(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161528
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】ラケット用のストリング
(51)【国際特許分類】
A63B 51/02 20150101AFI20221014BHJP
A63B 102/02 20150101ALN20221014BHJP
A63B 102/04 20150101ALN20221014BHJP
A63B 102/06 20150101ALN20221014BHJP
【FI】
A63B51/02
A63B102:02
A63B102:04
A63B102:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066423
(22)【出願日】2021-04-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鯨井 悠子
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 建彦
(72)【発明者】
【氏名】志賀 一喜
(72)【発明者】
【氏名】島根 佑太
(57)【要約】
【課題】打球感及び耐久性のバランスに優れたラケット用ストリングの提供。
【解決手段】ラケット用ストリング10の製造方法は、
(A)25℃における損失弾性率E”が500Pa未満である未処理ストリングを準備する工程、
及び
(B)上記未処理ストリングに放射線を照射して、25℃における損失弾性率E”を500Pa以上に高める工程
を含む。好ましくは、未処理ストリングにγ線が照射される。好ましい照射量は、250kGy以上2000kGy以下である。未処理ストリングの好ましい材質は、ポリエステルを基材とする樹脂組成物である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃における損失弾性率E”が500Pa以上であるラケット用ストリング。
【請求項2】
その材質がポリエステルを基材とする樹脂組成物である請求項1に記載のラケット用ストリング。
【請求項3】
ヘッドを有するフレームと、このヘッドに張られたストリングとを備えており、
25℃における上記ストリングの損失弾性率E”が500Pa以上である、ラケット。
【請求項4】
上記ストリングの材質がポリエステルを基材とする樹脂組成物である、請求項3に記載のラケット。
【請求項5】
(A)25℃における損失弾性率E”が500Pa未満である未処理ストリングを準備する工程、
及び
(B)上記未処理ストリングに放射線を照射して、25℃における損失弾性率E”を500Pa以上に高める工程
を含む、ラケット用ストリングの製造方法。
【請求項6】
上記工程(B)において、未処理ストリングにγ線が照射される請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
上記工程(B)において、未処理ストリングに250kGy以上2000kGy以下の放射線が照射される請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
上記工程(A)において準備されるストリングの材質が、ポリエステルを基材とする樹脂組成物である請求項5から7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
下記数式によって算出される変化量ΔE”が30Pa以上である、請求項5から8のいずれかに記載の製造方法。
ΔE” = E”2 - E”1
(この数式において、E”1は未処理ストリングの損失弾性率を表し、E”2はストリング10の損失弾性率を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テニスラケット、バドミントンラケット、スカッシュラケット等のストリングに関する。
【背景技術】
【0002】
テニスラケットは、フレームとストリングとを有している。かつては、ストリングとして主にナチュラルガットが用いられていた。ナチュラルガットの原料は、羊の腸である。ナチュラルガットは、耐久性に劣る。さらにナチュラルガットは、高価である。一方でナチュラルガットは、打球感に優れる。
【0003】
近年のストリングの主流は、合成樹脂製のものである。合成樹脂からなるストリングは、耐久性に優れる。ポリエステル又はナイロンが基材である樹脂組成物からなるストリングが、広く普及している。ポリエステルが用いられたストリングが、特開2009-226107公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリエステル製のストリングを有するテニスラケットにてテニスボールを打撃したプレーヤーは、硬いと感じる。ナイロン製のストリングの打球感は、ポリエステル製のストリングの打球感よりも優れるが、ナチュラルガットに比べれば、やはり打球感が硬い。
【0006】
本発明の目的は、打球感に優れたラケット用ストリングの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るラケット用ストリングの、25℃における損失弾性率E”は、500Pa以上である。好ましくは、このストリングの材質は、ポリエステルを基材とする樹脂組成物である。
【0008】
