(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022162270
(43)【公開日】2022-10-24
(54)【発明の名称】回路基板用不織布、それを用いた回路基板用プリプレグ、及びそれを用いた回路基板
(51)【国際特許分類】
D21H 15/02 20060101AFI20221017BHJP
D21H 13/26 20060101ALI20221017BHJP
D21H 27/00 20060101ALI20221017BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
D21H15/02
D21H13/26
D21H27/00 Z
H05K1/03 610T
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067010
(22)【出願日】2021-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】390032230
【氏名又は名称】ニッポン高度紙工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520028531
【氏名又は名称】デュポン セイフティー アンド コンストラクション インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】西森 雄平
(72)【発明者】
【氏名】上田 昌彦
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AF35
4L055AF46
4L055CD01
4L055EA04
4L055EA09
4L055EA15
4L055EA16
4L055FA30
4L055GA01
4L055GA50
(57)【要約】
【課題】平滑性を高め、高価格化を抑制し、かつ薄型化した回路基板用不織布の提供。
【解決手段】
繊維径の最も太い部分が5μm以上の複数の太繊維と、繊維径の最も太い部分が5μm未満の複数の細繊維とを含む抄紙構造体からなる回路基板用不織布であって、
前記太繊維の平均繊維長は、細繊維の平均繊維長よりも長く、
前記細繊維の本数は、前記太繊維の本数よりも多く、
且つ、前記太繊維は長軸と短軸を有する扁平形状で、抄紙構造体の厚さ方向に短軸が配向したことを特徴とする回路基板用不織布。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径の最も太い部分が5μm以上の複数の太繊維と、繊維径の最も太い部分が5μm未満の複数の細繊維とを含む抄紙構造体からなる回路基板用不織布であって、
前記太繊維の平均繊維長は、細繊維の平均繊維長よりも長く、
前記細繊維の本数は、前記太繊維の本数よりも多く、
且つ、前記太繊維は長軸と短軸を有する扁平形状で、抄紙構造体の厚さ方向に短軸が配向したことを特徴とする回路基板用不織布。
【請求項2】
前記太繊維の短軸の繊維径が、10μm以下である、請求項1記載の回路基板用不織布。
【請求項3】
前記太繊維の長軸の繊維径が、5μm以上、20μm以下である、請求項1又は2に記載の回路基板用不織布。
【請求項4】
前記太繊維及び細繊維はアラミド繊維である、請求項1から3のいずれか一つに記載の回路基板用不織布。
【請求項5】
不織布CD断面における、太繊維が占める総面積の割合は、10%以下である、請求項1から4のいずれか一つに記載の回路基板用不織布。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載の回路基板用不織布に樹脂を含浸させた回路基板用プリプレグ。
【請求項7】
プリプレグ厚さは、回路基板用不織布厚さの120%以上、300%以下である、請求項6に記載の回路基板用プリプレグ。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の回路基板用プリプレグの表面に回路パターンを設けた回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板用不織布、それを用いた回路基板用プリプレグ、及びそれを用いた回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回路基板の高密度実装化に伴い、この回路基板に用いる回路基板用プリプレグには、その表面の平滑性を高めることが求められている。すなわち、回路基板用プリプレグの表面には、銅箔などの回路パターンが配置されるが、前記回路基板用プリプレグの表面の平滑性が低いと、回路パターンの断線が発生したり、スルーホールのばらつきが大きくなったりするからである。そこで、従来は、回路基板用プリプレグを作るための回路基板用不織布自体の平滑性を高めるようにしている。
