(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161706
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】アルミニウム製フィン材
(51)【国際特許分類】
F28F 13/18 20060101AFI20221014BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20221014BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
F28F13/18 B
F28F13/18 Z
F28F21/08 A
B32B15/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066718
(22)【出願日】2021-04-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角田 亮介
(72)【発明者】
【氏名】館山 慶太
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB17A
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AK53E
4F100AK54C
4F100AL06C
4F100AR00B
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100CC00C
4F100CC00E
4F100EH46B
4F100EH46E
4F100EJ48B
4F100EJ48C
4F100EJ48E
4F100EJ69D
4F100GB51
4F100JB02E
4F100JB05
4F100JB05B
4F100JB05C
4F100JB20C
4F100JJ03
4F100JK09
4F100JK16
4F100YY00A
4F100YY00C
4F100YY00D
4F100YY00E
(57)【要約】
【課題】加熱による親水性低下が抑制された、耐熱性に優れたアルミニウム製フィン材を提供する。
【解決手段】アルミニウム製フィン材10は、アルミニウム板1と、皮膜層2とを有し、皮膜層2は、アルミニウム板1側から順に、親水性皮膜層2bと、潤滑性皮膜層2cと、を備え、潤滑性皮膜層2cは、ポリエチレングリコールを主成分として含む樹脂マトリクスと、スルホン酸基及びエステル基の少なくとも一方を含む親水性成分と、を含み、親水性成分は、200℃10分の条件で加熱する前後における親水性に寄与する官能基量の変化が15%以下である。なお、皮膜層2はさらに耐食性皮膜層2aを備えていてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板と、皮膜層とを有し、
前記皮膜層は、前記アルミニウム板側から順に、親水性皮膜層と、潤滑性皮膜層と、を備え、
前記潤滑性皮膜層は、ポリエチレングリコールを主成分として含む樹脂マトリクスと、スルホン酸基及びエステル基の少なくとも一方を含む親水性成分と、を含み、
前記親水性成分は、200℃10分の条件で加熱する前後における親水性に寄与する官能基量の変化が15%以下である、アルミニウム製フィン材。
【請求項2】
前記樹脂マトリクス100質量部に対する前記親水性成分の含有量が2.0~4000質量部である、請求項1に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項3】
前記潤滑性皮膜層の皮膜量は0.05~3.0mg/dm2である、請求項1または請求項2に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項4】
前記親水性皮膜層はスルホン酸基及びエーテル結合を含むアクリル酸樹脂を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項5】
前記アルミニウム板と前記皮膜層との間に下地処理層をさらに備える、請求項1~4のいずれか1項に記載のアルミニウム製フィン材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製フィン材に関し、特に、空調機等の熱交換器に好適に用いられるアルミニウム製フィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器は、ルームエアコン、パッケージエアコン、冷凍ショーケース、冷蔵庫、オイルクーラ、ラジエータなどの様々な分野の製品に用いられている。熱交換器のフィンの材料としては、熱伝導性、加工性、耐食性などに優れるアルミニウムやアルミニウム合金が一般的である。プレートフィン式やプレートアンドチューブ式の熱交換器は、フィンが狭い間隔で並列した構造を有している。
【0003】
熱交換器のフィンは、表面温度が露点以下になると結露水が付着した状態になる。フィンの表面の親水性が低い場合には、付着した結露水の接触角が大きくなるため、水飛びと呼ばれる生活環境中に飛散が生ずる。また、かかる結露水が合わさって大きくなると、隣接するフィン間にブリッジを形成し、フィン間の通風路を閉塞し、通風抵抗が増大する。
このような水飛びの防止や通風抵抗の低減を目的として、例えば特許文献1には、フィンの表面に親水性皮膜を塗布、形成する技術が提案されている。
【0004】
