(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161954
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】光電変換機能を有する電子デバイス
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0352 20060101AFI20221014BHJP
H01L 31/06 20120101ALI20221014BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20221014BHJP
【FI】
H01L31/04 342Z
H01L31/06
B82Y20/00
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127179
(22)【出願日】2022-08-09
(62)【分割の表示】P 2018554268の分割
【原出願日】2017-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2016234684
(32)【優先日】2016-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 雅典
(72)【発明者】
【氏名】寺西 利治
(72)【発明者】
【氏名】川脇 徳久
(57)【要約】
【課題】赤外光や紫外光を電気エネルギーに変換可能であり、且つ、透明性の高い電子デバイスを提供すること。
【解決手段】透明性プラズモン材料を含有する層を有する電子デバイス。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明性プラズモン材料を含有する層を有する電子デバイス。
【請求項2】
前記透明性プラズモン材料は、波長550nmにおける透過率が60%以上である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記透明性プラズモン材料は透明性プラズモンナノ粒子である、請求項1又は2に記載の電子デバイス。
【請求項4】
前記透明性プラズモンナノ粒子は、赤外域にLSPR吸収を有する透明導電性酸化物、硫化銅、リン化銅、テルル化銅、セレン化銅、酸化ルテニウム、酸化レニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、タングステンブロンズ及びDelafossite型銅酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むナノ粒子である、請求項3に記載の電子デバイス。
【請求項5】
前記透明性プラズモンナノ粒子は、錫ドープ酸化インジウムナノ粒子である、請求項3に記載の電子デバイス。
【請求項6】
前記透明性プラズモンナノ粒子の平均粒子径は2~1000nmである、請求項3~5の何れか1項に記載の電子デバイス。
【請求項7】
電極をさらに有する、請求項1~6の何れか1項に記載の電子デバイス。
【請求項8】
キャリア輸送層をさらに有する、請求項1~7の何れか1項に記載の電子デバイス。
【請求項9】
光電変換デバイスである、請求項1~8の何れか1項に記載の電子デバイス。
【請求項10】
透明性プラズモン材料に赤外光、紫外光、及び波長440nm以下の可視光からなる群より選ばれる1種以上を吸収させて電力を得る方法。
【請求項11】
前記透明性プラズモン材料は透明性プラズモンナノ粒子である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記透明性プラズモンナノ粒子は、赤外域にLSPR吸収を有する透明導電性酸化物である、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換機能を有する電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、意匠性等及び発電の効率化の観点から、透明の太陽電池を製造しようという試みがなされてきた。
【0003】
かかる透明の太陽電池として、有機薄膜太陽電池の報告があるが(非特許文献1、2)、着色が目立ち、透明性の面で課題が残されていた。また、有機薄膜電池は、有機物を光吸収材量として用いるため、光安定性の面でも問題があった。
【0004】
上記のような着色を除くために、フォトンコンセントレーターを使用する方法も提案されてはいるが、有効に着色を除き切れているとは言い難い。
【0005】
ところで赤外線は太陽光スペクトルの約44%を占め、これを有効活用すべく、赤外光をエネルギー変換するための方法が様々に検討されてきたが、現時点で効率的な方法が確立されていない。
【0006】
また自動車及び/又は列車等の密閉された空間における熱上昇は、赤外線の照射が原因であり、赤外線を効率的にカットできれば、冷房に使用するエネルギーを節約することも可能である。一方で、近赤外域に吸収を有する材料の多くは可視域の吸収に由来する強い色を示すことから、一部の有機分子及び有機塩などの例外を除き、透明性と赤外域の吸収とを両立できる材料は少なかった。しかしながら、高い透明性を有しつつも、赤外域の光を吸収し、該赤外光を電気エネルギーに変換可能な電子デバイスを提供できれば、意匠性及び経済性の観点から、極めて有益であると考えられる。
【0007】
一方、赤外線以外の不可視光線として紫外線が挙げられるが、紫外線は人体への悪影響を引き起こす。人間の居住空間等に入射しようとする紫外線を吸収し、これを電気エネルギーに変換することができれば、健康面からも有益であると考えられる。
【0008】
そこで、透明性が高く、且つ、赤外光や紫外光を電気エネルギーに変換可能な電子デバイスが求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】R. R. Lunt and V. Bulovic, Appl. Phys. Lett., 2011, 98, 113305.
