(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161668
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】ポリオキシメチレン
(51)【国際特許分類】
C08G 2/10 20060101AFI20221014BHJP
C08L 59/00 20060101ALI20221014BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20221014BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
C08G2/10
C08L59/00
C08K3/00
B22F3/02 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066663
(22)【出願日】2021-04-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】末満 千豊
【テーマコード(参考)】
4J002
4J032
4K018
【Fターム(参考)】
4J002CB001
4J002DA066
4J002DM006
4J002GM00
4J032AA05
4J032AB02
4J032AC03
4J032AD41
4J032AE02
4J032AF08
4K018AA33
4K018BA17
4K018BC08
4K018BC12
4K018CA09
4K018CA29
4K018DA03
4K018DA22
4K018DA31
(57)【要約】
【課題】本発明は、脱脂性及び保形性に優れたポリオキシメチレンを提供することを目的とする。
【解決手段】窒素下において30℃から500℃まで一定速度で昇温した際に、200℃以上320℃未満と320℃以上450℃以下の2つの温度領域で熱重量減少を開始することを特徴とする、ポリオキシメチレン。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素下において30℃から500℃まで一定速度で昇温した際に、200℃以上320℃未満と320℃以上450℃以下の2つの温度領域で熱重量減少を開始することを特徴とする、ポリオキシメチレン。
【請求項2】
金属粉末及び/又はセラミック粉末の射出成形用バインダーとして用いられる、請求項1に記載のポリオキシメチレン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオキシメチレンに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオキシメチレンは、結晶性高分子のエンジニアリングプラスチックであり、剛性、強度、耐熱性、耐クリープ性といった機械的特性や摺動特性が要求される各種機構部品を中心に、広範囲に亘って使用されている。その多くは射出成形で製造されているが、近年、金属粉末やセラミック粉末の射出成形の有機バインダーとしても活用されている。
従来の有機バインダーは、高分子材料としてポリオキシメチレンの他に、ポリエチレン、ポリプロピレン、メタクリル酸エステル共重合体などを混合し、さらに低分子量材料としてパラフィンワックス、カルナバワックスなどを混合して製造され、用いられている。
ここで、ポリオキシメチレンは、射出成形後の成形体の保形性の観点からバインダー樹脂として好適に用いられるが、単独で用いた場合、加熱を伴う脱脂工程で熱分解が一気に進み、成形体内部でガス化することから、成形体の形状を保つことが困難である。そのことからも、熱分解温度の異なる高分子材料と組み合わせて用いられる。
【0003】
特許文献1には、ポリオキシメチレンの他に、ポリ乳酸とポリプロピレン、さらにワックスと所定の熱可塑性樹脂を混合することで熱分解性能を高め、脱脂変形が生じにくくなることが記載されている。また、特許文献2には、ポリオキシメチレンの他に、アクリル樹脂とエチレン-酢酸ビニル共重合体を所定の組成比で混合することによって、保形性を損なうことなく射出成形時の流動性を高められることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4317916号公報
