(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161394
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー及び静電荷像現像剤
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20221014BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/097 365
G03G9/087 325
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066181
(22)【出願日】2021-04-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 隼也
(72)【発明者】
【氏名】藤▲崎▼ 達矢
(72)【発明者】
【氏名】大浦 麗仁
(72)【発明者】
【氏名】藤野 香
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AA01
2H500AA08
2H500CA03
2H500CA06
2H500CA27
2H500CA30
2H500EA32B
2H500EA39B
2H500EA42B
2H500EA45B
2H500FA04
(57)【要約】
【課題】低温定着性が良好であり、かつ、タッキングを生じさせにくい静電荷像現像用トナー及び静電荷像現像剤を提供することである。
【解決手段】本発明の静電荷像現像用トナーは、トナー粒子が、非晶性ビニル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂及びエステルワックスを含有し、結晶性ポリエステル樹脂が、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸と炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールを重縮合させて得られる結晶性ポリエステル樹脂であり、非晶性ポリエステル樹脂が、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸又は炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールに由来する構成単位を含有する非晶性ポリエステル樹脂であり、かつ、ジカルボン酸の炭素原子数とジアルコールの炭素原子数の合計が、18~24の範囲内であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともトナー粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、
前記トナー粒子が、非晶性ビニル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂及びエステルワックスを含有し、
前記結晶性ポリエステル樹脂が、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸と炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールを重縮合させて得られる結晶性ポリエステル樹脂であり、
前記非晶性ポリエステル樹脂が、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸又は炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールに由来する構成単位を含有する非晶性ポリエステル樹脂であり、かつ、
前記ジカルボン酸の炭素原子数と前記ジアルコールの炭素原子数の合計が、18~24の範囲内であることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
前記結晶性ポリエステル樹脂の総量のうち50質量%以上が、前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸と前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールを重縮合させて得られる結晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記結晶性ポリエステル樹脂の全てが、前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸と前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールを重縮合させて得られる結晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記結晶性ポリエステル樹脂の酸価が、20~30mgKOH/gの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
前記非晶性ポリエステル樹脂が、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸又は炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールに由来する構成単位を1~20mol%の範囲内で含有する非晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項6】
前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸の炭素原子数と前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールの炭素原子数が、同数であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項7】
前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸がセバシン酸であり、かつ、前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールが1,10-デカンジオールであることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項8】
前記結晶性ポリエステル樹脂が、結晶性ポリエステル重合セグメントと、スチレン由来の構成単位を有するビニル重合セグメントとが、化学的に結合したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂である
ことを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項9】
前記非晶性ポリエステル樹脂が、非晶性ポリエステル重合セグメントと、スチレン由来の構成単位を有するビニル重合セグメントとが、化学的に結合したハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項10】
フィッシャートロプシュワックスを更に含有することを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項11】
前記非晶性ポリエステル樹脂の含有量Wapと前記結晶性ポリエステル樹脂の含有量Wcpの比Wap/Wcpの値が、0.5~1.5の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナーを含有することを特徴とする静電荷像現像剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電荷像現像用トナー及び静電荷像現像剤に関する。
より詳しくは、低温定着性が良好であり、かつ、タッキングを生じさせにくい静電荷像現像用トナー等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式の画像形成装置において、低温で熱定着される静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう。)が求められている。そのため、定着助剤として結晶性物質や可塑化効果の高いワックスを添加し、結着樹脂の溶融温度及び溶融粘度を下げることにより、低温定着性を向上させたトナーが提案されている(例えば特許文献1参照。)。このような定着助剤を含有するトナーは、低温定着性が良好となる一方、トナー自体や定着後の画像が熱的なストレスに対して弱くなる。特にトナー付着量の多い画像を連続印刷するとき、画像は潜熱を持ったまま積み重なるため、潜熱と紙の重量による圧力とで画像部と紙、又は画像部と画像部が接着する、いわゆるタッキングが生じるという問題があった。
【0003】
特許文献2では、結晶性ポリエステル樹脂を含み、トナーの示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)による降温時の発熱ピークトップ温度及び発熱ピークの半値幅が一定の範囲内にあるトナーが提案されている。このようなトナーは、結晶化温度は高められてはいるが、結晶性ポリエステル樹脂及び離型剤の添加量に対して結晶化した割合が考慮されていない。たとえトナーの結晶化温度が高くても、添加量に対して結晶化した割合が低ければ、樹脂層は十分に固化せずタッキングが生じてしまうため、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-045850号公報
【特許文献2】特開2018-087901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、低温定着性が良好であり、かつ、タッキングを生じさせにくい静電荷像現像用トナー及び静電荷像現像剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記課題の原因等について検討した結果、本発明の静電荷像現像用トナーが含むトナー粒子が、非晶性ビニル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂及びエステルワックスを含有し、前記結晶性ポリエステル樹脂が、炭素原子数が特定の範囲内にあるジカルボン酸とジアルコールを重縮合させて得られる結晶性ポリエステル樹脂であり、前記非晶性ポリエステル樹脂が、炭素原子数が特定の範囲内にあるジカルボン酸又はジアルコールに由来する構成単位を含有する非晶性ポリエステル樹脂であることで、低温定着性が良好であり、かつ、タッキングを生じさせにくくなることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0007】
1.少なくともトナー粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、
前記トナー粒子が、非晶性ビニル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂及びエステルワックスを含有し、
前記結晶性ポリエステル樹脂が、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸と炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールを重縮合させて得られる結晶性ポリエステル樹脂であり、
前記非晶性ポリエステル樹脂が、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸又は炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールに由来する構成単位を含有する非晶性ポリエステル樹脂であり、かつ、
前記ジカルボン酸の炭素原子数と前記ジアルコールの炭素原子数の合計が、18~24の範囲内であることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【0008】
2.前記結晶性ポリエステル樹脂の総量のうち50質量%以上が、前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸と前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールを重縮合させて得られる結晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする第1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0009】
