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特開2022-161858インバータ装置およびそれを備えたモータ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161858
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】インバータ装置およびそれを備えたモータ装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/024 20160101AFI20221014BHJP
【FI】
H02P29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061683
(22)【出願日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】202110381414.3
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】300052246
【氏名又は名称】日本電産エレシス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】島津 学史
(72)【発明者】
【氏名】中田 雄飛
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA20
5H501CC04
5H501DD04
5H501HA07
5H501HB07
5H501LL01
5H501LL22
5H501LL23
5H501LL35
5H501LL51
5H501MM09
(57)【要約】
【課題】フェールセーフ制御を過度に行うことがないインバータ装置を提供する。
【解決手段】本発明は、電源からの電力を変換してモータを駆動するインバータ装置であって、スイッチング素子を有するインバータ回路と、前記スイッチング素子のオンオフを切り替える駆動回路と、該駆動回路を制御する制御部とを備え、該制御部は、電源電圧に基づいて該モータの最小回転数を算出する回転数演算部を有し、該制御部は、フェールセーフ制御を実行した後、該モータの回転数が前記最小回転数未満になるとフェールセーフ制御を終了する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源からの電力を変換してモータを駆動するインバータ装置であって、
スイッチング素子を有するインバータ回路と、
前記スイッチング素子のオンオフを切り替える駆動回路と、
前記駆動回路を制御する制御部と、
前記制御部は、電源電圧に基づいて前記モータの最小回転数を算出する回転数演算部を有し、
前記制御部は、フェールセーフ制御を実行した後、前記モータの回転数が最小回転数よりも小さい場合にフェールセーフ制御を終了する、
ことを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインバータ装置であって、
前記回転数演算部は、電源電圧に基づいて前記モータの最大回転数を算出し
前記制御部は、前記モータの回転数が最大回転数よりも大きい場合にフェールセーフ制御を実行する、
ことを特徴とするインバータ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインバータ装置であって、
前記回転数演算部は、電源電圧、補正係数、オフセット値に基づいて前記最大回転数と前記最小回転数を算出する、
ことを特徴とするインバータ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のインバータ装置であって、
前記補正係数および前記オフセット値は、前記モータおよび電源の種類に応じて異なる固定値である、
ことを特徴とするインバータ装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のインバータ装置であって、
前記インバータ回路は、上アーム側スイッチング素子群と下アーム側スイッチング素子群とを含み
前記制御部は、前記駆動回路を制御して、前記上アーム側スイッチング素子群と前記下アーム側スイッチング素子群とのオンオフを切り替える、
ことを特徴とするインバータ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のインバータ装置であって、
前記フェールセーフ制御は、前記上アーム側スイッチング素子群および前記下アーム側スイッチング素子群の一方を全相オンし、他方を全相オフするASC制御である、
ことを特徴とするインバータ装置。
【請求項7】
請求項5に記載のインバータ装置であって、
前記フェールセーフ制御は、前記上アーム側スイッチング素子群および前記下アーム側スイッチング素子群の両方を全相オフするSD制御である、
ことを特徴とするインバータ装置。
【請求項8】
モータ装置であって,その特徴は,請求項1から7のいずれか一項に記載のインバータ装置を含むことである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置およびそれを備えたモータ装置に関し、特に、モータの最小回転数を演算する回転数演算部を備えたインバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータが回転しているときに、通常のトルク制御を停止させたい場合には、逆起電力による電源の過充電やIGBT素子へのダメージを防止するために、フェールセーフ制御(Fail-safe control)が実行されている。