【特許文献2】特許第3911596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、金属粉末/セラミック粉末射出成形では、バインダーの脱脂性が成形体の品質を左右するところ、特許文献1及び2に記載されているように、従来技術ではバインダーの脱脂性改良は構成成分やその成分比の変更によってのみなされ、バインダーに用いられる材料自体を粉末射出成形に適するよう改良する試みはなされておらず、脱脂性や保形性に改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明は、脱脂性及び保形性に優れたポリオキシメチレンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく検討した結果、ポリオキシメチレンに所定の処理を施すことによって熱分解挙動を制御できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下のとおりである。
(1)
窒素下において30℃から500℃まで一定速度で昇温した際に、200℃以上320℃未満と320℃以上450℃以下の2つの温度領域で熱重量減少を開始することを特徴とする、ポリオキシメチレン。
(2)
金属粉末及び/又はセラミック粉末の射出成形用バインダーとして用いられる、(1)に記載のポリオキシメチレン。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、脱脂性及び保形性に優れたポリオキシメチレンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例及び比較例で得られたポリオキシメチレンの熱分解挙動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。すなわち、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
[ポリオキシメチレン]
本実施形態のポリオキシメチレンは、窒素下において30℃から500℃まで一定速度で昇温した際に、200℃以上320℃未満と320℃以上450℃以下の2つの温度領域で熱重量減少を開始することを特徴とする。
【0013】
本実施形態のポリオキシメチレンは、ポリオキシメチレンの骨格がすべてオキシメチレン単位で構成されるホモポリマーであってもよく、骨格にオキシアルキレン単位も含むコポリマーであってもよい。また、加工性や熱安定性、その他種々の目的により既知の側鎖を含んでいてもよい。また、ポリオキシメチレンは、直鎖状、分岐状、又は環状のいずれであってもよい。
【0014】
[低分子量成分]
本実施形態のポリオキシメチレンにおいて、低分子量成分の含有量は、特に限定されないが、成形安定性の観点から、好ましくは15.0%以下であり、より好ましくは10.0%以下であり、さらに好ましくは5.0%以下である。この範囲にあることにより、射出成形時の流動性を保持しながら脱脂時の保形性を維持することができる。
低分子量成分の含有量を上記範囲に制御する方法としては、例えば、重合時に使用する開始剤溶液の濃度の調整やルイス塩基の使用、重合時間や温度の調整、重合を固相系で行うことなどが挙げられる。
なお、本実施形態で定義する低分子量成分とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定してPMMAの標準物質で換算した分子量分布における分子量10,000以下の成分をいい、具体的には、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0015】
[数平均分子量及び重量平均分子量]
本実施形態のポリオキシメチレンの数平均分子量Mnは、特に限定されないが、機械的強度の観点から、好ましくは10,000超、より好ましくは25,000超、最も好ましくは30,000以上である。また、Mnは、好ましくは300,000以下であり、より好ましくは200,000以下であり、さらに好ましくは150,000以下である。
また、重量平均分子量Mwは、好ましくは10,000超、より好ましくは100,000超、最も好ましくは200,000以上である。また、Mwは、好ましくは2,000,000以下であり、より好ましくは1,800,000以下であり、さらに好ましくは1,600,000以下である。
平均分子量は高いほど機械強度が高いことが一般的に知られているが、平均分子量が高すぎると溶融粘度が高まるため成形加工が困難になる。この範囲であることにより、機械物性と成形加工性に優れた延伸体を提供することができる。
【0016】
[分子量分布]
本実施形態のポリオキシメチレンの分子量分布曲線の形状は、特に限定されないが、機械的強度向上の観点からは、logM=4.5~8.0(Mは分子量)にピークトップがあるピークを有する単峰性の形状であることが好ましく、より好ましくはlogM=4.5~7.0、さらに好ましくはlogM=4.5~6.0にピークトップがあるピークを有する単峰性の形状である。
