(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161373
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】送信電力制御方法、端末、及び、無線通信システム
(51)【国際特許分類】
H04J 99/00 20090101AFI20221014BHJP
H04W 52/16 20090101ALI20221014BHJP
【FI】
H04J99/00 100
H04W52/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066142
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 雅文
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 賢一
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 敦
(72)【発明者】
【氏名】児島 史秀
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA11
5K067EE23
5K067HH22
(57)【要約】
【課題】2つの基地局の夫々に信号を送信する端末に関して、各基地局において適正な端末間の受信電力差を確保可能とする。
【解決手段】電力領域非直交多元接続により第1の基地局が受信する第1の信号と第2の基地局が受信する第2の信号を送信可能な端末の送信電力制御方法であり、端末は、受信電力が等間隔で2以上のランクに区分けされ、2以上のランクの夫々が同じサイズの許容幅を有し、2以上のランク中の上位のランクにおける許容幅の下限と下位のランクにおける許容幅の上限との間にマージンが規定され、許容幅がマージン以上である場合に、第1及び第2の信号の受信電力と、これらの受信電力差と、2以上のランクと、許容幅と、マージンを用いて、第1の信号及び第2の信号の夫々の受信電力が2以上のランクの何れかの許容幅内に入るように算出された送信電力調整量を用いて第1の信号及び第2の信号の送信電力を調整する。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力領域非直交多元接続により第1の基地局に受信される第1の信号と第2の基地局に受信される第2の信号とを送信可能な端末の送信電力制御方法であって、
前記端末が、
受信電力が等間隔で2以上のランクに区分けされ、前記2以上のランクの夫々が同じサイズの許容変動幅を有し、前記2以上のランク中の隣り合う上位のランク及び下位のランクに関して、前記上位のランクにおける前記許容変動幅の下限と前記下位のランクにおける前記許容変動幅の上限との間にマージンが規定され、前記許容変動幅のサイズが前記マージンのサイズ以上である場合に、前記第1の信号の受信電力と、前記第2の信号の受信電力と、前記第1の信号と前記第2の信号との受信電力差と、前記2以上のランクと、前記許容変動幅と、前記マージンとを用いて、前記第1の信号及び前記第2の信号の夫々の受信電力が前記2以上のランクの何れかの許容変動幅内に入るように、前記第1の信号及び前記第2の信号の送信電力調整量を算出し、
前記送信電力調整量を用いて前記端末における前記第1の信号及び前記第2の信号の送信電力を調整する
ことを含む送信電力制御方法。
【請求項2】
前記許容変動幅のサイズと前記マージンのサイズとが等しく、前記2以上のランクの間隔が、前記許容変動幅のサイズと前記マージンのサイズとの合計値を2倍した値で規定されている
請求項1に記載の送信電力制御方法。
【請求項3】
前記端末は、
前記第1の信号と前記第2の信号との受信電力差が前記許容変動幅より小さい場合に、前記第1の信号の受信電力と前記第2の信号の受信電力とのうち、値が大きい方の受信電力である第1の受信電力の最寄りのランクを前記2以上のランクの中から特定し、
前記第1の信号の受信電力と前記第2の信号の受信電力とが前記最寄りのランクの許容変動幅に入るように前記送信電力調整量を算出する
請求項1又は2に記載の送信電力制御方法。
【請求項4】
前記端末は、
前記第1の信号と前記第2の信号との受信電力差を前記許容変動幅のサイズと前記マージンのサイズとの合計値の2倍の値で除したときの余りが前記合計値より小さい場合に、前記第1の信号の受信電力と前記第2の信号の受信電力とのうち、値が大きい方の受信電力である第1の受信電力の最寄りのランクを前記2以上のランクの中から特定し、
前記最寄りのランクの受信電力から前記第1の受信電力を減じた値に前記余りの2分の1を加算又は減算した値を前記第1の受信電力に対する送信電力調整量として算出し、
前記第1の受信電力に対する送信電力調整量と前記受信電力差とから、前記第1の信号の受信電力と前記第2の信号の受信電力とのうち、値が小さい方の受信電力である第2の受信電力に対する送信電力調整量を算出する
請求項1から3のいずれか一項に記載の送信電力制御方法。
【請求項5】
前記端末は、
前記第1の信号と前記第2の信号との受信電力差が前記許容変動幅以上で且つ前記許容変動幅のサイズと前記マージンのサイズとの合計値の2倍以下である場合に、前記第1の信号の受信電力と前記第2の信号の受信電力とのうち、値が大きい方の受信電力である第1の受信電力の最寄りのランクを前記2以上のランクの中から特定し、
前記第1の受信電力が前記最寄りのランクの許容変動幅に入り、且つ前記第1の信号の受信電力と前記第2の信号の受信電力とのうち、値が小さい方の受信電力である第2の受
信電力が前記最寄りのランクより下位のランクの許容変動幅に入るように前記第1の受信電力及び前記第2の受信電力に対する送信電力調整量を算出する
請求項1から4のいずれか一項に記載の送信電力制御方法。
【請求項6】
前記端末は、
前記第1の信号と前記第2の信号との受信電力差を前記許容変動幅のサイズと前記マージンのサイズとの合計値の2倍の値で除したときの余りが前記合計値より大きい場合に、前記第1の信号の受信電力と前記第2の信号の受信電力とのうち、値が大きい方の受信電力である第1の受信電力の最寄りのランクを前記2以上のランクの中から特定し、
前記最寄りのランクの受信電力から前記第1の受信電力を減じた値に、前記合計値の2倍の値から前記余りを減じた値の2分の1を加算又は減算した値を前記第1の受信電力に対する送信電力調整量として算出し、
前記第1の受信電力に対する送信電力調整量と前記受信電力差とから、前記第1の信号の受信電力と前記第2の信号の受信電力とのうち、値が小さい方の受信電力である第2の受信電力に対する送信電力調整量を算出する
請求項1から5のいずれか一項に記載の送信電力制御方法。
【請求項7】
前記端末は、
前記第1の基地局に対する接続端末の台数と前記第2の基地局に対する接続端末の台数との和を前記2以上のランク毎に示す情報から、前記第1の信号及び前記第2の信号の夫々の受信電力が属するランクにおける接続端末の台数の和である第1のランクの和を特定し、
前記第1の信号及び前記第2の信号の夫々の受信電力が属するランクを1又は2ランク以上下位にある所定ランクまで下げた場合における、前記所定ランクまでの各下位ランクにおける前記第1の基地局に対する接続端末の台数と前記第2の基地局に対する接続端末の台数との和である第2のランクの和を算出し、
前記第1のランクの和及び前記各下位ランクにおける前記第2のランクの和の平均値を前記第1のランクの和が上回っている場合に、前記第1の信号及び前記第2の信号の夫々の受信電力の属するランクを前記第2のランクの和が前記平均値より小さい下位ランクに移行させることを第1の確率で決定し、
前記下位ランクへの移行に応じて前記第1の信号及び前記第2の信号の送信電力を低下させる
請求項1から6の何れか一項に記載の送信電力制御方法。
【請求項8】
前記端末は、
前記第1の確率を、前記第1のランクの和から前記平均値を減じた値を前記第1のランクの和で除することで算出する
請求項7に記載の送信電力制御方法。
【請求項9】
前記端末は、
前記第2のランクの和が前記平均値より小さい2以上の下位ランクがある場合に、前記2以上の下位ランクの夫々における前記第2のランクの和から前記平均値を減じた値を合計した値の絶対値を算出し、
前記2以上の下位ランクの夫々について、前記絶対値を前記第2のランクの和から前記平均値を減じた値で除した値を、前記2以上の下位ランクの夫々が移行先として選択される確率として算出する
請求項7又は8に記載の送信電力制御方法。
【請求項10】
電力領域非直交多元接続により第1の基地局に受信される第1の信号と第2の基地局に受信される第2の信号とを送信可能な端末であって、
受信電力が等間隔で2以上のランクに区分けされ、前記2以上のランクの夫々が同じサイズの許容変動幅を有し、前記2以上のランク中の隣り合う上位のランク及び下位のランクに関して、前記上位のランクにおける前記許容変動幅の下限と前記下位のランクにおける前記許容変動幅の上限との間にマージンが規定され、前記許容変動幅のサイズが前記マージンのサイズ以上である場合に、前記第1の信号の受信電力と、前記第2の信号の受信電力と、前記第1の信号と前記第2の信号との受信電力差と、前記2以上のランクと、前記許容変動幅と、前記マージンとを用いて、前記第1の信号及び前記第2の信号の夫々の受信電力が前記2以上のランクの何れかの許容変動幅内に入るように、前記第1の信号及び前記第2の信号の送信電力調整量を算出し、
