▶ アトミクス株式会社の特許一覧
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161946
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】水性路面標示用塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 157/00 20060101AFI20221014BHJP
C09D 101/00 20060101ALI20221014BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20221014BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20221014BHJP
E01F 9/506 20160101ALI20221014BHJP
E01F 9/518 20160101ALI20221014BHJP
【FI】
C09D157/00
C09D101/00
C09D133/04
C09D5/00 Z
E01F9/506
E01F9/518
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126766
(22)【出願日】2022-08-09
(62)【分割の表示】P 2017109972の分割
【原出願日】2017-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2016164468
(32)【優先日】2016-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000101477
【氏名又は名称】アトミクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110733
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥野 正司
(74)【代理人】
【識別番号】100120846
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 雅也
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏憲
(72)【発明者】
【氏名】宮本 勉
(72)【発明者】
【氏名】東 弘一朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太亮
(72)【発明者】
【氏名】小川 博巳
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏行
(57)【要約】
【課題】耐久性に優れた塗膜の形成が可能な水性路面標示用塗料を提供する。
【解決手段】本発明の水性路面標示用塗料は、樹脂、及び、揮発成分としての水を含有するビヒクルと、ビヒクル中に分散された顔料と、数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロースナノファイバーと、を含み、
前記樹脂が、エチレン性不飽和基を有する化合物を重合または共重合してなる樹脂成分であり、
当該セルロースナノファイバーの固形分比率が、0.01質量%以上3.0質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂、及び、揮発成分としての水を含有するビヒクルと、前記ビヒクル中に分散された顔料と、数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロースナノファイバーと、を含み、
前記樹脂が、エチレン性不飽和基を有する化合物を重合または共重合してなる樹脂成分であり、
前記セルロースナノファイバーの固形分比率が、0.01質量%以上3.0質量%以下であることを特徴とする水性路面標示用塗料。
【請求項2】
前記樹脂が、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸ブチル及びスチレンからなる群より選ばれる少なくとも何れかのエチレン性不飽和基を有する化合物を重合または共重合してなる樹脂成分である、請求項1に記載の水性路面標示用塗料。
【請求項3】
前記樹脂が、カルボキシル基、エポキシ基、カルボニル基、アミノ基、炭素-炭素二重結合等の反応性官能基を分子内に導入した重合体である、請求項1または2に記載の水性路面標示用塗料。
【請求項4】
塗膜中の顔料容積濃度が40%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性路面標示用塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性路面標示用塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路交通に関する規制、警戒、案内、指示等の情報を適切に車両の運転手や歩行者に与えるために、各種の区画線や道路標示(以下、「路面標示」という。)が、塗料を用いて路面に施されている。
【0003】
共用道路における路面標示の施工は道路交通を規制して行われるが、交通規制時間を短縮するために、路面標示用塗料には、塗料を塗布してから乾燥するまでの時間が短いことが要求される。そのため、これまで蒸発速度の速いケトン系、エステル系、芳香族系、脂肪族系の有機溶剤を用いた溶剤系路面標示用塗料が使用されてきた。しかし、これら蒸発性の有機溶剤は、塗布後大気中に揮散することから、環境汚染のひとつとなっており、近年では、より環境汚染の少ない水性路面標示用塗料が使用されている。
【0004】
一般的に、水性路面標示用塗料に含まれている水は、溶剤系路面標示用塗料に使用されている有機溶剤よりも蒸気圧が低いため、乾燥時間が長くなる傾向がある。乾燥性の向上を図るためには、塗料中に含まれる水の含有量を少なくする必要があることから、塗膜中の顔料濃度を高く設計している。しかし、塗膜中の顔料濃度が高くなると、乾燥時間の短縮、機械的強度の向上やコスト削減等の観点では有利であるが、反面、塗膜の可撓性、柔軟性が低下するため、塗膜の耐クラック性等の耐久性の低下が懸念される。
【0005】
塗膜の可撓性や柔軟性を改善する目的で、塗膜に含まれる樹脂のガラス転移温度を低くする方法や、フタル酸エステルや高沸点溶剤等の可塑剤を添加する方法がある。これらの方法は、塗膜に可撓性や柔軟性を付与することができるが、同時に塗膜の機械的強度や乾燥時間を低下させるなどの課題がある。
【0006】
一方、近年、セルロースナノファイバーと呼ばれる微細なセルロース繊維が開発され、実用化研究が行なわれている。セルロースナノファイバーは、植物繊維をナノオーダーにまで細かく解きほぐした(解繊)ものである。このセルロースナノファイバーを塗料に添加すると、塗料の流動特性を制御することが可能となることから、塗料業界においては、主にレオロジーコントロール剤として検討されている。
【0007】
特許文献1は、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基及びカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6~2.2mmol/gであるセルロースナノファイバーを含有すると、低濃度であっても高い粘性、高いTI値(チクソトロピーインデックス)を示すことが記載されている。また、レオロジーコントロール剤として有用であり、塗料製造時の顔料分散性が向上すること、塗料保管時の沈降及び分離の防止、並びに塗料のタレ防止効果が得られること、ま
