(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161361
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】インバータ試験装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20221014BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066109
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲平
(72)【発明者】
【氏名】井熊 俊明
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770AA28
5H770CA01
5H770DA01
5H770DA22
5H770DA41
5H770KA01Y
(57)【要約】
【課題】供試インバータによって駆動されるモータを模擬するインバータ試験装置において、高出力化と高キャリア化とを両立可能な構成を実現する。
【解決手段】インバータ試験装置1は、供試インバータ2によって駆動されるモータを模擬することにより、供試インバータ2の試験を行う。インバータ試験装置1は、入力側と出力側とを電気的に絶縁する絶縁型DC/DCコンバータ21,22,23と、前記出力側に電気的に接続される単相フルブリッジ回路31,32,33とを備え、単相フルブリッジ回路31,32,33によって矩形波の単相電圧を出力する単相電圧出力回路11,12,13を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試インバータによって駆動されるモータを模擬することにより、前記供試インバータの試験を行うインバータ試験装置であって、
入力側と出力側とを電気的に絶縁する絶縁型DC/DCコンバータと、
前記絶縁型DC/DCコンバータの出力側に電気的に接続される単相フルブリッジ回路と、
を備え、前記単相フルブリッジ回路によって矩形波の単相電圧を出力する単相電圧出力回路を有する、インバータ試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインバータ試験装置において、
前記単相電圧出力回路から出力される矩形波の単相電圧を正弦波の単相電圧に変換するローパスフィルタを有する、インバータ試験装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインバータ試験装置において、
前記単相フルブリッジ回路は、
複数のスイッチング素子と、
前記複数のスイッチング素子に対してそれぞれ電気的に並列に接続されたダイオードと、
を有し、
前記スイッチング素子は、前記ダイオードに電流が流れている際にオフ状態である、インバータ試験装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載のインバータ試験装置において、
前記単相電圧出力回路を三相分有する、インバータ試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供試インバータによって駆動されるモータを模擬することにより、前記供試インバータの試験を行うインバータ試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
供試インバータによって駆動されるモータを模擬することにより、前記供試インバータの試験を行うインバータ試験装置が知られている。このようなインバータ試験装置として、例えば特許文献1には、被試験用の第1のインバータの疑似負荷となる第2のインバータと、前記第1のインバータ及び前記第2のインバータを制御する制御手段と、を備えるインバータ試験装置が知られている。前記第2のインバータは、三相のフルブリッジ回路を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、EV等の普及により、インバータ試験装置の高出力化(高電圧化や大電流化)が望まれている。また、インバータ試験装置がモータをより精度良く模擬できるように、インバータ試験装置の出力として、モータの誘起電圧の波形(正弦波)に近い出力波形が要求されている。そのためには、インバータ試験装置のキャリア周波数を高める高キャリア化が望まれている。
【0005】
上述の特許文献1に開示されるインバータ試験装置では、第2のインバータの駆動によって矩形波の電圧を出力している。そのため、前記インバータ試験装置から出力される電圧は、前記第2のインバータにおいて三相フルブリッジ回路を構成するスイッチング素子の耐電圧によって制約を受ける。
