(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162103
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】アジピン酸および他の化合物を生成するための微生物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20221014BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221014BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221014BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20221014BHJP
C12N 15/55 20060101ALN20221014BHJP
【FI】
C12N1/21
C12N1/15
C12N1/19
C12N15/53
C12N15/55
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022134007
(22)【出願日】2022-08-25
(62)【分割の表示】P 2020134406の分割
【原出願日】2009-03-27
(31)【優先権主張番号】61/040,059
(32)【優先日】2008-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】510199890
【氏名又は名称】ジェノマティカ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー ピー. バーガード
(72)【発明者】
【氏名】プリティ ファルクヤ
(72)【発明者】
【氏名】ロビン イー. オステラウト
(57)【要約】
【課題】アジピン酸および他の化合物を生成するための微生物の提供。
【解決手段】本発明は、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路を有する天然に存在しない微生物を提供する。当該微生物は、そのそれぞれのアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路に酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含有する。加えて、本発明は、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを生産するための方法を提供する。この方法は、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生産性微生物であって、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸をそのそれぞれの産物の生産に十分な量で発現するものである上記微生物を、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを生産する条件下でおよび十分な期間にわたって培養することを含み得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプロラクタムを生産するために十分な量で発現されるカプロラクタム経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むカプロラクタム経路を有する微生物を含む、天然に存在しない微生物であって、前記カプロラクタム経路が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼ;トランスアミナーゼまたは6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼ;およびアミドヒドロラーゼを含む、天然に存在しない微生物。
【請求項2】
アジピル-CoA経路をさらに含む、請求項1に記載の天然に存在しない微生物。
【請求項3】
前記アジピル-CoA経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼおよび5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼを含む、請求項2に記載の天然に存在しない微生物。
【請求項4】
前記アジピル-CoA経路が、アジペート経路と、アジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼおよびアジピル-CoAヒドロラーゼから選択される酵素とを含む、請求項2に記載の天然に存在しない微生物。
【請求項5】
前記アジペート経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-オキソアジピル-CoAトランスフェラーゼ、3-オキソアジピン酸レダクターゼ、3-ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼ、および2-エノエートレダクターゼを含む、請求項4に記載の天然に存在しない微生物。
【請求項6】
前記微生物が、カプロラクタム経路酵素をそれぞれがコードする2つの外因性核酸を含む、請求項1に記載の天然に存在しない微生物。
【請求項7】
前記微生物が、カプロラクタム経路酵素をそれぞれがコードする3つの外因性核酸を含む、請求項1に記載の天然に存在しない微生物。
【請求項8】
前記3つの外因性核酸が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼ、トランスアミナーゼおよびアミドヒドロラーゼをコードする、請求項7に記載の天然に存在しない微生物。
【請求項9】
前記3つの外因性核酸が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼ、6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼおよびアミドヒドロラーゼをコードする、請求項7に記載の天然に存在しない微生物。
【請求項10】
前記少なくとも1つの外因性核酸が、異種核酸である、請求項1に記載の天然に存在しない微生物。
【請求項11】
実質的に嫌気性の培養基中に存在する、請求項1に記載の天然に存在しない微生物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2008年3月27日に出願された米国仮第61/040,059号(この全体の内容は、参考として本明細書に援用される)の優先権の利益を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、生合成プロセスに関し、およびより具体的には、アジピン酸、6-アミノカプロン酸およびカプロラクタム生合成能力を有する生物に関する。
【背景技術】
【0003】
アジピン酸(146.14の分子量を有するジカルボン酸)は、商業的に重要な化合物である。その主な用途は、ナイロン6,6(異なる種類の繊維を製造するために主として用いられる、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンを縮合させることによって製造される線状ポリアミド)の生産である。アジピン酸の他の用途としては、可塑剤、不飽和ポリエステル、およびポリエステルポリオールにおけるその使用が挙げられる。加えて、用途には、ポリウレタン、潤滑剤成分の生産のための用途、ならびに着香剤およびゲル化助剤のような食品成分としての用途が挙げられる。
【0004】
歴史的には、アジピン酸は、酸化を用いて様々な脂肪から調製された。アジピン酸合成のための現行の商業プロセスは、過剰な強硝酸を使用する、シクロヘキサノン(ケトンすなわちK成分)とシクロヘキサノール(アルコールすなわちA成分)の混合物であるKA油の、または純粋なシクロヘキサノールの酸化に依存している。このテーマには、KAまたはシクロヘキサノールの生産経路が異なる幾つかの変形がある。例えば、フェノールは、KA油生産の際の代替原料であり、フェノールからのアジピン酸の合成プロセスが記載されている。このプロセスの他の変法は、硝酸以外の酸化剤、例えば過酸化水素、空気または酸素、を使用する傾向がある。
【0005】
カプロラクタムは、6-アミノヘキサン酸(ε-アミノヘキサン酸、アミノカプロン酸)のラクタムである有機化合物である。あるいは、カプロン酸の環状アミドと考えることができる。カプロラクタムの主な工業用途は、ナイロン-6の生産におけるモノマーとしての用途である。カプロラクタムの大部分は、硫酸ヒドロキシアンモニウムを使用するオキシム化プロセス、その後のベックマン転位プロセス段階を用いる触媒的転位により、シクロヘキサノンから合成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、アジピン酸およびカプロラクタムなどの化合物の商業的な量を有効に生産するための代替法が必要とされている。本発明はこの要求を満たし、関連する利点も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路を有する天然に存在しない微生物(microbial organism)を提供する。この微生物は、そのそれぞれのアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路に酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含有する。加えて、本発明は、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを生産するための方法を提供する。この方法は、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生産性微生物であって、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸をそのそれぞれの産物の生産に十分な量で発現するものである当該微生物を、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを生産する条件下でおよび十分な期間にわたって培養することを含み得る。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する微生物を含む、天然に存在しない微生物であって、上記アジペート経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ;3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ;3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ;およびアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼを含む、天然に存在しない微生物。
(項目2)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする2つの外因性核酸を含む、項目1に記載の天然に存在しない微生物。
(項目3)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする3つの外因性核酸を含む、項目1に記載の天然に存在しない微生物。
(項目4)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする4つの外因性核酸を含む、項目1に記載の天然に存在しない微生物。
(項目5)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする5つの外因性核酸を含む、項目1に記載の天然に存在しない微生物。
(項目6)
上記5つの外因性核酸が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ、およびアジピル-CoAシンセターゼをコードする、項目5に記載の天然に存在しない微生物。
(項目7)
上記5つの外因性核酸が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ、およびホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼをコードする、項目5に記載の天然に存在しない微生物。
(項目8)
上記5つの外因性核酸が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ、およびアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼをコードする、項目5に記載の天然に存在しない微生物。
(項目9)
上記5つの外因性核酸が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ、およびアジピル-CoAヒドロラーゼをコードする、項目5に記載の天然に存在しない微生物。
(項目10)
上記少なくとも1つの外因性核酸が、異種核酸である、項目1に記載の天然に存在しない微生物。
(項目11)
実質的に嫌気性の培養基中に存在する、項目1に記載の天然に存在しない微生物。
(項目12)
アジペートを生産するための方法であって、アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する天然に存在しない微生物を、アジペートを生産する条件下でおよび十分な期間にわたって培養することを含み、上記アジペート経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ;3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ;3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ;およびアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼを含む、方法。
(項目13)
上記天然に存在しない微生物が、実質的に嫌気性の培養基中に存在する、項目12に記載の方法。
(項目14)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする2つの外因性核酸を含む、項目12に記載の方法。
(項目15)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする3つの外因性核酸を含む、項目12に記載の方法。
(項目16)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする4つの外因性核酸を含む、項目12に記載の方法。
(項目17)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする5つの外因性核酸を含む、項目12に記載の方法。
(項目18)
上記5つの外因性核酸が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ、およびアジピル-CoAシンセターゼをコードする、項目17に記載の方法。
(項目19)
上記5つの外因性核酸が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ、およびホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼをコードする、項目17に記載の方法。(項目20)
上記5つの外因性核酸が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ、およびアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼをコードする、項目17に記載の方法。
(項目21)
上記5つの外因性核酸が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ、およびアジピル-CoAヒドロラーゼをコードする、項目17に記載の方法。
(項目22)
上記少なくとも1つの外因性核酸が、異種核酸である、項目12に記載の方法。
(項目23)
アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する微生物を含む、天然に存在しない微生物であって、上記アジペート経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ;3-オキソアジピル-CoAトランスフェラーゼ;3-オキソアジピン酸レダクターゼ;3-ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼ;および2-エノエートレダクターゼを含む、天然に存在しない微生物。
(項目24)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする2つの外因性核酸を含む、項目23に記載の天然に存在しない微生物。
(項目25)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする3つの外因性核酸を含む、項目23に記載の天然に存在しない微生物。
(項目26)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする4つの外因性核酸を含む、項目23に記載の天然に存在しない微生物。
(項目27)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする5つの外因性核酸を含む、項目23に記載の天然に存在しない微生物。
(項目28)
上記5つの外因性核酸が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-オキソアジピル-CoAトランスフェラーゼ、3-オキソアジピン酸レダクターゼ、3-ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼ、および2-エノエートレダクターゼをコードする、項目27に記載の天然に存在しない微生物。
(項目29)
上記少なくとも1つの外因性核酸が、異種核酸である、項目23に記載の天然に存在しない微生物。
(項目30)
実質的に嫌気性の培養基中に存在する、項目23に記載の天然に存在しない微生物。
(項目31)
アジペートを生産するための方法であって、アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する天然に存在しない微生物を、アジペートを生産する条件下でおよび十分な期間にわたって培養することを含み、上記アジペート経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ;3-オキソアジピル-CoAトランスフェラーゼ;3-オキソアジピン酸レダクターゼ;3-ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼ;および2-エノエートレダクターゼを含むものである方法。
(項目32)
上記天然に存在しない微生物が、実質的に嫌気性の培養基中に存在する、項目31に記載の方法。
(項目33)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする2つの外因性核酸を含む、項目31に記載の方法。
(項目34)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする3つの外因性核酸を含む、項目31に記載の方法。
(項目35)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする4つの外因性核酸を含む、項目31に記載の方法。
(項目36)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする5つの外因性核酸を含む、項目31に記載の方法。
(項目37)
上記4つの外因性核酸が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-オキソアジピル-CoAトランスフェラーゼ、3-オキソアジピン酸レダクターゼ、3-ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼ、および2-エノエートレダクターゼをコードする、項目36に記載の方法。
(項目38)
上記少なくとも1つの外因性核酸が、異種核酸である、項目31に記載の方法。
(項目39)
6-アミノカプロン酸を生産するために十分な量で発現される6-アミノカプロン酸経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含む6-アミノカプロン酸経路を有する微生物を含む、天然に存在しない微生物であって、上記6-アミノカプロン酸経路が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼ;およびトランスアミナーゼまたは6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼを含む、天然に存在しない微生物。
(項目40)
アジピル-CoA経路をさらに含む、項目39に記載の天然に存在しない微生物。
(項目41)
上記アジピル-CoA経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼおよび5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼを含む、項目40に記載の天然に存在しない微生物。
(項目42)
上記アジピル-CoA経路が、アジペート経路と、アジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼおよびアジピル-CoAヒドロラーゼから選択される酵素とを含む、項目40に記載の天然に存在しない微生物。
(項目43)
上記アジペート経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-オキソアジピル-CoAトランスフェラーゼ、3-オキソアジピン酸レダクターゼ、3-ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼ、および2-エノエートレダクターゼを含む、項目42に記載の天然に存在しない微生物。
(項目44)
上記微生物が、6-アミノカプロン酸経路酵素をそれぞれがコードする2つの外因性核酸を含む、項目39に記載の天然に存在しない微生物。
(項目45)
上記2つの外因性核酸が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼおよびトランスアミナーゼをコードする、項目44に記載の天然に存在しない微生物。
(項目46)
上記2つの外因性核酸が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼおよび6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼをコードする、項目44に記載の天然に存在しない微生物。
(項目47)
上記少なくとも1つの外因性核酸が、異種核酸である、項目39に記載の天然に存在しない微生物。
(項目48)
実質的に嫌気性の培養基中に存在する、項目39に記載の天然に存在しない微生物。
(項目49)
6-アミノカプロン酸を生産するための方法であって、6-アミノカプロン酸を生産するために十分な量で発現される6-アミノカプロン酸経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含む6-アミノカプロン酸経路を有する天然に存在しない微生物を、6-アミノカプロン酸を生産する条件下でおよび十分な期間にわたって培養することを含み、上記6-アミノカプロン酸経路が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼ;およびトランスアミナーゼまたは6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼを含む、方法。
(項目50)
アジピル-CoA経路をさらに含む、項目49に記載の方法。
(項目51)
上記アジピル-CoA経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ、および5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼを含む、項目50に記載の方法。
(項目52)
上記アジピル-CoA経路が、アジペート経路と、アジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼおよびアジピル-CoAヒドロラーゼから選択される酵素とを含む、項目50に記載の方法。
(項目53)
上記アジペート経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-オキソアジピル-CoAトランスフェラーゼ、3-オキソアジピン酸レダクターゼ、3-ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼ、および2-エノエートレダクターゼを含む、項目52に記載の方法。
(項目54)
上記天然に存在しない微生物が、実質的に嫌気性の培養基中に存在する、項目49に記載の方法。
(項目55)
上記微生物が、6-アミノカプロン酸経路酵素をそれぞれがコードする2つの外因性核酸を含む、項目49に記載の方法。
(項目56)
上記2つの外因性核酸が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼおよびトランスアミナーゼをコードする、項目55に記載の方法。
(項目57)
上記2つの外因性核酸が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼおよび6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼをコードする、項目55に記載の方法。
(項目58)
上記少なくとも1つの外因性核酸が、異種核酸である、項目49に記載の方法。
(項目59)
カプロラクタムを生産するために十分な量で発現されるカプロラクタム経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むカプロラクタム経路を有する微生物を含む、天然に存在しない微生物であって、上記カプロラクタム経路が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼ;トランスアミナーゼまたは6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼ;およびアミドヒドロラーゼを含む、天然に存在しない微生物。
(項目60)
アジピル-CoA経路をさらに含む、項目59に記載の天然に存在しない微生物。
(項目61)
上記アジピル-CoA経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼおよび5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼを含む、項目60に記載の天然に存在しない微生物。
(項目62)
上記アジピル-CoA経路が、アジペート経路と、アジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼおよびアジピル-CoAヒドロラーゼから選択される酵素とを含む、項目60に記載の天然に存在しない微生物。
(項目63)
上記アジペート経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-オキソアジピル-CoAトランスフェラーゼ、3-オキソアジピン酸レダクターゼ、3-ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼ、および2-エノエートレダクターゼを含む、項目62に記載の天然に存在しない微生物。
(項目64)
上記微生物が、カプロラクタム経路酵素をそれぞれがコードする2つの外因性核酸を含む、項目59に記載の天然に存在しない微生物。
(項目65)
上記微生物が、カプロラクタム経路酵素をそれぞれがコードする3つの外因性核酸を含む、項目59に記載の天然に存在しない微生物。
(項目66)
上記3つの外因性核酸が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼ、トランスアミナーゼおよびアミドヒドロラーゼをコードする、項目65に記載の天然に存在しない微生物。(項目67)
上記3つの外因性核酸が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼ、6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼおよびアミドヒドロラーゼをコードする、項目65に記載の天然に存在しない微生物。
(項目68)
上記少なくとも1つの外因性核酸が、異種核酸である、項目59に記載の天然に存在しない微生物。
(項目69)
実質的に嫌気性の培養基中に存在する、項目59に記載の天然に存在しない微生物。
(項目70)
カプロラクタムを生産するための方法であって、カプロラクタムを生産するために十分な量で発現されるカプロラクタム経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むカプロラクタム経路を有する天然に存在しない微生物を、カプロラクタムを生産する条件下でおよび十分な期間にわたって培養することを含み、上記カプロラクタム経路が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼ;トランスアミナーゼまたは6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼ;およびアミドヒドロラーゼを含む、方法。
