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特開2022-162112固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インク、膜電極接合体の製造方法、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162112
(43)【公開日】2022-10-21
(54)【発明の名称】固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インク、膜電極接合体の製造方法、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20221014BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20221014BHJP
【FI】
H01M4/88 K
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134303
(22)【出願日】2022-08-25
(62)【分割の表示】P 2018187556の分割
【原出願日】2018-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】浜田 直紀
(57)【要約】
【課題】しわやひび割れの発生を抑制することができ、性能の低下を抑制することができ、高分子電解質膜に直接塗布可能な、固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インクを提供する。
【解決手段】溶媒中に触媒担持炭素粒子、炭素繊維、高分子電解質、及び有機電解質繊維を含み、せん断速度10(1/s)時の粘度とせん断速度100(1/s)時の粘度のチクソトロピックインデクス(TI値)が、1.5以上10以下の範囲内である、固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インク。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中に触媒担持炭素粒子、炭素繊維、高分子電解質、及び有機電解質繊維を含み、
せん断速度10(1/s)時の粘度とせん断速度100(1/s)時の粘度のチクソトロピックインデクス(TI値)が、1.5以上10以下の範囲内である、固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インク。
【請求項2】
前記触媒インクのフッ素系高分子電解質膜に対する接触角が、50°以上90°以下の範囲内である、請求項1に記載の固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インク。
【請求項3】
前記炭素繊維がカーボンナノファイバー、カーボンナノチューブから選択した一種又は二種以上を含有する、請求項1又は2に記載の固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インク。
【請求項4】
前記有機電解質繊維の平均繊維径が2μm以下、平均繊維長が1μm以上200μm以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インク。
【請求項5】
前記触媒担持炭素粒子及び炭素繊維を合わせた質量に対する前記有機電解質繊維の質量の比は、0.1以上3.0以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インクに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質膜をカソード電極触媒層及びアノード電極触媒層で挟持する構造を持つ固体高分子形燃料電池は、常温で作動し、起動時間が短いことから、自動車用電源、定置用電源などとして期待されている。
従来の膜電極接合体の製造方法としては、触媒を担持した炭素粒子、高分子電解質及び溶媒からなる触媒インクを、高分子電解質膜に直接塗布して作製する方法や、転写基材又はガス拡散層に塗布した後、高分子電解質膜に熱圧着して作製する方法が知られている。
中でも、高分子電解質膜に触媒インクを直接塗布して膜電極接合体を製造する方法は、高分子電解質膜と触媒層との界面の密着性が良く、また熱圧着により触媒層が押しつぶされることがないといった特徴から、発電性能及び耐久性に優れた膜電極接合体を作製することができる。
【0003】
しかし、従来の触媒インクを電解質膜に直接塗布する製造方法では、触媒インクを塗布した際に、インク中の溶媒により高分子電解質膜が膨潤または収縮するため、形成した触媒層にしわやひび割れが発生するといった課題が生じる。
上記課題に対し、特許文献1では、電極触媒層にカーボンナノチューブ等の針状の炭素材料を使用することで、電解質膜に直接触媒層を形成可能としている。
しかし、この方法によると、触媒の利用率が低いため、発電性能が低下する可能性がある。さらに、カーボンナノチューブ等の針状の炭素材料は嵩高く、また、針状の炭素材料の絡み合いによって、触媒インクが高粘度になるため、塗布が困難になる可能性がある。
