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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161553
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20221014BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20221014BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20221014BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20221014BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221014BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20221014BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/62 Z
H01M4/131
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066461
(22)【出願日】2021-04-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雄介
(72)【発明者】
【氏名】高田 晴美
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029DJ09
5H029EJ07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ08
5H029HJ11
5H029HJ14
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA11
5H050DA13
5H050EA15
5H050FA08
5H050FA12
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA08
5H050HA11
5H050HA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】正極活物質層と固体電解質層との密着性を向上させ、充放電サイクルの進行に伴う界面抵抗の上昇を抑制した、Li(Ni-Mn-Co)O組成を有する正極活物質を用いた二次電池を提供する。
【解決手段】二次粒子からなる正極活物質を含有する正極活物質層15を含む正極、負極、前記正極と前記負極との間に介在し、固体電解質を含有する固体電解質層17とを含む発電要素21を有する二次電池において、Li(Ni-Mn-Co)Oまたはこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換された組成を有するNMC複合酸化物を含み、前記二次粒子の平均粒子径は15.0μm以下であり、前記二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径は0.5μm以上であり、前記正極活物質層15と前記固体電解質層17との少なくとも一方にハロゲン元素を含む固体電解質を含有し、他方に非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含有する、二次電池とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次粒子からなる正極活物質を含有する正極活物質層を含む正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、固体電解質を含有する固体電解質層と、
を含む発電要素を有する二次電池であって、
前記正極活物質が、Li(Ni-Mn-Co)Oまたはこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換された組成を有するNMC複合酸化物を含み、前記二次粒子の平均粒子径が15.0μm以下であり、前記二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径が0.5μm以上であり、
前記正極活物質層と前記固体電解質層との少なくとも一方がハロゲン元素を含む固体電解質を含有し、他方が非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含有する、二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質層が前記ハロゲン元素を含む固体電解質を含有し、前記固体電解質層が前記バインダーを含有する、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質層および前記固体電解質層の双方が、前記ハロゲン元素を含む固体電解質および前記バインダーを含有する、請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記非共有電子対を有する官能基が、アミド基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、メチレンジオキシ基、フェノキシ基、カルボキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、アセトキシ基、ベンゾイロキシ基、アセチル基、プロピオニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、マロニル基、ベンゾイル基、ヒドロキシ基、ヒドロペルオキシ基、アルキレンオキシ基、エポキシ基、ジオキシ基、カルボニル基、メルカプト基、チオ基、スルホ基、スルフィニル基、スルホニル基、スルホアミノ基、ニトロ基、シアノ基、イソシアノ基、ニトロソ基、イミダゾール基、アミノ基、ウレイド基、メチルアミノ基、イミノ基、ジアゾ基、アゾ基、アジド基およびジアゾアミノ基からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記バインダーが、非共有電子対を有する官能基を2種以上有する重合体を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記バインダーが、アクリロイル基またはメタクリロイル基以外の非共有電子対を有する官能基を有する重合体を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
前記バインダーが、シアノ基を有する重合体を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項8】
前記バインダーが、シアノ基と、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基とを有する重合体を含む、請求項7に記載の二次電池。
【請求項9】
前記重合体が、(メタ)アクリロニトリルおよびアルキル(メタ)アクリレートを含む単量体の共重合体を含む、請求項8に記載の二次電池。
【請求項10】
前記共重合体における前記(メタ)アクリロニトリルの共重合比(質量比)が20質量%以上である、請求項9に記載の二次電池。
【請求項11】
前記重合体のガラス転移点が-20℃以下である、請求項5~10のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項12】
前記重合体の重量平均分子量(Mw)が100000以上である、請求項1~11のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項13】
前記共重合体における前記(メタ)アクリロニトリルの共重合比(質量比)が25%以上であり、前記共重合体のガラス転移点が-40℃以下であり、かつ、前記共重合体の重量平均分子量(Mw)が300000以上である、請求項5~12のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項14】
前記正極活物質層および/または前記固体電解質層に含まれる前記バインダーの存在密度が、前記正極活物質層と前記固体電解質層との界面に向かって増加している、請求項1~13のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項15】
前記NMC複合酸化物が、下記一般式(1):
一般式(1):LiNiMnCo
式中、a、b、c、d、xは、0.98≦a≦1.2、0.6≦b≦0.9、0<c≦0.4、0<d≦0.4、0≦x≦0.3、b+c+d+x=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crから選ばれる少なくとも1種の元素である、
