(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161756
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】玩具、コミュニケーションシステム、コミュニケーション方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A63H 13/02 20060101AFI20221014BHJP
A63H 3/02 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
A63H13/02 Z
A63H3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066824
(22)【出願日】2021-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】520209244
【氏名又は名称】合同会社エープラスエイ
(74)【代理人】
【識別番号】100127384
【弁理士】
【氏名又は名称】坊野 康博
(72)【発明者】
【氏名】永島 晃
(72)【発明者】
【氏名】町田 明春
(72)【発明者】
【氏名】田中 茂
【テーマコード(参考)】
2C150
【Fターム(参考)】
2C150AA05
2C150CA02
2C150DA24
2C150DA27
2C150DK01
2C150ED42
(57)【要約】
【課題】スキンシップしている感覚をより高いリアリティをもって実現する。
【解決手段】玩具1は、右手駆動リンク40と、右手駆動用アクチュエータ30と、力触覚制御部203と、を備えている。右手駆動リンク40は、身体の一部が可動に構成された関節を構成する。右手駆動用アクチュエータ30は、関節を駆動する。力触覚制御部203は、右手駆動用アクチュエータ30が駆動する関節に、ユーザに対して力触覚を伝達する動作を実行させる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャラクターを形取った外観を有する玩具であって、
身体の一部が可動に構成された関節と、
前記関節を駆動するアクチュエータと、
前記アクチュエータが駆動する前記関節に、ユーザに対して力触覚を伝達する動作を実行させる力触覚制御手段と、
を備えることを特徴とする玩具。
【請求項2】
前記力触覚制御手段は、前記関節における力触覚の伝達制御の基準となる基準値と、前記アクチュエータの可動部の位置に関する情報とに基づいて、前記アクチュエータが駆動する前記関節に、前記基準値によって表される動作を実行させることを特徴とする請求項1に記載の玩具。
【請求項3】
前記力触覚制御手段が他の装置との間で前記関節における力触覚の伝達制御を行った際に生成された制御パラメータを記憶する制御パラメータ記憶手段を備え、
前記力触覚制御手段は、前記制御パラメータ記憶手段に記憶された前記制御パラメータを前記基準値として、前記アクチュエータが駆動する前記関節に、前記基準値によって表される動作を実行させることを特徴とする請求項1または2に記載の玩具。
【請求項4】
前記関節における力を検出する力検出手段を備え、
前記力触覚制御手段は、前記アクチュエータの出力における位置及び力を制御し、前記アクチュエータの出力における現在の位置を当該アクチュエータの可動部の位置に基づいて算出し、現在の力を前記力検出手段によって検出された力の情報から取得することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の玩具。
【請求項5】
前記力触覚制御手段は、他の装置との間でバイラテラル制御を行う第1のモードと、当該玩具単体で力触覚の出力を行う第2のモードとを設定可能であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の玩具。
【請求項6】
前記キャラクターの両手にマグネットを備え、前記マグネットに吸着される物体の保持及び当該玩具の金属に対する吸着が可能であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の玩具。
【請求項7】
背面に開口部を備え、
前記開口部の内部に、当該玩具と連動して動作する情報処理装置を収容可能であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の玩具。
【請求項8】
キャラクターを形取った外観を有する複数の玩具を含み、
前記玩具は、
身体の一部が可動に構成された関節と、
前記関節を駆動するアクチュエータと、
前記アクチュエータが駆動する前記関節に、ユーザに対して力触覚を伝達する動作を実行させる力触覚制御手段と、
を備え、
複数の前記玩具における前記力触覚制御手段は、他の前記玩具との間でバイラテラル制御を実行することを特徴とするコミュニケーションシステム。
【請求項9】
キャラクターを形取った外観を有する複数の玩具を含むコミュニケーションシステムが実行するコミュニケーション方法であって、
前記玩具は、
身体の一部が可動に構成された関節と、
前記関節を駆動するアクチュエータと、
前記アクチュエータが駆動する前記関節に、ユーザに対して力触覚を伝達する動作を実行させる力触覚制御手段と、
を備え、
複数の前記玩具における前記力触覚制御手段が、他の前記玩具との間でバイラテラル制御を実行するステップを含むことを特徴とするコミュニケーション方法。
【請求項10】
キャラクターを形取った外観を有し、身体の一部が可動に構成された関節と、前記関節を駆動するアクチュエータと、を備える玩具を制御するコンピュータに、
前記アクチュエータが駆動する前記関節に、ユーザに対して力触覚を伝達する動作を実行させる力触覚制御機能を実現させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玩具、コミュニケーションシステム、コミュニケーション方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病院や福祉施設等において、ぬいぐるみや人形等の玩具を用いたセラピーが行われている。
ぬいぐるみや人形等の玩具を用いることで、セラピーを受ける患者等の心身をより健全な状態とする効果が期待される。
ぬいぐるみや人形等の玩具を用いてセラピーを試みる技術は、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術を含め、従来の技術においては、セラピーに用いられるぬいぐるみ等の玩具は、音声を発したり、所定の動作を行ったりすることができるものの、人間とスキンシップしている感覚を実現できるものではない。
例えば、老人が孫の代わりに、孫の声を発声するぬいぐるみ等の玩具を愛玩したとしても、孫と実際に触れている感覚を実現できるものではなく、心理的な満足度が十分なものではない。
また、新型コロナウィルス(COVID-19)等の感染症拡大を防止することが求められる状況下においては、密閉・密集・密接を避ける必要があり、人と人とが直接的に接触することが困難となる。一方、人と直接的に接触する機会が減少する状況においても、スキンシップによるコミュニケーションの重要性は高いものであり、遠隔的なコミュニケーションにおいて、リアリティのあるスキンシップを行うことが望まれている。