具体的には、繊維径が10μm以下、好ましくは、8μm以下である細デニールアラミド繊維で回路基板用不織布を作ることで、その平滑性を高めようとしている(これを、第1の従来例と表現するが、これに類似する構成としては、例えば、下記特許文献1が存在する)。
また、扁平化された、短いアラミド繊維だけを利用して、回路基板用不織布を作ることで、回路基板用不織布の薄型化を図ろうとすることも知られている(これを、第2の従来例と表現するが、これに類似する構成としては、例えば、下記特許文献2が存在する)。
さらに、扁平化された短繊維を用いることで、低坪量でも高嵩密度の回路基板用不織布を得ることも知られている(これを、第3の従来例と表現するが、これに類似する構成としては、例えば、下記特許文献3が存在する)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-51951号公報
【特許文献2】特開2003-49388号公報
【特許文献3】特開2006-200066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記第1の従来例では、太い繊維は用いず、繊維径が10μm以下、好ましくは、8μm以下である細デニールアラミド繊維で回路基板用不織布を作っているので、その平滑性を高めことはできる。しかしながら、繊維径が10μm以下、好ましくは、8μm以下の細い繊維だけで回路基板用不織布を作った場合、細い繊維は生産性が悪く、高価であるため、結論として、この回路基板用不織布が高価なものとなる。当然のこととして、この回路基板用不織布を用いる回路基板用プリプレグも、それを用いた回路基板も高価なものとなる。また、細い繊維のみからなる不織布は強度が低下してしまうことから、回路基板用プリプレグの強度を高めるために、回路基板用不織布に含ませる、また表裏面を覆う樹脂量を多くする必要があり、その結果、回路基板用プリプレグ、回路基板の厚型化を招く。
また、第2の従来例では、扁平化された短いアラミド繊維だけを利用するので、回路基板用不織布としての薄型化を図ることは可能となり得る。しかしながら、短い扁平化されたアラミド繊維だけで湿式抄紙すると、この湿式抄紙時に、ワイヤーから抜け落ちる短い扁平化されたアラミド繊維量が増加し、歩留まり悪化によるコスト増になる。
さらに、第3の従来例では、扁平化された短繊維を用いることで、低坪量でも高嵩密度の回路基板用不織布を得ることは可能となり得るが、これも第2の従来例と同じく、湿式抄紙時に、ワイヤーから抜け落ちる短い扁平化されたアラミド繊維量が増加し、歩留まり悪化によるコスト増になる。
そこで、本発明は、回路基板用不織布、それを用いた回路基板用プリプレグと、それを用いた回路基板の高価格化を抑制するとともに、回路基板用不織布、それを用いた回路基板用プリプレグと、それを用いた回路基板の薄型化を図ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明の第一の発明に係る回路基板用不織布は、繊維径の最も太い部分が5μm以上の複数の太繊維と、繊維径の最も太い部分が5μm未満の複数の細繊維とを含む抄紙構造体からなる回路基板用不織布であって、前記太繊維の平均繊維長は、細繊維の平均繊維長よりも長く、前記細繊維の本数は、前記太繊維の本数よりも多くし、且つ、前記太繊維は長軸と短軸を有する扁平形状で、抄紙構造体の厚さ方向に短軸を配向させたものである。
また、本発明の第二の発明に係る回路基板用不織布は、前記太繊維の短軸の繊維径を、10μm以下としたものである。
また、本発明の第三の発明に係る回路基板用不織布は、前記太繊維の長軸の繊維径を、5μm以上、20μm以下としたものである。
また、本発明の第四の発明に係る回路基板用不織布は、前記太繊維及び細繊維はアラミド繊維としたものである。
また、本発明の第五の発明に係る回路基板用不織布は、不織布CD断面における、太繊維が占める総面積の割合は、10%以下としたものである。