(項目71)
アジピル-CoA経路をさらに含む、項目70に記載の方法。
(項目72)
上記アジピル-CoA経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼおよび5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼを含む、項目71に記載の方法。
(項目73)
上記アジピル-CoA経路が、アジペート経路と、アジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼおよびアジピル-CoAヒドロラーゼから選択される酵素とを含む、項目71に記載の方法。
(項目74)
上記アジペート経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-オキソアジピル-CoAトランスフェラーゼ、3-オキソアジピン酸レダクターゼ、3-ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼ、および2-エノエートレダクターゼを含む、項目73に記載の天然に存在しない微生物。
(項目75)
上記天然に存在しない微生物が、実質的に嫌気性の培養基中に存在する、項目70に記載の方法。
(項目76)
上記微生物が、カプロラクタム経路酵素をそれぞれがコードする2つの外因性核酸を含む、項目70に記載の方法。
(項目77)
上記微生物が、カプロラクタム経路酵素をそれぞれがコードする3つの外因性核酸を含む、項目70に記載の方法。
(項目78)
上記3つの外因性核酸が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼ、トランスアミナーゼおよびアミドヒドロラーゼをコードする、項目77に記載の方法。
(項目79)
上記3つの外因性核酸が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼ、6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼおよびアミドヒドロラーゼをコードする、項目77に記載の方法。(項目80)
上記少なくとも1つの外因性核酸が、異種核酸である、項目70に記載の方法。
(項目81)
アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する微生物を含む、天然に存在しない微生物であって、上記アジペート経路が、アルファ-ケトアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスケトアジピラーゼ/アルファ-ケトアジピン酸キナーゼまたはアルファ-ケトアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドロゲナーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ;およびアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼを含む、天然に存在しない微生物。
(項目82)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする2つの外因性核酸を含む、項目81に記載の天然に存在しない微生物。
(項目83)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする3つの外因性核酸を含む、項目81に記載の天然に存在しない微生物。
(項目84)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする4つの外因性核酸を含む、項目81に記載の天然に存在しない微生物。
(項目85)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする5つの外因性核酸を含む、項目81に記載の天然に存在しない微生物。
(項目86)
上記5つの外因性核酸が、アルファ-ケトアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスケトアジピラーゼ/アルファ-ケトアジピン酸キナーゼまたはアルファ-ケトアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドロゲナーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ;およびアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼをコードする、項目85に記載の天然に存在しない微生物。
(項目87)
上記少なくとも1つの外因性核酸が、異種核酸である、項目81に記載の天然に存在しない微生物。
(項目88)
実質的に嫌気性の培養基中に存在する、項目81に記載の天然に存在しない微生物。
(項目89)
アジペートを生産するための方法であって、アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する天然に存在しない微生物を、アジペートを生産する条件下でおよび十分な期間にわたって培養することを含み、上記アジペート経路が、アルファ-ケトアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスケトアジピラーゼ/アルファ-ケトアジピン酸キナーゼまたはアルファ-ケトアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドロゲナーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ;およびアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼを含む、方法。
(項目90)
上記天然に存在しない微生物が、実質的に嫌気性の培養基中に存在する、項目89に記載の方法。
(項目91)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする2つの外因性核酸を含む、項目89に記載の方法。
(項目92)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする3つの外因性核酸を含む、項目89に記載の方法。
(項目93)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする4つの外因性核酸を含む、項目89に記載の方法。
(項目94)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする5つの外因性核酸を含む、項目89に記載の方法。
(項目95)
上記5つの外因性核酸が、アルファ-ケトアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスケトアジピラーゼ/アルファ-ケトアジピン酸キナーゼまたはアルファ-ケトアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドロゲナーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ;およびアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼをコードする、項目94に記載の方法。(項目96)
上記少なくとも1つの外因性核酸が、異種核酸である、項目89に記載の方法。
(項目97)
アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する微生物を含む、天然に存在しない微生物であって、上記アジペート経路が、2-ヒドロキシアジピン酸デヒドロゲナーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスヒドロキシアジピラーゼ/2-ヒドロキシアジピン酸キナーゼまたは2-ヒドロキシアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ;およびアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼを含む、天然に存在しない微生物。
(項目98)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする2つの外因性核酸を含む、項目97に記載の天然に存在しない微生物。
(項目99)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする3つの外因性核酸を含む、項目97に記載の天然に存在しない微生物。
(項目100)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする4つの外因性核酸を含む、項目97に記載の天然に存在しない微生物。
(項目101)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする5つの外因性核酸を含む、項目97に記載の天然に存在しない微生物。
(項目102)
上記5つの外因性核酸が、2-ヒドロキシアジピン酸デヒドロゲナーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスヒドロキシアジピラーゼ/2-ヒドロキシアジピン酸キナーゼまたは2-ヒドロキシアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ;およびアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼをコードする、項目101に記載の天然に存在しない微生物。
(項目103)
上記少なくとも1つの外因性核酸が、異種核酸である、項目97に記載の天然に存在しない微生物。
(項目104)
実質的に嫌気性の培養基中に存在する、項目97に記載の天然に存在しない微生物。
(項目105)
アジペートを生産するための方法であって、アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する天然に存在しない微生物を、アジペートを生産する条件下でおよび十分な期間にわたって培養することを含み、上記アジペート経路が、2-ヒドロキシアジピン酸デヒドロゲナーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスヒドロキシアジピラーゼ/2-ヒドロキシアジピン酸キナーゼまたは2-ヒドロキシアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ;およびアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼを含む、方法。
(項目106)
上記天然に存在しない微生物が、実質的に嫌気性の培養基中に存在する、項目105に記載の方法。
(項目107)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする2つの外因性核酸を含む、項目105に記載の方法。
(項目108)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする3つの外因性核酸を含む、項目105に記載の方法。
(項目109)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする4つの外因性核酸を含む、項目105に記載の方法。
(項目110)
上記微生物が、アジペート経路酵素をそれぞれがコードする5つの外因性核酸を含む、項目105に記載の方法。
(項目111)
上記5つの外因性核酸が、2-ヒドロキシアジピン酸デヒドロゲナーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスヒドロキシアジピラーゼ/2-ヒドロキシアジピン酸キナーゼまたは2-ヒドロキシアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ;およびアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼをコードする、項目110に記載の方法。
(項目112)
上記少なくとも1つの外因性核酸が、異種核酸である、項目105に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、Penicillium chrysogenumのペルオキシソームにおける例示的アジペート分解経路を示す図である。
【
図2】
図2は、逆分解経路による例示的アジペート形成経路を示す図である。アジピル-CoAのアジペートへの最終的変換についての幾つかの選択肢を提供する。
【
図3】
図3は、3-オキソアジペート経路による例示的アジペート形成経路を示す図である。
【
図4】
図4は、アジペート合成のための3-オキソアジペート経路および還元的TCAサイクルの最後の三段階についての類似した酵素化学作用を示す図である。
【
図5】
図5は、cis,cis-ムコン酸経由でのグルコースからのアジピン酸の例示的合成経路を示す図である。生合成中間体(略語):D-エリトロース4-リン酸(E4P)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、3-デオキシ-D-アラビノヘプツロソン酸7-リン酸(DAHP)、3-デヒドロキナ酸(DHQ)、3-デヒドロシキミ酸(DHS)、プロトカテク酸(PCA)。酵素(コーディング遺伝子)または反応条件:(a)DAHPシンターゼ(aroFFBR)、(b)3-デヒドロキナ酸シンターゼ(aroB)、(c)3-デヒドロキナ酸デヒドラターゼ(aroD)、(d)DHSデヒドラターゼ(aroZ)、(e)プロトカテク酸デカルボキシラーゼ(aroY)、(f)カテコール1,2-ジオキシゲナーゼ(catA)、(g)10%Pt/C、H
2、3400kPa、25℃。Niuら、Biotechonol.Prog.18:201-211(2002)からとった図。
【
図6】
図6は、出発点としてアルファ-ケトグルタレートを使用するアルファ-ケトアジペート経由での例示的アジペート合成経路を示す図である。
【
図7】
図7は、出発点としてリジンを使用するアジペートの例示的合成経路を示す図である。
【
図8】
図8は、出発点としてアジピル-CoAを使用する例示的カプロラクタム合成経路を示す図である。
【
図9】
図9は、出発点としてアルファ-ケトアジペートを使用する例示的アジペート合成経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの生合成生産能力を有する細胞および生物の設計および生産に関する。本明細書に記載する結果は、Escherichia coliおよび他の細胞または生物において代謝経路を設計し、組み換え操作して、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの生合成を達成できることを示している。アジペート、6-アミノカプロン酸およびカプロラクタムの生合成生産は、設計した代謝遺伝子型を有する株の構築によって確認することができる。理論最大増殖にほぼ等しい状態のものを含めて、代謝経路が遺伝子工学で作り変えられたこれらの細胞または生物を適応進化に付して、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成をさらに増加させることもできる。
【0010】
本明細書において開示するとおり、アジペート、6-アミノカプロエートおよびカプロラクタムの生産のための多数の代謝経路を説明する。2つの経路、逆アジピン酸分解経路と3-オキソアジペート経路、は、(i)アジペート収率(グルコールに基づき92%のモル収率)、(ii)アジペート合成のための酸素要求量の欠如、(iii)付随エネルギー特性、および(iv)単独発酵製品としてアジペートを生産する理論的可能性の点で有用であることが判明した。より低い収量を産し、最大生産には通気を必要とするが、α-ケトアジペートまたはリジンを通るアジペート生産のための代謝経路も説明する。アジピル-CoA(逆分解経路における前駆体)から6-アミノカプロエートおよびカプロラクタムの一方または両方を生産するための経路も本明細書において開示する。
【0011】
本明細書において開示するとおり、アジペートの多数の例示的生合成経路を説明する。1つの例示的経路は、P.chrysogenumなどの生物に関して説明するようなアジピン酸分解の可逆性に依存するルートによるアジピン酸合成を含む(実施例IおよびII参照)。第二の例示的経路は、アジペートを形成するために3-オキソアジペートの形成、その後のその還元、脱水そして再び還元を必要とする(実施例IIIおよびIV参照)。これら2つの経路のいずれかを用いるアジペートの収量は、消費されるグルコース1モルあたり0.92モルである。これらの理論最大収量を獲得するために酸素の取り込みを必要とせず、嫌気性条件下でのエネルギー特性は、増殖および産物分泌に好適である。グルコースから誘導されるcis,cis-ムコン酸からのアジペートの生産方法は以前に記載されている(1996年1月30日に発行されたFrostらの米国特許第5,487,987号)(実施例V参照)。本明細書において開示する実施形態のこの以前に記載された方法に勝る利点を論じる。α-ケトアジペート(実施例VI)またはリジン(実施例VII)前駆体を通るアジペート生産のための代謝経路は、より低い収量を産し、最大生産には通気を必要とする。アジピル-CoA、逆分解経路における前駆体、から6-アミノカプロエートおよびカプロラクタムの一方または両方を生産するための経路も説明する(実施例VIIIおよびIX参照)。アジペートのさらなる生産経路は、実施例XおよびXIにおいて説明する。これらの能力を有する微生物を構築するために必要な例示的遺伝子および酵素、ならびにクローニングおよび形質転換方法、産物形成のモニター方法ならびに生産用に遺伝子工学で作り変えた微生物の使用方法を説明する。
【0012】
本明細書において開示するとおり、グルコース/スクロースを炭素基質として使用するアジピン酸合成の6つの異なる経路を説明する。すべての最大収量計算のために、以前に記載されたもの(Reedら、Genome Biol.4:R54(2003))に類似したSimPhenyにおけるE.coli化学量論的ネットワークに、所定の経路における反応の欠失を加える。アジペートは、生理条件下では荷電分子であるので、そのネットワークから外に分泌されるにはプロトンベースのシンポート系の形態でのエネルギーを必要とすると考えられた。そのような輸送系は、発酵が中性またはほぼ中性pHで行われる場合、熱力学的に実行可能である。低pHアジピン酸形成は、プロトンシンポートとは対照的に、ATP依存性エクスポートメカニズム、例えばABC系、を必要とするであろう。これらの経路における反応およびこれらの経路の実行方法を実施例I~XIにおいて説明する。
【0013】
本明細書において用いられる場合、本発明の微生物または微生物に関して用いられるときの用語「天然に存在しない」は、その微生物が当該種の野生型株を含めて当該種の天然に存在する株において通常は見つけられない少なくとも1つの遺伝子改変を有することを意味する。遺伝子改変としては、例えば、代謝性ポリペプチドをコードする発現可能な核酸を導入する修飾、他の核酸付加、核酸欠失および/またはその微生物遺伝物質の他の機能破壊が挙げられる。そのような修飾は、例えば、当該種の非相同ポリペプチド、相同ポリペプチド、または非相同ポリペプチドと相同ポリペプチドの両方についてのコーディング領域およびその機能的フラグメントを含む。追加の修飾は、例えば、修飾により遺伝子またはオペロンの発現が改変される非コーディング調節領域を含む。例示的代謝性ポリペプチドとしては、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成経路内の酵素が挙げられる。
【0014】
代謝修飾は、その天然に存在する状態から改変される生化学反応を指す。従って、天然に存在しない微生物は、代謝性ポリペプチドをコードする核酸、それらの機能的フラグメントに対する遺伝子修飾を有することがある。例示的代謝修飾を本明細書において開示する。
【0015】
本明細書において用いられる場合、微生物に関して用いられるときの用語「単離された」は、当該微生物が自然界で見つけられる場合の少なくとも1つの成分が実質的に無い生物を意味すると解釈される。この用語は、それがその天然の環境において見つけられる場合の一部のまたはすべての成分から取り出される微生物を含む。この用語は、その微生物が天然に存在しない環境において見つけられる場合の一部のまたはすべての成分から取り出される微生物も含む。従って、単離された微生物は、それが自然界で見つけられる場合、またはそれが自然には存在しない環境で増殖される、保管されるもしくは生存させられる場合、他の物質から軽度にまたは完全に分離されている。単離された微生物の具体的な例としては、軽度に純粋な微生物、実質的に純粋な微生物、および天然に存在しない培地で培養された微生物が挙げられる。
【0016】
本明細書において用いられる場合、用語「微生物の」、「微生物」または「微生物」は、古細菌、細菌または真核生物の領域内に含まれる微視的細胞として存在する任意の生物を意味すると解釈される。従って、この用語は、微視的サイズを有する原核または真核細胞または生物を包含すると解釈され、すべての種の細菌、古細菌および真性細菌、ならびに真核微生物、例えば酵母および真菌、を含む。この用語は、生化学製品の生産のために培養することができる任意の種の細胞培養物も含む。
【0017】
本明細書において用いられる場合、用語「CoA」または「補酵素A」は、活性酵素系を形成するために多くの酵素(アポ酵素)の活性にその存在が必要とされる、有機補因子または補欠分子団(酵素の非タンパク質部分)を意味すると解釈される。補酵素Aは、一定の縮合酵素において機能し、アセチルまたは他のアシル基転移の際に、ならびに脂肪酸合成および酸化、ピルバート酸化の際に、ならびに他のアセチル化の際に作用する。
【0018】
本明細書において用いられる場合、化学式-OOC-(CH
2)
4-COO-(
図2参照)(IUPAC名:ヘキサンジオエート)を有する「アジペート」は、アジピン酸(IUPAC名:ヘキサン二酸)のイオン化形態であり、ならびにアジペートおよびアジピン酸が、その任意の塩形態を含めて、その任意の中性またはイオン化形態での化合物を指すために全体を通して交換可能に用いられる場合があることは理解される。具体的な形態がそのpHに依存することは、当業者には理解される。
【0019】
本明細書において用いる場合、化学式-OOC-(CH
2)
5-NH
2(
図8参照)を有する「6-アミノカプロエート」は、6-アミノカプロン酸(IUPAC名:6-アミノヘキサン酸)のイオン化形態であり、ならびに6-アミノカプロエートおよび6-アミノカプロン酸が、その任意の塩形態を含めて、その任意の中性またはイオン化形態での化合物を指すために全体を通して交換可能に用いられる場合があることは理解される。具体的な形態がそのpHに依存することは、当業者には理解される。
【0020】
本明細書において用いる場合、「カプロラクタム」(IUPAC名:アゼパン-2-オン)は、6-アミノヘキサン酸のラクタムである(
図8参照)。
【0021】
本明細書において用いられる場合、培養または増殖条件に関して用いられるときの用語「実質的に嫌気性の」は、酸素の量が、液体培地中の溶解酸素について飽和の約10%未満であることを意味すると解釈される。この用語は、酸素約1%未満の雰囲気で維持されている液体または固体培地の密閉チャンバも含むと解釈される。
【0022】
「外因性」は、それが本明細書において用いられる場合、当該分子または当該活性が宿主微生物に導入されることを意味すると解釈される。当該分子は、例えば、宿主遺伝物質へのコーディング核酸の導入によって、例えば宿主染色体への組み込みによって、またはプラスミドなどの非染色体遺伝物質として、導入することができる。従って、この用語は、コーディング核酸の発現に関してそれが用いられる場合、発現可能な形態でのコーディング核酸の微生物への導入を指す。生合成活性に関して用いられるとき、この用語は、宿主参照生物に導入される活性を指す。その源は、例えば、宿主微生物への導入後に当該活性を発現する同種または異種コーディング核酸であり得る。従って、用語「内因性」は、宿主中に存在する当該分子または活性を指す。類似して、コーディング核酸の発現に関して用いられるときのこの用語は、微生物中に含まれているコーディング核酸の発現を指す。用語「異種の」は、当該種以外の源に由来する分子または核酸を指し、これに対して「同種の」は、宿主微生物に由来する分子または活性を指す。従って、本発明のコーディング核酸の外因性発現は、異種または同種コーディング核酸のいずれかを利用することもあり、または両方を利用することもある。
【0023】
本発明の天然に存在しない微生物は、安定した遺伝子改変を有するものであり得、これは、その改変を喪失することなく5世代より長い間培養することができる微生物を指す。一般に、安定した遺伝子改変は、10世代より長く持続する修飾を含み、特に、安定した修飾は、約25世代より長く持続し、およびさらに特に、安定した遺伝子修飾は、無期限を含めて、50世代より長いであろう。
【0024】
本明細書において例示する代謝修飾をはじめとする遺伝子改変が、適する宿主生物、例えばE.coliおよびそれらの対応する代謝反応体、または所望の代謝経路のための遺伝子などの所望の遺伝物質の適する供給源生物に関して説明されていることは、当業者には理解されるであろう。しかし、多種多様な生物の完全なゲノムシークエンシングおよびゲノミクス分野の高い技術レベルを考慮すれば、当業者は、本明細書に提供する教示およびガイダンスを本質的にすべての他の生物に容易に適用できるであろう。例えば、本明細書において例示するE.coli代謝改変を、当該種以外の種からの同じまたは類似したコーディング核酸を組み込むことにより、他の種に容易に適用することができる。そのような遺伝子改変としては、例えば、一般には種ホモログの遺伝子改変、および詳細にはオーソログ、パラログまたは非オーソログ遺伝子置換が挙げられる。
【0025】
オーソログは、垂直降下によって関連づけられるおよび異なる生物における実質的に同じまたは同一の機能に責任を負う遺伝子(単数または複数)である。例えば、マウスエポキシドヒドロラーゼおよびヒトエポキシドヒドロラーゼは、エポキシドの加水分解の生物学的機能についてオーソログと考えることができる。遺伝子は、例えば、それらが相同であることを示すために十分な量の配列類似性を共有するとき、垂直降下によって関連づけられ、または共通の祖先からの進化によって関連づけられる。遺伝子は、必ずしも配列類似性を共有しないが、一次配列類似性が特定できない程度に共通の祖先から進化したことを示す十分な量の三次元構造を共有する場合も、オーソログと考えることができる。オーソログである遺伝子は、約25%から約100%アミノ酸配列同一性の配列類似性を有するタンパク質をコードすることができる。25%未満のアミノ酸類似性を共有するタンパク質をコードする遺伝子も、それらの三次元構造も類似性を示す場合、垂直降下によって発生したと考えることができる。組織プラスミノゲンアクチベーターおよびエラスターゼをはじめとする、酵素のセリンプロテアーゼファミリーのメンバーは、共通の祖先から垂直降下によって発生したと考えられる。
【0026】
オーソログは、例えば進化により、構造または総合的活性の点で分岐した遺伝子またはそれらのコードされた遺伝子産物を含む。例えば、1つの種が、2つの機能を示す遺伝子産物をコードする場合、およびそのような機能が、二代目の種において異なる遺伝子に分けられている場合、これら3つの遺伝子およびそれらの対応する産物は、オーソログと考えられる。生化学製品の生産の場合、導入されるまたは破壊される代謝活性を保有するオーソログ遺伝子が、天然に存在しない微生物の構築のために選択されることがあることは、当業者には理解されるであろう。分離可能な活性を示すオーソログの例は、2つ以上の種の間でまたは単一の種の中で異なる活性が異なる遺伝子産物に分けられている場合である。具体的な例は、エラスターゼタンパク質分解およびプラスミノゲンタンパク質分解(セリンプロテーゼ活性の2つのタイプ)の異なる分子へのプラスミノゲンアクチベーターおよびエラスターゼとしての分離である。第二の例は、マイコプラズマ5’-3’エキソヌクレアーゼおよびショウジョウバエDNAポリメラーゼIII活性の分離である。初代の種からのDNAポリメラーゼは、二代目の種からのエキソヌクレアーゼまたはポリメラーゼのいずれかまたは両方とオーソログであると考えることができ、逆もまた同じである。
【0027】
対照的に、パラログは、例えば、重複、その後の進化的分岐によって関連づけられるホモログであり、同一ではないが類似したまたは共通の機能を有する。パラログは、例えば、同じ種から生ずるもしくは同じ種に由来することもあり、または異なる種から生ずるもしくは異なる種に由来することもある。例えば、ミクロソームエポキシドヒドロラーゼ(エポキシドヒドロラーゼI)および可溶性エポキシドヒドロラーゼ(エポキシドヒドロラーゼII)は、同じ種において異なる反応を触媒し異なる機能を有する共通の祖先から共進化した2つの異なる酵素を表すので、パラログと考えることができる。パラログは、互いに有意な配列類似性を有する同じ種からのタンパク質であり、これは、それらがホモログであること、または共通の祖先からの共進化によって関係づけられることを示唆している。パラログタンパク質ファミリーの群は、HipAホモログ、ルシフェラーゼ遺伝子、ペプチターゼ、および他のものを含む。