一方、特許文献2では、繊維状のプロトン伝導性材料を主要要素として形成した電極触媒層を作製することで、性能を向上させている。
しかし、この方法では、性能の向上はみられるものの、電解質膜に直接塗布した際に、触媒層のしわやひび割れを抑制する程の膜強度は得られない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2002/027844号
【特許文献2】特開2007-220416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、しわやひび割れの発生を抑制することができ、性能の低下を抑制することができ、高分子電解質膜に直接塗布可能な、固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インクは、溶媒中に触媒担持炭素粒子、炭素繊維、高分子電解質、及び有機電解質繊維を含み、せん断速度10(1/s)時の粘度とせん断速度100(1/s)時の粘度のチクソトロピックインデクス(TI値)が、1.5以上10以下の範囲内である。
上記触媒インクを用いることにより、炭素繊維及び有機電解質繊維の絡み合いにより、膜強度が高まり、触媒インクを電解質膜に直接塗布した際においても、しわやひび割れを抑制することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、しわやひび割れの発生を抑制することができ、性能の低下を抑制することができ、高分子電解質膜に直接塗布可能な、固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池の内部構造を示す分解斜視図である。
図2図2は、本実施形態に係る電極触媒層の構成例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態は、以下に記載する実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づく設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本実施形態の範囲に含まれるものである。
また、以下の詳細な説明では、本発明の実施形態について、完全な理解を提供するように、特定の細部について記載する。しかしながら、かかる特定の細部が無くとも、一つ以上の実施形態が実施可能であることは明確である。また、図面を簡潔なものとするために、周知の構造及び装置を、略図で示す場合がある。
【0010】
(固体高分子形燃料電池の構造)
図1は、本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池の内部構造を示す分解斜視図である。図1に示すように、固体高分子形燃料電池1を構成する高分子電解質膜2には、その両面に、高分子電解質膜2を挟んで互いに向い合う一対の電極触媒層3A、3Fが配置されている。電極触媒層3Aにおいて、高分子電解質膜2に対向する面とは反対側の面には、ガス拡散層4Aが配置されている。また、電極触媒層3Fにおいて、高分子電解質膜2に対向する面とは反対側の面には、ガス拡散層4Fが配置されている。ガス拡散層4A、4Fは、高分子電解質膜2及び一対の電極触媒層3A、3Fを挟んで互いに向い合うように配置されている。
【0011】
ガス拡散層4Aの電極触媒層3Aに対向する面とは反対側の面には、セパレーター5Aが配置されている。セパレーター5Aは、ガス拡散層4Aに対向する主面に反応ガス流通用のガス流路6Aを備え、ガス流路6Aを備える主面に相対する主面に冷却水流通用の冷却水通路7Aを備える。さらに、ガス拡散層4Fの電極触媒層3Fに対向する面とは反対側の面には、セパレーター5Fが配置されている。セパレーター5Fは、ガス拡散層4Fに対向する主面に反応ガス流通用のガス流路6Fを備え、ガス流路6Fを備える主面に相対する主面に冷却水流通用の冷却水通路7Fを備える。以下、区別する必要がない場合には、電極触媒層3A及び3Fを単に「電極触媒層3」と記載する場合がある。
【0012】
図2は、本実施形態に係る電極触媒層の構成例を示す模式的断面図である。図2に示すように、本実施形態に係る電極触媒層8は、高分子電解質膜9の表面に接合される。電極触媒層8は、触媒10、導電性担体としての炭素粒子11、高分子電解質12及び炭素繊維13、有機電解質繊維物質14を備える。そして、電極触媒層8において、触媒10、炭素粒子11、高分子電解質12、炭素繊維13及び有機電解質繊維物質14のいずれの構成要素も存在しない部分が空孔となっている。
【0013】
(触媒インクの製造)
次に、本実施形態に係る固体高分子形燃料電池1の電極触媒層3、8を形成するための触媒インク(固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インク)の製造方法について説明する。まず、触媒10を担持した触媒担持炭素粒子(以下、単に炭素粒子ともいう)11、及び、炭素繊維13を分散媒中に混合・分散させ、触媒粒子スラリーを得る。
触媒10としては、例えば、白金族元素(白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウム)、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属及びこれらの金属の合金、酸化物、複酸化物、炭化物等を用いることができる。
