(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161378
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】シリカ含有樹脂組成物及びその製造方法、並びにそのシリカ含有樹脂組成物を用いて行う射出成形方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20221014BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20221014BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20221014BHJP
C08L 33/12 20060101ALI20221014BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20221014BHJP
C08J 3/215 20060101ALI20221014BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20221014BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/00
C08K3/36
C08L33/12
C08K9/06
C08J3/215 CER
C08J3/22 CEZ
B29C45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066155
(22)【出願日】2021-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桂山 はるか
(72)【発明者】
【氏名】楊原 武
(72)【発明者】
【氏名】堀 健太
【テーマコード(参考)】
4F070
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA32
4F070AC23
4F070AC39
4F070AD04
4F070AD06
4F070AE28
4F070FA04
4F070FA05
4F070FB03
4F070FC03
4F206AA23
4F206AF14
4F206AH17
4F206JA07
4F206JF01
4F206JL02
4J002AA011
4J002BG011
4J002BG041
4J002BG051
4J002BG061
4J002DJ016
4J002FA086
4J002FB126
4J002FB146
4J002FD016
4J002FD206
4J002GL00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】耐擦傷性と透明性とが両立できるシリカ含有樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】樹脂材料中に粒子材料を含有させた樹脂組成物について、透明性を保ったまま強度を向上させるために可視光線の波長よりも著しく小さな粒子径をもつシリカ粒子の凝集体を用いる方法に想到した。可視光線に対しては、凝集体を構成する一次粒子の粒子径を小さくすることで散乱などの光学的な影響を抑え、一次粒子を凝集することで一次粒子を単独で用いるよりも高い強度を実現することが可能になる。本発明のシリカ含有樹脂組成物は、比表面積換算粒子径D1が50nm以下、且つ凝集体としての粒子径D2が0.1μm以上20μm以下の乾式シリカ、沈降シリカ、及びゲル法シリカから選択される凝集シリカ粒子材料と、前記凝集シリカ粒子材料を分散する、重量平均分子量10000以上の熱可塑性樹脂とを有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積換算粒子径D1が50nm以下、且つ凝集体としての粒子径D2が0.1μm以上20μm以下の乾式シリカ、沈降シリカ、及びゲル法シリカから選択される凝集シリカ粒子材料と、
前記凝集シリカ粒子材料を分散する、重量平均分子量10000以上の熱可塑性樹脂と、
を有するシリカ含有樹脂組成物。
【請求項2】
前記凝集シリカ粒子材料は、下記耐擦傷試験の条件を満たすような量及び配合方法で前記熱可塑性樹脂中に配合される請求項1に記載のシリカ含有樹脂組成物。