また、本発明の第六の発明に係る回路基板用プリプレグは、上記回路基板用不織布に樹脂を含浸させたものである。
また、本発明の第七の発明に係る回路基板用プリプレグは、プリプレグ厚さを、回路基板用不織布厚さの120%以上、300%以下としたものである。
また、本発明の第八の発明に係る回路基板は、上記回路基板用プリプレグの表面に回路パターンを設けたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の所定の特徴を有する回路基板用不織布とすることにより、平滑性を高め、高価格化を抑制し、かつ薄型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る回路基板の断面を示す。
【
図2】
図2は、本発明の不織布に樹脂を含浸させて平板状としたプリプレグを示す。
【
図3】
図3は、本発明の不織布の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【
図4】
図4は、本発明の不織布における、長軸と短軸を有する扁平形状の太繊維(平面方向の長さA、厚さ方向の長さB)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る一発明の実施の形態例について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る回路基板10の断面を示し、コア材50に複数層のプリプレグ20を厚さ方向に積み重ね、圧縮一体化した板状の構成となっている。
図1に示すように、各プリプレグ20の表裏面には、回路パターン30が設けられ、表面から裏面側に向けて設けられたスルーホール40によって、一枚ごとのプリプレグ20では表裏面の回路パターン30が適宜電気的に接続された状態になっている。また、上下のプリプレグ20間では、それぞれに設けた回路パターン30が、スルーホール40を介して適宜電気的に接続された状態になっている。
【0009】
前記各プリプレグ20は、
図2に示すように、太繊維21及び細繊維23を含む不織布に樹脂25を含浸させ、平板状としたものであり、この表裏面には上述したように回路パターンが形成され、回路パターンの適宜の箇所に設けたランド部においては、表裏面側に貫通したスルーホールが設けられている。また、
図3の走査型電子顕微鏡写真に示すように、本発明の不織布は、太繊維と細繊維を絡み合わせて作ったものであり、太繊維は細繊維よりも長さが長いことを特徴とする。また、
図4に示すように、太繊維21は長軸と短軸を有する扁平形状で、抄紙構造体の厚さ方向に短軸が配向した形状となっている。それに比較し、細繊維は、太繊維よりもその本数が遥かに多く、この太繊維と細繊維が絡み合って、不織布27を構成している。
【0010】
本発明の回路基板用不織布は、繊維径の最も太い部分が5μm以上の複数の太繊維と、繊維径の最も太い部分が5μm未満の複数の細繊維とを含む抄紙構造体からなり、前記太繊維の平均繊維長は、細繊維の平均繊維長よりも長く、且つ前記細繊維の本数は、前記太繊維の本数よりも多く、さらに、前記太繊維は、長軸と短軸を有する扁平形状で、抄紙構造体の厚さ方向に短軸が配向している。
【0011】
上記の通り、本発明では、繊維径の最も太い部分が5μm未満の複数の細繊維だけでなく、繊維径の最も太い部分が5μm以上の複数の太繊維も用いるので、高価な細い繊維のみを使用する場合に比べ、回路基板用不織布の高価格化を抑制することができ、さらに回路基板用不織布としての強度を高めることができる。
また、細繊維と、細繊維の繊維長よりも長い太繊維とを湿式抄紙に用いることで、コスト増を回避することができる。つまり、短い細繊維だけで湿式抄紙すると、この湿式抄紙時にワイヤーから細繊維が抜け落ちる量が増加し、歩留まりが悪化するが、細繊維と、細繊維の繊維長よりも長い太繊維とを用いることで、細繊維が太繊維に絡まり、太繊維が上記ワイヤーに留まることで、ワイヤーからの抜け落ちが減少し、歩留まりを改善することができる。
【0012】
さらに、本発明では、太繊維は細繊維よりも本数を少なくし、しかも、この太繊維は長軸と短軸を有する扁平形状で、抄紙構造体の厚さ方向に短軸を配向させたものであるので、回路基板用不織布としての厚さを薄くすると共に、回路基板用不織布としての平滑性を高めることが出来る。また、これに伴い、回路基板用不織布、それを用いた回路基板用プリプレグと、それを用いた回路基板の平滑性を高めることが出来る。