【0014】
炭素粒子11としては、導電性を有し、触媒に侵されずに触媒を担持可能なものであれば、どのようなものでも構わないが、一般的にカーボン粒子が使用される。
炭素繊維13としては、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、導電性高分子ナノファイバー等が例示できる。これら繊維のうち一種のみを単独で使用してもよいが、二種以上を併用してもよい。
分散媒としては、水や、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノール等のアルコール類の中からいずれか一種を選択して用いることが可能である。また、上述した溶媒のうち二種以上が混合された溶媒を用いることが可能である。混合・分散には、例えば、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ディゾルバー等を使用することができる。
【0015】
次に、上記方法で製造した触媒粒子スラリーに高分子電解質12及び有機電解質繊維14を加える。高分子電解質膜2、9や高分子電解質12としては、プロトン伝導性を有するものであれば、どのようなものでもよく、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、テトラフルオロエチレン骨格を有する高分子電解質、例えば、デュポン社製の「Nafion(登録商標)」を用いることができる。高分子電解質12は、高分子電解質が凝集した状態となっている。
【0016】
高分子電解質12の凝集体と、有機電解質繊維14を構成する高分子電解質とは、同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。また、高分子電解質12の凝集体および高分子電解質繊維14の各々を構成する高分子電解質と、高分子電解質膜2、9を構成する高分子電解質とは、同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
有機電解質繊維14の平均繊維径は、2μm以下である。平均繊維径が2μm以下であれば、電極触媒層に含有させる繊維材料として適当な細さが確保される。
【0017】
固体高分子形燃料電池の出力の向上のためには、電極触媒層に供給されるガスが、電極触媒層の有する空孔を通じて電極触媒層中に適切に拡散されること、および、特に空気極では電極反応により生成される水が空孔を通じて適切に排出されることが望ましい。また、空孔の存在により、ガスと触媒担持炭素と高分子電解質とが接する界面が形成されやすくなり、電極反応が促進されるため、これによっても固体高分子形燃料電池の出力の向上が可能である。
【0018】
以上の観点から、電極触媒層は、的確な大きさおよび量の空孔を有していることが好ましい。有機電解質繊維14の平均繊維径が2μm以下であれば、電極触媒層において有機電解質繊維14が絡まり合う構造のなかに十分な間隙が形成されて十分に空孔が確保されるため、燃料電池の出力の向上が可能である。さらに、有機電解質繊維14の平均繊維径が0.5nm以上500nm以下であると、燃料電池の出力が特に高められる。
【0019】
有機電解質繊維22の平均繊維長は、平均繊維径よりも大きく、1μm以上200μm以下であることが好ましい。平均繊維長が上記範囲内であれば、電極触媒層中において高分子電解質繊維14が凝集することが抑えられ、空孔が形成されやすい。また、平均繊維長が上記範囲内であれば、電極触媒層中において有機電解質繊維14の絡み合う構造が好適に形成されるため、電極触媒層の強度が高められ、クラックの発生を抑える効果が高められる。
炭素粒子11及び炭素繊維13を合わせた質量に対する有機電解質繊維14の質量の比は、0.1以上3.0以下であることが好ましい。炭素粒子11及び炭素繊維13と有機電解質繊維14との質量比が上記範囲内であれば、電極触媒層におけるプロトンの伝導が促進されるため、燃料電池の出力の向上が可能である。
【0020】
上記比率に対し、炭素粒子11及び炭素繊維13の割合が多くなると、炭素繊維同士の絡み合いにより、触媒インクが高粘度になるため、塗布が困難となり、結果的に触媒層のしわやひび割れの原因となる。具体的には、せん断速度10(1/s)時の粘度とせん断速度100(1/s)時の粘度のチクソトロピックインデクス(TI値)が10を超えると、塗布が困難となり、しわ、ひび割れが発生しやすくなる。TI値が1.5を下回る際にも、粘度が低すぎて、塗布の際、しわ、ひび割れが発生しやすくなる。本実施形態に係る触媒インクの、せん断速度10(1/s)時の粘度とせん断速度100(1/s)時の粘度のチクソトロピックインデクス(TI値)は、1.5以上10以下の範囲内であることが好ましい。また、上記比率に対し、炭素粒子11及び炭素繊維13の割合が多くなると、触媒の利用率が低くなるため、性能が低下を引き起こす要因となる。
【0021】