ここで「単峰」とは、山なりのピークを一つのみ持つ形状であることを指す。
低分子量成分を含有する場合は、分子量10,000以下の領域で、分子量分布曲線が、山なりのピークの一部をなすことなく、ピークトップに対してショルダーをなしたり、ピークトップに連なってテーリングしたりする。
【0017】
なお、本実施形態における数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、及び分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定することができ、具体的には、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0018】
[熱分解挙動]
本実施形態のポリオキシメチレンは、窒素雰囲気下で30℃から500℃まで20℃/minの昇温速度で昇温した際に、200℃未満の温度領域では熱重量減少せず、200℃以上320℃未満の温度領域と320℃以上450℃以下の温度領域でそれぞれ熱重量減少を開始し、多段階で熱分解する。
本実施形態のポリオキシメチレンは、熱重量測定装置を用いたTG分析において、200℃以上320℃未満の温度領域と320℃以上450℃以下の温度領域のそれぞれに一つ以上の補外開始温度(熱重量減少開始温度)を有する。
ここで、
図1は、後述する実施例及び比較例で得られたポリオキシメチレンの熱分解挙動を示すグラフであり、横軸に温度、縦軸に熱重量減少の速度(熱重量変化率)をプロットしている。
図1において、実施例では、200℃以上320℃未満の温度領域と320℃以上450℃以下の温度領域のそれぞれに一つ以上のピークを有することが確認できる。
各温度領域における熱重量減少の比(200℃以上320℃未満の温度領域で熱重量減少した比率:320℃以上~450℃以下の温度領域で熱重量減少した比率)は、好ましくは20:80~80:20であり、より好ましくは30:70~70:30であり、とくに好ましくは40:60~60:40である。これら温度領域において上記範囲の比率で熱重量減少すると、粉末射出成形の脱脂工程においてポリオキシメチレンが昇温速度に従って穏やかに脱脂されるため、保形性が著しく改善される。
【0019】
なお、従来のポリオキシメチレンは、上記の熱分解挙動を示さない。粉末射出成形においては、形状を保ちながら段階的に脱脂することが保形性の観点から望まれるが、この点、従来のポリオキシメチレンは、熱安定化剤や熱安定なコモノマーの添加もしくは末端安定化処理を施した場合には300℃以上などのある温度を超えて急速かつ全体的に熱重量減少し(
図1の比較例を参照)、熱安定化剤や熱安定なコモノマーの添加もしくは末端安定化処理を施してしない場合には200℃以下で熱重量減少が開始する。従って、前者の場合には、段階的に穏やかに脱脂するようにするためには300℃以下で脱脂される他の高分子材料の配合が必要とされるため、また、後者の場合には比較的低温で熱重量減少するため、いずれも単独では金属粉末/セラミック粉末の射出成形用バインダーには適さなかった。
本実施形態のポリオキシメチレンは、窒素雰囲気下で30℃から500℃まで20℃/minの昇温速度で昇温した際に、200℃未満の温度領域では熱重量減少せず、200℃以上320℃未満の温度領域と320℃以上450℃以下の温度領域でそれぞれ熱重量減少を開始し、多段階で熱分解するため、脱脂性と保形性を両立することができる。
【0020】
[融点]
本実施形態のポリオキシメチレンは、示差熱量測定(DSC)で測定されるファーストスキャンの融点が175℃以上を示すことが好ましい。脱脂時の保形性の観点から、より好ましくは180℃以上、さらに好ましくは185℃以上、特に好ましくは190℃以上である。
なお、ファーストスキャンの融点とは、重合後に特別な熱処理をしていない状態の試料を所定の昇温条件で測定開始して最初に検出される融点ピークのピークトップの温度である。より具体的には、NETZSCH社製DSC装置(DSC3500)を使用し、アルミニウムパンにサンプル5mgを採取したのち、窒素雰囲気下で30℃から200℃まで20℃/minの昇温速度で昇温するプログラムにより測定できる。
【0021】
[ポリオキシメチレンの製造方法]