【0006】
これに対し、インバータ試験装置の出力電圧を高電圧化するために、前記第2のインバータにおけるスイッチング素子を高耐電圧のスイッチング素子に変更することが考えられる。しかしながら、高耐電圧のスイッチング素子は、一般的に、スイッチング損失も大きいため、インバータのキャリア周波数を高くすると、その分、損失が増大する。
【0007】
このように、インバータ試験装置において高出力化及び高キャリア化を実現しようとしても、従来の構成では、高出力化と高キャリア化とを両立させることができなかった。
【0008】
本発明の目的は、供試インバータによって駆動されるモータを模擬するインバータ試験装置において、高出力化と高キャリア化とを両立可能な構成を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係るインバータ試験装置は、供試インバータによって駆動されるモータを模擬することにより、前記供試インバータの試験を行うインバータ試験装置である。このインバータ試験装置は、入力側と出力側とを電気的に絶縁する絶縁型DC/DCコンバータと、前記絶縁型DC/DCコンバータの出力側に電気的に接続される単相フルブリッジ回路とを備え、前記単相フルブリッジ回路によって矩形波の単相電圧を出力する単相電圧出力回路を有する(第1の構成)。
【0010】
上述の単相フルブリッジ回路によって、スイッチング素子の耐電圧を変えることなく、インバータ試験装置における各相の出力電圧を、三相フルブリッジ回路の場合に比べて2倍にすることができる。すなわち、三相フルブリッジ回路の場合には、インバータ試験装置における各相の出力電圧が例えば0~Vdcであるのに対し、単相フルブリッジ回路の場合には、インバータ試験装置における各相の出力電圧が例えば-Vdc~Vdcである。これにより、インバータ試験装置の高出力化のためにスイッチング素子を高耐電圧のスイッチング素子に変更する必要がない。よって、インバータ試験装置のキャリア周波数を高くしても、スイッチング素子の損失が大きくならない。
【0011】
したがって、上述の構成により、インバータ試験装置において高出力化と高キャリア化とを両立することができる。
【0012】
しかも、単相フルブリッジ回路を、絶縁型DC/DCコンバータの出力側に電気的に接続することにより、前記単相フルブリッジ回路の入力側を、インバータ試験装置における他の構成部品(例えば他の単相フルブリッジ回路)に対して電気的に絶縁することができる。よって、前記単相フルブリッジ回路及び前記絶縁型DC/DCコンバータを有する単相電圧出力回路を、複数、直列または並列に電気的に接続することができる。これにより、インバータ試験装置の高容量化が可能である。
【0013】
前記第1の構成において、前記単相電圧出力回路から出力される矩形波の単相電圧を正弦波の単相電圧に変換するローパスフィルタを有する(第2の構成)。
【0014】
これにより、インバータ試験装置の出力電圧の波形を、モータの誘起電圧の波形である正弦波の電圧波形により近づけることができる。よって、供試インバータをより精度良く試験可能なインバータ試験装置を実現することができる。
【0015】
一般的に、インバータ試験装置を用いて供試インバータを試験した場合、前記インバータ試験装置の駆動によって生じる電流のリップルと前記供試インバータの駆動によって生じる電流のリップルとが重畳して、全体の電流のリップルとして検出される。
【0016】
これに対して、上述のようにインバータ試験装置の出力電圧がモータの誘起電圧を精度良く模擬することにより、前記インバータ試験装置の駆動によって生じる電流のリップルを低減できる。よって、前記インバータ試験装置によって供試インバータの試験を行っている際に検出される電流のリップルは、供試インバータが実際のモータを駆動制御している場合と同様に、供試インバータの駆動によって生じる電流のリップルのみになる。したがって、前記供試インバータをより精度良く試験することができる。
【0017】
前記第1または第2の構成において、前記単相フルブリッジ回路は、スイッチング素子と、前記スイッチング素子に対して電気的に並列に接続されたダイオードと、を有する。前記スイッチング素子は、前記ダイオードに電流が流れている際にオフ状態である(第3の構成)。
【0018】
