(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162215
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】スイッチング素子制御回路および半導体装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/00 20070101AFI20221017BHJP
H02M 1/08 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
H02M1/00 R
H02M1/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066911
(22)【出願日】2021-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】特許業務法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 佑貴
【テーマコード(参考)】
5H740
【Fターム(参考)】
5H740AA10
5H740BA11
5H740BB09
5H740BB10
5H740BC01
5H740BC02
5H740HH05
5H740JA01
5H740JB01
5H740KK01
5H740MM08
5H740MM11
5H740PP01
5H740PP02
5H740PP04
(57)【要約】
【課題】半導体装置の寿命を故障する前に検知できるようにする。
【解決手段】IGBT31に内蔵された温度検出用ダイオード33がチップ温度Tjを検出し、ケース温度検出用ダイオード35がケース温度Tcを検出する。スイッチング素子制御回路10aは、チップ・ケース温度差検出回路15を備えている。チップ・ケース温度差検出回路15では、チップ・ケース温度差検出部18がチップ温度Tjとケース温度Tcとの温度差を検出し、その温度差を表す出力信号VoutをALM(ΔTj-c)端子より外部へ出力する。出力信号Voutの変化を観測することでIGBT31の劣化具合を知ることができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子を制御するスイッチング素子制御回路において、
前記スイッチング素子のチップ温度と前記スイッチング素子を収容するケースのケース温度との温度差を検出するチップ・ケース温度差検出回路と、
前記チップ・ケース温度差検出回路が検出した前記チップ温度と前記ケース温度との温度差に基づく信号を外部へ出力する温度差アラーム出力端子と、
を備えている、スイッチング素子制御回路。
【請求項2】
前記チップ・ケース温度差検出回路は、前記チップ温度と前記ケース温度との温度差を表す温度差信号を出力する、請求項1記載のスイッチング素子制御回路。
【請求項3】
前記チップ・ケース温度差検出回路は、前記チップ温度と前記ケース温度との温度差を表す温度差信号を出力するチップ・ケース温度差検出部と、前記温度差信号が所定値以上に大きくなると劣化を表す信号を出力するチップ・ケース温度差比較部と、を有する、請求項1記載のスイッチング素子制御回路。
【請求項4】
それぞれチップ温度検出素子を内蔵した複数のスイッチング素子と、前記スイッチング素子をそれぞれ制御する複数のスイッチング素子制御回路と、ケース温度検出素子とを備えた半導体装置において、
前記スイッチング素子制御回路は、
複数の前記スイッチング素子の中で最も高温となる位置に配置された1つのスイッチング素子の前記チップ温度検出素子が検出したチップ温度と前記ケース温度検出素子が検出したケース温度との温度差を検出するチップ・ケース温度差検出回路と、
前記チップ・ケース温度差検出回路が検出した前記チップ温度と前記ケース温度との温度差に基づく信号を外部へ出力する温度差アラーム出力端子と、
を有している、半導体装置。
【請求項5】
前記1つのスイッチング素子は、隣接する前記スイッチング素子の数が最も多い位置に配置された請求項4記載の半導体装置。
【請求項6】
それぞれチップ温度検出素子を内蔵した複数のスイッチング素子と、前記スイッチング素子をそれぞれ制御する複数のスイッチング素子制御回路とを備えた半導体装置において、
前記スイッチング素子制御回路は、自身が制御する前記スイッチング素子の前記チップ温度検出素子が検出したチップ温度を出力する出力端子を有し、
