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2022-161761インソール作製システム、インソール及び靴
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161761
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】インソール作製システム、インソール及び靴
(51)【国際特許分類】
   A43B 17/00 20060101AFI20221014BHJP
   A43D 1/02 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
A43B17/00 Z
A43D1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066831
(22)【出願日】2021-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】506343771
【氏名又は名称】株式会社ドリーム・ジーピー
(74)【代理人】
【識別番号】100114502
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 俊則
(72)【発明者】
【氏名】荒山 元秀
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA02
4F050EA06
4F050EA09
4F050NA90
(57)【要約】
【課題】ヒールの高い靴内に装入されたときに足に適合する形状を有するインソールを個別に提供することを容易にする。
【解決手段】インソール作製システム10は、(a)足2の三次元形状を表す3Dデータ21の入力を受け付ける足データ入力受付部12と、(b)足データ入力受付部12が入力を受け付けた3Dデータ13と、インソールが装入される予定の靴の形状に関する靴データ15とに基づき、足2に適合するインソールの設計形状を、靴のヒール高さに応じて異なる形状になるように決定するインソール設計部16と、を備える。好ましくは、(c)足データ入力受付部12が入力を受け付けた3Dデータ13に基づいて、足2に適合する靴を選択し、選択された靴の靴データ15を、インソール設計部16に送出する靴選択部14を、さらに備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
足の三次元形状を表す3Dデータの入力を受け付ける足データ入力受付部と、
前記足データ入力受付部が入力を受け付けた前記3Dデータと、インソールが装入される予定の靴の形状に関する靴データとに基づき、前記足に適合する前記インソールの設計形状を、前記靴のヒール高さに応じて異なる形状になるように決定するインソール設計部と、
を備える、インソール作製システム。
【請求項2】
前記インソール設計部は、前記インソールの前記設計形状を、予め前記靴の前記ヒール高さに応じて定められた設計基準に従って決定する、請求項1に記載のインソール作製システム。
【請求項3】
前記設計基準を記憶する設計基準記憶部と、
前記インソールの使用者に対してアンケート調査を行うアンケート部と、
前記アンケート調査の結果を分析した分析結果に基づいて、前記設計基準記憶部に記憶されている前記設計基準を更新する分析部と、
をさらに備える、請求項2に記載のインソール作製システム。
【請求項4】
前記インソール設計部は、
前記足データ入力受付部が入力を受け付けた前記3Dデータに基づき、裏面が平面状である前記インソールの表面について、凹凸形状を決定する、基準設計部と、
前記靴データに含まれる前記ヒール高さに関するデータに基づいて、前記凹凸形状を、前記インソールが前記靴内に装入され前記裏面が湾曲している状態において前記足に適合するように補正して、前記インソールの前記設計形状を決定する設計補正部と、
を含む、請求項1乃至3のいずれか一つに記載のインソール作製システム。
【請求項5】
前記靴の内底の輪郭形状と前記靴のヒール高さとに関するデータを含む前記靴データを記憶する靴データ記憶部を、さらに備える、請求項1乃至4のいずれか一つに記載のインソール作製システム。
【請求項6】
前記足データ入力受付部が入力を受け付けた前記3Dデータに基づいて前記靴データ記憶部を検索し、前記足に適合する前記靴を選択し、選択された前記靴の前記靴データを前記インソール設計部に送出する靴選択部を、さらに備える、請求項5に記載のインソール作製システム。
【請求項7】
前記インソール設計部は、前記インソールの前記設計形状を、前記インソールの裏面の足長方向の中間位置に、足幅方向に横断する凹部が形成されるように決定する、請求項1乃至6のいずれか一つに記載のインソール作製システム。
【請求項8】
