(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161840
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20221014BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A41D13/11 B
A41D13/11 D
A41D13/11 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048314
(22)【出願日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2021065672
(32)【優先日】2021-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100187584
【弁理士】
【氏名又は名称】村石 桂一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 昌由
(72)【発明者】
【氏名】宅見 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】安藤 嘉奈子
(72)【発明者】
【氏名】辻 雅之
(72)【発明者】
【氏名】海老名 亮祐
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抗菌剤および/または抗ウイルス剤などの薬剤を使用することなく、マスクの鼻や口の周辺部においてマスク本体をさらに効率よく伸縮させることでより向上した抗菌効果を奏するマスクを提供すること。
【解決手段】マスクの本体が電位発生フィラメントを有して成る糸を含み、前記本体の縁部から該本体の中央部に向けて配置される少なくとも1つのダーツを含むマスク。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクの本体が電位発生フィラメントを有して成る糸を含み、前記本体の縁部から該本体の中央部に向けて配置される少なくとも1つのダーツを含むマスク。
【請求項2】
少なくとも前記本体の中央部が伸縮および/または振動することで前記糸が電位を発生する、請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記本体の上側の縁部から該本体の中央部に向けて配置される第1ダーツと、前記本体の下側の縁部から該本体の中央部に向けて配置される第2ダーツとを含む、請求項1または2に記載のマスク。
【請求項4】
前記本体の上側の縁部の中央と下側の縁部の中央とを結ぶ仮想ラインに沿って第1ダーツおよび第2ダーツが互いに整列している、請求項3に記載のマスク。
【請求項5】
前記本体の左側の縁部および/または右側の縁部から該本体の中央部に向けて配置される第3ダーツを含む、請求項1~4のいずれかに記載のマスク。
【請求項6】
第1ダーツおよび第2ダーツならびに第3ダーツがそれぞれ前記本体の中央部に向けて配置されており、第1ダーツおよび第2ダーツならびに第3ダーツの前記本体の中央部に向けられた端部が互いに離間して位置付けられている、請求項5に記載のマスク。
【請求項7】
前記第1ダーツおよび第2ダーツならびに第3ダーツの前記端部よりも内側の領域において前記本体が伸縮および/または振動することで前記糸が電位を発生する、請求項6に記載のマスク。
【請求項8】
前記本体に結合される身体当接部材をさらに有し、該身体当接部材が前記本体の縁部から紐状または帯状に延在して耳で固定されるように構成されている、請求項1~7のいずれかに記載のマスク。
【請求項9】
前記本体に結合される身体当接部材をさらに有し、該身体当接部材が前記本体の縁部から紐状または帯状に延在して後頭部で固定されるように構成されている、請求項1~7のいずれかに記載のマスク。
【請求項10】
前記身体当接部材が前記本体の上側および/または下側の縁部に設けられている、請求項8または9に記載のマスク。
【請求項11】
身体当接部材がさらに前記本体の左側および/または右側の縁部に設けられている、請求項10に記載のマスク。
【請求項12】
前記身体当接部材が前記本体のすべての縁部に設けられている、請求項8~11のいずれかに記載のマスク。
【請求項13】
前記身体当接部材がその表面の少なくとも一部に摩擦材を有する、請求項8~12のいずれかに記載のマスク。
【請求項14】
前記身体当接部材がワイヤを含む、請求項8~13のいずれかに記載のマスク。
【請求項15】
前記身体当接部材が前記本体の上側の縁部に沿ってワイヤを含む、請求項14に記載のマスク。
【請求項16】
前記身体当接部材が前記本体の下側の縁部に沿ってワイヤを含む、請求項14または15に記載のマスク。
【請求項17】
前記身体当接部材が前記本体の左側および/または右側の縁部に沿ってワイヤを含む、請求項14~16のいずれかに記載のマスク。
【請求項18】
前記電位発生フィラメントが圧電材料を含んで成ることを特徴とする、請求項1~17のいずれかに記載のマスク。
【請求項19】
前記圧電材料がポリ-L-乳酸(PLLA)を含んで成ることを特徴とする、請求項18に記載のマスク。
【請求項20】
前記圧電材料は、添加剤を含有していない、請求項18または19のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項21】
前記圧電材料は、加水分解防止剤を含有する、請求項18~20のいずれか1項に記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はマスクに関する。より具体的には、本開示は、マスク本体が電位発生フィラメントを有して成る糸を含んで成るマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性および/または抗ウイルス性などの機能を有する様々な形状および構造のマスクや布帛などが知られている(特許文献1~10参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-167226号公報
【特許文献2】特開2019- 77970号公報
【特許文献3】特開2019- 77971号公報
【特許文献4】特開2017-101374号公報
【特許文献5】特開2008-272375号公報
【特許文献6】特開2003- 741号公報
【特許文献7】特開2011- 92282号公報
【特許文献8】特開2019- 26957号公報
【特許文献9】特開2020-193429号公報
【特許文献10】特許第6399274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、銀系無機抗菌剤を保持する第1基布とカルボン酸が析出した第2基布とを有する2層構造の抗菌マスクが開示されている。
特許文献2には、接合シートにより形成された2層構造のマスクが開示されている。
特許文献3には、接合シートにより形成された3層構造のマスクが開示されている。
特許文献4には、抗ウイルス剤を施したニット布地と、抗ウイルス剤を施さないニット布地との2層以上の布地から成る抗ウイルス性衛生マスクが開示されている。
特許文献5には、ニット編布地を複数回折りたたみ所定形状に成形して所定部分を縫製して成るマスク本体を有する衛生用マスクが開示されている。
特許文献6には、少なくとも上下2本の横に延びる長いプリーツが形成された衛生マスクが開示されている。
特許文献7には、形状保持材を備えるマスクが開示されている。
特許文献8には、プリーツ構造を有するマスクが開示されている。
特許文献9には、伸縮により電位を生じる第1圧電繊維と第2圧電繊維とを含むフィルタを有する抗菌マスクが開示されている。
特許文献10には、外部からのエネルギーにより極性の異なる電荷を発生する第1の糸と第2の糸とを備える布帛が開示されている。
【0005】
本願発明者らは、従前のマスクおよび布帛には克服すべき課題があることに気付き、そのための対策を取る必要性を見出した。具体的には以下の課題があることを本願発明者らは見出した。
【0006】
特許文献1~8には多層構造やプリーツが形成されたマスクならびに形状保持材を備えるマスクなどが開示されている。しかし、このような構成による抗菌効果や抗ウイルス効果のさらなる向上には限界があった。
【0007】
また、特許文献1や特許文献4などに開示される抗菌剤や抗ウイルス剤を布地に施したマスクでは、添加した薬剤が人体に混入して害を及ぼす可能性があるため、安全性が低い。
【0008】
特許文献9および10では圧電繊維を利用した抗菌マスクや布帛などが開示されている。しかし、所望の圧電抗菌効果を得るためにはマスクの鼻や口の周辺部において布地をさらに効率よく伸縮させて圧電抗菌効果を高めることが重要であることがわかった。
【0009】
本開示はかかる課題に鑑みて為されたものである。即ち、本開示の主たる目的は、抗菌剤および/または抗ウイルス剤などの薬剤を使用することなく、マスクの鼻や口の周辺部においてマスク本体をさらに効率よく伸縮させることでより向上した抗菌効果を奏するマスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成されたマスクの発明に至った。
【0011】
本願発明者らは、まず、電位発生フィラメントを有して成る糸(以下、「圧電糸」と称する場合もある)を含むマスク本体において、その中央部、特にマスク本体の鼻や口の周辺部においてマスク本体をさらに効率よく伸縮させることを検討した。そうすることでマスクの装着時に発話等による口および顎の運動によってマスク本体の中央部が伸縮および/または振動することで抗菌効果がより向上すると考えた。
【0012】
圧電糸を含むマスク本体において、例えばマスク本体の中心部からマスク本体の縁部に向けて複数のダーツを形成してマスク本体を立体的に縫製することで(例えば
図1に示すマスク本体101の中心部Cおよびタテ方向のダーツ111および112ならびにヨコ方向のダーツ113a~113dを参照のこと)、マスク本体の中心部をダーツで物理的に支持して固定することおよびフィット感を向上させることを検討した(
図4および
図7参照)。
【0013】
検討の結果、本願発明者らは、このようなダーツによってマスク本体の中央部を物理的に支持することでマスク本体が効率よく伸縮および/または振動できること、ひいてはマスク本体が向上した抗菌効果を奏することを見出した。
【0014】
本開示では、マスクの本体が電位発生フィラメントを有して成る糸を含み、前記本体の縁部から該本体の中央部に向けて配置される少なくとも1つのダーツを含むマスクが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本開示では、抗菌剤および/または抗ウイルス剤などの薬剤を使用することなく、マスクの鼻や口の周辺部においてマスク本体をさらに効率よく伸縮させることでより向上した抗菌効果を奏するマスクが得られる。尚、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでなく、また、付加的な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るマスクの第1面(オモテ面)を模式的に示す概略図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態に係るマスクの構成を模式的に示す概略分解図である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態に係るマスクの第2面(ウラ面)を模式的に示す概略図である。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態に係るマスクの第1面(オモテ面)の第1側面(左側面)を模式的に示す概略図である。