前記送信電力調整量を用いて前記端末における前記第1の信号及び前記第2の信号の送信電力を調整する
制御部を含む端末。
【請求項11】
前記許容変動幅のサイズと前記マージンのサイズとが等しく、前記2以上のランクの間隔が、前記許容変動幅のサイズと前記マージンのサイズとの合計値を2倍した値で規定されている
請求項10に記載の端末。
【請求項12】
前記制御部は、
前記第1の信号と前記第2の信号との受信電力差が前記許容変動幅より小さい場合に、前記第1の信号の受信電力と前記第2の信号の受信電力とのうち、値が大きい方の受信電力である第1の受信電力の最寄りのランクを前記2以上のランクの中から特定し、
前記第1の信号の受信電力と前記第2の信号の受信電力とが前記最寄りのランクの許容変動幅に入るように前記送信電力調整量を算出する
請求項10又は11に記載の端末。
【請求項13】
前記制御部は、
前記第1の信号と前記第2の信号との受信電力差を前記許容変動幅のサイズと前記マージンのサイズとの合計値の2倍の値で除したときの余りが前記合計値より小さい場合に、前記第1の信号の受信電力と前記第2の信号の受信電力とのうち、値が大きい方の受信電力である第1の受信電力の最寄りのランクを前記2以上のランクの中から特定し、
前記最寄りのランクの受信電力から前記第1の受信電力を減じた値に前記余りの2分の1を加算又は減算した値を前記第1の受信電力に対する送信電力調整量として算出し、
前記第1の受信電力に対する送信電力調整量と前記受信電力差とから、前記第1の信号の受信電力と前記第2の信号の受信電力とのうち、値が小さい方の受信電力である第2の受信電力に対する送信電力調整量を算出する
請求項10から12のいずれか一項に記載の端末。
【請求項14】
前記制御部は、
前記第1の信号と前記第2の信号との受信電力差が前記許容変動幅以上で且つ前記許容変動幅のサイズと前記マージンのサイズとの合計値の2倍以下である場合に、前記第1の信号の受信電力と前記第2の信号の受信電力とのうち、値が大きい方の受信電力である第1の受信電力の最寄りのランクを前記2以上のランクの中から特定し、
前記第1の受信電力が前記最寄りのランクの許容変動幅に入り、且つ前記第1の信号の受信電力と前記第2の信号の受信電力とのうち、値が小さい方の受信電力である第2の受信電力が前記最寄りのランクより下位のランクの許容変動幅に入るように前記第1の受信電力及び前記第2の受信電力に対する送信電力調整量を算出する
請求項10から13のいずれか一項に記載の端末。
【請求項15】
前記制御部は、
前記第1の信号と前記第2の信号との受信電力差を前記許容変動幅のサイズと前記マージンのサイズとの合計値の2倍の値で除したときの余りが前記合計値より大きい場合に、前記第1の信号の受信電力と前記第2の信号の受信電力とのうち、値が大きい方の受信電力である第1の受信電力の最寄りのランクを前記2以上のランクの中から特定し、
前記最寄りのランクの受信電力から前記第1の受信電力を減じた値に、前記合計値の2倍の値から前記余りを減じた値の2分の1を加算又は減算した値を前記第1の受信電力に対する送信電力調整量として算出し、
前記第1の受信電力に対する送信電力調整量と前記受信電力差とから、前記第1の信号の受信電力と前記第2の信号の受信電力とのうち、値が小さい方の受信電力である第2の受信電力に対する送信電力調整量を算出する
請求項10から14のいずれか一項に記載の端末。
【請求項16】
前記制御部は、
前記第1の基地局に対する接続端末の台数と前記第2の基地局に対する接続端末の台数との和を前記2以上のランク毎に示す情報から、前記第1の信号及び前記第2の信号の夫々の受信電力が属するランクにおける接続端末の台数の和である第1のランクの和を特定し、
前記第1の信号及び前記第2の信号の夫々の受信電力が属するランクを1又は2ランク以上下位にある所定ランクまで下げた場合における、前記所定ランクまでの各下位ランクにおける前記第1の基地局に対する接続端末の台数と前記第2の基地局に対する接続端末の台数との和である第2のランクの和を算出し、
前記第1のランクの和及び前記各下位ランクにおける前記第2のランクの和の平均値を前記第1のランクの和が上回っている場合に、前記第1の信号及び前記第2の信号の夫々の受信電力の属するランクを前記第2のランクの和が前記平均値より小さい下位ランクに移行させることを第1の確率で決定し、
前記下位ランクへの移行に応じて前記第1の信号及び前記第2の信号の送信電力を低下させる
請求項10から15の何れか一項に記載の端末。
【請求項17】
前記制御部は、
前記第1の確率を、前記第1のランクの和から前記平均値を減じた値を前記第1のランクの和で除することで算出する
請求項16に記載の端末。
【請求項18】
前記制御部は、
前記第2のランクの和が前記平均値より小さい前記下位ランクが2以上ある場合に、前記2以上の下位ランクの夫々における前記第2のランクの和から前記平均値を減じた値を合計した値の絶対値を算出し、
前記2以上の下位ランクの夫々について、前記絶対値を前記第2のランクの和から前記平均値を減じた値で除した値を、前記2以上の下位ランクの夫々が移行先として選択される確率として算出する
請求項16又は17に記載の端末。
【請求項19】
第1の基地局と、
第2の基地局と、
電力領域非直交多元接続により前記第1の基地局に受信される第1の信号と前記第2の基地局に受信される第2の信号とを送信可能な端末と、を含み、
前記端末が、
受信電力が等間隔で2以上のランクに区分けされ、前記2以上のランクの夫々が同じサイズの許容変動幅を有し、前記2以上のランク中の隣り合う上位のランク及び下位のラン
クに関して、前記上位のランクにおける前記許容変動幅の下限と前記下位のランクにおける前記許容変動幅の上限との間にマージンが規定され、前記許容変動幅のサイズが前記マージンのサイズ以上である場合に、前記第1の信号の受信電力と、前記第2の信号の受信電力と、前記第1の信号と前記第2の信号との受信電力差と、前記2以上のランクと、前記許容変動幅と、前記マージンとを用いて、前記第1の信号の受信電力及び前記第2の信号の夫々の受信電力が前記2以上のランクの何れかの許容変動幅内に入るように、前記第1の信号及び前記第2の信号の送信電力調整量を算出し、
前記送信電力調整量を用いて前記端末における前記第1の信号及び前記第2の信号の送信電力を調整する
制御部を含む
無線通信システム。
【請求項20】
前記制御部は、
前記第1の基地局に対する接続端末の台数と前記第2の基地局に対する接続端末の台数との和を前記2以上のランク毎に示す情報から、前記第1の信号及び前記第2の信号の夫々の受信電力が属するランクにおける接続端末の台数の和である第1のランクの和を特定し、
前記第1の信号及び前記第2の信号の夫々の受信電力が属するランクを1又は2ランク以上下位にある所定ランクまで下げた場合における、前記所定ランクまでの各下位ランクにおける前記第1の基地局に対する接続端末の台数と前記第2の基地局に対する接続端末の台数との和である第2のランクの和を算出し、
前記第1のランクの和及び前記各下位ランクにおける前記第2のランクの和の平均値を前記第1のランクの和が上回っている場合に、前記第1の信号及び前記第2の信号の夫々の受信電力の属するランクを前記第2のランクの和が前記平均値より小さい下位ランクに移行させることを第1の確率で決定し、
前記下位ランクへの移行に応じて前記第1の信号及び前記第2の信号の送信電力を低下させる
請求項19に記載の無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信電力制御方法、端末、及び、無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
Internet of Things(IoT)に使用される端末の数の増加に伴い、アップリンク(上り回線)のひっ迫が懸念されている。アップリンクで接続可能な端末数を増加させるため、電力領域におけるアップリンクを対象とした非直交多元接続(Power-Domain Uplink Non-orthogonal Multiple Access: PD-UL-NOMA)の適用が期待されている。また、移動通信時等の通信環境の変動が大きい環境では、アップリンクの通信品質向上のため、セル内に基地局を複数台配置する分散基地局構成が検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】森山,他,” 逐次干渉除去を利用するアップリンクNOMA システムにおける通信遅延を低減する無線リソース割り当て技術,”電子情報通信学会 信学技報告 SR2018, Vol. 118, No.475, pp.23-30, 2019年3月
【非特許文献2】M. Moriyama, et. al, “Experimental Evaluation of a Novel Up-Link NOMA System for IoT Communication Equipping Repetition Transmission and Receive Diversity,” IEICE TRANS. COMMUN., Vol.E102-B, No.8, Aug. 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