また、フィンはプレス成形等の加工を経て製造されるが、プレス成形ではプレス油を用いるなど、加工時に加工油が使用される。例えば特許文献2では、表面にプレス油が過多に保持されたままになるとカラー飛びが生じやすいことを鑑みて、カラー飛びを防止することを目的として、アルミニウム基材上に耐食性皮膜、アクリル樹脂を構成材料とする親水性皮膜、ポリエチレングリコールを構成材料とする水溶性潤滑剤層が順に形成されている熱交換器用アルミニウムフィン材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2520308号公報
【特許文献2】特開2013-130320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、熱交換器を加工する際には、アルミニウム製フィン材に塗布した加工油を揮発させる目的で加熱を行う。しかしながら、高温かつ長時間である当該加熱により、アルミニウム板上に設けられた塗膜が熱により劣化し、親水性が低下してしまう。
また、加工したアルミニウム製フィン材に銅管を挿入して銅管同士を接合する際にも加熱を行う。その接合の際の加熱によっても、アルミニウム製フィン材に過度な熱がかかり、塗膜の親水性が低下する。
【0007】
そこで本発明では、加熱による親水性低下が抑制され、耐熱性に優れたアルミニウム製フィン材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の[1]~[5]に係るものである。
[1] アルミニウム板と、皮膜層とを有し、前記皮膜層は、前記アルミニウム板側から順に、親水性皮膜層と、潤滑性皮膜層と、を備え、前記潤滑性皮膜層は、ポリエチレングリコールを主成分として含む樹脂マトリクスと、スルホン酸基及びエステル基の少なくとも一方を含む親水性成分と、を含み、前記親水性成分は、200℃10分の条件で加熱する前後における親水性に寄与する官能基量の変化が15%以下である、アルミニウム製フィン材。
[2] 前記樹脂マトリクス100質量部に対する前記親水性成分の含有量が2.0~4000質量部である、前記[1]に記載のアルミニウム製フィン材。
[3] 前記潤滑性皮膜層の皮膜量は0.05~3.0mg/dm2である、前記[1]または[2]に記載のアルミニウム製フィン材。
[4] 前記親水性皮膜層はスルホン酸基及びエーテル結合を含むアクリル酸樹脂を含む、前記[1]~[3]のいずれか1に記載のアルミニウム製フィン材。
[5] 前記アルミニウム板と前記皮膜層との間に下地処理層をさらに備える、前記[1]~[4]のいずれか1に記載のアルミニウム製フィン材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱交換器を加工する際やアルミニウム製フィン材に銅管を挿入して銅管同士を接合する際の加熱を経ても、アルミニウム製フィン材表面における親水性の低下を抑制できる。その結果、アルミニウム製フィン材の当初の親水性の効果が加工等で失われることなく、長期間にわたり、水飛びの防止や通風抵抗の低減が実現されたアルミニウム製フィン材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、アルミニウム製フィン材の構成の一態様を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るアルミニウム製フィン材を実施するための形態について、詳細に説明する。なお数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0012】
<アルミニウム製フィン材>
本実施形態に係るアルミニウム製フィン材(以下、単に「フィン材」と称することがある。)10は、
図1に示すように、アルミニウム板1と、皮膜層2とを有する。皮膜層2は、アルミニウム板1側から順に、親水性皮膜層2b及び潤滑性皮膜層2cと、を備える。なお、皮膜層2はさらに耐食性皮膜層2aを備えていてもよく、耐食性皮膜層2aを備える場合には、アルミニウム板1と親水性皮膜層2bとの間に位置する。
アルミニウム板1と皮膜層2との間には、さらに下地処理層(図示せず)を備えていてもよい。
また、アルミニウム板1の少なくとも一方の面が上記構成であればよく、アルミニウム板1の両面が上記構成であってもよい。また、アルミニウム板1の両面が上記構成である場合、両面同士は同じ態様である必要はない。
【0013】
潤滑性皮膜層2cは、ポリエチレングリコールを主成分として含む樹脂マトリクスと、スルホン酸基及びエステル基の少なくとも一方を含む親水性成分とを含む。また、親水性成分は、200℃10分の条件で加熱する前後における親水性に寄与する官能基量の変化が15%以下である。
潤滑性皮膜層2cは、フィン材の表面を潤滑にし、良好な加工性を得ることを目的とする層である。この潤滑性皮膜層2cが上記構成を備えることにより、アルミニウム製フィン材10の親水性の効果が加熱等によって失われることなく維持でき、耐熱性に優れる。さらには、潤滑性皮膜層2cにおいて、樹脂マトリクスに対する親水性成分の含有量を適切な範囲にすることで、良好な加工性も実現できる。その結果、良好な加工性と、水飛びの防止や通風抵抗の低減に関する親水性といった特性を、互いに阻害することなく両立、向上できる。
【0014】
(アルミニウム板)
アルミニウム板1は、アルミニウムからなる板と、アルミニウム合金からなる板とを含む概念であり、アルミニウム製フィン材に従来用いられているアルミニウム板を用いることができる。
