(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022016213
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】蛍光検出システム、蛍光検出方法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20220114BHJP
【FI】
G01N21/64 B
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020119582
(22)【出願日】2020-07-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】520257256
【氏名又は名称】株式会社JIOT
(74)【代理人】
【識別番号】100185971
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 玲子
(72)【発明者】
【氏名】村井 弘道
(72)【発明者】
【氏名】▲萩▼原 豪
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA04
2G043BA16
2G043CA04
2G043EA01
2G043FA03
2G043KA02
2G043KA03
2G043MA01
2G043MA04
2G043NA01
(57)【要約】
【課題】 非測定対象の蛍光からの影響を軽減し、測定対象の蛍光の信号対雑音比を向上させる。
【解決手段】 本開示における蛍光検出システムは、変調信号を発生させる変調信号発生部と、変調信号発生部からの信号により変調された励起光を対象物に照射する励起光照射部と、励起光照射部によって照射された励起光によって対象物にて励起された蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質からの蛍光を同時に受光する蛍光受光部と、蛍光受光部が受光した蛍光の受光信号、および、変調信号発生部が発生させた変調信号に基づいて、所定の演算処理を行うことにより目的の蛍光の受光を評価する信号処理部とを備え、信号処理部は、所定の演算処理として、変調信号の高周波域信号と受光信号との第一の相関値、および、変調信号の低周波域信号と受光信号との第二の相関値を算出することを特徴とする。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変調信号を発生させる変調信号発生部と、
前記変調信号発生部からの信号により変調された励起光を対象物に照射する励起光照射部と、
前記励起光照射部によって照射された励起光によって前記対象物にて励起された蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質からの蛍光を同時に受光する蛍光受光部と、
前記蛍光受光部が受光した前記蛍光の受光信号、および、前記変調信号発生部が発生させた前記変調信号に基づいて、所定の演算処理を行うことにより目的の蛍光の受光を評価する信号処理部と
を備え、
前記信号処理部は、前記所定の演算処理として、
前記変調信号の高周波域信号と前記受光信号との第一の相関値、および、前記変調信号の低周波域信号と前記受光信号との第二の相関値を算出する蛍光検出システム。
【請求項2】
前記信号処理部は、前記所定の演算処理として、
前記第一の相関値の、当該第一の相関値と前記第二の相関値との和に対する比を算出することを特徴とする請求項1に記載の蛍光検出システム。
【請求項3】
前記蛍光検出システムは、さらに、前記信号処理部により算出された前記比に基づく評価を行う評価部を備え、
前記評価部は、前記比に基づいて、前記対象物に含まれる蛍光物質の中で最長の蛍光寿命の蛍光物質の量を評価することを特徴とする請求項2に記載の蛍光検出システム。
【請求項4】
前記蛍光検出システムは、さらに、前記変調信号発生部が発生させた変調信号を前記高周波域信号と前記低周波域信号とに分離し、前記信号処理部に出力する信号変換部を備えることを特徴とする請求項1、2または3に記載の蛍光検出システム。
【請求項5】
前記蛍光検出システムは、さらに、前記蛍光受光部が受光した受光信号の交流成分のみを通過させるための第一フィルタ部を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の蛍光検出システム。
【請求項6】
前記変調信号発生部は、周波数変化が時間と共に変化するチャープ信号を発生させることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の蛍光検出システム。
【請求項7】
前記蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質には、蛍光波長の異なる蛍光物質または蛍光波長が等しい蛍光物質が含まれることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の蛍光検出システム。
【請求項8】
前記励起光照射部は、所定の符号系列に基づいて前記励起光を対象物に照射し、
前記信号処理部は、前記所定の演算処理として、さらに、
前記第一の相関値の、当該第一の相関値と前記第二の相関値との和に対する比に対して相互相関演算を行い、前記対象物に含まれる蛍光物質の中で最長の蛍光寿命の蛍光物質からの蛍光の受光値を演算結果として出力することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の蛍光検出システム。
【請求項9】
変調信号を発生させる変調信号発生ステップと、
前記変調信号発生ステップにおいて発生された信号により変調された励起光を対象物に照射する励起光照射ステップと、
前記励起光照射ステップにおいて照射された励起光によって前記対象物にて励起された蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質からの蛍光を同時に受光する蛍光受光ステップと、
前記蛍光受光ステップにおいて受光された前記蛍光の受光信号、および、前記変調信号発生ステップにおいて発生された前記変調信号に基づいて、所定の演算処理を行う信号処理ステップと
を備え、
前記信号処理ステップでは、前記所定の演算処理として、
前記変調信号の高周波域信号と前記受光信号との第一の相関値、および、前記変調信号の低周波域信号と前記受光信号との第二の相関値を算出し、当該第一の相関値および前記第二の相関値の比を演算結果として出力する蛍光検出方法。
【請求項10】
情報処理装置に、
変調信号を発生させる変調信号発生機能と、
前記変調信号発生機能により発生された信号により変調された励起光を励起光照射部に送信する送信機能と、
前記励起光照射部によって照射された励起光によって対象物にて励起された蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質からの蛍光を同時に受光する蛍光受光部から、前記蛍光の受光信号を受信する受信機能と、
前記受信機能が受信した前記蛍光の受光信号、および、前記変調信号発生機能が発生させた前記変調信号に基づいて、所定の演算処理を行う信号処理機能と
を実行させ、
前記信号処理機能は、前記所定の演算処理として、