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態に係るマスクの第1面(オモテ面)の第1側面(左側面)においてマスク本体を部分的に分解して模式的に示す概略図である。
【
図6】
図6は、本開示の一実施形態に係るマスクの第1面(オモテ面)に設けられた複数のダーツの配置を模式的に示す概略図である。
【
図7】
図7は、本開示の一実施形態に係るマスクの装着例を模式的に示す概略図である。
【
図8】
図8は、本開示の一実施形態に係るマスクの別の装着例を模式的に示す概略図である。
【
図9】
図9は、本開示の一実施形態に係るマスクにおいて使用することができる補助具を模式的に示す概略図である。
【
図10】
図10(A)は、糸1(S糸)の構成を示す図であり、
図10(B)は、
図10(A)のA-A線における断面図であり、
図10(C)は、
図10(A)のB-B線における断面図である。
【
図11】
図11(A)および
図11(B)は、ポリ乳酸の一軸延伸方向と、電場方向と、電位発生フィラメント(又は電場形成フィラメント又は圧電繊維)10の変形との関係を示す図である。
【
図12】
図12(A)は、糸2(Z糸)の構成を示す図であり、
図12(B)は、
図12(A)のA-A線における断面図であり、
図12(C)は、
図12(A)のB-B線における断面図である。
【
図13】
図13は、電位発生フィラメント10の周りに誘電体100を備える糸の断面を模式的に示す断面図である。
【
図14】
図14は、実施例および比較例で作製したマスクについてARAMISで画像解析した結果を示す。
【
図15】
図15は、マスク本体の表面電位の測定装置を示す写真である。
【
図16】
図16は、表面電位の測定装置にマスク本体を固定した状態を示す写真である。
【
図17】
図17は、抗菌試験にて使用するサンプルを模式的に示す概略図である。
【
図18】
図18は、サンプルを用いた抗菌試験の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、マスクの本体が電位発生フィラメントを有して成る糸を含み、前記本体の縁部(E)から該本体の中央部(C)に向けて配置される少なくとも1つのダーツを含むマスクに関する(以下、「本開示のマスク」と称する場合もある)。以下、本開示のマスクにおいて使用する用語を簡単に説明する。
【0018】
本開示において「マスク」とは、少なくともヒトの顏の鼻や口の周辺部を覆うことで鼻腔や口腔への粉塵、菌および/またはウイルスなどの侵入を防止する物品または用品を意味する。本開示のマスクはヒトの頬や顎の少なくとも一部を覆うこともできる。本開示のマスクは主としてヒトの鼻腔や口腔を覆うことができる本体を有する。
【0019】
本開示においてマスクの「本体」(以下、「マスク本体」と称する場合もある)は、電位発生フィラメントを有して成る糸を含む。
【0020】
本開示において「電位発生フィラメントを有して成る糸」とは、以下にて詳説する「電位発生フィラメント」または「電場形成フィラメント」(又は表面電荷により電位を発生させることができ、電場を形成することのできる繊維)を含んで成る細長い糸状の部材を意味する。このような糸は、外部からのエネルギー、例えば糸の軸方向に外力(張力および/または応力もしくは歪力など)を適用することで電場を形成し、正または負の表面電位を発生させることができる。
【0021】
本開示においてマスク本体は、主としてヒトの鼻腔および/または口腔の少なくとも一部を覆う「中央部」(例えば
図1、
図4および
図6において符号“C”で示す部分)とマスク本体の外形を規定する「縁部」(例えば
図1および
図2において符号“E”で示す部分)とを含む。
【0022】
マスク本体の中央部はマスク本体の幾何学的中心を含む領域およびその周囲領域であってよい。
【0023】
マスク本体は、電位発生フィラメントを有して成る糸から構成され得るシート状の材料から形成され得る部品または部材である。マスク本体は、例えば、織物、編物、不織布などの布帛から形成することができる。
【0024】
本開示のマスクは、マスク本体の縁部からマスク本体の中央部(その周囲を含む)に向けて配置され得る少なくとも1つのダーツを含む。換言すると、マスク本体の中央部(その周囲を含む)からマスク本体の縁部に向けて配置される少なくとも1つのダーツを含む。
【0025】
本開示において「ダーツ」とは、概して服飾や縫製の分野で用いられ得る用語であり、例えば布帛を立体的に縫製するために布帛の一部を裏側から摘まんで布帛の裏側で縫い合わせた部分または縫合部を意味する。このようなダーツは、布帛の一部を重ねて縫製により固定したプリーツやタックとは異なるものである。
【0026】
ダーツの本数に特に制限はなく、例えば1本以上10本以下、好ましくは2本以上6本以下である。ダーツはマスク本体において上下対称あるいは左右対称の位置に2本1組で配置されることが好ましい(
図1および
図6参照)。
【0027】
本開示のマスク本体において、少なくとも1つのダーツを設けることによって、マスク本体をより立体的に構成することができる。特にマスク本体の中央部を物理的に支持することができる(
図1および
図7参照)。このようなダーツによる支持構造によって本開示のマスクは、例えば発話時などの口の動きに合わせて、マスク本体の中央部をより効果的に伸縮および/または振動させることができる(例えば
図6において符号Cで示す中央部および符号Rで示す領域を参照のこと)。ひいてはマスク本体に含まれる電位発生フィラメントを有して成る糸がマスク本体の伸縮および/または振動によってより効果的に引っ張られることでより多くの電荷または電位が発生し、より向上した抗菌効果などを奏することができる。
【0028】
本開示のマスクの本体において、このようなダーツは、ほとんど伸縮しないか、あるいは全く伸縮しないことが好ましい。換言するとダーツはマスク本体において非伸縮領域を形成していてよい。マスク本体に非伸縮領域を形成することでマスク本体をより確実かつ立体的に固定することができ、マスク本体の中央部にかかる応力を集中させることができる。ひいてはマスク本体の中央部をより効果的に伸縮および/または振動させることができる。
【0029】
このようにマスク本体がダーツを含むことでヒトの顏の動き、より具体的には発話時の顎や口元の動きを駆動力として、マスク本体の中央部をより効果的に伸縮および/または振動させることができる。その結果、電位発生フィラメントを含む本開示の糸によって、より効率よく電位を発生させて抗菌効果、抗ウイルス効果および/または防塵効果などを奏することができる。
【0030】
マスク本体の固定方法に特に制限はない。例えば
図1および
図2に示すように身体当接部材(102a)をマスク本体の上下の縁部(E
U,E
D)に設け、さらに左右の縁部(E
L,E
R)に設けられた身体当接部材(102b)とともに輪を形成することで帯状または紐状に形成された身体当接部材(102a)を「耳掛け部」として耳に掛けることができる。このような方法によりマスク本体を身体に固定することができる(
図7参照)。
あるいは、身体当接部材(102a)を以下にて詳説する補助具(200)(
図9参照)(以下、「マスクフック」と称する場合もある)などを用いて後頭部で連結させて固定することもできる(
図8参照)。また、このような身体当接部材(102a)は後頭部で身体当接部材(102a)を互いに直接結合していてよい(図示せず)。
【0031】
本開示のマスクは、必要に応じて、例えば、裏地(例えば
図2および
図3において符号103で示す部品または部材)やワイヤ(例えば
図2および
図5において符号106で示す部材)、摩擦材(例えば
図2~
図5において符号105で示す部品または部材)などをさらに有していてよい。
【0032】
(実施形態)
例えば
図1に本開示の一実施形態に係るマスク110を示す。マスク110の本体101は、電位発生フィラメントを有して成る糸(以下、「本開示の糸」または単に「糸」と呼ぶ)を含む。本開示の糸は、以下にて詳説する通り、外部からのエネルギーを受けて、例えば糸の軸線方向に引張力を受けることで電位を発生させることができ、ひいては、この発生した電位によって抗菌効果および/または抗ウイルス効果や集塵効果などの効果を奏することができる。
【0033】
本体101は、本開示の糸を含む織物、編物、不織布などの布帛から構成されてよい。糸の伸縮による電位の発生を考慮するとマスク本体101は編物から構成されることが好ましい。
【0034】
本体101は、少なくとも1つのダーツ、例えばタテ方向のダーツ111および112ならびにヨコ方向のダーツ113a~113dなどを含んでいてよい(
図1参照)。
図1に示すダーツ111,112および113a~113dは、本体101の縁部(E
U,E
D,E
L,E
R)から本体101の中央部(C)(その周囲を含む)に向けて配置されていてよい。換言すると、ダーツ111,112および113a~113dは、それぞれ本体101の中央部(C)(その周囲を含む)から本体101の縁部(E
U,E
D,E
L,E
R)に向けて配置されていてよい。ダーツ111,112および113a~113dは、本体101の中央部(C)(その周囲を含む)から本体101の縁部(E
U,E
D,E
L,E
R)に向けて略放射線状に配置されていてもよい。
【0035】
ダーツ111は、マスクの装着時に鼻筋に沿って配置され得るダーツであり、以下、「第1ダーツ」または「鼻ダーツ」と称する。
ダーツ112は、マスクの装着時に顎に沿って配置され得るダーツであり、以下、「第2ダーツ」または「顎ダーツ」と称する。
ダーツ113a~113dは、マスクの装着時に頬に沿って配置され得るダーツであり、以下、「第3ダーツ」または「頬ダーツ」と称する。
【0036】
ヨコ方向に配置され得る第3ダーツよりもタテ方向に配置され得る第1ダーツおよび第2ダーツの方が鼻筋および顎に沿うことができるため立体的に有効である(
図4参照)。
【0037】
ダーツの本数に特に制限はなく、例えば第1ダーツ111と第3ダーツ113aとの間、第1ダーツ111と第3ダーツ113bとの間、第2ダーツ112と第3ダーツ113cとの間および/または第2ダーツ112と第3ダーツ113dとの間に追加のダーツを設けてよい。本開示のマスクにおいてダーツの本数は多い方が好ましい。確実に顔にフィットし、顔の動きに対する追従性が向上するからである。
ダーツの寸法に特に制限はない。本開示のマスクにおいてダーツの寸法は長い方が好ましい。確実に顔にフィットし、顔の動きに対する追従性が向上するからである。
第3ダーツ113aと第3ダーツ113cとの間、第3ダーツ113bと第3ダーツ113dとの間に追加の第3ダーツを設けてもよい。
あるいは第1ダーツ111を複数本ならべて配置してもよいし、第2ダーツ112を複数本ならべて配置してもよい。
【0038】
マスク110では、少なくとも本体101の中央部C(その周囲を含む)が伸縮および/または振動することで本開示の糸が電位を発生することができる。特に本体101の中央部Cが少なくとも1以上、好ましくは2以上のダーツで支持されることによって、より効果的に中央部Cを伸縮および/または振動させることができる。特にマスクの装着時における発話時などの口や顎の動きに合わせて、換言すると発話時の顎や口元の動きを駆動力として、より効果的に中央部Cを伸縮および/または振動させることができる。ひいては電位発生フィラメントを含む本開示の糸によって、より効率よく電位を発生させて抗菌効果、抗ウイルス効果および/または防塵効果などを奏することができる。
また、マスク110では、本体101の中央部C(その周囲を含む)がダーツで支持されることによって、例えば、装着時の息苦しさを緩和し、快適性を奏することができる。
【0039】