NOMAでは、受信電力の異なる複数の信号が重畳された信号を受信し、重畳された信号から各信号を分離して復号を行う。適正な分離のためには、信号間で十分な受信電力差が設けられていることが要求される。
【0005】
PD-UL-NOMAを用いた分散基地局構成では、セル内に存する複数の端末の夫々が、2つの分散基地局に対して信号を送信することが考えられる。PD-UL-NOMAを用いた分散基地局構成に関して、現状では、セル内の端末送信電力制御方式は提案されていない。このため、例えば、2つの分散基地局が存在する場合に、一方の基地局に対して端末間の受信電力差が適切になるように送信電力を調整することが考えられる。ところが、分散基地局の一方における端末間の受信電力差が適切に設定されても、他方の分散基地局における端末間の受信電力差が不十分となり、他方の基地局において十分な受信電力差が確保されず、適正な信号の分離及び復号が妨げられる可能性があった。
【0006】
本開示は、2つの基地局の夫々に信号を送信する端末に関して、各基地局において適正な端末間の受信電力差を確保可能な送信電力制御方法、端末、及び無線通信システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の態様の一つは、電力領域非直交多元接続により第1の基地局に受信される第1の信号と第2の基地局に受信される第2の信号とを送信可能な端末の送信電力制御方法であって、端末が、受信電力が等間隔で2以上のランクに区分けされ、2以上のランクの夫々が同じサイズの許容変動幅を有し、2以上のランク中の隣り合う上位のランク及び下位のランクに関して、上位のランクにおける許容変動幅の下限と下位のランクにおける許容変動幅の上限との間にマージンが規定され、許容変動幅のサイズがマージンのサイズ以上である場合に、第1の信号の受信電力と、第2の信号の受信電力と、第1の信号と第2の
信号との受信電力差と、2以上のランクと、許容変動幅と、マージンとを用いて、第1の信号及び第2の信号の夫々の受信電力が2以上のランクの何れかの許容変動幅内に入るように、第1の信号及び第2の信号の送信電力調整量を算出し、送信電力調整量を用いて端末における第1の信号及び第2の信号の送信電力を調整することを含む送信制御方法である。
【0008】
本開示の他の態様の一つは、電力領域非直交多元接続により第1の基地局に受信される第1の信号と第2の基地局に受信される第2の信号とを送信可能な端末であって、受信電力が等間隔で2以上のランクに区分けされ、2以上のランクの夫々が同じサイズの許容変動幅を有し、2以上のランク中の隣り合う上位のランク及び下位のランクに関して、上位のランクにおける許容変動幅の下限と下位のランクにおける許容変動幅の上限との間にマージンが規定され、許容変動幅のサイズがマージンのサイズ以上である場合に、第1の信号の受信電力と、第2の信号の受信電力と、第1の信号と第2の信号との受信電力差と、2以上のランクと、許容変動幅と、マージンとを用いて、第1の信号の受信電力及び第2の信号の夫々の受信電力が2以上のランクの何れかの許容変動幅内に入るように、第1の信号及び第2の信号の送信電力調整量を算出し、送信電力調整量を用いて端末における第1の信号及び第2の信号の送信電力を調整する制御部を含む端末である。
【0009】
本開示の他の態様の一つは、第1の基地局と、第2の基地局と、電力領域非直交多元接続により第1の基地局に受信される第1の信号と第2の基地局に受信される第2の信号とを送信可能な端末と、を含み、端末が、受信電力が等間隔で2以上のランクに区分けされ、2以上のランクの夫々が同じサイズの許容変動幅を有し、2以上のランク中の隣り合う上位のランク及び下位のランクに関して、上位のランクにおける許容変動幅の下限と下位のランクにおける許容変動幅の上限との間にマージンが規定され、許容変動幅のサイズがマージンのサイズ以上である場合に、第1の信号の受信電力と、第2の信号の受信電力と、第1の信号と第2の信号との受信電力差と、2以上のランクと、許容変動幅と、マージンとを用いて、第1の信号の受信電力及び第2の信号の夫々の受信電力が2以上のランクの何れかの許容変動幅内に入るように、第1の信号及び第2の信号の送信電力調整量を算出し、送信電力調整量を用いて端末における第1の信号及び第2の信号の送信電力を調整する制御部を含む無線通信システムである。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、2つの基地局の夫々に信号を送信する端末に関して、各基地局において適正な端末間の受信電力差を確保可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、或る基地局における受信電力と通信可否の関係を示す説明図である。
【
図3】
図3は、或る基地局における送信電力制御の例(比較例)を示す説明図である。
【
図4】
図4Aは、分散基地局の一方における各端末からの信号を示し、
図4Bは、分散基地局の他方における各端末からの信号を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る端末の送信電力制御方法の説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る端末の送信電力制御方法の説明図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る端末の送信電力制御方法の説明図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係る端末の送信電力制御方法の説明図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係る端末の送信電力制御方法の説明図である。
【
図10】
図10は、実施形態に係る端末の送信電力制御方法の説明図である。
【
図11】
図11は、実施形態に係る端末の送信電力制御方法の説明図である。
【
図12】
図12は、実施形態に係る端末の構成例を示す図である。
【
図13】
図13は、実施形態に係る端末の処理例を示すフローチャートである。
【
図14】
図14A及び14Bは、実施形態に係る分散基地局での端末間の衝突可能性の低減方法の説明図であり、
図14Aは、接続台数情報の例を示す図であり、
図14Bは、受信ランクにおける衝突の例を示す図である。
【
図15】
図15は、実施形態に係る分散基地局での端末間の衝突可能性の低減方法の説明図であり、接続台数情報と、二つの分散基地局に接続された端末の台数の和を示す図である。
【
図16】
図16は、実施形態に係る分散基地局での端末間の衝突可能性の低減方法の説明図であり、端末の台数の和の平均値、及び平均値との差などを示す表である。
【
図17】
図17は、実施形態に係る分散基地局での端末間の衝突可能性の低減方法の説明図であり、端末の台数の和の平均値、及び平均値との差などを示す表である。
【
図18】
図18は、実施形態に係る端末での処理例を示すフローチャートである。
【
図19】
図19は、実施形態に係る端末での処理例を示すフローチャートである。
【
図20】
図20は、実施例としてのシミュレーションの説明図である。
【
図21】
図21は、実施例としてのシミュレーションの説明図である。
【
図22】
図22は、シミュレーションの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態では、電力領域非直交多元接続(PD-NOMA)により第1の基地局に受信される第1の信号と第2の基地局に受信される第2の信号とを送信可能な端末の送信電力制御方法について説明する。この送信電力制御方法では、受信電力が等間隔で2以上のランクに区分けされ、2以上のランクの夫々が同じサイズの許容変動幅を有し、2以上のランク中の隣り合う上位のランク及び下位のランクに関して、上位のランクにおける許容変動幅の下限と下位のランクにおける許容変動幅の上限との間にマージンが規定され、許容変動幅のサイズがマージンのサイズ以上である。端末は、第1の信号の受信電力と、第2の信号の受信電力と、第1の信号と第2の信号との受信電力差と、2以上のランクと、許容変動幅と、マージンとを用いて、第1の信号及び第2の信号の夫々の受信電力が2以上のランクの何れかの許容変動幅内に入るように、第1の信号及び第2の信号の送信電力調整量を算出する。そして、端末は、送信電力調整量を用いて端末における第1の信号及び第2の信号の送信電力を調整する。
【0013】
送信電力制御方法によれば、第1の信号の受信電力及び第2の信号の夫々の受信電力が2以上のランクの何れかの許容変動幅内に入るように第1及び第2の信号の送信電力調整が行われる。このような動作を第1及び第2の基地局に接続される各端末が行うことで、第1及び第2の基地局の夫々は、適正な受信電力差が確保された各端末からの重畳信号を受信することができる。すなわち、2つの基地局の夫々に信号を送信する端末に関して、各基地局において適正な端末間の受信電力差を確保可能となる。
【0014】