【非特許文献2】P. S. Weiss and Y. Yang et al., ACS Nano, 2012, 6, 7185-7190.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、赤外光及び/又は紫外光を電気エネルギーに変換可能であり、且つ、透明性の高い電子デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、透明性プラズモン材料により構成される透明性プラズモン材料層を設けることにより、透明性が高く、且つ、赤外光及び/又は紫外光を電気エネルギーに変換可能な電子デバイスを提供し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、
〔1〕透明性プラズモン材料を含有する層を有する電子デバイス、
〔2〕前記透明性プラズモン材料は、波長550nmにおける透過率が60%以上である、前記〔1〕に記載のデバイス、
〔3〕前記透明性プラズモン材料は透明性プラズモンナノ粒子である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の電子デバイス、
〔4〕前記透明性プラズモンナノ粒子は、赤外域にLSPR吸収を有する透明導電性酸化物、硫化銅、リン化銅、テルル化銅、セレン化銅、酸化ルテニウム、酸化レニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、タングステンブロンズ及びDelafossite型銅酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むナノ粒子である、前記〔3〕に記載の電子デバイス、
〔5〕前記透明性プラズモンナノ粒子は、錫ドープ酸化インジウムナノ粒子である、前記〔3〕に記載の電子デバイス、
〔6〕前記透明性プラズモンナノ粒子の平均粒子径は2~1000nmである、前記〔3〕~〔5〕の何れかに記載の電子デバイス、
〔7〕電極をさらに有する、前記〔1〕~〔6〕の何れかに記載の電子デバイス、
〔8〕キャリア輸送層をさらに有する、前記〔1〕~〔7〕の何れかに記載の電子デバイス、
〔9〕光電変換デバイスである、前記〔1〕~〔8〕の何れかに記載の電子デバイス、
〔10〕透明性プラズモン材料に赤外光、紫外光、及び波長440nm以下の可視光からなる群より選ばれる1種以上を吸収させて電力を得る方法、
〔11〕前記透明性プラズモン材料は透明性プラズモンナノ粒子である、前記〔10〕に記載の方法、
〔12〕前記透明性プラズモンナノ粒子は、赤外域にLSPR吸収を有する透明導電性酸化物である、前記〔11〕に記載の方法、
に関する。
【発明の効果】
【0013】
以上にしてなる本発明に係る電子デバイスによれば、赤外光及び/又は紫外光を電気エネルギーに変換可能であり、且つ、透明性の高い電子デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】実施例1のバンドパスフィルター透過時の光電流測定結果。
【
図5】実施例2のフィルターなしでの光電流測定結果。
【
図6】実施例2のロングパスフィルター透過時の光電流測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の電子デバイスは、透明性プラズモン材料を含有する層を有することを特徴とする。
【0016】
電子デバイスとしては、例えば光伝導デバイス、フォトダイオード、光アイソレータ、光集積回路、フォトトランジスタ、光電池、光電管、光電子増倍管、発光ダイオード、半導体レーザー、光検出器、光化学センサー、太陽電池、光触媒等の光電変換デバイスなどを挙げることができる。それ以外にも、テレビ、音響機器、ウェアラブル機器、情報機器等といった、光電効果により得られる電気エネルギーを利用して各種の機能を発揮する装置も挙げることができる。
【0017】
透明性プラズモン材料は、透明性を有するプラズモン材料であり、本明細書における透明性の定義としては、視覚的に透明であると認識可能であれば特に限定はない。具体的には、波長550nmにおける透過率が60%以上であることが好ましく、80%以上であることが、より好ましい。波長550nmにおける透過率の上限は特に限定されず、通常100%が好ましく、99%がより好ましく、95%がさらに好ましい。
【0018】
プラズモン材料は、局在表面プラズモン共鳴(Localized Surface Plasmon Resonance、以下、単にLSPRという。)を起こし得る材料である。かかる透明性プラズモン材料としては、上記の通りに透明性を有し、なお且つLSPRを起こし得る材料であれば特に限定はなく、上記条件を満たす公知の材料を広く採用することができる。ここで、LSPRを起こしていることは、周囲の屈折率を変化させた際の吸収ピーク波長変化に直線性があることを明らかにする方法により、確認することができる。
【0019】
かかる透明性プラズモン材料を含有する層を有することにより、赤外光などの視認性の低い長波長の光を該透明性プラズモン材料を含有する層に吸収させ、光電変換により電力を得ることが可能となる。同様に、視認性の低い短波長の光を、該透明性プラズモン材料を含有する層に吸収させ、電力を得ることが可能となる。尚、本明細書において赤外光とは、680nmよりも長波長側の光を意味する。
【0020】
ここで、透明性プラズモン材料として、透明性プラズモンナノ粒子を使用することが好ましい。これにより、透明性プラズモン材料から優れた光電変換能を引き出すことができる。