3.前記結晶性ポリエステル樹脂の全てが、前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸と前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールを重縮合させて得られる結晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0010】
4.前記結晶性ポリエステル樹脂の酸価が、20~30mgKOH/gの範囲内であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0011】
5.前記非晶性ポリエステル樹脂が、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸又は炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールに由来する構成単位を1~20mol%の範囲内で含有する非晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0012】
6.前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸の炭素原子数と前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールの炭素原子数が、同数であることを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0013】
7.前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸がセバシン酸であり、かつ、前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールが1,10-デカンジオールであることを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0014】
8.前記結晶性ポリエステル樹脂が、結晶性ポリエステル重合セグメントと、スチレン由来の構成単位を有するビニル重合セグメントとが、化学的に結合したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする第1項から第7項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0015】
9.前記非晶性ポリエステル樹脂が、非晶性ポリエステル重合セグメントと、スチレン由来の構成単位を有するビニル重合セグメントとが、化学的に結合したハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂であることを特徴とする第1項から第8項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0016】
10.フィッシャートロプシュワックスを更に含有することを特徴とする第1項から第9項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0017】
11.前記非晶性ポリエステル樹脂の含有量Wapと前記結晶性ポリエステル樹脂の含有量Wcpの比Wap/Wcpの値が、0.5~1.5の範囲内であることを特徴とする第1項から第10項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0018】
12.第1項から第11項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナーを含有することを特徴とする静電荷像現像剤。
【発明の効果】
【0019】
本発明の上記手段により、低温定着性が良好であり、かつ、タッキングを生じさせにくい静電荷像現像用トナー及び静電荷像現像剤を提供することができる。
【0020】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0021】
タッキングは、定着後の高温の画像が積み重なるまでに、トナー内の結晶性物質(結晶性ポリエステル樹脂及びワックス)が結晶化しきらず、樹脂層の粘度が低下することで、画像同士が接着して生じる。そのため、定着後において、トナー中の結晶性物質が、高い温度かつ添加量に対して高い割合で結晶化する場合において、タッキングを抑制できる。
【0022】
結晶性ポリエステル樹脂を構成するジアルコール及びジカルボン酸の鎖長(炭素原子数)により、定着後における結晶化する温度と結晶化度をコントロールすることができ、炭素数が大きいほど、結晶化する温度は高くなり、高い割合で結晶化し易くなる。しかし、同時に結着樹脂への相溶性も悪化するため、定着時に結着樹脂の粘度が十分に下がらずに、低温定着性が悪化する。よって、本課題を解決するためには、結晶性物質と結着樹脂の相溶性は下げずに、結晶化をし易くする必要がある。
【0023】
本発明のように、結晶性ポリエステル樹脂を構成する構造単位と、似た構造単位を有する非晶性ポリエステル樹脂を、トナーの結着樹脂中に存在させることにより、定着時の結晶性ポリエステル樹脂への相溶性と、定着後の結晶化のしやすさを両立することができる。これは、定着時に、非晶性ポリエステル樹脂の、結晶性ポリエステル樹脂と似た構成単位部位に、結晶性ポリエステル樹脂が選択的に相溶し、結着樹脂の粘度を下げ、さらに、定着後には、選択的に相溶しているため、局所的に結晶性ポリエステル樹脂濃度が高くなっており、結晶化が容易に起こりやすい状態になっているためであると考えられる。
【0024】
さらに、結晶性ポリエステル樹脂を構成するジアルコール及びジカルボン酸の鎖長(炭素原子数)がいずれも9~14の範囲内にある場合に、特に優れた本発明の効果を発現することを見出した。これは、エステル基分布の均一性が、結晶化をよりし易くしていると考えている。また、結晶性ポリエステル樹脂に使用するジアルコール及びジカルボン酸の炭素原子数の合計が18より小さいと、タッキングが発生し易くなり、24よりも大きいと、相溶性が悪くなり定着性が悪化することも見出した。
【0025】
これらの発現機構又は作用機構により、低温定着性が良好であり、かつ、タッキングを生じさせにくい静電荷像現像用トナーを提供することができると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の静電荷像現像用トナーは、少なくともトナー粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、前記トナー粒子が、非晶性ビニル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂及びエステルワックスを含有し、前記結晶性ポリエステル樹脂が、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸と炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールを重縮合させて得られる結晶性ポリエステル樹脂であり、前記非晶性ポリエステル樹脂が、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸又は炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールに由来する構成単位を含有する非晶性ポリエステル樹脂であり、かつ、前記ジカルボン酸の炭素原子数と前記ジアルコールの炭素原子数の合計が、18~24の範囲内であることを特徴とする。
この特徴は、下記実施形態に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0027】
本発明の静電荷像現像用トナーの実施形態としては、前記結晶性ポリエステル樹脂の総量のうち50質量%以上が、前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸と前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールを重縮合させて得られる結晶性ポリエステル樹脂であることが、低温定着性とタッキング抑制の両立の観点から好ましい。
【0028】
本発明の静電荷像現像用トナーの実施形態としては、前記結晶性ポリエステル樹脂の全てが、前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸と前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールを重縮合させて得られる結晶性ポリエステル樹脂であることが、低温定着性とタッキング抑制の両立の観点から好ましい。
【0029】
本発明の静電荷像現像用トナーの実施形態としては、前記結晶性ポリエステル樹脂の酸価が、20~30mgKOH/gの範囲内であることが、低温定着性及び製造安定性の観点から好ましい。
【0030】
本発明の静電荷像現像用トナーの実施形態としては、前記非晶性ポリエステル樹脂が、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸又は炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールに由来する構成単位を1~20mol%の範囲内で含有する非晶性ポリエステル樹脂であることが、低温定着性とタッキング抑制の両立の観点から好ましい。
【0031】
本発明の静電荷像現像用トナーの実施形態としては、前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸の炭素原子数と前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールの炭素原子数が、同数であることが、低温定着性とタッキング抑制の両立の観点から好ましい。
【0032】
本発明の静電荷像現像用トナーの実施形態としては、前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸がセバシン酸であり、かつ、前記炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールが1,10-デカンジオールであることが、低温定着性とタッキング抑制の両立の観点から好ましい。
【0033】
本発明の静電荷像現像用トナーの実施形態としては、前記結晶性ポリエステル樹脂が、結晶性ポリエステル重合セグメントと、スチレン由来の構成単位を有するビニル重合セグメントとが、化学的に結合したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂であることが、低温定着性の観点から好ましい。
【0034】
本発明の静電荷像現像用トナーの実施形態としては、前記非晶性ポリエステル樹脂が、非晶性ポリエステル重合セグメントと、スチレン由来の構成単位を有するビニル重合セグメントとが、化学的に結合したハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂であることが、低温定着性の観点から好ましい。
【0035】
本発明の静電荷像現像用トナーの実施形態としては、前記非晶性ポリエステル樹脂の含有量Wapと前記結晶性ポリエステル樹脂の含有量Wcpの比Wap/Wcpの値が、0.5~1.5の範囲内であることが、低温定着性とタッキング抑制の両立の観点から好ましい。
【0036】
本発明の静電荷像現像用トナーの実施形態としては、フィッシャートロプシュワックスを更に含有することが、タッキング抑制の観点から好ましい。
【0037】
本発明の静電荷像現像剤(以下、単に「現像剤」ともいう。)は、本発明の静電荷像現像用トナーを含有することを特徴とする。
【0038】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0039】
≪静電荷像現像用トナーの概要≫
本発明の静電荷像現像用トナーは、少なくともトナー粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、前記トナー粒子が、非晶性ビニル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂及びエステルワックスを含有し、前記結晶性ポリエステル樹脂が、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸と炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールを重縮合させて得られる結晶性ポリエステル樹脂であり、前記非晶性ポリエステル樹脂が、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸又は炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールに由来する構成単位を含有する非晶性ポリエステル樹脂であり、かつ、前記ジカルボン酸の炭素原子数と前記ジアルコールの炭素原子数の合計が、18~24の範囲内であることを特徴とする。