実施形態に係る送信電力制御方法では、許容変動幅のサイズとマージンのサイズとが等しく、2以上のランクの間隔が、許容変動幅のサイズとマージンのサイズとの合計値を2倍した値で規定されている構成を採用してもよい。許容変動幅のサイズはマージン以上であればよいが、このような構成を採用すれば、正確な電力差を与えることが可能となる。
【0015】
実施形態に係る送信電力制御方法は、以下の構成を採用してもよい。すなわち、端末は、第1の信号と第2の信号との受信電力差が許容変動幅より小さい場合に、第1の信号の受信電力と第2の信号の受信電力とのうち、値が大きい方の受信電力である第1の受信電力の最寄りのランクを2以上のランクの中から特定する。そして、端末は、第1の信号の受信電力と第2の信号の受信電力とが最寄りのランクの許容変動幅に入るように送信電力調整量を算出する。このようにすれば、十分な電力差を確保することができる。
【0016】
実施形態に係る送信電力制御方法は、以下の構成を採用してもよい。すなわち、端末は、第1の信号と第2の信号との受信電力差を許容変動幅のサイズとマージンのサイズとの合計値の2倍の値で除したときの余りが合計値より小さい場合に、第1の信号の受信電力と第2の信号の受信電力とのうち、値が大きい方の受信電力である第1の受信電力の最寄りのランクを2以上のランクの中から特定する。また、端末は、最寄りのランクの受信電力から第1の受信電力を減じた値に余りの2分の1を加算又は減算した値を第1の受信電力に対する送信電力調整量として算出する。そして、端末10は、第1の受信電力に対する送信電力調整量と受信電力差とから、第1の信号の受信電力と第2の信号の受信電力とのうち、値が小さい方の受信電力である第2の受信電力に対する送信電力調整量を算出する。このようにすれば、十分な電力差を確保することができる。
【0017】
実施形態に係る送信電力制御方法は、以下の構成を採用してもよい。すなわち、端末は、第1の信号と第2の信号との受信電力差が許容変動幅以上で且つ許容変動幅のサイズとマージンのサイズとの合計値の2倍以下である場合に、第1の信号の受信電力と第2の信号の受信電力とのうち、値が大きい方の受信電力である第1の受信電力の最寄りのランクを2以上のランクの中から特定する。また、端末は、第1の受信電力が最寄りのランクの許容変動幅に入り、且つ第1の信号の受信電力と第2の信号の受信電力とのうち、値が小さい方の受信電力である第2の受信電力が最寄りのランクより下位のランクの許容変動幅に入るように第1の受信電力及び第2の受信電力に対する送信電力調整量を算出する。このようにすれば、十分な電力差を確保することができる。
【0018】
実施形態に係る送信電力制御方法は、以下の構成を採用してもよい。すなわち、端末は、第1の信号と第2の信号との受信電力差を許容変動幅のサイズとマージンのサイズとの合計値の2倍の値で除したときの余りが合計値より大きい場合に、第1の信号の受信電力と第2の信号の受信電力とのうち、値が大きい方の受信電力である第1の受信電力の最寄りのランクを2以上のランクの中から特定する。また、端末は、最寄りのランクの受信電力から第1の受信電力を減じた値に、合計値の2倍の値から余りを減じた値の2分の1を加算又は減算した値を第1の受信電力に対する送信電力調整量として算出する。そして、端末は、第1の受信電力に対する送信電力調整量と受信電力差とから、第1の信号の受信電力と第2の信号の受信電力とのうち、値が小さい方の受信電力である第2の受信電力に対する送信電力調整量を算出する。このようにすれば、十分な電力差を確保することができる。
【0019】
実施形態に係る送信電力制御方法は、以下の構成を採用してもよい。すなわち、端末は、第1の基地局に対する接続端末の台数と第2の基地局に対する接続端末の台数との和を2以上のランク毎に示す情報から、第1の信号及び第2の信号の夫々の受信電力が属するランクにおける接続端末の台数の和である第1のランクの和を特定する。また、端末は、第1の信号及び第2の信号の夫々の受信電力が属するランクを1又は2ランク以上下位にある所定ランクまで下げた場合における、所定ランクまでの各下位ランクにおける第1の基地局に対する接続端末の台数と第2の基地局に対する接続端末の台数との和である第2のランクの和を算出する。また、端末は、第1のランクの和及び各下位ランクにおける第2のランクの和の平均値を第1のランクの和が上回っている場合に、第1の信号及び第2の信号の夫々の受信電力の属するランクを第2のランクの和が平均値より小さい下位ランクに移行させることを第1の確率で決定する。そして、端末は、下位ランクへの移行に応じて第1の信号及び第2の信号の送信電力を低下させる。このようにすれば、端末が送信する第1の信号及び第2の信号のランクと同一のランクで信号を送信する接続端末の台数の和が平均値より多い場合に、第1の確率で、接続台数が平均値より低いランクに移行するため、第1の信号及び第2の信号が他の端末(接続端末)からの信号と衝突する(十分な電力差を確保できない)可能性(確率)を低減することができる。
【0020】
実施形態に係る送信電力制御方法は、以下の構成を採用してもよい。すなわち、端末は、第1の確率を、第1のランクの和から平均値を減じた値を第1のランクの和で除することで算出する。このようにすれば、好適な確率で端末を移行させて、接続台数を低下させて衝突可能性を低減することができる。
【0021】
実施形態に係る送信電力制御方法は、以下の構成を採用してもよい。すなわち、端末は、第2のランクの和が平均値より小さい2以上の下位ランクがある場合に、2以上の下位ランクの夫々における第2のランクの和から平均値を減じた値を合計した値の絶対値を算出し、2以上の下位ランクの夫々について、第2のランクの和から平均値を減じた値で絶対値を除した値を、2以上の下位ランクの夫々が移行先として選択される確率として算出する。このようにすれば、端末の移行先を適正に分散させることができる。
【0022】
本開示の実施例は、上述した送信電力制御方法を用いて送信電力制御を行う端末、このような端末を含む無線通信システムを含み得る。また、本開示の実施例は、端末等の情報処理装置によって実行される、送信電力制御方法を実施するためのプログラム、及び、当該プログラムを記憶した非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体を含むこともできる。
【0023】
以下、図面に基づいて、本開示の実施の形態を説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本開示は実施形態の構成に限定されない。
【0024】
<無線通信システム>
図1は、実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す図である。無線通信システムは、セル1内に存する複数の基地局11と、各基地局11に接続して通信可能な複数の(1又は2以上の)端末10とを含む。
【0025】
複数の端末10の夫々は、センサによって得られたIoTに係るデータなどのデータを所定の宛先に送信する場合に、PD-UL-NOMAを用いたアップリンク通信を行う。例えば、
図1において、複数の基地局11は、2つの分散基地局DB1及びDB2として動作し、例えば、複数の端末10に含まれる、端末10A、10B及び10Cの夫々は、分散基地局DB1に第1の信号としての無線信号を送信し、分散基地局DB2に第2の信号としての無線信号を送信する。以下の説明において、端末を特定しない場合では、単に「端末10」との表記を用いる。
【0026】
分散基地局DB1及びDB2の夫々は、端末10A、10B及び10Cから並列に送信される信号(第1及び第2の信号)を受信する。分散基地局DB1及びDB2の夫々は、制御局に接続されており、端末10A、10B及び10Cから送信された信号が重畳された重畳信号を受信して制御局に送る。制御局は、逐次干渉除去(Successive Interference Cancellation:SIC)を用いて、重畳信号から端末10A、10B及び10Cの夫々
からの信号を分離し、復号することで、端末10A、10B及び10Cの夫々からのデータを得ることができる。制御局は第1の信号と第2の信号とに対する処理を個別に行い、第1の信号と第2の信号とのいずれか一方から正常なデータを得られるようにしている。
【0027】
図2は、或る基地局11で受信される複数の端末10からの信号の受信電力を示す。PD-UL-NOMAにおいて通信を実行可能な条件として、各端末10からの信号の受信電力間に必要な電力差(マージン)x
mがあることが挙げられる。PD-UL-NOMAでは、基地局11は、基地局11は、受信される各端末10からの信号の受信電力に電力差x
mが生じるように各端末10と通信を行う。
【0028】
図2に示す例では、例えば、端末10Cからの信号の受信電力と端末10Bからの信号の受信電力との電力差がx
m以上である。この場合、SICによって適正に信号を分離及び復号できるため、端末10Cは基地局11と通信可能な状態となる。
【0029】
これに対し、
図2に示す例では、端末10Bからの信号の受信電力と端末10Aの信号の受信電力との電力差がx
mより小さい。この場合、信号間の干渉によって適正な信号分離及び復号を行うことはできず、端末10B及び10Aは、基地局11と通信不可の状態となる。