一般的に、フルブリッジ回路において複数のスイッチング素子を駆動する際には、ダイオードに電流が流れるタイミングでスイッチング素子をオン状態にしてスイッチング素子に逆方向に電流を流す、いわゆる同期整流を行っている。この同期整流を行う場合には、フルブリッジ回路において上アームのスイッチング素子と下アームのスイッチング素子とが同時にオン状態になるのを防止するために、上アームのスイッチング素子と下アームのスイッチング素子とがいずれもオフ状態である、いわゆるデッドタイムを設ける。このデッドタイムは、一定時間であるため、インバータ試験装置のキャリア周波数を高くするほど、出力電圧に対する影響が大きい。
【0019】
これに対し、上述のように、スイッチング素子に並列に接続されているダイオードに電流が流れている際には、前記スイッチング素子をオフ状態にすることで、前記スイッチング素子のスイッチング回数を減らすことができる。これにより、デッドタイムが必要なスイッチングのタイミングを減らすことができる。よって、インバータ試験装置の出力電圧の振幅の低下を抑制できる。
【0020】
したがって、上述の構成により、インバータ試験装置において高出力化と高キャリア化とをより確実に両立することができる。
【0021】
前記第1から第3の構成のうちいずれか一つの構成において、前記単相電圧出力回路を三相分有する(第4の構成)。
【0022】
これにより、インバータ試験装置から三相分の電圧を出力することができる。よって、三相交流モータを模擬可能なインバータ試験装置を実現できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一実施形態に係るインバータ試験装置は、入力側と出力側とを電気的に絶縁する絶縁型DC/DCコンバータと、前記絶縁型DC/DCコンバータの出力側に電気的に接続される単相フルブリッジ回路とを備え、前記単相フルブリッジ回路によって矩形波の単相電圧を出力する単相電圧出力回路を有する。これにより、供試インバータによって駆動されるモータを模擬するインバータ試験装置において、高出力化と高キャリア化とを両立可能な構成を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、実施形態に係るインバータ試験装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、単相電圧出力回路の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、単相フルブリッジ回路に流れる電流の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、単相フルブリッジ回路に流れる電流の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、デッドタイムを説明する模式図である。
【
図6】
図6は、ダイオードに電流が流れている際に前記ダイオードに対して電気的に並列に接続されたスイッチング素子がオフ状態である場合に、単相フルブリッジ回路に流れる電流の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係るインバータ試験装置1の概略構成を示す図である。このインバータ試験装置1は、供試インバータ2によって駆動されるモータを模擬することにより、供試インバータ2の試験を行う装置である。すなわち、インバータ試験装置1は、供試インバータ2との間で電力の授受を行う。なお、特に図示しないが、インバータ試験装置1は、供試インバータ2に対し、供試インバータ2を駆動するために必要な情報(例えば回転数情報など)を出力してもよい。
【0027】
インバータ試験装置1は、複数の単相電圧出力回路11,12,13と、ローパスフィルタ4(図中では、LPF)とを有する。本実施形態では、インバータ試験装置1は、三相交流モータを模擬するため、3つの単相電圧出力回路11,12,13を有する。すなわち、インバータ試験装置1は、単相電圧出力回路11,12,13を三相分有する。
【0028】
3つの単相電圧出力回路11,12,13は、電源3に対して電気的に並列に接続されている。また、3つの単相電圧出力回路11,12,13は、ローパスフィルタ4を介して、供試インバータ2に電気的に接続されている。
【0029】
単相電圧出力回路11は、供試インバータ2との間で単相電圧であるU相電圧を出力する。単相電圧出力回路12は、供試インバータ2との間で単相電圧であるV相電圧を出力する。単相電圧出力回路13は、供試インバータ2との間で単相電圧であるW相電圧を出力する。これにより、インバータ試験装置1から供試インバータ2に対して、三相の電圧を出力することができる。
【0030】