た、水溶解性がないため塗膜の耐水性を低下させないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1については、セルロースナノファイバーを添加することで、粘度の上昇やチクソトロピー性を付与し、塗装作業性やタレ防止等の塗料の流動特性を改善するものであり、塗膜の耐久性に関しては依然として改善が望まれている。
【0010】
本発明は、耐久性に優れた塗膜の形成が可能な水性路面標示用塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様である水性路面標示用塗料は、樹脂、及び、揮発成分としての水を含有するビヒクルと、前記ビヒクル中に分散された顔料と、数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロースナノファイバーと、を含み、
前記樹脂が、エチレン性不飽和基を有する化合物を重合または共重合してなる樹脂成分であり、
前記セルロースナノファイバーの固形分比率が、0.01質量%以上3.0質量%以下であることを特徴とする。
【0012】
上記の態様においては、塗膜中の顔料容積濃度を40%以上としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様である水性路面標示用塗料は、数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロースナノファイバーを含み、セルロースナノファイバーの固形分比率が、0.01質量%以上3.0質量%以下である。このような構成により、塗膜に可撓性が付与されて、塗膜の耐クラック性が向上する。よって、塗膜の耐久性を優れたものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る水性路面標示用塗料について説明する。
【0015】
本実施形態に係る水性路面標示用塗料は、揮発成分として水を含有するビヒクルと、ビヒクル中に分散された顔料と、数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロースナノファイバーと、を含み、当該セルロースナノファイバーの固形分比率が、0.01質量%以上3.0質量%以下である。
【0016】
本実施形態の水性路面標示用塗料は、車両の運転者及び歩行者に道路交通に関する規制、警戒、案内、指示等の情報を路面に表示するために用いられるものである。水性路面標示用塗料の具体例としては、JIS K 5665 1種A及びJIS K 5665 2種Aなどが挙げられる。
【0017】
なお、本実施形態において「路面」とは、車両通行のための道路舗装面、飛行機の滑走路面、工場内の通行路、自転車道、歩道等の舗装路面、及び、屋内外の駐車場等の舗装面等を意味する。また本実施形態において「舗装」とは、アスファルト舗装、コンクリート舗装及び敷石舗装等を意味する。さらに、本実施形態において「路面標示」とは、特に限定されるものではないが、路面に各種の情報の表示を目的として塗装により形成されるマーク等であり、例えば、区画線、横断歩道、はみ出し禁止等を線、文字、記号及び模様等で表した交通標示等を挙げることができる。
【0018】
セルロースナノファイバーは、軽くて強い素材であり、大きな比表面積を有しレオロジー特性を付与することが可能であること、線熱膨張係数がガラス繊維並みに小さいこと、及び、弾性率がガラス繊維より高いこと等の優れた特性を有している。また、セルロースナノファイバーは、広葉樹、針葉樹及び竹等の様々な植物原料から製造することが可能であることから、環境負荷が小さく、リサイクル性に優れた材料である。さらに、森林資源の豊富な日本にとって新たな産業となると期待されており、各分野で研究が盛んに実施されている。
【0019】
本実施形態の水性路面標示用塗料に含まれるセルロースナノファイバーは、パルプ等の植物繊維(セルロース)をナノ(1×10-9m)オーダーにまで細かく解きほぐした(解繊した)ものである。セルロースを解繊する方法としては、セルロースの水懸濁液等を高圧ホモジナイザーやビーズミル等を用いて機械的に解繊する方法等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0020】
セルロースナノファイバーは、顔料とともにビヒクル中に分散されて含まれている。水性路面標示用塗料に含まれるセルロースナノファイバーの数平均繊維径は2nm以上500nm以下であり、水性路面標示用塗料におけるセルロースナノファイバーの固形分比率は、0.01質量%以上3.0質量%以下である。セルロースナノファイバーの数平均繊維径及び固形分比率を上記の範囲とすると、本実施形態の水性路面標示用塗料を用いて形成された塗膜に可撓性が付与されて、塗膜の耐クラック性が向上する。よって、塗膜の耐久性を優れたものとすることができる。なお、「塗膜」とは、塗装された水性路面標示用塗料からビヒクルに含まれる揮発成分が揮発して乾燥したもの、つまり、水性路面標示用塗料中の固形成分が固まったものである。
【0021】
上記のような観点から、水性路面標示用塗料におけるセルロースナノファイバーの固形分比率は、0.03質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましい。また、セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、2nm以上400nm以下であることがより好ましく、2nm以上300nm以下であることがさらに好ましい。セルロースナノファイバーの数平均繊維径が大きくなると、単位質量当たりのセルロースナノファイバーの数が減少して、セルロースナノファイバーによるネットワーク構造が形成しにくくなり、充分な補強効果が得られないため、上記範囲が好ましい。また、セルロースナノファイバーの長さは、100nm以上10μm以下であることが好ましい。
【0022】
また、本実施形態の水性路面標示用塗料は、顔料容積濃度(PVC)が40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。なお、本実施形態の顔料容積濃度(PVC)は、ビヒクルに含まれる樹脂、顔料、添加剤及びセルロースナノファイバー等の固形成分の合計に対する、樹脂及び添加剤以外の固形成分、つまり、顔料及びセルロースナノファイバーの合計の比率を意味する。
【0023】
本実施形態の水性路面標示用塗料にセルロースナノファイバーを添加する目的で用いられるセルロースナノファイバー添加剤の形状としては、特に限定されるものではないが、例えば、セルロースナノファイバーを水性媒体等に分散させて液状としたものや、ペースト状、ゲル状及び固形状等任意の形状のセルロースナノファイバー添加剤を使用することができる。例えば、セルロースナノファイバーの含有量が1質量%以上10質量%以下となるように調整された水分散液をセルロースナノファイバー添加剤として用いることができる。
【0024】
しかし、セルロースナノファイバー添加剤におけるセルロースナノファイバーの濃度は
特に限定されるものではなく、セルロースナノファイバーの含有量が1質量%未満であってもよく、また、10質量%超過であってもよく、さらにより高濃度のものを用いてもよい。なお、セルロースナノファイバー添加剤の水性路面標示用塗料への添加量は、水性路面標示用塗料におけるセルロースナノファイバーの固形分比率が0.01質量%以上3.0質量%以下となる様に適宜調整される。
【0025】