アルミニウム板1としては、熱伝導性及び加工性に優れることから、JIS H 4000:2014に規定されている1000系のアルミニウムが好ましい。より具体的には、アルミニウム板として合金番号1050、1070、1200のアルミニウムがより好ましい。但し上記記載は、アルミニウム板として、2000系ないし9000系のアルミニウム合金や、その他のアルミニウム板を用いることを何ら排除するものではない。
【0015】
アルミニウム板1は、フィン材の用途や仕様などに応じて適宜所望する厚さとする。熱交換器用のフィン材については、フィンの強度等の点から、厚さは0.08mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。一方、フィンへの加工性や熱交換効率等の点から、厚さは0.3mm以下が好ましく、0.2mm以下がより好ましい。
【0016】
(潤滑性皮膜層)
潤滑性皮膜層2cは、フィン材表面の潤滑性を高めることで良好な加工性を得ることを目的とする層である。具体的には、潤滑性を高める樹脂を含有することで、フィン材表面の摩擦係数が低減されて潤滑になり、フィン材をフィンに加工する際のプレス成形性等が向上する。
【0017】
潤滑性皮膜層2cは、樹脂マトリクスと親水性成分とを含む。
樹脂マトリクスとは、潤滑性皮膜層2cを形成する母組成となる樹脂成分である。例えば、潤滑性皮膜層2cにおける樹脂マトリクスの含有量が、潤滑性皮膜層2cを構成する成分の総量に対して60質量%以上が好ましい。また、上記樹脂マトリクスの含有量の上限は特に限定されないが、例えば70質量%以下である。
【0018】
樹脂マトリクスは主成分としてポリエチレングリコール(PEG)を含む。なお、本明細書におけるポリエチレングリコール(PEG)には、その変性化合物も含まれる。ポリエチレングリコールの変性化合物とは、ウレタン結合、エステル結合及びエーテル結合からなる群より選択される1種以上の官能基を構造中に有する変性ポリエチレングリコールである。中でも、延びに優れる官能基を有する点から、ウレタン結合を構造中に有する変性ポリエチレングリコールが好ましい。
【0019】
ポリエチレングリコールを主成分として含む樹脂マトリクスを含有することにより、後述する特定の親水性成分と組み合わせた際に、熱による親水性機能の低下が抑制でき、耐熱性が良好となる。
【0020】
樹脂マトリクスを構成する樹脂はポリエチレングリコールのみでもよく、ポリエチレングリコール以外のその他の樹脂も含有していてもよい。
その他の樹脂としては、例えば、親水基を有する樹脂が挙げられ、親水基としては、例えば水酸基(ヒドロキシ基)、カルボキシル基、スルホン酸基、ポリエーテル基等が挙げられる。
【0021】
ポリエチレングリコール(PEG)以外の水酸基を有する樹脂は、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。カルボキシル基を有するものとしては、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。ヒドロキシ基とカルボキシル基を有するものとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。スルホン酸基を有するものとしては、スルホエチルアクリレート等が挙げられる。これらの他に、親水基を有する単量体の2種以上の共重合体も適用できる。
【0022】
樹脂マトリクスは、ポリエチレングリコール以外のその他の樹脂を含有していてもよいが、ポリエチレングリコールを主成分として含むとは、ポリエチレングリコールとその他の樹脂の合計量に対するポリエチレングリコールの割合が60質量%以上であることを意味する。なお、ポリエチレングリコールとして、分子量や構造が異なる2種以上のポリエチレングリコールが含まれる場合には、それらの合計の割合が60質量%以上であればよい。
ポリエチレングリコールとその他の樹脂の合計量に対するポリエチレングリコールの割合は70%質量以上が好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。また、上限は100質量%、すなわち、ポリエチレングリコールのみから構成されていてもよい。
【0023】
潤滑性皮膜層2cに含まれる親水性成分は、スルホン酸基及びエステル基の少なくとも一方を含む。この親水性成分は、200℃10分の条件で加熱する前後における親水性に寄与する官能基量の変化が15%以下である。このような親水性成分を含むことにより、耐熱性に優れた親水性が得られるようになる。
【0024】
親水性成分としては、例えば、スルホン酸アクリル系化合物、リン酸エステル系化合物、アクリル系化合物等が挙げられる。ただし、これらは、上記のように、200℃10分の条件で加熱する前後における親水性に寄与する官能基量の変化が15%以下である必要がある。
【0025】
200℃10分の条件で加熱する前後における親水性に寄与する官能基量の変化は15%以下であればよいが、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
なお、本明細書において親水性に寄与する官能基量の変化は、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて測定できる。
【0026】
樹脂マトリクス100質量部に対する親水性成分の含有量は、良好な親水性を得る観点から、2.0質量部以上が好ましく、5.0質量部以上がより好ましく、6.0質量部以上がさらに好ましく、8.0質量部以上がよりさらに好ましく、10質量部以上が特に好ましい。また、良好な加工性を得るための潤滑性の点から、親水性成分の含有量は6000質量部以下が好ましく、5000質量部以下がより好ましく、4000質量部以下がさらに好ましく、3000質量部以下がよりさらに好ましい。