本発明の課題は、スキンシップしている感覚をより高いリアリティをもって実現する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る玩具は、
キャラクターを形取った外観を有する玩具であって、
身体の一部が可動に構成された関節と、
前記関節を駆動するアクチュエータと、
前記アクチュエータが駆動する前記関節に、ユーザに対して力触覚を伝達する動作を実行させる力触覚制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、スキンシップしている感覚をより高いリアリティをもって実現する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係る玩具1の外観構成を示す模式図(正面図)である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る玩具1の外観構成を示す模式図(背面図)である。
【
図3】玩具1の使用形態の一例を示す模式図である。
【
図4】玩具1のハードウェア構成を示す模式図である。
【
図5】玩具1で実行される力触覚の伝達制御の基本的原理の概念を示す模式図である。
【
図6】機能別力・速度割当変換ブロックFTにおいて力触覚伝達機能が定義された場合の制御の概念を示す模式図である。
【
図7】力センサ50の検出値を用いて外乱を補償する場合の制御アルゴリズムを示すブロック図である。
【
図8】玩具1の機能的構成を示すブロック図である。
【
図9】玩具1が実行する基本制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】双方向制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図11】自律制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図12】福祉・介護施設あるいは医療現場等におけるコミュニケーションに玩具1を用いる場合の使用形態例を示す模式図である。
【
図13】ベッドのフレームに玩具1を設置する場合の使用形態例を示す模式図である。
【
図14】芸能人によるファンサービスのイベント(握手会等)に玩具1を用いる場合の使用形態例を示す模式図である。
【
図15】パーティあるいはイベント等に代理出席するアバターとして玩具1を用いる場合の使用形態例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0009】
[構成]
図1及び
図2は、本発明の一実施形態に係る玩具1の外観構成を示す模式図であり、
図1は正面図、
図2は背面図を表している。また、
図3は、玩具1の使用形態の一例を示す模式図である。
図1から
図3に示すように、本実施形態に係る玩具1は、猫のぬいぐるみの外観を有し、背面には表装を覆う生地の一部が開口した開口部Pが備えられている。また、玩具1の左右の手の内部には、マグネットMg1,Mg2が備えられている。マグネットMg1,Mg2は、玩具1が手を合わせた場合に、両手が磁力により吸着され、手を閉じた状態が保持される極性に設置されている。
【0010】
また、玩具1は、関節の一部をアクチュエータにより駆動することが可能に構成されている。本実施形態においては、玩具1の右腕をアクチュエータによって開閉することが可能であると共に、頭部をアクチュエータによって頷かせる(前に屈曲させる)ことが可能となっている。
さらに、本実施形態に係る玩具1は、右腕の開閉動作において、力触覚を伝達する制御を実行可能となっている。
【0011】
具体的には、
図3に示すように、玩具1は、通信によって接続された他の玩具1(以下、適宜「遠隔玩具2」と称する。)とバイラテラル制御を実行することが可能となっており、遠隔玩具2を操作する操作者が右腕を動かした際の力触覚を、バイラテラル制御によって、玩具1の右腕に伝達することができる。
そのため、玩具1の操作者は、遠隔玩具2の操作者が動かした右腕の動作を、あたかも遠隔玩具2の操作者が玩具1の右腕を実際に動かしているかのように感じ取ることができる。
【0012】
また、玩具1においては、このようにバイラテラル制御が行われた場合の制御パラメータ(玩具1において力触覚の伝達を再現可能な入力データあるいは制御過程のパラメータ等)を記憶することが可能となっている。そして、遠隔玩具2と通信を行っていない場合であっても、遠隔玩具2とバイラテラル制御を行った際の制御パラメータを用いて動作を再現させることで、遠隔玩具2の操作者の力触覚を感じ取ることができる。
なお、動作を再現させるための制御パラメータは、バイラテラル制御において取得されたものの他、玩具1の動作(猫パンチや握手の動作等)を表すデータとして予め記憶しておくことも可能である。
【0013】
さらに、玩具1は、画像及び音声を出力する機器(スマートフォン等)を装着することが可能となっており、遠隔玩具2とバイラテラル制御を行う場合及び玩具1において力触覚を再現する場合等に、人の画像や声を出力することが可能となっている。
また、玩具1は、バッテリー及び無線通信機能を備えることができ、物理的に有線で電源や他の装置に接続する必要がない構成とすることが可能である。これにより、無線通信によって、位置・空間を超越した複数の玩具1の連携動作形態や、遠隔地のパーソナルコンピュータやスマートフォンから玩具1の動きを操作可能な玩具1単体での動作形態を実現することができる。
このように、本実施形態における玩具1によれば、セラピー等に用いることが可能な玩具において、スキンシップしている感覚をより高いリアリティをもって実現することができる。
【0014】
[玩具1のハードウェア構成]
図4は、玩具1のハードウェア構成を示す模式図である。
図4に示すように、玩具1は、電源スイッチ10と、制御装置20と、右手駆動用アクチュエータ30と、右手駆動リンク40と、力センサ50と、頷き駆動用アクチュエータ60と、スピーカ70と、ローカル操作器80と、バッテリー90と、を備えている。なお、これらの各構成部は、ローカル操作器80を除き、玩具1の内部に設置され、表装を覆う生地によって外部からは視認できない状態で設置される。ただし、ローカル操作器80も外部から視認できない状態で設置すること(開閉可能なフラップで覆う等)も可能である。
【0015】
電源スイッチ10は、玩具1にバッテリー90からの電力を供給または停止させるためのスイッチである。
制御装置20は、プロセッサ21、メモリ22及び不揮発性の記憶部23等を備えるマイクロコンピュータによって構成され、玩具1全体を制御する。本実施形態において、制御装置20は、玩具1の右腕における力触覚の伝達を制御したり、頭部の頷き動作を制御したりする。また、制御装置20は、ローカル操作器80から入力された玩具1に対する各種指示操作に応じて、玩具1の各部を制御する。
【0016】