前記変調信号の高周波域信号と前記受光信号との第一の相関値、および、前記変調信号の低周波域信号と前記受光信号との第二の相関値を算出し、当該第一の相関値および前記第二の相関値の比を演算結果として出力するコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光検出システム、蛍光検出方法およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、励起光で励起される測定対象の蛍光を効果的に測定するための手段として、非測定対象の蛍光を含む特定の波長域の蛍光をカット可能なフィルタを用いる方法や、測定対象の蛍光と非測定対象の蛍光の蛍光寿命の違いを利用して、測定対象の蛍光のみを測定する時間分解蛍光法などが用いられている。
【0003】
また、特許文献1には、目的の測定対象の蛍光を高S/N比で測定するために、カラーセンサ用いる例が開示されている。
【0004】
このように、本開示における技術の分野では、微弱な蛍光の信号対雑音比を向上させることが課題の一つとして認識されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため、本開示の目的は、上述した従来技術の課題の少なくとも一部を解決又は緩和する技術的な改善を提供することである。
【0007】
本開示のより具体的な目的の一つは、非測定対象の蛍光からの影響を軽減し、測定対象の蛍光の信号対雑音比を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示における蛍光検出システムは、変調信号を発生させる変調信号発生部と、変調信号発生部からの信号により変調された励起光を対象物に照射する励起光照射部と、励起光照射部によって照射された励起光によって対象物にて励起された蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質からの蛍光を同時に受光する蛍光受光部と、蛍光受光部が受光した蛍光の受光信号、および、変調信号発生部が発生させた変調信号に基づいて、所定の演算処理を行うことにより目的の蛍光の受光を評価する信号処理部とを備え、信号処理部は、所定の演算処理として、変調信号の高周波域信号と受光信号との第一の相関値、および、変調信号の低周波域信号と受光信号との第二の相関値を算出することを特徴とする。
【0009】
信号処理部は、所定の演算処理として、第一の相関値の、当該第一の相関値と第二の相関値との和に対する比を算出することができる。
【0010】
蛍光検出システムは、さらに、信号処理部により算出された比に基づく評価を行う評価部を備え、評価部は、比に基づいて、対象物に含まれる蛍光物質の中で最長の蛍光寿命の蛍光物質の量を評価することができる。
【0011】
蛍光検出システムは、さらに、変調信号発生部が発生させた変調信号を高周波域信号と低周波域信号とに分離し、信号処理部に出力する信号変換部を備えることができる。
【0012】
蛍光検出システムは、さらに、蛍光受光部が受光した受光信号の交流成分のみを通過させるための第一フィルタ部を備えることができる。
【0013】
変調信号発生部は、周波数変化が時間と共に変化するチャープ信号を発生させることができる。
【0014】
蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質には、蛍光波長の異なる蛍光物質または蛍光波長が等しい蛍光物質が含まれるものとすることができる。
【0015】
励起光照射部は、所定の符号系列に基づいて励起光を対象物に照射し、信号処理部は、所定の演算処理として、さらに、第一の相関値の、当該第一の相関値と第二の相関値との和に対する比に対して相互相関演算を行い、対象物に含まれる蛍光物質の中で最長の蛍光寿命の蛍光物質からの蛍光の受光値を演算結果として出力することができる。
【0016】
本開示における蛍光検出方法は、変調信号を発生させる変調信号発生ステップと、変調信号発生ステップにおいて発生された信号により変調された励起光を対象物に照射する励起光照射ステップと、励起光照射ステップにおいて照射された励起光によって対象物にて励起された蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質からの蛍光を同時に受光する蛍光受光ステップと、蛍光受光ステップにおいて受光された蛍光の受光信号、および、変調信号発生ステップにおいて発生された変調信号に基づいて、所定の演算処理を行う信号処理ステップとを備え、信号処理ステップでは、所定の演算処理として、変調信号の高周波域信号と受光信号との第一の相関値、および、変調信号の低周波域信号と受光信号との第二の相関値を算出し、当該第一の相関値および第二の相関値の比を演算結果として出力することを特徴とする。
【0017】
本開示におけるコンピュータプログラムは、情報処理装置に、変調信号を発生させる変調信号発生機能と、変調信号発生機能により発生された信号により変調された励起光を励起光照射部に送信する送信機能と、励起光照射部によって照射された励起光によって対象物にて励起された蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質からの蛍光を同時に受光する蛍光受光部から、蛍光の受光信号を受信する受信機能と、受信機能が受信した蛍光の受光信号、および、変調信号発生機能が発生させた変調信号に基づいて、所定の演算処理を行う信号処理機能とを実行させ、信号処理機能は、所定の演算処理として、変調信号の高周波域信号と受光信号との第一の相関値、および、変調信号の低周波域信号と受光信号との第二の相関値を算出し、当該第一の相関値および第二の相関値の比を演算結果として出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、従来技術の課題の少なくとも一部を解決又は緩和する技術的な改善を提供することができる。
【0019】
具体的には、本開示によれば、非測定対象の蛍光からの影響を軽減し、測定対象の蛍光の信号対雑音比を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本開示の実施形態に係る蛍光検出システムの機能構成の一例を示す機能構成図である。
【
図2】チャープ信号(線形特性)の一例を示すグラフである。
【
図3】ランタニド蛍光およびバックグランド蛍光の蛍光寿命と蛍光強度を説明するためのイメージ図を示したものである。
【
図4】変調信号により変調された励起光の一例を示すグラフである。
【
図5】
図4に示す励起光が照射された対象物からの蛍光の受光信号の一例を示すグラフである。
【
図6】(a)は低域側チャープ信号を示し、(b)は相互相関演算結果を示すグラフである。
【
図7】(a)は高域側チャープ信号を示し、(b)は相互相関演算結果を示すグラフである。
【
図9】本開示の実施形態に係る蛍光検出システムの機能構成の他の例を示す機能構成図である。
【
図10】蛍光材料にインパル状の短時間励起光を照射した際の蛍光を示すグラフである。
【
図11】蛍光材料に対して強度変調された励起光を照射し、放射される蛍光の交流周波数特性を示すグラフである。
【
図12】蛍光寿命が長い材料が含まれていない場合の蛍光信号を説明するためのグラフである。
【
図13】蛍光寿命が長い蛍光材料が少量含まれている場合の蛍光信号を説明するためのグラフである。