で表される組成を有する、請求項1~14のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項16】
前記bが、0.6≦b≦0.7を満たす、請求項15に記載の二次電池。
【請求項17】
前記ハロゲン元素を含む固体電解質が、ハロゲン元素を含む硫化物固体電解質である、請求項1~16のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項18】
全固体リチウム二次電池である、請求項1~17のいずれか1項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの非水電解質二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギーを有することが求められている。したがって、現実的な全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
ここで、現在一般に普及しているリチウムイオン二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。このような液系リチウムイオン二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められる。
【0005】
そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池等の全固体電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウム二次電池においては、従来の液系リチウムイオン二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れる。
【0006】
ところで、リチウムイオン二次電池の正極活物質として、リチウム金属複合酸化物などが用いられることがあり、当該複合酸化物の粉末は、一次粒子と、一次粒子が凝集して形成された二次粒子とから構成されることがある。従来、コバルト、ニッケル、マンガンの群から選ばれる1種の元素と、リチウムとを主成分とする単分散の一次粒子(単粒子)の粉体状のリチウム複合酸化物が、粒界がなく、正極材の成型時等に割れや破壊が起こりにくくなるという利点があることが提案されている。
【0007】
ところで、特許文献1においては、リチウム金属複合酸化物などの正極活物質を用いた全固体リチウム二次電池において、電極活物質層または固体電解質層に含まれるバインダーを工夫することにより、固体粒子間の界面抵抗の低減を図っている。具体的に、特許文献1では、電極活物質層または固体電解質層のいずれかに、所定の無機固体電解質およびセルロースポリマーを含有させることで、固体粒子間の界面抵抗を低減させることができ、高いイオン伝導度を実現可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-191864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に開示された技術についても依然として改善の余地があることが判明した。特に、Li(Ni-Mn-Co)Oまたはこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換された組成を有する単結晶型のNMC複合酸化物を正極活物質として用いた場合に、正極活物質層と固体電解質層との間の密着性が低下し、充放電サイクルの進行に伴ってこれらの間の界面抵抗が上昇することが判明した。
【0010】
そこで本発明は、Li(Ni-Mn-Co)Oまたはこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換された組成を有する単結晶型のNMC複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池において、正極活物質層と固体電解質層との間の密着性を向上させ、充放電サイクルの進行に伴う界面抵抗の上昇を抑制しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、Li(Ni-Mn-Co)Oまたはこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換された組成を有する単結晶型のNMC複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池において、ハロゲン元素を含む固体電解質を正極活物質層と固体電解質層との少なくとも一方に含有させるとともに、非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを他方に含有させることで上記の課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の一形態によれば、二次粒子からなる正極活物質を含有する正極活物質層を含む正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在し、固体電解質を含有する固体電解質層とを含む発電要素を有する二次電池が提供される。ここで、前記正極活物質は、Li(Ni-Mn-Co)Oまたはこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換された組成を有するNMC複合酸化物を含み、前記二次粒子の平均粒子径は15.0μm以下であり、前記二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径は0.5μm以上である。そして、前記正極活物質層と前記固体電解質層との少なくとも一方がハロゲン元素を含む固体電解質を含有し、他方が非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含有する点に特徴がある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Li(Ni-Mn-Co)Oまたはこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換された組成を有する単結晶型のNMC複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池において、正極活物質層と固体電解質層との間の密着性を向上させ、充放電サイクルの進行に伴う界面抵抗の上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の一実施形態である扁平積層型の全固体リチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
図2図2は、図1に示す2-2線に沿う断面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る積層型電池の斜視図である。
図4図4は、図3に示すA方向から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
《二次電池》
本発明の一形態は、二次粒子からなる正極活物質を含有する正極活物質層を含む正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在し、固体電解質を含有する固体電解質層とを含む発電要素を有する二次電池であって、前記正極活物質が、Li(Ni-Mn-Co)Oまたはこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換された組成を有するNMC複合酸化物を含み、前記二次粒子の平均粒子径が15.0μm以下であり、前記二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径が0.5μm以上であり、前記正極活物質層と前記固体電解質層との少なくとも一方がハロゲン元素を含む固体電解質を含有し、他方が非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含有する、二次電池である。
【0016】
以下、図面を参照しながら、上述した本形態に係る二次電池の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
図1は、本発明に係る二次電池の一実施形態である扁平積層型の全固体リチウム二次電池の外観を表した斜視図である。図2は、図1に示す2-2線に沿う断面図である。積層型とすることで、電池をコンパクトにかつ高容量化することができる。なお、本明細書においては、図1および図2に示す扁平積層型の双極型でないリチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」とも称する)を例に挙げて詳細に説明する。ただし、本形態に係るリチウムイオン二次電池の内部における電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用しうるものである。
