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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022161985
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】三次元計測装置及び光源装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/25 20060101AFI20221014BHJP
   H01S 5/18 20210101ALI20221014BHJP
【FI】
G01B11/25 H
H01S5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129305
(22)【出願日】2022-08-15
(62)【分割の表示】P 2020198371の分割
【原出願日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2020028446
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020142715
(32)【優先日】2020-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 和義
(72)【発明者】
【氏名】亀井 宏記
(72)【発明者】
【氏名】杉山 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 明佳
(57)【要約】
【課題】光源部の位置ずれに起因する、複数のストライプパターンのそれぞれにおける初期位相のずれを解消できる三次元計測装置を提供する。
【解決手段】三次元計測装置101Bは、所定パターンを有する計測光を被計測物に照射する複数の光源部102と、計測光が照射された被計測物を撮像する撮像部103と、撮像部103による撮像結果に基づいて被計測物の三次元形状を計測する計測部104と、を備える。計測光の所定パターンはストライプパターンを含み、複数の光源部102から照射される計測光のストライプパターンはそれぞれ異なるパターンを有する。複数の光源部102は、ストライプパターンにおけるストライプと平行な方向に配列されている。計測部104は、ストライプパターンを用いた三次元形状計測法に基づいて被計測物の三次元形状を計測する。
【選択図】図21
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定パターンを有する計測光を被計測物に照射する複数の光源部と、
前記計測光が照射された前記被計測物を撮像する撮像部と、
前記撮像部による撮像結果に基づいて前記被計測物の三次元形状を計測する計測部と、を備え、
前記計測光の前記所定パターンはストライプパターンを含み、前記複数の光源部から照射される前記計測光の前記ストライプパターンはそれぞれ異なるパターンを有し、
前記複数の光源部は、前記ストライプパターンにおけるストライプと平行な方向に配列されており、
前記計測部は、前記ストライプパターンを用いた三次元形状計測法に基づいて前記被計測物の三次元形状を計測する、三次元計測装置。
【請求項2】
前記複数の光源部それぞれはM点発振のS-iPMSELによって構成されている、請求項1記載の三次元計測装置。
【請求項3】
前記計測光の前記所定パターンは、周期的な前記ストライプパターンとランダムドットパターンとを重畳させた重畳パターンであり、
前記計測部は、前記重畳パターンを用いた位相シフト法に基づいて前記被計測物の三次元形状を計測する、請求項1または2記載の三次元計測装置。
【請求項4】
前記複数の光源部から照射される前記計測光の前記ストライプパターンはそれぞれ異なるグレイコードを含むグレイコードパターンであり、
前記計測部は、前記グレイコードパターンを用いた三角測量法に基づいて前記被計測物の三次元形状を計測する、請求項1または2記載の三次元計測装置。
【請求項5】
前記複数の光源部から照射される前記計測光の前記ストライプパターンは周期的なストライプパターンであり、それぞれ異なる位相シフトを有し、
前記計測部は、前記ストライプパターンを用いた位相シフト法に基づいて前記被計測物の三次元形状を計測する、請求項1または2記載の三次元計測装置。
【請求項6】
前記ストライプパターンは正弦波状のストライプパターンである、請求項5記載の三次元計測装置。
【請求項7】
前記複数の光源部から照射される前記計測光の前記ストライプパターンの位相が2π/N(Nはストライプパターンの位相シフト数)ずつずれている、請求項5または6記載の三次元計測装置。
【請求項8】
ストライプパターンを用いた三次元形状計測法に基づいて被計測物の三次元形状を計測する三次元計測装置に用いられる光源装置であって、
所定パターンを有する計測光を被計測物に照射する複数の光源部を備え、
前記計測光の前記所定パターンは前記ストライプパターンを含み、前記複数の光源部から照射される前記計測光の前記ストライプパターンはそれぞれ異なるパターンを有し、
前記複数の光源部は、前記ストライプパターンにおけるストライプと平行な方向に配列されている、光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元計測装置及び光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の三次元計測法として、例えば特許文献1に記載の手法がある。この特許文献1の手法では、ランダムなドットパターンを被計測物に照射し、2台のカメラで同位置のドットパターンをそれぞれ撮像する。そして、2つのドットパターンの視差に基づいて、三角測量の原理で被計測物の三次元計測を実施する。
【0003】
また、例えば特許文献2に記載の手法は、位相シフト法を用いた計測手法である。この特許文献2の手法では、格子パターンが投影される基準面を有する基準平板を用意し、当該基準平板をステージによって法線方向に平行移動させる。基準面に投影された格子パターンの画像と、被計測物に投影された格子パターンの画像とを撮像し、格子パターンの位相と空間座標とを対応付けるテーブルを用いて被計測物の空間座標を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0240502号明細書
【特許文献2】特開2011-242178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、複数のストライプパターンを用いた計測手法において、光源部の位置ずれに起因する、複数のストライプパターンのそれぞれにおける初期位相のずれを解消できる三次元計測装置及び光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る三次元計測装置は、所定パターンを有する計測光を被計測物に照射する複数の光源部と、計測光が照射された被計測物を撮像する撮像部と、撮像部による撮像結果に基づいて被計測物の三次元形状を計測する計測部と、を備える。計測光の所定パターンはストライプパターンを含み、複数の光源部から照射される計測光のストライプパターンはそれぞれ異なるパターンを有する。複数の光源部は、ストライプパターンにおけるストライプと平行な方向に配列されている。計測部は、ストライプパターンを用いた三次元形状計測法に基づいて被計測物の三次元形状を計測する。
【0007】
本開示の一側面に係る光源装置は、ストライプパターンを用いた三次元形状計測法に基づいて被計測物の三次元形状を計測する三次元計測装置に用いられる光源装置であって、所定パターンを有する計測光を被計測物に照射する複数の光源部を備える。計測光の所定パターンはストライプパターンを含み、複数の光源部から照射される計測光のストライプパターンはそれぞれ異なるパターンを有する。複数の光源部は、ストライプパターンにおけるストライプと平行な方向に配列されている。
【0008】
これらの三次元計測装置及び光源装置によれば、光源部の位置ずれに起因する、複数の正弦波状のストライプパターンのそれぞれにおける初期位相のずれを解消できる。
【0009】
複数の光源部それぞれはM点発振のS-iPMSELによって構成されてもよい。上述した特許文献1の手法では、光源としてプロジェクタを用いており、特許文献2の手法では、光源としてLEDアレイを用いている。このため、三次元計測装置が比較的大型化してしまうという問題があった。撮像装置としては、例えば1mm角以下の超小型カメラも開発されているため、三次元計測装置を全体として小型化するためには、光源の小型化が重要となっている。三次元計測装置の全体を小型化できれば、例えば口腔検査、内視鏡検査、管の内部や壁の隙間といった狭小箇所の検査、家具や装置等の床下からの検査といった用途への適用や、ハンディタイプの三次元計測装置の構築が可能となると考えられる。また、三次元計測装置への光源の適用にあたっては、計測精度の向上の観点から、出力される光のノイズや歪みが抑えられた光源であることが好ましい。S-iPMSELは、基本層と、基本層とは屈折率が異なる複数の異屈折率領域とを有する位相変調層を有し、各異屈折率領域の重心位置が出力光像に応じて仮想的な正方格子の格子点位置からずれている。S-iPMSELは、例えば針先ほどのサイズで構成され、位相変調層が設けられた基板の主面に垂直な方向或いは傾斜した方向に2次元的なパターンの光像を出力できる。したがって、S-iPMSELを光源とすることで、三次元計測装置の全体の小型化を実現でき、装置の適用範囲の拡大が図られる。また、M点発振のS-iPMSELを用いることで、所望の2次元的なパターンの光像とは異なる0次光(位相変調されない回折波成分)の出力をなくすことができる。これにより、0次光によるノイズや歪みのないパターンの計測光を被計測物に照射することが可能となり、計測精度の向上が図られる。
【0010】
計測光の所定パターンは、周期的なストライプパターンとランダムドットパターンとを重畳させた重畳パターンであり、計測部は、重畳パターンを用いた位相シフト法に基づいて被計測物の三次元形状を計測してもよい。位相シフト法では、位相2πにおける不連続性が課題となっている。これに対し、ランダムドットパターンを用いることで、位相2πにおける不連続性を改善することが可能となり、少数のパターンで高精度の三次元計測を実現できる。
【0011】
複数の光源部から照射される計測光のストライプパターンはそれぞれ異なるグレイコードを含むグレイコードパターンであり、計測部は、グレイコードパターンを用いた三角測量法に基づいて被計測物の三次元形状を計測してもよい。グレイコードパターンのパターン数は、撮像部の画素数に対して少数でよいため、グレイコードパターンを有する計測光の照射は、少数の光源部によって実現できる。グレイコードを用いる場合、隣接する画素のハミング距離が1となり、ビット列を復元する際にビットエラーが生じたとしても、その誤差が1に収まる。すなわち、グレイコードでは、ノイズに強い符号が得られる。また、位相シフト法では、位相2πにおける不連続性が課題となっている。これに対し、グレイコードを用いることで、位相2πにおける不連続性を改善することが可能となり、少数のパターンで高精度の三次元計測を実現できる。
【0012】
複数の光源部から照射される計測光のストライプパターンは周期的なストライプパターンであり、それぞれ異なる位相シフトを有し、計測部は、ストライプパターンを用いた位相シフト法に基づいて被計測物の三次元形状を計測してもよい。
【0013】
ストライプパターンは正弦波状のストライプパターンであってもよい。
【0014】
複数の光源部から照射される計測光のストライプパターンの位相は2π/N(Nはストライプパターンの位相シフト数)ずつずれていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、複数のストライプパターンを用いた計測手法において、光源部の位置ずれに起因する、複数の正弦波状のストライプパターンのそれぞれにおける初期位相のずれを解消できる三次元計測装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】S-iPMSELの構成を示す一部断面斜視図である。
図2】S-iPMSELの積層構造を示す断面図である。
図3】位相変調層の平面図である。
図4】単位構成領域Rを拡大して示す図である。
図5】位相変調層の特定領域内に屈折率略周期構造を適用した例を示す平面図である。
図6】S-iPMSELの出力ビームパターンが結像して得られる光像と、位相変調層における回転角度分布との関係を説明する図である。
図7】球面座標からXYZ直交座標系における座標への座標変換を説明する図である。
図8】M点発振のS-iPMSELの位相変調層に関する逆格子空間を示す平面図である。
図9】面内波数ベクトルに対して回折ベクトルを加えた状態を説明する概念図である。
図10】ライトラインの周辺構造を模式的に説明するための図である。
図11】回転角度分布φ2(x,y)の一例を概念的に示す図である。
図12】方向の面内波数ベクトルから波数拡がりを除いたものに対して回折ベクトルを加えた状態を説明するための概念図である。
図13図13は、変形例に係る位相変調層の平面図である。
図14】変形例に係る位相変調層における異屈折率領域の位置関係を示す図である。
図15】第1実施形態に係る三次元計測装置の構成を示す概略的な図である。
図16】第1実施形態で用いられる周期的パターンの一例を示す図である。
図17】周期的パターンの遠視野像の一例を示す図である。
図18】第1実施形態で用いられるランダムドットパターンの一例を示す図である。
図19】第1実施形態で用いられる均一な密度を有するパターンの一例を示す図である。
図20】均一な密度を有するパターンのFFPの一例を示す図である。
図21】第2実施形態に係る三次元計測装置の構成を示す概略的な図である。
図22】第2実施形態で用いられるグレイコードパターンの一例を示す図である。
図23】第2実施形態で用いられる正弦波状のストライプパターンの一例を示す図である。
図24】第2実施形態で用いられる正弦波状のマトリクスパターンの一例を示す図である。
図25】位相2πにおける不連続性の改善の様子を示す図である。
図26】第2実施形態で用いられるモアレ縞パターンの一例を示す図である。
図27】第2実施形態で用いられる重畳パターンの一例を示す図である。
図28】第2実施形態で用いられる重畳パターンの別例を示す図である。
図29】第3実施形態に係る三次元計測装置の構成を示す概略的な図である。
図30】光源部及び撮像部の配置例を示す概略的な斜視図である。
図31】光源部及び撮像部の別の配置例を示す概略的な斜視図である。
図32】正弦波状のストライプパターンの形成例を示す斜視図である。