【
図14】蛍光寿命が長い蛍光材料が多く含まれている場合の蛍光信号を説明するためのグラフである。
【
図15】本開示におけるGolay符号の適用を説明するための図である。
【
図16】本開示におけるGolay符号の適用を説明するための図である。
【
図17】本開示におけるGolay符号の適用を説明するための図である。
【
図18】本開示におけるGolay符号の適用を説明するための図である。
【
図19】本開示におけるGolay符号の適用を説明するための図である。
【
図20】本開示におけるGolay符号の適用を説明するための図である。
【
図21】本開示におけるGolay符号の適用を説明するための図である。
【
図22】本開示におけるGolay符号の適用を説明するための図である。
【
図23】本開示におけるGolay符号の適用を説明するための図である。
【
図24】本開示におけるGolay符号の適用を説明するための図である。
【
図25】本開示におけるGolay符号の適用を説明するための図である。
【
図26】本開示におけるGolay符号の適用を説明するための図である。
【
図27】本開示におけるGolay符号の適用を説明するための図である。
【
図28】本開示におけるGolay符号の適用を説明するための図である。
【
図29】本開示の実施形態に係る蛍光検出システムの装置構成の一例を示す構成図である。
【
図30】本開示の実施形態に係る蛍光検出方法のフローの一例を示すフロー図である。
【
図31】本開示の実施形態に係るコンピュータプログラムの回路構成の一例を示す回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示における蛍光検出システムの実施形態について、図面を参照しながら説明を行う。
【0022】
本開示における蛍光検出システム1000は、
図1に示されるように、変調信号発生部110と、励起光照射部120と、蛍光受光部130と、信号処理部140とを備える。
【0023】
変調信号発生部110は、変調信号を発生させるものである。
【0024】
変調信号は一例として、
図2に示されるような、周波数変化が時間と共に線形に変化するチャープ信号とすることができるが、これに限られるものではなく、指数関数的に変化する指数チャープ信号としてもよい。
【0025】
変調信号は一例として、
図2に示されるような、周波数変化が時間と共に線形に変化するチャープ信号や指数関数的に変化する指数チャープ信号としてもよい。
【0026】
励起光照射部120は、変調信号発生部110からの信号により変調された励起光を対象物に照射するものである。
【0027】
励起光は、後述する対象物に含まれる被験物質(抗原)と結合可能な標識物質として使用される蛍光物質の蛍光を励起可能な光であればよい。一例として、本開示では、蛍光物質をユーロピウム(Eu:蛍光波長615nm)とし、励起光は365nmの波長の光であるものとして説明を行うが、これに限られるものではない。
【0028】
なお、ユーロピウムに代表さるランタニドによる蛍光は、他の蛍光物質による蛍光(バックグランド蛍光等)と比較して蛍光寿命が長いという性質を有する。
【0029】
対象物は、上述した被験物質と結合する蛍光物質とは異なる別の蛍光物質が存在し得るものとする。本開示の例において、対象物はイムノクロマトグラフィー検査法で用いられる試験片であるものとして説明を行うが、これに限られるものではない。イムノクロマトグラフィー検査法の詳細については後述する。
【0030】
また、励起光照射部120は変調された励起光を照射可能な発光ダイオード(LED)またはレーザダイオード(LD)であるものとして説明を行うが、これに限られるものではない。
【0031】
蛍光受光部130は、励起光照射部120によって照射された励起光によって対象物にて励起された蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質からの蛍光を同時に受光するものである。
【0032】
上述したように、対象物には、上述したような被験物質と結合する蛍光物質以外にも、様々な蛍光物質が存在しうる。
【0033】
そのため、対象物では、被験物質と結合した蛍光物質による蛍光(測定対象の蛍光)と、被験物質と結合していない別の蛍光物質による蛍光(非測定対象の蛍光)が励起される。そのため、非測定対象の蛍光は、測定対象の蛍光を測定する際のバックグランドノイズの一因となる。
【0034】
図3は、ランタニド蛍光およびバックグランド蛍光の蛍光寿命と蛍光強度を説明するためのイメージ図である。
【0035】
図3に示されるように、パルス状の励起光を対象物に照射すると、ランタニド蛍光およびバックグランド蛍光が励起され、時間と共にその蛍光強度は減少していく。
【0036】
時間分解蛍光法では、バックグランド蛍光が消光した後(
図3では400μsec)に測定を開始し、一定時間内(
図3では800μsecまで)の蛍光強度の測定を行う。そのため、励起光照射直後の高強度の蛍光を測定することができず、測定効率が悪い。
【0037】
一方、本開示における発明では、蛍光受光部130は、励起光照射直後の強度の減少が少ない状態のランタニド蛍光(測定対象の蛍光)と、バックグランド蛍光(非測定対象の蛍光)とを同時に受光することを特徴とする。
【0038】
信号処理部140は、蛍光受光部130が受光した蛍光の受光信号、および、変調信号発生部110が発生させた変調信号に基づいて、所定の演算処理を行うことにより目的の蛍光の受光を評価するものである。
【0039】
目的の蛍光とは、すなわち、測定対象の蛍光である。本実施形態において、測定対象の蛍光は、複数の蛍光物質の蛍光の中で最も蛍光寿命が長い蛍光であるものとする。
【0040】
具体的には、信号処理部140は、所定の演算処理として、変調信号の高周波域信号と受光信号との第一の相関値、および、変調信号の低周波域信号と受光信号との第二の相関値を算出することを特徴とする。
【0041】
例えば、
図4に示すような変調信号により変調された励起光を対象物に照射すると、
図5に示すような受光信号が得られる。この受光信号には、測定対象の蛍光による受光信号と、非測定対象の蛍光による受光信号とが混ざっており、非測定対象の蛍光はノイズ(雑音)となる。
【0042】
なお、
図4は、信号の周波数が200Hz-50KHzの範囲で変化する変調信号を示した例である。ここで、200Hz-800Hzの範囲を低周波域、2KHz-50KHzを高周波域とする。
【0043】
図4に示した変調信号の低周波域信号(
図6(a))と、
図5に示した受光信号との相互相関演算結果を
図6(b)に示す。
図6(b)に示すように、相関ピークが検出される。
【0044】
また、
図4に示した変調信号の高周波域信号(
図7(a))と、
図5に示した受光信号との相互相関演算結果を
図7(b)に示す。
図7(b)に示すように、相関ピークが検出される。
【0045】
図8は、
図6(b)に示した相互相関演算結果と、
図7(b)に示した相互相関演算結果との和を示したものである。
【0046】
図8の低域側に現れる相関ピーク(第二の相関値)は、測定対象の蛍光と非測定対象の蛍光の存在を意味するものであり、高域側に現れる相関ピーク(第一の相関値)は、非測定対象の蛍光の存在を意味するものである。この点についての詳細は後述する。