【0018】
図1に示すように、積層型電池10aは、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための負極集電板25、正極集電板27が引き出されている。発電要素21は、積層型電池10aの電池外装材(ラミネートフィルム29)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素21は、負極集電板25および正極集電板27を外部に引き出した状態で密封されている。
【0019】
なお、本形態に係るリチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材にラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムを含むラミネートフィルムの内部に収容される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
【0020】
また、図1に示す集電板(25、27)の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。負極集電板25と正極集電板27とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、負極集電板25と正極集電板27をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図1に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0021】
図2に示すように、本実施形態の積層型電池10aは、実際に充放電反応が進行する扁平略矩形の発電要素21が、電池外装材であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極と、固体電解質層17と、負極とを積層した構成を有している。正極は、正極集電体11”の両面に正極活物質を含有する正極活物質層15が配置された構造を有する。負極は、負極集電体11’の両面に負極活物質を含有する負極活物質層13が配置された構造を有する。具体的には、1つの正極活物質層15とこれに隣接する負極活物質層13とが、固体電解質層17を介して対向するようにして、正極、固体電解質層および負極がこの順に積層されている。これにより、隣接する正極、固体電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図1に示す積層型電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。また、積層型電池10aには、加圧部材によって発電要素21の積層方向に拘束圧力が付与されている(図示せず)。そのため、発電要素21の体積は、一定に保たれている。
【0022】
図2に示すように、発電要素21の両最外層に位置する最外層正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層15が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、場合によっては、集電体(11’,11”)を用いることなく、負極活物質層13および正極活物質層15をそれぞれ負極および正極として用いてもよい。
【0023】
負極集電体11’および正極集電体11”は、各電極(正極および負極)と導通される負極集電板(タブ)25および正極集電板(タブ)27がそれぞれ取り付けられ、電池外装材であるラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。正極集電板27および負極集電板25はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11”および負極集電体11’に超音波溶接や抵抗溶接などにより取り付けられていてもよい。
【0024】
図3は、本発明の一実施形態に係る積層型電池の斜視図である。図4は、図3に示すA方向から見た側面図である。
【0025】
図3および図4に示すように、本実施形態に係る積層型電池100は、図1および図2に示すラミネートフィルム29に封止された発電要素21と、ラミネートフィルム29に封止された発電要素21を挟持する2枚の金属板200と、締結部材としてのボルト300およびナット400と、を有している。この締結部材(ボルト300およびナット400)は金属板200がラミネートフィルム29に封止された発電要素21を挟持した状態で固定する機能を有している。これにより、金属板200および締結部材(ボルト300およびナット400)は発電要素21をその積層方向に加圧(拘束)する加圧部材として機能する。なお、加圧部材は発電要素21をその積層方向に加圧することができる部材であれば特に制限されない。加圧部材として、典型的には、金属板200のように剛性を有する材料から形成された板と上述した締結部材との組み合わせが用いられる。また、締結部材についても、ボルト300およびナット400のみならず、発電要素21をその積層方向に拘束するように金属板200の端部を固定するテンションプレートなどが用いられてもよい。
【0026】
なお、発電要素21に印加される荷重(発電要素の積層方向における拘束圧力)の下限は、例えば0.1MPa以上であり、好ましくは1MPa以上であり、より好ましくは3MPa以上であり、さらに好ましくは5MPa以上である。発電要素の積層方向における拘束圧力の上限は、例えば100MPa以下であり、好ましくは70MPa以下であり、より好ましくは40MPa以下であり、さらに好ましくは10MPa以下である。
【0027】
以下、本形態に係る二次電池の主要な構成部材について説明する。
【0028】
[集電体]
集電体は、電極活物質層からの電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0029】
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
【0030】
また、後者の導電性を有する樹脂としては、非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
【0031】
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。さらに、後述する負極活物質層や正極活物質層がそれ自体で導電性を有し集電機能を発揮できるのであれば、これらの電極活物質層とは別の部材としての集電体を用いなくともよい。このような形態においては、後述する負極活物質層がそのまま負極を構成し、後述する正極活物質層がそのまま正極を構成することとなる。
【0032】
[正極活物質層]
本形態に係る二次電池において、正極活物質層は、正極活物質を含有する。ここで、当該正極活物質は、Li(Ni-Mn-Co)Oまたはこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換された組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)を必須に含む。NMC複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属(Mn、NiおよびCoが秩序正しく配置)原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を持ち、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。
【0033】
NMC複合酸化物は、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crであり、より好ましくはTi、Zr、P、Al、Mg、Crであり、サイクル特性向上の観点から、さらに好ましくはTi、Zr、Al、Mg、Crである。
【0034】
NMC複合酸化物は、理論放電容量が高いことから、好ましくは、一般式(1):LiNiMnCo(但し、式中、a、b、c、d、xは、0.98≦a≦1.2、0.6≦b≦0.9、0<c≦0.4、0<d≦0.4、0≦x≦0.3、b+c+d+x=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crから選ばれる少なくとも1種の元素である)で表される組成を有する。ここで、aは、Liの原子比を表し、bは、Niの原子比を表し、cは、Mnの原子比を表し、dは、Coの原子比を表し、xは、Mの原子比を表す。なお、理論放電容量が高いという観点からは、上述したように0.6≦b≦0.9であることが好ましいが、正極活物質層と固体電解質層との密着性を向上させ、これらの間の界面抵抗の上昇を抑制するという観点からは、bが0.6≦b≦0.8を満たすことがより好ましく、bが0.6≦b≦0.7を満たすことがさらに好ましい。
【0035】