【0027】
潤滑性皮膜層2cには、上記の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、他の任意成分を含有させてもよい。任意成分としては、例えば塗装性、作業性、皮膜層の物性などを改善するための各種の水系溶媒や塗料添加物等が挙げられる。
塗料添加物としては、例えば、水溶性有機溶剤、架橋剤、界面活性剤、表面調整剤、湿潤分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、消泡剤、防汚剤、防錆剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。これらの塗料添加物は、1種が含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0028】
例えば、防汚剤の一例としてシリコーン成分が挙げられる。シリコーン成分は表面自由エネルギーが小さく、物質の付着性が低いと考えられる。そこで、シリコーン成分を含有させることで、油性成分を中心とした汚染物質の付着を抑制できる。
【0029】
シリコーン成分とは、ケイ素化合物の重合体であり、シロキサン結合を骨格とする化合物である。シリコーン成分は、特に塗料における分散性や樹脂皮膜における定着性が高いことから、ポリエーテル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、フェニル基、水素基、水酸基から選択される1種以上の官能基を構造中に有する変性したポリジメチルシロキサン誘導体を含むことが好ましく、エポキシ基、メタクリル基、フェニル基及び水素基からなる群より選択される1種以上の官能基を構造中に有する変性ポリジメチルシロキサン誘導体を含むことがより好ましい。また、長鎖アルキル基を含有するシリコーンも好ましい。
かかる変性ポリジメチルシロキサン誘導体や長鎖アルキル基を含有するシリコーンは、ノニオン性、アニオン性、カチオン性のいずれをも用いることができ、中でもノニオン性が好ましい。
【0030】
潤滑性皮膜層2cは、樹脂マトリクスと親水性成分とを含有する樹脂塗料を、親水性皮膜層2b上に、塗布、乾燥等により固化することで形成できる。
【0031】
潤滑性皮膜層2cの皮膜量は、十分な潤滑性及び熱に強い親水性を得る観点から0.05mg/dm2以上が好ましく、0.1mg/dm2以上がより好ましく、0.2mg/dm2以上がさらに好ましい。一方、フィン材の表面が水に濡れた場合に、潤滑性皮膜層2cを構成する成分の一部が表面に残存することで親水性が低下するのを抑制する観点から、皮膜量は3.0mg/dm2以下が好ましく、1.5mg/dm2以下がより好ましく、1.0mg/dm2以下がさらに好ましい。
【0032】
潤滑性皮膜層2cの厚さは特に限定されないが、潤滑性及び熱に強い親水性を得る観点から、皮膜層の密度を1g/cm3と仮定すると、0.005μm以上が好ましく、0.01μm以上がより好ましく、0.02μm以上がさらに好ましい。また、潤滑性皮膜層2c形成時の良好な塗布作業性を得る観点から、その厚さは0.3μm以下が好ましく、0.15μm以下がより好ましく、0.1μm以下がさらに好ましい。
潤滑性皮膜層2cの厚みは、潤滑性皮膜層2cの形成に用いる塗料組成物の濃度やバーコーターNo.の選択などによって調整することができる。
【0033】
(親水性皮膜層)
親水性皮膜層2bは、フィン材の表面に親水性を付与する皮膜層であり、従来公知の親水性樹脂を含有する。
親水性樹脂は、親水基を有していればよく、1種の樹脂を含有しても、2種以上の樹脂を含有してもよい。親水基としては、例えば水酸基(ヒドロキシ基)、カルボキシル基、スルホン酸基、ポリエーテル基等が挙げられる。
【0034】
水酸基を有するものとしては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。カルボキシル基を有するものとしては、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。ヒドロキシ基とカルボキシル基を有するものとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。スルホン酸基を有するものとしては、スルホエチルアクリレート等が挙げられる。ポリエーテル基を有するものとしては、ポリエチレングリコール(PEG)等が挙げられる。
【0035】
中でも、親水性皮膜層2bの表面に潤滑性皮膜層2cが形成されていても所望する親水性をより好適に発現する観点から、親水性樹脂は、スルホン酸基を含むもの、ポリエーテル基、すなわちエーテル結合を含むものが好ましく、スルホン酸基及びエーテル結合を含むものがより好ましく、スルホン酸基及びエーテル結合を含むアクリル酸樹脂が特に好ましい。
【0036】
スルホン酸及びエーテル結合を含むアクリル酸樹脂とは、不飽和二重結合基とスルホン酸基を含有するアクリル酸樹脂であり、例えばポリビニルエーテル-スルホン酸アクリル共重合物、ベンジルエーテル-スルホン酸アクリル共重合物等が挙げられる。なお、スルホン酸及びエーテル結合を含むアクリル酸樹脂はこれらに限定されるものではない。
【0037】
親水性樹脂は、上記の他に、親水基を有する単量体の2種以上の共重合体も使用できる。例えばアクリル酸とスルホエチルアクリレートの共重合体が挙げられる。共重合体は、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体等、単量体の配列方法には特に限定されない。
