z軸方向と記載した場合、+Z軸および-Z軸に平行な方向を意味する。
【0019】
本明細書では、半導体基板の上面および下面に平行な直交軸をX軸およびY軸とする。また、半導体基板の上面および下面と垂直な軸をZ軸とする。本明細書では、Z軸の方向を深さ方向と称する場合がある。また、本明細書では、X軸およびY軸を含めて、半導体基板の上面および下面に平行な方向を、水平方向と称する場合がある。本明細書において半導体基板の上面側と称した場合、半導体基板の深さ方向における中央から上面までの領域を指す。半導体基板の下面側と称した場合、半導体基板の深さ方向における中央から下面までの領域を指す。
【0020】
本明細書において「同一」または「等しい」のように称した場合、製造ばらつき等に起因する誤差を有する場合も含んでよい。当該誤差は、例えば10%以内である。
【0021】
本明細書においては、不純物がドーピングされたドーピング領域の導電型をP型またはN型として説明している。本明細書においては、不純物とは、特にN型のドナーまたはP型のアクセプタのいずれかを意味する場合があり、ドーパントと記載する場合がある。本明細書においては、ドーピングとは、半導体基板にドナーまたはアクセプタを導入し、N型の導電型を示す半導体またはP型の導電型を示す半導体とすることを意味する。
【0022】
本明細書においては、ドーピング濃度とは、熱平衡状態におけるドナーの濃度またはアクセプタの濃度を意味する。本明細書においては、ネット・ドーピング濃度とは、ドナー濃度を正イオンの濃度とし、アクセプタ濃度を負イオンの濃度として、電荷の極性を含めて足し合わせた正味の濃度を意味する。一例として、ドナー濃度をN、アクセプタ濃度をNとすると、任意の位置における正味のネット・ドーピング濃度はN-Nとなる。
【0023】
ドナーは、半導体に電子を供給する機能を有している。アクセプタは、半導体から電子を受け取る機能を有している。ドナーおよびアクセプタは、不純物自体には限定されない。例えば、半導体中に存在する空孔(V)、酸素(O)および水素(H)が結合したVOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。
【0024】
本明細書においてP+型またはN+型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が高いことを意味し、P-型またはN-型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が低いことを意味する。また、本明細書においてP++型またはN++型と記載した場合には、P+型またはN+型よりもドーピング濃度が高いことを意味する。
【0025】
本明細書において化学濃度とは、電気的な活性化の状態によらずに測定される不純物の原子密度を指す。化学濃度(原子密度)は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)により計測できる。上述したネット・ドーピング濃度は、電圧-容量測定法(CV法)により測定できる。また、拡がり抵抗測定法(SR法)により計測されるキャリア密度を、ネット・ドーピング濃度としてよい。CV法またはSR法により計測されるキャリア密度は、熱平衡状態における値としてよい。また、N型の領域においては、ドナー濃度がアクセプタ濃度よりも十分大きいので、当該領域におけるキャリア密度を、ドナー濃度としてもよい。同様に、P型の領域においては、当該領域におけるキャリア密度を、アクセプタ濃度としてもよい。
【0026】
また、ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度分布がピークを有する場合、当該ピーク値を当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度がほぼ均一な場合等においては、当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度の平均値をドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。
【0027】
SR法により計測されるキャリア密度が、ドナーまたはアクセプタの濃度より低くてもよい。拡がり抵抗を測定する際に電流が流れる範囲において、半導体基板のキャリア移動度が結晶状態の値よりも低い場合がある。キャリア移動度の低下は、格子欠陥等による結晶構造の乱れ(ディスオーダー)により、キャリアが散乱されることで生じる。
【0028】
CV法またはSR法により計測されるキャリア密度から算出したドナーまたはアクセプタの濃度は、ドナーまたはアクセプタを示す元素の化学濃度よりも低くてよい。一例として、シリコンの半導体においてドナーとなるリンまたはヒ素のドナー濃度、あるいはアクセプタとなるボロン(ホウ素)のアクセプタ濃度は、これらの化学濃度の99%程度である。一方、シリコンの半導体においてドナーとなる水素のドナー濃度は、水素の化学濃度の0.1%から10%程度である。
【0029】
図1は、半導体装置100の一例を示す断面図である。半導体装置100は半導体基板10を備える。半導体基板10は、半導体材料で形成された基板である。一例として半導体基板10はシリコン基板である。
【0030】
本例の半導体基板10には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が形成されている。半導体基板10には、FWD(Free Wheeling Diode)等のダイオード素子が更に形成されていてもよい。図1においては、IGBTおよびダイオード素子の、各電極および半導体基板10の内部に設けられた各領域を省略している。
【0031】
本例の半導体基板10は、N型のバルク・ドナーが全体に分布している。バルク・ドナーは、半導体基板10の元となるインゴットの製造時に、インゴット内に略一様に含まれたドーパントによるドナーである。本例のバルク・ドナーは、水素以外の元素である。バルク・ドナーのドーパントは、例えばV族、VI族の元素であり、例えばリン、アンチモン、ヒ素、セレンまたは硫黄であるが、これに限定されない。本例のバルク・ドナーは、リンである。バルク・ドナーは、P型の領域にも含まれている。半導体基板10は、半導体のインゴットから切り出したウエハであってよく、ウエハを個片化したチップであってもよい。半導体のインゴットは、チョクラルスキー法(CZ法)、磁場印加型チョクラルスキー法(MCZ法)、フロートゾーン法(FZ法)のいずれかで製造されてよい。
【0032】
MCZ法で製造された半導体基板10に含まれる酸素化学濃度は一例として1×1017~1×1018atoms/cmである。酸素化学濃度は、7×1017atoms/cm以下であってもよい。FZ法で製造された半導体基板10に含まれる酸素化学濃度は一例として1×1015~5×1016atoms/cmである。半導体基板10の酸素化学濃度は、基板全体にわたって、上述した範囲内であってよい。ただし、半導体基板10の主面近傍においては、アニール処理等により酸素が基板外に放出される場合がある。半導体基板10の表面近傍における酸素化学濃度は、上述した範囲の下限を下回っていてもよい。
【0033】
半導体基板10に含まれる炭素化学濃度は一例として1×1013~1×1016atoms/cmである。半導体基板10の炭素化学濃度は、基板全体にわたって、上述した範囲内であってよい。半導体基板10の酸素化学濃度および炭素化学濃度は、一方の主面から他方の主面に向かって単調に増加してよく、単調に減少してよく、一定であってもよい。
【0034】
バルク・ドナー濃度は、半導体基板10の全体に分布しているバルク・ドナーの化学濃度を用いてよく、当該化学濃度の90%から100%の間の値を用いてもよい。リンなどのV族、VI族のドーパントがドープされた半導体基板では、バルク・ドナー濃度は、1×1011/cm以上、3×1013/cm以下であってよい。V族、VI族のドーパントがドープされた半導体基板のバルク・ドナー濃度は、好ましくは1×1012/cm以上、1×1013/cm以下である。また、半導体基板10は、リン等のバルク・ドーパントを実質的に含まないノンドープ基板を用いてもよい。その場合、ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度は例えば1×1010/cm以上、5×1012/cm以下である。ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度は、好ましくは1×1011/cm以上である。ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度は、好ましくは5×1012/cm以下である。
【0035】
半導体基板10は、上面21および下面23を有する。上面21および下面23は、半導体基板10の2つの主面である。本明細書では、上面21および下面23と平行な面における直交軸をX軸およびY軸、上面21および下面23と垂直な軸をZ軸とする。上面21には、IGBTのゲート構造が設けられてよい。ゲート構造とは、ゲート電極(例えば後述するゲート導電部44)およびゲート絶縁膜42を含む構造である。
【0036】
半導体基板10には、所定の深さ位置Z1に、水素イオンが下面23から注入されている。本明細書においては、下面23からのZ軸方向の距離を、深さ位置と称する場合がある。本明細書では、半導体基板10の深さ方向における中央位置を、深さ位置Zcとする。深さ位置Z1は、下面23からのZ軸方向の距離がZ1の位置である。本例の深さ位置Z1は、25μm以上である。本例の深さ位置Z1は、半導体基板10の上面21側(深さ位置Zcと上面21との間の領域)に配置されている。深さ位置Z1は、半導体基板10の下面23側(深さ位置Zcと下面23との間の領域)に配置されていてもよい。
【0037】
深さ位置Z1に水素イオンを注入するとは、水素イオンが半導体基板10の内部を通過する平均距離(飛程とも称される)が、Z1であることを指す。水素イオンは、所定の深さ位置Z1に応じた加速エネルギーで加速されて、半導体基板10の内部に導入される。同一の加速エネルギーで水素イオンを注入した場合でも、水素イオンの注入面(本例では下面23)にアブソーバーを配置することで、水素イオンの注入位置を調整できる。
【0038】