前記インソール設計部は、前記インソールが前記靴に装入されたときに、前記凹部の内面が前記靴の内底に接するように、前記インソールの前記設計形状を決定する、請求項7に記載のインソール作製システム。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一つに記載の前記インソール作製システムの前記インソール設計部が決定した前記設計形状に基づいて作製されたインソール。
【請求項10】
クッション性を有し、一方主面が平面状であり、他方主面に凹凸形状が形成された基材を含み、
前記基材の前記一方主面の長手方向の中間位置に、幅方向に横断する凹部が形成されている、インソール。
【請求項11】
前記インソールが前記靴に装入されたときに、前記凹部の内面が前記靴の内底に当接する、請求項10に記載のインソール。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれか一つに記載の前記インソールが装入される予定の靴。
【請求項13】
前記靴の内底に、前記靴の本底が露出している、請求項12に記載の靴。
【請求項14】
請求項9乃至11のいずれか一つに記載の前記インソールと、
請求項12又は13に記載の前記靴と、
を含む、インソール及び靴のセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インソール作製システム、インソール及び靴に関し、詳しくは、靴内に装入されるインソール(中敷)を個別に設計し作製する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
靴内に装入して使用するインソールが種々提案されている。例えば、図12はインソール本体103の平面図、図13はインソール本体103の側面図、図14はパンプス内に装入されているインソールの斜視図である。図12図14に示すように、このインソールは、湾曲変形可能な平板状のインソール本体103に、MPウェッジパッド101と、横アーチ一体型踵骨ホルダー102とが取り付けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、足の三次元形状を計測して、個別にインソールを設計し作製する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-79809号公報
【特許文献2】特許第6267745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
接客サービス業等では、業務中に使用する靴が支給されることがある。そのような場合に、足に適合するインソールが支給され、靴内に装入されると、ヒールが高い靴であっても、足等への負担を軽減できる。
【0006】
特許文献1のインソールは、アーチ高さや踵骨の傾きなど、人によって異なる足の形状に応じて、MPウェッジパッド101や横アーチ一体型踵骨ホルダー102を、インソール本体103の適切な位置に取り付けるのは困難である。そのため、足に適合する形状を有するインソールを個別に提供することは容易でない。
【0007】
足の三次元形状を計測して、インソールを個別に設計し作製すれば、足の形状に応じて個別に最適化したインソールを提供することが可能になる。
【0008】
しかしながら、従来の個別に設計し作製されたインソールを、ヒールの高い靴内に装入すると、インソールが靴の形状に沿って変形せずに浮き上がったり、設計意図の通りに足を支持できなかったりすることがある。そのため、ヒールの高い靴内に装入されたときに足に適合する形状を有するインソールを個別に提供することは、容易でない。
【0009】
かかる実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、ヒールの高い靴内に装入されたときに足に適合する形状を有するインソールを個別に提供することを容易にすることであり、この課題は、これまで知られていない新規な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成したインソール作製システムを提供する。
【0011】
インソール作製システムは、(a)足の三次元形状を表す3Dデータの入力を受け付ける足データ入力受付部と、(b)前記足データ入力受付部が入力を受け付けた前記3Dデータと、インソールが装入される予定の靴の形状に関する靴データとに基づき、前記足に適合する前記インソールの設計形状を、前記靴のヒール高さに応じて異なる形状になるように決定するインソール設計部と、を備える。
【0012】
上記構成によれば、インソールの設計形状を、靴のヒール高さに応じて異なる形状になるように決定することにより、靴のヒール高さの影響を加味して、足に適合する形状を有するインソールの設計形状を決定することできる。例えば、同一の足の形状であっても、靴のヒール高さに応じてインソールの表面の凹凸形状を変えるができる。設計形状に基づいてインソールを作製することにより、インソールを個別に提供できる。インソールの設計形状は、靴のヒール高さに応じて異なる形状になるので、ヒールの高い靴内に装入されたときに足に適合する形状を有するインソールを個別に提供することが、容易になる。