図33】多点パターンのレーザ光及びこれを用いたストライプパターンの一例を示す概略的な図である。
図34】多点パターンのレーザ光及びこれを用いたストライプパターンの別例を示す概略的な図である。
図35】メタレンズ構造の構成例を示す概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係る三次元計測装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
本実施形態に係る三次元計測装置101は、被計測物SAに所定パターンを有する計測光105を照射する一又は複数の光源部102と、計測光105が照射された被計測物SAを撮像する一又は複数の撮像部103と、撮像部103による撮像結果に基づいて被計測物SAの三次元形状を計測する計測部104と、を備えて構成されている(図15等参照)。また、光源部102は、M点発振のS-iPMSEL(Static-integrable Phase Modulating Surface Emitting Lasers)1によって構成されている。
【0019】
三次元計測装置101では、針先ほどのサイズで構成されるS-iPMSEL1を用いて光源部102を構成することにより、装置全体を小型化でき、装置の適用範囲の拡大が図られる。また、三次元計測装置101では、M点発振のS-iPMSEL1を用いることで、所望の2次元的なパターンの光像とは異なる0次光(位相変調されない回折波成分)の出力をなくすことができる。これにより、0次光によるノイズや歪みのないパターンの計測光105を被計測物SAに照射することが可能となり、計測精度の向上が図られる。
[M点発振のS-iPMSEL]
【0020】
まず、M点発振のS-iPMSEL1について説明する。図1は、S-iPMSELの構成を示す一部断面斜視図である。図2は、S-iPMSELの積層構造を示す断面図である。図1では、S-iPMSEL1の中心においてS-iPMSEL1の厚さ方向に延びる軸をZ軸とするXYZ直交座標系を定義している。
【0021】
S-iPMSEL1は、XY面内方向において定在波を形成し、位相制御された平面波をZ軸方向に出力するレーザ光源である。S-iPMSEL1は、半導体基板10の主面10aに垂直な方向(すなわちZ軸方向)又はこれに対して傾斜した方向、或いはその両方を含む二次元的な任意形状の光像を出力する。
【0022】
図1及び図2に示されるように、S-iPMSEL1は、半導体基板10上に設けられた発光部としての活性層12と、活性層12を挟む一対のクラッド層11,13と、クラッド層13上に設けられたコンタクト層14と、を備えている。これらの半導体基板10、クラッド層11,13、及びコンタクト層14は、例えばGaAs系半導体、InP系半導体、もしくは窒化物系半導体といった化合物半導体によって構成されている。クラッド層11のエネルギーバンドギャップ、及びクラッド層13のエネルギーバンドギャップは、活性層12のエネルギーバンドギャップよりも大きくなっている。半導体基板10及び各層11~14の厚さ方向は、Z軸方向と一致している。
【0023】
S-iPMSEL1は、活性層12と光学的に結合された位相変調層15を更に備えている。本実施形態では、位相変調層15は、活性層12とクラッド層13との間に設けられている。位相変調層15の厚さ方向は、Z軸方向と一致している。位相変調層15は、クラッド層11と活性層12との間に設けられていてもよい。活性層12とクラッド層13との間、及び活性層12とクラッド層11との間のうち少なくとも一方には、必要に応じて光ガイド層が設けられてもよい。光ガイド層は、キャリアを活性層12に効率的に閉じ込めるためのキャリア障壁層を含んでいてもよい。
【0024】
位相変調層15は、第1屈折率媒質からなる基本層15aと、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなり、基本層15a内に存在する複数の異屈折率領域15bとを含んで構成されている。複数の異屈折率領域15bは、略周期構造を含んでいる。モードの等価屈折率をnとした場合、位相変調層15によって選択される波長λ(=(√2)a×n、aは格子間隔)は、活性層12の発光波長範囲内に含まれている。位相変調層15は、活性層12の発光波長のうちの波長λ近傍のバンド端波長を選択して、外部に出力することができる。位相変調層15内に入射したレーザ光は、位相変調層15内において異屈折率領域15bの配置に応じた所定のモードを形成し、所望のパターンを有するレーザビームとして、S-iPMSEL1の表面から外部に出射される。
【0025】
S-iPMSEL1は、コンタクト層14上に設けられた電極16と、半導体基板10の裏面10b上に設けられた電極17とを更に備えている。電極16は、コンタクト層14とオーミック接触しており、電極17は、半導体基板10とオーミック接触している。電極17は、開口17aを有している。電極16は、コンタクト層14の中央領域に設けられている。コンタクト層14上における電極16以外の部分は、保護膜18(図2を参照)によって覆われている。電極16と接触していないコンタクト層14は、電流範囲の限定のために除去されていてもよい。半導体基板10の裏面10bのうち、電極17以外の部分は、開口17a内を含めて反射防止膜19によって覆われている。開口17a以外の領域にある反射防止膜19は、除去されていてもよい。
【0026】
S-iPMSEL1では、電極16と電極17との間に駆動電流が供給されると、活性層12内において電子と正孔の再結合が生じ、活性層12が発光する。この発光に寄与する電子、正孔、及び活性層12で発生した光は、クラッド層11及びクラッド層13の間に効率的に閉じ込められる。
【0027】
活性層12から出射された光は、位相変調層15の内部に入射し、位相変調層15の内部の格子構造に応じた所定のモードを形成する。位相変調層15から出射したレーザ光は、裏面10bから開口17aを通ってS-iPMSEL1の外部へ直接的に出力される。或いは、位相変調層15から出射したレーザ光は、電極16において反射したのち、裏面10bから開口17aを通ってS-iPMSEL1の外部へ出力される。このとき、レーザ光に含まれる信号光(計測光105)は、主面10aに垂直な方向又はこれに対して傾斜した方向を含む二次元的な任意方向へ出射する。所望の光像を形成するのは、この信号光である。信号光は、主としてレーザ光の1次光及び-1次光である。本実施形態の位相変調層15からは、レーザ光の0次光が出力されないようになっている。
【0028】
図3は、位相変調層15の平面図である。同図に示すように、位相変調層15は、第1屈折率媒質からなる基本層15aと、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなる複数の異屈折率領域15bとを含んでいる。図3では、位相変調層15に対し、XY面内における仮想的な正方格子を設定している。正方格子の一辺は、X軸と平行であり、他辺はY軸と平行である。正方格子の格子点Oを中心とする正方形状の単位構成領域Rは、X軸に沿った複数列及びY軸に沿った複数行にわたって二次元状に設定されている。各単位構成領域RのXY座標をそれぞれの単位構成領域Rの重心位置で規定すると、これらの重心位置は、仮想的な正方格子の格子点Oに一致する。複数の異屈折率領域15bは、各単位構成領域R内に例えば1つずつ設けられる。異屈折率領域15bの平面形状は、例えば円形状である。格子点Oは、異屈折率領域15bの外部に位置してもよく、異屈折率領域15bの内部に含まれていてもよい。
【0029】
1つの単位構成領域R内に占める異屈折率領域15bの面積Sの比率は、フィリングファクタ(FF)と称される。正方格子の格子間隔をaとすると、異屈折率領域15bのフィリングファクタFFは、S/aとして与えられる。Sは、XY平面における異屈折率領域15bの面積である。例えば異屈折率領域15bの形状が真円形状の場合には、フィリングファクタFFは、真円の直径dを用いてS=π(d/2)として与えられる。異屈折率領域15bの形状が正方形の場合には、フィリングファクタFFは、正方形の一辺の長さLAを用いてS=LAとして与えられる。
【0030】
図4は、単位構成領域Rを拡大して示す図である。同図に示すように、異屈折率領域15bのそれぞれは、重心Gを有する。ここでは、格子点Oから重心Gに向かうベクトルとX軸とのなす角度をφ(x,y)とする。xは、X軸におけるx番目の格子点の位置、yは、Y軸におけるy番目の格子点の位置を示す。回転角度φが0°である場合、格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの向きは、X軸の正方向と一致する。また、格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの長さをr(x,y)とする。一例では、r(x,y)は、x、yによらず、位相変調層15の全体にわたって一定である。
【0031】
図3に示したように、格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの向き、すなわち、異屈折率領域15bの重心Gの格子点O周りの回転角度φは、所望の光像に応じた位相パターンに従って、各格子点O毎に個別に設定される。位相パターン、すなわち、回転角度分布φ(x,y)は、x,yの値で決まる位置毎に特定の値を有するが、必ずしも特定の関数で表わされるとは限らない。回転角度分布φ(x,y)は、所望の光像をフーリエ変換して得られる複素振幅分布のうち、位相分布を抽出したものから決定される。所望の光像から複素振幅分布を求める際には、ホログラム生成の計算時に一般的に用いられるGerchberg-Saxton(GS)法のような繰り返しアルゴリズムを適用することによって、ビームパターンの再現性を向上させることが可能である。
【0032】
図5は、位相変調層の特定領域内に屈折率略周期構造を適用した例を示す平面図である。図5に示す例では、正方形の内側領域RINの内部に、目的となるビームパターンを出射するための略周期構造(例えば図3のに示した構造)が形成されている。一方、内側領域RINを囲む外側領域ROUTには、正方格子の格子点位置に、重心位置が一致する真円形の異屈折率領域が配置されている。外側領域ROUTにおけるフィリングファクタFFは、例えば12%に設定されている。内側領域RINの内部及び外側領域ROUT内では、仮想的に設定される正方格子の格子間隔は、同一(=a)である。この構造の場合、外側領域ROUT内にも光が分布するため、内側領域RINの周辺部での光強度の急激な変化によって生じる高周波ノイズ(いわゆる窓関数ノイズ)の発生を抑制できる。また、面内方向への光漏れを抑制することができ、閾値電流の低減が期待できる。
【0033】
図6は、S-iPMSEL1の出力ビームパターンが結像して得られる光像と、位相変調層15における回転角度分布φ(x,y)との関係を説明する図である。出力ビームパターンの中心Qは、半導体基板10の主面10aに対して垂直な軸線上に位置するとは限らないが、垂直な軸線上に配置させることもできる。図6では、説明の便宜のため、中心Qが主面10aに対して垂直な軸線上にあるものとする。図6には、中心Qを原点とする4つの象限が示されている。図6の例では、第3象限に文字「A」が現れ、第1象限に文字「A」を180度回転したものが現れている。出力ビームパターンが回転対称な光像(例えば、十字、丸、二重丸など)である場合には、重なって一つの光像として観察される。なお、図4に示したように、S-iPMSEL1における異屈折率領域15bの重心Gを格子点O回りの円周方向にずらす場合には、図6に示すように、第1象限の出力ビームパターンと第3象限の出力ビームパターンとの間に強度差はないが、後述の図14のように、S-iPMSEL1における異屈折率領域15bの重心Gを格子点Oを通る直線上にずらす場合には、第1象限の出力ビームパターンと第3象限の出力ビームパターンとの間に強度差を持たせることが可能である。
【0034】
S-iPMSEL1の出力ビームパターンの光像は、スポット、ドット、直線、十字架、線画、格子パターン、写真、縞状パターン、CG(コンピュータグラフィクス)、及び文字のうち少なくとも1つを含んでいる。所望の光像を得るためには、以下の手順によって、位相変調層15における異屈折率領域15bの回転角度分布φ(x、y)を決定する。
【0035】
第1の前提条件として、法線方向に一致するZ軸と、複数の異屈折率領域15bを含む位相変調層15の一方の面に一致したX-Y平面と、によって規定されるXYZ直交座標系において、正方形状を有するM1(1以上の整数)×N1(1以上の整数)個の単位構成領域Rにより構成される仮想的な正方格子をX-Y平面上に設定する。
【0036】
第2の前提条件として、XYZ直交座標系における座標(ξ,η,ζ)は、図7に示すように、動径の長さrと、Z軸からの傾き角θtiltと、X-Y平面上で特定されるX軸からの回転角θrotと、で規定される球面座標(r,θrot,θtilt)に対して、以下の式(1)~式(3)で示された関係を満たしているものとする。図7は、球面座標(r,θrot,θtilt)からXYZ直交座標系における座標(ξ,η,ζ)への座標変換を説明するための図であり、座標(ξ,η,ζ)により、実空間であるXYZ直交座標系において設定される所定平面上の設計上の光像が表現される。
【0037】
S-iPMSEL1から出力される光像に相当するビームパターンを角度θtilt及びθrotで規定される方向に向かう輝点の集合とするとき、角度θtiltおよびθrotは、以下の式(4)で規定される規格化波数であってX軸に対応したKx軸上の座標値kxと、以下の式(5)で規定される規格化波数であってY軸に対応すると共にKx軸に直交するKy軸上の座標値kyに換算されるものとする。規格化波数は、仮想的な正方格子の格子間隔に相当する波数2π/aを1.0として規格化された波数を意味する。このとき、Kx軸およびKy軸により規定される波数空間において、光像に相当するビームパターンを含む特定の波数範囲は、それぞれが正方形状のM2(1以上の整数)×N2(1以上の整数)個の画像領域FRで構成される。なお、整数M2は、整数M1と一致する必要はない。同様に、整数N2は、整数N1と一致する必要もない。また、式(4)および式(5)は、例えばY. Kurosaka et al.," Effects of non-lasing band intwo-dimensionalphotonic-crystal lasers clarified using omnidirectional bandstructure,"Opt. Express 20, 21773-21783 (2012)に開示されている。
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