【0003】
従来、フェールセーフ制御を行うトリガとして、回転数閾値を設定する方法が開示されている。
【0004】
具体的には、従来のフェールセーフ制御では、モータ装置に異常が発生した場合(すなわち、モータ電源電圧が異常に高くなった場合)に、異常時のモータの回転数に基づいてフェールセーフ制御を行っている。
【0005】
モータの回転数が高い場合には、他の部品に異常が発生する可能性が高いため、モータの回転数を監視するだけでフェールセーフ制御を実行することができる。
【0006】
例えば、固定回転数が4000rpm以上であればフェールセーフ制御を開始し、固定回転数が3000rpm以下であればフェールセーフ制御を終了して通常のトルク制御を開始する。
【0007】
例えば、特許文献1には、モータ装置の異常時にモータ回転数に応じてフェールセーフ制御を開始することが開示されている。
【0008】
具体的には、特許文献1のインバータ制御装置では、回転数が0になったことを検出すると、フェールセーフ制御を停止させる信号を車両側に通知する。
【0009】
ここで、フェールセーフ制御は、ASC制御とSD制御とを含み、ASC制御の場合、車両の減速度とステータコイルの温度とに基づいてASC最小回転数ωascが設定され、SD制御の場合、リレーオン状態での電源電流の大きさと、リレーオフ状態での直流リンク電圧の上昇とに基づいてSD最大回転数ωsdが設定される(特許文献1第0039、0042、0050段落参照)。
【0010】
例えば、特許文献2には、回転数に応じてASC制御とSD制御とを切り替えるモータ制御装置が開示されている。
【0011】
具体的には、特許文献2のモータ制御装置では、回転数が0になったことが検出されるとフェールセーフ制御を停止し、回転数が0でない場合にはフェールセーフ制御におけるSD制御を継続する(特許文献2の段落0049、0055、0058参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際特許公開WO2016076429A1号公報
【0013】
【特許文献2】特開2005033932-号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来技術では、フェールセーフ制御が不要な回転数を予め固定値に定めておき、モータの回転数が予め定められた固定値を下回った場合にフェールセーフ制御を終了するようにしている。このため、実際にフェールセーフ制御を行う必要がなくても、回転数が所定の固定値を下回っていない場合には、フェールセーフ制御が継続される。本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、フェールセーフ制御を行うモータの回転数区間を短くすることができ、フェールセーフ制御を過度に行うことがないインバータ装置を提供することを目的とする。
【0015】
本発明に係るインバータ装置の第1の態様は、電源からの電力を変換してモータを駆動するインバータ装置であって、スイッチング素子を有するインバータ回路と、前記スイッチング素子のオンオフを切り替える駆動回路と、前記駆動回路を制御する制御部とを備え、前記制御部は、電源電圧に基づいて前記モータの最小回転数を算出する回転数演算部を有し、前記制御部は、フェールセーフ制御を実行した後、前記モータの回転数が前記最小回転数よりも小さくなると、前記フェールセーフ制御を終了する。
【0016】
本発明に係るインバータ装置によれば、モータの回転数と最小回転数とを比較して、モータの回転数が最小回転数よりも小さい場合にフェールセーフ制御を終了するので、フェールセーフ制御を行うモータの回転数区間を短くすることができ、フェールセーフ制御を過剰に実行することがない。
【0017】
本発明に係るインバータ装置の第2の態様は、上記第1の態様において、前記回転数演算部は、電源電圧に基づいて前記モータの最大回転数を算出し、前記制御部は、前記モータの回転数が前記最大回転数よりも大きい場合に前記フェールセーフ制御を実行することが好ましい。
【0018】
本発明に係るインバータ装置によれば、モータの回転数と最大回転数とを比較して、モータの回転数が最大回転数よりも大きい場合にフェールセーフ制御を開始するので、フェールセーフ制御を行うモータの回転数範囲を狭くすることができ、フェールセーフ制御を過剰に実行することを防止することができる。
【0019】
本発明に係るインバータ装置の第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記回転速度算出部は、電源電圧、補正係数及びオフセット値に基づいて、前記最大回転速度及び前記最小回転速度を算出することを特徴とする。
【0020】
本発明に係るインバータ装置の第4の態様は、第3の態様において、前記補正係数及び前記オフセット値は、前記モータ及び前記電源の種類によって異なる固定値であることを特徴とする。
【0021】