【0013】
好ましくは、前記インソール設計部は、前記インソールの前記設計形状を、予め前記靴の前記ヒール高さに応じて定められた設計基準に従って決定する。
【0014】
この場合、靴データに含まれるヒール高さに関するデータに基づき、インソールの設計形状を容易に決定できる。
【0015】
好ましくは、インソール作製システムは、(c)前記設計基準を記憶する設計基準記憶部と、(d)前記インソールの使用者に対してアンケート調査を行うアンケート部と、(e)前記アンケート調査の結果を分析した分析結果に基づいて、前記設計基準記憶部に記憶されている前記設計基準を更新する分析部と、をさらに備える。
【0016】
この場合、設計基準を見直して、より足に適合するインソールを提供できるようにすることが可能である。
【0017】
好ましい一態様において、前記インソール設計部は、(i)前記足データ入力受付部が入力を受け付けた前記3Dデータに基づき、裏面が平面状である前記インソールの表面について、凹凸形状を決定する、基準設計部と、(ii)前記靴データに含まれる前記ヒール高さに基づいて、前記凹凸形状を、前記インソールが前記靴内に装入され前記裏面が湾曲している状態において前記足に適合するように補正して、前記インソールの前記設計形状を決定する設計補正部と、を含む。
【0018】
この場合、基準設計部が、裏面が平面状のときに足に適合するインソールの表面の凹凸形状を基準形状として決定し、基準形状を設計補正部がヒール高さに応じて補正することにより、インソールが靴内に装入されて湾曲している状態のときに、インソールの表面の凹凸形状が足に適合するように、インソールの設計形状を決定できる。
【0019】
好ましくは、インソール作製システムは、(f)前記靴の内底の輪郭形状と前記靴のヒール高さとに関するデータを含む前記靴データを記憶する靴データ記憶部を、さらに備える。
【0020】
この場合、種々の靴について、容易に装入できるインソールを提供できる。
【0021】
好ましくは、インソール作製システムは、(g)前記足データ入力受付部が入力を受け付けた前記3Dデータに基づいて前記靴データ記憶部を検索し、前記足に適合する前記靴を選択し、選択された前記靴の前記靴データを前記インソール設計部に送出する靴選択部を、さらに備える。
【0022】
この場合、足に適合する靴が選択されるので、靴とインソールとを組み合わせたときに、より足に適合する。
【0023】
好ましくは、前記インソール設計部は、前記インソールの前記設計形状を、前記インソールの裏面の足長方向の中間位置に、足幅方向に横断する凹部が形成されるように決定する。
【0024】
この場合、凹部によりインソールが湾曲しやすくなるので、ヒールが高い靴内に容易に装入できるインソールを提供できる。
【0025】
好ましくは、前記インソール設計部は、前記インソールが前記靴に装入されたときに、前記凹部の内面が前記靴の内底に接するように、前記インソールの前記設計形状を決定する。
【0026】
この場合、足に作用する圧力を、より均一に分散することができる。
【0027】
また、本発明は、前記インソール作製システムの前記インソール設計部が決定した前記設計形状に基づいて作製されたインソールを、提供する。
【0028】
また、本発明は、以下のように構成されたインソールを提供する。
【0029】
インソールは、クッション性を有し、一方主面が平面状であり、他方主面に凹凸形状が形成された基材を含む。前記基材の前記一方主面の長手方向の中間位置に、幅方向に横断する凹部が形成されている。
【0030】
この場合、凹部により基材が湾曲しやすくなるので、ヒールが高い靴内に容易に装入できるインソールを提供できる。
【0031】
好ましくは、前記インソールが前記靴に装入されたときに、前記凹部の内面が前記靴の内底に当接する。
【0032】
この場合、足に作用する圧力を、より均一に分散することができる。
【0033】
また、本発明は、前記インソールが装入される予定の靴を提供する。
【0034】
好ましくは、前記靴は、前記靴の内底に、前記靴の本底が露出している。
【0035】
また、本発明は、前記インソールと前記靴とを含む、インソール及び靴のセットを提供する。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、ヒールの高い靴内に装入されたときに足に適合する形状を有するインソールを個別に提供することが、容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1はインソール作製システムのブロック図である。(実施例1)
図2図2は足の骨格のアーチ構造の説明図である。(実施例1)
図3図3はインソールの略図である。(実施例1)
図4図4は足及びインソールの略図である。(実施例1)
図5図5は足及びインソールの略図である。(実施例1)