さらに、すべての前記スイッチング素子制御回路の前記出力端子から出力される前記チップ温度の信号を受けてチップ温度の最も高いチップ温度最大値とチップ温度の最も低いチップ温度最小値とを出力する最大温度差検出回路と、前記最大温度差検出回路が出力した前記チップ温度最大値と前記チップ温度最小値との差を検出する最大温度差検出部と、前記最大温度差検出部の出力信号が所定値以上になると劣化を表す信号を出力する最大温度差比較部とを有する温度差検出回路を備えている、半導体装置。
【請求項7】
前記温度差検出回路は、複数の前記スイッチング素子制御回路の少なくとも1つに内蔵されている、請求項6記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスイッチング素子制御回路およびこれを備えた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー用のスイッチング素子を搭載した半導体装置は、一般に、スイッチング素子が過熱によって破壊されるのを防ぐために過熱保護機能が搭載されている(たとえば、特許文献1,2参照)。特許文献1によれば、過熱保護機能としては、スイッチング素子の温度およびケースの温度を検出し、スイッチング素子の温度またはケースの温度の異常を検出すると、スイッチング素子を駆動する回路の動作を停止するようにしている。また、特許文献2では、スイッチング素子が動作されるときのチップ温度およびケース温度の情報をメモリ回路に記憶しておき、スイッチング素子のチップの特性変化を検知できるようにしている。
【0003】
図10は一般的なスイッチング素子を搭載した半導体装置の部分断面図、
図11は半導体装置に搭載される温度検出用ダイオードの温度特性を示す図、
図12は半導体装置の温度サイクル数と熱抵抗との関係を示す図である。
【0004】
半導体装置100は、
図10に示したように、絶縁基板101を有している。絶縁基板101は、セラミック板101aの一方の面に回路パターンを構成する銅箔101bが形成され、セラミック板101aの他方の面には、銅箔101cが形成されている。銅箔101bには、パワー用のスイッチング素子のチップ102がはんだ103によって接合され、銅箔101cには、銅ベース104がはんだ105によって接合されている。銅ベース104には、ヒートシンクが取り付けられる。
【0005】
銅箔101bは、また、ワイヤ106によってチップ102に接続され、はんだ107によって端子108に接続されている。銅箔101bは、さらに、ワイヤ109によってケース110に設けられた端子111に接続されている。
【0006】
このような半導体装置100には、過熱保護機能として、チップ102の過熱保護機能またはケース110の過熱保護機能またはチップ102およびケース110の過熱保護機能が搭載されている。
【0007】
チップ102の温度Tjを検出するには、スイッチング素子のチップ102に内蔵されている温度検出用ダイオードが用いられている。温度検出用ダイオードは、一般に、
図11に示したように、負の温度特性を有しており、温度検出用ダイオードの電圧降下(順方向電圧)は、温度が高くなるほど小さくなる特性を有している。このため、温度検出用ダイオードの電圧降下を基準電圧と比較し、過熱保護を行うかどうかの判断を行う。ここで、電圧降下が基準電圧を下回って過熱保護動作を行うと判断されると、スイッチング素子の動作を停止させ、外部にアラーム信号が出力される。
【0008】
ケース110の温度Tcの検出は、ケース内に搭載されたケース温度検出用IC(Integrated Circuit)が用いられることが多い。このケース110の温度Tcは、この半導体装置100では、銅ベース104の温度に相当する。
【0009】
半導体装置100は、
図12に示したように、チップ102が発熱と冷却を繰り返す温度サイクル数が増加するとチップ102と銅ベース104との間の熱抵抗が上昇するという関係を有している。半導体装置100は、温度サイクル数の増加に伴い、はんだ103,105の接合部に熱疲労によるクラック112,113が生じる。それにより、熱抵抗Rth(j-c)が上昇するため、チップ102と銅ベース104との温度差ΔTj-cも増加する。温度差ΔTj-cが増加すると、はんだ接合部への応力がより大きくなり、熱抵抗Rth(j-c)がさらに増加し、最終的に半導体装置100の故障に至る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2019-201523号公報
【特許文献2】特開2016-163512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、現状の半導体装置では、はんだの劣化具合を正確に判定する手段がないため、半導体装置が故障して初めて寿命に達したことが分かる。
