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特開2022-162206塩基配列変換装置、塩基配列変換方法、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドを作製する方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162206
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】塩基配列変換装置、塩基配列変換方法、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドを作製する方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20221017BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20221017BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12M1/00 A ZNA
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066901
(22)【出願日】2021-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】517418057
【氏名又は名称】NUProtein株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(74)【代理人】
【識別番号】100222106
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】南 賢尚
(72)【発明者】
【氏名】多田 裕昭
(72)【発明者】
【氏名】南 伊織
(72)【発明者】
【氏名】南 慧
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA23
4B029BB12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】塩基配列変換装置、塩基配列変換方法、前記塩基配列変換方法によって得られた塩基配列から作製されたポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドを作製する方法、および塩基配列変換のためのプログラムを提供する。
【解決手段】ポリペプチドをコードする塩基配列を入力する入力部と、入力された塩基配列を変換する変換部と、を含み、変換部は、入力された塩基配列から翻訳されるポリペプチドを変えることなく、塩基配列中の5’から3’方向におけるATGおよび/またはGTAの中の、A、TおよびGいずれかの少なくとも一つを含むコドンを変換し、塩基配列中のATGおよび/またはGTAを減少させる塩基配列変換装置。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドをコードする塩基配列を入力する入力部と、
入力された塩基配列を変換する変換部と、
を含み、
変換部は、
入力された塩基配列から翻訳されるポリペプチドを変えることなく、
塩基配列中の5’から3’方向におけるATGおよび/またはGTAの中の、A、TおよびGいずれかの少なくとも一つを含むコドンを変換し、塩基配列中のATGおよび/またはGTAを減少させる、
塩基配列変換装置。
【請求項2】
変換されたコドンは、変換する際に選択できるコドンの中でコドン使用頻度が最も高いコドンである、
請求項1に記載の塩基配列変換装置。
【請求項3】
ポリペプチドをコードする塩基配列を変換する変換工程を含む塩基配列変換方法であって、
変換工程は、
変換前の塩基配列から翻訳されるポリペプチドを変えることなく、
塩基配列中の5’から3’方向におけるATGおよび/またはGTAの中の、A、TおよびGいずれかの少なくとも一つを含むコドンを変換し、塩基配列中のATGおよび/またはGTAを減少させる、
塩基配列変換方法。
【請求項4】
変換されたコドンは、変換する際に選択できるコドンの中でコドン使用頻度が最も高いコドンである、
請求項3に記載の塩基配列変換方法。
【請求項5】
請求項1および請求項2に記載の塩基配列変換装置ならびに請求項3および請求項4に記載の塩基配列変換方法のいずれか一つによって得られた塩基配列から作製されたポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項1および請求項2に記載の塩基配列変換装置ならびに請求項3および請求項4に記載の塩基配列変換方法のいずれか一つによって得られた塩基配列からポリヌクレオチドを作製する方法。
【請求項7】
ポリペプチドをコードする塩基配列を入力する処理と、
