(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161885
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】免疫分析方法及び試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 33/536 20060101AFI20221014BHJP
【FI】
G01N33/536 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064108
(22)【出願日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2021065680
(32)【優先日】2021-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 公隆
(72)【発明者】
【氏名】横田 美紗
(57)【要約】
【課題】被検試料の濁りによる影響を回避して免疫比濁法の正確性を向上させることができる免疫比濁法及びそのための試薬の提供。
【解決手段】デオキシコール酸ナトリウムの存在下で抗原抗体反応を行なう免疫比濁法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デオキシコール酸ナトリウムの存在下で抗原抗体反応を行なう免疫比濁法。
【請求項2】
前記デオキシコール酸ナトリウムの抗原抗体反応時の濃度が0.05~5w/v%である請求項1に記載の免疫比濁法。
【請求項3】
前記デオキシコール酸ナトリウムの抗原抗体反応時の濃度が0.4~5w/v%である請求項1に記載の免疫比濁法。
【請求項4】
被検試料が、血清又は血漿である請求項1に記載の免疫比濁法。
【請求項5】
被検試料を、前記デオキシコール酸ナトリウムと接触させる第1工程と、次いで、第1工程後の被検試料を感作粒子又は抗血清と抗原抗体反応させる第2工程とを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の免疫比濁法。
【請求項6】
免疫比濁法を行なう抗原抗体反応系に、デオキシコール酸ナトリウムを共存させることを含む、免疫比濁法における被検試料の濁りによる干渉作用の防止方法。
【請求項7】
前記デオキシコール酸ナトリウムの抗原抗体反応時の濃度が0.05~5w/v%である請求項6に記載の防止方法。
【請求項8】
前記デオキシコール酸ナトリウムの抗原抗体反応時の濃度が0.4~5w/v%である請求項6に記載の防止方法。
【請求項9】
被検試料が、血清又は血漿である請求項6に記載の防止方法。
【請求項10】
被検試料を、前記デオキシコール酸ナトリウムと接触させる第1工程と、次いで、第1工程後の被検試料を感作粒子又は抗血清と抗原抗体反応させる第2工程とを含む請求項6~9のいずれか1項に記載の防止方法。
【請求項11】
感作粒子又は抗血清、デオキシコール酸ナトリウム及び緩衝液を含む免疫比濁法用試薬。
【請求項12】
第1試薬と第2試薬から構成され、第1試薬中にデオキシコール酸ナトリウムが含まれる、請求項11に記載の免疫比濁法用試薬。
【請求項13】
第1試薬中のデオキシコール酸の濃度が、0.075~7.5w/v%である、請求項11又は12に記載の免疫比濁法用試薬。
【請求項14】
第1試薬中のデオキシコール酸の濃度が、0.6~7.5w/v%である、請求項11又は12に記載の免疫比濁法用試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫分析方法及びそのための試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫測定法は、血清及び血漿、尿、髄液などの体液に含まれる抗原性物質又は抗体の定量方法として臨床検査に応用され、現在は生化学検査用自動分析装置に適応した方法が広く普及している。近年、臨床検査を目的とした免疫学的測定法は、不溶性担体を用いるなどして高感度化が実現されており、測定精度の向上は著しい。例えば、粒子径の異なる不溶性担体粒子を2種類以上使用する技術(特許文献1を参照)などを用いて高感度な測定を可能とする試薬が多く開発されている。
【0003】