右手駆動用アクチュエータ30は、制御装置20の指示に従って、玩具1の右手を開閉する動作を実行する。本実施形態において、玩具1の右手は、力触覚の伝達制御に基づく動作を行い、右手駆動用アクチュエータ30は、他の玩具1(遠隔玩具2)に入力された操作を表すデータまたは玩具1に記憶されているデータ(動作を再現させるための制御パラメータ)に従う動作を実現するように右手を駆動する。なお、右手において力触覚の伝達制御に基づく動作以外を行うことも可能であり、この場合、予め定義された右手の動作(所定のリズムで開閉を繰り返す動作等)を実行することができる。
【0017】
右手駆動リンク40は、玩具1の右手を支持する板状または棒状の部材であり、右手駆動用アクチュエータ30の出力軸と連動する。右手駆動リンク40は、玩具1の右肩の関節の一部を構成する。本実施形態においては、右手駆動リンク40は、右手駆動用アクチュエータ30の出力軸である回転軸に固定されており、右手駆動用アクチュエータ30の出力軸が回転すると、右手を支持する右手駆動リンク40が回転し、玩具1の右手が開閉動作する。
力センサ50は、玩具1の右手に入力する力を検出する歪ゲージ等を備えたセンサである。力センサ50によって検出された力は、制御装置20が力触覚の伝達制御を実行する際に、玩具1における力の情報として用いられる。なお、力センサ50の検出結果に代えて、右手駆動用アクチュエータ30における出力軸の位置(回転角度等)をエンコーダによって検出し、この検出結果から算出された右手に入力する力に関する情報を用いることとしてもよい。
【0018】
頷き駆動用アクチュエータ60は、制御装置20の指示に従って、玩具1の頭部を頷かせる動作を実行する。本実施形態において、頷き駆動用アクチュエータ60は、予め定義された頷き動作(所定のパターンで頷く動作等)を実現するように頭部を駆動する。ただし、右手と同様に、頭部を頷かせる動作において、他の玩具1に入力された操作を表すデータまたは玩具1に記憶されているデータ(動作を再現させるための制御パラメータ)に従って、力触覚の伝達制御を行うこととしてもよい、
スピーカ70は、制御装置20の指示に従って、音声を出力する。本実施形態において、スピーカ70から出力される音声は、バイラテラル制御を行っている他の玩具1に入力された音声あるいは玩具1に記憶されている音声等とすることができる。一例として、本実施形態における玩具1は、猫のぬいぐるみの外観を有していることから、猫の鳴き声(甘えている「ニャー」という鳴き声や、怒っている「シャーッ」という鳴き声等)を予め記憶しておくことができる。
【0019】
ローカル操作器80は、玩具1に対して操作を行うためのインターフェースを構成する。具体的には、ローカル操作器80は、頷きスイッチ81と、囁きスイッチ82と、記録指示スイッチ83と、再生指示スイッチ84と、モード切り替えスイッチ85と、を備えている。
【0020】
頷きスイッチ81は、玩具1に対し、頭部を頷かせる動作を指示するためのスイッチである。頷きスイッチ81を操作することで、1回の頷き動作、複数回の頷き動作または予め定義されたパターンの頷き動作等を実行させることができる。
囁きスイッチ82は、玩具1に対し、スピーカ70から音声の出力を指示するためのスイッチである。囁きスイッチ82を操作することで、玩具1に記憶されている各種音声(人の声を録音した音声あるいは予め用意された音声等)を出力させることができる。
【0021】
記録指示スイッチ83は、玩具1に対し、バイラテラル制御で力触覚の伝達制御が行われる際に、制御パラメータを記録させるためのスイッチである。記録指示スイッチ83を操作することで、玩具1において力触覚の伝達制御が行われた際の制御パラメータを動作の履歴として記憶することができる。なお、力触覚の伝達制御が行われた際の制御パラメータと併せて、他の玩具1からの操作によって行われた各種動作(頭部の頷き動作、音声の出力等)のデータを記憶することとしてもよい。
【0022】
再生指示スイッチ84は、玩具1に対し、記憶された制御パラメータを用いて、動作の再現(再生)を行わせるためのスイッチである。再生指示スイッチ84を操作することで、玩具1に記憶されている力触覚の伝達制御を表すデータ(動作を再現させるための制御パラメータ)を用いて、記憶された動作を再現することができる。なお、力触覚の伝達を表すデータを用いて動作を再現する場合、他の玩具1からの操作によって行われた各種動作(頭部の頷き動作、音声の出力等)のデータを併せて用いて、各種動作を再現することとしてもよい。
【0023】
モード切り替えスイッチ85は、玩具1の動作におけるモードを切り替えるためのスイッチである。本実施形態において、玩具1は、他の玩具1(遠隔玩具2)との間でバイラテラル制御を実行するペアモードと、玩具1単体で動作を行うシングルモードとのいずれかに切り替えることができる。ペアモードでは、他の玩具1と通信を確立され、バイラテラル制御によって、互いの動作における力触覚の伝達制御が行われる。シングルモードでは、玩具1単体において、ローカル操作器80への入力に応じた動作や、記憶されている制御パラメータ及び制御パラメータと対応付けて記憶されている各種動作のデータを用いて再現される動作や、予め定義された動作等を実行することができる。
バッテリー90は、一次電池または二次電池によって構成され、玩具1における各部に対し、電力を供給する。
【0024】
[力触覚伝達の基本的原理]
次に、玩具1が他の玩具1との間で実行する力触覚伝達の基本的原理について説明する。
図5は、玩具1で実行される力触覚の伝達制御の基本的原理の概念を示す模式図である。
図5に示す基本的原理は、力触覚の伝達等の各種動作を実現するためのアクチュエータの制御則を表しており、アクチュエータの現在位置を入力として、速度あるいは力の少なくとも一方の領域における演算を行うことにより、アクチュエータの動作を決定するものである。
即ち、本実施形態で用いられる制御の基本的原理は、制御対象システムSと、機能別力・速度割当変換ブロックFTと、理想力源ブロックFCあるいは理想速度源ブロックPCの少なくとも1つと、逆変換ブロックIFTとを含む制御則として表される。
【0025】
制御対象システムSは、アクチュエータを備える玩具1であり、加速度等に基づいてアクチュエータの制御を行う。ここで、加速度、速度及び位置は、微積分によって相互に換算可能な物理量であるため、加速度、速度及び位置のいずれを用いて制御することとしてもよい。本実施形態においては、主として、位置から算出される速度を用いて制御則を表現するものとする。
【0026】
機能別力・速度割当変換ブロックFTは、制御対象システムSの機能に応じて設定される速度及び力の領域への制御エネルギーの変換を定義するブロックである。具体的には、機能別力・速度割当変換ブロックFTでは、制御対象システムSの機能の基準となる値(基準値)と、アクチュエータの現在位置とを入力とする座標変換が定義されている。この座標変換は、一般に、基準値及び現在速度を要素とする入力ベクトルを速度の制御目標値を算出するための速度からなる出力ベクトルに変換すると共に、基準値及び現在の力を要素とする入力ベクトルを力の制御目標値を算出するための力からなる出力ベクトルに変換するものである。具体的には、機能別力・速度割当変換ブロックFTにおける座標変換は、次式(1)及び(2)のように一般化して表される。