本発明のインバータ装置によれば、電源電圧、補正係数、オフセット値に基づいてモータの最大回転数および最小回転数を算出することができ、しかもこの補正係数およびオフセット値はモータと電源の種類によって異なる固定値であるため、予めテーブルに記憶しておくことによりモータの最大回転数および最小回転数を得ることができる。
【0022】
本発明に係るインバータ装置の第5の態様は、第1又は第2の態様において、前記インバータ回路は、上アーム側スイッチング素子群と下アーム側スイッチング素子群とを備え、前記制御部は、前記駆動回路を制御して、前記上アーム側スイッチング素子群と前記下アーム側スイッチング素子群とのオンオフを切り替えることが好ましい。
【0023】
本発明に係るモータ装置の第6の態様は、第5の態様において、前記フェールセーフ制御は、前記上アーム側スイッチング素子群及び前記下アーム側スイッチング素子群の一方を全相オンし、他方を全相オフするASC制御であることを特徴とする。
【0024】
本発明に係るモータ装置の第7の態様は、第5の態様において、前記フェールセーフ制御は、前記上アーム側スイッチング素子群と前記下アーム側スイッチング素子群とを全相遮断するSD制御であることを特徴とする。
【0025】
モータが高速で回転するとモータが過熱し、ASC制御によりモータの回転数を低下させてモータを低速で回転させると、モータに突然ブレーキトルクがかかった状態となる。
【0026】
本発明のインバータ装置によれば、モータの高速回転時にフェールセーフ制御(ASC制御またはSD制御)を行うことにより、スイッチング素子および電源の故障を防止することができる。
【0027】
本発明に係るモータ装置の第8の態様は、上記第1の態様から上記第7の態様のいずれかに記載のインバータ装置を備える。
【発明の効果】
【0028】
まず、本発明のインバータ装置によれば、フェールセーフ制御を行うモータの回転数区間を小さくすることができ、フェールセーフ制御を過度に実行しないようにすることができる。
次に、本発明のインバータ装置によれば、電源やモータの損傷を防止しつつ、制動トルクをできるだけ発生させないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明に係るインバータ装置を備えたモータ装置の構成を示す模式図である。
図2図2は、本発明に係るインバータ装置の制御フローを示す表である。
図3図3は、本発明のフェールセーフ制御におけるモータ装置の全体構成を説明するための模式図である。
図4図4は、本発明のフェールセーフ制御におけるASC制御およびSD制御を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係るインバータ装置10の好適な実施形態について図面を参照して説明する。
【0031】
各図において、同一または相当部分には同一符号を付して説明する。
図1は、本発明に係るモータ装置1の構成を示す模式図である。
【0032】
本発明に係るモータ装置1は、一例として、直流電源20と、モータ30と、インバータ装置10とを備える。
【0033】
図1に示すように、モータ30は、ロータとステータとを有し、三相交流電力が供給されることにより回転駆動するモータである。
【0034】
モータ30としては、例えば永久磁石同期モータを用いることができる。
【0035】
図1に示すように、直流電源20は、例えば高圧バッテリであるが、高圧バッテリに限定されず、他の直流電圧を有する電源装置であってもよい。
【0036】
インバータ装置10の駆動対象であるモータ30は、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車等の車両における車輪の駆動力源となる回転電機である。
【0037】
本実施形態では、モータ30が車両の車輪の駆動力源である場合を例に挙げて説明するが、モータ30の用途はこれに限定されない。
【0038】
このモータ30は、三相交流動作を行う回転電機であり、モータとしても発電機としても機能することができる。
【0039】
すなわち、モータ30は、インバータ装置10を介して直流電源20からの電力を動力に変換する(力行モード)。
【0040】
あるいは、モータ30は、図示しないエンジンや車輪から伝達される回転駆動力を電力に変換し、インバータ装置10を介して直流電源20を充電する(回生モード)。
【0041】
図1に示すように、インバータ装置10は、インバータ回路100と、駆動回路110と、駆動回路110を制御する制御部120とを備え、直流電源20に蓄えられた直流電力を三相交流電力に変換し、変換した三相交流電力をモータ30に供給することによりモータ30を駆動する。
【0042】
制御部120は、直流電源20の電源電圧Vdcに基づいてモータ30の最小回転数を算出する回転数演算部130をさらに備え、制御部120は、フェールセーフ制御を実行した後、モータ30の回転数が最小回転数未満になるとフェールセーフ制御を終了する。
【0043】
図1に示すように、回転数演算部130は、電源電圧、補正係数、オフセット値に基づいて、下記の式(1)により、モータ30の最大回転数と最小回転数を算出する。
【0044】
これにより、直流電源への過剰な充電を防止することができる。
【0045】
回転速度X,Y(rpm)=電源電圧(V)×補正係数(rpm/V)+オフセット値(rpm)・・・(式1)