a:仮想的な正方格子の格子定数
λ:S-iPMSEL1の発振波長
【0038】
第3の前提条件として、波数空間において、Kx軸方向の座標成分kx(0以上M2-1以下の整数)とKy軸方向の座標成分ky(0以上N2-1以下の整数)とで特定される画像領域FR(kx,ky)それぞれを、X軸方向の座標成分x(0以上M1-1以下の整数)とY軸方向の座標成分y(0以上N1-1以下の整数)とで特定されるX-Y平面上の単位構成領域R(x,y)に二次元逆離散フーリエ変換することで得られる複素振幅F(x,y)は、jを虚数単位として、以下の式(6)で与えられる。複素振幅F(x,y)は、振幅項をA(x,y)とすると共に位相項をP(x,y)とするとき、以下の式(7)により規定される。第4の前提条件として、単位構成領域R(x,y)は、X軸およびY軸にそれぞれ平行であって単位構成領域R(x,y)の中心となる格子点O(x,y)において直交するs軸およびt軸で規定される。
【数6】

【数7】
【0039】
上記第1~第4の前提条件の下、位相変調層15は、以下の第5条件及び第6条件を満たすように構成される。すなわち、第5条件は、単位構成領域R(x,y)内において、重心Gが格子点O(x,y)から離れた状態で配置されていることで満たされる。第6条件は、格子点O(x,y)から対応する重心Gまでの線分長r2(x,y)がM1個×N1個の単位構成領域Rそれぞれにおいて共通の値に設定された状態で、格子点O(x,y)と対応する重心Gとを結ぶ線分と、s軸と、の成す角度φ(x,y)が、
φ(x,y)=C×P(x,y)+B
C:比例定数であって例えば180°/π
B:任意の定数であって例えば0
となる関係を満たすように、対応する異屈折率領域15bが単位構成領域R(x,y)内に配置されることで満たされる。
【0040】
次に、S-iPMSEL1のM点発振について説明する。S-iPMSEL1のM点発振のためには、仮想的な正方格子の格子間隔a、活性層12の発光波長λ、及びモードの等価屈折率nが、λ=(√2)n×aといった条件を満たすとよい。図8は、M点発振のS-iPMSELの位相変調層に関する逆格子空間を示す平面図である。図中の点Pは、逆格子点を表している。図中の矢印B1は、基本逆格子ベクトルを表しており、矢印K1,K2,K3,及びK4は、4つの面内波数ベクトルを表している。面内波数ベクトルK1~K4は、回転角度分布φ(x,y)による波数拡がりSPをそれぞれ有している。
【0041】
なお、波数拡がりSPの形状及び大きさは、上述したΓ点発振の場合と同様である。M点発振のS-iPMSEL1では、面内波数ベクトルK1~K4の大きさ(すなわち面内方向の定在波の大きさ)は、基本逆格子ベクトルB1の大きさよりも小さくなっている。したがって、面内波数ベクトルK1~K4と基本逆格子ベクトルB1とのベクトル和が0にはならず、回折によって面内方向の波数が0となり得ないため、面垂直方向(Z軸方向)への回折は生じない。このままでは、M点発振のS-iPMSEL1では、面垂直方向(Z軸方向)への0次光、Z軸方向に対して傾斜した方向への1次光及び-1次光が出力しない。
【0042】
本実施形態では、M点発振のS-iPMSEL1において次のような工夫を位相変調層15に施すことにより、0次光を出力させずに、1次光及び-1次光の一部を出力させることができる。具体的には、図9に示すように、面内波数ベクトルK1~K4に対し、ある一定の大きさ及び向きを有する回折ベクトルVを加えることにより、面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つ(図では面内波数ベクトルK3)の大きさを2π/λよりも小さくする。言い換えると、回折ベクトルVが加えられた後の面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つ(面内波数ベクトルK3)を、半径2π/λの円状領域(ライトライン)LL内に収める。
【0043】
図9において破線で示される面内波数ベクトルK1~K4は、回折ベクトルVの加算前を表しており、実線で示される面内波数ベクトルK1~K4は、回折ベクトルVの加算後を表している。ライトラインLLは、全反射条件に対応しており、ライトラインLL内に収まる大きさの波数ベクトルは、面垂直方向(Z軸方向)の成分を有することとなる。一例では、回折ベクトルVの方向は、Γ-M1軸又はΓ-M2軸に沿っている。回折ベクトルVの大きさは、2π/(√2)a-2π/λから2π/(√2)a+2π/λの範囲内となっており、一例として、2π/(√2)aとなっている。
【0044】
続いて、面内波数ベクトルK1~K4のうち、少なくとも1つをライトラインLL内に収めるための回折ベクトルVの大きさ及び向きについて検討する。下記の数式(8)~(11)は、回折ベクトルVが加えられる前の面内波数ベクトルK1~K4を示す。
【数8】