【0027】
【0028】
ただし、式(1)において、x’1~x’n(nは1以上の整数)は速度の状態値を導出するための速度ベクトルであり、x’a~x’m(mは1以上の整数)は、基準値及びアクチュエータの作用に基づく速度(アクチュエータの移動子の速度またはアクチュエータが移動させる対象物の速度)を要素とするベクトル、h1a~hnmは機能を表す変換行列の要素である。また、式(2)において、f”1~f”n(nは1以上の整数)は力の状態値を導出するための力ベクトルであり、f”a~f”m(mは1以上の整数)は、基準値及びアクチュエータの作用に基づく力(アクチュエータの移動子の力またはアクチュエータが移動させる対象物の力)を要素とするベクトルである。
【0029】
機能別力・速度割当変換ブロックFTにおける座標変換を、実現する機能に応じて設定することにより、各種行為を実現したり、スケーリングを伴う行為の再現を行ったりすることができる。
即ち、本発明の基本的原理では、機能別力・速度割当変換ブロックFTにおいて、アクチュエータ単体の変数(実空間上の変数)を、実現する機能を表現するシステム全体の変数群(仮想空間上の変数)に“変換”し、速度の制御エネルギーと力の制御エネルギーとに制御エネルギーを割り当てる。即ち、本発明の基本的原理では、速度と力とが互いに関連する座標空間から、速度と力とが互いに独立した座標空間に変換した上で、速度と及び力の制御に関する演算を行う。そのため、アクチュエータ単体の変数(実空間上の変数)のまま制御を行う場合と比較して、速度の制御エネルギーと力の制御エネルギーとを独立に与えることが可能となっている。
【0030】
理想力源ブロックFCは、機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義された座標変換に従って、力の領域における演算を行うブロックである。理想力源ブロックFCにおいては、機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義された座標変換に基づく演算を行う際の力に関する目標値が設定されている。この目標値は、実現される機能に応じて固定値または可変値として設定される。例えば、基準値が示す機能と同様の機能を実現する場合には、目標値としてゼロを設定したり、スケーリングを行う場合には、再現する機能を示す情報を拡大・縮小した値を設定したりできる。
【0031】
理想速度源ブロックPCは、機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義された座標変換に従って、速度の領域における演算を行うブロックである。理想速度源ブロックPCにおいては、機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義された座標変換に基づく演算を行う際の速度に関する目標値が設定されている。この目標値は、実現される機能に応じて固定値または可変値として設定される。例えば、基準値が示す機能と同様の機能を実現する場合には、目標値としてゼロを設定したり、スケーリングを行う場合には、再現する機能を示す情報を拡大・縮小した値を設定したりできる。
【0032】
逆変換ブロックIFTは、速度及び力の領域の値を制御対象システムSへの入力の領域の値(例えば電圧値または電流値等)に変換するブロックである。
このような基本的原理により、制御対象システムSのアクチュエータにおける位置の情報が機能別力・速度割当変換ブロックFTに入力されると、位置の情報に基づいて得られる速度及び力の情報を用いて、機能別力・速度割当変換ブロックFTにおいて、機能に応じた位置及び力の領域それぞれの制御則が適用される。そして、理想力源ブロックFCにおいて、機能に応じた力の演算が行われ、理想速度源ブロックPCにおいて、機能に応じた速度の演算が行われ、力及び速度それぞれに制御エネルギーが分配される。
【0033】
理想力源ブロックFC及び理想速度源ブロックPCにおける演算結果は、制御対象システムSの制御目標を示す情報となり、これらの演算結果が逆変換ブロックIFTにおいてアクチュエータの入力値とされて、制御対象システムSに入力される。
その結果、制御対象システムSのアクチュエータは、機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義された機能に従う動作を実行し、目的とする装置の動作が実現される。
【0034】
[定義される機能例]
次に、本実施形態において機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義される機能の具体例(バイラテラル制御による力触覚の伝達制御)について説明する。
機能別力・速度割当変換ブロックFTでは、入力されたアクチュエータの現在位置に基づいて得られる速度及び力を対象とした座標変換(実現する機能に対応した実空間から仮想空間への変換)が定義されている。
【0035】
機能別力・速度割当変換ブロックFTでは、このような現在位置から速度及び力と、機能の基準値としての速度及び力とを入力として、速度及び力それぞれについての制御則が加速度次元において適用される。
即ち、アクチュエータにおける力は質量と加速度との積で表され、アクチュエータにおける速度(移動子等の速度)は加速度の積分によって表される。そのため、加速度の領域を介して、速度(または位置)及び力を制御することで、アクチュエータ(移動子等)の現在位置を取得して、目的とする機能(バイラテラル制御)を実現することができる。
【0036】
以下、本発明で用いる機能の具体例を説明する。
図6は、機能別力・速度割当変換ブロックFTにおいて力触覚伝達機能が定義された場合の制御の概念を示す模式図である。
図6に示すように、機能別力・速度割当変換ブロックFTによって定義される機能として、一方の玩具1の動作を他方の玩具1(遠隔玩具2)に伝達すると共に、他方の玩具1(遠隔玩具2)に対する物体からの反力の入力を一方の玩具1にフィードバックする機能(バイラテラル制御機能)を実現することができる。
この場合、機能別力・速度割当変換ブロックFTにおける座標変換は、次式(3)及び(4)として表される。
【0037】
【0038】
ただし、式(3)において、x’pは速度の状態値を導出するための速度、x’fは力の状態値に関する速度である。また、x’mは基準値(一方の玩具1からの入力)の速度(一方の玩具1の可動部における現在位置の微分値)、x’sは他方の玩具1(遠隔玩具2)の可動部における現在の速度(現在位置の微分値)である。また、式(4)において、fpは速度の状態値に関する力、ffは力の状態値を導出するための力である。また、fmは基準値(一方の玩具1からの入力)の力、fsは他方の玩具1(遠隔玩具2)の現在の力である。
【0039】
なお、
図6に示す基本的原理においては、制御対象システムSのアクチュエータにおける位置の情報が取得できれば、位置の情報に基づいて速度及び力の情報が得られるため、制御対象システムSのアクチュエータにおける位置の情報を取得することで、
図6に示す基本的原理に従って制御を行うことが可能である。
【0040】