【0040】
結晶性ポリエステル樹脂に使用するジアルコール及びジカルボン酸の炭素原子数の合計が、18より小さいと、タッキングが発生し易くなり、24より大きいと、相溶性が悪くなり定着性が悪化する。また、ジアルコールとジカルボン酸の各炭素原子数の差が小さいほど、エステル基分布の均一性が高くなり、結晶化がしやすくなるため、各炭素原子数がいずれも9~14の範囲内であることで、タッキングを抑制できる。
【0041】
本発明において、「静電荷像現像用トナー」とは、トナー母体粒子又はトナー粒子の集合体をいう。
ここで、「トナー粒子」とは、トナー母体粒子に外添剤を添加したものであることが好ましいが、トナー母体粒子をそのままトナー粒子として用いることもできる。
なお、本発明において、トナー母体粒子、トナー粒子及びトナーを特に区別する必要が
ない場合、単に「トナー」ともいう。
【0042】
≪結着樹脂≫
本発明のトナー粒子は、結着樹脂として、非晶性ビニル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂を含有する。
【0043】
トナー粒子中の結着樹脂の含有量は、トナー粒子の総量に対して70~95質量%であることが好ましい。
【0044】
結着樹脂中の非晶性ビニル樹脂の含有量は、結着樹脂の総量に対して10~90質量%であることが好ましい。
【0045】
結着樹脂中の非晶性ポリエステル樹脂の含有量は、結着樹脂の総量に対して10~90質量%であることが好ましい。
【0046】
結着樹脂中の結晶性ポリエステル樹脂の含有量は、結着樹脂の総量に対して1~20質量%であることが好ましい。
【0047】
トナー粒子中の非晶性ポリエステル樹脂の含有量Wapと結晶性ポリエステル樹脂の含有量Wcpの比Wap/Wcpの値が、0.5~1.5の範囲内であることが、低温定着性とタッキング抑制の両立の観点から好ましい。
【0048】
<結晶性ポリエステル樹脂>
結晶性ポリエステル樹脂とは、多価カルボン酸と、多価アルコールとの重縮合反応によって得られるポリエステル樹脂のうち、結晶性を示すものをいう。
【0049】
結晶性を示すとは、DSCにより得られる吸熱曲線において、融点すなわち昇温時に、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有することをいう。明確な吸熱ピークとは、10℃/minの昇温速度で昇温したときの吸熱曲線において半値幅が15℃以内のピークをいう。
【0050】
(結晶性ポリエステル樹脂A)
本発明に係る結晶性ポリエステル樹脂は、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸と炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールを重縮合させて得られる結晶性ポリエステル樹脂であり、前記ジカルボン酸の炭素原子数と前記ジアルコールの炭素原子数の合計が、18~24の範囲内であることを特徴とする。以下、この条件を満たす結晶性ポリエステル樹脂を「結晶性ポリエステル樹脂A」という。なお、結晶性ポリエステル樹脂Aは、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸及びジアルコール以外の成分を原料モノマーとして用いていてもよい。
【0051】
また、結晶性ポリエステル樹脂Aに使用するジアルコール及びジカルボン酸の炭素原子数の合計は18~22の範囲内であることが、低温定着性がより良好となる点で好ましい。
【0052】
本発明に係るトナー粒子が含有する結晶性ポリエステル樹脂の総量のうち、結晶性ポリエステル樹脂Aの割合が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明に係るトナー粒子が含有する結晶性ポリエステル樹脂の総量のうち全てが結晶性ポリエステル樹脂Aであることが最も好ましい。結晶性ポリエステル樹脂Aの割合が高いほど本発明の効果が高くなる。
【0053】
結晶性ポリエステル樹脂Aは、低温定着性とタッキング抑制の両立の観点から、原料モノマーである多価カルボン酸中においては、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸の割合が高いほど良く、具体的には90mol%以上であることが好ましい。また、原料モノマーである多価アルコール中においては、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸の割合が高いほど良く、具体的には90mol%以上であることが好ましい。
【0054】
炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸としては、以下の直鎖ジカルボン酸が好ましい。
炭素原子数9 :アゼライン酸(ノナン二酸、1,7-ヘプタンジカルボン酸)
炭素原子数10:セバシン酸(デカン二酸、1,8-オクタンジカルボン酸)
炭素原子数11:ウンデカンジオン酸(ウンデカン二酸、1,9-ノナンジカルボン酸)
炭素原子数12:ドデカンジオン酸(ドデカン二酸、1,10-デカンジカルボン酸)
炭素原子数13:トリデカンジオン酸(トリデカン二酸、1,11-ウンデカンジカルボン酸)
炭素原子数14:テトラデカンジオン酸(テトラデカン二酸、1,12-ドデカンジカルボン酸)
【0055】
炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールとしては、以下の直鎖ジアルコールが好ましい。
炭素原子数9 :1,9-ノナンジオール
炭素原子数10:1,10-デカンジオール
炭素原子数11:1,11-ウンデカンジオール
炭素原子数12:1,12-ドデカンジオール
炭素原子数13:1,13-トリデカンジオール
炭素原子数14:1,14-テトラデカンジオール
【0056】
結晶性ポリエステル樹脂Aは、低温定着性とタッキング抑制の両立の観点から、重縮合させる原料モノマーである多価カルボン酸のうち、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸の割合は高いほど良く、また、当該結晶性ポリエステル樹脂は、重縮合させる原料モノマーである多価アルコールのうち90mol%以上が、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸であることが好ましい。
【0057】
結晶性ポリエステル樹脂Aは、低温定着性とタッキング抑制の両立の観点から、重合させる原料モノマーとなるジカルボン酸の炭素原子数とジアルコールの炭素原子数が同数であることが好ましい。また、結晶性ポリエステル樹脂Aは、セバシン酸と1,10-デカンジオールを重縮合させて得られる結晶性ポリエステル樹脂であることが特に好ましい。
【0058】
(その他の結晶性ポリエステル樹脂)
本発明に係るトナー粒子が含有し得る結晶性ポリエステル樹脂A以外の結晶性ポリエステル樹脂については、重縮合させる原料モノマー等は特に限定されない。
【0059】
多価カルボン酸としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n-ドデシルコハク酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸や、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸や、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸や、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸や、これらカルボン酸化合物の無水物、又は炭素数1~3のアルキルエステルなどを用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
多価アルコールとしては、例えば1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオールなどの脂肪族ジオールや、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上の多価アルコールなどを用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
(結晶性ポリエステル樹脂の合成方法)
結晶性ポリエステル樹脂の合成方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価アルコール成分及び多価カルボン酸成分を重縮合する(エステル化する)ことにより合成することができる。
【0062】
上記の多価アルコール成分と多価カルボン酸成分との使用比率としては、多価カルボン酸成分のカルボキシ基に対する多価アルコール成分のヒドロキシ基の当量比を、1.5/1~1/1.5の範囲内とすることが好ましく、1.2/1~1/1.2の範囲内とすることがより好ましい。
【0063】
結晶性ポリエステル樹脂の合成の際に使用可能な触媒としては、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属化合物、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属化合物、アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム等の金属化合物、亜リン酸化合物、リン酸化合物、アミン化合物等が挙げられる。スズ化合物としては、酸化ジブチルスズ、オクチル酸スズ、ジオクチル酸スズ、これらの塩等などを挙げることができる。チタン化合物としては、テトラノルマルブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのチタンアルコキシド、ポリヒドロキシチタンステアレートなどのチタンアシレート、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートなどのチタンキレートなどを挙げることができる。ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウムなどを挙げることができる。アルミニウム化合物としては、ポリ水酸化アルミニウムなどの酸化物、アルミニウムアルコキシド、トリブチルアルミネートなどを挙げることができる。これらは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
重合温度や重合時間は特に限定されるものではなく、重合中には必要に応じて反応系内を減圧してもよい。
【0065】
(結晶性ポリエステル樹脂の酸価)
本発明における結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、20~30mgKOH/gの範囲内であることが、低温定着性及び製造安定性の観点から好ましい。
【0066】
酸価は、1gの試料に含まれる酸の中和に必要な水酸化カリウム(KOH)の質量をmg単位で表したものである。樹脂の酸価は、JIS K0070-1966に準じて下記手順により測定される。
【0067】
[試薬の準備]
フェノールフタレイン1.0gをエチルアルコール(95体積%)90mLに溶解し、イオン交換水を加えて100mLとし、フェノールフタレイン溶液を調製する。JIS特級水酸化カリウム7gをイオン交換水5mLに溶解し、エチルアルコール(95体積%)を加えて1リットルとする。炭酸ガスに触れないように、耐アルカリ性の容器に入れて3日間放置後、濾過して、水酸化カリウム溶液を調製する。標定はJIS K0070-1966の記載に従う。
【0068】
[本試験]
粉砕した試料2.0gを200mLの三角フラスコに精秤し、トルエン/エタノール(2:1)の混合溶液100mLを加え、5時間かけて溶解する。次いで、指示薬として調製したフェノールフタレイン溶液を数滴加えて、調製した水酸化カリウム溶液を用いて滴定する。なお、滴定の終点は指示薬の薄い紅色が約30秒間続いた時とする。
【0069】
[空試験]
試料を用いない(すなわち、トルエン/エタノール(2:1)の混合溶液のみとする)こと以外は、上記本試験と同様の操作を行う。
【0070】