【0047】
ここで、第一の相関値をRh、第二の相関値をRl、第一の相関値Rhの第一の相関値Rhと第二の相関値Rlとの和に対する比をRrとすると、Rrは次の式で表される
Rr=Rh/(Rl+Rh)
【0048】
すなわち、上記比が大きいほど、非測定対象の蛍光の量(蛍光物質の量)が多いことを意味する。逆に、上記比が小さいほど、測定対象の蛍光の量(蛍光物質の量)が多いことを意味する。
【0049】
よって、これら第一の相関値および第二の相関値を算出することで、測定対象の蛍光の受光の評価、すなわち、測定対象の蛍光(蛍光物質)の量の評価が可能となる。
【0050】
以上の構成によれば上述した従来技術の課題の少なくとも一部を解決又は緩和する技術的な改善を提供することができる。
【0051】
具体的には、非測定対象の蛍光からの影響を軽減し、測定対象の蛍光の信号対雑音比を向上させることができる。
【0052】
より具体的には、上記構成によれば、以下の(1)-(4)の効果が得られる。
(1)励起光照射により発生する微弱な蛍光を高感度で検出する。
(2)対象蛍光物質以外からの蛍光、いわゆる自家蛍光と呼ばれている不要な蛍光の影響を軽減し、信号対雑音比を向上させる。
(3)励起光照射中の蛍光と励起光を遮断した後に検出する時間分解蛍光の両者を一度に計測する。
(4)二つ以上の蛍光材料からの蛍光であって、その中の最長の蛍光寿命を有する蛍光を検出する。
【0053】
また、本開示の蛍光検出システムによれば、従来のシステムと比較して、簡易かつ安価に実現可能である。
【0054】
上述したように、信号処理部140は、所定の演算処理として、第一の相関値の、第一の相関値と第二の相関値との和に対する比を算出することができる。
【0055】
また、本開示における蛍光検出システム1000は、
図9に示されるように、さらに、評価部150を備えることができる。
【0056】
評価部150は、信号処理部140により算出された比に基づく評価を行うものである。
【0057】
そして、評価部150は、比に基づいて、対象物に含まれる蛍光物質の中で最長の蛍光寿命の蛍光物質の量を評価することができる。
【0058】
具体的には、上述したように、評価部150は、比が小さいほど、測定対象の蛍光の量(蛍光物質の量)が多いと評価することができる。
【0059】
また、本開示における蛍光検出システム1000は、評価部150により出力された評価の結果を表示可能な表示部(図示せず)を備えてもよい。
【0060】
なお、評価部150および表示部は、蛍光検出システム1000と接続可能な他の装置が備えるものとしてもよい。
【0061】
本開示における蛍光検出システム1000は、
図9に示されるように、さらに、信号変換部160を備えることができる。
【0062】
信号変換部160は、変調信号発生部110が発生させた変調信号を高周波域信号と低周波域信号とに分離し、信号処理部140に出力することができる。
【0063】
本開示における蛍光検出システム1000は、さらに、第一フィルタ部170を備えることができる。
【0064】
第一フィルタ部170は、蛍光受光部130が受光した受光信号の交流成分のみを通過させるためのハイパスフィルタである。
【0065】
以上の構成によれば、受光信号の直流成分を除き、交流成分のみを信号処理部140に入力することができ、適切な相関演算を行うことができるようになる。
【0066】
また、本開示における蛍光検出システム1000は、さらに、第二フィルタ部(図示せず)を備えてもよい。第二フィルタ部は、蛍光受光部130が受光した受光信号の数十Hz以下の低周波成分のみを通過させるためのローパスフィルタである。
【0067】
第二フィルタ部は装置内外からの迷光など予期せぬ外乱光による計測値への影響を防ぐためにモニタをおこなうものである。通常、外乱光の周波数成分は低い周波数領域に分布することが多く、また、励起光照射タイミングと非同期に入射する。よって、励起光照射タイミング以外で第二フィルタ部の出力が検出された場合は有効な計測が行えないと判断する。
【0068】
また、上述したように、変調信号発生部110は、周波数変化が時間と共に変化するチャープ信号を発生させることができる。
【0069】
チャープ信号は、周波数変化が時間と共に線形に変化するチャープ信号とするのが好ましいが、これに限られるものではなく、指数関数的に変化する指数チャープ信号としてもよい。
【0070】
以上の構成によれば、測定対象の蛍光および非測定対象の蛍光が最適な応答を示す励起光の照射パターンを形成するための周波数を適切にかつ効率的に適用することが可能となる。
【0071】
また、蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質には、蛍光波長の異なる蛍光物質または蛍光波長が等しい蛍光物質が含まれるものとしてもよい。
【0072】
すなわち、本開示の蛍光検出システム1000は、蛍光寿命が異なれば、蛍光波長の異同は問わずに検出が可能となる。
【0073】
図8に戻り、上述した第一の相関値と第二の相関値の評価手法の詳細について、図面を参照しながら説明する。
【0074】
蛍光材料にインパル状の短時間励起光E
x(t)を照射すると、それによって生じる蛍光E
m(t)は次式で近似される。以下の式のグラフを
図10に示す。
E
m(t)=E
x(t)[1-exp(-k
r・t)]exp(-k
d・t)
ここで、k
rは立ち上がり時間係数、k
dは減衰時間係数である。通常の蛍光材料(バックグランド蛍光が励起される材料)はk
r<<k
dである。
【0075】
この蛍光材料にチャープ信号で強度変調した励起光(
図4)を照射する。
【0076】
なお、
図4に示す例では正弦波を例示しているが、矩形波などの他の波形を用いてもよい。
【0077】
蛍光材料からは励起に伴って蛍光が放射されるが、この蛍光は蛍光寿命よりも十分に長い周期の変調周波数であれば励起光の強度変化に応じて同じように強度変化する。
【0078】
蛍光材料の違いによって蛍光寿命は異なり、一般に数ns~数百μsまでのものがある。
【0079】
この蛍光材料に対し、強度変調された励起光を照射し、放射される蛍光の交流(AC)周波数特性は
図11で示される。
【0080】
図11に示されるように、非測定対象の蛍光は蛍光寿命が短いため、高い周波数にも応答する一方で、測定対象の蛍光は蛍光寿命が長いため、高い周波数には応答しない。
【0081】
よって蛍光寿命に比較して励起信号の周期がほぼ等しいか、それよりも短い周期の周波数領域では、蛍光信号は位相遅れを生じながら、直流オフセットを伴った脈流信号となり、最終的には直流成分が主となる。
【0082】
例えば、蛍光寿命が長い材料が含まれていない場合の蛍光信号は
図12に示される。
図12に示すように、蛍光寿命が短い材料の蛍光信号は励起信号に追従して変化する。
【0083】
続いて、蛍光寿命が長い材料が少量だけ含まれる場合の蛍光信号は
図13に示される。
図13に示すように、蛍光寿命が長い少量だけ材料が含まれると、蛍光寿命が短い材料および蛍光寿命が長い材料からの蛍光信号は、励起信号に追従して変化することができなくなり、減衰して直流成分が主となっていく。
【0084】
そして、蛍光寿命が長い材料が多量に含まれる場合の蛍光信号は
図14に示される。