(耐擦傷試験)
#0000のスチールウールを用いて1cm2あたり12.5g重の荷重を加えて2cm以上のストロークで10往復擦りつけて傷付ける耐擦傷試験前後の透過率を589nmの光線で測定し、前記耐擦傷試験前後の透過率の低下が10%以下であり、
前記耐擦過試験後の透過率が80%以上である。
【請求項3】
前記D2が10μm以下である請求項1又は2に記載のシリカ含有樹脂組成物。
【請求項4】
前記D2が5μm以下である請求項3に記載のシリカ含有樹脂組成物。
【請求項5】
上記熱可塑性樹脂がポリメチルメタクリレートを主成分とする樹脂である請求項1~4の何れか1項に記載のシリカ含有樹脂組成物。
【請求項6】
前記凝集シリカ粒子材料は、ジシラザン、シランカップリング剤、及びジメチルシリコーンから選ばれる少なくとも一種の表面処理剤で表面処理されている請求項1~5の何れか1項に記載のシリカ含有樹脂組成物。
【請求項7】
前記凝集シリカ粒子材料の含有量は、全体の質量を基準として、0.2%以上、30%以下である請求項1~6の何れか1項に記載のシリカ含有樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のうちの何れか1項のシリカ含有樹脂組成物を製造する方法であって、
前記熱可塑性樹脂を溶解可能な良溶媒に前記凝集シリカ粒子材料を分散させる良溶媒分散体調製工程と、前記良溶媒分散体調製工程に対して前後を問わず行われる工程であって、良溶媒に前記熱可塑性樹脂を均一に溶解させた樹脂溶液を得る溶解工程と、をもち、前記良溶媒中に、前記凝集シリカ粒子材料を分散させかつ前記熱可塑性樹脂を溶解させた前駆体を得る前駆体調製工程と、
前記前駆体から前記良溶媒を除去する良溶媒除去工程と、
を有するシリカ含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記良溶媒分散体調製工程は、前記凝集体よりも粒子径が大きい凝集体前駆体を前記良溶媒に分散させた状態で湿式粉砕を行って前記凝集体とする工程をもつ請求項8に記載のシリカ含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のシリカ含有樹脂組成物の製造方法にて粒子状のシリカ含有樹脂組成物を製造する工程と、
前記熱可塑性樹脂と同一又は異なる熱可塑性樹脂からなる粒子状の樹脂材料と、前記粒子状のシリカ含有樹脂組成物とを混合した混合物を調製する工程と、
前記混合物を用いて射出成形を行い樹脂成形品を製造する工程と、
を有する射出成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料と混合して樹脂組成物としたり、そのまま利用したりできるシリカ含有樹脂組成物及びその製造方法、並びにそのシリカ含有樹脂組成物を用いて行う射出成形方法に関し、特に耐擦傷性に優れた射出成形品を成形できる樹脂組成物を得ることができるシリカ含有樹脂組成物及びその製造方法、並びにそのシリカ含有樹脂組成物を用いて行う射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の部材について、軽量で成形性に優れた樹脂材料により形成することが望まれている。特に透明性、加工性が高いアクリル樹脂を用いると、着色をせずにガラスの代替として用いることができるほか、着色をしてその透明性を活かすことで塗装をしなくても十分な意匠性を発揮することができるため外装部材を代替することもできる。
【0003】
ところで、自動車の外装部材には、高い耐擦傷性が求められるため、耐擦傷性が低い樹脂材料を用いるためには、ハードコート層を表面に形成することで対応している(特許文献1など)。特にガラス代替用途や濃色に着色する場合には、傷が目立ちやすく更に高い耐擦傷性をもつことが要求される。
【0004】
ハードコート層を表面に設ける場合には、製造工数やコストが増加することから樹脂そのものの耐擦傷性を向上させることが望まれている。
【0005】
耐擦傷性を向上させるために硬度が高い粒子材料を樹脂へ添加することが検討されている。透明性を保つためには粒子は可視光線の波長より十分に小さいサイズでなければならず耐擦傷性が充分に得られない。反対に耐擦傷性の向上を目的として、サブミクロンサイズの大きな粒子材料を用いると透明性は低下して意匠性に悪影響を及ぼすことから多くは充填できない。このように粒子材料を含有させることにより耐擦傷性を向上することは、機械特性と光学特性の両立が難しいといった問題がある。