【0028】
非オーソログ遺伝子置換は、ある種からの非オーソログ遺伝子であって、異なる種における当該遺伝子機能を置換することができるものである。置換は、例えば、起原の種において、異なる種における当該機能と比較して実質的に同じまたは類似した機能を行うことができることを含む。一般に、非オーソログ遺伝子置換は、当該機能をコードする公知遺伝子に構造的に関連しているものとして識別できるであろうが、然程構造的関連はないが機能的に類似している遺伝子およびそれらの対応する遺伝子産物は、この用語の、それが本明細書において用いられる場合の、意味に入るであろう。機能的類似性は、例えば、置換しようとする機能をコードする遺伝子と比較して非オーソログ遺伝子産物の活性部位または結合領域において少なくとも多少の構造的類似性を必要とする。従って、非オーソログ遺伝子は、例えば、パラログまたは非関連遺伝子を含む。
【0029】
従って、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成能力を有する本発明の天然に存在しない微生物を特定し構築する場合、本明細書に提供する教示およびガイダンスを特定の種に適用すると、代謝修飾の特定が、オーソログを特定することおよび含めることまたは不活性化することを包含し得ることは、当業者には理解されるであろう。類似したまたは実質的に類似した代謝反応を触媒する酵素をコードする当該微生物にパラログおよび/または非オーソログ遺伝子置換が存在するならば、これらの進化的に関連した遺伝子も当業者は利用することができる。
【0030】
オーソログ、パラログおよび非オーソログ遺伝子置換は、当業者に周知の方法によって判定することができる。例えば、2つのポリペプチドの核酸またはアミノ酸配列の検査により、比較する配列間の配列同一性および類似性が明らかになるであろう。そのような類似性に基づいて、当業者は、その類似性が、それらのタンパク質が共通の祖先からの進化によって関連づけられることを示す十分な高さのものであるかどうかを決定することができる。当業者に周知のアルゴリズム、例えばAlign、BLAST、Clustal Wおよびその他は、未処理配列類似性または同一性を比較および決定し、ならびにまた、重量またはスコアに割り当てることができる配列内のギャップの存在または有意性を決定する。そのようなアルゴリズムも当該技術分野において公知であり、ヌクレオチド配列類似性または同一性の決定に同様に適用することができる。統計的類似性、またはランダムポリペプチドにおいて類似したマッチを見つける機会、および決定されたマッチの有意性を算出するための周知の方法に基づいて、関連性を決定するために十分な類似性についてのパラメータをコンピュータ計算する。当業者は、所望する場合には、2つ以上の配列のコンピュータ比較を目視により最適化することもできる。関連遺伝子産物またはタンパク質は、高い類似性、例えば25%から100%の配列同一性を有すると予想することができる。関連のないタンパク質は、十分な大きさのデータベースをスキャンすると、偶然に発生することが予想されるのと本質的に同じである同一性を有し得る(約5%)。5%と24%の間の配列は、比較する配列が関連していると結論づけるために十分な相同性を表す場合もあり、表さない場合もある。データセットの大きさを考慮してそのようなマッチの有意性を判定する追加の統計解析を行って、これらの配列の関連性を決定することができる。
【0031】
BLASTアルゴリズムを用いて2つ以上の配列の関連性を決定するための例示的パラメータは、例えば、下に示すとおりであり得る。簡単に言うと、BLASTPのバージョン2.0.8(1999年1月5日)および次のパラメータを用いてアミノ酸配列アラインメントを行うことができる:行列:0 BLOSUM62;ギャップ開始:11;ギャップ延長:1;x_下落:50;期待値:10.0;ワードサイズ:3;フィルター:オン。核酸配列アラインメントは、BLASTNのバージョン2.0.6(1998年9月16日)および次のパラメータを用いて行うことができる:マッチ:1;ミスマッチ:-2;ギャップ開始:5;ギャップ延長:2;x_下落:50;期待値:10.0;ワードサイズ:11;フィルター:オフ。例えば、比較のストリンジェンシーを増加させるまたは減少させるために、および2つ以上の配列の関連性を決定するために、上のパラメータにどのような変更を加えることができるかは、当業者にはわかるであろう。
【0032】
本発明は、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを生産することができる天然に存在しない微生物を提供する。例えば、アジペート経路は、逆アジペート分解経路(実施例IおよびII参照)である場合がある。一実施形態において、本発明は、アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する天然に存在しない微生物であって、当該アジペート経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ、およびアジピル-CoAシンセターゼまたはホスホトランスアジピラーゼ(phosphotransadipylase)/アジピン酸キナーゼ(adipate kinase)またはアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼを含むものである、上記天然に存在しない微生物を提供する。加えて、アジペート経路は、3-オキソアジペート経路(実施例IIIおよびIV参照)を通るものである場合がある。別の実施形態において、本発明は、アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する天然に存在しない微生物であって、当該アジペート経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-オキソアジピル-CoAトランスフェラーゼ、3-オキソアジピン酸レダクターゼ(3-oxoadipate reductase)、3-ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼ(3-hydroxyadipate dehydratase)、および2-エノエートレダクターゼ(2-enoate reductase)を含むものである、上記天然に存在しない微生物を提供する。
【0033】
さらに別の実施形態において、本発明は、6-アミノカプロン酸を生産するために十分な量で発現される6-アミノカプロン酸経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含む6-アミノカプロン酸経路を有する天然に存在しない微生物であって、当該6-アミノカプロン酸経路が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼおよびトランスアミナーゼ(実施例VIIIおよびIX)を含むものである、上記天然に存在しない微生物を提供する。あるいは、6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼ(6-aminocaproate dehydrogenase)を使用してアジピン酸セミアルデヒドを変換して6-アミノカプロエートを形成することができる(
図8参照)。さらなる実施形態において、本発明は、カプロラクタムを生産するために十分な量で発現されるカプロラクタム経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むカプロラクタム経路を有する天然に存在しない微生物であって、当該カプロラクタム経路が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼ、トランスアミナーゼまたは6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼ、およびアミドヒドロラーゼを含む(実施例VIIIおよびIX参照)ものである、上記天然に存在しない微生物を提供する。
【0034】
本明細書において開示するように、本発明の6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生産性微生物は、アジピル-CoA前駆体から6-アミノカプロン酸および/またはカプロラクタムを生産することができる(
図8ならびに実施例VIIIおよびIX参照)。従って、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生産性微生物は、アジピル-CoAを生産する経路をさらに含む場合がある。例えば、アジピル-CoA経路は、アジピル-CoAの生産のために前駆体としてスクシニル-CoAおよびアセチル-CoAを利用する、すなわち、アジピル-CoAをアジペートに変換する最終段階のための酵素がない、
図2の酵素を含む場合がある。従って、1つの例示的アジピル-CoA経路は、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ,3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼおよび5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼを含む場合がある。
【0035】
加えて、
図1に示すように、アジペート分解経路は、アジペート-CoAリガーゼによってアジペートをアジピル-CoAに変換する段階を含む。従って、アジピル-CoA経路は、例えば
図1の第一段階におけるようなアジピル-CoAリガーゼ活性をはじめとする、アジペートをアジピル-CoAに変換する酵素活性、または逆方向で行われる
図2の最終段階における酵素のいずれか、例えばアジピル-CoAシンセターゼ(アジピン酸Co-Aリガーゼとも呼ばれる)、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼのいずれか、をさらに含むアジペート経路である場合がある。アジペートからアジピル-CoAへの活性を有する酵素は、本明細書において開示するように、内因性活性である場合もあり、またはその酵素をコードする外因性核酸として供給される場合もある。従って、任意のアジペート経路をアジペートからアジピル-CoAへの酵素活性と共に利用して、アジピル-CoA経路を生じさせることができる。そのような経路を6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生産性微生物に含めて、6-アミノカプロン酸および/またはカプロラクタム生産のためのアジピル-CoA前駆体を生じさせることができる。
【0036】
追加の例示的アジペート経路は、アルファ-ケトアジペートを前駆体として利用する(
図6および実施例VI参照)。さらに別の実施形態において、本発明は、アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する天然に存在しない微生物であって、当該アジペート経路が、ホモクエン酸シンターゼ、ホモアコニターゼ、ホモイソクエン酸デヒドロゲナーゼ、2-ケトアジピン酸レダクターゼ、アルファ-ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼおよびオキシドレダクターゼを含むものである、上記天然に存在しない微生物を提供する。さらなる例示的アジペート経路は、リジン分解経路(
図7および実施例VII)を利用する。本発明の別の実施形態は、アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する天然に存在しない微生物であって、当該アジペート経路が、炭素・窒素リアーゼ、オキシドレダクターゼ、トランスアミナーゼおよびオキシドレダクターゼを含むものである、上記天然に存在しない微生物を提供する。
【0037】
さらに別の例示的アジペート経路は、アルファ-ケトアジペートを前駆体として利用する(
図9ならびに実施例XおよびXI参照)。従って、本発明は、アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する天然に存在しない微生物であって、当該アジペート経路が、アルファ-ケトアジピル-CoAシンセターゼ(alpha-ketoadipyl-CoA synthetase)、ホスホトランスケトアジピラーゼ(phosphotransketoadipylase)/アルファ-ケトアジピン酸キナーゼ(alpha-ketoadipate kinase)またはアルファ-ケトアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドロゲナーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ;およびアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼを含むものである、上記天然に存在しない微生物をさらに提供する。さらに別の実施形態において、本発明は、アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する天然に存在しない微生物であって、当該アジペート経路が、2-ヒドロキシアジピン酸デヒドロゲナーゼ(2-hydroxyadipate dehydrogenase);2-ヒドロキシアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスヒドロキシアジピラーゼ/2-ヒドロキシアジピン酸キナーゼ(2-hydroxyadipate kinase)または2-ヒドロキシアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ;およびアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼ、またはアジピル-CoAヒドロラーゼを含むものである、天然に存在しない微生物を提供する。
【0038】
追加の実施形態において、本発明は、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路を有する天然に存在しない微生物であって、本明細書において開示するような、基質を産物に変換するポリペプチドをコードする少なくとも1つの外因性核酸を含む天然に存在しない微生物を提供する。従って、本発明は、ポリペプチドをコードする少なくとも1つの外因性核酸を含有する天然に存在しない微生物であって、ポリペプチドが、
図2、3、8または9に示すものなどの、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路の基質および産物を変換する酵素またはタンパク質である、上記天然に存在しない微生物を提供する。
【0039】
一実施形態において、本発明は、アジペート経路を有する天然に存在しない微生物であって、スクシニル-CoAおよびアセチル-CoAを3-オキソアジピル-CoAに;3-オキソアジピル-CoAを3-ヒドロキシアジピル-CoAに;3-ヒドロキシアジピル-CoAを5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAに;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAをアジピル-CoAに;アジピル-CoAをアジペートに、から選択される基質を産物に変換するポリペプチド(
図2参照)をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含有する上記微生物を提供する。別の実施形態において、本発明は、アジペート経路を有する天然に存在しない微生物であって、スクシニル-CoAおよびアセチル-CoAを3-オキソアジピル-CoAに;3-オキソアジピル-CoAをオキソアジペートに;3-オキソアジペートを3-ヒドロキシアジペートに;3-ヒドロキシアジペートをヘキサ-2-エンジオエートに;ヘキサ-2-エンジオエートをアジペートに、から選択される基質を産物に変換するポリペプチド(
図3参照)をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含有する上記微生物を提供する。
【0040】
追加の実施形態において、本発明は、6-アミノカプロン酸経路を有する天然に存在しない微生物であって、アジピル-CoAをアジピン酸セミアルデヒドに;およびアジピン酸セミアルデヒドを6-アミノカプロエートに、から選択される基質を産物に変換するポリペプチド(
図8参照)をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含有する上記微生物を提供する。さらに別の実施形態において、本発明は、カプロラクタム経路を有する天然に存在しない微生物であって、アジピル-CoAをアジピン酸セミアルデヒドに;アジピン酸セミアルデヒドを6-アミノカプロエートに;および6-アミノカプロエートをカプロラクタムに、から選択される基質を産物に変換するポリペプチドをコードする少なくとも1つの外因性核酸を含有する上記微生物を提供する。
【0041】
さらに別の実施形態において、本発明は、アジペート経路を有する天然に存在しない微生物であって、アルファ-ケトアジペートをアルファ-ケトアジピル-CoAに;アルファ-ケトアジピル-CoAを2-ヒドロキシアジピル-CoAに;2-ヒドロキシアジピル-CoAを5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAに;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAをアジピル-CoAに;およびアジピル-CoAをアジペートに、から選択される基質を産物に変換するポリペプチド(
図9参照)をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含有する上記微生物を提供する。加えて、本発明は、アジペート経路を有する天然に存在しない微生物であって、アルファ-ケトアジペートを2-ヒドロキシアジペートに;2-ヒドロキシアジペートを2-ヒドロキシアジピル-CoAに;2-ヒドロキシアジピル-CoAを5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAに;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAをアジピル-CoAに;およびアジピル-CoAをアジペートに、から選択される基質を産物に変換するポリペプチド(
図9参照)をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含有する上記微生物を提供する。
【0042】
一般には、代謝反応、その反応体もしくは産物に関して、あるいは具体的には、当該代謝反応、反応体もしくは産物に随伴するまたは当該代謝反応、反応体もしくは産物を触媒する酵素をコードする1つ以上の核酸または遺伝子に関して、本発明を本明細書に記載する。本明細書において特に別様に述べられていない限り、反応への言及が、その反応の反応体および産物への言及にもなることは、当業者には理解されるであろう。類似して、本明細書において特に別様に述べられていない限り、反応体または産物への言及は、その反応への言及でもあり、これらの代謝成分のいずれかへの言及は、当該反応、反応体または産物を触媒する酵素をコードする遺伝子(単数または複数)への言及でもある。同様に、代謝生化学、酵素学およびゲノミクスの周知分野を考慮すると、遺伝子またはコーディング核酸への本明細書における言及は、対応するコードされた酵素およびそれを触媒する反応ならびにその反応の反応体および産物への言及にもなる。
【0043】
1つ以上のアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成経路に関与する酵素の1つ以上をコードする発現可能な核酸を導入することによって、本発明の天然に存在しない微生物を生産することができる。生合成のために選択される宿主微生物に依存して、特定のアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成経路の一部またはすべてについての核酸を発現させることができる。例えば、選択される宿主が、所望の生合成経路のための1つ以上の酵素を欠失している場合には、その(それらの)欠失酵素について発現可能な核酸を、後の外因性発現のためにその宿主に導入する。あるいは、選択された宿主が、幾つかの経路遺伝子の内因性発現を示すが、他の物は欠如している場合には、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成を達成するためにその(それらの)欠失酵素についてのコーディング核酸を必要とする。従って、外因性酵素活性を導入して所望の生合成経路を得ることによって、本発明の天然に存在しない微生物を生産することができ、またはアジペート、6-アミノカプロン酸もしくはカプロラクタムなどの所望の産物を1つ以上の内因性酵素と協力して産生する1つ以上の酵素活性を導入することによって、所望の生合成経路を得ることができる。
【0044】
選択される宿主微生物のアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成経路成分に依存して、本発明の天然に存在しない微生物は、少なくとも1つの外因的に発現されるアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路コード核酸と、1つ以上のアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成経路についてのすべてまでのコーディング核酸とを含むであろう。例えば、経路酵素が欠如している宿主において、対応するコーディング核酸の外因性発現により、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成を確立することができる。アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路のすべての酵素が欠如している宿主の場合、その経路におけるすべての酵素の外因性発現を含めることができるが、その宿主がそれらの経路酵素のうちの少なくとも1つを含有する場合でも、経路のすべての酵素が発現され得ることは理解される。
【0045】
例えば、アジペートの生産のための経路におけるすべての酵素、例えば、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ,3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ、およびアジピル-CoAシンセターゼまたはホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼまたはアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼ、の外因性発現を宿主生物に含めることができる。詳細には、宿主生物は、アジペート経路酵素スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ,3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ、およびアジピル-CoAシンセターゼを含有する場合がある。あるいは、宿主生物は、アジペート経路酵素スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ、およびホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼを含有する場合がある。加えて、宿主生物は、アジペート経路酵素スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ、およびアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼを含有する場合がある。さらに、宿主生物は、アジペート経路酵素スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ、およびアジピル-CoAヒドロラーゼを含有する場合がある。
【0046】
6-アミノカプロン酸生産性微生物の場合、6-アミノカプロン酸の生産のための経路におけるすべての酵素、例えばCoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼおよびトランスアミナーゼまたはCoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼおよび6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼ、の外因性発現を宿主生物に含めることができる。カプロラクタム生産性微生物については、カプロラクタムの生産のための経路におけるすべての酵素、例えばCoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼ、トランスアミナーゼまたは6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼ、およびアミドヒドロラーゼ、の外因性発現を宿主生物に含めることができる。
【0047】
本明細書に提供する教示およびガイダンスを考慮すれば、発現可能な形態で導入するコーディング核酸の数が、選択された宿主微生物のアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路欠如に、少なくとも、匹敵するであろうことは、当業者には理解されるであろう。従って、本発明の天然に存在しない微生物は、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成経路を構成する上記酵素をコードするすべてまでの、1つ、2つ、3つ、4つまたは5つの核酸を有する場合がある。一部の実施形態において、上記天然に存在しない微生物は、アジペート、6-アミノカプロン酸もしくはカプロラクタム生合成を助長する、またはその宿主微生物に他の有用な機能を付与する、他の遺伝子修飾も含む場合がある。1つのそのような他の機能性としては、例えば、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路前駆体、例えば、本明細書において開示するアジペート経路酵素を含めて、アジペート合成の場合にはスクシニル-CoAおよび/もしくはアセチル-CoA、または6-アミノカプロン酸もしくはカプロラクタム合成の場合にはアジピル-CoA、のうちの1つ以上の合成の増加を挙げることができる。
【0048】
一部の実施形態において、本発明の天然に存在しない微生物は、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを合成する酵素的能力を有する宿主から産生される。この特定の実施形態において、例えば、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路反応をアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生産に至らせるために、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路産物の合成または蓄積を増加させることが有用である場合がある。例えば、上記アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路酵素のうちの1つ以上をコードする核酸の過発現によって、合成または蓄積増加を遂行することができる。アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路酵素(単数または複数)の過発現は、例えば、内因性遺伝子(単数もしくは複数)の外因性発現によって、または異種遺伝子(単数もしくは複数)の外因性発現によって、起こり得る。従って、天然に存在する生物を、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成経路酵素をコードする1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、すなわちすべてまでの核酸を過発現によって、例えばアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを生産する本発明の天然に存在しない微生物になるように産生させることが容易にできる。加えて、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成経路における酵素の活性を増加させる結果となる内因性遺伝子の突然変異誘発によって、天然に存在しない微生物を産生させることができる。
【0049】
特に有用な実施形態では、コーディング核酸の外因性発現を利用する。外因性発現は、使用者によって制御される所望の発現レベルを達成するために、発現および/または調節要素を注文に合わせて作る能力を宿主および用途にもたらす。しかし、他の実施形態では、例えば、負の調節エフェクターの除去、または誘導プロモーターもしくは他の調節要素に連結されているときにはその遺伝子のプロモーターの誘導により、内因性発現も利用することができる。従って、天然に存在する誘導プロモーターを有する内因性遺伝子を適切な誘導剤を供給することによってアップレギュレートすることができ、または内因性遺伝子の調節領域を遺伝子工学で作り変えて誘導性調節要素を組み込むことができ、それによって、所望の時点での内因性遺伝子の発現増加の調節が可能となる。類似して、天然に存在しない微生物に導入される外因性遺伝子のための調節要素として誘導プロモーターを含めることができる。
【0050】