本実施形態のポリオキシメチレンの重合方法は、特に限定されず、モノマーにホルムアルデヒドを用いたアニオン重合であってもよく、モノマーに環状エーテルを用いたカチオン重合であってもよい。融点向上の観点から、開始剤の存在下で[-CH2-O-]単位を形成するモノマーをカチオン重合させる方法が好ましく、特に、モノマーを溶融状態で重合開始させ急冷によって系を固化して高分子量体を得る重合方法(国際公開第2020/054730号)や、固相重合が好ましい。
特に、固相重合を行うと、200℃以上320℃未満と320℃以上450℃以下の2つの温度領域で熱重量減少を開始する熱分解挙動を示すポリオキシメチレンが得られる傾向にある。
【0022】
また、ポリオキシメチレンが200℃以上320℃未満と320℃以上450℃以下の2つの温度領域で熱重量減少を開始するように、高温側に熱分解挙動を制御する(初めに熱重量減少を開始する温度がより高温となるように調整する)方法としては、例えば、負に帯電させることが可能な内壁を有する容器に、極性溶媒と原料のポリオキシメチレンとを入れ、撹拌したのち回収し、乾燥させることで、原料のポリオキシメチレンに残存した活性末端(カルボカチオン(CH2
+)末端)の状態を変化させる方法が挙げられる。
内壁を負に帯電させた容器に極性溶媒と原料のポリオキシメチレンとを入れると、極性溶媒から電離した陽イオン(H+など)は、負に帯電した容器の内壁に集まり、内壁に沿って陽イオン層を形成し、一方、極性溶媒から電離した陰イオン(OH-など)は、ポリオキシメチレンの活性末端(カルボカチオン(CH2
+)末端)と反応して当該活性末端を消失させると考えられる。より具体的には、例えば、OH-は、2本のポリオキシメチレン鎖のカルボカチオン末端を橋架けして環状ポリマーを形成させ、カルボカチオン末端を消失させることにより、ポリオキシメチレンを熱安定化すると考えられる。
また、低温側に熱分解挙動を制御する(初めに熱重量減少を開始する温度がより低温となるように調整する)方法としては、例えば、ガラス容器に極性溶媒と原料のポリオキシメチレンとを入れ、撹拌したのち回収し、乾燥させる方法や、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性試薬と原料のポリオキシメチレンとを入れ、撹拌したのち回収し、乾燥させる方法が挙げられる。これは電気的要因によるものと考えられる。
【0023】
高温側に熱分解挙動を制御するのに好適な容器の材質としては、アルミ、鉄、ステンレス、ハステロイ、フッ素系樹脂などが挙げられる。また、低温側に熱分解挙動を制御するのに好適な容器の材質としては、ガラス、ナイロンなどが挙げられる。容器には帯電処理などの電気的処理を施してもよい。
好適な極性溶媒としては、アルコール、エステル、アミン、水などが挙げられる。
これらの容器と極性溶媒とを用いることにより、200℃以上320℃未満の温度領域と320℃以上450℃以下の温度領域における熱重量減少の開始温度と比率を制御することができる。
【0024】
[モノマー]
モノマーは、ポリオキシメチレンにおいて[-CH2-O-]単位を形成するものとしてよい。
具体例を挙げると、ホルムアルデヒド、1,3,5-トリオキサンである。
【0025】
[コモノマー]
コモノマーは、ポリオキシメチレンにおいて次の式(I)の構造式で表される単位を形成するものが好ましい。
[-O-(CH2)x-]・・・(I)
式(I)中、xは2~8の整数を表す。
コモノマーの具体例を挙げると、エチレンオキシド、1,2-プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキセパンである。中でも、1,3-ジオキソランが特に好ましい。
【0026】
[開始剤]
本実施形態のポリオキシメチレンの製造方法では、開始剤は特に限定されない。例えば、フッ化ホウ素化合物が使用されてよく、フッ化ホウ素、フッ化ホウ素水和物、フッ化ホウ素と有機化合物(例えば、エーテル類)との配位化合物が開始剤として使用されてよい。これらは、ポリマーの熱分解への影響が小さいため、実用上好ましい。
望ましい開始剤は、三フッ化ホウ素ジアルキルエーテル錯体であり、特に好ましいのは三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジ-n-ブチルエーテル錯体である。
開始剤は液体の状態で添加してもよく、噴霧してもよい。
【0027】
開始剤の添加量としては、モノマーとコモノマーとの合計量1molに対して、開始剤が、3.5×10-4mol以下であることが好ましく、より好ましくは2.6×10-4mol以下であり、また、5.0×10-7mol以上が好ましく、より好ましくは2.0×10-5mol以上である。
