(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161573
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】磁気電気変換素子
(51)【国際特許分類】
H01L 41/06 20060101AFI20221014BHJP
H01L 41/04 20060101ALI20221014BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20221014BHJP
H01L 41/113 20060101ALI20221014BHJP
H01L 41/12 20060101ALI20221014BHJP
H01L 41/187 20060101ALI20221014BHJP
H01L 41/20 20060101ALI20221014BHJP
H01L 41/47 20130101ALI20221014BHJP
H01L 41/314 20130101ALI20221014BHJP
【FI】
H01L41/06
H01L41/04
H01L41/09
H01L41/113
H01L41/12
H01L41/187
H01L41/20
H01L41/47
H01L41/314
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066489
(22)【出願日】2021-04-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野口 隆男
(72)【発明者】
【氏名】岡野 靖久
(57)【要約】
【課題】各振動体の振動の独立性を確保し得る磁気電気変換素子。
【解決手段】固定部の少なくとも一部を間に配置する複数の下部空間が形成される基板と、前記下部空間に対応して設けられ、前記固定部に接続する支持腕部を介して前記下部空間上に振動可能に支持され、磁気電気変換性を有する複数の振動体と、を有し、それぞれの前記下部空間は、対応する前記振動体と前記基板との隙間を介して、前記振動体の上部の空間である上部空間と接続しており、前記固定部における前記振動体の主面に平行であって前記固定部の上端から第1の距離である第1断面の断面積は、前記固定部における前記振動体の主面に平行であって前記固定部の上端から前記第1の距離より長い第2の距離である第2断面の断面積より狭いことを特徴とする磁気電気変換素子。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部の少なくとも一部を間に配置する複数の下部空間が形成される基板と、
前記下部空間に対応して設けられ、前記固定部に接続する支持腕部を介して前記下部空間上に振動可能に支持され、磁気電気変換性を有する複数の振動体と、を有し、
それぞれの前記下部空間は、対応する前記振動体と前記基板との隙間を介して、前記振動体の上部の空間である上部空間と接続しており、
前記固定部における前記振動体の主面に平行であって前記固定部の上端から第1の距離である第1断面の断面積は、前記固定部における前記振動体の主面に平行であって前記固定部の上端から前記第1の距離より長い第2の距離である第2断面の断面積より狭いことを特徴とする磁気電気変換素子。
【請求項2】
前記固定部の一次共振周波数が、前記振動体の動作する共振周波数よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の磁気電気変換素子。
【請求項3】
前記振動体の動作する振動モードの振動方向と同一の方向に変位する前記固定部の振動モードの基本共振周波数が、前記振動体の動作する共振周波数よりも低い請求項1に記載の磁気電気変換素子。
【請求項4】
前記固定部は、前記固定部における前記振動体の主面に平行である断面の断面積が、前記固定部の前記上端からの距離が小さくなるのに従って遷移的に狭くなる遷移変化部を有する請求項1から請求項3までのいずれかに記載の磁気電気変換素子。
【請求項5】
前記固定部は、前記第1断面を含む第1部分の第1側面と、前記第2断面を含む第2部分の第2側面とを接続する段差面を有する請求項1から請求項3までのいずれかに記載の磁気電気変換素子。
【請求項6】
前記振動体は、圧電体膜と強磁性膜とを含む膜積層部を有する請求項1から請求項5までのいずれかに記載の磁気電気変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の振動体を有する磁気電気変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体と強磁性体とを組み合わせるなどして、磁気電気変換素子を構成する技術が提案されており、磁気電気変換素子を用いた様々なデバイスについて開発が検討されつつある。たとえば、小型で有用な特性を有する磁気電気変換素子として、基板上に磁気電気変換性を有する振動体を、配置するものが提案されている。
【0003】
一方、小型のエネルギー変換部分を、複数組み合わせてエネルギー変換素子を構成することができれば、小型でありながら性能の高いエネルギー変換素子を実現できる可能性がある。しかしながら、磁気電気変換性を有する振動体を、基板上に密集させて複数配置しようとすると、振動体を支える基板が振動して磁気電気変換特性が低下する課題が生じる。また、複数の振動体を近づけて配置しようとすると、互いの振動が伝わることにより、磁気電気変換特性が低下したり、制御が難しくなる課題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実情を鑑みてなされ、複数の振動体を有する磁気電気変換素子において、各振動体の振動の独立性を確保し得る磁気電気変換素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る磁気電気変換素子は、
固定部の少なくとも一部を間に配置する複数の下部空間が形成される基板と、
前記下部空間に対応して設けられ、前記固定部に接続する支持腕を介して前記下部空間上に振動可能に支持され、磁気電気変換性を有する複数の振動体と、を有し、
それぞれの前記下部空間は、対応する前記振動体と前記基板との隙間を介して、前記振動体の上部の空間である上部空間と接続しており、
前記固定部における前記振動体の主面に平行であって前記固定部の上端から第1の距離である第1断面の断面積は、前記固定部における前記振動体の主面に平行であって前記固定部の上端から前記第1の距離より長い第2の距離である第2断面の断面積より狭いことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る磁気電気変換素子は、固定部の少なくとも一部を間に配置する下部空間に対応させて振動体を配置させることにより、複数の振動体を近づけて配置することが可能である。また、固定部の第1断面の断面積を狭くすることにより、振動体および支持腕部の配置・振動空間を確保しつつ、複数の振動体同士をより近づけて配置することができる。また、第2断面を広くすることにより、固定部の剛性を高めて固定部の振動を防止し、各振動体の振動の独立性を確保することができ、良好な磁気電気変換特性を得ることができる。