[算出]
本試験と空試験の滴定結果を下記式(1)に代入して酸価を算出する。
式(1) A=〔(B-C)×f×5.6〕/S
A:酸価(mgKOH/g)
B:空試験時の水酸化カリウム溶液の添加量(mL)
C:本試験時の水酸化カリウム溶液の添加量(mL)
f:0.1mol/リットルの水酸化カリウムエタノール溶液のファクター
S:試料の質量(g)
【0071】
(結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量)
結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、1000~29000の範囲内であることが好ましい。
1000以上であると、結晶性ポリエステル樹脂が溶融後、相溶しすぎることがなく、結晶化が進行し、タッキング抑制の点で優れる。また、29000以下であると、結晶性ポリエステル樹脂が溶融時に相溶しやすく、低温定着性の点で優れる。
【0072】
結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量の測定法は以下のとおりである。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC-8320GPC:東ソー株式会社
製)、カラム「TSKgel guardcolumn SuperHZ-L」1本及び「TSKgelSuperHZM-M」3本(いずれも東ソー株式会社製)を連結したものを用いて測定することができる。
カラム(TSK-)を40℃で安定化させ、この温度におけるカラムに、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.35mL/minで流す。試料濃度が1mg/mLになるように調整した測定試料(樹脂)のTHF試料溶液をロールミルを用いて室温にて10分間処理し、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して、試料溶液を得る。この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒とともに装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出する。
分子量分布が単分散のポリスチレン標準試料を用いて作成された検量線に基づいて、測定試料の分子量分布を算出する。検量線は、東ソー株式会社製「polystylene標準試料TSK standard」:「A-500」、「F-1」、「F-10」、「F-80」、「F-380」、「A-2500」、「F-4」、「F-40」、「F-128」、「F-700」の10サンプルから作製する。なお、試料解析におけるデータ収集間隔は300msとする。
【0073】
なお、結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、以下のようにしてトナー中の結晶性ポリエステル樹脂と離型剤とを分離してから、上記のような測定法により算出することができる。まず、トナーに対する貧溶媒であるエタノールにトナーを分散させ、結晶性ポリエステル樹脂及びワックスの融点を超える温度まで、昇温させる。このとき、必要に応じて、加圧してもよい。この時点で、融点を超えた結晶性ポリエステル樹脂及びワックスが溶融している。その後、固液分離することにより、トナーから、結晶性ポリエステル樹脂及びワックスの混合物を採取できる。この混合物を分子量毎に分種することにより、結晶性ポリエステル樹脂とワックスを分離できる。
【0074】
(結晶性ポリエステル樹脂の融点)
結晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)は、十分な低温定着性及び優れた耐ホットオフセット性を得る観点から、55~90℃の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは70~85℃である。
結晶性ポリエステル樹脂の融点は、樹脂組成によって制御することができる。
【0075】
なお、融点(Tm)は、吸熱ピークのピークトップの温度であり、DSCにより測定することができる。
具体的には、試料をアルミニウム製パンKITNO.B0143013に封入し、熱分析装置 ダイヤモンドDSC(パーキンエルマー社製)のサンプルホルダーにセットして、加熱、冷却、加熱の順に温度を変動させる。1回目の加熱時には室温(25℃)から、2回目の加熱時には0℃から、10℃/minの昇温速度でそれぞれ150℃まで昇温して150℃を5分間保持し、冷却時には、10℃/minの降温速度で150℃から0℃まで降温して0℃の温度を5分間保持する。2回目の加熱時に得られる吸熱曲線における吸熱ピークのピークトップの温度を融点として測定する。
【0076】
(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂)
本発明に係るトナー粒子が含有する結晶性ポリエステル樹脂Aは、結晶性ポリエステル重合セグメントと、非晶性重合セグメントとが、化学的に結合したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂であることが、低温定着性の観点から好ましい。
また、非晶性重合セグメントがスチレン由来の構成単位を有するビニル重合セグメントであることが特に好ましい。
【0077】
「結晶性ポリエステル重合セグメント」とは、結晶性ポリエステル樹脂に由来する部分を意味する。すなわち、前述した結晶性ポリエステル樹脂を構成する分子鎖と同じ化学構造の分子鎖を意味する。また、「非晶性重合セグメント」とは、非晶性樹脂に由来する部分を意味する。すなわち、非晶性樹脂を構成する分子鎖と同じ化学構造の分子鎖を意味する。
【0078】
化学的に結合している構造については特に制限はなく、ブロック共重合体であってもよく、グラフト共重合体であってもよい。結晶性ポリエステル重合セグメントが、非晶性重合セグメントを主鎖として、グラフト化されていると好ましい。すなわち、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、主鎖として前記非晶性重合セグメントを有し、側鎖として前記結晶性ポリエステル重合セグメントを有するグラフト共重合体であると好ましい
【0079】
結晶性ポリエステル重合セグメントは、上記した結晶性ポリエステル樹脂と同様であり、前述した多価カルボン酸と、多価アルコールとの重縮合反応によって得られるポリエステル樹脂に由来する部分である。結晶性ポリエステル重合セグメントは、多価カルボン酸及び多価アルコールから、前述した結晶性ポリエステル樹脂と同様に合成され得る。
【0080】
結晶性ポリエステル重合セグメントの含有量は、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の全量に対して80質量%以上98質量%以下であることが好ましく、90質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に十分な結晶性を付与することができる。
【0081】
非晶性重合セグメントは、結着樹脂としてトナー粒子に含有される非晶性樹脂(例えば非晶性ビニル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂)と同種の樹脂で構成されることが、結着樹脂との親和性を高め、トナーの帯電均一性を高める観点から好ましい。このような形態とすることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂と非晶性樹脂との親和性がより向上する。「同種の樹脂」とは、繰り返し単位中に特徴的な化学結合を有する樹脂同士のことを意味する。
【0082】
「特徴的な化学結合」とは、物質・材料研究機構(NIMS)物質・材料データベース(http://polymer.nims.go.jp/PoLyInfo/guide/jp/term_polymer.html)に記載の「ポリマー分類」に従う。すなわち、ポリアクリル、ポリアミド、ポリ酸無水物、ポリカーボネート、ポリジエン、ポリエステル、ポリハロオレフィン、ポリイミド、ポリイミン、ポリケトン、ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリフェニレン、ポリホスファゼン、ポリシロキサン、ポリスチレン、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリビニル及びその他のポリマーの計22種によって分類されたポリマーを構成する化学結合を「特徴的な化学結合」という。
【0083】
また、樹脂が共重合体である場合における「同種の樹脂」とは、共重合体を構成する複数のモノマー種の化学構造において、上記化学結合を有するモノマー種を構成単位としている場合、特徴的な化学結合を共通に有する樹脂同士を意味する。したがって、樹脂自体の示す特性が互いに異なる場合や、共重合体中を構成するモノマー種のモル成分比が互いに異なる場合であっても、特徴的な化学結合を共通に有していれば同種の樹脂とみなす。
【0084】
例えばスチレン、ブチルアクリレート及びアクリル酸によって形成される樹脂(又は重合セグメント)と、スチレン、ブチルアクリレート及びメタクリル酸によって形成される樹脂(又は重合セグメント)とは、少なくともポリアクリルを構成する化学結合を有しているため、これらは同種の樹脂である。さらに例示すると、スチレン、ブチルアクリレート及びアクリル酸によって形成される樹脂(又は重合セグメント)と、スチレン、ブチルアクリレート、アクリル酸、テレフタル酸及びフマル酸によって形成される樹脂(又は重合セグメント)とは、互いに共通する化学結合として、少なくともポリアクリルを構成する化学結合を有している。従って、これらは同種の樹脂である。
【0085】
非晶性重合セグメントは、両性化合物をモノマーにさらに含有することが、上記結晶性ポリエステル重合セグメントとの化学的な結合部位を上記非晶性重合セグメントに導入する観点から好ましい。非晶性重合セグメントにおける上記両性化合物に由来する構成単位の含有量は、0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0086】
本発明における「両性化合物」とは、結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性重合セグメントを結合するモノマーであり、分子内に結晶性ポリエステル重合セグメントと反応し得るヒドロキシ基、カルボキシ基、エポキシ基、第1級アミノ基、第2級アミノ基等の置換基と、非晶性重合セグメントと反応し得るエチレン性不飽和基と、を有するモノマーである。中でも、ヒドロキシ基又はカルボキシ基と、エチレン性不飽和基とを有するビニルカルボン酸が好ましい。
【0087】
両性化合物としては、例えば(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸等を使用でき、これらのヒドロキシアルキル(炭素原子数1~3個)のエステルを使用してもよい。反応性の観点からは、アクリル酸、メタクリル酸又はフマル酸が好ましい。
【0088】
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂における非晶性重合セグメントの含有量は、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に十分な結晶性を付与する観点から、2質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましく、7質量%以上9質量%以下であることが特に好ましい。
【0089】
非晶性重合セグメントを構成する樹脂成分は特に制限されないが、例えばビニル重合セグメント、ウレタン重合セグメント、ウレア重合セグメントなどが挙げられる。なかでも、熱可塑性を制御しやすいという理由から、ビニル重合セグメントが好ましい。
【0090】
ビニル重合セグメントとしては、ビニル化合物を重合したものであれば特に制限されないが、例えばアクリル酸エステル重合セグメント、スチレン-アクリル酸エステル重合セグメント、エチレン-酢酸ビニル重合セグメントなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0091】
ビニル重合セグメントのなかでも、熱定着時の可塑性を考慮すると、スチレン由来の構成単位を有するものが好ましい。以下では、スチレン由来の構成単位を有する非晶性重合セグメントとして、スチレンアクリル重合セグメントについて説明する。
【0092】