【0012】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、熱抵抗の上昇を把握することで、半導体装置の寿命を故障する前に検知することができるスイッチング素子制御回路および半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、上記の課題を解決するために、1つの案では、スイッチング素子制御回路が提供される。このスイッチング素子制御回路は、スイッチング素子のチップ温度とスイッチング素子を収容するケースのケース温度との温度差を検出するチップ・ケース温度差検出回路と、チップ・ケース温度差検出回路が検出したチップ温度とケース温度との温度差に基づく信号を外部へ出力する温度差アラーム出力端子と、を備えている。
【0014】
本発明の別の案では、それぞれチップ温度検出素子を内蔵した複数のスイッチング素子と、スイッチング素子をそれぞれ制御する複数のスイッチング素子制御回路と、ケース温度検出素子とを備えた半導体装置が提供される。この半導体装置のスイッチング素子制御回路は、複数のスイッチング素子の中で最も高温となる位置に配置された1つのスイッチング素子のチップ温度検出素子が検出したチップ温度とケース温度検出素子が検出したケース温度との温度差を検出するチップ・ケース温度差検出回路と、チップ・ケース温度差検出回路が検出したチップ温度とケース温度との温度差に基づく信号を外部へ出力する温度差アラーム出力端子と、を有している。
【0015】
本発明のさらに別の案では、それぞれチップ温度検出素子を内蔵した複数のスイッチング素子と、スイッチング素子をそれぞれ制御する複数のスイッチング素子制御回路とを備えた半導体装置が提供される。この半導体装置のスイッチング素子制御回路は、自身が制御するスイッチング素子のチップ温度検出素子が検出したチップ温度を出力する出力端子を有している。半導体装置は、さらに、温度差検出回路を備えている。この温度差検出回路は、すべてのスイッチング素子制御回路の出力端子から出力されるチップ温度の信号を受けてチップ温度の最も高いチップ温度最大値とチップ温度の最も低いチップ温度最小値とを出力する最大温度差検出回路と、最大温度差検出回路が出力したチップ温度最大値とチップ温度最小値との差を検出する最大温度差検出部と、最大温度差検出部の出力信号が所定値以上になると劣化を表す信号を出力する最大温度差比較部とを有する。
【発明の効果】
【0016】
上記構成のスイッチング素子制御回路および半導体装置は、スイッチング素子のチップ温度とケース温度またはケース温度と見做すチップ温度最小値の温度との差を観測してスイッチング素子の熱抵抗の上昇が把握できるので、スイッチング素子およびこのスイッチング素子を備えた半導体装置の寿命を故障する前に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1の実施の形態に係るスイッチング素子制御回路を示す回路図である。
【
図2】スイッチング素子制御回路の温度差算出部の出力電圧と温度差との関係を示す図である。
【
図3】スイッチング素子制御回路のALM(ΔTj-c)端子のタイミングチャートである。
【
図4】第2の実施の形態に係るスイッチング素子制御回路を示す回路図である。
【
図5】第3の実施の形態に係るIPMの素子レイアウトを示す図である。
【
図6】第4の実施の形態に係るIPMを示す回路図である。
【
図7】第4の実施の形態に係るIPMの第1のタイプの制御ICを示す回路図である。
【
図8】第4の実施の形態に係るIPMの第2のタイプの制御ICを示す回路図である。
【
図9】第4の実施の形態に係るIPMの第2のタイプの制御ICの温度差検出回路を示す図である。
【
図10】一般的なスイッチング素子を搭載した半導体装置の部分断面図である。
【
図11】半導体装置に搭載される温度検出用ダイオードの温度特性を示す図である。
【
図12】半導体装置の温度サイクル数と熱抵抗との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図中、同一の符号で示される部分は、同一の構成要素を示している。また、各実施の形態は、矛盾のない範囲で複数の実施の形態を部分的に組み合わせて実施することができる。また、スイッチング素子、スイッチング素子制御回路および後述の温度差検出回路を含めて半導体装置という。
【0019】
図1は第1の実施の形態に係るスイッチング素子制御回路を示す回路図、
図2はスイッチング素子制御回路の温度差算出部の出力電圧と温度差との関係を示す図、