【数9】

【数10】

【数11】

波数ベクトルの広がりΔkx及びΔkyは、下記の数式(12)及び(13)をそれぞれ満たす。面内波数ベクトルのx軸方向の広がりの最大値Δkxmax及びy軸方向の広がりの最大値Δkymaxは、設計の光像の角度広がりにより規定される。
【数12】

【数13】
【0045】
回折ベクトルVを下記の数式(14)のように表したとき、回折ベクトルVが加えられた後の面内波数ベクトルK1~K4は下記の数式(15)~(18)となる。
【数14】

【数15】

【数16】

【数17】

【数18】
【0046】
数式(15)~(18)において波数ベクトルK1~K4のいずれかがライトラインLL内に収まることを考慮すると、下記の数式(19)の関係が成り立つ。
【数19】

すなわち、数式(19)を満たす回折ベクトルVを加えることにより、波数ベクトルK1~K4のいずれかがライトラインLL内に収まり、1次光及び-1次光の一部が出力される。
【0047】
ライトラインLLの大きさ(半径)を2π/λとしたのは、以下の理由による。図10は、ライトラインLLの周辺構造を模式的に説明するための図である。同図では、Z軸方向に垂直な方向から見たデバイスと空気との境界を示している。真空中の光の波数ベクトルの大きさは2π/λとなるが、図10のようにデバイス媒質中を光が伝搬するときには、屈折率nの媒質内の波数ベクトルKaの大きさは2πn/λとなる。このとき、デバイスと空気の境界を光が伝搬するためには、境界に平行な波数成分が連続している必要がある(波数保存則)。
【0048】
図10において、波数ベクトルKaとZ軸とが角度θをなす場合、面内に投影した波数ベクトル(すなわち面内波数ベクトル)Kbの長さは、(2πn/λ)sinθとなる。一方で、一般には媒質の屈折率n>1の関係から、媒質内の面内波数ベクトルKbが2π/λより大きくなる角度では、波数保存則が成立しなくなる。このとき、光は全反射し、空気側に取り出すことができなくなる。この全反射条件に対応する波数ベクトルの大きさがライトラインLLの大きさ、すなわち、2π/λとなる。
【0049】
面内波数ベクトルK1~K4に回折ベクトルVを加える具体的な方式の一例として、光像に応じた位相分布である回転角度分布φ1(x,y)(第1の位相分布)に対し、光像とは無関係の回転角度分布φ2(x,y)(第2の位相分布)を重畳する方式が考えられる。この場合、位相変調層15の回転角度分布φ(x,y)は、φ(x,y)=φ1(x,y)+φ2(x,y)として表される。φ1(x,y)は、前に述べたように光像をフーリエ変換したときの複素振幅の位相に相当する。また、φ2(x,y)は、上記の数式(19)を満たす回折ベクトルVを加えるための回転角度分布である。
【0050】
図11は、回転角度分布φ2(x,y)の一例を概念的に示す図である。同図の例では、第1の位相値φAと、第1の位相値φAとは異なる値の第2の位相値φBとが市松模様に配列されている。一例では、位相値φAは、0(rad)であり、位相値φBは、π(rad)である。この場合、第1の位相値φAと、第2の位相値φBとがπずつ変化する。このような位相値の配列によって、Γ-M1軸又はΓ-M2軸に沿う回折ベクトルVを好適に実現することができる。市松模様の配列の場合、V=(±π/a,±π/a)となり、回折ベクトルVと図8の波数ベクトルK1~K4とが丁度相殺される。なお、回折ベクトルVの角度分布θ2(x,y)は、回折ベクトルV(Vx,Vy)と位置ベクトルr(x,y)との内積で表される。すなわち、回折ベクトルVの角度分布θ2(x,y)は、θ2(x,y)=V・r=Vxx+Vyyで表される。
【0051】
上記実施形態において、光像の角度広がりに基づく波数広がりが、波数空間上の或る点を中心とする半径Δkの円に含まれる場合、次のように簡略に考えることもできる。4方向の面内波数ベクトルK1~K4に回折ベクトルVを加えることにより、4方向の面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つの大きさを2π/λ(ライトラインLL)よりも小さくする。このことは、4方向の面内波数ベクトルK1~K4から波数拡がりΔkを除いたものに対して回折ベクトルVを加えることにより、4方向の面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つの大きさを、2π/λから波数拡がりΔkを差し引いた値{(2π/λ)-Δk}より小さくする、と考えてよい。
【0052】
図12は、上記の状態を概念的に示す図である。同図に示すように、波数拡がりΔkを除いた面内波数ベクトルK1~K4に対して回折ベクトルVを加えると、面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つの大きさが{(2π/λ)-Δk}よりも小さくなる。図12において、領域LL2は、半径が{(2π/λ)-Δk}の円状の領域である。図12において、破線で示される面内波数ベクトルK1~K4は、回折ベクトルVの加算前を表しており、実線で示される面内波数ベクトルK1~K4は、回折ベクトルVの加算後を表している。領域LL2は、波数拡がりΔkを考慮した全反射条件に対応しており、領域LL2内に収まる大きさの波数ベクトルは、面垂直方向(Z軸方向)にも伝搬することとなる。
【0053】
本形態において、面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つを領域LL2内に収めるための回折ベクトルVの大きさ及び向きを説明する。下記の数式(20)~(23)は、回折ベクトルVが加えられる前の面内波数ベクトルK1~K4を示す。
【数20】

【数21】

【数22】

【数23】
【0054】
ここで、回折ベクトルVを前述した数式(14)のように表したとき、回折ベクトルVが加えられた後の面内波数ベクトルK1~K4は、下記の数式(24)~(27)となる。
【数24】

