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特開2022-162218セラミック材料のイオン伝導率を回復させる方法、及び、蓄電デバイスの製造方法
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  • 特開-セラミック材料のイオン伝導率を回復させる方法、及び、蓄電デバイスの製造方法 図1
  • 特開-セラミック材料のイオン伝導率を回復させる方法、及び、蓄電デバイスの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162218
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】セラミック材料のイオン伝導率を回復させる方法、及び、蓄電デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20221017BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20221017BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20221017BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20221017BHJP
   H01B 1/06 20060101ALN20221017BHJP
   H01B 1/08 20060101ALN20221017BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
C04B35/50
C01G25/00
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01B1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021066916
(22)【出願日】2021-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】野原 直也
(72)【発明者】
【氏名】中西 正典
(72)【発明者】
【氏名】松浦 広幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 洋
(72)【発明者】
【氏名】上木 正聡
【テーマコード(参考)】
4G048
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5G301CA02
5G301CA16
5G301CA18
5G301CA28
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK15
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ28
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】熱処理の温度域を低くできるセラミック材料のイオン伝導率を回復する方法、及び、蓄電デバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】セラミック材料のイオン伝導率を回復させる方法であって、セラミック材料は、少なくともLi,La,Zr及びOで構成されるガーネット型の結晶構造を有する合成粉末または焼結体であり、合成粉末の合成直後または焼結体の焼結直後におけるイオン伝導率よりもイオン伝導率が低下したセラミック材料を、不活性ガス及び酸素ガスから選択される少なくとも1種のガスが流入しガスが流出する炉の中で、セラミック材料の周囲でガスが流動する雰囲気下にて熱処理することを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン伝導性を有するセラミック材料のイオン伝導率を回復させる方法であって、
前記セラミック材料は、少なくともLi,La,Zr及びOで構成されるガーネット型の結晶構造を有する合成粉末または焼結体であり、
前記合成粉末の合成直後または前記焼結体の焼結直後におけるイオン伝導率よりもイオン伝導率が低下した前記セラミック材料を、不活性ガス及び酸素ガスから選択される少なくとも1種のガスが流入し前記ガスが流出する炉の中で、前記セラミック材料の周囲で前記ガスが流動する雰囲気下にて熱処理し、前記セラミック材料のイオン伝導率を回復させることを含む方法。
【請求項2】