入力された塩基配列を変換する処理と、
をコンピュータに実行させるプログラムであって、
入力された塩基配列を変換する処理は、
入力された塩基配列から翻訳されるポリペプチドを変えることなく、
塩基配列中の5’から3’方向におけるATGおよび/またはGTAの中の、A、TおよびGいずれかの少なくとも一つを含むコドンを変換し、塩基配列中のATGおよび/またはGTAを減少させる、
プログラム。
【請求項8】
変換されたコドンは、変換する際に選択できるコドンの中でコドン使用頻度が最も高いコドンである、
請求項7に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、塩基配列変換装置、塩基配列変換方法、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドを作製する方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の構造や機能等を明らかにするために多くの研究が行われている。そして、タンパク質の研究には、タンパク質を得る必要があり、その過程で、組み換えDNAによる生きた細胞でのタンパク質合成や細胞由来の因子を用いた無細胞タンパク質合成といった手法が開発されている。それら手法により生体組織や細胞から天然のタンパク質を抽出するよりも効率よくタンパク質を得ることができるが、さらにより多くのタンパク質を得ることが求められている。特許文献1および特許文献2には、塩基配列を最適化して、合成されるタンパク質量を増加させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4510640号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2011/0081708号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、コドン使用頻度、GC含有量、DNAモチーフ、反復配列、二次構造、逆反復を基準とした品質関数を用いてタンパク質の発現のためにヌクレオチド配列の最適化を行うことが開示されている。また、特許文献2には、コドン使用頻度、tRNA使用量、GC含有量、リボソーム結合配列、プロモーター、5’-UTR、ORFおよび3’-UTR配列を含むタンパク質発現に影響を与えるパラメータおよび因子を考慮して、粒子群最適化アルゴリズムを用い細菌、酵母、昆虫および哺乳類細胞における遺伝子のタンパク質発現を高めるための遺伝子配列を改良し、最適化することが開示されている。
【0005】
特許文献1および特許文献2に開示された塩基配列の最適化は、コドン使用頻度、GC含有量等の多くの情報に基づいて行われている。そこで、出願人は、鋭意研究を行ったところ、特許文献1および特許文献2に開示されたような多くの情報を用いずに、ポリペプチドをコードする塩基配列のコドンを変換させることで、ポリペプチドの合成量を増加させることを新たに見出した。
【0006】
すなわち、本出願の開示の目的は、塩基配列変換装置、塩基配列変換方法、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドを作製する方法、およびプログラムを提供することである。本出願の開示のその他の任意付加的な効果は、発明を実施するための形態において明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)ポリペプチドをコードする塩基配列を入力する入力部と、
入力された塩基配列を変換する変換部と、
を含み、
変換部は、
入力された塩基配列から翻訳されるポリペプチドを変えることなく、
塩基配列中の5’から3’方向におけるATGおよび/またはGTAの中の、A、TおよびGいずれかの少なくとも一つを含むコドンを変換し、塩基配列中のATGおよび/またはGTAを減少させる、
塩基配列変換装置。
(2)変換されたコドンは、変換する際に選択できるコドンの中でコドン使用頻度が最も高いコドンである、
上記(1)に記載の塩基配列変換装置。
(3)ポリペプチドをコードする塩基配列を変換する変換工程を含む塩基配列変換方法であって、
変換工程は、
変換前の塩基配列から翻訳されるポリペプチドを変えることなく、
塩基配列中の5’から3’方向におけるATGおよび/またはGTAの中の、A、TおよびGいずれかの少なくとも一つを含むコドンを変換し、塩基配列中のATGおよび/またはGTAを減少させる、
塩基配列変換方法。
(4)変換されたコドンは、変換する際に選択できるコドンの中でコドン使用頻度が最も高いコドンである、
上記(3)に記載の塩基配列変換方法。
(5)上記(1)および(2)に記載の塩基配列変換装置ならびに上記(3)および(4)に記載の塩基配列変換方法のいずれか一つによって得られた塩基配列から作製されたポリヌクレオチド。