【数25】

【数26】

【数27】
【0055】
数式(24)~(27)において、面内波数ベクトルK1~K4のいずれかが領域LL2内に収まることを考慮すると、下記の数式(28)の関係が成り立つ。すなわち、数式(28)を満たす回折ベクトルVを加えることにより、波数拡がりΔkを除いた面内波数ベクトルK1~K4のいずれかが領域LL2内に収まる。このような場合であっても、0次光を出力させずに、1次光及び-1次光の一部を出力させることができる。
【数28】
【0056】
図13は、変形例に係る位相変調層の平面図である。また、図14は、変形例に係る位相変調層における異屈折率領域の位置関係を示す図である。図13及び図14に示すように、変形例に係る位相変調層15の各異屈折率領域15bの重心Gは、直線D上に配置されている。直線Dは、各単位構成領域Rに対応する格子点Oを通り、正方格子の各辺に対して傾斜する直線である。つまり、直線Dは、X軸及びY軸の双方に対して傾斜する直線である。正方格子の一辺(X軸)に対する直線Dの傾斜角は、θである。
【0057】
傾斜角θは、位相変調層15B内において一定である。傾斜角θは、0°<θ<90°を満たし、一例ではθ=45°である。或いは、傾斜角θは、180°<θ<270°を満たし、一例ではθ=225°である。傾斜角θが0°<θ<90°または180°<θ<270°を満たす場合、直線Dは、X軸及びY軸によって規定される座標平面の第1象限から第3象限にわたって延びる。傾斜角θは、90°<θ<180°を満たし、一例ではθ=135°である。或いは、傾斜角θは、270°<θ<360°を満たし、一例ではθ=315°である。傾斜角θが90°<θ<180°または270°<θ<360°を満たす場合、直線Dは、X軸及びY軸によって規定される座標平面の第2象限から第4象限にわたって延びる。このように、傾斜角θは、0°、90°、180°及び270°を除く角度となっている。
【0058】
ここで、格子点Oと重心Gとの距離をr(x,y)とする。xは、X軸におけるx番目の格子点の位置であり、yは、Y軸におけるy番目の格子点の位置である。距離r(x,y)が正の値である場合、重心Gは、第1象限(または第2象限)に位置する。距離r(x,y)が負の値である場合、重心Gは、第3象限(または第4象限)に位置する。距離r(x,y)が0である場合、格子点Oと重心Gとが互いに一致する。傾斜角度は、45°、135°、225°、275°が好適である。これらの傾斜角度では、M点の定在波を形成する4つの波数ベクトル(例えば、面内波数ベクトル(±π/a、±π/a))の中の2つのみが位相変調され、その他の2つが位相変調されないため、安定した定在波を形成することができる。
【0059】
各異屈折率領域の重心Gと各単位構成領域Rに対応する格子点Oとの距離r(x,y)は、所望の光像に応じた位相パターンに従って各異屈折率領域15b毎に個別に設定される。位相パターン、すなわち距離r(x,y)の分布は、x,yの値で決まる位置毎に特定の値を有するが、必ずしも特定の関数で表わされるとは限らない。距離r(x,y)の分布は、所望の光像を逆フーリエ変換して得られる複素振幅分布のうち位相分布を抽出したものから決定される。
【0060】
すなわち、図14に示すように、或る座標(x,y)における位相P(x,y)がP0である場合には、距離r(x,y)を0と設定し、位相P(x,y)がπ+P0である場合には、距離r(x,y)を最大値R0に設定し、位相P(x,y)が-π+P0である場合には、距離r(x,y)を最小値-R0に設定する。そして、その中間の位相P(x,y)に対しては、r(x,y)={P(x,y)-P0}×R0/πとなるように距離r(x,y)をとる。初期位相P0は、任意に設定することができる。
【0061】
仮想的な正方格子の格子間隔をaとすると、r(x,y)の最大値R0は、例えば下記式(29)の範囲内となる。所望の光像から複素振幅分布を求める際には、ホログラム生成の計算時に一般的に用いられるGerchberg-Saxton(GS)法のような繰り返しアルゴリズムを適用することによって、ビームパターンの再現性を向上させることが可能である。
【数29】
【0062】
本形態においては、位相変調層15の異屈折率領域15bの距離r(x,y)の分布を決定することにより、所望の光像を得ることができる。前述の実施形態と同様の第1~第4の前提条件の下、位相変調層15は、以下の条件を満たすよう構成される。すなわち、格子点O(x,y)から対応する異屈折率領域15bの重心Gまでの距離r(x,y)が、
r(x,y)=C×(P(x,y)-P0
C:比例定数で例えばR0/π
0:任意の定数であって例えば0
となる関係を満たすように、対応する異屈折率領域15bが単位構成領域R(x,y)内に配置される。
【0063】
すなわち、距離r(x,y)は、或る座標(x,y)における位相P(x,y)がP0である場合には0に設定され、位相P(x,y)がπ+P0である場合には最大値R0に設定され、位相P(x,y)が-π+P0である場合には最小値-R0に設定される。所望の光像を得たい場合、当該光像を逆フーリエ変換して、その複素振幅の位相P(x,y)に応じた距離r(x,y)の分布を複数の異屈折率領域15bに与えるとよい。位相P(x,y)と距離r(x,y)とは、互いに比例してもよい。
【0064】
本形態においても、前述した実施形態と同様に、仮想的な正方格子の格子間隔aと活性層12の発光波長λとがM点発振の条件を満たす。さらに、位相変調層15において逆格子空間を考えるとき、距離r(x,y)の分布による波数拡がりをそれぞれ含む4方向の面内波数ベクトルのうち少なくとも1つの大きさは、2π/λ(ライトライン)よりも小さくすることができる。
【0065】
本形態においては、M点で発振するS-iPMSEL1において次のような工夫を位相変調層15に施すことにより、0次光をライトライン内に出力させずに、1次光及び-1次光の一部を出力する。具体的には、図9に示したように、面内波数ベクトルK1~K4に対してある一定の大きさ及び向きを有する回折ベクトルVを加えることにより、面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つの大きさを、2π/λよりも小さくする。すなわち、回折ベクトルVが加えられた後の面内波数ベクトルK1~K4のうち少なくとも1つを半径2π/λの円状領域(ライトライン)LL内に収める。前述した数式(19)を満たす回折ベクトルVを加えることにより、面内波数ベクトルK1~K4のいずれかがライトラインLL内に収まり、1次光及び-1次光の一部が出力される。
【0066】
或いは、図12に示したように、4方向の面内波数ベクトルK1~K4から波数拡がりΔkを除いたもの(すなわちM点発振の正方格子PCSELにおける4方向の面内波数ベクトル)に対して回折ベクトルVを加えることにより、4方向の面内波数ベクトルK1~K4のうち、少なくとも1つの大きさを2π/λから波数拡がりΔkを差し引いた値{(2π/λ)-Δk}より小さくしてもよい。すなわち、前述した数式(28)を満たす回折ベクトルVを加えることにより、面内波数ベクトルK1~K4のいずれかが領域LL2内に収まり、1次光及び-1次光の一部が出力される。
【0067】
面内波数ベクトルK1~K4に回折ベクトルVを加える具体的な方式の一例として、光像に応じた位相分布である距離分布r1(x,y)(第1の位相分布)に対し、光像とは無関係の距離分布r2(x,y)(第2の位相分布)を重畳する方式が考えられる。この場合、位相変調層15の距離分布r(x,y)は、
r(x,y)=r1(x,y)+r2(x,y)
として表される。r1(x,y)は、前述したように、光像をフーリエ変換したときの複素振幅の位相に相当する。r2(x,y)は、上記の数式(19)或いは数式(28)を満たす回折ベクトルVを加えるための距離分布である。なお、距離分布r2(x,y)の具体例は、図11と同様である。
[三次元計測装置の第1実施形態]
【0068】
図15は、第1実施形態に係る三次元計測装置101Aの構成を示す概略的な図である。同図に示すように、三次元計測装置101Aは、単体の光源部102と、複数(一対)の撮像部103と、計測部104とを含んで構成されている。光源部102は、上述したM点発振のS-iPMSEL1によって構成されている。光源部102から出射される計測光105は、ステージ106上に載置された被計測物SAの表面の一定の領域に照射される。ステージ106は、2次元方向又は3次元方向に走査可能な走査ステージであってもよい。なお、計測光105の照射範囲が被計測物SAの測定範囲に対して十分に広い場合、ステージ106の配置を省略してもよい。
【0069】
本実施形態では、計測光105の所定パターンは、ドットパターン、ストライプパターン、及び格子パターンのいずれかからなる周期パターンW1となっている。図16の例では、計測光105の周期パターンW1は、100×100ピクセルの画像領域で示す周期的なドットパターンとなっている。このドットパターンでは、マトリクス状にドットが配列されており、ドット周期は、縦横共に5ピクセル周期となっている。また、図17は、周期的パターンの遠視野像の一例を示す図である。図17(a)は、40×40ドット、図17(b)は、60×60ドット、図17(c)は、80×80ドット、図17(d)は、120×120ドットの遠視野像である。光源部102の駆動条件は、電流0.5A、パルス幅50ns、パルス間隔5μs、温度25℃である。図の中心は、計測光105の面垂直方向の中心であり、図中のスケールバーは、15°に対応している。これらの図で示される遠視野像は、平面スクリーンにおいて各ドットがマトリクス状に配列するように設計されており、中心から離れた部分の配列の歪みは、測定系の光学系に起因するものである。