図6図6は基材の加工工程を示す断面図である。(実施例1)
図7図7は基材の裏面図である。(実施例1)
図8図8は加工状態を示すイメージ図である。(実施例1)
図9図9はインソール作製システムのブロック図である。(実施例2)
図10図10はインソール及び靴の略図である。(実施例3)
図11図11はインソールの要部断面略図である。(実施例4)
図12図12はインソール本体の平面図である。(従来例1)
図13図13はインソール本体の側面図である。(従来例1)
図14図14はインソールの斜視図である。(従来例1)
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。
【0039】
<実施例1> 実施例1のインソール作製システム10について、図1図8を参照しながら説明する。
【0040】
図1は、インソール作製システム10の構成図である。図1に示すように、インソール作製システム10は、計測装置20と、加工装置24と、靴データベース30とが、情報処理装置11に接続されている。インソール作製システム10は、計測装置20で計測した足2に適合する形状を有するインソールを作製して、個別に提供するために用いることができる。
【0041】
計測装置20は、例えば、透明板22の上に置かれた被計測者の足2の三次元形状を、光切断法により計測する。足2の三次元形状は、被計測者が透明板22の上に立っている状態(立位)と、被計測者が椅子に座り、足2が透明板22に軽く接する状態(座位)との両方を計測することが好ましいが、立位と座位のいずれか一方のみを計測しても構わない。
【0042】
靴データベース30には、靴の形状に関する靴データが記憶されている。詳しくは、靴データとして、靴のサイズや型番に関するデータ等にともに、インソールの設計に必要となる靴54の内底54s(図10(c)参照)の輪郭形状や靴のヒール高さ等に関するデータが記憶されている。例えば、靴54の内底54sの三次元的な湾曲形状や、平面に投影した形状や、平面に展開した展開形状等について適宜なデータ形式で記憶されている。靴データベース30は、靴データ記憶部である。
【0043】
情報処理装置11は、1台又は複数台のサーバやパソコン等のコンピュータを含み、所定のプログラムに従ってデータを処理する。情報処理装置11は、足データ入力受付部12と、靴選択部14と、インソール設計部16と、加工データ生成部18とを備えている。
【0044】
足データ入力受付部12は、計測装置20で計測して得られた足2の三次元形状を表す3Dデータ21の入力を受け付け、入力を受け付けた3Dデータ13を、靴選択部14とインソール設計部16に送出する。
【0045】
靴選択部14は、3Dデータ13に基づいて、足2の特徴パラメータを算出し、算出した特徴パラメータに基づいて靴のサイズを決定し、靴データベース30を検索して足2に適合する靴を選択し、靴データベース30から選択した靴について読み出した靴データ15を、インソール設計部16に送出する。
【0046】
インソール設計部16は、3Dデータ13と靴データ15とに基づき、足2に適合するインソールの設計形状を決定し、決定した設計形状のデータ17を加工データ生成部18に送出する。インソール設計部16は、予め靴のヒール高さに応じて定められた設計基準に従ってインソールの設計形状を決定する。
【0047】
加工データ生成部18は、設計形状のデータ17を、加工装置24でインソールを加工するための加工データ19に変換する。加工データ19は、加工装置24に送出される。
【0048】
次に、インソールの設計形状について、図2図5を参照しながら説明する。
【0049】
図2は、足2の骨格のアーチ構造の説明図であり、右足を図示している。図3は、インソール4の表面4sの形状を示す略図であり、左足用を図示している。図2に示すように、足2の骨格は、親指の付け根、踵、小指の付け根の3点を結ぶ線2p,2q,2rが弧を描いて膨らんでおり、それぞれ、内側縦アーチ2p、外側縦アーチ2q、横アーチ2rと呼ばれている。
【0050】
このような足のアーチ構造に対応して、図3に示すように、インソール4の表面4sに隆起している部分4m,4n,4pや、窪んでいる部分4qなどを形成することにより、足裏全体で体重を支えたり、足のアーチ構造の形状を整えたりすることができる。インソール設計部16は、このようなインソール4の表面4sの凹凸形状等を決定する。
【0051】
図4及び図5は、足2及びインソール4を模式的に示す略図である。
【0052】
図4(a)は足2の略図であり、図4(b)はインソール4の略図である。例えば図4(a)に示すように、平面6に接している足2の前部2aと後部2bとの間にアーチ2kが形成される。図4(b)に示すように、裏面4tが平面状のインソール4の表面4sに、足2のアーチ2kに対応する位置に隆起している隆起部4rが形成される。
【0053】