開始剤の添加量が上記範囲であれば、低分子量成分の含有量が低く、高い耐衝撃性を示し、かつ熱安定性に優れるポリオキシメチレンが得られやすい。
【0028】
一般的にポリオキシメチレンの製造の開始剤には、トリフルオロメタンスルホン酸に代表されるフッ化又はアルキルスルホン酸及びアリールスルホン酸のような強プロトン酸や、リンタングステン酸のようなヘテロポリ酸が用いられる。しかしながら、これら開始剤を使用した場合には、その強力な酸性によりポリオキシメチレンが分解されてしまい、末端安定化等の処理を施してもなお熱安定性に劣るという欠点があった。
本実施形態のようにフッ化ホウ素をベースとした開始剤を用いることにより、熱安定性に優れたポリマーを提供することができる。
【0029】
また、開始剤は、メソポーラスシリカに担持されていてもよく、担持は、水素結合や分子間力等の相互作用による付着、接着、吸着等により、又は化学的結合により、なされていてよい。
【0030】
メソポーラスシリカは、平均孔径1.0~5.5nmの細孔を有することが好ましい。細孔径がこの範囲にあることにより、開始剤が孔に侵入して担持され、さらにモノマーが侵入することによって孔内で重合がなされ、狭い反応場により成長末端の運動が制限されるため、環状体つまり低分子量成分の副生が抑制される。
なお、メソポーラスシリカの細孔の平均孔径は、窒素吸着試験から得られる窒素吸着等温線をBHJ法で解析することにより算出できる。
【0031】
メソポーラスシリカの細孔は、好ましくは個々の細孔が三次元で円筒構造を有する。多数の細孔は、二次元で六方構造(六方晶系秩序構造)をなすことが好ましい。
二次元で六方構造をなすメソポーラスシリカの具体例としては、MCM-41、SBA-15等が挙げられる。
【0032】
本実施形態で用いるメソポーラスシリカの細孔壁の平均厚みは、0.5~2.5nmであることが好ましい。
なお、メソポーラスシリカの細孔壁の平均厚みは、断面SEM画像において、任意に細孔を10個選び、各細孔について当該細孔に最も近接する他の細孔との距離(細孔間距離)を測定し、当該距離を平均した値をいう。
【0033】
細孔形状や細孔壁の平均厚みが上記形態や範囲であることにより、開始剤が細孔内に侵入しやすくなり細孔内部以外に担持される開始剤を低減できる。
【0034】
また、本実施形態では、開始剤が細孔内に侵入しやすくなり細孔内部以外に担持される開始剤を低減できることから、メソポーラスシリカ粒子の形状は好ましくは球状であり、細孔が粒子中心部から外側に放射状に配列していることが好ましい。
【0035】
本実施形態では、開始剤担持メソポーラスシリカを調製する段階において、メソポーラスシリカの添加量としては、開始剤1molに対して、メソポーラスシリカが35~60gであることが好ましい。
【0036】
また、本実施形態では、重合系中において、開始剤担持メソポーラスシリカの添加量としては、モノマーとコモノマーとの合計量1molに対して、開始剤担持メソポーラスシリカが、5.0×10-3~3.0×10-2gであることが好ましい。
開始剤担持メソポーラスシリカの添加量が上記範囲であれば、低分子量成分の含有量が低く、高い耐衝撃性を示し、かつ熱安定性に優れるポリオキシメチレンが得られやすい。
【0037】
[添加剤]
本実施形態のポリオキシメチレンの製造には、種々の目的により分岐剤や連鎖移動剤、添加塩基を使用してもよい。
【0038】
好ましい分岐剤は、多官能エポキシド、多官能性グリシジルエーテル又は多官能性環状ホルマールである。
【0039】
好ましい連鎖移動剤は、式(II)で表される化合物である。
R1-(-O-CH2)r-O-R2・・・(II)
式(II)中、rは整数を表し、R1及びR2は、炭素数1~6のアルキル基である。
好ましくはrが1である式(II)で表される化合物であり、特に好ましいのはメチラールである。
【0040】
また、ポリマー末端OH基の標的製造に対して、プロトンを移動する連鎖移動剤を使用することもまた可能である。
連鎖移動剤の例は、水、ギ酸、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ブタンジオール、グリセロール又は1,1,1-トリメチロールプロパンのような一価及び多価アルコールである。これらのプロトン性移動剤を使用することによって、その後の加水分解において安定した末端アルキレン-OH基を導く、一定の割合の不安定な末端ヘミアセタール基が初めに生じる。好ましい移動剤は、多価アルコールである。
【0041】