また、本発明では、繊維径の最も太い部分が5μm未満の複数の細繊維だけでなく、繊維径の最も太い部分が5μm以上の複数の太繊維も用いた抄紙構造体としたので、回路基板用不織布としての引張強度も強くなり、その結果として、回路基板用プリプレグ化する場合の樹脂量を減少させ、薄型化を図ることが出来る。
【0013】
本発明において、太繊維の繊維径の最も太い部分(長軸)は5μm以上であり、好ましくは7μm以上、より好ましくは9μm以上、最も好ましくは11μm以上である。また、前記太繊維の長軸の繊維径の上限は当業者が適宜設定することができるが、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下、最も好ましくは15μm以下である。太繊維の長軸の繊維径は、好ましくは5μm以上、且つ20μm以下であり、より好ましくは9μm以上、且つ15μm以下である。特に、前記太繊維の長軸の繊維径を、5μm以上、20μm以下とすることで、回路基板の平滑性を高めることができる。繊維径の最も太い部分が5μm以上の太繊維を含まない場合、不織布の引張強度が不足し、抄紙時やプリプレグ製造時に紙切れが生じ、安定して製造できない。また、繊維径が大きいと基材表面が繊維で塞がれ、樹脂が基材内部に含浸しにくくなり、ボイドが生じたり生産性が悪化したりすることがある。また、相対的に不織布の厚み方向寸法も大きくなるため、回路基板用不織布が厚くなる。
【0014】
また、前記太繊維の最も細い部分(短軸)の繊維径は、上記の長軸の繊維径未満の範囲で当業者が適宜設定することができるが、長軸の繊維径未満であることを条件として、好ましくは12μm以下であり、より好ましくは10μm以下であり、最も好ましくは8μm以下である。前記太繊維の短軸の繊維径を上記の値とすることで、回路基板の薄型化をはかることができる。短軸の繊維径が太くなると、それを含む回路基板用不織布が厚型化し、近年求められる薄型化に対応できない。
【0015】
また、本発明の細繊維の繊維径の最も太い部分は5μm未満であり、より好ましくは3μm未満であり、最も好ましくは1μm未満である。繊維径の最も太い部分が5μm未満の細繊維を含まない場合、単位重量当たりの繊維数が少なくなることで繊維間の交絡点が少なくなり、シート強度が不足し、抄紙時やプリプレグ製造時に断紙が生じる他、基板用不織布の平滑性が低下する。
【0016】
本発明の太繊維及び細繊維の平均繊維長は、当業者が技術常識に基づいて、特定の本数の繊維の繊維長を実際に測定して求めることが可能であり、例えば、不織布を水に離解し、プレパラート上で繊維を乾燥させて撮影した画像に含まれる繊維のうち任意の50本の繊維長を測定し、計数した平均値を用いることができる。太繊維の平均繊維長が、細繊維の平均繊維長よりも短い場合、抄紙時に、ワイヤーから抜け落ちる繊維量が増加し、歩留り悪化によるコスト増となる。
【0017】
また、太繊維及び細繊維の本数についても、例えば実際の撮影画像の一定の範囲に確認される繊維の本数を実際に数えることによって、太繊維及び細繊維の本数を比較することができる。細繊維の本数は太繊維の本数の2倍以上であることが好ましく、2.5倍以上であることがより好ましく、3倍以上であることが最も好ましい。細繊維の本数が太繊維の本数より少ないと、単位重量辺りの繊維数が少なくなることで繊維間の交絡点が少なくなり、シート強度が不足し、抄紙時やプリプレグ製造時に紙切れが生じる。
【0018】
本発明の不織布の抄紙構造体において、扁平形状(長軸と短軸を有する)である太繊維は、抄紙構造体(不織布)の厚さ方向に短軸が配向したことを特徴とする。実際に作製された不織布において抄紙構造体(不織布)の厚さ方向に短軸を配向できる限り、繊維の配向を制御する方法は特に限定はされず、不織布の様々な製造方法に対応して当業者が技術常識に基づいて適切な手法を採用することができる。例えば、抄紙法では繊維を水中に分散させ、下方向から網を介して脱水すると、網上に繊維が堆積する。その際、繊維断面は基本的にはろ過抵抗が大きい方に向くため、太繊維として扁平型繊維を使用すると、その繊維断面は長辺が自然と横向きとなり、抄紙構造体の厚さ方向に短軸が配向した不織布を得ることができる。
【0019】