【0008】
また、たとえば、前記固定部の一次共振周波数が、前記振動体の動作する共振周波数よりも低くてもよい。
【0009】
このような磁気電気変換素子は、振動体の動作に起因する固定部の共振を防止することにより、振動体を支える固定部の振動を効果的に防止することができ、良好な磁気電気変換特性を得ることができる。
【0010】
また、たとえば、前記振動体の動作する振動モードの振動方向と同一の方向に変位する前記固定部の振動モードの基本共振周波数が、前記振動体の動作する共振周波数よりも低くてもよい。
【0011】
このような磁気電気変換素子は、振動体の動作に起因する固定部の共振を防止することにより、振動体を支える固定部の振動を特に効果的に防止することができ、良好な磁気電気変換特性を得ることができる。
【0012】
また、たとえば、前記固定部は、前記固定部における前記振動体の主面に平行である断面の断面積が、前記固定部の前記上端からの距離が小さくなるのに従って遷移的に狭くなる遷移変化部を有してもよい。
【0013】
遷移変化部を有する固定部は、固定部の断面積が上下方向で急激に変化することを防止し、固定部の剛性を全体的かつ効果的に高めることができる。
【0014】
また、たとえば、前記固定部は、前記第1断面を含む第1部分の第1側面と、前記第2断面を含む第2部分の第2側面とを接続する段差面を有してもよい。
【0015】
このような段差面を有する形状とすることにより、第1断面と第2断面とを有する固定部を、エッチングなどによって比較的容易に形成できるため、このような固定部を有する基板は、生産性が良好である。
【0016】
前記振動体は、圧電体膜と強磁性膜とを含む膜積層部を有してもよい。
【0017】
圧電体膜と強磁性膜を含む膜積層部を有する振動体は、小型で良好な磁気電気変換性を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る磁気電気変換素子の部分平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す磁気電気変換素子に含まれる1つの振動体の周辺を拡大した拡大平面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すIII-III線に沿う断面図である。
【
図5】
図5は、磁気電気変換素子における固定部と振動体の形状を模式的に表す概念図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る磁気電気変換素子における固定部と振動体の形状を模式的に表す概念図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態に係る磁気電気変換素子における固定部と振動体の形状を模式的に表す概念図である。
【
図8】
図8は、第4実施形態に係る磁気電気変換素子における固定部と振動体の形状を模式的に表す概念図である。
【
図9】
図9は、第5実施形態に係る磁気電気変換素子における固定部と振動体の形状を模式的に表す概念図である。
【
図10】
図10は、第6実施形態に係る磁気電気変換素子における固定部と振動体の形状を模式的に表す概念図である。
【
図11】
図11は、第7実施形態に係る磁気電気変換素子における固定部と振動体の形状を模式的に表す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0020】
第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る磁気電気変換素子30の部分平面図である。
図1に示すように、磁気電気変換素子30は、固定部41を間に配置する複数の下部空間40bが形成される基板40と、各下部空間40bに対応して設けられ、磁気電気変換性を有する複数の振動体70とを有する。なお、
図1~
図4および
図5(a)では、説明の都合上、
図5(b)に示されるカバー部90については図示を省略している。
【0021】
図1に示すように、基板40には、上方(Z軸正方向)から見て略矩形の上方開口を有する下部空間40bが、X軸方向およびY軸方向に沿って複数形成してある。それぞれの下部空間40bは、X軸方向に関しては固定部41によって仕切られており、Y軸方向に関しては接続部48によって仕切られている。基板40の枠部49(
図5(b)参照)は、基板40の外周部を構成する。
【0022】
振動体70は、それぞれの下部空間40bの上方開口の一部を塞ぐように配置されている。
図2は、
図1に示す振動体70の一つおよびその周辺部分を拡大して示す拡大平面図であり、
図3および
図4は、それぞれ
図2における断面線III-IIIおよび断面線IV-IVに沿う断面図である。なお、
図2~
図4では、
図1では図示を省略している振動体70の詳細構造についても図示してある。
【0023】
図2および
図3に示すように、振動体70は、固定部41に接続する支持腕部80を介して、下部空間40bの上に振動可能に支持されている。
図2および
図4に示すように、振動体70と基板40の固定部41および接続部48との間には隙間94が形成されている。
図4に示すように、それぞれの下部空間40bは、その下部空間40bに対応して設けられる振動体70と基板40との隙間94を介して、振動体70の上部(Z軸正方向側)の空間である上部空間90aと接続している。
【0024】
図1に示すように、磁気電気変換素子30は、複数の振動体70を電極膜(後述する第1取出電極膜50aや第2取出電極膜50b)および配線部96によって電気的に接続するアレー素子を構成している。
図1に示す磁気電気変換素子30は、複数の振動体70を2次元方向に配列した2Dアレー素子であるが、磁気変換素子としては2Dアレー素子のみには限定されず、複数の振動体70を1次元方向(たとえばX軸方向)に配列した1Dアレー素子や、複数の振動体70を立体的に配置した3Dアレー素子などであっても構わない。3Dアレー素子である磁気変換素子は、たとえば、
図1に示す磁気電気変換素子30を上下方向(Z軸方向)に複数積層して構成することができる。
【0025】
磁気電気変換素子30が有する振動体70は、後述する
図3に示すように、圧電体膜中央部72や強磁性膜73等を含み、磁気エネルギーと電気エネルギーとを変換する磁気電気変換性を有する。