高感度化により測定精度が向上されている試薬では、高感度であるが故に外的又は内的な要因の微かな変動が測定に影響を与えてしまうことがある。
【0004】
血液中には、通常、中性脂肪(Triglyceride)、コレステロール、リン脂質、及び遊離脂肪酸などの脂質が存在している。特にコレステロールや中性脂肪の血中濃度が高い状態が続くと、血清や血漿が濁るという現象が生じる。この原因は、高脂肪食や高コレステロール食を摂取することによる血液中の中性脂肪やコレステロールの増加、血液中の脂質を分解するリポ蛋白リパーゼの不足や機能低下など、種々の原因が考えられる。健常者でも、食後あまり時間を置かないで採血すると、血清や血漿が白濁する場合がある。
【0005】
この血清や血漿の濁りは反応系への直接作用や光学測定での使用波長に吸収を持つことにより、測定値の正確性に影響するものである。血清や血漿の白濁の測定値への干渉の回避に最も一般的な方法として界面活性剤の添加がある。しかし、この方法は多量の界面活性剤の使用が必要となるため、免疫比濁用試薬の適用に制限がある。また、被検試料を前希釈することにより干渉物質の濃度を低下させる方法もあるが、希釈操作により干渉物質と共に目的物質濃度も低下するため、試料中の低濃度物質を検出する測定系では利用が困難となる。更に、希釈操作が加わることにより測定時間も延長し、迅速性に欠けるものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、被検試料の濁りによる影響を回避して免疫比濁法の正確性を向上させることができる免疫比濁法及びそのための試薬、並びに免疫比濁法における濁りによる干渉作用の防止方法及びそのための添加剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、デオキシコール酸ナトリウムを、免疫比濁法の反応液中に共存させることにより、被検試料の濁りによる影響を回避し免疫比濁法の正確性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] デオキシコール酸ナトリウムの存在下で抗原抗体反応を行なう免疫比濁法。
[2] 前記デオキシコール酸ナトリウムの抗原抗体反応時の濃度が0.05~5w/v%である[1]の免疫比濁法。
[3] 被検試料を、前記デオキシコール酸ナトリウムと接触させる第1工程と、次いで、第1工程後の被検試料を感作粒子又は抗血清と抗原抗体反応させる第2工程とを含む[1]又は[2]の免疫比濁法。
[4] 被検試料が、血清又は血漿である[1]~[3]のいずれかの免疫比濁法。
[5] 免疫比濁法を行なう抗原抗体反応系に、デオキシコール酸ナトリウムを共存させることを含む、免疫比濁法における被検試料の濁りによる干渉作用の防止方法。
[6] 前記デオキシコール酸ナトリウムの抗原抗体反応時の濃度が0.05~5w/v%である[5]の防止方法。
[7] 被検試料を、前記デオキシコール酸ナトリウムと接触させる第1工程と、次いで、第1工程後の被検試料を感作粒子又は抗血清と抗原抗体反応させる第2工程とを含む[5]又は[6]の防止方法。
[8] 被検試料が、血清又は血漿である[5]~[7]のいずれかの防止方法。
[9] 感作粒子又は抗血清、デオキシコール酸ナトリウム及び緩衝液を含む免疫比濁法用試薬。
[10] 第1試薬と第2試薬から構成され、第1試薬中にデオキシコール酸ナトリウムが含まれる、[9]の免疫比濁法用試薬。
[11] 第1試薬中のデオキシコール酸の濃度が、0.075~7.5w/v%である、[9]又は[10]の免疫比濁法用試薬。
【0010】
あるいは、本発明は以下のとおりである。
[1] デオキシコール酸ナトリウムの存在下で抗原抗体反応を行なう免疫比濁法。
[2] 前記デオキシコール酸ナトリウムの抗原抗体反応時の濃度が0.05~5w/v%である[1]の免疫比濁法。
[3] 前記デオキシコール酸ナトリウムの抗原抗体反応時の濃度が0.4~5w/v%である[1]の免疫比濁法。
[4] 被検試料が、血清又は血漿である[1]の免疫比濁法。
[5] 被検試料を、前記デオキシコール酸ナトリウムと接触させる第1工程と、次いで、第1工程後の被検試料を感作粒子又は抗血清と抗原抗体反応させる第2工程とを含む[1]~[4]のいずれかの免疫比濁法。