水素イオンが半導体基板10の内部を通過した領域を通過領域とする。図1の例では、半導体基板10の下面23から、深さ位置Z1までが通過領域である。一部の水素イオンは、深さ位置Z1よりも上面21側まで半導体基板10を通過する。所定の濃度の水素イオンが通過した領域を、通過領域としてよい。例えば所定の濃度は、深さ位置Z1に注入された水素の化学濃度の半分の値であってよい。この場合、通過領域は、水素化学濃度分布の半値幅だけ、深さ位置Z1よりも上面21側の領域を含む。水素イオンは、XY面における半導体基板10の全面に注入されてよく、一部の領域だけに注入されてもよい。本例では、半導体基板10の全面に水素イオンが注入されている。
【0039】
半導体基板10において水素イオンが通過した通過領域には、単原子空孔(V)、複原子空孔(VV)等の、空孔を主体とする格子欠陥が形成されている。空孔に隣接する原子は、ダングリング・ボンドを有する。格子欠陥には格子間原子や転位等も含まれ、広義ではドナーやアクセプタも含まれ得るが、本明細書では空孔を主体とする格子欠陥を空孔型格子欠陥、空孔型欠陥、あるいは単に格子欠陥と称する場合がある。空孔を主体とする格子欠陥は、電子および正孔のキャリアの再結合中心として機能する場合がある。再結合中心、空孔、および、格子欠陥は、互いに同様の分布を有してよい。また、半導体基板10への水素イオン注入により、格子欠陥が多く形成されることで、半導体基板10の結晶性が強く乱れることがある。本明細書では、この結晶性の乱れをディスオーダーと称する場合がある。
【0040】
また、半導体基板10の全体には酸素が含まれる。当該酸素は、半導体のインゴットの製造時において、意図的にまたは意図せずに導入される。また水素イオンを注入することで、通過領域には水素が含まれる。また、水素イオンを注入した後に半導体基板10を熱処理(本明細書ではアニールと称する場合がある)することで、通過領域に水素イオンが拡散する。本例では、通過領域の全体に水素が分布している。
【0041】
半導体基板10に水素イオンが注入された後、半導体基板10の内部には、水素(H)、空孔(V)および酸素(O)が結合し、VOH欠陥が形成される。また、半導体基板10をアニールすることで水素が拡散し、VOH欠陥の形成が促進される。また、通過領域を形成した後にアニールすることで、水素が空孔と結合できるので、水素が下面23から半導体基板10の外部に放出されるのを抑制できる。
【0042】
VOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。本明細書では、VOH欠陥を単に水素ドナーまたはドナーと称する場合がある。本例の半導体基板10では、通過領域に水素ドナーが形成される。
【0043】
また、水素イオンを所定の条件で注入することで、通過領域より更に上面21側にも格子欠陥を形成できる。この場合、通過領域より更に上面21側にも水素ドナーが形成される。特に、水素イオンを1.4MeV以上の加速エネルギーで注入した場合に、通過領域よりも上面21側に水素ドナーを形成しやすいことが、実験的に確認できている。深さ位置Z1を25μm以上とすることで、水素イオンの加速エネルギーは1.4MeV以上になる。このため、深さ位置Z1(または通過領域)よりも上面21側に、水素ドナーを形成しやすくなる。
【0044】
深さ位置Z1は、上面21を基準として、半導体基板10の厚みの3/4以下の範囲に配置されていてよく、半導体基板10の厚みの1/2以下の範囲に配置されていてよく、半導体基板10の厚みの1/4以下の範囲に配置されていてもよい。深さ位置Z1は、下面23を基準として、半導体基板10の厚みの1/4以下の範囲に配置されていてもよい。下面23にアブソーバを配置することで、深さ位置Z1と下面23との距離が小さい場合でも、高い加速エネルギーで水素イオンを注入できる。
【0045】
各位置における水素ドナーのドーピング濃度は、各位置における水素の化学濃度よりも低い。水素の化学濃度に対して、水素ドナー(VOH欠陥)のドーピング濃度に対する水素の化学濃度の割合は、0.1%~30%(すなわち0.001以上、0.3以下)の値であってよい。本例では、水素ドナー(VOH欠陥)のドーピング濃度に対する水素の化学濃度の割合は1%~5%である。なお、特に断りがなければ、本明細書では、水素の化学濃度分布に相似する分布を有するVOH欠陥も、通過領域の空孔欠陥の分布に相似するVOH欠陥も、水素ドナー、またはドナーとしての水素と称する。
【0046】
半導体基板10の通過領域に水素ドナーを形成することで、通過領域におけるドナー濃度を、バルク・ドナーのドーピング濃度(単に、バルク・ドナー濃度と称する場合がある)よりも高くできる。これにより、局所的なN型領域を容易に形成できる。また、水素イオンの飛程を大きくすることで通過領域をZ軸方向に大きくすることができる。この場合、バルク・ドナーよりもドナー濃度が高い高濃度領域を、広範囲に形成できる。通常は、半導体基板10に形成すべき素子の特性、特に定格電圧または耐圧に対応させて、所定のバルク・ドナー濃度を有する半導体基板10を準備しなければならない。これに対して、通過領域を大きく形成する場合には、水素イオンのドーズ量を制御することで、半導体基板10のドナー濃度を調整できる。このため、素子の特性等に対応していないバルク・ドナー濃度の半導体基板を用いて、半導体装置100を製造できる。半導体基板10の製造時におけるバルク・ドナー濃度のバラツキは比較的に大きいが、水素イオンのドーズ量は比較的に高精度に制御できる。このため、水素イオンを注入することで生じる格子欠陥の濃度も高精度に制御でき、通過領域のドナー濃度を高精度に制御できる。
【0047】
図2は、図1のa-a線に示した位置における、水素化学濃度、ドナー濃度、空孔密度、および、キャリアライフタイムの深さ方向の分布例を示している。本例のドナー濃度は、水素ドナーおよびバルク・ドナーの濃度である。図2は、深さ位置Z1に水素イオンを注入し、アニールを行った後の各分布を示している。
【0048】
図2の横軸は、下面23からの深さ位置を示しており、縦軸は、単位体積当たりの化学濃度または密度を対数軸で示している。ただし、キャリアライフタイムのグラフにおける縦軸は、時間(秒)を示している。図2における化学濃度は、例えばSIMS法で計測される。ドナー濃度は例えばSR法で計測される。SR法で計測されたN型領域のキャリア密度をドナー濃度としてよい。図2においては、バルク・ドナー濃度Dを破線で示している。バルク・ドナー濃度Dは、半導体基板10の全体で均一であってよい。本例の半導体基板10は一例としてMCZ基板である。
【0049】
半導体基板10の深さ位置Z1には、水素ピーク201が設けられる。水素ピーク201は、深さ方向における水素化学濃度分布のピークである。水素ピーク201は、頂点202、上側裾203および下側裾204を有する。頂点202は、水素化学濃度が極大値を示す点である。頂点202の深さ位置をZ1とする。下側裾204は、頂点202から半導体基板10の下面23に向かって、水素化学濃度が減少するスロープである。上側裾203は、頂点202から半導体基板10の上面21に向かって、水素化学濃度が減少するスロープである。本例では、下面23から水素イオンを注入したので、頂点202から下面23の間には、比較的に多くの水素イオンが存在する。上側裾203は、下側裾204よりも、水素化学濃度が急峻に減少してよい。
【0050】
本例では、下面23から深さ位置Z1に水素イオンを注入している。上述したように、下面23から深さ位置Z1までの距離Z1は25μm以上である。距離Z1は、30μm以上であってよく、40μm以上であってよく、50μm以上であってよく、60μm以上であってよく、70μm以上であってよく、80μm以上であってもよい。距離Z1は、半導体基板10の厚みの25%以上であってよく、30%以上であってよく、40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってもよい。距離Z1は、半導体基板10の厚みの100%より小さい。距離Z1は、半導体基板10の厚みの90%以下であってよく、80%以下であってもよい。
【0051】
また、深さ位置Z1には、所定値以上のドーズ量で水素イオンを注入することが好ましい。所定値以上のドーズ量とすることで、深さ位置Z1よりも上面21側に水素ドナーが形成しやすくなることが、実験的に確認されている。深さ位置Z1に対する水素イオンのドーズ量は、1×1012ions/cm以上であってよい。当該ドーズ量は、1×1012ions/cmより大きくてよく、1.5×1012ions/cm以上であってよく、2×1012ions/cm以上であってよく、3×1012ions/cm以上であってもよい。ドーズ量は、1×1015ions/cm以下であってよく、1×1014ions/cm以下であってよく、1×1013ions/cm以下であってもよい。
【0052】
また、水素ピーク201の頂点202における水素化学濃度Hは、8×1015atoms/cm以上であってよく、1.2×1016atoms/cm以上であってよく、1.6×1016atoms/cm以上であってよく、2.4×1016atoms/cm以上であってもよい。水素化学濃度Hは、8×1018atoms/cm以下であってよく、8×1017atoms/cm以下であってよく、8×1016atoms/cm以下であってもよい。
【0053】
なお、水素等の不純物ピークのドーズ量は、当該ピークの深さ方向における半値全幅の範囲で、当該不純物の化学濃度を積分した値を用いてもよい。あるいは、当該ピークのピーク濃度に半値全幅を乗じた値を、水素等の不純物ピークのドーズ量として用いてもよい。一方、当該ピークのピーク濃度に対して10%となる値の幅を10%全幅と定義する。水素等の不純物ピークのドーズ量を、当該ピークの深さ方向における10%全幅の範囲で、当該不純物の化学濃度を積分した値を用いてもよい。図2の例では、水素ピーク201の半値全幅W201の範囲で水素化学濃度を積分した値を、水素ピーク201の水素ドーズ量としてよい。図2の例では、半値全幅W201の下端位置をZ1a、上端位置をZ1bとする。
【0054】