他の観点によれば、本発明に係るラケットは、ヘッドを有するフレームと、このヘッドに張られたストリングとを有する。25℃におけるこのストリングの損失弾性率E”は、500Pa以上である。好ましくは、このストリングの材質は、ポリエステルを基材とする樹脂組成物である。
【0009】
さらに他の観点によれば、本発明に係るラケット用ストリングの製造方法は、
(A)25℃における損失弾性率E”が500Pa未満である未処理ストリングを準備する工程、
及び
(B)この未処理ストリングに放射線を照射して、25℃における損失弾性率E”を500Pa以上に高める工程
を含む。
【0010】
好ましくは、工程(B)において、未処理ストリングにγ線が照射される。好ましくは、工程(B)において、未処理ストリングに250kGy以上2000kGy以下の放射線が照射される。好ましくは、工程(A)において準備されるストリングの材質は、ポリエステルを基材とする樹脂組成物である。
【0011】
好ましくは、下記数式によって算出される変化量ΔE”は、30Pa以上である。
ΔE” = E”2 - E”1
この数式において、E”1は未処理ストリングの損失弾性率を表し、E”2はストリングの損失弾性率を表す。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るラケット用ストリングは、打球感に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るテニスラケットが示された正面図である。
【
図2】
図2は、
図1のテニスラケットのストリングの一部が示された拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0015】
図1に、テニスラケット2が示されている。このテニスラケット2は、フレーム4、グリップ6、エンドキャップ8及びストリング10を有している。このテニスラケット2は、硬式テニスに使用されうる。
【0016】
フレーム4は、ヘッド12、2つのスロート14及びシャフト16を有している。ヘッド12は、フェース18の輪郭を形成している。ヘッド12の正面形状は、略楕円である。楕円の長径方向は、テニスラケット2の軸方向Yと一致している。楕円の短径方向は、テニスラケット2の幅方向Xと一致している。それぞれのスロート14の一端は、ヘッド12と連続している。このスロート14は、他端の近傍で他のスロート14と合流している。スロート14は、ヘッド12から延びてシャフト16に至っている。シャフト16は、2つのスロート14が合流する箇所から延びている。シャフト16は、スロート14と連続的にかつ一体的に形成されている。ヘッド12のうち、2つのスロート14に挟まれた部分は、ヨーク20である。
【0017】
このフレーム4は、パイプからなる。換言すれば、このフレーム4は中空である。このパイプの材質は、繊維強化樹脂である。この繊維強化樹脂のマトリクス樹脂は、熱硬化樹脂である。典型的な熱硬化樹脂は、エポキシ樹脂である。繊維強化樹脂の典型的な繊維は、カーボン繊維である。この繊維は、長繊維である。
【0018】
グリップ6は、シャフト16に巻かれたテープによって形成されている。グリップ6は、テニスラケット2がスイングされたときの、プレーヤーの手とテニスラケット2とのスリップを抑制する。
【0019】
ストリング10は、ヘッド12に張られる。ストリング10は、幅方向X及び軸方向Yに沿って張られる。ストリング10のうち幅方向Xに沿って延在する部分は、横スレッド10aと称される。ストリング10のうち軸方向Yに沿って延在する部分は、縦スレッド10bと称される。複数の横スレッド10a及び複数の縦スレッド10bにより、フェース18が形成されている。このフェース18は、概してX-Y平面に沿っている。
【0020】
図2に、ストリング10が示されている。このストリング10は、モノフィラメントタイプである。ストリング10が、複数のフィラメントが撚られて形成されてもよい。ストリング10が、複数の層を有してもよい。ストリング10が、その表面にコーティングを有してもよい。
【0021】
ストリング10の好ましい材質は、樹脂組成物である。この樹脂組成物の好ましい基材樹脂は、熱可塑性樹脂である。樹脂組成物は、基材樹脂以外に、種々の添加剤を含みうる。添加剤の具体例として、紫外線吸収剤、軟化剤、可塑剤、着色剤等が挙げられる。
【0022】
ストリング10に適した熱可塑性樹脂の具体例として、ポリエステルが例示される。ポリエステルが使用されたストリング10は、ナチュラルガットに比べて耐久性に優れる。このストリング10によって繰り返しテニスボールが打撃されても、ストリング10の破断が生じにくい。
【0023】
以下、このストリング10の製造方法が説明される。この製造方法では、まず、未処理ストリングが準備される。未処理ストリングとは、後述される放射線照射がなされていない状態のストリングを意味する。未処理ストリングの損失弾性率E”は、500Pa未満である。
【0024】
未処理ストリングの準備には、既知の方法が採用されうる。典型的な方法は、延伸加工である。この延伸加工では、基材樹脂が加熱されて溶融する。この基材樹脂に、添加剤が添加されて、溶融樹脂組成物が得られる。この溶融樹脂組成物が口金から引き出されつつ冷却されて、母線が得られる。この母線が引き延ばされて、未処理ストリングが得られる。
【0025】