[6] 免疫比濁法を行なう抗原抗体反応系に、デオキシコール酸ナトリウムを共存させることを含む、免疫比濁法における被検試料の濁りによる干渉作用の防止方法。
[7] 前記デオキシコール酸ナトリウムの抗原抗体反応時の濃度が0.05~5w/v%である[6]の防止方法。
[8] 前記デオキシコール酸ナトリウムの抗原抗体反応時の濃度が0.4~5w/v%である[6]の防止方法。
[9] 被検試料が、血清又は血漿である[6]の防止方法。
[10] 被検試料を、前記デオキシコール酸ナトリウムと接触させる第1工程と、次いで、第1工程後の被検試料を感作粒子又は抗血清と抗原抗体反応させる第2工程とを含む[6]~[9]のいずれかの防止方法。
[11] 感作粒子又は抗血清、デオキシコール酸ナトリウム及び緩衝液を含む免疫比濁法用試薬。
[12] 第1試薬と第2試薬から構成され、第1試薬中にデオキシコール酸ナトリウムが含まれる、[11]の免疫比濁法用試薬。
[13] 第1試薬中のデオキシコール酸の濃度が、0.075~7.5w/v%である、[11]又は[12]の免疫比濁法用試薬。
[14] 第1試薬中のデオキシコール酸の濃度が、0.6~7.5w/v%である、[11]又は[12]の免疫比濁法用試薬。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法に従って免疫比濁法を行なうことにより、被検試料の濁りの影響が回避され、免疫比濁法の正確性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】デオキシコール酸ナトリウム及び他の界面活性剤を添加した場合の測定結果を示す図である。
図1Aは、試料と第1試薬を反応させたときのTCを示し、
図1Bは第2試薬を添加した後のTC(タイムコース)を示す。
【
図2】デオキシコール酸ナトリウム0.4w/v%を添加した場合の測定結果を示す図である。
【
図3】デオキシコール酸ナトリウム0.5w/v%を添加した場合の測定結果を示す図である。
【
図4】デオキシコール酸ナトリウム0.6w/v%を添加した場合の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の方法について説明する。なお、本明細書中の「%」は特に断りがない限り質量基準(w/v%)を意味する。
【0014】
本発明は免疫比濁法において、被検試料の濁りによる影響を回避して免疫比濁法の正確性を向上させる方法である。本発明において、被検試料の濁りの原因となる物質として、中性脂肪(Triglyceride)、コレステロール、リン脂質、及び遊離脂肪酸などの脂質が挙げられる。
【0015】
免疫比濁法とは、抗原抗体反応により生じる、反応液の濁度を光学的な吸光度の変化に基づいて、被検試料中の抗原又は抗体を検出又は定量する方法である。測定の感度を高めるため、通常、被検試料中の目的抗原又は目的抗体と抗原抗体反応する抗体又は抗原が、ラテックス粒子のような粒子上に固定化されており(感作粒子)、抗原抗体反応により該感作粒子が凝集することに起因する光学的性質の変化に基づいて被検物質の検出又は定量が行なわれる。例えば、ラテックス凝集免疫比濁法が挙げられる。
【0016】
免疫比濁法には、ラテックス粒子、ベントナイト、コロジオン、カオリン、固定羊赤血球等などの不溶性担体が利用される。不溶性担体としては、ラテックス粒子が好ましく、ラテックス粒子としては、例えば、ポリスチレンラテックス粒子、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス粒子、ポリビニルトルエンラテックス粒子等を使用することができる。免疫比濁法において、不溶性担体は測定対象が抗原である場合には抗体を感作、すなわち担体表面に抗体を結合させ、測定対象が抗体である場合には、抗原を感作すればよい。
【0017】