図5(a)は、ヒールが高い靴を履いているときの足2の略図である。図5(b)は、ヒールが高い靴内に装入されているときのインソール4の略図である。図5(a)に示すように、靴の内側に露出する靴の内底に沿ってY軸を定義すると、図5(b)に示すように、インソール4は、裏面4tがY軸に沿うように変形する。
【0054】
足2に適合するインソール4を個別に設計する場合、図4(a)に示す平面状態での足2のアーチ2kのピーク位置2x、アーチ高さ2h、アーチ形状等を考慮して、図4(b)に示す平面状態でのインソール4の隆起部4rの頂点4xの位置、突出高さ4h、表面形状等を、足2に適合するように決定する。そして、このように平面状態を基準に設計されたインソール4が、靴内に装入され使用される。
【0055】
しかしながら、本願発明者が鋭意検討し、以下のような新たな問題点を見いだした。
【0056】
図5(b)に示すY軸に沿って見たインソール4の隆起部4rの形状は、図4(b)に示すX軸に沿って見たインソール4の隆起部4rの形状と、略一致する。一方、足2は、緊張状態が異なるため、図4(a)の状態と図5(a)の状態とでは、アーチ2kの形状(詳しくは、アーチ2kの始点及び終点の位置、ピーク位置2x、アーチ高さ2h、アーチの湾曲形状等)が異なる。つまり、足2のアーチ2pの変形態様と、インソール4の隆起部4rの変形態様とは、互いに異なる。
【0057】
また、図4の状態では、インソール4の隆起部4rは、矢印8で示すように垂直に、かつ、略均等に足2によって押圧される。一方、図5の状態では、矢印9で示すように、インソール4の隆起部4rはY軸に対して斜めに押圧される。つまり、足2がインソール4を押圧する状態が、ヒール高さによって異なる。
【0058】
また、図4の状態と図5の状態とでは、足2のアーチ2kの柔らかさ(変形可能範囲)や、足2の前部2aと後部2bとに対する荷重配分等、足2自体の状態が変わる。例えば、靴のヒールが高くなるほど、足2のアーチ2kの変形可能範囲が狭くなり、足2の前部2aへの荷重配分が増え、足2の後部2bへの荷重配分が減る。
【0059】
そのため、平面状態を基準に設計されたインソール4は、パンプス等のヒールが高い靴内に装入された場合、平面状態を基準に設計されたときとは異なる状態になり、足2に対する適合性が低下する。したがって、ヒールの高い靴内に装入されたときに足に適合する形状を有するインソールを個別に提供することは容易ではない。
【0060】
本願発明者は、このような新たな問題点を見いだし、ヒールの高い靴内に装入されたときに足に適合する形状を有するインソールを個別に提供することを容易にするという新たな課題を解決するため、インソール設計部16が、インソールの設計形状を、ヒール高さに応じて異なる形状になるように決定することを着想した。インソールの設計形状が、ヒール高さに応じて異なる形状になれば、ヒール高さが異なっても同じ形状である場合と比較すると、足2に適合する形状を有するインソール4を個別に提供することが、容易になる。
【0061】
靴のヒール高さに応じてインソールの形状が異なるようにするため、具体的には、図1に示したように、インソール設計部16が、基準設計部16pと設計補正部16qとを含む。
【0062】
基準設計部16pは、靴データ15に基づいてインソール4の輪郭を決定し、3Dデータ13に基づいて、例えば、図4(b)のように裏面4tが平面状であるインソール4の表面4sの凹凸形状を、図4(a)に示したように足裏が平面状の足2に適合するように決定し、決定した凹凸形状(基準形状)のデータ16cを設計補正部16qに送出する。
【0063】
設計補正部16qは、基準設計部16pが決定したインソール4の表面4sの凹凸形状(基準形状)を、靴データ15に含まれるヒール高さに関するデータに基づいて、ヒール高さに応じて補正して、インソール4の設計形状を決定する。このとき、インソール4が靴内に装入されインソール4の裏面4tが湾曲している状態において足2に適合するように、予め靴のヒール高さに応じて定められた設計基準に従い、基準形状をヒール高さに応じて補正して、インソール4の設計形状を決定する。
【0064】
設計基準は、テーブルを用いて予め定めておくことができる。例えば、ヒール高さと、基準形状を表す各パラメータに対する差分値とを対応付けるテーブルを予め準備しておく。このテーブルに基づいて、設計補正部16qが、基準形状を表す各パラメータに差分値を適用することにより基準形状を補正して、インソールの設計形状を表す各パラメータを決定する。
【0065】
関数を用いて、設計基準を予め定めておいてもよい。例えば、基準形状を表す各パラメータの補正後の値を、ヒール高さをパラメータとして含む関数で予め定義しておく。この関数を用いて、設計補正部16qが、基準形状を表す各パラメータの補正後の値を算出して、インソールの設計形状を表す各パラメータを決定する。
【0066】