スチレンアクリル重合セグメントは、少なくとも、スチレンモノマーと、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、を付加重合させて形成されるものである。ここでいうスチレンモノマーは、CH2=CH-C6H5の構造式で表されるスチレンの他に、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有する構造のものを含むものである。また、ここでいう(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、CH2=CHCOOR(Rはアルキル基)で表されるアクリル酸エステル化合物や、メタクリル酸エステル化合物の他に、アクリル酸エステル誘導体やメタクリル酸エステル誘導体等の構造中に公知の側鎖や官能基を有するエステル化合物を含むものである。
【0093】
以下に、スチレンアクリル重合セグメントの形成が可能なスチレンモノマー及び(メタ)アクリル酸エステルモノマーの具体例を示すが、本発明で使用されるスチレンアクリル重合セグメントの形成に使用可能なものは以下に限定されない。
【0094】
スチレンモノマーの具体例としては、例えばスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン等が挙げられる。これらスチレンモノマーは、単独でも用いることができ、2種以上組み合わせても用いることができる。
【0095】
また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの具体例としては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、フェニルアクリレート等のアクリル酸エステルモノマー;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル等が挙げられる。これらのうち、長鎖アクリル酸エステルモノマーを使用することが好ましい。具体的には、メチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートが好ましい。
【0096】
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(あるいはトナー)中の各セグメントの構成成分(化学構造)及びその含有量は、例えば核磁気共鳴(NMR)測定、メチル化反応熱分解ガスクロマトグラフィー/質量分析法(Py-GC/MS)などの公知の分析方法を利用することにより特定することができる。
【0097】
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の合成方法は、上記結晶性ポリエステル重合セグメントと、非晶性重合セグメントとを化学結合させた構造の重合体を形成することが可能な方法であれば、特に制限されるものではない。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の具体的な合成方法としては、例えば以下に示す第1から第3までの合成方法によって合成することができる。
【0098】
[第1の合成方法]
第1の合成方法は、予め合成された非晶性重合セグメントの存在下で結晶性ポリエステル重合セグメントを合成する重合反応を行ってハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を合成する方法である。
【0099】
[第2の合成方法]
第2の合成方法は、結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性重合セグメントとをそれぞれ形成しておき、これらを結合させてハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を合成する方法である。
【0100】
[第3の合成方法]
第3の合成方法は、結晶性ポリエステル重合セグメントの存在下で非晶性重合セグメントを合成する重合反応を行ってハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を合成する方法である。
【0101】
上記第1から第3までの合成方法の中でも、第1の合成方法は、非晶性重合鎖(非晶性樹脂鎖)に結晶性ポリエステル重合鎖(結晶性ポリエステル樹脂鎖)をグラフト化した構造のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を合成しやすいことや生産工程を簡素化できるため好ましい。第1の製造方法は、非晶性重合セグメントを予め形成してから結晶性ポリエステル重合セグメントを結合させるため、結晶性ポリエステル重合セグメントの配向が均一になりやすい。したがって、上記トナーに適したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を確実に合成する観点から好ましい。
【0102】
<非晶性ポリエステル樹脂>
非晶性ポリエステル樹脂とは、多価カルボン酸と、多価アルコールとの重縮合反応によって得られるポリエステル樹脂のうち、非晶性を示すものをいう。
【0103】
「非晶性を示す」とは、示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)により得られる吸熱曲線において、ガラス転移点(Tg)を有するが、融点すなわち昇温時の明確な吸熱ピークがないことをいう。明確な吸熱ピークとは、10℃/minの昇温速度で昇温したときの吸熱曲線において半値幅が15℃以内の吸熱ピークをいう。
【0104】
本発明に係るトナー粒子は、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸又は炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールに由来する構成単位を含有する非晶性ポリエステル樹脂を含有することを特徴とする。これにより、定着時の結晶性ポリエステル樹脂への相溶性と、定着後の結晶化のしやすさを両立することができる。
【0105】
また、トナー粒子が含有する非晶性ポリエステル樹脂の総量に対して、炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸又は炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールに由来する構成単位を1~20mol%の範囲内で含有することが、低温定着性とタッキング抑制の両立の観点から好ましい。さらに、より好ましくは4~16mol%の範囲内である。
【0106】
本発明の効果の観点から、非晶性ポリエステル樹脂が含有する炭素原子数が9~14の範囲内であるジカルボン酸又は炭素原子数が9~14の範囲内であるジアルコールに由来する構成単位は、結晶性ポリエステル樹脂Aの原料モノマーと同一のジカルボン酸又はジアルコールに由来する構成単位であることが好ましい。例えば結晶性ポリエステル樹脂Aの原料モノマーがセバシン酸と1,10-デカンジオールである場合、非晶性ポリエステル樹脂は、セバシン酸又は1,10-デカンジオールの少なくともいずれかに由来する構成単位を含有することが好ましい。
【0107】
当該構成単位の由来となるジカルボン酸以外の多価カルボン酸としては、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、マロン酸、メサコニン酸、イソフタル酸ジメチル、フマル酸、ドデセニルコハク酸等を挙げることができる。
【0108】
当該構成単位の由来となるジカルボン酸以外の多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物(BPA-EO)、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(BPA-PO)、グリセリン、ソルビトール、1,4-ソルビタン、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。
【0109】
(非晶性ポリエステル樹脂の合成方法)
非晶性ポリエステル樹脂の合成方法は、特に制限されず、上述したような公知のエステル化触媒を利用して、上記多価アルコール成分及び多価カルボン酸成分を重縮合する(エステル化する)ことにより合成することができる。
【0110】
重合温度や重合時間も特に限定されるものではなく、重合中には必要に応じて反応系内を減圧してもよい。
【0111】
(非晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量)
非晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10000~100000の範囲内であることが好ましい。
非晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、上述の結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量と同様にして測定することができる。
【0112】
(非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点)
非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)は、十分な低温定着性と耐熱保管性を両立する観点からは、25~60℃の範囲内であることが好ましい。
【0113】
ガラス転移点(Tg)は、示差走査熱量測定装置、例えばダイヤモンドDSC(パーキンエルマー社製)を用いて測定することができる。具体的には、試料3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、加熱、冷却、加熱の順に温度を変動させる。1回目の加熱時には室温(25℃)から、2回目の加熱時には0℃から、10℃/minの昇温速度でそれぞれ200℃まで昇温して、150℃を5分間保持した。冷却時には、10℃/minの降温速度で200℃から0℃まで降温して、0℃の温度を5分間保持した。2回目の加熱時に得られた測定曲線においてベースラインのシフトを観察し、シフトする前のベースラインの延長線と、ベースラインのシフト部分の最大傾斜を示す接線との交点をガラス転移点(Tg)とする。リファレンスとして、空のアルミニウム製パンを用いる。
【0114】
(ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂)
本発明に係るトナー粒子が含有する非晶性ポリエステル樹脂は、非晶性ポリエステル重合セグメントと、非晶性ポリエステル以外の非晶性重合セグメントとが、化学的に結合したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂であることが、低温定着性の観点から好ましい。
また、非晶性ポリエステル以外の非晶性重合セグメントがスチレン由来の構成単位を有するビニル重合セグメントであることが特に好ましい。
【0115】
非晶性ポリエステル重合セグメントとは、非晶性ポリエステル樹脂に由来する部分を意味する。すなわち、前述した非晶性ポリエステル樹脂を構成する分子鎖と同じ化学構造の分子鎖を意味する。
【0116】
非晶性ポリエステル重合セグメントの含有量は、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の全量に対して50~99.9質量%であることが好ましく、70~95質量%であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、耐熱性を維持しながらより低温定着化が図れると共に、非晶性ビニル樹脂との親和性のバランス取りが可能という利点が得られる。
【0117】
ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂のその他の事項(構成成分、合成方法等)については、結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性ポリエステル重合セグメントが異なる以外は上述したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂と同様である。
【0118】
<非晶性ビニル樹脂>
非晶性ビニル樹脂とは、ビニル基を有するモノマー(以下、ビニルモノマーという。)の重合体のうち、非晶性を示すものをいう。
【0119】
使用できるビニル系樹脂としては、スチレン・アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、中でも耐熱性に優れるスチレン・アクリル樹脂が好ましい。