厚さ方向に短軸が配向していることは、例えば、不織布を横方向(CD方向)に切断した断面において、少なくとも10本の太繊維の断面の不織布平面方向の長さA、不織布厚さ方向の長さBを計測して求めた平均値に基づいてA>Bであることにより確認することができる。A及びBの平均値を求めるために計測する太繊維の本数はさらに多くてもよく、例えば、不織布の断面の走査顕微鏡写真の1つの視野当たりに存在する全ての太繊維のA寸法、B寸法を測定してもよく、さらには、同じ作業を複数の視野で行った上で、測定した全ての太繊維のA寸法、B寸法の平均値を算出することができる。
【0020】
また、不織布CD断面における、太繊維が占める総面積の割合(以下、太繊維割合とも呼ぶ)は例えば15%以下とすることができるが、10%以下であることがより好ましい。ここで、不織布CD断面とは、不織布製造方向の横断面を表す。また、CD断面の断面積とは太繊維と細繊維の断面積のみならず繊維間の空隙も含み、すなわち、「太繊維、細繊維含む全ての繊維の断面の面積」+「空隙(断面中の繊維が存在しない部分)の面積」を表す。不織布CD断面における、太繊維が占める総面積の割合は、10%以下とすれば、回路基板の平滑性を高めることができる。太繊維の割合が10%より大きくなると、それを含む回路基板用不織布が厚型化するため、近年求められる薄型化に対応することができない。また、相対的に細繊維の割合が減少することによって、表面粗さが悪化したり、単位重量辺りの繊維本数が減少して繊維同士の交絡点が減少することで、強度が不足し、抄紙時やプリプレグ製造時に紙切れが生じたりする。上記の割合は、例えば、不織布を横方向(CD方向)に切断した断面において、太繊維の断面積の総数を計測し、回路基板用不織布の断面積で除して求めることができる。
【0021】
本発明の太繊維及び細繊維は、好ましくはアラミド繊維である。前記太繊維及び細繊維はアラミド繊維とすれば、細繊維と太繊維を容易に作り出すことができる。本発明の回路基板用不織布に適したアラミド繊維はポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリ(パラフェニレン-4,4'-ビフェニレン-ジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン-2,6-ナフタレンジカルボン酸アミド)などのパラアラミド又はそれに一定量(例えば、10重量%未満)のジアミンや二酸クロリドを共重合させたものなどが使用できるが、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミドを主成分とし、ポリビニルピロリドンを加えて紡糸したパラアラミド繊維が好ましい。ポリビニルピロリドンを加えることで、繊維の可塑性が高くなり、圧力等により繊維が変形しやすくなり扁平型の繊維を得やすくなる。前記パラアラミド繊維を叩解することで、本発明に適した回路基板用不織布を得ることができる。繊維をパルプにすることを叩解(Refining)といい、叩解機をリファイナー(Refiner)という。一般に、叩解の目的は、繊維の膨潤、繊維の切断、繊維のフィブリル化の3点にある。繊維の切断を主とする叩解を遊離叩解、繊維のフィブリル化を主とする叩解を粘状叩解という。叩解法のいずれを採用するかによって、選ぶリファイナーの形式、刃形状、運転条件などが異なる。例えば、叩解には、シングルディスクリファイナーやダブルディスクリファイナー、PFIミル等の従来用いられている設備を特に限定なく使用できる。例えば、PFIミルを用いる場合、純水を加え試料濃度5%とした前記パラアラミド繊維をJISP8221-2「パルプ-こう解方法-第2部:PFIミル法」(ISO5264-2)に準拠した叩解機である標準型PFIミル(熊谷理機工業株式会社製)にて、ロールとハウジングの間隙0.1mmで叩解し湿式抄紙することで、本発明に適した回路基板用不織布を得ることができる。本発明において、叩解設備及び叩解条件は当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。
【0022】
