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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161715
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】創傷被覆剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A61L 26/00 20060101AFI20221014BHJP
   A61P 29/02 20060101ALI20221014BHJP
   A61P 17/02 20060101ALN20221014BHJP
【FI】
A61L26/00
A61P29/02
A61P17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066742
(22)【出願日】2021-04-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】笹木 友美子
(72)【発明者】
【氏名】原 真佐夫
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AA07
4C081AA12
4C081BA17
4C081BB09
4C081CA081
4C081CC01
4C081CE11
4C081DA12
(57)【要約】
【課題】炎症、切創、裂傷、挫傷、火傷、褥瘡などの創面に対して、優れた滞留性と保湿性を有することによる疼痛緩和効果を有する創傷被覆剤組成物を提供することである。
【解決手段】特定の共重合体、ジオレイン酸グリセロールおよびエタノールを特定割合で含有する組成物が優れた滞留性と保湿性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)を0.01~5.0重量%、成分(B)を50~99重量%、および成分(C)を0.1~10重量%含有する創傷被覆剤組成物。
成分(A):下記式(1a)で表される2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位10~90モル%と、下記式(1b)で表されるアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位90~10モル%とを含み、重量平均分子量1,000~3,000,000である共重合体(P)
成分(B):ジオレイン酸グリセロール
成分(C):エタノール
【化1】
(式(1a)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。)
【化2】
(式(1b)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数4~18のアルキル基を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の創傷被覆剤組成物及び水分を含む、創傷被覆剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症、切創、裂傷、挫傷、火傷、褥瘡などの創面に対して、優れた滞留性と保湿性を有することによる疼痛緩和効果を有する創傷被覆剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の本邦における死因の上位は、悪性新生物(約27%)、心疾患(約15%)、老衰(約9%)、脳血管疾患(約8%)などとなっている。これらの中でも悪性新生物による死因がその大部分を占めていることが報告されている(非特許文献1)。一般的に、この悪性新生物の治療は、抗がん剤と放射線治療とを組み合わせて行うことが多い。その治療効果は近年の新薬開発の状況を受けて、治療効果が向上していることも知られている。
【0003】
一方で、抗がん剤治療や放射線治療は、重度で多数の副作用が生じることも知られている。その副作用のうち、代表的なものとしては、吐き気、嘔吐、倦怠感、脱毛、しびれ、下痢、口内炎、貧血等が挙げられる。これらの中でも口内炎については、患者が飲食を行うことが難しくなるほど重度となることも多く、その対処や対策について様々は技術開発が行われている。
【0004】
抗がん剤治療や放射線治療における口内炎への対処や対策については、含嗽薬や洗口液を用いるもの(特許文献1)や、軟膏剤を用いるもの(特許文献2)などがある。しかし、含嗽薬や洗口液は、その薬剤が口内炎の患部に留まりにくく、その口内炎の治療効果についても限定的となること、また、口内炎に由来する痛み(疼痛)を緩和する作用についても限定的となることもあった。また、軟膏剤を用いるものについては、その薬剤が口内炎の患部に留まりやすく、その治療効果も持続するものの、指などで患部に塗布する必要があり、さらに指で塗布することから、そもそも痛みを生じる懸念もあった。
口腔内の患部を被覆する方法として、ジアシル脂質とリン脂質を含有する薬剤(特許文献3)を用いるものがあるが、患部の保湿効果は十分ではなかった。
【0005】
以上より、患部へと付着した際には患部を被覆し、薬剤が滞留しかつ保湿する創傷被覆剤組成物が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-048155号公報
【特許文献2】特開2007-055912号公報
【特許文献3】特表2008-526932号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】厚生労働省,令和元年(2019)人口動態統計
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、炎症、切創、裂傷、挫傷、火傷、褥瘡などの創面に対して、優れた滞留性と保湿性を有することによる疼痛緩和効果を有する創傷被覆剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、特定の共重合体、ジオレイン酸グリセロールおよびエタノールを特定割合で含有する組成物が優れた滞留性と保湿性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0010】