図1に示す磁気電気変換素子は、たとえば電磁場の変動を伴う入力エネルギーを効果的に吸収して磁気電気変換を行い、高い電気的な出力を得ることができる。また、磁気電気変換素子は、たとえば、電気的な入力エネルギーを、磁場変動のような出力信号に効率的に変換することができる。
【0026】
磁気電気変換素子30は、電源や電気/電子回路と接続され、回路基板に搭載するかパッケージされることにより、エネルギー変換デバイスや磁気センサなどの電子デバイスを構成する。磁気電気変換素子30の適用例としては、たとえば磁気を検出する小型の高感度磁気センサや、高感度磁気アンテナや、小型デバイスにおける非接触給電システムの送電部や受電部などが挙げられるが、特に限定されない。
【0027】
なお、
図1から
図5に示す磁気電気変換素子30の説明では、振動体70の両側にある2つの支持腕部80を繋ぐ方向をX軸方向、基板40の下部空間40bと振動体70の主面70a(
図5(b)参照)の法線方向をZ軸方向、X軸方向およびZ軸方向に垂直な方向をY軸方向として説明を行う。ただし、磁気電気変換素子30においては、X軸方向およびY軸方向が水平方向に一致している必要はなく、Z軸方向が水平方向に一致するように配置されてもよく、Z軸方向が水平面に対して斜めになるように配置されてもよい。
【0028】
図2に示すように、磁気電気変換素子30における1つの振動体70と下部空間40bとの組み合わせ部分は、全体として略矩形の平面視形状を有する領域に配置される。振動体70は、X軸とY軸とを含む平面に沿って形成してあり、略矩形の平面視形状を有する。
【0029】
図3は、
図2に示すIII-III線に沿う断面図である。
図3に示すように、磁気電気変換素子30におけるZ軸方向の最下層には、基板40が存在する。基板40は、Z軸方向から見て振動体70に重複する部分に、下部空間40bを有する。下部空間40bのZ軸上方に位置する振動体70は、下部金属膜中央部74と、下部金属膜中央部74の上に位置する圧電体膜中央部72と、圧電体膜中央部72の上に位置する強磁性膜73とを含む膜積層部を有する。
【0030】
振動体70の膜積層部は、圧電体膜中央部72が下部金属膜中央部74と強磁性膜73とで挟まれた状態で積層してある。そのため、圧電体膜中央部72には、下部金属膜中央部74と強磁性膜73とを介して、電圧の印加が可能である。もしくは、圧電体膜中央部72で発生した電荷を、下部金属膜中央部74と強磁性膜73とを介して、取り出し可能となっている。
【0031】
また、振動体70では、強磁性膜73が外部磁場等の影響を受けて変形および振動することができ、圧電体膜中央部72も強磁性膜73と伴に変形および振動することにより電荷は生じ、これを下部金属膜中央部74と強磁性膜73とを介して、取り出し可能となっている。また、振動体70では、圧電体膜中央部72に電圧を印加して変形および振動を生じさせ、強磁性膜73を圧電体膜中央部72と伴に変形および振動させることにより、磁場変動を生じさせることができる。このように、振動体70は、磁気電気変換性を有する。
【0032】
図3に示すように、支持腕部80は、振動体70のX軸方向両端に接続している。支持腕部80の一端は振動体70に接続しており、支持腕部80の他端は固定部41の上端41aに固定される。これにより、支持腕部80は、基板40の固定部41aに対して、振動体70を振動可能に連結する。
図3に示すように、支持腕部80は、下部金属膜端部84および圧電体膜端部82を含む。
【0033】
図3に示すように、下部金属膜は、振動体70の下部金属膜中央部74と、支持腕部80の一部である下部金属膜端部84とを一体的に有する。
図2に示す平面視において、下部金属膜中央部74は、下部空間40bの上方開口よりも小さい略矩形の形状を有する。したがって、下部金属膜中央部74と、下部空間40bの上方開口との間には、隙間94(
図2および
図4参照)が形成される。
【0034】
また、
図3に示すように、下部金属膜の下部金属膜端部84は、下部金属膜中央部74のX軸方向の両端に位置し、
図2に示す平面視において、中央部分50bよりもY軸方向の幅が小さい略矩形の形状を有する。下部金属膜は、上記のような形状を有するため、
図3に示す断面において、下部空間40bの上部開口を、X軸方向に掛け渡すように存在している。そして、下部金属膜における下部金属膜端部84の一部が、基板40の固定部41の上端41aに接続し、固定されている。
【0035】
一方で、
図4は、
図2のIV-IV線に沿う断面図である。
図4では、下部金属膜中央部74の断面のみが現れ、基板40の固定部に接続する下部金属膜端部84が現れない。そのため、
図4に示す断面においては、下部金属膜中央部74を含む振動体70が、下部空間40bのZ軸上方において、浮遊しているように見える。下部空間40bの上方に配置される振動体70は、振動体702に含まれる各膜の応力の不均衡によって、反りが発生する場合があるが、その反りは小さいほうが、磁気電気変換素子30内でのエネルギー伝達ロスを小さくする観点で好ましい。
【0036】
図3に示すように、圧電体膜中央部72は、下部金属膜中央部74のZ軸方向の上方に位置し、下部金属膜中央部74と同じか、下部金属膜中央部74より若干小さい略矩形の平面視形状を有する。
図2では、圧電体膜中央部72の平面寸法(X-Y平面上の面積)が、下部金属膜中央部74の平面寸法よりも小さくなっているが、圧電体膜中央部72の平面寸法は、下部金属膜中央部74と同程度の大きさであってもよい。
図3に示すように、圧電体膜は、圧電体膜中央部72に加えて、圧電体膜中央部72の両端に接続しており下部金属膜端部84の上に位置する圧電体膜端部82を有する。圧電体膜端部82は、下部金属膜端部84と同じく、支持腕部80の一部を構成する。
【0037】
また、
図3に示すように、圧電体膜中央部72のZ軸方向の上方には、強磁性膜73が存在し、
図2に示すように、この強磁性膜73も、略矩形の平面視形状を有する。そして、強磁性膜73の平面寸法は、圧電体膜中央部72の平面寸法よりも、さらに若干小さくなっている。強磁性膜73の平面寸法を、圧電体膜中央部72よりも小さくすることで、磁気電気変換素子30の耐久性が向上する傾向となる。ただし、強磁性膜73の平面寸法は、圧電体膜中央部72の平面寸法と同程度であってもよい。
【0038】
また、
図3に示すように、一方(X軸負方向側)の下部金属膜端部84には、第1取出電極膜51の先端が接続してある。この第1取出電極膜51の後端は、X軸負方向側に隣接する振動体70の強磁性膜73に接続する第2取出電極膜53などに接続され、
図1に示すようなアレー素子を構成する。
【0039】
さらに、
図3に示すように、他方(X軸正方向側)の下部金属膜端部84は、圧電体膜の一部と共に、絶縁膜54で覆われている。そして、絶縁膜54の上をX軸方向に掛け渡すように、第2取出電極膜53が形成してあり、第2取出電極膜53の先端は、強磁性膜73に接続してある。この第2取出電極膜53後端には、X軸正方向側に隣接する振動体70の下部金属膜端部83に接続する第1取出電極膜51などに接続され、