本形態に係る二次電池において、正極活物質層に含まれる正極活物質は二次粒子からなるものである。ここで「二次粒子」とは、一次粒子(単粒子)が凝集してなる凝集体を意味する。そして、本形態に係る二次電池においては、正極活物質を構成する二次粒子の平均粒子径(算術平均径)が15.0μm以下に制御されており、かつ、当該二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径(算術平均径)が0.5μm以上に制御されている点に特徴がある。本明細書では、このような平均粒子径プロファイルを有する正極活物質を「単結晶型」と称している。なお、本明細書において、「粒子径」とは、観察される粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味することとし、また、活物質および固体電解質の平均粒子径の値は、それぞれ、後述する実施例の欄に記載の手法により測定した値を採用するものとする。ここで、正極活物質を構成する二次粒子の平均粒子径は、好ましくは12.0μm以下であり、より好ましくは10.0μm以下であり、さらに好ましくは7.0μm以下である。また、二次粒子の平均粒子径の下限値について特に制限はないが、通常は5.0μm以上であり、本願発明の作用効果を効果的に得るという観点からは好ましくは6.0μm以上である。さらに、上記二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径は、好ましくは1.0μm以上であり、より好ましくは2.0μm以上である。また、二次粒子の平均粒子径の上限値についても特に制限はなく、通常は5.5μm以下であり、本願発明の作用効果を効果的に得るという観点からは好ましくは5.0μm以下である。
【0036】
また、上記二次粒子を構成する一次粒子に占める単一の結晶子からなる粒子の個数割合は、好ましくは10%以上であり、より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは30%以上である。このような構成とすることにより、本願所定の粒子径プロファイルを有する正極活物質が得られやすいため、好ましい。
【0037】
正極活物質の構成粒子の平均粒子径を上述したような構成に制御する手法については特に制限はなく、正極活物質粒子の平均粒子径を制御しうる従来公知の知見が適宜参照されうる。具体的には、例えば、特許第6574222号、特許第5702289号といった特許文献や、Solid State Ionics,Volume 345,February 2020,115200、Journal of The Electrochemical Society,165(5)A1038-A1045(2018)といった非特許文献に開示された手法を参照することができる。
【0038】
正極活物質層は、上述した正極活物質以外の正極活物質を含んでもよい。このような正極活物質としては、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO等の層状岩塩型活物質、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型活物質、LiFeSiO、LiMnSiO等のSi含有活物質、LiTi12等が挙げられる。ただし、正極活物質層に含まれる正極活物質の全量100質量%に占める、上記NMC複合酸化物の含有量の割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、いっそう好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0039】
正極活物質層は、固体電解質をさらに含む。正極活物質層が固体電解質を含むことにより、正極活物質層のイオン伝導性を向上させることができる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、イオン伝導性に優れ電池性能のよりいっそうの向上が図れるという観点からは硫化物固体電解質であることが好ましい。
【0040】
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS、LiPS、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「LiS-P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
【0041】
硫化物固体電解質は、例えば、LiPS骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよい。LiPS骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS、LiPSが挙げられる。また、Li骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、硫化物固体電解質は、P元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましく、硫化物固体電解質は、LiS-Pを主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、ハロゲンを含有する硫化物固体電解質としては、アルジロダイト型固体電解質(LiPSX(Xは、Cl、BrまたはIである))が挙げられ、これもまた好ましく用いられうる材料である。
【0042】
また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4S/cm以上であることがより好ましい。なお、固体電解質のイオン伝導度の値は、交流インピーダンス法により測定することができる。
【0043】
酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等が挙げられる。NASICON型構造を有する化合物の一例としては、一般式Li1+xAlGe2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlTi2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等が挙げられる。また、酸化物固体電解質の他の例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.30.46)、LiLaZrO(例えば、LiLaZr12)等が挙げられる。
【0044】
正極活物質層は、上述した正極活物質および固体電解質に加えて、導電助剤およびバインダーの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。正極活物質層に含まれる各成分の配合量について特に制限はないが、正極活物質層の全量100質量%に対して、固体電解質の配合量は好ましくは15~40質量%であり、導電助剤の配合量は好ましくは10~30質量%であり、バインダーの配合量は好ましくは1~5質量%である。
【0045】
正極活物質層の厚さは、目的とする全固体電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0046】
[固体電解質層]
本形態に係る二次電池において、固体電解質層は、上述した正極活物質層と負極活物質層との間に介在し、固体電解質を必須に含有する層である。固体電解質層に含有される固体電解質の具体的な形態としては、正極活物質層の欄において説明した例示および好ましい形態が同様に採用される。すなわち、固体電解質層は硫化物固体電解質を含有することが好ましい。なお、固体電解質層は、上述した固体電解質に加えて、バインダーをさらに含有していてもよい。固体電解質層に含まれる各成分の配合量について特に制限はないが、固体電解質層の全量100質量%に対して、バインダーの配合量は好ましくは2~8質量%である。
【0047】
固体電解質層の厚みは、目的とするリチウムイオン二次電池の構成によっても異なるが、電池の体積エネルギー密度を向上させうるという観点からは、好ましくは600μm以下であり、より好ましくは500μm以下であり、さらに好ましくは400μm以下である。一方、固体電解質層の厚みの下限値について特に制限はないが、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは50μm以上であり、さらに好ましくは100μm以上である。
【0048】