一方、上記比率に対し、有機電解質繊維14の割合が多いと、膜強度が不十分となりやすく、触媒インクを高分子電解質膜に直接塗布した際にしわやひび割れの原因となる。また、有機電解質繊維14の割合が多いと、触媒インクのフッ素系高分子電解質膜に対する接触角が、50°を下回る可能性が高くなる。フッ素系高分子電解質膜に対する接触角が、50°を下回ると、触媒インクの膜への染み込みが多くなり、塗布の際、しわ、ひび割れが発生しやすくなる。また、触媒インクのフッ素系高分子電解質膜に対する接触角が、90°を超えると、触媒インクの膜へのはじきにより塗布が不可となる。本実施形態に係る触媒インクのフッ素系高分子電解質膜に対する接触角は、50°以上90°以下の範囲内であることが好ましい。
【0022】
以上の理由から、炭素粒子11及び炭素繊維13を合わせた質量に対する有機電解質繊維14の質量の比は、0.1以上3.0以下とすることで、膜強度を保った触媒インクが製造でき、また、有機電解質繊維が良好なプロトン導電性を示すため、発電性能の低下も抑制することが出来る。
【0023】
(膜電極接合体の製造)
高分子電解質膜2の両面に電極触媒層3を接合することで、膜電極接合体の製造を行う。この時、高分子電解質膜2に電極触媒層3を接合する方法としては、例えば、転写基材に触媒インクを塗布した電極触媒層付き転写基材を用い、電極触媒層付き転写基材の電極触媒層の表面と高分子電解質膜とを接触させて加熱・加圧することで、高分子電解質膜2と電極触媒層3の接合を行う方法がある。
しかしながら、上記の方法によると、電極触媒層3と高分子電解質膜2の密着性が悪く、電極触媒層3と高分子電解質膜2の界面に空隙部が形成されやすい。そして、これにより、界面抵抗による発電性能の低下や、空隙部への水詰まりによるフラッディングによる発電性能の低下といった問題が発生しやすい傾向がある。
【0024】
一方、高分子電解質膜2の表面に触媒インクを直接塗布した後に、触媒インクの塗膜から溶媒成分(分散媒)を除去する方法によっても膜電極接合体を製造することができる。この方法によると、電極触媒層3と高分子電解質膜2の密着性が良好で、上記の問題は生じにくい。しかしながら、触媒インクを高分子電解質膜2に直接塗布する方法では、高分子電解質膜2の膨潤により、塗布した電極触媒層3にしわやひび割れが生じやすく、これにより発電性能の低下や耐久性の低下が発生しやすいという課題があった。
これに対して、本実施形態のように触媒インク中に炭素繊維13と有機電解質繊維14が適量添加してあれば、電極触媒層3の強度が高まるため、触媒インクを高分子電解質膜2に直接塗布した場合においても電極触媒層3にしわやひび割れが生じにくく、また、有機電解質繊維が良好なプロトン導電性により、性能の低下を抑制することが可能となる。
【0025】
(本実施形態の効果)
本実施形態によれば、膜電極接合体の製造時に、高分子電解質膜に触媒インクを直接塗布した際においても、発電性能の低下を抑制することが可能で、触媒層のしわやひび割れを抑制することが可能となる。
以下、本発明の実施例及び比較例を説明する。
(実施例1)
以下、本発明の実施例1を説明する。
【0026】
(触媒インクの製造)
白金を50wt%担持した触媒担持炭素粒子(商品名:TEC10E50E、田中貴金属社製)及び、炭素繊維(商品名:VGCF-H、昭和電工製)に、水を加え、プラネタリーミキサーで混合し、触媒粒子スラリーを作製した。この時、触媒担持炭素粒子と炭素繊維の比率を2:1とした。
上記触媒粒子スラリーに、有機電解質繊維として高分子電解質繊維、高分子電解質の分散液(商品名:Nafion分散液、和光純薬工業社製)と1-プロパノールを加え、ビーズミル分散機により分散を行い、触媒インクを得た。高分子電解質繊維は、高分子電解質の分散液(Nafion分散液:和光純薬工業社製)を、エレクトロスピニング法を用いて繊維状にした後、冷却粉砕することによって作製した。有機電解質繊維として用いた高分子電解質繊維の平均繊維径は150nm(0.15μm)であり、平均繊維長は10μmであった。
このとき、触媒担持炭素粒子及び炭素繊維を合わせた質量に対する有機電解質繊維の質量の比が0.5となるよう調整を行った。
上記触媒インクのせん断速度10(1/s)時の粘度とせん断速度100(1/s)時の粘度のTI値を測定した結果、6.0であった。
また、上記触媒インクのNafion膜に対する接触角を測定した結果、60°となった。
【0027】
(膜電極接合体の製造)
次いで、上記の触媒インクをダイコーティング法により、高分子電解質膜の両面に直接塗布することで、膜電極接合体を得た。
実施例1の触媒インクは、高分子電解質膜の両面に直接塗布した際、触媒層にしわやひび割れが生じず、また良好な発電性能が得られた。
【0028】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2を説明する。有機電解質繊維として、平均繊維径が1.0μm、平均繊維長が20μmである高分子電解質繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様の工程によって、実施例2の触媒インクを得た。
上記触媒インクのせん断速度10(1/s)時の粘度とせん断速度100(1/s)時の粘度のTI値を測定した結果、8.0であった。
また、上記触媒インクのNafion膜に対する接触角を測定した結果、50°となった。
実施例2の触媒インクは、高分子電解質膜の両面に直接塗布した際、触媒層にしわやひび割れが生じず、また良好な発電性能が得られた。
【0029】
(実施例3)