【0030】
なお、マージンxmの大きさ(サイズ)を決定する要素として、例えば、パケット誤り率(PER)、通信帯域、変調方式、或いは誤り訂正方式などを挙げることができる。
【0031】
図3は、或る基地局11における送信電力制御の例を示す説明図である。
図3に示すように、受信電力がマージンx
mの単位で区切られるように、各端末10が信号の送信電力制御を行うことが考えられる。この場合において、受信可能な最大電力P
maxは、アンプの入力電力制限、或いは量子化ビット数などの制限要素によって決まる。また、受信可能な最低電力P
minは、通信可能な信号対雑音電力比(SNR)などによって決まる。
【0032】
次に、無線通信システムが、PD-UL-NOMAを用いた分散基地局構成を持つ場合を考える。例えば、
図1に示した例では、上述したように、端末10A、10B及び10Cの夫々は、分散基地局DB1及びDB2の夫々に並列に信号を送信する。分散基地局DB1及びDB2の夫々は、端末10A、10B及び10Cからの信号が重畳された信号を受信する。
【0033】
ここで、例えば、
図4Aに示すように、適正な受信電力差の確保のため、端末10A、10B及び10Cの夫々が、分散基地局DB1に受信される信号間にxdBずつ電力差が生じるように送信電力制御を行うことが考えられる。ところが、このような送信電力制御を行っても、分散基地局DB2で受信される重畳信号では、
図4Bに示すように、端末10Bと端末10Cとの間で十分な電力差が得られず、通信不可となる可能性があった。実施形態に係る端末10は、このような問題を解決するための構成を備える。
【0034】
図5~
図11は、実施形態に係る端末の送信電力制御方法の説明図である。これまでに説明したように、分散基地局構成の場合、1つの端末10(端末10A、10B、10Cの夫々)から送信される2つの信号を2つの分散基地局DB1及びDB2で受信する。
図5には、1つの端末10から分散基地局DB1へ送信される信号の受信電力P1と、分散基地局DB1へ送信される信号の受信電力P2とが示されている。これらの2つの信号P1及びP2の間の電力差ΔPは、送信電力の大きさに関わらず固定である。
【0035】
そこで、
図5に示すように、受信電力に受信ランクを設定(規定)し、各受信ランクの受信電力の許容変動幅(以下、「許容幅」という)の中に端末10からの受信電力が収まり、それ以外の領域(マージン)に端末10の受信電力が位置するのは禁止とする。換言すれば、実施形態に係る送信電力制御方法では、任意のΔPであってもPD-UL-NOMAに必要な電力差が得られるように、マージンx
mに加えて許容幅x
hが設けられる。そして、信号間のΔPが保たれたままで、二つの信号の受信電力の夫々が上下動して許容幅に入るように送信電力制御(送信電力の調整(増減))が行われる。
【0036】
これにより、信号を重畳可能な端末10の台数は減ってしまうが、PD-UL-NOMAに必要な電力差を得ることができる。このため、各端末10からの信号を好適に分離・復号できる。すなわち、基地局11と端末10とが通信可能となる、或いは両者間の通信品質が向上する、といった効果を得ることができる。
【0037】
図6に示すように、基地局11における受信電力は、複数(N個(Nは1以上の整数))の受信ランクa
1,a
2,…,a
Nで区切られる。各受信ランクは受信電力の値(P(a
1)~P(a
N))を有し、この受信電力の値を中心に許容幅x
hを有する。許容幅x
hは、受信ランクの受信電力の値で等分され、受信電力の値からプラスマイナスx
h/2の範囲に規定される。マージンx
mは、隣り合う二つの受信ランクのうちの上位の受信ランクにおける許容幅の下限と、下位の受信ランクにおける許容幅の上限との間に設けられる。そして、1つの端末10から送信される二つの信号の受信電力が、いずれかの受信ランクの許容幅に収まるように、端末10で送信電力制御が行われる。
【0038】
許容幅x
hのサイズはマージンx
mのサイズ以上に設定される。例えば、
図7に示すように、2つの信号の一方がマージンx
m内に入ってしまう場合が存在する。一般に、許容幅x
hがマージンx
mより小さく、且つΔP=(x
h+x
m)/2であるときには、二つの信号の一方の受信電力が分散基地局の何れかのマージンに入ってしまう。このため、許容幅x
hはマージンx
m以上に規定される。もっとも、許容幅x
hは狭い程、正確な電力差が与えられる。このため、許容幅x
hのサイズはマージンx
mのサイズと等しいことが好ましい。
【0039】
そこで、
図6に示すように、本実施形態では、許容幅x
h=マージンx
m=Xに設定され、隣り合う受信ランク間の受信電力差が2Xに規定されている。一例として、最上位の受信ランクa
1の受信電力P(a
1)は、例えば-50dBmに設定され、X=4dBに設定され、受信ランクが一つ下がる毎に受信電力が-8dBm下がるように設定される。但し、最上位の受信ランクの値やXの値は上記に制限されない。
【0040】
図8は、受信電力の差ΔP=(|P
1-P
2|)<Xの場合の送信電力制御方法の一例を
示す。P
1は、分散基地局DB1が端末10Aから受信する信号(第1の信号)の受信電力であり、P
2は、分散基地局DB2が端末10Aから受信する信号(第2の信号)の受信電力である(
図1参照)。
【0041】
図8に示すケースでは、分散基地局DB1が端末10Aから受信する信号の受信電力P
1=P
Mが受信ランクa
2と受信ランクa
3との間のマージンx
mに入っている。この場合、端末10は、P
Mの最寄りの(差分が最小の)受信ランクを特定する。
図8では、受信ランクa
3の受信電力P(a
3)とP
Mとの差分が、受信ランクa
2の受信電力P(a
2)とP
Mとの差分より小さい。このため、受信ランクa
3が最寄りのランクとして特定される。
【0042】
端末10Aは、ΔPT=P(a3)-PM+ΔP/2の演算により求まる送信電力調整値ΔPTを求め、ΔPTだけ受信電力が下がるように送信電力制御を行う。すなわち、P1が受信ランクa3の受信電力P(a3)よりΔP/2だけ上がった位置に変更されるように分散基地局DB1向けの信号(第1の信号)の送信電力制御が行われる。また、ΔPは固定であるから、P1の変更に伴い、P2が受信ランクa3の受信電力P(a3)よりΔP/2だけ下がった位置に変更されるように分散基地局DB2向けの信号(第2の信号)の送信電力制御が行われる。
【0043】
これによって、分散基地局DB1が端末10Aから受信する信号の受信電力が分散基地局DB1における受信ランクa2の許容幅に入る状態となる。また、分散基地局DB2が端末10Aから受信する信号の受信電力が分散基地局DB2の受信ランクa3における許容幅に入る状態となる。ΔP<Xであるため、二つの信号の受信電力は必ず許容幅xhの中に入る。
【0044】
図9は、
図8のケースを一般化したものであり、電力差ΔPを2Xで除した(割った)余りΔP’=mod(ΔP,2X)がXより小さい場合を示す。
図9に示すケースでは、ΔP
T=P(a
2)-P
M+ΔP’/2の演算(但しP
1=P
M)により求まる送信電力調整値ΔP
Tを求め、二つの信号の夫々の受信電力がΔP
Tだけ下がるように、端末10は送信電力制御を行う。これによって、分散基地局DB1が端末10Aから受信する信号の受信電力が分散基地局DB1における受信ランクa
2の許容幅に入る状態となる。また、分散基地局DB2が受信する端末10Aからの信号の受信電力が分散基地局DB2における受信ランクa
3の許容幅に入る状態となる。
【0045】
図10は、電力差ΔPがX以上且つ2X以下の場合を示す。
図10に示すケースでは、ΔP
T=P(a
2)-P
M-(2X-ΔP)/2の演算(但しP
1=P
M)により求まる送信電力調整値ΔP
Tを求め、二つの信号の夫々の受信電力がΔP
Tだけ上がるように、端末10は送信電力制御を行う。すなわち、P
1が最寄りの受信ランクa
2の受信電力P(a
2)から(2X-ΔP)/2だけ下がった位置に変更(上昇)されるように分散基地局DB1向けの信号(第1の信号)の送信電力制御が行われる。また、ΔPは固定であるから、P
1の変更に伴い、P
2が受信ランクa
3の受信電力P(a
3)よりΔP/2だけ上がった位置に変更(上昇)されるように分散基地局DB2向けの信号(第2の信号)の送信電力制御が行われる。このように、送信電力制御によって送信電力が上がる方向に調整される場合は、P
Mは最寄りの受信ランクの受信電力から下がる位置に変更される。これに対し、送信電力制御によって送信電力が下がる方向に調整される場合は、P
Mは最寄りの受信ランクの受信電力から上がる位置に変更される(
図8参照)。
【0046】
これによって、分散基地局DB1が端末10Aから受信する信号の受信電力が分散基地局DB1における受信ランクa2の許容幅に入る状態となる。また、分散基地局DB2が受信する端末10Aからの信号の受信電力が分散基地局DB2における受信ランクa3の許容幅に入る状態となる。
【0047】
図11は、
図10のケースを一般化したもので、上述した余りΔP’がX以上且つ2X以下の場合を示す。
図10に示すケースでは、ΔP
T=P(a
2)-P
M-(2X-ΔP’)/2の演算(但しP