図1に示すようなアレー素子を構成する。なお、絶縁膜54があるため、第2取出電極膜53は、
図3および
図2に示す下部金属膜50に対しては、絶縁されている。
【0040】
図1に示すように、基板40に形成される複数の下部空間40bは、X軸方向に関しては、固定部41によって分けられている。
図5(a)および
図5(b)は、
図1に示す磁気電気変換素子30において、X軸方向に並ぶ一列の振動体70の周辺部分を拡大して表した模式図である。
図5(a)はZ軸正方向側から見た平面図であり、
図5(b)はXZ平面に平行な断面による断面図である。なお、
図5(a)および
図5(b)では、
図2~
図4と比較して、振動体70等の形状などを簡略化して表示している。
【0041】
また、
図5(a)に示すように、基板40における固定部41の上端41aには、X軸負方向側に隣接する振動体70に接続する支持腕部80と、X軸正方向側に隣接する振動体70に接続する支持腕部80とが固定されている。これにより、固定部41は、支持腕部80を介して振動体70を振動可能に支持する。
【0042】
図5(b)に示すように、固定部41は、振動体70の主面70aに垂直であってX軸方向に平行な断面(縦断面)において、略台形の形状を有する。
図5(c)は、
図5(b)に示す固定部41の断面形状を拡大して表したものである。
【0043】
図5(c)に示すように、固定部41において、振動体70の主面70a(XY平面に平行)に平行であって固定部41の上端41aから第1の距離Lである第1断面42の断面積は、振動体70の主面70aに平行であって固定部41の上端41aから第1の距離L1より長い第2の距離L2である第2断面43より狭い。
【0044】
すなわち、固定部41は、振動体70の主面70aに平行である断面の断面積が、固定部41の上端41aからの距離が小さくなるのに従って遷移的に狭くなる遷移変化部を有する。
図5(b)および
図5(c)に示すように、固定部41は、固定部41の全体が遷移変化部となっており、固定部41の断面が台形形状となっている。ただし、上端41aからの距離が小さくなるのに従って断面積が狭くなる遷移変化部は、固定部41の高さ方向の一部のみに形成されていてもよい。
【0045】
固定部41の側面41bのZ軸方向に対する傾斜角度は特に限定されないが、たとえば1度~15度とすることが好ましく、3度~10度とすることが特に好ましい。固定部41の形状をこのようにすることにより、複数の振動体70同士を近づけて配置しつつ、固定部41の剛性を高めて固定部41の振動を防止し、各振動体70の振動の独立性を確保することができる。なお、
図5に示す基板40の枠部49の一部も、支持腕部80が接続している部分については、固定部41の一種であると考えてもよい。
【0046】
(圧電体膜)
圧電体膜中央部72および圧電体膜端部82を有する圧電体膜は、圧電材料で構成してあり、圧電効果または逆圧電効果を奏する。圧電効果とは、外力(応力)が加わることで電荷を発生する効果を意味し、逆圧電効果とは、電圧を加えることで歪が発生する効果を意味する。このような効果を奏する圧電材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O3)、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN:(K,Na)NbO3)、ジルコン酸チタン酸バリウムカルシウム(BCZT:(Ba,Ca)(Zr,Ti)O3)、などが例示される。
【0047】
本実施形態では、上記の圧電材料のうち、特に、PZT、KNN、およびBCZTなどのペロブスカイト構造を有する圧電材料を用いることが好ましい。圧電体膜として、ペロブスカイト構造の圧電材料を使用することで、優れた圧電特性と、高い信頼性と、を両立して得ることができる。なお、圧電体膜10を構成する上記の圧電材料には、特性を改善するために、適宜他の元素が添加してあっても良い。
【0048】
圧電体膜中央部72を含む圧電体膜の厚みは、たとえば0.5~10μmとすることができる。圧電体膜の厚みは、たとえば、断面写真を画像解析することで求められる。すなわち、圧電体膜の厚みは、面内方向で3点以上の箇所で計測を行い、その平均値として算出することが好ましい。なお、圧電体膜としては、厚みのばらつきが±5%以下と少ないものを用いることが好ましい。
【0049】
圧電体膜は、エピタキシャル成長膜であってもよい。エピタキシャル成長膜とは、単結晶基板上でエピタキシャル成長した膜を意味する。ここで、エピタキシャル成長とは、成膜の際に、膜の結晶が、下地材料の結晶格子に整合する形で、膜厚方向(Z軸方向)および面内方向(X軸およびY軸方向)に揃いながら成長することをいう。そのため、エピタキシャル成長膜である圧電体膜10は、成膜中の高温状態においては、結晶が、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の3軸すべての方向において揃って配向した状態の結晶構造をとり(エピタキシャル膜)、成膜後の室温状態においては、結晶粒界がほとんど形成されず、単結晶に近い(完全な単結晶ではない)結晶構造を有する(エピタキシャル成長(した)膜)。
【0050】
圧電体膜がPZTのエピタキシャル成長膜である場合には、正方晶の2種のドメインと、菱面体晶のドメインとの計3種のドメインを含むことが好ましい。一方、圧電体膜がKNNのエピタキシャル成長膜である場合には、斜方晶の2種のドメインと、単斜晶の1種のドメインと(計3種のドメイン)を有することが好ましい。また、圧電体膜がBCZTのエピタキシャル成長膜である場合には、正方晶の2種のドメインと、斜方晶の2種のドメインと(計4種のドメイン)を有することが好ましい。
【0051】
なお、圧電体膜としては、エピタキシャル成長した膜でなくてもよく、エピタキシャル成長以外の薄膜法によって形成されたPZT、KNN、およびBCZTなどの圧電体薄膜であってもよい。
【0052】
(強磁性膜)
強磁性膜73は、たとえば、軟磁性高磁歪膜で構成することが好ましく、外部から磁場や電磁波、超音波などが印加されると磁歪効果により歪みを発生させる。軟磁性高磁歪膜とは、保磁力HCやしきい磁場HTHが低い軟磁性体で構成されており、かつ、飽和磁歪λMAXが5ppm以上の膜であることが好ましい。飽和磁歪λMAXは、より好ましくは10ppm以上である。なお、軟磁性体は、飽和磁歪λMAXが1ppm以下の低磁歪材料であることが一般的であるが、本実施形態の強磁性膜73は、軟磁性体であり、かつ、高磁歪特性を有することが重要である。
【0053】