ビヒクルは、樹脂と、揮発成分として水と、を含むが、必要に応じて単独又は2種類以上の有機溶剤を含んでいてもよい。有機溶剤としては、水性路面標示用塗料の安定性を阻害するものでなければ特に限定されるものはないが、水溶性の有機溶剤が好ましい。水性路面標示用塗料中に含まれる有機溶剤の含有可能量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは7質量%以下であり、さらに好ましくは5%以下である。
【0026】
また、ビヒクルに含まれる樹脂としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸ブチル、スチレン等のエチレン性不飽和基を有する化合物を重合または共重合してなる樹脂成分、例えば、アクリル樹脂を挙げることができる。また、樹脂は、カルボキシル基、エポキシ基、カルボニル基、アミノ基、炭素-炭素二重結合等の反応性官能基を分子内に導入した重合体であってもよい。さらに、ビヒクルは、水分散ポリマーを用いてもよく、水溶性ポリマーとの混合物を用いてもよい。
【0027】
ビヒクルの含有量は、所望とする塗料粘度や塗膜物性等により適宜調整され、特に限定されるものではないが、塗膜中の顔料容積濃度(PVC)が40%以上となるように調整されることが好ましい。
【0028】
顔料としては、塗料に一般的に使用されている顔料を挙げることができ、水性路面標示用塗料の安定性を阻害するものでなければ特に限定されるものではないが、例えば、二酸化チタン、黄鉛や酸化鉄等の無機顔料、アゾ顔料やフタロシアニン顔料等の有機顔料等の各種着色顔料、及び、炭酸カルシウム、タルク、沈降性硫酸バリウム等の体質顔料を挙げることができる。
【0029】
顔料の含有量は、特に限定されるものではないが、塗膜中の顔料容積濃度(PVC)が40%以上となるように調整されることが好ましい。
【0030】
また、水性路面標示用塗料には、塗装作業性、着色、塗料物性及び塗膜物性等を向上させる目的で、各種添加剤を適宜選択し、それぞれ単独、あるいは2種以上を組み合わせて添加することができる。添加剤としては、例えば、塗料に一般的に使用されている分散剤、湿潤剤、沈降防止剤、消泡剤、増粘剤及び造膜助剤等を挙げることができる。
【0031】
添加剤の含有量は、上記目的を達成する範囲で添加するものであり、特に限定されるものではない。
【0032】
次に、本実施形態の水性路面標示用塗料の製造方法について説明する。まず、揮発成分として水を含有するビヒクルに対して顔料を添加し、ディゾルバーを用いて500rpm以上800rpm以下で10分以上30分以下攪拌する。次に、顔料が添加された揮発成分として水を含有するビヒクルに対して、水性路面標示用塗料におけるセルロースナノファイバーの固形分比率が0.01質量%以上3.0質量%以下となるように、数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロースナノファイバーを添加して、ディゾルバーを用いて500rpm以上800rpm以下で5分以上30分以下攪拌する。これにより水性路面標示用塗料が得られる。
【0033】
また、上記の攪拌後、ディゾルバーを用いて、さらに1500rpm以上3000rpm以下で15分以上60分以下撹拌することがより好ましい。このように水性路面標示用塗料を一定の速度で一定時間攪拌した後、さらにそれより高速で一定時間攪拌して調整することにより、セルロースナノファイバーの固形分比率が低い範囲においても、塗膜に可撓性を付与することができ、塗膜の耐クラック性を向上させることができる。よって、セルロースナノファイバーの固形分比率が低い範囲においても、塗膜の耐久性を優れたものとすることができる。また、可撓性が付与されることにより、耐チッピング磨耗性も向上する。なお、各種添加剤を添加する場合には、ビヒクル及び顔料の攪拌後、セルロースナノファイバーを添加する前に添加しても良い。
【0034】
本実施形態の水性路面標示用塗料は、上述のように、揮発成分として水を含有するビヒクルと、ビヒクル中に分散された顔料と、数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロースナノファイバーと、を含み、セルロースナノファイバーの固形分比率が、0.01質量%以上3.0質量%以下である。このような構成により、塗膜に可撓性が付与されて、塗膜の耐クラック性が向上する。よって、塗膜の耐久性を優れたものとすることができる。また、可撓性が付与されることにより、耐チッピング磨耗性も向上する。
【0035】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、当該実施形態に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお本発明の水性路面標示用塗料の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例0036】
以下に本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
<水性路面標示用塗料の調製>
(実施例1)
表1に示す配合で基本塗料を調整した。
基本塗料100質量部に対して、セルロースナノファイバー(第一工業製薬社製のレオクリスタI-2P、セルロースナノファイバーの固形分比率:2質量%、繊維径3nm~4nm)7.9質量部を添加して、ディゾルバーを用いて800rpmで30分攪拌し、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.2質量%となるように調整し、実施例1の水性路面標示用塗料を調製した。
【0038】
【0039】
(注1)ダウ・ケミカル日本社製:アクリル樹脂エマルション(加熱残分:50%)
(注2)サンノプコ社製:顔料分散剤
(注3)サンノプコ社製:消泡剤
(注4)備北粉化工業社製:重質炭酸カルシウム
(注5)デュポン社製:二酸化チタン
(注6)凍結安定化剤
(注7)造膜助剤、可塑剤
(注8)ダウ・ケミカル日本社製:増粘剤
【0040】
(実施例2)
添加するセルロースナノファイバーを4.0質量部とし、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.1質量%となるようにした以外は上記実施例1の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、実施例2を調製した。
【0041】
(実施例3)
基本塗料100質量部に対して、セルロースナノファイバー(第一工業製薬社製のレオクリスタI-2SP、セルロースナノファイバーの固形分比率:2質量%、繊維径3nm~4nm)2.0質量部を添加して、ディゾルバーを用いて800rpmで30分攪拌した後、さらに3000rpmで60分撹拌し、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.05質量%となるように調整し、実施例3の水性路面標示用塗料を調製した。
【0042】
(実施例4)
添加するセルロースナノファイバーを1.2質量部とし、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.03質量%となるようにした以外は上記実施例3の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、実施例4を調製した。
【0043】
(実施例5)
添加するセルロースナノファイバーを0.4質量部とし、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.01質量%となるようにした以外は上記実施例3の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、実施例5を調製した。