1.以下の成分(A)を0.01~5.0重量%、成分(B)を50~99重量%、および成分(C)を0.1~10重量%含有する創傷被覆剤組成物。
成分(A):下記式(1a)で表される2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位10~90モル%と、下記式(1b)で表されるアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位90~10モル%とを含み、重量平均分子量1,000~3,000,000である共重合体(P)
成分(B):ジオレイン酸グリセロール
成分(C):エタノール
【化1】
(式(1a)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。)
【化2】
(式(1b)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数4~18のアルキル基を示す。)
2.前項1に記載の創傷被覆剤組成物及び水分を含む、創傷被覆剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の創傷被覆剤組成物は、優れた滞留性と保湿性を有することによる疼痛緩和効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の創傷被覆剤組成物は、
成分(A):下記式(1a)で表される2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位10~90モル%と、下記式(1b)で表されるアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位90~10モル%とを含み、重量平均分子量1,000~3,000,000である共重合体(P)を0.01~5.0重量%、
成分(B):ジオレイン酸グリセロールを50~99重量%、および
成分(C):エタノールを50~99重量%
を含む創傷被覆剤組成物である。
各成分(A)~(C)のそれぞれの含有量は、創傷被覆剤組成物全量基準の値である。
【0013】
【化3】
(式(1a)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。)
【0014】
【化4】
(式(1b)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数4~18のアルキル基を示す。)
【0015】
本発明の創傷被覆剤組成物は、成分(A)~成分(C)の他、後述するその他の任意成分を含有する組成物であってもよい。
【0016】
<成分(A)>
本発明の創傷被覆剤組成物に含まれる成分(A)は下記式(1a’)で示される2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、PC単量体)と、下記式(1b’)で示されるアルキル基含有(メタ)アクリルレートとの共重合体である。
PC単量体とアルキル基含有(メタ)アクリレートの共重合比は、モル比でPC単量体/アルキル基含有(メタ)アクリレート=10/90~90/10であり、好ましくは、PC単量体/アルキル基含有(メタ)アクリレート=10/90~60/40であり、さらに好ましくは、PC単量体/アルキル基含有(メタ)アクリレート=20/80~40/60である。
PC単量体が10モル%未満となると、創面に対する疼痛緩和効果が低下する恐れがあり、90モル%を超えると、成分(A)の親水性が上昇し、成分(B)や成分(C)に溶解しにくくなることで、本発明の創傷被覆剤組成物が白濁する恐れがある。また、アルキル基含有(メタ)アクリレートが10モル%未満となると、成分(A)の親水性が上昇し、成分(B)や成分(C)に溶解しにくくなることで、本発明の創傷被覆剤組成物が白濁する恐れがあり、90モル%を超えると、成分(A)の疎水性が上昇し、成分(B)や成分(C)に溶解しにくくなることで、本発明の創傷被覆剤組成物が白濁する恐れがある。
【0017】
【化5】
(式(1a’)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。)
【0018】
【化6】
(式(1b’)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数4~18のアルキル基を示す。)
【0019】
本発明の創傷被覆剤組成物に含まれる成分(A)において、PC単量体のRはメチル基である2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを用いることが好ましい。
また、式(1b’)で示されるアルキル基含有(メタ)アクリレートのRの炭素数4~18の直鎖状アルキル基としては、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基が挙げられる。
炭素数4~18の分岐状アルキル基としては、t-ブチル基、イソブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、イソへプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基などが挙げられる。
は、疼痛緩和効果の観点から、n-ブチル基、n-ドデシル基、n-オクタデシル基を用いることが好ましい。
【0020】
アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体は、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。疼痛緩和効果の観点から好適な例として、ブチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートがより好ましく挙げられる。
【0021】