より具体的には、マスク110の本体101は、本体101の上側の縁部EUから本体101の中央部Cに向けて配置され得る第1ダーツ111と、本体101の下側の縁部EDから本体101の中央部Cに向けて配置され得る第2ダーツ112とを含むことが好ましい。第1ダーツ111および第2ダーツ112は、2つ1組で互いに上下に対向して配置され得ることから、本体101の中央部Cをより効果的かつ物理的に支持することができる。このようにマスク本体がダーツを含むことでヒトの顏の動き、より具体的には発話時の顎や口元の動きを駆動力として、マスク本体の中央部Cをより効果的に伸縮および/または振動させることができる。ひいては電位発生フィラメントを含む本開示の糸によって、より効率よく電位を発生させて抗菌効果、抗ウイルス効果および/または防塵効果などを奏することができる。
【0040】
ここで、
図1に示すマスク110の本体101は、ヒトの顏とは当接しない側の面を示し、以下、「第1面」または「オモテ面」と称する。また、本開示において、「上側」または単に「上」、「下側」または単に「下」、「左側」または単に「左」、「右側」または単に「右」などの用語は、マスク110の本体101の「第1面」または「オモテ面」から見た上下左右の方向をそれぞれ指す。従って、マスク110または本体101の上側の縁部を符号E
Uで示し、下側の縁部を符号E
Dで示し、左側の縁部を符号E
Lで示し、右側の縁部を符号E
Rで示す(
図1および
図2参照)。
本開示では上下方向をタテ方向と称し、左右方向をヨコ方向する場合もある。
【0041】
マスク110では、本体101の上側の縁部E
Uの中央(又は中点)と下側の縁部E
Dの中央(又は中点)とを結ぶ仮想ラインLに沿って第1ダーツ111および第2ダーツ112が互いに整列してよい。第1ダーツ111および第2ダーツ112は、それぞれ鼻筋および顎に沿って配置されることが好ましいことから、第1ダーツ111および第2ダーツ112が互いに整列していることによって仮想ラインLが顏の中心線と一致することができる(
図1参照)。第1ダーツ111および第2ダーツ112が整列することでマスク本体101を鼻筋および顎に沿ってより立体的に密着させて配置することができる(
図7、
図8参照)。このようなダーツの配置により、本体101の中央部Cをより立体的に支持することができ、中央部Cをより効果的に伸縮および/または振動させることができる(
図4参照)。より具体的には発話時の顎や口元の動きを駆動力として、マスク本体の中央部Cをより効果的に伸縮および/または振動させることができる。ひいては電位発生フィラメントを含む本開示の糸によって、より効率よく電位を発生させて抗菌効果、抗ウイルス効果および/または防塵効果などを奏することができる。
【0042】
マスク110の本体101は、本体101の左側の縁部E
Lおよび/または右側の縁部E
Rから本体の中央部C(その周囲を含む)に向けて、換言すると仮想ラインLに向けて配置され得る第3ダーツ113(より具体的には
図1の符号113a~113dで示すダーツ)を含んでいてよい。第3ダーツを設けることで本体101の中央部Cをさらに立体的に保持することができる(
図4参照)。
【0043】
第3ダーツ113(より具体的には第3ダーツ113a~113d)が頬に沿って配置されることが好ましい(
図7、
図8参照)。複数の第3ダーツ113(より具体的には第3ダーツ113a~113d)は本体101において上下対称および/または左右対称の位置関係で配置されることが好ましい。複数の第3ダーツを上下対称および/または左右対称の位置関係で配置することでより安定的にマスク本体101の中央部Cを支持することができる。
具体的には
図1に示すように第3ダーツ113aと113cを2つ1組で上下対称に配置することができ、第3ダーツ113aと113bを2つ1組で左右対称に配置することができる。また、第3ダーツ113bと113dを2つ1組で上下対称に配置することができ、第3ダーツ113cと113dを2つ1組で左右対称に配置することができる。
【0044】
本開示のマスクでは、このように2つ1組でダーツを上下対称および/または左右対称に設けることが好ましい。このような対称の構成を有することで本体101の中央部Cをより安定して物理的に支持することができる。また、マスク110をよりフィットして顔に装着させることができる(
図7、
図8参照)。特に鼻筋、顎、頬などにおいて、よりフィットして当接できることから、発話時などの口の動きに合わせて、マスク本体101の中央部Cをより立体的に支持して、より効果的に伸縮および/または振動させることができる。より具体的には発話時の顎や口元の動きを駆動力として、マスク本体の中央部Cをより効果的に伸縮および/または振動させることができる。ひいては電位発生フィラメントを含む本開示の糸によって、より効率よく電位を発生させて抗菌効果、抗ウイルス効果および/または防塵効果などを奏することができる。
【0045】
第1ダーツ111および第2ダーツ112ならびに第3ダーツ113は、それぞれ本体の中央部C(その周囲を含む)に向けて配置され(
図1参照)、第1ダーツ111および第2ダーツ112ならびに第3ダーツ113の本体101の中央部C(その周囲を含む)に向けられた端部は互いに離間して位置付けられていてよい(例えば
図6の符号T
1、T
2、T
3a、T
3b、T
3cおよびT
3dで示される端部を参照のこと)。
【0046】
ここでダーツの端部Tとは、ダーツの2つの端部のうち本体101の中央部Cに向けられて配置された一方の端部(T)を意味する(
図6参照)。ダーツの他方の端部は、概して、本体101のいずれかの縁部(E
U、E
D、E
L、E
R)に形成されており、バインディング、パイピング、テーピングなどの身体当接部材(102a、102b)に覆われている(
図1参照)。
【0047】
例えば
図6に示す端部T
1は第1ダーツ111の一方の端部であり、端部T
2は第2ダーツ112の一方の端部であり、端部T
3a~T
3dは第3ダーツ113a~113dの一方の端部である。
【0048】
端部T
1およびT
2ならびに端部T
3a~T
3dは、本体101の中央部C(その周囲を含む)を物理的に支持することを目的とすることから、互いに離間して位置付けられていることが好ましい(
図6参照)。各端部の離間距離に特に制限はない。また、端部は必要に応じて重なっていてもよいし、端部同士を結ぶように追加のダーツが形成されていてもよい。
【0049】
このようなダーツの端部が互いに離間した配置によって、発話時の顎や口元の動きを駆動力として、マスク本体の中央部Cをより効果的に伸縮および/または振動させることができる。ひいては電位発生フィラメントを含む本開示の糸によって、より効率よく電位を発生させて抗菌効果、抗ウイルス効果および/または防塵効果などを奏することができる。
【0050】
図6に示す第1ダーツ111および第2ダーツ112ならびに第3ダーツ113a~113dのそれぞれの端部T
1およびT
2ならびに端部T
3a~T
3dよりも内側の領域、例えば
図6に示す領域Rにおいて、マスク本体101が伸縮および/または振動することで本開示の糸は電位をより効率よく発生することができる。より具体的には発話時の顎や口元の動きを駆動力として、マスク本体の中央部Cをより効果的に伸縮および/または振動させることができる。その結果、電位発生フィラメントを含む本開示の糸によって、より効率よく電位を発生させて抗菌効果、抗ウイルス効果および/または防塵効果などを奏することができる。
【0051】
領域Rは、本体101の中心部Cを含むことが好ましく、本体101の中心部Cと同一であっても、本体101の中心部Cの少なくとも一部と重複していてもよい。領域Rは、少なくともヒトの鼻腔および/または口腔の少なくとも一部を覆うことが好ましい。
【0052】
本開示のマスクは身体当接部材をさらに有していてよい。本開示において「身体当接部材」とは、マスク本体と結合するとともに身体と当接することができる部材を意味する。身体当接部材は、好ましくはマスク本体の少なくとも1つの縁部の少なくとも一部と結合してマスク本体と一体化してよい。例えば
図1に示すように身体当接部材は、符号102で示される部品または部材であり、具体的には符号102aおよび102bで示される部品または部材である。
【0053】
身体当接部材102は、マスク本体の縁部E(例えば
図1および
図2の符号E
U,E
D,E
Lおよび/またはE
Rで示される縁部)に結合していてよい。より具体的には身体当接部材102aがマスク本体101の上下の縁部E
UおよびE
Dの両方に結合していてよく、2つの身体当接部材102bがマスク本体101の左右の縁部E
LおよびE
Rにそれぞれ結合していてよい。
【0054】
ここで、
図2を参照すると、身体当接部材102は、帯状またはリボン状の部品又は部材を中央で折り曲げることで、具体的には中央で山折りすることで成形して配置することができ、このような帯状またはリボン状の部材をマスク本体101の縁部(E
U,E
D,E
Lおよび/またはE
R)に縫製により結合させることができる。換言するとバインディングまたはパイピングまたはテーピングによって身体当接部材102をマスク本体101の縁部(E
U,E
D,E
Lおよび/またはE
R)に設けることができる。
【0055】
身体当接部材102は、マスク本体101の縁部(例えば
図1おおび
図2において符号E
U,E
D,E
Lおよび/またはE
Rで示す部分)から紐状または帯状に延在または延長して耳で固定されるように構成されていてよい(
図1および
図7参照)。
【0056】
より具体的には、身体当接部材102aが例えば
図1に示す通り、マスク本体101の上下の縁部(E
U,E
D)から延在または延長し、必要に応じて左右の縁部(E
L,E
R)に設けられた身体当接部材102bとともに輪を形成することで「耳掛け部」を形成してよい(
図1および
図7参照)。
身体当接部材(102a,102b)はこのような左右の耳掛け部を有することで装着者の両耳に掛けることができる。このような耳掛け部または延在部もしくは延長部は、例えば
図2に示す帯状またはリボン状の部材を縫製することで形成することができる。
例えば
図1において身体当接部材102aにおいて縫製により形成され得るステッチを符号123aで模式的に示し、身体当接部材102bにおいて縫製により形成され得るステッチを符号123bで模式的に示す。
【0057】
身体当接部材として、例えば服飾などの分野で使用され得る布製のバインダテープを特に制限なく使用することができる。身体当接部材として伸縮性を有するものが好ましい。身体当接部材が伸縮性を有することでフィット感とともに装着時の快適性を奏することができる。
【0058】
耳掛け部は、別体で構成されていてよく、異なる材料、例えばゴム紐などで形成されていてもよい。
【0059】
図1に示す本開示の一実施形態に係るマスク110の構成を模式的に示す分解図を
図2に示す。
図1に示す本開示の一実施形態に係るマスク110は、主たる構成要素として本体101を含む。
本体101の裏側には必要に応じて裏地103が配置されていてよい(
図2、3参照)。裏地103は通気性を有する布帛(例えば、織物、編物、不織布など)であれば特に制限なく使用することができる。裏地103は、肌と接触し得ることから肌に優しい材料であることが好ましい。裏地103は、肌に優しい弱酸性の布帛(例えば、織物、編物、不織布など)であることがより好ましい。裏地103として、例えば、帝人フロンティア株式会社製のニット生地などを使用することができる。また、裏地103は、マスク本体と同様に「電位発生フィラメントを有して成る糸」を含んでいてもよい。
裏地103はマスク本体101と一緒に縫製することが好ましい。尚、裏地103は本開示のマスクにおいて必須の構成ではない。裏地103の代わりにマスク本体101を裏地として使用してもよい。
【0060】
本開示において、マスク本体101を「第1基布」と呼び、裏地103を「第2基布」と称する場合もある。
【0061】
図1~