【0044】
(実施例6)
基本塗料100質量部に対して、セルロースナノファイバー(モリマシナリー社製のCNF100、セルロースナノファイバーの固形分比率:5質量%、繊維径:30nm~300nm)3.1質量部を添加して、ディゾルバーを用いて800rpmで30分攪拌し、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.2質量%となるように調整し、実施例6を調製した。
【0045】
(実施例7)
添加するセルロースナノファイバーを12.4質量部とし、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.8質量%となるようにした以外は上記実施例6の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、実施例7を調製した。
【0046】
(実施例8)
基本塗料100質量部に対して、セルロースナノファイバー(スギノマシン社製のAMa-10002、セルロースナノファイバーの固形分比率:2質量%、繊維径20nm~50nm)7.9質量部を添加して、ディゾルバーを用いて800rpmで30分攪拌し、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.2質量%となるように調整し、実施例8を調製した。
【0047】
(実施例9)
添加するセルロースナノファイバーを117.8質量部とし、セルロースナノファイバーの固形分比率が3.1質量%となるようにした以外は上記実施例8の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、実施例9を調製した。
【0048】
(実施例10)
基本塗料100質量部に対して、セルロースナノファイバー(スギノマシン社製のTMa-10002、セルロースナノファイバーの固形分比率:2.1質量%、繊維径20nm~50nm)7.9質量部を添加して、ディゾルバーを用いて800rpmで30分攪拌し、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.2質量%となるように調整し、実施例10を調製した。
【0049】
(実施例11)
添加するセルロースナノファイバーを39.3質量部とし、セルロースナノファイバーの固形分比率が1.1質量%となるようにした以外は上記実施例10の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、実施例11を調製した。
【0050】
(実施例12)
添加するセルロースナノファイバーを78.5質量部とし、セルロースナノファイバーの固形分比率が2.2質量%となるようにした以外は上記実施例10の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、実施例12を調製した。
【0051】
(比較例1)
基本塗料を比較例1とした。
【0052】
(比較例2)
添加するセルロースナノファイバーを62.0質量部とし、セルロースナノファイバーの固形分比率が4.0質量%となるようにした以外は上記実施例6の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、比較例2を調製した。
【0053】
(比較例3)
セルロースナノファイバーに代えて、造膜助剤、可塑剤としてのベンジルアルコールを
5質量部とした以外は上記比較例1の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、比較例3を調製した。
【0054】
(比較例4)
セルロースナノファイバーに代えて、造膜助剤、可塑剤としてのテキサノールを5質量部とした以外は上記比較例1の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、比較例4を調製した。
【0055】
なお、実施例1から12及び比較例1から4の水性路面標示用塗料における組成、セルロースナノファイバーの固形分比率、顔料容積濃度及び塗料粘度を表2に示した。
【0056】
【0057】
<各種試験>
1.外観試験
170mm×150mmの大きさのアスファルトフェルトの片面に、乾燥塗膜が200±40μmとなるようにフィルムアプリケータB形を用いて実施例及び比較例の水性路面標示用塗料を塗布し、24時間後の塗膜状態を確認した。結果を表5に示す。塗膜の外観が正常であるものに○印を、若干異常が認められるものに△印を、異常が認められるものに×印を表5に付した。
【0058】
2.塗装作業性試験
450mm×900mmの大きさのアスファルトフェルトを床に貼りつけ、粘着テープを用いて幅150mm、長さ750mmの大きさで養生した。そこに、実施例及び比較例の水性路面標示用塗料をインダストリーコーワ社製のスモールローラーで塗布し、作業性を確認した。結果を表5に示す。塗装作業性が良好であるものに○印を、やや作業性に劣るものに△印を、塗装作業に困難を感じるものに×印を表5に付した。
【0059】
3.耐屈曲性試験
大きさ70mm×150mm、厚さ0.3mmのブリキ板に、乾燥膜厚が100±20μmとなるようにフィルムアプリケータB形を用いて実施例及び比較例の水性路面標示用塗料を塗布し、23℃の雰囲気下で18時間養生後、105℃に設定した乾燥器内で5時間加熱し、その後、さらに23℃の雰囲気下で24時間養生した。なお、105℃で加熱したのは、水が可塑剤として作用するため、塗膜中の残存水を除去するのが目的である。このようにして得られた試験片を用いて、23℃、湿度50%の環境下でマンドレル屈曲試験を実施した。マンドレル棒の径は10mm、折り曲げ角度は45度で実施した。結果を表5に示す。塗膜にクラックが発生しない若しくは微かにクラックが認められるものに○印を、クラックが認められるものに△印を、大きなクラックが認められるものに×印を表5に付した。
【0060】
4.耐クラック性試験
アスファルトブロックは、JIS K 2207に規定する針入度60~80のストレートアスファルトと、JIS Z 8801-1に規定するふるい網で表3に適合するようにふるい分けした骨材と、を表4に示す割合で配合した後、金属製型枠に充填し、ローラーコンパクタを用いて、140℃~160℃で、線圧29.4kN/mで作製した、かさ密度(20℃)2.3~2.6、寸法300mm×300mm×50mmのものを用いた。
【0061】
【0062】
【0063】
アスファルトブロックの片面に、乾燥膜厚が200±40mmになるようにフィルムアプリケータB形を用いて実施例及び比較例の水性路面標示用塗料を塗布し、塗面を上向きにして乾燥した。23℃の雰囲気下で24時間養生後に50℃に設定した乾燥器内で3日間乾燥し、その後、さらに23℃の雰囲気下で24時間養生した後、塗膜状態を確認した。アスファルトブロックを型枠に入れずにフリーな状態で50℃で養生したのは、夏季の路面を想定し、アスファルトブロックが軟化する条件で試験を行うためである。結果を表5に示す。塗膜にクラックが見られないものに○印を、わずかにクラックが見られるものに△印を、クラックが見られるものに×印を表5に付した。
【0064】
5.耐汚染性試験