図14に示すように、蛍光寿命が長い材料が多量に含まれると、蛍光寿命が短い材料および蛍光寿命が長い材料からの蛍光信号は、励起信号に追従して変化することができなくなり、減衰して直流成分が主となっていく。また、
図13に示した例と比較して、大きい直流成分を示す。
【0085】
よって、
図4に示した変調信号の高周波域信号(
図7(a))と、
図5に示した受光信号との相互相関演算結果である
図7(b)に現れる相関ピークには、蛍光寿命の長い材料からの蛍光は含まれない。
【0086】
一方で、
図4に示した変調信号の低周波域信号(
図6(a))と、
図5に示した受光信号との相互相関演算結果である
図6(b)に現れる相関ピークには、蛍光寿命の長い材料からの蛍光が含まれる。
【0087】
よって、
図8に示した第一の相関値R
hの第一の相関値R
hと第二の相関値R
lとの和に対する比R
rが大きいほど、測定対象の蛍光の量(蛍光物質の量)が少なく、逆に、比R
rが小さいほど、測定対象の蛍光の量(蛍光物質の量)が多いと評価することができる。
【0088】
また、励起光照射部120は、所定の符号系列に基づいて励起光を対象物に照射することができる。
【0089】
具体的には、励起光照射部120は、変調信号発生部110により発生された信号により変調された励起光(バースト状のチップ単位の励起光)を、対象物に照射する。
【0090】
所定の符号系列は、自己相関が高く相互相関が小さい符号系列とすることができる。具体的には、M系列符号、Gold符号、Baker符号、Golay符号など各種の符号とすることができるが、特に、Golay符号とするのが好ましい。
【0091】
このとき、信号処理部140は、所定の演算処理として、さらに、第一の相関値の、当該第一の相関値と第二の相関値との和に対する比に対して相互相関演算を行い、対象物に含まれる蛍光物質の中で最長の蛍光寿命の蛍光物質からの蛍光の受光値を演算結果として出力することができる。
【0092】
Golay符号の一例を以下に示す。
シーケンス1:(1,1,1,0,1,1,0,1)
シーケンス2:(1,1,1,0,0,0,1,0)
【0093】
図15(a)に示されるように、各シーケンスに対してチャープ変調チップを照射する。0に対しては照射しないとし、一連のシーケンスを構成し、蛍光材料に照射する。このとき、蛍光信号の受光値は
図15(b)に示されるようになる。
【0094】
【0095】
そして、
図16、
図17、
図18に示すように、各シーケンスに対してスライディング相関の演算を行う。
【0096】
以上の演算により、
図18に示すS7が最大相関を示し、この値が測定対象の蛍光の蛍光値となる。
【0097】
以上の構成によれば、測定対象の蛍光の定量的な評価だけではなく、定性的な評価を行うことが可能となる。
【0098】
ここで、Golay符号の計算の都合上、0を-1とする。
シーケンス1:(1,1,1,-1,1,1,-1,1)
シーケンス2:(1,1,1,-1,-1,-1,1,-1)
【0099】
上記シーケンス1を
図19に示し、自己相関関数を
図20に示す。同様に、上記シーケンス2を
図21に示し、自己相関関数を
図22に示す。
【0100】
そして、
図23は各自己相関の和を示したものである。
図23に示されるように、相関ピークが符号中心で2倍となり、サイドローブがゼロとなる。これで符号としての優位性が理解される。
【0101】
ここまでの説明は自己相関なのでノイズが全くない状態であった。次にノイズが混入した場合を説明する。
【0102】
Golay符号に従ってチャープ励起光が照射される(ここでは32bit符号)。
図24および
図25の1で励起バースト光を照射、-1で照射なしの場合、蛍光とノイズから得られた値が
図26および
図27に示される。
【0103】
図26および
図27の各相関の和を
図28に示す。優位な信号がある場合、32の位置にピーク信号が得られる。
【0104】
上記で説明した蛍光検出システム1000の構成の一例を
図29に示す。
【0105】
上述した変調信号発生部110は、
図29における変調信号発生器により実現されることができる。
【0106】
上述した励起光照射部120は、
図29におけるレーザダイオード(LD)または発光ダイオード(LED)により実現されることができる。
【0107】
上述した蛍光受光部130は、
図29における光検出器により実現されることができる。
【0108】
上述した信号処理部140は、
図29における相関器により実現されることができる。
【0109】
上述した評価部150は、
図29におけるマイクロコントロールユニット(MCU)により実現されることができる。
【0110】
上述した信号変換部160は、
図29における信号変換器により実現されることができる。
【0111】
上述した第一フィルタ部170は、
図29におけるハイパスフィルタ(HPF)により実現されることができる。
【0112】
また、ドライバ、ローパスフィルタ(LPF)、交流(DC)レベル検出器、アナログデジタル変換回路(ADC)も適宜配置されることができる。
【0113】
なお、
図29において鎖線で囲った機器はソフトウェアにより実現することも可能である。
【0114】
続いて、本開示における蛍光検出システムをイムノクロマト法に適用した実施形態について説明する。
【0115】
病院・診療所・介護施設・在宅医療といった医療現場においては、臨床検査専門家を要せずに患者にできるだけ近い場所で診断するための検査、すなわちPOCT(Point of Care Testing)の必要性が高まっている。POCTによれば、即座に得られる検査情報に基づいて、迅速かつ的確な治療が可能となるからである。そしてPOCT用の検査装置として、イムノクロマト法を原理とするイムノクロマトグラフィー装置が、従来から使用されている。
【0116】
イムノクロマト法は、採取血液・尿・患部組織などの分析対象物(検体)が毛細管現象により多孔質支持体で構成される試験片に浸透する際、金コロイド、カラーラテックス、蛍光物質等の標識抗体と結合し、さらにこの免疫複合体がメンブレン上にライン状固定された捕捉抗体と結合する。この捕捉抗体に結合した最終的な免疫複合体により、標識が付された被験物質が視認可能または可視化可能な集積として検出される。イムノクロマト法は、判定までに要する時間が短く(20分以下)、迅速な検査が可能であり、また検体を装置に滴下するという簡単な操作のみで測定可能である。
【0117】
目視よりも高感度で判定を行うことができる方法として、蛍光標識から発せられる蛍光をいわゆる蛍光イムノクロマトリーダにて検出する方法がある。蛍光イムノクロマトリーダでは、捕捉抗体に結合した免疫複合体を検知する際、励起光を試験片に照射する。このとき検体が捕捉され免疫複合体が形成されている場合には、励起光によって蛍光標識から蛍光が発生し、この蛍光の強度を検出器にて検出する。このような蛍光イムノクロマトリーダでは、励起光の照射に伴い、免疫複合体を形成した蛍光標識からの蛍光だけでなく多孔質支持体の自家蛍光や試験片内で免疫複合体を形成せずに存在している蛍光標識等からの不要な蛍光が生じる。このような免疫複合体以外からの蛍光は、バックグランドのノイズとなりS/N比を低下させるため、より微少量の被験物質を検出しようとする際の障害となっている。
【0118】