このように、基準設計部16pが、インソール4の裏面4tが平面状のときに平面状の足2に適合するインソール4の表面4sの凹凸形状の位置や高さ等を、基準形状として決定し、決定された基準形状を、設計補正部16qが補正することにより、インソール4が靴内に装入されて湾曲している状態のときに、インソール4の表面4sの凹凸形状が足2に適合するように、インソール4の設計形状を決定することができる。
【0067】
インソール設計部16は、足に適合するインソール4の設計形状を、靴のヒール高さの影響を加味しながら決定することができる。すなわち、同一の足の形状であっても、靴のヒール高さに応じてインソール4の表面4sの凹凸形状を変えることができる。インソール設計部16が決定した設計形状に基づいてインソール4を作製することにより、靴内に装入されたときに足2に適合する形状を有するインソールを、個別に提供できる。予め靴のヒール高さに応じて定められた設計基準に従ってインソールの設計形状を決定することにより、足2に適合する形状を有するインソール4を個別に提供することが、容易になる。
【0068】
例えば、ヒールの高い靴に装入されたときに、靴の内底に沿って足が滑り落ちる状態を抑制するともに、足先側への荷重集中を緩和するように足裏の圧力を分散し、足のアーチ高さや足の傾き(内反、外反)等を適宜に矯正する凹凸形状が表面に形成されているインソールを、足の三次元形状と靴のヒール高さとに応じて個別に提供することが、容易になる。
【0069】
なお、靴データ15に含まれ、インソールの設計に利用されるヒール高さに関するデータとして、靴のヒール高さ以外に、例えば、靴の内底の湾曲カーブの変曲点の高さや足長方向の位置等に関するデータが含まれてもよい。その場合、凹部の内面が靴の内底に接するように、インソールの設計形状を決定することが容易になる。
【0070】
次に、インソール作製システム10の動作について、説明する。
【0071】
計測装置20で足2を計測して得られた足2の3Dデータ21が、情報処理装置11に送出され、足データ入力受付部12が、3Dデータ21の入力を受け付ける。
【0072】
靴選択部14は、足データ入力受付部12が受け付けた3Dデータ13に基づいて靴を選択する。詳しくは、3Dデータ13に基づいて足2のサイズを算出し、足2のサイズに適合する靴のサイズを決定する。決定したサイズの靴を、靴データベース30を検索しながら選択し、選択した靴の靴データ15を靴データベース30から取得して、インソール設計部16に送出する。
【0073】
靴選択部14によって足2に適合する靴を選択すると、靴とインソールとを組み合わせたときに、靴とインソールとが、より足2に適合する。なお、インソールが装入される予定の靴が決まっている場合、インソール設計部16が、その靴の靴データ15を取得できれば、インソールの設計形状を決定できるので、靴選択部14を省略することが可能である。
【0074】
インソール設計部16は、足データ入力受付部12からの3Dデータ13と、靴選択部14からの靴データ15とに基づいて、インソール4の設計形状を決定し、設計形状のデータ17を加工データ生成部18に送出する。
【0075】
加工データ生成部18は、設計形状のデータ17を、インソール4を加工するための加工データ19に変換する。変換された加工データ19は、加工装置24に送出される。
【0076】
加工装置24は、加工データ19に基づいてインソールを作製する。
【0077】
次に、インソール52の加工工程の一例を、図6図8を参照しながら説明する。図6は、加工工程を示す断面略図である。図7は、図6(a)の線A-Aに沿って見た底面図である。図8は、加工状態を示すイメージ図であり、図において右側は、インソールの足先側に対応する部分の図示を省略している。図8(a)は、基材60の一方主面60tを見た斜視図、図8(b)は、側面図である。
【0078】
まず、図6(a)、図7及び図8に示すように、互いに対向する一対の主面60s,60tが矩形である平板状のクッション性を有する基材60の一方主面60tに、左右のインソールの輪郭それぞれに沿う外周溝62を切削加工する。また、インソールの足長方向の中間位置に、足幅方向に横断する凹部64を切削加工する。
【0079】
次いで、図6(b)に示すように、基材60の他方主面60sを切削加工して、凹凸形状68を形成する。
【0080】
次いで、図6(c)に示すように、基材60から、個片60aを分離する。
【0081】
次いで、図6(d)に示すように、個片60aの凹凸形状68を覆うように被覆部材60bを貼り付け、バリ取りなどの仕上げ加工を行うと、インソール52が完成する。
【0082】
インソール52の裏面52t、すなわち、基材60の個片60aの一方主面60tに、凹部64が形成されるようにするため、インソール設計部16は、靴データ15に基づいて、インソール52の裏面52tの足長方向の中間位置に、足幅方向に横断する凹部64が形成されるように、インソール52の設計形状を決定する。
【0083】
凹部64が形成されたことにより、インソール52が湾曲しやすくなるので、ヒールが高い靴内にインソール52を容易に装入できる。また、ヒールの高い靴内に装入したときに、インソール52が靴の内底から浮き上がったり、湾曲部分が硬くなりクッション性が不均一になったりすることを防ぐことが可能になる。