【0038】
親水性皮膜層2bは、親水性樹脂に加えて、さらに界面活性剤を含有することが好ましい。これにより、親水性皮膜層2b上に形成されている潤滑性皮膜層2cによる加工性と共に、より良好な親水性を両立できる。これは、界面活性剤の表出作用によるものだと考えられる。
【0039】
界面活性剤はアニオン型、カチオン型、ノニオン型のいずれも適用可能であるが、親水性皮膜層中での分散のしやすさの観点からアニオン型界面活性剤が好ましい。
【0040】
アニオン型界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテルりん酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、及びポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含むことが、親水性向上の観点からより好ましい。
【0041】
親水性皮膜層2bは、親水性樹脂を含有する樹脂塗料を、耐食性皮膜層2a等の下層となる層の上に、塗布、乾燥等により固化することで形成できる。
親水性皮膜における親水性樹脂の付着量は、十分な親水性を得る観点から0.2mg/dm2以上が好ましく、1mg/dm2以上がより好ましく、2mg/dm2以上がさらに好ましい。また、フィン材の表面が水に濡れた際に親水性樹脂が溶出して潤滑性皮膜層2cによる効果が阻害されるのを防ぐ観点から、親水性樹脂の付着量は30mg/dm2以下が好ましく、20mg/dm2以下がより好ましく、15mg/dm2以下がさらに好ましい。
【0042】
親水性皮膜層2bには、親水性樹脂や界面活性剤の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、他の任意成分を含有させてもよい。任意成分としては、例えば塗装性、作業性、皮膜層の物性などを改善するための各種の水系溶媒や塗料添加物等が挙げられる。
塗料添加物としては、例えば、水溶性有機溶剤、架橋剤、表面調整剤、湿潤分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、消泡剤、防錆剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。これらの塗料添加物は、1種が含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0043】
親水性皮膜層2bの厚さは特に限定されないが、親水性皮膜層2bの密度を1g/cm3と仮定すると、良好な親水性を得る点から厚さは0.02μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.2μm以上がさらに好ましい。また、親水性皮膜層2b形成時の良好な塗布作業性を得る観点から、厚さは3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1.5μm以下がさらに好ましい。
親水性皮膜層2bの厚みは、親水性皮膜層2bの形成に用いる塗料組成物の濃度やバーコーターNo.の選択などによって調整することができる。
【0044】
なお、親水性皮膜層2bと潤滑性皮膜層2cの合計の膜厚は、フィン材の熱交換効率の低下を抑制する観点から、5μm以下が好ましい。
【0045】
(耐食性皮膜層)
耐食性皮膜層2aは、主として、アルミニウム板の耐食性を高めるために設けられていてもよく、アルミニウム板1と親水性皮膜層2bとの間に形成されることが好ましく、疎水性樹脂を含有することがより好ましい。
アルミニウム板1の表面に下地処理層(図示せず)が形成されている場合には、耐食性皮膜層2aは下地処理層の上に形成される。
耐食性皮膜層2aは、例えば疎水性樹脂を含有する樹脂塗料をアルミニウム板1上又は下地処理層上に塗布、乾燥等により固化することで形成できる。
【0046】
耐食性皮膜層2aによって、結露水などの水分、酸素、塩化物イオンをはじめとするイオン種などがアルミニウム板1に浸入し難くなり、アルミニウム板1の腐食や臭気を発生するアルミ酸化物の生成などが抑制される。
【0047】
耐食性皮膜層2aにおける疎水性樹脂は、従来公知の物を用いることができる。例えば、ポリエステル系、ポリオレフィン系、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系の各種樹脂が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合したものを適用できる。
【0048】
耐食性皮膜層2aには、上記の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、他の任意成分を含有させてもよい。任意成分としては、例えば塗装性、作業性、皮膜の物性などを改善するための各種の水系溶媒や塗料添加物等が挙げられる。
塗料添加物としては、例えば、水溶性有機溶剤、架橋剤、界面活性剤、表面調整剤、湿潤分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、消泡剤、防錆剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。これらの塗料添加物は、1種が含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0049】