半導体基板10に水素イオンを注入してアニールすることで、下面23から深さ位置Z1近傍の通過領域には、水素ドナーが形成される。また、深さ位置Z1を25μm以上とすることで、水素イオンの加速エネルギーを高くして、深さ位置Z1よりも上面21側まで水素ドナーが形成される。これにより、下面23から深さ位置Z2まで、バルク・ドナー濃度Dよりもドナー濃度が高い高濃度領域20が形成される。深さ位置Z2は、深さ位置Z1よりも上面21側の位置である。深さ位置Z1から深さ位置Z2までの深さ方向の幅をW1とする。深さ位置Z1を25μm以上とすることで、高濃度領域20が、深さ位置Z1よりも上面21側に向かって延伸する延伸幅W1を大きくできる。本例の延伸幅W1は、4μm以上である。延伸幅W1は、8μm以上であってよく、12μm以上であってよく、16μm以上であってもよい。延伸幅W1は、深さ位置Z1への水素イオンの加速エネルギーおよびドーズ量で調整できる。
【0055】
高濃度領域20は、半導体基板10の深さ方向において、水素ピーク201と重なる位置を含む。つまり高濃度領域20は、水素ピーク201の半値全幅W201の範囲の少なくとも一部を含む。下面23から深さ位置Z1bまでの領域において、ドナー濃度分布は、水素化学濃度分布と対応する形状を有してよい。例えばドナー濃度分布は、水素ピーク201と重なる位置に、ドナー濃度ピーク221を有してよい。
【0056】
ドナー濃度ピーク221は、頂点222、上側裾223および下側裾224を有する。頂点222は、ドナー濃度が極大値を示す点である。頂点222の深さ位置はZ1であってよい。下側裾224は、頂点222から半導体基板10の下面23に向かって、ドナー濃度が減少するスロープである。上側裾223は、頂点222から半導体基板10の上面21に向かって、ドナー濃度が減少するスロープである。上側裾223は、下側裾224よりも、ドナー濃度が急峻に減少してよい。
【0057】
また、ドナー濃度分布は、ドナー濃度ピーク221よりも下面23側に配置された下側平坦部226と、ドナー濃度ピーク221よりも上面21側に配置された上側平坦部225とを有する。それぞれの平坦部は、深さ方向においてドナーがほぼ一定となる領域である。ほぼ一定とは、例えばドナーの変動幅が±50%以内の状態である。上側平坦部225の深さ方向の長さは、1μm以上であってよく、2μm以上であってよく、4μm以上であってよく、8μm以上であってよく、12μm以上であってよく、16μm以上であってもよい。上側平坦部225よりも上面21側には、ドリフト領域18が設けられてよい。ドリフト領域18は、深さ方向におけるドーピング濃度がほぼ一定となる領域である。ドリフト領域18のドーピング濃度は、バルク・ドナー濃度Dbであってよく、バルク・ドナー濃度Dbより高くてもよい。
【0058】
空孔密度分布は、空孔密度ピーク231を有してよい。本例の空孔密度分布は、水素ドナーとして機能する空孔欠陥と、水素ドナーとして機能していない空孔欠陥の両方を含む密度分布である。本例の空孔密度分布は、水素イオン注入後、且つ、アニール前の空孔密度分布とほぼ同様である。なお、アニール後において、水素ドナー化せずに残留した空孔密度の分布232を破線で示している。高い加速エネルギーで水素イオンを注入することで、空孔密度が、深さ位置Z1よりも上面21側に分布しやすくなる。これにより、高濃度領域20の延伸幅W1を大きくできる。また、延伸幅W1を大きくすることで、深さ位置Z1よりも上面21側のドナー濃度が、急峻に減少することを抑制できる。これにより、深さ位置Z1の近傍に空乏層が到達した場合の、半導体装置100の特性を向上できる。なお、本例のキャリアライフタイム分布は、深さ位置Z1に明瞭なピークを有していない。アニール後にドナー化せずに残留する空孔密度の分布である空孔密度分布232の濃度は実質的に0でよく、空孔密度分布232は実質的に平坦であってよい。
【0059】
図3は、ドナー濃度ピーク221の近傍のドナー濃度分布の拡大図である。本例では、ドナー濃度ピーク221の頂点222におけるドナー濃度をP1、ドリフト領域18におけるドナー濃度をP2とし、ドナー濃度P1とP2の差分(すなわち、P1-P2)をX1とする。また、ドナー濃度P1とP2の差分の5%(すなわち、0.05×(P1-P2))をX2とする。
【0060】
本例では、頂点222から上面21に向かって、ドナー濃度が初めてP2+X2となる位置を、深さ位置Z2とする。上述したように、深さ位置Z2は、高濃度領域20の上端位置である。高濃度領域20の延伸幅W1は、深さ位置Z2と深さ位置Z1との距離である。
【0061】
また、深さ位置Z1から深さ位置Z2の間において、ドナーの変動幅が平均値の±50%以内に収まる領域のうち、深さ方向の幅W2が最大となる領域を上側平坦部225とする。当該領域のドナー濃度の平均値を、上側平坦部225のドナー濃度P4とする。
【0062】
深さ位置Z1から下面23の間において、幅W2に渡ってドナーの変動幅が平均値の±50%以内に収まり、且つ、深さ位置Z1に最も近い領域を下側平坦部226とする。当該領域のドナー濃度の平均値を、下側平坦部226のドナー濃度P3とする。ドナー濃度P4は、ドナー濃度P3の0.5倍以上、2倍以下であってよい。つまり、上側平坦部225のドナー濃度P4と、下側平坦部226のドナー濃度P3とは、ほぼ同一である。ドナー濃度P4は、ドナー濃度P3の0.7倍以上であってよく、0.9倍以上であってもよい。ドナー濃度P4は、ドナー濃度P3の1.3倍以下であってよく、1.1倍以下であってもよい。
【0063】
図4Aは、高濃度領域20の延伸幅W1と、水素イオンの加速エネルギーとの関係を測定した測定結果を示す図である。本例では、深さ位置Z1に注入する水素イオンの加速エネルギーを、0.8MeVから2.3MeVの範囲で変更して、形成される高濃度領域20の延伸幅W1を測定した。また、水素イオンのドーズ量を、3.0×1011ions/cmから1.0×1013ions/cmの範囲で変更した。なお、水素イオンを注入した後に、350℃で5時間のアニールを行った。
【0064】
図4Bは、図4Aの水素イオンの加速エネルギーを、当該加速エネルギーで注入した水素イオンの飛程となるピーク位置に置き換えた図である。本例では、1.4MeVの加速エネルギーが24μmのピーク位置に対応し、1.8MeVの加速エネルギーが40μmのピーク位置に対応し、2.3MeVの加速エネルギーが58μmのピーク位置に対応する。
【0065】
図5は、高濃度領域20の延伸幅W1と、水素イオンのドーズ量との関係を示す図である。図5では、水素イオンの加速エネルギー毎に、延伸幅W1とドーズ量との関係を示している。図5においては、加速エネルギーが2.3MeV、1.8MeV、1.4MeVの例を示しているが、加速エネルギーが1.4MeVより小さい場合は、加速エネルギーが1.4MeVの場合と同様の傾向が見られた。
【0066】
図4Aに示されるように、水素イオンの加速エネルギーが1.4MeVより大きくなると、高濃度領域20の延伸幅W1が特に大きくなる傾向が見られた。水素イオンの加速エネルギーは、1.4MeVより大きくてよく、1.41MeV以上であってよく、1.5MeV以上であってよく、1.8MeV以上であってよく、2.0MeV以上であってもよい。
【0067】
図4Bに示されるように、水素イオンのピーク位置が24μmより大きくなると、高濃度領域20の延伸幅W1が特に大きくなる傾向が見られた。水素イオンの加速エネルギーは、24μmより大きくてよく、25μm以上であってよく、30μm以上であってよく、40μm以上であってよく、50μm以上であってよく、60μm以上であってもよい。
【0068】
図4A図4Bおよび図5に示されるように、水素イオンのドーズ量が1.0×1012ions/cm以上になると、延伸幅W1を大きくしやすくなる。特に、水素イオンのドーズ量が3.0×1012ions/cm以上になると、延伸幅W1の増加が顕著である。水素イオンのドーズ量は、1.0×1012ions/cm以上であってよく、1.0×1012ions/cmより大きくてよく、1.5×1012ions/cm以上であってよく、2.0×1012ions/cm以上であってよく、3.0×1012ions/cm以上であってもよい。
【0069】
特に、図5に示されるように、加速エネルギーが1.4MeV以下(ピーク位置が24μm以下)では幅W1はドーズ量の増加に対して減少し、1.4MeVよりも大きい場合(ピーク位置が24μmよりも大きい場合)では、幅W1はドーズ量の増加に対して臨界的に増加するようになる。よって、幅W1は、水素イオンの加速エネルギーが1.4MeVよりも大きいか、またはピーク位置が24μmよりも大きい場合に、増減の態様が臨界的に変化する特性を有する。
【0070】
図6は、半導体装置100の上面図の一例である。図6においては、各部材を半導体基板10の上面に投影した位置を示している。図6においては、半導体装置100の一部の部材だけを示しており、一部の部材は省略している。
【0071】
半導体装置100は、図1から図5において説明した半導体基板10を備えている。半導体基板10は、上面視において端辺102を有する。本明細書で単に上面視と称した場合、半導体基板10の上面側から見ることを意味している。本例の半導体基板10は、上面視において互いに向かい合う2組の端辺102を有する。図6においては、X軸およびY軸は、いずれかの端辺102と平行である。またZ軸は、半導体基板10の上面と垂直である。
【0072】
半導体基板10には活性部160が設けられている。活性部160は、半導体装置100が動作した場合に半導体基板10の上面と下面との間で、深さ方向に主電流が流れる領域である。活性部160の上方には、エミッタ電極が設けられているが図6では省略している。
【0073】
本例の活性部160には、IGBTを含むトランジスタ部70と、FWD等のダイオード素子を含むダイオード部80が設けられている。図6の例では、トランジスタ部70およびダイオード部80は、半導体基板10の上面における所定の配列方向(本例ではX軸方向)に沿って、交互に配置されている。他の例では、活性部160には、トランジスタ部70だけが設けられていてもよい。
【0074】
図6においては、トランジスタ部70が配置される領域には記号「I」を付し、ダイオード部80が配置される領域には記号「F」を付している。本明細書では、上面視において配列方向と垂直な方向を延伸方向(図6ではY軸方向)と称する場合がある。トランジスタ部70およびダイオード部80は、それぞれ延伸方向に長手を有してよい。つまり、トランジスタ部70のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。同様に、ダイオード部80のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。トランジスタ部70およびダイオード部80の延伸方向と、後述する各トレンチ部の長手方向とは同一であってよい。