【0070】
撮像部103は、光源部102から出射される計測光105に対して感度を有する装置によって構成されている。撮像部103としては、例えばCCD(Charge Coupled Device)カメラ、CMOS(ComplementaryMOS)カメラ、その他の二次元イメージセンサなどを用いることができる。撮像部103は、計測光105が照射された状態の被計測物SAを撮像し、撮像結果を示す出力信号を計測部104に出力する。
【0071】
計測部104は、例えばプロセッサ、メモリ等を含んで構成されるコンピュータシステムによって構成されている。計測部104は、各種の制御機能をプロセッサによって実行する。コンピュータシステムとしては、例えばパーソナルコンピュータ、マイクロコンピュータ、クラウドサーバ、スマートデバイス(スマートフォン、タブレット端末など)などが挙げられる。計測部104は、PLC(programmable logic controller)によって構成されていてもよく、FPGA(Field-programmable gate array)等の集積回路によって構成されていてもよい。
【0072】
計測部104は、撮像部103と通信可能に接続されており、撮像部103から入力される出力信号に基づいて、被計測物SAの三次元形状計測を実施する。本実施形態では、計測部104は、周期パターンW1を用いたアクティブステレオ法に基づいて被計測物SAの三次元形状を計測する。ここでは、一例として、平行等位ステレオの原理に基づく3次元形状計測法を示す。一対の撮像部103,103による視差をDとし、一対の撮像部103,103間の距離をb、一対の撮像部103,103の焦点距離をf、一対の撮像部103,103から被計測物SAまでの距離をZとすると、視差Dは、D=(f/Z)bで与えられる。撮像部103,103間の距離b及び撮像部103,103の焦点距離は、いずれも固有の値であるため、視差Dを求めることにより、被計測物SAまでの距離Zを求めることができる。
【0073】
本実施形態では、周期パターンW1を有する計測光105が被計測物SAに照射される。このとき、撮像部103,103のそれぞれで撮像した周期パターンW1の同一点を計測部104で判別することが可能となる。また、パッシブステレオ法において課題となっていた、テクスチャの少ない画像を用いた三次元計測、暗部での三次元計測が可能となる。周期的なドットに代表される周期パターンW1を用いることで、計測光105のパターン密度の偏りが抑制され、計測光105の照明位置による計測精度のムラを抑えることが可能となる。
【0074】
本実施形態において、周期パターンW1に代えて、例えば図18に示すようなランダムドットパターンW2を用いてもよい。ランダムドットパターンW2は、図16に示したドットパターンの各ドットを、格子点の位置から基本周期領域(隣接する格子点間の中点に垂直な線分で囲まれた矩形領域)の範囲で2次元的にランダムにシフトさせたパターンとなっている。一例として、格子点に位置するドットにそれぞれ乱数φ(ix,iy)を割り当て、当該乱数φに基づいて、各ドットを格子点の位置からシフトさせてもよい。
【0075】
この場合、ランダムドットパターンW2が疑似的な周期性を有することとなるため、計測光105のパターン密度の偏りが抑制され、計測光105の照明位置による計測精度のムラを抑えることが可能となる。また、周期的なドットパターンではなく、ランダムドットパターンW2を用いることで、ドットパターンの同一点を異なる撮像部103で撮像した際の誤認識を抑制できる。したがって、視差Dの計測精度を向上でき、三次元形状計測の精度を高めることが可能となる。
【0076】
また、本実施形態において、周期パターンW1に代えて、図19に示すような均一な密度を有するパターンW3を用いてもよい。S-iPMSEL1からの出射光は、レーザ光であるため、散乱光中にスペックルが生じ得る。また、位相計算において、意図しないスペックル状ノイズの混入が生じる場合もある。したがって、均一な密度を有するパターンW3を用いた場合であっても、計測光105のパターンにランダムドットパターンが形成される。このランダムドットパターンを用いることで、ドットパターンの同一点を異なる撮像部103で撮像した際の誤認識を抑制できる。
【0077】
図20は、均一な密度を有するパターンW3のFFP(Far Field Pattern)の一例を示す図である。同図の例では、計測光105のパルス幅を50ns、繰り返し間隔5μsとし、常温下でFFPを観測している。また、明るさ+40%、コントラスト-40%の色調補正を加えている。同図において、均一な密度を有するパターンW3を用いた場合であっても、計測光105のパターンにランダムドットパターンが形成されることが確認できる。
【0078】
なお、図15の例では、三次元計測装置101Aは、単体の光源部102を備えているが、三次元計測装置101Aは、複数の光源部102を備えていてもよい。この場合、各光源部102からの計測光105を被計測物SAの異なる領域に照射することで、ステージ106の走査を行うことなく計測領域を拡大することができる。この構成を採用する場合には、ステージ106の配置を省略してもよい。
[三次元計測装置の第2実施形態]
【0079】
図21は、第2実施形態に係る三次元計測装置の構成を示す概略的な図である。同図に示すように、第2実施形態に係る三次元計測装置101Bは、複数の光源部102と、単体の撮像部103と、計測部104とを含んで構成されている。撮像部103、光源部102、及び計測部104の構成は、第1実施形態と同様である。本実施形態では、計測光105の所定パターンは、グレイコードパターンであり、計測部104は、グレイコードパターンを用いた三角測量法に基づいて被計測物SAの三次元形状を計測する。
【0080】
図22は、グレイコードパターンの一例を示す図である。同図の例では撮像部103の画素をNx×Nyとし、X方向について示している。X方向の画素位置n(nは0~Nx-1の整数)をMx桁の2進数とすると、グレイコードパターンW4は、対象の数の2進数表現と、当該対象の数の2進数表現を1ビット右にシフトし、その先頭に0を付した数との排他的論理和で表される。すなわち、対象の数をnとすると、グレイコードパターンW4は、n^(n>>1)との論理式で与えられる。図22の例では、4ビット(4パターン)の場合のグレイコードパターンW4a~W4dを示している。グレイコードパターンW4の生成には、例えばOpenCVなどを用いることができる。
【0081】
グレイコードでは、隣接する画素のハミング距離が1となる。ハミング距離とは、桁数が同じ2つの値を比べたときに、対応する位置にある異なった値の桁の個数を指す。したがって、ハミング距離が1であるグレイコードでは、ビット列を復元する際にビットエラーが生じた場合でも誤差は1に収まる。単純なバイナリコードでは、上位ビットにエラーが生じた場合の位置の誤差が大きくなるが、グレイコードでは、ノイズに強い符号が得られる。
【0082】
グレイコードを用いる場合、光源部102の配置数は、2進数の各桁に対応するパターンの数であればよい。すなわち、グレイコードパターンW4a~W4dは、最上位ビットから最下位ビットまでの各桁の各画素の0,1が互いに異なるように設定された複数の縞状のパターンによって構成される。光源部102において最上位ビットのグレイコードパターンW4aから最下位ビットのグレイコードパターンW4dまでの各パターンを順に切り替えながら撮像部103で撮像を行う場合、Mx回の撮像で値Xが得られる。この値Xに基づいて、X番目の画素の位置を計測していることが分かる。Y方向についても同様に、グレイコードパターンW4a~W4dを順に切り替えながら撮像部103で撮像を行うことで、My回の撮像で値Yが得られる。この値Yに基づいて、Y番目の画素の位置を計測していることが分かる。
【0083】
被計測物SAの表面の色による誤認識を避けるため、図22に示したグレイコードパターンW4a~W4dとは、白黒が反転したグレイコードパターンを合わせて用いてもよい。この場合には、光源部102の配置数を2Mx+2Myとすればよい。
【0084】
本実施形態において、グレイコードパターンW4に代えて、例えば図23に示すように、正弦波状のストライプパターンW5を用いてもよい。図23に示す正弦波状のストライプパターンW5は、100×100ピクセルの画像領域で示す周期的なストライプパターンとなっている。正弦波状のストライプパターンW5の周期は、20ピクセル周期となっている。計測部104は、正弦波状のストライプパターンW5を用いた位相シフト法に基づいて被計測物SAの三次元形状を計測する。この形態では、例えば格子ピッチに対して1周期分を等分した位相シフト(位置ずれ)がそれぞれ与えられた複数の正弦波状のストライプパターンW5が用いられる。位相シフトのパターンは、位相が2π/N(Nは整数)ずつずれたものを用意すればよい。
【0085】
ここでは、異なる位相シフトを有する4つの正弦波状のストライプパターンW5を用いる場合を例示する。4の正弦波状のストライプパターンW5を有する計測光105の光強度をそれぞれI0~I3とし、撮像部103の画素を(x,y)とすると、被計測物SAの表面での光強度I0~I3は、下記式(30)~(33)で表される。Ia(x,y)は、格子模様の振幅、Ib(x,y)は、背景強度、θ(x,y)は、初期位相である。
【数30】