ただし、本実施形態においては、玩具1に力センサ50を備えているため、力の情報に関しては、力センサ50の検出結果を用いることができる。
一般に、アクチュエータが発生する力に対して、アクチュエータ内部の摩擦力等の外乱が十分小さいか、もしくは外乱による力が十分な精度で予測可能である場合には、外乱を有効に補正できるが、アクチュエータが発生する力に対して、内部で発生する摩擦力が無視できないほど大きい場合には、精度良く外乱を補正するためのオフセットを計算することが困難となり、外乱を適切に補正することが困難となる。
【0041】
特に、安価なアクチュエータやギア比の大きなアクチュエータの場合、アクチュエータに電流を流して起動させる際に、回転が開始するまでの起動電流が大きく、回転を始めると急激に回転数が上がる現象が発生する等、静止摩擦の影響が大きいとみなすことができる。
そこで、本実施形態においては、アクチュエータによって駆動される右腕に力センサ50を取り付けることによって反力をリアルタイムで検出可能とし、力センサ50による力の検出値を反力オブザーバのオフセット値として直接与えることにより、静止摩擦力、動摩擦力を動的にキャンセルすることを可能としている。
【0042】
なお、力センサ50の検出値をオフセット値とするにあたって、力センサ50の測定誤差等によってシステムが不安定化することを防止するため、重み係数によるオフセット量の調整を行うものとする。理想的には、重みは1であるが、システムを安定に保つために、玩具1の個体毎にキャリブレーション等を行い、個別の装置の実態に応じた設定を行うことが適当である。
【0043】
図7は、力センサ50の検出値を用いて外乱を補償する場合の制御アルゴリズムを示すブロック図である。
図7に示すアルゴリズムは、
図6に示すアルゴリズムをベースに、反力オブザーバによって、力の情報を力センサ50の検出結果から取得すると共に、この検出結果に重みを設定して、反力のオフセット値としている。これにより、アクチュエータの出力軸に位置変化がない状態で反力を受けている場合であっても、正確な反力を検出し、より正確なアクチュエータの状態を表す値を算出することができる。この結果、アクチュエータへの指令値(目標値)と、アクチュエータが実際に出力した位置及び力との差分から外乱を算出し、外乱を補償する過程においても、外乱オブザーバによって、外乱をより正確に推定することができるため、動作の各段階において、より正確な制御を行うことが可能となる。
【0044】
[機能的構成]
次に、玩具1の機能的構成について説明する。
図8は、玩具1の機能的構成を示すブロック図である。
図8に示すように、玩具1は、制御装置20が各種処理を実行することにより、プロセッサ21において、操作受付部201と、センサ情報取得部202と、力触覚制御部203と、動作制御部204と、動作記録部205と、が機能する。また、記憶部23には、制御パラメータ記憶部231が形成される。
【0045】
制御パラメータ記憶部231には、玩具1においてバイラテラル制御が行われた際の制御パラメータ(玩具1において力触覚の伝達を再現可能な入力データあるいは制御過程のパラメータ等)が記憶される。なお、制御パラメータとして、バイラテラル制御において取得されたものの他、玩具1の動作(猫パンチや握手の動作等)を表すデータを予め記憶しておくこととしてもよい。また、制御パラメータと併せて、他の玩具1等からの操作によって行われた各種動作(頭部の頷き動作、音声の出力等)のデータを記憶しておくこととしてもよい。
【0046】
操作受付部201は、ローカル操作器80等の玩具1に備えられた各種操作部から入力される操作を受け付け、玩具1の各部に対し、入力された操作に対応する動作の実行を指示する。例えば、操作受付部201は、モード切り替えスイッチ85が操作された場合に、操作内容に応じて、玩具1をシングルモードまたはペアモードに設定する。また、操作受付部201は、頷きスイッチ81あるいは囁きスイッチ82が操作された場合に、動作制御部204に対し、頭部の頷き動作あるいは音声を出力する動作の実行を指示する。
【0047】
センサ情報取得部202は、シングルモードに設定されている場合、玩具1が備える各種センサによって検出された情報(センサ情報)を取得する。また、センサ情報取得部202は、ペアモードに設定されている場合、玩具1及びバイラテラル制御の相手となる他の玩具1(遠隔玩具2)が備える各種センサによって検出されたセンサ情報を取得する。例えば、センサ情報取得部202は、エンコーダによって検出された各アクチュエータの移動子の位置(回転角度)を示す情報及び力センサ50によって検出された力の情報を取得する。また、センサ情報取得部202は、取得したセンサ情報を制御パラメータの一部として、制御パラメータ記憶部231に記憶する。
【0048】
力触覚制御部203は、
図5~
図7に示す制御アルゴリズムに従って、シングルモードまたはペアモードによる力触覚の伝達制御を実行する。例えば、力触覚制御部203は、ペアモードにおいては、玩具1及びバイラテラル制御の相手となる他の玩具1(遠隔玩具2)の右手駆動用アクチュエータ30間で力触覚を伝達する制御を実行する。また、力触覚制御部203は、シングルモードにおいては、制御パラメータ記憶部231に記憶された制御パラメータに基づいて、右手駆動用アクチュエータ30の動作を再現する制御を実行する。
【0049】
動作制御部204は、玩具1における力触覚の伝達制御以外の各種動作を制御する。例えば、動作制御部204は、操作受付部201から、頭部の頷き動作が指示された場合に、頷き駆動用アクチュエータ60を駆動し、頭部の頷き動作を実行させる。また、動作制御部204は、操作受付部201から、音声を出力する動作が指示された場合に、スピーカ70から音声を出力させる。
動作記録部205は、玩具1における力触覚の伝達制御で生成された各種パラメータを制御パラメータ記憶部231に記録する。例えば、動作記録部205は、ペアモードにおいて、バイラテラル制御の相手となる他の玩具1との間で力触覚の伝達制御が行われた場合に、記録指示スイッチ83からの指示に応じて、時系列の制御パラメータを制御パラメータ記憶部231に記憶する。
【0050】
[動作]
次に、玩具1が実行する処理について説明する。
[基本制御処理]
図9は、玩具1が実行する基本制御処理の流れを示すフローチャートである。
基本制御処理は、玩具1の電源投入と共に開始される。
【0051】
ステップS1において、操作受付部201は、モード切り替えスイッチ85に対するモード設定のための操作を受け付ける。
ステップS2において、操作受付部201は、ペアモードに設定されたか否かの判定を行う。
ペアモードに設定されていない場合、ステップS2においてNOと判定されて、処理はステップS4に移行する。
一方、ペアモードに設定された場合、ステップS2においてYESと判定されて、処理はステップS3に移行する。
【0052】
ステップS3において、操作受付部201は、双方向制御処理を実行する。
ステップS3の後、処理はステップS5に移行する。
ステップS4において、操作受付部201は、自律制御処理を実行する。