図3に示すように身体当接部材をマスク本体に設けることでヒトの顏の動き、より具体的には発話時の顎や口元の動きを駆動力として、マスク本体の中央部をより効果的に伸縮および/または振動させることができる。その結果、電位発生フィラメントを含む本開示の糸によって、より効率よく電位を発生させて抗菌効果、抗ウイルス効果および/または防塵効果などを奏することができる。
【0062】
身体当接部材102aが本体101の上側および/または下側の縁部(E
U,E
D)(および必要に応じて裏地103の上側および/または下側の縁部)に設けられていてよい。換言するとマスク本体101の上側および/または下側の縁部(E
U,E
D)(および必要に応じて裏地103の上側および/または下側の縁部)には帯状またはリボン状の身体当接部材102aがバインディングまたはパイピングまたはテーピングによって被覆されていてよい。
このような身体当接部材102aを設けることで身体、特に顏との密着性をより向上させることができる(
図7参照)。また、耳掛け部を縫製によって同時に形成することができる(
図1および
図7参照)。
【0063】
身体当接部材102bは本体101の左側および/または右側の縁部(EL,ER)(および必要に応じて裏地103の左側および/または右側の縁部)に設けられていてよい。換言するとマスク本体101の左側および/または右側の縁部(EL,ER)(および必要に応じて裏地103の左側および/または右側の縁部)には帯状またはリボン状の身体当接部材102bがバインディングまたはパイピングまたはテーピングによって被覆されていてよい。
このような身体当接部材102bを設けることで、身体、特に顏との密着性をさらにより向上させることができる。
【0064】
本開示のマスクでは、身体当接部材が本体のすべての縁部に設けられていることが好ましい。換言すると本開示のマスクにおいてマスク本体の全ての縁部が身体当接部材で覆われていることが好ましい(
図1参照)。このような構成によってマスクを身体により密着させて当接させることができ、マスク本体の中央部をより効果的に伸縮および/または振動させることができる。より具体的には発話時の顎や口元の動きを駆動力として、マスク本体の中央部をより効果的に伸縮および/または振動させることができる。その結果、電位発生フィラメントを含む本開示の糸によって、より効率よく電位を発生させて抗菌効果、抗ウイルス効果および/または防塵効果などを奏することができる。
【0065】
身体当接部材はその表面の少なくとも一部に摩擦材を有していてよい。例えば
図2および
図3示すように身体当接部材102aの折り曲げられた片面、特に身体と当接する側の面(又はウラ面)に摩擦材105aを設けてよい。身体当接部材102bの折り曲げられた片面、特に身体と当接する側の面(又はウラ面)に摩擦材105bを設けてよい。摩擦材(105a,105b)は、身体当接部材(102a,102b)に重ねた後、本体101(および必要に応じて裏地103)と一緒に縫合することができる。摩擦材(105a,105b)は、身体当接部材(102a,102b)に接着により固定してもよい。
【0066】
本開示において「摩擦材」とは、身体当接部材よりも高い摩擦力を有し、肌などの身体と直接当接することで身体とより強く係合することができる部品または部材を意味する。摩擦材は、帯状またはリボン状の布帛(例えば、織物、編物、不織布など)であることが好ましい。
【0067】
摩擦材として、超極細繊維、例えば直径がナノメートル(nm)オーダーのファイバー、例えば直径が1000nm以下のナノファイバーを含んで成る帯状またはリボン状の布帛(例えば、織物、編物、不織布など)を使用することができる。より具体的には、直径が1000nm以下のポリエステルナノファイバー、特に直径が約700nmのポリエステルナノファイバーを含んで成る帯状またはリボン状の布帛(例えば、織物、編物、不織布など)を使用することができる。
摩擦材として、好ましくは、高摩擦力で肌に優しい(具体的には肌触りが柔らかく皮膚への刺激が少ない)帝人フロンティア株式会社製のナノフロント(NANOFRONT)(登録商標)(直径が700nmのポリエステルナノファイバー)を含んで成る帯状またはリボン状の布帛(例えば、織物、編物、不織布など)、例えばテープ、リボンなどを使用することができる。摩擦材として市販の滑り止めテープなども使用することができる。
【0068】
摩擦材として、上記の超極細繊維、例えば帝人フロンティア株式会社製のナノフロントなどを身体当接部材に直接編み込んでもよい。換言すると、身体当接部材を構成する繊維の一部として、上記の超極細繊維を使用してもよい。
【0069】
摩擦材は身体当接部材の身体と触れる部分の全てに配置されることが好ましい。このような構成によってマスクのズレを防止してフィット感を向上させるとともにマスク本体の中央部に応力などの力をより集中させることができる。より具体的には発話時の顎や口元の動きを駆動力として、マスク本体の中央部をより効果的に伸縮および/または振動させることができる。その結果、電位発生フィラメントを含む本開示の糸によって、より効率よく電位を発生させて抗菌効果、抗ウイルス効果および/または防塵効果などを奏することができる。
【0070】
例えば
図3に本開示の一実施形態に係るマスク110の第2面(ウラ面)を示す。尚、第2面(ウラ面)とはマスクが身体と直接接触する側の面を意味する。
例えば、
図3に示すように裏地103は2つの部分(103a、103b)に分割されてよい。2つの部分(103a、103b)は互いに縫合により結合されて縫合部104を形成してよい。このときダブルステッチ(126a,126b)で縫合部を補強してよい。裏地103を2つの部分(103a、103b)から構成することでより立体的に本体101を裏側から支持することができる。
裏地103にはマスク本体101と同様に少なくとも1つのダーツ(114,115)を設けてよい。以下、ダーツ114を「第4ダーツ」と称し、ダーツ115を「第5ダーツ」と称する。
第4ダーツ114は、マスク本体101の第1ダーツ111に対応する位置に設けられることが好ましい。第5ダーツ115は、マスク本体101の第2ダーツ112に対応する位置に設けられることが好ましい。
例えば
図1および
図3に示すようにマスク本体101の第1ダーツ111と裏地103に設けられ得る第4ダーツ114とを位置合わせした後、ダーツの少なくとも一部を囲むようにマスク本体101と裏地103とを縫製により結合させてよい。従って、
図1に示すステッチ121と
図3に示すステッチ124とは表裏の関係にある。このような構成によって、さらに立体的かつ物理的に
図1に示す本体101の中央部Cを支持することができる。
同様にマスク本体101の第2ダーツ112と裏地103に設けられ得る第5ダーツ115とを位置合わせした後、ダーツの少なくとも一部を囲むようにマスク本体101と裏地103とを縫製により結合させてよい。従って、
図1に示すステッチ122と
図3に示すステッチ125とは表裏の関係にある。このような構成によって、さらに立体的かつ物理的に
図1に示す本体101の中央部Cを支持することができる。
【0071】
図3に示す本開示の一実施形態に係るマスク110の第2面(ウラ面)において、縫製により結合された摩擦材(105a,105b)を見ることができる。
【0072】
図4に示す本開示の一実施形態に係るマスク110の第1側面(又は左側面)から縫製により立体的に形成されたマスク110の形状を確認することができる。尚、マスクの右側面を「第2側面」と称する。
マスク本体101の中央部Cは、第1ダーツ111、第2ダーツ112、第3ダーツ1113aおよび113c、第4ダーツ114(図示せず)、第5ダーツ115(図示せず)ならびにステッチ121(およびステッチ124)およびステッチ122(およびステッチ125)によって、より立体的かつ物理的に支持することができる。このような構造によって、マスク本体101の中央部Cは、より効果的に伸縮および/または振動することができ、より効果的に電位を発生させることができる。
【0073】
本開示のマスクは身体当接部材がワイヤを含んでいてよい又は包んでいてよい(例えば
図5の符号106で示すワイヤ106を参照のこと)。
【0074】
本開示において「ワイヤ」とは、例えば金属または合金あるいは樹脂製の細長い部材を意味する。ワイヤは、主に身体当接部材に含まれ又は包まれ、具体的には身体当接部材に覆われ、例えばマスク本体の縁部においてマスク本体の形状を維持することができる。
ワイヤの長手方向の寸法に特に制限はなく、身体当接部材の縁部と同じ長さであっても、それよりも短くてもよい。
ワイヤは可撓性で変形可能であることが好ましく、身体当接部材が当接する身体の形状にあわせて変形することがより好ましい。ワイヤを使用することでマスクのフィット感が向上し、マスク本体の中央部をより適切に支持して伸縮および/または振動させることができる。より具体的には発話時の顎や口元の動きを駆動力として、マスク本体の中央部をより効果的に伸縮および/または振動させることができる。その結果、電位発生フィラメントを含む本開示の糸によって、より効率よく電位を発生させて抗菌効果、抗ウイルス効果および/または防塵効果などを奏することができる。
【0075】
例えば
図2および
図5に示すように身体当接部材102aがマスク本体101の上側の縁部E
Uに沿ってワイヤ106を含んでいてよい又は包んでいてよい。マスク本体101の縁部E
Uに沿って配置されて身体当接部材102aにより被覆されるワイヤ106は鼻筋に配置され得ることから平板状の矩形断面を有するワイヤであることが好ましい。平板状のワイヤは鼻筋の形状により追従して変形することができる。
ワイヤを鼻筋に配置することでヒトの顏の動き、より具体的には発話時の顎や口元の動きを駆動力として、マスク本体の中央部をより効果的に伸縮および/または振動させることができる。その結果、電位発生フィラメントを含む本開示の糸によって、より効率よく電位を発生させて抗菌効果、抗ウイルス効果および/または防塵効果などを奏することができる。
【0076】
例えば
図2および
図5に示すように身体当接部材102aがマスク本体101の下側の縁部E
Dに沿ってワイヤ106を含んでいてよい又は包んでいてよい。マスク本体101の縁部E
Dに沿って配置されて身体当接部材102aにより被覆されるワイヤ106は顎に配置され得ることから棒状の円形断面のワイヤであることが好ましい。
ワイヤを顎に配置することでヒトの顏の動き、より具体的には発話時の顎や口元の動きを駆動力として、マスク本体の中央部をより効果的に伸縮および/または振動させることができる。その結果、電位発生フィラメントを含む本開示の糸によって、より効率よく電位を発生させて抗菌効果、抗ウイルス効果および/または防塵効果などを奏することができる。
【0077】
例えば
図2に示すように身体当接部材102bがマスク本体101の左側および/または右側の縁部(E
L,E
R)に沿ってワイヤ106を含んでいてよい又は包んでいてよい。マスク本体101の縁部(E
L,E
R)に沿って配置されて身体当接部材102bによって被覆されるワイヤ106は頬に配置され得ることから棒状の円形断面のワイヤであることが好ましい。
ワイヤを左側および/または右側の頬に配置することでヒトの顏の動き、より具体的には発話時の顎や口元の動きを駆動力として、マスク本体の中央部をより効果的に伸縮および/または振動させることができる。その結果、電位発生フィラメントを含む本開示の糸によって、より効率よく電位を発生させて抗菌効果、抗ウイルス効果および/または防塵効果などを奏することができる。
【0078】
本開示のマスクでは、マスク本体の全ての縁部の少なくとも一部に沿ってワイヤが配置されていることが好ましい。このようなワイヤを含む構成により、マスク本体の全ての縁部を身体の形状にあわせてより密着させることができ、マスク本体を固定することでマスク本体の中央部をより立体的かつ物理的に支持することができる。
【0079】