耐食性皮膜層2aにおける疎水性樹脂の付着量は特に限定されないが、アルミニウム板1に十分な耐食性を付与する観点から、1.0mg/dm2以上が好ましく、3.0mg/dm2以上がより好ましい。一方、フィンの熱交換効率の低下を抑制する観点から、疎水性樹脂の付着量は50mg/dm2以下が好ましく、40mg/dm2以下がより好ましい。
耐食性皮膜層2aの厚みは、良好な耐食性を得る観点から0.05μm以上が好ましい。また、成膜性が良く、割れなどの欠陥が低減されると共に、耐食性皮膜層2aの伝熱抵抗が低く抑えられ、良好なフィンの熱交換効率が得られるという観点から、厚みは4μm以下が好ましい。
なお、耐食性皮膜層2aの厚みや疎水性樹脂の付着量は、耐食性皮膜層2aの成膜に用いる塗料組成物の濃度やバーコーターNo.の選択などによって調整することができる。
【0050】
(下地処理層)
下地処理層は、所望により、アルミニウム板1と耐食性皮膜層2aとの間に備えることができる。
下地処理層を備えることにより、アルミニウム板1の耐食性を高めることができ、また、アルミニウム板1と耐食性皮膜層2aとの密着性を高めることができる。
【0051】
下地処理層は、アルミニウム板1に耐食性を付与できればよく、従来公知のものを用いることができる。例えば、無機酸化物又は無機-有機複合化合物からなる層を用いることができる。
無機酸化物や無機-有機複合化合物を構成する無機材料としては、主成分としてクロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)又はチタン(Ti)が好ましい。
【0052】
下地処理層となる無機酸化物からなる層は、例えば、アルミニウム板1にリン酸クロメート処理、リン酸ジルコニウム処理、酸化ジルコニウム処理、クロム酸クロメート処理、リン酸亜鉛処理、リン酸チタン酸処理等を行うことによって形成できる。但し、無機酸化物の種類は、これらの処理で形成されるものに限定されない。
【0053】
下地処理層となる無機-有機複合化合物からなる層は、例えば、アルミニウム板1に塗布型クロメート処理や、塗布型ジルコニウム処理等を行うことによって形成できる。このような無機-有機複合化合物の具体例としては、例えば、アクリル-ジルコニウム複合体などが挙げられる。
【0054】
下地処理層の膜厚等は特に限定されず、適宜設定すればよいが、単位面積あたりの付着量が金属(Cr、Zr、Ti)換算で1~100mg/m2となるように形成されることが好ましく、膜厚は1~100nmが好ましい。
下地処理層の付着量や膜厚は、下地処理層の成膜に用いる化成処理液の濃度や、成膜処理時間を調節することによって調整することができる。
【0055】
下地処理層を形成する前に、アルミニウム板1の表面をアルカリ性脱脂液を用いて予め脱脂してもよく、これにより下地処理の反応性が向上し、さらに、形成された下地処理層の密着性も向上する。
【0056】
(アルミニウム製フィン材の特性)
本実施形態に係るアルミニウム製フィン材10は、加工や銅管を挿入等の際の加熱を経ても、フィン材表面における親水性の低下を抑制できる。また、潤滑性皮膜層2cにおける樹脂マトリクスに対する親水性成分の含有量を適切な範囲とすることで、良好な加工性も実現できる。
【0057】
フィン材10の潤滑性皮膜層2cによる加工性は、摩擦係数により評価できる。
フィン材10の表面に加工油を塗油して水平直線往復摺動方式により測定した際の静摩擦係数は、0.20以下が好ましく、0.15以下がより好ましく、0.10以下がさらに好ましい。また、下限は特に限定されないが、通常0.01以上である。
フィン材10の表面に加工油を塗油しない場合の、水平直線往復摺動方式により測定した際の静摩擦係数は、0.20以下が好ましく、0.17以下がより好ましく、0.15以下がさらに好ましく、0.12以下がよりさらに好ましい。なお、下限は特に限定されないが、通常0.01以上である。
【0058】
フィン材10の親水性に関する耐熱性は、フィン材10を加熱した後、その表面に純水を滴下した際の接触角により評価できる。
純水の接触角は接触角測定器を用いて測定するが、フィン材10の表面に加工油を塗油して200℃で10分間加熱し、室温に戻した後、その表面に約0.5μLの純水を滴下する。液滴(純水)の接触角は、22°以下が好ましく、20°以下がより好ましく、15°以下がさらに好ましい。なお、下限は特に限定されないが、通常5°以上である。
【0059】
フィン材10の親水性に関する耐熱性に加え、フィン材10を熱交換器に用いた際の耐久性は、乾湿サイクルを経た後の純水の接触角により評価できる。
フィン材10の表面に加工油を塗油して200℃で10分間加熱し、室温に戻したフィン材10に対して、下記(i)及び(ii)からなる工程を1サイクルとして、かかる工程を14サイクル行う。その後、室温に戻して、フィン材10の表面に約0.5μLの純水を滴下する。液滴(純水)の接触角は、22°以下が好ましく、20°以下がより好ましく、19°以下がさらに好ましい。なお、下限は特に限定されないが、通常5°以上である。
(i)流量0.1mL/分のイオン交換水にフィン材を8時間晒す。
(ii)次いで80℃で16時間乾燥させる。
【0060】
フィン材10の厚みは、用途等により異なり特に限定されないが、例えば熱交換器に用いられる場合には、加工時に耐えうる強度の点から0.08mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。また、加工性、熱交換効率の点から、厚みは0.3mm以下が好ましく、0.2mm以下がより好ましい。