前記熱処理は、640℃以上の温度域で10時間以上保持することを含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理は、670℃以上の温度域で2時間以上保持することを含む請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記熱処理に続いて、前記炉の中で、不活性ガス及び酸素ガスから選択される少なくとも1種のガスが流入し前記ガスが流出する雰囲気下にて前記セラミック材料を冷却する工程を含む請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ガスは不活性ガスである請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の方法によってイオン伝導率を回復させたセラミック材料を配置する工程を含む蓄電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン伝導性を有するセラミック材料のイオン伝導率を回復させる方法、及び、蓄電デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン伝導性を有するセラミック材料として、Li,La,Zr及びOを含むガーネット型の結晶構造をもつ合成粉末や焼結体が知られている。このセラミック材料を大気中に放置すると、合成粉末の合成直後または焼結体の焼結直後よりもイオン伝導率が低下する。特許文献1に記載の技術では、イオン伝導率が低下したセラミック材料を不活性ガス雰囲気、酸素雰囲気および減圧雰囲気から選択される少なくとも一種の雰囲気において650℃以上の温度域で熱処理し、イオン伝導率を回復させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6018947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セラミック材料のイオン伝導率が低下する理由は、セラミック材料が大気中のCOと反応し、セラミック材料の表面にLiCOの膜ができるためであると推察される。先行技術では、熱処理によってセラミック材料から発生したCOがセラミック材料の周囲に滞留することによる、膜のLiCOと雰囲気のCOとの間の化学平衡を防ぐため、CO分圧が十分に高い温度域で熱処理をする必要がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、熱処理の温度域を低くできるセラミック材料のイオン伝導率を回復する方法、及び、蓄電デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明は、リチウムイオン伝導性を有するセラミック材料のイオン伝導率を回復させる方法であって、セラミック材料は、少なくともLi,La,Zr及びOで構成されるガーネット型の結晶構造を有する合成粉末または焼結体であり、合成粉末の合成直後または焼結体の焼結直後におけるイオン伝導率よりもイオン伝導率が低下したセラミック材料を、不活性ガス及び酸素ガスから選択される少なくとも1種のガスが流入しガスが流出する炉の中で、セラミック材料の周囲でガスが流動する雰囲気下にて熱処理し、セラミック材料のイオン伝導率を回復させることを含む。
【0007】
本発明の蓄電デバイスの製造方法は、イオン伝導率を回復させたセラミック材料を配置する工程を含む。
【発明の効果】
【0008】
熱処理によってセラミック材料から脱離したCOが、セラミック材料の周囲を流動するガスによってセラミック材料の周囲から除去される。これにより雰囲気のCO分圧を低くできるので、熱処理の温度域が低くてもセラミック材料のイオン伝導率を回復できる。蓄電デバイスはイオン伝導率が回復したセラミック材料が配置されるので、蓄電デバイスのパワー密度を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】熱処理装置の断面図である。
図2】温度と平衡状態のCO濃度との関係を示す図である。
図3】蓄電デバイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は熱処理装置10の断面図である。熱処理装置10は、炉11と、炉11の外に配置された発熱体12と、を備えている。本実施形態では、熱処理装置10は炉11が管状のチューブ炉であるが、これに限られるものではない。熱処理装置10は、炉11が箱型のボックス炉など、任意の形状の炉11を適宜選択できる。炉11の内部の処理室13には給気口14からガスが流入し、処理室13内のガスは排気口15から流出する。耐火物製の器17に載せられたセラミック材料18は、炉11内で熱処理される。器17の形状は適宜選択できる。熱電対16は処理室13のうちセラミック材料18の付近の温度を検知する。
【0011】
セラミック材料18は、Li,La及びZrを含むガーネット型の結晶構造を有する酸化物である。この酸化物はリチウムイオン伝導性をもつ。ガーネット型の結晶構造を有する酸化物の基本組成はLiLa12(M=Nb,Ta)である。セラミック材料18は、基本組成LiLa12の5価のMカチオンを4価のカチオンに置換したLiLaZr12が例示される。
【0012】