(6)上記(1)および(2)に記載の塩基配列変換装置ならびに上記(3)および(4)に記載の塩基配列変換方法のいずれか一つによって得られた塩基配列からポリヌクレオチドを作製する方法。
(7)ポリペプチドをコードする塩基配列を入力する処理と、
入力された塩基配列を変換する処理と、
をコンピュータに実行させるプログラムであって、
入力された塩基配列を変換する処理は、
入力された塩基配列から翻訳されるポリペプチドを変えることなく、
塩基配列中の5’から3’方向におけるATGおよび/またはGTAの中の、A、TおよびGいずれかの少なくとも一つを含むコドンを変換し、塩基配列中のATGおよび/またはGTAを減少させる、
プログラム。
(8)変換されたコドンは、変換する際に選択できるコドンの中でコドン使用頻度が最も高いコドンである、
上記(7)に記載のプログラム。
【発明の効果】
【0008】
コドンを変換した塩基配列は、コドンを変換しない塩基配列よりも翻訳によるポリペプチドの合成量を増加させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】塩基配列変換装置1を示す概略図。
図2】変換されるコドンの5パターンを示す図。
図3】コムギにおけるコドン使用頻度が付されたコドン表を示す図。
図4】変換されるコドンの各パターンにおける変換例を示す図。
図5】実施例1の結果を示す図。図5Aは、変換前のGFPオリジナルの塩基配列を示す。図5Bは、コドンの変換を行ったGFPの塩基配列を示す。
図6】蛍光測定による結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、塩基配列変換装置、塩基配列変換方法、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドを作製する方法、およびプログラムについて説明する。なお、本明細書において、同種の機能を有する部位には、同一または類似の符号が付されている。そして、同一または類似の符号の付された部位について、繰り返しとなる説明が省略される場合がある。
【0011】
(塩基配列変換装置の実施形態)
図1図4を参照して、実施形態に係る塩基配列変換装置1について説明する。図1は、塩基配列変換装置1の概略図である。図2は、変換されるコドンの5パターンを示す。図3は、コムギにおけるコドン使用頻度が付されたコドン表を示す。図4は、変換されるコドンの各パターンにおける変換例を示す。
【0012】
実施形態に係る塩基配列変換装置1は、入力部2と、変換部3と、を少なくとも具備している。なお、図1に示す例では、任意付加的に記憶部4および表示部5を具備している。
【0013】
実施形態に係る塩基配列変換装置1は、コンピュータにより構成してもよい。コンピュータは、制御部(CPU)を具備している。そして、制御部が所定のプログラムを読み込むことにより、塩基配列変換装置1は変換部3を具備することとなる。
【0014】
入力部2は、塩基配列変換装置1にポリペプチドをコードする塩基配列を入力できれば、特に制限はない。入力部2は、例えば、キーボード、マウスまたはタッチパネルが挙げられる。また、代替的に、ネットワーク(例えば、LANやインターネット等)を介してポリペプチドをコードする塩基配列は入力部2に入力されてもよく、この場合、入力部2はネットワークインターフェースの形態で構成されてもよい。さらに代替的に、スキャナや記憶手段を用いて遺伝子配列を入力部2に入力してもよい。また、入力部2に入力される塩基配列は、DNA配列でもよくRNA配列でもよい。なお、本明細書中において、DNA配列におけるチミン(T)とRNA配列におけるウラシル(U)は、塩基配列情報として同等であるので、以下において塩基配列を表記した際、チミンはウラシルであってもよく、ウラシルはチミンであってもよい。
【0015】
入力部2に入力されるポリペプチドをコードする塩基配列は、ポリペプチドをコードする配列を含んでいれば、特に制限はなく、ポリペプチドをコードしていない配列を含んでいてもよい。後述する変換部3でコドンを変換した塩基配列から翻訳されるポリペプチドは、コドンを変換する前と同じである。そのため、入力部2に入力されるポリペプチドをコードする塩基配列がどのようなポリペプチドをコードしているかは既知である。したがって、例えば、入力された塩基配列の5’側に任意の配列がある場合、ポリペプチドをコードする配列はわかっているため、塩基配列中のポリペプチドがコードされた場所からトリプレットをコドンとすればよい。なお、入力される塩基配列がポリペプチドをコードする配列のみである場合には、塩基配列の5’側の先頭からのトリプレットをコドンとすればよい。
【0016】
変換部3は、入力されたポリペプチドをコードする塩基配列から翻訳されるポリペプチドを変えることなく、ポリペプチドをコードする塩基配列のコドンを変換する。
【0017】