ステップS5において、操作受付部201は、基本制御処理の終了が指示されたか否か(即ち、電源スイッチ10に対して玩具1の電源を切断する操作が行われたか否か)の判定を行う。
基本制御処理の終了が指示されていない場合、ステップS5において、NOと判定されて、処理はステップS1に移行する。
基本制御処理の終了が指示された場合、ステップS5において、YESと判定されて、基本制御処理は終了する。
【0053】
[双方向制御処理]
図10は、双方向制御処理の流れを示すフローチャートである。
双方向制御処理は、玩具1が他の玩具1との間でバイラテラル制御による力触覚の伝達を行うための処理であり、玩具1がペアモードに設定された場合に実行される。
ステップS11において、操作受付部201は、バイラテラル制御を行う他の玩具1(遠隔玩具2)との通信を確立する。
【0054】
ステップS12において、センサ情報取得部202は、玩具1及びバイラテラル制御の相手となる他の玩具1(遠隔玩具2)が備える各種センサによって検出されたセンサ情報を取得する。
ステップS13において、力触覚制御部203は、バイラテラル制御の相手となる他の玩具1(遠隔玩具2)のセンサ情報を基準値として、座標変換(式(3)、(4)参照)を行う。
ステップS14において、力触覚制御部203は、速度の領域及び力の領域での目標値に合わせるための制御量を算出する。
ステップS15において、力触覚制御部203は、速度の領域で算出された制御量及び位置の領域で算出された制御量を入力として、ステップS13における座標変換の逆変換を行う。
【0055】
ステップS16において、力触覚制御部203は、逆変換によって算出された制御量に基づいて、右手駆動用アクチュエータ30を制御する。
ステップS17において、操作受付部201は、頷き動作または発声を指示する操作が入力されたか否かの判定を行う。
頷き動作または発声を指示する操作が入力されていない場合、ステップS17においてNOと判定されて、処理はステップS19に移行する。
一方、頷き動作または発声を指示する操作が入力された場合、ステップS17においてYESと判定されて、処理はステップS18に移行する。
【0056】
ステップS18において、操作受付部201は、動作制御部204に対し、頭部の頷き動作または音声を出力する動作の実行を指示する。この結果、動作制御部204が、頷き駆動用アクチュエータ60を駆動し、頭部の頷き動作を実行したり、スピーカ70から音声を出力させたりする。
ステップS19において、動作記録部205は、力触覚の伝達制御で生成された各種パラメータを制御パラメータ記憶部231に記録する。このとき、力触覚の伝達制御に関する制御パラメータと併せて、他の玩具1からの操作によって行われた各種動作(頭部の頷き動作、音声の出力等)のデータを制御パラメータ記憶部231に記録してもよい。
【0057】
ステップS20において、操作受付部201は、双方向制御処理の終了条件が充足されたか否かの判定を行う。双方向制御処理の終了条件としては、例えば、バイラテラル制御を行う他の玩具1との通信が遮断したこと、シングルモードに設定されたこと、双方向制御処理の終了を指示する操作が行われたこと等を定義することができる。
双方向制御処理の終了条件が充足されていない場合、ステップS20においてNOと判定されて、処理はステップS12に移行する。
一方、双方向制御処理の終了条件が充足された場合、ステップS20においてYESと判定されて、基本制御処理に戻る。
【0058】
[自律制御処理]
図11は、自律制御処理の流れを示すフローチャートである。
自律制御処理は、玩具1単体でローカル操作器80への入力に応じた動作や、記憶されている制御パラメータ及び制御パラメータと対応付けて記憶されている各種動作のデータを用いて再現される動作や、予め定義された動作等を実行するための処理であり、玩具1がシングルモードに設定された場合に実行される。
ステップS31において、センサ情報取得部202は、玩具1が備える各種センサによって検出された情報(センサ情報)を取得する。
【0059】
ステップS32において、力触覚制御部203は、制御パラメータ記憶部231に記憶された制御パラメータを基準値として、座標変換(式(3)、(4)参照)を行う。
ステップS33において、力触覚制御部203は、速度の領域及び力の領域での目標値に合わせるための制御量を算出する。
ステップS34において、力触覚制御部203は、速度の領域で算出された制御量及び位置の領域で算出された制御量を入力として、ステップS32における座標変換の逆変換を行う。
ステップS35において、力触覚制御部203は、逆変換によって算出された制御量に基づいて、右手駆動用アクチュエータ30を制御する。
【0060】
ステップS36において、操作受付部201は、頷き動作または発声を指示する操作が入力されたか否かの判定を行う。
頷き動作または発声を指示する操作が入力されていない場合、ステップS36においてNOと判定されて、処理はステップS38に移行する。
一方、頷き動作または発声を指示する操作が入力された場合、ステップS36においてYESと判定されて、処理はステップS37に移行する。
ステップS37において、操作受付部201は、動作制御部204に対し、頭部の頷き動作または音声を出力する動作の実行を指示する。この結果、動作制御部204が、頷き駆動用アクチュエータ60を駆動し、頭部の頷き動作を実行したり、スピーカ70から音声を出力させたりする。
【0061】
ステップS38において、操作受付部201は、自律制御処理の終了条件が充足されたか否かの判定を行う。自律制御処理の終了条件としては、例えば、ペアモードに設定されたこと、自律制御処理の終了を指示する操作が行われたこと等を定義することができる。
自律制御処理の終了条件が充足されていない場合、ステップS38においてNOと判定されて、処理はステップS31に移行する。
一方、自律制御処理の終了条件が充足された場合、ステップS38においてYESと判定されて、基本制御処理に戻る。
【0062】
以上のように、本実施形態に係る玩具1によれば、ペアモードに設定することにより、バイラテラル制御の相手となる他の玩具1(遠隔玩具2)の操作者が動かした右腕の動作を、あたかも遠隔玩具2の操作者が玩具1の右腕を実際に動かしているかのように感じ取ることができる。例えば、ユーザである祖父母と、遠隔玩具2を操作する孫とが直接対面しているかのような双方向のスキンシップを実現することができる。
また、玩具1によれば、シングルモードに設定することにより、記憶されている制御パラメータを用いて動作を再現させることで、バイラテラル制御が行われている場合と同様の力触覚を感じ取ることができる。例えば、ユーザである祖父母が望むタイミングで、過去に行った孫とのスキンシップを擬似的に再生することができる。
したがって、玩具1によれば、スキンシップしている感覚をより高いリアリティをもって実現することができる。
【0063】
また、玩具1は、各種動作を表すデータとして予め記憶された制御パラメータを用いて、猫パンチや握手の動作等を行ったり、操作に応じて頷き動作を行ったりすることにより、玩具1単体でユーザにスキンシップしている感覚を与えることができる。