本形態に係る二次電池の特徴の1つは、上述した正極活物質層15と固体電解質層17との少なくとも一方がハロゲン元素を含む固体電解質を含有し、他方が非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含有する点にある。このような特徴を備えることにより、本形態に係る二次電池によれば、上記所定の単結晶型のNMC複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池において、正極活物質層と固体電解質層との間の密着性を向上させ、充放電サイクルの進行に伴う界面抵抗の上昇を抑制することができるという効果が奏される。本形態の構成とすることでこのような効果が奏されるメカニズムは完全には明らかとはなっていないが、以下のメカニズムが推定されている。すなわち、上記所定の単結晶型のNMC複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池においては、正極活物質粒子の表面が平滑であるため、正極活物質層に含まれる正極活物質と固体電解質層との間にアンカー効果が働きにくい。その結果、正極活物質層と固体電解質層との密着性がそもそも十分ではなく、さらに充放電の進行に伴う正極活物質の膨張収縮に起因してこれらの層間の密着性は徐々に低下してゆき、界面抵抗の上昇をもたらすものと考えられる。これに対し、本形態に係る二次電池によれば、正極活物質層と固体電解質層との一方に含まれる本形態に係るバインダーが有する非共有電子対を有する官能基の非共有電子対と、他方に含まれるハロゲン元素を含む固体電解質のハロゲン元素との間でハロゲン結合が生じることとなる。なお、「ハロゲン結合」とは、ルイス酸としてのハロゲン原子とルイス塩基との間に働く非共有結合性相互作用の1種であり、ハロゲン結合の生成においてハロゲン原子は求電子種として機能している。このようなハロゲン結合が多数生成する結果、正極活物質層と固体電解質層との間の密着性の向上が図られることとなり、ひいては充放電の進行に伴う界面抵抗の上昇も防止されるものと考えられる。
【0049】
上述したように、本形態に係る二次電池においては、正極活物質層15と固体電解質層17との少なくとも一方がハロゲン元素を含む固体電解質を含有し、他方が非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含有していればよい。このような形態としては、正極活物質層15がハロゲン元素を含む固体電解質を含有し、固体電解質層17が非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含有する形態;正極活物質層15がハロゲン元素を含む固体電解質および非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含有し、固体電解質層17が非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含有する形態;正極活物質層15がハロゲン元素を含む固体電解質を有するバインダーを含有し、固体電解質層17がハロゲン元素を含む固体電解質および非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含有する形態;正極活物質層15が非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含有し、固体電解質層17がハロゲン元素を含む固体電解質を含有する形態;正極活物質層15がハロゲン元素を含む固体電解質および非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含有し、固体電解質層17がハロゲン元素を含む固体電解質を含有する形態;正極活物質層15がハロゲン元素を含む固体電解質を含有し、固体電解質層17がハロゲン元素を含む固体電解質および非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含有する形態;正極活物質層15および固体電解質層17の双方が、ハロゲン元素を含む固体電解質および非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含有する形態、が挙げられる。なかでも、正極活物質層15がハロゲン元素を含む固体電解質を含有し、固体電解質層17が非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含有することが好ましい。このような構成によれば、固体電解質層に含まれるバインダーに由来する非共有電子対と、正極活物質層に含まれる正極活物質に由来するリチウムイオン(Li)との間でイオン-双極子相互作用が生じ、上述したハロゲン結合の生成と相俟ってこれらの層間の密着性および界面抵抗の防止効果がより向上する。さらには、正極活物質層15および固体電解質層17の双方が、ハロゲン元素を含む固体電解質および非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含有する形態が特に好ましい。このような構成とすることにより、正極活物質層15と固体電解質層17との間の密着性がよりいっそう優れたものとなり、界面抵抗の低減に特に有効に寄与しうる。
【0050】
「ハロゲン元素を含む固体電解質」の具体的な構成については特に制限されず、従来公知のイオン伝導性を有する固体電解質のうち、ハロゲン元素を含むものが広く用いられうる。なかでも、イオン伝導度および電気化学的な安定性(耐久性)に優れるというハロゲン元素を含む固体電解質は、ハロゲン元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましい。このようなハロゲン元素を含む硫化物固体電解質としては、上述したアルジロダイト型固体電解質(LiPSX(Xは、Cl、BrまたはIである))が好ましいものとして挙げられる。また、特開2017-183210号公報、特開2018-49834号公報、特開2020-115425号公報などの先行技術文献に記載されたハロゲン元素を含む硫化物固体電解質もまた、本形態に係る二次電池において好適に用いられうる。
【0051】
続いて、「非共有電子対を有する官能基を有するバインダー」(以下、単に「本形態に係るバインダー」とも称する)について説明する。まず、「非共有電子対」とは、「孤立電子対(ローンペア)」または「非結合電子対」とも称され、原子の外殻電子のうち、他の原子との結合にあずからずに2個ずつ対になっている電子対をいう。このような非共有電子対を有する官能基としては、例えば、アミド基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、メチレンジオキシ基、フェノキシ基、カルボキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、アセトキシ基、ベンゾイロキシ基、アセチル基、プロピオニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、マロニル基、ベンゾイル基、ヒドロキシ基、ヒドロペルオキシ基、アルキレンオキシ基、エポキシ基、ジオキシ基、カルボニル基、メルカプト基、チオ基、スルホ基、スルフィニル基、スルホニル基、スルホアミノ基、ニトロ基、シアノ基、イソシアノ基、ニトロソ基、イミダゾール基、アミノ基、ウレイド基、メチルアミノ基、イミノ基、ジアゾ基、アゾ基、アジド基およびジアゾアミノ基からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。これらの官能基はいずれも、非共有電子対を有しており上述したハロゲン結合を形成するのに好適なものである。
【0052】
また、本形態に係るバインダーは、バインダー(結着剤)としての機能を有するものである。したがって、当該バインダーは、正極活物質層15や固体電解質層17に含まれることによって、各層に含まれるその他の成分を互いに結着する機能を有するものである。このような機能を有するため、本形態に係るバインダーは、通常、重合体を含むものである(重合体の形態である)。重合体の具体的な形態についても特に制限はなく、上述した非共有電子対を有する官能基を有する重合体であればよいが、例えば、ビニル系単量体を(共)重合して得られるビニル系(共)重合体が好適なものとして例示される。
【0053】