【0075】
ダイオード部80は、半導体基板10の下面と接する領域に、N+型のカソード領域を有する。本明細書では、カソード領域が設けられた領域を、ダイオード部80と称する。つまりダイオード部80は、上面視においてカソード領域と重なる領域である。半導体基板10の下面には、カソード領域以外の領域には、P+型のコレクタ領域が設けられてよい。本明細書では、ダイオード部80を、後述するゲート配線までY軸方向に延長した延長領域81も、ダイオード部80に含める場合がある。延長領域81の下面には、コレクタ領域が設けられている。
【0076】
トランジスタ部70は、半導体基板10の下面と接する領域に、P+型のコレクタ領域を有する。また、トランジスタ部70は、半導体基板10の上面側に、N型のエミッタ領域、P型のベース領域、ゲート導電部およびゲート絶縁膜を有するゲート構造が周期的に配置されている。
【0077】
半導体装置100は、半導体基板10の上方に1つ以上のパッドを有してよい。本例の半導体装置100は、ゲートパッド112を有している。半導体装置100は、アノードパッド、カソードパッドおよび電流検出パッド等のパッドを有してもよい。各パッドは、端辺102の近傍に配置されている。端辺102の近傍とは、上面視における端辺102と、エミッタ電極との間の領域を指す。半導体装置100の実装時において、各パッドは、ワイヤ等の配線を介して外部の回路に接続されてよい。
【0078】
ゲートパッド112には、ゲート電位が印加される。ゲートパッド112は、活性部160のゲートトレンチ部の導電部に電気的に接続される。半導体装置100は、ゲートパッド112とゲートトレンチ部とを接続するゲート配線を備える。図6においては、ゲート配線に斜線のハッチングを付している。
【0079】
本例のゲート配線は、外周ゲート配線130と、活性側ゲート配線131とを有している。外周ゲート配線130は、上面視において活性部160と半導体基板10の端辺102との間に配置されている。本例の外周ゲート配線130は、上面視において活性部160を囲んでいる。上面視において外周ゲート配線130に囲まれた領域を活性部160としてもよい。また、外周ゲート配線130は、ゲートパッド112と接続されている。外周ゲート配線130は、半導体基板10の上方に配置されている。外周ゲート配線130は、アルミニウム等を含む金属配線であってよい。
【0080】
活性側ゲート配線131は、活性部160に設けられている。活性部160に活性側ゲート配線131を設けることで、半導体基板10の各領域について、ゲートパッド112からの配線長のばらつきを低減できる。
【0081】
活性側ゲート配線131は、活性部160のゲートトレンチ部と接続される。活性側ゲート配線131は、半導体基板10の上方に配置されている。活性側ゲート配線131は、不純物がドープされたポリシリコン等の半導体で形成された配線であってよい。
【0082】
活性側ゲート配線131は、外周ゲート配線130と接続されてよい。本例の活性側ゲート配線131は、Y軸方向の略中央で一方の外周ゲート配線130から他方の外周ゲート配線130まで、活性部160を横切るように、X軸方向に延伸して設けられている。活性側ゲート配線131により活性部160が分割されている場合、それぞれの分割領域において、トランジスタ部70およびダイオード部80がX軸方向に交互に配置されてよい。
【0083】
また、半導体装置100は、ポリシリコン等で形成されたPN接合ダイオードである不図示の温度センス部や、活性部160に設けられたトランジスタ部の動作を模擬する不図示の電流検出部を備えてもよい。
【0084】
本例の半導体装置100は、活性部160と端辺102との間に、エッジ終端構造部90を備える。本例のエッジ終端構造部90は、外周ゲート配線130と端辺102との間に配置されている。エッジ終端構造部90は、半導体基板10の上面側の電界集中を緩和する。エッジ終端構造部90は、複数のガードリング92を有する。ガードリング92は、半導体基板10の上面と接するP型の領域である。ガードリング92は、上面視において活性部160を囲んでいてよい。複数のガードリング92は、外周ゲート配線130と端辺102との間において、所定の間隔で配置されている。外側に配置されたガードリング92は、一つ内側に配置されたガードリング92を囲んでいてよい。外側とは、端辺102に近い側を指し、内側とは、外周ゲート配線130に近い側を指す。複数のガードリング92を設けることで、活性部160の上面側における空乏層を外側に伸ばすことができ、半導体装置100の耐圧を向上できる。エッジ終端構造部90は、活性部160を囲んで環状に設けられたフィールドプレートおよびリサーフのうちの少なくとも一つを更に備えていてもよい。
【0085】
図7は、図6における領域Eの拡大図である。領域Eは、トランジスタ部70、ダイオード部80、および、活性側ゲート配線131を含む領域である。本例の半導体装置100は、半導体基板10の上面側の内部に設けられたゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15を備える。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、それぞれがトレンチ部の一例である。また、本例の半導体装置100は、半導体基板10の上面の上方に設けられたエミッタ電極52および活性側ゲート配線131を備える。エミッタ電極52および活性側ゲート配線131は互いに分離して設けられる。
【0086】
エミッタ電極52および活性側ゲート配線131と、半導体基板10の上面との間には層間絶縁膜が設けられるが、図7では省略している。本例の層間絶縁膜には、コンタクトホール54が、当該層間絶縁膜を貫通して設けられる。図7においては、それぞれのコンタクトホール54に斜線のハッチングを付している。
【0087】
エミッタ電極52は、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15の上方に設けられる。エミッタ電極52は、コンタクトホール54を通って、半導体基板10の上面におけるエミッタ領域12、コンタクト領域15およびベース領域14と接触する。また、エミッタ電極52は、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを通って、ダミートレンチ部30内のダミー導電部と接続される。エミッタ電極52は、Y軸方向におけるダミートレンチ部30の先端において、ダミートレンチ部30のダミー導電部と接続されてよい。
【0088】
活性側ゲート配線131は、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを通って、ゲートトレンチ部40と接続する。活性側ゲート配線131は、Y軸方向におけるゲートトレンチ部40の先端部41において、ゲートトレンチ部40のゲート導電部と接続されてよい。活性側ゲート配線131は、ダミートレンチ部30内のダミー導電部とは接続されない。
【0089】
エミッタ電極52は、金属を含む材料で形成される。図7においては、エミッタ電極52が設けられる範囲を示している。例えば、エミッタ電極52の少なくとも一部の領域はアルミニウムまたはアルミニウム‐シリコン合金、例えばAlSi、AlSiCu等の金属合金で形成される。エミッタ電極52は、アルミニウム等で形成された領域の下層に、チタンやチタン化合物等で形成されたバリアメタルを有してよい。さらにコンタクトホール内において、バリアメタルとアルミニウム等に接するようにタングステン等を埋め込んで形成されたプラグを有してもよい。
【0090】
ウェル領域11は、活性側ゲート配線131と重なって設けられている。ウェル領域11は、活性側ゲート配線131と重ならない範囲にも、所定の幅で延伸して設けられている。本例のウェル領域11は、コンタクトホール54のY軸方向の端から、活性側ゲート配線131側に離れて設けられている。ウェル領域11は、ベース領域14よりもドーピング濃度の高い第2導電型の領域である。本例のベース領域14はP-型であり、ウェル領域11はP+型である。
【0091】
トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれは、配列方向に複数配列されたトレンチ部を有する。本例のトランジスタ部70には、配列方向に沿って1以上のゲートトレンチ部40と、1以上のダミートレンチ部30とが交互に設けられている。本例のダイオード部80には、複数のダミートレンチ部30が、配列方向に沿って設けられている。本例のダイオード部80には、ゲートトレンチ部40が設けられていない。
【0092】
本例のゲートトレンチ部40は、配列方向と垂直な延伸方向に沿って延伸する2つの直線部分39(延伸方向に沿って直線状であるトレンチの部分)と、2つの直線部分39を接続する先端部41を有してよい。図7における延伸方向はY軸方向である。
【0093】
先端部41の少なくとも一部は、上面視において曲線状に設けられることが好ましい。2つの直線部分39のY軸方向における端部どうしを先端部41が接続することで、直線部分39の端部における電界集中を緩和できる。
【0094】
トランジスタ部70において、ダミートレンチ部30はゲートトレンチ部40のそれぞれの直線部分39の間に設けられる。それぞれの直線部分39の間には、1本のダミートレンチ部30が設けられてよく、複数本のダミートレンチ部30が設けられていてもよい。ダミートレンチ部30は、延伸方向に延伸する直線形状を有してよく、ゲートトレンチ部40と同様に、直線部分29と先端部31とを有していてもよい。図7に示した半導体装置100は、先端部31を有さない直線形状のダミートレンチ部30と、先端部31を有するダミートレンチ部30の両方を含んでいる。
【0095】