【0006】
また、粒径が小さな粒子材料でも配合することである程度は耐擦傷性が向上することが期待できるが、非常に小さな粒子材料を一次粒子にまで分散させたものは高価であり、安価な解決法が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、樹脂材料を含有する樹脂組成物自身の耐擦傷性と透明性とが両立できるシリカ含有樹脂組成物及びその製造方法、並びにそのシリカ含有樹脂組成物を用いて行う射出成形方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決する目的で鋭意検討を行った結果、樹脂材料中に粒子材料を含有させた樹脂組成物について、透明性を保ったまま強度を向上させるために可視光線の波長よりも著しく小さな粒子径をもつシリカ粒子の凝集体を用いる方法に想到した。可視光線に対しては、凝集体を構成する一次粒子の粒子径を小さくすることで散乱などの光学的な影響を抑え、一次粒子を凝集することで一次粒子を単独で用いるよりも高い強度を実現することが可能になる。
【0010】
本発明のシリカ含有樹脂組成物は、比表面積換算粒子径D1が50nm以下、且つ凝集体としての粒子径D2が0.1μm以上20μm以下の乾式シリカ、沈降シリカ、及びゲル法シリカから選択される凝集シリカ粒子材料と、前記凝集シリカ粒子材料を分散する、重量平均分子量10000以上の熱可塑性樹脂とを有する。
【0011】
本発明のシリカ含有樹脂組成物の製造方法は、本発明のシリカ含有樹脂組成物を製造する方法であって、前記熱可塑性樹脂を溶解可能な良溶媒に前記凝集シリカ粒子材料を分散させる良溶媒分散体調製工程と、前記良溶媒分散体調製工程に対して前後を問わず行われる工程であって、良溶媒に前記熱可塑性樹脂を均一に溶解させた樹脂溶液を得る溶解工程と、をもち、前記良溶媒中に、前記凝集シリカ粒子材料を分散させかつ前記熱可塑性樹脂を溶解させた前駆体を得る前駆体調製工程と、前記前駆体から前記良溶媒を除去する良溶媒除去工程とを有する。
【0012】
本発明の射出成形品の製造方法は、本発明のシリカ含有樹脂組成物の製造方法にて粒子状のシリカ含有樹脂組成物を製造する工程と、前記熱可塑性樹脂と同一又は異なる熱可塑性樹脂からなる粒子状の樹脂材料と、前記粒子状のシリカ含有樹脂組成物とを混合した混合物を調製する工程と、前記混合物を用いて射出成形を行い樹脂成形品を製造する工程とを有する。
【発明の効果】
【0013】
上記構成を有することで本発明のシリカ含有樹脂組成物は、耐擦傷性に優れた成形品を得ることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のシリカ含有樹脂組成物及びその製造方法、並びに射出成形方法について以下実施形態に基づき詳細に説明を行う。本実施形態のシリカ含有樹脂組成物は、耐擦傷性に優れた材料であり、そのまま塗装などすることなく成形品を美観が要求される用途に利用することもできる。例えば、射出成形方法により形成した成形品をそのまま利用可能である。
【0015】
本実施形態のシリカ含有樹脂組成物は、樹脂材料としてアクリル樹脂などの透明性が高い材料を採用すれば、透明性を保つことが可能になりガラス代替用途にも利用できる。また、シリカ含有樹脂組成物は、顔料や染料を含有させることで塗装した場合と同等の外観をもつことができる。本実施形態のシリカ含有樹脂組成物は、そのまま射出成形を行う原料として用いることができる他、凝集シリカ粒子材料を他の熱可塑性樹脂中に導入するためのマスターバッチとして用いることもできる。
【0016】
本実施形態のシリカ含有樹脂組成物は、凝集シリカ粒子材料と、その凝集シリカ粒子材料を分散する熱可塑性樹脂と、その他必要に応じて添加される材料とを有する。その他必要に応じて添加される材料としては特に限定しないが、顔料、染料、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤などが例示できる。
【0017】