本発明の創傷被覆剤組成物に含まれる成分(A)の重量平均分子量は、1,000~3,000,000であり、好ましくは、10,000~2,000,000であり、さらに好ましくは、100,000~1,000,000である。重量平均分子量が1,000未満であると、患部への滞留性が低下し、疼痛緩和効果が低下する恐れがある。また、重量平均分子量が3,000,000より大きいと、粘度が上昇し、均一に溶解した創傷被覆剤組成物を製造することが困難となる恐れがある。
なお、成分(A)の共重合体の重量平均分子量は、GPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)測定により、ポリエチレングリコール換算で求めることができる。
【0022】
本発明の創傷被覆剤組成物に含まれる成分(A)の含有量は、0.01~5.0重量%であり、好ましくは、0.5~5.0重量%である。0.01重量%未満であると、患部への滞留性が低下し、ひいては疼痛緩和効果が低下する恐れがあり、また、5.0重量%を超えると、添加量に見合った効果が発現しなくなる恐れがある。
本発明の成分(A)の好ましい例示は、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)-ステアリルメタクリレート(SMA)共重合体、MPC-ブチルメタクリレート(BMA)共重合体が挙げられ、MPC-SMA共重合体が特に好ましい。
【0023】
<成分(B)>
本発明の創傷被覆剤組成物に含まれる成分(B)は、ジオレイン酸グリセロールである。本発明の創傷被覆剤組成物に配合するジオレイン酸グリセロールについて、特に制限はないが、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器等を製造する際に用いるジオレイン酸グリセロールを用いることができる。
【0024】
本発明の創傷被覆剤組成物に含まれる成分(B)の含有量は、50~99重量%である。好ましくは、70~99重量%、より好ましくは80~99重量%である。50重量%未満であると創面の水分を吸収してもハイドロゲルを形成しなくなる恐れがあり、99重量%より多いと成分(A)の創傷被覆剤組成物への溶解性が不十分となることで透明な溶液を得ることが難しくなる恐れがある。
【0025】
<成分(C)>
本発明の創傷被覆剤組成物に含まれる成分(C)は、エタノールである。本発明の創傷被覆剤組成物に配合するエタノールについて、特に制限はないが、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器等を製造する際に用いるエタノールを用いることができ、より具体的には、日本薬局方、医薬部外品原料規格、食品添加物公定書等に収載された規格のエタノールを用いることができる。
【0026】
本発明の創傷被覆剤組成物に含まれる成分(C)の含有量は、0.1~10重量%である。好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.5~10重量%である。0.1重量%未満であると、成分(A)の創傷被覆剤組成物への溶解性が不十分になることで透明な溶液を得ることが難しくなる恐れがあり、10重量%を超えると創面の水分を吸収してもハイドロゲルを形成しなくなる恐れがある。
【0027】
<その他の成分>
本発明の創傷被覆剤組成物は、本発明の効果を阻害しない限り、上記で説明した成分以外にも、必要に応じて、緩衝剤、湿潤剤、薬剤、界面活性剤、防腐殺菌剤、香料、有機酸、酸化防止剤、安定剤、金属封鎖剤等を配合することができる。
【0028】
緩衝剤としては特に限定されないが、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、グルコン酸およびこれらの塩が挙げられる。
【0029】
湿潤剤としては特に限定されないが、プロピレングリコール、ペンチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、マンニトール、エリスリトールなどが挙げられる。
【0030】
薬剤としては特に限定されないが、アズレンスルホン酸ナトリウム、イプシロン-アミノカプロン酸、アラントイン、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、アラントインヒドロキシアルミニウム、エピジヒドロキシコレステリン、ジヒドロコレステロール、塩化ナトリウム、硝酸カリウム、乳酸アルミニウム、塩化亜鉛、グリチルリン酸およびその塩、β-グリチルリチン酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化セチルピリジニウム、塩化デカリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、トリクロサン、1、8-シネオール、アスコルビン酸およびその塩、塩酸ピリドキシン、酢酸dl-α-トコフェロール、ニコチン酸dl-α-トコフェロール、ゼオライト、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸1水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポビドンヨード、塩化リゾチーム、銅クロロフィリンナトリウム、ヒノキチオール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(8~10E.O.)、ラウロイルサルコシンナトリウム、トラネキサム酸、サリチル酸メチル、l-メントールなどが挙げられる。
【0031】
界面活性剤としては特に限定されないが、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アシルアミノ酸塩、脂肪酸アミノプロピルベタイン、脂肪酸アミドベタインなどが挙げられ、特にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタン(ポリソルベート80)が挙げられる。
【0032】