本発明の方法において、任意の1つ以上の外因性核酸を微生物に導入して、本発明の天然に存在しない微生物を生産することができることは、理解される。それらの核酸を導入して、例えば、その微生物にアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成経路を付与することができる。あるいは、コーディング核酸を導入して、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成能力を付与するために必要な反応の一部を触媒する生合成能力を有する中間的微生物を生産することができる。例えば、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成経路を有する天然に存在しない微生物は、所望の酵素をコードする少なくとも2つの外因性核酸を含む場合がある。アジペート生産の場合、上記少なくとも2つの外因性核酸は、酵素、例えば、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼと3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼの組み合わせ、またはスクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼと3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼの組み合わせ、または3-ヒドロキシアジピル-CoAと5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼとの組み合わせ、または3-ヒドロキシアシル-CoAとアジピル-CoAシンセターゼの組み合わせ、およびこれらに類するものをコードする場合がある。カプロラクタム生産の場合、上記少なくとも2つの外因性核酸は、酵素、例えば、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼとトランスアミナーゼの組み合わせ、またはCoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼとアミドヒドロラーゼの組み合わせ、またはトランスアミナーゼとアミドヒドロラーゼの組み合わせ、をコードする場合がある。このように、生合成経路の2つ以上の酵素の任意の組み合わせを本発明の天然に存在しない微生物に含めることができることは理解される。
【0051】
類似して、その所望の生合成経路の酵素の組み合わせが、対応する所望の産物の生産を生じさせる結果となるならば、生合成経路の3つ以上の酵素の任意の組み合わせ、例えば、アジペート生産の場合には、酵素スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼと3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼと3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼとの組み合わせ、または酵素スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼと3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼと5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼとの組み合わせ、またはスクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼと3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼとアジピル-CoAシンセターゼとの組み合わせ、または3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼと3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼとアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼとの組み合わせなど、を、所望される場合には、本発明の天然に存在しない微生物に含めることができることは理解される。類似して、その所望の生合成経路の酵素の組み合わせが、対応する所望の産物の生産を生じさせる結果となるならば、本明細書において開示するような生合成経路の4つ以上の酵素の任意の組み合わせを、所望される場合には、本発明の天然に存在しない微生物に含めることができる。
【0052】
本明細書に記載するようなアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの生合成に加えて、本発明の天然に存在しない微生物および方法を、互いの様々な組み合わせで利用することもでき、ならびに他のルートによる産物生合成を達成する当該技術分野において周知の他の微生物および方法との様々な組み合わせで利用することもできる。例えば、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生産体の使用以外の、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを生産するための1つの代案は、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路中間体をアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムに変換することができる別の微生物の追加によるものである。1つのそのような手順は、例えば、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路中間体を生産する微生物の発酵を含む。その後、そのアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路中間体をアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムに変換する第二の微生物のための基質として、そのアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路中間体を使用することができる。そのアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路中間体を、第二の生物の別の培養物に直接添加することができ、またはアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路中間体生産体の原培養物からこれらの微生物を例えば細胞分離によって枯渇させることができ、そしてその後、発酵ブロスへの第二の生物のその後の添加を用いて、中間精製段階なしで最終産物を生産することができる。
【0053】
他の実施形態において、本発明の天然に存在しない微生物および方法を多種多様なサブ経路で組み立てて、例えば、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの生合成を達成することができる。これらの実施形態では、本発明の所望の産物のための生合成経路を異なる微生物に分離し、それらの異なる微生物を共培養して最終産物を生産することができる。そのような生合成スキームでは、最終産物が合成されるまで、1つの微生物の産物が、もう1つの微生物にとっての基質となる。例えば、1つの経路中間体のもう1つの経路中間体またはその産物への変換のための生合成経路を有する微生物を構築することによって、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの生合成を遂行することができる。あるいは、同じ容器内で2つの生物を使用する共培養または共発酵によって微生物からアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを生合成生産することもでき、この場合、第一の微生物がアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム中間体を生産し、第二の微生物がその中間体をアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムに変換する。
【0054】
本明細書に提供する教示およびガイダンスを考慮すれば、本発明の天然に存在しない微生物および方法と、他の微生物との、サブ経路を有する他の天然に存在しない微生物の共培養との、ならびにアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを生産するための当該技術分野において周知の他の化学的および/または生化学的手順の組み合わせとの、多種多様な組み合わせおよび順列が存在することは、当業者には理解されるであろう。
【0055】
アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路酵素についての核酸をコードする源としては、例えば、コードされた遺伝子産物が当該反応を触媒できる任意の種が挙げられる。そのような種としては、古細菌および真性細菌をはじめとする細菌、ならびに酵母、植物、昆虫、動物および哺乳動物(ヒトを含む)をはじめとする真核生物を含めて(しかしこれらに限定されない)、原核生物と真核生物の両方を含む。そのような源についての例示的種としては、例えば、Escherichia coli、Pseudomonas knackmussii、Pseudomonas putida、Pseudomonas fluorescens、Klebsiella pneumoniae、Serratia proteamaculans、Streptomyces
sp.2065、Pseudomonas aeruginosa、Ralstonia eutropha、Clostridium acetobutylicum、Euglena gracilis、Treponema denticola、Clostridium kluyveri、Homo sapiens、Rattus norvegicus、Acinetobacter sp.ADP1、Streptomyces coelicolor、Eubacterium barkeri、Peptostreptococcus asaccharolyticus、Clostridium botulinum、Clostridium tyrobutyricum、Clostridium thermoaceticum(Moorella thermoaceticum)、Acinetobacter calcoaceticus、Mus
musculus、Sus scrofa、Flavobacterium sp、Arthrobacter aurescens、Penicillium chrysogenum、Aspergillus niger、Aspergillus nidulans、Bacillus subtilis、Saccharomyces cerevisiae、Zymomonas mobilis、Mannheimia succiniciproducens、Clostridium ljungdahlii、Clostridium carboxydivorans、Geobacillus stearothermophilus、Agrobacterium tumefaciens、Achromobacter denitrificans、Arabidopsis thaliana、Haemophilus influenzae、Acidaminococcus fermentans、Clostridium sp.M62/1、Fusobacterium nucleatum、ならびに本明細書において開示するまたは対応する遺伝子についての供給源生物として利用できる他の例示的種(実施例参照)が挙げられる。しかし、395の微生物ゲノムならびに様々な酵母、真菌、植物および哺乳動物ゲノムを含めて現在550を超える種について入手できる完全ゲノム配列(これらの半分より多くがNCBIなどの公的データベースで入手できる)を用いる、例えば、公知遺伝子の相同体、オーソログ、パラログおよび非オーソログ遺伝子置換、ならびに生物間の遺伝子改変の相互交換をはじめとする、類縁または遠縁種における1つ以上の遺伝子についての必要なアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成活性をコードする遺伝子の特定は、当該技術分野において常例的であり、周知である。従って、E.coliなどの特定の生物に関して本明細書に記載するアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの生合成を可能にする代謝改変を、同様に原核生物および真核生物を含む他の微生物に容易に適用できる。本明細書に提供する教示およびガイダンスを考慮すれば、ある生物において例示する代謝改変を他の生物に同等に適用できることは、当業者にはわかるであろう。
【0056】
場合により、例えば、代替アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路が、非類縁種に存在する場合、例えば、当該反応に置き換わる同一でないが類似した代謝反応を触媒するその非類縁種からのパラログ(単数または複数)の外因性発現により、その宿主種にアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成をもたらすことができる。異なる生物間には代謝ネットワーク間での一定の相違が存在するので、異なる生物間で実際の遺伝子利用が異なることがあることは、当業者には理解されるであろう。しかし、本明細書に提供する教示およびガイダンスを考慮すれば、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを合成するであろう対象となる種内の微生物を構築するために、本明細書において例示するものへのコグネイト代謝改変を用いて、本発明の教示および方法をすべての微生物に適用することができることも、当業者には理解されるであろう。
【0057】
宿主微生物は、例えば、細菌、酵母、真菌、または発酵プロセスに適用できる様々な他の微生物から選択することができ、および例えば、細菌、酵母、真菌、または発酵プロセスに適用できる様々な他の微生物において産生された天然に存在しない微生物である場合もある。例示的細菌としては、Escherichia coli、Klebsiella oxytoca、Anaerobiospirillum succiniciproducens、Actinobacillus succinogenes、Mannheimia succiniciproducens、Rhizobium etli、Bacillus subtilis、Corynebacterium glutamicum、Gluconobacter oxydans、Zymomonas mobilis、Lactococcus lactis、Lactobacillus plantarum、Streptomyces coelicolor、Clostridium acetobutylicum、Pseudomonas fluorescens、およびPseudomonas putidaから選択される種が挙げられる。例示的酵母または真菌としては、Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombe、Kluyveromyces lactis、Kluyveromyces marxianus、Aspergillus terreus、Aspergillus nigerおよびPichia pastorisから選択される種が挙げられる。例えば、E.coliは、遺伝子工学に適する十分に特性づけされている微生物であるので、特に有用な宿主生物である。他の特に有用な宿主生物としては、酵母、例えばSaccharomyces cerevisiaeが挙げられる。
【0058】
天然に存在しないアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生産性宿主の構築方法および発現レベル検査方法は、例えば、当該技術分野において周知の組換え方法および検出方法によって行うことができる。そのような方法は、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Third Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(2001);およびAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley and Sons,Baltimore,MD(1999)に記載されているのを見つけることができる。
【0059】
コンジュゲーション、エレクトロポレーション、化学的形質転換、形質導入、トランスフェクション、および超音波形質転換をはじめとする(しかしこれらに限定されない)当該技術分野において周知の技術を用いて、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの生産のための経路に関与する外因性核酸配列を宿主細胞に安定的にまたは一過的に導入することができる。E.coliまたは他の原核細胞における外因性発現のために、真核性生物の核酸の遺伝子またはcDNAにおける一部の核酸配列は、所望される場合には、原核宿主細胞への形質転換前に除去することができるターゲッティングシグナル、例えばN末端ミトコンドリアまたは他のターゲッティングシグナルを、コードする場合がある。例えば、ミトコンドリアリーダー配列の除去は、E.coliにおいて発現増加をもたらした(Hoffmeisterら、J.Biol.Chem.280:4329-4338(2005))。酵母または他の真核細胞における外因性発現のために、遺伝子を、リーダー配列の付加を伴わずにサイトゾルにおいて発現させることができ、あるいはそれらの宿主細胞に適するミトコンドリアターゲッティングまたは分泌シグナルなどの適するターゲッティング配列の付加によってミトコンドリアもしくは他の細胞小器官をターゲットにするまたは分泌のターゲットになるようにすることができる。従って、ターゲッティング配列を除去するためまたは含めるための核酸配列への適切な修飾を外因性核酸配列に導入して、所望の特性を付与することができることは理解されるであろう。さらに、当該技術分野において周知の技術でのコドン最適化に遺伝子を付して、タンパク質の最適化発現を達成することができる。
【0060】
宿主生物において機能し得る発現制御配列に作動可能に連結された本明細書において例示するような核酸をコードする1つ以上のアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成経路を含むように発現ベクター(単数または複数)を構築することができる。本発明の微生物宿主生物における使用に適用することができる発現ベクターとしては、例えば、宿主染色体への安定した組み込みのために使用できるベクターおよび選択配列またはマーカーを含めて、プラスミド、ファージベクター、ウイルスベクター、エピソームおよび人工染色体が挙げられる。加えて、発現ベクターは、1つ以上の選択マーカー遺伝子および適切な発現制御配列を含む場合がある。例えば、抗生物質もしくは毒素に対する耐性を提供する、栄養要求性欠損を補足する、または培養基中にない重要な栄養素を供給する、選択マーカー遺伝子も含めることができる。発現制御配列としては、当該技術分野において周知である、構成的および誘導プロモーター、転写エンハンサー、転写ターミネーターおよびこれらに類するものを挙げることができる。コードする2つ以上の外因性核酸を共発現させようとするとき、両方の核酸を、例えば、単一の発現ベクターに挿入することができ、または別個の発現ベクターに挿入することができる。単一ベクター発現の場合、コーディング核酸を1つの共通の発現制御配列に動作可能に連結することができ、または異なる発現制御配列、例えば、1つの誘導プロモーターと1つの構成的プロモーター、に連結させることができる。代謝または合成経路に関与する外因性核酸配列の転化は、当該技術分野において周知の方法を用いて確認することができる。そのような方法としては、例えば、核酸分析、例えば、mRNAのノーザンブロットもしくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅、または遺伝子産物の発現についての免疫ブロッティング、または導入された核酸配列もしくはその対応する遺伝子産物の発現を検査するための他の適する分析方法が挙げられる。外因性核酸が、所望の産物を生産するために十分な量で発現されることは当業者には理解され、ならびに当該技術分野において周知であるおよび本明細書において開示するような方法を用いて発現レベルを最適化して十分な発現レベルを得ることができることはさらに理解される。
【0061】
加えて、本発明は、所望の産物、例えばアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを生産するための方法を提供する。一実施形態において、本発明は、アジペートを生産するための方法であって、アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する天然に存在しない微生物を、アジペートを生産する条件下でおよび十分な時間にわたって培養することを含み、当該アジペート経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ、およびアジピル-CoAシンセターゼまたはホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼまたはアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼを含むものである方法を提供する。別の実施形態において、本発明は、アジペートを生産するための方法であって、アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する天然に存在しない微生物を、アジペートを生産する条件下でおよび十分な時間にわたって培養することを含み、当該アジペート経路が、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ,3-オキソアジピル-CoAトランスフェラーゼ、3-オキソアジピン酸レダクターゼ、3-ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼ、および2-エノエートレダクターゼを含むものである方法を提供する。
【0062】
さらに別の実施形態において、本発明は、6-アミノカプロン酸を生産するための方法であって、6-アミノカプロン酸を生産するために十分な量で発現される6-アミノカプロン酸経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含む6-アミノカプロン酸経路を有する天然に存在しない微生物を、6-アミノカプロン酸を生産する条件下でおよび十分な時間にわたって培養することを含み、当該6-アミノカプロン酸経路が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼおよびトランスアミナーゼまたは6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼを含むものである方法を提供する。さらなる実施形態において、本発明は、カプロラクタムを生産するための方法であって、カプロラクタムを生産するために十分な量で発現されるカプロラクタム経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むカプロラクタム経路を有する天然に存在しない微生物を、カプロラクタムを生産する条件下でおよび十分な時間にわたって培養することを含み、当該カプロラクタム経路が、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼ、トランスアミナーゼ、6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼ、およびアミドヒドロラーゼを含むものである方法を提供する。
【0063】
加えて、本発明は、アジペートを生産するための方法であって、アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペート経路を有する天然に存在しない微生物を、アジペートを生産する条件下でおよび十分な時間にわたって培養することを含み、当該アジペート経路が、アルファ-ケトアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスケトアジピラーゼ/アルファ-ケトアジピン酸キナーゼまたはアルファ-ケトアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドロゲナーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ;およびアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼを含むものである方法を提供する。
【0064】
さらに別の実施形態において、本発明は、アジペートを生産するための方法であって、アジペートを生産するために十分な量で発現されるアジペート経路酵素をコードする少なくとも1つの外因性核酸を含むアジペートを有する天然に存在しない微生物を、アジペートを生産する条件下でおよび十分な時間にわたって培養することを含み、当該アジペート経路が、2-ヒドロキシアジピン酸デヒドロゲナーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスヒドロキシアジピラーゼ/2-ヒドロキシアジピン酸キナーゼまたは2-ヒドロキシアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼ;2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ;5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼ;およびアジピル-CoAシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼまたはアジピル-CoAヒドロラーゼを含むものである方法を提供する。
【0065】
アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの、適する精製および/または生産について検査するためのアッセイは、周知の方法を用いて行うことができる。検査すべき遺伝子工学で作り変えた株それぞれについて、三重反復培養物などの適する複製を増殖させる。例えば、遺伝子工学で作り変えた生産宿主における産物および副産物形成をモニターすることができる。当該技術分野において周知の常例的手順を用いて、HPLC(高性能液体クロマトグラフィー)、GC-MS(ガスクロマトグラフィー-質量分析)およびLC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析)などの方法により、最終産物および中間体、ならびに他の有機化合物を分析することができる。培養上清を用いて、発酵ブロスへの産物の放出を検査することもできる。例えば、グルコースおよびアルコールについては屈折率を、ならびに有機酸についてはUV検出器を使用するHPLC(Linら、Biotechnol.Bioeng.90:775-779(2005))、または当該技術分野において周知の他の適するアッセイおよび検出方法によって、副産物および残留グルコースを定量することができる。外因性DNA配列からの個々の酵素活性も当該技術分野において周知の方法を用いてアッセイすることができる。
【0066】
当該技術分野において周知の様々な方法を用いて、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを培養物における他の成分から分離することができる。そのような分離方法としては、例えば、抽出手順、ならびに連続液体-液体抽出、透析蒸発、膜濾過、膜分離、逆浸透、電気透析、蒸留、結晶化、遠心分離、抽出濾過、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、および限外濾過を含む方法が挙げられる。上記方法のすべてが当該技術分野において周知である。
【0067】
本明細書に記載する任意の天然に存在しない微生物を培養して、本発明の生合成製品を生産および/または分泌することができる。例えば、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生産体をアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの生合成生産のために培養することができる。
【0068】
アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの生産のために、炭素源および他の必須栄養素を有する培地において組換え株を培養する。プロセス全体の費用を減少させるために、発酵槽において嫌気性条件を維持することは非常に望ましい。そのような条件は、例えば、先ず培地に窒素を散布し、その後、それらのフラスコをセプタムおよびクリンプキャップで密封することによって得ることができる。増殖が嫌気性では観察されない株の場合には、制限通気用の小さな穴をセプタムに設けることによって微好気性条件を利用することができる。例示的嫌気性条件は、前に説明したものであり、当該技術分野において周知である。例示的好気性および嫌気性条件は、例えば、2007年8月10日出願の米国特許出願第11/891,602号に記載されている。発酵は、本明細書において開示するような回分、流加回分または連続様式で行うことができる。