抗体又は抗原を担体に感作する方法は、特に限定されず公知の方法に従えばよい。例えば、担体に物理的に吸着させてもよいし、化学的に結合させてもよい。より具体的には、例えば、抗体又は抗原と担体とを混和した後、30~37℃で1~2時間加温振盪することにより、抗体を担体に感作させることができる。担体に感作する抗体又は抗原の量は、使用する担体の粒径に応じて適宜設定することができる。抗体又は抗原を担体に感作した後、担体表面上の未感作部分をウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、ウサギ血清アルブミン、卵白アルブミン等でブロッキングするのが好ましい。抗体又は抗原を感作した担体は被検試料と反応させる時まで媒体分散液として保持しておくのが好ましい。この際、媒体としては、例えば、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液等を使用することができる。媒体中には、必要に応じてウシ血清アルブミン、ゼラチン、アラビアゴム等を添加してもよい。このように調製した抗体又は抗原感作担体を被検試料と反応させ、凝集の有無又はその程度により感作させた抗体又は抗原と被検試料中の抗原又は抗体との反応性を判別し、被検試料中の抗原又は抗体を検出することができる。
【0018】
感作粒子を用いることなく、抗原抗体反応自体による濁度変化を検出する検査方法もしばしば用いられる。本発明で言う「免疫比濁法」にはこの抗原抗体反応自体による濁度変化を検出する検査方法も包含される。
【0019】
本発明の方法に供される被検試料としては、特に限定されないが、通常、濁りにより免疫比濁法の正確性が低下する恐れがある試料が好ましく、例えば、全血、血清、血漿やその希釈物のような中性脂肪(Triglyceride)、コレステロール、リン脂質、及び遊離脂肪酸などの脂質、CM、VLDL等のリポ蛋白を含む試料を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0020】
本発明の方法においては、抗原抗体反応の際に反応系にデオキシコール酸を存在させる。本発明に用いるデオキシコール酸ナトリウムの使用量としては、抗原抗体反応を行なう反応系中の終濃度で0.05~5w/v%が好ましく、さらに好ましくは0.1~2w/v%、さらに好ましくは0.2~1w/v%である。あるいは、本発明に用いるデオキシコール酸ナトリウムの使用量としては、抗原抗体反応を行なう反応系中の終濃度で0.3w/v%以上が好ましく、さらに好ましくは0.4w/v%以上、さらに好ましくは0.4~5w/v%、さらに好ましくは0.4~2w/v%、さらに好ましくは0.4~1w/v%である。
【0021】
本発明の免疫測定法における測定対象、すなわち被検物質は特定のものに限定されず、生体試料中に存在するタンパク質、糖、その他の化合物など何でもよく、生物由来の物質であってもよい。また、これらの複合体、たとえば細菌やウィルスなどの病原性微生物、あるいは生体中の生体物質あるいは環境中の物質などであってもよい。
【0022】
免疫比濁法に用いられる感作粒子に感作される抗体又は抗原は特に限定されるものではなく、上記の被検物質と結合し得るいずれの抗体又は抗原であってもよい。また感作粒子を使用しない場合に用いられる抗血清および対応する抗原も何ら限定されるものではない。
【0023】
上記した、デオキシコール酸ナトリウムの共存下において免疫比濁法を行なうことを除き、本発明の免疫比濁法は従来と同様に行なうことができる。すなわち、反応液中の感作粒子の濃度は、特に限定されないが、通常、0.01~0.5w/v%程度であり、反応は、通常、1℃~56℃、好ましくは37℃で1分間~10分間程度行なわれる。もっとも、反応条件はこれらに限定されるものではない。また、反応媒体としては、通常、グリシン緩衝液等の各種緩衝液が用いられる。反応溶液の濁度又は吸光度を反応の開始前と開始後一定時間後測定し、又は、反応の開始前及び開始後経時的に測定し、濁度若しくは吸光度の変化の大きさ(エンドポイント法)又は変化の速度(レート法)に基づき、被検物質の検出又は定量を行なう。なお、免疫比濁法は、手動により行なうこともできるし、市販の自動装置を用いて行うこともできる。このような装置として、市販のものが種々挙げられるが、例えば株式会社日立ハイテクの自動分析装置7180形、自動分析装置7250形、自動分析装置7450形、自動分析装置7350形等が挙げられる。
【0024】
本発明の方法では、まず、デオキシコール酸ナトリウムを含む緩衝液と被検試料を反応させる第1工程を行い、次いで、感作粒子又は抗血清を添加し抗原抗体反応させる第2工程を行うことが、本発明の効果を最大限に得る上で好ましい。この場合、第1工程、第2工程とも、特に限定されないが、反応時間はそれぞれ、通常1分間~10分間、好ましくは1分間~5分間、反応温度は通常、1℃~56℃、好ましくは37℃で行なわれる。