凝集シリカ粒子材料は、下記耐擦傷試験の条件を満たすような量及び配合方法で熱可塑性樹脂中に配合されることが好ましい。耐擦傷試験を行う部位としては、意匠性が要求される部位である。自動車の外装部材に用いる場合には、外側の意匠性が必要部位において耐擦傷試験を満足することが望まれるが、隠れた部位などのあまり意匠性が要求されない部位については耐擦傷試験を満足しなくても構わない。
【0018】
耐擦傷試験の条件を満たすためには、凝集シリカ粒子材料の強度を増加したり、シリカ含有樹脂組成物の表面に存在する凝集シリカ粒子材料の量を増加したりすることができる。凝集シリカ粒子材料の強度を向上するためには、凝集シリカ粒子材料を大きくしたり、凝集体を構成する一次粒子間の結合を強固したりすることができる。凝集シリカ粒子材料の含有量が、シリカ含有樹脂組成物の表面で高くするためには、凝集シリカ粒子材料の含有量が異なる2以上のシリカ含有樹脂組成物を用いて、必要な表面に凝集シリカ粒子材料の含有量が高くなるように傾斜的に配置したり、含有量が低いシリカ含有樹脂組成物乃至は含有しない樹脂組成物で生成した成形体の表面に凝集シリカ粒子材料の濃度が高いシリカ含有樹脂組成物の層を形成したりすることができる。
【0019】
(耐擦傷試験)
#0000のスチールウールを用いて1cm2あたり12.5g重の荷重を加えて2cm以上のストロークで10往復擦りつけて傷付ける耐擦傷試験前後の透過率を589nmの光線で測定し、耐擦傷試験前後の透過率の低下が10%以下(5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましい。)であり、前記耐擦過試験後の透過率が80%以上である(85%以上であることが好ましく、87%以上であることがより好ましい。)。
【0020】
凝集シリカ粒子材料は、シリカを主成分とする。凝集シリカ粒子材料は、シリカからなる一次粒子が凝集した凝集体から構成される。凝集体は、一次粒子が凝集した凝集体であり、凝集体を構成する一次粒子同士の間隙に凝集体を分散させる熱可塑性樹脂と屈折率が近い材料や、熱可塑性樹脂そのものが充填可能になるように、外部と連通する孔をもつことが好ましい。
【0021】
凝集シリカ粒子材料は、必要に応じて後述する表面処理剤由来の表面処理層を有する。表面処理層は疎水性のものにすることが好ましく、熱可塑性樹脂と反応性を有するものとすることも好ましい。表面処理層は、凝集体における先述した外部と連通する孔内に形成することもできる。表面処理層には表面処理剤由来の官能基をもつことがあり、表面処理剤の種類、特に表面処理剤がもつ官能基が炭素をもつものであれば、表面処理層に有機物を有することがある。本明細書においてシリカを主成分とするとは、含有する無機物の質量を基準としてシリカの含有量の下限値が、50質量%であることを意味し、60質量%、70質量%、80質量%、90質量%、95質量%、99質量%であることができる。特に不可避不純物以外が全てシリカであることがより好ましい。
【0022】
凝集シリカ粒子材料は、中性であることが好ましい。凝集シリカ粒子材料のpHの下限値は、5.5、6.0、6.5を挙げることができ、上限値としては、8.5、8.0、7.5を挙げることができる。これらの下限値と上限値を任意に組み合わせてpHの範囲を設定することができる。凝集シリカ粒子材料のpHの測定は、遠沈管にフィラーを3.5g秤量し、イオン交換水を35mL加えて振とう機で振とうした後遠心分離にて固液分離し、上澄み液のpHを測定することにより行う。pHの値を制御する方法は特に限定しないが、不純物が少ない高純度のフィラーを使用する、表面処理を行う、などにより中性に近づけることができる。
【0023】
凝集シリカ粒子材料は、水分の含有量が少ないことが好ましい。例えば、射出成形時の水分の脱離による影響を抑制するため、凝集シリカ粒子材料は、水分の含有量を低減することが好ましい。例えば、300℃に加熱した際に生成する水分量が3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。水分の含有量を減少させるためには、凝集シリカ粒子材料を必要な水分量になるまで上述の温度で加熱する方法、凝集シリカ粒子材料を構成するシリカを乾式法にて製造した後、熱可塑性樹脂中に分散させるまでの間で水分に接触させることを防ぐことで水分を含有させないようにする方法などが挙げられる。
【0024】