図3はスイッチング素子制御回路のALM(ΔTj-c)端子のタイミングチャートである。
【0020】
第1の実施の形態に係るスイッチング素子制御回路10は、スイッチング素子30を制御する回路である。スイッチング素子30は、限定するわけではないが、この実施の形態では、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)としている。
【0021】
スイッチング素子30は、IGBT31と、このIGBT31に逆並列に接続されたFWD(Free Wheeling Diode)32と、IGBT31のチップに内蔵されたチップ温度検出素子である温度検出用ダイオード33とを備えている。IGBT31は、メインIGBTとこのメインIGBTの電流を検出するセンスIGBTとを有している。
【0022】
スイッチング素子制御回路10は、ゲート駆動回路11と、電流検出回路12と、チップ・ケース温度検出回路13と、保護・アラーム信号出力回路14と、チップ・ケース温度差検出回路15とを備えている。スイッチング素子制御回路10は、また、電源電圧Vccが入力される電源端子、IGBT31を制御する入力信号Vinを受ける入力端子、アラーム信号を出力するALM端子、温度差アラーム信号を出力するALM(ΔTj-c)端子を有している。
【0023】
ゲート駆動回路11は、上位の制御装置から供給された入力信号Vinを受ける入力端子と、IGBT31のゲートに接続された出力端子とを有し、入力信号Vinを受けてIGBT31をターンオンまたはターンオフする。
【0024】
電流検出回路12は、IGBT31のセンスIGBTのセンスエミッタに接続された入力端子を有し、出力端子は、保護・アラーム信号出力回路14の第1の入力端子に接続されている。電流検出回路12は、IGBT31の過電流を検出すると、保護・アラーム信号出力回路14に通知する。
【0025】
チップ・ケース温度検出回路13は、IGBT31のチップ温度Tjおよびスイッチング素子制御回路10およびスイッチング素子30を収容しているケースのケース温度Tcを検出する。そのために、このチップ・ケース温度検出回路13は、第1の入力端子および第2の入力端子を有している。第1の入力端子は、定電流源16とスイッチング素子30の温度検出用ダイオード33との接続点に接続され、スイッチング素子30のチップ温度Tjを入力する。第2の入力端子は、定電流源17とケース温度検出素子であるケース温度検出用ダイオード35との接続点に接続され、ケース温度Tcを入力する。チップ・ケース温度検出回路13の出力端子は、保護・アラーム信号出力回路14の第2の入力端子に接続されている。チップ・ケース温度検出回路13は、スイッチング素子30のチップ温度Tjまたはケース温度Tcの異常を検出すると、保護・アラーム信号出力回路14に通知する。
【0026】
保護・アラーム信号出力回路14は、電流検出回路12がIGBT31の過電流を検出したとき、または、チップ・ケース温度検出回路13がチップ温度Tjまたはケース温度Tcの異常を検出したとき、ゲート駆動回路11に異常を通知する。ゲート駆動回路11は、異常の通知を受けると、IGBT31の動作を停止する。保護・アラーム信号出力回路14は、また、電流検出回路12またはチップ・ケース温度検出回路13から異常が通知されると、ALM端子を介して上位の制御装置へアラームが通知される。
【0027】
チップ・ケース温度差検出回路15は、チップ・ケース温度差検出部18およびチップ・ケース温度差比較部19を有している。チップ・ケース温度差検出部18は、オペアンプ20と、4つの抵抗R1,R2,R3,R4とを備え、2つの入力電圧の差を増幅する差動増幅回路である。オペアンプ20の反転入力端子は、抵抗R1の一方の端子に接続され、抵抗R1の他方の端子は、定電流源16と温度検出用ダイオード33との接続点に接続されて、チップ温度Tjを受ける。オペアンプ20の反転入力端子は、また、抵抗R2の一方の端子に接続され、抵抗R2の他方の端子は、オペアンプ20の出力端子に接続されている。オペアンプ20の非反転入力端子は、抵抗R3の一方の端子に接続され、抵抗R3の他方の端子は、定電流源17とケース温度検出用ダイオード35との接続点に接続されて、ケース温度Tcを受ける。オペアンプ20の非反転入力端子は、また、抵抗R4の一方の端子に接続され、抵抗R4の他方の端子は、グランドに接続されている。
【0028】