防腐殺菌剤としては特に限定されないが、塩酸ポリヘキサニド、ヒノキチオール、安息香酸およびこの塩、パラベン類などが挙げられる。
【0033】
香料としては特に限定されないが、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、グレープフルーツ油、スウィーティー油、柚油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー等の天然香料、およびこれら天然香料の加工処理(前溜部カット、後溜部カット、分留、液液抽出、エッセンス化、粉末香料化等)した香料、および、l-メントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3-l-メントキシプロパン-1、2-ジオール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N-置換-パラメンタン-3-カルボキサミド、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、ブタノール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料、さらに、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー等の調合香料などが挙げられる。
【0034】
有機酸としては特に限定されないが、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸などが挙げられる。
【0035】
酸化防止剤としては特に限定されないが、ビタミンE、ビタミンC、茶抽出物、ローズマリー抽出物などが挙げられる。
【0036】
安定剤としては特に限定されないが、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアリール等が挙げられる。
【0037】
金属封鎖剤としては特に限定されないが、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジフォスホン酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジフォスホン酸四ナトリウム塩、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸、リン酸、クエン酸、アスコルビン酸、コハク酸、エデト酸、エチレンジアミンヒドロキシエチル三酢酸3ナトリウム等を挙げることができる。
【0038】
(創傷被覆剤組成物の使用方法)
本発明の創傷被覆剤組成物の使用方法は特に限定されないが、例えば、以下を例示することができる。
本発明の創傷被覆剤組成物を適当なボトルに充填し、皮膚、眼粘膜、口腔粘膜等の創面などに適量を取り出して、適当な水分と混合することでハイドロゲルとする。このハイドロゲルを適用部位に適用する。
本発明の創傷被覆剤組成物を、創面の水分と混合することでハイドロゲルを形成させる。
本発明の創傷被覆剤組成物を適当な水分と混合することでハイドロゲルを形成し、該ハイドロゲルを適用部位に適用する。
上記ハイドロゲルは炎症、切創、裂傷、挫傷、火傷、褥瘡などの創面に対して、優れた、滞留性、保湿性と疼痛緩和能を発現する。
本発明の創傷被覆剤組成物の用途は、特に限定されないが、創傷被覆剤、皮膚、眼粘膜、口腔粘膜等の炎症、切創、裂傷、挫傷、火傷、褥瘡に関する治療剤、疼痛緩和剤等に使用することができる。
【実施例0039】
以下、実施例および比較例により本発明を詳細に発明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
MPCポリマー(1):2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・ステアリルメタクリレート共重合体[共重合組成比(モル比)30/70、重量平均分子量:250,000]であり、常法によって重合を行って得られた。
MPCポリマー(2):2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・ブチルメタクリレート共重合体[共重合組成比(モル比)30/70、重量平均分子量:600,000]であり、常法によって重合を行って得られた。
なお、MPCポリマー(1)およびMPCポリマー(2)をメタノール/クロロホルム(重量比4/6)に溶解した溶液を調製し、GPC分析により重量平均分子量を算出した。GPCは以下の条件にて測定を行った。
【0041】
<測定条件>
システム:GPCシステム(東ソー株式会社製)
カラム:PLgel-Mixed-C
標準物質:ポリエチレングリコール
溶離液:メタノール/クロロホルム(重量比4/6)
検出器:視差屈折率計
流速:1mL/min
注入量:100μL
ポリマー濃度:5mL/g
カラムオーブン:40℃付近の一定温度
【0042】
ホモポリマー(A):2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの重合体[重量平均分子量:200,000]であり、常法によって重合を行って得られた。
ホモポリマー(B):ブチルメタクリレートの重合体[重量平均分子量:180,000]であり、和光純薬工場(株)(製品名:ポリ(メタクリル酸n-ブチル))より購入して試験に用いた。
【0043】
局所的に口腔粘膜障害の創部の保護を行い、疼痛の緩和をする新しいコンセプトの治療剤が研究開発されている。該治療剤を口腔粘膜に適量を適用すると数分以内に口腔粘膜の水分を吸収してゲル状になり、物理的バリアを形成することにより、口腔粘膜障害により生じる口腔内疼痛を緩和することができることが知られている(参照:日本造血細胞移植学会誌8(1):36-42、2019. Journal of Hematopoietic Cell Transplantation Vol.8 No.1, 2019,”Use ofa wound covering/protective hydrogel material (episil&reg; Oral Liquid) fororal mucositis in four patients who underwent hematopoietic stem celltransplantation”)。