凝集シリカ粒子材料は、比表面積換算粒子径D1に近似するか同一の粒子径をもつ一次粒子が凝集した凝集体である。凝集シリカ粒子材料の比表面積換算粒子径D1が50nm以下であり、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下である。比表面積換算粒子径D1をこの範囲とすると、熱可塑性樹脂内に分散させたときに透明性などの光学特性を向上できる。比表面積換算粒子径は、窒素ガスを用いたBET法により測定した比表面積の値sを用い、比表面積換算粒子径D1=6/ρsで算出される。なお、ρは、シリカの密度であり、2.2g/cm3の値を用いる。
【0025】
凝集シリカ粒子材料は、乾式シリカ、沈降シリカ、及びゲル法シリカから選択され、凝集体の粒子径が適正になるように粉砕・分級などを行うことにより調製される。粉砕は、ジェットミル、ボールミル、振動ボールミルなどにより行うことができる。分級は、篩分け、遠心分級などにより行うことができる。
【0026】
乾式シリカは、金属ケイ素の燃焼、ケイ素塩化物などのケイ素化合物の燃焼により製造されるシリカである。沈降シリカは、ケイ酸ナトリウムの水溶液である水ガラスと硫酸とをアルカリ性で反応させることで生成する二酸化ケイ素の沈殿をろ別して乾燥することで製造されるシリカである。ゲル法シリカは、ケイ酸ナトリウムの水溶液である水ガラスと硫酸とを酸性で反応させることで生成する二酸化ケイ素のゲルを乾燥することで製造されるシリカであり、キセロゲルやアエロゲルなどと称される。
【0027】
凝集シリカ粒子材料の凝集体としての粒子径D2は、0.1μm以上20μm以下である。粒子径D2を大きくすると耐擦傷性効果が向上し、小さくすると透明性が向上する。上述の範囲にすることで耐擦傷性と透明性とが両立できる。特に粒子径D2の上限値は、15μm、10μm、5μm、3μm、2μm、1μmとすることもできる。
【0028】
凝集シリカ粒子材料は、表面処理剤などにより表面処理して表面処理層を形成することで屈折率や表面性状を制御することができる。制御後の屈折率としては、分散される熱可塑性樹脂との屈折率の差が、0.4未満で有ることが好ましく、0.3未満であることがより好ましく、0.2未満であることが更に好ましい。表面処理剤としては、シラン化合物を採用することができる。シラン化合物としては、ジシラザン、シランカップリング剤、及びジメチルシリコーンから選ばれる少なくとも一種を採用することができる。ジシラザンとしてはヘキサメチルジシラザンが例示できる。シランカップリング剤は、分子中に2個以上の異なった反応基をもつ化合物で有り、SiQn(OR)4-nで表される化合物である。ここでQ及びRは、独立して選択される官能基であり、同一であっても、異なっても良い。
【0029】
官能基Rは炭素数1~3のアルキル基であり、特にメチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。官能基Qは、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基を有する反応基をもつことが好ましく、特にこれらの反応基を1又は2以上もちアルキレン基によりケイ素原子に結合している構造をもつことが好ましい。なお、nは1~3のいずれかである。ジメチルシリコーンは、R(SiR2O)nRで表される化合物であり、Rはそれぞれ独立して選択可能である。Rとしてはアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。また、Rとしてはアルキル基以外の官能基を導入することもできる。例えば、Rは、シランカップリング剤において説明した官能基Qをそのまま採用したり、水素としたりすることができる。
【0030】
表面処理剤は、共有結合により凝集シリカ粒子材料の表面に結合させるほか、吸着により結合させることもできる。表面処理剤の処理量としては、凝集シリカ粒子材料の表面状態が分散させる熱可塑性樹脂と親和性が高くなる程度の量とするほか、必要な屈折率が得られる量とすることができる。シリカより屈折率が高い表面処理剤を採用して反応させることで凝集シリカ粒子材料の屈折率を大きくすることができ、反対に屈折率がシリカより小さな表面処理剤を採用して反応させることで凝集シリカ粒子材料の屈折率を小さくすることができる。
【0031】