【0084】
<実施例2> 実施例2のインソール作製システム10aについて、図9を参照しながら説明する。実施例2のインソール作製システム10は、実施例1のインソール作製システム10と略同様に、構成されている。以下では、実施例1と同様の構成部分には同じ符号を用い、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0085】
図9は、インソール作製システム10aの構成図である。図9に示すように、インソール作製システム10aは、実施例1と同様に、計測装置20と、加工装置24と、靴データベース30とが、情報処理装置11aに接続されている。実施例1と異なり、インソール作製システム10aは、情報処理装置11aにそれぞれ接続される端末26と設計基準データベース40とをさらに備える。
【0086】
設計基準データベース40には、予め靴のヒール高さに応じて定められた設計基準が記憶されている。設計基準データベース40は、設計基準記憶部である。
【0087】
情報処理装置11aは、実施例1の情報処理装置11と同様に、足データ入力受付部12と、靴選択部14と、インソール設計部16aと、加工データ生成部18とを備える。実施例1と異なり、情報処理装置11aは、アンケート部42と分析部44とを、さらに備える。
【0088】
インソール設計部16aは、実施例1と異なり、裏面4tが平面状のインソールの表面4sの凹凸形状を決定することなく、3Dデータ13と靴データ15とに基づき、選択された靴のヒール高さに応じて、インソールの設計形状を、予め定められた設計基準に従って決定する。
【0089】
具体的には、設計基準データベース40に、一定間隔の靴のヒール高さごとに規定された設計基準(例えば、インソール4の表面4sに形成される隆起部の頂点の位置や湾曲形状などの標準形状データ)が記憶されている。インソール設計部16aは、靴データ15に含まれるヒール高さに対応する設計基準を設計基準データベース40から読み出し、読み出した設計基準に規定されている標準形状に基づき、必要に応じて適宜補正して、インソールの設計形状を決定する。例えば、足2のアーチ高さや踵骨の傾き等に応じて、標準形状データを適宜補正する。
【0090】
インソール設計部16aが決定したインソールの設計形状に基づいてインソールを作製することにより、靴内に装入されたときに足に適合する形状を有するインソールを、靴のヒール高さに応じて個別に提供できる。
【0091】
アンケート部42は、インソール4の使用者に対してアンケート調査を行う。具体的には、アンケート部42によって作製されたアンケート43aが、インソールの使用者の端末26に送信され、端末26からの回答27を受け取る。
【0092】
分析部44は、アンケートの結果43bを分析し、必要に応じて設計基準を見直し、設計基準データベース40に記憶されている設計基準を、適宜、更新する。
【0093】
アンケート調査を行い、設計基準を見直すことによって、より足2に適合するインソールを提供できるようになる。
【0094】
<実施例3> 実施例3のインソール52及び靴54について、図10を参照しながら説明する。図10(a)は、インソール52の断面略図である。図10(b)は靴54の外形図である。図5(c)は、インソール52が装入された靴54の透視図である。
【0095】
図10(a)に示すように、インソール52は、表面52sに、足に適合する凹凸形状が形成されている。インソール52の裏面52tは平面状であり、インソール52は、裏面52tが平面に接するように置くことができ、かつ、安定した状態で置くことができる。すなわち、裏面52tの大部分が、同一平面に接するように形成され、例えば、裏面52tが接する平面に裏面52tを投影したとき、その30%以上、好ましくは50%以上が平面に接する。
【0096】
インソール52の裏面52tの足長方向の中間位置に、足幅方向に横断する凹部52pが形成されている。
【0097】
インソール52は、実施例1又は実施例2のインソール作製システム10,10aのインソール設計部16,16aが決定したインソールの設計形状に基づいて、クッション性を有する基材を切削加工する等によって作製することができるが、それ以外の方法で作製してもよい。
【0098】
インソール52は、図6(d)に示した基材60aに被覆部材60bが貼り付けられた構成以外の構成でもよい。例えば、インソール52の表面52sに被覆部材を備えない構成でもよいし、インソール52の裏面52tに被覆部材を備える構成でもよい。また、基材60aと被覆部材60bとの間に、他の適宜な部材が配置されてもよい。インソール52は、切削加工以外の方法により作製してもよく、例えば、3Dプリンタを利用してインソール52の一部又は全部を作製してもよい。
【0099】