図5に本開示の一実施形態に係るマスク110の第1側面(左側面)の断面を模式的に示す。マスク本体101(第1基布)と裏地103(第2基布)との間に必要に応じて第3基布を配置してよい。第3基布はクッション性を付与することができる布帛(例えば織物、編物、不織布)などであってよい。
【0080】
図6および
図7に示す通り本開示のマスクは身体当接部材102を利用して耳に掛けることでマスク本体101の中央部Cを鼻腔および/または口腔の周囲に適切に配置することができる。
【0081】
また、本開示のマスクは、マスク本体に結合され得る身体当接部材によって、身体当接部材がマスク本体の縁部から紐状または帯状に延在または延長して後頭部で配置され得るように構成されていてもよい。
【0082】
後頭部で固定することでマスクをより確実に顏に装着することができる。顏の動き、より具体的には発話時の顎や口元の動きを駆動力として、マスク本体の中央部をより効果的に伸縮および/または振動させることができる。その結果、電位発生フィラメントを含む本開示の糸によって、より効率よく電位を発生させて抗菌効果、抗ウイルス効果および/または防塵効果などを奏することができる。
【0083】
例えば
図8および
図9に示すような補助具(又はマスクフック)200を使用することで身体当接部材102を後頭部に配置することができる。ここで「後頭部」とはヒトの頭部の耳よりも後方の部分を意味する。
【0084】
図9に示すように補助具200は、板状の可撓性を有する部品または部材であり、例えば金属または合金あるいは樹脂から作製することができる。補助具200は、いくつかのスリットを有しており、このスリットに身体当接部材102の耳掛け部をひっかけることで互いに係合することができる(
図8参照)。
【0085】
このように身体当接部材102を後頭部で固定することでより確実にマスクを口元に配置することができ、マスク本体の中央部に振動をより効率よく伝えることができる。
【0086】
あるいは、補助具を使用することなく、マスク本体の左右に形成された2つの耳掛け部を後頭部で直接結合させてもよい。このとき、2つの耳掛け部は一体となっていてよい。2つの耳掛け部を後頭部で直接結合させる場合、帯状または紐状の身体当接部材102の延長部分の任意の場所に長さを調節するためのホックやフックなどの長さ調節器具を配置してもよい。
【0087】
本開示のマスクをいくつかの実施形態で説明したが、本開示のマスクは上記の実施形態に限定されるものではない。
【0088】
[電位発生フィラメントを有して成る糸]
以下では、本開示のマスク本体を構成することができる糸(以下、「本開示の糸」または単に「糸」と省略して記載する場合もある)について詳細に説明する。必要に応じて、図面を参照して説明を行うものの、図面における各種の要素は、本開示の理解のために模式的かつ例示的に示したに過ぎず、外観や寸法比などは実物とは異なり得る。
【0089】
本明細書で言及する各種の数値範囲は、「未満」や「より多い/より大きい」などの特段の用語が付されない限り、下限および/または上限の数値そのものも含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、特段の説明が付記されていなければ、下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”をも含むものとして解釈され得る。
また、各種数値に“約”が付されている場合もあるが、この“約”といった用語は、数パーセント、例えば±10パーセント未満、±5パーセント、±3パーセント、±2パーセント、または±1パーセント程度の変動を含み得ることを意味する。
【0090】
本開示の糸は、例えば、複数の「電位発生フィラメント」または「電場形成フィラメント」を有して成る。電位発生フィラメントまたは電場形成フィラメントの数に特に制限はなく、例えば、2本以上、2~500本、好ましくは10~350本、より好ましくは20~200本程度の電位発生フィラメントが本開示の糸に含まれてよい。
【0091】
本開示において、「電位発生フィラメント」または「電場形成フィラメント」とは、外部からのエネルギーにより電荷を発生して電位を発生させることおよび電場を形成することができる繊維(又はフィラメント)を意味する(以下、「電荷発生繊維」もしくは「電荷発生フィラメント」または「電場形成繊維」と称する場合もある)。
尚、「電位発生フィラメント」との用語は「電場形成フィラメント」と実質的に同義に用いることができる。
【0092】
電位発生フィラメントが受けることができる「外部からのエネルギー」として、例えば、外部からの力(以下、「外力」と称する場合もある)、具体的には糸もしくはフィラメントに変形もしくは歪みを生じさせるような力および/または糸もしくはフィラメントの軸方向にかかる力、より具体的には、張力(例えば糸もしくはフィラメントの軸方向の引張力)および/または応力もしくは歪力(糸もしくはフィラメントにかかる引張応力もしくは引張歪み)および/または糸もしくはフィラメントの横断方向にかかる力などの外力が挙げられる。
【0093】
電位発生フィラメントの寸法(長さ、太さ(径)など)や、形状(断面形状など)に特に制限はない。このような電位発生フィラメントを有して成る本開示の糸は、太さの異なる複数の電位発生フィラメントを含んでよい。従って、本開示の糸は、長さ方向において、径が一定であっても、一定でなくてもよい。
【0094】
電位発生フィラメントは、長繊維であっても、短繊維であってもよい。電位発生フィラメントは、例えば0.01mm以上、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは1mm以上、さらにより好ましくは10mm以上または20mm以上または30mm以上の長さ(又は寸法)を有してよい。長さは、所望の用途に応じて、適宜、選択すればよい。長さの上限の値に特に制限はなく、例えば10000mm、100mm、50mmまたは15mmである。
【0095】
電位発生フィラメントの太さ、すなわち単繊維径に特に制限はなく、電位発生フィラメントの長さに沿って、同一(又は一定)であっても、同一でなくてもよい。電位発生フィラメントは、例えば0.001μm(1nm)~1mm、好ましくは0.01μm~500μm、より好ましくは0.1μm~100μm、特に1μm~50μm、例えば10μmまたは30μmなどの単繊維径を有してよい。単繊維径は、所望の用途に応じて、適宜、選択すればよい。
【0096】
さらに、電位発生フィラメントの繊維強度は、1~10cN/dtexであることが好ましい。これにより、電位発生フィラメントは、高い電位を発生するためにより大きな変形が生じたとしても、破断することなく耐えることができる。繊維強度は、1~7cN/dtexがより好ましく、1~5cN/dtexが最も好ましい。同様の趣旨により、電位発生フィラメントの伸度は、10~50%であることが好ましい。
【0097】
電位発生フィラメントの形状、特に断面形状に特に制限はないが、例えば円形、楕円形、または異形の断面を有していてよい。円形の断面形状を有することが好ましい。
【0098】
電位発生フィラメントは、光電効果を有する材料、焦電効果を有する材料、圧電効果(外力による分極現象)または圧電性(機械的ひずみを与えたときに電圧を発生する、あるいは逆に電圧を加えると機械的ひずみを発生する性質)を有する材料(以下、「圧電材料」又は「圧電体」と称する場合もある)を含んで成ることが好ましい。なかでも、圧電材料を含んで成る繊維(以下、「圧電繊維」と称する場合もある)を使用することが特に好ましい。圧電繊維は、圧電気により電場を形成すること、より具体的には電位を発生させることができるため、電源が不要であるし、感電のおそれもない。また、圧電繊維に含まれ得る圧電材料の寿命は、薬剤等による抗菌効果よりも長く持続し得る。また、このような圧電繊維では、アレルギー反応を引き起こす可能性も低い。
【0099】
「圧電材料」は、圧電効果または圧電性を有する材料であれば特に制限なく使用することができ、圧電セラミックスなどの無機材料であっても、ポリマーなどの有機材料であってもよい。
【0100】
「圧電材料」(又は「圧電繊維」)は、「圧電性ポリマー」を含んで成ることが好ましい。
「圧電性ポリマー」として、「焦電性を有する圧電性ポリマー」や、「焦電性を有していない圧電性ポリマー」などが挙げられる。
【0101】
「焦電性を有する圧電性ポリマー」とは、概して、焦電性を有し、温度変化を与えることで、その表面に電荷(又は電位)を発生させることができるポリマー材料から成る圧電材料を意味する。このような圧電性ポリマーとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが挙げられる。特に、人体の熱エネルギーによって、その表面に電荷(又は電位)を発生させることができるものが好ましい。
【0102】
「焦電性を有していない圧電性ポリマー」とは、概して、ポリマー材料(高分子材料又は樹脂材料)から成り、上記の「焦電性を有する圧電性ポリマー」を除く圧電性ポリマー(以下、「高分子圧電体」と称する場合もある)を意味する。このような圧電性ポリマーとして、例えば、ポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。
ポリ乳酸(PLA)としては、L体モノマーが重合したポリ-L-乳酸(PLLA)(換言すると、実質的にL-乳酸モノマー由来の繰り返し単位のみからなる高分子)や、D体モノマーが重合したポリ-D-乳酸(PDLA)(換言すると、実質的にD-乳酸モノマー由来の繰り返し単位のみからなる高分子)およびそれらの混合物などが知られている。
【0103】
ポリ乳酸(PLA)として、L-乳酸および/またはD-乳酸と、このL-乳酸および/またはD-乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマーを使用してもよい。
【0104】
また、「ポリ乳酸(実質的にL-乳酸およびD-乳酸から成る群から選択されるモノマー由来の繰り返し単位からなる高分子)」と「L-乳酸および/またはD-乳酸と、このL-乳酸および/またはD-乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」との混合物を使用してもよい。
【0105】
本開示では上記のポリ乳(PLA)を含む高分子を「ポリ乳酸系高分子」と称する。換言すると、「ポリ乳酸系高分子」とは、「ポリ乳酸(実質的にL-乳酸およびD-乳酸から成る群から選択されるモノマー由来の繰り返し単位からなる高分子)」、「L-乳酸および/またはD-乳酸と、このL-乳酸および/またはD-乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」およびそれらの混合物などを意味する。
【0106】
ポリ乳酸系高分子のなかでも特に「ポリ乳酸」が好ましく、L-乳酸のホモポリマー(PLLA)およびD-乳酸のホモポリマー(PDLA)を使用することが最も好ましい。
【0107】
ポリ乳酸系高分子は、結晶性部分を有していてよく、あるいはポリマーの少なくとも一部が結晶化していてよい。ポリ乳酸系高分子として、圧電性を有するポリ乳酸系高分子、換言すると圧電ポリ乳酸系高分子、特に圧電ポリ乳酸を使用することが好ましい。
【0108】
ポリ乳酸系高分子以外にも、例えば、ポリペプチド系(例えば、ポリ(グルタル酸γ-ベンジル)、ポリ(グルタル酸γ-メチル)等)、セルロース系(例えば、酢酸セルロース、シアノエチルセルロース等)、ポリ酪酸系(例えば、ポリ(β-ヒドロキシ酪酸)等)、ポリプロピレンオキシド系などの光学活性を有する高分子およびその誘導体などを高分子圧電体として使用してもよい。
【0109】
尚、本開示の糸は、電位発生フィラメント(又は電荷発生繊維)として、芯糸に導電体を用いて、当該導電体に絶縁体を巻き(カバリング)、該導電体に電圧を加えて電荷または電位を発生させる構成を有するものであってもよい。
【0110】