単相電圧出力回路11は、絶縁型DC/DCコンバータ21(図中では、絶縁型DC/DC)と、単相フルブリッジ回路31とを有する。単相電圧出力回路12は、絶縁型DC/DCコンバータ22と、単相フルブリッジ回路32とを有する。単相電圧出力回路13は、絶縁型DC/DCコンバータ23と、単相フルブリッジ回路33とを有する。3つの単相電圧出力回路11,12,13は、同一の構成を有するため、以下では、単相電圧出力回路11についてのみ説明する。
【0031】
単相電圧出力回路11の絶縁型DC/DCコンバータ21は、入力側と出力側とが電気的に絶縁されている。絶縁型DC/DCコンバータ21の入力側は、電源3に電気的に接続されている。絶縁型DC/DCコンバータ21の出力側は、単相フルブリッジ回路31に電気的に接続されている。これにより、単相電圧出力回路11の単相フルブリッジ回路31は、電源3に対して電気的に絶縁されている。単相フルブリッジ回路31には、絶縁型DC/DCコンバータ21を介して電源3の電力が供給される。
【0032】
上述のように、単相電圧出力回路11が絶縁型DC/DCコンバータ21を有することにより、単相電圧出力回路11の入力側は、他の単相電圧出力回路12,13の入力側に対して電気的に絶縁されている。同様に、単相電圧出力回路12,13の入力側も、絶縁型DC/DCコンバータ22,23によって、他の単相電圧出力回路の入力側に対して電気的に絶縁されている。これにより、単相電圧出力回路11,12,13を、電気的に並列に接続しつつ互いの入力側を電気的に絶縁することができる。
【0033】
なお、絶縁型DC/DCコンバータ21の構成は、特に図示しないが、トランス及びフルブリッジ回路等を有し、入力側と出力側とで電圧を変換する、一般的な絶縁型DC/DCコンバータと同様の構成である。よって、絶縁型DC/DCコンバータ21の詳しい説明は省略する。
【0034】
絶縁型DC/DCコンバータ21では、出力側の電圧は一定である。このように、絶縁型DC/DCコンバータ21では、出力側の電圧が一定であるため、絶縁型DC/DCコンバータ21の出力側の電圧を可変にする場合に比べて、絶縁型DC/DCコンバータ21の変換効率が低下することを防止できる。
【0035】
なお、絶縁型DC/DCコンバータ21は、出力側の電圧が可変であってもよい。
【0036】
図2は、単相電圧出力回路11の概略構成を示す図である。
図2に示すように、単相フルブリッジ回路31は、4つのスイッチング素子SW1~SW4を有する。単相フルブリッジ回路31では、4つのスイッチング素子SW1~SW4がフルブリッジ回路を構成するように電気的に接続されている。
【0037】
詳しくは、単相フルブリッジ回路31は、電気的に並列に接続された2つのスイッチングレグ31a,31bを有する。
【0038】
スイッチングレグ31aは、直列に接続された2つのスイッチング素子SW1,SW2を有する。スイッチングレグ31aにおいて、直列に接続された2つのスイッチング素子SW1,SW2の中点は、ローパスフィルタ4を介して供試インバータ2に電気的に接続されている。スイッチングレグ31aにおいて、スイッチング素子SW1は、スイッチングレグ31aの上アームのスイッチング素子である。スイッチングレグ31aにおいて、スイッチング素子SW2は、スイッチングレグ31aの下アームのスイッチング素子である。
【0039】
スイッチングレグ31bは、直列に接続された2つのスイッチング素子SW3,SW4を有する。スイッチングレグ31bにおいて、直列に接続された2つのスイッチング素子SW3,SW4の中点は、他の単相電圧出力回路の単相フルブリッジ回路に電気的に接続されている。スイッチングレグ31bにおいて、スイッチング素子SW3は、スイッチングレグ31bの上アームのスイッチング素子である。スイッチングレグ31bにおいて、スイッチング素子SW4は、スイッチングレグ31bの下アームのスイッチング素子である。
【0040】
スイッチング素子SW1~SW4には、ダイオードD1~D4が電気的に並列に接続されている。ダイオードD1~D4は、スイッチング素子SW1~SW4に対して逆方向に電流が流れるような電圧が印加された際に電流が流れる還流ダイオードである。
【0041】
以上のような単相フルブリッジ回路31において、スイッチングレグ31aのスイッチング素子SW1,SW2の一方のスイッチング素子がオン状態の時には他方のスイッチング素子はオフ状態である。また、スイッチングレグ31bのスイッチング素子SW3,SW4の一方のスイッチング素子がオン状態の時には他方のスイッチング素子はオフ状態である。
【0042】
図3及び
図4に、単相フルブリッジ回路31のスイッチング素子SW1~SW4の動作の一例を示す。
【0043】