次に、本発明の実施例3を説明する。触媒担持炭素粒子及び炭素繊維を合わせた質量に対する前記有機電解質繊維の質量の比を2.0となるよう調整を行った以外は、実施例1と同様の工程によって、実施例3の触媒インクを得た。
上記触媒インクのせん断速度10(1/s)時の粘度とせん断速度100(1/s)時の粘度のTI値を測定した結果、2.0であった。
また、上記触媒インクのNafion膜に対する接触角を測定した結果、50°となった。
実施例3の触媒インクは、高分子電解質膜の両面に直接塗布した際、触媒層にしわやひび割れが生じず、また良好な発電性能が得られた。
【0030】
(比較例1)
触媒インク中に炭素繊維を添加しなかったこと以外は、上記実施例1と同様の工程によって、比較例1の触媒インクを得た。
上記触媒インクのせん断速度10(1/s)時の粘度とせん断速度100(1/s)時の粘度のTI値を測定した結果、1.0であった。
また、上記触媒インクのNafion膜に対する接触角を測定した結果、40°となった。
比較例1の触媒インクは、高分子電解質膜の両面に直接塗布した際、触媒層にしわやひび割れが発生する結果となった。実施例1よりも発電性能が低下する結果となった。触媒インク中に炭素繊維が含まれていないと、炭素粒子及び高分子繊維が凝集しやすくなり、その結果触媒層内に十分な空孔が形成できず、発電性能が低下したためと考えられる。
【0031】
(比較例2)
有機電解質繊維として、平均繊維径が3.0μm、平均繊維長が20μmである高分子電解質繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様の工程によって、比較例2の触媒インクを得た。
上記触媒インクのせん断速度10(1/s)時の粘度とせん断速度100(1/s)時の粘度のTI値を測定した結果、12.0であった。
また、上記触媒インクのNafion膜に対する接触角を測定した結果、60°となった。
比較例2の触媒インクは、高分子電解質膜の両面に直接塗布した際、触媒層にしわやひび割れが生じなかったものの、発電性能の低下が生じる結果となった。
実施例1から3と、比較例1、2の評価結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【符号の説明】
【0033】
1・・・固体高分子形燃料電池
2・・・高分子電解質膜
3A、3F・・・電極触媒層
4A、4F・・・ガス拡散層
5A、5F・・・セパレーター
6A、6F・・・ガス流路
7A、7F・・・冷却水通路
8・・・電極触媒層
9・・・高分子電解質膜
10・・・触媒
11・・・炭素粒子
12・・・高分子電解質
13・・・炭素繊維
14・・・有機電解質繊維
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-09-26
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中に触媒担持炭素粒子、炭素繊維、高分子電解質、及び有機電解質繊維を含み、
前記有機電解質繊維の平均繊維径が2μm以下である、
固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インク。
【請求項2】
溶媒中に触媒担持炭素粒子、炭素繊維、高分子電解質、及び有機電解質繊維を含み、
前記有機電解質繊維の平均繊維径が0.5nm以上500nm以下である、固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インク。
【請求項3】
前記炭素繊維がカーボンナノファイバー、カーボンナノチューブから選択した一種又は二種以上を含有する、請求項1又は2に記載の固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インク。
【請求項4】
前記触媒インクのフッ素系高分子電解質膜に対する接触角が、50°以上90°以下の範囲内である、請求項1から3のいずれか一項に記載の固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インク。
【請求項5】
前記触媒担持炭素粒子及び炭素繊維を合わせた質量に対する前記有機電解質繊維の質量の比は、0.1以上3.0以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インク。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の触媒インクを高分子電解質膜表面に直接塗布し、前記触媒インクの塗膜から溶媒成分(分散媒)を除去する方法によって膜電極接合体を製造する、膜電極接合体の製造方法。
【請求項7】
高分子電解質膜と、
前記高分子電解質膜の表面に接合された電極触媒層と、を備え、
前記電極触媒層は、
触媒、導電性担体としての炭素粒子、高分子電解質、炭素繊維、有機電解質繊維を備え、
前記有機電解質繊維の平均繊維径は2μm以下であり、
前記電極触媒層において、前記触媒、前記炭素粒子、前記高分子電解質、前記炭素繊維、前記有機電解質繊維のいずれの構成要素も存在しない部分が空孔となっている、膜電極接合体(転写法により製造された膜電極接合体を除く)。
【請求項8】
請求項7に記載の膜電極接合体を備えたことを特徴とする固体高分子形燃料電池。