チップ・ケース温度差比較部19は、比較器21と基準電圧源22とを備えている。比較器21の非反転入力端子は、オペアンプ20の出力端子に接続され、比較器21の反転入力端子は、基準電圧源22の正極端子に接続され、基準電圧源22の負極端子は、グランドに接続されている。基準電圧源22の電圧は、チップ・ケース温度差検出回路15が熱抵抗の異常発生を検出する閾値電圧Vth(j-c)に相当する。
【0029】
比較器21の出力端子は、MOSトランジスタ23のゲートに接続されている。MOSトランジスタ23のドレインは、抵抗R5を介して定電流源24に接続されている。MOSトランジスタ23のドレインは、また、温度差アラーム信号を上位の制御装置に通知するためのALM(ΔTj-c)端子に接続されている。
【0030】
チップ・ケース温度差検出回路15のチップ・ケース温度差検出部18では、抵抗R1および抵抗R3を同じ抵抗値とし、抵抗R2および抵抗R4を同じ抵抗値とし、抵抗R1の他方の端子に印加される電圧をVin-、抵抗R3の他方の端子に印加される電圧をVin+とすると、オペアンプ20の出力信号Voutは、次式で表される。
Vout=(R2/R1)*(Vin+-Vin-)
【0031】
このオペアンプ20の出力信号Voutは、
図2に示されるように、チップ温度Tjとケース温度Tcとの温度差ΔTj-cが大きくなるほど大きく変化する。オペアンプ20の出力信号Voutは、比較器21にて基準電圧源22の基準電圧と比較されて、2値の出力信号SVoutを出力する。
【0032】
ここで、温度サイクル数が小さいときは、IGBT31の劣化が少ないので、チップ温度Tjとケース温度Tcとの温度差ΔTj-cが小さい。このとき、比較器21の出力信号SVoutは、
図3に示したように、ローレベルの論理信号を出力している。このため、MOSトランジスタ23は、オフされているので、ALM(ΔTj-c)端子は、電源電圧Vccの電位の論理信号を出力している。
【0033】
次に、温度サイクル数が多く繰り返されてIGBT31の劣化が進むと、チップ温度Tjとケース温度Tcとの温度差ΔTj-cが大きくなる。チップ・ケース温度差検出部18の出力信号Voutが基準電圧源22の閾値電圧Vth(j-c)以上になると、比較器21は、はんだ劣化による熱抵抗Rth(j-c)の上昇が起こったと判断し、ハイレベルの出力信号SVoutを出力する。これにより、MOSトランジスタ23がオンされるので、ALM(ΔTj-c)端子は、グランド電位の論理信号を出力して、上位の制御装置へアラームが通知される。グランド電位のアラーム信号を受けた上位の制御装置は、IGBT31が故障する前に事前に寿命を検知することができる。
【0034】
図4は第2の実施の形態に係るスイッチング素子制御回路を示す回路図である。
第2の実施の形態に係るスイッチング素子制御回路10aは、チップ・ケース温度差検出回路15がチップ・ケース温度差検出部18だけを備え、他の構成要素は、第1の実施の形態に係るスイッチング素子制御回路10のものと同じである。
【0035】
このスイッチング素子制御回路10aによれば、チップ・ケース温度差検出回路15は、
図2に示したアナログの出力信号VoutをALM(ΔTj-c)端子に出力する。上位の制御装置は、スイッチング素子制御回路10aから受けた出力信号Voutを監視することで、出力信号Voutの上昇を把握し、はんだ劣化による熱抵抗Rth(j-c)の上昇が発生したかどうかを判断することになる。
【0036】
次に、スイッチング素子制御回路をIPM(インテリジェントパワーモジュール)の制御ICに適用した場合について説明する。
図5は第3の実施の形態に係るIPMの素子レイアウトを示す図である。
【0037】
IPM40は、三相交流電圧を出力するインバータを構成している。そのため、IPM40は、正極電源端子P、負極電源端子Nおよび出力端子U,V,Wを有している。正極電源端子Pが接続された絶縁基板の銅箔には、上アーム部のIGBT41UおよびFWD42Uと、IGBT41VおよびFWD42Vと、IGBT41WおよびFWD42Wとが搭載されている。出力端子U,V,Wに近い絶縁基板の各銅箔には、下アーム部のIGBT41XおよびFWD42Xと、IGBT41YおよびFWD42Yと、IGBT41ZおよびFWD42Zとが搭載されている。
【0038】
IGBT41U,41V,41W,41X,41Y,41Zが搭載された絶縁基板の周囲には、IGBT41U,41V,41W,41X,41Y,41Zをそれぞれ制御する制御IC43U,43V,43W,43X,43Y,43Zが配置されている。絶縁基板の隅部には、ケース温度検出用IC44が搭載されている。
【0039】