ウェル領域11の拡散深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の深さよりも深くてよい。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30のY軸方向の端部は、上面視においてウェル領域11に設けられる。つまり、各トレンチ部のY軸方向の端部において、各トレンチ部の深さ方向の底部は、ウェル領域11に覆われている。これにより、各トレンチ部の当該底部における電界集中を緩和できる。
【0096】
配列方向において各トレンチ部の間には、メサ部が設けられている。メサ部は、半導体基板10の内部において、トレンチ部に挟まれた領域を指す。一例としてメサ部の上端は半導体基板10の上面である。メサ部の下端の深さ位置は、トレンチ部の下端の深さ位置と同一である。本例のメサ部は、半導体基板10の上面において、トレンチに沿って延伸方向(Y軸方向)に延伸して設けられている。本例では、トランジスタ部70にはメサ部60が設けられ、ダイオード部80にはメサ部61が設けられている。本明細書において単にメサ部と称した場合、メサ部60およびメサ部61のそれぞれを指している。
【0097】
それぞれのメサ部には、ベース領域14が設けられる。メサ部において半導体基板10の上面に露出したベース領域14のうち、活性側ゲート配線131に最も近く配置された領域をベース領域14-eとする。図7においては、それぞれのメサ部の延伸方向における一方の端部に配置されたベース領域14-eを示しているが、それぞれのメサ部の他方の端部にもベース領域14-eが配置されている。それぞれのメサ部には、上面視においてベース領域14-eに挟まれた領域に、第1導電型のエミッタ領域12および第2導電型のコンタクト領域15の少なくとも一方が設けられてよい。本例のエミッタ領域12はN+型であり、コンタクト領域15はP+型である。エミッタ領域12およびコンタクト領域15は、深さ方向において、ベース領域14と半導体基板10の上面との間に設けられてよい。
【0098】
トランジスタ部70のメサ部60は、半導体基板10の上面に露出したエミッタ領域12を有する。エミッタ領域12は、ゲートトレンチ部40に接して設けられている。ゲートトレンチ部40に接するメサ部60は、半導体基板10の上面に露出したコンタクト領域15が設けられていてよい。
【0099】
メサ部60におけるコンタクト領域15およびエミッタ領域12のそれぞれは、X軸方向における一方のトレンチ部から、他方のトレンチ部まで設けられる。一例として、メサ部60のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿って交互に配置されている。
【0100】
他の例においては、メサ部60のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿ってストライプ状に設けられていてもよい。例えばトレンチ部に接する領域にエミッタ領域12が設けられ、エミッタ領域12に挟まれた領域にコンタクト領域15が設けられる。
【0101】
ダイオード部80のメサ部61には、エミッタ領域12が設けられていない。メサ部61の上面には、ベース領域14およびコンタクト領域15が設けられてよい。メサ部61の上面においてベース領域14-eに挟まれた領域には、それぞれのベース領域14-eに接してコンタクト領域15が設けられてよい。メサ部61の上面においてコンタクト領域15に挟まれた領域には、ベース領域14が設けられてよい。ベース領域14は、コンタクト領域15に挟まれた領域全体に配置されてよい。
【0102】
それぞれのメサ部の上方には、コンタクトホール54が設けられている。コンタクトホール54は、ベース領域14-eに挟まれた領域に配置されている。本例のコンタクトホール54は、コンタクト領域15、ベース領域14およびエミッタ領域12の各領域の上方に設けられる。コンタクトホール54は、ベース領域14-eおよびウェル領域11に対応する領域には設けられない。コンタクトホール54は、メサ部60の配列方向(X軸方向)における中央に配置されてよい。
【0103】
ダイオード部80において、半導体基板10の下面と隣接する領域には、N+型のカソード領域82が設けられる。半導体基板10の下面において、カソード領域82が設けられていない領域には、P+型のコレクタ領域22が設けられてよい。図7においては、カソード領域82およびコレクタ領域22の境界を点線で示している。
【0104】
カソード領域82は、Y軸方向においてウェル領域11から離れて配置されている。これにより、比較的にドーピング濃度が高く、且つ、深い位置まで形成されているP型の領域(ウェル領域11)と、カソード領域82との距離を確保して、耐圧を向上できる。本例のカソード領域82のY軸方向における端部は、コンタクトホール54のY軸方向における端部よりも、ウェル領域11から離れて配置されている。他の例では、カソード領域82のY軸方向における端部は、ウェル領域11とコンタクトホール54との間に配置されていてもよい。
【0105】
図8は、図7におけるb-b断面の一例を示す図である。b-b断面は、エミッタ領域12およびカソード領域82を通過するXZ面である。本例の半導体装置100は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびコレクタ電極24を有する。層間絶縁膜38は、半導体基板10の上面に設けられている。層間絶縁膜38は、ホウ素またはリン等の不純物が添加されたシリケートガラス等の絶縁膜、熱酸化膜、および、その他の絶縁膜の少なくとも一層を含む膜である。層間絶縁膜38には、図7において説明したコンタクトホール54が設けられている。
【0106】
エミッタ電極52は、層間絶縁膜38の上方に設けられる。エミッタ電極52は、層間絶縁膜38のコンタクトホール54を通って、半導体基板10の上面21と接触している。コレクタ電極24は、半導体基板10の下面23に設けられる。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム等の金属材料で形成されている。本明細書において、エミッタ電極52とコレクタ電極24とを結ぶ方向(Z軸方向)を深さ方向と称する。
【0107】
半導体基板10は、N-型のドリフト領域18を有する。ドリフト領域18のドーピング濃度は、バルク・ドナー濃度と一致してよい。他の例では、ドリフト領域18のドーピング濃度は、バルク・ドナー濃度より高くてもよい。ドリフト領域18は、トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれに設けられている。
【0108】
トランジスタ部70のメサ部60には、N+型のエミッタ領域12およびP-型のベース領域14が、半導体基板10の上面21側から順番に設けられている。ベース領域14の下方にはドリフト領域18が設けられている。メサ部60には、N+型の蓄積領域16が設けられてもよい。蓄積領域16は、ベース領域14とドリフト領域18との間に配置される。
【0109】
エミッタ領域12は半導体基板10の上面21に露出しており、且つ、ゲートトレンチ部40と接して設けられている。エミッタ領域12は、メサ部60の両側のトレンチ部と接していてよい。エミッタ領域12は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度が高い。
【0110】
ベース領域14は、エミッタ領域12の下方に設けられている。本例のベース領域14は、エミッタ領域12と接して設けられている。ベース領域14は、メサ部60の両側のトレンチ部と接していてよい。
【0111】
蓄積領域16は、ベース領域14の下方に設けられている。蓄積領域16は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度が高いN+型の領域である。ドリフト領域18とベース領域14との間に高濃度の蓄積領域16を設けることで、キャリア注入促進効果(IE効果)を高めて、オン電圧を低減できる。蓄積領域16は、各メサ部60におけるベース領域14の下面全体を覆うように設けられてよい。
【0112】
ダイオード部80のメサ部61には、半導体基板10の上面21に接して、P-型のベース領域14が設けられている。ベース領域14の下方には、ドリフト領域18が設けられている。メサ部61において、ベース領域14の下方に蓄積領域16が設けられていてもよい。
【0113】
トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれにおいて、ドリフト領域18よりも下面23側にはN+型の高濃度領域20が設けられている。高濃度領域20のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。高濃度領域20は、図1から図5において説明した水素ピーク201、および、ドナー濃度ピーク221を含む。高濃度領域20は、水素ピーク201以外の水素ピークを有してよく、ドナー濃度ピーク221以外のドナー濃度ピーク241を有していてもよい。本例の高濃度領域20は、ドナー濃度ピーク221よりも下面23側に配置された複数のドナー濃度ピーク241を有する。高濃度領域20は、ベース領域14の下端から広がる空乏層が、P+型のコレクタ領域22およびN+型のカソード領域82に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。
【0114】
トランジスタ部70において、高濃度領域20の下には、P+型のコレクタ領域22が設けられる。コレクタ領域22のアクセプタ濃度は、ベース領域14のアクセプタ濃度より高い。コレクタ領域22は、ベース領域14と同一のアクセプタを含んでよく、異なるアクセプタを含んでもよい。コレクタ領域22のアクセプタは、例えばボロンである。
【0115】
ダイオード部80において、高濃度領域20の下には、N+型のカソード領域82が設けられる。カソード領域82のドナー濃度は、ドリフト領域18のドナー濃度より高い。カソード領域82のドナーは、例えば水素またはリンである。なお、各領域のドナーおよびアクセプタとなる元素は、上述した例に限定されない。コレクタ領域22およびカソード領域82は、半導体基板10の下面23に露出しており、コレクタ電極24と接続している。コレクタ電極24は、半導体基板10の下面23全体と接触してよい。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム等の金属材料で形成される。