70mm×150mmの大きさのブリキ板の片面に、乾燥膜厚が100±20μmになるようにフィルムアプリケータB形を用いて実施例及び比較例の水性路面標示用塗料を塗布し、試験板を作製した。23℃の雰囲気下で1日養生後に、塗膜上に30mm×30mmの大きさに養生テープでマスキングを行い、そこに汚染物質として泥水1mlを塗り広げた。23℃の雰囲気下で2時間放置して水を蒸発させ、その後清水で洗浄した。洗浄後、塗膜の汚染状況を目視で確認した。なお、汚染物質の泥水は、園芸用赤玉土を乳鉢で粉砕した後、目開き100メッシュの篩で通過したものを、濃度が10質量%になるように清水で希釈して作製した。結果を表5に示す。塗膜に汚れが付着しない若しくは微かに付着するものに○印を、汚れが付着するが塗膜の色が白と認識できるものに△印を、汚染物質が付着し除去不能なものに×印を表5に付した。
【0065】
6.塗膜の粘着性試験
70mm×150mmの大きさのブリキ板の片面に、乾燥膜厚が100±20μmになるようにフィルムアプリケータB形を用いて実施例及び比較例の水性路面標示用塗料を塗布し、試験板を作製した。23℃の雰囲気下で1日養生後に、指で塗膜に触れ塗膜の粘着状態を確認した。結果を表5に示す。塗膜の粘着性が認められないものに○印、微かに粘着性が認められるものに△印、粘着性が認められるものに×印を表5に付した。
【0066】
【0067】
本発明の水性路面標示用塗料を用いると、塗膜に可撓性が付与されて、塗膜の耐クラック性が向上する。よって、塗膜の耐久性を優れたものとすることができる。さらに、可撓性が付与されることにより、車両走行時に受ける衝撃に対する耐性、いわゆる耐チッピング磨耗性も向上することが期待できる。また、アスファルト舗装は、夏季においては高温となり軟化しやすく、特に舗装厚さが小さい舗装や転圧荷重が小さい部分補修舗装に関してはさらに軟化しやすくなる。そこで、本発明の水性路面標示用塗料を用いると、アスファルト舗装が軟化することによって生じる塗膜のクラックの発生を抑制することができる。さらに、塗膜の耐久性を優れたものとできることから、経済的効果も期待できる。
【手続補正書】
【提出日】2022-09-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂、及び、揮発成分としての水を含有するビヒクルと、前記ビヒクル中に分散された顔料と、数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロースナノファイバーと、を含み、
前記樹脂が、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸ブチル及びスチレンからなる群より選ばれる少なくとも何れかのエチレン性不飽和基を有する化合物を重合または共重合してなる樹脂成分であり、
前記セルロースナノファイバーの固形分比率が、0.01質量%以上3.0質量%以下であり、
顔料容積濃度が40%以上であることを特徴とする水性路面標示用塗料。
【請求項2】
前記樹脂がアクリル樹脂である、請求項1に記載の水性路面標示用塗料。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性路面標示用塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路交通に関する規制、警戒、案内、指示等の情報を適切に車両の運転手や歩行者に与えるために、各種の区画線や道路標示(以下、「路面標示」という。)が、塗料を用いて路面に施されている。
【0003】
共用道路における路面標示の施工は道路交通を規制して行われるが、交通規制時間を短縮するために、路面標示用塗料には、塗料を塗布してから乾燥するまでの時間が短いことが要求される。そのため、これまで蒸発速度の速いケトン系、エステル系、芳香族系、脂肪族系の有機溶剤を用いた溶剤系路面標示用塗料が使用されてきた。しかし、これら蒸発性の有機溶剤は、塗布後大気中に揮散することから、環境汚染のひとつとなっており、近年では、より環境汚染の少ない水性路面標示用塗料が使用されている。
【0004】
一般的に、水性路面標示用塗料に含まれている水は、溶剤系路面標示用塗料に使用されている有機溶剤よりも蒸気圧が低いため、乾燥時間が長くなる傾向がある。乾燥性の向上を図るためには、塗料中に含まれる水の含有量を少なくする必要があることから、塗膜中の顔料濃度を高く設計している。しかし、塗膜中の顔料濃度が高くなると、乾燥時間の短縮、機械的強度の向上やコスト削減等の観点では有利であるが、反面、塗膜の可撓性、柔軟性が低下するため、塗膜の耐クラック性等の耐久性の低下が懸念される。
【0005】
塗膜の可撓性や柔軟性を改善する目的で、塗膜に含まれる樹脂のガラス転移温度を低くする方法や、フタル酸エステルや高沸点溶剤等の可塑剤を添加する方法がある。これらの方法は、塗膜に可撓性や柔軟性を付与することができるが、同時に塗膜の機械的強度や乾燥時間を低下させるなどの課題がある。
【0006】
一方、近年、セルロースナノファイバーと呼ばれる微細なセルロース繊維が開発され、実用化研究が行なわれている。セルロースナノファイバーは、植物繊維をナノオーダーにまで細かく解きほぐした(解繊)ものである。このセルロースナノファイバーを塗料に添加すると、塗料の流動特性を制御することが可能となることから、塗料業界においては、主にレオロジーコントロール剤として検討されている。
【0007】
特許文献1は、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基及びカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6~2.2mmol/gであるセルロースナノファイバーを含有すると、低濃度であっても高い粘性、高いTI値(チクソトロピーインデックス)を示すことが記載されている。また、レオロジーコントロール剤として有用であり、塗料製造時の顔料分散性が向上すること、塗料保管時の沈降及び分離の防止、並びに塗料のタレ防止効果が得られること、また、水溶解性がないため塗膜の耐水性を低下させないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1については、セルロースナノファイバーを添加することで、粘度の上昇やチクソトロピー性を付与し、塗装作業性やタレ防止等の塗料の流動特性を改善するものであり、塗膜の耐久性に関しては依然として改善が望まれている。
【0010】
本発明は、耐久性に優れた塗膜の形成が可能な水性路面標示用塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様である水性路面標示用塗料は、樹脂、及び、揮発成分として水を含有するビヒクルと、前記ビヒクル中に分散された顔料と、数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロースナノファイバーと、を含み、
前記樹脂が、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸ブチル及びスチレンからなる群より選ばれる少なくとも何れかのエチレン性不飽和基を有する化合物を重合または共重合してなる樹脂成分であり、
前記セルロースナノファイバーの固形分比率が、0.01質量%以上3.0質量%以下であり、
顔料容積濃度が40%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様である水性路面標示用塗料は、数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロースナノファイバーを含み、セルロースナノファイバーの固形分比率が、0.01質量%以上3.0質量%以下であり、顔料容積濃度が40%以上である。このような構成により、塗膜に可撓性が付与されて、塗膜の耐クラック性が向上する。よって、塗膜の耐久性を優れたものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る水性路面標示用塗料について説明する。