ポリペプチドであるタンパク質を合成する一般的な翻訳の開始過程は以下のように行われる。まずmRNAの5’末端のキャップ構造を転写開始因子が認識し、小分子リボソームと開始コドンに対応するメチオニン(Met)を結合したtRNAがmRNAに結合する。次に、mRNAに結合した小分子リボソームとtRNAは、メチオニンに対応するコドン(開始コドン)まで3'方向へ移動し、tRNAのアンチコドンがmRNA上の対応する開始コドンと結合する。そこに大分子リボソームが会合し、リボソームとmRNAとメチオニンを結合したtRNAの複合体を形成する。そして、メチオニンの次のコドンに対応するアンチコドンをもったtRNAがmRNA上の対応するコドンと結合して伸長反応が進む。したがって、翻訳の開始過程において、キャップ構造を有するmRNAは、mRNAのポリペプチドをコードする配列の開始コドンを認識できる。
【0018】
しかしながら、ポリペプチドの合成を無細胞系で行う場合には、キャップ構造を有していないmRNAが用いられる。無細胞系においてもタンパク質は合成されることから、小分子リボソームとメチオニンを結合したtRNAのmRNAへの結合は、キャップ構造によるものではない。そのため、タンパク質をコードするmRNAにメチオニンのコドンであるATGの配列が多数存在すると、小分子リボソームとメチオニンを結合したtRNAの結合場所によっては、本来の開始位置でない箇所から翻訳が始まってしまう可能性がある。また、翻訳は5’から3’方向へ行われるが、リボソームが結合するmRNAは一本鎖であるため、3’から5’方向へのATG(5’から3’方向におけるGTA)となる配列に小分子リボソームとメチオニンを結合したtRNAが結合するおそれもある。したがって、5’から3’方向、3’から5’方向どちらの方向からみてもATG配列を減少させることで、キャップ構造を有していないmRNAであっても間違った箇所への小分子リボソームとメチオニンを結合したtRNAの結合を抑制できると考えられる。
【0019】
そこで、入力されたポリペプチドをコードする塩基配列中の5’から3’方向におけるATGおよび/またはGTAを減少させるために、変換部3は、当該塩基配列から翻訳されるポリペプチドを変えることなく、5’から3’方向におけるATGおよび/またはGTAの中の、A、TおよびGいずれかの少なくとも一つを含むコドンを変換する。なお、以下において、「5’から3’方向におけるATGおよび/またはGTA」を「ATGおよび/またはGTA」と記載することもある。また、変換部3におけるコドンを変換した塩基配列は、上記したようにキャップ構造を有していないmRNAに対し有用であるが、キャップ構造を有したmRNAについても有用である。キャップ構造を有したmRNAとしても、ポリペプチドをコードする配列中の余計なATGおよび/またはGTAを減少させることができ、キャップ構造を有したmRNAについても翻訳間違いを抑制できる。
【0020】
変換部3で変換されるATGおよび/またはGTAの中の、A、TおよびGいずれかの少なくとも一つを含むコドンは、5つのパターンがある。図2に変換される5つのパターンを示す。図2における枠は一つのコドンを表し、枠内の丸は任意のA、T、GまたはCである。5つのパターンは、(1)連続した二つのコドンにおいて、ATGが二つのコドンを跨り、5’側のコドンがAとTを有し、3’側のコドンがGを有したパターン、(2)連続した二つのコドンにおいて、ATGが二つのコドンを跨り、5’側のコドンがAを有し、3’側のコドンがTとGを有するパターン、(3)連続した二つのコドンにおいて、GTAが二つのコドンを跨り、5’側のコドンがGとTを有し、3’側のコドンがAを有するパターン、(4)連続した二つのコドンにおいて、GTAが二つのコドンを跨り、5’側のコドンがGを有し、3’側のコドンがTとAを有するパターン、(5)コドンがGTAであるパターン、が挙げられる。
【0021】
なお、ポリペプチドをコードする塩基配列において、ATGがコドンとして存在したものは変換されない。ATGは、メチオニンをコードしているが、図3に示すコドン表にあるようにメチオニンはATG以外のコドンで翻訳されない。そのため、ATGのコドンを変換してしまうと、メチオニン以外に変換することになり、入力された塩基配列から翻訳されるポリペプチドを変えてしまう。したがって、ATGがコドンである場合は変換されない。よって、本明細書における「入力された塩基配列から翻訳されるポリペプチドを変えることなく」というのは、コドンとしてATGがある場合は変換しない。
【0022】
