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特開2022-161720信号測定装置および周期信号の測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161720
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】信号測定装置および周期信号の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 23/14 20060101AFI20221014BHJP
【FI】
G01R23/14 D
G01R23/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066755
(22)【出願日】2021-04-09
(71)【出願人】
【識別番号】390005175
【氏名又は名称】株式会社アドバンテスト
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】浅見 幸司
(57)【要約】
【課題】広帯域なサンプルホールド回路が不要な、信号測定装置を提供する。
【解決手段】信号測定装置100は、周期的な被測定信号S1を測定する。マルチトーン信号発生器110は、複数の周波数f,f,…fを含むマルチトーン信号S2を生成する。複数の周波数f,f,…fはそれぞれ、被測定信号S1に含まれる基本波fおよび高調波2f,3f,4f…のうち対応するひとつと対応付けられており、各周波数f,f,…fと、対応する周波数との差をΔf,Δf,…Δfとするとき、Δf≠Δf≠…≠Δfを満たす。周波数ミキサー120は、マルチトーン信号S2を、被測定信号S1と周波数ミキシングする。周波数フィルタ130は、周波数ミキサー120の出力信号S3を受け、所定の周波数帯域を通過する。A/Dコンバータ140は、周波数フィルタ130の出力信号S4をデジタル信号S5に変換する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ波形を繰り返す周期的な被測定信号を測定する信号測定装置であって、
複数の周波数f,f,…fを含むマルチトーン信号を生成するマルチトーン信号発生器であって、前記複数の周波数f,f,…fはそれぞれ、前記被測定信号に含まれる基本波fおよび高調波2f,3f,4f…のうちひとつと対応付けられており、各周波数f,f,…fと、対応する周波数との差をΔf,Δf,…Δfとするとき、Δf≠Δf≠…≠Δfを満たす、マルチトーン信号発生器と、
前記マルチトーン信号を、前記被測定信号と周波数ミキシングする周波数ミキサーと、
前記周波数ミキサーの出力を受け、所定の周波数帯域を通過する周波数フィルタと、
前記周波数フィルタの出力をデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、
を備えることを特徴とする信号測定装置。
【請求項2】
前記A/Dコンバータの出力を処理する信号処理部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の信号測定装置。
【請求項3】
前記信号処理部は、前記A/Dコンバータの出力のスペクトルを取得することを特徴とする請求項2に記載の信号測定装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、前記スペクトルに含まれる複数の周波数成分を、前記被測定信号に含まれる基本波および高調波に対応した順序で再マッピングし、
再マッピングしたスペクトルから、前記被測定信号の波形を再生することを特徴とする請求項3に記載の信号測定装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記スペクトルに含まれる複数の周波数成分を補正することを特徴とする請求項3または4に記載の信号測定装置。
【請求項6】
Δf<Δf<…<Δfを満たすことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の信号測定装置。
【請求項7】
Δf、Δf、…、Δfの差分が一定であることを特徴とする請求項6に記載の信号測定装置。
【請求項8】
Δf,Δf,…,Δfは、ランダムに定められることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の信号測定装置。
【請求項9】
同じ波形を繰り返す周期的な被測定信号の測定方法であって、
複数の周波数f,f,…fを含むマルチトーン信号を生成するステップであって、前記複数の周波数f,f,…fはそれぞれ、前記被測定信号に含まれる基本波fおよび高調波2f,3f,4f…のうち対応するひとつと対応付けられており、各周波数f,f,…fと、対応する周波数との差をΔf,Δf,…Δfとするとき、Δf≠Δf≠…≠Δfを満たす、ステップと、