【0069】
所望される場合、培養基を望ましいpHで維持することが必要とされるときには、塩基、例えばNaOHもしくは他の塩基、または酸を添加することにより、培地のpHを所望のpH、特に中性pH、例えば約7のpH、で維持することができる。分光光度計(600nm)を使用して光学密度を測定することによって増殖速度を決定することができ、および継時的に炭素源枯渇をモニターすることによってグルコース取り込み速度を決定することができる。
【0070】
増殖培地は、例えば、然に発生しない微生物に炭素源を供給することができるいずれの炭水化物源であってもよい。そのような源としては、例えば、糖、例えばグルコース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マンノース、フルクトースおよびデンプンが挙げられる。他の炭水化物源としては、例えば、再生可能な供給原料およびバイオマスが挙げられる。本発明の方法において供給原料として使用することができるバイオマスの例示的タイプとしては、セルロース系バイオマス、ヘミセルロース系バイオマスおよびリグニン供給原料または供給原料の一部が挙げられる。そのようなバイオマス供給原料は、例えば、炭素源として有用な炭水化物基質、例えばグルコース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マンノース、フルクトースおよびデンプンを含有する。本明細書に提供する教示およびガイダンスを考慮すれば、上に例示したもの以外の再生可能な供給原料およびバイオマスもアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの生産のための本発明の微生物の培養に使用できることは、当業者には理解されるであろう。
【0071】
上に例示したものなどの再生可能な供給原料に加えて、本発明のアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム微生物を、その炭素源としてシンガスを用いる増殖のために修飾することもできる。この特定の実施形態では、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生産性生物において1つ以上のタンパク質または酵素を発現させて、シンガスまたは他の気体炭素源の利用のための代謝経路を備えさせる。
【0072】
シンガスまたは発生炉ガスとしても公知である合成ガスは、石炭の気化の、および農産物および残渣をはじめとするバイオマス材料などの炭質材料の気化の主生成物である。シンガスは、主としてH2とCOの混合物であり、ならびに石炭、石炭石油、天然ガス、バイオマスおよび有機廃棄物をはじめとする(しかしこれらに限定されない)任意の有機供給原料の気化から得ることができる。気化は、一般に、高い燃料対酸素比のもとで行われる。大部分はH2およびCOだが、シンガスは、より少ない量でCO2および他のガスを含むこともある。従って、合成ガスは、COおよび、その上、CO2などの、費用効率のよい気体炭素源になる。
【0073】
Wood-Ljungdahl経路は、アセチル-CoAおよび他の産物、例えばアセテート、へのCOおよびH2の変換を触媒する。COおよびシンガスを利用することができる生物は、Wood-Ljungdahl経路に包含される酵素と転化の同じ基本セットにより、CO2およびCO2/H2混合物を利用する能力も一般に有する。微生物によるアセテートへのCO2のH2依存性変換は、同じ生物によってCOも用いられることがあることおよび同じ経路が関与することが明らかになるずっと以前から認知されていた。多くの酢酸生成細菌がCO2の存在下で増殖し、水素が存在するならばアセテートなどの化合物を生産して必要還元等価物を補充することは証明されている(例えば、Drake,Acetogenesis,pp.3-60 Chapman and Hall,New York,(1994)参照)。これは、次の反応式によって要約することができる:
2CO2+4H2+nADP+nPi→CH3COOH+2H2O+nATP従って、Wood-Ljungdah1経路を有する天然に存在しない微生物は、アセチル-CoAおよび他の所望の産物の生産のためにもCO2とH2の混合物を利用することができる。
【0074】
Wood-Ljungdahl経路は、当該技術分野において周知であり、12の反応から成り、それらの反応を2つのブランチ:(1)メチルブランチおよび(2)カルボニルブランチ、に分けることができる。メチルブランチは、シンガスをメチル-テトラヒドロ葉酸(メチル-THF)に変換するのに対して、カルボニルブランチは、メチル-THFをアセチル-CoAに変換する。メチルブランチにおける反応は、次の酵素により順を追って触媒される:フェレドキシンオキシドレダクターゼ、ギ酸デヒドロゲナーゼ、ホルミルテトラヒドロ葉酸シンセターゼ、メテニルテトラヒドロ葉酸シクロデヒドラターゼ、メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼおよびメチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼ。カルボニルブランチにおける反応は、次の酵素により順を追って触媒される:コバラミドコリノイド/鉄-硫黄タンパク質、メチルトランスフェラーゼ、一酸化炭素デヒドロゲナーゼ、アセチル-CoAシンターゼ、アセチル-CoAシンターゼジスルフィドレダクターゼおよびヒドロゲナーゼ。アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路を生成するために十分な数のコーディング核酸を導入するための上に提供した教示およびガイダンスに従って、宿主生物に不在のWood-Ljungdahl酵素をコードする核酸を少なくとも導入することに関しても同じ工学設計を行うことができることは、当業者には理解されるであろう。従って、修飾された生物が完全Wood-Ljungdahl経路を含有するような、本発明の微生物への1つ以上のコーディング核酸の導入は、シンガス利用能力をもたらすであろう。
【0075】
本明細書に提供する教示およびガイダンスを考慮すれば、炭水化物などの炭素源を用いて増殖させたときに本発明の生合成化合物を分泌する天然に存在しない微生物を生産できることは、当業者には理解されるであろう。そのような化合物としては、例えば、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム、およびアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路における任意の中間代謝産物が挙げられる。必要なことは、例えばアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生合成経路の一部またはすべてを含めることを含めて、必要酵素活性の1つ以上に関して所望の化合物または中間体の生合成を達成するように遺伝子工学で作り変えることだけである。従って、本発明は、炭水化物を用いて増殖させたときにアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを生産する、ならびに炭水化物を用いて増殖させたときにアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路において示される中間代謝産物のいずれかを生産および/または分泌する、天然に存在しない微生物を提供する。例えば、アジペート生産性微生物は、中間体、例えば、3-オキソアジピル-CoA、3-ヒドロキシアジピル-CoA、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoA、またはアジピル-CoA(
図2参照)から所望に応じて合成を開始することができる。加えて、アジペート生産性微生物は、3-オキソアジピル-CoA、3-オキソアジペート、3-ヒドロキシアジペート、またはヘキサ-2-エンジオエート(
図3参照)から合成を開始させることができる。本発明の6-アミノカプロン酸生産性微生物は、中間体、例えば、アジピン酸セミアルデヒド(
図8参照)から合成を開始することができる。本発明のカプロラクタム生産性微生物は、中間体、例えばアジピン酸セミアルデヒドまたは6-アミノカプロン酸(
図8参照)から所望に応じて合成を開始することができる。
【0076】
本発明の天然に存在しない微生物は、本明細書において例示するような当該技術分野において周知の方法を用いて、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム経路酵素をコードする少なくとも1つの核酸をアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを生産するために十分な量で外因的に発現するように構築される。本発明の微生物が、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを生産するために十分な条件下で培養されることは理解される。本明細書に提供する教示およびガイダンスに従って、本発明の天然に存在しない微生物は、約0.1~200mMの間またはそれ以上の細胞内濃度を生じさせる結果となるアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの生合成を達成することができる。一般に、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの細胞内濃度は、10mM、20mM、50mM、80mM以上を含めて、約3~150mMの間、特に約5~125mMの間、およびさらに特に約8~100mMの間である。これらの例示的範囲のそれぞれの間およびそれぞれより上の細胞内濃度も本発明の天然に存在しない微生物から達成することができる。
【0077】
一部の実施形態において、培養条件は、嫌気性または実質的に嫌気性の増殖または維持条件を含む。例示的嫌気性条件は、前に説明したものであり、当該技術分野において周知である。発酵プロセスのための例示的嫌気性条件は、本明細書に記載するものであり、例えば、2007年8月10日出願の米国特許出願第11/891,602号に記載されている。これらの条件のいずれも、天然に存在しない微生物、ならびに当該技術分野において周知の他の嫌気性条件と共に用いることができる。そのような嫌気性条件下で、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生産体は、5~10mMまたはそれ以上の細胞内濃度ならびに本明細書において例示する他のすべての濃度でアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムを合成することができる。上の説明が細胞内濃度に関連していたとしても、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生産性微生物が、アジペート、6-アミノカプロン酸もしくはカプロラクタムを細胞内生産する場合もあり、および/またはその産物を培養基に分泌する場合もあることは理解される。
【0078】
培養条件としては、例えば、液体培養手順ならびに発酵および他の大規模培養手順を挙げることができる。本明細書において説明するように、本発明の生合成製品の特に有用な収量は、嫌気性または実質的に嫌気性の培養条件下で得ることができる。
【0079】
本明細書において説明するように、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの生合成を達成するための一例示的増殖条件には、嫌気性培養または発酵条件が挙げられる。一定の実施形態では、本発明の天然に存在しない微生物を嫌気性または実質的に嫌気性の条件下で維持、培養または発酵させることができる。簡単に言うと、嫌気性条件は、酸素が全く無い環境を指す。実質的に嫌気性の条件は、例えば、培地中の溶解酸素濃度が、飽和の0%と10%の間であり続けるような培養、回分発酵または連続発酵を含む。実質的に嫌気性の条件は、酸素1%未満の雰囲気で維持される密封チャンバ内の液体培地中または固体寒天上での細胞の増殖または休止も含む。この酸素のパーセントは、例えば、N2/CO2混合物または他の適する非酸素ガス(単数もしくは複数)を培養物に散布することによって、維持することができる。
【0080】
本明細書に記載する培養条件は、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの製造のために規模拡大し、継続的に増殖させることができる。例示的増殖手順としては、例えば、流加発酵および回分分離;流加発酵および連続分離、または連続発酵および連続分離が挙げられる。これらのプロセスのすべてが当該技術分野において周知である。発酵手順は、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの商業的な量の生合成生産に特に有用である。一般に、および非連続培養手順でのように、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの連続および/または準連続生産は、指数期における増殖を持続するおよび/またはほぼ持続するために十分な栄養および培地で本発明の天然に存在しないアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生産性生物を培養することを含むであろう。そのような条件下での連続培養を、例えば、1日、2、3、4、5、6または7日以上含むことができる。加えて、連続培養は、1週間、2、3、4または5週間以上、および数か月以下を含むことができる。あるいは、特定の用途に適する場合には、本発明の生物を数時間培養することができる。上記連続および/または準連続培養条件がこれらの例示期間の間のすべての時間間隔も含み得ることは理解されるはずである。本発明の微生物の培養時間が、所望の目的のための製品の十分な量を生産するために十分な時間にわたることはさらに理解される。
【0081】
発酵手順は、当該技術分野において周知である。簡単に言うと、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの生合成生産のために、例えば、流加発酵および回分分離;流加発酵および連続分離、または連続発酵および連続分離で、発酵を利用することができる。回分および連続発酵手順の例は、当該技術分野において周知である。
【0082】
実質的な量のアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの連続生産のために本発明のアジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生産体を使用する上記発酵手順に加えて、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタム生産体を、所望される場合には、同時に化学的合成手順に付して、その発酵産物を発酵培養物から分離することができる他の化合物または産物に変換し、その後、逐次的に化学変換に付して、その産物を他の化合物に変換することができる。本明細書において説明するように、3-オキソアジペート、ヘキサ-2-エンジオエートを利用するアジペート経路における中間体は、例えば白金触媒での化学的水素化によって、アジペートに変換することができる(実施例III参照)。
【0083】
よりよい生産体を産生するために、代謝モデリングを利用して増殖条件を最適化することができる。その経路の利用をさらに最適化する遺伝子ノックアウトを設計するためにもモデリングを用いることができる(例えば、米国特許公開公報US 2002/0012939、US 2003/0224363、US 2004/0029149、US 2004/0072723、US 2003/0059792、US 2002/0168654およびUS 2004/0009466、ならびに米国特許第7,127,379号参照)。モデリング解析は、アジペート、6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムのより効率的な生産に代謝をシフトさせる細胞増殖に対する効果の信頼できる予測を可能にする。
【0084】
所望の製品の生合成に好適である代謝改変を特定および設計するための1つのコンピュータ計算方法が、OptKnockコンピュータ計算フレームワークである、Burgardら、Biotechnol Bioeng,84,647-57(2003)。OptKnockは、ターゲット製品を過剰生産する遺伝的に安定した微生物をもたらす結果となる遺伝子欠失戦略を示唆する代謝モデリングおよびシミュレーションプログラムである。具体的には、このフレームワークは、微生物の完全代謝および/または生化学的ネットワークを調査して、所望の生化学製品を細胞増殖の副産物になるように強いる遺伝子操作を示唆する。戦略的に負わせる遺伝子欠失または他の機能的遺伝子破壊によって細胞増殖と生化学的生産を連動させることにより、バイオリアクター内で長期間の後、遺伝子工学で作り変えられた株にかけられる増殖選択圧が、その強制的増殖連動生化学的生産の結果として性能の向上をもたらす。最後に、遺伝子欠失を構成するとき、OptKnockによって選択された遺伝子は、ゲノムから完全に除去されることとなるので、設計した株がそれらの野生型状態に復帰変異する可能性は無視してよい。従って、このコンピュータ計算方法論は、所望の産物の生合成をもたらす代替経路を特定するために用いることができ、または所望の産物の生合成のさらなる最適化のために天然に存在しない微生物に関して用いることができる。
【0085】
簡単に言うと、OptKnockは、細胞の代謝をモデリングするためのコンピュータ計算方法およびシステムを指すために本明細書において用いる用語である。OptKnockプログラムは、フラックス均衡解析(FBA)モデルに特定の制約を組み込むモデルおよび方法のフレームワークに関係する。これらの制約としては、例えば、定性的動態情報、定性的調節情報、および/またはDNAマイクロアレイ実験データが挙げられる。OptKnockは、例えば、フラックス均衡モデルによって得られるフラックス範囲を狭め、その後、遺伝子付加または欠失が存在する状態で代謝ネットワークの性能限界を精査することにより、様々な代謝の問題に対する解も推定する。OptKnockコンピュータ計算フレームワークは、代謝ネットワークの性能限界の有効な照会を可能するモデル式の作成を可能にし、結果として得られる混合整数線形計画問題の解法を提供する。本明細書においてOptKnockと呼ぶ代謝モデリングおよびシミュレート方法は、例えば、2002年1月10日出願の米国特許公開第2002/0168654号に、2002年1月10日出願の国際特許番号PCT/US02/00660に、および2007年8月10日出願の米国特許出願第11/891,602号に記載されている。
【0086】
製品の生合成生産に好適である代謝改変を特定および設計するためのもう1つのコンピュータ計算方法は、SimPheny(登録商標)と呼ばれる代謝モデリングおよびシミュレーションシステムである。このコンピュータ計算方法およびシステムは、例えば、2002年6月14日出願の米国特許公開第2003/0233218号に、および2003年6月13日出願の国際特許出願番号PCT/US03/18838に記載されている。SimPheny(登録商標)は、インシリコでネットワークモデルを生成するために使用することができる、および生体系の化学反応による質量、エネルギーまたは電荷のフラックスをシミュレートするために使用して、その系における化学反応の任意のおよびすべての可能な機能性を含む解空間を定義し、それによってその生態系についての許容活性の範囲を決定することができるコンピュータ計算システムである。このアプローチは、制約に基づくモデリングと呼ばれる。解空間が、制約、例えば、含まれる反応の公知化学量論、ならびに反応による最大フラックスに関連した反応熱力学および容量の制約によって定義されるからである。これらの制約によって定義される空間を質問して、その生体系のまたはその生化学成分の表現型の能力および挙動を決定することができる。
【0087】
生体系は順応性があり、多くの異なる方法で同じ結果に達することができるので、これらのコンピュータ計算アプローチは、生物学的現実との矛盾がない。生体系は、生きているすべての系が直面する基本的制約による拘束を受けた進化メカニズムによって設計されている。従って、制約に基づくモデリング戦略は、これらの一般的な現実を包含する。さらに、制約をきつくすることによりネットワークモデルにさらなる制限を連続的に課すことができることによって、解空間のサイズが縮小され、その結果、生理的性能または表現型を予測することができる精度が向上される。
【0088】
本明細書に提供する教示およびガイダンスを考慮すれば、当業者は、代謝モデリングおよびシミュレーションのために様々なコンピュータ計算フレームワークを利用して、宿主微生物における所望の化合物の生合成を設計および実行することができるであろう。そのような代謝モデリングおよびシミュレーション方法としては、例えば、SimPheny(登録商標)およびOptKnockとして上で例示したコンピュータ計算システムが挙げられる。本発明の例証のために、本明細書ではモデリングおよびシミュレーションのためのOptKnockコンピュータ計算フレームワークに関して一部の方法を説明する。当業者は、OptKnockを用いる代謝改変の特定、設計および実行を、当該技術分野において周知の任意のそのような他の代謝モデリングおよびシミュレーションコンピュータ計算フレームワークおよび方法に適用する方法を知っているだろう。
【0089】
上で説明した方法は、破壊すべき代謝反応の1セットをもたらすであろう。そのセットの中のそれぞれの反応または代謝修飾の除去によって、その生物の増殖期中に不可欠産物として所望の製品を得ることができる。これらの反応は公知であるので、二層OptKnock問題に対する解は、その反応セットの中のそれぞれの反応を触媒する1つ以上の酵素をコードする関連遺伝子(単数または複数)ももたらすであろう。1セットの反応の特定およびそれぞれの反応に関与する酵素をコードするそれらの対応する遺伝子の特定は、一般に、酵素とコーディング遺伝子との関係を有する反応データベースとそれらの反応の相関によって遂行される自動プロセスである。
【0090】
特定されると、所望の製品の生産を達成するために破壊されることとなる反応のセットが、ターゲット細胞または生物において、そのセットの中のそれぞれの代謝反応をコードする少なくとも1つの遺伝子の機能破壊によって実行される。この反応セットの機能破壊を達成するために特に有用な1つの手段は、それぞれのコーディング遺伝子の欠失によるものである。しかし、場合により、例えば、突然変異、調節領域、例えばプロモーター、もしくは調節因子のためのシス結合部位、の欠失、を含む他の遺伝子異常によって、または多数の位置のいずれかでのコーディング配列のトランケーションによって、反応を破壊することが有益であることがある。遺伝子セットの完全に満たない欠失を生じさせるこれらの後者の異常は、例えば、製品の連動の迅速な評価が望まれるとき、または遺伝子復帰変異が発生する可能性が低いとき、有用であり得る。
【0091】
所望の製品の増殖連動生合成をはじめとする生合成を結果として生じさせることができる破壊すべき反応または代謝修飾のさらなるセットをもたらす上記二層OptKnock問題に対する追加の生成解を特定するために、整数カットと呼ばれる最適化方法を実行することができる。この方法は、整数カットと呼ばれる追加の制約をそれぞれの反復時に組み込みながら、上に例示したOptKnock問題を反復的に解くことによって行われる。整数カット制約は、製品の生合成を増殖に強制的に連動させる任意の前の反復において特定された反応のまさに同じセットをその解答手順が選択するのを有効に防止する。例えば、前に特定された増殖連動代謝修飾が、破壊に反応1、2および3を指定する場合には、次の制約が、同じ反応が後続の解答の際に同時に考慮されることを防止する。この整数カット法は、当該技術分野において周知であり、例えば、Burgardら、Biotechnol.Prog,17:791-797(2001)に記載されているのを見つけることができる。代謝モデリングおよびシミュレーションのためのOptKnockコンピュータ計算フレームワークとそれらの併用に関して本明細書に記載するすべての方法と同様に、反復コンピュータ計算解析における重複を減少させる整数カット法は、例えばSimPheny(登録商標)をはじめとする当該技術分野において周知の他のコンピュータ計算フレームワークと共に利用することもできる。
【0092】
本明細書において例示する方法は、所望の製品を生合成生産する細胞および生物の構築を可能にするものであり、この方法は、特定された遺伝子改変を有するように遺伝子工学で作り変えられた細胞または生物の増殖にターゲット生化学製品の生産を連動させることを含む。従って、本明細書に記載するコンピュータ計算方法は、OptKnockまたはSimPheny(登録商標)から選択されるインシリコ法によって特定される代謝修飾の特定および実行を可能にする。上記代謝修飾のセットは、例えば、1つ以上の生合成経路酵素の付加、および/または例えば遺伝子欠失による破壊を含む、1つ以上の代謝反応の機能破壊を含むことができる。
【0093】
上で論じたように、OptKnock方法論は、突然変異微生物ネットワークを、長い増殖選択期間に付したとき、それらのコンピュータ計算予測最大増殖表現型のほうに進化させることができることを前提として開発された。言い換えると、このアプローチは、選択圧のもとで自己最適化する生物の能力に影響を与える。OptKnockフレームワークは、ネットワーク化学量論に基づく生化学的生産と細胞増殖とを強いて連動させる遺伝子欠失の組み合わせの網羅的列挙を可能にする。最適な遺伝子/反応破壊の特定は、結果として生ずるネットワークについての最適な増殖の解が対象となる生化学製品を過剰生産するように活性反応のセットを選択する二層最適化問題の解を必要とする(Burgardら、Biotechnol Bioeng.84:647-657(2003))。
【0094】
以前に例示されているおよび例えば、米国特許公開公報US 2002/0012939、US 2003/0224363、US 2004/0029149、US 2004/0072723、US 2003/0059792、US 2002/0168654およびUS 2004/0009466に、ならびに米国特許第7,127,379号に記載されているように、E.coli代謝のインシリコ化学量論的モデルを利用して代謝経路の必須遺伝子を特定することができる。本明細書において開示するように、OptKnock数学的ネットワークは、所望の製品の増殖連動生産をもたらす遺伝子欠失の位置を正確に特定するために利用するこができる。さらに、二層OptKnock問題の解は、1セットの欠失しか与えない。すべての意味ある解、すなわち、増殖連動生産形成につながるノックアウトのすべてのセット、を列挙するために、整数カットと呼ばれる最適化技術を実行することができる。これは、上で論じたように、整数カットと呼ばれる追加の制約をそれぞれの反復時に組み込みながらOptKnock問題を反復的に解くことを必然的に伴う。
【0095】
本発明の様々な実施形態の活性に実質的に影響を及ぼさない修飾も本明細書に提供する本発明の定義の中に含まれることは理解されるであろう。従って、以下の実施例は、例証のためのものであり、本発明を限定するためのものではない。
【実施例0096】
実施例I
逆アジペート分解経路
この実施例は、逆アジペート分解経路による例示的アジペート合成経路を説明するものである。
【0097】
Penicillium chrysogenumなどの生物は、アジペートを自然に分解する能力を有する(Thykaerら、Metab.Eng.4:151-158.(2002))。このメカニズムは、脂肪酸の酸化に類似している(
図1参照)。アジペート分解における第一段階は、CoAでアジペートを活性化するATP依存性反応である。第二の反応は、アジピル-CoAからの5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAを形成するデヒドロゲナーゼによって触媒される。ペルオキシソームのアジペート分解中に、そのデヒドロゲナーゼ酵素は、FADを含有し、これが電子を受容し、その後、それらを酸素に直接伝達する。カタラーゼ酵素は、酸素の還元によって形成されたH
2O
2を散逸させる。ミトコンドリア脂肪酸酸化では、デヒドロゲナーゼからのFADが電子輸送鎖に電子を直接伝達する。S.cerevisiaeおよびP.chrysogenumなどの真核生物では、多官能性脂肪酸酸化タンパク質が、後続のヒドラターゼおよびデヒドロゲナーゼ段階を遂行する。最終段階は、3-オキソアジピルCoAをアセチル-CoAおよびスクシニル-CoAに分裂させるアセチルトランスフェラーゼである。
【0098】
類似の酵素的反応をスクシニル-CoAおよびアセチル-CoAからのアジペート合成に利用するように微生物を遺伝子工学で改変することによって、アジペートの高効率生産経路を実現する(
図2参照)。この好結果の実現は、適切な遺伝子を発現させることと、それらの発現を調整することと、高いアセチル-CoA、スクシニル-CoA、および/またはレドックス(例えば、NADH/NAD+)比によってこの経路を通る代謝フラックスが分解ではなくアジペート合成の方向に至らされるように培養条件を改変することとを必要とする。Clostridiaにおけるブチレート形成(Kanehisa and Goto,Nucl.Acids Res.28:27-30(2000))との著しい類似は、アジペート合成経路におけるそれぞれの段階が熱力学的に実行可能であり、反応の方向性が関与する代謝産物の濃度によって左右されることを支持する。アジピル-CoAからアジペートを形成する最終段階は、シンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/キナーゼ、トランスフェラーゼ、またはヒドロラーゼメカニズムのいずれによっても行うことができる。