S/N比を向上する方策としては、例えば、燐光を発する物質を用いた時間分解蛍光測定法や、バンドパスフィルタ等により限定した波長領域の光をカットできるフィルタをセンサの前に置いて、多孔質支持体の自家蛍光を取り除く方法等が提案されている。また、蛍光検出手段としてカラーセンサを用いる手法も提案されている。
【0119】
このように、自家蛍光、残留蛍光といった検出対象波長と同一の蛍光に対しては対策が取られているが、これらのノイズを減少させたとしても、検出器の内部ノイズ、機器ノイズ、外来ノイズといったノイズが残留し、S/N比を向上し微小量の被験物質を検出しようとする際の妨げとなっている。そして、同様の課題は、蛍光物質を標識として利用して検出する他の測定手法(例えば、ELISA法、フローサイトメトリー法)においても、S/N比を向上し検出限界を改善しようとする場合に共通して生じるものである。また、蛍光に限定されず、例えばラマン散乱光を用いたラマン分光法ように、励起光で励起された光を観測する測定手法においても同様の課題が生じる。
【0120】
本開示における蛍光検出システムは、励起光によって励起される蛍光を検出する。本実施形態における蛍光検出システムは、蛍光物質を標識抗体として使用したイムノクロマト法を原理とする測定機器である、いわゆる蛍光イムノクロマトリーダである。
【0121】
蛍光検出システムは、表示部、操作部、挿入部および印刷部を備えることができる。
【0122】
表示部は、制御部による制御の下で測定結果等を表示する。表示部としては、例えば液晶ディスプレイを用いるとよい。操作部は、オペレータが操作するための入力手段である。操作部としては、押しボタンスイッチ等の物理的なスイッチを用いてもよいし、表示部に重ねて配置されたタッチパネルを用いて表示部と協働して実現されるタッチパネルディスプレイとしてもよい。挿入部は、試験片を挿入するための挿入口である。挿入部は、例えば、蛍光検出システムの筐体から着脱可能であり、試験片の外径に合わせた凹部が設けられたトレイ状に構成され、当該凹部に試験片を嵌め込んだ状態で挿入部を筐体に取り付けることにより、試験片を蛍光検出システム1の内部の適切な位置に挿入できるように構成するとよい。印刷部は、制御部による制御の下、測定結果を印刷するプリンタであり、例えば感熱式、インクジェット式等のプリンタを用いるとよい。
【0123】
また、蛍光検出システムは、制御部、光学ユニット保持部、光学ユニットおよび試験片保持部を備える。
【0124】
光学ユニット保持部は、蛍光検出システムの内部において、光学ユニットを保持する。光学ユニット保持部は、モータ(不図示)を備え、制御部による制御の下で、光学ユニットを試験片保持部に対して相対的に移動させる。
【0125】
試験片保持部は、蛍光検出システムの内部において、挿入部から挿入された試験片を、光学ユニットと対向する位置に保持する。試験片保持部は、モータ(不図示)を備え、制御部による制御の下で、試験片を光学ユニットに対して相対的に移動させる。光学ユニットと試験片の位置関係は、光学ユニット保持部および試験片保持部が備えるモータによって試験片の長手方向に移動可能とされる。実際に移動するのが光学ユニットか試験片かあるいは両方かは限定されない。
【0126】
光学ユニットは、励起光照射部と蛍光受光部とを備える。励起光照射部は、蛍光標識からの蛍光を励起することのできる波長の励起光を発する光源であり、本実施形態では発光ダイオード(LED)が用いられる。励起光照射部は、変調された励起光を断続的に照射する。励起光照射部として、LED以外の変調されたパターンでの断続的な照射が可能な発光素子(例えばレーザダイオード等)を用いてもよい。また、励起光照射部は、水銀ランプ、ハロゲンランプ及びキセノンランプの断続的な照射が困難な光源に、チョッパ、シャッタ等の照射光を遮断可能な部材を組み合わせて、変調されたパターンで励起光を断続的に照射する構成としてもよい。また、励起光照射部から発せられる光のうち蛍光標識の励起に適した特定の波長成分のみを透過するフィルタを備えていてもよい。
【0127】
蛍光受光部は、励起された蛍光を受光する受光素子を備える。受光素子としては、例えば光電子増倍管(PMT)、アバランシェフォトダイオード(APD)、フォトダイオード(PD)、MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)等を用いることが好ましい。蛍光受光部として、これらの高感度の受光素子を用いれば、目視では確認できない微弱な蛍光や非可視光の波長の蛍光を検出することができる。また、検出した蛍光の強度を定量的に測定できることから標的物質の定量も可能となる。蛍光受光部は、受光強度を示すアナログ信号を制御部のA/D変換器に出力する。
【0128】
制御部は、蛍光検出システムの各部の制御を司る。制御部は、変調信号発生部、LEDドライバ、A/D変換器、信号処理部およびモータ駆動部を備える。制御部は、これらの他、表示部を制御し測定結果や操作インタフェースを表示させる表示制御部、印刷部を制御し測定結果を印刷させる印刷制御部および操作部に対する入力操作を受け付ける操作インタフェース部を備える。
【0129】
LEDドライバは、励起光照射部を構成するLEDを駆動する。LEDドライバは、変調された励起光照射パターンで励起光照射部のLEDを明滅させる。すなわち、LEDドライバは、上述した符号系列の先頭ビットから最終ビットまで、所定の変調周期毎に順番に対象ビットを切り替えつつ、当該対象ビットの値に応じてLEDを点灯又は消灯させることにより、励起光照射部のLEDを明滅させる。LEDドライバは、励起光照射部、試験片内の標識物質、および蛍光受光部が応答可能なレートで変調を行う。
【0130】
A/D変換器は、蛍光受光部から受光強度を示すアナログ信号を受け取り、これをデジタル信号に変換して受信符号系列として信号処理部に供給する。A/D変換器は、蛍光の受光強度の変化に基づき受光符号系列を特定する。A/D変換器は、LEDドライバによる変調レートと同一またはそれ以上のレートでA/D変換を行う。
【0131】
信号処理部は、光信号、および、変調信号発生部が発生させた変調信号に基づいて、所定の演算処理を行うことにより目的の蛍光の受光を評価する。信号処理部は、所定の演算処理として、変調信号の高周波域信号と受光信号との第一の相関値、および、変調信号の低周波域信号と受光信号との第二の相関値を算出する。
【0132】
モータ駆動部は、光学ユニット保持部および試験片保持部が備えるモータを駆動制御する。
【0133】
上記のように構成される蛍光検出システムで測定対象とされる試験片は、標識物質として蛍光物質とするものであれば、一般的なイムノクロマトグラフィー検査法で用いられるものと同様でよく、特に限定されることはない。また、当該試験片に用いられる各種素材についても一般的な部材であればよい。
【0134】
例えば、試験片は、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、メンブレン、吸収パッド、および支持体(バッキングシート)から構成される。
【0135】
サンプルパッドは、患者等から採取した検体が滴下される部位である。検体は、検体を直接、あるいはスポイトや滴下チューブ等で滴下される。サンプルパッドに供給された検体は毛細管現象によりコンジュゲートパッドへ移行する。
【0136】