上記のような特徴を有する軟磁性体としては、たとえば、鉄(Fe)-コバルト(Co)-ケイ素(Si)-ホウ素(B)合金、Fe-Si-B合金、Fe-Co-B合金、Fe-クロム(Cr)-Si-B合金、Fe-ニッケル(Ni)-モリブデン(Mo)-B合金、Fe-Si-B-銅(Cu)-ニオブ(Nb)合金、Co-Fe-Ni-Si-B―Mo合金などが挙げられる。
【0054】
また、本実施形態において、軟磁性高磁歪膜の保磁力HCは、2500A/m未満とすることが好ましい。保磁力HCが低ければ低いほど、磁気電気変換素子30における磁電効果の応答性が向上する。ただし、保磁力HCを0A/mとすることは困難であり、保磁力HCの下限値は、製造時に使用する成膜装置の仕様にも依存する。軟磁性高磁歪膜の保磁力HCは、1A/m以上、2500A/m未満とすることがより好ましく、1A/m以上、1500A/m以下とすることがさらに好ましい。
【0055】
さらに、軟磁性高磁歪膜のしきい磁場HTHは、1A/m以上、500A/m未満とすることがより好ましく、1A/m以上、350A/m以下とすることがさらに好ましい。なお、本実施形態において、しきい磁場HTHとは、軟磁性高磁歪膜に0.1ppmの磁歪が発生する磁場を意味する。加えて、軟磁性高磁歪膜の磁場感度dλ/dHは、10ppb・m・A-1以上であることが好ましく、15ppb・m・A-1以上であることがより好ましい。なお、本実施形態において、磁場感度dλ/dHは、バイアス磁場として500A/mの直流磁場を印加した環境下における磁歪の変化量を意味する。
【0056】
強磁性膜73は、非晶質相と結晶相とを含むことが好ましい。また、非晶質層と結晶層を含む強磁性膜73は、含まれる結晶相のほとんどが、面心立方構造(fcc)を有することがより好ましい。ただし、この場合でも、少なくとも一部の結晶相に、体心立方構造(bcc)の結晶相が混じっていてもよい。
【0057】
強磁性膜73の厚みは、好ましくは0.1~5μmの範囲内である。なお、強磁性膜73の厚みは、圧電体膜中央部72の厚みと同様にして測定される。強磁性膜73の厚みも、面内方向のばらつきが小さく、圧電体膜中央部72の厚みと同程度のばらつきを有するものを用いることができる。本実施形態では、圧電体膜中央部72の厚みに対する強磁性膜73の厚みの比率(圧電体膜中央部72の厚み/強磁性膜73の厚み)は、好ましくは、1/10~10の範囲内である。
【0058】
(基板)
磁気電気変換素子30における基板40は、少なくとも積層体32を支持する絶縁部材などで構成される。たとえば、基板40としては、積層体32の圧電体膜10をエピタキシャル成長させる際に使用する単結晶基板や、積層体32を構成する部分を薄膜法などによる積層する際の基板を用いてもよい。基板40の材質は、Si、MgO、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)などの各種単結晶から選択することができ、特に、表面がSi(100)面の単結晶となっているシリコン基板とすることが好ましい。
【0059】
下部金属膜中央部74および下部金属膜端部84を有する下部金属膜は、Pt、Ag、Cu、Au、Alなどの導電性金属膜で構成される。圧電体膜がエピタキシャル成長膜である場合、下部金属膜もエピタキシャル成長膜であることが好ましい。エピタキシャル成長膜である下部金属膜としては、Pt、Ir、Auなどの面心立方構造の金属薄膜か、SrRuO3(SRO)やLaNiO3などのペロブスカイト型構造の酸化物導電体膜とすることが好ましい。このような金属薄膜および酸化物導電体薄膜は、単結晶の基板上にエピタキシャル成長させることができ、これにより、下部金属膜もエピタキシャル成長膜とすることができる。また、下部金属膜は、上記の金属薄膜と上記の酸化物導電体膜とを積層して構成してもよい(例えば、Pt電極/SrRuO3など)。この場合(複数積層の場合)、下部金属膜の圧電体膜側(すなわちZ軸方向の上方)には、酸化物導電体膜が存在することが好ましい。そして、下部金属膜の平均厚みは、全体として、3nm~200nmとすることが好ましい。
【0060】
なお、変形例に係る振動体として、
図3に示す強磁性膜73と圧電体膜中央部72との間に、上部電極膜が形成してあるものも考えられる。圧電体膜中央部72と強磁性膜73との間に上部電極膜を形成する場合、上部電極膜は、たとえば下部金属膜中央部74と同様の材質および厚みとすることができる。
【0061】
図1~
図4に示す第1取出電極膜51および第2取出電極膜53は、導電性を有する膜で構成され、材質や厚みは特に限定されない。たとえば、第1取出電極膜51および第2取出電極膜53は、Ptのほか、Ag、Cu、Au、Alなどの導電性金属を含むことができる。
図1~
図4に示す絶縁膜54は、電気絶縁性を有する膜で構成され、材質や厚みは特に限定されない。たとえば、絶縁膜54の材質に関しては、SiO
2、Al
2O
3、ポリイミドなどを用いることができる。
【0062】
なお、変形例に係る振動体として、
図2に示す振動体70とは異なり、下部金属膜中央部74および下部金属膜端部84のZ軸方向の下方(すなわち、基板40と下部金属膜との間)に、バッファ層が形成してあるものも考えられる。基板40と下部金属膜との間にバッファ層が形成してあることで、バッファ層より上層に位置する膜のエピタキシャル成長を促進させることが可能である。また、バッファ層は、基板40に下部空間40bを形成する際に、エッチングストッパ層としても機能する。バッファ層を形成する場合、その厚みは、5nm~100nmとすることが好ましい。
【0063】
図1~
図5に示す磁気電気変換素子30では、振動体70が、特定の周波数の振動モードを有する振動子として機能する。すなわち、振動体70は、X-Y平面に沿って振動体70が伸縮する面内伸縮を生じることができ、面内方向の伸縮振動が可能である。なお、振動体70は、面内伸縮だけでなく、Z軸方向において振動体70が伸縮する面外伸縮も生じることもできる。
【0064】
振動体70と固定部41とを接続する支持腕部80は、振動体70で生じる面内伸縮を妨げないように、振動体70に対して剛性の低い形態であることが好ましい。
図2に示すように、たとえば、支持腕部80のY軸方向幅は、振動体70のY軸方向幅に対して狭くする。あるいは、支持腕部80のZ軸方向厚みは、振動体70のZ軸方向厚みに対して小さくする。支持腕部80の厚みと幅の積は、振動体70のそれに対して90%よりも小さいことが好ましく、75%よりも小さいことがより好ましい。このように構成することによって、大きな振幅の面内伸縮振動を誘起でき、磁気電気変換素子30の出力をより大きくすることができる。
【0065】
また、支持腕部80のX軸方向の長さは、振動体70の動作する振動波長の1/4程度であることが好ましい。このような長さとすることで、エネルギーが振動体70に効率的に閉じ込められ、磁気電気変換素子30の出力をより大きくできるとともに、複数の振動体70相互の干渉を抑制することができる。