【0099】
この経路を用いるアジペートの最大理論収量を、酸素などの外部電子受容体の存在下および不在下両方で計算した。これらの計算は、この経路が嫌気性条件下でグルコースをアジペートおよびCO
2に92%のモル収率で効率的に変換できることを示す(表I)。3-ヒドロキシアジピル-CoAおよびアジピル-CoAを形成する2つのヒドロゲナーゼ段階においてNAD+を再生できるので、この経路を用いるアジペートの生産は、酸素の取り込みを必要としない(
図2参照)。さらに、この経路は、最終変換段階についてシンセターゼ、ホスホトランスアジピラーゼ/キナーゼ、またはトランスフェラーゼメカニズムのいずれかを仮定するとアジペートの最大理論収量で消費されるグルコース1モルあたり1.55モルまでのATPを形成するので、エネルギー的に好適である。ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PPCK)が、オキサロアセテート形成に向かうATP生成方向で機能すると仮定すると、グルコース1モルあたり生産されるATP 2.47モルに、そのATP収量をさらに向上させることができる。その後、アジピル-CoAからアジペートへの転化が加水分解段階であると仮定して最大ATP収量の計算を行った。これは、PPCKを不可逆的および可逆的であると仮定すると、最大アジペート生産時の最大ATP収量は、消費されるグルコース1モルあたりATP 0.85および1.77モルに、それぞれ減少される。それにもかかわらず、これらのATP収量は、細胞の増殖、維持および生産にとって十分なものである。
【0100】
【表1】
この経路を遺伝子工学で首尾よく作り変えるには、十分な活性および特異性を有する酵素の適切なセットを特定する必要がある。これは、酵素の適切なセットの特定、それらの対応する遺伝子の生産宿主へのクローニング、発酵条件の最適化、および発酵後の産物形成についてのアッセイを必要とする。生産宿主をアジペートの生産用に遺伝子工学で作り変えるために、1つ以上の外因性DNA配列を適切な宿主微生物において発現させる。加えて、その微生物は、機能的に欠失した内因性遺伝子(単数または複数)を有する場合がある。これらの修飾により、再生可能な供給原料を使用するアジペートの生産が可能となる。
【0101】
生産宿主における逆アジペート分解経路のそれぞれの段階を触媒する酵素をコードする、多数の生化学的に特性づけされた候補遺伝子を下で説明する。E.coliを使用して経路の遺伝子工学による作り変えを説明するが、本質的にいずれの適する宿主生物を使用してもよい。具体的には、正しくクローニングされ、発現されたとき適切な転化を触媒するために利用することができる、E.coliに本来備わっている遺伝子ならびに他の生物における遺伝子を列挙する。
【0102】
図2を参照して、段階1は、スクシニルCoA:アセチルCoAアシルトランスフェラーゼ(β-ケトチオラーゼ)を含む。この経路における第一段階は、アセチル-CoAとスクシニル-CoAを化合させて3-オキソアジピル-CoAを形成する。Pseudomonas株B13におけるpcaF(Kaschabekら、J.Bacteriol.184:207-215(2002))、Pseudomonas putida UにおけるphaD(Oliveraら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA
95:6419-6424(1998))、Pseudomonas fluorescens STにおけるpaaE(Di Gennaroら、Arch.Microbiol.188:117-125(2007))、およびE.coliからのpaaJ(Nogalesら、Microbiol.153:357-365(2007))によってコードされている遺伝子産物は、フェニルアセテートまたはスチレンなどの芳香族化合物の分解中に3-オキソアジピル-CoAのスクシニル-CoAおよびアセチル-CoAへの変換を触媒する。β-ケトチオラーゼ酵素は、可逆的転化を触媒するので、
図2に示すアジペート合成の第一段階にこれらの酵素を利用することができる。例えば、R.eutrophaからのケトチオラーゼphaAを2つのアセチル-CoA分子と化合させて、アセトアセチル-CoAを形成する(Satoら、J.Biosci.Bioengineer.103:38-44(2007))。類似して、β-ケトチオラーゼ(bktB)は、R.eutrophaにおいてβ-ケトバレリル-CoAを形成するためのアセチル-CoAおよびプロピニル-CoAの縮合を触媒することが報告されている(Slaterら、J.Bacteriol.180:1979-1987(1998))。上述の遺伝子産物についてのタンパク質配列は、当該技術分野において周知であり、ならびに以下のアクセッション番号を用いてGenBankなどの公的データベースにおいて入手することができる。
【0103】
【数1】
これらの例示的配列を用いて、GenBankまたは他のデータベースにおいて配列類似性検索(例えば、BLASTp)により相同タンパク質を特定することができる。得られた相同タンパク質およびそれらの対応する遺伝子配列が、生産宿主を産生するためのE.coliまたは他の適する宿主微生物への形質転換のための追加の外因性DNA配列となる。
【0104】
例えば、Escherichia coli K12からのpaaJのオーソログは、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0105】
【数2】
Pseudomonas knackmussiiからのpcaFのオーソログの例は、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0106】
【数3】
ケトチオラーゼ段階のための追加の天然候補遺伝子としては、2つのアセチル-CoA分子の可逆的縮合を触媒することができるatoB(Satoら、J.Biosci.Bioengineer.103:38-44)およびそのホモログyqeFが挙げられる。非天然遺伝子候補としては、R.eutrophaからのphaA(Satoら、上記文献、2007)およびbktB(Slaterら、J.Bacteriol.180:1979-1987(1998))、ならびにClostridium acetobutylicumからの2つのケトチオラーゼ、thiAおよびthiB(Winzerら、J.Mol.Microbiol.Biotechnol.2:531-541(2000))が挙げられる。これらの例示的遺伝子産物のそれぞれについてのタンパク質配列は、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0107】
【数4】
図2を参照して、段階2は、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼを含む。この経路における第二段階は、3-オキソアジピル-CoAの3-ヒドロキシアジピル-CoAへの還元を含む。Pseudomonas putida UにおけるphaC(Oliveraら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:6419-6424(1998))およびPseudomonas Fluorescens STにおけるpaaC(DiGennaroら、Arch.Microbiol.188:117-125(2007))によってコードされている遺伝子産物は、フェニルアセテートまたはスチレンの異化中に逆反応、すなわち3-オキソアジピル-CoAを形成する3-ヒドロキシアジピル-CoAの酸化、を触媒する。そのようなデヒドロゲナーゼによって触媒される反応は可逆的であり、従って、これらの遺伝子は、
図2に示すようなアジペート合成の第二段階を行うための候補と言える。Clostridium acetobutylicumにおけるhbdの遺伝子産物によっても類似の形質転換が行われる(Atsumiら、Metab.Eng.(epub Sep.14,2007);Boyntonら、J.Bacteriol.178:3015-3024(1996))。この酵素は、アセトアセチル-CoAを3-ヒドロキシブチリル-CoAに変換する。最後に、フェニルアセテート分解オペロンにおける他の遺伝子へのpaaHのE.coliでの近接(Nogalesら、Microbiol.153:357-365(2007))およびpaaH突然変異体がフェニルアセテートでは増殖できないという事実(Ismailら、Eur.J.Biochem.270:3047-3054(2003))を考えれば、E.coli paaH遺伝子は3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼをコードすると予想される。これらの例示的遺伝子産物のそれぞれについてのタンパク質配列は、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0108】
【数5】
図2を参照して、段階3は、3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼを含む。C.acetobutylicumからのcrtの遺伝子産物は、3-ヒドロキシブチリル-CoAのクロトニル-CoAへの脱水を触媒する(
図2参照)(Atsumiら、上記文献、2007;Boyntonら、J.Bacteriol.178:3015-3024(1996))。この遺伝子のホモログは、
図2に例示するアジペート合成経路における第三段階を行うための強力な候補である。加えて、エノイル-CoA化合物における二重結合のヒドロキシル化を触媒することが知られている遺伝子は、そのような酵素的転化の可逆性を与えられる追加の候補と言える。例えば、P.putidaのエノイル-CoAヒドラターゼ、phaAおよびphaB、は、フェニルアセテート異化中に二重結合のヒドロキシル化を行うと考えられており(Oliveraら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:6419-6424(1998))、従って、E.coliに組み込む追加の候補と言える。P.putidaにおけるこれらの遺伝子の欠失は、フェニルアセテート分解を妨げる。P.fluorescensからのpaaAおよびpaaBは、類似の転化を触媒する(Oliveraら、上記文献、1998)。最後に、maoC(Park and Lee,J.Bacteriol.185:5391-5397(2003))、paaF(Ismailら,Eur.J.Biochem.270:3047-3054(2003);Park and Lee,Biotechnol.Bioeng.86:681-686(2004);Park and Lee,Appl.Biochem. Biotechnol.113-116:335-346(2004))、およびpaaG(Ismailら、上記文献、2003;ParkおよびLee、上記文献、2004;ParkおよびLee、上記文献、2004)をはじめとする多数のEscherichia coli遺伝子は、エノイル-CoAヒドラターゼの機能性を明示することが証明されている。これらの例示的遺伝子のそれぞれについてのタンパク質配列は、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0109】
【数6】
あるいは、β-酸化遺伝子は、アジペート合成における最初の三段階のための候補である。提案アジペート合成経路のための候補遺伝子としては、E.coliの天然脂肪酸酸化遺伝子および他の生物におけるそれらのホモログも挙げられる。E.coli遺伝子fadAおよびfadBは、ケトアシル-CoAチオラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、およびエノイル-CoAヒドラターゼ活性を示す多酵素複合体をコードする(Yangら、Biochem.30:6788-6795(1991);Yangら、J.Biol.Chem.265:10424-10429(1990);Yangら、J.Biol.Chem.266:16255(1991);Nakahigashi and Inokuchi,Nucl.Acids Res.18:4937(1990))。これらの活性は、
図2に示す最初の3つの転化にメカニズム的に類似している。fadIおよびfadJ遺伝子は、類似した機能をコードし、嫌気的にしか自然発現されない(Campbellら、Mol.Microbiol.47:793-805(2003))。これらの遺伝子産物は、
図2に提示するようにスクシニル-CoAおよびアセチル-CoAを5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAに変換するのではなく、短、中および長鎖脂肪-アシル-CoA化合物をアセチル-CoAに分解するように本来は作用する。しかし、ケトアシル-CoAチオラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼおよびエノイル-CoAヒドラターゼ酵素が可逆的転化を触媒することは周知である。さらに、E.coliの天然β-酸化機械の基質特異性を調整するために定方向進化および関連アプローチを利用することができる。従って、これらの酵素またはそれらの相同体をアジペート生産に利用することができる。天然遺伝子がインビボでアジペートまたはその前駆体を分解するように作用する場合、これらの機能を和らげるまたは除去するために適切な遺伝子修飾を施す。しかし、それは必ずしも必要でないだろう。負の調節因子、fadR、をノックアウトすることによりfadBを活性化すること、およびRalstonia eutrophaからの非天然ケトチオラーゼ、phaA、を共発現させることを含む、E.coliにおけるポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート]の生産方法が記載されているからである(Satoら、J.Biosci.Bioeng.103:38-44(2007))。この研究は、β-酸化酵素、特に、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ活性とエノイル-CoAヒドラターゼ活性の両方をコードするfadBの遺伝子産物、が、より長い鎖の分子をアセチル-CoA前駆体から生成する経路の一部として機能し得ることを明確に実証した。これらの例示的遺伝子産物のそれぞれについてのタンパク質配列は、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0110】
【数7】
図2を参照して、段階4は、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼを含む。ケトチオラーゼ、デヒドロゲナーゼ、およびエノイル-CoAヒドラターゼ段階は一般に可逆的であるのに対し、エノイル-CoAレダクターゼ段階は、生理条件下でほぼ常に酸化的および不可逆的である(Hoffmeisterら、J.Biol.Chem.280:4329-4338(2005))。FadEは、E.coliにおけるこのおそらく不可逆的な形質転換を触媒する(Campbell and Cronan,J.Bacteriol.184:3759-3764(2002))。この経路は、アシル-CoAを2-エノイル-CoA化合物に単に酸化しかしないであろうFadEなどの酵素ではなく、2-エノイル-CoA中間体を還元することができる酵素を必要とする。さらに、E.coliが、エノイル-CoA還元のための酵素をもともと有していることは示唆されている(Mizugakiら、J.Biochem.92:1649-1654(1982);Nishimakiら、J.Biochem.95:1315-1321(1984))が、この機能を有するいかなるE.coli遺伝子も生化学的に特性付けされていない。
【0111】
エノイル-CoAレダクターゼ段階のための1つの候補遺伝子は、C.acetobutylicumからのbcdの遺伝子産物(Atsumiら、上記文献、2007;Boyntonら、J.Bacteriol.178:3015-3024(1996))であり、これは、クロトニル-CoAのブチリル-CoAへの還元(アジペート合成経路における5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAのアジピル-CoAへの望ましい還元にメカニズムの点で類似している反応)を自然に触媒する。この酵素の活性は、電子伝達フラボプロテインをコードするC.acetobutylicum etfAB遺伝子の発現と共にbcdを発現することによって強化され得る。エノイル-CoAレダクターゼ段階のための追加の候補は、E.gracilisからのミトコンドリアエノイル-CoAレダクターゼ(Hoffmeisterら,J.Biol.Chem.280:4329-4338(2005))である。そのミトコンドリアターゲッティングリーダー配列の除去後にこの配列から誘導される構築物をE.coliにおいてクローニングし、その結果、活性酵素が得られた(Hoffmeisterら、上記文献、2005)。このアプローチは、真核生物遺伝子、特に、原核生物における特定の細胞内区画に遺伝子産物をターゲッティングすることができるリーダー配列を有するもの、を発現させる技術分野における技術者には周知である。原核生物Treponema denticolaからのこの遺伝子の近しいホモログ、TDE0597、は、E.coliにおいてクローニングされ、発現された第三のエノイル-CoAレダクターゼの代表である(Tucci and Martin,FEBS Lett.581:1561-1566(2007))。これらの例示的遺伝子産物のそれぞれについてのタンパク質配列を、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0112】
【数8】
図2を参照して、段階5は、アジピル-CoAシンセターゼ(アジピン酸-CoAリガーゼとも呼ばれる)、ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼ、アジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼ、またはアジピル-CoAヒドロラーゼを含む。エネルギー的観点から、このアジペート合成経路における最終段階は、アジピル-CoAのチオエステル結合の中に蓄えられたATP当量を保存することができる酵素または酵素ペアによって触媒されることが望ましい。
図2に示す最終転化を触媒することができる可能性がある、E.coliのsucCおよびsucD遺伝子またはそれらのホモログの産物は、アジピル-CoAに対して活性を示すはずである。sucCD遺伝子は、スクシニル-CoAシンセターゼ複合体を自然に形成し、この複合体は、1つのATPの付随的(concaminant)消費を伴うスクシネートからのスクシニル-CoAの形成(インビボで可逆的である反応)を触媒する(Buckら、Biochem.24:6245-6252(1985))。スクシネートとアジペートの間の構造的類似性、すなわち両方とも直鎖ジカルボン酸であること、を考えれば、アジピル-CoAに対してsucCD酵素の何らかの活性を期待することは理にかなっている。アジピル-CoAリガーゼ活性を示す酵素は、
図1に図示するように反生理的方向で作用する場合、アジピル-CoAからのアジペートのATP生成性生産を(このときは補因子としてAMPおよびPPiを用いるが)同等に行うことができる。例示的CoA-リガーゼとしては、配列が未だ特性づけされていないラットジカルボン酸-CoAリガーゼ(Vamecqら、Biochem.J.230:683-693(1985))、P.chrysogenumからの2つの特性づけされているフェニル酢酸-CoAリガーゼのうちのいずれか(Lamas-Maceirasら、Biochem.J.395,147-155(2005);Wangら、Biochem.Biophy.Res.Commun.360:453-458(2007))、Pseudomonas Putidaからのフェニル酢酸-CoAリガーゼ(Martinez-Blancoら、J.Biol.Chem.265:7084-7090(1990))、およびBacilis subtilisからの6-カルボキシヘキサン酸-CoAリガーゼ(Bowerら、J.Bacteriol.178:4122-4130(1996))が挙げられる。これらの例示的遺伝子産物のそれぞれについてのタンパク質配列を、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0113】
【数9】
ホスホトランスアジピラーゼ/アジピン酸キナーゼを使用する、もう1つの選択肢は、C.acetobutylicumからのbuk1、buk2およびptbの遺伝子産物(Walterら、Gene 134:107-111(1993);Huangら、J.Mol.Microbiol.Biotechnol.2:33-38(2000))またはそれらのホモログによって触媒される。ptb遺伝子は、ブチリル-CoAをブチリル-ホスファートに変換することができ酵素をコードしており、その後、そのブチリル-ホスファートは、ATPの付随的発生を伴ってbuk遺伝子産物のいずれかによりブチレートに変換される。類似の転化セット、すなわち、アジピル-CoAのアジピル-ホスファートへの変換、その後のアジピル-ホスファートのアジペートへの変換、は、buk1、buk2およびptb遺伝子産物によって行われ得る。これらの例示的遺伝子産物のそれぞれについてのタンパク質配列を、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0114】
【数10】
あるいは、アジピル-CoAからアセテートにCoA基を転移させことができるアセチルトランスフェラーゼを利用することができる。スクシニル-CoA、4-ヒドロキシブチリル-CoA、およびブチリル-CoAアセチルトランスフェラーゼ活性をそれぞれ示すことが証明されているClostridium kluyveriのcat1、cat2およびcat3の遺伝子産物(Sohling and Gottschalk,J.Bacteriol.178:871-880(1996);Seedorfら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 105:2128-2133(2008))によって、類似の転化が触媒される。これらの例示的遺伝子産物のそれぞれについてのタンパク質配列を、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0115】
【数11】
最後に、エネルギー的観点からは望ましくないようだが、アジピル-CoAのアジペートへの変換は、アシル-CoAヒドロラーゼまたは同等にチオエステラーゼによっても行うことができる。最上位のE.coli遺伝子候補は、アジピル-CoAに対して活性を有するジカルボン酸アセチルトランスフェラーゼであるヒトacot8(Westinら、J.Biol.Chem.280:38125-38132(2005))への高い類似性を示す、tesB(Naggertら、J.Biol.Chem.266:11044-11050(1991))である。この活性は、ラット肝臓においても特性づけされている(Deana,Biochem.Int.26:767-773(1992))。これらの例示的遺伝子産物のそれぞれについてのタンパク質配列を、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0116】
【数12】
他の天然候補遺伝子としては、tesA(Bonner and Bloch,J.Biol.Chem.247:3123-3133(1972))、ybgC(Kuznetsovaら、FEMS Microbiol.Rev.29:263-279(2005);Zhuangら、FEBS Lett.516:161-163(2002))、paaI(Songら、J.Biol.Chem.281:11028-11038(2006))、およびybdB(Leducら、J.Bacteriol.189:7112-7126(2007))が挙げられる。これらの例示的遺伝子産物のそれぞれについてのタンパク質配列を、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0117】
【数13】
上の説明は、逆アジペート分解経路による例示的アジペート合成経路を提供するものである。
【0118】
実施例II
逆分解経路を有するアジペート生産性微生物の作製
この実施例は、逆分解経路を用いてアジペートを生産することができる微生物の産生を説明するものである。
【0119】
図2に示すような逆アジペート分解経路を遺伝子工学で作るためのターゲット生物としてEscherichia coliを使用する。E.coliは、アジペートを生産することができる天然に存在しない微生物を産生させるための良好な宿主となる。E.coliは、遺伝子操作しやすく、ならびにE.coliがエタノール、酢酸、ギ酸、乳酸およびコハク酸のような様々な製品を、有効には嫌気性または微好気性条件下で、生産できることは公知である。
【0120】
アジペートを生産するように遺伝子工学で作り変えられたE.coli株を産生させるために、逆分解経路において利用される酵素をコードする核酸を、周知の分子生物学的技術(例えば、Sambrook、上記文献、2001;Ausubel、上記文献、1999参照)を用いて、E.coliにおいて発現させる。詳細には、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼおよび3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ活性をコードするpaaJ(NP_415915.1)、paaH(NP_415913.1)、およびmaoC(NP_415905.1)遺伝子を、PA1/lacOプロモーターのもとで、pZE13ベクター(ドイツ、RuelzheimのExpressys)にそれぞれクローニングする。加えて、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼおよびアジピル-CoAシンセターゼ活性をコードするbcd(NP_349317.1)、etfAB(349315.1および349316.1)ならびにsucCD(NP_415256.1およびAAC73823.1)遺伝子を、PA1/lacOプロモーターのもとで、pZA33ベクター(ドイツ、RuelzheimのExpressys)にそれぞれクローニングする。これら2セットのプラスミドをE.coli株MG1655に形質転換させて、逆分解経路によるアジペート合成に必要なタンパク質および酵素を発現させる。
【0121】
結果として生じた、遺伝子工学により作り変えた生物を、当該技術分野において周知の手順(例えば、Sambrookら、上記文献、2001参照)に従って、グルコース含有培地において培養する。例えばノーザンブロット、mRNAのPCR増幅、免疫ブロッティングおよびこれらに類するものをはじめとする、ポリペプチド発現または酵素活性を判定するための当該技術分野において周知の方法を用いて、逆分解経路遺伝子の発現を裏付ける。発現された酵素の酵素的活性を、個々の活性に特有のアッセイを用いて確認する。遺伝子工学で作り変えたE.coli株のアジペートを生産する能力を、HPLC、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GCMS)および/または液体クロマトグラフィー-質量分析(LCMS)を用いて確認する。
【0122】
機能的アジペート合成経路を有するように遺伝子工学で作り変えた微生物株を、その経路の効率的利用についての最適化により、さらに増加させる。簡単に言うと、その遺伝子工学で作り変えた株を評価して、外因性遺伝子のいずれかが律速レベルで発現されるかどうかを判定する。例えば追加の遺伝子コピー数の導入により、その経路を通るフラックスを制限し得る低レベルで発現される任意の酵素についての発現を増加させる。
【0123】
よりよい生産体を産生させるために、代謝モデリングを用いて増殖条件を最適化する。その経路の利用をさらに最適化する遺伝子ノックアウトを設計するためにもモデリングが用いられる(例えば、米国特許公開公報US 2002/0012939、US 2003/0224363、US 2004/0029149、US 2004/0072723、US 2003/0059792、US 2002/0168654およびUS 2004/0009466、ならびに米国特許第7,127,379号参照)。モデリング解析は、アジペートのより効率的な生産に代謝をシフトさせる細胞増殖に対する効果の信頼できる予測を可能にする。1つのモデリング方法が二層最適化アプローチ、OptKnock(Burgardら、Biotechnol.Bioengineer.84:647-657(2003))であり、これを、アジペートのより良好な生産を共同で生じさせる結果となる遺伝子ノックアウトを選択するために利用する。例えばアセチル-CoAおよびスクシニル-CoA中間体またはアジペート産物の、より良好な生産体を産生させるために、適応進化も用いることができる。適応進化を行って、増殖特性と生産特性の両方を向上させる(Fong and Palsson,Nat.Genet.36:1056-1058(2004);Alperら、Science 314:1565-1568(2006))。それらの結果に基づいて、モデリング、遺伝子工学および適応進化の後続のラウンドをそのアジペート生産体に適用して、生産をさらに増加させることができる。
【0124】