セラミック材料18は、Li,La及びZr以外に、Mg,Al,Si,Ca,Ti,V,Ga,Sr,Y,Nb,Sn,Sb,Ba,Hf,Ta,W,Bi,Rb及びランタノイド(Laは除く)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことができる。例えばLiLaZr1.50.512,Li6.15LaZr1.75Ta0.25Al0.212,Li6.15LaZr1.75Ta0.25Ga0.212,Li6.25LaZrGa0.2512,Li6.4LaZr1.4Ta0.612,Li6.5LaZr1.75Te0.2512,Li6.75LaZr1.75Nb0.2512,Li6.9LaZr1.675Ta0.289Bi0.03612,Li6.46Ga0.23LaZr1.850.1512,Li6.8La2.95Ca0.05Zr1.75Nb0.2512,Li7.05La3.00Zr1.95Gd0.0512,Li6.20Ba0.30La2.95Rb0.05Zr12が挙げられる。
【0013】
セラミック材料18は、特にMg及び元素A(AはCa,Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素)の少なくとも一方を含み、各元素のモル比が以下の(1)から(3)を全て満たすもの、又は、Mg及び元素Aの両方を含み、各元素のモル比が以下の(4)から(6)を全て満たすものが好適である。元素Aは、セラミック材料18のイオン伝導率を高くするため、Srが好ましい。
(1)1.33≦Li/(La+A)≦3
(2)0≦Mg/(La+A)≦0.5
(3)0≦A/(La+A)≦0.67
(4)2.0≦Li/(La+A)≦2.5
(5)0.01≦Mg/(La+A)≦0.14
(6)0.04≦A/(La+A)≦0.17。
【0014】
セラミック材料18は、合成粉末または焼結体(バルク)が挙げられる。焼結体の形状は特に限定されず、ペレット状、板状、膜状など任意の形状を適宜選択できる。セラミック材料18の製造方法は、原料を配合して配合材料を得る配合工程と、配合材料を焼成する焼成工程と、を含む。
【0015】
配合工程では、セラミック材料18を構成する元素を含む材料を配合して配合材料を得る。材料は、例えばLi,La,Zr,Mg,及びAの各元素を含む、酸化物、複合酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などが挙げられる。材料を粉砕混合して配合材料を得る。
【0016】
配合工程と焼成工程との間に、配合材料を仮焼成する仮焼工程を含むのが好ましい。この工程では、配合材料を例えば900-1100℃で2-15時間焼成し、仮焼材料を得る。仮焼工程を経ることにより、焼成工程の後にガーネット型の結晶構造が得られ易くなる。
【0017】
仮焼工程と焼成工程との間に、仮焼材料を粉砕混合する工程を含むのが好ましい。この工程では、仮焼材料を粉砕混合して混合材料を得る。仮焼材料を粉砕混合する工程を経ることにより、焼成工程の後に均一な結晶相が得られ易くなる。バインダーを加えた仮焼材料を粉砕混合しても良い。バインダーは、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールが例示される。
【0018】
焼成工程では、配合材料、仮焼材料または混合材料を成形した後、その成形体を例えば1000-1250℃で3-36時間に亘って焼成して焼結体が得られる。不活性ガス雰囲気下で焼結体を粉砕して合成粉末が得られる。
【0019】
合成粉末の合成後または焼結体の焼結後、セラミック材料18を大気中に放置しておくと、セラミック材料18が大気中のCOと反応して、セラミック材料18の表面にLiCOの膜ができる。この膜はセラミック材料18のイオン伝導率を低下させる。セラミック材料18のイオン伝導率を回復させるため、合成粉末の合成直後または焼結体の焼結直後におけるイオン伝導率よりもイオン伝導率が低下したセラミック材料18を、ガスが流入しガスが流出する熱処理装置10の炉11の中で加熱する。
【0020】
熱処理装置10の給気口14から炉11の処理室13に流入するガスは、不活性ガス及び酸素ガスから選択される少なくとも1種である。不活性ガスは、セラミック材料18と化学反応を起こさない気体であれば、特に限定されない。不活性ガスは、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンが例示される。特に窒素、ヘリウム及びアルゴンから選択される少なくとも1種が好適である。
【0021】
熱処理装置10は、給気口14からガスを処理室13に入れ、このガスによって処理室13内のガスを排気口15へ向けて押し出し、処理室13の外に排気する。これにより処理室13をセラミック材料18の周囲でガスが流動する雰囲気にできる。給気口14から処理室13へのガスの流入、及び、排気口15からのガスの排気は連続式でも間欠式でも良い。また、排気口15に真空ポンプ(図示せず)を接続し給気口14を閉じ、処理室13内のガスを吸引排気した後、給気口14を開き、給気口14から処理室13にガスを導入しても良い。これにより処理室13をセラミック材料18の周囲で間欠的にガスが流動する雰囲気にできる。処理室13に連続的または間欠的に流入するガスの流量や、間欠的に導入するガスの周期は、処理室13の体積や加熱されるセラミック材料18の質量に応じて適宜設定される。