【0066】
また、
図5(b)および
図5(c)に示す固定部41の一次共振周波数は、振動体70の動作する共振周波数よりも低いことが、固定部41の振動を防止し、各振動体70の振動の独立性を確保する観点から好ましい。また、振動体70の動作する振動モードの振動方向と同一の方向に変位する固定部41の振動モードの基本共振周波数が、振動体70の動作する共振周波数より低いことも、複数の振動体70相互の干渉を抑制する観点から好ましい。
【0067】
以下、
図1~5に示す磁気電気変換素子30の製造方法の一例について説明する。
【0068】
磁気電気変換素子30の製造では、まず、シリコン基板などの成膜用基板の上に、下部金属膜中央部74および下部金属膜端部84となる下部金属膜と、圧電体膜中央部72および圧電体膜端部82となる圧電体膜と、強磁性膜73とを、成膜する。下部金属膜と、圧電体膜と、強磁性膜との成膜方法としては、蒸着法、スパッタリング法、ゾルゲル法、CVD法、PLD法などの物理的または化学的な方法を用いることができる。また、下部金属膜、圧電体膜および強磁性膜の少なくとも一部をエピタキシャル成長で成膜するような場合には、スパッタリング法を用いることが好ましい。また、強磁性膜を軟磁性高磁歪膜などで構成される磁性膜とする場合は、スパッタリング法、真空蒸着法、PLD法、イオンビーム蒸着法(IBD法)などといった真空堆積法により形成することができ、スパッタリング法により形成することが好ましい。
【0069】
さらに、成膜用基板に成膜された下部金属膜、圧電体膜および強磁性膜73については、
図2~
図4に示すようなパターンとなるように、パターニング加工を施す。パターニング加工は、フォトエッチングやレーザードライエッチングなどの各種エッチング法、もしくは、リフトオフ法で行うことができる。
【0070】
パターニング加工を施した後には、第1取出電極膜51および第2取出電極膜53と、絶縁膜54とを、
図2~
図4に示すような所定のパターンで形成する。また、成膜用基板の一部を、Deep-RIE法などのドライエッチングや、異方性ウェットエッチングなどの方法により除去し、下部空間40bを有する基板40を形成する。なお、上記のエッチングにより成膜用基板をすべて除去してもよい。この場合、成膜用基板から剥がされた振動体70、支持腕部80および取出電極膜51、53等を、別部材として用意した基板40に固定してもよい。さらに、
図5(b)に示すようなカバー部90を基板40の上面に接合し、
図1~
図5に示す磁気電気変換素子30が得られる。なお、カバー部90は、主として振動体70および上部空間90aを保護するために設けられるが、磁気電気変換素子30が装置内部に配置されるような場合は無くてもよい。
【実施例0071】
以下、実施例を用いて第1実施形態に係る磁気電気変換素子30をさらに詳細に説明する。ただし、磁気電気変換素子30は実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
実施例1に係る磁気電気変換素子30として、
図1および
図5に示すような複数の振動体70を、基板40に形成される複数の下部空間40bの上に配置したアレー型の素子を作製した。磁気電気変換素子30に含まれる複数の振動体70は、全て同じ形状であり、各振動体70において、振動体70のX軸方向の幅を200μmとし、振動体70のY軸方向の幅を200μmとした。
【0073】
各振動体70は、エピタキシャル成長させて成膜したPZTからなる圧電体膜中央部72と、結晶相と非晶質相とを有するFe-Co-Si-B合金からなる強磁性膜73とを含む膜積層体により構成した。圧電体膜中央部72の厚みは1μmであり、強磁性膜73の厚みは0.5μmであった。
図5(c)に示す固定部41の高さ(基板40のZ軸正方向側の面から固定部41の上端41aまでの距離)は300μmであった。
【0074】
実施例1に係る磁気電気変換素子30に含まれる振動体70の数は45とし、45個の振動体70を、X軸方向およびY軸方向に沿って配列し、各振動体70を直列に配線した。磁気電気変換素子30の全体寸法は、1cm×1cmであった。
【0075】
実施例1では、
図5(c)に示す固定部41の側面41bを、Z軸方向から5度(狙い角度)傾いた角度に形成した。側面41bの傾きは、基板40の裏面(Z軸負方向側の面)からDeep-RIE法によってシリコン深堀りエッチングを行う際に、エッチングにおける既知の調整方法である保護膜形成とシリコンエッチングの出力及び時間を調整することにより、形成した。固定部41の側面41bの形状は、実施例に係る試料と同時に作成した試料の一部を取り出し、断面を操作顕微鏡で観察することにより測定した。
【0076】
比較例に係る磁気電気変換素子として、基板における固定部の形状のみが異なり、その余の部分が同じ磁気電気変換素子を作製した。比較例に係る磁気電気変換素子は、固定部の断面が長方形であり、固定部の側面がZ軸方向と略平行に立ち上がる点のみが、実施例に係る磁気電気変換素子30とは異なる。
【0077】
(形状評価)
実施例1に係る磁気電気変換素子30における基板40の固定部41の形状を測定した。固定部41のXZ断面による断面形状は、
図5(c)に示すような略台形となっていた。固定部41の側面41bのZ軸方向に対する傾斜角度は5度(誤差±1度)であった。固定部41のX軸方向幅は、支持腕部80が固定される上端41aと同じ高さにおいて100μmであり、基板40のZ軸負方向端部と同じ高さである下端41cにおいて150μmであった。また、固定部41のY軸方向の長さは、上端41aおよび下端41cのいずれの高さでも300μmであった。
【0078】
すなわち、実施例1に係る磁気電気変換素子30では、上端41aから第1の距離L1(L1=0μm)である第1断面42の断面積は3000μm2であり、上端41aから第2の距離L2(L2=300μm)である第2断面43の断面積は、4500μm2であった。このように、実施例1に係る磁気電気変換素子30の固定部41は、振動体70の主面70aに平行である断面の断面積が、固定部41の上端41aからの距離が小さくなるのに従って遷移的に狭くなることが確認された。
【0079】
一方、比較例1に係る磁気電変換素子では、固定部の断面形状は略長方形であり、固定部の側面のZ軸方向に対する傾斜角度は0度(誤差±1度)であった。また、比較例1に係る磁気電変換素子では、振動体の主面70aに平行である断面の断面積は、固定部の上端と下端で同じ3000μm2であった。
【0080】
(共振周波数の測定)
実施例1に係る磁気電気変換素子30と、比較例1に係る磁気電気変換素子について、振動体70の振動特性を、インピーダンスアナライザにより測定した。その結果、実施例1、比較例1のいずれの振動体70も、動作する共振周波数が5MHzであり、拡がり振動で弾性波振動するバルク弾性波振動子であることが確認できた。振動体70において拡がり振動で弾性波振動する振動モードの振動方向は、面内水平方向であった。