さらに、玩具1は、装着されたスマートフォン等の情報処理装置あるいは内蔵されたスピーカ70等を介して、画像や音声によるコミュニケーションを実行できるため、ユーザに対し、より高いリアリティをもってスキンシップしている感覚を与えることができる。
このように、玩具1によれば、スキンシップしている感覚をより高いリアリティをもって実現する技術を提供することができる。
【0064】
上述の玩具1は、人間同士の遠隔的なスキンシップや、玩具1自体と人とのスキンシップ及びセルフヒーリングに適用することができる他、下記のような各種応用例に適用することができる。
【0065】
[応用例1]
玩具1は、人と人とが直接的に接することなく、スキンシップを伴うコミュニケーションを行うことが可能であるため、福祉・介護施設あるいは医療現場等において、直接的に接することが望ましくないユーザとのコミュニケーションに用いることができる。
図12は、福祉・介護施設あるいは医療現場等におけるコミュニケーションに玩具1を用いる場合の使用形態例を示す模式図である。
図12に示すように、福祉・介護施設等において、入居施設を訪問した面会エリア内の家族あるいは自宅にいる家族が一方の玩具1を使用し、福祉・介護施設内の入居者エリア等にいるユーザが他方の玩具1を使用し、これらの玩具1をペアモードで接続することで、直接的に接することなく、力触覚の伝達によるスキンシップを伴うコミュニケーションを行うことができる。
これにより、音声あるいは画像のみによる対話に比べ、より高いリアリティをもって、コミュニケーションを図ることができる。
【0066】
[応用例2]
玩具1は、手にマグネットMg1,Mg2を備えていることから、磁力で吸着可能な各種部分に玩具1を取り付けた状態で動作させることができる。
図13は、ベッドのフレームに玩具1を設置する場合の使用形態例を示す模式図である。
図13に示すように、病院や介護施設のベッド等におけるフレーム(ヘッドボードあるいはサイドフレーム等)は金属で構成されていることが多く、玩具1を種々の姿勢で容易に設置することができる。
そのため、ベッドに寝ているユーザをのぞき込むように、玩具1をヘッドボードあるいはサイドフレームに設置することで、ユーザに癒し効果を与えることができる。
また、このように設置された玩具1によって、他の玩具1との間で双方向に音声を送受信したり、内部に記憶されている音声を出力したりすることができる。
これにより、ベッドに寝ているユーザが遠隔的に他者と会話を行ったり、種々の音声(孫の会話や歌の音声等)を楽しんだりすることができる。
【0067】
[応用例3]
玩具1は、種々のキャラクターを形取ったぬいぐるみや人形等として構成することができるため、服やアクセサリ等で装飾することができる。
例えば、祖父母が遠隔地に居住する孫とスキンシップを取るために玩具1を用いる場合、孫の成長と共に、玩具1の衣装をベビー服、幼稚園の制服、小学生の普段着等と着せ替えることで、スキンシップにおけるリアリティが高まると共に、玩具1自体への愛着も高めることができる。
また、玩具1は、手に設置されたマグネットMg1,Mg2により、物を保持することが可能であるため、旗やマグカップ等のグッズを持たせることができ、玩具1に個性を創出することができる。
【0068】
[応用例4]
玩具1は、人と人とが直接的に接することなく、スキンシップを伴うコミュニケーションを行うことが可能であるため、感染症の予防等のために多人数との直接的な接触を回避しつつ、多くの人を対象に、それぞれの人と実際に触れ合っているようなスキンシップを提供するイベント等に用いることができる。
図14は、芸能人によるファンサービスのイベント(握手会等)に玩具1を用いる場合の使用形態例を示す模式図である。
図14に示すように、芸能人の所在するエリアと、ファンの所在するエリアとを区分し、ガラス越し等で目視しつつ、または、スマートフォン等の情報処理装置で画像及び音声を出力(中継)しつつ、ペアモードに設定した2つの玩具1によって、握手の力触覚を伝達することができる。
芸能人は、玩具1の右手を操作することにより、リアルタイムに動作を伝えたり、玩具1の右手を操作して握手の動作パターン等を予め記録し、記録された握手の動作パターン等を適宜伝えたりすることで、ファンとのスキンシップを図ることができる。
これにより、イベントにおける感染症を予防しながら、芸能人とファンとが玩具1によるスキンシップを通して、個人的な親密感を共有することが可能となる。
また、ファンが使用する玩具1において、芸能人とのスキンシップの動作を記録し、自宅等に持ち帰ることで、イベント後に芸能人とのスキンシップの動作を再現し、より鮮明に記憶を甦らせることができる。
【0069】
[応用例5]
玩具1は、音声及び画像によるコミュニケーションに加えて、力触覚の伝達によるコミュニケーションを遠隔的に行うことができるため、ユーザ自身の分身(アバター)として玩具1を用いることで、遠隔地で開催されるイベントにリアリティをもって参加することができる。
図15は、パーティあるいはイベント等に代理出席するアバターとして玩具1を用いる場合の使用形態例を示す模式図である。
図15に示すように、パーティあるいはイベント等の会場に設置された玩具1と、遠隔的に参加する参加者が使用する玩具1とをペアモードに設定することで、遠隔的な参加者は、会場にいる参加者に対して、音声及び画像と共に、玩具1の右手を介した力触覚の伝達によるコミュニケーションを行うことができる。
このような使用形態により、重要なパーティや大事な式典等にユーザ自身が参加できない場合に、玩具1をアバターとして代理出席させることで、欠席して不義理を働くことに比べて、相手への誠意を伝えることが可能となる。
【0070】
以上のように構成される玩具1は、右手駆動リンク40と、右手駆動用アクチュエータ30と、力触覚制御部203と、を備えている。
右手駆動リンク40は、身体の一部が可動に構成された関節を構成する。
右手駆動用アクチュエータ30は、関節を駆動する。
力触覚制御部203は、右手駆動用アクチュエータ30が駆動する関節に、ユーザに対して力触覚を伝達する動作を実行させる。
これにより、玩具1の関節において、ユーザに対して力触覚を伝達する動作を実行させることができるため、人間とスキンシップしている感覚を実現することができる。
したがって、玩具1を使用する場合に、スキンシップしている感覚をより高いリアリティをもって実現することができる。
【0071】
力触覚制御部203は、関節における力触覚の伝達制御の基準となる基準値と、右手駆動用アクチュエータ30の可動部の位置に関する情報とに基づいて、右手駆動用アクチュエータ30が駆動する関節に、基準値によって表される動作を実行させる。
これにより、基準値が表す動作を力触覚の伝達制御を伴って実行することができるため、人間とスキンシップしている感覚を実現することができる。
【0072】
また、玩具1は、力センサ50を備える。
力センサ50は、関節における力を検出する。
力触覚制御部203は、右手駆動用アクチュエータ30の出力における位置及び力を制御し、右手駆動用アクチュエータ30の出力における現在の位置を右手駆動用アクチュエータ30の可動部の位置に基づいて算出し、現在の力を前記力検出手段によって検出された力の情報から取得する。