前記マルチトーン信号を、前記被測定信号と周波数ミキシングするステップと、
周波数フィルタにより周波数ミキシング後の信号の所定の周波数帯域を抽出するステップと、
周波数フィルタにより抽出した信号を、デジタル信号に変換するステップと、
を備えることを特徴とする測定方法。
【請求項10】
前記デジタル信号を処理し、前記被測定信号の波形を再構築するステップをさらに備えることを特徴とする請求項9に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、周期信号の測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アナログ信号をデジタル信号として取り込む場合、サンプリング定理にもとづくオーバーサンプリングが行われる。オーバーサンプリングでは、アナログ信号に含まれうる最大周波数の2倍より高い周波数で、アナログ信号をサンプリングし、サンプリングされた信号をデジタル値に変換する。
【0003】
この手法では、アナログ信号の周波数が高くなると、高速なサンプリング周波数で動作するデジタイザが必要である。したがって、超高速なクロック信号などを測定したい場合、それより高速に動作するデジタイザを用意することは困難である。
【0004】
信号波形が、同じ波形を繰り返す繰り返し信号(周期信号)である場合には、アンダーサンプリングを利用することができる。
【0005】
図1は、アンダーサンプリングによる信号測定装置10を示す図である。信号測定装置10は、サンプルホールド回路20、A/Dコンバータ30および処理部40を備える。
【0006】
図2は、アンダーサンプリングによる波形測定を説明する図である。被測定信号S1は、周期Tpを有する繰り返し信号である。サンプルホールド回路20は、被測定信号S1を、被測定信号S1の周期Tpの非整数倍のサンプリング周期Tsでサンプリングする。後段のA/Dコンバータ30は、サンプルホールド回路20によってサンプリングされた信号を、デジタル値に変換して取り込む。処理部40は、A/Dコンバータ30によって取り込まれたデジタル値にもとづいて、もとの被測定信号S1の波形を再構築する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-247423号公報
【特許文献2】特開2020-039047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アンダーサンプリングでは、サンプリングレートTsは被測定信号S1の繰り返し周波数よりも低くなるが、その場合であっても、依然として高速かつ広帯域なサンプルホールド回路20が必要である。さらに、サンプルホールド回路20の周波数特性を、広帯域にわたってフラットとすることは難しい。
【0009】
本開示はかかる状況に鑑みてなされたものであり、そのある態様の目的のひとつは、広帯域なサンプルホールド回路が不要な、信号測定装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のある態様は、同じ波形を繰り返す周期的な被測定信号を測定する信号測定装置に関する。信号測定装置は、複数の周波数f,f,…fを含むマルチトーン信号を生成するマルチトーン信号発生器であって、複数の周波数f,f,…fはそれぞれ、被測定信号に含まれる基本波fおよび高調波2f,3f,4f…のうちひとつと対応付けられており、各周波数f,f,…fと、対応する周波数との差をΔf,Δf,…Δfとするとき、Δf≠Δf≠…≠Δfを満たす、マルチトーン信号発生器と、マルチトーン信号を、被測定信号と周波数ミキシングする周波数ミキサーと、周波数ミキサーの出力を受け、所定の周波数帯域を通過する周波数フィルタと、周波数フィルタの出力をデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、を備える。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置などの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本開示のある態様によれば、広帯域なサンプルホールド回路を用いずに、高速な周期信号を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】アンダーサンプリングによる信号測定装置を示す図である。
図2】アンダーサンプリングによる波形測定を説明する図である。
図3】実施形態に係る信号測定装置のブロック図である。
図4】実施例1に係る波形再構築を周波数領域で説明する図である。
図5】実施例1に係る波形再構築を周波数領域で説明する図である。
図6】実施例2に係る波形再構築を周波数領域で説明する図である。