本開示の糸は、複数の電位発生フィラメントを単に引きそろえただけの糸(引きそろえ糸または無撚糸)であってもよく、撚りをかけた糸(撚り合わせ糸または撚糸)であってもよく、捲縮をかけた糸(捲縮加工糸または仮撚糸)であってもよく、紡いだ糸(紡績糸)であってもよい。
【0111】
例えば、
図10(A)に示す通り、糸1は、複数の電位発生フィラメント10を撚り合わせることによって構成することができる。
図10(A)に示す態様では、糸1は、電位発生フィラメント10を左旋回して撚られる左旋回糸(以下、「S糸」と称する)であるが、電位発生フィラメント10を右旋回して撚られる右旋回糸(以下、「Z糸」と称する)であってもよい(例えば、
図12(A)の糸2を参照のこと)。このように、本開示の糸は、撚り合わせ糸の場合、「S糸」および「Z糸」のいずれであってもよい。
【0112】
本開示の糸において、電位発生フィラメント10の間隔は、約0μm~約10μm、典型的には5μm程度である。尚、電位発生フィラメント10の間隔が0μmである場合、電位発生フィラメント同士が互いに接触していることを意味する。
【0113】
以下、本開示の糸を詳述するために、電位発生フィラメントとして圧電材料を含んで成り、かかる圧電材料が「ポリ乳酸」である態様を一例として挙げて、
図10~
図12を参照しながら、本開示の糸をより詳しく説明する。
【0114】
圧電材料として使用することができるポリ乳酸(PLA)は、キラル高分子であり、主鎖が螺旋構造を有する。ポリ乳酸は、一軸延伸されて分子が配向すると、圧電性を発現することができる。さらに熱処理を加えて結晶化度を高めることで圧電定数を高めておいてもよい。換言すると「結晶化度」に応じて「圧電定数」を高くすることができる(「ポリ乳酸を用いた固相延伸フィルムの高圧電性発現機構の検討」,静電気学会誌,40,1 (2016) 38-43参照)。
【0115】
圧電材料としてポリ乳酸(PLA)の光学純度(エナンチオマー過剰量(e.e.))は、下記式にて算出した値である。
光学純度(%)={|L体量-D体量|/(L体量+D体量)}×100
例えば、D体およびL体のいずれにおいても、光学純度は、90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上100重量%以下、さらにより好ましくは99.0重量%以上100重量%以下、特に好ましくは99.0重量%以上99.8重量%以下である。ポリ乳酸(PLA)のL体量とD体量は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法により得られる値を用いることができる。
【0116】
ポリ乳酸(PLA)の結晶化度は、例えば15%以上、好ましくは35%以上、より好ましくは50%以上、さらにより好ましくは55%以上100%以下であることを特徴とする。結晶化度は、高ければ高い程よいが、生地の物性および/または染着性の観点から、例えば35%以上50%以下、好ましくは38%以上50%以下であってよい。
【0117】
結晶化度は、例えば示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimetry)(例えば、株式会社日立ハイテクサイエンス製のDSC7000X)を用いる方法、X線回折法(XRD:X-ray diffraction)(例えば、株式会社リガク製のultraX 18を用いたX線回折法)広角X線回折測定(WAXD:Wide Angle X-ray Diffraction)などの測定方法により決定することができる。結晶化度が上記の範囲内であると、糸に発生し得る電荷および電位をより適切に制御することができる。なお、本開示において、WAXDを用いて測定された結晶化度の測定値と、DSCを用いて測定された結晶化度の測定値は、約1.5倍異なる知見(DSC測定値/WAXD測定値≒1.5)が得られている。
【0118】
図10(A)に示す通り、一軸延伸されたポリ乳酸を含んで成る電位発生フィラメント(又は圧電繊維)10は、厚み方向を第1軸、延伸方向900を第3軸、第1軸および第3軸の両方に直交する方向を第2軸と定義したとき、圧電歪み定数としてd
14およびd
25のテンソル成分を有する。
【0119】
したがって、ポリ乳酸は、一軸延伸された方向に対して45度の方向に歪みが生じた場合に最も効率よく電荷または電位を発生することができる。
【0120】
本開示の電位発生フィラメントにおいて、好ましくは、可塑剤および/または滑剤等の添加剤は入っていない。一般的に、電位発生フィラメントにおいて添加剤が含有されていると、表面電位が発生し難い傾向にあることが分かっている。そこで、適切に表面電位を発生させるため、電位発生フィラメントには添加剤を含有させないことが好ましい。本明細書でいう「可塑剤」とは、電位発生フィラメントに柔軟性を与えるための材料であり、「滑剤」とは、圧電性の糸の分子の滑りを向上させる材料である。具体的には、ポリエチレングリコール、ヒマシ油系脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ステアリン酸アマイドおよび/またはグリセリン脂肪酸エステル等を意図している。これらの材料が本開示の電位発生フィラメントに含有されていない。
【0121】
本開示の電位発生フィラメントは、加水分解防止剤を含有してよい。特に、ポリ乳酸(PLA)に対する加水分解防止剤を含有してよい。加水分解防止剤の一例として、カルボジイミドを含有してよい。より好ましくは環状カルボジイミドを含有してよい。より具体的には、特許5475377号に記載の環状カルボジイミドとしてもよい。このような環状カルボジイミドによれば、高分子化合物の酸性基を有効に封止することができる。なお、環状カルボジイミド化合物に対し、高分子の酸性基を有効に封止できる程度にカルボキシル基封止剤を併用してもよい。かかるカルボキシル基封止剤としては、特開2005-2174号公報記載の剤、例えば、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物および/またはオキサジン化合物、などが例示される。
【0122】
以下、加水分解防止剤の役割について説明する。従来から一般的に知られたPLAを含有するフィラメント(表面電位を発生させないフィラメント)は、PLAの加水分解によって酸が発生し、当該酸が菌に作用することによって抗菌効果を奏していた。そのため、PLAに加水分解が起きるとフィラメントの劣化が生じていた。しかしながら、本開示の電位発生フィラメントは、抗菌メカニズムが従来と異なり、上述したとおり表面電位を発生させることによって抗菌効果を奏するため、加水分解を起こす必要はない。さらに、本開示の電位発生フィラメントは加水分解防止剤を含有するため、フィラメントに加水分解が起きることを防止してフィラメントの劣化を抑えることが可能となる。
【0123】
ポリ乳酸の数平均分子量(Mn)は、例えば6.2×104であり、重量平均分子量(Mw)は、例えば1.5×105である。尚、分子量は、これらの値に限定されるものではない。
【0124】
図11(A)および
図11(B)は、ポリ乳酸の一軸延伸方向と、電場方向と、電位発生フィラメント(又は圧電繊維)10の変形との関係を示す図である。
図11(A)に示すように、フィラメント10は、第1対角線910Aの方向に縮み、第1対角線910Aに直交する第2対角線910Bの方向に伸びると、紙面の裏側から表側に向く方向に電場を生じさせることができる。すなわち、フィラメント10は、紙面表側では、負の電荷または電位を発生させることができる。フィラメント10は、
図11(B)に示すように、第1対角線910Aの方向に伸び、第2対角線910Bの方向に縮む場合も電荷を発生することができるが、極性が逆になり、紙面の表面から裏側に向く方向に電場を生じさせることができる。すなわち、フィラメント10は、紙面表側では、正の電荷または電位を発生させることができる。
【0125】
ポリ乳酸は、延伸による分子の配向処理、結晶化度などで圧電性が生じ得るため、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の他の圧電性ポリマーまたは圧電セラミックスのように、ポーリング処理を行う必要がない。一軸延伸されたポリ乳酸の圧電定数は、5~30pC/N程度であり、ポリマーの中では非常に高い圧電定数を有する。さらに、ポリ乳酸の圧電定数は経時的に変動することがなく、極めて安定している。
【0126】
電位発生フィラメント10は、断面が円形状の繊維であることが好ましい。電位発生フィラメント10は、例えば、圧電性ポリマーを押し出し成型して繊維化する手法、圧電性ポリマーを溶融紡糸して繊維化する手法(例えば、紡糸工程と延伸工程とを分けて行う紡糸・延伸法、紡糸工程と延伸工程とを連結した直延伸法、仮撚り工程も同時に行うことのできるPOY-DTY法、または高速化を図った超高速紡糸法などを含む)、圧電性ポリマーを乾式あるいは湿式紡糸(例えば、溶媒に原料となるポリマーを溶解してノズルから押し出して繊維化するような相分離法もしくは乾湿紡糸法、溶媒を含んだままゲル状に均一に繊維化するようなゲル紡糸法、または液晶溶液もしくは融体を用いて繊維化する液晶紡糸法などを含む)により繊維化する手法、または圧電性ポリマーを静電紡糸により繊維化する手法等により製造され得る。なお、電位発生フィラメント10の断面形状は、円形に限るものではない。
【0127】
例えば
図10に示す糸1は、このようなポリ乳酸を含んで成る電位発生フィラメント10を複数本で撚ってなる糸(マルチフィラメント糸)(S糸)であってよい。糸1を構成するフィラメント10の本数に特に制限はない。各電位発生フィラメント10の延伸方向900は、それぞれの電位発生フィラメント10の軸方向に一致している。したがって、電位発生フィラメント10の延伸方向900は、糸1の軸方向に対して、左に傾いた状態となる。尚、その角度は、撚り回数に依存し得る。
【0128】
このようなS糸である糸1に張力をかけた場合、糸1の表面には負(-)の電荷または電位が発生し、その内側には正(+)の電荷または電位を発生させることができる。
【0129】
糸1は、この電荷により生じ得る電位差によって電場を形成することができる。この電場は近傍の空間にも漏れて他の部分と結合電場を形成することができる。また、糸1に生じ得る電位は、近接する所定の電位、例えば人体等の所定の電位(グランド電位を含む)を有する物体に近接した場合に、糸1と該物体との間に電場を生じさせることもできる。
【0130】
次に、
図12を参照すると、糸2は、Z糸であるため、電位発生フィラメント(又は圧電繊維)10の延伸方向900は、糸2の軸方向に対して、右に傾いた状態となる。尚、その角度は、糸の撚り回数に依存し得る。また、糸2を構成するフィラメント10の本数にも特に制限はない。
【0131】
このようなZ糸である糸2に張力をかけた場合、糸2の表面には正(+)の電荷または電位が発生し、その内側には負(-)の電荷または電位を発生させることができる。
【0132】
糸2も、この電荷により生じ得る電位差によって電場を形成することができる。この電場は近傍の空間にも漏れて他の部分と結合電場を形成することができる。また、糸2に生じ得る電位は、近接する所定の電位、例えば人体等の所定の電位(グランド電位を含む)を有する物体に近接した場合に、糸2と該物体との間に電場を生じさせることもできる。
【0133】
さらに、S糸である糸1と、Z糸である糸2とを近接させた場合には、糸1と糸2との間に電場または電位を生じさせることもできる。
【0134】
糸1と糸2とで生じ得る電荷または電位の極性は互いに異なる。各所の電位差は、繊維同士が複雑に絡み合うことにより形成され得る電場結合回路、または水分等で糸の中に偶発的に形成され得る電流パスで形成され得る回路により定義され得る。
【0135】
本開示の糸において、電場形成フィラメントがポリ乳酸(PLA)から構成されることが好ましい。電場形成フィラメントがポリ乳酸などの圧電材料を含むことで表面電位をより適切に制御することができる。また、ポリ乳酸は疎水性であることから、マスク本体にさらりとした肌触りを提供することができ、ひいてはマスクに快適性を付与することもできる。