これにより、右手駆動用アクチュエータ30の出力軸に位置変化がない状態で反力を受けている場合であっても、正確な反力を検出し、より正確な右手駆動用アクチュエータ30の状態を表す値を算出することができる。この結果、右手駆動用アクチュエータ30への指令値(目標値)と、右手駆動用アクチュエータ30が実際に出力した位置及び力との差分から外乱を算出し、外乱を補償する過程においても、外乱オブザーバによって、外乱をより正確に推定することができるため、動作の各段階において、より正確な制御を行うことが可能となる。
【0073】
また、玩具1は、制御パラメータ記憶部231を備える。
制御パラメータ記憶部231は、力触覚制御部203が他の装置(遠隔玩具2)との間で関節における力触覚の伝達制御を行った際に生成された制御パラメータを記憶する。
力触覚制御部203は、制御パラメータ記憶部231に記憶された制御パラメータを基準値として、右手駆動用アクチュエータ30が駆動する関節に、基準値によって表される動作を実行させる。
これにより、過去に行われた力触覚の制御における履歴等に基づいて、玩具1単体で力触覚の伝達制御を実行することができる。
したがって、玩具1において、過去に行ったコミュニケーションを再現し、スキンシップを疑似体験することが可能となる。
【0074】
力触覚制御部203は、他の装置(遠隔玩具2)との間でバイラテラル制御を行う第1のモードと、当該玩具単体で力触覚の出力を行う第2のモードとを設定可能である。
これにより、玩具1において、遠隔的なコミュニケーションによりスキンシップを図ったり、過去に行ったコミュニケーションを再現し、スキンシップを疑似体験したりすることが可能となる。
【0075】
また、玩具1は、キャラクターの両手にマグネットMg1,Mg2を備える。
玩具1は、マグネットMg1,Mg2に吸着される物体の保持及び玩具1の金属に対する吸着が可能である。
これにより、玩具1が金属を有するグッズを保持したり、金属で構成された部分に張り付いたりすることが可能となり、玩具1の興趣性を高めることができる。
【0076】
また、玩具1は、背面に開口部Pを備える。
開口部Pの内部に、玩具1と連動して動作する情報処理装置(スマートフォン等)を収容可能である。
これにより、情報処理装置が有する各種機能と、玩具1が備える各種機能とを連動させて、より複雑な機能を実現することが可能となる。
【0077】
なお、本発明は、本発明の効果を奏する範囲で変形、改良等を適宜行うことができ、上述の実施形態及び変形例に限定されない。
例えば、上述の実施形態において、ローカル操作器80から玩具1に対して各種操作を行うものとして説明したが、これに限られない。即ち、玩具1とWiFi(Wireless Fidelity)等によってスマートフォンあるいはパーソナルコンピュータ等を接続し、スマートフォンあるいはパーソナルコンピュータ等を玩具1の操作インターフェースとして用いることとしてもよい。同様に、ネットワークを介して制御装置20と接続されたスマートフォンあるいはパーソナルコンピュータ等を玩具1の操作インターフェースとして用いることとしてもよい。また、スマートフォンあるいは携帯電話機等を玩具1背面の開口部P内に設置し、スピーカ及びマイクとして機能させることも可能である。
【0078】
また、スマートフォン等の携帯端末と玩具1とをWiFi等によって接続することで、スマートフォンが有する各種機能と、玩具1が備える各種機能とを連動させることが可能である。例えば、玩具1を枕元に置いて起床時間をセットし、設定時刻となった場合の玩具1の動作をセットすることで、力触覚が調整された右手の動き(猫パンチ動作等)でユーザの起床を補助するといった動作を行うことが可能である。
また、上述の実施形態においては、玩具1の右腕にアクチュエータを備え、玩具1の右腕を介して力触覚の伝達を行うものとして説明したが、これに限られない。即ち、玩具1の他の関節にアクチュエータを備え、これらのアクチュエータを介して、力触覚の伝達を行うことも可能である。
また、上述の実施形態において、力触覚制御部203は、式(1)及び(2)あるいは式(3)及び(4)として表されるアルゴリズムによって力触覚の伝達制御を行うものとして説明したが、これに限られない。例えば、アクチュエータの出力における位置(速度)及び力を制御して力触覚を伝達可能なアルゴリズムであれば、他のアルゴリズム(コンプライアンス制御等)を用いることも可能である。
【0079】
また、上記実施形態及び各変形例を適宜組み合わせて、本発明を実施することが可能である。
上述の実施形態における処理は、ハードウェア及びソフトウェアのいずれにより実行させることも可能である。
即ち、上述の処理を実行できる機能が玩具1に備えられていればよく、この機能を実現するためにどのような機能構成及びハードウェア構成とするかは上述の例に限定されない。
上述の処理をソフトウェアにより実行させる場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、コンピュータにネットワークや記憶媒体からインストールされる。
【0080】
プログラムを記憶する記憶媒体は、装置本体とは別に配布されるリムーバブルメディア、あるいは、装置本体に予め組み込まれた記憶媒体等で構成される。リムーバブルメディアは、例えば、磁気ディスク、光ディスク、または光磁気ディスク等により構成される。光ディスクは、例えば、CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory),DVD(Digital Versatile Disk),Blu-ray Disc(登録商標)等により構成される。光磁気ディスクは、MD(Mini-Disk)等により構成される。また、装置本体に予め組み込まれた記憶媒体は、例えば、プログラムが記憶されているROMやハードディスク等で構成される。
【0081】
なお、上記実施形態は、本発明を適用した一例を示しており、本発明の技術的範囲を限定するものではない。即ち、本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等種々の変更を行うことができ、上記実施形態以外の各種実施形態を取ることが可能である。本発明が取ることができる各種実施形態及びその変形は、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0082】
1 玩具、Mg1,Mg2 マグネット、P 開口部、2 遠隔玩具、10 電源スイッチ、20 制御装置、21 プロセッサ、22 メモリ、23 記憶部、201 操作受付部、202 センサ情報取得部、203 力触覚制御部、204 動作制御部、205 動作記録部、231 制御パラメータ記憶部、30 右手駆動用アクチュエータ、30 制御装置、40 右手駆動リンク、50 力センサ、60 頷き駆動用アクチュエータ、70 スピーカ、80 ローカル操作器、81 頷きスイッチ、82 囁きスイッチ、83 記録指示スイッチ、84 再生指示スイッチ、85 モード切り替えスイッチ、90 バッテリー、S 制御対象システム、FT 機能別力・速度割当変換ブロック、FC 理想力源ブロック、PC 理想速度源ブロック、IFT 逆変換ブロック