次に、この未処理ストリングに、放射線が照射される。放射線として、α線、β線、γ線及びX線が挙げられる。工業的に実績があるとの観点から、γ線が好ましい。γ線は、包装後の食品の殺虫及び殺菌の目的で実用化されている。さらにγ線は、ジャガイモ等の農作物の発芽防止の目的で実用化されている。γ線は、原子核のエネルギー準位が不安定状態から安定状態へと遷移するときにエネルギーを放出する現象に由来して、発生する。典型的には、コバルト60γ線が用いられる。
【0026】
延伸加工のプロセスの終了直後に、延伸設備上で、放射線が照射されうる。延伸工程が終了して巻き取られた状態の未処理ストリングに、放射線が照射されてもよい。所定サイズに裁断されて包装が施された未処理ストリングに、放射線が照射されてもよい。1つの未処理ストリングに対して、複数回の照射がなされてもよい。
【0027】
放射線の照射によって損失弾性率E”が高まり、ストリング10が得られる。ストリング10の損失弾性率E”は、500Pa以上である。放射線の照射により、樹脂の分子中の分岐が増加すると推測される。さらに、放射線の照射により、分子鎖の切断が生じると推測される。分岐の増加及び分子鎖切断によって樹脂の粘性が高まり、損失弾性率E”が高まると推測される。
【0028】
このストリング10が使用されたラケット2でテニスボールが打撃されたとき、プレーヤーは、このラケット2の打球感を、「ソフトである」と感じる。このストリング10は、ラケット2の打球感に寄与しうる。このストリング10はさらに、プレーヤーの関節へのダメージを軽減しうる。
【0029】
打球感の観点から、ストリング10の損失弾性率E”は520Pa以上がより好ましく、550Pa以上が特に好ましい。損失弾性率E”は、800Pa以下が好ましい。
【0030】
本発明では、下記数式によって変化量ΔE”が算出される。
ΔE” = E”2 - E”1
この数式において、E”1は未処理ストリングの損失弾性率を表し、E”2はストリング10の損失弾性率を表す。変化量ΔE”は30Pa以上が好ましく、50Pa以上がより好ましく、70Pa以上が特に好ましい。
【0031】
損失弾性率E”は、動的粘弾性測定装置によって測定される。この装置の具体例として、ネッチ社(GABO社)の「EPLEXOR 4000N」が挙げられる。測定条件は、以下の通りである。
初期印加歪み:0.1%
モード:正弦波引張
温度範囲:-50℃から50℃
昇温速度:2℃/分
測定温度:25℃
加振周波数:10Hz
歪み:0.05%
【0032】
前述の通り、耐久性の観点から好ましい基材樹脂は、ポリエステルである。ポリエステルを含む未処理ストリングに放射線が照射されることで、打球感が、ナイロンからなるストリングに近づきうる。この照射は、耐久性を大幅には阻害しない。基材樹脂がポリエステルであり、かつ放射線の照射によって得られたストリング10は、耐久性と打球感との両方に優れる。
【0033】
放射線の照射量は、250kGy以上2000kGy以下が好ましい。照射量が250kGy以上である製造方法により、打球感に優れたストリング10が得られうる。この観点から、照射量は350kGy以上がより好ましく、400kGy以上が特に好ましい。照射量が2000kGy以下である照射は、低コストでなされうる。この観点から、照射量は1600kGy以下がより好ましく、1400kGy以下が特に好ましい。1つの未処理ストリングに対して複数回の照射が繰り返される場合、各照射量の合計が上記範囲内であることが、好ましい。
【実施例0034】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0035】
[実施例1]
市販のストリングIを準備した。このストリングIの基材樹脂は、ポリエステルであった。このストリングIを、アルミニウムのコーティングがなされたバッグに投入した。このバッグにさらに脱酸素剤を投入し、バッグにシールを施した。この状態で2日間保持し、酸素を除去した。このストリングIに、コバルト60γ線を照射した。照射量は、500kGyであった。この照射を、2回行った。合計の照射量は、1000kGyであった。
【0036】
[比較例1及び2]
放射線の照射量を下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、比較例1及び2のストリングを得た。
【0037】
[実施例2]
市販のストリングIIを準備した。このストリングIIの基材樹脂は、ポリエステルであった。このストリングIIに、実施例1と同様にしてコバルト60γ線を照射した。照射量は、500kGyであった。
【0038】
[比較例3及び実施例3]
放射線の照射量を下記の表1に示される通りとした他は実施例2と同様にして、比較例3及び実施例3のストリングを得た。
【0039】
[比較例4]
市販のストリングIIIを準備した。このストリングIIIの基材樹脂は、ポリエステルであった。
【0040】
[打球感]
ストリングを張ったテニスラケットをプレーヤーに使用させ、衝撃を評価させた。この結果が、比較例1の打球感が基準とされたときの指数として、下記の表1に示されている。数値が小さいほど、衝撃が小さく、従って打球感に優れている。
【0041】
【0042】
表1に示される通り、各実施例に係るストリングは、打球感に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。