本形態に係るバインダーは、非共有電子対を有する官能基を2種以上有する重合体を含むものであることが好ましい。このような構成によれば、当該官能基の種類が1種のみである場合と比較して、層間の密着性の向上効果がより高くなるという利点がある。ここで例えば、本形態に係るバインダーを構成する重合体が非共有電子対を有する官能基としてアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するアクリル系重合体である場合には、当該重合体は、アクリロイル基またはメタクリロイル基以外の非共有電子対を有する官能基を有するものであることが好ましい。このような形態において、アクリロイル基またはメタクリロイル基以外の非共有電子対を有する官能基としては、アミド基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、ヒドロペルオキシ基、アルキレンオキシ基、エポキシ基、カルボニル基、メルカプト基、チオ基、スルホ基、スルフィニル基、スルホニル基、スルホアミノ基、ニトロ基、シアノ基、イソシアノ基、アミノ基、ウレイド基、イミノ基、ジアゾ基、アゾ基、アジド基およびジアゾアミノ基が好ましく用いられ、シアノ基が特に好ましく用いられる。したがって、本形態の好ましい実施形態において、本形態に係るバインダーは、シアノ基を有する重合体を含むものであり、本形態のより好ましい実施形態において、本形態に係るバインダーは、シアノ基と、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基とを有する重合体を含むものである。このような構成とすることで、ハロゲン結合(およびイオン-双極子相互作用)の生成とバインダーのガラス転移点(Tg)とのバランスを好適なものとすることができる。ここで、バインダーを構成する重合体のガラス転移点(Tg)の値に特に制限はないが、好ましくは-20℃以下であり、より好ましくは-25℃以下であり、さらに好ましくは-30℃以下であり、特に好ましくは-35℃以下であり、最も好ましくは-40℃以下である。バインダーを構成する重合体のガラス転移点(Tg)の下限値についても特に制限はないが、通常は-60℃以上である。バインダーを構成する重合体のガラス転移点(Tg)がこのように比較的低い値であると、当該重合体が動きやすく柔軟なものとなり、当該重合体が含まれる層において広がりをもって存在することが可能となる。その結果、上述したハロゲン結合(およびイオン-双極子相互作用)の生成により効果的に寄与することができる。
【0054】
上述したような重合体は、(メタ)アクリロニトリル(シアノ基を含む)およびアルキル(メタ)アクリレートを含む単量体の共重合体として得ることができる。これらの単量体を共重合して共重合体を得る具体的な手法について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、tert-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-n-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、共重合体のガラス転移点(Tg)を低下させることができることから、アルキル(メタ)アクリレートとして2-エチルヘキシルアクリレート(-70℃)、イソノニルアクリレート(-58℃)、n-ブチルアクリレート(-55℃)、エトキシエチルアクリレート(-50℃)、イソアミルアクリレート(-45℃)、ヘキシルアクリレート(-45℃)を少なくとも用いることが好ましい。特に、共重合が容易であることから2-エチルヘキシルアクリレートおよびn-ブチルアクリレートが好ましく、ガラス転移点が低いことから2-エチルヘキシルアクリレートが特に好ましい。
【0055】
また、上記単量体は(メタ)アクリロニトリルおよびアルキル(メタ)アクリレート以外の第3の単量体をさらに含んでももちろんよく、このような第3の単量体の具体的な形態についても従来公知の知見を参照することができる。ただし、上記共重合体を製造する際の単量体に占める(メタ)アクリロニトリルおよびアルキル(メタ)アクリレートの合計の割合(共重合比)は、好ましくは50質量%であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは85質量%以上であり、いっそう好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、最も好ましくは99質量%以上である(上限値は100質量%)。また、上記共重合体を製造する際の単量体に占める(メタ)アクリロニトリルの割合(共重合比)は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上である。一方、上記共重合体を製造する際の単量体に占めるアルキル(メタ)アクリレートの割合(共重合比)は、好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは75質量%以下である。このような構成とすることで、本形態に係るバインダーが固体電解質層に含まれる場合の上述したイオン-双極子相互作用をより強いものとすることができ、密着性の向上および界面抵抗の防止効果を優れたものとすることができる。
【0056】
本形態に係るバインダーを構成する重合体の重量平均分子量(Mw)について特に制限はないが、好ましくは100000以上であり、より好ましくは200000以上であり、さらに好ましくは300000以上である。一方、当該重量平均分子量(Mw)の上限値についても特に制限はなく、通常は800000以下である。当該重量平均分子量(Mw)が100000以上であれば、本形態に係るバインダーが含まれる層におけるバインダー分子同士の絡み合いがより多くなり、層間の密着性の向上や界面抵抗の防止効果がよりいっそう優れたものとなりうる。なお、本明細書において、バインダーを構成する重合体の重量平均分子量(Mw)の値としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の値を採用するものとする。なお、本形態に係る二次電池の好ましい実施形態においては、バインダーを構成する共重合体における(メタ)アクリロニトリルの共重合比(質量比)が25%以上であり、前記共重合体のガラス転移点が-40℃以下であり、かつ、前記共重合体の重量平均分子量(Mw)が300000以上である。このような構成とすることで、ハロゲン結合(およびイオン-双極子相互作用)の生成とバインダーのガラス転移点(Tg)とのバランスをよりいっそう好適なものとすることができ、層間の密着性の向上および界面抵抗の防止効果に特に優れるという利点がある。
【0057】
正極活物質層および/または固体電解質層に含まれるバインダー(重合体)の量についても特に制限はなく、上述した各層におけるバインダーの配合量の好ましい形態が同様にして採用されうる。また、正極活物質層および/または固体電解質層に含まれる本形態に係るバインダーの存在密度は、正極活物質層と固体電解質層との界面に向かって増加していることが好ましい。このような形態としては、例えば、バインダーの存在密度の異なる複数の層から正極活物質層や固体電解質層を構成し、界面側にバインダーの存在密度が高い層を配置する形態が挙げられる。また、可能であれば、単層からなる正極活物質層または固体電解質層の内部において本形態に係るバインダーの存在密度を界面に向かって高くなるように連続的に傾斜させてもよい。このような構成とすることで、層間の密着性の向上に寄与する本形態に係るバインダーを効率的に利用することができることから、バインダーの添加量を少なくすることができ、電池のエネルギー密度の向上に効果的に寄与することができる。
【0058】
[負極(負極活物質層)]
本形態に係る二次電池において、負極活物質層13は、負極活物質を含む。負極活物質の種類としては、特に制限されないが、炭素材料、金属酸化物および金属活物質が挙げられる。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。また、金属酸化物としては、例えば、Nb、LiTi12等が挙げられる。さらに、ケイ素系負極活物質やスズ系負極活物質が用いられてもよい。ここで、ケイ素およびスズは第14族元素に属し、非水電解質二次電池の容量を大きく向上させうる負極活物質であることが知られている。これらの単体は単位体積(質量)あたり多数の電荷担体(リチウムイオン等)を吸蔵および放出しうることから、高容量の負極活物質となる。ここで、ケイ素系負極活物質としては、Si単体を用いることが好ましい。また同様に、Si相とケイ素酸化物相との2相に不均化されたSiO(0.3≦x≦1.6)などのケイ素酸化物を用いることも好ましい。この際、xの範囲は0.5≦x≦1.5であることがより好ましく、0.7≦x≦1.2であることがさらに好ましい。さらには、ケイ素を含有する合金(ケイ素含有合金系負極活物質)が用いられてもよい。一方、スズ元素を含む負極活物質(スズ系負極活物質)としては、Sn単体、スズ合金(Cu-Sn合金、Co-Sn合金)、アモルファススズ酸化物、スズケイ素酸化物等が挙げられる。このうち、アモルファススズ酸化物としてはSnB0.40.63.1が例示される。また、スズケイ素酸化物としてはSnSiOが例示される。また、負極活物質として、リチウムを含有する金属を用いてもよい。このような負極活物質は、リチウムを含有する活物質であれば特に限定されず、リチウム金属のほか、リチウム含有合金が挙げられる。リチウム含有合金としては、例えば、Liと、In、Al、SiおよびSnの少なくとも1種との合金が挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。負極活物質は、リチウム金属、リチウム含有合金、ケイ素系負極活物質またはスズ系負極活物質を含むことが好ましく、リチウム金属またはリチウム含有合金を含むことが特に好ましい。このように、負極活物質がリチウム金属またはリチウム含有合金を含む場合、本形態に係る二次電池は、充電過程において負極集電体上にリチウム金属またはリチウム含有合金を析出させる、いわゆるリチウム析出型のものでありうる。この場合、充電過程において負極集電体上に析出するリチウム金属またはリチウム含有合金からなる層が、本形態に係る二次電池の負極活物質層となる。したがって、充電過程の進行に伴って負極活物質層の厚さは大きくなり、放電過程の進行に伴って負極活物質層の厚さは小さくなる。完全放電時には負極活物質層は存在していなくともよいが、場合によってはある程度のリチウム金属またはリチウム含有合金からなる負極活物質層を完全放電時において配置しておいてもよい。