【0021】
さらに、透明性プラズモンナノ粒子を使用する場合、該ナノ粒子の平均粒子径は、2~1000nmが好ましく、2~500nmがより好ましく、2~100nmがさらに好ましい。透明性プラズモンナノ粒子の粒子径を、かかる数値範囲とすることにより、透明性やエネルギー変換効率をさらに向上させることが可能となる。ここで、ナノ粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡、トンネル顕微鏡等の各種顕微鏡による観察又は、動的若しくは静的光散乱法により測定することができる。
【0022】
透明性プラズモン材料を含有する層は、少なくとも透明性プラズモン材料を含有して構成されていればよく、特に限定はない。具体的には、透明性プラズモンナノ粒子をスパッタリング、蒸着、スピンコーティング、ディップコーティング、インクジェットプリンティング、スクリーンプリンティング等により、得ることができる。ここでスピンコーティング、ディップコーティング、インクジェットプリンティング、スクリーンプリンティング等のプロセスに使用する保護配位子としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、及びショートリガンド(カチオン、アニオン、金属カルコゲニド)のいずれを使用してもよい。より具体的には、カチオン性界面活性剤としてCTABなど第4級アンモニウム塩型の界面活性剤を、アニオン性界面活性剤としてアルキルカルボン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルリン酸ナトリウムを、非イオン性界面活性剤としてモノステアリン酸グリセリン、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル、ショートリガンドとして、メルカプトプロピオン酸、リポ酸,S2-アニオン、I-アニオン、Br-アニオン、Cl-アニオン、NO3-アニオン、Sn2S6
4-アニオン、SbInSe2-アニオン、CdCl3
-アニオン、MoS4
2-アニオン、Se2-アニオン、HSe-アニオン、Te2-アニオン、HTe-アニオン、TeS3
2-アニオン、OH-アニオン、NH2-アニオン、ポリ酸などを利用することができるが、もちろんこれらに限定されない。上記の中でも、より導電性に優れる点で、ショートリガンドが好ましい。上記の界面活性剤もしくは配位子を使用した場合は、焼結により配位子、界面活性剤を除去し、還元条件下での焼き戻しによりLSPRを回復することで、透明性プラズモンナノ粒子と透明導電性材料層を接合する操作を必要とする場合がある。
【0023】
透明性プラズモン材料を含有する層中の透明性プラズモン粒子の含有量は、80~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましい。透明性プラズモン粒子の含有量をかかる数値範囲とすることにより、より高い導電性が得られる。また、透明性プラズモン材料を含有する層中の界面活性剤及び配位子の含有量は、透明性プラズモン粒子を含有する層100質量%中に、界面活性剤及び配位子が20質量%以下となるようにするのが好ましい。界面活性剤の含有量をかかる数値範囲とすることにより、高い導電性が得られる。
【0024】
使用する透明性プラズモン材料としては特に限定はなく、例えば赤外域、具体的には波長750-2500nmの長波長域にLSPR吸収を有する透明導電性酸化物、硫化銅、リン化銅、テルル化銅、セレン化銅、酸化ルテニウム、酸化レニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、タングステンブロンズ及びDelafossite型銅酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むナノ粒子をあげることができる。
【0025】
上記の赤外域にLSPR吸収を有する透明導電性酸化物としては特に限定はなく、具体的には、錫ドープ酸化インジウム、アルミニウムドープ酸化インジウム、セリウムドープ酸化インジウム、アルミニウムドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛、インジウムドープ酸化亜鉛、インジウムドープ酸化カドミウム、フッ素インジウムドープ酸化カドミウム、フッ素ドープ酸化カドミウム、塩素ドープ酸化カドミウム、臭素ドープ酸化カドミウム、セシウムドープ酸化モリブデン、アンチモンドープ酸化錫、フッ素ドープ酸化錫、酸化チタン等を挙げることができる。これらは1種単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0026】
上記の硫化銅としても、透明性プラズモン材料として公知の硫化銅を広く採用することができ、特に限定はない。具体的には、CuS、Cu2-xS(ここで、0<x<1である。)等を挙げることができる。これらは1種単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0027】
上記のリン化銅としても、透明性プラズモン材料として公知のリン化銅を広く採用することができ、特に限定はない。具体的には、Cu3-xP(ここで、0<x<1である。)、CuP等を挙げることができる。これらは1種単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0028】