【0136】
ポリ乳酸(PLA)の結晶化度は、15~80%の範囲内であることが好ましい。このような範囲内であると、ポリ乳酸結晶に由来する圧電性が高くなり、ポリ乳酸の圧電性による分極をより効果的に生じさせることができる。
【0137】
本開示の糸は、上記の態様に限定して解釈されるべきではない。また、本開示の糸の製造方法についても特に制限はなく、上記の製造方法に限定されるものではない。
【0138】
さらに、本開示の糸は、電位発生フィラメントの周りの少なくとも一部、例えばフィラメントの長手軸方向および/または周方向の表面の少なくとも一部に「誘電体」が設けられてよい。
【0139】
例えば、
図13の断面図で模式的に示す通り、電位発生フィラメント(又は圧電繊維)10の周りには誘電体100を設けることができる。
【0140】
本開示の糸において「誘電体」は、任意の構成であり、発明の必須の構成ではない。
【0141】
本開示において、「誘電体」とは、誘電性(電場により電気的に分極する性質)および/または導電性(電気を通す性質)などを有する材料または物質を含んで成るものを意味し、例えば、その表面には電荷を溜めることができる。
【0142】
誘電体は、例えば、電位発生フィラメントの長手軸方向および/または周方向に存在してよく、電位発生フィラメントを完全に被覆していても、部分的に被覆していてもよい。
【0143】
従って、誘電体は、電位発生フィラメントの長手軸方向において、全体的に設けられていても、部分的に設けられていてもよい。および/または、誘電体は、電位発生フィラメントの周方向において、全体的に設けられていても、部分的に設けられていてもよい。
【0144】
また、誘電体は、その厚みが均一であっても、不均一であってもよい(例えば、
図13を参照のこと)。誘電体の厚みは、電位発生フィラメントの繊維径よりも大きくても、小さくてもよい。誘電体の厚みは、電位発生フィラメントの繊維径よりも小さいことが好ましい(
図13参照)。
【0145】
誘電体は、本開示の糸もしくは電位発生フィラメントの表面、例えば電位発生フィラメントの断面視または径方向断面において、本開示の糸もしくは電位発生フィラメントの表面の少なくとも一部に層状に設けられてよい。誘電体は、複数の電位発生フィラメントの間にも存在していてよく、この場合、複数の電位発生フィラメントの間に誘電体が存在しない部分があってもよい。また、誘電体の中に気泡や空洞が存在していてもよい。
【0146】
誘電体は、誘電性および/または導電性などを有する材料または物質を含む限り、特に制限はない。誘電体として、主に繊維産業において表面処理剤(又は繊維処理剤)として使用できることが知られている誘電性の材料(例えば、油剤、帯電防止剤など)を用いてもよい。
【0147】
本開示の糸において、誘電体は、油剤を含んで成ることが好ましい。油剤として、電位発生フィラメントの製造工程で使用され得る表面処理剤(又は繊維処理剤)として用いられ得る油剤などを使用することができる。また、製布(たとえば製編、製織など)の工程で使用され得る表面処理剤(又は繊維処理剤)として用いられ得る油剤や、仕上工程で使用され得る表面処理剤(又は繊維処理剤)として用いられ得る油剤も使用することができる。ここでは代表例として、フィラメント製造工程、製布工程、仕上げ工程を挙げたが、これらの工程に限定されるものではない。油剤として、特に電位発生フィラメントの摩擦を低減するために用いられ得る油剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)を使用することが好ましい。
【0148】
油剤として、例えば、竹本油脂株式会社製デリオン・シリーズ、松本油脂製薬株式会社製マーポゾール・シリーズ、マーポサイズ・シリーズ、丸菱油化工業株式会社製パラテックス・シリーズなどが挙げられる。
【0149】
油剤は、電位発生フィラメントに沿って、全体的に存在していても、少なくとも一部に存在していてもよい。また、電位発生フィラメントを糸に加工した後、洗濯によって油剤の一部または全部が電位発生フィラメントから脱落していてもよい。
【0150】
また、電位発生フィラメントの摩擦を低減するために用いられ得る誘電体は、洗濯時に使用され得る洗剤や柔軟剤などの界面活性剤であってもよい。
【0151】
洗剤として、例えば、花王株式会社製アタック(登録商標)・シリーズ、ライオン株式会社製トップ(登録商標)・シリーズ、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社製アリエール(登録商標)・シリーズなどが挙げられる。
【0152】
柔軟剤として、例えば、花王株式会社製ハミング(登録商標)・シリーズ、ライオン株式会社製ソフラン(登録商標)・シリーズ、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社製レノア(登録商標)・シリーズなどが挙げられる。
【0153】
誘電体は、導電性(電気を通す性質)を有していてよく、その場合、誘電体は、帯電防止剤を含んで成ることが好ましい。帯電防止剤として、電位発生フィラメントの製造で使用され得る表面処理剤(又は繊維処理剤)として用いられ得る帯電防止剤などを使用することができる。帯電防止剤として、特に電位発生フィラメントのほぐれを低減するために用いられ得る帯電防止剤を使用することが好ましい。
【0154】
帯電防止剤として、例えば、株式会社日新化学研究所製カプロン・シリーズ、日華化学株式会社製ナイスポール・シリーズ、デートロン・シリーズなどが挙げられる。
【0155】
帯電防止剤として、帯電防止効果とともに吸水性および/またはSR性(汚れ除去性)などを付与することができる表面処理剤(又は繊維処理剤)を使用してもよい。
【0156】
帯電防止剤は、電位発生フィラメントに沿って、例えば電位発生フィラメントの長手軸方向および/または周方向の表面に全体的に存在していても、少なくとも一部に存在していてもよい。また、電位発生フィラメントを糸に加工した後、洗濯によって帯電防止剤の一部または全部が電位発生フィラメントから脱落していてもよい。
【0157】
電位発生フィラメントへの油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)、洗剤、柔軟剤などの付着量に特に制限はない。
【0158】
誘電体が油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)、洗剤、柔軟剤などの場合、電位発生フィラメントへの誘電体の付着量は、電位発生フィラメント100重量%に対して、例えば1重量%以上20重量%以下、好ましくは1重量%以上15重量%以下、より好ましくは1重量%以上5重量%以下である。
【0159】
また、上述の油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などは、電位発生フィラメントの周りに存在していなくてもよい。すなわち、電位発生フィラメント、ひいては本開示の糸は、表面処理剤などを含まない場合もある。その場合、電位発生フィラメントの間もしくは隙間および/またはフィラメントの周りに存在し得る空気が誘電体として機能し得る。従って、この場合、誘電体は、空気または空気層を含んで成る。
【0160】
本開示において上述の油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)、洗剤および/または柔軟剤などが電位発生フィラメントの周りに存在しない場合、換言するとフィラメントの周りに空気層のみが存在する場合、糸またはフィラメントの製造時に不可避的または偶発的に混入し得る極微量成分の存在は許容され得る。
【0161】
電場形成フィラメントの周りに上述の油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などが付着した糸を洗濯や溶剤浸漬によって処理することで上述の表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などを含まない糸を使用してもよい。その場合、無垢の電場形成フィラメントが露出することになる。あるいは、本開示において、無垢の電場形成フィラメントのみを含んで成る糸を使用してもよい。
【0162】
また、本開示では、例えば洗濯や溶剤浸漬などの処理によって、上述の油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などが部分的に除去されて無垢の電場形成フィラメントが部分的に露出した糸を使用してもよい。
【0163】
誘電体の厚み(又は電位発生フィラメントの間隔)は、約0μm~約10μm、好ましくは約0.5μm~約10μm、より好ましくは約2.0μm~約10μm、典型的には5μm程度である。
【0164】
(表面電位)
本開示の糸において、外力の適用により発生する表面電位は、例えば0.1Vよりも大きく、好ましくは0.5V以上である(正負いずれの電位も発生させることができる)。表面電位が0.1Vよりも大きいと、本開示のマスクにおいて、集塵力とともに、発生した電位により抗菌作用および/または抗ウイルス作用などの効果を奏することができる(本開示では、まとめて「抗菌効果」と呼ぶ場合もある)。ここで、表面電位の測定方法に特に制限はなく、例えば走査型プローブ顕微鏡(EFM)などを用いて測定することができる。
【0165】
抗菌作用および/または抗ウイルス作用は、表面電位による直接的な殺菌作用および/または殺ウイルス作用などであってよく、細菌や真菌などの菌および/またはウイルスが有する電位とは反対の電位を発生させることで菌および/またはウイルスを寄せ付けないことに起因する作用などであってもよい。
【0166】
以下、本開示の一実施形態に係るマスクを実施例および比較例を挙げて詳説する。
【実施例0167】
実施例1
電位発生フィラメントを有して成る糸(圧電糸)としてPLLA84T72・DTY(フィラメント数:72本、フィラメント径:11μm、糸の径:92mm、PLLAの光学純度(L体):99%以上、結晶化度:35~40%)を用いて、ダブル28G編機(福原精機製作所製、LPJ)にてスムース組織(スムース編により形成され得る組織)を有する生地を製編して後加工することで圧電糸を含む布を作製した。
【0168】
圧電糸を含む布を裁断して
図1に示すように第1ダーツ(111)、第2ダーツ(112)および第3ダーツ(113a~113d)を縫製により形成した。
【0169】
マスク本体の左側および右側の縁部(EL,ER)に沿って長さ5cmの丸型ワイヤを配置した後、その上側から身体当接部材として帯状のバインダテープ(井上リボン製、1764、幅:7.5mm)を山折りで配置して縫製により固定した。尚、バインダテープの身体に接する側の面(ウラ面)には摩擦材として帝人フロンティア株式会社製のナノフロント(登録商標)のテープが同時に縫い込まれている。
【0170】
マスク本体の上側の縁部(EU)に沿って長さ12cmの平型ワイヤを配置してその上側からバインダテープ(島田商事から入手、BTH、幅:3mm)を山折りで配置して縫製により固定した。尚、バインダテープの身体に接する側の面(ウラ面)には摩擦材として帝人フロンティア株式会社製のナノフロント(登録商標)のテープが同時に縫い込まれている。
【0171】
尚、マスク本体の上側の縁部(EU)に沿って設けられたバインダテープは、マスク本体の左側および右側の縁部(EL,ER)からそれぞれ延在して互いに結合して輪を形成することで装着の際に後頭部に配置されて固定できるように構成されている。このような部分はバインダテープを山折りの状態で縫製することで形成されている。バインダテープの身体に接する側の面(ウラ面)には摩擦材として帝人フロンティア株式会社製のナノフロント(登録商標)のテープが同時に縫い込まれている。
【0172】