【0059】
負極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。負極活物質が粒子形状である場合、その平均粒子径は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。
【0060】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。なお、負極活物質層は、固体電解質や、導電助剤および/またはバインダーをさらに含んでもよく、これらの具体的な形態および好ましい形態については、上述した正極活物質層の欄において説明したものが同様に採用されうる。
【0061】
負極活物質層の厚さ(リチウム析出型の二次電池においては、完全充電時の厚さ)は、目的とする全固体電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0062】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、負極集電板25と正極集電板27とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0063】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体(11’、11”)と集電板(25、27)との間を負極リードや正極リードを介して電気的に接続してもよい。負極および正極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0064】
[電池外装材]
電池外装材としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、図1および図2に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができることから、外装体はアルミニウムを含むラミネートフィルムがより好ましい。
【0065】
本形態に係る積層型電池は、複数の単電池層が並列に接続された構成を有することにより、高容量でサイクル耐久性に優れるものである。したがって、本形態に係る積層型電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
【0066】
以上、本形態に係る二次電池の一実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0067】
例えば、本形態に係る二次電池は、全固体型でなくてもよい。すなわち、固体電解質層は、従来公知の液体電解質(電解液)をさらに含有していてもよい。固体電解質層に含まれうる液体電解質(電解液)の量について特に制限はないが、固体電解質により形成された固体電解質層の形状が保持され、液体電解質(電解液)の液漏れが生じない程度の量であることが好ましい。
【0068】
用いられうる液体電解質(電解液)は、有機溶媒にリチウム塩が溶解した形態を有する。用いられる有機溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピオン酸メチル(MP)、酢酸メチル(MA)、ギ酸メチル(MF)、4-メチルジオキソラン(4MeDOL)、ジオキソラン(DOL)、2-メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、およびγ-ブチロラクトン(GBL)などが挙げられる。中でも、有機溶媒は、急速充電特性および出力特性をより向上できるとの観点から、好ましくは鎖状カーボネートであり、より好ましくはジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)からなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくはエチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)から選択される。
【0069】
リチウム塩としては、Li(FSON(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド;LiFSI)、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO等が挙げられる。中でも、リチウム塩は、電池出力および充放電サイクル特性の観点から、好ましくはLi(FSON(LiFSI)である。
【0070】
液体電解質(電解液)は、上述した成分以外の添加剤をさらに含有してもよい。かような化合物の具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、ジフェニルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1,2-ジビニルエチレンカーボネート、1-メチル-1-ビニルエチレンカーボネート、1-メチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-1-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-2-ビニルエチレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、ビニルオキシメチルエチレンカーボネート、アリルオキシメチルエチレンカーボネート、アクリルオキシメチルエチレンカーボネート、メタクリルオキシメチルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、プロパルギルエチレンカーボネート、エチニルオキシメチルエチレンカーボネート、プロパルギルオキシエチレンカーボネート、メチレンエチレンカーボネート、1,1-ジメチル-2-メチレンエチレンカーボネートなどが挙げられる。これらの添加剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、添加剤を電解液に使用する場合の使用量は、適宜調整することができる。
【0071】
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
【0072】
電池が複数、直列にまたは並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列にまたは並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池(電池モジュール、電池パックなど)を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
【0073】
[車両]
電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【実施例0074】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0075】
《試験用セルの作製例》
[比較例1]
(正極の作製)
まず、正極活物質層の構成材料として、正極活物質であるNMC複合酸化物(組成=LiNi0.8Mn0.1Co0.1)と、リチウムイオン伝導性のハロゲン含有硫化物固体電解質であるアルジロダイト型固体電解質(LiPSCl)と、導電助剤であるアセチレンブラックと、バインダーであるスチレン-ブタジエンゴム(SBR)と、を準備した。なお、バインダーとして準備したSBRの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の値として300000であり、ガラス転移点(Tg)は-30℃であった。
【0076】
これらのうち、NMC複合酸化物、固体電解質、およびアセチレンブラックを、50:30:20の質量比となるように秤量し、グローブボックス内でメノウ乳鉢で混合した後、遊星ボールミルでさらに混合撹拌した。得られた混合粉体100質量部に対してスチレン-ブタジエンゴム(SBR)を2質量部加え、キシレンを溶媒として加えて正極活物質スラリーを調製した。次いで、上記で調製した正極活物質スラリーを正極集電体としてのカーボンコートアルミニウム箔の一方の表面に塗工し、乾燥することにより正極活物質層(厚さ100μm)を形成して、正極を作製した。
【0077】