【0081】
実施例1に係る磁気電気変換素子30において、固定部41の一次共振周波数(固有周波数)は120KHzであったため、振動体70の動作する共振周波数であるが5MHzより低い値であることが確認された。また、固定部41の一次共振周波数は、振動体70の動作する振動モードと同一の方向である面内水平方向に変位する振動モードであった。したがって、実施例1に係る磁気電気変換素子30において、振動体70の動作する振動モードの振動方向と同一の方向に変位する固定部41の振動モードの基本共振周波数(120KHz)が、振動体70の動作する共振周波数(5MHz)より低いことが確認された。
【0082】
(出力電圧の測定)
実施例1に係る磁気電気変換素子30と、比較例1に係る磁気電気変換素子について、振動体70の動作する共振周波数と同じ周波数である5MHzの磁場を印加し、各素子の出力を測定した。その結果、実施例1に係る磁気電気変換素子30では50mVの出力電圧が検出されたのに対して、比較例1に係る磁気電気変換素子では30mVの出力電圧が検出された。
【0083】
第2実施形態
図6(a)および
図6(b)は、第2実施形態に係る磁気電気変換素子130の一部を示す模式図であり、第1実施形態に係る磁気電気変換素子30に関する
図5(a)と
図5(b)に相当する。
図6(a)はZ軸正方向側から見た平面図であり、
図6(b)はXZ平面に平行な断面による断面図である。なお、
図6(a)では、
図6(b)に示すカバー部90は、説明の都合上、図示を省略している。
【0084】
図6(a)および
図6(b)に示すように、第2実施形態に係る磁気電気変換素子130は、基板140の固定部が、
図6(b)に示す断面図において各振動体70に対応する下部空間140bをX軸方向に分ける固定部上部141と、複数の固定部上部141を固定部上部141の下方(Z軸負方向)で接続する固定部共通底部146とを有する点などで、第1実施形態に係る磁気電気変換素子30とは異なるが、基板140以外の部分については、
図5(a)および
図5(b)に示す磁気電気変換素子30と同様である。第2実施形態に係る磁気電気変換素子130については、第1実施形態に係る磁気電気変換素子30との相違点を中心に説明を行い、磁気電気変換素子30との共通点については説明を省略する。
【0085】
図6(a)に示すように、振動体70に接続する支持腕部80は、固定部上部141の上端141aに固定されており、固定部上部141は、支持腕部80を介して、振動体70を振動可能に支持する。しかし、
図5(a)に示す固定部41がY軸方向に延びて基板40の接続部48に接続しているのに対して、固定部上部141は、基板140の接続部148に接続しておらず、接続部148から離間している。
【0086】
基板140には、固定部140の少なくとも一部(固定部上部141)を間に配置する複数の下部空間140bが形成されている。
図6(b)に示すように、固定部上部141の下端は、固定部共通底部146に接続している。言い換えると、複数の固定部上部141は、固定部共通底部146の上面から上方に突出しており、固定部上部141の上端141aに、支持腕部80が固定される構造になっている。また、固定部上部141と固定部共通底部146は、Si等の共通の材質で構成され、接合部分を有さない一体部材となっている。
【0087】
図6(b)に示すように、固定部上部141は、振動体の主面70aに垂直であってX軸方向に平行な断面(縦断面)において、略台形の形状を有する。したがって、固定部上部141は、
図6(c)に示す固定部41と同様に、上端141aから第1の距離である第1断面の断面積が、上端141aから第1の距離より長い第2の距離である第2断面より狭い。
【0088】
このような第2実施形態に係る磁気電気変換素子130も、第1実施形態に係る磁気電気変換素子30と同様の効果を奏する。
【0089】
第3実施形態
図7(a)および
図7(b)は、第3実施形態に係る磁気電気変換素子230の一部を示す模式図であり、第2実施形態に係る磁気電気変換素子130に関する
図6(a)と
図6(b)に相当する。
図7(a)はZ軸正方向側から見た平面図であり、
図7(b)はXZ平面に平行な断面による断面図である。なお、
図7(a)では、
図7(b)に示すカバー部90は、説明の都合上、図示を省略している。
【0090】
図7(a)および
図7(b)に示すように、第3実施形態に係る磁気電気変換素子230は、固定部上部241が、
図6(b)に示す固定部上部141とは異なるが、その他の点では、第2実施形態に係る磁気電気変換素子130と同様である。第3実施形態に係る磁気電気変換素子230については、第2実施形態に係る磁気電気変換素子130との相違点を中心に説明を行い、磁気電気変換素子130との共通点については説明を省略する。
【0091】
図7(a)に示すように、振動体70に接続する支持腕部80は、基板240における固定部上部241の上端241aに固定されており、固定部上部241は、支持腕部80を介して、振動体70を振動可能に支持する。
図7(b)に示すように、固定部上部241の下端は、固定部共通底部146に接続しているが、
図6(b)に示す固定部上部141とは異なり、固定部共通底部146とは異なる材質であって、固定部共通底部146より比重の大きい材料で作製されている。
【0092】
図7(b)に示す固定部上部241は、たとえば、平板状の固定部共通底部146の上面に、異なる材質の固定部上部241を接合することにより作製したり、異なる材質の固定部上部241を薄膜形成したりすることにより作製できる。
【0093】
このような第3実施形態に係る磁気電気変換素子230は、振動体70を支持する固定部上部241の比重が基板40の他の部分より大きいため、固定部上部241の振動を防止することができる。また、第3実施形態に係る磁気電気変換素子230は、第2実施形態に係る磁気電気変換素子130との共通点については、磁気電気変換素子130と同様の効果を奏する。
【0094】
第4実施形態
図8は、第4実施形態に係る磁気電気変換素子330の一部を示す模式断面図であり、第2実施形態に係る磁気電気変換素子130に関する
図6(b)に相当する。
図8は、磁気電気変換素子330のXZ平面に平行な断面による断面図である。
【0095】
図8に示すように、第4実施形態に係る磁気電気変換素子330は、基板340における固定部上部341の形状が、
図6(b)に示す固定部上部141とは異なるが、その他の点では、第2実施形態に係る磁気電気変換素子130と同様である。第4実施形態に係る磁気電気変換素子330については、第2実施形態に係る磁気電気変換素子130との相違点を中心に説明を行い、磁気電気変換素子130との共通点については説明を省略する。