【0116】
半導体基板10の上面21側には、1以上のゲートトレンチ部40、および、1以上のダミートレンチ部30が設けられる。各トレンチ部は、半導体基板10の上面21から、ベース領域14を貫通して、ドリフト領域18に到達している。エミッタ領域12、コンタクト領域15および蓄積領域16の少なくともいずれかが設けられている領域においては、各トレンチ部はこれらのドーピング領域も貫通して、ドリフト領域18に到達している。トレンチ部がドーピング領域を貫通するとは、ドーピング領域を形成してからトレンチ部を形成する順序で製造したものに限定されない。トレンチ部を形成した後に、トレンチ部の間にドーピング領域を形成したものも、トレンチ部がドーピング領域を貫通しているものに含まれる。
【0117】
上述したように、トランジスタ部70には、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30が設けられている。ダイオード部80には、ダミートレンチ部30が設けられ、ゲートトレンチ部40が設けられていない。本例においてダイオード部80とトランジスタ部70のX軸方向における境界は、カソード領域82とコレクタ領域22の境界である。
【0118】
ゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21に設けられたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲートトレンチ部40は、ゲート構造の一例である。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って設けられる。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に設けられる。つまりゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。
【0119】
ゲート導電部44は、深さ方向において、ベース領域14よりも長く設けられてよい。当該断面におけるゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21において層間絶縁膜38により覆われる。ゲート導電部44は、ゲート配線に電気的に接続されている。ゲート導電部44に所定のゲート電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチ部40に接する界面の表層に電子の反転層によるチャネルが形成される。
【0120】
ダミートレンチ部30は、当該断面において、ゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、半導体基板10の上面21に設けられたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー導電部34は、ゲートパッドとは異なる電極に接続されてよい。例えば、ゲートパッドとは異なる外部回路に接続する図示しないダミーパッドに、ダミー導電部34を接続し、ゲート導電部44とは異なる制御を行ってもよい。また、ダミー導電部34をエミッタ電極52に電気的に接続させてもよい。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って設けられる。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部に設けられ、且つ、ダミー絶縁膜32よりも内側に設けられる。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と半導体基板10とを絶縁する。ダミー導電部34は、ゲート導電部44と同一の材料で形成されてよい。例えばダミー導電部34は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。ダミー導電部34は、深さ方向においてゲート導電部44と同一の長さを有してよい。
【0121】
本例のゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、半導体基板10の上面21において層間絶縁膜38により覆われている。なお、ダミートレンチ部30およびゲートトレンチ部40の底部は、下側に凸の曲面状(断面においては曲線状)であってよい。
【0122】
ダイオード部80は、水素ピーク201(またはドナー濃度ピーク221)よりも上面21側に配置され、深さ方向のキャリアライフタイム分布が極小値を示すライフタイム調整部250を有する。ライフタイム調整部250は、X軸方向において、ダイオード部80の全体にわたって設けられてよい。ライフタイム調整部250は、深さ方向の空孔密度分布における空孔密度ピーク251を有する。ライフタイム調整部250を設けることで、例えば半導体装置100のターンオフ時におけるダイオード部80の逆回復時間を調整して、ターンオフ損失を低減できる。
【0123】
ライフタイム調整部250は、トランジスタ部70のうち、ダイオード部80に接する領域にも設けられてよい。ライフタイム調整部250は、ゲートトレンチ部40の下方には配置されなくてよい。ライフタイム調整部250は、トランジスタ部70のゲートトレンチ部40のうち、最もダイオード部80側に位置するゲートトレンチ部40の下部まで配置されてよい。
【0124】
トランジスタ部70は、ライフタイム調整部250と同一の深さ位置において、深さ方向のキャリアライフタイム分布が極小値を示さないライフタイム非調整部260を有する。ライフタイム非調整部260は、空孔密度ピーク251を有さない。ライフタイム調整部250は、ヘリウム等の荷電粒子を注入することで形成してよい。ライフタイム調整部250はヘリウムを有してよい。ライフタイム非調整部260におけるヘリウム濃度は、実質的に0であるか、または、ライフタイム調整部250におけるヘリウム濃度の1%以下である。ライフタイム調整部250の下面23側に位置する高濃度領域20は、ライフタイム非調整部260の下面23側に位置する高濃度領域20よりも、上面21側に延伸してよい。つまり、ライフタイム調整部250の下面23側に位置する高濃度領域20は、ライフタイム非調整部260の下面23側に位置する高濃度領域20よりも、上面21側に延伸した領域19を有してよい。
【0125】
図9は、図8のc-c線に示した位置における、水素化学濃度、ドーピング濃度、キャリアライフタイム、ヘリウム化学濃度、および空孔密度の深さ方向の分布例を示している。c-c線は、Z軸と並行で、且つ、ライフタイム非調整部260を通過する線である。また、トランジスタ部70に設けられた高濃度領域20を、第1高濃度領域20-1と称する。
【0126】
第1高濃度領域20-1は、図1から図5において説明した水素ピーク201、ドナー濃度ピーク221、上側平坦部225および下側平坦部226を有する。また、本例の第1高濃度領域20-1は、ドナー濃度ピーク221よりも下面23側に、ドナー濃度ピーク241-1、241-2、241-3、241-4を有する。それぞれのドナー濃度ピーク241は、水素ドナーのピークである。本例の第1高濃度領域20-1は、水素ピーク201よりも下面23側に、水素ピーク271-1、271-2、271-3、271-4を有する。それぞれの水素ピーク271は、対応するドナー濃度ピーク241と同一の深さ位置に配置されてよい。2つのピークが同一の深さ位置に配置されるとは、一方のピークの半値全幅の範囲に、他方のピークの頂点が配置されていることを指す。
【0127】
複数のドナー濃度ピーク241は、半導体基板10の下面23側に配置されてよい。複数のドナー濃度ピーク241は、下面23を基準として、半導体基板10の厚みの1/4以内の領域に配置されてよい。少なくとも一つのドナー濃度ピーク241は、ドナー濃度ピーク221よりもドナー濃度が高くてよい。例えば最も下面23に配置されたドナー濃度ピーク241は、ドナー濃度ピーク221のドナー濃度の2倍以上であってよく、5倍以上であってよく、10倍以上であってもよい。複数のドナー濃度ピーク241は、ドナー濃度ピーク221よりもドナー濃度が低いものを含んでもよい。下面23からの距離が大きいほうから選択される1つ以上のドナー濃度ピーク241は、ドナー濃度ピーク221よりもドナー濃度が低くてよい。いずれのドナー濃度ピーク241も、上側平坦部225よりもドナー濃度が高くてよい。
【0128】
また、図8に示したゲートトレンチ部40またはダミートレンチ部30下端の深さ位置をZtとする。ライフタイム非調整部260と深さ方向において重なり、且つ、深さ位置がZtからZ1までの領域には、ライフタイムキラーを形成するための電子線またはヘリウムイオン等の荷電粒子が通過していない。このため、深さ位置Ztから深さ位置Z1までの領域では、キャリアライフタイムが平坦、単調に増加、または、単調に減少していてよい。つまりキャリアライフタイム分布は、当該領域において谷またはピークを有さない。深さ位置ZtからZ1までの領域におけるキャリアライフタイムの最小値は、水素ピーク271-1から水素ピーク271-4までの領域におけるキャリアライフタイムの最小値よりも大きい。深さ位置ZtからZ1までの領域におけるキャリアライフタイムは、半導体基板10におけるキャリアライフタイムの最大値の80%以上であってよく、90%以上であってもよい。深さ位置ZtからZ1までの領域におけるキャリアライフタイムの変動幅は、当該領域におけるキャリアライフタイムの平均値に対して±20%以下であってよい。また、深さ位置ZtからZ1までの領域では、ヘリウム化学濃度がほぼ0であるか、ライフタイム調整部250におけるヘリウム化学濃度のピーク値の1%以下である。半導体基板10におけるキャリアライフタイムは、10μs以上であってよく、30μs以上であってよい。半導体基板10におけるキャリアライフタイムは、1000μs以下であってよく、300μs以下であってよく、100μs以下であってよい。
【0129】
なお、深さ位置ZtからZ1までの領域において、空孔密度分布232(または再結合中心分布)は、上述したキャリアライフタイムと同様の分布を有してよい。例えば深さ位置Ztから深さ位置Z1までの領域において、空孔密度は、平坦、単調に増加、または、単調に減少していてよい。つまり空孔密度分布は、当該領域において谷またはピークを有さない。深さ位置ZtからZ1までの領域において、空孔密度分布232の空孔密度は1×1013/cm以下であってよく、1×1012/cm以下であってよく、1×1011/cm以下であってよい。空孔密度は、1×1013/cm以下であれば、実質的に0であると言ってもよい。