IGBT41U,41V,41W,41X,41Y,41Zは、それぞれの表面(エミッタ端子)の中央に絶縁層を介して温度検出用ダイオードが形成されている。これにより、IGBT41U,41V,41W,41X,41Y,41Zは、温度検出用ダイオードの電圧降下(順方向電圧)を監視することによって、それぞれのチップ温度Tjが観測可能になっている。
【0040】
図示のIPM40は、絶縁基板の中央に長手方向に沿ってFWD42X,42U,42Y,42V,42Z,42Wが一列に配置され、その列の両側にIGBT41X,41Y,41ZおよびIGBT41U,41V,41Wが配置されている。これらIGBT41U,41V,41W,41X,41Y,41Zの中で、発熱素子間に挟まれていて隣接する素子数の最も多いIGBT41Yがチップ温度の最も高くなる素子であり、劣化が最も進む素子と考えられる。
【0041】
したがって、このIPM40では、チップ・ケース温度差検出回路が受けるチップ温度Tjは、IGBT41Yに形成された温度検出用ダイオードによる検出信号であり、ケース温度Tcは、ケース温度検出用IC44による検出信号である。IPM40が備えるチップ・ケース温度差検出回路は、IGBT41Yを制御する制御IC43Yに設けられている。
【0042】
第3の実施の形態では、IPM40にケース温度検出用IC44を備えている場合について説明した。しかし、ケース温度検出用IC44を備えていなくても、IGBT41U,41V,41W,41X,41Y,41Zの中でチップ温度の最も低い発熱素子のチップ温度をケース温度と見做すことができる。つまり、チップ温度の最も低い発熱素子は、チップ温度の最も高い発熱素子に比べて劣化速度が遅く、温度サイクル数が増加してもチップ温度の最も高い発熱素子に比べて劣化の程度が大きく変化しないことを利用している。次に、チップ温度検出素子を備えていないIPMの例について説明する。
【0043】
図6は第4の実施の形態に係るIPMを示す回路図、
図7は第4の実施の形態に係るIPMの第1のタイプの制御ICを示す回路図、
図8は第4の実施の形態に係るIPMの第2のタイプの制御ICを示す回路図、
図9は第4の実施の形態に係るIPMの第2のタイプの制御ICの温度差検出回路を示す図である。
【0044】
図6に示したIPM50を構成するIGBT41U,41V,41W,41X,41Y,41ZおよびFWD42U,42V,42W,42X,42Y,42Zのケース内のレイアウトは、ケース温度検出用IC44を除き、
図5に示したIPM40と同じである。
【0045】
IPM50は、IGBT41U,41V,41W,41X,41Y,41Zと、FWD42U,42V,42W,42X,42Y,42Zと、温度検出用ダイオード45U,45V,45W,45X,45Y,45Zとを備えている。IPM50は、また、IGBT41U,41V,41W,41X,41Y,41Zをそれぞれ制御する制御IC43U,43V,43W,43X,43Y,43Zを備えている。
【0046】
制御IC43Uは、IGBT41Uのゲートおよびセンスエミッタと、温度検出用ダイオード45Uとに接続されている。制御IC43Vは、IGBT41Vのゲートおよびセンスエミッタと、温度検出用ダイオード45Vとに接続されている。制御IC43Wは、IGBT41Wのゲートおよびセンスエミッタと、温度検出用ダイオード45Wとに接続されている。制御IC43Xは、IGBT41Xのゲートおよびセンスエミッタと、温度検出用ダイオード45Xとに接続されている。制御IC43Yは、IGBT41Yのゲートおよびセンスエミッタと、温度検出用ダイオード45Yとに接続されている。制御IC43Zは、IGBT41Zのゲートおよびセンスエミッタと、温度検出用ダイオード45Zとに接続されている。
【0047】
このIPM50では、上記の実施の形態のチップ・ケース温度差検出回路15に相当する回路は、制御IC43Zが備えている。制御IC43U,43V,43W,43X,43Yは、同一の回路構成を有し、ここでは、第1のタイプの制御ICという。制御IC43Zは、ここでは、第2のタイプの制御ICという。次に、これら第1のタイプの制御ICおよび第2のタイプの制御ICの具体的な構成例について説明する。
【0048】
第1のタイプの制御ICは、
図7に代表として制御IC43Uで示している。制御IC43Uは、ゲート駆動回路11Uと、電流検出回路12Uと、保護・アラーム信号出力回路14Uと、チップ温度検出回路25Uと、定電流源16Uとを備えている。制御IC43Uは、また、電源電圧Vccが入力される電源端子、IGBT41Uを制御する入力信号Vinを受ける入力端子、アラーム信号を出力するALM端子およびチップ温度Tj-Uを出力する端子を有している。
【0049】