図7】実施例3に係る波形再構築を周波数領域で説明する図である。
図8】実施例4に係る信号測定装置のブロック図である。
図9】実施例4に係る波形再構築を周波数領域で説明する図である。
図10】実施例4に係る波形再構築を時間領域で説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0015】
この概要は、考えられるすべての実施形態の広範な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素または重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。その唯一の目的は、後で提示するより詳細な説明の前置きとして、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化した形で提示することである。
【0016】
一実施形態に係る信号測定装置は、同じ波形を繰り返す周期的な被測定信号を測定する。信号測定装置は、複数の周波数f,f,…fを含むマルチトーン信号を生成するマルチトーン信号発生器と、マルチトーン信号を被測定信号と周波数ミキシングする周波数ミキサーと、周波数ミキサーの出力を受け、所定の周波数帯域を通過する周波数フィルタと、周波数フィルタの出力をデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、を備える。複数の周波数f,f,…fはそれぞれ、被測定信号に含まれる基本波fおよび高調波2f,3f,4f…のうちひとつと対応付けられており、各周波数f,f,…fと、対応する周波数との差をΔf,Δf,…Δfとするとき、Δf≠Δf≠…≠Δfを満たす。
【0017】
周波数ミキサーの出力信号は、Δf,Δf,Δf,…Δfを周波数成分として含み、それぞれの信号強度/位相は、被測定信号の基本波fおよび高調波2f,3f,4f…のうち、対応するひとつの信号強度/位相と相関を有している。したがって、周波数ミキサーの出力を周波数フィルタを通過させることで、周波数成分Δf,Δf,Δf,…Δfを含む信号を取り出すことができ、元の被測定信号を復元するために必要な情報を得ることができる。この方式では、周波数フィルタの出力は、周波数成分Δf,Δf,Δf,…Δfを含むところ、これらの周波数は、もとの被測定信号の繰り返し周波数よりも格段に低くすることができるため、サンプルホールド回路を用いずに、A/Dコンバータによってデジタル値に変換できる。つまり高速かつ広帯域なサンプルホールド回路が不要となる。
【0018】
一実施形態において、信号測定装置は、A/Dコンバータの出力を処理する信号処理部をさらに備えてもよい。
【0019】
信号処理部によって、A/Dコンバータの出力をデジタル領域で処理することにより、被測定信号の波形を再生できる。あるいは、信号処理部によって周波数ミキサーなどのゲインを補正することにより測定精度を改善できる。
【0020】
一実施形態において、信号処理部は、A/Dコンバータの出力のスペクトルを取得してもよい。これにより、被測定信号のスペクトル情報を得ることができる。
【0021】
一実施形態において、信号処理部は、スペクトルに含まれる複数の周波数成分を、被測定信号に含まれる基本波および高調波に対応した順序で再マッピングし、再マッピングしたスペクトルから、被測定信号の波形を再生してもよい。
【0022】
一実施形態において、信号処理部は、スペクトルに含まれる複数の周波数成分を補正してもよい。これにより、周波数ミキサーやその他の回路におけるゲインの誤差や、その他のシステマチックな誤差を補正できる。
【0023】
一実施形態において、Δf<Δf<…<Δfを満たしてもよい。
【0024】
一実施形態において、Δf、Δf、…、Δfの差分が一定であってもよい。この場合、信号処理部における信号処理を簡素化できる。
【0025】
一実施形態において、Δf,Δf,…,Δfは、ランダムに定められてもよい。
【0026】
(実施形態)
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0027】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0028】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0029】
図3は、実施形態に係る信号測定装置100のブロック図である。信号測定装置100が測定対象とする被測定信号S1は、同じ波形を繰り返す高速なアナログの周期信号である。信号測定装置100は、マルチトーン信号発生器110、周波数ミキサー120、周波数フィルタ130、A/Dコンバータ140、信号処理部150を備える。
【0030】
被測定信号S1は、その繰り返し周波数を基本波fとして、その整数倍の高調波2f,3f,4f,…を含みうる。