【数31】

【数32】

【数33】
【0086】
初期位相θは、tanθ=-(I3-I1)/(I2-I0)によって求めることができる。正弦波状のストライプパターンW5の位相シフト数がNである場合、初期位相θは、下記式(34)により求めることができる。
【数34】
【0087】
このような位相シフト法を用いる場合、計測した位相を高さ換算することで、正弦波状のストライプパターンW5のピッチよりも小さい間隔で被計測物SAの高さを計測することができる。三次元計測装置101Bの構成にあたっては、正弦波状のストライプパターンW5におけるストライプと平行な方向に光源部102を配列してもよい。この場合、光源部102の位置ずれに起因する位相シフトを無くすことが可能となり、複数の正弦波状のストライプパターンW5のそれぞれにおける初期位相のずれを解消できる。
【0088】
本実施形態において、光源部102を互いに直交する二軸方向に配列してもよい。この場合、軸毎に計測光105のオン・オフを切り替えることで、被計測物SAの高さプロファイルを2軸で取得することができる。また、正弦波状のストライプパターンW5に代えて、例えば図24に示すように、互いに直交する二軸方向について正弦波状に変化するマトリクスパターンW6を用いてもよい。このようなマトリクスパターンW6を用いる場合、被計測物SAの高さプロファイルを2軸方向に同時に計測することができる。
【0089】
本実施形態において、複数の光源部102は、互いに周期の異なる正弦波状のストライプパターンW5をそれぞれ出力してもよい。上述した位相シフト法では、位相2πにおける不連続性が課題となっている。これに対し、互いに周期の異なる正弦波状のストライプパターンW5を用いる場合には、例えば図25に示すように、全ての周波数で一致する座標を選択することにより、位相2πにおける不連続性を改善することが可能となり、少数のパターンで高精度の三次元計測を実現できる。位相2πにおける不連続性を改善することで、三次元形状計測の計測レンジの拡張や、凹凸の顕著な被計測物SAの高精度な計測を実現できる。
【0090】
本実施形態において、計測部104は、正弦波状のストライプパターンW5を用いたサンプリングモアレ法に基づいて被計測物SAの三次元形状を計測してもよい。サンプリングモアレ法では、被計測物SAの表面に投影された正弦波状のストライプパターンW5の格子が被計測物SAの高さに応じて変形することを利用する。ここでは、撮像部103で撮像された画像において、基準面の高さでの位相シフト数Nの1つの正弦波パターンの縞間隔がカメラのN画素と対応するように予め調整する。ここでは、位相シフト数Nを4とする。1つの正弦波パターンを照射し、撮像部103の画素をN=4画素毎にサンプリングすることで、図26(a)に示すように、4画素毎に撮像された(撮像画素間の3画素が間引きされた)4つのパターンP1~P4が得られる。これらのパターンP1~P4間では、撮像画素が1画素ずつシフトしており、撮像画素の輝度値を線形補完することで、図26(b)に示すように、互いに位相がシフトしたモアレ縞パターンM1~M4が得られる。これらのモアレ縞パターンM1~M4を用いて上述した位相シフト法を適用することにより、正弦波状のストライプパターンW5のピッチよりも小さい間隔で被計測物SAの高さを計測することができる。このような手法によれば、前述の位相シフト法に比べて、照射する正弦波パターンの数を少なくすることができ、光源部102をコンパクトにすることができる。
【0091】
本実施形態において、正弦波状のストライプパターンW5に代えて、例えば図27に示すように、正弦波状のストライプパターンW5と、ランダムドットパターンW2とを重畳させた重畳パターンW7を用いてもよい。このような重畳パターンW7を用いることで、正弦波状のストライプパターンW5のピッチよりも小さい間隔で被計測物SAの高さを計測することができる。また、ランダムドットパターンを組み合わせることで、位相2πにおける不連続性を改善することが可能となり、少数のパターンで高精度の三次元計測を実現できる。重畳パターンは、図28に示すように、正弦波状に変化するマトリクスパターンW6と、ランダムドットパターンW2とを重畳させた重畳パターンW8であってもよい。この場合、前述の効果に加え、被計測物SAの高さプロファイルを2軸方向に同時に計測することができる。
【0092】
本実施形態において、正弦波状のストライプパターンW5及びグレイコードパターンW4の双方を用いてもよい。この場合、計測部104は、正弦波状のストライプパターンW5を用いた位相シフト法、及びグレイコードパターンW4を用いた三角測量法に基づいて被計測物SAの三次元形状を計測する。この場合、グレイコードパターンW4を用いた三角測量法によってピクセルレベルの計測を行い、正弦波状のストライプパターンW5を用いた位相シフト法によってサブピクセルレベルの計測を行うことができる。また、グレイコードを用いることで、位相2πにおける不連続性を改善することが可能となり、少数のパターンで高精度の三次元計測を実現できる。
[三次元計測装置の第3実施形態]
【0093】
図29は、第3実施形態に係る三次元計測装置の構成を示す概略的な図である。同図に示すように、第3実施形態に係る三次元計測装置101Cは、複数の光源部102と、複数(一対)の撮像部103と、計測部104とを含んで構成されている。撮像部103、光源部102、及び計測部104の構成は、第1実施形態と同様である。本実施形態では、計測光105の所定パターンは、正弦波状のストライプパターンW5であり、計測部104は、正弦波状のストライプパターンW5を用いた位相シフト法及びアクティブステレオ法に基づいて被計測物SAの三次元形状を計測する。
【0094】
本実施形態では、計測した位相を高さ換算することで、正弦波状のストライプパターンW5のピッチよりも小さい間隔で被計測物SAの高さを計測することができる。また、複数の撮像部103を用いたアクティブステレオ法を組み合わせることで、位相2πにおける不連続性を改善することが可能となり、少数のパターンで高精度の三次元計測を実現できる。なお、アクティブステレオ法を用いる場合、前述したドットパターンを切り替えながら用いてもよい。
[S-iPMSELによる正弦波状のストライプパターンの位相シフト]
【0095】
S-iPMSEL1では、設計した1次光のほか、出射面の法線について対称な-1次光が出力される(図6参照)。このため、正弦波状のストライプパターンW5の位相シフトを行う場合、±1次光が重なった正弦波を考えると、1次光と-1次光との間でストライプがシフトする向きが反転し、パターンが設計からずれてしまうおそれがある。説明の簡単化のため、X軸方向へのストライプのシフトを考えると、1次光の複素振幅は、下記式(35)で表される。-1次光の複素振幅は、面法線に対して1次光と対称となる位置に出射するものであり、下記式(36)で表される。式中、k(=kx、ky,kz)は波数ベクトル(大きさ2π/λ)、λは波長、ωは光の各周波数、Δθは位相シフト、a1は1次光振幅(理想的な位相分布に対し、実際の孔配置の位相分布に起因する成分)、Kは正弦波の縞の波数(=2π/Λ(Λは正弦波の周期))、θは正弦波の位相シフト量、(x,y,z)は投影ビームの座標である。
【数35】