【0014】
本実施形態に係る水性路面標示用塗料は、揮発成分として水を含有するビヒクルと、ビヒクル中に分散された顔料と、数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロースナノファイバーと、を含み、当該セルロースナノファイバーの固形分比率が、0.01質量%以上3.0質量%以下であり、顔料容積濃度が40%以上である。
【0015】
本実施形態の水性路面標示用塗料は、車両の運転者及び歩行者に道路交通に関する規制、警戒、案内、指示等の情報を路面に表示するために用いられるものである。水性路面標示用塗料の具体例としては、JIS K 5665 1種A及びJIS K 5665 2種Aなどが挙げられる。
【0016】
なお、本実施形態において「路面」とは、車両通行のための道路舗装面、飛行機の滑走路面、工場内の通行路、自転車道、歩道等の舗装路面、及び、屋内外の駐車場等の舗装面等を意味する。また本実施形態において「舗装」とは、アスファルト舗装、コンクリート舗装及び敷石舗装等を意味する。さらに、本実施形態において「路面標示」とは、特に限定されるものではないが、路面に各種の情報の表示を目的として塗装により形成されるマーク等であり、例えば、区画線、横断歩道、はみ出し禁止等を線、文字、記号及び模様等で表した交通標示等を挙げることができる。
【0017】
セルロースナノファイバーは、軽くて強い素材であり、大きな比表面積を有しレオロジー特性を付与することが可能であること、線熱膨張係数がガラス繊維並みに小さいこと、及び、弾性率がガラス繊維より高いこと等の優れた特性を有している。また、セルロースナノファイバーは、広葉樹、針葉樹及び竹等の様々な植物原料から製造することが可能であることから、環境負荷が小さく、リサイクル性に優れた材料である。さらに、森林資源の豊富な日本にとって新たな産業となると期待されており、各分野で研究が盛んに実施されている。
【0018】
本実施形態の水性路面標示用塗料に含まれるセルロースナノファイバーは、パルプ等の植物繊維(セルロース)をナノ(1×10
-9
m)オーダーにまで細かく解きほぐした(解繊した)ものである。セルロースを解繊する方法としては、セルロースの水懸濁液等を高圧ホモジナイザーやビーズミル等を用いて機械的に解繊する方法等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0019】
セルロースナノファイバーは、顔料とともにビヒクル中に分散されて含まれている。水性路面標示用塗料に含まれるセルロースナノファイバーの数平均繊維径は2nm以上500nm以下であり、水性路面標示用塗料におけるセルロースナノファイバーの固形分比率は、0.01質量%以上3.0質量%以下である。セルロースナノファイバーの数平均繊維径及び固形分比率を上記の範囲とすると、本実施形態の水性路面標示用塗料を用いて形成された塗膜に可撓性が付与されて、塗膜の耐クラック性が向上する。よって、塗膜の耐久性を優れたものとすることができる。なお、「塗膜」とは、塗装された水性路面標示用塗料からビヒクルに含まれる揮発成分が揮発して乾燥したもの、つまり、水性路面標示用塗料中の固形成分が固まったものである。
【0020】
上記のような観点から、水性路面標示用塗料におけるセルロースナノファイバーの固形分比率は、0.03質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましい。また、セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、2nm以上400nm以下であることがより好ましく、2nm以上300nm以下であることがさらに好ましい。セルロースナノファイバーの数平均繊維径が大きくなると、単位質量当たりのセルロースナノファイバーの数が減少して、セルロースナノファイバーによるネットワーク構造が形成しにくくなり、充分な補強効果が得られないため、上記範囲が好ましい。また、セルロースナノファイバーの長さは、100nm以上10μm以下であることが好ましい。
【0021】
また、本実施形態の水性路面標示用塗料は、顔料容積濃度(PVC)が40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。なお、顔料容積濃度(PVC)は、ビヒクルに含まれる樹脂、顔料、添加剤及びセルロースナノファイバー等の固形成分の合計に対する、樹脂及び添加剤以外の固形成分、つまり、顔料及びセルロースナノファイバーの合計の比率を意味する。
【0022】
本実施形態の水性路面標示用塗料にセルロースナノファイバーを添加する目的で用いられるセルロースナノファイバー添加剤の形状としては、特に限定されるものではないが、例えば、セルロースナノファイバーを水性媒体等に分散させて液状としたものや、ペースト状、ゲル状及び固形状等任意の形状のセルロースナノファイバー添加剤を使用することができる。例えば、セルロースナノファイバーの含有量が1質量%以上10質量%以下となるように調整された水分散液をセルロースナノファイバー添加剤として用いることができる。
【0023】
しかし、セルロースナノファイバー添加剤におけるセルロースナノファイバーの濃度は
特に限定されるものではなく、セルロースナノファイバーの含有量が1質量%未満であってもよく、また、10質量%超過であってもよく、さらにより高濃度のものを用いてもよい。なお、セルロースナノファイバー添加剤の水性路面標示用塗料への添加量は、水性路面標示用塗料におけるセルロースナノファイバーの固形分比率が0.01質量%以上3.0質量%以下となる様に適宜調整される。
【0024】
ビヒクルは、樹脂と、揮発成分として水と、を含むが、必要に応じて単独又は2種類以上の有機溶剤を含んでいてもよい。有機溶剤としては、水性路面標示用塗料の安定性を阻害するものでなければ特に限定されるものはないが、水溶性の有機溶剤が好ましい。水性路面標示用塗料中に含まれる有機溶剤の含有可能量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは7質量%以下であり、さらに好ましくは5%以下である。
【0025】
また、ビヒクルに含まれる樹脂としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸ブチル、スチレン等のエチレン性不飽和基を有する化合物を重合または共重合してなる樹脂成分、例えば、アクリル樹脂を挙げることができる。また、樹脂は、カルボキシル基、エポキシ基、カルボニル基、アミノ基、炭素-炭素二重結合等の反応性官能基を分子内に導入した重合体であってもよい。さらに、ビヒクルは、水分散ポリマーを用いてもよく、水溶性ポリマーとの混合物を用いてもよい。
【0026】
ビヒクルの含有量は、所望とする塗料粘度や塗膜物性等により適宜調整され、特に限定されるものではないが、顔料容積濃度(PVC)が40%以上となるように調整されることが好ましい。
【0027】
顔料としては、塗料に一般的に使用されている顔料を挙げることができ、水性路面標示用塗料の安定性を阻害するものでなければ特に限定されるものではないが、例えば、二酸化チタン、黄鉛や酸化鉄等の無機顔料、アゾ顔料やフタロシアニン顔料等の有機顔料等の各種着色顔料、及び、炭酸カルシウム、タルク、沈降性硫酸バリウム等の体質顔料を挙げることができる。
【0028】
顔料の含有量は、特に限定されるものではないが、顔料容積濃度(PVC)が40%以上となるように調整されることが好ましい。