連載移動剤は、通常、モノマー及びコモノマーの合計を基準として、20,000質量ppm以下で使用してよく、好ましくは100~5,000質量ppm、特に好ましくは200~2,000質量ppmで使用される。
【0042】
好ましい添加塩基として、ルイス塩基を使用してもよい。適切な添加塩基の利用により、低分子量成分の副生抑制が可能である。
好ましいルイス塩基は、エステル基、リン酸エステル基、チオエーテル基、ニトリル基、炭化フッ素基、及び/又はカルボニル基を含むルイス塩基である。
具体例を挙げると、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、t-ブチル酢酸、酪酸メチル、プロピオン酸メチル、ヘキシル酸アミル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジヘキシル、アゼライン酸ジメチル、アゼライン酸ビス(2-エチルヘキシル)、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、メチルプロピルスルフィド、ミリストニトリル、フェニルアセトニトリル、バレロニトリル、トリフルオロアセチルアセトン、3-アセチルベンゾトリフルオリド、テトラヒドロ-2-メチルフラン-3-オン等である。
【0043】
ルイス塩基の添加方法や添加順序は、特に限定されることなく、開始剤溶液と混合して添加してもよく、重合前に直接モノマーと混合してもよい。各ルイス塩基によって最適な添加方法や添加順序が異なる。
また、使用する開始剤、重合スケールによってルイス塩基の最適な添加量は異なるため、重合条件によって適宜添加量の最適化が必要である。開始剤の物質量よりもルイス塩基の物質量の方が最適量を超えて多いと、開始剤の活性を損ない、低分子量成分の増加やポリマー収率の低下を引き起こす。また、開始剤の物質量よりもルイス塩基の物質量の方が最適量より少ないと、低分子量成分の含有量は変化しない。
【0044】
[金属粉末及び/又はセラミック粉末の射出成形用バインダーとしての利用]
本実施形態のポリオキシメチレンは、金属粉末及び/又はセラミック粉末の射出成形用バインダーとして好適に用いることができる。利用する際には、さらなる流動性付与や金属及びセラミック粉末との相溶性向上等を目的として、本実施形態のポリオキシメチレンにポリオレフィンやアクリル樹脂、ワックスなどを添加しても良い。
【実施例0045】
以下の実施例は本発明を制限することなく説明するものである。
【0046】
[重量平均分子量、数平均分子量、及び分子量分布の測定]
実施例及び比較例にて得たポリオキシメチレンについて、東ソー株式会社製GPC装置(HPLC8320)を使用し、Mn、Mw、分子量分布を測定した。標準物質にはPMMAを使用した。
また、分子量分布曲線が単峰性の形状である場合は、そのピークトップの位置を求めた。
溶離液にはトリフルオロ酢酸ナトリウム塩を0.4質量%溶解させたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用いた。
ポリオキシメチレンを上記溶離液に溶解し、濃度0.5mg/mLの試料溶液とした。
カラムには、Shodex社製のK-G 4A×1本、Shodex社製のKF-606M×2本をヘキサフルオロイソプロパノールに溶媒置換して用いた。
検出器には、RI(示差屈折)検出器を用いた。
流速0.3mL/分
カラム温度40℃
試料溶液の注入量60μL
【0047】
[低分子量成分の含有量の測定]
低分子量成分の含有量は、分子量分布においてlogM=4.14の位置に標準偏差σ=0.3の正規分布のピークを仮定することで、logM=3.0~3.7にピークトップを有する正規分布のピークを低分子量成分のピークとして仮定し、ピークフィッティングにより分子量分布曲線全体の面積における低分子量成分のピークの面積の比率を求め、算出した。
【0048】
[熱分解挙動]
実施例及び比較例のポリオキシメチレンについて、ブルカー社製TG装置(TG-DTA2000SR)を使用し、熱分解挙動を調べた。アルミニウムパンにサンプル10mgを採取したのち、窒素雰囲気下で30℃から500まで20℃/minの昇温速度で昇温するプログラムにより測定し、補外開始温度を読み取り、熱重量減少開始温度(℃)とした。
また、200℃以上320℃未満と320℃以上450℃以下の2つの温度領域における熱重量減少の比(200℃以上320℃未満の温度領域で熱重量減少した比率:320℃以上450℃以下の温度領域で熱重量減少した比率)を求めた。
【0049】
[融点]