コンジュゲートパッドには標識物質が含浸されており、この標識物質がサンプルパッドから移行してきた検体中の被験物質(抗原)と結合しつつ当該パッドを通過してメンブレン上へと移行する。標識物質として使用される蛍光物質は、ユウロピウム、テルビウム、フルオレセインなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0137】
メンブレン上には、検体中に含まれる被験物質を抗原抗体反応により捕捉する捕捉抗体が塗布されたサンプルラインと、検体がサンプルラインを越えてメンブレン上を展開したことを確認するためのコントロールラインとが設けられる。吸収パッドは、メンブレンを通過した検体を吸収し保持するパッドである。支持体は、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、メンブレンおよび吸収パッドを背面側から支持する基材である。
【0138】
続いて、以上のように構成される蛍光検出システムの動作および使用方法について説明する。
【0139】
蛍光検出システムでの測定に先立ち、医師、看護師等のオペレータは、被験者から検体を採取する。そして、被験者から採取した検体を試験片のサンプルパッドに滴下する。コントロールラインが変色し検体がサンプルラインを超えてメンブレンに展開されたことを確認後、オペレータは試験片を挿入部に挿入する。そして、操作部を操作して測定を開始する。
【0140】
測定が開始されると、制御部はモータ駆動部によりモータを駆動して、光学ユニットと試験片のサンプルラインが設けられた位置とが対向するよう位置合わせを行う。
【0141】
続いて、変調信号発生部が変調信号を信号処理部およびLEDドライバに送られる。そして、LEDドライバが、励起光照射部の光源であるLEDを駆動し、変調された励起光照射パターンに従って明滅する励起光を試験片のサンプルラインを含む領域に照射させる。
【0142】
励起光が照射されると、試験片のサンプルラインに被験物質が捕捉されていない場合には、励起光の明滅に従って蛍光は発光しないが、サンプルラインに被験物質が捕捉されている場合には、励起光の明滅に従って蛍光が発光する。
【0143】
蛍光受光部は、励起光の明滅に応じて試験片から発せられる蛍光を受光し、受光強度に応じたアナログ信号をA/D変換器に出力する。A/D変換器は、受光強度に応じたアナログ信号をデジタル信号に変換して信号処理部に供給する。
【0144】
信号処理部は、光信号、および、変調信号発生部が発生させた変調信号に基づいて、所定の演算処理を行うことにより目的の蛍光の受光を評価する。この評価結果に応じて、表示部は評価結果を表示し、印刷部は評価結果を印刷する。
【0145】
このようにノイズに埋もれてしまうほど微弱が蛍光を検出することができるので、本発明に係る蛍光検出システム、蛍光検出方法およびコンピュータプログラムは、極微量の被験物質を検出することが可能である。したがって、例えば、被験物質が感染後に時間とともに増殖するような性質のものである場合には、感染後の初期段階で被験物質を検出することが可能となる。また、従来と比べて採取する検体の量を少量にすることも可能となる。
【0146】
このように、本発明に係る蛍光検出システム、蛍光検出方法およびコンピュータプログラムによれば、簡易な構成によって、目的とする蛍光標識を高S/N比で検出することが可能となる。
【0147】
続いて、本開示における蛍光検出方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0148】
図30に示されるように、本開示における蛍光検出方法は、変調信号発生ステップS110と、励起光照射ステップS120と、蛍光受光ステップS130と、信号処理ステップS140とを備える。
【0149】
変調信号発生ステップS110は、変調信号を発生させる。かかる変調信号発生ステップS110は、上述した変調信号発生部110により実行されることができる。詳細については上述したとおりである。
【0150】
励起光照射ステップS120は、変調信号発生ステップS110において発生された信号により変調された励起光を対象物に照射する。かかる励起光照射ステップS120は、上述した励起光照射部120により実行されることができる。詳細については上述したとおりである。
【0151】
蛍光受光ステップS130は、励起光照射ステップS120において照射された励起光によって対象物にて励起された蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質からの蛍光を同時に受光する。かかる蛍光受光ステップS130は、上述した蛍光受光部130により実行されることができる。詳細については上述したとおりである。
【0152】
信号処理ステップS140は、蛍光受光ステップS130において受光された蛍光の受光信号、および、変調信号発生ステップS110において発生された変調信号に基づいて、所定の演算処理を行う。かかる信号処理ステップS140は、上述した信号処理部140により実行されることができる。詳細については上述したとおりである。
【0153】
具体的には、信号処理ステップS140では、所定の演算処理として、変調信号の高周波域信号と受光信号との第一の相関値、および、変調信号の低周波域信号と受光信号との第二の相関値を算出し、当該第一の相関値および第二の相関値の比を演算結果として出力することを特徴とする。
【0154】
以上の構成によれば上述した従来技術の課題の少なくとも一部を解決又は緩和する技術的な改善を提供することができる。
【0155】
具体的には、非測定対象の蛍光からの影響を軽減し、測定対象の蛍光の信号対雑音比を向上させることができる。
【0156】
最後に、本開示におけるコンピュータプログラムの実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0157】
本開示におけるコンピュータプログラムは、情報処理装置に、変調信号発生機能と、送信機能と、受信機能と、信号処理機能とを実行させる。
【0158】
変調信号発生機能は、変調信号を発生させる。
【0159】
送信機能は、変調信号発生機能により発生された信号により変調された励起光を励起光照射部に送信する。
【0160】
受信機能は、励起光照射部によって照射された励起光によって対象物にて励起された蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質からの蛍光を同時に受光する蛍光受光部から、蛍光の受光信号を受信する。
【0161】
信号処理機能は、受信機能が受信した蛍光の受光信号、および、変調信号発生機能が発生させた変調信号に基づいて、所定の演算処理を行う。
【0162】
具体的には、信号処理機能は、所定の演算処理として、変調信号の高周波域信号と受光信号との第一の相関値、および、変調信号の低周波域信号と受光信号との第二の相関値を算出し、当該第一の相関値および第二の相関値の比を演算結果として出力することを特徴とする。
【0163】
上記変調信号発生機能、送信機能、受信機能および信号処理機能は、
図31に示される変調信号発生回路1110、送信回路1120、受信回路1130および信号処理回路1140により実現されることができる。変調信号発生回路1110、送信回路1120、受信回路1130および信号処理回路1140は、それぞれ上述した変調信号発生部110、変調信号発生部110、信号処理部140および信号処理部140により実現されるものとする。各部の詳細については上述したとおりである。