熱可塑性樹脂は、射出成形可能な樹脂材料である。熱可塑性樹脂は、特にアクリル樹脂であることが好ましい。アクリル樹脂としては、メタクリル酸メチルをモノマー中の主成分として重合して得られる樹脂であることが好ましい。メタクリル酸メチルが主成分であるとは、熱可塑性樹脂全体の質量を基準として50%以上のメタクリル酸メチルを含むことを意味し、メタクリル酸メチルを含む下限値としては60%、70%、75%、80%、90%、95%、99%、100%とすることができる。メタクリル酸メチル以外に用いることが好ましいモノマーとしては、例えばメタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルなどがあげられる。メタクリル酸エステルの例としてはメタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸3-ヒドロキシプロピルなどが挙げられ、アクリル酸エステルの例としてはアクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどが挙げられる。
【0032】
熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、1万以上である。熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、100万以下であることが好ましく、50万以下であることがより好ましく、30万以下であることが更に好ましい。重量平均分子量が高いと衝撃強さが向上する、耐熱性が向上する、耐薬品性が向上するなどの点で好ましく、重量平均分子量が低いと金型内での流動性が向上する、混錬性が良好になるなどの点で好ましい。
【0033】
凝集シリカ粒子材料は、熱可塑性樹脂中に分散されている。凝集シリカ粒子材料の含有量は、全体の質量を基準として、0.2%以上30%以下であることが好ましい。凝集シリカ粒子材料の含有量の下限値は、0.5%、1%、3%が例示でき、上限値としては、15%、20%、25%が例示できる。
【0034】
・シリカ含有樹脂組成物の製造方法
本実施形態のシリカ含有樹脂組成物の製造方法は、上述した本実施形態のシリカ含有樹脂組成物を好適に製造できる製造方法である。
【0035】
本実施形態のシリカ含有樹脂組成物の製造方法は、良溶媒分散体調製工程と溶解工程とからなる前駆体調製工程と、良溶媒除去工程と、乾燥工程と、その他必要に応じて選択されるその他の工程とを有する。良溶媒分散体調製工程と溶解工程は、どちらを先に行っても良いばかりか同時に行っても良い。良溶媒分散体調製工程と溶解工程を行うことで、凝集シリカ粒子材料が良溶媒中に均一に分散され、かつ、熱可塑性樹脂が良溶媒中に均一に溶解した前駆体が調製される。前駆体を形成することで凝集シリカ粒子材料に存在する孔内に良溶媒に溶解した状態の熱可塑性樹脂が充填されることになり、透明性の向上に寄与することになる。
【0036】
良溶媒分散体調製工程は、凝集シリカ粒子材料を熱可塑性樹脂の良溶媒中に分散させる工程である。凝集シリカ粒子材料については、上述したものと同じものが採用できる。良溶媒としては、混合する熱可塑性樹脂を十分に溶解できる種類及び量となるものである。例えば、メタクリル酸メチルを主成分とする熱可塑性樹脂であれば、メチルエチルケトン(MEK)、テトラヒドロフラン、酢酸エチルなどを良溶媒としてもちいることができ、特にMEK、酢酸エチルを用いることが好ましい。
【0037】
凝集シリカ粒子材料を良溶媒中に分散させて良溶媒分散体を製造する良溶媒分散体調製工程では、凝集シリカ粒子材料に含まれる凝集体よりも粒子径が大きい凝集体前駆体を良溶媒中に分散させた後に良溶媒中で湿式粉砕操作を行うことで必要な粒子径をもつ凝集体を調製することができる。凝集体前駆体としては、上述した表面処理を予め行っておくこともできる。湿式粉砕としては、ボールミル、ジェットミルなどを用いることが好ましい。元になる凝集体としては、凝集シリカ粒子材料よりも粒子径が大きいものであり、更には先述した表面処理を行ったものであっても良い。
【0038】