アジペートの大規模生産については、上記逆分解経路含有生物を、嫌気性条件下で、その生物の増殖を支援することが当該技術分野において公知の培地を使用して、発酵槽で培養する。発酵は、回分、流加回分または連続様式のいずれかで行う。その培地に先ず窒素を散布し、その後、培養容器を密封することによって、嫌気性条件を維持し、例えば、フラスコをセプタムおよびクリンプキャップで密封してもよい。制限通気用の小さな穴をセプタムに設けることによって、微好気性条件も用いることができる。培地のpHは、H2SO4などの酸の添加によって約7のpHで維持する。分光光度計(600nm)を使用して光学密度を測定することによって増殖速度を決定し、継時的に炭素源枯渇をモニターすることによってグルコース取り込み速度を決定する。望ましくないアルコール、有機酸および残留グルコースなどの副産物は、グルコースおよびアルコールについては屈折率検出器を使用して、ならびに有機酸についてはUV検出器を使用して、例えばAminex(登録商標)シリーズのHPLCカラム(例えば、HPX-87シリーズ)(カリフォルニア州、HerculesのBioRad)を使用するHPLC(メリーランド州、コロンビアのShimadzu)によって定量することができる(Linら、Biotechnol.Bioeng.,775-779(2005))。
【0125】
この実施例は、逆分解経路を用いるアジペート生産性微生物の作製を説明するものである。
【0126】
実施例III
3-オキソアジペートを経るアジペート合成
この実施例は、3-オキソアジペートを経る例示的アジペート合成経路を説明するものである。
【0127】
アジペート形成の前駆体としてアセチル-CoAおよびスクシニル-CoAを使用する、および代謝中間体、3-オキソアジペート、を通る、実施例IおよびIIにおいて説明したものからの追加の経路を
図3に示す。この経路における最初の2つの形質転換は、逆方向に作用する芳香族およびクロロ芳香族化合物についての分解経路の2つの終端段階である(Kaschabekら、J.Bacteriol.184:207-215(2002);Nogalesら、Microbiol.153:357-365(2007);Ismailら、Eur.J.Biochem.270:3047-3054(2003))。具体的には、第一段階は、スクシニル-CoAとアセチル-CoAの縮合によって3-オキソアジピルCoAを形成する。第二段階は、3-オキソアジペートを形成するものであり、Pseudomonas種の株B13において可逆的であると報告されている(Kaschabekら、J.Bacteriol.184:207-215(2002))。
【0128】
後続の段階は、3-オキソアジペートの3-ヒドロキシアジペートへの還元(ケト基のヒドロキシル基への変換)、ヘキサ-2-エンジオエートを生じさせるための3-ヒドロキシアジペートの脱水、およびアジペートを形成するためのヘキサ-2-エンジオエートの還元を含む。この経路のこれらの段階は、還元的TCAサイクルによるオキサロアセテートのスクシネートへの変換(
図4参照)に類似している。これは、この経路のこれらの段階が、適切な代謝産物濃度の存在を条件として、熱力学的に好適であることを支持する。最終還元段階を生化学的にまたは化学的触媒を利用することによって行って、ヘキサ-2-エンジオエートをアジペートに変換することができる。化学的水素化は、(Niuら、Biotechnol.Prog.18:201-211(2002))に記載されているように、活性炭に担持されたPt触媒を使用して行うことができる。
【0129】
この経路を用いるアジペートの最大理論収量は、消費されるグルコース1モルあたり0.92モルであり、これらの収量を獲得するために酸素を必要としない(表2参照)。随伴エネルギー特性は、逆アジペート経路のものと同一である。理論的には、この経路を通して、利用されるグルコース1モルあたり1.55モルまでのATP形成が観察される。このATP収量は、ホスホエノールピルビン酸キナーゼ(PPCK)がATP生成の方向に作用すると仮定すると、およそ2.47モルに向上する。興味深いことに、最後の段階に化学的水素化を用い、触媒効率100%を仮定すると、消費されるグルコース1モルあたりアジペート1モルに、製品収量をさらに増加させることができる。このシナリオでは、PPCKの逆機能性を考えなければ理論的には1.95モルまでのATPが形成される。
【0130】
【表2】
この経路を遺伝子工学で首尾よく作り変えるには、十分な活性および特異性を有する酵素の適切なセットを特定する必要がある。これは、酵素の適切なセットの特定、それらの対応する遺伝子の生産宿主へのクローニング、発酵条件の最適化、ならびに発酵後の産物形成についてのアッセイを必要とする。生産宿主をアジペートの生産用に遺伝子工学で作り変えるために、1つ以上の外因性DNA配列を適切な宿主微生物において発現させることができる。加えて、その宿主微生物は、機能的に欠失した内因性遺伝子(単数または複数)を有する場合がある。これらの修飾により、再生可能な供給原料を使用するアジペートの生産が可能となる。
【0131】
アジペート合成のための3-オキソアジペート経路のそれぞれの段階を触媒する酵素をコードすることができる、多数の生化学的に特性づけされた候補遺伝子を、下で説明する。この方法をE.coliについて説明するが、当業者は、任意の他の適する宿主生物にこれらの教示を適用することができる。具体的には、正しくクローニングされ、発現されたとき適切な転化を触媒するために利用することができる、E.coliに本来備わっている遺伝子ならびに他の生物における遺伝子を下に列挙する。
【0132】
図3を参照して、段階1は、スクシニルCoA:アセチルCoAアシルトランスフェラーゼ(β-ケトチオラーゼ)を含む。この経路における第一段階は、アセチル-CoAとスクシニル-CoAを化合させて3-オキソアジピル-CoAを形成する。Pseudomonas株B13におけるpcaF(Kaschabekら、J.Bacteriol.184:207-215(2002))、Pseudomonas putida UにおけるphaD(Oliveraら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA
95:6419-6424(1998))、Pseudomonas fluorescens STにおけるpaaE(Di Gennaroら、Arch.Microbiol.188:117-125(2007))、およびE.coliからのpaaJ(Nogalesら、Microbiol.153:357-365(2007))によってコードされている遺伝子産物は、フェニルアセテートまたはスチレンなどの芳香族化合物の分解中に3-オキソアジピル-CoAのスクシニル-CoAおよびアセチル-CoAへの変換を触媒する。β-ケトチオラーゼ酵素は、可逆的転化を触媒するので、
図3に示すアジペート合成の第一段階のためにこれらの酵素を利用することができる。例えば、R.eutrophaからのケトチオラーゼphaAは、2つのアセチル-CoA分子を化合させてアセトアセチル-CoAを形成する(Satoら,J.Biosci.Bioengineer.103:38-44(2007))。類似して、β-ケトチオラーゼ(bktB)は、R.eutrophaにおいて、β-ケトバレリル-CoAを形成するためのアセチル-CoAとプロピオニル-CoAの縮合を触媒することが報告されている(Slaterら、J.Bacteriol.180:1979-1987(1998))。上述の遺伝子産物についてのタンパク質配列は当該技術分野において周知であり、および以下のアクセッション番号を用いてGenBankなどの公的データベースにおいて入手することができる。
【0133】
【数14】
これらの配列を用いて、GenBankまたは他のデータベースにおいて配列類似性検索、例えば、BLASTp、により、相同タンパク質を同定することができる。得られた相同タンパク質およびそれらの対応する遺伝子配列が、生産宿主を産生するためのE.coliまたは他の微生物への形質転換のための追加の外因性DNA配列となる。
【0134】
例えば、Escherichia coli K12からのpaaJのオーソログは、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0135】
【数15】
Pseudomonas knackmussiiからのpcaFのオーソログの例は、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0136】
【数16】
ケトチオラーゼ段階のための追加の天然候補遺伝子としては、2つのアセチル-CoA分子の可逆的縮合を触媒することができるatoB(Satoら、J.Biosci.Bioengineer.103:38-44(2007))およびそのホモログyqeFが挙げられる。非天然遺伝子候補としては、R.eutrophaからのphaA(Satoら、上記文献、2007)およびbktB(Slaterら、J.Bacteriol.180:1979-1987(1998))、ならびにClostridium acetobutylicumからの2つのケトチオラーゼ、thiAおよびthiB(Winzerら、J.Mol.Microbiol.Biotechnol.2:531-541(2000))が挙げられる。これらの例示的遺伝子産物のそれぞれについてのタンパク質配列は、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0137】
【数17】
この例示的経路では、E.coliにおける脂肪酸分解経路においてチオラーゼをコードする遺伝子fadAおよびfadBを使用することはあまり望ましくない。これらの遺伝子は、多数の活性をコードする複合体を形成し、それらの大部分がこの経路において望ましくない。
【0138】
図3を参照して、段階2は、3-オキソアジピル-CoAトランスフェラーゼを含む。この段階において、3-オキソアジペートは、3-オキソアジピル-CoAからスクシネートへのCoA基の転移によって形成される。この活性は、PseudomonasにおけるpcaIおよびpcaJによってコードされている2ユニット酵素において報告されている(Kaschabekら、J.Bacteriol.184:207-215(2002))。この酵素は、可逆的転化を触媒する。この複合体のサブユニットAについての例示的遺伝子産物のタンパク質配列は、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0139】
【数18】
この複合体のサブユニットBについての例示的遺伝子産物のタンパク質配列は、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0140】
【数19】
図3を参照して、段階3は、3-オキソアジピン酸レダクターゼを含む。E.coliは、幾つかの候補アルコールデヒドロゲナーゼを有し;類似の機能を有する2つが、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(mdh)と乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhA)である。これら2つの酵素はE.coliにおいて広い基質特異性を有することは証明されていないが、Ralstonia eutrophaからの乳酸デヒドロゲナーゼが、様々な鎖長の基質、例えば2-オキソブチレート、2-オキソペンタノエートおよび2-オキソグルタレート、に対して高い活性を明示することは証明されている(Steinbuchel and Schlegel,Eur.J.Biochem.130:329-334(1983))。この段階のための追加の非天然酵素候補は、ヒト心臓からのミトコンドリア3-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ(bdh)であり、これはクローニングされ、特性付けされている(Marksら、J.Biol.Chem.267:15459-15463(1992))。この酵素は、3-ヒドロキシ酸に対して作用するデヒドロゲナーゼであるという点で特に興味深い。デヒドロゲナーゼが一般に可逆的であることを考えると、この遺伝子産物、またはそのホモログ、は、3-オキソ酸、例えば3-オキソアジペート、を対応する3-ヒドロキシ酸、例えば3-ヒドロキシアジペート、に還元することができると予想される。これらの例示的遺伝子産物のそれぞれについてのタンパク質配列は、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0141】
【数20】
図3を参照して、段階4は、3-ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼを含む。この反応では、3-ヒドロキシアジペートがヘキサ-2-エンジオエートに脱水される。この酵素的転化については直接的証拠は一切確認されていないが、ほとんどのデヒドロゲナーゼは、水のα,β-脱離を触媒する。これは、電子吸引性カルボニル、カルボキシレート、またはCoA-チオールエステル基によるα-水素の活性化、およびβ位からのヒドロキシル基の除去を伴う(Martinsら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101:15645-15649(2004);Buckel and Golding,.FEMS Microbiol.Rev.22:523-541(1998))。例示的遺伝子産物についてのタンパク質配列は、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0142】
【数21】
この機能を行うための他の良好な候補は、セリンデヒドラターゼである。これらの酵素は、この脱水段階において必要に応じてセリンからアンモニアを除去する点で非常に類似した転化を触媒する。例示的遺伝子産物についてのタンパク質配列は、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0143】
【数22】
この転化のための非天然遺伝子候補も特定されている。例えば、Peptostreptococcus asaccharolyticusからのマルチサブユニットL-セリンデヒドラターゼは、L-セリンデヒドラターゼ活性が欠失したE.coli株を補足することが証明された(Hofmeisterら、J.Bacteriol.179:4937-4941(1997))。さらに、Eubacterium barkeriにおける遺伝子hmdによってコードされている推定2-(ヒドロキシメチル)グルタル酸デヒドラターゼは、[4Fe-4S]含有細菌セリンデヒドラターゼのα-サブユニットとβ-サブユニットの両方への類似性を示す(Alhapelら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103:12341-12346(2006))。例示的遺伝子産物についてのタンパク質配列は、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0144】
【数23】
図3を参照して、段階5は、2-エノエートレダクターゼを含む。3-オキソアジペート経路における最終段階は、アジペートを形成するためのヘキサ-3-エンジオエートにおける二重結合の還元である。生化学的に、この転化は、多種多様なα,β-不飽和カルボン酸およびアルデヒドのNADH依存性還元を触媒することが知られている2-エノエートレダクターゼ(EC 1.3.1.31)(Rohdichら、J.Biol.Chem.276:5779-5787(2001))によって触媒され得る。この酵素は、C.tyrobutyricumおよびC.thermoaceticum(現在は、Moorella thermoaceticumと呼ばれている)(Rohdichら、J.Biol.Chem.276:5779-5787(2001))をはじめとするClostridiaの幾つかの種におけるenrによってコードされている(Giesel and Simon,Arch.Microbiol.135:51-57(1983))。C.kluyveriの最近発表されたゲノム配列の中で、エン酸レダクターゼについての9のコーディング配列が報告されており、このうちの1つが特性づけされている(Seedorfら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 105:2128-2133(2008))。C.tyrobutyricumとC.thermoaceticumの両方からのenr遺伝子がクローニングされ、塩基配列が決定されており、互いに対する59%の同一性を示す。前のほうの遺伝子は、C.kluyveriにおいて特性づけされている遺伝子へのおよそ75%の類似性を有することも判明している(Giesel and Simon,Arch.Microbiol.135:51-57(1983))。これらの配列に基づき、enrはE.coliにおけるジエノイルCoAレダクターゼ(fadH)に非常に類似しているという結果が報告されている(Rohdichら、J.Biol.Chem.276:5779-5787(2001))。このように、3-オキソアジペート経路におけるこの最終段階を触媒するための幾つかの遺伝子候補が存在し、それらを下に列挙する。C.thermoaceticum enr遺伝子は、E.coliにおいて酵素的に活性な形態でも発現されている(Rohdichら、上記文献、2001)。例示的遺伝子産物についてのタンパク質配列は、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0145】
【数24】
上の説明は、3-オキソアジペート経路による例示的アジペート合成経路を提供するものである。
【0146】
実施例IV
3-オキソアジペート経路を有するアジペート生産性微生物の作製
この実施例は、3-オキソアジペート経路を用いてアジペートを生産することができる微生物の産生を説明するものである。
【0147】
図3に示すような3-オキソアジペート経路を遺伝子工学で作るためにターゲット生物としてEscherichia coliを使用する。E.coliは、アジペートを生産することができる天然に存在しない微生物を産生させるための良好な宿主となる。E.coliは、遺伝子操作しやすく、ならびにE.coliがエタノール、酢酸、ギ酸、乳酸およびコハク酸のような様々な製品を、有効には嫌気性または微好気性条件下で、生産できることは公知である。
【0148】
アジペートを生産するように遺伝子工学で作り変えられたE.coli株を産生させるために、3-オキソアジペート経路において利用される酵素をコードする核酸を、周知の分子生物学的技術(例えば、Sambrook、上記文献、2001;Ausubel、上記文献、1999参照)を用いて、E.coliにおいて発現させる。詳細には、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-オキソアジピル-CoAトランスフェラーゼおよび3-オキソアジピン酸レダクターゼ活性をコードするpaaJ(NP_415915.1)、pcaIJ(AAN69545.1およびNP_746082.1)、ならびにbdh(AAA58352.1)遺伝子を、PA1/lacOプロモーターのもとで、pZE13ベクター(ドイツ、RuelzheimのExpressys)にそれぞれクローニングする。加えて、3-ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼおよび2-エノエートレダクターゼ活性をコードするacnA(P25516.3)およびenr(ACA54153.1)遺伝子を、PA1/lacOプロモーターのもとで、pZA33ベクター(ドイツ、RuelzheimのExpressys)にそれぞれクローニングする。これら2セットのプラスミドをE.coli株MG1655に形質転換させて、3-オキソアジペート経路によるアジペート合成に必要なタンパク質および酵素を発現させる。
【0149】
結果として生じた、遺伝子工学により作り変えた生物を、当該技術分野において周知の手順(例えば、Sambrookら、上記文献、2001参照)に従って、グルコース含有培地において培養する。例えばノーザンブロット、mRNAのPCR増幅、免疫ブロッティングおよびこれらに類するものをはじめとする、ポリペプチド発現または酵素活性を判定するための当該技術分野において周知の方法を用いて、3-オキソアジペート経路遺伝子の発現を裏付ける。発現された酵素の酵素的活性を、個々の活性に特有のアッセイを用いて確認する。遺伝子工学で作り変えたE.coli株のアジペートを生産する能力を、HPLC、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GCMS)および/または液体クロマトグラフィー-質量分析(LCMS)を用いて確認する。
【0150】
機能的アジペート合成経路を有するように遺伝子工学で作り変えた微生物株を、その経路の効率的利用についての最適化により、さらに増加させる。簡単に言うと、その遺伝子工学で作り変えた株を評価して、外因性遺伝子のいずれかが律速レベルで発現されるかどうかを判定する。例えば追加の遺伝子コピー数の導入により、その経路を通るフラックスを制限し得る低レベルで発現される任意の酵素についての発現を増加させる。
【0151】
よりよい生産体を産生させるために、代謝モデリングを用いて増殖条件を最適化する。その経路の利用をさらに最適化する遺伝子ノックアウトを設計するためにもモデリングが用いられる(例えば、米国特許公開公報US 2002/0012939、US 2003/0224363、US 2004/0029149、US 2004/0072723、US 2003/0059792、US 2002/0168654およびUS 2004/0009466、ならびに米国特許第7,127,379号参照)。モデリング解析は、アジペートのより効率的な生産に代謝をシフトさせる細胞増殖に対する効果の信頼できる予測を可能にする。1つのモデリング方法が二層最適化アプローチ、OptKnock(Burgardら、Biotechnol.Bioengineer.84:647-657(2003))であり、これを、アジペートのより良好な生産を共同で生じさせる結果となる遺伝子ノックアウトを選択するために利用する。例えばアセチル-CoAおよびスクシニル-CoA中間体またはアジペート産物の、より良好な生産体を産生させるために、適応進化も用いることができる。適応進化を行って、増殖特性と生産特性の両方を向上させる(Fong and Palsson,Nat.Genet.36:1056-1058(2004);Alperら、Science 314:1565-1568(2006))。それらの結果に基づいて、モデリング、遺伝子工学および適応進化の後続のラウンドをそのアジペート生産体に適用して、生産をさらに増加させることができる。
【0152】
アジペートの大規模生産については、3-オキソアジペート経路含有生物を、嫌気性条件下で、その生物の増殖を支援することが当該技術分野において公知の培地を使用して、発酵槽で培養する。発酵は、回分、流加回分または連続様式のいずれかで行う。その培地に先ず窒素を散布し、その後、培養容器を密封することによって、嫌気性条件を維持し、例えば、フラスコをセプタムおよびクリンプキャップで密封してもよい。制限通気用の小さな穴をセプタムに設けることによって、微好気性条件も用いることができる。培地のpHは、H2SO4などの酸の添加によって約7のpHで維持する。分光光度計(600nm)を使用して光学密度を測定することによって増殖速度を決定し、継時的に炭素源枯渇をモニターすることによってグルコース取り込み速度を決定する。望ましくないアルコール、有機酸および残留グルコースなどの副産物は、グルコースおよびアルコールについては屈折率検出器を使用して、ならびに有機酸についてはUV検出器を使用して、例えばAminex(登録商標)シリーズのHPLCカラム(例えば、HPX-87シリーズ)(BioRad)を使用するHPLC(Shimadzu)によって定量することができる(Linら、Biotechnol.Bioeng.,775-779(2005))。
【0153】
この実施例は、3-オキソアジペート経路(3-oxidoadipate pathway)を含有するアジペート生産性微生物の作製を説明するものである。
【0154】
実施例V
cis,cis-ムコン酸経由でのアジペート合成
この実施例は、以前に記載されたアジペート合成経路を説明するものである(Niuら、Biotechnol.Prog.18(2):p.201-11.2002;1996年1月30日発行のFrostらの米国特許第5,487,987号参照)。
【0155】
生物学的変換および化学的変換併用プロセスによるアジペート合成は以前に記載されており(Niuら、Biotechnol.Prog.18(2):201-211(2002))、それを
図5に示す。この方法は、さらに米国特許第5,487,987号に記載されている。このルートによるアジペート合成は、デヒドロシキメートをcis,cis-ムコン酸に変換することができるE.coliへの3つの異種遺伝子の導入を必要とする(Niuら、上記文献、2002)。最終化学的水素化段階がアジピン酸の形成をもたらす。この段階において、150mMのcis,cis-ムコネートを含有する前処理した発酵ブロスを、活性炭に担持された10%白金(Pt)と混合した。攪拌しながら250℃で2時間半、3400KPaの水素圧で水素化反応を行った。酵素的触媒段階または化学的触媒段階のいずれかを用いてcis,cis-ムコネートをアジペートに変換すると仮定して計算したアジペート収量を表3に示す。好気性条件下で、水素化に化学反応を用いた場合にはアジペートの85%モル収率を得ることができ、およびNADH系ヒドロゲナーゼを使用する場合には75%モル収率が得られる。
【0156】
【表3】
これは例示的方法であるが、実施例I~IVに記載するものなどの他のものと比較してこの方法には欠点がある。例えば、この方法の第一の制限は、逆アジペート分解および3-オキソアジペート経路と比較して低い理論収量である。第二の制限は、この経路のATP収量がごくわずかであることである。この経路の第三の制限は、ジオキシゲナーゼを必要とすることであり、これは、バイオリアクターへの酸素の供給を余儀なくし、嫌気性発酵の選択を阻む。
【0157】
上の説明は、cis,cis-ムコン酸経路による例示的アジペート合成を提供するものである。
【0158】
実施例VI
アルファ-ケトアジペート経由でのアジペート合成
この実施例は、アルファ-ケトアジペート経路による例示的アジペート合成経路を説明するものである。
【0159】
アルファ-ケトアジペートは、S.cerevisiaeでのリジン生合成における公知中間体であり、この情報を用いて、アジピン酸生合成のための追加の経路を特定した(
図6参照)。アルファ-ケトグルタレートのアルファ-ケトアジペートへの変換は、
図6において破線矢印によって示すように、ホモクエン酸シンターゼ、ホモアコニターゼおよびホモイソクエン酸デヒドロゲナーゼによって触媒される。アルファ-ケトアジペートのアルファ-ヒドロキシアジペートへの変換は、2-ケトアジピン酸レダクターゼ(ラットおよびヒト胎盤において見つけられると報告されている酵素)(Sudaら、Arch.Biochem.Biophys.176:610-620(1976);Sudaら、Biochem.Biophys.Res.Commun.77:586-591(1977))によって触媒され得る。後続の段階は、アルファ-ヒドロキシアジペートのヘキサ-2-エンジオエートへの変換のためにデヒドラターゼを含み、その後、そのヘキサ-2-エンジオエートがアジピン酸に還元される。この最終段階は、酵素によって触媒される場合もあり、または実施例IIおいて説明したような化学反応によって起こる場合もある。アルファ-ケトアジペート経路のための酵素をコードする遺伝子を、実施例I~IVにおいて説明したように特定する。
【0160】
この経路に随伴するアジペート収量を表4に示す。アセチル-CoAのアジペートへの変換中の2個のCO2分子の喪失のため、グルコースの67%しかアジペートに変換することができない。これは、好気性条件下でこの経路についてのモル収量に反映される。酸素取り込みがない状態ではこの収量がさらに低下される。また、嫌気性条件下での最大ATP収量は非常にわずかであるので、遺伝子工学で作り変えられた生物は、そのような条件下での細胞増殖および維持のためのエネルギーを形成するために、追加の基質を利用しなければならない。
【0161】
【表4】
上の説明は、アルファ-ケトアジペート経路による例示的アジペート合成経路を提供するものである。
【0162】
実施例VII
リジン分解によるアジペート合成
この実施例は、リジン分解経路による例示的アジペート合成経路を説明するものである。
【0163】
アジペート合成のための2つの追加の経路は、リジン分解に依存してアジペートを形成する。一方の経路は、アルファ-ケトグルタレートから始まってリジンを形成し(E.coliに本来備わっていない、S.cerevisiaeにおいて見つけられる経路)、他方は、リジン生合成の出発点としてアスパルテートを用いる(E.coliに本来備わっている経路)。
図7は、リジンからのアジペート形成を示すものである。E.coli化学量論的モデルを用い、リジンについてのそれぞれの出発点としてアルファ-ケトグルタレートおよびアスパルテートを用いた、酸素の存在下および不在下両方での、アジペートについての最大理論収量を表5および6に示す。これらの理論収量に付随する最大ATP収量も計算し、同じ表に示す。これらの収量は、実施例I~IVにおいて説明した他の経路と比較すると低い。アルファ-ケトアジペート経路のための酵素をコードする遺伝子を実施例I~IVにおいて説明したように特定する。
【0164】
【0165】
【表6】
上の説明は、リジン分解経路による例示的アジペート合成経路を提供するものである。
【0166】
実施例VIII