【0096】
図8に示すように、第4実施形態に係る磁気電気変換素子330は、固定部上部341の側面341cの少なくとも一部が曲面形状である。このように、固定部上部341の側面341cが曲面である場合であっても、
図6(b)に示す磁気電気変換素子130のように固定部上部141の側面が平面形状である場合と同様に、固定部上部341の剛性を高め、固定部上部341の振動を防止できる。また、第4実施形態に係る磁気電気変換素子330は、第2実施形態に係る磁気電気変換素子130との共通点については、磁気電気変換素子130と同様の効果を奏する。
【0097】
第5実施形態
図9は、第5実施形態に係る磁気電気変換素子430の一部を示す模式図であり、第1実施形態に係る磁気電気変換素子30に関する
図5(b)に相当する。
図9はXZ平面に平行な断面による断面図である。
【0098】
図9に示すように、第5実施形態に係る磁気電気変換素子430は、基板440の固定部が、各振動体70に対応する下部空間440bをX軸方向に分ける固定部上部441と、複数の固定部上部441を、固定部上部141の下方(Z軸負方向)で接続する固定部共通底部446とを有する点などで、第1実施形態に係る磁気電気変換素子30とは異なるが、基板440以外の部分について、
図5(b)に示す磁気電気変換素子30と同様である。第5実施形態に係る磁気電気変換素子430については、第1実施形態に係る磁気電気変換素子30との相違点を中心に説明を行い、磁気電気変換素子30との共通点については説明を省略する。
【0099】
磁気電気変換素子430において、固定部上部441は、支持腕部80を介して、振動体70を振動可能に支持する。
図9に示すように、固定部上部441の下端は、固定部共通底部446に接続している。言い換えると、複数の固定部上部441は、固定部共通底部446の上面から上方に突出しており、固定部上部441の上端141aに、支持腕部80が固定される構造になっている。
【0100】
図9に示すように、固定部上部441において、振動体70の主面70aに平行である断面(第1断面)による断面積は一定である。しかし、固定部上部141における第1断面による断面積は、固定部共通底部446における振動体70の主面70aに平行であって第1断面より上端441aからの距離が長い第2断面による断面積より狭い。磁気電気変換素子430の固定部は、固定部共通底部446の断面積が広いために剛性が高まり、振動を防止することができる。
【0101】
また、基板440の固定部は、第1断面を含む第1部分としての固定部上部441の側面441c(第1側面)と、第2断面を含む第2部分としての固定部共通底部446の側面446a(第2側面)とを接続する段差面447を有する。なお、
図9に示す断面では、段差面447が下部空間440bの底面を構成する。
【0102】
このような第5実施形態に係る磁気電気変換素子430も、第1実施形態に係る磁気電気変換素子30との共通部分については、磁気電気変換素子30と同様の効果を奏する。
【0103】
第6実施形態
図10は、第6実施形態に係る磁気電気変換素子530の一部を示す模式断面図であり、第5実施形態に係る磁気電気変換素子430に関する
図9に相当する。
図10は、磁気電気変換素子530のXZ平面に平行な断面による断面図である。
【0104】
図10に示すように、第6実施形態に係る磁気電気変換素子530は、カバー部590の形状が、
図9に示すカバー部90とは異なるが、その他の点では、第5実施形態に係る磁気電気変換素子430と同様である。第6実施形態に係る磁気電気変換素子530については、第5実施形態に係る磁気電気変換素子430との相違点を中心に説明を行い、磁気電気変換素子430との共通点については説明を省略する。
【0105】
図10に示すように、第6実施形態に係る磁気電気変換素子530のカバー部590は、カバー部上部590bから下方に延びるカバー部柱部590cを有する。カバー部柱部590cの下端は、固定部上部441の上端441aに接続しており、隣り合う2つの振動体70上の上部空間590aは、カバー部柱部590cによって区分される。このようなカバー部590を有する磁気電気変換素子530では、振動体70を収容する上部空間590aおよび下部空間440bが、振動体70毎にセパレートされた構造を有する。
【0106】
第6実施形態に係る磁気電気変換素子530は、第5実施形態に係る磁気電気変換素子430との共通点については、磁気電気変換素子430と同様の効果を奏する。
【0107】
第7実施形態
図11は、第7実施形態に係る磁気電気変換素子630の一部を示す模式断面図であり、第5実施形態に係る磁気電気変換素子430に関する
図9に相当する。
図11は、磁気電気変換素子530のXZ平面に平行な断面による断面図である。
【0108】
図11に示すように、第7実施形態に係る磁気電気変換素子630は、
図9に示すカバー部90に代えて、ケース部690を有する点で第6実施形態に係る磁気電気変換素子430とは異なるが、その他の点では磁気電気変換素子430と同様である。第7実施形態に係る磁気電気変換素子630については、第5実施形態に係る磁気電気変換素子430との相違点を中心に説明を行い、磁気電気変換素子430との共通点については説明を省略する。
【0109】
図11に示すように、第7実施形態に係る磁気電気変換素子630は、カバー部590に代えて、振動体70および基板440を収容するケース部690を有する。ケース部690は、基板440の底面を支えるケース底部690cと、基板440および振動体70の側方および上方を覆うケース上部690bとを有する。
【0110】
ケース部690は、ケース底部690cとケース上部690bとを組み合わせることにより内部に収容空間を形成し、その収容空間に振動体70および基板440などの他の部材を配置する。
【0111】
第7実施形態に係る磁気電気変換素子630は、第5実施形態に係る磁気電気変換素子430との共通点については、磁気電気変換素子430と同様の効果を奏する。
【0112】
以上、実施形態および実施例を挙げて本発明を説明してきたが、本発明に係る積層体は、上述した実施形態や実施例のみには限定されず、他の実施形態や変形例を含むことは言うまでもない。
【0113】
たとえば、振動体70は、略矩形の平面視形状を有していたが、振動体70の形態は、これに限定されず、楕円形状、円形状、ミアンダ状、もしくは渦巻き状の平面視形状であってもよい。同様に、支持腕部80の形態も略矩形(帯状)の平面視形状に限らず、ミアンダ状、クランク状、ドーナツ状(中空の円形や多角形)、円弧状の平面視形状であっても良い。また、複数の振動体70の配置も、
図1に示すマトリクス状の配置のみには限定されず、同心円状、放射状その他の配置であってもよい。