本発明の回路基板用不織布はスパンレース製法、エアスルー製法、抄紙法などの任意の方法により湿式不織布とすることができるが、例えば、抄紙法によりシート形成した湿式不織布とすることが好ましい。抄紙法では繊維を水中に分散させ、下方向から網を介して脱水し、網上に繊維が堆積すると、網上に繊維が堆積する。その際、繊維断面は基本的にはろ過抵抗が大きい方に向くため、太繊維として扁平型繊維を使用すると、その繊維断面は長辺が自然と横向きとなり、抄紙構造体の厚さ方向に短軸が配向した不織布を得ることができる。抄紙法によりシート形成する場合、長網抄紙、短網抄紙、円網抄紙、及びそれらの組み合わせなどを、特に限定なく採用できる。長網抄紙、もしくは短網抄紙された層は、非常に細く短い繊維を捕捉しやすいため、好ましい。また、シート形成後に、カレンダー処理によって厚さ、空隙率を調整してもよい。
【0023】
また、本発明の回路基板用不織布に樹脂を含浸させることによって回路基板用プリプレグが作製される。回路基板用不織布に樹脂を含浸させることで回路基板用プリプレグを容易に作ることができ、基板としての強度を高めることができる。本実施形態の回路基板用不織布に樹脂を含浸させた回路基板用プリプレグは、一般的にはエポキシ樹脂やフェノール樹脂を含浸させ、熱をかけて硬化させることによって構成することができる。例えば、熱硬化性の樹脂、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂等を添加すると、銅箔との接着性が向上するため、これら熱硬化性樹脂からなる水分散型の結合剤を添加してもよい。しかし、含浸する樹脂は以上の例に限定されるものではなく、通常使用されるものであれば、いずれでも良い。
【0024】
前記回路基板用プリプレグは、プリプレグ厚さを、回路基板用不織布厚さの120%以上、且つ300%以下とすることが可能であり、より好ましくは130%以上、200%以下、最も好ましくは140%以上、180%以下としたものである。プリプレグ厚さを上記とすることにより、回路基板の薄型化をはかることができる。120%より薄くなると、回路基板用不織布表面の繊維がプリプレグ表面に露出し、平滑性が悪化することで、回路パターンの断線が発生したり、スルーホールのばらつきが大きくなったりする。300%より厚くなると、近年求められる薄型化に対応できない。
【0025】
上記のプリプレグは、回路基板用基材及び積層板として好適に使用できる。係る回路基板用基材や積層板は一般に行われている方法により作製することができる。即ち、コア材に対し本発明のプリプレグを絶縁層として積層し、さらに回路パターンとして、金属箔からなる導線層を積層して回路用積層板を作製できる。コア材としては、樹脂板両面に金属箔を貼り付けたものや金属板等を使用することができる。樹脂版に貼り付ける金属箔、金属板、及び導線層の金属箔としては、例えば金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム等を用いることができるが、以上の例に限定されるものではなく、通常使用されるものであれば、いずれでも良い。本発明の回路基板用プリプレグの表面に、常法により回路パターンを設けることにより、薄く、平滑性が高く、強度の強い回路基板を作製することができる。
【0026】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本願発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【実施例0027】
本実施の形態の回路基板用不織布(以下、単に「不織布」とも呼ぶ)の特性の具体的な測定は、以下の条件及び方法で行った。
[断面構造]
鋭利な刃物を用いて、不織布を横方向(CD方向)に切断し、走査型電子顕微鏡(型番JCM-IT200(日本電子社製))を用いて断面を撮影した。
撮影した不織布に含まれる繊維断面の不織布平面方向の長さをA、不織布厚さ方向の長さをBとした。また、撮影した不織布に含まれる繊維断面の繊維径の最も太い部分が5μm以上の繊維を太繊維、繊維径の最も太い部分が5μm未満の繊維を細繊維とし、それぞれの本数を計数した。そして、太繊維の断面積の総数を計測し、回路基板用不織布の断面積で除して、太繊維が占める総面積の割合(以下、太繊維割合とも呼ぶ)とした。
なお、撮影及び計数は、各例につき任意の10箇所で行い、計数した平均値を用いて各数値を計算した。上記のA及びBの寸法については、各箇所において視野(拡大倍率2000倍(撮影面積64μm×48μm))当たりに存在する全ての太繊維のものを測定し、測定した全ての太繊維のA寸法、B寸法の平均値として算出した。
[平均繊維長]