【0046】
また、逆起電力が電源電圧よりも大きい場合には直流電源20が充電されるので、本発明では、直流電源20の不要な充電を防止するために、逆起電力が電源電圧Vdcよりも小さくなるように、補正係数およびバイアス値を設定する。
【0047】
また、本発明では、制御部120の回転数演算部130は、電源電圧に基づいてモータ30の最小回転数を算出し、制御部120は、フェールセーフ制御を実行した後、モータ30の回転数が最小回転数よりも小さい場合にフェールセーフ制御を終了する。
【0048】
これにより、最小回転数を固定値で設定する場合に比べてフェールセーフ制御を行うモータの回転数区間を小さくすることができ、フェールセーフ制御を過度に実行しないようにすることができる。
【0049】
また、回転数演算部130は、電源電圧に基づいてモータの最大回転数を算出し、制御部120は、モータ30の回転数が最大回転数よりも大きい場合にフェールセーフ制御を実行する。
【0050】
これにより、電源やモータの損傷を防止しつつ、ブレーキトルクをできるだけ発生させないようにすることができる。
【0051】
なお、フェールセーフ制御の具体的な動作、例えば、ASC制御やSD制御の具体的な動作については後に詳述する。
【0052】
図1に示すように、インバータ回路10は、直流電源20とモータ30との間に設けられ、直流電力と三相交流電力との間で電力変換を行う電力変換装置である。
【0053】
インバータ回路10は、上アーム側スイッチング素子群22と下アーム側スイッチング素子群23との直列回路で構成されている。
【0054】
上アーム側スイッチング素子群22は複数(例えば3つ)のスイッチング素子を含み、下アーム側スイッチング素子群23も複数(例えば3つ)のスイッチング素子を含む。
【0055】
また、各スイッチング素子にはダイオード5が並列に接続されている。
【0056】
一般的には、スイッチング素子はIGBTスイッチング素子であり、ダイオード5はフリーホイールダイオードであるが、いずれもこれに限定されない。
【0057】
次に、図2に示すテーブルに基づいて、本発明のインバータ回路10の制御フローを説明する。
【0058】
図2に示すように、まず、直流電源20の電圧状態が過電圧状態であるか否かを判定する。
【0059】
インバータ回路10は、直流電源20の電圧状態が過電圧状態、例えば540 V以上であると判定した場合、インバータ回路10が過電圧ASC状態となるようにASC制御を開始する。
【0060】
そして、インバータ回路10は、直流電源20の電圧状態が非過電圧状態、例えば250 V以下に戻ったと判定した場合、またはモータ30の回転数が3000 rpm以下であると判定した場合、ASC制御を終了する。
【0061】
上述したように、直流電源20の電圧状態が過電圧状態であると判定された場合には、インバータ回路10にASC制御を開始させ、その後、この場合には、モータ30の電圧状態がバッテリ中継状態であるか否かを判定する。
【0062】
モータ30の電圧状態がバッテリ中継状態であると判断され、車両制御ユニット(VCU)からフェールセーフ制御指令が送信されて高圧バッテリに異常がある場合には、モータ30の回転数が例えば4000 rpm以上になると、インバータ回路10がASC状態又はSD状態となるようにフェールセーフ制御を開始する。
【0063】
モータ30の電圧状態が非バッテリ中継状態であると判定された場合には、VCUからトルク制御指令が送信されると、通常のトルク制御が継続される。
【0064】
モータ30の電圧状態が非バッテリ中継状態であると判定された場合には、VCUからフェールセーフ制御指令が送信されたときに、さらにどのような故障状態が発生したかを判定する。
【0065】
第1のケースでは、レゾルバ故障が発生した場合には、インバータ装置10にASC制御を継続させる。
【0066】
第2のケースは、高圧バッテリ13に異常が発生した場合に、モータ30の回転数が4000rpm以上になるとインバータ装置10がフェールセーフ制御を開始し、モータ30の回転数が30000rpm以下になるとインバータ装置10がフェールセーフ制御を終了するケースである。
【0067】
第3のケースは、レゾルバ故障やBECM CAN異常以外の故障、例えば、CPU異常、IGBT素子異常、電源IC異常や電流センサ異常などが発生した場合に、モータ30の回転数が後述する判定条件1以上になるとインバータ装置10がフェールセーフ制御を開始するように切り替え、モータ30の回転数が後述する判定条件2以下になるとインバータ装置10がフェールセーフ制御を終了するように切り替えるケースである。
【0068】
また、インバータ装置10は、モータ30のVCUからトルク制御指令令和フェールセーフ制御指令が与えられていない場合には、モータ30の回転速度が後述する判定条件1以上である場合にフェールセーフ制御を開始し、モータ30の回転速度が後述する判定条件2以下である場合にフェールセーフ制御を終了する。
【0069】
次に、モータの回転数に関する判定条件1及び判定条件2について説明する。
【0070】
判定条件1は、本発明の特許請求の範囲に記載の「最小回転数」に対応しており、判定条件1を満たすモータの閾値回転数ωaは、式1に従って算出される。