【数36】
【0096】
このとき、1次光及び-1次光の振幅に基づいて、合成振幅Aを下記式(37)により求めることができる。
【数37】

実際の光強度は、合成振幅Aの二乗に比例するため、下記式(38)により求めることができる。
【数38】

基本光波の周期は、正弦波の周期に比べて十分に小さい(λ<<Λ)。したがって、基本光波の波数kは、正弦波の縞の波数Kに比べて十分に大きい(k>>K)。このため、上記式(38)において、kの変化に対応する項を平均化してもよいと考えられる。この場合、±1次光を重畳した光の強度Iは、下記式(39)により近似できる。
【数39】
【0097】
これらの式から、正弦波状のストライプパターンW5の位相シフトを行う場合、ストライプは、±1次光が重なったとしても、正弦波形状を維持したままシフトすることが分かる。また、±1次光が重畳した正弦波パターンでは、設計パターン(1次光振幅)に対して実際に得られる光強度(±1次光の振幅の和の二乗)の縞の間隔が半減し、位相シフト量が1周期に対して2倍となることが分かる。このため、例えば最終的に得られる光強度においてπ/2の位相シフトを実現させる場合、1次光振幅の位相シフト量の設計値をπ/4とすればよい。2軸方向に周期を持つ正弦波状のマトリクスパターンW6についても同様である。
【0098】
図4に示したように、S-iPMSEL1における異屈折率領域15bの重心Gを格子点O回りの円周方向にずらすことによって形成した場合、1次光及び-1次光の振幅aは、互いに等しい値となる。一方、図14に示したように、S-iPMSEL1における異屈折率領域15bの重心Gを、格子点Oを通り且つ正方格子の各辺に対して傾斜する直線D上にずらすことによって形成した場合、1次光及び-1次光の振幅aは、互いに異なる値となる。いずれの場合においても、±1次光が重畳した正弦波パターンを用いることができる。
【0099】
1次光及び-1次光が非対称なパターンである場合には、1次光と-1次光とが重なってしまうと、設計したパターンが得られないという問題がある。このような問題の一例としては、1次光の輝点1点当たりの構造が非対称な拡がりを持ち、設計パターンが不明瞭になってしまうことが挙げられる。この場合、1次光の出射領域を立体角がπとなる領域に限定すればよい。例えば1次光の出射領域を第1象限及び第2象限に限定する場合、-1次光の出射領域は、第4象限及び第3象限となるため、1次光と-1次光とが重なってしまうことを回避できる。これにより、1次光と-1次光との重なりによる輝点の拡がりを抑制できる。位相シフト法によって格子パターンをシフトさせる場合、-1次光のシフト方向は、1次光のシフト方向に対して反転する。したがって、1次光及び-1次光のそれぞれの出射領域に合わせて位相シフト演算で得られる位相を反転させることが好適である。一方、上記の問題が生じない場合でも、1次光及び-1次光を重畳せずにノイズの少ない像が得られる場合には、±1次光の投影領域を重畳せずにそれぞれ用いてもよい。
[光源部及び撮像部の配置例]
【0100】
図30は、光源部及び撮像部の配置例を示す概略的な斜視図である。図30に示すように、三次元計測装置101を構成するにあたって、光源部102及び撮像部103は、立体物111の表面に配置されていてもよい。立体物111は、三次元計測装置101A~101Cのプローブに相当する部分を構成する。立体物111は、例えば金属或いは樹脂によって円筒形状に形成されている。立体物111は、剛性を有していてもよく、可撓性を有していてもよい。立体物111は、内部空間を有していてもよい。
【0101】
光源部102及び撮像部103は、円筒形状の立体物111の周面111aにおいて、周方向にそれぞれ一定の間隔(ここでは45°の位相角)をもって配置されている。図30の例では、立体物111の先端側から基端側にわたって、一方の撮像部103の群、光源部102の群、他方の撮像部103の群が一定の間隔をもって配置されている。立体物111を長手方向から見た場合、一方の撮像部103、光源部102、他方の撮像部103が一列に並んでおり、これらの組が被計測物SAに対する一つの計測領域を構成している。立体物111が内部空間を有する場合、光源部102及び撮像部103に対する配線等が当該内部空間に収容されていてもよい。なお、光源部102と撮像部103との配置間隔は、必ずしも等間隔でなくてもよい。また、被計測物SAに対する測定範囲が網羅される場合には、単体の光源部102と単体の撮像部103とが立体物111に配置されていてもよい。
【0102】
図31は、光源部及び撮像部の別の配置例を示す概略的な斜視図である。図31の例では、立体物121は、球形状をなしており、例えば円筒形状の支持部122の先端部分に設けられている。光源部102及び撮像部103は、球形状の立体物121の球面121aにおいて、経度方向にそれぞれ一定の間隔(ここでは45°の位相角)をもって配置されている。一方の撮像部103の群、光源部102の群、他方の撮像部103の群は、立体物121の緯度方向にわたって一定の間隔をもって配置されている。そして、立体物121の経度方向に並ぶ一方の撮像部103、光源部102、他方の撮像部103の組が被計測物SAに対する一つの計測領域を構成している。立体物121が内部空間を有する場合、光源部102及び撮像部103に対する配線等が当該内部空間に収容されていてもよい。図30の場合と同様、光源部102と撮像部103との配置間隔は、必ずしも等間隔でなくてもよい。また、被計測物SAに対する測定範囲が網羅される場合には、単体の光源部102と単体の撮像部103とが立体物121に配置されていてもよい。
【0103】
以上のような構成によれば、光源部102及び撮像部103が配置された立体物111,121を三次元計測装置101のプローブとして構成できる。このような立体物111,121を用いることで、光源部102及び撮像部103のそれぞれの組を互いに異なる方向に向けることができるため、被計測物SAの三次元形状計測を広い立体角で実施することが可能となる。また、例えば口腔検査、内視鏡検査、管の内部や壁の隙間といった狭小箇所の検査、家具や装置等の床下からの検査といった用途への適用や、ハンディタイプの三次元計測装置の構築が容易となる。
【0104】
図23に、正弦波状のストライプパターンW5を示したが、かかるストライプパターンを形成するにあたっては、隣接するパターン間のノイズ(輝度揺らぎ)を低減することが重要となる。隣接するパターン間のノイズは、例えば位相シフト法を適用する際の位置の揺らぎの要因となり、測定精度に影響を与えることが考えられる。そこで、隣接するパターン間のノイズ低減を考慮したストライプパターンの形成を実現するにあたっては、例えば図32に示すように、1次元の多点パターンを出射するS-iPMSEL1と、1次元レンズ51とを組み合わせた構成を採用し得る。
【0105】
図32の例では、1次元レンズ51は、1次元凹レンズ52である。1次元凹レンズ52の媒質は、例えばガラスである。1次元凹レンズ52の一方面52aは平坦面であり、他方面52bは凹面となっている。1次元凹レンズ52は、一方面52aをS-iPMSEL1を向けた状態でS-iPMSEL1の表面(レーザ光の出射面)に対して配置されている。1次元凹レンズ52は、S-iPMSEL1の表面に対して結合され、S-iPMSEL1と一体化していてもよい。1次元凹レンズ52のレンズ位相は、下記式(40)によって求められる。下記式(40)において、φはレンズ位相、λはレンズ媒質中のレーザ光の波長、fは焦点距離である。
【数40】
【0106】
S-iPMSEL1からの多点パターンのレーザ光Laは、図32及び図33(a)の例では、X方向に所定の間隔をもって配列されている。図32の例では、1次元凹レンズ52は、凹面がX軸方向に延在するように配置されている。1次元凹レンズ52を通過した多点パターンのレーザ光Laは、X軸方向には変化せず、Y軸方向にのみ拡張する。したがって、多点パターンのレーザ光Laを1次元凹レンズ52に通すことにより、図33(b)に示すように、Y方向に拡張したライン状のレーザ光LbがX軸方向に並ぶストライプパターンW11が得られる。
【0107】
ストライプパターンをより正弦波状に近づける場合、例えば図34(a)に示すように、多点パターンのレーザ光Laを形成し、各レーザ光の輝度がX軸方向について正弦波状となるように制御する。このような多点パターンのレーザ光Laを1次元凹レンズ52に通すことにより、図34(b)に示すストライプパターンW12では、Y方向に拡張したライン状のレーザ光LbがX軸方向に並ぶと共に、各レーザ光Lbの輝度がX軸方向について正弦波状に変化した状態となる。
【0108】
図34(a)及び図35(a)では、多点パターンのレーザ光LaがX軸方向に一直線状に並んでいるが、各レーザ光Laは、必ずしも一直線状に並んでいなくてもよく、Y軸方向に周期的或いはランダムにずれていてもよい。1次元レンズ51は、多点パターンのレーザ光Laを1次元方向に拡張できるものであればよく、1次元凹レンズ52に限られず、ラインジェネレータとして機能するパウエルレンズやラインマンレンズであってもよい。1次元レンズ51は、例えばフレネルレンズ、マイクロレンズ、メタレンズといったフラットレンズであってもよい。
【0109】
メタレンズを用いる場合、例えば図35(a)に示すような共鳴型のメタレンズ構造53Aを採用してもよく、例えば図35(b)に示すような屈折率変調型のメタレンズ構造53Bを採用してもよい。図35(a)に示すように、共鳴型のメタレンズ構造53Aを採用する場合、メタレンズ構造53Aの構成材料は、下地となる層よりも高い屈折率を有する材料である。例えば下地となる層(例えば反射防止膜19)がSiNである場合、メタレンズ構造53Aの構成材料としては、アモルファスシリコンを用いることができる。メタレンズ構造53Aを構成する単位格子の高さ及び直径は、上述した式(40)で求まるレンズ位相に基づいて設定される。
【0110】
図35(b)に示すように、屈折率変調型のメタレンズ構造53Bを採用する場合、S-iPMSEL1の表面のエッチングによってメタレンズ構造53Bを形成できる。例えばS-iPMSEL1の表面において、最表面となる層(例えば反射防止膜19)からその下層(例えば半導体基板10)の途中に至る孔部54をエッチングによって形成することで、屈折率変調型のメタレンズ構造53Bを形成できる。メタレンズ構造53Bを構成する各孔部54の深さ及び直径は、上述した式(40)で求まるレンズ位相に基づいて設定される。
【符号の説明】
【0111】
1…S-iPMSEL、101(101A~101C)…三次元計測装置、102…光源部、103…撮像部、104…計測部、105…計測光、SA…被計測物、W1…周期パターン、W2…ランダムドットパターン、W3…均一な密度を有するパターン、W4…グレイコードパターン、W5,W6…正弦波状のストライプパターン、W7,W8…重畳パターン、W11,W12…正弦波状のストライプパターン、111,121…立体物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35