【0061】
<アルミニウム製フィン材の製造方法>
本実施形態に係るアルミニウム製フィン材10の製造方法の一例について説明するが、かかる態様に限定されず、本実施形態の効果を妨げない範囲において、他の製造方法により製造することもできる。
【0062】
アルミニウム板1上に、耐食性皮膜層2aを公知の方法により形成した後、親水性樹脂を含む塗料組成物を塗布し乾燥することにより親水性皮膜層2bを形成する。耐食性皮膜層2aを形成する前に、所望により下地処理層を形成してもよい。
次いで、樹脂マトリクスと親水性成分とを含有する樹脂塗料を親水性皮膜層2b上に、塗布し乾燥することにより潤滑性皮膜層2cを形成する。
【0063】
潤滑性皮膜層2cを形成する際の樹脂塗料に含まれる樹脂マトリクスは、ポリエチレングリコールを主成分として含む。また、上記樹脂塗料に含まれる親水性成分は、スルホン酸基及びエステル基の少なくとも一方を含む。この親水性成分は、200℃10分の条件で加熱する前後における親水性に寄与する官能基量の変化が15%以下である。
【0064】
親水性皮膜層2bを形成する際に、塗料組成物中にスルホン酸基及びエーテル結合を含むアクリル酸樹脂を含有させることによって、親水性皮膜層2bの表面に潤滑性皮膜層2cが形成されていても所望する親水性をより好適に発現できる。
【0065】
潤滑性皮膜層2c、親水性皮膜層2b、及び耐食性皮膜層2aは、各皮膜層を構成する塗料組成物を調製し、被覆対象物にバーコーターやロールコート法等により塗布し、焼付け処理を施して形成される。特に、アルミニウム板1がコイル状であれば、ロールコート装置等を適用して、連続的に、脱脂、塗装、加熱、巻取り等を行うことが生産性上好ましい。また、潤滑性皮膜層2c、親水性皮膜層2b、及び耐食性皮膜層2aの焼付け温度は、それぞれ用いる樹脂等の成分に応じて設定すればよく、例えば、120~270℃の範囲とすることが好ましい。
【実施例0066】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、その趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0067】
(実施例1)
アルミニウム板として、厚さが0.1mmのJIS H 4000:2014に規定されている合金番号1070の規格を用いた。アルミニウム板の一方の表面上にリン酸クロメート処理により下地処理層を形成した。下地処理層の皮膜量は20mg/dm2であった。
次いで、エポキシ樹脂を含む塗料組成物をバーコーターで塗布し、200℃で焼付けることによって、耐食性皮膜層を形成した。耐食性皮膜層の皮膜量は7.5mg/dm2とした。
次に、親水性樹脂としてスルホン酸基含有エーテル系アクリル化合物を主成分として含む樹脂組成物を、バーコーターを用いて耐食性皮膜層の表面に塗布した。続いて220℃で焼付けることによって、親水性皮膜層を形成した。親水性皮膜層の皮膜量は6mg/dm2とした。
最後に、得られた親水性皮膜層の表面に、樹脂マトリクス(A)となる変性ポリエチレングリコールに、親水性成分(B)としてスルホン酸アクリル系化合物を添加した樹脂塗料をバーコーターで塗布し、160℃で焼付けることによって、潤滑性皮膜層を形成し、アルミニウム製フィン材を得た。変性ポリエチレングリコール100質量部に対するスルホン酸アクリル系化合物の添加量は6質量部である。また、潤滑性皮膜層の皮膜量は1.0mg/dm2とした。
【0068】
(実施例2~実施例15)
潤滑性皮膜層の形成において、樹脂マトリクス(A)となる変性ポリエチレングリコール100質量部に対する、親水性成分(B)となるスルホン酸アクリル系化合物の添加量を表1に記載の量に変更した以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0069】
(実施例16)
潤滑性皮膜層の形成において、親水性成分(B)として、スルホン酸アクリル系化合物に代えて、リン酸エステル系化合物を表1に記載の量添加した以外は実施例1と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0070】
(比較例1)
潤滑性皮膜層の形成において、親水性成分(B)であるスルホン酸アクリル系化合物を添加しなかった以外は実施例1と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0071】
(比較例2)
潤滑性皮膜層の形成において、樹脂マトリクス(A)となる変性ポリエチレングリコールを用いず、親水性成分(B)であるスルホン酸アクリル系化合物のみからなる層を形成した以外は実施例1と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0072】
(比較例3)
潤滑性皮膜層の形成において、親水性成分(B)として、スルホン酸アクリル系化合物に代えて、スルホン酸基は含有せずにエステル基を含有するポリアクリル酸系化合物を表1に記載の量添加した以外は実施例1と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0073】
(比較例4)
親水性皮膜層の形成において、スルホン酸基含有エーテル系アクリル化合物を含む樹脂組成物に代えてスルホン酸アクリル系化合物を用い、また、潤滑性皮膜層の形成において、親水性成分(B)であるスルホン酸アクリル系化合物を添加しなかった以外は実施例1と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0074】