インソール52は、図10(b)に示すヒールが高い靴54に好適に使用することができる。図10(b)に示すように、靴54は、本底53の下面53tと、ヒール55の下面55tとが、平面6に接する。例えば、靴54の本底53の下面53tと平面6の間の間隔の最大値Hを、靴54のヒール高さと定義すると、インソール52は、ヒール高さHが3cm以上の靴54に好適に使用することができ、ヒール高さHが5cm以上の靴54に、より好適に使用することができる。
【0100】
図10(c)に示すように、インソール52は、靴54に装入された状態で使用される。このとき、インソール52は、靴54の内側に露出する内底54sに沿って湾曲し、インソール52の裏面52tに形成された凹部52pの内面52qが靴54の内底54sに接するように、形成されている。なお、凹部52pの内面52qの一部、好ましくは大部分が、靴54の内底54sに接するように形成されていればよい。
【0101】
これを実現するため、例えば、実施例1又は実施例2のインソール作製システム10,10aを用いる場合は、インソール52が靴54に装入されたときに、インソール52の裏面52tに形成された凹部52pの内面52qが靴54の内底54sに接するように、インソール設計部16,16aがインソール52の設計形状を決定する。そして、決定された設計形状に基づいて、裏面52tが平面状のインソール52を作製する。
【0102】
なお、インソール52を靴54に装入したとき、インソール52の凹部52pの内面52qが靴54の内底54sから離れ、靴54の内底54sとの間に多少の隙間が形成されても構わない。このような隙間は、できるだけ小さくすることが好ましく、例えば、靴54に装入したインソール52を手で押さえても、隙間が分からない程度まで小さくすることが好ましい。
【0103】
一般的には、靴54の本底53の上面53sに被覆部材が貼り付けられ、この被覆部材が靴54の内底54sに露出するように構成されているが、インソール52が装入されることを前提に、内底54sの被覆部材を省略し、靴54の内底54sに、靴54の本底53の上面53sが露出する靴54を作製してもよい。その場合、インソール52を介して足2と靴54とがより一体化した、インソール52及び靴54のセット50を提供できる。
【0104】
<実施例4> 図11は、凹部52mの内面52nが靴の内底に接しない実施例4のインソール52xの要部断面略図である。
【0105】
図11(a)に示すように、インソール52xは、その平面状の裏面52tの足長方向の中間位置に、足幅方向に横断する一つ又は複数の凹部52mが形成されている。凹部52mは、断面V字状に限らず、適宜な形状を選択することができる。
【0106】
図11(b)に示すように、インソール52xを靴に装入し、インソール52xの裏面52tを靴の内底に沿わせると、凹部52mの内面52nが靴の内底に接することなく、凹部52mが閉じる。インソール52xは、凹部52mによって湾曲しやすくなるので、ヒールが高い靴内に容易に装入できる。
【0107】
実施例4のインソール52xは、実施例1又は実施例2のインソール作製システムを用いて、インソール52xの裏面52tに凹部52mが形成されるようにインソール52xの設計形状を決定し、決定した設計形状に基づいて作製することができる。
【0108】
<まとめ> 以上に説明したように、インソール作製システム10,10aが決定した設計形状に基づいてインソール52を作製すると、ヒールの高い靴54内に装入されたときに足2に適合する形状を有するインソール52を個別に提供することが、容易になる。
【0109】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変更を加えて実施することが可能である。
【0110】
例えば、実施例1のインソール作製システムに、実施例2と同様に、アンケート部、分析部、設計基準データベースを追加して、インソール設計部が、設計基準データベースに記憶されている設計基準を読み出してインソールの設計形状を決定し、アンケート調査によって、設計基準が、適宜、更新されるように構成してもよい。
【0111】
本発明は、ヒールが高い靴内に装入するインソールに関して好適に適用できるが、ヒールが低い靴内に装入するインソールに関しても適用可能である。
【符号の説明】
【0112】
10,10a インソール作製システム
12 足データ入力受付部
13 3Dデータ
14 靴選択部
15 靴データ
16,16a インソール設計部
16p 基準設計部
16q 設計補正部
30 靴データベース(靴データ記憶部)
40 設計基準データベース(設計基準記憶部)
42 アンケート部
44 分析部
52,52x インソール
52m,52p 凹部
52n,52q 内面
52s 表面
52t 裏面
53 本底
53s 上面
54 靴
54s 内底
60 基材
60t 他方主面
64 凹部
H ヒール高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14