【0120】
使用できるビニルモノマーとしては、以下のものが挙げられ、これらのうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0121】
(1)スチレン系モノマー
スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン及びこれらの誘導体等のスチレン構造を有するモノマー
(2)(メタ)アクリル酸エステル系モノマー
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル及びこれらの誘導体等の(メタ)アクリル基を有するモノマー
(3)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル等
(4)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等
(5)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトン等
(6)N-ビニル化合物類
N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドール、N-ビニルピロリドン等
(7)その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジン等のビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等のアクリル酸、メタクリル酸誘導体等
【0122】
ビニルモノマーとしては、結晶性樹脂との親和性の制御が容易になることから、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等のイオン性解離基を有するモノマーを用いることが好ましい。
カルボキシ基を有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等が挙げられる。
スルホン酸基を有するモノマーとしては、スチレンスルホン酸、アリルスルホコハク酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
リン酸基を有するモノマーとしては、アシドホスホオキシエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0123】
さらに、ビニルモノマーとして多官能性ビニル類を使用し、架橋構造を有する重合体を得ることもできる。
多官能性ビニル類としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート等が挙げられる。
【0124】
非晶性ビニル樹脂の好ましい重量平均分子量(Mw)及びガラス転移点(Tg)は上述の非晶性ポリエステル樹脂と同様である。
【0125】
<樹脂組成の分析方法>
トナー粒子が含有する各樹脂の組成は、例えば熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS:Gas Chromatography/Mass Spectrometry)法により分析することができる。
具体的には、特定の構造を有するモノマーを検出できることを確認したカラム及び検出器を用いて、標準添加法により定量することができる。
【0126】
詳細な熱分解条件及びGC/MSの測定条件の一例を以下に示す。
(熱分解条件)
測定装置:PY-2020iD(フロンティア・ラボ社製)
測定の質量:0.1mg
加熱温度:550℃
加熱時間:0.5分
(GC/MSの測定条件)
測定装置:QP2010島津製作所製
カラム:UltraALLOY-5(内径:0.25mm、長さ:30m、厚さ:0.25μm、フロンティア・ラボ社製)
昇温範囲:40℃~320℃(320℃で保持)
昇温速度:20℃/分
【0127】
≪離型剤≫
本発明に係るトナー粒子は、離型剤としてエステルワックスを含有することを特徴とする。これにより、タッキングを抑制することができる。
本発明に係るトナー粒子は、エステルワックス以外の離型剤も含有していてもよいが、エステルワックスの含有量が離型剤の合計含有量のうち20質量%以上であることが好ましい。離型剤の合計含有量は、トナー粒子のうち3~15質量%の範囲内であることが好ましい。
【0128】
エステルワックスは、モノエステル系ワックス、ジエステル系ワックス、トリエステル系ワックス、テトラエステル系ワックス及びエステル結合を5個以上有するワックスのいずれでもよい。
【0129】
エステルワックスの例には、高級脂肪酸と高級アルコールとの反応により得られるモノエステル化物、高級脂肪酸と2価のアルコールとの反応又は高級アルコールと2価のカルボン酸との反応により得られるジエステル化物、トリメチロールプロパンと高級脂肪酸とのトリエステル化物、グリセリンと高級脂肪酸とのトリエステル化物、ペンタエリスリトールと高級脂肪酸とのテトラエステル化物、クエン酸などのヒドロキシ酸と高級脂肪酸又は高級アルコールとの反応により得られるエステル化物、及びリング酸などの芳香族を有するカルボン酸又はアルコールと高級脂肪酸又は高級アルコールとの反応により得られるエステル化物などが含まれる。
【0130】
上記高級脂肪酸及び高級アルコールが有する炭化水素鎖は、炭素数13以上30以下の炭化水素鎖であることが好ましく、炭素数17以上22以下の炭化水素鎖であることがより好ましい。上記2価のアルコール及び2価のカルボン酸は、炭素数1以上30以下の炭化水素基の両端に2つのヒドロキシ基又は2つのカルボキシ基を有する化合物であることが好ましい。
【0131】
なお、上記各炭化水素基は、直鎖又は分岐を有するアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基、非芳香族複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、カルバモイル基、ウレイド基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基又はヘテロアリールスルホニル基、アミノ基、ハロゲン原子、フッ化炭化水素基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、チオール基、シリル基、及び重水素原子などで置換されていてもよい。
【0132】
エステルワックスの具体例には、ベヘン酸ベヘニル、トリグリセロールベヘン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラステアリン酸エステル、ステアリン酸ステアリル、ペンタエリスリトールテトラベヘン酸エステル、エチレングリコールステアリン酸エステル、エチレングリコールベヘン酸エステル、ネオペンチルグリコールステアリン酸エステル、ネオペンチルグリコールベヘン酸エステル、1,6-ヘキサンジオールステアリン酸エステル、1,6-ヘキサンジオールベヘン酸エステル、グリセリンステアリン酸エステル、グリセリンベヘン酸エステル、クエン酸ステアリル、クエン酸ベヘニル、リング酸ステアリル、リング酸ベヘニル等が含まれる。エステルワックスは、カルナウバワックスなどの天然ワックスであってもよい。
【0133】
また、本発明に係るトナー粒子は、タッキングの抑制の観点から、フィッシャートロプシュワックスを更に含有することが好ましい。なお、フィッシャートロプシュワックスとは、一酸化炭素と水素とからなる合成ガスから合成される炭化水素の蒸留残分から、又はこれらに水素添加して得られる炭素数16~78の炭化水素化合物である。フィッシャートロプシュワックスの含有量は、離型剤の合計含有量のうち10~50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0134】
その他の離型剤としては、例えば低分子量ポリエチレンワックス、低分子量ポリプロピレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス等を含有していてもよい。
【0135】
≪着色剤≫
本発明に係るトナー母体粒子が含有する着色剤としては、公知の無機又は有機着色剤を使用することができる。着色剤としてはカーボンブラック、磁性粉のほか、各種有機、無機の顔料、染料等が使用できる。
着色剤の含有量はトナー粒子に対して1~20質量%、好ましくは2~10質量%の範囲内である。
【0136】
≪荷電制御剤≫
本発明に係るトナー粒子が含有し得る荷電制御剤としては、ニグロシン系染料、ナフテン酸又は高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩、アゾ系金属錯体、サリチル酸金属塩等の公知の化合物を用いることができる。荷電制御剤により、帯電特性に優れたトナーを得ることができる。
荷電制御剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、通常0.1~5.0質量部の範囲内とすることができる。
【0137】
≪外添剤≫
トナー粒子は、そのままトナーとして用いることができるが、流動性、帯電性、クリーニング性等を改良するため、流動化剤、クリーニング助剤等の外添剤で処理されていてもよい。
【0138】
外添剤としては、例えばシリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子等の無機酸化物微粒子や、ステアリン酸アルミニウム微粒子、ステアリン酸亜鉛微粒子等の無機ステアリン酸化合物微粒子、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛等の無機チタン酸化合物微粒子等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これら無機粒子は、耐熱保管性及び環境安定性の向上の観点から、シランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸、シリコーンオイル等によって、光沢処理が行われていることが好ましい。
【0139】
外添剤の添加量(複数の外添剤を用いる場合はその合計の添加量)は、トナー100質量部に対して0.05~5質量部の範囲内であることが好ましく、0.1~3質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0140】
≪コア・シェル構造≫
トナー粒子は、そのままトナーとして用いることができるが、当該トナー粒子をコア粒子として当該コア粒子とその表面を被覆するシェル層とを備えるコア・シェル構造のような多層構造のトナー粒子であってもよい。シェル層は、コア粒子の全表面を被覆していなくてもよく、部分的にコア粒子が露出していてもよい。コア・シェル構造の断面は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)等の公知の観察手段によって、確認することができる。
【0141】
コア・シェル構造の場合は、コア粒子とシェル層でガラス転移点、融点、硬度等の特性を異ならせることができ、目的に応じたトナー粒子の設計が可能である。例えば結着樹脂、着色剤、離型剤等を含有し、ガラス転移点(Tg)が比較的低いコア粒子の表面に、ガラス転移点(Tg)が比較的高い樹脂を凝集・融着させて、シェル層を形成することができる。シェル層は、非晶性樹脂を含有することが好ましい。
【0142】
≪トナー粒子の粒径≫
トナー粒子の平均粒径としては、体積基準のメジアン径(d50)が3~10μmの範囲内にあることが好ましく、5~8μmの範囲内にあることがより好ましい。
上記範囲内にあれば、1200dpiレベルの非常に微小なドット画像であっても高い再現性が得られる。
なお、トナー粒子の平均粒径は、製造時に使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、結着樹脂の組成等によって制御することができる。
【0143】
トナー粒子の体積基準のメジアン径(d50)の測定には、マルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフトSoftware V3.51を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いることができる。
具体的には、測定試料(トナー)を、界面活性剤溶液(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を行い、トナー粒子分散液を調製する。このトナー粒子分散液を、サンプルスタンド内のISOTONII(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャー径を100μmとし、測定範囲である2~60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒径を体積基準のメジアン径(d50)として得る。