【0022】
給気口14から処理室13に導入されるガスのCO濃度は、処理室13の温度にもよるが、大気中のCO濃度(380ppm)よりも低い濃度、例えば100ppm(体積)以下が好適である。給気口14から処理室13に導入されるガスの露点は-40℃以下、特に-50℃以下が好適である。セラミック材料18からCOの脱離を促進するためである。
【0023】
図2はLiCO/LOと平衡状態にある大気圧下のCO濃度と温度との関係を示す図である。図2は以下の手順で作成した図である。まず、米国国立標準技術研究所(NIST)のデータベース(https://webbook.nist.gov/chemistry/)に記載されている各温度におけるLiCO,LiO及びCOのエンタルピー及びエントロピーから各温度におけるギブスエネルギーを算出し、各温度における平衡定数を算出する。次いで、質量作用の法則によりLiCO=LiO+COの式で表される反応の平衡状態における大気圧下の各温度におけるCO分圧を求める。これをプロットして図2を得る。
【0024】
図2によれば、600℃のときにLiCO/LOと平衡状態にあるCO濃度は5.4ppm(体積)である。給気口14から処理室13へ導入するガスのCO濃度やガスの流量などを調整すれば、処理室13に収容されたセラミック材料18の周囲のCO濃度を5ppm以下にできる。従ってセラミック材料18の熱処理のときの処理室13の温度は600℃以上が好適である。セラミック材料18の熱処理は、合成粉末の合成や焼結体の焼結のときの最高到達温度よりも低い温度域で行うことができる。セラミック材料18の熱処理の上限温度は例えば1250℃である。
【0025】
セラミック材料18の熱処理の時間は、イオン伝導率が所望のレベルに回復する任意の時間にできる。熱処理の時間は、イオン伝導率の低下レベルや熱処理の温度域に応じて適宜設定される。例えば熱処理が640℃以上の温度域のときは10時間以上保持したり、熱処理が670℃以上の温度域のときは2時間以上保持したりすることができる。
【0026】
熱処理によってセラミック材料18から脱離したCOが、炉11に導入されるガスによってセラミック材料18の周囲から除去される。これにより雰囲気のCO分圧を低くできるので、熱処理の温度域が低くてもセラミック材料18のイオン伝導率を回復できる。熱処理の温度域を低くできるので、熱処理時の、セラミック材料18(合成粉末)同士の接合によるネックの形成、及び、原子などの拡散によるネックの拡大を低減し、合成粉末の粒成長を低減できる。その結果、蓄電デバイス20(後述する)において合成粉末が含まれる層を薄くできるので、層内のイオンの輸送距離が短くなり、層の内部抵抗を低減できる。また、熱処理時のセラミック材料18(焼結体)の粒成長を低減できるので、焼結体の組織を制御できる。
【0027】
熱処理に続いて、炉11の中で、不活性ガス及び酸素ガスから選択される少なくとも1種のガスが流入しガスが流出する雰囲気下にてセラミック材料18を冷却するとさらに好ましい。セラミック材料18の冷却中にセラミック材料18にCOが吸着するのを防ぐためである。この雰囲気下のセラミック材料18の冷却は、例えばセラミック材料18の温度が50℃以下になるまで行われる。
【0028】
熱処理後のセラミック材料18(焼結体)は直ちに蓄電デバイス20(後述する)に配置される。熱処理後のセラミック材料18(合成粉末)は直ちにポリマーと混合してシート化され、蓄電デバイス20に配置される。蓄電デバイス20は、アルミニウム等の金属箔や蒸着層で作られるバリア層を含む容器(図示せず)に密閉される。いずれもセラミック材料18にCOが吸着するのを防ぐためである。
【0029】
図3は蓄電デバイス20の断面図である。本実施形態における蓄電デバイス20は、発電要素が固体で構成されたリチウムイオン固体電池である。発電要素が固体で構成されているとは、発電要素の骨格が固体で構成されていることを意味し、例えば該骨格中に液体が含浸した形態等を排除するものではない。
【0030】
蓄電デバイス20は、順に正極層21、電解質層24及び負極層25を含む。正極層21、電解質層24及び負極層25は容器(図示せず)に収容されている。
【0031】
正極層21は集電層22と複合層23とが重ね合わされている。集電層22は導電性を有する部材である。集電層22の材料はNi,Ti,Fe及びAlから選ばれる金属、これらの2種以上の元素を含む合金やステンレス鋼、炭素材料が例示される。
【0032】
複合層23は、セラミック材料18、活物質28及びバインダーを含む。複合層23の抵抗を低くするために、複合層23に導電助剤が含まれていても良い。導電助剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維,Ni,Pt及びAgが例示される。