図3に示すように、スイッチングレグ31aの上アームのスイッチング素子SW1がオン状態で、下アームのスイッチング素子SW2がオフ状態の場合、電流は、スイッチング素子SW1を流れて、単相フルブリッジ回路31の外に出力される。スイッチングレグ31bの上アームのスイッチング素子SW3がオフ状態で、下アームのスイッチング素子SW4がオン状態である。よって、他の単相フルブリッジ回路から流れる電流は、スイッチング素子SW4を流れて、電源3側に戻る。
【0044】
図4に示すように、スイッチングレグ31aの上アームのスイッチング素子SW1がオフ状態になると、下アームのスイッチング素子SW2がオン状態になる。これにより、他の単相フルブリッジ回路から流れる電流は、スイッチング素子SW4,SW2を流れて、単相フルブリッジ回路31の外に出力される。このとき、スイッチング素子SW2に電気的に並列に接続されたダイオードD2にも電流が流れる。このように、ダイオードD2に流れるタイミングでスイッチング素子SW2をオン状態にすることにより、ダイオードD2よりも損失が小さいスイッチング素子SW2に電流を流して、回路全体の損失を低減できる。
【0045】
上述の構成を有する単相フルブリッジ回路31では、電源3の電圧をVdcとすると、出力可能な電圧は、―Vdc~Vdcである。これは、スイッチング素子SW1,SW2がそれぞれオン状態のときの出力電圧の範囲である。三相フルブリッジ回路の場合には、電源の電圧をVdcとすると、出力可能な電圧は0~Vdcである。よって、上述の単相フルブリッジ回路31の場合には、三相フルブリッジ回路の出力電圧に比べて2倍の振幅の電圧を出力することができる。
【0046】
これにより、本実施形態のインバータ試験装置1では、スイッチング素子SW1~SW4の耐電圧を変えることなく、三相フルブリッジ回路を有するインバータ試験装置に比べて、出力電圧を高電圧化することができる。
【0047】
ところで、上述のような単相フルブリッジ回路では、同一のスイッチングレグにおいて、上アームのスイッチング素子及び下アームのスイッチング素子が同時にオン状態になると、回路内で短絡を生じる。そのため、
図5に示すように、一般的に、上アームのスイッチング素子及び下アームのスイッチング素子をオン状態とオフ状態とに切り替える際に、両方のスイッチング素子をオフ状態にする。このように、上アームのスイッチング素子及び下アームのスイッチング素子のいずれもオフ状態の期間をデッドタイムという。
【0048】
単相フルブリッジ回路において、上アームのスイッチング素子及び下アームのスイッチング素子のオン状態とオフ状態とを切り替える際に、上述のようなデッドタイムを設けることにより、回路内での短絡は防止できるものの、デッドタイムの間の単相フルブリッジ回路の出力電圧は出力電流の向きに依存しており、0V出力になることがある。
【0049】
特に、上述のデッドタイムはほぼ一定であるため、スイッチング素子のキャリア周波数を高くすると、出力電圧に対するデッドタイムの影響が大きくなる。すなわち、スイッチング制御において上述のようなデッドタイムが設けられている場合、インバータ試験装置1を高キャリア化しようとすると、出力電圧の振幅が低下するという問題が生じる。
【0050】
これに対し、単相フルブリッジ回路を以下の構成にするのが好ましい。
図4に示すように、単相フルブリッジ回路31のスイッチング素子SW2がオフ状態でもダイオードD2に電流が流れるため、スイッチング素子SW2をオフ状態にする。スイッチング素子SW2をオフ状態にした場合の単相フルブリッジ回路31内での電流の流れを、
図6に示す。
【0051】
図6に示すように、スイッチング素子SW2がオフ状態であるため、他の単相フルブリッジ回路から流れる電流は、オン状態のスイッチング素子SW4を流れた後に、スイッチング素子SW2に対して電気的に並列に接続されたダイオードD2に流れて、単相フルブリッジ回路31の外に出力される。
【0052】
これにより、スイッチング素子SW2のスイッチング回数を減らすことができるため、スイッチングレグ31aにおいてスイッチング素子SW1,SW2をスイッチングする際にデッドタイムが必要であるスイッチングのタイミングを減らすことができる。したがって、インバータ試験装置1を高キャリア化した場合でも、出力電圧の振幅の低下を抑制できるため、高電圧化を実現できる。
【0053】
ローパスフィルタ4は、単相電圧出力回路11,12,13から出力された矩形波の電圧を、フィルタ処理して、正弦波の電圧に変換する。これにより、インバータ試験装置1は、モータの誘起電圧に近い波形の電圧を出力することができる。よって、供試インバータ2をより精度良く試験することができるインバータ試験装置1が得られる。なお、ローパスフィルタ4は、インダクタンスと抵抗とを有していてもよいし、抵抗とコンデンサとを有していてもよい。