ゲート駆動回路11U、電流検出回路12Uおよび保護・アラーム信号出力回路14Uは、第1および第2の実施の形態のスイッチング素子制御回路10,10aのゲート駆動回路11、電流検出回路12および保護・アラーム信号出力回路14と同じ機能を有する。チップ温度検出回路25Uは、温度検出用ダイオード45Uが検出したチップ温度Tj-Uを監視し、チップ温度Tj-Uが所定の閾値以上に上昇すると、保護・アラーム信号出力回路14Uに温度異常が通知される。保護・アラーム信号出力回路14Uは、電流検出回路12Uまたはチップ温度検出回路25Uが異常を検出すると、IGBT41Uの動作を停止し、ALM端子を介して上位の制御装置へアラームが通知される。
【0050】
第2のタイプの制御ICである制御IC43Zは、
図8に示したように、ゲート駆動回路11Zと、電流検出回路12Zと、保護・アラーム信号出力回路14Zと、チップ温度検出回路25Zと、定電流源16Zとを備え、制御IC43Uと同様の機能を有している。制御IC43Zは、さらに、温度差検出回路26を備えている。
【0051】
この温度差検出回路26は、制御IC43Uが出力するIGBT41Uのチップ温度Tj-U、制御IC43Vが出力するIGBT41Vのチップ温度Tj-V、制御IC43Wが出力するIGBT41Wのチップ温度Tj-W、制御IC43Xが出力するIGBT41Xのチップ温度Tj-X、制御IC43Yが出力するIGBT41Yのチップ温度Tj-YおよびIGBT41Zのチップ温度Tj-Zを入力している。温度差検出回路26の出力端子は、ALM(ΔTj-c)端子に接続されている。
【0052】
温度差検出回路26は、
図9に示したように、最大値・最小値検出回路27、最大温度差検出回路15Z、MOSトランジスタ23Z、抵抗R5Zおよび定電流源24Zを備えている。
【0053】
最大値・最小値検出回路27は、チップ温度Tj-U,Tj-V,Tj-W,Tj-X,Tj-Y,Tj-Zを入力し、その中の最大値をTj最大値として出力し、最小値をTj最小値として出力する。
【0054】
最大温度差検出回路15Zは、最大温度差検出部18Zおよび最大温度差比較部19Zを有している。最大温度差検出部18Zは、オペアンプ20Zと、4つの抵抗R1Z,R2Z,R3Z,R4Zとを備え、Tj最大値をチップ温度Tjとして入力し、Tj最小値をケース温度Tcとして入力し、Tj最大値とTj最小値との差を増幅する差動増幅回路である。最大温度差比較部19Zは、比較器21Zと基準電圧源22Zとを備え、最大温度差検出部18Zの出力信号Voutが所定値以上になると、Tj最大値を出力したIGBTが劣化したと判断され、ハイレベルの出力信号SVoutを出力する。
【0055】
最大温度差検出回路15Zがハイレベルの出力信号SVoutを出力すると、MOSトランジスタ23Zがオンするので、ALM(ΔTj-c)端子の電位は、電源電圧Vccの電位からグランド電位に切り換えられる。
【0056】
この第4の実施の形態では、温度差検出回路26は、制御IC43Zに組み込まれている。しかし、温度差検出回路26は、制御IC43Zに限らず、他の制御ICに組み込むことができる。また、温度差検出回路26は、任意の制御ICに組み込まれることなく、独立した回路素子の形でIPM50の中に存在することができる。これにより、すべての制御IC43U,43V,43W,43X,43Y,43Zは、第1のタイプの制御ICに共通化することができる。
【符号の説明】
【0057】
10,10a スイッチング素子制御回路
11,11U,11Z ゲート駆動回路
12,12U,12Z 電流検出回路
13 チップ・ケース温度検出回路
14,14U,14Z 保護・アラーム信号出力回路
15 チップ・ケース温度差検出回路
15Z 最大温度差検出回路
16,16U,16Z 定電流源
17 定電流源
18 チップ・ケース温度差検出部
18Z 最大温度差検出部
19 チップ・ケース温度差比較部
19Z 最大温度差比較部
20,20Z オペアンプ
21,21Z 比較器
22,22Z 基準電圧源
23,23Z MOSトランジスタ
24,24Z 定電流源
25U,25Z チップ温度検出回路
26 温度差検出回路
27 最大値・最小値検出回路
30 スイッチング素子
31 IGBT
32 FWD
33 温度検出用ダイオード
35 ケース温度検出用ダイオード
40 IPM
41U,41V,41W,41X,41Y,41Z IGBT
42U,42V,42W,42X,42Y,42Z FWD
43U,43V,43W,43X,43Y,43Z 制御IC
44 ケース温度検出用IC
45U,45V,45W,45X,45Y,45Z 温度検出用ダイオード
50 IPM