【0033】
活物質28は、遷移金属を有する金属酸化物、硫黄系活物質、有機系活物質が例示される。遷移金属を有する金属酸化物は、Mn,Co,Ni,Fe,Cr及びVの中から選択される1種以上の元素とLiとを含む金属酸化物が例示される。遷移金属を有する金属酸化物は、LiCoO,LiMn,LiNiVO,LiMn1.5Ni0.5及びLiFePOが例示される。
【0034】
硫黄系活物質は、S,TiS,NiS,FeS,LiS,MoS及び硫黄-カーボンコンポジットが例示される。有機系活物質は、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノキシル-4-イルメタクリレートやポリテトラメチルピペリジノキシルビニルエーテルに代表されるラジカル化合物、キノン化合物、ラジアレン化合物、テトラシアキノジメタン、及び、フェナジンオキシドが例示される。
【0035】
複合層23に含まれるバインダーは、セラミック材料18や活物質28を結着する。バインダーはポリイミド系、アクリル系、ポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及び、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体が例示される。
【0036】
電解質層24はセラミック材料18を含む。セラミック材料18が合成粉末の場合、電解質層24はセラミック材料18及びバインダーを含む。電解質層24に含まれるバインダーは、複合層23に含まれるものと同様なので、説明を省略する。
【0037】
負極層25は集電層26と複合層27とが重ね合わされている。集電層26は導電性を有する部材である。集電層26の材料はNi,Ti,Fe,Cu及びSiから選ばれる金属、これらの元素の2種以上を含む合金やステンレス鋼、炭素材料が例示される。
【0038】
複合層27は、セラミック材料18、活物質29及びバインダーを含む。複合層27の抵抗を低くするために、複合層27に導電助剤が含まれていても良い。導電助剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維,Ni,Pt及びAgが例示される。
【0039】
活物質29は、Li、Li-Al合金、LiTi12、黒鉛、In、Si、Si-Li合金、及び、SiOが例示される。複合層27に含まれるバインダーは、複合層23に含まれるものと同様なので説明を省略する。
【0040】
蓄電デバイス20はイオン伝導率が回復したセラミック材料18が配置されているのでパワー密度を高くできる。
【実施例0041】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(セラミック材料の調製)
Li6.95Mg0.15La2.75Sr0.25Zr2.012となるように、LiCO,MgO,La(OH),SrCO,ZrOを秤量した。LiCOは、焼成時のLiの揮発を考慮し、元素換算で15mol%程度過剰にした。秤量した原料および有機溶剤をジルコニア製ボールと共にナイロン製ポットに投入し、ボールミルで15時間粉砕混合した。ポットから取り出したスラリーを乾燥後、MgO製の板の上で仮焼成(1100℃で10時間)した。仮焼成後の粉末、バインダー及び有機溶剤をポットに投入し、ボールミルで15時間粉砕混合した。
【0043】
ポットから取り出したスラリーを乾燥後、直径12mmの金型に投入し、プレス成形により厚さが1.5mm程度の成形体を得た。冷間静水等方圧プレス機(CIP)を用いて1.5t/cmの静水圧をさらに成形体に加えた。成形体と同じ組成の仮焼粉末で成形体を覆い、還元雰囲気において焼成(1100℃で4時間)し、焼結体を得た。
【0044】
焼結直後の焼結体のリチウムイオン伝導率は1.0×10-3S/cmであった。イオン伝導率は交流インピーダンス法で測定した。イオン伝導率の測定条件は、温度25℃、電圧10mV、周波数7MHz-100mHzとした。焼結後、直ちに焼結体をAr雰囲気のグローブボックス内で粉砕して、セラミック材料の合成粉末を得た。
【0045】
(試験1)
得られた合成粉末を、不可避COが存在しているAr雰囲気のグローブボックス内で24時間保管し、熱処理前の合成粉末(以下「粉末A」と称す)を得た。
【0046】
熱処理装置10の処理室13(体積1875cm)に、器17に載せた粉末A(40g以下)を収容し、給気口14から処理室13に窒素ガスを導入しながら(流量10L/min)、排気口15から処理室13内のガスを排気した。処理室13に窒素ガスを流通したまま、発熱体12で炉11を加熱して処理室13を昇温し、処理室13の温度が640℃に到達してからその状態を10時間保った後、降温した。処理室13の温度が50℃になった後、器17に載った熱処理後の合成粉末(以下「粉末1」と称す)を直ちに炉11から取り出し、大気暴露を防ぐため、密閉容器に収容した。
【0047】