【0071】
以上のように、制御部120は、フェールセーフ制御を実行した後、制御部120における回転数演算部130がモータ30の最小回転数を算出し、モータ30の回転数が最小回転数よりも小さくなるとフェールセーフ制御を終了する。
【0072】
なお、判定条件2は、本発明の特許請求の範囲に記載の「最大回転数」に対応しており、判定条件2を満たすモータの閾値回転数ωbは、式1に従って算出される。
【0073】
上述したように、制御部120の回転数演算部130は、モータ30の最大回転数を算出し、モータ30の回転数が最大回転数よりも大きくなるとフェールセーフ制御の実行を開始する。
【0074】
これにより、本発明のインバータ装置によれば、フェールセーフ制御を行うモータ30の回転数区間を狭めることができ、フェールセーフ制御を過度に実行しないようにすることができるとともに、直流電源20やモータ30の損傷を防止しつつ、制動トルクをできるだけ発生させないようにすることができる。
【0075】
図3は、本発明のフェールセーフ制御におけるモータ装置の全体構成を説明するための模式図である。
【0076】
図4は、本発明のフェールセーフ制御におけるASC制御およびSD制御を説明するための模式図である。
【0077】
図3に示すように、インバータ回路200は、上アーム側スイッチング素子群22と下アーム側スイッチング素子群23とを備えている。
【0078】
直流電源13(例えば、図示の高圧バッテリ)はインバータ回路200に高電圧を供給し、低圧電源14(例えば、図示の低圧バッテリ)は制御部120に低電圧を供給する。
【0079】
駆動回路110は、制御部120を含む制御回路によって電力が供給される。
【0080】
制御部120は、駆動回路110を制御する。
【0081】
ここでは、上アーム側スイッチング素子群22および下アーム側スイッチング素子群23のスイッチング素子としてIGBTを用いたが、これに限定されるものではない。
【0082】
制御部120は、駆動回路110を介して、上アーム側スイッチング素子群22および下アーム側スイッチング素子群23に含まれるスイッチング素子のオンオフを制御する。
【0083】
上述した制御フローによれば、モータ300の回転数が閾値を超えない場合、制御部120は、インバータ回路200が高圧バッテリ13に蓄えられた直流電力を三相交流電力に変換し、変換した三相交流電力をモータ300に供給するように、インバータ回路200における上アーム側スイッチング素子群22および下アーム側スイッチング素子群23の6つのスイッチング素子のオンオフを制御する通常のトルク制御を行う。
【0084】
モータ300の回転数が閾値を超えた場合、制御部120は通常のトルク制御を終了し、フェールセーフ制御の実行を開始する。
【0085】
フェールセーフ制御は、図4の左側に示すように、上アーム側スイッチング素子群22および下アーム側スイッチング素子群23の一方を全相オンし、他方を全相オフするASC制御であってもよい。
【0086】
ASC制御を採用することにより、モータに発生する逆起電力を還流させて電源の過充電を防止することができ、スイッチング素子や電源の故障を防止することができる。
【0087】
なお、上記フェールセーフ制御は、図4の右側部分に示すように、上アーム側スイッチング素子群22と下アーム側スイッチング素子群23とを共に全相オフさせるSD制御であってもよい。
【0088】
SD制御を採用することにより、スイッチング素子や電源の故障を防止することができる。
【0089】
モータが高速で回転すると、モータが過熱する。
【0090】
ASC制御によりモータの回転数を低下させてモータを低速回転させると、モータに急激にブレーキトルクが付与された状態となる。
【0091】
これを防止するために、本発明では、低回転数に戻るとフェールセーフ制御を終了する。
【0092】
本発明のインバータ装置によれば、モータの高速回転時にフェールセーフ制御(ASC制御またはSD制御)を行うことにより、スイッチング素子および電源の故障を防止することができる。
【0093】
本発明は、その範囲内において、実施の形態における各構成要素を自由に組み合わせたり、適宜変形したり、省略したりすることが可能であることは言うまでもない。
【0094】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記説明はあらゆる点で例示に過ぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
図示されていない無数の変形例が、本発明の範囲から逸脱することなく想定され得るものとして解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明に係るインバータ装置及びこれを備えたモータ装置は、EV(電気自動車)のモータ等の分野に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 モータ装置
10 インバータ装置
20 直流電源
30 モータ
100 インバータ回路
110 駆動回路
120 制御部
130 回転数演算部
13 高圧バッテリ
14 低圧電源
22 上アーム側スイッチング素子群
23 下アーム側スイッチング素子群
5 ダイオード
図1
図2
図3
図4