【0029】
また、水性路面標示用塗料には、塗装作業性、着色、塗料物性及び塗膜物性等を向上させる目的で、各種添加剤を適宜選択し、それぞれ単独、あるいは2種以上を組み合わせて添加することができる。添加剤としては、例えば、塗料に一般的に使用されている分散剤、湿潤剤、沈降防止剤、消泡剤、増粘剤及び造膜助剤等を挙げることができる。
【0030】
添加剤の含有量は、上記目的を達成する範囲で添加するものであり、特に限定されるものではない。
【0031】
次に、本実施形態の水性路面標示用塗料の製造方法について説明する。まず、揮発成分として水を含有するビヒクルに対して顔料を添加し、ディゾルバーを用いて500rpm以上800rpm以下で10分以上30分以下攪拌する。次に、顔料が添加された揮発成分として水を含有するビヒクルに対して、水性路面標示用塗料におけるセルロースナノファイバーの固形分比率が0.01質量%以上3.0質量%以下となるように、数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロースナノファイバーを添加して、ディゾルバーを用いて500rpm以上800rpm以下で5分以上30分以下攪拌する。これにより水性路面標示用塗料が得られる。
【0032】
また、上記の攪拌後、ディゾルバーを用いて、さらに1500rpm以上3000rpm以下で15分以上60分以下撹拌することがより好ましい。このように水性路面標示用塗料を一定の速度で一定時間攪拌した後、さらにそれより高速で一定時間攪拌して調整することにより、セルロースナノファイバーの固形分比率が低い範囲においても、塗膜に可撓性を付与することができ、塗膜の耐クラック性を向上させることができる。よって、セルロースナノファイバーの固形分比率が低い範囲においても、塗膜の耐久性を優れたものとすることができる。また、可撓性が付与されることにより、耐チッピング磨耗性も向上する。なお、各種添加剤を添加する場合には、ビヒクル及び顔料の攪拌後、セルロースナノファイバーを添加する前に添加しても良い。
【0033】
本実施形態の水性路面標示用塗料は、上述のように、揮発成分として水を含有するビヒクルと、ビヒクル中に分散された顔料と、数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロースナノファイバーと、を含み、セルロースナノファイバーの固形分比率が、0.01質量%以上3.0質量%以下である。このような構成により、塗膜に可撓性が付与されて、塗膜の耐クラック性が向上する。よって、塗膜の耐久性を優れたものとすることができる。また、可撓性が付与されることにより、耐チッピング磨耗性も向上する。
【0034】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、当該実施形態に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお本発明の水性路面標示用塗料の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例0035】
以下に本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
<水性路面標示用塗料の調製>
(実施例1)
表1に示す配合で基本塗料を調整した。
基本塗料100質量部に対して、セルロースナノファイバー(第一工業製薬社製のレオクリスタI-2P、セルロースナノファイバーの固形分比率:2質量%、繊維径3nm~4nm)7.9質量部を添加して、ディゾルバーを用いて800rpmで30分攪拌し、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.2質量%となるように調整し、実施例1の水性路面標示用塗料を調製した。
【0037】
【0038】
(注1)ダウ・ケミカル日本社製:アクリル樹脂エマルション(加熱残分:50%)
(注2)サンノプコ社製:顔料分散剤
(注3)サンノプコ社製:消泡剤
(注4)備北粉化工業社製:重質炭酸カルシウム
(注5)デュポン社製:二酸化チタン
(注6)凍結安定化剤
(注7)造膜助剤、可塑剤
(注8)ダウ・ケミカル日本社製:増粘剤
【0039】
(実施例2)
添加するセルロースナノファイバーを4.0質量部とし、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.1質量%となるようにした以外は上記実施例1の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、実施例2を調製した。
【0040】
(実施例3)
基本塗料100質量部に対して、セルロースナノファイバー(第一工業製薬社製のレオクリスタI-2SP、セルロースナノファイバーの固形分比率:2質量%、繊維径3nm~4nm)2.0質量部を添加して、ディゾルバーを用いて800rpmで30分攪拌した後、さらに3000rpmで60分撹拌し、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.05質量%となるように調整し、実施例3の水性路面標示用塗料を調製した。
【0041】
(実施例4)
添加するセルロースナノファイバーを1.2質量部とし、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.03質量%となるようにした以外は上記実施例3の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、実施例4を調製した。
【0042】
(実施例5)
添加するセルロースナノファイバーを0.4質量部とし、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.01質量%となるようにした以外は上記実施例3の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、実施例5を調製した。
【0043】
(実施例6)
基本塗料100質量部に対して、セルロースナノファイバー(モリマシナリー社製のCNF100、セルロースナノファイバーの固形分比率:5質量%、繊維径:30nm~300nm)3.1質量部を添加して、ディゾルバーを用いて800rpmで30分攪拌し、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.2質量%となるように調整し、実施例6を調製した。
【0044】
(実施例7)
添加するセルロースナノファイバーを12.4質量部とし、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.8質量%となるようにした以外は上記実施例6の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、実施例7を調製した。
【0045】
(実施例8)
基本塗料100質量部に対して、セルロースナノファイバー(スギノマシン社製のAMa-10002、セルロースナノファイバーの固形分比率:2質量%、繊維径20nm~50nm)7.9質量部を添加して、ディゾルバーを用いて800rpmで30分攪拌し、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.2質量%となるように調整し、実施例8を調製した。
【0046】
(実施例9)
添加するセルロースナノファイバーを117.8質量部とし、セルロースナノファイバーの固形分比率が3.1質量%となるようにした以外は上記実施例8の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、実施例9を調製した。