イオン液体1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(EMI-FSI)に電解質塩LiN(SOF)を0.8mol/dm複合した電解液と粉末1とを、粉末1:電解液=80:20(体積比)となるように乳鉢で混合し、複合粉末を得た。複合粉末0.15gを、Ar雰囲気において直径10mmの絶縁体からなる筒に投入し、500MPaの圧力を加えて一軸成形し、円盤状の成形体を得た。8Nの締め付けトルクを加えたねじの軸力で、成形体の両面にステンレス製の集電体を密着させ、焼結体のイオン伝導率の測定と同じ条件で、粉末1を含む成形体の全イオン伝導率を測定した。粉末に電解液を複合したのは、粉末の粒界抵抗の影響を小さくするためである。
【0048】
同様にして粉末Aと電解液の複合粉末を調製し、成形体を作成して、粉末Aを含む成形体の全イオン伝導率を測定した。粉末1を含む成形体の全イオン伝導率は、粉末Aを含む成形体の全イオン伝導率の1.6倍であった。640℃で10時間の熱処理によってセラミック材料のイオン伝導率が回復することが明らかになった。
【0049】
(試験2)
炉11を加熱し、処理室13の温度が670℃に到達してからその状態を2時間保った後に降温した以外は、粉末1の熱処理条件と同様にして、熱処理後の合成粉末(以下「粉末2」と称す)を得た。
【0050】
排気口15に真空ポンプ(図示せず)を接続し給気口14を閉じ、処理室13内のガスを吸引排気した後、排気口15を閉じ給気口14を開いて給気口14から処理室13に窒素ガスを導入した。給気口14及び排気口15を閉じた状態(密閉された窒素ガス雰囲気下)で炉11を加熱し、処理室13の温度が700℃に到達してからその状態を2時間保った後に降温した以外は、粉末1の熱処理条件と同様にして、熱処理後の合成粉末(以下「粉末B」と称す)を得た。
【0051】
給気口14及び排気口15を閉じた窒素ガス雰囲気下で炉11を加熱し、処理室13の温度が800℃に到達してからその状態を2時間保った後に降温した以外は、粉末Bの熱処理条件と同様にして、熱処理後の合成粉末(以下「粉末C」と称す)を得た。
【0052】
試験1と同様にして、粉末2、粉末B及び粉末Cにそれぞれ電解液を複合し、粉末2、粉末B及び粉末Cをそれぞれ含む成形体を作成して、成形体の全イオン伝導率を測定した。粉末2を含む成形体の全イオン伝導率は1.4×10-3S/cm、粉末Bを含む成形体の全イオン伝導率は1.1×10-3S/cm、粉末Cを含む成形体の全イオン伝導率は1.3×10-3S/cmであった。
【0053】
粉末2は、粉末A及び粉末Bの熱処理温度より低い温度で熱処理したにも関わらず、イオン伝導率を高くできることが明らかになった。本実施例によれば、セラミック材料を同等のリチウムイオン伝導率に回復させるときに、密閉された不活性ガス雰囲気下で熱処理を行う場合に比べ、熱処理の温度域を低くできることが明らかになった。
【0054】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0055】
実施形態では、蓄電デバイス20として、集電層22の片面に複合層23が設けられた正極層21、及び、集電層26の片面に複合層27が設けられた負極層25を備えるものを説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば集電層22の両面に複合層23と複合層27とをそれぞれ設けた電極層(いわゆるバイポーラ電極)を備える蓄電デバイスに、実施形態におけるセラミック材料18を配置することは当然可能である。バイポーラ電極と電解質層24とを交互に積層し容器(図示せず)に収容すれば、いわゆるバイポーラ構造の蓄電デバイスが得られる。
【0056】
実施形態では、正極層21と電解質層24とが隣接し、負極層25と電解質層24とが隣接する蓄電デバイス20について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。正極層21と電解質層24との間や負極層25と電解質層24との間に、セラミック材料18を含む中間層を配置することは当然可能である。
【0057】
実施形態では、複合層23,27及び電解質層24に全てセラミック材料18が含まれている場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。蓄電デバイス20は、複合層23,27及び電解質層24の少なくとも1つにセラミック材料18が含まれていれば良い。
【0058】
実施形態では、リチウムイオン固体電池(二次電池)を例示して電極層(正極層21及び負極層25)及び電解質層24を備える蓄電デバイス20を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。他の蓄電デバイスとしては、正極に硫黄を用いる電池(例えば負極リチウムとの組合せによるLiS電池)、リチウム空気電池、電解コンデンサが挙げられる。
【符号の説明】
【0059】
11 炉
18 セラミック材料
20 蓄電デバイス
図1
図2
図3