溶解工程は、得られた良溶媒中に熱可塑性樹脂を溶解させて樹脂溶液とする工程である。樹脂溶液中には、熱可塑性樹脂が均一に溶解されている。先に説明した良溶媒分散体調製工程において同時に熱可塑性樹脂を加えて良溶媒中に凝集シリカ粒子材料を分散させると同時に熱可塑性樹脂を溶解させることもできる。更には熱可塑性樹脂を加える代わりに、又は熱可塑性樹脂に加えて熱可塑性樹脂を構成するモノマーを添加しても良い。このモノマーは良溶媒中で重合させることもできる。この重合時に凝集シリカ粒子材料の表面処理層と反応させることもできる。例えば表面処理層にビニル基などを導入した場合である。
【0039】
良溶媒除去工程は、樹脂溶液中から良溶媒を除去する工程である。良溶媒を除去する方法については特に限定しない。溶媒の除去方法は特に限定しないが、スプレー乾燥、流延後溶媒を揮発させる方法、貧溶媒を入れて熱可塑性樹脂の溶解度を低下させることにより再沈させるなどの方法が考えられる。また、超溶媒の除去方法としては、加熱や減圧による方法が挙げられる。得られたシリカ含有樹脂組成物は、ペレット化したり、グラニュール化したりすることもできる。
【0040】
これらの製造工程(前駆体調製工程(良溶媒分散体調製工程、溶解工程)、良溶媒除去工程)のうちの1つ以上の工程において、先に説明したその他必要な添加剤を混合することもできる。
【0041】
更には、熱可塑性樹脂と凝集シリカ粒子材料とを乾燥した状態でニーダーなどを用いて混練することでもシリカ含有樹脂組成物を調製することができる。特に熱可塑性樹脂の要点以上に加熱しながら混練することで凝集シリカ粒子材料を均一に分散させたシリカ含有樹脂組成物を調製することができる。
【0042】
・射出成形方法
本実施形態の射出成形方法は、上述のシリカ含有樹脂組成物の製造方法にて粒子状に製造したシリカ含有樹脂組成物を製造する工程と、その工程で用いた熱可塑性樹脂と同一又は異なる熱可塑性樹脂からなる粒子状の樹脂材料と、粒子状のシリカ含有樹脂組成物とを混合した混合物を調製する工程と、その混合物を用いて射出成形を行い樹脂成形品を製造する工程とを有する。本実施形態の射出成形方法により成形した成形品は、そのまま目視可能な位置にそのまま使用することもできる。特に塗装などを行わなくても意匠性が必要な部位(自動車などの外板、樹脂ガラスなど)に用いることができる。
【0043】
ここで粒子状のシリカ含有樹脂組成物とは、先述したペレット化したもの、グラニュール化したものも含む概念である。なお、粒子状の熱可塑性樹脂を混合して行う本実施形態の射出成形方法以外に、本実施形態のシリカ含有樹脂組成物のみを用いて射出成形を行うことや、熱可塑性樹脂と、凝集シリカ粒子材料とを乾式で混合して射出成形に供する方法も採用可能である。射出成形以外にも押出し成形やプレス成形などの汎用される方法にて成形品をえることもできる。
【実施例0044】
(シリカ粒子材料の製造)
・試料1
凝集体としてのフュームドシリカ(凝集体を形成している。日本アエロジル(株)社製、型番AEROSIL200、体積平均粒子径(凝集体の粒子径)30μm、比表面積換算粒子径13nm)に対し、表面処理剤としてのヘキサメチルジシラザン(HMDS)にて処理を行った。HMDSの処理量は、HMDSを粉体のカーボン量が2.5%となるように添加することにより表面処理を行った。表面処理後の屈折率は、1.465であった。なお、以下の試料2~4についても屈折率を1.465に調節した。ここで、屈折率の測定は、以下の方法で行った。屈折率が既知の2種類の溶媒で配合比の異なる混合溶媒を複数水準用意し、これに粒子を分散させた際、最も混合液が透明である点の混合液の屈折率が粒子の屈折率であるとした。
【0045】
・試料2
シリカ粒子材料(一次粒子にまで分散している。アドマテックス社製、型番YA050C-SM1、一次粒子の粒子径50nm、比表面積換算粒子径50nm、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランにて表面処理が施されたもの)。
【0046】
・試料3
シリカ粒子材料(一次粒子にまで分散している。アドマテックス社製、型番 SC2500-SMJ、一次粒子の粒子径500nm、比表面積換算粒子径500nm、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランにて表面処理が施されたもの)。
【0047】
・試料4