不織布を水に離解し、プレパラート上で繊維を乾燥させ、マイクロスコープ(型番VHX-6000(キーエンス社製))を用いて、繊維を撮影した。撮影した画像に含まれる繊維を、各例につき太繊維、細繊維それぞれ任意の50本の繊維長を測定し、計数した平均値を用いて平均繊維長を計算した。
[表面粗さ]
不織布、及びプリプレグ表面を、表面試験機(型番KES-FB4(カトーテック社製))を用いて、表面粗さの平均偏差を測定し、平滑性の指標とした。なお、測定は各例につき3回測定し、計数した平均値を用いて表面粗さとした。
[坪量]
「JIS C 2300-2 『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 6 坪量に規定された方法で、絶乾状態の回路基板用不織布の坪量を測定した。
[厚さ]
測定面の直径が6.35mm、圧力は155kPa±15kPaとしたマイクロメータを用いて、一枚の回路基板用不織布、及びプリプレグの任意の5点の厚さを測定し、計数した平均値を用いて厚さを計算した。
【0028】
[実施例1]
パラアラミド繊維(ポリパラフェニレンテレフタルアミド;1.7dtex)を叩解後、長網抄紙し、不織布とした。不織布の横断面を顕微鏡観察したところ、太繊維はいずれも扁平形状の長軸が不織布平面方向に配向されていた。Aが12.1μm、Bが6.2μmであり、太繊維の平均繊維長が0.9mm、細繊維の平均繊維長が0.4mm、撮影1視野当たりの太繊維の本数が3.0本、細繊維(顕微鏡観察でいずれも繊維径が明らかに5μm未満、以降の例についても同じ)の本数が10本以上の回路基板用不織布を得た。この回路基板用不織布は厚さ25μm、坪量10.5g/m2、太繊維割合は4.2%、表面粗さは0.71μmであった。
【0029】
[実施例2]
実施例1からパラアラミド繊維の叩解条件とプレス条件を変更して長網抄紙した後、カレンダー加工することで、太繊維がいずれも扁平形状の長軸が不織布平面方向に配向され、Aが13.2μm、Bが5.7μm、太繊維の平均繊維長が0.9mm、細繊維の平均繊維長が0.4mm、撮影1視野当たりの太繊維の本数が2.6本、細繊維の本数が10本以上の回路基板用不織布を得た。この回路基板用不織布は厚さ10μm、坪量6.8g/m2、太繊維割合は9.7%、表面粗さは0.63μmであった。
【0030】
[実施例3]
実施例1からパラアラミド繊維の叩解条件とプレス条件を変更して長網抄紙し、太繊維がいずれも扁平形状の長軸が不織布平面方向に配向され、Aが10.9μm、Bが9.3μm、太繊維の平均繊維長が1.0mm、細繊維の平均繊維長が0.4mm、撮影1視野当たりの太繊維の本数が3.4本、細繊維の本数が10本以上の回路基板用不織布を得た。この回路基板用不織布は厚さ28μm、坪量11.1g/m2、太繊維割合は9.1%、表面粗さは0.77μmであった。
【0031】
[実施例4]
実施例1からパラアラミド繊維の叩解条件とプレス条件を変更して長網抄紙した後、カレンダー加工することで、太繊維がいずれも扁平形状の長軸が不織布平面方向に配向され、Aが20.9μm、Bが7.1μm、太繊維の平均繊維長が1.1mm、細繊維の平均繊維長が0.5mm、撮影1視野当たりの太繊維の本数が3.1本、細繊維の本数が10本以上の回路基板用不織布を得た。この回路基板用不織布は厚さ22μm、坪量16.0g/m2、太繊維割合は14.1%、表面粗さは0.69μmであった。
【0032】
[比較例1]
実施例1からパラアラミド繊維の叩解条件とプレス条件を変更して長網抄紙し、太繊維がいずれも扁平形状の長軸が不織布平面方向に配向され、Aが8.9μm、Bが9.6μm、太繊維の平均繊維長が1.0mm、細繊維の平均繊維長が0.4mm、撮影1視野当たりの太繊維の本数が2.4本、細繊維の本数が10本以上の回路基板用不織布を得た。この回路基板用不織布は厚さ30μm、坪量10.5g/m2、太繊維割合は3.2%、表面粗さは0.95μmであった。
【0033】
[比較例2]
パラアラミド繊維70質量%と、アラミドフィブリッド30質量%を混合した原料を長網抄紙した後、カレンダー加工することで、太繊維がいずれも扁平形状の長軸が不織布平面方向に配向され、Aが12.5μm、Bが12.0μm、太繊維の平均繊維長が3.0mm、撮影1視野当たりの太繊維の本数が8.7本、細繊維の本数が0本の回路基板用不織布を得た。この回路基板用不織布は厚さ52μm、坪量34.2g/m2、太繊維割合は72%、表面粗さは1.89μmであった。