上記のテルル化銅としても、透明性プラズモン材料として公知のテルル化銅を広く採用することができ、特に限定はない。具体的には、CuTe、Cu2-xTe(ここで、0<x<1である。)等を挙げることができる。これらは1種単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0029】
上記のセレン化銅としても、透明性プラズモン材料として公知のセレン化銅を広く採用することができ、特に限定はない。具体的には、CuSe、Cu2-xSe(ここで、0<x<1である。)を挙げることができる。これらは1種単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0030】
上記の酸化ルテニウムとしても、透明性プラズモン材料として公知の酸化ルテニウムを広く採用することができ、特に限定はない。具体的には、RuO2、RuO2-x(ここで、0<x<1である。)等を挙げることができる。これらは1種単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0031】
上記の酸化レニウムとしても、透明性プラズモン材料として公知の酸化レニウムを広く採用することができ、特に限定はない。具体的には、ReO2、ReO2-x(ここで、0<x<1である。)等を挙げることができる。これらは1種単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0032】
上記の酸化モリブデンとしても、透明性プラズモン材料として公知の酸化モリブデンを広く採用することができ、特に限定はない。具体的には、MoO3、MoO3-x(ここで、0<x<1である。)等を挙げることができる。これらは1種単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0033】
上記の酸化タングステンとしても、透明性プラズモン材料として公知の酸化タングステンを広く採用することができ、特に限定はない。具体的には、WO3、WO3-x(ここで、0<x<1である。)等を挙げることができる。これらは1種単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0034】
上記のタングステンブロンズとしても、透明性プラズモン材料として公知のタングステンブロンズを広く採用することができ、特に限定はない。具体的には、CsxWO3(ここで、0<x<1である。)、LiWO3、LiCsWO3、LiRbWO3、LiKWO3などのアルカリ金属-ドープWO3を挙げることができる。これらは1種単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0035】
上記のDelafossite型銅酸化物としても、透明性プラズモン材料として公知のDelafossite銅酸化物を広く採用することができ、特に限定はない。具体的には、CuAlO2、CuGaO2、CuCrO2等を挙げることができる。これらは1種単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0036】
透明性プラズモン材料を含有する層の厚みは、1~100μmとするのが好ましく、1~1000nmとするのがより好ましい。透明性プラズモン材料を含有する層の厚みをかかる数値範囲とすることにより、より透明度が高く、キャリアの輸送に有利という効果を得ることができる。
【0037】
上記の如く構成した透明性プラズモン材料を含有する層に、好ましくは電極を設けることにより、効率的に電力を回収することができる。電極としては、一般的に電子機器に使用されているような公知の素材を広く採用することができ、特に限定はない。その中でも、電子デバイスの透明性を確保するという観点から、ITO、FTO、金、銀、アルミニウム、カーボン、グラフェン、カーボンナノチューブ等といった透明度の高い素材が好ましい。
【0038】
また、透明性プラズモン材料を含有する層と電極との間に、電子等のキャリアを輸送するためのキャリア輸送層を設けるのも、好ましい実施態様である。このようなキャリア輸送層を構成する材料としては特に限定はなく、具体的にはTiO2、ZnO、SnO2、CdO、CuAlO2などのDelafossite型銅酸化物、Spiro-MeOTAD(2,2‘,7,7’-tetrakis[n,n-di-p-methoxyphenylamino]-9,9‘-spirobifluorene)、PEDOT:PSS(Poly(3,4-ethylenedioxythiophene)-poly(styrenesulfonate))、PCBM(Phenyl C60 Butyric Acid Methyl Ester)、P3HT(poly(3-hexylthiophene))、PPV(Polyphenylenevinylenes)、Polyfluorenesなどの高分子材料等を挙げることができる。キャリア輸送層を設けることにより、より効率的に電力を回収することが可能となる。また、斯かるキャリア輸送層としては、得られる電子デバイスの透明性を確保する観点から、透明性を有することが好ましく、上記透明性プラズモン材料と同様に、波長550nmにおける透過率が60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。また波長550nmにおける透過率の上限についても、100%が好ましく、99%がより好ましく、95%がさらに好ましい。