凝集体としての沈降シリカ(凝集体を形成している。東ソー・シリカ(株)社製、型番Nipsil AQ、体積平均粒子径(凝集体の粒子径)30μm、比表面積換算粒子径15nm)に対し、表面処理剤としてのヘキサメチルジシラザン(HMDS)にて処理を行った。HMDSの処理量は、凝集体1gあたりHMDSを粉体のカーボン量が2.5%となるように添加することにより表面処理を行った。
【0048】
これらの試料のうち、試料1及び4が凝集シリカ粒子材料に該当し、試料2及び3は、一次粒子にまで分散したシリカ粒子材料である。
【0049】
(良溶媒分散体調製工程)
試料1~4のそれぞれについて、良溶媒としてのMEKに10質量%になるように添加した。その後、試料1及び4については、ボールミルにより表1にしめす凝集粒子径になるまで粉砕を行い、良溶媒分散体を調製した。試料2及び3は、撹拌することでシリカ粒子材料は均一に分散されて良溶媒分散体となった。なお、表1中の試料2及び3については凝集していないため、凝集粒子径と記載している欄に一次粒子の粒子径を記載している。
【0050】
その後、表1に示すシリカ配合量になるように熱可塑性樹脂(ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチルの含有量100質量%、Mw100000)を混合し、完全に溶解するまで撹拌を行って樹脂溶液を調製した。
【0051】
得られた樹脂溶液を加熱乾燥により良溶媒を除去して各実施例及び比較例のシリカ含有樹脂組成物を得た。得られた各実施例及び比較例のシリカ含有樹脂組成物を縦30mm×横15mm×厚み2mmに切り出し、波長589nmの光線を用いて厚み方向における透過率を測定した。更に、比較例2以外について#0000のスチールウール(TRUSCO社製)を用いて1cm2あたり12.5g重の荷重を加えて10往復擦りつけて傷付けた後の透過率を同波長の光線で測定した(耐擦傷後透過率)。傷をつけた前後の光線の透過率を表1に示す。
【0052】
【0053】
表1より明らかなように、凝集シリカ粒子材料を添加していない比較例1では耐擦傷試験後の透過率が75%になり、試験前の90%から大幅に低下しているのに対して、実施例1~4のように、凝集体の粒子径が1μmの凝集シリカ粒子材料を0.5質量%~5質量%配合したシリカ含有樹脂組成物では、耐擦傷試験後の透過率が75%~88%と配合量に応じて高くなり耐擦傷性が向上することが分かった。また、凝集シリカ粒子材料を配合しても透過率(耐擦傷試験前)が89%と凝集シリカ粒子材料を添加していない場合の90%と比べてもほぼ同程度の値を示しており、透明性は十分に優れていることが分かった。
【0054】
次に実施例5~10の結果から、凝集シリカ粒子材料の配合量は5質量%と一定にした上で、凝集シリカ粒子材料の体積平均粒子径を0.1μm~10μmまでの間で変化させた場合に耐擦傷試験前の透過率は90%と凝集シリカ粒子材料を配合しない比較例1と同じ透明性であることが分かった。そして耐擦傷試験後の透過率は、87%と十分に高い値を示すことが分かった。
【0055】
実施例11の結果から、凝集シリカ粒子材料として沈降シリカを用いた試料4を採用してもフュームドシリカを用いたもの(実施例11の配合量及び凝集体の粒子径に対応する試料である実施例4)と比べるとフュームドシリカを用いた実施例4の方が耐擦傷試験前後の何れについても高い透過性を示すことが分かった。
【0056】
凝集体の粒子径が30μmである比較例2においては、耐擦傷試験前の透過率が71%と十分な透明性を有しているとは言えなかった。なお、透過率は85%未満になると透明性が低下したことが目視できるようになる。
【0057】
配合したシリカ粒子材料が凝集体を形成していない比較例3及び4は、いずれも耐擦傷試験後の透過率が低く十分な耐擦傷性を有していないことが分かった。特に一次粒子の粒径が可視光線の波長より十分に小さいとは言えない比較例4については耐擦傷試験前の透過性も79%となっており十分な透明性を有しているとは言い難かった。
【0058】
・成形性の評価
各実施例及び比較例の試料について溶融後、滑らか面上にて固化したときに滑らか面に接触した面を目視により観察したところ、ムラや歪みなどは観察されず、そのままでも十分な意匠性をもつことが確認できた。従って、射出成形により形成された製品は、そのまま意匠性が求められる用途に用いることができることが確認できた。表面の状態は、顔料を配合して着色した場合においても塗装をしたときのような透明性を伴った表面状態を示していた。