【0054】
一般的に、インバータ試験装置を用いて供試インバータを試験した場合、前記インバータ試験装置の駆動によって生じる電流のリップルと前記供試インバータの駆動によって生じる電流のリップルとが重畳して、全体の電流のリップルとして検出される。
【0055】
これに対して、上述のようにローパスフィルタ4を用いることによってインバータ試験装置1の出力電圧がモータの誘起電圧を精度良く模擬できるため、インバータ試験装置1の駆動によって生じる電流のリップルを低減できる。よって、インバータ試験装置1によって供試インバータ2の試験を行っている際に検出される電流のリップルは、実際のモータを用いている場合と同様に、供試インバータ2の駆動によって生じる電流のリップルになる。したがって、供試インバータ2をより精度良く試験することができる。
【0056】
以上より、本実施形態のインバータ試験装置1は、供試インバータ2によって駆動されるモータを模擬することにより、供試インバータ2の試験を行う。インバータ試験装置1は、入力側と出力側とを電気的に絶縁する絶縁型DC/DCコンバータ21,22,23と、絶縁型DC/DCコンバータ21,22,23の出力側に電気的に接続される単相フルブリッジ回路31,32,33とを備え、単相フルブリッジ回路31,32,33によって矩形波の単相電圧を出力する単相電圧出力回路11,12,13を有する。
【0057】
上述の単相フルブリッジ回路31,32,33によって、スイッチング素子SW1~SW4の耐電圧を変えることなく、インバータ試験装置1における各相の出力電圧を、三相フルブリッジ回路の場合に比べて2倍にすることができる。これにより、インバータ試験装置1の高出力化のために、スイッチング素子SW1~SW4を高耐電圧のスイッチング素子に変更する必要がない。よって、インバータ試験装置のキャリア周波数を高くしても、スイッチング素子の損失が大きくならない。
【0058】
したがって、上述の構成により、インバータ試験装置1において高出力化と高キャリア化とを両立することができる。
【0059】
しかも、絶縁型DC/DCコンバータによって、単相電圧出力回路11,12,13の入力側を互いに電気的に絶縁することができる。よって、単相電圧出力回路11,12,13を、複数、直列または並列に電気的に接続することができる。これにより、インバータ試験装置の高容量化が可能である。
【0060】
本実施形態では、単相電圧出力回路11,12,13から出力される矩形波の単相電圧を正弦波の単相電圧に変換するローパスフィルタ4を有する。
【0061】
これにより、インバータ試験装置1の出力電圧の波形を、モータの誘起電圧の波形である正弦波の電圧波形により近づけることができる。よって、供試インバータ2をより精度良く試験可能なインバータ試験装置1を実現することができる。
【0062】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0063】
前記実施形態では、インバータ試験装置1は、3つの単相電圧出力回路11,12,13を有する。しかしながら、インバータ試験装置は、2つ以下の単相電圧出力回路を有していてもよいし、4つ以上の単相電圧出力回路を有していてもよい。
【0064】
前記実施形態では、インバータ試験装置1は、ローパスフィルタ4を有する。しかしながら、インバータ試験装置は、ローパスフィルタを有していなくてもよい。また、インバータ試験装置は、単相電圧出力回路から出力される矩形波の単相電圧を、正弦波の単相電圧に変換可能な他の構成を有していてもよい。
【0065】
前記実施形態では、インバータ試験装置1の単相電圧出力回路11,12,13における単相フルブリッジ回路31,32,33のスイッチング素子SW2は、スイッチング素子SW2に対して電気的に並列に接続されたダイオードD2に電流が流れている際にオフ状態である。しかしながら、スイッチング素子は、該スイッチング素子に対して電気的に並列に接続されたダイオードに電流が流れている際に、オン状態であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、供試インバータによって駆動されるモータを模擬することにより、前記供試インバータの試験を行うインバータ試験装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 インバータ試験装置
2 供試インバータ
3 電源
4 ローパスフィルタ
11、12、13 単相電圧出力回路
21、22、23 絶縁型DC/DCコンバータ
31、32、33 単相フルブリッジ回路