【0039】
キャリア輸送層を形成するための方法としては、特に限定的ではないが、例えば、上述したキャリア輸送層を構成する材料をトルエン、クロロホルム、ヘキサン、水、N,N-ジメチルホルムアミド、アルコール、N-メチルホルムアミド等の溶媒に溶解した後、得られた溶液を塗布、噴霧などの適宜の方法により形成する方法が挙げられる。
【0040】
キャリア輸送層は、1層のみを形成してもその効果を得ることは可能であるが、2層以上形成するのが好ましい。こうしたキャリア輸送層の厚みは層全体としての厚みが、1~1000nmとなるのが好ましい。キャリア輸送層の厚みをかかる数値範囲とすることにより、より導電性を向上させることができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0042】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
スパッタリング法によって厚さ150nmで作製した、電極としての錫ドープ酸化インジウム製ガラス(縦2cm、横2cm、厚み1cm)の片面に、キャリア輸送層として、TiO2により構成される膜を形成し、さらにその上に透明性プラズモン材料を含有する層としてCu2-XSによる膜をそれぞれキャリア輸送層が100nm、透明性プラズモン材料を有する層が150nmの厚みとなるように塗布して形成した。TiO2層は、スプレーパイロリシス法によって、ホットプレート上500℃に加熱した錫ドープ酸化インジウム製ガラス上に、チタンテトライソプロポキシドを含むイソプロパノール溶液を噴霧し、30分間焼結することによって得た。Cu2-XSナノ粒子を含有する溶液は、塩化銅(I)、硫黄粉末、オレイン酸及びオレイルアミンを混合した溶液を140℃で5分間窒素雰囲気下で加熱することによって得た。さらに、エタノール及びヘキサンをCu2-XSナノ粒子を含有する溶液に加えて遠心分離を行うことで精製し、沈殿物をヘキサンに溶解させ、Cu2-XSナノ粒子分散液を得た。Cu2-XSナノ粒子分散液(透明性プラズモンナノ粒子溶液)、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムを含むメタノール溶液(保護剤置換用の溶液)及びメタノール(余剰のナノ粒子や保護剤を取り除く洗浄液)を、錫ドープ酸化インジウム製ガラス上にそれぞれ滴下し、スピンコーティングする操作を順番に行い、20回繰り返すことによって、Cu2-XS層を得た。さらにその上に金の電極を蒸着することにより取り付けて、太陽電池を得た。
【0044】
図1に示したように、キセノンランプを光源(朝日分光社製、型番:LAX-102)として、光源に正対するようにバンドパスフィルタ(半値幅10nm)を配し、そこからさらに10cm離れた位置に、光源に正対するように実施例1の太陽電池を設置した。電流7.2Aの条件でキセノンランプに通電させた。上記バンドパスフィルタを透過した際の光子数は、5×10
15 photons cm
-2 s
-1であった。
以上の条件で波長790nmの長波長側から20nm間隔で、順に430nmまでの短波長側の光を30秒後ごとに照射したところ、全波長域で光照射に伴う電流が観測された(
図2)。さらに波長900nmの近赤外光の光を照射した際も光電流が観測された(
図2インセット)。このことから、視認性の低い短波長の光(430nm)や近赤外光(900nm)の光を用いた際も、太陽電池として機能することが明らかになった。またその際の、太陽電池の光透過率は、波長550nmで85%であり、高い透過性を示した(
図3)。
【0045】
(実施例2)
電極としてのチタン製プレート(縦1cm、横5cm、厚み5mm)上に厚さ100nmのSnO2層をスパッタリングで形成し、平均粒子径12nmの錫ドープ酸化インジウムナノ粒子(25.6mg)のクロロホルム溶液(50μl)をスピンコートにより塗布した(スピンコート条件:100rpm、15s→1000rpm、30s)。得られた電極を大気下600度で30分焼結することにより錫ドープ酸化インジウムナノ粒子をSnO2層に接合した。この後、4% H2/Ar下、280度で5時間加熱、還元することにより錫ドープ酸化インジウムナノ粒子を還元し、LSPRの吸収を回復させた。
【0046】
図4に示すアライメントで電極をセットし、キセノンランプを光源(イーグルエンジニアリング社製、型番:R-300-3J)として、光源から1cmの位置に光源に正対するようにロングパスフィルタを配し、そこからさらに11cm離れた位置に、光源に正対するように上記で得られた太陽電池を設置した後、光照射下での電流値を測定した。キセノンランプから放たれる光強度は、フィルタを通さない状態で2.3 Wであった。また、光源から11cmの位置にある上記ロングパスフィルタを透過した際の光強度子数は、800nm、1000nm、1200nmのロングパスフィルタで1.68W、0.525W、0.326Wであった。
ロングパスフィルタを通さない条件および800nm、1000nm、1200nmのロングパスフィルタを通した条件でキセノンランプから光を照射したところ、光照射に伴う電流が観測された(
図5および6)。このことから、透明導電性材料であるITOナノ粒子を用いて光電変換を行えることが明らかになった。また、視認性のない近赤外光(800nm以上)の光を用いた際も、太陽電池として機能することが明らかになった。また、その際の太陽電池の光透過率は、波長550nmで90%であり、高い透過性を示すことが確認できた。