本発明の創傷被覆剤組成物が、創面に対して優れた疼痛緩和効果の発現については、(i)創傷被覆剤組成物が水分を吸収することでハイドロゲルを形成すること、(ii)形成したハイドロゲルが特定の箇所に留まること、(iii)形成したハイドロゲルが長時間にわたって、乾燥せずにハイドロゲルの形態を維持できること、が必要である。
【0044】
このため以下では、(1)ハイドロゲル形成能試験、(2)滞留性試験、(3)保湿性試験の3種を組み合わせることで、本発明の創傷被覆剤組成物が、優れた疼痛緩和効果を発現するか否かについて評価を実施した。
【0045】
<ハイドロゲル形成能試験>
各実施例もしくは各比較例の創傷被覆剤組成物100gのうち、300μLを使用した。そして、創傷被覆剤組成物300μLと精製水30μLとを混合し、ゲル形成能について評価した。
ゲル形成能は以下の基準に従い評価した。
〇:精製水添加後に、無色透明なゲルを形成した。
△:精製水添加後に、一部、無色透明なゲルを形成した、もしくは、白濁したゲルを形成した。
×:精製水添加後に、ゲルを形成しなかった。
【0046】
<滞留性試験>
サンプル瓶に各実施例もしくは各比較例の創傷被覆剤組成物300μLと精製水30μLとを混合、密栓して倒立させ、評価した。
滞留性は以下の基準に従い評価した。
〇:倒立後、内容液の完全な沈降に、30分以上を要した。
△:倒立後、内容液の完全な沈降に、5分以上を要した。
×:倒立後、内容液は速やかに沈降した。
【0047】
<保湿性試験>
以下の手順に従い、各実施例もしくは各比較例の創傷被覆剤組成物の保湿性を評価した。
(1)ろ紙(直径24mm)に人工唾液100μLを染み込ませた。
(2)さらに、各実施例もしくは比較例につき、0.15gを(1)へ染み込ませた。
(3)水分計(島津製作所製、形式:MОC120-H)を用いて、37℃、20分間加熱し、重量変化から保湿性を評価した。
保湿性の評価は、以下の式を用いて、初期からの保湿性を百分率(%)に換算した。
なお、保湿性は60%以上のとき、合格であると判断した。
【0048】
(保湿性)=(手順(3)の後の重量)/(手順(2)の後の重量)×100
【0049】
<実施例1>
ジオレイン酸グリセロール 84.5gおよびエタノール 5.0gを量り、これらを混合して均一な溶液とした。別途、MPCポリマー(1) 0.5gを量り、ジオレイン酸グリセロール・エタノール混合液へと入れ、攪拌した。さらに、プロピレングリコール 5.0gおよびポリソルベート80 5.0gを量り、加え、攪拌溶解させ、実施例1の創傷被覆剤組成物を製した。実施例1の創傷被覆剤組成物の性状を表1に示し、実施例1を用いたハイドロゲル形成能試験、滞留性試験および保湿性試験の結果を表3に示す。
【0050】
<実施例2~実施例8>
配合成分の組成を表1に示すものへと変更した以外は、実施例1に記載の方法と同様にして、実施例2~実施例8の創傷被覆剤組成物を調製した。各実施例における創傷被覆剤組成物の性状を表1に示し、ハイドロゲル形成能試験、滞留性試験および保湿性試験の結果を表3に示す。
【0051】
<比較例1~比較例5>
配合成分の組成を表2に示すものへと変更した以外は、実施例1に記載の方法と同様にして、比較例1~比較例5の創傷被覆剤組成物を調製した。各比較例における創傷被覆剤組成物の性状を表2に示し、ハイドロゲル形成能試験、滞留性試験および保湿性試験の結果を表4に示す。
【0052】
【表1】
ジオレイン酸グリセロール:試薬特級ジオレイン酸グリセロール、富士フイルム和光純薬株式会社製
エタノール:日本薬局方エタノール、富士フイルム和光純薬株式会社製
プロピレングリコール:日本薬局方 プロピレングリコール、丸石製薬株式会社製
ポリソルベート80(モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン):日本薬局方、日油株式会社製
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
実施例1~実施例8の創傷被覆剤組成物において、ハイドロゲル形成能試験および滞留性試験はすべて〇の判定であり、さらに保湿性能試験についてもすべて基準となる60%以上となった。このため、実施例1~実施例8の創傷被覆剤組成物については、優れたハイドロゲル形成能、滞留性および保湿性を発現することが明らかとなった。中でも、実施例1~実施例5の創傷被覆剤組成物については、保湿性が75%以上であり、特に優れた効果を発現していることが明らかとなった。
一方、比較例1(成分(A)を含まない組成物)、比較例2(成分(B)の含有量が50重量%未満の組成物)、比較例3(成分(C)の含有量が10重量%を超える組成物)、比較例4(成分(A)の代わりにPC単量体の共重合比が90モル%を超え、アルキル基含有(メタ)アクリレートの共重合比が10モル%未満のホモポリマーを含み、成分(C)の含有量が10重量%を超える組成物)、比較例5(成分(A)の代わりにPC単量体の共重合比が10モル%未満であり、アルキル基含有(メタ)アクリレートの共重合比が90モル%を超えるホモポリマーを含み、成分(B)を含まず、成分(C)の含有量が10重量%を超える組成物)については、ハイドロゲル形成能試験、滞留性試験にて△または×の判定となりハイドロゲル形成能や滞留性を発現しなかった。さらに、保湿性能試験でも45%以下となっており、保湿性能を発現しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の創傷被覆剤組成物を用い、炎症、切創、裂傷、挫傷、火傷、褥瘡などの創面に対して塗布することで、創面の水分と混合してハイドロゲルとなることで、患部に対して優れた滞留性と保湿性による疼痛緩和効果を発現することができる。さらに本発明の創傷被覆剤組成物は、皮膚、眼粘膜、口腔粘膜などの治療や疼痛緩和にも好適に用いることができる。