(実施例17)
潤滑性皮膜層の形成において、潤滑性皮膜層の皮膜量を0.2mg/dm2とした以外は実施例1と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0075】
(実施例18~実施例31)
潤滑性皮膜層の形成において、樹脂マトリクス(A)となる変性ポリエチレングリコール100質量部に対する、親水性成分(B)となるスルホン酸アクリル系化合物の添加量を表2に記載の量に変更した以外は、実施例17と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0076】
(比較例5)
潤滑性皮膜層の形成において、親水性成分(B)であるスルホン酸アクリル系化合物を添加しなかった以外は実施例17と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0077】
(比較例6)
潤滑性皮膜層の形成において、樹脂マトリクス(A)となる変性ポリエチレングリコールを用いず、親水性成分(B)であるスルホン酸アクリル系化合物のみからなる層を形成した以外は実施例17と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0078】
(親水性成分の官能基変化量)
アルミニウム製フィン材における潤滑性皮膜層に含まれる親水性成分について、200℃10分の条件で加熱する前後における親水性に寄与する官能基量の変化を、フーリエ変換赤外分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、NICOLET iZ10)を用いて測定した。具体的には、親水性に寄与する官能基を示す1510cm-1付近のピークと、親水性に寄与しない官能基を示すピーク2900cm-1付近のピークとの強度比を成分中の官能基量Aとし、加熱前の成分中の官能基量Aを基準(1)としたときに、200℃10分の加熱を行った後の当該成分中の官能基量Aの変化量が15%以下(0.85以上)であるか否かの判断を行った。
結果を、表1及び表2の「潤滑性皮膜層 (B)の官能基変化量(%)」に示す。
【0079】
(評価:加工性)
得られたアルミニウム製フィン材に対し、潤滑性皮膜層による加工性について、摩擦係数による下記評価を行った。
フィン材の表面に加工油を塗油して水平直線往復摺動方式(協和界面科学社製、TS-501型)を用いて静摩擦係数の測定を行った。評価基準は下記のとおりであり、結果を表1及び表2の「摩擦係数 塗油あり」に示す。なお、空欄は未測定であることを意味する。
A 非常に良好(合格):静摩擦係数が0.15以下
B 良好(合格):静摩擦係数が0.15超0.20以下
C 不良(不合格):静摩擦係数が0.20超
【0080】
潤滑性皮膜層による加工性について、フィン材の表面に加工油を塗油しない以外は上記と同様にして、静摩擦係数の測定を行った。評価基準は下記のとおりであり、結果を表1及び表2の「摩擦係数 塗油なし」に示す。なお、空欄は未測定であることを意味する。
A 非常に良好(合格):静摩擦係数が0.15以下
B 良好(合格):静摩擦係数が0.15超0.20以下
C 不良(不合格):静摩擦係数が0.20超
【0081】
(評価:耐熱性)
得られたアルミニウム製フィン材に対し、親水性に関する耐熱性について、その表面に純水を滴下した際の接触角による下記評価を行った。
フィン材の表面に加工油を塗油して200℃で10分間加熱し、室温に戻した後、その表面に約0.5μLの純水を滴下した。液滴(純水)の接触角は接触角測定器(協和界面科学社製、CA-05型)を用いて測定した。評価基準は下記のとおりであり、結果を表1及び表2の「接触角 加熱後」に示す。なお、空欄は未測定であることを意味する。
A 非常に良好(合格):接触角が15°以下
B 良好(合格):接触角が15°超22°以下
C 不良(不合格):接触角が22°超
【0082】
(評価:耐久性)
フィン材を熱交換器に用いた際の耐久性について、乾湿サイクルを経た後の純水の接触角による下記評価を行った。
フィン材の表面に加工油を塗油して200℃で10分間加熱し、室温に戻した。次いで、(i)流量0.1mL/分のイオン交換水にフィン材を8時間晒す、及び、(ii)次いで80℃で16時間乾燥させる、なる工程を1サイクルとして、かかる工程を14サイクル行った。その後、室温に戻して、フィン材の表面に約0.5μLの純水を滴下した。液滴(純水)の接触角は接触角測定器(協和界面科学社製、CA-05型)を用いて測定した。評価基準は下記のとおりであり、結果を表1及び表2の「接触角 乾湿サイクル後」に示す。なお、空欄は未測定であることを意味する。
A 非常に良好(合格):接触角が20°以下
B 良好(合格):接触角が20°超22°以下
C 不良(不合格):接触角が22°超
【0083】
【0084】
【0085】
上記結果から、潤滑性皮膜層にポリエチレングリコールを含む樹脂マトリクスと、スルホン酸基及びエステル基の少なくとも一方を含み、かつ加熱前後における官能基量の変化が小さい親水性成分とを含有することで、加熱による親水性低下が抑制され、耐熱性に優れたアルミニウム製フィン材が得られることが分かった。親水性成分における加熱前後における官能基量の変化が大きいと、親水性成分がスルホン酸基やエステル基を含んでいても、比較例3に示すように、加熱後の良好な親水性は実現できなかった。また、潤滑性皮膜層において、樹脂マトリクスに対する親水性成分の含有量を適切な範囲とすることで、良好な加工性も実現できた。