変換されるコドンは、入力されたポリペプチドをコードする塩基配列から翻訳されるポリペプチドを変えなければ、コドンをどのように変換するかは特に制限はない。図3に示すコドン表にあるように、翻訳されるアミノ酸によっては、複数のコドンが存在する。そのようなコドンを変換する場合、例えば、選択できるコドンの中でコドン使用頻度が最も高いコドンに変換してもよいし、それ以外の頻度のコドンに変換してもよい。また、上記したパターン(1)~(4)のようにATGおよび/またはGTAが二つのコドンに跨った場合には、5’側または3’側のコドンのどちらか一方を変換してもよいし、両方を変換してもよい。例えば、コドン使用頻度を比較して、コドン使用頻度が高い方のコドンを変換してもよい。なお、コドン使用頻度は宿主によって異なり、ポリペプチドを合成する際に使用する細胞や細胞因子によって適宜入手すればよい。種々の宿主のコドン使用頻度表は、http://www.kazusa.or.jp/codon/より入手可能である。
【0023】
具体的な例で、コドンの変換を以下で説明する。図4に、上記したパターン(1)~(5)それぞれにおいて、変換するコドンの例を示す。
【0024】
パターン(1)は、GAT-GGTおよびCAT-GCCの2つのコドンが連続して並んだ例を示す。GAT-GGTの例は、アスパラギン酸(Asp)とグリシン(Gly)のコドンが並んでいる。そして、GAT-GGTの配列において、翻訳されるアミノ酸を変えることなく、塩基配列中にATGが現れないようにコドンを変換させる。図3に示すコドン表からアスパラギン酸のコドンは、GAT、GACである。また、グリシンのコドンは、GGT、GGC、GGA、GGGである。そこで、アスパラギン酸のコドンをGATからGACに変換する。一方、グリシンのコドンはGGT以外に変換してもよいが、グリシンのコドンはすべて1番目の塩基がGであるためGGTから変換しなくてもよい。GATをGACに変換することで、翻訳されるアミノ酸をアスパラギン酸とグリシンとしたままで、塩基配列はATGを含まないものとなる。
【0025】
CAT-GCCの例は、ヒスチジン(His)とアラニン(Ala)のコドンが並んでいる。ヒスチジンのコドンは、CAT、CACである。また、アラニンのコドンは、GCT、GCC、GCA、GCGである。したがって、上記のGAT-GGTと同様に、CAT-GCCにおいて、ヒスチジンのCATをCACと変換することで、翻訳されるアミノ酸を変えることなく、塩基配列はATGを含まないものとなる。
【0026】
パターン(2)は、CCA-TGGおよびCAA-TGCの2つのコドンが連続して並んだ例を示す。CCA-TGGの例は、プロリン(Pro)とトリプトファン(Trp)のコドンが並んでいる。プロリンのコドンは、CCT、CCC、CCA、CCGである。また、トリプトファンのコドンは、TGGである。そうすると、トリプトファンのコドンは1つのみなので、変換することはできない。しかしながら、プロリンのコドンは4つあるため、塩基配列中にATGが現れないように、プロリンは、CCT、CCC、CCGの3つのいずれかに変換することができ、どのコドンに変換してもよい。図3に示すコドン表に付された数値は、コムギにおけるコドン使用頻度である。例えば、変換するプロリンのコドンをコドン使用頻度が高いものとするのであれば、CCT、CCC、CCGの中でコドン使用頻度が最も高いCCGに変換する。なお、図3におけるコドン使用頻度の数値は、各アミノ酸の頻度合計を1となるように正規化したものである。
【0027】
CAA-TGCの例は、グルタミン(Gln)とシステイン(Cys)のコドンが並んでいる。図4に示すようにグルタミンのコドンCAAをCAGに変換する。
【0028】
パターン(3)は、AGT-AAAおよびGGT-ATTの2つのコドンが連続して並んだ例を示す。AGT-AAAは、セリン(Ser)とリシン(Lys)のコドンが並んでいる。セリンのコドンは、AGT、AGC、TCT、TCC、TCA、TCGの6つである。この場合、コドンの変換は、翻訳されるアミノ酸が変わらなければよいので、AGTのTを変換するAGCだけではなく、TCT、TCC、TCA、TCGのいずれかに変換してもよい。したがって、図4に示すように5つのコドンの並びのいずれかに変換する。
【0029】
GGT-ATTはグリシン(Gly)とイソロイシン(Ile)の例で、図4に示すように3つのコドンの並びのいずれかに変換する。
【0030】
パターン(4)は、CTG-TATおよびGCG-TACの2つのコドンが連続して並んだ例を示す。CTG-TATはロイシン(Leu)とチロシン(Tyr)であり、図4に示すように4つのコドンの並びのいずれかに変換する。また、GCG-TACは、アラニン(Ala)とチロシン(Tyr)であり、図4に示すように3つのコドンの並びのいずれかに変換する。
【0031】
パターン(5)は、コドンがGTAの場合である。GTAは、バリン(Val)のコドンである。バリンのコドンは4つあるため、図4に示すようにGTA以外の3つのコドンのいずれかに変換する。
【0032】
変換部3で変換された塩基配列は、変換される前の塩基配列よりもポリペプチド合成量を増加させる。
【0033】