アジピル-CoA経由でのカプロラクタムおよび6-アミノカプロン酸の生産
この実施例は、アジピル-CoA経路による例示的カプロラクタムおよび/または6-アミノカプロン酸合成経路を説明するものである。
【0167】
アジピル-CoAを前駆体として使用してカプロラクタムおよび/または6-アミノカプロン酸を形成するための例示的経路を
図8に示す。この経路は、アジピル-CoAをアジピン酸セミアルデヒドに還元することができるCoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼと、この分子を6-アミノカプロン酸に変えることができるトランスアミナーゼまたは6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼとを含む。6-アミノカプロエートをカプロラクタムに変換する最終段階は、アミドヒドロラーゼによって遂行される場合もあり、または化学的変換によって遂行される場合もある(2002年3月7日発行のGuitおよびBuijsの米国特許第6,353,100号;1997年12月23日発行のWoltersらの米国特許第5,700,934号;2003年12月9日発行のAgterbergらの米国特許第6,660,857号)。
図8に示す反応スキームで逆アジペート分解経路を補足すると仮定して、カプロラクタムの最大理論収量を、消費されるグルコース1モルあたり0.8モルであると算出した。この経路は、カプロラクタムの最大理論収量時に消費されるグルコース1モルあたり0.78モルまでのATPが形成されるので、エネルギー的に好適である。ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PPCK)が、オキサロアセテート形成に向かうATP生成方向で機能すると仮定した場合、グルコース1モルあたり生産されるATP 1.63モルに、ATP収量をさらに向上させることができる。
【0168】
最終アミドヒドロラーゼ段階は、エネルギー的におよびレドックス的に中性であり、従って、6-アミノカプロン酸生産に随伴する産物およびATPモル収量は、カプロラクタム生産に随伴するものと等価である。従って、カプロラクタムではなく6-アミノカプロン酸を形成する微生物および関連発酵プロセス、その後の6-アミノカプロン酸をカプロラクタムに脱水/環化する追加の単位操作を、代替えとして考えることができる。
【0169】
【表7】
この経路を遺伝子工学で首尾よく作り変えるには、十分な活性および特異性を有する酵素の適切なセットを特定する必要である。これは、酵素の適切なセットの特定、それらの対応する遺伝子の生産宿主へのクローニング、発酵条件の最適化、および発酵後の産物形成についてのアッセイを必要とする。生産宿主を6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの生産用に遺伝子工学で作り変えるために、1つ以上の外因性DNA配列を宿主微生物において発現させることができる。加えて、その微生物は、機能的に欠失した内因性遺伝子(単数または複数)を有する場合がある。これらの修飾により、再生可能な供給原料を使用する6-アミノカプロン酸またはカプロラクタムの生産が可能となる。
【0170】
図8に記載するカプロラクタム形成経路のそれぞれの段階を触媒する酵素をコードすることができる、多数の生化学的に特性づけされた候補遺伝子を下で説明する。E.coliについて説明するが、当業者は、これらの教示を任意の他の適する宿主生物に適用することができる。具体的には、列挙する遺伝子は、正しくクローニングされ、発現されたとき適切な転化を触媒するために利用することができる、E.coliに本来備わっているものまたは他の生物における遺伝子である。
【0171】
図8を参照して、段階1は、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼを含む。アシル-CoAへのその対応するアルデヒドの還元を触媒するための酵素をコードする例示的遺伝子としては、脂肪酸アシル-CoAレダクターゼをコードするAcinetobacter calcoaceticus acr1(Reiser and Somerville,.J.Bacteriol.179:2969-2975(1997))、Acinetobacter種M-1脂肪アシル-CoAレダクターゼ(Ishigeら、Appl.Environ.Microbiol..68:1192-1195(2002))およびClostridium kluyveriからのsucD遺伝子(Sohling and Gottschalk,J.Bacteriol.178:871-880(1996))が挙げられ、これらは、スクシニル-CoAをコハク酸セミアルデヒドに変換することができる。
【0172】
【数25】
図8を参照して、段階2は、トランスアミナーゼを含む。この経路の第二段階は、6-アルデヒドのアミンへの変換である。この転化は、ガンマ-アミノ酪酸トランスアミナーゼ(GABAトランスアミナーゼ)、グルタメートからスクシニルセミアルデヒドの末端アルデヒドにアミノ基を転移させるgabTによってコードされている天然酵素(Bartschら、J.Bacteriol.172:7035-7042(1990))、によって遂行され得る可能性が高い。Mus musculus、Pseudomonas fluorescens、およびSus scrofaにおけるGABAトランスアミナーゼが6-アミノカプロン酸と反応することは証明されている(Cooper,Methods Enzymol.113:80-82(1985);Scott and Jakoby,J.Biol.Chem.234:932-936(1959))。例示的遺伝子産物についてのタンパク質配列は、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0173】
【数26】
図8を参照して、あるいは、段階2は、6-アミノカプロエートを形成するためのアジピン酸セミアルデヒドの還元的アミノ化を構成する6-アミノカプロン酸デヒドロゲナーゼを含む場合がある。L-リジンを2-アミノアジピン酸-6-セミアルデヒドに自然に変換する、リジン-6-デヒドロゲナーゼによって、この転化を遂行することができる。例示的酵素は、Geobacillus stearothermophilus(Heydariら、Appl.Environ.Microbiol.70(2):937-942(2004))、Agrobacterium tumefaciens(Hashimotoら、J.Biochem.(Tokyo),106(1):76-80(1989);Misonoら、J.Biochem.(Tokyo),105(6):1002-1008(1989))、およびAchromobacter denitrificans(Ruldeekulthamrongら、BMB Reports 790-795(2008))において見つけることができる。
【0174】
【数27】
図8を参照して、段階3は、アミドヒドロラーゼを含む。カプロラクタム合成の最終段階は、6-アミノカプロン酸の環化である。この転化は、酵素的に特性づけされていないが、Cryptococcus laurentiiからのD-リジンラクタマーゼ(EC3.5.2.11)によるリジンの環化(Fukumuraら、FEBS Lett.89:298-300(1978))に非常に類似している。しかし、この酵素のタンパク質およびヌクレオチド配列は、現在不明であり、これまで、リジンラクタマーゼ活性は他の生物では立証されていない。
【0175】
土壌から単離されたPseudomonas種の幾つかの株に含まれていたプラスミドが、単一炭素源としてカプロラクタムを用いて増殖する能力を付与することは証明されている(Boroninら、FEMS Microbiol.Lett.22:167-170(1984))が、今日までのところ、関連遺伝子またはタンパク質配列は、この機能に関連づけられていない。
【0176】
入手できる配列情報を有する最も密接に関連した候補酵素は、6-アミノヘキサン酸環状二量体ヒドロラーゼであり、これは、Pseudomonas種およびFlavobacterium種において特性づけされている。Pseudomonas種NK87からのnylB遺伝子産物は、E.coliにおいてクローニングされ、発現された((Kanagawaら,J.Gen.Microbiol.139:787-795(1993))。この酵素の基質特異性がFlavobacterium種K172において検査され、6-アミノヘキサノエートの高次オリゴマーと反応するがカプロラクタムとはしないことが証明された(Kinoshitaら,Eur.J.Biochem.116:547-551(1981))。その可逆性、および関心のある方向で所望の基質と反応する他の生物における6-アミノヘキサノエート二量体ヒドロラーゼの能力をさらに検査することができる。例示的遺伝子産物についてのタンパク質配列は、以下のGenBankアクセッション番号を用いて見つけることができる:
【0177】
【数28】
上の説明は、アジピル-CoA経路によりカプロラクタムおよび/または6-アミノカプロン酸を生産するための例示的経路を提供するものである。
【0178】
実施例IX
3-オキソアジペート経路を有する6-アミノカプロエートまたはカプロラクタム生産性微生物の作製
この実施例は、逆分解経路を使用することができおよび細胞内アジペートを6-アミノカプロエートおよび/またはカプロラクタムに変換することができる微生物の産生を説明するものである。
【0179】
アジペート、6-アミノカプロエートおよび/またはカプロラクタム合成のための必要遺伝子を遺伝子工学で作るためのターゲット生物としてEscherichia coliを使用する(
図2および
図8参照)。E.coliは、アジペート、6-アミノカプロエートおよび/またはカプロラクタムを生産することができる天然に存在しない微生物を産生させるための良好な宿主となる。E.coliは、遺伝子操作しやすく、ならびにE.coliがエタノール、酢酸、ギ酸、乳酸およびコハク酸のような様々な製品を、有効には嫌気性または微好気性条件下で、生産できることは公知である。
【0180】
6-アミノカプロエートおよび/またはカプロラクタムを生産するように遺伝子工学で作り変えられたE.coli株を産生させるために、逆アジペート分解経路および6-アミノカプロエートまたはカプロラクタム合成経路において利用される酵素をコードする核酸を、周知の分子生物学的技術(例えば、Sambrook、上記文献、2001;Ausubel、上記文献、1999参照)を用いて、E.coliにおいて発現させる。詳細には、スクシニル-CoA:アセチル-CoAアシルトランスフェラーゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼおよび3-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドラターゼ活性をコードするpaaJ(NP_415915.1)、paaH(NP_415913.1)、およびmaoC(NP_415905.1)遺伝子を、PA1/lacOプロモーターのもとで、pZE13ベクター(ドイツ、RuelzheimのExpressys)にそれぞれクローニングする。加えて、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼおよびアジピル-CoAシンセターゼ活性をコードするbcd(NP_349317.1)、etfAB(349315.1および349316.1)ならびにsucCD(NP_415256.1およびAAC73823.1)遺伝子を、PA1/lacOプロモーターのもとで、pZA33ベクター(ドイツ、RuelzheimのExpressys)にそれぞれクローニングする。最後に、CoA依存性アルデヒドデヒドロゲナーゼ、トランスアミナーゼおよびアミドヒドロラーゼ活性をコードするacr1(YP_047869.1)、gabT(NP_417148.1)およびnylB(AAA24929.1)遺伝子をPA1/lacOプロモーターのもとで、第三の適合性プラスミド、pZS23、にクローニングする。pZS23は、周知の分子生物学技術によってpZS13ベクター(ドイツ、RuelzheimのExpressys)のアンピシリン耐性モジュールをカナマイシン耐性モジュールで置換することによって得られる。これら3セットのプラスミドをE.coli株MG1655に形質転換させて、6-アミノカプロエートおよび/またはカプロラクタム合成のために必要なタンパク質および酵素を発現させる。
【0181】
結果として生じた、遺伝子工学により作り変えた生物を、当該技術分野において周知の手順(例えば、Sambrookら、上記文献、2001参照)に従って、グルコース含有培地において培養する。例えばノーザンブロット、mRNAのPCR増幅、免疫ブロッティングおよびこれらに類するものをはじめとする、ポリペプチド発現または酵素活性を判定するための当該技術分野において周知の方法を用いて、6-アミノカプロエートおよびカプロラクタムの発現を裏付ける。発現された酵素の酵素的活性を、個々の活性に特有のアッセイを用いて確認する。遺伝子工学で作り変えたE.coli株の6-アミノカプロエートおよび/またはカプロラクタムを生産する能力を、HPLC、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GCMS)および/または液体クロマトグラフィー-質量分析(LCMS)を用いて確認する。
【0182】
6-アミノカプロエートおよび/またはカプロラクタムの機能的合成経路を有するように遺伝子工学で作り変えた微生物株を、その経路の効率的利用についての最適化により、さらに増加させる。簡単に言うと、その遺伝子工学で作り変えた株を評価して、外因性遺伝子のいずれかが律速レベルで発現されるかどうかを判定する。例えば追加の遺伝子コピー数の導入により、その経路を通るフラックスを制限し得る低レベルで発現される任意の酵素についての発現を増加させる。
【0183】
よりよい生産体を産生させるために、代謝モデリングを用いて増殖条件を最適化する。その経路の利用をさらに最適化する遺伝子ノックアウトを設計するためにもモデリングが用いられる(例えば、米国特許公開公報US 2002/0012939、US 2003/0224363、US 2004/0029149、US 2004/0072723、US 2003/0059792、US 2002/0168654およびUS 2004/0009466、ならびに米国特許第7,127,379号参照)。モデリング解析は、6-アミノカプロエートおよび/またはカプロラクタムのより効率的な生産に代謝をシフトさせる細胞増殖に対する効果の信頼できる予測を可能にする。1つのモデリング方法が二層最適化アプローチ、OptKnock(Burgardら、Biotechnol.Bioengineer.84:647-657(2003))であり、これを、6-アミノカプロエートおよび/またはカプロラクタムのより良好な生産を共同で生じさせる結果となる遺伝子ノックアウトを選択するために利用する。例えば産物のアセチル-CoAおよびスクシニル-CoA中間体の、より良好な生産体を産生させるために、適応進化も用いることができる。適応進化を行って、増殖特性と生産特性の両方を向上させる(Fong and Palsson,Nat.Genet.36:1056-1058(2004);Alperら、Science 314:1565-1568(2006))。それらの結果に基づいて、モデリング、遺伝子工学および適応進化の後続のラウンドをその6-アミノカプロエートおよび/またはカプロラクタム生産体に適用して、生産をさらに増加させることができる。
【0184】
6-アミノカプロエートおよび/またはカプロラクタムの大規模生産については、上記生物を、嫌気性条件下で、その生物の増殖を支援することが当該技術分野において公知の培地を使用して、発酵槽で培養する。発酵は、回分、流加回分または連続様式のいずれかで行う。その培地に先ず窒素を散布し、その後、培養容器を密封することによって、嫌気性条件を維持し、例えば、フラスコをセプタムおよびクリンプキャップで密封してもよい。制限通気用の小さな穴をセプタムに設けることによって、微好気性条件も用いることができる。培地のpHは、H2SO4などの酸の添加によって約7のpHで維持する。分光光度計(600nm)を使用して光学密度を測定することによって増殖速度を決定し、継時的に炭素源枯渇をモニターすることによってグルコース取り込み速度を決定する。望ましくないアルコール、有機酸および残留グルコースなどの副産物は、グルコースおよびアルコールについては屈折率検出器を使用して、ならびに有機酸についてはUV検出器を使用して、例えばAminex(登録商標)シリーズのHPLCカラム(例えば、HPX-87シリーズ)(BioRad)を使用するHPLC(Shimadzu)によって定量することができる(Linら、Biotechnol.Bioeng.775-779(2005))。
【0185】
実施例X
2-ヒドロキシアジピル-CoA経由でのアジペート合成
この実施例は、アルファ-ケトアジペートから始めて2-ヒドロキシアジピル-CoA中間体を通る2つの例示的アジペート合成経路を説明するものである。
【0186】
実施例VIにおいて説明したように、アルファ-ケトアジペートは、ホモクエン酸シンターゼ、ホモアコニターゼおよびホモイソクエン酸デヒドロゲナーゼによりアルファ-ケトグルタレートから形成することができる、リジン生合成における公知中間体である。
図9に図示する2つのルートによって、アルファ-ケトアジペートを2-ヒドロキシアジピル-CoAに変換することができる。その後、
図9に示すように、2-ヒドロキシアジピル-CoAをアジピル-CoAに脱水および還元することができ、その後、そのアジピル-CoAをアジペートに変換することができる。これらの経路によるグルコースからのアジペートの最大収量は、0.67mol/molである。
【0187】
アルファ-ケトアジペートの2-ヒドロキシアジペートへの変換は、2-ケトアジピン酸レダクターゼ(ラットおよびヒト胎盤において見つけられると報告されている酵素)(Sudaら、Arch.Biochem.Biophys.176:610-620(1976);Sudaら、Biochem.Biophys.Res.Commun.77:586-591(1977))によって触媒され得る。あるいは、アルファ-ケトグルタレートを2-ヒドロキシグルタレートに還元することができる酵素も、炭素原子1個だけ長いアルファ-ケトアジペートに対して活性を示すことがある。アルファ-ケトグルタル酸レダクターゼ活性を有する1つのそのような酵素がEscherichia coliのserAである(Zhao and Winkler,J.Bacteriol.178(1):232-9(1996))。追加の例示的酵素は、Arabidopsis
thaliana(Hoら、J.Biol.Chem.274(1):397-402(1999))およびHaemophilus influenzaeにおいて見つけることができる。
【0188】
【数29】
図9を参照して、2-ヒドロキシアジペートを、実施例Iに記載したシンセターゼ、トランスフェラーゼ、ホスホトランスアジピラーゼおよびキナーゼによって、2-ヒドロキシアジピル-CoAに変換できる可能性が高い。あるいは、2-ヒドロキシグルタル酸CoA-トランスフェラーゼまたはグルタコン酸CoA-トランスフェラーゼ活性を有する酵素は、CoA部分を2-ヒドロキシアジペートに転移させることに適する可能性が高い。そのような酵素の一例は、Acidaminococcus fermentansのgctAおよびgctB遺伝子(Buckelら、Eur.J.Biochem.118(2):315-321(1981);Mackら、Eur.J.Biochem.226(1):41-51(1994))によってコードされている。類似して、
図9に図示するように、シンセターゼ、トランスフェラーゼ、またはホスホトランスアジピラーゼおよびキナーゼは、アルファ-ケトアジペートをアルファ-ケトアジピル-CoAに変換するために必要とされるであろう。アルファ-ケトアジピル-CoAの2-ヒドロキシアジピル-CoAへの変換は、アルファ-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ酵素によって行うことができる。類似の活性が、プロピオネート適応E.coli細胞において報告されており、それらの抽出物は、ピルビル-CoAを形成するためのラクチル-CoAの酸化を触媒した(Megrawら、J.Bacteriol.90(4):984-988(1965))。さらなるヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼは、実施例Iにおいて説明した。
【0189】
【数30】
5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAを形成するための2-ヒドロキシアジピル-CoAの脱水は、2-ヒドロキシアシル-CoAデヒドラターゼによって行うことができる。2-ヒドロキシグルタリル-CoAデヒドラターゼ系は、Acidaminococcus fermentansにおいて特性づけされており、最適な活性のためにはhgdAおよびhgdBサブユニットとアクチベータータンパク質、hgdC、の両方を必要とする(Dutschoら、Eur.J.Biochem.181(3):741-746(1989);Locherら、J.Mol.Biol.307(1):297-308;Muller and Buckel,Eur.J.Biochem.230(2):698-704(2001);Schweigerら、Eur.J.Biochem.169(2):441-448(1987))。この酵素系は、Clostridium propionicumからのラクトイル-CoAデヒドラターゼにメカニズムの点で類似している(Hofmeister and Buckel,Eur.J.Biochem.206(2):547-552(1992);Kuchta and Abeles,J.Biol.Chem.260(24):13181-13189(1985))。幾つかの生物にhgdA、hgdBおよびhgdCのホモログが存在する。
【0190】
【数31】
5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAのアジペートへの変換は、実施例Iに記載した酵素によって行う。
【0191】
上の説明は、2-ヒドロキシアジピル-CoA経路による例示的アジペート合成経路を提供するものである。
【0192】
実施例XI
2-ヒドロキシアジピル-CoA経路を有するアジペート生産性微生物の作製
この実施例は、2-ヒドロキシアジピル-CoA経路を用いてアジペートを生産することができる微生物の産生を説明するものである。
【0193】
アジペート合成のための必要遺伝子を遺伝子工学で作るためのターゲット生物としてEscherichia coliを使用する(
図9参照)。E.coliは、アジペートを生産することができる天然に存在しない微生物を産生させるための良好な宿主となる。E.coliは、遺伝子操作しやすく、ならびにE.coliがエタノール、酢酸、ギ酸、乳酸およびコハク酸のような様々な製品を、有効には嫌気性または微好気性条件下で、生産できることは公知である。
【0194】
アジペートを生産するように遺伝子工学で作り変えられたE.coli株を産生させるために、アジペートへの2-ヒドロキシアジピル-CoA経路において利用される酵素をコードする核酸を、周知の分子生物学的技術(例えば、Sambrook、上記文献、2001;Ausubel、上記文献、1999参照)を用いて、E.coliにおいて発現させる。詳細には、2-ヒドロキシアジピン酸デヒドロゲナーゼおよび2-ヒドロキシアジピル-CoA:アセチル-CoAトランスフェラーゼ活性をコードするserA(NP_417388.1)、gctA(Q59111)、およびgctB(Q59112)遺伝子を、PA1/lacOプロモーターのもとで、pZE13ベクター(ドイツ、RuelzheimのExpressys)にそれぞれクローニングする。加えて、2-ヒドロキシアジピル-CoAデヒドロゲナーゼ活性をコードするhgdA(P11569)、hgdB(P11570)、およびhgdC(P11568)遺伝子を、PA1/lacOプロモーターのもとで、pZA33ベクター(ドイツ、RuelzheimのExpressys)にそれぞれクローニングする。さらに、5-カルボキシ-2-ペンテノイル-CoAレダクターゼおよびアジピル-CoAシンセターゼ活性をコードするbcd(NP_349317.1)、etfAB(349315.1および349316.1)ならびにsucCD(NP_415256.1およびAAC73823.1)遺伝子を、PA1/lacOプロモーターのもとで、第3の和合性プラスミドである、pZS23にクローニングする。pZS23は、周知の分子生物学技術によってpZS13ベクター(ドイツ、RuelzheimのExpressys)のアンピシリン耐性モジュールをカナマイシン耐性モジュールで置換することによって得られる。これら3セットのプラスミドをE.coli株MG1655に形質転換させて、アジペート合成に必要なタンパク質および酵素を発現させる。
【0195】
結果として生じた、遺伝子工学により作り変えた生物を、当該技術分野において周知の手順(例えば、Sambrookら、上記文献、2001参照)に従って、グルコース含有培地において培養する。例えばノーザンブロット、mRNAのPCR増幅、免疫ブロッティングおよびこれらに類するものをはじめとする、ポリペプチド発現または酵素活性を判定するための当該技術分野において周知の方法を用いて、アジペート合成のための2-ヒドロキシアジピル-CoA経路の発現を裏付ける。発現された酵素の酵素的活性を、個々の活性に特有のアッセイを用いて確認する。遺伝子工学で作り変えたE.coli株のアジペートを生産する能力を、HPLC、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GCMS)および/または液体クロマトグラフィー-質量分析(LCMS)を用いて確認する。
【0196】
機能的アジペート合成経路を有するように遺伝子工学で作り変えた微生物株を、その経路の効率的利用についての最適化により、さらに増加させる。簡単に言うと、その遺伝子工学で作り変えた株を評価して、外因性遺伝子のいずれかが律速レベルで発現されるかどうかを判定する。例えば追加の遺伝子コピー数の導入により、その経路を通るフラックスを制限し得る低レベルで発現される任意の酵素についての発現を増加させる。
【0197】
よりよい生産体を産生させるために、代謝モデリングを用いて増殖条件を最適化する。その経路の利用をさらに最適化する遺伝子ノックアウトを設計するためにもモデリングが用いられる(例えば、米国特許公開公報US 2002/0012939、US 2003/0224363、US 2004/0029149、US 2004/0072723、US 2003/0059792、US 2002/0168654およびUS 2004/0009466、ならびに米国特許第7,127,379号参照)。モデリング解析は、アジペートのより効率的な生産に代謝をシフトさせる細胞増殖に対する効果の信頼できる予測を可能にする。1つのモデリング方法が二層最適化アプローチ、OptKnock(Burgardら、Biotechnol.Bioengineer.84:647-657(2003))であり、これを、アジペートのより良好な生産を共同で生じさせる結果となる遺伝子ノックアウトを選択するために利用する。例えばアルファ-ケトアジペート中間体またはアジペート産物の、より良好な生産体を産生させるために、適応進化も用いることができる。適応進化を行って、増殖特性と生産特性の両方を向上させる(Fong and Palsson,Nat.Genet.36:1056-1058(2004);Alperら、Science 314:1565-1568(2006))。それらの結果に基づいて、モデリング、遺伝子工学および適応進化の後続のラウンドをそのアジペート生産体に適用して、生産をさらに増加させることができる。
【0198】
アジペートの大規模生産については、2-ヒドロキシアジピル-CoA経路含有生物を、嫌気性条件下で、その生物の増殖を支援することが当該技術分野において公知の培地を使用して、発酵槽で培養する。発酵は、回分、流加回分または連続様式のいずれかで行う。その培地に先ず窒素を散布し、その後、培養容器を密封することによって、嫌気性条件を維持し、例えば、フラスコをセプタムおよびクリンプキャップで密封してもよい。制限通気用の小さな穴をセプタムに設けることによって、微好気性条件も用いることができる。培地のpHは、H2SO4などの酸の添加によって約7のpHで維持する。分光光度計(600nm)を使用して光学密度を測定することによって増殖速度を決定し、継時的に炭素源枯渇をモニターすることによってグルコース取り込み速度を決定する。望ましくないアルコール、有機酸および残留グルコースなどの副産物は、グルコースおよびアルコールについては屈折率検出器を使用して、ならびに有機酸についてはUV検出器を使用して、例えばAminex(登録商標)シリーズのHPLCカラム(例えば、HPX-87シリーズ)(BioRad)を使用するHPLC(Shimadzu)によって定量することができる(Linら、Biotechnol.Bioeng.775-779(2005))。
【0199】
この実施例は、2-ヒドロキシアジピル-CoA経路を有するアジペート生産性微生物の作製を説明するものである。
【0200】
本出願全体にわたって様々な出版物を参照した。本出願が属する技術分野の状態をより十分に説明するために、これらの出版物の開示は、それら全体が、本出願中での参照により本出願に組み入れられている。上に提供した実施例を参照して本発明を説明したが、本発明の精神を逸脱することなく様々な変更を施すことができることは理解されるはずである。