【0130】
半導体基板10の深さ方向の中央部における空孔密度またはキャリアライフタイムと、第1高濃度領域20-1における空孔密度またはキャリアライフタイムは、実質的に等しくてよい。第1高濃度領域20-1における空孔密度またはキャリアライフタイムの値は、深さ方向における分布の平均値を用いてよい。2つのキャリアライフタイムの比が、0.8以上、1.2以下の場合に、実質的に等しいとしてよい。半導体基板10の中央部は、ドリフト領域18であってよく、第1高濃度領域20-1であってよい。
【0131】
半導体基板10の下面23からトレンチ部の下端位置Ztまでの距離を第1距離L1とする。また、下面23から深さ位置Z1までの距離を第2距離Z1とする。第2距離Z1は、第1距離L1の0.3倍以上、0.8倍以下であってよい。第2距離Z1を第1距離L1の0.3倍以上とすることで、水素イオンの加速エネルギーを高くして、延伸幅W1を大きくしやすくなる。第2距離Z1は、第1距離L1の0.4倍以上であってよい。第2距離Z1を第1距離L1の0.8倍以下とすることで、第1高濃度領域20-1が、ベース領域14まで到達することを抑制できる。第2距離Z1は、第1距離L1の0.6倍以下であってよく、0.45倍以下であってもよい。
【0132】
図10は、図8のd-d線に示した位置における、水素化学濃度、ドーピング濃度、キャリアライフタイム、および、ヘリウム化学濃度の深さ方向の分布例を示している。d-d線は、Z軸と並行で、且つ、ライフタイム調整部250を通過する線である。また、ダイオード部80に設けられた高濃度領域20を、第2高濃度領域20-2と称する。
【0133】
本例の水素化学濃度分布は、図9に示した水素化学濃度分布と同様である。また、本例のドーピング濃度分布は、図9に示したドーピング濃度分布のコレクタ領域22を、カソード領域82に置き換えたものと同様である。
【0134】
ダイオード部80は、深さ位置Ztと深さ位置Z1との間の領域に、キャリアライフタイムが極小値を示すライフタイム調整部250を有する。本例のライフタイム調整部250は、ヘリウムを注入することで形成されている。ダイオード部80は、ライフタイム調整部250と同一の深さ位置に、ヘリウムピーク252を有してよい。一方で、図9に示したライフタイム非調整部260においては、ヘリウムピーク252と同一の深さ位置のヘリウム化学濃度分布が平坦である。
【0135】
ヘリウムイオンを、半導体基板10の下面23から注入した場合、ヘリウムイオンが通過した領域には、空孔等の格子欠陥が多く形成される。この場合のダイオード部80は、トランジスタ部70に比べて、深さ位置Z1からヘリウム注入位置までの領域の空孔密度が高い。このため、第2高濃度領域20-2が上面21に向かって延伸する長さは、第1高濃度領域20-1が上面21に向かって延伸する長さよりも長い場合がある。すなわち、半導体基板10の上面21から下面23に向かう深さ方向において、ダイオード部80の空孔密度は、トランジスタ部70の空孔密度より高い部分を有してよい。ただし、第1高濃度領域20-1および第2高濃度領域20-2のいずれも、延伸幅W1(図2参照)は4μm以上である。水素イオンの加速エネルギーを調整することで、荷電粒子が照射されていない領域でも、高濃度領域20の延伸幅W1を4μm以上にできる。このため、トランジスタ部70の上面21側に不要なライフタイム調整部250を設けることなく、深さ方向に長い第1高濃度領域20-1を形成できる。ダイオード部80の上側平坦部225-dは、トランジスタ部70の上側平坦部225-tよりも、上面21側に延伸してよい。この場合、ヘリウムイオンを下面23側から注入してよい。
【0136】
図11は、図8のc-c線に示した位置における、水素化学濃度、ドーピング濃度、キャリアライフタイム、および、ヘリウム化学濃度の深さ方向の他の分布例を示している。本例の水素化学濃度分布は、下面23から深さ位置Z1までの領域に1つの水素ピーク271を有する。また、本例のドーピング濃度分布は、下面23から深さ位置Z1までの領域に1つのドナー濃度ピーク241を有する。他の分布は図9の例と同様である。水素ピーク271およびドナー濃度ピーク241と、下面23との距離は、距離Z1の半分以下であってよく、1/4以下であってもよい。
【0137】
図12は、図8のc-c線に示した位置における、水素化学濃度、ドーピング濃度、キャリアライフタイム、および、ヘリウム化学濃度の深さ方向の他の分布例を示している。本例の水素化学濃度分布は、下面23から深さ位置Z1までの領域に2つの水素ピーク271-1、271-2を有する。また、本例のドーピング濃度分布は、下面23から深さ位置Z1までの領域に2つのドナー濃度ピーク241-1、241-2を有する。他の分布は図9の例と同様である。下面23から最も離れて配置された水素ピーク271-2およびドナー濃度ピーク241-2と、下面23との距離は、距離Z1の半分以下であってよく、1/4以下であってもよい。
【0138】
図13は、図8のc-c線に示した位置における、水素化学濃度、ドーピング濃度、キャリアライフタイム、および、ヘリウム化学濃度の深さ方向の他の分布例を示している。本例の水素化学濃度分布は、下面23から深さ位置Z1までの領域に3つの水素ピーク271-1、271-2、271-3を有する。また、本例のドーピング濃度分布は、下面23から深さ位置Z1までの領域に3つのドナー濃度ピーク241-1、241-2、241-3を有する。他の分布は図9の例と同様である。水素ピーク271-3およびドナー濃度ピーク241-3と、下面23から最も離れて配置された下面23との距離は、距離Z1の半分以下であってよく、1/4以下であってもよい。
【0139】
図14は、図8のc-c線に示した位置における、水素化学濃度、ドーピング濃度、キャリアライフタイム、および、ヘリウム化学濃度の深さ方向の他の分布例を示している。本例の水素化学濃度分布は、下面23から深さ位置Z1までの領域に水素ピーク271を有さない。深さ位置Z1から下面23に向かって、水素化学濃度は単調に減少する。また、本例のドーピング濃度分布は、下面23から深さ位置Z1までの領域に1つ以上のドナー濃度ピーク241を有する。いずれかのドナー濃度ピーク241は、水素ドナー以外のドナー(例えばリン)のピークである。図14では、一つのドナー濃度ピーク241を有する例を示しているが、図9図12または図13に示したように、複数のドナー濃度ピーク241が設けられてよい。この場合、下面23に最も近いドナー濃度ピーク241が、リン等のドナーのピークであってよい。他のドナー濃度ピーク241は、水素ドナーのピークであってよい。
【0140】
図15は、図8のc-c線に示した位置における、水素化学濃度、ドーピング濃度、キャリアライフタイム、および、ヘリウム化学濃度の深さ方向の他の分布例を示している。本例の水素化学濃度分布は、下面23から深さ位置Z1までの領域に水素ピーク271を有さない。深さ位置Z1から下面23に向かって、水素化学濃度は単調に減少する。また、本例のドーピング濃度分布は、下面23から深さ位置Z1までの領域にドナー濃度ピーク241を有さない。深さ位置Z1からコレクタ領域22に向かって、ドーピング濃度は単調に減少してよい。本例においては、上面21側から広がる空乏層がコレクタ領域22に到達しないように、半導体基板10の厚みを十分大きくすることが好ましい。また、下面23から深さ位置Z1までの距離は、80μm以上であってよく、100μm以上であってよく、150μm以上であってよく、200μm以上であってもよい。他の分布は図9の例と同様である。
【0141】
図16は、半導体装置100の製造方法の一例を示す図である。図16では、半導体装置100の製造工程のうち、一部の工程だけを示している。本例では、まず半導体装置100の上面側構造を形成する(S1600)。上面側構造は、半導体基板10の中心Zcよりも上側の構造の少なくとも一部を含む。上面側構造は、各トレンチ部、エミッタ領域12、ベース領域14、蓄積領域16、コンタクト領域15、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびゲート配線の少なくとも一つを含んでよい。
【0142】
次に基板薄化段階S1602において、半導体基板10の下面23を研削して、半導体基板10の厚みを調整する。S1602では、半導体装置100が有するべき耐圧に応じて、半導体基板10の厚みを調整する。
【0143】
次に下面側領域形成段階S1604において、コレクタ領域22を形成する。下面側領域形成段階S1604では、カソード領域82も形成してよい。下面側領域形成段階S1604では、半導体基板10の下面23に所定の不純物を注入して、レーザー等で局所的にアニールすることで、コレクタ領域22およびカソード領域82を形成してよい。
【0144】
次に水素注入段階S1606において、1.4MeVより大きい加速エネルギーで、半導体基板10の下面23から半導体基板10に水素イオンを注入する。これにより、深さ位置Z1において水素化学濃度が極大値を示す水素ピーク201を形成する。加速エネルギーは、1.4MeVより大きくてよく、1.5MeV以上であってよく、1.8MeV以上であってよく、2.0MeV以上であってもよい。
【0145】
水素注入段階S1606における水素ドーズ量は、1×1012/cm以上であってよい。当該ドーズ量は、1×1012ions/cmより大きくてよく、1.5×1012ions/cm以上であってよく、2×1012ions/cm以上であってよく、3×1012ions/cm以上であってもよい。ドーズ量は、1×1015ions/cm以下であってよく、1×1014ions/cm以下であってよく、1×1013ions/cm以下であってもよい。
【0146】
また、高濃度領域20が1つ以上の水素ピーク271を有する場合、水素注入段階S1606において、それぞれの水素ピーク271の位置に水素イオンを注入する。水素注入段階S1606では、水素ピークのうち、下面23からの距離が大きい水素ピークから順番に水素イオンを注入してよい。他の例では、下面23からの距離が小さい水素ピークから順番に水素イオンを注入してもよい。