1=P
M)により求まる送信電力調整値ΔP
Tを求め、二つの信号の夫々の受信電力がΔP
Tだけ上がるように、端末10は送信電力制御を行う。これによって、分散基地局DB1が端末10から受信する信号の受信電力が分散基地局DB1における受信ランクa
2の許容幅に入り、分散基地局DB2が端末10Aから受信する信号の受信電力が分散基地局DB2における受信ランクa
3の許容幅に入る状態となる。
【0048】
図12は、実施形態に係る端末10の構成例を示す図である。
図12において、端末10は、バスBを介して相互に接続された、プロセッサ31(制御部の一例)と、記憶装置32と、通信インタフェース(通信IF)33と、入力装置34と、ディスプレイ35とを含む。
【0049】
記憶装置32は、主記憶装置と補助記憶装置とを含む。主記憶装置は、例えば、プログラム及びデータの記憶領域、プロセッサ31の作業領域、或いは通信データを一時的に蓄積するバッファ領域として使用される。主記憶装置は、例えば、RAM(Random Access Memory)、RAMとROM(Read Only Memory)との組み合わせで構成される。補助記憶装置は、プログラム及びデータの記憶に使用される。補助記憶装置は、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)、或いはEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)などである。但し、記憶装置32の種類は上記の例示に制限されない。
【0050】
通信IF33は、5Gなどの所定の無線通信規格をサポートする通信回路である。通信
IF33は、無線信号の送受信を行うアンテナ33aと接続されており、PD-UL-NOMAに従う無線信号を生成し、分散基地局DB1及びDB2の夫々に無線信号を送信することができる。
【0051】
入力装置は、例えば、キー、ボタン、或いはポインティングデバイスなどであり、情報及びデータの入力に使用される。ディスプレイ35は、情報及びデータの表示に使用される。
【0052】
プロセッサ31は、例えば、Central Processing Unit(CPU)、又は、Microprocessor Unit(MPU)である。プロセッサ31は、単一のプロセッサに限定される訳ではなく、マルチプロセッサ構成であってもよい。また、単一のソケットで接続される単一の物理CPUがマルチコア構成を有していても良い。さらにまた、プロセッサ31は、Digital Signal Processor(DSP)、Graphics Processing Unit(GPU)等のCPU以外のプロセッサを含んでいてもよい。また、プロセッサ31は、集積回路(IC)、その他のデジタル回路、またはアナログ回路と連携するものでもよい。集積回路は、例えば、LSI、 Application Specific Integrated Circuit(ASIC)、或いはプログラマブルロジックデバイス(PLD)などである。PLDは、例えば、Field-Programmable Gate Array(FPGA)などを含む。プロセッサ31は、例えば、マイクロコントローラ(MCU
)、SoC(System-on-a-chip)、システムLSI、或いはチップセットなどと呼ばれる回路であってもよい。
【0053】
プロセッサ31は、プログラムの実行によって、上述した送信電力制御方法を用いて、分散基地局へ送信する信号の送信電力制御を行う。
図13は、実施形態に係る端末10の処理例を示すフローチャートである。
図13に示すフローチャートの処理は、端末10において、データを送信する場合に行われる。
【0054】
ステップS001では、端末10のプロセッサ31は、端末10と通信可能な複数の基地局11から、各基地局11における端末10からの信号の受信電力を算出するための情報を受信し、その情報を用いて、分散基地局DB1に該当する基地局11における、端末10からの信号の受信電力P1と、分散基地局DB2に該当する基地局11における、端末10からの受信電力P2とを計算する。
【0055】
ステップS002では、プロセッサ31は、受信電力P1が受信電力P2より大きいか否かを判定する。受信電力P1が受信電力P2より大きいと判定される場合、処理がステップS003に進み、そうでない場合には、処理がステップS004に進む。ステップS003では、P1の値がPMに設定される。ステップS004では、P2の値がPMに設定される。
【0056】
ステップS005では、プロセッサ31は、受信電力P(aM)、電力差ΔP、及び余りΔP’を求める。受信電力P(aM)は、PMの最寄りの受信電力を示す。ΔP及びΔP'は上述した通りである。
【0057】
ステップS006では、プロセッサ31は、ΔP'がX=xmより小さいか否かを判定
する。このとき、ΔP'がXより小さいと判定される場合は、処理がステップS007に
進み、そうでない場合には、処理がステップS008に進む。
【0058】
ステップS007では、ΔP’<Xの場合における送信電力調整値ΔPTの計算を行い、算出したΔPTを用いて送信電力制御を行う。ステップS008では、ΔP’<Xの場合における送信電力調整値ΔPTの計算を行い、算出したΔPTを用いて送信電力制御を行う。
【0059】
なお、
図13に示すステップS007の計算式では、最寄りの受信ランクの受信電力がP
Mより小さい場合が想定されており、“+ΔP’/2”となっている。これに対し、寄りの受信ランクの受信電力がP
Mより大きい場合、“-ΔP’/2”となる。また、ステップS008の計算式では、最寄りの受信ランクの受信電力がP
Mより大きいため、“-X+ΔP’/2”となっている。但し、最寄りの受信ランクの受信電力がP
Mより大きい場合、“+X-ΔP’/2”となる。
【0060】
ステップS009では、プロセッサ31は、送信電力に余裕があるか否かを判定する。送信電力に余裕があると判定される場合には、処理がS010に進み、そうでない場合には、処理がステップS012に進む。
【0061】
ステップS010に処理が進んだ場合、プロセッサ31は、ΔPT_maxの計算を行う
(ステップS010及びS011)。ここに、Pmaxは、増加できる送信電力の最大値を
示し、ΔPT_maxは、送信電力を最大にすることができる送信電力調整値である。電力
に余裕がある場合、プロセッサ31は、Pmaxの範囲で、最大の受信ランクとなるように
、送信電力調整量を算出する。
【0062】
ステップS012では、プロセッサ31は、送信電力調整値ΔPT又はΔPT_maxを
用いた送信電力制御を行う。すなわち、プロセッサ31は、端末10から分散基地局DB1及びDB2への信号送信に用いる送信電力を、ΔPT又はΔPT_maxに従って変更(
増減)する。これによって、分散基地局DB1及びDB2における端末10からの信号の受信電力が許容幅xhに入るようになる。
【0063】
図13に示す処理は、
図1に示す例では、端末10A、10B及び10Cの夫々で行われる。このとき、分散基地局DB1及びDB2の夫々において、マージンx
m以上の受信電力差を有する端末10A、10B及び10Cからの信号(重畳信号)が受信されるように、端末10A、10B及び10Cの夫々において送信電力の調整が行われる。
図13に示す処理の前提として、端末10A、10B及び10Cが使用する第1及び第2の信号の送信電力の初期値(調整前の送信電力)及びΔPは予め決められている。或いは、端末10A、10B及び10Cが、分散基地局DB1などから十分な受信電力差(
図4A参照)が確保されるような送信電力での送信の指示を受けてもよい。
【0064】
分散基地局DB1向けの送信電力が決まれば、ΔPが固定のため、分散基地局DB2向けの送信電力も決まる。そのような送信電力で分散基地局DB1及びDB2へ送信した信号に対する受信電力を算出する情報を分散基地局DB1及びDB2から受信し、ステップS001で受信電力P1及びP2の算出を行う。但し、端末10A、10B及び10Cが電力差を有する信号送信を行う方法は、上記以外であってもよい。
【0065】
分散基地局DB1及びDB2へ並列に信号を送信する複数の端末10の夫々が、
図13に示す処理を行い、各端末10における信号の受信ランクが決定される。このような情報は、分散基地局DB1及びDB2の制御局で管理され、分散基地局DB1及びDB2の一方から各端末10に供給される。
【0066】
図14Aは、端末10に供給される接続台数情報の例を示す図である。
図14Aにおいて、接続台数情報は、各受信ランクに関して、分散基地局DB1における端末10の接続台数と、分散基地局DB2における端末10の接続台数とを示す。接続台数は、単位時間あたりの接続台数を示し、各端末10がポアソン分布に従い単位時間当たりJ回という確率で信号を送信するとの仮定の下に算出される。
【0067】
図14Bは受信ランクの衝突の例を示す図である。
図14Bに示す例では、或る受信ランクa
Mの許容幅に、分散基地局DB1に接続された端末10Aの受信電力と分散基地局DB1に接続された端末10Bの受信電力とが入ることによる衝突を示す。また、別の例として、受信ランクa