ここで、得られた正極の正極活物質層に含まれる正極活物質(リチウム含有金属酸化物)の二次粒子の平均粒子径および当該二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径を下記の手法により測定したところ、それぞれ7.0μmおよび5.0μmであった。
【0078】
〈平均粒子径の測定方法〉
作製された正極活物質層の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて観察、評価した。正極活物質の一次粒子の平均粒子径(算術平均径)は、正極活物質の断面より確認できる粒界の存在しない粒子50個以上について粒子径(観察される粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離)をそれぞれ測定し、その算術平均値を算出することにより求めた。また、正極活物質の二次粒子の平均粒子径(算術平均径)は、間に他の物質が存在しない一次粒子群50個以上について粒子径をそれぞれ測定し、その算術平均値を算出することにより求めた。
【0079】
(固体電解質層の作製)
上記で準備した硫化物固体電解質とバインダ(SBR)とを95:5の質量比で混合し、適量のキシレンを溶媒として添加し、混合して固体電解質スラリーを調製した。
【0080】
上記で調製した固体電解質スラリーを、負極集電体としてのステンレス(SUS)箔上に塗工し、溶媒を揮発させることにより、固体電解質層(厚さ80μm)を形成した。
【0081】
(試験用セルの作製)
上記で作製した正極の露出表面に、上記で作製した固体電解質層を冷間等方圧プレス(CIP)により転写した。
【0082】
最後に、正極集電体であるカーボンコートアルミニウム箔、および負極集電体であるSUS箔のそれぞれに、アルミニウム製正極タブおよびニッケル製負極タブを超音波溶接機により接合し、得られた積層体をアルミニウムラミネートフィルムの内部に入れて真空封止することにより、本比較例の試験用セルを作製した。
【0083】
[実施例1]
バインダーとして、アクリロニトリル(AN)と2-エチルヘキシルアクリレート(EHA)との共重合体A(モノマー組成比;AN:EHA=25:75(質量比))を準備した。ここで、共重合体Aの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の値として300000であり、ガラス転移点(Tg)は-40℃であった。
【0084】
正極活物質層および固体電解質層に含まれるバインダーとして、SBRに代えていずれも共重合体Aを用いたこと以外は、上述した比較例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0085】
[実施例2]
バインダーとして、アクリロニトリル(AN)と2-エチルヘキシルアクリレート(EHA)との共重合体B(モノマー組成比;AN:EHA=20:80(質量比))を準備した。ここで、共重合体Bの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の値として300000であり、ガラス転移点(Tg)は-45℃であった。
【0086】
正極活物質層および固体電解質層に含まれるバインダーとして、SBRに代えていずれも共重合体Bを用いたこと以外は、上述した比較例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0087】
[実施例3]
バインダーとして、アクリロニトリル(AN)と2-エチルヘキシルアクリレート(EHA)とメタクリル酸メチルとの共重合体C(ANとEHAとのモノマー組成比;AN:EHA=20:80(質量比))を準備した。ここで、共重合体Cの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の値として300000であり、ガラス転移点(Tg)は-25℃であった。
【0088】
正極活物質層および固体電解質層に含まれるバインダーとして、SBRに代えていずれも共重合体Cを用いたこと以外は、上述した比較例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0089】
[実施例4]
バインダーとして、アクリロニトリル(AN)と2-エチルヘキシルアクリレート(EHA)との共重合体D(モノマー組成比;AN:EHA=25:75(質量比))を準備した。ここで、共重合体Dの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の値として50000であり、ガラス転移点(Tg)は-40℃であった。
【0090】
正極活物質層および固体電解質層に含まれるバインダーとして、SBRに代えて共重合体Dを用いたこと以外は、上述した比較例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0091】
[実施例5]
正極活物質として、NMC複合酸化物(組成=LiNi0.6Mn0.2Co0.2)を準備した。
【0092】
正極活物質層に含まれる正極活物質として、LiNi0.8Mn0.1Co0.1に代えてLiNi0.6Mn0.2Co0.2を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0093】
[実施例6]
バインダーとして、上述した実施例1と同様の共重合体Aを準備した。
【0094】
固体電解質層に含まれるバインダーとして、SBRに代えて共重合体Aを用いたこと以は、上述した比較例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0095】
ここで、上述した実施例および比較例において用いたバインダーの仕様を下記の表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
《試験用セルの評価例》
(正極活物質層/固体電解質層界面の密着性の評価)
上述した試験用セルの作製例と同様にして作製した正極集電体/正極活物質層/固体電解質層/負極集電体の積層体を用い、一方の面を両面テープを用いて台に固定した。次いで、50mm/分の剥離速度で90°剥離試験を行い、正極活物質層/固体電解質層の界面が剥離したときの剥離強度を測定した。結果を下記の表2に示す。なお、表2に示す剥離強度の値は、比較例1を100としたときの相対値である。
【0098】
(サイクル充放電後の内部抵抗の評価)
加圧部材を用いて試験用セルの積層方向に5MPaの拘束圧力を付与した。その状態で、60℃の温度条件下で、上下限電圧を3.0~4.3Vに設定し、Cレート換算で0.05Cに相当する電流の大きさで10サイクルの充放電処理を実施した。
【0099】
その後、60℃の温度条件下、SOC100%まで充電し、以下の条件で放電処理を繰り返して、その際の電流量と電圧降下量とをプロットした。そして、プロットしたグラフの傾きから、放電処理時の内部抵抗を算出した。結果を下記の表2に示す。なお、表2に示す内部抵抗の値は、比較例1を100としたときの相対値である。
【0100】
〈放電処理の条件〉
0.05C CC放電(15秒間)⇒2時間休止⇒0.1C CC放電(15秒間)⇒2時間休止⇒0.2C CC放電(15秒間)⇒2時間休止⇒0.5C CC放電(15秒間)。
【0101】
【表2】
【0102】
表1に示す結果から、正極活物質層および固体電解質層の一方にハロゲン元素を含む固体電解質を含ませるとともに、他方に非共有電子対を有する官能基を有するバインダーを含ませることで、所定の平均粒子径および組成を有するNMC複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池において、正極活物質層と固体電解質層との間の密着性を向上させることができ、その結果、電池の内部抵抗を低減させることができることがわかる。
【0103】
特に、共重合体における(メタ)アクリロニトリルの共重合比(質量比)が25%以上であり、共重合体のガラス転移点が-40℃以下であり、かつ、前記共重合体の重量平均分子量(Mw)が300000以上である共重合体Aを用いた実施例1では、層間の密着性の向上および界面抵抗の防止効果に特に優れることがわかる。これは、このような構成とすることで、ハロゲン結合(およびイオン-双極子相互作用)の生成とバインダーのガラス転移点(Tg)とのバランスが好適なものとなっていることによるものと考えられる。
【0104】
また、一般式(1)(LiNiMnCo)におけるbの値が0.6≦b≦0.7を満たす実施例5では、実施例1と比較して上述した効果がより向上していることがわかる。
【符号の説明】
【0105】
10a、100 積層型電池、
11’ 負極集電体、
11” 正極集電体、
13 負極活物質層、
15 正極活物質層、
17 固体電解質層、
19 単電池層、
21 発電要素、
25 負極集電板、
27 正極集電板、
29 ラミネートフィルム、
200 金属板、
300 ボルト、
400 ナット。
図1
図2
図3
図4