実施例及び比較例のポリオキシメチレンについて、NETZSCH社製DSC装置(DSC3500)を使用し、融点を測定した。アルミニウムパンにサンプル5mgを採取したのち、窒素雰囲気下で30℃から200℃まで20℃/minの昇温速度で昇温するプログラムにより測定し、ファーストスキャンで吸熱ピークの頂点を示す温度を求め、融点(℃)とした。
【0050】
[保形性]
実施例及び比較例で得られた焼結体について、膨れ及びクラックの有無を調べ、焼結体に膨れ及びクラックがいずれも見られなかった場合を良好(〇)、膨れ及び/又はクラックが見られた場合を不良(×)として、バインダーとしての性能を評価した。
【0051】
[実施例1]
(重合)
窒素雰囲気下で、容量500mLのフッ素樹脂製ボトルに1,3,5-トリオキサン(東京化成販売(株)製)を200g計量して入れ、次いでシクロヘキサン(シグマアルドリッチ社製)で0.06mmol/mLに調製した三フッ化ホウ素ジブチルエーテル(東京化成販売(株)製)溶液を10mL添加して蓋をし、ボトルを振り、50℃に加温しておいた恒温槽にボトルを入れ、重合を開始した。6時間後、恒温槽からボトルを取り出して20%トリエチルアミン/エタノール溶液を5mLとアセトン10mLと水100mLをそれぞれ加えて重合を停止した。生成したポリマーを濾別して回収し、風乾の後、25℃で2時間の真空乾燥を実施した。結果、約160gのポリオキシメチレンを得た。
(成形用組成物、成形体、焼結体の作製)
加圧ニーダー中に、上記のとおり得たポリオキシメチレン150gを投入し、180℃で溶融させた後、SUS316L粉末(平均粒径:10μm)4.2kg、ポリエチレングリコール(東京化成工業株式会社製(分子量2000))150gを投入して40分間混練し、取り出して混練物を粉砕し、成形用組成物を得た。
次に、成形用組成物を用いて成形温度150℃の条件で射出し、厚さ3mm、幅10mm、長さ60mmの成形体を得た。次に、成形体を脱脂炉内に設置し、50℃から260℃までを昇温速度30℃/hr、窒素雰囲気下5torrの圧力で昇温加熱し、260℃から500℃までを昇温速度50℃/hrで昇温加熱した後、最高温度500℃で2時間保持し、炉冷した(脱脂加熱時間:合計13.8時間)。
脱脂を終えた成形体を、アルゴン雰囲気下で室温から50~400℃/hrの昇温速度で徐々に加速昇温し、最高温度1350℃で2時間保持し、焼結を行い、焼結体を得た。
【0052】
[実施例2]
実施例1で得たポリオキシメチレン10gと撹拌子を容量100mLのガラス瓶に入れ、蒸留水20mLを加えて室温下で3時間撹拌し、濾別により回収して風乾の後、25℃で2時間の真空乾燥を実施した。これを用い、実施例1と同様にして、成形用組成物、成形体、焼結体を作製した。
【0053】
[実施例3]
実施例1で得たポリオキシメチレン10gと撹拌子を容量100mLのアルミボトルに入れ、蒸留水20mLを加えて室温下で3時間撹拌し、濾別により回収して風乾の後、25℃で2時間の真空乾燥を実施した。これを用い、実施例1と同様にして、成形用組成物、成形体、焼結体を作製した。
【0054】
[実施例4]
実施例1で得たポリオキシメチレン10gと撹拌子を容量100mLのPFA製ボトルに入れ、蒸留水20mLを加えて室温下で3時間撹拌し、濾別により回収して風乾の後、25℃で2時間の真空乾燥を実施した。これを用い、実施例1と同様にして、成形用組成物、成形体、焼結体を作製した。
【0055】
[実施例5]
実施例1で得たポリオキシメチレン10gと撹拌子を、キムワイプで内壁をふき取り静電気を発生させた容量100mLのPFA製ボトルに入れ、蒸留水20mLを加えて室温下で3時間撹拌し、濾別により回収して風乾の後、25℃で2時間の真空乾燥を実施した。これを用い、実施例1と同様にして、成形用組成物、成形体、焼結体を作製した。
【0056】
[比較例1]
ポリオキシメチレンとして、旭化成株式会社製ポリオキシメチレンホモポリマー(テナック(商標)3010)を用いた以外には、実施例1と同様に実施した。
【0057】
[比較例2]
ポリオキシメチレンとして、旭化成株式会社製ポリオキシメチレンコポリマー(テナック(商標)-C4520)を用いた以外には、実施例1と同様に実施した。
【0058】
表1に各実施例・比較例の重合条件と結果をまとめた。
また、
図1に、実施例1~5、比較例1、2の熱分解挙動を示す。
【0059】
本発明のポリオキシメチレンは、脱脂性及び保形性に優れるため、金属粉末及びセラミック粉末の射出成形に用いられるバインダー等として好適に用いることができ、バインダー等の構成成分を簡素化して生産安定性を向上させることも可能なため、産業上の利用可能性がある。