M+1の許容幅に、分散基地局DB2に接続された端末10Aの受信電力と分散基地局DB2に接続された端末10Cの受信電力とが入ることによる衝突を示す。衝突が起きると、衝突に係る端末10の復号が正常に行われず、通信不可となる。なお、分散基地局構成では、分散基地局DB1及びDB2のいずれか一方に受信された信号について衝突が起こらない場合、その信号の正常な復号(通信)が可能となる。
【0068】
図15~17は、実施形態に係る分散基地局での端末間の衝突可能性の低減方法の説明図である。
図15は、接続台数情報と、二つの分散基地局に接続された端末の台数の和を示す図である。実施形態に係る端末10は、接続台数情報を用いて、自端末からの送信信号が衝突を起こす可能性を低減するために、以下のような処理を行う。
【0069】
図15に示す例では、受信ランクの組において、端末10Aから送信される信号の分散基地局DB1における受信ランクが受信ランクa
Mであり、分散基地局DB2における受信ランクが分散基地局DB1における受信ランクより2ランク下の受信ランクa
M+2であった場合を示す。受信ランクa
Mの接続台数は500であり、受信ランクa
M+2の接続台数は500であり、これらの和(合計値)Y
dは1000である。送信電力の低下により、上記した受信ランクの組のランクを1つ落とすと、分散基地局DB1における受信ランクが受信ランクa
M+1となり、分散基地局DB2における受信ランクが受信ランクa
M+3となる。これらの受信ランクの組における接続台数の和Y
dは500となる。このようにして、受信ランクの組のランクを2~4つ落とした場合の接続台数の和Y
dは、300、200、及び100となる。和Y
dの数が小さい程、衝突が起こる確率は少ない。
【0070】
そこで、端末10は、受信ランクの下位ランクへの移行の要否判定と、移行要の場合の移行先の受信ランクの決定とを行う。これらの処理のため、
図16に示すような、和Y
dの平均値Y
aveと、平均値との差Δy
d=Y
d-Y
aveと、下位の受信ランクへ移行する確率(移行確率)P
o=(Y
d-Y
ave)/Y
dと、上位の受信ランクから移行してくる確
率(被移行確率)P
I=-ΔY
d/Z
sumとを求める。-ΔY
dは負の値を持つΔY
dの
絶対値を示し、Z
sumは負の値を有するΔy
dの絶対値の和(合計値)である。また、図
15に示した接続台数表及びランクの順番と接続台数の和Y
dとの関係を示す表は、
図17に示す文字で一般化することができる。
【0071】
図18及び
図19は、端末10における、衝突確率低減処理の例を示すフローチャートである。
図18及び19の処理は、プロセッサ31がプログラムを実行することにより、適宜のタイミングで行われる。
【0072】
ステップS101において、プロセッサ31は、接続台数情報から夫々求めた、分割基地局DB1における和Y1の値が平均値Yaveの値以上か否かを判定する。Y1がYave以上と判定される場合には、処理がステップS102に進み、そうでない場合には、処理がステップS109に進む。ステップS101からステップS109へ処理が進むことは、和が平均値を超えておらず、受信ランクの低下(下位ランクへの移行)が不要と判定されたことを意味する。
【0073】
ステップS109では、送信電力調整量ΔPtがΔPT_maxに設定され、これに従
った送信電力制御をプロセッサ31は行う(ステップS109)。但し、ΔPT_max
の代わりにΔPTの値を用いてもよい。
【0074】
ステップS102において、プロセッサ31は、接続台数情報から求めた、ランク順1(Y1)に係る確率POが乱数rand1より小さいか否かを判定する。乱数rand1は0より大きく1より小さい。確率POが乱数rand1より小さいと判定される場合、処理がステップ
S103に進み、そうでない場合には、処理がステップS109に進む。乱数rand1を用
い、移行確率Po(第1の確率の一例)に従ってランダムにステップS102からステップS109に処理が進む。これにより、移行される端末10と移行されずに残る端末10とで、接続台数が分散される。
【0075】
ステップS103では、プロセッサ31は、例えば記憶装置32を用いて管理しているランクの順番を指すdの値を1に設定し、Uの値を0に設定し、乱数を示すqの値を乱数rand2を指定する値に設定する。乱数rand2は0より大きく1より小さい。
【0076】
ステップS104では、プロセッサ31は、dの値をインクリメントする。ステップS105では、接続台数の和Ydの値が平均値Yaveの値より小さいか否かを判定する。Y
dがYaveより小さいと判定される場合には、処理がステップS106に進み、そうでな
い場合には、処理がステップS104に戻る。これにより、Ydの値が平均値Yave以上
の受信ランクへの移行がスキップされる。
【0077】
ステップS106では、プロセッサ31は、Uの値を、そのときのYdの値に対応する被移行確率PIの値に設定する。ステップS107では、プロセッサ31は、Uの値が乱数rand2より大きいか否かを判定する。Uの値が乱数rand2より大きいと判定される場合には、処理がステップS108へ進み、そうでない場合には、処理がステップS104に進む。ステップS107では、乱数rand2を用いて移行先のランク順が被移行確率PI(第2の確率の一例)に従ってランダムに振り分けられる。
【0078】
ステップS108では、プロセッサ31は、送信電力調整量ΔPtとして、受信ランクが1以上低下した値を算出し、送信電力制御を行う。このようにして、接続台数の和Ydがその平均値Yaveを超えている場合は、所定の確率で下位の受信ランクへの移行が行わ
れる。
【0079】
図19は、Z
sumを算出するフローチャートである。ステップS121では、プロセッ
サ31は、d及びZ
sumの値を0に設定する。ステップS122では、dの値をインクリ
メントする。
【0080】
ステップS123では、プロセッサ31は、YdがYaveより小さいか否かを判定する
。YdがYaveより小さいと判定される場合には、処理がステップS124へ進み、そう
でない場合には、処理がステップS122に戻る。これにより、ΔYdが負の値をとる場合にステップS124へ処理が進む。
【0081】
ステップS124では、プロセッサ31は、Z
sumの値を“Z
sum+Y
ave-Y
d”の値に設定することで、負のΔY
dの絶対値の和を求める。ステップS125では、プロセッサ31は、dが最下位のランク順を示すDに達しているかを判定する。d=Dと判定される場合、
図19の処理が終了し、現在のZ
sumの値が最終的なZ
sumの値として、ステップS106の処理で使用される。ステップS125において、d=Dでないと判定された場合、処理がステップS122に戻る。
【0082】
図20及び
図21は、実施例としてのシミュレーションの説明図である。
図20において、セル半径が2000mで、分散基地局DB1及びDB2である基地局11は、セル1の中心から反対方向に500mずつ離れた位置にある。基地局11のアンテナ利得は12dBiであり、端末10のアンテナ利得は2dBiである。そして、端末10の最大送信
電力は23dBmである。
図21は、シミュレーションパラメータを表形式で示す。パラメータは、基地局11の数、分散基地局のアンテナ数、端末10の台数、端末10の送信頻度、1秒あたりの送信スロット数、受信ランク数、端末10のアンテナ数、セル半径、セル中心からの各基地局の配置のずれ、長区間変動、短区間変動、瞬時値変動、基地局11のアンテナ利得、端末10のアンテナ利得、及び最大端末出力が示されている。
【0083】
図22は、シミュレーションの結果を示すグラフである。グラフの横軸は端末台数で、縦軸はパケット衝突確率である。グラフG1は、1台の基地局11についての結果を示し、グラフG2は、2台の分散基地局で、
図18の処理(衝突確率低減法)を適用しない場合の結果を示し、グラフG3は、衝突確率低減法を適用した場合の結果を示す。グラフG2及びG3は、2台の分散基地局のうちの一方で衝突が発生しない場合の確率を示す。グラフG2及びG3によれば、衝突確率低減法の適用により、受信ランクの衝突が起こる確率を低減できることがわかる。
【0084】
実施形態に係る無線通信システムでは、PD-UL-NOMAにより分配基地局DB1(第1の基地局)に受信される第1の信号と分配基地局DB2(第2の基地局)に受信される第2の信号とを送信可能な端末10(端末10A、10B、及び10Cの夫々)が送信電力制御を行う。送信電力制御では、
図6に示したように、受信電力が等間隔で2以上の受信ランク(ランク)に区分けされ、2以上の受信ランクの夫々が同じサイズの許容変動幅x
hを有する。2以上の受信ランク中の隣り合う上位のランク(例えば受信ランクa
1)及び下位のランク(例えば受信ランクa
2)に関して、上位のランクa
1における許容変動幅x
hの下限と下位のランクa
2における許容変動幅の上限との間にマージンx
mが規定される。受信ランクa
2-a
3間、及び受信ランクa
3-a
4間でも同様である。
【0085】
そして、許容変動幅x
hのサイズがマージンx
mのサイズ以上(但し、
図6ではx
h=x
m)である。端末10は、第1の信号の受信電力P
1と、第2の信号の受信電力P
2と、第1の信号と第2の信号との受信電力差ΔPと、受信ランクa