【0147】
次にアニール段階S1608において、半導体基板10をアニールする。アニール段階S1608においては、アニール炉において半導体基板10の全体をアニールしてよい。アニール段階S1608におけるアニール温度は、300℃以上、420℃以下であってよい。アニール温度は、350℃以上であってよい。アニール温度は、390℃以下であってよい。本例のアニール温度は370℃である。アニール段階S1608におけるアニール時間は、0.5時間以上、10時間以下である。アニール時間は3時間以上であってよい。アニール温度は7時間以下であってよい。本例のアニール温度は5時間である。アニール段階S1608により、水素ピーク201の頂点202から上面21に向かって4μm以上延伸した領域を含む高濃度領域20を形成する。
【0148】
また、ダイオード部80にライフタイム調整部250を設ける場合、アニール段階S1608の後において、半導体基板10にヘリウム等の荷電粒子を注入する。また、アニール段階S1608の後に、コレクタ電極24を形成する。このような工程により、半導体装置100を製造できる。
【0149】
図17は、半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。本例では、図16における水素注入段階S1606以降の工程に代えて、第1水素注入段階S1700、第1アニール段階S1702、第2水素注入段階S1704および第2アニール段階S1706を備える。S1600からS1604までの工程は同一である。
【0150】
第1水素注入段階S1700では、深さ位置Z1に水素イオンを注入する。そして、第1アニール段階S1702において、半導体基板10をアニールする。第1アニール段階S1702においては、アニール炉において半導体基板10の全体をアニールしてよい。第1アニール段階S1702におけるアニール温度およびアニール時間は、図16におけるアニール段階S1608と同様である。
【0151】
次に第2水素注入段階S1704において、水素ピーク271を形成すべき位置に水素イオンを注入する。そして、第2アニール段階S1706において、半導体基板10をアニールする。第2アニール段階S1706においては、アニール炉において半導体基板10の全体をアニールしてよい。第2アニール段階S1706におけるアニール温度は、第1アニール段階S1702におけるアニール温度より低くてよい。当該アニール温度は、300℃以上、420℃以下であってよい。本例のアニール温度は360℃である。また、第2アニール段階S1706におけるアニール時間は、第1アニール段階S1702におけるアニール時間と同一であってよい。当該アニール時間は、0.5時間以上、10時間以下であってよい。本例のアニール時間は5時間である。
【0152】
本例においても、ダイオード部80にライフタイム調整部250を設ける場合、第2アニール段階S1706の後において、半導体基板10にヘリウム等の荷電粒子を注入する。また、第2アニール段階S1706の後に、コレクタ電極24を形成する。このような工程により、半導体装置100を製造できる。
【0153】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0154】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0155】
10・・・半導体基板、11・・・ウェル領域、12・・・エミッタ領域、14・・・ベース領域、15・・・コンタクト領域、16・・・蓄積領域、18・・・ドリフト領域、19・・・領域、20・・・高濃度領域、21・・・上面、22・・・コレクタ領域、23・・・下面、24・・・コレクタ電極、29・・・直線部分、30・・・ダミートレンチ部、31・・・先端部、32・・・ダミー絶縁膜、34・・・ダミー導電部、38・・・層間絶縁膜、39・・・直線部分、40・・・ゲートトレンチ部、41・・・先端部、42・・・ゲート絶縁膜、44・・・ゲート導電部、52・・・エミッタ電極、54・・・コンタクトホール、60、61・・・メサ部、70・・・トランジスタ部、80・・・ダイオード部、81・・・延長領域、82・・・カソード領域、90・・・エッジ終端構造部、92・・・ガードリング、100・・・半導体装置、102・・・端辺、112・・・ゲートパッド、130・・・外周ゲート配線、131・・・活性側ゲート配線、160・・・活性部、201・・・水素ピーク、202・・・頂点、203・・・上側裾、204・・・下側裾、221・・・ドナー濃度ピーク、222・・・頂点、223・・・上側裾、224・・・下側裾、225・・・上側平坦部、226・・・下側平坦部、231・・・空孔密度ピーク、232・・・分布、241・・・ドナー濃度ピーク、250・・・ライフタイム調整部、251・・・空孔密度ピーク、252・・・ヘリウムピーク、260・・・ライフタイム非調整部、271・・・水素ピーク
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【手続補正書】
【提出日】2022-02-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0053
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0053】
なお、水素等の不純物ピークのドーズ量は、当該ピークの深さ方向における半値全幅の範囲で、当該不純物の化学濃度を積分した値を用いてもよい。あるいは、当該ピークのピーク濃度に半値全幅を乗じた値を、水素等の不純物ピークのドーズ量として用いてもよい。一方、当該ピークのピーク濃度に対して10%となる値の幅を10%全幅と定義する。水素等の不純物ピークのドーズ量、当該ピークの深さ方向における10%全幅の範囲で、当該不純物の化学濃度を積分した値を用いてもよい。図2の例では、水素ピーク201の半値全幅W201の範囲で水素化学濃度を積分した値を、水素ピーク201の水素ドーズ量としてよい。図2の例では、半値全幅W201の下端位置をZ1a、上端位置をZ1bとする。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0057
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0057】
また、ドナー濃度分布は、ドナー濃度ピーク221よりも下面23側に配置された下側平坦部226と、ドナー濃度ピーク221よりも上面21側に配置された上側平坦部225とを有する。それぞれの平坦部は、深さ方向においてドナー濃度がほぼ一定となる領域である。ほぼ一定とは、例えばドナー濃度の変動幅が±50%以内の状態である。上側平坦部225の深さ方向の長さは、1μm以上であってよく、2μm以上であってよく、4μm以上であってよく、8μm以上であってよく、12μm以上であってよく、16μm以上であってもよい。上側平坦部225よりも上面21側には、ドリフト領域18が設けられてよい。ドリフト領域18は、深さ方向におけるドーピング濃度がほぼ一定となる領域である。ドリフト領域18のドーピング濃度は、バルク・ドナー濃度Dbであってよく、バルク・ドナー濃度Dbより高くてもよい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0127
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0127】
複数のドナー濃度ピーク241は、半導体基板10の下面23側に配置されてよい。複数のドナー濃度ピーク241は、下面23を基準として、半導体基板10の厚みの1/4以内の領域に配置されてよい。少なくとも一つのドナー濃度ピーク241は、ドナー濃度ピーク221よりもドナー濃度が高くてよい。例えば最も下面23に配置されたドナー濃度ピーク241は、ドナー濃度ピーク221のドナー濃度の2倍以上であってよく、5倍以上であってよく、10倍以上であってもよい。複数のドナー濃度ピーク241は、ドナー濃度ピーク221よりもドナー濃度が低いものを含んでもよい。下面23からの距離が大きいほうから選択される1つ以上のドナー濃度ピーク241は、ドナー濃度ピーク221よりもドナー濃度が低くてよい。いずれのドナー濃度ピーク241も、上側平坦部225よりもドナー濃度が高くてよい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0138
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0138】
図13は、図8のc-c線に示した位置における、水素化学濃度、ドーピング濃度、キャリアライフタイム、および、ヘリウム化学濃度の深さ方向の他の分布例を示している。本例の水素化学濃度分布は、下面23から深さ位置Z1までの領域に3つの水素ピーク271-1、271-2、271-3を有する。また、本例のドーピング濃度分布は、下面23から深さ位置Z1までの領域に3つのドナー濃度ピーク241-1、241-2、241-3を有する。他の分布は図9の例と同様である。水素ピーク271-3およびドナー濃度ピーク241-3と、下面23との距離は、距離Z1の半分以下であってよく、1/4以下であってもよい。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0147
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0147】
次にアニール段階S1608において、半導体基板10をアニールする。アニール段階S1608においては、アニール炉において半導体基板10の全体をアニールしてよい。アニール段階S1608におけるアニール温度は、300℃以上、420℃以下であってよい。アニール温度は、350℃以上であってよい。アニール温度は、390℃以下であってよい。本例のアニール温度は370℃である。アニール段階S1608におけるアニール時間は、0.5時間以上、10時間以下である。アニール時間は3時間以上であってよい。アニール時間は7時間以下であってよい。本例のアニール時間は5時間である。アニール段階S1608により、水素ピーク201の頂点202から上面21に向かって4μm以上延伸した領域を含む高濃度領域20を形成する。