マスク本体の下側の縁部(ED)に沿ってその上側から長さ10cmの丸型ワイヤ(こるどん製、FK-3008、ワイヤ径:3mm)が配置されたバインダテープを山折りで配置して縫製により固定した。尚、バインダテープの身体に接する側の面(ウラ面)には摩擦材として帝人フロンティア株式会社製のナノフロントのテープが同時に縫い込まれている。
【0173】
尚、マスク本体の下側の縁部(ED)に沿って設けられたバインダテープは、マスク本体の左側および右側の縁部(EL,ER)からそれぞれ延在して互いに結合して輪を形成することで装着の際に後頭部に配置されて固定できるように構成されている。このような部分はバインダテープを山折りの状態で縫製することで形成されている。バインダテープの身体に接する側の面(ウラ面)には摩擦材として帝人フロンティア株式会社製のナノフロント(登録商標)のテープが同時に縫い込まれている。
【0174】
このようにして実施例1では後頭部固定型のマスクを作製した。
【0175】
実施例2
電位発生フィラメントを有して成る糸(圧電糸)としてPLLA84T72・DTY(フィラメント数:72本、フィラメント径:11μm、糸の径:92mm、PLLAの光学純度(L体):99%以上、結晶化度:35~40%)を用いて、ダブル28G編機(福原精機製作所製、LPJ)にてスムース組織(スムース編により形成され得る組織)を有する生地を製編して後加工することで圧電糸を含む布を作製した。
【0176】
圧電糸を含む布を裁断して
図1に示すように第1ダーツ(111)、第2ダーツ(112)および第3ダーツ(113a~113d)を縫製により形成した。
【0177】
マスク本体の左側および右側の縁部(EL,ER)に沿って長さ5cmの丸型ワイヤを配置した後、その上側から身体当接部材として帯状のバインダテープ(井上リボン製、1764、幅:7.5mm)を山折りで配置して縫製により固定した。尚、バインダテープの身体に接する側の面(ウラ面)には摩擦材として帝人フロンティア株式会社製のナノフロント(登録商標)のテープが同時に縫い込まれている。
【0178】
マスク本体の上側の縁部(EU)に沿って長さ12cmの平型ワイヤを配置してその上側からバインダテープ(島田商事から入手、BTH、幅:3mm)を山折りで配置して縫製により固定した。尚、バインダテープの身体に接する側の面(ウラ面)には摩擦材として帝人フロンティア株式会社製のナノフロント(登録商標)のテープが同時に縫い込まれている。
【0179】
マスク本体の下側の縁部(ED)に沿ってその上側から長さ10cmの丸型ワイヤ(こるどん製、FK-3008、ワイヤ径:3mm)が配置されたバインダテープを山折りで配置して縫製により固定した。尚、バインダテープの身体に接する側の面(ウラ面)には摩擦材として帝人フロンティア株式会社製のナノフロントのテープが同時に縫い込まれている。
【0180】
尚、マスク本体の上側の縁部(E
U)に沿って設けられたバインダテープおよびマスク本体の下側の縁部(E
D)に沿って設けられたバインダテープは、
図1および
図7に示す通り、それぞれマスク本体の左側の縁部(E
L)から延在して互いに結合して輪を形成することで装着の際に耳に配置されるように構成されている。同様にマスク本体の右側の縁部(E
R)からも上下2本のバインダテープが延在して互いに結合して輪を形成することで装着の際に耳に配置されるように構成されている(
図1参照)。このような部分はバインダテープを山折りの状態で縫製することで形成されている。尚、バインダテープの身体に接する側の面(ウラ面)には摩擦材として帝人フロンティア株式会社製のナノフロント(登録商標)のテープが同時に縫い込まれている。
【0181】
このようにして実施例2では耳固定型のマスクを作製した。
【0182】
実施例3
マスク本体の下側の縁部(ED)ならびに左側および右側の縁部(EL,ER)にワイヤを設けなかったことを除いて実施例1と同様に後頭部固定型のマスクを作製した。
【0183】
実施例4
マスク本体の下側の縁部(ED)ならびに左側および右側の縁部(EL,ER)にワイヤを設けなかったことを除いて実施例2と同様に耳固定型のマスクを作製した。
【0184】
実施例5
第3ダーツ(113a~113d)を設けず、マスク本体の上側および下側の縁部(EU,ED)ならびに左側および右側の縁部(EL,ER)にワイヤを設けなかったことを除いて実施例2と同様に耳固定型のマスクを作製した。
【0185】
実施例6
第1ダーツ(111)および第2ダーツ(112)を設けず、マスク本体の上側および下側の縁部(EU,ED)ならびに左側および右側の縁部(EL,ER)にワイヤを設けなかったことを除いて実施例2と同様に耳固定型のマスクを作製した。
【0186】
比較例1
第1ダーツ(111)、第2ダーツ(112)および第3ダーツ(113a~113d)を設けず、マスク本体の上側および下側の縁部(EU,ED)ならびに左側および右側の縁部(EL,ER)にワイヤを設けず、摩擦材も設けなかったことを除いて実施例2と同様に耳固定型のマスクを作製した。
【0187】
実施例および比較例で作製したマスクの構成を以下の表1に示す。
【0188】
【0189】
伸長率測定
実施例および比較例で作製したマスクについて、非接触光学式三次元歪み計測システム(GOM社の3Dシステムソリューション「ARAMIS」)を用いて発話時の口周辺部における伸長率を計算した。
【0190】
ARAMISは画像解析を使った計測システムであり以下の条件で測定を行った。
被験者:40代男性
頬弓幅:152mm
形態学顔高:112mm
測定条件
画素数:12M画素
測定範囲:270mm×210mm
点間距離:約1.5mm
【0191】
マスク着用後の無言状態の伸長率をゼロとし、「あ」と発音した時のマスクの口周辺部(マスクの中央部(C)およびその周囲)において測定した伸長率の平均値および最大値を表1に示す。
ARAMISで画像解析した結果を
図14に示す。
図14において(A)は実施例1(無言状態)を示し、(B)は実施例1(「あ」と発音した時)を示し、(C)は実施例2(無言状態)を示し、(D)は実施例2(「あ」と発音した時)を示し、(E)は比較例1(無言状態)を示し、(F)は比較例1(「あ」と発音した時)を示し、(G)は(A)~(F)の各コンター図のカラーバーを示す。
【0192】
表1に示す伸長率の結果から、従前の形状のマスク(比較例1)と比べて、本開示の実施例1~6のマスクは5倍~8倍の伸縮率を有することがわかった。
【0193】
発生電位の測定
実施例および比較例で作製したマスクについて、それぞれ最大の伸長率でマスクの本体部分に発生し得る表面電位を測定した結果を表1に示す。
【0194】
図15に示す装置を用いてマスクの本体部分(サンプル)を
図16に示すように銅製のブロック上に配置して両端部を固定した。銅製のブロックからGNDを形成し、変位速度:20mm/secでマスク本体の両側から表1に示す最大の伸長率でマスク本体を引っ張ったときにマスク本体の表面に発生し得る表面電位を測定した。尚、表面電位の測定は電気力顕微鏡(Electric Force Microscope (EFM))(トレック社製、Model 1100TN)のプローブを設けたカンチレバーを用いて行った。
【0195】
測定した表面電位(V)を表1に示す。表1に示す発生電位の結果から、従前の形状のマスク(比較例1)と比べて、本開示の実施例1~6のマスクは5倍~9倍の表面電位を示すことがわかった。
【0196】
抗菌試験
実施例および比較例で作製したマスクについて、それぞれ抗菌試験用のサンプルを準備し、以下に記載する条件に従って、菌液(106CFU/mL)を播種させた後、18時間くり返し伸縮させた場合の菌数(コロニー数)と、18時間静置した場合の菌数(コロニー数)とをそれぞれカウントし、その差を抗菌試験結果として表1に示す。
【0197】
(サンプル)
実施例および比較例と同様に圧電糸(PLLA84T72・DTY)を用いてダブル28G編機にてスムース組織を有する生地を作製し、
図17に示す抗菌試験用のサンプル400を作製した。
サンプル400は正方形(30mm×30mm)のサンプル本体410を有する。サンプル本体410の各辺には生地を折り曲げて縫製することで形成された筒状のループ(又はチューブ)420a~420dが配置されている。
タテのループ(420a,420b)に紐(タコ糸)を通し、ヨコのループ(420c,420d)にカラビナを通すことでサンプル400を抗菌試験チャンバ内に設置することができる(
図18参照)。
サンプル400の本体410が被抗菌試験領域であり、生地のウェール方向をタテ方向とし、生地のコース方向をヨコ方向としてサンプル400を抗菌試験チャンバ内に設置する(
図18参照)。
【0198】
(試験条件)
・菌液条件
菌株:大腸菌 K12株
培地:5%濃度LB培地
菌液濃度:106CFU/mL
菌液接種量:0.2mL
【0199】
・培養条件
培養環境:37℃インキュベータ
培養時間:18時間
【0200】
・サンプル負荷条件
初期:ヨコ方向(コース方向)に初期ひずみとして所定量の引張を与える(5%伸長)
伸縮:表1に示す最大の伸長率(%)でタテ方向(ウェール方向)に最大ひずみとして引張を与える。
動作周波数:0.2~3Hz
振幅:10mm
【0201】
(試験手順)
(1)サンプルセット
サンプル400(
図17参照)の左右のループ(420a,420b)にタコ糸を通し、上下のループ(420c,420d)にカラビナを通してセットした。
抗菌試験チャンバの中央レーン(
図18参照)にループ420cおよび420dに設けたカラビナを介してサンプル400をセットし、隣接する左右のレーンにタコ糸をひっかけた。
左右のレーンのシャフト位置を変更してヨコ方向にサンプル本体410に初期ひずみとして引張ひずみを与えた。
ヨコ方向の初期ひずみを設定した後、最大ストローク時のタテ方向の引張を表1に示す最大の伸長率(%)に合わせて上記の伸縮条件でタテ方向に引張ひずみを与えた。
図18の中央レーンの上部においてストロークカムを最大ストローク位置に設定し、中央レーンの下部においてシャフトを固定することで各試験条件の伸長率(%)に合わせて引張ひずみを与えた。
(2)菌液接種
各サンプルにおいて上記の条件で菌液を接種した。
(3)培養
サンプルをセットした抗菌試験チャンバをインキュベータ内で18時間にわたって伸縮と同時にインキュベーションを行った。
(4)サンプル回収
18時間のインキュベーションの後にサンプルを回収した。サンプルを洗い出し用のチューブに投入した。さらに洗い出し用の生理食塩水(20mL)を投入し、ボルテックスを用いてサンプルの洗い出しを行った。
(5)希釈系列の準備および寒天培地への塗抹
サンプルの洗い出し液からInterscience社製のEasyspiral Diluteを用いて任意の希釈系列を準備して寒天培地に塗抹した。塗抹した寒天培地を37℃インキュベータに投入して一晩インキュベートした。
(6)カウント
寒天培地にて発生したコロニーの数をカウントした。
【0202】
対比サンプルとして、
図17に示す上記と同様のサンプル400に上記と同じ条件で菌液を接種した後、インキュベータ内で18時間にわたって、伸縮させることなくサンプルのインキュベーションを行った。次いで、上記と同じ手順でコロニー数をカウントした。
【0203】
18時間くり返して伸縮させた場合のコロニー数(菌数)と、対比サンプルにおいて18時間静置させた場合のコロニー数(菌数)の差(絶対値)を抗菌試験の結果として評価した(表1参照)。
【0204】
表1に示す抗菌試験の結果から、比較例1の従前の形状のマスクと比べて、本開示の実施例1~6のマスクは4倍~約6倍の抗菌効果を有することがわかった。
本開示のマスクは、上述の通り、抗菌剤および/または抗ウイルス剤などの薬剤を使用することなく、安全性を有するとともに、抗菌性および/または抗ウイルス性や集塵性、快適性などに優れる。従って、本開示のマスクは、抗菌マスク、抗ウイルスマスク、医療用マスクおよび/または防塵マスクなどとして使用することができる。