【0164】
以上の構成によれば上述した従来技術の課題の少なくとも一部を解決又は緩和する技術的な改善を提供することができる。
【0165】
具体的には、非測定対象の蛍光からの影響を軽減し、測定対象の蛍光の信号対雑音比を向上させることができる。
【0166】
本開示の技術は、種々な機器に適用可能である。例えば、イムノクロマトリーダ、蛍光免疫測定器、高速液体クロマトグラフィ、分光光度計など光を媒介させる測定機器に適用可能である。
【0167】
特に、本開示により実現される微弱光検出の高感度化は、(1)発症前診断や病勢の精密診断(パンデミック阻止、劇症化防止、薬剤効果の測定)、(2)検査時間の短縮(待ち時間の短縮)、(3)採取検体量の少量化(身体への負担軽減)、(4)抗体の少量化(検査コストの低減)などのメリットを生じさせることができる。
【0168】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0169】
また、実施形態に記載した手法は、計算機(コンピュータ)に実行させることができるプログラムとして、例えば磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク等)、光ディスク(CD-ROM、DVD、MO等)、半導体メモリ(ROM、RAM、フラッシュメモリ等)等の記録媒体に格納し、また通信媒体により伝送して頒布することもできる。なお、媒体側に格納されるプログラムには、計算機に実行させるソフトウェア手段(実行プログラムのみならずテーブルやデータ構造も含む)を計算機内に構成させる設定プログラムをも含む。本装置を実現する計算機は、記録媒体に記録されたプログラムを読み込み、また場合により設定プログラムによりソフトウェア手段を構築し、このソフトウェア手段によって動作が制御されることにより上述した処理を実行する。なお、本明細書でいう記録媒体は、頒布用に限らず、計算機内部あるいはネットワークを介して接続される機器に設けられた磁気ディスクや半導体メモリ等の記憶媒体を含むものである。記憶部は、例えば主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能してもよい。
【符号の説明】
【0170】
1000 蛍光検出システム
110 変調信号発生部
120 励起光照射部
130 蛍光受光部
140 信号処理部
150 評価部
160 信号変換部
170 第一フィルタ部
【手続補正書】
【提出日】2020-12-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変調信号を発生させる変調信号発生部と、
前記変調信号発生部からの信号により変調された励起光を対象物に照射する励起光照射部と、
前記励起光照射部によって照射された励起光によって前記対象物にて励起された蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質からの蛍光を同時に受光する蛍光受光部と、
前記蛍光受光部が受光した受光信号の交流成分のみを通過させるためのハイパスフィルタと、
前記ハイパスフィルタを通過した、前記蛍光受光部が受光した前記蛍光の受光信号の交流成分、および、前記変調信号発生部が発生させた前記変調信号に基づいて、所定の演算処理を行うことにより目的の蛍光の受光を評価する信号処理部と
を備え、
前記信号処理部は、前記所定の演算処理として、
前記変調信号の高周波域信号と前記受光信号との相互相関演算結果の高域側に現れる相関ピークである第一の相関値、および、前記変調信号の低周波域信号と前記受光信号との相互相関演算結果の低域側に現れる相関ピークである第二の相関値を算出する蛍光検出システム。
【請求項2】
前記信号処理部は、前記所定の演算処理として、
前記第一の相関値の、当該第一の相関値と前記第二の相関値との和に対する比を算出することを特徴とする請求項1に記載の蛍光検出システム。
【請求項3】
前記蛍光検出システムは、さらに、前記変調信号発生部が発生させた変調信号を前記高周波域信号と前記低周波域信号とに分離し、前記信号処理部に出力する信号変換部を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光検出システム。
【請求項4】
前記変調信号発生部は、周波数変化が時間と共に変化するチャープ信号を発生させることを特徴とする請求項1、2または3に記載の蛍光検出システム。
【請求項5】
前記蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質には、蛍光波長の異なる蛍光物質または蛍光波長が等しい蛍光物質が含まれることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の蛍光検出システム。
【請求項6】
変調信号を発生させる変調信号発生ステップと、
前記変調信号発生ステップにおいて発生された信号により変調された励起光を対象物に照射する励起光照射ステップと、
前記励起光照射ステップにおいて照射された励起光によって前記対象物にて励起された蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質からの蛍光を同時に受光する蛍光受光ステップと、
前記蛍光受光ステップにおいて受光された受光信号の直流成分を、ハイパスフィルタを通過させることにより取り除くステップと、
前記ハイパスフィルタを通過した、前記蛍光受光ステップにおいて受光された前記蛍光の受光信号の交流成分、および、前記変調信号発生ステップにおいて発生された前記変調信号に基づいて、所定の演算処理を行う信号処理ステップと
を備え、
前記信号処理ステップでは、前記所定の演算処理として、
前記変調信号の高周波域信号と前記受光信号との相互相関演算結果の高域側に現れる相関ピークである第一の相関値、および、前記変調信号の低周波域信号と前記受光信号との相互相関演算結果の低域側に現れる相関ピークである第二の相関値を算出し、当該第一の相関値および前記第二の相関値の比を演算結果として出力する蛍光検出方法。
【請求項7】
情報処理装置に、
変調信号を発生させる変調信号発生機能と、
前記変調信号発生機能により発生された信号により変調された励起光を励起光照射部に送信する送信機能と、
前記励起光照射部によって照射された励起光によって対象物にて励起された蛍光寿命の異なる複数の蛍光物質からの蛍光を同時に受光する蛍光受光部から、前記蛍光の受光信号を受信する受信機能と、
前記受信機能が受信した受光信号の直流成分を、ハイパスフィルタを通過させることにより取り除くフィルタ機能と、
前記ハイパスフィルタを通過した、前記受信機能が受信した前記蛍光の受光信号の交流成分、および、前記変調信号発生機能が発生させた前記変調信号に基づいて、所定の演算処理を行う信号処理機能と
を実行させ、
前記信号処理機能は、前記所定の演算処理として、
前記変調信号の高周波域信号と前記受光信号との相互相関演算結果の高域側に現れる相関ピークである第一の相関値、および、前記変調信号の低周波域信号と前記受光信号との相互相関演算結果の低域側に現れる相関ピークである第二の相関値を算出し、当該第一の相関値および前記第二の相関値の比を演算結果として出力するコンピュータプログラム。