【0025】
本発明の免疫比濁法ではデオキシコール酸ナトリウムが作用して被検試料の濁りの干渉作用(すなわち、免疫比濁法の正確性に対する悪影響)が回避される。
【0026】
本発明は、また、緩衝液と、感作粒子又は抗血清と、デオキシコール酸ナトリウムを含む免疫比濁法用試薬をも提供する。上記のように、2段階で反応を行なう場合には、第1試薬と第2試薬を用いて行えばよい。第1試薬は、緩衝液を少なくとも含み、被検試料と先に混合される。緩衝液としては、pH5.0~10の適当な緩衝液、例えば、BES、MES、TES、HEPESなどのグッドバッファー、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液等が挙げられる。第1試薬は、他の安定化試薬、保護試薬等を含んでいてもよい。第2試薬は、緩衝液並びに感作粒子若しくは抗血清を少なくとも含む。第2試薬は、他の安定化試薬、保護試薬等を含んでいてもよい。被検試料と第1試薬を混合し、その混合液に第2試薬を添加すればよい。このように、試薬は第1試薬と第2試薬との2液系試薬であることが操作性及び試薬の安定性の観点から好ましい。この場合、デオキシコール酸ナトリウムは、前記第1試薬中に含まれる。この場合、第1試薬中の各々の物質濃度は、特に限定されないが、通常、デオキシコール酸ナトリウムは、反応系中の終濃度が0.05~5w/v%となるように、好ましくは、0.1~2w/v%、さらに好ましくは0.2~1w/v%となるように含まれていればよい。あるいは、デオキシコール酸ナトリウムは、反応系中の終濃度が0.3w/v%以上となるように、好ましくは0.4w/v%以上、さらに好ましくは0.4~5w/v%、さらに好ましくは0.4~2w/v%、さらに好ましくは0.4~1w/v%となるように含まれていればよい。例えば、検体10μL、第1試薬60μL、第2試薬20μLを用いる場合の第1試薬中のデオキシコール酸ナトリウムの含有量は、0.075~7.5w/v%であり、好ましくは0.15~3w/v%、さらに好ましくは0.3~1.5w/v%である。あるいは、0.45w/v%以上であり、好ましくは0.6w/v%以上であり、さらに好ましくは0.6~7.5w/v%、さらに好ましくは0.6~3w/v%、さらに好ましくは0.6~1.5w/v%である。なお、これらの試薬の他に、希釈液を用いて被検試料を先ず希釈してもよい。
【0027】
感作粒子を用いた免疫比濁法における検出は、適当な反応容器中で被検試料数μL~数十μLに生理食塩水又は適当な緩衝液数十μL~数百μLを添加し混和し、数分間インキュベーションを行い、次いで抗体又は抗原を結合させた感作粒子を数十μL~数百μL添加し、数分間インキュベーションを行う。次いで、適当な測定波長(例えば、570nm)で吸光度を測定することにより、抗原抗体反応により生じた感作粒子の凝集による濁度を測定することができる。また、反応試料数μLに緩衝液に浮遊させた感作粒子溶液数十μL~数百μLを添加してもよい。
【0028】
この際、あらかじめ、測定対象の濃度がわかっている複数の試料を用いて測定対象濃度と凝集度を関連付けた標準曲線を作成しておくことにより、標準曲線に基づいて被験試料中の測定対象物の濃度を算出することができる。
【0029】
上記の通り、デオキシコール酸ナトリウムを免疫比濁法の反応液に共存させることにより、被検試料の濁りによる干渉作用が回避される。したがって、本発明は、免疫比濁法を行なう抗原抗体反応系に、非イオン界面活性剤を共存させることを含む、免疫比濁法における被検試料の濁りによる干渉作用の防止方法をも提供するものである。また、本発明は、デオキシコール酸ナトリウムを含む、免疫比濁法における、被検試料の濁りによる干渉作用の防止用免疫比濁法用試薬をも提供するものである。
【0030】
本発明の方法により、例えば、被検試料中にコレステロール、中性脂肪(Triglyceride)、リン脂質、及び遊離脂肪酸などの脂質が300mg/dl以上存在していても、非特異的な反応が起こることなく、被検物質を正確に測定することができる。
【0031】