【0047】
(実施例10)
基本塗料100質量部に対して、セルロースナノファイバー(スギノマシン社製のTMa-10002、セルロースナノファイバーの固形分比率:2.1質量%、繊維径20nm~50nm)7.9質量部を添加して、ディゾルバーを用いて800rpmで30分攪拌し、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.2質量%となるように調整し、実施例10を調製した。
【0048】
(実施例11)
添加するセルロースナノファイバーを39.3質量部とし、セルロースナノファイバーの固形分比率が1.1質量%となるようにした以外は上記実施例10の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、実施例11を調製した。
【0049】
(実施例12)
添加するセルロースナノファイバーを78.5質量部とし、セルロースナノファイバーの固形分比率が2.2質量%となるようにした以外は上記実施例10の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、実施例12を調製した。
【0050】
(比較例1)
基本塗料を比較例1とした。
【0051】
(比較例2)
添加するセルロースナノファイバーを62.0質量部とし、セルロースナノファイバーの固形分比率が4.0質量%となるようにした以外は上記実施例6の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、比較例2を調製した。
【0052】
(比較例3)
セルロースナノファイバーに代えて、造膜助剤、可塑剤としてのベンジルアルコールを
5質量部とした以外は上記比較例1の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、比較例3を調製した。
【0053】
(比較例4)
セルロースナノファイバーに代えて、造膜助剤、可塑剤としてのテキサノールを5質量部とした以外は上記比較例1の水性路面標示用塗料と同様にして調整し、比較例4を調製した。
【0054】
なお、実施例1から12及び比較例1から4の水性路面標示用塗料における組成、セルロースナノファイバーの固形分比率、顔料容積濃度及び塗料粘度を表2に示した。
【0055】
【0056】
<各種試験>
1.外観試験
170mm×150mmの大きさのアスファルトフェルトの片面に、乾燥塗膜が200±40μmとなるようにフィルムアプリケータB形を用いて実施例及び比較例の水性路面標示用塗料を塗布し、24時間後の塗膜状態を確認した。結果を表5に示す。塗膜の外観が正常であるものに○印を、若干異常が認められるものに△印を、異常が認められるものに×印を表5に付した。
【0057】
2.塗装作業性試験
450mm×900mmの大きさのアスファルトフェルトを床に貼りつけ、粘着テープを用いて幅150mm、長さ750mmの大きさで養生した。そこに、実施例及び比較例の水性路面標示用塗料をインダストリーコーワ社製のスモールローラーで塗布し、作業性を確認した。結果を表5に示す。塗装作業性が良好であるものに○印を、やや作業性に劣るものに△印を、塗装作業に困難を感じるものに×印を表5に付した。
【0058】
3.耐屈曲性試験
大きさ70mm×150mm、厚さ0.3mmのブリキ板に、乾燥膜厚が100±20μmとなるようにフィルムアプリケータB形を用いて実施例及び比較例の水性路面標示用塗料を塗布し、23℃の雰囲気下で18時間養生後、105℃に設定した乾燥器内で5時間加熱し、その後、さらに23℃の雰囲気下で24時間養生した。なお、105℃で加熱したのは、水が可塑剤として作用するため、塗膜中の残存水を除去するのが目的である。このようにして得られた試験片を用いて、23℃、湿度50%の環境下でマンドレル屈曲試験を実施した。マンドレル棒の径は10mm、折り曲げ角度は45度で実施した。結果を表5に示す。塗膜にクラックが発生しない若しくは微かにクラックが認められるものに○印を、クラックが認められるものに△印を、大きなクラックが認められるものに×印を表5に付した。
【0059】
4.耐クラック性試験
アスファルトブロックは、JIS K 2207に規定する針入度60~80のストレートアスファルトと、JIS Z 8801-1に規定するふるい網で表3に適合するようにふるい分けした骨材と、を表4に示す割合で配合した後、金属製型枠に充填し、ローラーコンパクタを用いて、140℃~160℃で、線圧29.4kN/mで作製した、かさ密度(20℃)2.3~2.6、寸法300mm×300mm×50mmのものを用いた。
【0060】
【0061】
【0062】
アスファルトブロックの片面に、乾燥膜厚が200±40mmになるようにフィルムアプリケータB形を用いて実施例及び比較例の水性路面標示用塗料を塗布し、塗面を上向きにして乾燥した。23℃の雰囲気下で24時間養生後に50℃に設定した乾燥器内で3日間乾燥し、その後、さらに23℃の雰囲気下で24時間養生した後、塗膜状態を確認した。アスファルトブロックを型枠に入れずにフリーな状態で50℃で養生したのは、夏季の路面を想定し、アスファルトブロックが軟化する条件で試験を行うためである。結果を表5に示す。塗膜にクラックが見られないものに○印を、わずかにクラックが見られるものに△印を、クラックが見られるものに×印を表5に付した。
【0063】
5.耐汚染性試験
70mm×150mmの大きさのブリキ板の片面に、乾燥膜厚が100±20μmになるようにフィルムアプリケータB形を用いて実施例及び比較例の水性路面標示用塗料を塗布し、試験板を作製した。23℃の雰囲気下で1日養生後に、塗膜上に30mm×30mmの大きさに養生テープでマスキングを行い、そこに汚染物質として泥水1mlを塗り広げた。23℃の雰囲気下で2時間放置して水を蒸発させ、その後清水で洗浄した。洗浄後、塗膜の汚染状況を目視で確認した。なお、汚染物質の泥水は、園芸用赤玉土を乳鉢で粉砕した後、目開き100メッシュの篩で通過したものを、濃度が10質量%になるように清水で希釈して作製した。結果を表5に示す。塗膜に汚れが付着しない若しくは微かに付着するものに○印を、汚れが付着するが塗膜の色が白と認識できるものに△印を、汚染物質が付着し除去不能なものに×印を表5に付した。
【0064】
6.塗膜の粘着性試験
70mm×150mmの大きさのブリキ板の片面に、乾燥膜厚が100±20μmになるようにフィルムアプリケータB形を用いて実施例及び比較例の水性路面標示用塗料を塗布し、試験板を作製した。23℃の雰囲気下で1日養生後に、指で塗膜に触れ塗膜の粘着状態を確認した。結果を表5に示す。塗膜の粘着性が認められないものに○印、微かに粘着性が認められるものに△印、粘着性が認められるものに×印を表5に付した。
【0065】
【0066】
本発明の水性路面標示用塗料を用いると、塗膜に可撓性が付与されて、塗膜の耐クラック性が向上する。よって、塗膜の耐久性を優れたものとすることができる。さらに、可撓性が付与されることにより、車両走行時に受ける衝撃に対する耐性、いわゆる耐チッピング磨耗性も向上することが期待できる。また、アスファルト舗装は、夏季においては高温となり軟化しやすく、特に舗装厚さが小さい舗装や転圧荷重が小さい部分補修舗装に関してはさらに軟化しやすくなる。そこで、本発明の水性路面標示用塗料を用いると、アスファルト舗装が軟化することによって生じる塗膜のクラックの発生を抑制することができる。さらに、塗膜の耐久性を優れたものとできることから、経済的効果も期待できる。