【0144】
≪トナー粒子の平均円形度≫
トナー粒子は、帯電特性の安定性及び低温定着性を高める観点から、平均円形度が0.930~1.000の範囲内にあることが好ましく、0.950~0.995の範囲内にあることがより好ましい。
平均円形度が上記範囲内にあれば、個々のトナー粒子が破砕しにくくなる。これにより、摩擦帯電付与部材の汚染を抑制してトナーの帯電性を安定させることができるとともに、形成される画像の画質を高めることができる。
【0145】
トナー粒子の平均円形度は、FPIA-3000(Sysmex社製)を用いて測定することができる。
具体的には、測定試料(トナー)を界面活性剤入り水溶液にて馴染ませ、超音波分散処理を1分間行って分散させる。その後、FPIA-3000(Sysmex社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3000~10000個の適正濃度で撮影を行う。HPF検出数が上記の範囲内であれば、再現性のある測定値を得ることができる。撮影した粒子像から、個々のトナー粒子の円形度を下記式(I)に従って算出し、各トナー粒子の円形度を加算して全トナー粒子数で除することにより、平均円形度を得る。
式(I)
円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
【0146】
≪静電荷像現像用トナーの製造方法≫
本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法としては、特に限定されず、混練粉砕法、懸濁重合法、乳化凝集法、溶解懸濁法、ポリエステル伸長法、分散重合法など公知の方法が挙げられる。これらの中でも、粒径の均一性、形状の制御性観点からは、乳化凝集法を採用することが好ましい。
【0147】
<乳化凝集法>
乳化凝集法とは、界面活性剤や分散安定剤によって分散された結着樹脂の粒子(以下、「結着樹脂粒子」ともいう。)の分散液を、必要に応じて着色剤の粒子(以下、「着色剤粒子」ともいう。)の分散液と混合し、所望のトナー粒子径となるまで凝集させ、さらに結着樹脂粒子間の融着を行うことにより形状制御を行って、トナー粒子を製造する方法である。ここで、結着樹脂の粒子は、必要に応じてエステルワックス、その他の離型剤、荷電制御剤などを含有する。
本発明に係るトナーの好ましい製造方法として、乳化凝集法を用いてコア・シェル構造を有するトナー粒子を得る場合の一例を以下に示す。
【0148】
(1)水系媒体中に着色剤粒子が分散されてなる着色剤粒子分散液を調製する工程
(2)水系媒体中に、必要に応じて内添剤(離型剤など)を含有した結着樹脂粒子が分散されてなる樹脂粒子分散液(コア用/シェル用樹脂粒子分散液)を調製する工程
(3)着色剤粒子分散液とコア用樹脂粒子分散液とを混合して凝集用樹脂粒子分散液を得て、凝集剤の存在下で着色剤粒子及び結着樹脂粒子を凝集、融着させてコア粒子としての凝集粒子を形成する工程(凝集・融着工程)
(4)コア粒子を含む分散液中に、シェル層用の結着樹脂粒子を含むシェル用樹脂粒子分散液を添加して、コア粒子表面にシェル層用の粒子を凝集、融着させてコア・シェル構造のトナー母体粒子を形成する工程(凝集・融着工程)
(5)トナー母体粒子の分散液(トナー母体粒子分散液)からトナー母体粒子を濾別し、界面活性剤などを除去する工程(洗浄工程)
(6)トナー母体粒子を乾燥する工程(乾燥工程)
(7)トナー母体粒子に外添剤を添加する工程(外添剤処理工程)
【0149】
コア・シェル構造を有するトナー粒子は、まず、コア粒子用の結着樹脂粒子と着色剤粒子とを凝集、融着させてコア粒子を作製し、次いで、コア粒子の分散液中にシェル層用の結着樹脂粒子を添加してコア粒子表面にシェル層用の結着樹脂粒子を凝集、融着させてコア粒子表面を被覆するシェル層を形成することにより得ることができる。しかしながら、例えば上記(4)の工程において、シェル用樹脂粒子分散液を添加せずに、単層の粒子から形成されるトナー粒子も同様に製造することができる。
【0150】
<外添処理>
トナー母体粒子に対する外添剤混合処理は、機械式混合装置を用いることができる。
機械式混合装置としては、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、タービュラーミキサー等が使用できる。これらの中で、ヘンシェルミキサーのように処理される粒子に剪断力を付与できる混合装置を用いて、混合時間を長くする又は撹拌羽根の回転周速を上げる等の混合処理を行えばよい。また、複数種類の外添剤を使用する場合、トナー母体粒子に対して全ての外添剤を一括で混合処理するか、または外添剤に応じて複数回に分けて分割して混合処理してもよい。
【0151】
外添剤の解砕度合いや付着強度は、上記機械式混合装置を用いて、混合強度、すなわち撹拌羽根の周速、混合時間、混合温度等を制御することによって調整することができる。
【0152】
≪静電荷像現像剤≫
本発明の静電荷像現像用トナーは、磁性又は非磁性の一成分静電荷像現像剤として使用することができる。また、キャリアと混合して二成分静電荷像現像剤として使用することもできる。トナーを二成分静電荷像現像剤として使用する場合において、キャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイト等の金属、それらの金属とアルミニウム、鉛等の金属との合金等の従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。
【0153】
また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂等の被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散した分散型キャリア等用いてもよい。
キャリアの体積基準のメジアン径(d50)としては、20~100μmの範囲内であることが好ましく、25~80μmの範囲内であることがより好ましい。
キャリアの体積基準のメジアン径(d50)は、例えば湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置ヘロス(HELOS)(SYMPATEC社製)により測定することができる。
【実施例0154】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0155】
<着色剤粒子分散液(シアン)の調製>
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加した溶液を撹拌しながら、着色剤として「C.I.ピグメントブルー15:3」420質量部を徐々に添加した。撹拌装置CLEARMIX(エム・テクニック株式会社製、「CLEARMIX」は同社の登録商標)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子分散液を調製した。
【0156】
当該分散液中の着色剤粒子は、体積基準のメジアン径が110nmであった。着色剤粒子の体積基準のメジアン径は、マイクロトラック粒度分布測定装置「UPA-150」(日機装株式会社製)を用いて測定した。以下、本実施例において、各粒子の粒径は同様の方法で測定した。
【0157】
<結晶性ポリエステル樹脂1(CP1)の合成>
下記のスチレンアクリル重合セグメントの原料モノマー、両性化合物及びラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた。
スチレン 36質量部
n-ブチルアクリレート 13質量部
アクリル酸(両性化合物) 2質量部
ジ-t-ブチルパーオキサイドラジカル(重合開始剤) 7質量部
【0158】
また、下記の結晶性ポリエステル重合セグメントの原料モノマーを、窒素ガス導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
セバシン酸 344質量部
1,10-デカンジオール 296質量部
【0159】
次いで、当該四つ口フラスコに、滴下ロートに入れた原料を、撹拌下で90分間かけて滴下した。その後、60分間熟成を行い、減圧下(8kPa)にて未反応のモノマーを除去した。なお、このとき除去されたモノマーの量は、上記の仕込みのモノマーの量に対してごく微量であった。
【0160】
次いで、エステル化触媒としてチタンテトラブトキサイド(Ti(O-n-Bu)4)を0.8質量部投入し、235℃まで昇温し、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
【0161】
次いで、200℃まで冷却した、減圧下(20kPa)にて更に1時間反応させた後、脱溶剤を行い、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂である結晶性ポリエステル樹脂1(CP1)を得た。
【0162】
結晶性ポリエステル樹脂1(CP1)は、重量平均分子量が21600であり、融点が77℃であり、酸価が18mgKOH/gであった。
【0163】
<結晶性ポリエステル樹脂2~13(CP2~CP13)の合成>
結晶性ポリエステル樹脂1(CP1)の合成において、ジカルボン酸モノマー及びジアルコールモノマーの種類及び量を、表Iの記載のとおりに変更した以外は同様にして、結晶性ポリエステル樹脂2~13(CP2~CP13)を得た。
【0164】
結晶性ポリエステル樹脂2~13(CP2~CP13)の重量平均分子量、融点及び酸価は、表1に記載のとおりである。
【0165】
<結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の調製>
上記合成した各結晶性ポリエステル樹脂100質量部を、400質量部の酢酸エチルに溶解し、0.26質量%のドデシル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合した。得られた混合液を撹拌しながら、超音波ホモジナイザーUS-150T(株式会社日本精機製作所製)によりV-LEVEL 300μAで30分間の超音波分散処理を行った。
【0166】
次いで、40℃に加温した状態で、ダイヤフラム真空ポンプV-700(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去して、固形分量が13.5質量%の各結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液を得た。
【0167】
当該分散液中の結晶性ポリエステル樹脂粒子は、体積基準のメジアン径が160nmであった。
【0168】
<非晶性ポリエステル樹脂1(AP1)の合成>
下記のスチレンアクリル重合セグメントの原料モノマー、両性化合物及びラジカル重合開始剤の混合液を滴下ロートに入れた。
スチレン 80質量部
n-ブチルアクリレート 20質量部
アクリル酸(両性化合物) 10質量部
ジ-t-ブチルパーオキサイドラジカル(重合開始剤) 16質量部
【0169】
また、下記の非晶性ポリエステル重合セグメントの原料モノマーを、窒素ガス導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を備えた四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 284.3質量部
1,10-デカンジオール 0.7質量部
テレフタル酸 66.2質量部
フマル酸 47.4質量部
セバシン酸 0.8質量部
【0170】
次いで、当該四つ口フラスコに、滴下ロートに入れた原料を、撹拌下で90分間かけて滴下した。その後、60分間熟成を行い、減圧下(8kPa)にて未反応のモノマーを除去した。なお、このとき除去されたモノマーの量は、上記の仕込みのモノマーの量に対してごく微量であった。
【0171】
次いで、エステル化触媒としてチタンテトラブトキサイド(Ti(O-n-Bu)4)を0.4質量部投入し、235℃まで昇温し、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間、反応を行った。
【0172】
次いで、200℃まで冷却し、減圧下(20kPa)にて更に1時間反応を行った後、脱溶剤を行い、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂である非晶性ポリエステル樹脂1(AP1)を得た。
【0173】
非晶性ポリエステル樹脂1(AP1)は、重量平均分子量が25000であり、ガラス転移点が60℃であった。
【0174】