さらに、本発明は前記測定試薬を含む免疫測定キットをも包含する。該免疫測定キットは、前記緩衝液組成物に抗原又は抗体を感作した粒子が含まれない場合は、抗原又は抗体を感作した粒子を別途含む、さらに陽性対照、陰性対照、説明書等を含んでいてもよい。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0033】
実施例1
(1)試薬
VZV(varicella zoster virus)培養抗原を用いて、表1に示す通りに免疫凝集法による測定試薬を調製した。
i)VZV(varicella zoster virus)培養抗原を平均粒径393 nmのポリスチレンラテックス浮遊液1mLに対し0.075 mg担持させてなる感作粒子を、緩衝液(BES、pH 7.0)に0.128w/v%となるように懸濁し、ラテックス浮遊液を調製した。
ii)BES緩衝液(pH 7.0)にBSAを0.2w/v%になるように添加し、第1試薬とした。
【0034】
(2)自動分析装置による測定
前述の試薬を用いて、精製コレステロール300mg/dLに対して試料中の各界面活性剤の濃度が1.6~8w/v%(最終濃度は、0.036~0.18w/v%)になるように調製したサンプルの測定をN=1で行った。
【0035】
【0036】
自動分析装置は日本電子株式会社BM6070によりエンドポイント法で自動測定を行った。検体溶液10.0μL(5倍希釈)に第1試薬60μLを添加し、この混合液を37℃で撹拌混合した。5分間放置後、上記で調製したラテックス浮遊液(第2試薬)20μLを添加し、更に37℃で撹拌混合した。約5分間の凝集反応を吸光度変化量として測定した。時間と吸光度変化の関係を示すTC(タイムコース)の結果を
図1に示す。
図1Aは、試料と第1試薬を反応させたときのTCを示し、
図1Bは第2試薬を添加した後のTCを示す。
【0037】
図1の結果より、デオキシコール酸ナトリウムにのみ、第1試薬とサンプルが混ざった段階で生じる濁りを消失させ、第2試薬であるラテックス浮遊液添加後の非特異的な反応を抑える効果があった。
【0038】
実施例2
(1)試薬
VZV(varicella zoster virus)培養抗原を用いて、以下の通りに免疫凝集法による測定試薬調製した。
i)VZV(varicella zoster virus)培養抗原を平均粒径393 nmのポリスチレンラテックス浮遊液1mLに対し0.075 mg担持させてなる感作粒子を、緩衝液(BES、pH 7.0)に0.128w/v%となるように懸濁し、ラテックス浮遊液を調製した。
ii)BES緩衝液(pH 7.0)にCHAPSを0.5w/v%、BSAを0.2w/v%になるように添加し、第1試薬とした。第1試薬に、濃度を振ったデオキシコール酸ナトリウムを添加し、表2に示す試薬A~Cを調製した。
【0039】
(2)自動分析装置による測定
前述の試薬を用いて、精製コレステロール300mg/dLになるように調製したサンプルと、ネガティブコントロールとしてコレステロールの代わりにDWを添加したサンプルの測定を、それぞれN=1で行った。
【0040】
【0041】
自動分析装置は日本電子株式会社BM6070によりエンドポイント法で自動測定を行った。
検体溶液10.0μL(5倍希釈)に第1試薬60μLを添加し、この混合液を37℃で撹拌混合した。5分間放置後、上記で調製したラテックス浮遊液20μLを添加し、更に37℃で撹拌混合した。約5分間の凝集反応を吸光度変化量として測定した。TCの結果を
図2、
図3及び
図4に示す。
図2はデオキシコール酸ナトリウムを0.4w/v%になるように添加したときの結果を示し、
図2Aがネガティブコントロールの結果を、
図2Bが精製コレステロールを用いた結果を示す。
図3はデオキシコール酸ナトリウムを0.5w/v%になるように添加したときの結果を示し、
図3Aがネガティブコントロールの結果を、
図3Bが精製コレステロールを用いた結果を示す。
図4はデオキシコール酸ナトリウムを0.6w/v%になるように添加したときの結果を示し、
図4Aがネガティブコントロールの結果を、
図4Bが精製コレステロールを用いた結果を示す。
【0042】
図2~4の結果より、第1試薬にデオキシコール酸ナトリウムを0.4w/v%以上添加すると、ラテックス浮遊液添加後の非特異的な反応を抑える効果があった。