実施形態に係る塩基配列変換装置1において、記憶部4および表示部5は任意付加的な構成要素である。記憶部4は、ポリペプチドをコードする塩基配列を入力する処理および入力された塩基配列を変換する処理を行うプログラムを記憶する。また、記憶部4には、入力されたポリペプチドをコードする塩基配列、変換部3で変換された塩基配列等のデータを記憶してもよい。記憶部4としては、例えば、RAM、ROM、SSD等のフラッシュメモリ、HDD等が挙げられる。
【0034】
表示部5は、入力部2で入力されたポリペプチドをコードする塩基配列、変換部3で変換された塩基配列を表示できれば、特に制限はない。表示部5としては、例えば、液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ等が挙げられる。
【0035】
(塩基配列変換方法の実施形態)
塩基配列変換方法の実施形態について説明する。実施形態に係る塩基配列変換方法は、ポリペプチドをコードする塩基配列を変換する変換工程を含む。
【0036】
ポリペプチドをコードする塩基配列を変換する変換工程は、変換前の塩基配列から翻訳されるポリペプチドを変えることなく、塩基配列中のATGおよび/またはGTAの中の、A、TおよびGいずれかの少なくとも一つを含むコドンを変換し、塩基配列中のATGおよび/またはGTAを減少させる。塩基配列中のATGおよび/またはGTAの中の、A、TおよびGいずれかの少なくとも一つを含むコドンの変換は、上記した実施形態に係る塩基配列変換装置1の変換部3で行われるコドンの変換と同様である。
【0037】
実施形態に係る塩基配列変換装置1および塩基配列変換方法は、以下の効果を奏する。
(1)翻訳されるポリペプチドを変えることなく、塩基配列中のATGまたは/およびGTAを減らすようにコドンが変換された塩基配列は、コドンを変換する前の塩基配列より翻訳によって合成されるポリペプチドの量を増加できる。
【0038】
(ポリヌクレオチドおよびポリヌクレオチドを作製する方法の実施形態)
上記の実施形態に係る塩基配列変換装置1および/または塩基配列変換方法によって得られるコドンを変換した塩基配列を用いて、コドンを変換させたポリヌクレオチドを作製できる。ポリヌクレオチドは、例えば、DNAでもよく、RNAでもよい。ポリヌクレオチドは、例えば、ホスホロアミダイト法等の公知の方法で作製できる。
【0039】
作製されたポリヌクレオチドを用いポリペプチドを合成できる。ポリペプチドは、組み換えDNAによる生きた細胞でのポリペプチド合成や細胞由来の因子を用いた無細胞ポリペプチド合成といった公知の方法で合成できる。
【0040】
(プログラムの実施形態)
上記の実施形態に係る塩基配列変換装置1は、コンピュータにより構成することができる。その際、コンピュータは既存のものをそのまま使用できる。すなわち、ポリペプチドをコードする塩基配列を入力する処理と、入力された塩基配列を変換する処理と、をコンピュータに実行させるプログラムを提供することで、コンピュータを塩基配列変換装置1とすることができる。
【0041】
以下に実施例を掲げ、本出願で開示する実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に実施形態の説明のためのものである。本出願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例0042】
<実施例1>
[緑色蛍光タンパク質(GFP)のコドン変換]
GFPをコードする塩基配列を用い、翻訳により合成されるGFPを変えることなく、塩基配列中のATGおよびGTAを減少させるようにコドンの変換を行った。
【0043】
図5に結果を示す。図5Aは、変換前のGFPオリジナルの塩基配列を示す。図5A中、上記した5パターンのいずれかに該当するATGまたはGTAは、大きいフォントで示す。また、メチオニンに翻訳されるコドンとしてのATGは枠で囲っている。図5Bは、コドンの変換を行ったGFP(以下、「変換後GFP」と記載することもある。)の塩基配列を示す。図5B中、下線を引かれているものが変換されたコドンである。
【0044】
図5Aに示すように、GFPオリジナルの塩基配列には、ATGは23個あり、その内訳は、パターン(1)のATGが15個、パターン(2)のATGが2個、メチオニンに翻訳されるコドンとしてのATGが6個であった。また、GTAは5個あり、その内訳は、パターン(3)のGTAが2個であり、パターン(5)のGTAが3個であった。
【0045】
GFPをコードする塩基配列の変換は、パターン(1)~(3)の場合には5’側のコドンを変換した。また、変換できるコドンが複数の場合には、選択できるコドンの中でコドン使用頻度が最も高いコドンに変換した。図5Bに示すように、変換後GFPの塩基配列には、メチオニンに翻訳されるコドンとしてのATG6個以外のATGまたはGTAは0個となった。
【0046】
<実施例2>
[変換後GFPの塩基配列によるDNAの作製およびGFP合成]
変換後GFPの塩基配列を用い、表1に示すDNA(Optimized GFP)を作製した。Optimized GFPは、受託合成サービス(ユーロフィンジェノミクス株式会社)により作製した。