<非晶性ポリエステル樹脂2~9(AP2~9)の合成>
非晶性ポリエステル樹脂1(AP1)の合成において、ジカルボン酸モノマー及びジアルコールモノマーの種類及び量を、表IIの記載のとおりに変更した以外は同様にして、非晶性ポリエステル樹脂2~9(AP2~AP9)を得た。
【0175】
非晶性ポリエステル樹脂2~9(AP2~AP9)の重量平均分子量及びガラス転移点は、表2に記載のとおりである。
【0176】
<非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の調製>
上記合成した各非晶性ポリエステル樹脂100質量部を、400質量部の酢酸エチルに溶解し、0.26質量%濃度のドデシル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合した。得られた混合液を撹拌しながら、超音波ホモジナイザーUS-150T(株式会社日本精機製作所製)によりV-LEVEL 300μAで30分間の超音波分散処理を行った。
【0177】
次いで、40℃に加温した状態で、ダイヤフラム真空ポンプV-700(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去して、固形分量が13.5質量%の各非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液を得た。
【0178】
当該分散液中の非晶性ポリエステル樹脂粒子は、体積基準のメジアン径が160nmであった。
【0179】
<非晶性ビニル樹脂(SP1)粒子分散液の調製>
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部およびイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた溶液を添加し、再度液温を80℃として、下記モノマーの混合液を1時間かけて滴下した。
スチレン 570質量部
n-ブチルアクリレート 165質量部
メタクリル酸 68質量部
【0180】
上記混合液の滴下後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより重合を行い、非晶性ビニル樹脂粒子分散液(1-a)を調製した。
【0181】
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム3質量部をイオン交換水1210質量部に溶解させた溶液を仕込み80℃に加熱した。加熱後、上記第1段重合により調製した非晶性ビニル樹脂粒子分散液(1-a)を固形分換算で60質量部と、下記モノマー、連鎖移動剤及び離型剤を80℃にて溶解させた混合液と、を添加した。
スチレン 245質量部
2-エチルヘキシルアクリレート 97質量部
メタクリル酸 30質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート 4質量部
ベヘン酸ベヘネート 170質量部
【0182】
上記離型剤として用いたベヘン酸ベヘネートの融点は73℃である。
【0183】
循環経路を有する撹拌装置CLEARMIX(エム・テクニック株式会社製、「CLEARMIX」は同社の登録商標)により、1時間の混合分散処理を行い、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。この分散液に、過硫酸カリウム5.2質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた重合開始剤の溶液、及びイオン交換水1000質量部を添加し、この系を84℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行って、非晶性ビニル樹脂粒子分散液(1-b)を調製した。
【0184】
(第3段重合)
上記第2段重合により得られた非晶性ビニル樹脂粒子分散液(1-b)に、過硫酸カリウム7質量部をイオン交換水130質量部に溶解させた溶液を添加した。さらに、82℃の温度条件下で、下記モノマー及び連鎖移動剤の混合液を1時間かけて滴下した。
スチレン 350質量部
メタクリル酸メチル 50質量部
アクリル酸n-ブチル 170質量部
メタクリル酸 35質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート 8質量部
【0185】
滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、非晶性ビニル樹脂1(SP1)粒子分散液を得た。
【0186】
当該分散液中の非晶性ビニル樹脂1(SP1)粒子は、体積基準のメジアン径が145nmであった。また、得られた非晶性ビニル樹脂1(SP1)の重量平均分子量は35000であり、ガラス転移点は37℃であった。
【0187】
非晶性ビニル樹脂1(SP1)粒子分散液の調製において、第2段重合時に使用する離型剤の種類と量を、以下のとおり変更した以外は同様にして、非晶性ビニル樹脂2(SP2)粒子分散液を得た。
ベヘン酸ベヘネート 136質量部
フィッシャートロプシュワックス 34質量部
【0188】
上記離型剤として用いたベヘン酸ベヘネートの融点は73℃、フィッシャートロプシュワックスの融点は90℃である。
【0189】
<トナーNo.1の製造>
撹拌装置、温度センサー及び冷却管を取り付けた反応容器に、上記調製した非晶性ビニル樹脂粒子分散液(SP1)を527質量部(固形分換算)、着色剤粒子分散液を33質量部(固形分換算)、イオン交換水500質量部を投入し、5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。さらに、塩化マグネシウム・六水和物60.8質量部をイオン交換水により2倍に希釈した溶液を、撹拌しながら、30℃において10分間かけて添加した。3分間放置した後、60分間かけて80℃まで昇温させた。80℃に到達後、塩化マグネシウム・六水和物10質量部をイオン交換水により2倍に希釈した溶液を、撹拌しながら、30℃において10分間かけて添加し、5分間放置した。
【0190】
次いで、上記の混合分散液に、下記の成分の混合した分散液を30分間かけて添加した。なお、下記の質量部は固形分換算したものである。
結晶性ポリエステル樹脂1(CP1)粒子分散液 35質量部
結晶性ポリエステル樹脂2(CP2)粒子分散液 35質量部
ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩 10質量部
【0191】
反応液の上澄みが透明になった時点で、粒径の成長速度が0.02μm/分となるように撹拌速度を調整し、コールターマルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)により測定した体積基準のメジアン径が5.8μmになった時点で、撹拌速度を調整し、粒径成長を停止させた。
【0192】
次いで、非晶性ポリエステル樹脂(AP1)粒子分散液70質量部(固形分換算)を30分間かけて投入し、反応液の上澄みが透明になった時点で、塩化ナトリウム80質量部をイオン交換水320質量部に溶解させた水溶液を添加し、粒径の成長を停止させた。
【0193】
次いで、昇温して80℃の状態で撹拌し、フロー式粒子像測定装置「FPIA-3000」(シスメックス社製)を用い、トナー母体粒子の平均円形度が0.970になった時点で反応液を10℃/分の冷却速度で25℃まで冷却し、トナー母体粒子の分散液を得た。
【0194】
次いで、固液分離を行い、脱水したトナー母体粒子のケーキをイオン交換水に再分散し、固液分離する操作を3回繰り返して洗浄した。洗浄後、35℃で24時間乾燥させることにより、トナー母体粒子を得た。
【0195】
得られたトナー母体粒子100質量部に、疎水性シリカ粒子(数平均一次粒径:12nm、疎水化度:68)0.6質量部、疎水性酸化チタン粒子(数平均一次粒径:20nm、疎水化度:63)1.0質量部及びゾルゲルシリカ(数平均一次粒径:110nm、疎水化度:63)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製)により回転翼周速40m/秒、32℃で20分間混合させた。混合後、45μmの目開きのふるいを用いて粗大粒子を除去し、トナーNo.1を得た。
【0196】
得られたトナーNo.1は、トナー粒子の体積基準のメジアン径が5.9μmであった。
【0197】
<トナーNo.2~29の製造>
トナーNo.1の製造において、非晶性ビニル樹脂粒子分散液、非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の種類と量をそれぞれ表IIIに記載のものに変更した以外は同様にして、トナーNo.2~29を得た。
【0198】
<現像剤No.1~29の製造>
上記製造したトナーと、アクリル樹脂を被覆した体積平均粒径32μmのフェライトキャリアとを、トナー濃度が6質量%となるように添加して混合した。こうして、トナーNo.1~29をそれぞれ含有する、二成分現像剤である現像剤No.1~29を製造した。
【0199】
<低温定着性の評価>
複合機「bizhub PRESS(登録商標) C1070」(コニカミノルタ株式会社製)の定着装置を、定着上ベルト及び定着下ローラーの表面温度を変更可能に改造したものを用い、二成分現像剤を順次装填した。上記装置について、定着温度、トナー付着量、システム速度を自由に設定できるように改造した。
常温・常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下において、A4サイズの上質紙「NPI上質(127.9g/m2)」(日本製紙社製)上で付着量を11.3g/m2となるように設定した。その後、100mm×100mmサイズの画像を定着させる定着実験を、設定される定着温度を110℃から2℃刻みで上げるように変更しながら180℃まで繰り返し行った。定着オフセットによる画像汚れが目視で確認されない最低の定着温度を最低定着温度(U.O.回避温度)とした。そして、下記評価基準にしたがって低温定着性について評価した。評価結果を表IVに示す。
【0200】
(評価基準)
◎:最低定着温度が135℃未満(低温定着性に優れる優良なトナー)
○:最低定着温度が135℃以上140℃未満(実用上問題ないレベル)
×:最低定着温度が140℃以上(目標とする通紙速度では十分定着しておらず、実用上問題があるレベル)
【0201】
<タッキングの評価>
複合機「bizhub PRESS(登録商標) C1070」(コニカミノルタ株式会社製)の定着装置を、定着上ベルト及び定着下ローラーの表面温度を変更可能に改造したものを用い、二成分現像剤を順次装填した。上記装置について、定着温度、トナー付着量、システム速度、排紙エアーを自由に設定できるように改造した。常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下において、A4サイズの塗工紙「OKトップコート+(157.0g/m2)」(王子製紙社製)上で付着量が10.2g/m2のベタ画像を出力する定着実験を、定着温度180℃にて800枚行った。
【0202】
紙表面温度を記録するため、排紙された画像のうち、1、100、200、300、400、500、600、700枚目の画像に熱電対「モールド型表面センサー:MF-O-K」(東亜機器)を紙中心部に張り付けた。定着された画像が排紙トレイに800枚すべて積載されたのちに、紙温度が冷えるまで8時間放置した。紙が排紙されてから冷えるまでの間に到達した最高温度をその紙における測定温度とした。
【0203】
8時間放置した後に重ね合った画像同士がどれだけくっついているか1、100、200、300、400、500、600、700枚目の画像に対して評価を行った。
【0204】
以下の評価基準にしたがってOKレベルとなった画像における測定温度をタッキング解消温度とした。なお、測定温度は排紙エアーの風量を変更することで制御することができ、1、100、200、300、400、500、600、700枚目の画像すべてにおいてNGとなった場合は、排紙エアーの風量を大きくし、再度同様の実験をOKレベルの画像が出るまで繰り返した。
【0205】
(評価基準)
OK:簡単に手で剥がせ、トナー画像面が荒れていない。
NG:剥がした後にトナー画像面が荒れている。
【0206】
タッキング解消温度を表IVに示す。タッキング解消温度が高いほどタッキングを生じさせにくいトナーであり、56℃以上が合格レベルである。
【0207】
【0208】
【0209】
【0210】
【0211】
上記結果に示されるように、本発明のトナーは、比較例のトナーに比べて、低温定着性及びタッキング抑制の観点で優れていることが分かる。