1~a
4(2以上のランク)と、許容変動幅x
hと、マージンx
mとを用いて、第1の信号の受信電力及び第2の信号の夫々の受信電力が受信ランクa
1~a
4の何れかの許容変動幅x
h内に入るように、第1の信号及び第2の信号の送信電力調整量ΔP
Tを算出する(
図13)。そして、端末10は、送信電力調整量ΔP
Tを用いて、端末10における第1の信号及び第2の信号の送信電力を調整する。
【0086】
このような動作を分散基地局DB1及びDB2(第1及び第2の基地局)に接続される端末10A、10B及び10C(複数の端末10)の夫々が行う。これにより、分散基地局DB1及びDB2の夫々は、適正な受信電力差が確保された状態の、端末10A、10B及び10Cからの信号が重畳された信号を受信することができる。すなわち、分散基地局DB1及びDB2の夫々に信号を送信する端末10A、10B及び10Cに関して、分散基地局DB1及びDB2において適正な端末間の受信電力差を確保可能となる。
【0087】
実施形態では、許容変動幅x
h=マージンx
m=Xと規定され、受信ランク間のサイズが2Xと規定された(
図6)。このような構成により、正確な電力差を与えることが可能となっている。
【0088】
実施形態に係る端末10(の制御部たるプロセッサ31)は、
図8及び
図13に示したように、第1の信号の受信電力P
1と第2の信号の受信電力P
2との受信電力差ΔPが許容変動幅x
hより小さい場合に、P
1とP
2とのうち、値が大きい方の受信電力である第1の受信電力(P
M)の最寄りの受信ランクa
3を受信ランクa
1~a
4の中から特定する。そして、端末10は、P
1及びP
2が最寄りの受信ランクa
3の許容変動幅x
hに入るように、送信電力調整量ΔP
Tを算出する。このようにすれば、各基地局で十分な電力
差を確保することができる。
【0089】
また、実施形態に係る端末10は、
図9及び
図13に示したように、第1の信号と第2の信号との受信電力差ΔPを許容変動幅x
hのサイズとマージンx
mのサイズとの合計値Xの2倍の値2Xで除したときの余りΔP’が合計値Xより小さい場合に、以下を行う。すなわち、端末10は、P
1とP
2とのうちの大きい方であるP
Mの最寄りの受信ランクa
2を受信ランクa
1~a
4の中から特定する。また、端末10は、最寄りの受信ランクa
2の受信電力P(a
2)から第1の受信電力P
Mを減じた値に余りΔP’の2分の1“ΔP’/2”を加算又は減算した値を第1の受信電力P
M=P
1に対する送信電力調整量ΔP
Tとして算出する。そして、端末10は、第1の受信電力P
M=P
1に対する送信電力調整量ΔP
Tと受信電力差ΔPとから、第1の信号の受信電力P
1と第2の信号の受信電力P
2とのうち、値が小さい方の受信電力である第2の受信電力P
2に対する送信電力調整量を算出し、これらの送信電力調整量を用いて送信電力を調整する。このようにすれば、各基地局で十分な受信電力差を確保することができる。
【0090】
実施形態に係る端末10は、
図10及び
図13に示したように、ΔPがX以上で且つ2X以下である場合に、P
1とP
2とのうち、値が大きい方のP
Mの最寄りの受信ランクa
2を2以上のランクの中から特定する。また、端末10は、第1の受信電力P
M=P
1が最寄りのランクa
2の許容変動幅に入り、第2の受信電力P
2がP
1の最寄りのランクa
2より下位のランクa
3の許容変動幅x
hに入るようにP
1及びP
2に対する送信電力調整量ΔP
Tを算出する。このようにすれば、各基地局で十分な電力差を確保することができる。
【0091】
実施形態に係る端末10は、
図11及び
図13に示したように、余りΔP’が合計値Xより大きい場合に、P
M=P
1の最寄りのランクa
2を受信ランクa
1~a
4から特定する。また、端末10は、受信ランクa
2の受信電力P(a
2)からP
Mを減じた値に、合計値Xの2倍値2Xから余りΔP’を減じた値の2分の1を加算又は減算した値をP
M=P
1に対する送信電力調整量ΔP
Tとして算出する。そして、端末10は、ΔPT及びΔP等からP
2に対する送信電力調整量を算出する。このようにすれば、各基地局で十分な電力差を確保することができる。
【0092】
実施形態に係る端末10は、
図14~
図19に示すように、分散基地局DB1(第1の基地局)に対する接続端末の台数A
Mと分散基地局DB2(第2の基地局)に対する接続端末の台数B
Mとの和Y
dを2以上のランク(ランクの順番d=1~5)毎に示す情報から、第1の信号及び第2の信号の夫々の受信電力が属するランクa
M及びa
M+2における接続端末の台数の和Y
dである第1のランク(ランクの順番1)の和Y
1(=A
M+B
M+s)特定する。また、端末10は、第1の信号及び第2の信号の夫々の受信電力が属
するランク(A
M,B
M+2)を1又は2ランク以上下位にある所定ランク(ランクの順番D)まで下げた場合における、所定ランクDまでの各下位ランク(ランクの順番2~D)における第1の基地局に対する接続端末の台数と第2の基地局に対する接続端末の台数との和である第2のランクの和Y
2~Y
Dを算出する。また、端末10は、第1のランクの和Y
1及び各下位ランクにおける第2のランクの和Y
2~Y
Dの平均値Y
aveを第1の
ランクのY
1が上回っている場合に、第1の信号及び第2の信号の夫々の受信電力の属するランクを第2のランクの和Y
dが平均値Y
aveより小さい下位ランク(
図17のランク
の順番3~5)に移行させることを第1の確率P
oで決定する。そして、端末10は、下位ランクへの移行に応じて第1の信号及び第2の信号の送信電力を低下させる(
図13のS108)。
【0093】
このようにすれば、端末10が送信する第1の信号及び第2の信号のランクと同一のランクで信号を送信する接続端末の台数の和Y1が平均値Yaveより多い場合に、第1の確
率Poで、接続台数の和Ydが平均値Yaveより低いランクに移行する。このため、第1
の信号及び第2の信号が他の端末(接続端末)からの信号と衝突する(十分な電力差を確保できない)可能性(確率)を低減することができる。
【0094】
実施形態に係る端末10は、第1の確率P
oを、第1のランクの和Y
1から平均値Y
aveを減じた値を第1のランクの和Y
1で除することで算出する(
図16)。このようにす
れば、好適な確率で端末10の受信電力を下位ランクに移行させ、接続台数を低下させて衝突可能性を低減することができる。
【0095】
実施形態に係る端末10は、
図16に示すような、第2のランクの和Y
dが平均値Y
aveより小さい下位ランクが2以上ある場合に、この2以上の下位ランク(ランクの順番d
=3,4,5)の夫々における第2のランクの和の合計値Y
d(Y
3,Y
4,Y
5)から平均値Y
aveを減じた値-Δy
dを合計した値(Δy
3+Δy
4+Δy
5)の絶対値Z
sumを算出する。そして、端末10は、2以上の下位ランクの夫々(d=3,4,5)について、Z
sumを-Δy
dで除した値を、下位ランクへの移行時に移行先として選択される第
2の確率として算出する。このようにすれば、端末の移行先を適正に分散させることができる。
【0096】
<その他の実施形態>
上記の実施形態はあくまでも一例であって、本開示はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施しうる。
【0097】
本開示において説明した処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
【0098】
また、1つの装置が行うものとして説明した処理が、複数の装置によって分担して実行されてもよい。あるいは、異なる装置が行うものとして説明した処理が、1つの装置によって実行されても構わない。コンピュータシステムにおいて、各機能をどのようなハードウェア構成(サーバ構成)によって実現するかは柔軟に変更可能である。
【0099】
本開示は、上記の実施形態で説明した機能を実装したコンピュータプログラムをコンピュータに供給し、当該コンピュータが有する1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。このようなコンピュータプログラムは、コンピュータのシステムバスに接続可能な非一時的なコンピュータ可読記憶媒体によってコンピュータに提供されてもよいし、ネットワークを介してコンピュータに提供されてもよい。非一時的なコンピュータ可読記憶媒体は、例えば、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクドライブ(HDD)等)、光ディスク(CD-ROM、DVDディスク、ブルーレイディスク等)など任意のタイプのディスク、読み込み専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、EPROM、EEPROM、磁気カード、フラッシュメモリ、光学式カード、電子的命令を格納するために適した任意のタイプの媒体を含む。
【符号の説明】
【0100】
DB1,DB2・・分散基地局
1・・セル
10・・・端末
11・・・基地局
31・・プロセッサ
32・・記憶装置
33・・通信IF
34・・入力装置
35・・ディスプレイ