【0047】
【表1】
【0048】
作製したOptimized GFPを用い無細胞系によるGFPの合成を以下の手順で行った。
【0049】
(1)PCRによる転写鋳型DNAの作製
転写鋳型DNAは、表1に示される1組のプライマー(フォワード側:FW-E02-OptGFP、リバース側:RV-OptGFP)を設計し、転写鋳型DNAをPCRにより作製した。PCRの反応溶液組成を表2に示す。また、反応サイクルを表3に示す。なお、プライマーは、受託合成サービス(ユーロフィンジェノミクス株式会社)により作製した。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
使用した試薬および機械は以下のとおりである。
・PCR酵素:東洋紡株式会社 KOD-Plus-Neo
・Thermal Cycler:eppendorf社製 Mastecycler X50s
【0053】
(2)転写反応
次に、作製した転写鋳型DNAを用いて、翻訳鋳型mRNAを作製した。転写反応は、NUProtein社製PSS4050の表4に示す反応液を用い、先に作製したPCR反応溶液(転写鋳型DNA含有)2.5μlを用いて、37℃で3時間行った。
【0054】
【表4】
【0055】
転写反応液25μlに対して10μlの4M酢酸アンモニウムを加えてよく混合し、さらに、100μlの100%エタノールを加え転倒混和し、卓上遠心機で数秒間遠心分離した後、-20℃で10分静置した。その後、遠心分離(12,000rpm、15分、4°C)した。上清を除去後、卓上遠心機を用い数秒間遠心した。再度上清を除去し、沈殿が乾燥するまで静置した。その後、転写反応液25μlに対して40μlのRNase free水(DEPC水)を加え、チップで沈殿をよく懸濁した。PSS4050プロトコルに従い、110μl翻訳溶液中のmRNA量を35μgとなるように核酸濃度測定を行い、80μlにフィルアップし、これを翻訳鋳型mRNA溶液とした。
【0056】
(3)翻訳反応
次に、以下の組成の翻訳反応液を用いて、16℃のインキュベーターにいれて10時間反応させた。なお、表5に示す組成のうち、翻訳鋳型mRNAを除いた組成液を調製し、その後、この組成液を室温に戻した後に、翻訳鋳型mRNAを添加して、泡を立てないようにポンピングして、反応させた。Wheat germ extract、および、amino acid mixは、NUProtein社製PSS4050用いた。
【0057】
【表5】
【0058】
反応後、反応液をエッペンドルフチューブに回収し、遠心分離(15,000rpm、15分、4℃)を行い、上清を翻訳完了後のGFP溶液とした。
【0059】
<比較例1>
コドンを変換しないGFPオリジナルの塩基配列に基づいてGFPの合成を行った。合成手順は、表6に示すNative GFP、FW-E02-GFPおよびRV-GFPを用いた以外は、実施例2と同様である。
【0060】
【表6】
【0061】
<実施例3>
[合成されたGFPの蛍光測定]
実施例2および比較例1で合成されたGPFの蛍光測定を行った。実施例2または比較例1で合成されたGFPを含む溶液220μlを試料とし、波長475nmの励起光を照射して、GFPからの蛍光をプレートリーダで測定した。プレートリーダには、GloMax(登録商標)プレートリーダ(プロメガ社)を用いた。
【0062】
結果を図6に示す。実施例2および比較例1で合成されたGFPは、蛍光を発した。そして、実施例2は比較例1よりも蛍光量が大きかった。実施例2のGFPと比較例1のGFPは、同じポリペプチド配列である。したがって、実施例2の方が比較例1よりも蛍光量が大きいことから、実施例2で合成されたGFP量は比較例1で合成されたGFP量よりも多いということが示された。
【0063】
以上の実施例より、翻訳されるポリペプチドを変えることなく、塩基配列中のATGまたは/およびGTAを減らすようにコドンを変換することで、コドンを変換する前の塩基配列より翻訳によるポリペプチドの合成量を増加できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本出願で開示する塩基配列変換装置、塩基配列変換方法、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドを作製する方法、およびプログラムを用いるとポリペプチドの合成量を増加できる。したがって、タンパク質等のポリペプチドを扱う業者にとって有用である。
【符号の説明】
【0065】
1…塩基配列変換装置、2…入力部、3…変換部、4…記憶部、5…表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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