【0031】
マルチトーン信号発生器110は、複数の周波数f,f,…fを含むマルチトーン信号S2を生成する。周波数f(1≦i≦n)を有する周波数成分を、MTと表記する。
【0032】
マルチトーン信号S2に含まれる複数の周波数f,f,…fはそれぞれ、被測定信号S1に含まれる基本波fおよび高調波2f,3f,4f…のうちひとつと対応付けれる。そして、各周波数f,f,…fと、対応する周波数との差をΔf,Δf,…Δfとするとき、Δf≠Δf≠…≠Δfを満たす。
【0033】
たとえば、複数の周波数f,f,…fを、被測定信号S1に含まれる基本波fおよび高調波2f,3f,4f…にこの順で対応付けたとする。その場合、周波数の対応付けは以下の通りとなる。
=f-Δf
=2f-Δf
=3f-Δf
=4f-Δf

=(n-1)f-Δf
【0034】
たとえば被測定信号S1が、デューティサイクルが50%の矩形波(クロック信号)のような場合、被測定信号S1は、基本波fと、奇数次の高調波成分3f,5f,…を含む。この場合において、複数の周波数f,f,…fを、被測定信号S1に含まれる基本波fおよび奇数次の高調波3f,5f,7f…にこの順で対応付けたとする。その場合、周波数の対応付けは以下の通りとなる。
=f-Δf
=3f-Δf
=5f-Δf
=7f-Δf

=(2n-1)f-Δf
【0035】
周波数ミキサー120は、マルチトーン信号S2を被測定信号S1と周波数ミキシングする。この周波数ミキシングにより、被測定信号S1に含まれる周波数成分がダウンコンバージョンされ、周波数ミキサー120の出力信号S3には、Δf~Δfに対応する周波数成分と、それ以外の周波数成分が含まれる。
【0036】
周波数フィルタ130は、周波数ミキサー120の出力信号S3のうち、所定の周波数帯域を通過させる。所定の周波数帯域は、Δf~Δfを含むように定められる。周波数フィルタ130は、ローパスフィルタまたはバンドパスフィルタが好適である。
【0037】
A/Dコンバータ140は、周波数フィルタ130の出力信号S4をデジタル信号S5に変換する。信号処理部150は、A/Dコンバータ140の出力信号S5を処理し、被測定信号S1の波形を再構築する。信号処理部150は、コンピュータやワークステーションとソフトウェアプログラムの組み合わせで実装してもよいし、ハードウェアのみで実装してもよい。
【0038】
信号処理部150の処理は、マルチトーン周波数f~fと、被測定信号S1の周波数成分f,2f,3f,4f…との対応関係や、Δf~Δfの決め方に応じて定められる。信号処理部150の処理については後述する。
【0039】
以上が信号測定装置100の構成である。続いてその動作を説明する。
【0040】
周波数ミキサー120の出力信号S3は、Δf,Δf,Δf,…Δfを周波数成分として含み、それぞれの信号強度/位相は、被測定信号S1の基本波fおよび高調波2f,3f,4f…のうち、対応するひとつの信号強度/位相と相関を有する。したがって、周波数ミキサー120の出力信号S3を、周波数フィルタ130を通過して得られる信号S4は、元の被測定信号S1の基本波および高調波のスペクトルと相関を有するスペクトルを有している。A/Dコンバータ140によって、信号S4をデジタル信号S5に変換し、信号処理を行うことで、高速な被測定信号の波形S1を再生できる。
【0041】
以上が信号測定装置100の動作である。続いてその利点を説明する。
【0042】
この方式では、周波数フィルタ130の出力信号S4は、周波数成分Δf,Δf,Δf,…Δfを含むところ、これらの周波数は、もとの被測定信号S1の繰り返し周波数よりも格段に低くすることができる。したがってサンプルホールド回路を用いずに、A/Dコンバータ140によってデジタル値に変換できる。つまり高速かつ広帯域なサンプルホールド回路が不要となる。
【0043】
本開示は、図3のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本開示の範囲を狭めるためではなく、本開示や本発明の本質や動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0044】
続いて、信号測定装置100の詳細についていくつかの実施例を参照して説明する。
【0045】
(実施例1)
実施例1において、被測定信号S1は、奇数次の高調波のみを含む場合を想定し、以下のように、周波数を対応付けるものとする。
=f-Δf
=3f-Δf
=5f-Δf
=7f-Δf

=(2n-1)f-Δf
【0046】
さらに実施例1では、
Δf=3Δf
Δf=5Δf
Δf=7Δf

Δf=(2n-1)Δf
のように周波数差を定めるものとする。
【0047】
図4は、実施例1に係る波形再構築を周波数領域で説明する図である。上から順に、被測定信号S1およびマルチトーン信号S2のスペクトル、周波数ミキサー120の出力信号S3のスペクトル、周波数フィルタ130の出力信号S4のスペクトルを示す。横軸の周波数は相対値を示す。