【0034】
[比較例3]
実施例1からパラアラミド繊維の叩解条件を変更した太繊維を含まない原料を用いて長網抄紙することを試みたが、紙切れが頻発し、安定して製品製造することができなかった。
【0035】
次に上記実施例、比較例において作製した回路基板用不織布に、エポキシ樹脂を含浸させた後、乾燥してプリプレグを得た。なお、プリプレグの厚さは樹脂含浸時のプレス圧を変更することで調整した。
[実施例5]
実施例1において作製した回路基板用不織布を用いて、上記の方法によりプリプレグを得た。作製したプリプレグは厚さ40μm(基材厚さ比160%)、表面粗さは0.45μmであった。
【0036】
[実施例6]
実施例1において作製した回路基板用不織布を用いて、プレス圧以外は実施例5と同じ方法によりプリプレグを得た。作製したプリプレグは厚さ27μm(基材厚さ比108%)、表面粗さは0.65μmであった。
【0037】
[実施例7]
実施例1において作製した回路基板用不織布を用いて、プレス圧以外は実施例5と同じ方法によりプリプレグを得た。作製したプリプレグは厚さ83μm(基材厚さ比332%)、表面粗さは0.49μmであった。
【0038】
[比較例4]
比較例1において作製した回路基板用不織布を用いて、実施例5と同じ方法によりプリプレグを得た。作製したプリプレグは厚さ45μm(基材厚さ比150%)、表面粗さは0.71μmであった。
【0039】
以上記載の実施例1乃至4、比較例1乃至比較例3の各例の回路基板用不織布の構成、諸物性の評価結果を表1に、実施例5乃至7、比較例4の各例のプリプレグの構成、諸物性の評価結果を表2に示す。
【0040】
【0041】
【0042】
比較例1の太繊維は不織布厚さ方向長さBが不織布平面方向長さAより長く、繊維断面長さの短軸が不織布の厚さ方向に配向した形状となっていない。そのため、各実施例と比較すると、表面粗さが悪化している。また、実施例5と比較例4とを比較すると、比較例1の不織布を用いた比較例4のプリプレグは表面粗さが悪化している。このことから、太繊維は長軸と短軸を有する扁平形状で、短軸が抄紙構造体の厚さ方向に配向していることが好ましいと分かる。
比較例2では細繊維を含まず、バインダーとしてアラミドフィブリッドを混合した原料を使用した。実施例1と比較すると厚型化したことに加え、細繊維を含まないため、表面粗さが悪化した。
また、細繊維を含まない未叩解のパラアラミド繊維のみで50μmの回路基板用不織布の製造を試みたが、湿紙強度が不足し、安定して製造することができなかった。このことから回路基板用不織布は最大繊維径5μm以下の細繊維を含むことが好ましいことが分かる。
【0043】
比較例3において、太繊維を含まない叩解原料を用いて回路基板用不織布の作製を試みたが、太繊維を含まないため、湿紙強度が弱く、安定して回路基板用不織布を製造することができなかった。比較例3と各実施例との比較から、最大繊維径5μm以上の太繊維を含むことが好ましいと分かる。
実施例4の回路基板用不織布は、扁平形状の太繊維の長軸の繊維径が20.9μmと大きいため、実施例2と比較するとプリプレグ化する際の樹脂含浸性が悪かった。また、太繊維割合が14.1%と大きいため、実施例2と比較すると表面粗さが悪かった。このことから太繊維の長軸の繊維径は20μmより小さいことと、太繊維割合は10%以下が好ましいことがわかる。
【0044】
実施例5と実施例6を比べると、実施例5の方が表面粗さが小さいことが分かる。これは、実施例6では基材の厚さに対して、プリプレグの厚さが薄くなりすぎたため、プリプレグ表面に基材表面の繊維が露出したためと考えられる。また、実施例7の表面粗さは実施例5と同程度であるが、厚さが83μmと厚型化しているため、樹脂量が増えることによるコスト増や薄型化への対応が困難等の問題がある。
以上、実施例5、6、及び7との比較から、プリプレグ厚さは、回路基板用不織布厚さの120%以上、且つ300%以下であることが好ましいことが分かる。
【0045】
以上説明した通り、本実施の形態例によれば、平滑性を高めることができ、さらに高価格化を抑制することができ、しかも薄型化を図った回路基板用不織布を提供できる。また、この回路基板用不織布を用いることで、回路基板用プリプレグと、それを用いた回路基板の平滑性を高め、高価格化を抑制するとともに、薄型化を達成することができる。