【0048】
計算において、被測定信号S1の繰り返し周波数fは、周波数の相対値で71としており、サンプリング周波数を相対値で4096としている。マルチトーンの本数nは10本であり、19次高調波まで利用するものとする。
【0049】
仮に被測定信号S1の信号波形を、図1の信号測定装置によりアンダーサンプリングの手法で測定しようとした場合、繰り返し周波数fと同程度か、その数分の1程度のサンプリング周波数fsが必要であり、またA/Dコンバータを広帯域化する必要がある。
【0050】
これに対して、本実施例では、周波数フィルタ130の出力信号S4に含まれる最大周波数成分は、Δf10=19×Δfとなる。このΔf10を、fよりも十分に低くなるように、たとえば1/10以下、あるいはさらにそれより低く定めることにより、A/Dコンバータ140が処理するべき帯域は、図1の信号測定装置に比べて格段に狭くできる。そのため、A/Dコンバータ140の前段において、広帯域なサンプルホールド回路は不要となる。また、A/Dコンバータ140に要求される応答速度も低くてよい。
【0051】
図5は、実施例1に係る波形再構築を周波数領域で説明する図である。上から順に、被測定信号S1、マルチトーン信号S2、周波数ミキサー120の出力信号S3、周波数フィルタ130の出力信号S4の時間波形を示す。
【0052】
ここで、上述のように、
Δf=3Δf
Δf=5Δf
Δf=7Δf

Δf=(2n-1)Δf
の関係を満たしている場合、周波数フィルタ130の出力信号S4の波形は理論上、被測定信号S1の波形を時間軸上で、f/Δf倍に引き延ばした波形となる。つまり、信号処理部150においては、特段の処理を行わなくても、被測定信号S1の波形を取得することができることに留意されたい。
【0053】
ただし現実的にはローパスフィルタ130の帯域は、余裕を持って広く設計する場合が多く、その場合、周波数フィルタ130の出力波形S4は、余計な周波数成分を含むことになるから、被測定信号S1の波形を時間軸に引き延ばした波形から歪んだものとなる。この場合は信号処理部150によって、余計な周波数成分を除去すれば、歪みを除去して、正しい被測定信号S1の波形を取得することが可能である。
【0054】
なお、信号処理部150において、被測定信号S1の波形を補正してもよい。補正処理は、時間領域で行ってもよいし、周波数領域で行ってもよい。
【0055】
時間領域の補正処理を行う場合、信号処理部150はデジタルフィルタを含んでもよい。周波数ミキサー120の変換ゲインが、マルチトーンの周波数f,f,…ごとに異なる場合、A/Dコンバータ140の出力信号S5を、デジタルフィルタを通すことにより、変換ゲインを補正することができる。デジタルフィルタによって、ゲインのみでなく、位相を補正してもよい。
【0056】
周波数領域の補正処理を行う場合、信号処理部150は高速フーリエ変換(FFT)処理により、A/Dコンバータ140の出力信号S5を、周波数ドメインのスペクトルに変換してもよい。
【0057】
そして信号処理部150は、信号S5のスペクトルに、周波数領域でゲイン補正および位相補正を行い、補正後のスペクトルを逆高速フーリエ変換することにより、補正後の波形を再構築してもよい。
【0058】
(実施例2)
実施例2では、被測定信号S1は、奇数次と偶数次の高調波の両方を含む場合を想定し、以下のように、周波数を対応付けるものとする。図6は、実施例2に係る波形再構築を周波数領域で説明する図である。
-Δf=f
-Δf=2f
-Δf=3f
-Δf=4f

-Δf=nf
【0059】
さらに実施例1では、
Δf=2Δf
Δf=3Δf
Δf=4Δf

Δf=nΔf
のように周波数差を定めるものとする。
【0060】
実施例2によれば、偶数次の高調波を含む被測定信号S1を、実施例1と同様に測定することができる。以下の実施例では、奇数次のみを含む被測定信号S1を例とするが、実施例2と同様の修正を施せば、奇数次と偶数次の両方を含む被測定信号S1の測定に適用できる。
【0061】
(実施例3)
実施例3では、実施例1と同様に、奇数次の高調波のみを想定し、以下のように周波数関係を対応付ける。図7は、実施例3に係る波形再構築を周波数領域で説明する図である。
=f-Δf
=3f-Δf
=5f-Δf
=7f-Δf

=(2n-1)f-Δf
【0062】
実施例3では、周波数差Δf~Δfが、以下のように定められる。
Δf=fIF
Δf=fIF+Δf
Δf=fIF+2Δf
Δf=fIF+3Δf

Δf=fIF+(n-1)Δf
IFは、任意の中間周波数である。
【0063】
実施例3では、周波数フィルタ130の出力信号S4は、中間周波数fIFを基準とするスペクトルを有することとなる。たとえばA/Dコンバータ140の特性が最も高性能となる周波数領域に、中間周波数fIFをあわせることで、測定精度を高めることができる。中間周波数fIFを0Hz(DC)となるように、Δf~Δfを定めてもよい。
【0064】
(実施例4)
実施例1~3では、Δf<Δf<…<Δfの関係が成立していたが、周波数差の関係はそれに限定されない。また、周波数差Δf,Δf,…,Δfが、整数倍の関係にあったが、周波数差Δf,Δf,…,Δfは非整数倍の関係にあってもよい。つまり、周波数差Δf,Δf,…,Δfはランダムに定めることができる。
【0065】
図8は、実施例4に係る信号測定装置100Aのブロック図である。マルチトーン信号発生器110は、周波数差Δf,Δf,…,Δfの大きさの順序が任意に定められたマルチトーン信号S2を生成する。
【0066】
周波数ミキサー120~A/Dコンバータ140の処理は、実施例1~3と同様である。実施例4では、信号処理部150の処理が、実施例1~3と異なる。
【0067】
信号処理部150は、スペクトル取得部152、スペクトル再配置部154、波形再生部156を含む。スペクトル取得部152は、A/Dコンバータ140の出力信号S5のスペクトルデータS6を生成する。スペクトル取得部152は、FFT処理を行ってもよいし、RTA(リアルタイムアナライザ)であってもよい。
【0068】
スペクトル取得部152により生成されたスペクトルデータS6は、周波数差Δf,Δf,…,Δfに相当する周波数成分を含む。スペクトル再配置部154は、各周波数差Δf~Δfの強度/位相を、被測定信号S1に含まれる基本波および高調波の周波数(またはそれらをスケーリングした周波数)に再マッピングし、スペクトルデータS7を生成する。波形再生部156は、再マッピングされたスペクトルデータS7を時間領域の波形データに逆変換する。逆変換には、IFFT処理を利用してもよい。
【0069】
図9は、実施例4に係る波形再構築を周波数領域で説明する図である。この例では、周波数差について、以下の関係が成り立っているものとする。
Δf>Δf>Δf>Δf>Δf>Δf
【0070】
A/Dコンバータ140の出力信号S5のスペクトルデータS6は、周波数が低いものから順に、6個の周波数成分Δf,Δf,Δf,Δf,Δf,Δfを含む。ここで、周波数成分Δf~Δfはそれぞれ、被測定信号S1の基本波f、奇数次高調波3f,5f,7f,9f,11fと相関を有する。スペクトル再配置部154は、複数の周波数成分Δf~Δfを、f,3f,5f,7f,9f,11fに再マッピングし、スペクトルデータS7を生成する。この場合のfは任意に定めることができる。このスペクトルデータS7は、被測定信号S1のスペクトルを、周波数領域で示す。
【0071】
図10は、実施例4に係る波形再構築を時間領域で説明する図である。図9に示す再マッピング後のスペクトルを時間領域に再変換すると、図10の波形データS8を得ることができる。
【0072】
(変形例)
上述した実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なことが当業者に理解される。以下、こうした変形例について説明する。
【0073】
信号測定装置100の構成に関して、周波数ミキサー120は、複数のマルチトーン周波数f~fに対応する複数のミキサーを含んでもよい。被測定信号S1を、複数のミキサーに分配し、i番目のミキサーは、被測定信号S1を、対応する周波数fと周波数ミキシングしてもよい。
【0074】
実施形態では、マルチトーン周波数f~fを、被測定信号S1を構成する周波数成分f,2f,3f,4f,…より低く定めたがその限りでなく、マルチトーン周波数f~fを、被測定信号S1を構成する周波数成分f,2f,3f,4f,…より高く定めてもよい。
=f+Δf
=2f+Δf
=3f+Δf
=4f+Δf

=(n-1)f+Δf
【0075】
実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにさまざまな変形例が存在すること、またそうした変形例も本開示に含まれ、また本発明の範囲を構成しうることは当業者に理解されるところである。
【0076】
実施の形態にもとづき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を離脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。
【符号の説明】
【0077】
100 信号測定装置
110 マルチトーン信号発生器
120 周波数ミキサー
130 周波数フィルタ
140 A/Dコンバータ
150 信号処理部
152 スペクトル取得部
154 スペクトル再配置部
156 波形再生部
S1 被測定信号
S2 マルチトーン信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10